#リモコン隠蔽
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WEB内覧/パウダールーム2
パウダールームの続きをご紹介します。
前回の記事はこちらから。 間取りが気になる方はこちらからどうぞ。 左上の黒い四角のTAGS内からPlanカテゴリーをお選び頂くと、間取り図や過去のWEB内覧をご覧頂けます。
家全体が白を基調としたM邸ですが、パウダールームの意匠は特に、小物を新調するだけで部屋の雰囲気を変えられるような、何年経っても“プレーン”な空間であることを大切にしました。
木・石・ガラス・金属…様々なテクスチャーを選べる家づくりにおいて、プレーンな意匠は悪く言えば無個性ですが、どんなものを置くかで空間全体の捉え方を柔軟に変えていけるような家づくりが自分たちに合っているのではと思ったからなんです。
水栓と洗面器はフォンテトレーディングのもの。
壁付け水栓は、金具も工事費も少しお高くなりますが、濡れた手で触っても水栓元にカルキ汚れが溜まらず、ストレスフリーなのが最大の魅力。
こちらのBX-5209タイ��の水栓(スパウトの長さは同額で変更可)は、クロームなので指紋は付くものの、持ち手が細いため気になりにくいです。 水の滴りを考慮して、本来の付け方と天地を逆にして頂きました。
洗面器は、B1-B1001。
カウンター自体が2200mmと長いので、それぞれの幅が伝わりにくいかもしれません…でもこちらの商品は1000mm幅であり、洗面器の中ではかなり長めなものです。
きっと本来は水栓を2つ付けて、ダブルシンク使いにする仕様…セレブ専用やでこれ…!と一瞬たじろぎましたが、他にはあまりない幅の長さ&浅めでほぼ平坦な形状であることが決定打となって導入しました。(セレブでもなくダブルシンクにする必要性もないので、まさかのシングルシンクで申し訳ないっ!)
洗面器には、“埋め込み型”や“壁付け型”など様々なタイプがありますが、主人も私も腰をなるべくかがめない姿勢のまま使用したかったので“置き型”(カウンター上タイプ)に拘りました。 置き型ですと、カウンターと洗面器が別々なので素材感などの選択肢の幅も一気に広がってくれます。
洗面器を選ぶ際、陶器製なのもポイントでした。 メーカーによっては品質が悪く割れやすいものがあるので注意が必要ですが、陶器は変色もしにくく傷も目立ちにくいので、永く経年劣化に耐える気がしています。
陶器自体は完全にシームレスなので、頻繁に拭き掃除をしてもミクロの汚れを繫ぎ目に押し込めてしまう心配もありません。
ご覧の通り、とても浅い洗面器なので水跳ねを覚悟していましたが、所作が荒くなければ案外大丈夫でした!
洗面器がワイドなおかげで、カウンター側には水跳ねは皆無です。 そして、水跳ねがあまり激しくなくとも、すぐに拭きとる習慣がつきました。
洗顔後は、使ったフェイスタオルでついでにサッと洗面器まわりを拭いて、そのまま隣の洗濯機に放り込む…という流れ。
旧居の賃貸では、湾曲した深い洗面器(よくある賃貸用の既製品洗面化粧台タイプ)で、気付いたら端に汚れが溜まったりしていたのですが… 今は毎日拭いているので自然とキレイをキープ出来るようになりました。
深い洗面器で水跳ねを気にしないよりも、浅い洗面器で水跳ねをすぐ拭く方が私達夫婦には合っていたみたいです!
浅めで平坦な洗面器が良かったのは…これのため。 生活感…(笑)
毎度クリーニングに出せない程に、主人の服が仕事着含めシャツ率が高く、襟袖をかなり頻繁に予洗いする我が家。(撮影用に洗濯済みのものを置いています。アイロンがけ前でグシャッとしていてすみません)
旧居では、この予洗い作業には強い違和感があって… 洗面器が円形だから重力で服がめくれるわ、底が深過ぎてめっちゃ腰をかがめないといけないわ、結果腰が痛くなるわで、マイナスイメージが強くついつい後回しにしてしまう家事でした。
無意識に憂鬱になってしまう家事の原因。 そういう部分は家を建てる前にどんどん引き出して、出来るだけ不安要素を一つずつ解決したい。 そんな家づくりにすることを意識した結果、選択した洗面器です。
今は本当にこの作業が楽になりました〜…!
襟元を洗面器の立ち上がりに合わせると、スプレータイプの洗剤が襟首と袖口を���ンポイントで狙えるようになり、凄く時短なのです! また、スポンジヘッドタイプの洗剤でも、底面が浅いため力が入れやすく、耐水の机上で工作してるような楽な作業感。
私はあまりしないのですが、浸け置きの場合は水のはみ出しにさえ気をつければ、汚れの確認もしやすいかも。
一度にシャツを2枚(多いときは重ねて4枚)置けて、横幅の広さもとても重宝しています。
カウンター下は、ボトルトラップで壁排水にして頂きました。 S字トラップ等の床排水型と比べ、とてもスッキリした配管のため、面材をつけて隠したりせず、露出のままに。
壁排水なら、床面に一切の接続部がないのでフロート(浮かせる状態)の意匠にすることが可能です。フロート状態は、本来の床面積をそのまま見せることが出来るのが最大のメリット!通路幅がとても広く感じます。
カウンター下には、片持ち階段を制作して頂いた鉄骨業者さんに、カウンターと合わせた2200mm幅の鉄板の設置をお願いしました。(片持ち階段の記事はこちら)とても薄く軽やかな印象なのですが、鉄の為に実はとても重たい棚で、死角に支柱が4本入っています。
カウンターの白と少し区別するために、窓枠に合わせたライトグレーで塗装屋さんに仕上げて頂きました。
こちらの棚はタオルを置くのが目的。 タオルは、この部屋唯一の見せる収納(オープン)にしたいと思いました。
洗顔後もお風呂上がり後もサッと取り出せる位置で、とても実用的です! その日の気分でピックアップして、タオルのローテーションも満遍なく使えています。
見せると言っても目線よりは下で、タオルの間隔も余白を広くとれるため、そんなにゴチャついた印象には��りにくく安心。
このタオル棚の下には、スツールを置けるように座面(約40cm程)に合わせて高さを設定して頂きました。どんなものを買おうか迷い中…
アイロン掛けもこのパウダールームで行う洗濯動線なので、その際に腰掛けたり。それから夏のお風呂上がりには座って涼めると嬉しいなぁと思って^^
何よりオープン収納は、面材の付いた収納をつけるよりも低コストにしやすいのが嬉しいポイントかも知れません。
右側に目線をふると。
残念ですが、THE・国内製デザイン!のドラム式洗濯機が置いてあります。まだまだ使えてしまうので、しばらくはこれを使いつつ貯金して…将来、もっとスマートな洗濯機にチェンジする予定です。
ミーレなどの海外製に出来ると…いい…んだけど。(価格が凄いのであくまで夢) 国産ももっと素敵な洗濯機が増えてくれますように。
防水パンは、自己責任であえて付けませんでした。 無い方が見た目はスッキリしますが、当然、本来は設置した方がいいものです! M邸では設置場所が1Fで、隣接するカウンターもフロート状態であり、床自体が屋外で使用するようなFRP防水なので、勇気を出して減額で削りました。
この洗濯機の位置を中心に、洗濯物の動線は全て3歩くらいで終わるような収納計画にしてあります。
奥に見える廊下の先は片持ち階段の1段目。 ここは階段兼スリッパを収納している場所で、洗濯&乾燥したスリッパはこちらにサッと戻しています。
海外製の洗濯機であればこういうものは見えないのですが…日本製の洗濯機だとどうしても、コンセント等の位置は洗濯機よりも上に付けなきゃいけないので、隠蔽できないのが悲しい…特にアース線…
せめて洗濯水栓はコンパクトなものをと思っていたら、Wさんが既に選んでいて下さいました。カクダイの72161613です。
将来、海外製の洗濯機にする場合は、日本製のものと水栓の位置自体が違うのでリフォームが必要になってしまいます。 その為あらかじめ配管位置を相談して、リフォームの際に問題のないよう水栓のラインだけ揃えて頂きました。 電圧も海外対応の状態(100Vではなく200V)にして下さっているので安心です。
大事に使いたいけれど、家電はどうしても永遠の物ではないんですよね。 これから家づくりをされる方で、海外家電の導入を迷われていらしたら…どう転んでもやりやすいように、配管や配線だけは将来を見越した状態にするのがベターですよ。
ところでここまでにタオルや鏡まわりの収納はご紹介しましたが、洗剤やシャンプーのストックなど、その他もろもろの生活品の収納場所はどこなのかというと…こちらのくぼみ!
くぼみ(笑)
減額調整の際に全て削ったので、とても収納には見えませんね…! 予め下地を入れて頂いてあり、これからセルフで棚を取り付けていきます。
そして、柱とツラを合わせて扉も。 近い将来、このくぼみはフラットに隠れる予定です。 ですが建具は高額!なので、実はこの幅はIKEAのPAXという洋服収納システムの扉の幅に合わせて頂きました。色合わせは私がセルフペイント出来るので問題ないのですが、金具(ヒンジ)は上手くいくかなぁ。取り付けたらまた記事にしますね!
収納できる量が中々あるので、日用品のストック以外にも… 1.下着、2.肌着、3.ルームウェアの3種の衣類をここに収納します。
お風呂上がりにすぐ着用し、一番洗濯の頻度が多いのがこの3種。 浴室と洗濯機のどちらからも、たった1歩ほどですぐにアクセス出来るよう、WICではなく絶対にパウダールームに収納しようと思っていました。
また収納の奥行きは、アイロン台のサイズに合わせて頂きました。 折り畳むことなく納められ、パウダールーム内でそのままアイロン掛けも出来るようになっています。
着用・洗濯・乾燥・アイロン・収納のループを全て洗濯機から最短距離で済ませようとしたズボラ動線です。(洗濯動線のはまた別記事でまとめる予定です)
パウダールーム…でもあり、実は家事室の役割もとても強いこの部屋。 ここに全てを集めたことで結果的に広い面積をとれました。
リモコン類もこちらに隠蔽。 ご覧のように、M邸の給湯器や浴室乾燥暖房機のリモコンはスタイリッシュなものではありません!なにこの解りやすさ最優先のデザイン…。 こんな感じのスタイリッシュなリモコンも���在しますが、リモコン単体が高額な上に、リンクできる給湯器本体も限られています。すると比例して全体のコストもグッと上がってしまいます。
給湯器の機能性としては、お湯が出てくれて、温度を調節出来て、自動でお湯張りしてくれればもう充分(なんか既にワガママ言ってる気がするくらい)だったM邸は、グレードの高い給湯器を選ぶ必要がありませんでした。
リモコンが美しいことに越した事はないですが、隠してしまえばそれを選ぶ必要性もなくなり、全体のコストも抑えられます。
もしも、給湯器・浴室乾燥暖房機の両方のリモコンがそれぞれスタイリッシュになったとしても、同じ空間内でリモコンの素材や色の分配やフォントが“別の雰囲気”だったら、結局隠してしまったと思います。
電気系のデザインはどんどん古くなってしまいがちなので、インターホン同様(インターホンの記事はこちら)徹底して隠蔽する方が大切。
旧居では、お風呂の中に給湯器リモコンが設置されていました。 それ故にリモコンに水滴が飛んでカルキ汚れが付いたり、設定温度を主人が頻繁に変えるため私が気付かず冷水を浴び、むぅぅ〜となる原因になったり。 何かとデメリットが多かったのですが、今はそれがありません。
リモコンは隠す…これが最高の対策や!ズバ〜ン!
最後に、ホールからのビジョン。
ご覧のようにパウダールームはドアレスです。
現状は夫婦二人暮らしで特に隠すような部屋と感じないので、減額調整の際にドアは無くしました。
ドアが無い方が、廊下から広く見えるし自然光も漏れるのでけっこう好きなのだけれど…子供が出来たり民泊を始めたりしたら、建具を足せるようにあらかじめ下地を入れて頂いています。
以上が、M邸のパウダールームでした!
●我が家と同じように建築家と家を建てている方のブログ集はこちら。 これから家づくりをされる方は是非ご参考ください。
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#パウダールーム#FRP防水#浅い洗面器#幅広洗面器#タオル#オープン収納#最小限の洗濯動線#リモコン隠蔽#リモコンださい#リモコンのデザイン何とかして欲しい#デザインのターゲットを階級で分けないで欲しい#字がちっちゃいと読めない方もいるからそういう思いやりで分けるのはいい#わがまま#Plan
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10050045
何も旨味のない人生だったんだ。少しくらい、人には味わえない幸福を味わったって、バチは当たらないだろ。なんて、そんなわけはない。バチは当たる。あぁ俺はどうしてこんなことを、いや、今、そんなくだらないことを考えている暇はない。全部世界が、世間が、周りが悪いんだ。
「ああぁあぁぁぁああああ、どうしようどうしようどうしよう、こんなこと、バレたら、絶対捕まる、いや捕まるどころじゃない、世間から死ぬほど叩かれて、何年食らうんだ?嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ......」
ぶつぶつと喚き散らしても現状が変わるわけじゃない。いい加減現実を見ろと思う。現実なんて見てもいいことがないとも思う。でも、俺は、見なきゃいけない。目の前に横たわる、赤ん坊の死体を。
「あー、そもそもなんでこんなことになったんだ?」
確かにあのキャンプ用品店の駐車場には監視カメラがなかった。車の後部座席に鍵は掛かってなくて、俺はちょうどボストンバックを持ってた。外は暑い夏で、車の中にいたらこのままだとゆだってタンパク質が変異する、と思った。あぁ、そうだ。だから俺はドアを開けて赤ん坊をボストン���詰めて、家に帰ってきた���だ。
「人助け?ともいうのか。いや、人助けだ。人を助けたんだと思う、俺は。」
そう、助けて、家に帰って赤ん坊を観察した。赤ん坊は綺麗なおくるみを着て、でっぷりと太ってた。俺よりもいいものを食べてそうな、憎らしい肉の塊に見えた。
ああダメだ、考えるの面倒になってきた。一旦オナニーして落ち着こう。オカズはいつものやつ。星あめりの「脳イキ」いいんだよなぁこの洗脳具合がたまらない。目の中にハートなんて同人誌でしかなさそうな表現もこいつにはよく似合う。いい、あぁ、いい、気持ちいい。あぁ、ああ、獣に、戻る、成り下がる。絶頂するとき女になり切るのが好きだ。あぁ、ダメ、イクイクイっちゃう、気持ちいのきちゃう、らめ、あぁっ、あっ、あっ。漏れ出る声は止まらない。ペニスを扱く手も止まらない。ああ、良い、出る、出ちゃう。
賢者タイムは基本的に冷静になれる、と思う。転がった肉の塊は何も言わずに、目蓋を開いたままこちらを見ていて、どうせならもっと可愛いのを殺して捕まりたかったな、などと思う。
仕方ない。だって俺は未婚で、兄弟もいないから子供のあやし方なんてわからない。子供嫌いだし。それなのに泣き始めるから、泣かないでってお願いしてもぐずぐずし始めて、こんなうっすい壁のボロアパートじゃ隣にすぐ聞こえるから、バレると思って畳に何度か叩きつけたら赤い泡を吹いて静かになった。だから多分、死んだと思う。なぜ死んだのかは、俺にはよくわからない。死んだの?
「どうしよう、捕まるの嫌だな。」
とりあえず名前すらも分からないその肉を俺は眺めて、脱がせてみた。オムツの中には排泄物があって、吐きそうになる。臭い。どうしよう。スマホで調べようにもどう調べる?「乳幼児 遺体 処理方法」そんなワードじゃ一生答えには辿り着けないだろうが。馬鹿かグーグルは。部屋に流れる音楽が気に食わない歌手のものに変わった。腹立たしい。ああ、思いついた。そうだ。邪魔な分は出そう。おむつを履かせなおして俺は肉の腹あたりに両手のひらを置いて、全体重をそこにかけた。ぎゅっ、ぎゅっと何度か押すと、手のひらを通してどこかの何かが壊れたような、ぼきだかごりだか湿った音が聞こえた。生物は苦手教科だったからどこに骨があってどうなのか俺にはよく分からない。が、確かにぼきだかごりだか湿った音が鳴った。右手親指の付け根あたりから感じた。どこの何だろ。ま、いいか。押したからか、肉から残りの排泄物が漏れ出て来た気がする。汚い音。30回ほど全力で���して、おむつを剥がして捨てる。ビニールは三重にした。臭いから。で、よくみてみたらこの子、女の子だったんだ。へえ。外面見てもどれも猿みたいだからわかんなかった。
「ああ恥ずかしい恥ずかしい。穴があったら『入れてみたい!』ワハハ。」
そんな一発ギャグあったなあなんてペニスを今一度奮い立たせてみたけど先っぽしかろくに入らない。この赤ちゃんが生まれて何ヶ月なのか俺には判別がつかないけど、そんなに経ってないような気がする。根拠はない。別にどうでもいい。股が真っ赤になってぬるぬるして滑る。骨が硬くて痛い。さっきの腹の骨は柔らかかったのに。これは俺への裏切りか?お前まで俺を馬鹿にするのか?分かった、よーし。キョロキョロ。周りに落ちていた手頃なもの、とりあえずペニスを抜いて、ゲームのコントローラーを握り締めて、股の骨目掛けて振り下ろした。なんだよ、脱皮したてのカニみたいに柔らかいんじゃないのかよ詐欺だ。騙しやがって。硬い振動がじーんと手に響く。何かないか、リモコン、これもプラスチックだ。ああ、あった、電気スタンド。これなら重さがある。袋に入ったクッキーを叩き潰すような感覚だと思った。ダンダンと静かに、だがしかし力を込めて、殴るうちにタコみたいにぐにゃぐちゃぐちゃぐちゃふにゃふにゃと叩き心地が悪くなって来た。よし、これでいい。と思ったのに、今度は穴の場所がわからない。ふざけるな詐欺だ。誰に訴えればいい?違う俺が訴えられる側だ。こりゃ一本取られた。ワハハ。ペニスでとりあえず穴があった場所をぐりぐりと探ってみたら穴みたいな裂け目があったからその裂け目を目掛けてペニスを刺した。ペニスを刺したら中に飲み込まれていったから多分正解だったんだと思う。俺はいつも大体正解してるから正確だったはずだ。多分。そう思う。
「あーーーーー、あーーーーーー、あんま気持ちよくない、けど、まあ、これからどうしよう、」
呼応してくれない肉体はつまんないと思うけど、そもそも童貞だから初めての女の子とのセックスってことになるねこれ。ウケるね。最初の女がマグロとかどんなネタなの。寿司屋でも普通白身から頼むのに。そんなことはどうでもいいんだよ。どうしよう、射精は出来そうだけど隠蔽が出来なそう。どうしよう。目に入った赤子の腕をとりあえず捻ってみる。一回転、したところでごりり、と響く音がして多分肩の関節が外れた。このままネジ切れるかと思ったけど肉が多くて無理。なんなの、親はちゃんと栄養バランス取れてる飯食わせろよこんなブクブク太らせて。食うつもりだったのかよ。ヘンゼルとグレーテルじゃねえんだから。ああそうか、食べよう。
「あーーーーーーイクイク、あんっ、いっちゃう、だめぇ、出ちゃう���、ああんっ!」
無難なのはスープだろうと思い立って綺麗な腕と足を捥いで鍋にぶち込んだ。顆粒出汁はとりあえずお湯の量に準じて入れた。匂いはいい。きっと美味しく仕上がると思う。我ながら手際はいいと思う。胴体はどうしよう。段々部屋に人間の脂の匂いのような嫌な匂いが漂い始めてる気がした。ぷん、と鼻につく匂い。オムツの匂いよりはいい匂い。バレないうちにかきだそう、と風呂場にいって胴体だけの肉を浴槽に放り込んだ。ユニットバスは楽だ。流しがもう一つあるから、血を薄めてから改めて流せる。その前に、ケツを綺麗に洗ってやろう。世のお母さんお父さんは大変だな、こんな生き物を20年も育てなきゃいけないなんて。敬わなきゃいけない。お母さんお父さんありがとう、俺は立派に育ちました。お前らの無責任な性交のせいで苦行を背負わされ続けて今目の前で赤ん坊をバラしています!ウケるね。ありがとう。さようなら。
腹の中は真っ赤っかで何がなんだかまるでわからない。知識ないし、こんなの無理ゲーでしょ。初見でサクサク処理出来るわけない。でもとりあえず喉元を切って、ぐるぐるとお腹に収まったホースみたいなのを引き出して、大腸の手前で切ったのが多分モツ?わかんねえだって俺焼肉屋でしかモツ見たことない。牛から絞り出すところも見たことあるけど色も形も大きさも違う。なんだよ参考文献寄越せよ。とりあえず取り出したやつを洗ってタオル掛けにかけた。ガワはとりあえず乾燥させるか。浴室乾燥機をかけた。これで乾くと思う。腐ったらその時はバラバラにしてミキサーにでもかけて、タッパーで小分けにして冷凍保存しよう。少しずつ流せばいい。赤ん坊は歯の治療もしてないからバレないだろ。何がすごいってこれ全部ミステリー小説からの受け売り。いやー、あんなもの売っちゃいけない気がする。でもこれで捕まったらそれはそれでミステリー小説の不完全さを証明できる気もする。まあよく分からんけどとりあえずうまくいった気がするから、スープの味見してから一眠りしよ。二発も出したし眠いし。
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犬
照明を落とした会議室は水を打ったようで、ただ肉を打つ鈍い音が響いていた。ビデオカメラに濾され、若干迫力と現実味を欠いた殴打の音が。 とは言え、それは20人ほどの若者を釘付けへするには十分な効果を持つ。四角く配置された古い長机はおろか、彼らが埋まるフェイクレザーの椅子すら、軋みの一つも上げない。もちろん、研修旅行の2日目ということで、集中講義に疲れ果て居眠りをしているわけでもない。白いスクリーンの中の光景に、身じろぎはおろか息すらこらしているのだろう。 映像の中の人物は息も絶え絶え、薄暗い独房の天井からぶら下げられた鎖のおかげで、辛うじて直立の状態を保っている。一時間近く、二人の男から代わる代わる殴られていたのだから当然���話だ――講義用にと青年が手を加えたので、今流れているのは10分ほどの総集編という趣。おかげで先ほどまでは端正だった顔が、次の瞬間には血まみれになっている始末。画面の左端には、ご丁寧にも時間と殴打した回数を示すカウンターまで付いていた。 まるで安っぽいスナッフ・フィルムじゃないか――教授は部屋の隅を見遣った。パイプ椅子に腰掛ける編集者の青年が、視線へ気付くのは早い。あくびをこぼしそうだった表情が引き締まり、すぐさま微笑みに変わる。まるで自らの仕事を誇り、称賛をねだる様に――彼が自らに心酔している事は知っていた。少なくとも、そういう態度を取れるくらいの処世術を心得ている事は。 男達が濡れたコンクリートの床を歩き回るピチャピチャという水音が、場面転換の合図となる。とは言っても、それまで集中的に顔を攻撃していた男が引き下がり、拳を氷の入ったバケツに突っ込んだだけの変化なのだが。傍らで煙草を吸っていたもう一人が、グローブのような手に砂を擦り付ける。 厄災が近付いてきても、捕虜は頭上でひとまとめにされた手首を軽く揺するだけで、逃げようとはしなかった。ひたすら殴られた顔は赤黒く腫れ上がり、虫の蛹を思わせる。血と汗に汚された顔へ、漆黒の髪がべっとり張り付いていた。もう目も禄に見えていないのだろう。 いや、果たしてそうだろうか。何度繰り返し鑑賞しても、この場面は専門家たる教授へ疑問を呈した。 重たげで叩くような足音が正面で止まった瞬間、俯いていた顔がゆっくり持ち上がった。閉じた瞼の針のような隙間から、榛色の瞳が僅かに覗いている。そう、その瞳は、間違いなく目の前の男を映していた。自らを拷問する男の顔を。相手がまるで、取るに足らない存在であるかの如く毅然とした無表情で。 カウンターが121回目の殴打を数えたとき、教授は手にしていたリモコンを弄った。一時停止ボタンは融通が利かず、122回目のフックは無防備な鳩尾を捉え、くの字に折り曲がった体が後ろへ吹っ飛ばされる残像を画面に残す。 「さて、ここまでの映像で気付いたことは、ミズ・ブロディ?」 目を皿のようにして画面へ見入っていた女子生徒が、はっと顔を跳ね上げる。逆光であることを差し引いても、その瞳は溶けた飴玉のように光が滲み、焦点を失っていた。 「ええ、はい……その、爪先立っ��体勢は、心身への負荷を掛ける意味で効果的だったと思います」 「その通り。それにあの格好は、椅子へ腰掛けた人間を相手にするより殴りやすいからね。ミスター・ロバーツ、執行者については?」 「二人の男性が、一言も対象者に話しかけなかったのが気になりました」 途中から手元へ視線を落としたきり、決して顔を上げようとしなかった男子生徒が、ぼそぼそと答えた。 「笑い者にしたり、罵ったりばかりで……もっと積極的に自白を強要するべきなのでは」 「これまでにも、この……M……」 机上のレジュメをひっくり返したが、該当資料は見あたらない。パイプ椅子から身を乗り出した青年が、さして潜めてもいない声でそっと助け船を出した。 「そう、ヒカル・K・マツモト……私達がMと呼んでいる男性には、ありとあらゆる方法で自白を促した。これまでにも見てきたとおり、ガスバーナーで背中を炙り、脚に冷水を掛け続け――今の映像の中で、彼の足元がおぼづかなかったと言う指摘は誰もしなかったね? とにかく、全ての手段に効果が得られなかった訳だ」 スマートフォンのバイブレーションが、空調の利きが悪い室内の空気を震わせる。小声で云々しながら部屋を出ていく青年を片目で見送り、教授は一際声の調子を高めた。 「つまり今回の目的は、自白ではない。暴力そのものだ。この行為の中で、彼の精神は価値を持たない。肉体は、ただ男達のフラストレーションの捌け口にされるばかり」 フラストレーションの代わりに「マスターベーション」と口走りそうになって、危うく言葉を飲み込んだのは、女性の受講生も多いからだ。5年前なら考えられなかったことだ――黴の生えた理事会の連中も、ようやく象牙の塔の外から出るとまでは言わなくとも、窓から首を突き出す位のことをし始めたのだろう。 「これまで彼は、一流の諜報員、捜査官として、自らのアイデンティティを固めてきた。ここでの扱いも、どれだけ肉体に苦痛を与えられたところで、それは彼にとって自らが価値ある存在であることの証明に他ならなかった。敢えて見せなかったが、この行為が始まる前に、我らはMと同時に捕縛された女性Cの事を彼に通告してある――彼女が全ての情報を吐いたので、君はもう用済みだ、とね」 「それは餌としての偽情報でしょうか、それとも本当にCは自白していたのですか」 「いや、Cもまだこの時点では黙秘している。Mに披露した情報は、ケース・オフィサーから仕入れた最新のものだ」 ようやく対峙する勇気を振り絞れたのだろう。ミスター・ロバーツは、そろそろと顔を持ち上げて、しんねりとした上目を作った。 「それにしても、彼への暴力は行き過ぎだと思いますが」 「身長180センチ、体重82キロもある屈強な25歳の男性に対してかね? 彼は深窓の令嬢ではない、我々の情報を抜き取ろうとした手練れの諜報員だぞ」 浮かんだ苦笑いを噛み殺し、教授は首を振った。 「まあ、衛生状態が悪いから、目方はもう少し減っているかもしれんがね。さあ、後半を流すから、Mと執行者、両方に注目するように」 ぶれた状態で制止していた体が思い切り後ろへふれ、鎖がめいいっぱいまで伸びきる。黄色く濁った胃液を床へ吐き散らす捕虜の姿を見て、男の一人が呆れ半分、はしゃぎ半分の声を上げる。「汚ぇなあ、しょんべんが上がってきてるんじゃないのかよ」 今年は受講者を20人程に絞った。抽選だったとは言え、単位取得が簡単でないことは周知の事実なので、応募してきた時点で彼らは自分を精鋭と見なしているのだろう。 それが、どうだ。ある者は暴力に魅せられて頬を火照らせ、ある者は今になって怖じ気付き、正義感ぶることで心の平穏を保とうとする。 経験していないとはこう言うことか。教授は今更ながら心中で嘆息を漏らした。ここのところ、現場慣れした小生意気な下士官向けの講義を受け持つことが多かったので、すっかり自らの感覚が鈍っていた。 つまり、生徒が悪いのでは一切ない。彼らが血の臭いを知らないのは、当然のことなのだ。人を殴ったとき、どれだけ拳が疼くのかを教えるのは、自らの仕事に他ならない。 手垢にまみれていないだけ、吸収も早いことだろう。余計なことを考えず、素直に。ドアを開けて入ってきたあの青年の如く。 足音もなく、すっと影のように近付いてきた青年は、僅かに高い位置へある教授の耳に小さな声で囁いた。 「例のマウンテンバイク、確保できたようです」 針を刺されたように、倦んでいた心が普段通りの大きさへ萎む。ほうっと息をつき、教授は頷いた。 「助かったよ。すまないな」 「いいや、この程度の事なら喜んで」 息子が12歳を迎えるまで、あと半月を切っている。祝いに欲しがるモデルは何でも非常に人気があるそうで、どれだけ自転車屋に掛け合っても首を振られるばかり。 日頃はあまり構ってやれないからこそ、約束を違えるような真似はしたくない。妻と二人ほとほと弱り果てていたとき、手を挙げたのが他ならぬ目の前の青年だった。何でも知人の趣味がロードバイクだとかで、さんざん拝み倒して新古品を探させたらしい。 誕生パーティーまでの猶予が一ヶ月を切った頃から、教授は青年へ厳しく言い渡していた。見つかり次第、どんな状況でもすぐに知らせてくれと。夜中でも、仕事の最中でも。 「奥様に連絡しておきましょうか。また頭痛でお悩みじゃなきゃいいんですけど」 「この季節はいつでも低気圧だ何だとごねているさ。悪いが頼むよ」 ちらつく画像を前にし、青年はまるで自らのプレゼントを手に入れたかの如くにっこりしてみせる。再びパイプ椅子に腰を下ろし、スマートフォンを弄くっている顔は真剣そのものだ。 ふと頭に浮かんだのは、彼が妻と寝ているか否かという、これまでも何度か考えたことのある想像だった。確かに毎週の如く彼を家へ連れ帰り、彼女もこの才気あふれる若者を気に入っている風ではあるが。 まさか、あり得ない。ファンタジーとしてならば面白いかもしれないが。 そう考えているうちは、大丈夫だろう。事実がどうであれ。 「こんな拷問を、そうだな、2ヶ月程続けた。自白を強要する真似は一切せず、ただ肉の人形の用に弄び、心身を疲弊させる事に集中した。詳細はレジュメの3ページに譲るとして……背中に水を皮下注射か。これは以前にも言ったが、対象が仰向けで寝る場合、主に有効だ。事前に確認するように」 紙を捲る音が一通り収まったのを確認してから、教授は手の中のリモコンを軽く振った。 「前回も話したが、囚人が陥りやすいクワシオルコルなど低タンパク血症の判断基準は脚の浮腫だ。だが今回は捕獲時に右靱帯を損傷し中足骨を剥離骨折したこと、何度も逃亡を試みた事から脚への拘束及び重点的に攻撃を加えたため、目視では少し判断が難しいな。そういうときは、圧痕の確認を……太ももを掴んで指の型が数秒間戻らなければ栄養失調だ」 似たような仕置きの続く数分が早送りされ、席のそこかしこから詰まったような息が吐き出される。一度飛ばした写真まで巻き戻せば、その呼吸は再びくびられたかのように止まった。 「さて、意識が混濁しかけた頃を見計らい、我々は彼を移送した。本国の収容所から、国境を越えてこの街に。そして抵抗のできない肉体を、一見無造作に投棄したんだ。汚い、掃き溜めに……えー、この国の言葉では何と?」 「『ゴミ捨て場』」 「そう、『ゴミ捨て場』に」 青年の囁きを、生徒達は耳にしていたはずだ。それ以外で満ちた沈黙を阻害するのは、プロジェクターの立てる微かなモーター音だけだった。 彼らの本国にもありふれた集合住宅へ――もっとも、今画面に映っている場所の方がもう少し設備は整っていたが。距離で言えば100キロも離れていないのに、こんな所からも、旧東側と西側の違いは如実に現れるのだ――よくある、ゴミ捨て場だった。三方を囲うのはコンクリート製の壁。腰程の高さへ積んだゴミ袋の山へ、野生動物避けの緑色をしたネットを掛けてあるような。 その身体は、野菜の切りくずやタンポンが詰められているのだろうゴミ袋達の上に打ち捨てられていた。横向きの姿勢でぐんにゃり弛緩しきっていたが、最後の意志で内臓を守ろうとした努力が窺える。腕を腹の前で交差し、身を縮める姿は胎児を思わせた。ユーラシアンらしい照り卵を塗ったパイ生地を思わせる肌の色味は、焚かれたフラッシュのせいで消し飛ばされる。 絡みもつれた髪の向こうで、血管が透けて見えるほど薄い瞼はぴたりと閉じられていた。一見すると死んでいるかのように見える。 「この国が我が祖国と国交を正常化したのは?」 「2002年です」 「よろしい、ミズ・グッドバー。だがミハイル・ゴルバチョフが衛星国の解放を宣言する以前から、両国間で非公式な交流は続けられていた。主に経済面でだが。ところで、Mがいた地点からほど近くにあるタイユロール記念病院は、あの鋼鉄商フォミン一族、リンゼイ・フォミン氏の働きかけで設立された、一種の『前哨基地』であることは、ごく一部のものだけが知る事実だ。彼は我が校にも多額の寄付を行っているのだから、ゆめゆめ備品を粗末に扱わぬよう」 小さな笑いが遠慮がちに湧いた矢先、突如画面が明るくなる。生徒達同様、教授も満ちる眩しさに目を細めた。 「Mは近所の通報を受け、この病院に担ぎ込まれた……カルテにはそう記載されている。もちろん、事実は違う。全ては我々の手配だ。彼は現在に至るまでの3ヶ月、個室で手厚く看護を受けている。最新の医療、滋養のある食事、尽くしてくれる看護士……もちろん彼は、自らの正体を明かしてはいないし、完全に心を開いてはいない。だが、病院の上にいる人間の存在には気付いていないようだ」 「気付いていながら、我々を欺いている可能性は?」 「限りなく低いだろう。外部との接触は行われていない……行える状態ではないし、とある看護士にはかなり心を許し、私的な話も幾らか打ち明けたようだ」 後は病室へ取り付けた監視用のカメラが、全てを語ってくれる。ベッドへ渡したテーブルへ屈み込むようにしてステーキをがっつく姿――健康状態はすっかり回復し、かつて教授がミラーガラス越しに眺めた時と殆ど変わらぬ軒昂さを取り戻していた。 両脚にはめられたギプスをものともせず、点滴の管を抜くというおいたをしてリハビリに励む姿――パジャマを脱いだ広い背中は、拷問の痕の他に、訓練や実践的な格闘で培われたしなやかな筋肉で覆われている。 車椅子を押す看護士を振り返り、微笑み掛ける姿――彼女は決して美人ではないが、がっしりした体つきやきいきびした物言いは母性を感じさせるものだった。だからこそ一流諜報員をして、生き別れの恋人やアルコール中毒であった父親の話まで、自らの思いの丈を洗いざらい彼女に白状せしめたのだろう。「彼女を本国へスカウトしましょうよ」報告書を読んだ青年が軽口を叩いていたのを思い出す。「看護士の給料って安いんでしょう? 今なら簡単に引き抜けますよ」 「今から10分ほど、この三ヶ月の記録からの抜粋を流す。その後はここを出て、西棟502号室前に移動を――Mが現在入院する病室の前だ。持ち物は筆記具だけでいい」 暗がりの中に戸惑いが広がる様子は、まるで目に見えるかのようだった。敢えて無視し、部屋を出る。 追いかけてきた青年は、ドアが完全に閉まりきる前から既にくすくす笑いで肩を震わせていた。 「ヘンリー・ロバーツの顔を見ましたか。今にも顎が落ちそうでしたよ」 「当然の話だろう」 煤けたような色のLEDライトは、細長く人気のない廊下を最低限カバーし、それ以上贅沢を望むのは許さないと言わんばかり。それでも闇に慣れた眼球の奥をじんじんと痺れさせる。大きく息をつき、教授は何度も目を瞬かせた。 「彼らは現場に出たこともなければ、百戦錬磨の諜報員を尋問したこともない。何不自由なく育った二十歳だ」 「そんなもんですかね」 ひんやりした白塗りの壁へ背中を押しつけ、青年はきらりと目を輝かせた。 「俺は彼ら位の頃、チェチェン人と一緒にウラル山脈へこもって、ロシアのくそったれ共を片っ端から廃鉱山の立坑に放り込んでましたよ」 「『育ちゆけよ、地に満ちて』だ。平和は有り難いことさ」 スマートフォンの振動は無視するつもりだったが、結局ポケットへ手を突っ込み、液晶をタップする。現れたテキストをまじまじと見つめた後、教授は紳士的に視線を逸らしていた青年へ向き直った。 「君のところにもメッセージが行っていると思うが、妻が改めて礼を言ってくれと」 「お安い御用ですよ」 「それと、ああ、その自転車は包装されているのか?」 「ほうそうですか」 最初繰り返したとき、彼は自らが口にした言葉の意味を飲み込めていなかったに違いない。日に焼けた精悍な顔が、途端にぽかんとした間抜け面に変わる。奨学金を得てどれだけ懸命に勉強しても、この表情を取り繕う方法は、ついぞ学べなかったらしい。普段の明朗な口振りが嘘のように、言葉付きは歯切��が悪い。 「……ええっと、多分フェデックスか何かで来ると思うので、ダンボールか緩衝材にくるんであるんじゃないでしょうか……あいつは慣れてるから、配送中に壊れるような送り方は絶対しませんよ」 「いや、そうじゃないんだ。誕生日の贈り物だから、可愛らしい包み紙をこちらのほうで用意すべきかということで」 「ああ、なるほど……」 何とか混乱から立ち直った口元に、決まり悪げなはにかみが浮かぶ。 「しかし……先生の息子さんが羨ましい。俺の親父もマツモトの父親とそうそう変わらないろくでなしでしたから」 僅かに赤らんだ顔を俯かせて頭を掻き、ぽつりと呟いた言葉に普段の芝居掛かった気負いは見られない。鈍い輝きを帯びた瞳が、おもねるような上目遣いを見せた。 「先生のような父親がいれば、きっと世界がとてつもなく安全で、素晴らしい物のように見えるでしょうね」 皮肉を言われているのか、と一瞬思ったが、どうやら違うらしい。 息子とはここ数週間顔を合わせていなかった。打ち込んでいるサッカーの試合や学校の発表会に来て欲しいと何度もせがまれているが、積み重なる仕事は叶えてやる機会を許してはくれない。 いや、本当に自らは、努力を重ねたか? 確たる意志を以て、向き合う努力を続けただろうか。 自らが妻子を愛していると、教授は知っている。彼は己のことを分析し、律していた。自らが家庭向きの人間ではないことを理解しなから、家族を崩壊させないだけのツボを的確に押さえている事実へ、怒りの叫びを上げない程度には。 目の前の男は、まだ期待の籠もった眼差しを向け続けている。一体何を寄越せば良いと言うのだ。今度こそ苦い笑いを隠しもせず、教授は再びドアノブに手を伸ばした。 着慣れない白衣姿に忍び笑いが漏れるのへ、わざとらしいしかめっ面を作って見せる。 「これから先、私は傍観者だ。今回の実習を主導するのは彼だから」 「皆の良い兄貴分」を気取っている青年が、芝居掛かった仕草のお辞儀をしてみせる。生徒達と同じように拍手を与え、教授は頷いた。 「私はいないものとして考えるように……皆、彼の指示に従うこと」 「指示なんて仰々しい物は特にない、みんな気楽にしてくれ」 他の患者も含め人払いを済ませた廊下へ響かぬよう、普段よりは少し落とした声が、それでも軽やかに耳を打った。 「俺が定める禁止事項は一つだけ――禁止事項だ。これからここで君たちがやった事は、全てが許される。例え法に反することでも」 わざとらしく強い物言いに、顔を見合わせる若者達の姿は、これから飛ぶ練習を始める雛鳥そのものだった。彼らをぐるりと見回す青年の胸は、愉悦でぱんぱんに膨れ上がっているに違いない。大袈裟な��振りで手にしたファイルを振りながら、むずつかせる唇はどうだろう。心地よく浸る鷹揚さが今にも溢れ出し、顔を満面の笑みに変えてしまいそうだった。 「何故ならこれから君達が会う人間は、その法律の上では存在しない人間なんだから……寧ろ俺は、君達に積極的にこのショーへ参加して欲しいと思ってる。それじゃあ、始めようか」 最後にちらりと青年が寄越した眼差しへ、教授はもう一度頷いて見せた。ここまでは及第点。生徒達は不安を抱えつつも、好奇心を隠せないでいる。 ぞろぞろと向かった先、502号室の扉は閉じられ、物音一つしない。ちょうど昼食が終わったばかりだから、看護士から借りた本でも読みながら憩っているのだろう――日報はルーティンと化していたが、それでも教授は欠かさず目を通し続けていた。 生徒達は皆息を詰め、これから始まる出し物を待ちかまえている。青年は最後にもう一度彼らを振り向き、シッ、と人差し指を口元に当てた。ぴいん、と緊張が音を立てそうなほど張り詰められたのは、世事に疎い学生達も気がついたからに違いない。目の前の男の目尻から、普段刻まれている笑い皺がすっかり失せていると。 分厚い引き戸が勢いよく開かれる。自らの姿を、病室の中の人間が2秒以上見つめたと確認してから、青年はあくまで穏やかな、だがよく聞こえる声で問いかけた。 「あんた、ここで何をしているんだ」 何度も尋問を起こった青年と違い、教授がヒカル・K・マツモトを何の遮蔽物もなくこの目で見たのは、今日が初めての事だった。 教授が抱いた印象は、初見時と同じ――よく飼い慣らされた犬だ。はしっこく動いて辺りを確認したかと思えば、射るように獲物を見据える切れ長で黒目がちの瞳。すっと通った細長い鼻筋。桜色の形良い唇はいつでも引き結ばれ、自らが慎重に選んだ言葉のみ、舌先に乗せる機会を待っているかのよう。 見れば見るほど、犬に思えてくる。教授がまだ作戦本部にいた頃、基地の中を警邏していたシェパード。栄養状態が回復したせいか、艶を取り戻した石炭色の髪までそっくりだった。もっともあの軍用犬達はベッドと車椅子を往復していなかったので、髪に寝癖を付けたりなんかしていなかったが。 犬は自らへしっぽを振り、手綱を握っている時にのみ役に立つ。牙を剥いたら射殺せねばならない――どれだけ気に入っていたとしても。教授は心底、その摂理を嘆いた。 自らを散々痛めつけた男の顔を、一瞬にして思い出したのだろう。Mは驚愕に目を見開いたものの、次の瞬間車椅子の中で身構えた。 「おまえは…!」 「何をしているかと聞いているんだ、マツモト。ひなたぼっこか?」 もしもある程度予測できていた事態ならば、この敏腕諜報員のことだ。ベッド脇にあるナイト���タンドから取り上げた花瓶を、敵の頭に叩きつける位の事をしたかもしれない。だが不幸にも、青年の身のこなしは機敏だった。パジャマの襟首を掴みざま、まだ衰弱から完全に抜けきっていない体を床に引き倒す。 「どうやら、少しは健康も回復したようだな」 自らの足元にくずおれる姿を莞爾と見下ろし、青年は手にしていたファイルを広げた。 「脚はどうだ」 「おかげさまで」 ギプスをはめた脚をかばいながら、Mは小さく、はっきりとした声で答えた。 「どうやってここを見つけた」 「見つけたんじゃない。最初から知っていたんだ。ここへお前を入院させたのは俺たちなんだから」 一瞬見開かれた目は、すぐさま平静を取り戻す。膝の上から滑り落ちたガルシア・マルケスの短編集を押し退けるようにして床へ手を滑らせ、首を振る。 「逐一監視していた訳か」 「ああ、その様子だと、この病院そのものが俺たちの手中にあったとは、気付いていなかったらしいな」 背後を振り返り、青年は中を覗き込む生徒達に向かって繰り返した。 「重要な点だ。この囚人は、自分が未だ捕らわれの身だという事を知らなかったそうだ」 清潔な縞模様のパジャマの中で、背中が緩やかな湾曲を描く。顔を持ち上げ、Mは生徒達をまっすぐ見つめた。 またこの目だ。出来る限り人だかりへ紛れながらも、教授はその眼差しから意識を逸らすことだけは出来なかった。有利な手札など何一つ持っていないにも関わらず、決して失われない榛色の光。確かにその瞳は森の奥の泉のように静まり返り、暗い憂いを帯びている。あらかじめ悲しみで心を満たし、もうそれ以上の感情を注げなくしているかのように。 ねめ回している青年も、Mのこの堅固さならよく理解しているだろう――何せ数ヶ月前、その頑強な鎧を叩き壊そうと、手ずから車のバッテリーに繋いだコードを彼の足に接触させていたのだから。 もはや今、鸚鵡のように「口を割れ」と繰り返す段階は過ぎ去っていた。ファイルの中から写真の束を取り出して二、三枚繰り、眉根を寄せる。 「本当はもう少し早く面会するつもりだったんだが、待たせて悪かった。あんたがここに来て、確か3ヶ月だったな。救助は来なかったようだ」 「ここの電話が交換式になってる理由がようやく分かったよ。看護士に渡した手紙も握りつぶされていた訳だな」 「気付いていたのに、何もしなかったのか」 「うちの組織は、簡単にとかげの尻尾を切る」 さも沈痛なそぶりで、Mは目を伏せた。 「大義を為すためなら、末端の諜報員など簡単に見捨てるし、皆それを承知で働いている」 投げ出されていた手が、そろそろと左足のギプスの方へ這っていく。そこへ削って尖らせたスプーンを隠してある事は、監視カメラで確認していた。知っていたからこそ、昨晩のうちに点滴へ鎮静剤を混ぜ、眠っているうちに取り上げてしまう事はたやすかった。 ほつれかけたガーゼに先細りの指先が触れるより早く、青年は動いた。 「確かに、お前の所属する組織は、仲間がどんな目に遭おうと全く気に掛けないらしいな」 手にしていた写真を、傷が目立つビニール張りの床へ、一枚、二枚と散らす。Mが身を凍り付かせたのは、まだ僅かに充血を残したままの目でも、その被写体が誰かすぐ知ることが出来たからだろう。 「例え女であったとしても、我が国の情報局が手加減など一切しないことは熟知しているだろうに」 最初の数枚においては、CもまだMが知る頃の容姿を保っていた。枚数が増えるにつれ、コマの荒いアニメーションの如く、美しい女は徐々に人間の尊厳を奪われていく――撮影日時は、写真の右端に焼き付けられていた。 Mがされていたのと同じくらい容赦なく殴られ、糞尿や血溜まりの中で倒れ伏す姿。覚醒剤で朦朧としながら複数の男達に辱められる。時には薬を打たれることもなく、苦痛と恥辱の叫びを上げている歪んだ顔を大写しにしたものもある。分かるのは、施されるいたぶりに終わりがなく、彼女は時を経るごとにやせ細っていくということだ。 「あんたがここで骨休めをしている間、キャシー・ファイクは毎日尋問に引き出されていた。健気に耐えたよ、全く驚嘆すべき話だ。そういう意味では、君たちの組織は実に優秀だと言わざるを得ない」 次々と舞い落ちてくる写真の一枚を拾い上げ、Mは食い入るように見つめていた。養生生活でただでも青白くなった横顔が、俯いて影になることで死人のような灰色に変わる。 「彼女は最終的に情報を白状したが……恐らく苦痛から解放して欲しかったのだろう。この三ヶ月で随分衰弱してしまったから」 Mは自らの持てる技術の全てを駆使し、動揺を押さえ込もうとしていた。その努力は殆ど成功している。ここだけは仄かな血色を上らせた、薄く柔い唇を震わせる以外は。 ��の様をつくづくと見下ろしながら、青年はどこまでも静かな口調で言った。 「もう一度聞くが、あんた、ここで何をしていた?」 再び太ももへ伸ばされた左手を、踏みつけにする足の動きは機敏だった。固い靴底で手の甲を踏みにじられ、Mはぐっと奥歯を噛みしめ、相手を睨み上げた。教授が初めて目にする、燃えたぎるような憎悪の色を視線に織り込みながら。その頬は病的なほど紅潮し、まるで年端も行かない子供を思わせる。 そして相手がたかぶるほど、青年は感情を鎮静化させていくのだ。全ての写真を手放した後、彼は左腕の時計を確認し、それから壁に掛かっていた丸い時計にも目を走らせた。 「数日前、Cはこの病院に運び込まれた。お偉方は頑なでね。まだ彼女が情報を隠していると思っているようだ」 「これ以上、彼女に危害を加えるな」 遂にMは口を開き、喉の奥から絞り出すようにして声を放った。 「情報ならば、���が話す」 「あんたにそんな役割は求めていない」 眉一つ動かすことなく、青年は言葉を遮った。 「あんたは3ヶ月前に、その言葉を口にすべきだった。もう遅い」 唇を噛むMから目を離さないまま、部屋の前の生徒達に手だけの合図が送られる。今やすっかりその場の空気に飲まれ、彼らはおたおたと足を動かすのが精一杯。一番賢い生徒ですら、質問を寄越そうとはしなかった。 「彼女に会わせてやろう。もしも君が自分の足でそこにたどり着けるのならば。俺の上官が出した指示はこうだ。この廊下の突き当たりにある手術室にCを運び込み、麻酔を掛ける。5分毎に、彼女の体の一部は切り取られなければならない。まずは右腕、次に右脚、四肢が終わったら目を抉り、鼻を削いで口を縫い合わせ、喉を潰す。耳を切りとったら次は内臓だ……まあ、この順番は多少前後するかもしれない。医者の気まぐと彼女の体調次第で」 Mはそれ以上、抗弁や懇願を口にしようとはしなかった。ただ歯を食いしばり、黙ってゲームのルールに耳を澄ましている。敵の陣地で戦うしか、今は方法がないのだと、聡い彼は理解しているのだろう。 「もしも君が部屋までたどり着けば、その時点で手術を終了させても良いと許可を貰ってる。彼女の美しい肉体をどれだけ守れるかは、君の努力に掛かっているというわけだ」 足を離して解放しざま、青年はすっと身を傍らに引いた。 「予定じゃ、もうカウントダウンは始まっている。そろそろ医者も、彼女の右腕に局部麻酔を打っているんじゃないか?」 青年が言い終わらないうちに、Mは床に投げ出されていた腕へ力を込めた。 殆ど完治しているはずの脚はしかし、過剰なギプスと長い車椅子生活のせいですっかり萎えていた。壁に手をつき、立ち上がろうとする奮闘が繰り返される。それだけの動作で、全身に脂汗が滲み、細かい震えが走っていた。 壁紙に爪を立てて縋り付き、何とか前かがみの姿勢になれたとき、青年はその肩に手を掛けた。力任せに押され、受け身を取ることも叶わなかったらしい。無様に尻餅をつき、Mは顔を歪めた。 「さあ」 人を突き飛ばした手で部屋の外に並ぶ顔を招き、青年はもぞつくMを顎でしゃくる。 「君達の出番だ」 部屋の中へ足を踏み入れようとするものは、誰もいなかった。 その後3度か4度、起き上がっては突き飛ばされるが繰り返される。結局Mは、それ以上立ち上がろうとする事を諦めた。歯を食いしばって頭を垂れ、四つん這いになる。出来る限り避けようとはしているのだろう。だが一歩手を前へ進めるたび、床へ広がったままの写真が掌にくっついては剥がれるを繰り返す。汗を掻いた手の下で、印画紙は皺を作り、折れ曲がった。 「このままだと、あっさり部屋にたどり着くぞ」 薄いネルの布越しに尻を蹴飛ばされ、何度かその場へ蛙のように潰れながらも、Mは部屋の外に出た。生徒達は彼の行く手を阻まない。かといって、手を貸したり「こんな事は���くない」と口にするものもいなかったが。 細く長い廊下は一直線で、突き当たりにある手術室までの距離は50メートル程。その気になれば10分も掛からない距離だ。 何とも奇妙な光景が繰り広げられた。一人の男が、黙々と床を這い続ける。その後ろを、20人近い若者が一定の距離を開けてぞろぞろと付いていく。誰も質問をするものはいなかった。ノートに記録を取るものもいなかった。 少し距離を開けたところから、教授は様子を眺めていた。次に起こる事を待ちながら――どういう形にせよ、何かが起こる。これまでの経験から、教授は理解していた。 道のりの半分程まで進んだ頃、青年はそれまでMを見張っていた視線を後ろへ振り向けた。肩が上下するほど大きな息を付き、ねだる様な表情で微笑んで見せる。 「セルゲイ、ラマー、手を貸してくれ。奴をスタートまで引き戻すんだ」 学生達の中でも一際体格の良い二人の男子生徒は、お互いの顔を見合わせた。その口元は緊張で引きつり、目ははっきりと怯えの色に染まっている。 「心配しなくてもいい。さっきも話したが、ここでは何もかもが許される……ぐずぐずするな、単位をやらないぞ」 最後の一言が利いたのかは分からないが、二人はのそのそと中から歩み出てきた。他の学生が顔に浮かべるのは非難であり、同情であり、それでも決して手を出すことはおろか、口を開こうとすらしないのだ。 話を聞いていたMは、必死で手足の動きを早めていた。どんどんと開き始める距離に、青年が再び促せば、結局男子生徒は小走りで後を追う。一人が腕を掴んだとき、Mはまるで弾かれたかのように顔を上げた。その表情は、自らを捕まえた男と同じくらい、固く強張っている。 「頼む」 掠れた声に混ざるのは、間違いなく懇願だった。小さな声は、静寂に満ちた廊下をはっきりと貫き通る。 「頼むから」 「ラマー」 それはしかし、力強い指導者の声にあっけなくかき消されるものだった。意を決した顔で、二人はMの腕を掴み直し、背後へと引きずり始めた。 Mの抵抗は激しかった。出来る限り身を捩り、ギプスのはまった脚を蠢かす。たまたま、固められたグラスファイバーが臑に当たったか、爪が腕を引っ掻いたのだろう。かっと眦をつり上げたセルゲイが、平手でMの頭を叩いた。あっ、と後悔の顔が浮かんだのもつかの間、拘束をふりほどいたMは再び手術室を目指そうと膝を突く。追いかけたラマーに、明確な抑止の気持ちがあったのか、それともただ単に魔が差したのかは分からない。だがギプスを蹴り付ける彼の足は、決して生ぬるい力加減のものではなかった。 その場へ横倒しになり、呻きを上げる敵対性人種を、二人の男子生徒はしばらくの間見つめていた。汗みずくで、時折せわしなく目配せを交わしあっている。やがてどちらともなく、再び仕事へ取りかかろうとしたとき、その足取りは最初と比べて随分とスムーズなものになっていた。 病室の入り口まで連れ戻され、身を丸めるMに、青年がしずしずと歩み寄る。腕時計をこれ見よがしに掲げながら放つ言葉は、あくまでも淡々としたものだった。 「今、キャシーは右腕を失った」 Mは全身を硬直させ、そして弛緩させた。何も語らず、目を伏せたまま、また一からやり直そうと努力を続ける。 不屈の精神。だがそれは青年を面白がらせる役にしか立たなかった。 同じような事が何度も繰り返されるうち、ただの背景でしかなかった生徒達に動きが見え始めた。 最初のうちは、一番に手助けを求められた男子生徒達がちょっかいをかける程度だった。足を掴んだり、行く手を塞いだり。ある程度進めばまた病室まで引きずっていく。そのうち連れ戻す役割に、数人が関わるようになった。そうなると、全員が共犯者になるまで時間が掛からない。 やがて、誰かが声を上げた。 「このスパイ」 つられて、一人の女子生徒がMを指さした。 「この男は、私たちの国を滅ぼそうとしているのよ」 「悪魔、けだもの!」 糾弾は、ほとんど悲鳴に近い音程で迸った。 「私の叔母は、戦争中こいつの国の人間に犯されて殺された! まだたった12歳だったのに!」 生徒達の目の焦点が絞られる。 病室へ駆け込んだ一人が戻ってきたとき手にしていたのは、ピンク色のコスモスを差した重たげな花瓶だった。花を引き抜くと、その白く分厚い瀬戸物を、Mの頭上で逆さまにする。見る見るうちに汚れた冷水が髪を濡らし、パジャマをぐっしょり背中へと張り付かせる様へ、さすがに一同が息を飲む。 さて、どうなることやら。教授は一歩離れた場所から、その光景を見守っていた。 幸い、杞憂は杞憂のままで終わる。すぐさま、どっと歓声が弾けたからだ。笑いは伝染する。誰か一人が声を発すれば、皆が真似をする。免罪符を手に入れたと思い込む。 そうなれば、後は野蛮で未熟な度胸試しの世界になった。 殴る、蹴るは当たり前に行われた。直接手を出さない者も、もう目を逸らしたり、及び腰になる必要はない。鋏がパジャマを切り裂き、無造作に掴まれた髪を黒い束へと変えていく様子を、炯々と目を光らせて眺めていられるのだ。 「まあ、素敵な格好ですこと」 また嘲笑がさざ波のように広がる。その発作が収まる隙を縫って、時折腕時計を見つめたままの青年が冷静に告げる。「今、左脚が失われた」 Mは殆ど抵抗しなかった。噛みしめ過ぎて破れた唇から血を流し、目尻に玉の涙を浮かべながら。彼は利口だから、既に気付いていたのだろう。まさぐったギプスに頼みの暗器がない事にも、Cの命が彼らの機嫌一つで簡単に失われるという事も――その経験と知識と理性により、がんじがらめにされた思考が辿り着く結論は、一つしかない――手術室を目指せ。 まだ、この男は意志を折ってはいない。作戦本部へ忍び込もうとして捕らえられた時と、何一つ変わっていない。教授は顎を撫で、青年を見遣った。彼はこのまま、稚拙な狂乱に全てを任せるつもりなのだろうか。 罵りはやし���てる声はますます激しくなった。上擦った声の多重奏は狭い廊下を跳ね回っては、甲高く不気味な音程へと姿を変え戻ってくる。 短くなった髪を手綱のように掴まれ、顎を逸らされるうち、呼吸が続かなくなったのだろう。強い拒絶の仕草で、Mの首が振られる。彼の背中へ馬乗りになり、尻を叩いていた女子学生達が、体勢を崩して小さく悲鳴を上げた。 「このクズに思い知らせてやれ」 仕置きとばかりに脇腹へ爪先を蹴込んだ男子生徒が、罵声をとどろかせた。 「自分の身分を思い知らせろ、大声を上げて泣かせてやれ」 津波のような足音が、身を硬直させる囚人に殺到する。その体躯を高々と掲げ上げた一人が、青年に向かって声を張り上げた。 「便所はどこですか」 指で示しながら、青年は口を開いた。 「今、鼻が削ぎ落とされた」 天井すれすれの位置まで持ち上げられた瞬間、全身に張り巡らされた筋肉の緊張と抵抗が、ふっと抜ける。力を無くした四肢は生徒達の興奮の波に合わせてぶらぶらと揺れるが、その事実に気付いたのは教授と、恐らく青年しかいないようだった。 びしょ濡れで、破れた服を痣だらけで、見るも惨めな存在。仰向けのまま、蛍光灯の白々とした光に全身を晒し、その輪郭は柔らかくぼやけて見えた。逸らされた喉元が震え、虚ろな目はもう、ここではないどこかをさまよってる――あるいは閉じこもったのだろうか? 一つの固い意志で身を満たす人間は、荘厳で、純化される。まるで死のように――教授が想像したのは、『ハムレット』の終幕で、栄光を授けられ、兵達に運び出されるデンマーク王子の亡骸だった。 実際のところ、彼は気高い王子ではなく、物語がここで終わる訳でもないのだが。 男子トイレから上がるはしゃいだ声が熱を帯び始めた頃、スラックスのポケットでスマートフォンが振動する。発信者を確認した教授は、一度深呼吸をし、それから妻の名前を呼んだ。 「どうしたんだい、お義父さんの容態が変わった?」 「それは大丈夫」 妻の声は相変わらず、よく着こなされた毛糸のセーターのように柔らかで、温かかった。特に差し向かいで話をしていない時、その傾向は顕著になる。 「あのね、自転車の事なんだけれど、いつぐらいに着くのかしら」 スピーカーを手で押さえながら、教授は壁に寄りかかってスマートフォンを弄っていた青年に向かって叫んだ。 「君の友達は、マウンテンバイクの到着日時を指定したって言っていたか」 「いえ」 「もしもし、多分来週の頭くらいには配送されると思うよ」 「困ったわ、来週は婦人会とか読書会とか、家を空けるのよ」 「私がいるから受け取っておく、心配しないでいい。何なら再配達して貰えば良いし」 「そうね、サプライズがばれなければ」 「子供達は元気にしてるかい」 「変わらずよ。来週の休暇で、���方とサッカーの試合を観に行くのを楽しみにしてる」 「そうだった。君は��っくり骨休めをするといいよ……そういえば、さっきの包装の事だけれど、わざわざ紙で包まなくても、ハンドルにリボンでも付けておけばいいんじゃないかな」 「でも、もうさっき玩具屋で包装紙を買っちゃったのよ!」 「なら、それで箱を包んで……誕生日まで隠しておけるところは? クローゼットには入らないか」 「今物置を片づけてるん��けど、貴方の荷物には手を付けられないから、帰ったら見てくれる?」 「分かった」 「そっちで無理をしないでね……ねえ、今どこにいるの? 人の悲鳴が聞こえたわ」 「生徒達が騒いでるんだよ。皆研修旅行ではしゃいでるから……明日は一日、勉強を休んで遊園地だし」 「貴方も一緒になって羽目を外さないで、彼がお目付け役で付いていってくれて一安心だわ……」 「みんないい子にしてるさ。もう行かないと。愛してるよ、土産を買って帰るからね」 「私も愛してるわ、貴方」 通話を終えたとき、また廊下の向こうで青年がニヤニヤ笑いを浮かべているものかと思っていたが――既に彼は、職務に戻っていた。 頭から便器へ突っ込まれたか、小便でも掛けられたか、連れ戻されたMは床へぐったり横たわり、激しく噎せ続けていた。昼に食べた病院食は既に吐き出したのか、今彼が口から絶え間なく溢れさせているのは黄色っぽい胃液だけだった。床の上をじわじわと広がるすえた臭いの液体に、横顔や髪がべったりと汚される。 「うわ、汚い」 「こいつ、下からも漏らしてるぞ」 自らがしでかした行為の結果であるにも関わらず、心底嫌悪に満ちた声がそこかしこから上がる。 「早く動けよ」 どれだけ蔑みの言葉を投げつけられ、汚れた靴で蹴られようとも、もうMはその場に横たわったきり決して動こうとしなかった。頑なに閉じる事で薄い瞼と長い睫を震わせ、力の抜けきった肉体を冷たい床へと投げ出している。 糸の切れた操り人形のようなMの元へ、青年が近付いたのはそのときのことだった。枕元にしゃがみ込み、指先でこつこつと腕時計の文字盤を叩いてみせる。 「あんたはもう、神に身を委ねるつもりなんだな」 噤まれた口などお構いなしに、話は続けられる。まるで眠りに落ちようとしている息子へ、優しく語り掛ける母のように。 「彼女はもう、手足もなく、目も見えず耳も聞こえない、今頃舌も切り取られただろう……生きる屍だ。これ以上、彼女を生かすのはあまりにも残酷過ぎる……だからこのまま、手術が進み、彼女の肉体が耐えられなくなり、天に召されるのを待とうとしているんだな」 Mは是とも否とも答えなかい。ただ微かに顔を背け、眉間にきつく皺を寄せたのが肯定の証だった。 「俺は手術室に連絡を入れた。手術を中断するようにと。これでもう、終わりだ。彼女は念入りに手当されて、生かされるだろう。彼女は強い。生き続ければ、いつかはあんたに会えると、自分の存在があんたを生かし続けると信じているからだ。例え病もう���も、健やかであろうとも……彼女はあんたを待っていると、俺は思う」 Mの唇がゆっくりと開き、それから固まる。何かを、言おうと思ったのだろう。まるで痙攣を起こしたように顎ががくがくと震え、小粒なエナメル質がカチカチと音を立てる。今にも舌を噛みそうだった。青年は顔を近付け、吐息に混じる潰れた声へ耳を傾けた。 「彼女を……彼女を、助けてやってくれ。早く殺してやってくれ」 「だめだ。それは俺の仕事じゃない」 ぴしゃりと哀願をはねのけると、青年は腰を上げた。 「それはあんたの仕事だ。手術室にはメスも、薬もある。あんたがそうしたいのなら、彼女を楽にしてやれ。俺は止めはしない」 Mはそれ以上の話を聞こうとしなかった。失われていた力が漲る。傷ついた体は再び床を這い始めた。 それまで黙って様子を見守っていた生徒達が、顎をしゃくって見せた青年の合図に再び殺到する。無力な腕に、脚に、襟首に、胴に、絡み付くかのごとく手が伸ばされる。 今度こそMは、全身の力を使って体を突っ張らせ、もがき、声を限りに叫んだ。生徒達が望んでいたように。獣のような咆哮が、耳を聾する。 「やめてくれ……行かせてくれ!! 頼む、お願いだ、お願いだから!!」 「俺達の国の人間は、もっと酷い目に遭ったぞ」 それはだが、やがて生徒達の狂躁的な笑い声に飲み込まれる。引きずられる体は、病室を通り過ぎ、廊下を曲がり、そして、とうとう見えなくなった。Mの血を吐くような叫びだけが、いつまでも、いつまでも聞こえ続けていた。 再びMの姿が教授の前へと現れるまで、30分程掛かっただろうか。もう彼を邪魔するものは居なかった。時々小馬鹿にしたような罵声が投げかけられるだけで。 力の入らない手足を叱咤し、がくがくと震わせながら、それでもMは這い続けた。彼はもう、前を見ようとしなかった。ただ自分の手元を凝視し、一歩一歩、渾身の力を振り絞って歩みを進めていく。割れた花瓶の破片が掌に刺さっても、顔をしかめる事すらしない。全ての表情はすっぽりと抜け落ち、顔は仮面のように、限りなく端正な無表情を保っていた。まるで精巧なからくり人形の、動作訓練を行っているかのようだった。彼が人間であることを示す、手から溢れた薄い血の痕が、ビニールの床へ長い線を描いている。 その後ろを、生徒達は呆けたような顔でのろのろと追った。髪がめちゃくちゃに逆立っているものもいれば、ネクタイを失ったものもいる。一様に疲れ果て、後はただ緩慢に、事の成り行きを見守っていた。 やがて、汚れ果てた身体は、手術室にたどり着いた。 伸ばされた手が、白い扉とドアノブに赤黒い模様を刻む。全身でぶつかるようにしてドアを押し開け、そのままその場へ倒れ込んだ。 身を起こした時、彼はすぐに気が付いたはずだ。 その部屋が無人だと。 手術など、最初から行われていなかったと。 自らが犯した、取り返しの付かない過ちと、どれだけ足掻いても決して変えることの出来なかった運命を。 「彼女は手術を施された」 入り口に寄りかかり、口を開いた青年の声が、空っぽの室内に涼々と広がる。 「彼女はあんたに会いたがっていた。あんたを待っていた。それは過去の話だ」 血と汗と唾液と、数え切れない程の汚物にまみれた頭を掴んでぐっと持ち上げ、叱責は畳みかけられる。 「彼女は最後まで、あんたを助けてくれと懇願し続けた。半年前、この病院へ放り込まれても、あんたに会おうと這いずり回って何度も逃げ出そうとした。もちろん、ここがどんな場所かすぐに気付いたよ。だがどれだけ宥めても、あんたと同じところに返してくれの一点張りだ。愛情深く、誇り高い、立派な女性だな。涙なしには見られなかった」 丸く開かれたMの口から、ぜいぜいと息とも声とも付かない音が漏れるのは、固まって鼻孔を塞ぐ血のせいだけではないのだろう。それでも青年は、髪を握る手を離さなかった。 「だから俺達は、彼女の望みを叶えてやった。あんたと共にありたいという望みをな……ステーキは美味かったか? スープは最後の一匙まで飲み干したか? 彼女は今頃、どこかの病院のベッドの上で喜んでいるはずだ。あんたと二度と離れなくなっただけじゃない。自分の肉体が、これだけの責め苦に耐えられる程の健康さをあんたに取り戻させたんだからな」 全身を震わせ、Mは嘔吐した。もう胃の中には何も残っていないにも関わらず。髪がぶちぶちと引きちぎられることなどお構いなしで俯き、背中を丸めながら。 「吐くんじゃない。彼女を拒絶するつもりか」 最後に一際大きく喉が震えたのを確認してから、ぱっと手が離される。 「どれだけ彼女を悲しませたら、気が済むんだ」 Mがもう、それ以上の責め苦を与えられる事はなかった。白目を剥いた顔は吐瀉物――に埋まり、ぴくりとも動かない。もうしばらく、彼が意識を取り戻すことはないだろう――なんなら、永遠に取り戻したくはないと思っているかもしれない。 「彼はこの後すぐ麻酔を打たれ、死体袋に詰め込まれて移送される……所属する組織の故国へか、彼の父の生まれ故郷か、どこ行きの飛行機が手頃かによるが……またどこかの街角へ置き去りにされるだろう」 ドアに鍵を掛け、青年は立ち尽くす生徒達に語り掛けた。 「君達は、俺が随分ひどい仕打ちをしでかしたと思っているだろう。だが、あの男はスパイだ。彼が基地への潜入の際撃ち殺した守衛には、二人の幼い子供達と、身重の妻がいる……これは君達への気休めに言ってるんじゃない。彼を生かし続け、このまま他の諜報員達に甘い顔をさせていたら、それだけ未亡人と父無し子が増え続けるってことだ」 今になって泣いている女子生徒も、壁に肩を押しつけることで辛うじてその場へ立っている男子生徒も、同じ静謐な目が捉え、慰撫していく。 「君達は、12歳の少女が犯されて殺される可能性を根絶するため、ありとあらゆる手段を用いることが許される。それだけ頭に入れておけばいい」 生徒達はぼんやりと、青年の顔を見つめていた。何の感情も表さず、ただ見つめ続けていた。 この辺りが潮時だ。ぽんぽんと手を叩き、教授は沈黙に割って入った。 「さあ、今日はここまでにしよう。バスに戻って。レポートの提出日は休み明け最初の講義だ」 普段と代わり映えのしない教授の声は、生徒達を一気に現実へ引き戻した。目をぱちぱちとさせた��、ぐったりと頭を振ったり。まだ片足は興奮の坩堝へ突っ込んでいると言え、彼らはとろとろとした歩みで動き出した。 「明日に備えてよく食べ、よく眠りなさい。遊園地で居眠りするのはもったいないぞ」 従順な家畜のように去っていく中から、まだひそひそ話をする余力を残していた一人が呟く。 「すごかったな」 白衣を受付に返し、馴染みの医師と立ち話をしている間も、青年は辛抱強く教授の後ろで控えていた。その視線が余りにも雄弁なので、あまりじらすのも忍びなくなってくる――結局のところ、彼は自らの手中にある人間へ大いに甘いのだ。 「若干芝居掛かっていたとは言え、大したものだ」 まだ敵と対決する時に浮かべるのと同じ、緊張の片鱗を残していた頬が、その一言で緩む。 「ありがとうございます」 「立案から実行までも迅速でスムーズに進めたし、囚人の扱いも文句のつけようがない。そして、学生達への接し方と御し方は実に見事なものだ。普段からこまめに交流を深めていた賜だな」 「そう言って頂けたら、報われました」 事実、彼の努力は報われるだろう。教授の書く作戦本部への推薦状という形で。 青年は教授の隣に並んで歩き出した。期待で星のように目を輝かせ、胸を張りながら。意欲も、才能も、未来もある若者。自らが手塩にかけて全てを教え込み、誇りを持って送り出す事の出来る弟子。 彼が近いうちに自らの元を去るのだと、今になってまざまざ実感する。 「Mはどこに棄てられるんでしょうね。きっとここからずっと離れた、遙か遠い場所へ……」 今ほど愛する者の元へ帰りたいと思ったことは、これまで一度もなかった。 終
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スパイク・リー監督『ブラック・クランズマン』 原題:BlacKkKlansman 制作:アメリカ, 2018. 奇想天外な構成にコメディのスパイスを効かせた娯楽性とともに、��会派監督スパイク・リーらしい、人種差別に反対する強いメッセージが込められた作品。古い映画の挿入や、二つの場面をカットバックする手法により、映像作品の持つ光と影が浮き彫りになっています。 トランプ大統領の口癖、「アメリカ・ファースト」の秘密に迫る展開も見どころです。(7,290文字)
題材となったマジでリアルな事件
奇想天外な設定が生み出すスリルとユーモア
思いがけない話の結末だが・・・
最後の5分に込められたメッセージ
「アメリカ・ファースト」の正体
南軍旗に引き継がれた黒人差別の象徴
白人至上主義に影響をもたらした映画『國民の創生』
映像メディアの光と影
題材となったマジでリアルな事件 『ブラック・クランズマン』は、どうやら実話らしい。テロップがこう言っている。
この映画は、マジでリアルな話がベースだ。
アメリカは1950年代から、黒人を中心とした人種差別の撤廃や公民権を求める運動が高まりを見せた。この運動は1964年に公民権法の制定をもたらし、南北戦争時代から続いてきた法の上での人種差別は終わりを告げることになった。同じ年には公民権運動への貢献が評価され、キング牧師がノーベル平和賞を受賞している。しかしその後も、黒人、ユダヤ人、共産党員などへの差別が絶えることはなかった。 本作は、1979年にアメリカのコロラドスプリングスであった事件を題材に、公民権法の成立後も密かに活動を続けてきた白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)への潜入捜査と、そこで起きた出来事を描いている。だが、『ブラック・クランズマン』の見どころは、映画の題材となった事件の描き方だけに留まらない。 奇想天外な設定が生み出すスリルとユーモア 社会派映画監督といわれるスパイク・リーだが、本作は映画的なスリルにコメディのスパイスを効かせた仕上がりになっている。まず驚くのが、潜入する二人の警官が黒人のロンとユダヤ人のフィリップというまさかの設定になっていることだ。反黒人はもちろん反ユダヤ、反共を唱える白人至上主義の団体に、よりによって最も不適格な二人が潜入する。これがスリルを生まないわけがない。 しかも、黒人が電話の声、ユダヤ人が顔と体と役割を分けることで、コメディの味わいも加えられている。黒人訛りと白人の喋り方を使い分けるロン、黒人のロンから喋り方のクセを教わるフィリップの様子など、笑える場面はけっこう多い。本作はロン・ストールワースによる同名の原作にもとづくとはいえ、こうした演出はスパイク・リー自身による脚本の巧みさによるものだろう。1) ���いがけない話の結末だが・・・ 映画の見せ場は、ロンが捜査資料を得ようと白人を装い電話で入団書類を請求したところからはじまる。KKK支部長のウォルターがロンの話しぶりを気に入り面会を希望したことから、大急ぎで白人の捜査官フィリップが捜査に加わる。こうして、電話での応対はロン、面会や会合にはフィリップがロンを装って出向くという、二人一役の潜入捜査がはじまる。 入団資料を取り寄せることが現実の潜入捜査につながるとは考えにくいが、この奇想天外な作戦は何度かの危機を乗り越えながらも成功し、ロンは入団証を手に入れる。しかし、ロンに猜疑心を抱く過激な支部員フェリックスは入団式の当日、警察官フィリップに逮捕されたことがある友人の告発でロンの正体を知ることになる。このときフェリックスは、人種差別反対を訴える黒人集会を妨害しようと、運動の指導者パトリス(容姿からブラックパンサー党の女性リーダーだったアンジェラ・デイヴィスがモデルに思える)の殺害を企てていた。ロンの正体を知ったその日フェリックスは、妻のコニーにパトリスのアパートへ爆弾を運ばせ、頃合いを見て遠隔操作で起爆する算段だったのだ。 しかし、アパートの郵便受けに爆弾が収まらず、コニーは道路脇に放置された彼女のクルマの下に爆弾を置く。このシナリオの変更がフェリックスに災いをもたらすことになる。起爆のためリモコンを手にクルマに乗り込んだフェリックスは、身を隠すためパトリスのクルマの脇でスイッチを操作したことで、自爆の引き金を引いてしまうのである。 この顛末にわたしは意表を突かれた。潜入捜査の発覚により、警察と秘密結社の抗争劇に発展する展開を思っていたからだ。そして、フィリップは殺されるのではないか、集会のさなかパトリックは爆殺されはしないか、そして秘密結社の暴力性や過激な排他性が裁かれる結末を予感した。 しかし、ロンもフィリップもパトリスも、誰ひとりとして傷を負わず、猜疑心に固まった過激派のフィリックスだけが自分が仕掛けた爆弾の犠牲になる。率直にいって、映画のハイライトとしては作りがチープだ。この思いがけない展開に、人種差別組織の不当さを訴える映画としてはどこか攻め手を欠いた、いかにも丸く収めましたという粗末さを思った。 このあと映画は、爆弾事件で潜入捜査を終え、パトリスらを災難から救った警察官たちが事件の終結を祝う場面を描ていく。一方、黒人とユダヤ人に潜入捜査をされた挙げ句にフェリックスらの団員を失ったKKKは白装束を被り、十字架を燃やす儀式のなかで復讐の誓いを新たにする。その燃え盛る十字架に向かって、ロンとパトリスが銃口を向ける。いかにも映画の結末を思わせるカットが映し出される。エンドロールがはじまると思った。想像よりもつまらなかった映画に物足りな��を覚えはじめた・・・ 最後の5分に込められたメッセージ しかし、予想に反しエンドロールは現れなかった。代わりに出てきたのは、現実の騒動を伝える映像だった。突然、1979年から現在へと映像が切り替わったのである。 2017年8月12日、南部バージニア州シャーロッツビルで起きた奴隷解放公園での事件を伝える記録動画が映し出される。道路上で繰り広げられる、市民同士の激しい殴り合いを伝える映像だ。南軍旗を掲げる者、ナチスの鉤十字の旗をかざして行進する者もいる。2) 場面が切り替わり、今度はトランプ大統領の会見が映し出される。事件を受けてその日に行われた会見の様子だ。トランプ大統領は次のように述べている。
一方に悪い集団がいて、一方に暴力的な集団がいた 全員がネオネチではないし、白人至上主義者ではない なかには非常にいい人たちもいた
その直後、デビッド・デユーク元KKK大魔道士/理事の肩書とともに一人の人物が現れインタビューに答える。
今日ここで、私は確信した トランプ氏が選挙戦で言及していたことが、本当だとわかった これが第一歩だ これは、アメリカを取り戻す第一歩なんだ アメリカ・・・・
「アメリカ」のあとどう言ったか、わたしには聞き取れなかった。「ファースト!」と叫んだようにも思えるが先入観かもしれない。 このあと再び、溢れる人々のなかにクルマが突進し、幾人もが跳ね飛ばされる映像が流される。クルマが猛スピードで群衆に突っ込む。崩れ落ちて倒れ泣き叫ぶ声と人々が入り乱れる。上空からの映像は、まるで魚の群れを船が進むかのように、クルマが群衆をかき分ける様子を捉えている。これは現実に起きた実際の映像だ。 そして、現場で亡くなったヘザー・ヘイアー氏が映し出される。(その後、彼女が亡くなった道路は「ヘザー通り」と名付けられた)この惨状を当時の記事は、「白人極右集会に抗議する人たちの間に自動車が突入し、1人が死亡し19人が負傷した。」と伝えている。3) そして5分後、画面いっぱいに上下が反転した星条旗が現れる。その映像から次第に色が抜け、ついにモノクロの星条旗に置き換わる。黒人と白人は明確に分かれ、異常な状態に置かれている現状がシンプルな映像に凝縮されている。スパイク・リー監督らしい、メッセージ性の強い終わり方だと思った。 「アメリカ・ファースト」の正体 さて、ここからがこの映画の本題である。 実は、『ブラック・クランズマン』には二人のデビッド・デュークが登場する。最後の5分で元KKK大魔道士の肩書でインタビューに答える2017年の実際のデビッドと、1979年のコロラドスプリングスでKKKの最高幹部を務める物語中のデビッドの二人である。物語のデビッドはトファー・グレイスが演じているが、映画の構成上は年齢の異なる同一人物として描かれている。1979年のデビッドは、ロン��入団式のパーティーで乾杯の挨拶を行い、次のように述べる。
真の米国白人種 南部の偉大な遺産のバックボーン 感謝したい 決して祖国を二の次にしなかった アメリカ・ファースト アメリカ・ファースト
そしてパーティー会場は、アメリカ・ファーストの歓声に包まれる。このときのアメリカ・ファーストが、38年後の現代社会でトランプ大統領が口にする、「アメリカ・ファースト」につながると思わせる描き方である。わたしたちは2020年のいま、トランプ大統領の決り文句として「アメリカ・ファースト」を繰り返し耳にしている。多くの人々にとって「アメリカ・ファースト」はトランプ大統領の代名詞のようなものだろう。 しかし、これはトランプ氏が独創したフレーズではないようだ。実際、実在するデビッド・デューク氏はトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」を聞いた際、「あの言葉は俺が元祖だ」と述べたという。4) おそらくスパイク・リー監督は『ブラック・クランズマン』を通じて、「アメリカ・ファースト」の正体を暴こうとしたのではなかっただろうか。わたしたちが気楽に聞き流すアメリカ大統領の言葉には、いまなお白人至上主義の伝統が引き継がれているというメッセージなのだろう。聞き慣れて親しんだはずの言葉の正体が、見事に可視化されている。 南軍旗に引き継がれた黒人差別の象徴 『ブラック・クランズマン』には、もうひとつの重要な示唆が込められている。映像メディアが持つ光と影である。この映画では、二つの古い映像が重要な役回りを果たしている。 ひとつは、冒頭で流れる1939年制作の映画『風と共に去りぬ』の挿入である。「スワニー河」のメロディーが流��、疲弊した白人兵士の群れに「神様、助けて」「南部連合をお救いください!」の字幕が被さる。そしてパンしたカメラにゆっくりと南軍旗が写し込まれる。先の5分間の映像でも触れたように南軍旗は現在、KKKによって白人至上主義の象徴として利用されている。 この差し込み映像のあと、ケネブルー・ボーリガード博士なる人物による古めかしい演説が流れるが、1958年生まれの俳優アレック・ボールドウィンがそのままの年齢で演じているので、この場面は本作のなかでの演出だろう。白人至上主義の口上をする彼の背後には、はやり南軍旗が掲げられている。彼は、
白人の子供たちは、劣等人種との学習を強いられています 我々は棺に、黒い棺に押し込まれ米国は雑種国に堕ちんとしている マーティン・ルーサー・クーンの黒狸と、共産党員養成所のキング牧師 アカ軍団による公民権攻撃で、白人プロテスタントの価値観は危機に 大切な白人の子供をニグロと同じ学校に?
などと、激しい口調で黒人、共産党員、ユダヤ人への罵詈雑言を並び立てる。ちなみに、「クーン(Coon)」は黒人を侮辱する差別用語である。この聞くに堪えないおよそ3分間の演説がどこに向けて発せられたものかは示されていない。しかし、映像に「そう、アジテーターよ!」「あなたにも(ご加護を)。」といった女性の声が被さり、投影機の姿が映ることから、��の種の扇動映像が人々の間で流布し、演説に賛同する人々に影響を与えていたことを暗示するものだろう。 白人至上主義に影響をもたらした映画『國民の創生』 もうひとつは、フィリップらをメンバーに迎え入れるKKKの入団式のあと上映される、『The Birth of a Nation(國民の創生)』と題された映画である。この映画は1915年に映画監督とデヴィッド・ウォーク・グリフィスによって作られた。グリフィスについて書かれたWikipediaによれば、「KKKの誕生物語を南部白人の立場から描いた物語だったため、北部においては上映拒否されたり、黒人の差別描写で物議を醸したが、作品自体は大ヒットした。」とある。5) 『國民の創生』は無声映画だが、入団式の上映会では団員の婦人らも招かれ、黒人が白人に虐げられたり、黒人がヘマをしたり無様な様子が映されるたびに歓声が沸き起こる様子が描かれている。そしてKKKが登場するクライマックスで観衆は立ち上がり、団員たちは「吊るせ!」、婦人からは「絞首刑よ!」の叫び声が上がる。こうして「ホワイト・パワー!」の歓声のうちに上映会は終わる。 本作では、この入団式の描写と並行して行われているもうひとつの集会が描かれている。これが冒頭で述べたパトリス達の黒人集会である。ここでは黒人のジェロームが語り部(なんと、歌手のハリー・ベラフォンテが演じている!)を務める。集会の様子は『國民の創生』とシンクロするように互いに映像を切り替えながら同時進行で挿入され、両者を対比しながらメッセージ伝える仕掛けになっている。 ジェロームは、「あれが起きたのは、テキサス州ウェーコ、1916年5月15日だった」と、17歳の黒人少年ジェシー・ワシントンの事件を語りはじめる。そして、「ジェシーには知的障害があり、白人女性ルーシー・フライヤーをレイプした廉で逮捕起訴され、白人陪審員全員の評定による有罪の宣告を受けた」と話しを進める。 このときKKKの入団式では最高幹部のデビッドが、ショックレー博士(トランジスタの生みの親)の研究を引き合いに「我々の血管には優生人種の遺伝子が流れている、優生学は議論の余地がない事実だ」と延べ、その事実を祝福したいと全員に白装束を被るように促す場面が描かれる。 黒人集会ではジェロームの語りが続いている。「評決のあとすぐにジェシーは外に引きずり出され、人々に刺されたり蹴られたりして血まみれになったあと睾丸を切られた。警察は見るだけで、人々はジェシーの指を切り、体に石油をかけ火の中に投げ込んだ。何度も、何度も。カメラマンがその一部始終を写真に撮り、絵葉書として売られた」と。 そしてジェロームは、「この事件が起きた背景にはひとつの映画があった。1年前に公開された『國民の創生』が影響し、クー・クラックス・クランを再生させた」と言う。 ちょうどそのとき、KKKの入団式会場では式が終わり、『国民の創生』が上映されるシーンに切り替わる。会場から「吊るせ!」の叫び声が上がり「ホワイト・パワー!」の歓声が起��るのは前述したとおりだ。一方の黒人集会ではジェロームが「だから今日我々はここに集まった。ブラック・パワーの名の下に」と語り終えると、会場は「ブラック・パワー!」の歓声に包まれる。 この後、画面はKKKでデビッドが乾杯の挨拶をする場面に切り替わる。ここでデビッドが聴衆に語りかけるのが、前述の「アメリカ・ファースト」である。 映像メディアの光と影 一連のカットバック全体の流れから明らかなように、『ブラック・クランズマン』でスパイク・リー監督は、差別される側と差別する側の考え方や立場の違いを、実に明確な対比構造のなかで描いている。この両極を象徴したものが、映画の最後に映し出される、白と黒の反転した星条旗であることはいうまでもない。 なぜ、同じ人間のなかに、これほど深刻な分断が生まれたのか、その理由を語ることは容易ではない。しかし、本作が明らかにしたことがある。それは映像作品が持つ恐るべき影響力である。 この映画のクライマックスは爆弾事件には置かれていない。ほぼ隣り合わせの場所で、ホワイト・パワーとブラック・パワーが同時進行する一連の描写こそが、この映画の真骨頂だろう。そこに描かれているものは何か? それは、人が信条によって大きく姿を変えるものであり、映像はその信条に大きな影響を与えるという事実だ。 スパイク・リー監督は本作を通じて、映画『國民の創生』や会員向けの扇動映画のようなものが、白人至上主義団体KKKの結成や団結、あるいはその復活に利用される様子を描いた。映像作品が人々の気持ちを高ぶらせ、法を逸脱した裁きやリンチへの扇情を掻き立て、犯罪にまで発展させる手段として使われてきた描写は悲しくもリアルだ。しかし、だからといって、『國民の創生』という古い映画に蓋をして閲覧を禁止することはできない。リー監督は本作を通じて、「ヒドイ映像には蓋をして鑑賞を禁止しよう」と主張しているわけではない。本作では、むしろその反対のことが行われている。 かつて人々に白人至上主義をもたらした『國民の創生』が、本作では、批判の対象として逆説的なメッセージを伝える手段に位置づけられている。最後の5分で描かれる2017年のシャーロッツビルの事件映像も、その悲惨さと暴力性を訴えるメッセージとして、反白人至上主義の主張につながっている。本作を観ることで、いままで聞き流していた「アメリカ・ファースト」に違和感を覚え、トランプ氏の考え方から距離を置こうとする人もいるだろう。だがそれは、白人至上主義者にとってみれば、『ブラック・クランズマン』は偏向しているとの非難につながる。しかし、だからといって、本作を封印し公開の場から引きずり下ろすことができないのは、白人至上主義者が『國民の創生』を重視するのと同じだ。リー監督は本作を通じて暴力を否定し、映像表現を通じてフェアな戦いをしているように見える。 多くの芸術作品やアート作品がそうであるように、映像にも表と裏がある。賛否がある。そしてわたしたちは、それが「表だから」「裏だから」「嫌いだから」という理由だけで、そのいずれか一方を公の場から隠蔽したり抹殺することはできない。映画『國民の創生』がいまも影響力を持ちアメリカの大統領が公然と「アメリカ・ファースト」叫ぶ現実がある以上、それが映像によって高められた信条によるものであればこそ、わたしたちは『ブラック・クランズマン』を創作したスパイク・リー監督の手腕を評価し、フェアな映像表現の土俵の上で差別と分断を乗り越えていかなくてはならない。 シャーロッツビル事件��犠牲となったヘザー・ハイヤーさんの追悼画面に、「憎しみのうちには、何人の居場所もない」の言葉が添えられていた。わたしたちはいまなお、この言葉を心に刻んでおく必要がある。
1)スパイク・リー監督はこの映画で、脚色賞で初めてアカデミー賞を受賞している。 Wikipedia「ブラック・クランズマン」 2)事件当時の様子を伝える代表的に記事のひとつ。 BBC NEWS JAPAN「米南部の極右集会に抗議、1人死亡 州知事は白人至上主義者に「帰れ」」2017.8. https://www.bbc.com/japanese/40914856 3)GLOBE+「白人至上主義に娘を奪われた母親の叫び」2019.5. https://globe.asahi.com/article/12316601 4)壬生智裕「スパイク・リー監督が新作映画に込めた狙い」東洋経済, 2019.2. https://toyokeizai.net/articles/-/265213?page=3 5)Wikipedia「デヴィッド・ウォーク・グリフィス」
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目に優しいPC照明
もう9月とか嘘だよね? あと風の噂で聞いたけど、平成が終わるとか嘘だよね…
日が短くなってきましたね。
私は晴れた日に起こる���没後のブルーモーメントが好きで、それを少しでも楽しみたいから暗くなり始めてもすぐにメインの照明を付けず、間接照明で少しずつ部屋を明るくするようにしています。
でもそれだとPCで作業するには暗い(突然のワガママ)
かと言っていきなり一気に照明をつけるのは情緒がないし、つけたところでPCの作業に向いているライティングというわけではないので、両方を解決できるいい方法はないかな〜と模索していました… 色々考えた結果、PCの背面にLED照明を付けてPC自体を間接照明にすることに。
今回は、PCやTV画面の後ろに照明を付けたい!という方のご参考までに、私が作ったPC照明について記事にしますね。
この方法、情緒が出るのはもちろん、目にも優しくて一石二鳥なのでオススメしたいです^^
人間の目は、TVやPCなどの明るい画面を見る際、画面周辺の壁が暗いと… 無意識に視界に入る光のコントラストが強過ぎて無駄な調整を繰り返して疲れてしまうのだそう。
画面周辺の壁にも照明を当てると、画面との明るさの差が縮まり、目の仕事を減らしてあげられるよ〜ということですね! それなら自分の目をグズグズに甘やかしてやりたいじゃん…
ではでは、作ったものをご紹介します。
使うのは、こちらのLEDテープです。
価格は、2mで1800円しないくらい。 (気になる方の為に一応Amazonのリンク貼っておきますね、アフィリエイトは一切していないので安心して踏んで下さい→こちら)
毎日触るものだからこそ、私はずっと、PC裏に照明を付けることに興味があったのですが…
絶妙に配線がモタつきそうだったり 実は厚みがそこそこあったり カーブさせるにはコネクターやハンダが必要だったり
…と、スマートなようでいて案外複雑なライン型のLEDには、なかなか手が出せずにいました。
でもこれは、ラクですよ〜! ウェーブ状になっていて、このヘコみを利用して 90度に曲げられる!のが特徴のテープです。 繋げたまま直角に出来るってありそうでなかったから感動した… 曲がらないものだったら沢山出回っていると思います。 スイッチやリモコン付きだったり、別の色味や明るさだったりと、用途に合わせて色々な選択肢がありますので探してみてください^^
こんな感じにPCの15mmくらい内枠にペトペト貼っていきます。
カーブ部分は、曲がる😉というより、曲げる😠という感じ。 出来る出来ないじゃない…やるんだよ!ということだな分かる(力技)
それでも、曲げられるっていうのは本当にありがたい。 だから本当に貼るだけなんだよ〜こういうの待ってたよ〜 嬉しくて口調迷子になっちゃうよ〜 ただ、ウェーブの下の接着テープは露出しているのでちょっと埃が付きやすそうです。
内枠を一周したら… カットマークの位置で、チョキン! とにかく薄いテープなので、ごくごく普通のハサミで切れます^^ (使っているのはALLEXのSlim140フッ素コート←ハサミも超薄いオススメ)
そして電源は、コンセントではなくUSB! PCにそのまま挿せるから、配線の隠蔽がとてもしやすいです。
でも本当に普通のUSBなので、いちいち抜き差しして点灯させることに…
それだと面倒だし、所作も荒れやすいと思ったので、USB用のスイッチアダプターを買ってみました。
価格は、300円ちょっとです(Amazonリンクはこちら)
接続部が長くはなっちゃうけど、これを足すだけでカチッとワンタッチでスイッチング。 一般的な照明と変わらない感覚で使えるようになります^^
ママ〜〜〜〜ッッッ 出来たよ見て〜〜〜〜! ご覧の通り、裏面はもう、二度と表舞台には出せない姿に仕上がりました。 後ろ姿も美しいことで定評のあるMacを女優ミラー状態にしてしまった罪… Apple信者からブタ箱行き宣告されそう…
でも、ひっくり返すと、ほら〜〜〜っ!
ライン型のLEDは点で出来てるので、それが壁に映り込まないか心配だったけど、全然大丈夫でした。かなり壁に近づけても点にはならず、完璧に光を拡散してくれています。
USB端子があればテレビの裏側にも同じように応���できるはず^^ これがホントに目に優しくってなぁ…
デスク横にはソファがあって、デスクとソファ兼用で真ん中に可動式のスポットライトを置いているのですが、別角度から一点を照らすのと、作業したいPCの背面全体が光るのとでは、全然用途が違うな〜と改めて感じました。
写真はちょうど、ブルーモーメントになっている時間です。 この青暗さが好き、でもPCも触りたい。っていう日没後のハイパーワガママタイムがこれで解決しました^^ (日が出てるうちにPC作業せぇよとも思うけど朝は家事とか植物の世話をしたい) 何より、長時間のPC作業が格別にラクになりました。
個人的には、夜はこれと中庭のアッパーだけでもいいくらい。 ん〜ますます夜型人間になってしまう…
私はインテリア下手クソ芸人なので、癖の強いデザイン系照明を置くと周りの小物との相性に頭悩ませちゃうタイプ…だから、こういう普段は目に見えない照明の方が好き^^
目に優しいのはもちろん、画面後ろが光ると、立派な照明機器になると思います。
もちろん、メインの照明計画はプロにやって頂くのが一番なので(光の自然なカットラインとか、地明かりの計算とか、色味を合わせることなど、素人には配慮しきれない技術が沢山ある)一度は見積もりを取って頂くのが大切ですが…
家づくりの際こういう照明を取り入れたいけど、工務店さんの見積もりがけっこうキツい!って方は、2000円前後でとても簡単に出来るこんな方法もあるので、全然諦める必要はないと思いますよ〜!
これから家づくりをされる方が、気負わず素敵な照明計画が出来るよう応援しています^^
●我が家と同じように建築家と家を建てている方のブログ集はこちら。 これから家づくりをされる方は是非ご参考ください。
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