#ラットマン
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jinnseigame · 4 months ago
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3ばん~~~
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psrockstar · 9 months ago
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ラットマン〜こっちにおいで
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tekokun2 · 4 months ago
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Ratman(ラットマン)
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moth-ratman · 1 year ago
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憑躯
おばあちゃんの形見の人形の髪が伸び始めて…!?傀儡バトル読切51ページ!!
ジャンプ+掲載中
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melancholic-board-gamer · 3 years ago
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奥さんと 2 人で #スモールワールド 。 147 : 115 で勝ち。 略奪するトリトンで沿岸部を席巻 -> 英雄のラットマンで内陸部も蹂躪 -> 野営するウィザードで仕上げ がいいかんじにまわった。 #ボードゲーム https://instagr.am/p/CWzbxEABsyg/
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lovecrazysaladcollection · 5 years ago
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個性ってのはさ、 何かを一生懸命に真似しないと、 手に入れることなんて 絶対にできないんだよ。 はじめから 独自のものを目指そうったって、 そんなの上手くいくはずがない。 音楽だって、絵だって、 人生だってそうさ。 by ラットマン、道尾秀介 from http://twitter.com/MeikakuGen
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manga-online · 5 years ago
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[犬威赤彦] RATMAN -ラットマン- 全12巻
[犬威赤彦] RATMAN -ラットマン- 全12巻
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作品内容: 時はヒーロー全盛期!ヒーローに憧れる高校生・葛城修斗はヒーローになるため訓練をつんでいた。そんなある日、修斗は突如ナゾの覆面集団に襲われてしまう。この窮地から脱出するべく修斗は究極の選択を迫られるのだが…
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sakura-whirlwind-blog · 5 years ago
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【小説】JOKER 第二部ジョーカーvsラットマン
第一章 異邦人
 〈1〉
   慶田盛探偵事務所所長慶田盛敦は、たった一人の事務員兼秘書三島陽菜と仕出し弁当で昼食を取っていた。
 応接セットはそれなりのものを使ってい���が、職員の机は開業した時のまま、譲り受けたスチール机と華奢な椅子だけだ。
「所長、お昼が終わったら相談一件、二時半から地裁掛け持ちですよ~」
 呑気な口調で陽菜が言う。
 陽菜は敦より二十歳ほど年下の娘のような女性だ。
 元々長年に渡り陽菜の母親が事務と秘書をやっていたのだが、失業中の娘をどうにかしてほしいというので採用したのだ。
「相談は日本人ではないって話だったね」
「はい、日本語があまり上手では無かったですし」
「友人が殺人事件の容疑者にされたと」
 つたない日本語と慣れない事務では詳細は望めない。
 殺人事件の容疑者という事で早くも脳裏に三浦探偵事務所への連絡が浮かんでいる。
 日本では立件されたが最後99%が有罪となる。
 それを嫌がらせのように押し下げようとしているのが、慶田盛弁護士事務所と三浦探偵事務所だ。
「殺人事件って本当に多いですよね~。どうして年間百件に収まるのかな?」
「それを知った所で僕らの仕事が減る訳ではないよ」
 言って慶田盛は弁当を食べ終わって、簡素なシンクで軽く洗って事務所の前に弁当箱を出す。
 そこで薄暗い階段を上ってくる浅黒い肌の青年と目が合った。
「時間早かったですか?」
 青年の言葉に敦は頭を振る。
「いや。僕が事務所にいる時間ならウェルカムだよ」
 慶田盛はドアを開いて青年を招き入れる。
 陽菜も弁当箱を洗っている所だ。
 青年を応接セットのソファーに座らせると陽菜が湯飲みを差し出す。
「あの、これ、お茶ですけど、コーヒー��紅茶の方が良かったですか? 普段は何を飲んでるんですか?」
「気にしない、いいよ。お茶飲める。ケダモノセンセイ?」
 青年が顔を向けてくる。名前が一字違うだけで犯罪者のようになるのはなぜだろう。
「ケダモ、リ。ね。ケダモノだと犯罪者になってしまうからね」
 慶田盛は冗談めかして言う。
「日本語難しいね。やっぱり分かってきたよ」
 青年がポケットからスマートフォンを取り出す。
 Google翻訳にした方が手っ取り早いと判断したのだろうか。
「センセイこれ見る」
 音量を絞ったスマートフォンの暗い映像の中で、人間の姿が揺らめいている。
 だが、暗いと思ったのは無数の黒い物体のせいだった。
 首から上はシャンプーハットを逆さにして守っているが、全裸の身体に無数のネズミが食らいついているのだ。
 映像の中の女性が声の限りに叫ぶが、ネズミは本能のままに肉を貪る。
 慶田盛は食べたばかりの昼食が逆流するのを感じる。
 仕事柄死体の写真は見慣れているが、死んでいく姿を見る事は稀だ。
「これが被害者なのか?」
 慶田盛の言葉に青年が頭を振る。
「ニャンの妹。ニャンはヤクザを殺したと言われて警察に捕まった」
「どういう事かな……この映像は被害者ではないと?」
 こちらの言う事はちゃんと分かるらしい。青年が首を縦に振る。
「フホウタイザイシャだけど、フホウタイザイシャじゃない。二百万円払って日本に勉強に来たよ」
 それを聞いて慶田盛はヤクザの外国人ビジネスを考える。
 発展途上国で日本で日本語と職業の勉強ができると言って人を集める。
 集めた人間を女性なら性風俗、男性なら肉体労働で強制的に働かせるという訳だ。
 しかも、金を払っているのに違法な形で就労している為に警察に訴える事もできない。
「ヤクザが殺されて、この映像を見つけた警察が僕たちがフクシュウしたんだと決めつけた。でも、家族や仲間がどこでどんな風に働かされているか、僕たちには分からないね」
「このスナッフビデオが出て来たから、ヤクザを殺したのは外国人だという話になった訳か」
「たぶん、そう」
 青年の言葉に慶田盛はため息をつく。
 いつもながら警察の短絡的な発想には驚かされる。
 映像の被害者の兄だから、ではなく、外国人だから、という理由が正解なのだろう。
 強制送還で母国の警察に引き渡してしまえば万事解決だ。
「状況は分かった。詳しいアリバイ何かは当事者のニャンさんに聞かないと分からないだろうね」
「ニャンはもっと訳が分かっていないね。ビデオも見てないと思うね」
「それは分からないだろうね。でも、弁護する為には本人と契約しなきゃならないんだ。それと、君の名前を聞けるかな」
 映像で驚いてしまったが、最初に聞くべきなのは相手の素性だった。
 慶田盛は待ち受ける裁判を思い身体を奮い立たせた。
  〈2〉
  「さみー。何でヒーター壊れてんだよ」
 屋内でダウンジャケットを着た健が、真夏の蠅のように両手をこすり合わせる。
「いきなり大金使ったら税務署に嗅ぎつけられるからでしょ」
 こちらもダウンベストを着た加奈が身体を丸めて言う。
 三浦探偵事務所は目下冬将軍と熾烈な戦いを繰り広げている。
 コートに身を包んだ清史郎は残念な思いで石油ファンヒーターを眺める。
 五年ほどしか使っておらず、特に壊れるような事もしていないのだが、十二月に入りいよいよという所でスイッチを入れた所全く反応しなかったのだ。
 ファンヒーターくらい買っても税務署は動かないだろうが、先の事を考えるとジョーカーとして稼いだ金はなるべく温存しておきたい。
「そもそもさ、何で調査費用が十万円とかなんだよ。一週間以上かかってんだからもっと取らねぇと割に合わねぇだろ」
「私一人の時はそれでもやれてたんだ」
 清史郎はため息をつく。健と加奈はよくやってくれているが、急に価格を上げたりしたら慶田盛探偵事務所が潰れてしまう。
「私、あんまり役に立ってないのかな」
「そりゃ、俺たち寒がってるだけだもんな」
「営業に行けとは言わないよ。仕事が増えてもこなせないんじゃ意味がない」
 清史郎は苦笑する。
 実際、健と加奈は充分に捜査の役に立っているし、依頼もこれまでにないほど順調にこなせている。
 ――問題は価格設定か――
 清史郎は今更ながらにどんぶり勘定の事務所の事を考える。
 商店街の好意が無かったら今頃廃業していてもおかしくないのだ。
 と、事務所の電話が着信を告げる。
 すかさず加奈が電話に応答する。
「はい、三浦探偵事務所でございます。はい……ああ、慶田盛さん?」
 声のトーンが余所行きのものから身内のものにトーンダウンする。
「……今から、いいですけど……二時半から地裁だから? ミンさんを置いていく?」
 加奈の通話を傍から聞いているだけではさっぱり意味が分からない。
「分かりました」
 言って受話器を置いた加奈が顔を向けてくる。
「ヤクザが不法滞在者を使ってスナッフビデオを作ってて、ヤクザが殺されたから犯人は不法滞在者だって事になって、ミンさんの友達のニャンさんが警察に捕まったんだって」
 要点をまとめた話だが、まとめられ過ぎていて話を理解しづらい。
「詳しい事は慶田盛さんとミンさんから。で、慶田盛さんは二時半から地裁で裁判があるから、長居はできない」
「相変わらずあのオッサン、無茶振り半端ねぇな」
「それだけ多くの人に信頼されてるんだよ」
 清史郎は健に答えて言う。
 加奈がガスコンロで茶を入れる為に湯を沸かし始める。
「なぁ、ジョーク、スナッフビデオって何だ?」
 手持ち無沙汰な様子の健が訊いてくる。
「殺人の様子を写したビデオや死体を損壊するビデオだな」
「それって写したヤツは殺人犯か死体損壊じゃねぇのか?」
「殺人ほう助にも相当するな」 
 清史郎が言うと健がPCのキーボードを叩く。
「どの道ヤクザが人殺しをしたって事には変わりないんでしょ?」
「今の段階では何とも言えないな」
 清史郎は腕組みをして言う。
 ジョーカー事件で矢沢が失脚した為、矢沢組は現在若頭の緒方が臨時的に取り仕切っている。 
 新庄市でトップにならないという事は、緒方にはそれなりに慶田盛や清史郎のリスクが見えているという事になるだろう。
 だとすれば、理性的な緒方がスナッフビデオなどというリスキーでリターンの小さいビジネスに手を染めるとは考えにくい。
「問題は殺されたヤクザが本当に不法滞在の外国人によるものなのかって事だ」
 清史郎はかじかむ手を揉みながら言う。
 加奈がガスコンロをつかっているせいか室温が幾らか上がった気がする。
「警察はそう考えてるんだろ」
「もっと穿った見方をすれば、日本語も満足に話せない外国人を犯人に仕立て上げて、強制送還で証言できないようにすれば検挙率を上げられるという話にもなるな」
 健に答えて清史郎は言う。
 目下最も高い可能性がそれなのだ。
 ヤクザの死体発見がいつで、被告がいつ逮捕されたのか不明だが、殺人事件がそんなに簡単に解決する訳が無い。
 ドアが開き、慶田盛と浅黒い肌の東洋人が姿を現す。
「清史郎、すまん。次の裁判まで時間が無い」
 慶田盛が息を切らして言う。
「分かった。そこの……ミンさんから話を聞けばいいんだろう?」
「また後で話を聞かせてくれ」
 慶田盛が慌ただしく事務所を出ていく。
「どうぞおかけ下さい」
 加奈がミンを事務椅子に誘導する。
 座面の破れていない唯一の椅子だ。
「私たちは依頼者の秘密は守る。盗聴の心配は無用だ」
「まぁ、絶対の防諜ってのは無ぇんだけどな」
 健が余計な事を言う。
 ミンがスマートフォンを取り出して経緯を語る。
「ジョーク、すまねぇ、俺、トイレ行ってくる」
 スナッフビデオを見た健がトイレに行こうとする。
「ちょっとあんた我慢……」
 加奈が胃袋の辺りを押さえて言葉を詰まらせる。
「二人とも、トイレは一つだからな」
 清史郎が言うと二人が先を争うかのようにしてトイレに向かう。
「殺されたヤクザの事は?」
「私たち知らない。分からないよ」
 ミンが皆目見当がつかないといった様子で言う。
「つまり現状では訴えの被害者すら分からないという事か……」
 拘留中のニャンに会いに行かない事には、殺されたヤクザの名前も分からないという事だ。
 慶田盛が弁護士として拘留中のニャンに会いに行く事は正当な権利として認められるが、清史郎は会いに行った所で��会すらさせてもらえないだろう。
「うえぇ~、今日絶対うなされるわ、これ」
 げんなりした様子で健が戻ってくる。
「殺されたヤクザはヤザワグミとかいうヤクザ」
 やはり、と、言うべきか。新庄市最大、関東広域指定暴力団ともつながりの強いヤクザだ。
 健がヘッドフォンをつけてPCの操作を始める。
「矢沢組構成員畑中猛二十八才。住所は市内。仕事は外国人労働者のブローカー。矢沢組の方から捜査依頼をかけたらしい」
 健が早速情報を拾って来る。何度か新庄市警に侵入し、健に言われた通りに機材を設置して来たのだ。
 お陰で警察のデータベースは好きなように見る事ができる。
「現場の写真って……これもスナッフ何とかじゃねぇか!」
 PCの画面からのけ反るようにして健が言う。
 風呂の椅子程度の椅子に立たされ、首に輪をつけられた男が吊るされており、回転ノコギリが片足に押し当てられる。
 それもすぐに切り落とすのではなく、職人が金箔を張るようにゆっくりと嬲るようにだ。
 被害者のヤクザは何とか首つりを逃れようとする。
 映像を早送りすると片足が切り落とされた時点で、まだヤクザは持ちこたえている。
 覆面をした男がヤクザの頭から蜜のような粘液室のものをかける。
 覆面をした男が消えると画面に丸々と太った無数のネズミが現れる。
 ネズミたちが先を争うようにヤクザの身体に食らいつく。
「何、今度は拡大して見てんの?」
「違うって。こっちは殺されたヤクザの方だ」
 戻って来た加奈に答えて健が言う。
「殺人の手口を見ると同一犯のようだな」
 清史郎は考える。
「健、ミンさんの映像とこの殺人現場の映像の場所を比較できるか?」
 清史郎の言葉を受けて健がキーボードを叩く。
 ミンのデータが引き延ばされ、画面に表示される。
 二台のディスプレイにそれぞれの殺人現場が表示される。
 部屋はどちらもコンクリート打ちっぱなしの地下室のような光源の無い部屋だ。
 もっとも、被害者は絶叫しているだろうから防音も兼ねているのだろう。
「似てるけど……違う」
 画面を観察しながら加奈が言う。
 一見すると同じような部屋に見えるが、加奈は早くも何か発見したのだろうか。
「被害者の目。光の映り込みがニャンさんの妹さんは左右からなのに、ヤクザは正面全体になってる」
 加奈に言われて観察すると確かに被害者の瞳に反射している光の光源が違う。
「床もホラ……最初の部屋はフローリングっぽいのに、二回目の部屋は床がリノリウムみたいにフラットになってる」
 加奈がグロテスクな映像を確認しながら言う。
「つまり殺害現場は別という事か」 
 清史郎は腕組みをして考える。
「死体遺棄現場の映像出すぜ」
 健が言うとヤクザの方の画面に静止画像で全身を食い荒らされ、正体不明になった男の映像が映る。
 場所は矢沢組の門の前、車から放り出��れたらしく血が飛び散っている。
 少なくとも遺棄された時点では瀕死とはいえ息はあったという事か。
 死体の傍らにはスナッフビデオのDVDのディスクの入ったケース。
 これは死体を放置した後に放られたものらしい。
「こりゃ矢沢組キレるって」
 健がため息をついて言う。
「指紋や遺留物は?」
「ケーサツそこまで調べてねーよ」
 健がミンが持ってきたのと同じ映像を画面に表示させる。
 画面が分割され、加えて七件のスナッフビデオが映し出される。
「つまり、八人の外国人が殺されたから、同じような方法でヤクザを殺したって考えた訳?」
「そーゆー事らしいぜ? これまでの八人は死体も出てねぇんだし、模倣犯の線が濃厚だ……と」
 加奈に答えて健が画面に事件のファイルを表示させる。
 被害者は十二月三日、矢沢組の門の前で見つかった。
 矢沢組は警備会社と契約しており、門には監視カメラがあったがタイムラプスビデオで軽トラックが近づく所と去る所しか映されていない。
 タイムラプスビデオとは長時間録画をする為に数秒間に一コマの映像となっている。
 従ってタイミングを知っていれば数秒間は完全に画面から消える事ができるのだ。
 画面に移された軽トラックは流通量の最も多いハイエース。
 ナンバープレートには段ボールで覆いがしてあり陸運局に問い合わせる事はできない。
 運転席に映っている運転手と助手席の人物は目出し帽子を被っており性別の確認もできない。
 DVDを見た刑事課は市内の工場で不法滞在で働いているニャンを逮捕。
 強制送還の方向で事件は解決に向かっている……。
「不法滞在者による狂気の大量殺人……これが警察のプレス発表だっての?」
 加奈が声を上げる。
「ええと……現在国内には多くの外国人がおり、犯罪が頻発しています。今回の事件はこうした外国人の起こした猟奇的なものであり、日本国民が傷つけられるという最悪の事態を引き起こしました。警察は今後外国人の取り締まりをより厳重なものとし、厳罰化していく所存です」
 健が警察発表の草案を読み上げる。
「何かおかしくない? 仮に八件と別の犯人だとしても、殺されているのは外国から来ている人なんでしょ?」
「論点をすり替えているんだ。事件が起こった事が問題ではなく、外国人がいる事が問題なんだとな」
 加奈に答えて清史郎は言う。
「誰がどこで働こうと勝手じゃない。それに外国人の人たちは保険や年金も使えないんでしょ?」
「日本人の税金を外国人に使うな、って意見の方が多いみたいだぜ?」
 プレス発表より先に漏洩したネットニュースに反応した人々の書き込みを健が表示する。
「外国人が日本に来て死ぬのは当然の結果か……モラル低下もここまできたか」
 清史郎は苦い気分で言う。安い労働力として何の保障もなくこき使っておきながら犯罪者扱いする。
 外国人がアジアから来ている場合には特に顕著だ。
「この事件���このままじゃダメだよ。ね、ジョーカー」
 加奈の言葉に清史郎は頷く。
「まずは警察側の発表を覆さないとな」
 清史郎は合計九件のスナッフビデオを画面に表示させる。
 犯行個所は三か所と見られ、外国人が殺されている映像と畑中の殺されている場所が同じものが二つ存在している。
「ホラ見ろビンゴだ」
 健が声を上げる。これで九件の事件は同一犯の可能性が高くなった訳だ。
「そもそもこれだけ大量のネズミを飼育しておける環境が必要なんだ。模倣しようとしてもネズミを急に揃えるなんて事ができる訳が無い」
 清史郎の言葉に加奈が画面の一転を指さす。
「白いネズミ! どの映像にも必ず白いネズミが映ってる」
 よくよく見れば薄汚れているがグレーに近い灰色のネズミがどの映像にも混じっている。
「よっしゃ! これで犯人は同一犯ってこったな」
 健が声を上げてPCのキーボードを叩く。
 事件現場の映像とネズミの映像をまとめてファイリングする。
「でも真犯人に近づいたって訳じゃない」
 加奈が苦い表情で言う。
 確かに警察のロジックは崩せるが、肝心の犯人については不明のままなのだ。
「警察の野郎、市内の外国人を抜き打ち調査するつもりみたいだぜ」
 データを引き抜いた健が眉を顰める。
 大規模な取り締まりをすれば市民の目が逸れると考えているのだろう。
「この事件を起こしたのが何人かなどという判断は現段階ではできない。まずは事件の真相を探る」
 清史郎の言葉に健と加奈が頷く。
「よろしくオネガイシマス」
 ミンが小さく頭を下げた。
  〈3〉
 
  清史郎は新庄市警本部の窓口を訪れている。
「三浦探偵事務所の三浦清史郎です。捜査一課の風間警部補にお話しがあります」
 周囲が警察官だらけという落ち着かない環境下で、清史郎は周囲を観察する。
 事件の事を知っている者も多いのだろう、清史郎が来ただけでおおよその要件は掴めているようだ。
「まずはアポイントメントをとって下さい。取材であれば後日広報が応対致します」
 窓口の女性警察官が言う。
「これから警察が嘘たれ流そうとしてんだよ! 証拠持って来てやったんだぞ!」
 健が声を上げると周囲���警察官の目が集中する。
「情報提供です。警察が入手されているスナッフビデオに関して重大な証拠がありました。お会いできないと言うのであればインターネットで公開します」
 清史郎の言葉に受付の警察官が動揺を浮かべる。
「インターネットは情報として証拠能力を持ちません。情報をどのように流されようと結果は変わりません」
 上席らしい警官が窓口に現れて言う。
「そうでしょうか? ではスナッフビデオも画像加工された証拠能力の無いものとみられるはずです。それを根拠に犯人を捜される事の正当性を伺いたい」
「捜査情報はこちらからは漏らせん。貴様どこから情報を得た?」
「矢沢組です」
 清史郎の言葉に警官が気圧されたような表情を浮かべる。
「少々お待ち下さい」
 矢沢組の名前を出した途端、警官の態度が変わり内線で電話をかける。
 ややあって捜査一課の風間真一が姿を現す。
 髪をオールバックにした固太りの男で二人の警官を従えている。
「どうぞこちらへ」
 睨みつけるようにしながら顎をしゃくる。
 清史郎は二人を連れて警察署の廊下を歩く。
 盗聴器は手にしていないが、仕掛けてある盗聴器は作動している。
 三人は風間に続いて取調室に入った。
「ワレ、矢沢組の名前だしてどういうつもりじゃゴルァ!」
 風間がスチールのデスクに拳を叩きつけて声を上げる。
「被害者の一人は組員でしょう?」
「ア、   コラ、適当抜かすと任意同行でしょっ引くぞ」
 風間が息がかかる程の距離に顔を近づけてくる。
「一つ忠告する。矢沢組の組員が被害者になっている事件で、適当な真似をすれば報復を受ける事になる。立件した後に模倣犯が出て矢沢組の組員に死者が出た時どう落とし前をつけるつもりなのか伺いたい」
 清史郎の言葉に風間の顔色がどす黒いものとなる。
「随分上から目線じゃのぉ、警察ナメとんのかドルァ!」
「目線の問題ではなく、事実を申し上げたまでです。今後同様の事件が起きた時、矢沢組に対してどう釈明するつもりですか?」
 清史郎の淡々とした口調に風間が奥歯をぎりりと鳴らす。
「なんぞ証拠があるんかい。出せるもんなら出してみぃや!」
 清史郎は健の肩を叩く。
 健が落ち着かない様子でDVDディスクを取り出す。
 DVDを手にした風間が顎をしゃくると警官がノートPCを抱えて慌てて戻ってくる。
 DVDの映像を見ていた風間の額に汗が滲む。
「映像情報から判断する限り、全九件は同一犯の可能性が濃厚です。外国人が報復したというシナリオは使えません」
 清史郎の言葉に風間が鼻白む。
「だからなんじゃ、映像が証拠になるとでも思うとるんか」
「そっくりそのままお返しします。映像証拠で外国人を摘発するんですか?」
 清史郎の言葉に風間がスチールデスクを殴りつける。
「ド畜生の三流探偵が!」
「矢沢組の体面、もう少し慎重に捜査された方がよろしいかと」
 清史郎の言葉に風間が舌打ちする。
「去ねや! 顔も見たくないわ!」
 言うだけ言って室内から風間が出ていく。
 これで風間はプレス発表を控えるだろう。
 警察が体勢を立て直す前に真犯人を捕らえて起訴するのだ。 
 
 
〈4〉
  「もーやだ。警察行きたくねー」
 警察署を出た健ががっくりと肩を落として言う。
「任意同行って、何の容疑だっつーの」
 加奈が肩を怒らせる。
「これから何度でも相手をする事になるんだ。慣れておけ」
 清史郎の言葉に二人がため息と共に首を縦に振る。
「で、これからどーすんだ? 警察のプレス発表遅らせただけだぜ」
「矢沢組だ。これからようやく捜査ができるんだ」
 清史郎が言うと健がさも嫌そうな表情を浮かべる。
「警察の次はヤクザなんてどんな厄日だよ」
「そういう職業なんだよ」
 清史郎は改造したフォルクスワーゲンビートルに乗り込む。
 健が後部座席に、横に加奈が乗る。
 清史郎はエンジンをかけながら矢沢組の短縮ダイヤルを押す。
『はい、矢沢組です』
「三浦探偵事務所の三浦清史郎と申します。若頭の緒方さんに取り次いで頂けますか?」
『少々お待ち下さい』
 清史郎が車を走らせていると、ややあってよく通る低い声が響いた。 
『緒方です。三浦探偵事務所様がどういったご用件ですか?』
「昨日未明に玄関で殺されていた畑中氏の事件を調査しております。是非一度現場を見せて頂きたく思いご連絡させて頂きました」
 清史郎が言うと一瞬間を開けて。
『その事件については警察は既に解決したと言っています』
「それを覆す証拠が出たのです。警察はこのまま冤罪を推し進めるでしょうが、それが矢沢組にとって有益だとはとても思えません」
『覆す情報?』
「全九件の画像を確認した結果、犯行は同一犯によるものである可能性が濃厚になりました。畑中氏が殺されたのは外国人による報復という事は文脈から読み取れません」
『そういう事であれば……』
「これからお伺いさせて頂いて構いませんか?」
『現場は若い衆に命じて掃除してしまいましたが……』
「可能な限り可能なものを収集させていただきたいと思います」
『分かりました。調査の邪魔にならないよう手筈を整えます』
 言った緒方が電話を切る。
「何かヤクザのが警察よか紳士的じゃね?」
 後ろで聞いていた健が言う。
「実るほどに頭を垂れる何とやらでな、力を持ってるヤツの方が謙虚なんだよ。まぁ、怒らせれば話は別だがな」
 清史郎が言う脇で加奈が頷く。
「私たちは貧乏でも謙虚じゃない?」
「お前たちは充分人間ができてるよ」
 清史郎は苦笑して言う。
 今回の事件はまだ何の手がかりも無いに等しいが、この二人が居れば難解な事件も解決できる筈だった。
  「ご苦労様です。緒方です」
 鋭角的な顔立ちの、ビジネスマンといった風体の細身の男と清史郎は握手を交わす。
「三浦探偵事務所の三浦清史郎です」
 清史郎が言うと緒方は軽く息を吐いた。
「堅苦しい話は無しで行きましょう。同一犯の証拠というのは?」
 清史郎は健の肩を叩く。
 健がラップトップを叩いて画像を表示させる。
「犯行現場、殺害方法、殺害に用いたネズミが一致するんです」
 清史郎はかいつまんで言う。
「なるほど、確かに。しかし、彼らが同胞を殺したという見方もできるのでは?」
「そうなると犯人がどのようにターゲットを絞っているのかが不明になります。畑中さんは明らかに日本人ですから」
 清史郎の言葉に緒方が顎を摘まむ。
「畑中は外国人労働者を買うブローカーをしていました。シノギとしては小さなものです。外国人労働者から恨みを買う事は充分に想像できます」
「確かにその通りです。だとするなら同胞を殺した事は……」
「理屈に合わない。確かに。ではこの事件は外部何者かによる意図的なものであると?」
「意図は分かりませんがね。玄関の監視カメラの映像を見せて頂いて構いませんか?」
 清史郎が言うと緒方以外の組員が身体を固くする。
「ご自由にご覧下さい」
 清史郎は緒方についてモニタールームに向かう。
 矢沢組の周囲と内部を写したカメラ映像が二十四枚並んでいる。
 清史郎は潜入した事があったが、これだけの監視カメラを潜り抜けるのは至難の業だった。
「犯行の映像が映っているのは玄関のカメラだけでした」
 緒方が言うと組員が畑中が捨てられていく一瞬を映し出した。
「残念ながら映像は捨てる前��後しかありません」
「タイムラプスビデオでは仕方がありません。ですがここに見逃せない点があります」
「ここに?」
「まず、タイムラプスビデオの六秒の間に瀕死の畑中さんを捨てなければならなかった。これは玄関のビデオのタイムラグを知らないと不可能です」
「内部犯という訳か?」
 緒方の口調が苦いものとなる。
「更に六秒という事を考えると、一度車を停めてから降ろす時間的余裕は無かったはずです。だとすれば荷台に最低二人は乗っていないと実行は困難。即ち運転手と助手席に人間を合わせ最低四名は犯行に必要だったという事です。従って単独犯という事はあり得ません」
 清史郎が言うと健と加奈も驚いたような表情を浮かべる。
「タイムラプスビデオに映っているという事は時速二十キロ以下に減速していたことは間違いないでしょう。大人二人で荷台から放り投げたと考えるのが現実的です」
「つまりはこの映像を入手できる者で、なおかつ四人以上のグループという訳だな?」
 険しい顔で緒方が言う。
「そういう事になります」
 清史郎は二十四枚のディスプレイを眺める。
 普通の人間は他人の家の防犯カメラの映像など入手できない。
 しかし、警備関連の企業に勤めていたり、矢沢組を出入りする人間の数を考えると途端に関連する人間の数は多くなる。
「組員では無いと信じたい。あのような拷問を無差別に行う組織だと思われれば商売が成り立たなくなる」
 緒方が眉間に皺を寄せる。口調こそ穏やかだが、犯人が目の前にいれば問答無用で殺すかも知れない。
「畑中さんの当日の動向は分かりませんか?」
「畑中はフューチャー人材ネットという会社の社員をしていました。会社の方に記録が残っているはずです」
「その会社は……」
 清史郎が訊こうとすると緒方が口元に薄い笑みを浮かべた。
「現代の奴隷商人ですよ」
 本当に恐ろしいのは風間のようにがなり立てるのではない、こういった事を涼しい顔で言える人間なのだ。
  〈5〉
  「ヤクザって結構マトモっぽくね? もっと警察みたいに怒鳴られるのかと思ったぜ」 
 フューチャー人材ネットに向かう途中、キーボードを叩きながら健が言う。
「私は何か怖かったな。人があんな惨い殺され方をしてるのに」
 加奈が恐ろしいものでも見たかのような口調で言う。
「ヤクザはナメない方がいい。殺す時は問答無用だし、殺されても死体なんぞ出てこないからな」
「マジっすか?」
 健が声を上げる。
「お前、工事現場で働いてたのに何も聞いてないのか?」
「現場とヤクザっすか? 仕事を回してもらうとかあるみたいっすけど」
「コンクリートミキサーに死体を放り込んでみろ、DNAも出てこないぞ。大型の開発やビルなんかじゃ何人砂粒になってるか分からない」
 清史郎が言うと加奈が首を竦める。
「怖っ!」
 健が声を上げる。現場勤めが長かったから光景が想像できたのだろう。
「で、これから行くフューチャー人材ネットってのはどんな会社なんだ?」
「黒い人材派遣会社っすね。有給が使えないとか、病��したくても電話がつながらないとか」
 検索していた健が言う。
「良かったぁ~。私登録��ようとしてたんだ」
「やめとけやめとけ。解雇通告無しに解雇して保証金も払わない会社だ」
 加奈に答えて健が言う。
「まぁ、ヤクザが経営している人材派遣会社だからな」
 清史郎は苦笑する。元から人材派遣などという業態は真っ当ではない。
 労働量が同じでも正社員のように保障がある訳ではなく、退職金も出ないのだ。
 気概があるなら独立した方がまだまともな人生を歩めるだろう。
「世の中にまともな部分がどれだけあるかって考えちゃう」
「考えるだけ無駄だって。この会社が不法滞在の外国人のブローカーの表の顔なんだろ」
 健が加奈に答える。
「腐る大捜査線かぁ~」
 加奈の言葉に清史郎は小さく噴き出す。
 昔似たような名前の刑事ドラマがあったからだ。
 近くのコインパーキングにビートルを停め、フューチャー人材ネットの入った雑居ビルに足を踏み入れる。
 フューチャー人材ネットは広さは三浦探偵事務所とさほど変わらないものの、水色の絨毯が敷いてあり、パーテーションで区切られた現代的な雰囲気の事務所だった。
「三浦探偵事務所の三浦清史郎です」
 清史郎が受付で言うと奥から同年代のハゲタカを思わせる痩せた男が出て来た。
「フューチャー人材ネット代表鴻上純也です」
 名刺を交換し、パーテーションで区切られた面談室に案内される。
「緒方さんから話は聞いています。可能な限り協力しろと言われています」
 清史郎は内心で頷く。緒方は既に手を回してくれているらしい。
「まず、畑中猛さんの一昨日の勤務状況を伺えますか?」
「九時五時ですね。実際には六時半まで残業、以降は一人で帰っています」
「寄り道、例えば行きつけのバーなどはありませんか?」
「最近の若い子はあまり飲まないようですね。オフの事は残念ながら分かりません」
「勤怠について最近異常はありませんでしたか?」
「ありません。何故いきなり死んだのか分かりません」
 鴻上は本気で当惑しているようだ。
「念のため畑中さんの住所と電話番号を伺えますか?」
 鴻上が持参していたラップトップを操作する。
「住所は新庄市高台十二―五メゾンハイツマンション五〇五。電話番号は070―××××―××××です」
「御社は海外の人の派遣も行っていたそうですが、トラブルはございませんでしたか?」
 清史郎が言うと鴻上は意外にも同様した素振りも見せなかった。
「海外の人材とのトラブルは特にありませんでした。彼らは日本では地盤がありませんし、地元ではヤクザの力が強い。ご存知無いかも知れませんが世界最大のマフィアは日本の組なんですよ。経済力で言うと最大の組だけで日本の企業上位六位の八兆円の規模になります。弱小国家など相手になりません」
 鴻上にとって組に所属する事は汚名では無いようだ。
「つまり逆らう事など思いもよらないと」
「そういう事になりますね。もっとも現地では現地人を使っていますが」
 鴻上が言った所で四人に茶が運ばれてくる。
 剣呑な話をしているはずだが、事務員に動じた風は無い。
「同業他社とのトラブルは考えられ��せんか?」
「日本のヤクザは互いに杯を交わして兄弟となっています。互いのビジネスに悪影響を及ぼす事は代紋に泥を塗る事になります。それは断じてありません」
 最もありそうな可能性が早々に否定された。
 もっとも、あったとしても表ざたにはできないという所もあるのだろう。
「単刀直入にお聞きしますが、殺された事に心当たりはありませんか?」
「ありません。あったとすれば、殺された外人が高跳びしたと考えて探し出そうとしていた事くらいです」
「では外国人労働者の死亡も知らなかったと」
「寮の連中も突然消えたと言っていたくらいです。とはいえ隠している可能性もありましたので地元とも連絡を取って探してはいました」
 フューチャー人材ネットは消えた外国人労働者を捜索していた。
 実際に捜索していたかどうかはミンなりニャンなりに訊けば分かるだろう。
「では捜索中に殺されたという可能性もある訳ですね?」
「何をしている最中だったかは分かりかねます」
 鴻上が答える。これ以上質問しても有意義な答えは返ってこないだろう。
「外国人労働者の寮のある場所を伺えますか?」
「パレステラスガーデンの二階が寮になっています」
 清史郎はパレステラスガーデンの住所を控えると健と加奈を連れてフューチャー人材ネットを後にした。
  〈6〉
   清史郎は家主に事情を言って鍵を開けてもらい、畑中のマンションを訪れていた。
 ワンルームの壁の薄い建物で、床にはカップ麺とスナック菓子の袋が散乱している。
「健、あんたの部屋とどっちが汚い?」
「せめてどっちが綺麗って聞き方しろよ。俺の部屋の方がきれいだって!」
 健が加奈に応じて言う。
「健、PCで分かる事を探ってくれ。加奈は俺と一緒に部屋の中を探ってくれ」
 清史郎が言うと健が畑中のPCに取り付き、加奈が口元をハンカチで押さえながら部屋の奥へと入っていく。
 健が持参したPCを畑中のPCに接続して操作し始める。
 画面上でパスワードの黒い●が点滅している。
「健、何をしているんだ?」
「パスワードを割ってるんっす。文字の数字の組み合わせは天文学的な数になるから手作業なんてしてられねぇっつーか」
「〇〇三一五は?」
 デスク回りを見て清史郎は言ってみる。
「あー! 何で分かったんっスか! ジョークすげぇ!」
「すごいも何もデスク周りの写真がかたっぱしから自撮りだろ? それだけ自分が好きならオレサイコーって入れてもおかしくないだろう」
「超馬鹿っぽい! でもパスワード解析する手間が省けたぜ」
 健が猛然とキーボードを叩き始める。
 加奈は部屋のクローゼットの前に屈みこんでいる。
「加奈、何かあったのか?」
「いや、意外に勉強家だったんだなぁ~って」
 加奈が調べていたのは語学のテキストの山だった。
 海外の人材を集めていたのだから英語は必須スキルだったのだろう。
「ヤクザでも仕事は一生懸命にやってたって事か」
 一所懸命に悪事をするというのは依然知り合った殺し屋円山健司を思い出す。
「そっちは英語の参考書っすか?」
「ああ。そっちはどうだ?」
「英語のオンラインレッ��ンとゲームとエロサイトばっかりっすね」
 畑中は英語だけは真面目にやっていたらしい。
 清史郎は玄関に戻ってドアの周りを丹念に調べる。
 ピッキングされた形跡は無く、靴の乱れも無い事から突然押し入られたという事でも無いらしい。
 部屋から連れ去られたので無ければ、移動中に拉致されたという事だろうか。
 ――やはり顔見知りの犯行が濃厚か――
 しかし、それならば緒方が何か知っていても良さそうなものだ。
 ――今は地道に情報を集めるだけだ――
 外国人労働者の寮は一階に大日警備保障という警備会社の入ったマンションにあった。
 立地から考えて大日警備保障も矢沢組系列だろう。
 清史郎たちが訪ねるとミンが仕事から帰った所だった。
 ワンルームの部屋に二つ二段ベッドが並べられ四人が生活しているようだ。
「ミウラさんこんにちは」
「ミンさんこんにちは」
 清史郎が挨拶するとミンが同僚に向かって早口の外国語で説明する。
 狭苦しい中に招き入れられ、ジャスミンティーを勧められる。
「これまで殺された人はみんなこの寮の人かい?」
 清史郎は心苦しく思いながらも八人の映像を見せて訊ねる。
「ちがう人もいるよ。知らない人もいるよ」
 残酷な映像に顔を顰めながらもミンが言う。
「同じ寮の人は?」
「リンとホワン」
 ミンが二人を指さす。この寮の人間は合計三人殺されたという事だ。
 この寮で働く人間にとっては気が気ではないだろう。
「殺された人たちに共通点は?」
 映像を確認する限りある程度若いという以外は年齢も性別もバラバラだ。
「分からない」
 残念そうにミンが言う。
 言葉が足りないせいでこちらも質問する言葉が出てこない。
「ニャンさんの妹さんの家族か同僚の人は?」
「女の子の寮は別にあるよ。ニャンは警察に捕まったよ」
 ミンの言葉に清史郎はため息をつく。
「女の子の寮は?」
「会社が違うから分からないよ。フウゾクの会社だよ」
 連絡が充分につくという環境でも無いらしい。
「最近誰かに見られてると思ったり、尾けられてるって思った事は?」
「ツケラレテル?」
「尾行されてる……追われている……追跡されてる……」
「ごめんなさい。分からないよ」
 ミンが頭を振って言う。
 どうやらこれ以上聞き出せる内容は無いようだ。
「邪魔したね。取り合えず身の回りには充分に気をつけて」
 言って清史郎は健と加奈を連れてパレステラスガーデンを後にした。
  第二章       錯綜
  〈1〉
   十二月四日午前四時。
 スマートフォンの着信音で清史郎は目を覚ました。
 このような機械を発明した人間を呪いたくなりながら通話ボタンを押す。
「はい、三浦です」
『緒方だ』
 切羽詰まった口調で電話をかけて来たのは矢沢組の緒方だ。
「こんな時間にどうしたんですか? 事件に進展でも?」
『鴻上が殺された。例のネズミ殺しだ』
 突然の言葉に一気に目が覚める。昨日フューチャー人材ネットで会ったハゲタカのような男が一夜と経たずに殺されたのだ。
「警察には?」
『警察から連絡があった。新聞配達のバイトが死体を発見したらしい』
「場所は?」
『フューチャー人材ネットの入っているビルの真ん前だ』
 死体を発見したバイトはさぞかしびっくりした事だろう。
「分かりました。現場に向かいます」
 言って通話を切���た清史郎は愛車のビートルに乗り込んだ。
   フューチャー人材ネットのビルの前には二台のパトカーと救急車が停まっていた。
 三人もの警官が動員されており、死体は既に救急車に搬入されている。
 周囲は黄色いテープで保護され、警官たちは近づこうとする人々を制止している。
「掃除が終わるまでしばらくの間近づかないで下さいね~」
 現場を見ようとした清史郎に警官が言う。
 証拠品は無いのか、何か手がかりになるようなものは。
 清史郎が身を乗り出すと赤黒い染みが見えた。
 鴻上が放置されていた場所だろう。
 フューチャー人材ネットの入っているビルの前には監視カメラは無く、今回の加害者は時間的余裕をもってビルの前に放置した事だろう。
 証拠は幾らでもありそうなものだが、警察が浚った後ではロクな収穫は望めない。
「三浦さん、朝早くからすみません」
 朝早くから一分の隙も無くスーツを着こなした緒方がやって来る。
「そういう商売なんでね」
「オイ、そこの警官。先生をお通ししろ」
 低い声で緒方が警官に向かって言う。
「……あの、どういったお話……」
「矢沢組の緒方だ。署長にでも確認を取れ」
 言ってズカズカと現場に踏み入って行く。
「三浦さん、犯罪捜査じゃこちとら素人だ。どうすればいいですか?」
 怒りを滲ませながら緒方が言う。
「被害者の身体はネズミに食い荒らされて指紋の類は無いでしょうし、犯人は手袋をしていた可能性が高いです」
 清史郎は赤黒い染みに近づいていく。
「車から降ろされたならまずブレーキ痕。後、血液に付着した微細証拠品がカギになる場合があります」
「ポリ! 先生の言う通りにしやがれ」
 緒方が言うと警官たちが右往左往する。
 どうやら鑑識キットも準備もして来ていないらしい。
「仕方ない。私の方で調べます」
 空が白々としてくる中、清史郎は道路に残された血液のサンプルを採取する。
 更に周囲を歩き回り、ブレーキ痕を確認する。
「ブレーキ痕は一般的な軽自動車のものです。急停止し痕が残ったものと思われます」
「前はタイムラプスビデオを避ける為だったな」
「今回は人目を避ける為でしょう。これは仮説ですが、死体にはブルーシートか何かがかけてあったのではないでしょうか」
 ビニールシートで巻いた死体を端を持って車から放り出したのだろう。
 やり方は荒っぽいが、証拠は残りにくい。
「現場にDVDは残されていませんでしたか?」
 清史郎が警官に尋ねると険悪な視線が返ってくる。
「DVDは無かったかと聞いているんだ」
 緒方が言うと警官がDVDを差し出してくる。
 差し出された所で再生できる機器も無い。
「指紋を採取してこれまで警察で採取されたものと照会して下さい」
「差し出がましい事を言いやがると……」
「言われた事をやりゃあそれでいいんだ」
 緒方が言うと血を上らせかけた警官が大人しくなる。
「後は近くの防犯カメラに軽トラックが映っていないかどうかですね」
 清史郎は言う。幸い三件隣にコンビニエンスストアがある。
 トラックの影くらいは残っているかも知れない。
「緒方さん、私はこれで」
「朝早くから済まなかったな。明日は畑中の葬儀だ。何か分かるかも知れない」
 緒方の言葉にうなずいて清史郎はコンビニエンスストア��足を向けた。
  〈2〉
  「新庄工科大学?」
 モーニングコールでいつもより早く呼び出された健が清史郎の言葉に問い返す。
 事務所の寒さは外気温と左程変わらず、早急なヒーターの購入の必要性が感じられる。
「それって鑑識的な事をするって事?」
 加奈が朝七時にも関わらず張り切った口調で言う。
「ああ。血液とネズミの唾液くらいしか出ないだろうが、死体は少なくとも現場に一度は降ろされたはずだし、何かに包まれて遺棄現場まで運ばれたはずだ。つまり、殺害現場と包んだものの痕跡が残っている可能性があるんだ。血液には粘着力があるからね」
 清史郎は採取した小さなビニールの密封パックを見せる。
「でも、現場に最初からあったゴミも付いてる訳よね?」
「それを大学の分析機器で分析してもらうんだ」
「ジョーク大学のセンセに顔がきくのか?」
 驚いたように健が言う。
「付き合いがあるからね。じゃあ出発だ」
 清史郎は二人を連れて市内の工科大学に向かう。
 前もって連絡していたせいもあり、工科大学の環境科学科の柴田一太教授が生徒たちと共に準備を整えている。 
「三浦さん久しぶりだね」
「柴田さんお久しぶりです」
 柴田は中肉中背よりやや中年太りをした男だが、ふくふくとした顔立ちをしておりメタボリックにありがちな不健康な印象は受けない。
「血液に付着したサンプルを採取したいという事だね」
「ええ。現場でこそげ取ったので道路のカスも多いと思いますが」
「それは優先的に除外するよ。確か現場候補のサンプル映像があるとか」
 柴田が興味深そうに言う。
「かなりグロテスクですが……」
 清史郎は健に映像を表示させる。
 柴田が口元を押さえながらも映像を食い入るように眺める。
「証拠らしい証拠は出ないかも知れませんよ?」
「と、言うと?」
「床がフローリングやリノリウムのような材質で、殺人の前後に清掃されている可能性が大きい。輸送中のビニールシートか何かに付着した物質なら検出可能だろうけど」
「おっさん、ここでは何を調べられるんだ?」
 健が柴田に向かって言う。
「ガスクロマトグラフィーと液クロマトグラフィー、更に原子吸光器もある。分析化学に必要な機材は揃っているよ」
「具体的にはどういった物質が検出できるんですか?」
 加奈が健が訊きたいであろうことを尋ねる。
「血液であればたんぱく質や鉄分や塩分が検出できるし、それを除外して町中を車で移動したなら排気ガスなんかを検出する事もできる。ビニールシートが新品なら保護用の粉末なりがあるだろうし、死体を縛ったなら何かの繊維が検出されるかも知れない」
「そんな細かいモンで何が分かるんだ」
 健が不思議そうに言う。
「それを考えるのが探偵だ。じゃあここは柴田さんに任せて慶田盛にニャンさんの話を聞きに行こうか」
 清史郎は一同を促してビートルへと戻った。
  「奇妙な事になったね」
 ニャンの弁護をする事になった筈の慶田盛が事務所の応接セットで言う。
「加害者が拘置所の中にいるのに十番目の被害者が出た」
 清史郎は湯飲みを両手で包み込むようにして言う。
 茶の淹れ方��加奈の方が上のようだ。
「警察側は不法滞在者の組織的犯罪として押してくるかも知れないね」
 慶田盛が茶をすすりながら言う。
「不法滞在者は矢沢組の監視下にある。寮の下に警備会社が入っているくらいだ」
 清史郎は昨日得た情報を慶田盛に告げる。
「警察にとっては犯人を逮捕する事が重要なんであって、逮捕する相手が誰かという事は自分たちに都合さえ良ければいいという事なんだ」
 慶田盛の言葉を清史郎は反芻する。
「矢沢組の外国人ブローカーは社長まで殺された。外国人ビジネスから撤退するのであれば警察との間で手打ちができるか……」
「外国人ブローカーがいいとは言わないけど、それじゃ何の解決にもなっていないんじゃない?」
 加奈が言う。確かにこれで十一番目の被害者が出てくるという事になれば外国人を一斉摘発しても元の木阿弥という事になる。
「つーかさ、気になってたんだけど、このエグいビデオって他人に見せるのが目的なんだろ? ンでこんな凝った殺し方してんだろ? だったら視聴者がいるんじゃねぇか?」
 健が指摘する。確かに他人に見せるつもりが無いのであればこれほど凝った殺し方をする理由が見当たらない。
「スナッフビデオの愛好者は世界中にいるからな……」
 慶田盛が腕組みをする。
「最初は八人連続でアジアの労働者だった。次はブローカーだ。外国人の労働者の失踪が珍しくない事なのだとしても、日本人でしかも会社の社長というのはな」
 清史郎は考える。単にスナッフビデオを撮影するというだけなら、残酷な話だが外国人労働者だけで良かったはずだ。
 ここに来てヤクザを殺し始めたというのは一体どういう風の吹き回しなのだろうか。
「一応、外国人保護のNPOに連絡はとってある。矢沢組との兼ね合いはあるけど、摘発という事になったら保護する段取りはできているよ」
 先手を打ったらしい慶田盛が言う。
「矢沢組もこれ以上組員の死体が出ればなりふり構わないだろう。犯人だってその恐ろしさは分かっているはずだ」
「これってアレだな、ラットマンVSジョーカーって感じだな」
 健が緊張感の無い事を言い出す。
「犯人の行動指針が全く読めない。これで事件は完全に終わりなのか、続きがあるのか、その行方も分からない」
 ラットマンがこの先も犯罪を続けるなら、警察の一斉摘発も空振りに終わるだろう。
 そうすれば警察の面目は丸つぶれだ。
 ――犯人の狙いはそれなのだろうか――
 だとしても根拠が薄弱すぎる。
 清史郎は健と加奈を引き連れてビートルに戻った。
  〈3〉
  「ジョーク、頼みがあんだけどさ」
 ビートルの車内で健が頼みづらそうに言う。
「何だ? 言うだけならタダだぞ」
「途中のホームセンターで石油ファンヒーター買ってくれ。外と室内とどっちが寒いか分からねぇし、指がかじかんでキーボード叩けねぇんだよ」
 清史郎はため息をつく。寒いのは仕方ないにしても、キーボードの叩けない健は文字通りただ飯食らいだ。
「しょうがないな。まぁ、長く使うものだしヒーターくらい買ってもバチは当たらないか」
「やりぃ!」
 健が嬉しそうに声を上げる。
「その分仕事もたくさんこなさないとね」
加奈の声も弾んでいる。
「所で健、さっきの話だが、誰かに見せる為に撮影したなら、その誰かを探し出すような事はできないのか?」
「ムリっ��。動画配信だとしても、会員制になってるだろうし、そんなサイト幾らでもあるだろうし」
 確かに健の言う通りだろう。発信者と受信者のどちらも分からないのでは手の打ちようがない。
「気になるんだけどさ、あのビデオライト当たってたじゃん? あれって相当強いライトなんじゃない? 芸能事務所が使うようなさ」
 加奈の言葉に清史郎は頷く。
 確かに映像が鮮明過ぎた。普通のPCやスマートフォンのカメラで、普通の照明で撮影されたのであれば、あそこまで鮮明な映像にはならないはずだ。
「まさか……芸能事務所がそんな事をしてるとは思えないが」
「それは無いと思う。前に光源の話をしたと思うけど、芸能事務所やスタジオならレフ版とか使って光の当たり方を均一にするはず」
 加奈がその可能性を既に考えていたのか意見を述べる。
「じゃあ、4KカメラをPCにつなげて強い光を当てて……って、投光器あんじゃん! 現場用の」
 健が声を上げる。
「投光器ったって、ホームセンターで幾らでも買えるだろう?」
 清史郎の言葉に健が肩を落とす。
 ホームセンターで石油ファンヒーターを買い、ガソリンスタンドで灯油を買い込んで事務所に戻る。
 前の石油ファンヒーターは五年頑張ってくれたがこれで引退だ。
「はあぁ~、生き返る。これぞ文明の機器」
 健がファンヒーターの前で頬を緩ませる。
「あんたがそこにいたら室内に温風が回らないでしょ」
 コーヒーを沸かしながら加奈が言う。
「少しくらいいいじゃねぇか。減るもんじゃなし」
「ったく、事件の事も考えてよ。ジョーカー、何か分かった事無いの?」
「ブレーキ痕があったくらいだよ。深夜とはいえ急いでたみたいだな」
「フューチャー人材ネットに的かけてるとか?」
 健が席に戻りながら言う。
「それは昨日話したし、それなら外国人労働者を殺している理由が成り立たない」
 加奈が冷静に言う。
「誰かがフューチャー人材ネットの不正を暴こうとしてる」
「その為に殺人をも厭わないというのは、正義を働こうとしている人間のする事じゃないだろうな」
 清史郎は健の言葉をやんわりと否定する。
「何か良く分からない事件よね。殺人にはすごく凝ったり、痕跡にはすごく気を使ってるのに、殺す相手は行き当たりばったりみたいな」
 加奈の指摘は的を得ているかも知れない。
 被害者が外国人労働者だけで、これまで通り死体を残さないのであれば事件にすらなっていなかったはずだ。
 それが日本人の被害者が出て、スナッフビデオまでが現場に残された。
 しかも二人目の日本人はブローカーの社長で、裏のビジネスを知っていたとするならヤクザだという事も知っていたはずだ。
 それならばその報復が半端なものではない事は簡単に想像がつくだろう。
「犯人の目的ってそもそも何なんだろな。スナッフビデオで儲けるっつっても、普通に売れるような代物じゃねぇんだろうし、性別だってバラバラだろ? エロビデオなら大体若い女の子じゃね?」
 健が首を捻りながら言う。確かに言われてみればスナッフビデオとして売り出すとしても客層はネズミを使った殺人方法にしか興味が無い事になる。
 それでは商売にならないだろう。
「大量のネズミを飼ってるんだ。コストや隠し場所も馬鹿にならないだろう」
 清史郎は脳裏に新庄市の地図を描きながら言う。
 機材も使っているのだし、どこかに手がかりがあるはずだ。 
 清史郎が考えあぐねていると電話の呼び鈴が鳴った。
「お電話ありが��うございます。三浦探偵事務所飯島でございます」
 加奈が電話を取って言う。
「はい、三浦ですね。少々お待ち下さい」
 加奈が受話器を置いて清史郎に顔を向ける。
「工科大学の柴田さん」
 清史郎は受話器を取る。
「三浦です。何か分かりましたか?」
『参考になるかどうかわかりませんが、興味深い事が分かりましたよ』
「どんな些細な事でも結構です」
『トウモロコシ何かの穀物の微粉が検出されました』
「それはどういった意味になるのでしょうか?」
『あくまで仮説ですが、犯人はネズミを飼育するのに犬の餌を使っているんじゃないですか? 他にもそれを示唆するような牛骨粉も検出されています』
 現場に関する証拠は見つからなかった。
 ――しかし……犬の餌か……――
 これまたホームセンターで簡単に手に入る代物だ。
「ありがとうございます。また何か分かりましたら教えてください」
清史郎は通話を切る。
「ジョーカー、何だって?」
「犬の餌が検出されたんだそうだ。犯人は普段はネズミに犬の餌を与えてたんだろうな」
「餌ならホームセンターで買えんじゃね?」
「ちょっと待って、ケージはどう? あれだけたくさんのネズミを飼っておけるケージは相当大きいか幾つかに分けられているんじゃない?」
 加奈が言う。確かに狭いケージに肉の味に慣れたネズミを押し込んだら共食いをする事だろう。
「あ! 昔町の外れの方にデカいペットショップが無かったか? もう潰れちまってるけど」
「行こう」
 健の言葉に清史郎はビートルの鍵を手にする。
 ようやく手がかりらしい手がかりが見えて来たようだ。
   郊外型の大型ペットショップは廃棄されたままの姿で佇んでいた。
 正面のガラスが近隣の悪ガキの悪戯で割れており侵入が困難という事は無い。
 スナック菓子の袋やペットボトルが散乱しているが、どれも古く最近のものでは無いようだ。
 ここでかつて何が行われていたかは考えるまでも無いだろう。
「汚ぇトコだな。ま、誰も掃除なんかしやしねぇんだろうけどさ」
 健がぼやきながら先に進んでいく。
 清史郎はポケットから取り出したマグライトで床を照らす。
 床にはホコリが溜まっているが、何者かが侵入したような形跡がある。
 ――当たりを引いたか――
「見てジョーカー、バックヤードにだけ新しい鍵がついてる」
 清史郎は加奈の言葉を受けてバックヤードの観音開きのドアにライトを向ける。
 取っ手に鎖が巻き付けてあり南京錠でロックされている。
「それじゃあお宝を拝見するとするか」
 清史郎にとって南京錠などは鍵とも言えないものだ。
 ピッキングツールで難なく開いたドアを開けて中へと足を踏み入れる。
 瞬間、小便を腐らせて煮詰めたような強烈な臭いが鼻を突く。
「うげっ! 何だ? この臭い」
 健が顔を背ける。
「嫌な予感しかしないんだけど」
 口を押えた加奈が言う。
 清史郎は袖で鼻と口を押えながらマグライトでバックヤードを照らす。
 が、そこにはがらんとした空間が広がっているだけだった。
 ……床の汚泥のような物体以外は。
「何も無ぇ……てか、これ……」
「ネズミの糞だろうな。飼い主は閉じ込めておくのに耐えかねたんだろう」
 バックヤードでケージを積んでネズミを飼っていたのだろうが、飼い主の方が臭いに耐えかねる状況になったのだろう���
「この臭いじゃ毎回運ぶ気にもならない……ジョーカー、床に引きずったような痕がある」
 加奈の言葉にマグライトを下に向ける。
 確かに汚泥が削られたようになり、ケージを引きずり出したような痕がある。
 犯人はネズミのケージをここからもっと風通しのいい所に移動させたのだろう。
「何だよ。また振り出しに戻るのかよ」
「いや、これで犯人がネズミを飼育していた事は判明した」
 清史郎は健に向かって言う。
「犯人はどこに消えたのかしら? たくさんのネズミを飼っておける場所って……」
「郊外に出れば廃屋なんて幾らでもあるし、廃棄された養豚場や養鶏場もあるだろう」
 清史郎は郊外の様子を想像しながら言う。
 新庄市の北部の山林地帯にはかつては多くの畜産業者が存在していた。
 その残骸の多くはハイウェイを通る時に見る事ができる。
「一軒一軒回るのか? このクソ寒いのに?」
「寒いのはともかく、当てもなく山を探し回っても拉致が明かないんじゃない?」
「警察なら人海戦術でやるんだろうな……」
 清史郎はひとまずペットショップの外に出る。
 寒空だが悪臭の中に比べると北風の方がマシに思える。
「ジョーク、何か案は無ぇのかよ」
「あんたこそ空撮とか何かできないの?」
「googleearthだってそこまで精密には見れねぇよ」
 健の言葉を清史郎は反芻する。
 犯人も忘れ去られたような施設まで把握はしていないだろう。
 だとすればハイウェイから見えてなおかつ、一般道では入り込めない場所という事になる。
 更に移動に軽トラックを使っている事から、車の乗り入れのできる場所という制限も付けられる。
「とりあえず、ハイウェイから入っていける横道を探した方がいいだろうな。もしこの犯人が利用している施設ならネズミの糞が乾燥していない事から、最近場所を移動したんだろう。だとすれば脇道を封鎖する私有地の看板みたいなものは新しいはずだ」
「なぁるほど、確かに。でも、誰かの家に出ちまったらどうなんだ?」
「聞き込みに来たって言えばいいじゃない」
 健に答えて加奈が言う。
「じゃあドライブに行くとするか」
 清史郎はビートルの後部座席に健を乗せると運転席に乗り込んだ。
  〈4〉 
 
 「どーせ森林浴するなら秋とかのが良かったんじゃね?」
 幾度目かの横道を試す中、健が愚痴をこぼす。
 街乗りの車として作られているビートルは車高が低く、エンジンなどは新型に換装してあるが底がこすれ振動もひどい。
 岩で車体の下を破壊されたら帰る事もままならない。
「森林浴ってどっちかって言うと夏じゃない?」
 加奈が健に向かって言う。
「だって夏の山って蚊が出るじゃんよ」
「あんたって本当にアウトドアに向かないわよね」
「海には行きたいぜ。目の保養に」
 健の言葉に加奈がため息をつく。
 ハイウェイからの脇道は意外に多かったが、多くが途中から藪に包まれていた。
 まともに通れた道もあるが、高齢者の農家が猫の額のような畑を耕しているだけだった。
「ジョーカー、私たちで人海戦術は無理があるんじゃない?」
 加奈の言葉に清史郎は山道の中でブレーキを踏む。
 ビートルの新型のエンジンの振動が静かに車体を震わせる。
「確かにそれはそうなんだが……」
「もう少し条���絞った方がいいんじゃねぇの?」
 健の言葉に清史郎は考える。
 私有地の新しい看板は想像以上に多かった。
 恐らくは土地の相続が難しく売りに出されたものだろう。
 農家もそれとほぼ同数存在している。
 ――だとすれば――
「健、不動産で売り出されている土地の情報と、農協に作物を収めている農家のデータを検索してくれ」
「不動産はネット見れば分かるけど、農協には何の仕掛けもしてないし侵入できないぜ?」
 健が答える。健はITの天才のように見えるが、種と仕掛けが無いと普通のITボーイなのだ。
「近くの農協に仕掛けてくれればやるけど」
 キーボードを叩きながら健が言う。
「いいわよ。こっちで直接電話で聞くから。新庄神谷の田舎なんてそんなに人が住んでないでしょ」
 加奈がスマートフォンとシステム手帳を広げて言う。
「じゃあ、俺は一旦ビートルを戻してコーヒーでも買うか」
 清史郎は近場のコンビニに向かって車を走らせた。
  「で、不動産で売り出されている土地を除外して、農家も除外した結果がこれ」
 コンビニの駐車場で健が地図を表示する。
 地図が色分けされ、幾つかの空白地帯が出現している。
「土地って言っても宅地と農地と山林を省いて、酪農? 的な所は空白のままにしてる」
「昔酪農をしてた農家があったんだって。丁度この辺」
 加奈が地図の一点を指さす。
 二人はほぼ条件にそってターゲットを絞り込んでいたらしい。
「じゃあラットマンとご対面と行くか」
 清史郎はビートルを発進させた。
 黄色いプラスチックの鎖を外し、立ち入り禁止の看板を無視して山道にビートルを乗り入れる。
 まだ新しい轍が山の中へと続いている。
「なんかそれっぽくね?」
「でもジョーカー、犯人がいて、武器とか持ってたらどうするの」
「そういう時の為にくぎ抜きがあるんだよ」
「頼りねぇなぁ、モデルガンでも持って来れば良かったじゃねぇか」
「ああいうのを持ち歩いていると職質された時に面倒なんだよ」
 清史郎がビートルを走らせていると、林が開けて納谷と牛舎が姿を現した。
 エンジンを停めて外に出てみる。
 納谷を後回しにして牛舎を見るが静まり返っている。
 が……
「あったぜ! ジョーク、ネズミの糞だ!」
 牛舎の床の部分に大量のネズミの糞が散らばっている。
「ジョーカー! こっちに犬の餌がたくさんあるよ」
 納谷を覗いていた加奈が言う。
「よっしゃあ! ラットマンのアジトを突き止めたぜ!」
 健がガッツポーズを取る。
「だが、ネズミがここにいないという事は、犯人は次のターゲットを既に拘束している可能性がある」
 清史郎の言葉に健と加奈が目を見開く。
「おそらく窓の無い遮音性の高い部屋を幾つか確保しているんだろう。一日二日ならネズミに餌をやらなくても死にはしないだろうしな」
 清史郎はスマートフォンを取り出して緒方をコールする。
『緒方だ。捜査に進展はあったか?』
「犯人がネズミを飼っていた場所を確認した。が、今は運び出されている。恐らく次のターゲットを拘束したか、そうでなくても狙いを定めたんだろう」
『仕事が早くて助かる。こっちは組員の点呼を行う』
「外国人労働者の方は?」
『フューチャー人材ネットの社長と社員が死んだんだ。手を回せる状況��はない』
 組関係者が立て続けに死んでいるというだけで緒方は手一杯だろう。
「とりあえず地図は送る。犯人が来たら捕らえられるようにしておいてくれ」
『捕らえるだけで済めばいいがな』
 緒方が通話を一方的に切る。
 清史郎は現場の写真と地図をメールに添付して送る。
「ヤクザが味方ってのは心強えな」
「裏を返したら失敗したらタダじゃ済まないって事でしょ」
「とりあえず事務所に戻ろうか」
 清史郎はビートルに足を向けた。どの道ここに留まっていても何かができる訳ではないのだ。
  〈5〉 
 
 「NPO法人ジャーニーオブアースの高田美恵と言います」
 四十代のキャリアウーマン風のスーツ姿の女性を前に、緒方は戸惑いを感じていた。
 ラットマンの事件がようやく片付きそうだと言うのに、どんなトラブルが舞い込んだのだろうか。
「慶田盛弁護士からこちらで違法に働かされている外国の方がいらっしゃるとか」
「ウチはただのケツモチでビジネスは企業がやっています。我々が直接関与している訳ではありません」
「それならばどうして外国の労働者に続いてそちらの企業舎弟の方々が殺されたのですか? 無縁という事は無いはずです」
 頑として引き下がらない様子で高田が言う。
「だとして一体どうなさりたいのですか?」
 緒方は尋ねる。NPOなどという胡散臭いものがヤクザに一体何の用があると言うのか。
「我々は国内の外国人の人権を保護しております。滞在に違法性がある場合、また、行政が適切な援助を行っていない場合、司法的手続きによって人権と合法的滞在を要求します」
 面倒くさい相手だと緒方はため息を押し殺す。
 外国人ビジネスはそこそこの収益率がある事と、麻薬の生産地である現地との繋がりもある事から簡単に手を引く事はできない。
 ――フューチャー人材ネットを切るか――
 フューチャー人材ネットで管理している外国人はせいぜい二百人といった所だ。
 だが、二百人も司法で戦うという事になればNPOも音を上げるだろう。
「いいでしょう。我々の知る限り、外国人労働者のデータをお渡ししましょう」
 言って緒方は若い衆にフューチャー人材ネットの裏帳簿を持ってくるように命じる。
 ――矢沢組はここの所踏んだり蹴ったりだな――
 
 「ニャンさんとの面会も上手く行ってね。不法滞在の外国人の滞在許可を正式に取得する為にNPO法人に依頼したよ」
 事務所に戻ると早々に慶田盛がやって来た。
「不法滞在者の弁護なんてできるものなのか?」
 慶田盛に椅子を勧めながら清史郎は訊ねる。
「そこが法の難しい所だ。パスポートはあるがビザは無い。本来強制送還という所だが、強制的に働かされており、今後も働かされる予定が存在し、生活の基盤も日本に存在している。と、なれば彼らの人権を守る為に裁判をすることはやぶさかじゃない」
 慶田盛が加奈の淹れたコーヒーに口をつける。
「今後も、と、言うが、フューチャー人材ネットは社員に続いて社長が殺されて運営が危うくなっている。緒方は会社を捨てるかも知れないぞ?」
「日本で働いていたなら、本来労基法が適用される。それが無視された状態で働かされていたなら、当然���守が求められる。フューチャー人材ネットが倒産したとしても、就労実態があったとして国は失業保険を支払わなければならないし、フューチャー人材ネットも相応の保証金を支払わなければならないだろう」
 そもそも、と、慶田盛は続ける。
「日本国憲法の基本的人権という考え方は国籍を問うていないんだよ。帝国憲法は臣民の、と、書いてあるから明らかに天皇の主権統治下にある、と、読めるけど現在の日本国憲法はそうじゃない。一九七九年、最高裁のマクリーン判決でも憲法第三章の基本的人権の保障は在留する外国人に等しく及ぶべしと言っている。判例が前例として存在するんだ」
 慶田盛が全員に聞かせるようにして言う。
 確かにその通りなら不法滞在などという言葉そのものが違憲という事になるだろう。
「これは一九四八年の国連の世界人権宣言でも批准されている事で……」
「言いたい事は大体分かった。要するに人類皆兄弟という事だろう」
「まぁ、それが理想ではあるんだけどね。最近は何かと閉鎖的になって来ている気がしてね」
 やれやれと慶田盛が肩を竦める。
「とにかく、外国人の保護はNPOに依頼したから何とかなるだろうし、法廷闘争という事になれば僕の出番だし何とかなるよ」
 言ってコーヒーを飲み干した慶田盛が席を立つ。
「ニャンさんの容疑が晴れそうだと思ったらまた地裁だよ。じゃあな」
 慶田盛が嵐のように事務所を去っていく。
「慶田盛のオッサンって法律の鬼みてぇだな」
「だから法の番人なんだろ」
 健に答えて清史郎は言う。
「不法滞在の人たちの弁護なんかしてお金になるのかな……」
「なるようなら俺たちだってもっといい暮らしをしてるだろうさ」
 加奈の言葉に清史郎は苦笑で答える。
 慶田盛弁護士事務所と三浦探偵事務所は利益度外視が持ち味なのだ。
  『組員は厳戒態勢だ。ラットマンのアジトも確保した』
 スマートフォン越しに緒方が言う。
『に、しても会社一つ取られるとは思ってもみなかった』
 緒方の言葉は苦い。どうやらフューチャー人材ネットの外国人労働者は慶田盛が解放する形になったのだろう。
「太っ腹だと思われた方が近所受けはいいんじゃないのか」
 清史郎が言うと苦笑が漏れる。
『震災の炊き出しの方が余程いい宣伝になる。まぁ、これでラットマンを仕留められれば意趣返しにもなるんだがな』
 緒方が好戦的な口調で言う。不法滞在者でスキャンダルを抱え、組員を殺された事で怒りのベクトルがラットマンに向いているのだろう。
 に、しても、と、清史郎は考える。
 矢沢組が総力を挙げるという事は矢沢組の中にはラットマンはいないという事になるのでは無いだろうか。
 だとすれば畑中の事件のタイムラプスビデオのトリックが仕掛けられない事になる。
 矢沢組の外の人間で三浦探偵事務所以外にハッキングを仕掛けている所があるとは思えない。
「警察に突き出すつもりなら殺さないでくれよ」
 清史郎が言うと小さな笑い声と共に通話が切れた。
  第三章       ジョーカーVSラットマン
  〈1〉
   十二月五日。清史郎は目覚まし時計で六時半に起きると地元のニュースにTVのチャンネルを合わせ、玄関に新聞を取りに言った。
『……速報��す。本日午前六時新庄市警組織対策本部長が惨殺体が発見されました。新庄市警は連続殺人事件との関係を捜査中としており、同一犯の場合フューチャー人材ネットを狙った二つの殺人に続く第三の殺人であるとして捜査本部を設置し……』
「何だとぉ!」
 清史郎は思わず声を上げた。
 ヤクザが厳戒態勢の中、ラットマンは市警の、それも最もヤクザと緊密な組織対策本部長を狙ったというのか。
 ヤクザが警戒しているから警察を狙ったとでも言うのか。
 ――そんなバカな話がある訳が無い――
 清史郎はワンルームの室内を動物園の熊のようにうろつき回る。
 昨日ラットマンはネズミを運び出していた。
 ラットマンは昨日の時点でターゲットを捕捉していたのだ。
 と、言う事は最初から狙いは警察の組織対策本部長だったのだ。
 ――何故組対なんだ?――
 ヤクザを庇っているように見えたからか。
 だがこの殺人は外国人労働者による殺人という文脈から完全に外れている。
 ラットマンの狙いは一体何だと言うのか。
 清史郎は身支度を整えると事務所に向かう。
 定時の九時を待たずに加奈と健が事務所に現れる。
「ジョーク、ラットマン何考えてんだよ?」
 健が訳が分からないといった様子で言う。
「それが分かれば苦労しないし、この事件も起きていない」
「ヤクザの守りが固いからって言っても市警の組対本部長も相当よね」
 加奈が言う。個人としては狙う事もできるだろうが大物と言えば大物だ。
「でもこれで外国人労働者の線は完全に消えた事になる」
 清史郎は言う。外国人労働者が無差別に狙ったとして市警の組織対策本部長に当たる可能性は限りなく低いからだ。
「現場にはやっぱりお巡りがいっぱいいんのかな?」
「そりゃ、警察は警官が殺されたら本気になる組織だからな」
 清史郎は健に答える。警察は民間人の被害者には冷淡な事が多いが、身内の警察官となると目を血走らせて犯人を追いかけるものなのだ。
「何か納得できない。今回の殺人も死体を見せつけた訳でしょ? ラットマンは外国人の時は見せつけるような事はしなかったけど、ヤクザから先はわざわざ死体を見せつけてるのよね? 何かメッセージがあるんじゃないのかな?」
「殺人ビデオを作ってたヤツがか?」
 加奈の言葉に健が答える。
「それよりこれから市内は検問だらけの戒厳令みたいな事になる。ラットマンはアジトに戻るか高跳びしていないと逃げ場がなくなるだろうな」
 清史郎は腕を組む。
「軽トラックにネズミ乗っけてれば簡単に見つかりそうなモンだけどな」
 健が頬杖をついて言う。
「これが最後の犯行だとすればネズミを下水に逃がせばいい��けだ。ケージだって畳むなりプレスに紛れ込ませるなりすれば見つからないだろう」
「そっか……この殺人事件って、凶器は逃がせば消えるって事なんだよね」
「でもよ~、どういうミスリードなんだ? 全然繋がらねぇじゃんよ」
 清史郎は冷えたコーヒーに口をつけて考える。
 何かが引っかかる。単純だが、見落としてはならないもの。
 矢沢組の玄関のタイムラプスビデオ、市警組対本部長。
 ――まさか――
「健、大日警備保障に警察OBがいるか分かるか?」
 清史郎が言うと健が不思議そうな視線を向けてくる。
「大日警備保障は矢沢組のフロントだろう? で、警備会社とくれば警察OBの天下りだ。大日警備保障なら矢沢組のセキュリティも分かるだろうし、市警の組対本部長のスケジュールも手に入��かも知れないだろう? しかも大日警備保障はミンさんたちの寮を監視するみたいに事務所を構えていた。外国人労働者を監視するのが大日警備保障の役目だったとすればどうだ?」
 清史郎が言うと健が猛烈な勢いでキーボードを叩き始める。
「大日警備保障の人が外国人のスナッフビデオで小遣いを稼いでいて、それがバレそうになったからフューチャー人材ネットの社員と社長を殺した、って言うのは分かるんだけど、その後どうして警察の幹部を狙ったのか分からない」
 加奈が首を傾げて言う。
 清史郎にはその言葉に答える術が無い。
 まだパズルのピースは穴だらけのままなのだ。
「従業員の三分の一は警察OBだぜ。ほとんどシルバーだけどな」
 健がPCのディスプレイに一覧を表示させる。
「ヤクザと警察のパラダイスね」
 皮肉るような口調で加奈が言う。
「大日警備保障の昨日のシフトは分かるか? なるべく現役に近いヤツで非番のヤツは?」
「新田卓ってヤツかな……警察を暴力事件でクビになって採用されてる」
 健が履歴を表示させる。
 新田卓三十四才。空手三段柔道五段。元警備部巡査部長。デモの警戒で出動中市民に対する暴力で謹慎。謹慎中にNPOの代表を襲撃して重傷を負わせて依願退職となっている。
「空手三段柔道五段じゃあ私らじゃあ手も足も出ないんじゃない?」
 加奈が忠告するようにして言う。
 三人がかりでも新田を捕らえるなどという事はできないだろう。
 しかも現状ではただ怪しいというだけなのだ。
「新田の住所は分かるか?」
「もちろん。でもどうすんだ?」 
「スナッフビデオを動画配信で売ったならPCに痕跡があるはずだろう?」
 清史郎が言うと健が珍しく考えるような表情を浮かべる。
「新田本人がやったなら別にいいんスけど、新田が完全に肉体派で家にPCも無かったらどうすんだ? それに最初複数犯って言ってたじゃねぇか」
 健の指摘に清史郎は額に手を当てる。
 その可能性を忘れていた。
「新田のメールを覗く事はできるか? 組織的犯行なら組織が割れるかも知れない」
「もしかしたら組織だから組対本部長を消したのかも」
 加奈が言うと健がさも人使いが荒いといった様子でPCを叩き始める。
「だが、普通組対というのは暴力団対策部の事だぞ?」
「それくらい知ってるってば。でも、暴力団の中の暴力団って事もあるじゃん?」
「それなら一昨日の時点で刑事部の風間が何か知っていても良さそうなものだろう?」
「風間から組対に話が行ったって可能性は?」
「可能性はあるが、それならどうして風間を殺さなかったんだ? ラットマンを追う可能性があったのはあの時点では風間だったんだぞ?」
 清史郎が言うと突然健が触っていたPCから『君が代』が流れ出した。
「何だ? どうした?」
 清史郎が言うと健がPCの音声をミュートにした。
「新田は愛国防衛戦線って団体の構成員だったみたいだ。これサイトな」
 画面上では日章旗がはためき、スナッフビデオへのリンクも張られている。
「こいつらが外国人を殺してたっての?」
 加奈が声を上げる。
「でも、それがどうしてヤクザを殺す事になった?」
 清史郎は画面をのぞき込む。
『日本を愛し、日本を守る。汚らわしいドブネズミ、土人どもを取り除き、美しい日本を取り戻す。子供たちに残そう愛すべき祖国』
 清々しい程のヘイトだがそれがこの団体のスローガンであるらしい。
「これを素直に読むと、外国人を呼んでくるヤクザもターゲットになるって事じゃない?」
 加奈の言葉に清史郎は虚を突かれる。
 そこまで短絡的だったとするなら、フューチャー人材ネットを襲った惨劇には納得が行く。
 しかし、警察の組織対策本部長を殺した事には依然として結びつかない。
「健、この組織の構成員何かは分からないのか?」
「これ、ロシアのサーバーに作られてんだ。結構腕のあるヤツが組んでるっぽいし、相手のIPアドレスを掴んだくらいで組織が割れるなんて事は無いと思うぜ?」
 健の言葉に清史郎はスマートフォンを取り出して緒方をコールする。
『予想外の展開だな』
 挨拶も無く緒方が応じる。
「一つ聞きたいんだが、愛国防衛戦線という組織に心当たりは?」
『右翼団体で最近はネットを中心に活動しているらしい。親は同じだが組が違うから詳細は分からん』
「お宅の大日警備保障の新田がメンバーだった。で、そのサイトでスナッフビデオが垂れ流しになっている」
『大日警備保障は確かに親は同じだが組が違う。だが、大日警備保障か……』
「心当たりがあるのか?」
『外国人に警備が必要だと言って頭超えてから割り込んできたのが大日だ。てっきり小遣い稼ぎをしに来ているものだとばかり思っていたが……』
 緒方も知ってはいるものの詳細は分からないらしい。
『愛国防衛戦線は無動正義という男が代表を務めている……現在は新庄市に移り住んでいるらしい』
「その無動正義というのは何者なんだ?」
『ヤクザとしては三流だが、ネット右翼の最先鋒で荒しなんかで稼いでる男だ。与党を宣伝する書籍や中国や韓国を罵倒する書籍も発行している。最近は新しい道徳と歴史の教科書も作ってるそうだ』
 緒方も何か調べているらしい様子で言う。
 健が無動正義を検索してウェブサイトを表示する。
 『愛国心』と大きく書かれた下に禿頭の男の写真が載っている。
 よくよく見れば小さく愛国防衛戦線へのリンクも存在している。
「こっちでも確認した。一応文化人というカテゴリーには入れられているようだな」
 与党側のご意見番といった形でTVやラジオにも出演しているようだ。
『矢沢組としては親に判断を仰ぐしかないな』
 苦々しい口調で言って緒方が通話を切る。
「ジョーカーどうするの? 一応文化人らしいけど」
「やっている事は石器人並みだがな」
 実行犯ではないにしろ、無動正義の指示で愛国防衛戦線と大日警備保障が動いた事は間違いないだろう。
「無動って野郎をふん捕まえて吐かせりゃいいんじゃねぇか?」
「大日警備保障を忘れないでくれよ。俺たちは探偵で警察じゃない。暴力じゃなくて知力で物事を解決するのが仕事なんだ」
「それには証拠を探さないとね」
 加奈が応じて言う。
「見つけるべき証拠は殺害現場、軽トラック、ネズミが入っていたケージ、投光器、撮影用のカメラ。こんな所か」
「軽トラックなんて警備会社は幾らでも持ってんじゃねぇのか?」
 健が言う。
「新田の事務所の軽トラックからルミノール反応が出ればビンゴだ」
「大日警備保障の事務所は市内だけで八か所だ。それにコーンを乗せて動いてるかも知れなねぇし……」
「殺害現場が一番動かぬ証拠なんじゃない?」
 健に続いて加奈が言う。
「窓の無い部屋。地下室か、人の出入りの無い地下駐車場か……」
「それこそ検索できねぇよ」
 キーボードに触れずに指だけ動かして健が言う。
「忘れてる。現場は水で流して掃除できないと血が残るって事」
 加奈が言う。
 確かに最初の頃の映像は床がフローリングのようだったが、途中からリノリウムのようになり、照明も明るくなっていた。
 犯人グループは最初の頃の反省を踏まえ、条件のいい場所を探し当てたのだろう。
「ネズミをケージなりに戻す為にも密室が必要か……」
 清史郎は頭を巡らせる。間口がかなり狭くないとネズミの大脱走が起きる事だろう。
 そうすれば近所に知られる事になる。
 そしてこれまでの被害者の住所から考えて市内にある事は間違いない。
「コンテナだ」
 清史郎は言う。
「健、大日警備保障が警備している港のコンテナは分かるか?」
「なるほど、貨物のコンテナなら密室でライトを持ち込んだりすればそれらしくできるし、洗うのも簡単……」
 加奈が言うと健がPCのキーボードを叩き始める。
「パシフィックアジアって貿易会社と契約してやがる」
 健がgoogleearthで埠頭のコンテナを拡大する。
 黄色の貨物コンテナが八基並んでおり、そのうち一つか幾つかが犯行に使われた可能性が高い。
「ジョーク、乗り込むのか?」
 健の言葉に清史郎は考える。
 鍵を開けて中を確認するにはピッキングをしなければならないが、昼間にそれをすることは困難であり、そもそも大日警備保障が警備をしているのだ。
 新田に遭遇したら三人まとめてコンクリート詰めにされて、ドラム缶で海に沈められかねない。
 やるなら夜だ。
 現場を特定し、証拠を手に入れ、実行犯と無動正義を殺人容疑で起訴するのだ。
 
 
〈2〉
   深夜零時。清史郎は久々にジョーカーの衣装に身を包んでいる。
「僕は殺しが仕事で警護は仕事ではありません」
 ボートの上でスーツ姿の円山が両手に手袋をはめたまま言う。
「致命傷を負わせて欲しいんじゃない、殺されたら困る」
「あなたは殺し屋を何だと思ってるんですか」
 清史郎は今回の作戦に当たって円山健司に警護を依頼していた。
 緒方に兵隊を借りるという方法も無くは無かったが、矢沢組は格上であるとはいえ、愛国防衛戦線と同じ指揮系統に属しており、いざという時にどう動くか分からなかったからだ。
 健司と一緒にボートを漕いで岸壁に近づく。
 夜でも尚荷物の積み下ろしのある港は多くのライトで照らされている。
 大日警備保障のハイゼットが横付けされた黄色いコンテナがゆっくりと拡大されて来る。
「警備員……新田がいやがんな。こっちには気づいてねぇみてぇだけど」
「消して来ましょうか? 友達価格で一人五万円で手を打ちますよ」
 健に答えて円山が言う。
「もっと高額でいいから目を逸らせてくれないか?」
「中途半端が一番難しいんです」
 言いながら円山がアタッシュケースから花粉防止用のマスクのようなものを取り出す。
「円山くん、それ、何なの?」
 加奈が訊ねる。
��入手に苦労しましたがクロロホルムですよ。マスクに染み込ませてあります。これをかけてしまえば当分起きる事は無いでしょう。柔道家や空手家と戦って勝てるなんて思ってい��せんから」
 円山なりに気を使ってくれているらしい。
 ボートが岸壁に近づき、積まれたパレット越しに新田の頭が見える。
「それでは先に僕が行きます」
 円山が岸壁に腕をかけて身軽にパレットの裏に回る。
 ポケットから昔のカメラのフィルム程の大きさのものを少し離れた場所に放り投げる。
 瞬間、カメラのフラッシュのような光が瞬いた。
 新田が確認するかのように動き始める。
 円山が足音を殺して警備員の背後に回り込んでクロロホルムのマスクをかける。
 新田が身体を捩り、円山がコンクリートの床の上を転がる。
 新田が警棒を抜くと円山の手に拳銃が出現する。
 新田が一瞬動きを停めたかと思うと膝から崩れ落ちる。
 倒れた新田を円山がパレットの裏まで引きずってくる。
「その銃本物なのか?」
 健が健司に向かって訊ねる。
「まさか。クロロホルムが効くまでの時間稼ぎですよ。僕はもう少し周囲を探って来ます」
 健司がコンテナの影から影に移動するようにして姿を消す。
 これほどの人間に一度でも命を狙われていたのかと思うと恐ろしいものがある。
「ジョーカー行きましょ」
 作業員の服装の加奈が先に上がり、清史郎もそれに続く。
 健は清史郎と加奈の頭と肩と胸についたカメラの操作が仕事だ。
 清史郎は大日警備保障のハイゼットにルミノール反応液を振りかける。
 死体はブルーシートか何かに包まれていたのだろうが、靴跡がくっきりと浮かび上がる。
 足の大きさは二十七センチはゆうにあるだろう。
 実行犯に新田が加わっている事は確定的だ。
 続いて近場のコンテナの鍵を開ける。
 最も近いコンテナの中は空だった。ルミノール反応も見られない。
 続いて隣のコンテナの鍵を開ける。
 真っ暗な洞のような室内を照らすが血痕らしいものも機材を持ち込んだ形跡も無い。
 パトカーのサイレンが聞こえてくる。
 ――警察が来たならジョーカーの出番も無しか――
 清史郎はパレットの影に戻って加奈と合流する。
 やって来たのは覆面パトカーで、コンテナの前まで来るとサイレンを止めた。
 運転席から風間刑事が出てくる。
 周囲の様子を覗いながら一つのコンテナに向かって歩いていく。
 スーツ姿の手にはラバーの手袋がはめられている。
 ――おかしい――
 警察が来たなら何故一台、それも覆面パトカーなのか。
 他に警官も居なければ何故両手にラバーの手袋をしているのか。
 一番妙なのは……
 風間がポケットから取り出したキーでコンテナの鍵を開けようとする。
「ホワイトクリスマース!」
 清史郎はモデルガンのグレネードを抜いて飛び出す。
 鍵を手にしたままの風間が振り向く。
「チックタックチックタック宝箱の中身は何でしょう!」
「ジョーカー! この道化が!」
 鍵を放って風間が銃を引き抜く。
 刑事は事件性が無い限り銃の携帯は許されない筈だ。
 しかも手に握られているのは警察の正式拳銃のS&Wではなくトカレフだ。
 轟音が響いて清史郎の耳が一瞬聞こえなくなる。
 耳のすぐ傍を弾丸が通過したらしい。
 清史郎はグレネードを構える。
「ラップトップデスクトップトーテムポール!」
 清史郎が引き金を引くと花火が打ち出される。
 花火がコンテナに当たり色とりどりの光を放つ。
「見かけ倒しか! 愛国無罪! 死ぬがいい!」
 風間がトカレフの引き金を引く。
 清史郎は死ぬ思いでコンクリートの上を転がる。
 トカレフの装弾数は八。
 二発使ったから後六発残っているはずだ。
 轟音が立て続けに二回響く。
「トカレフモロゾフカラシニコフ!」
 清史郎は目くらましに花火を放つ。
 深夜の埠頭に水平に放たれた花火の光と轟音が響く。
 続けざまに轟音が三回。
 強運なのかどうやらトカレフの餌食にはならずに済んでいるようだ。
「我らの大義、邪魔はさせん!」
 轟音が響き、続いてカチリという金属音が響く。
 風間はトカレフの弾丸を打ち尽くしたらしい。 
「外国人の悲運も今日は我が身、ラットマン! 貴様の命運もここまでだ!」
 清史郎が歩み寄ると風間がS&Wを抜く。
「尽忠報国の志、英霊たちが共にあるのだ!」
 リボルバーが火を噴く。
 清史郎は反則だと思いながら再びコンクリートの上を転がる。
 警察官として発砲したなら、一発一発まで報告の義務があるはずだ。
 ――それすら無視すると言うのか――
 もう避け切れないと思った清史郎の周囲で銃弾が爆ぜる。
 銃を手にした風間の足が二日酔いのように揺らいでいる。
 瞬間、清史郎の目がコンテナの上に立つ円山の姿を捉える。
 円山が花火と銃撃の間にクロロホルムを振りかけていたのだ。
 揮発性の高いクロロホルムを吸い込んだ風間は意識を失いつつある。
「何故組織対策本部長を殺した?」
 清史郎は歩み寄りながら訊ねる。
 銃を構えようとした風間の手から銃が落ちる。
「薄汚いドブネズミ……土人どもの一掃作戦を無視したからだ。そもそも、最初のチンピラの死で新庄市の土人どもは一掃されるはずだったのだ。それを弁護士やら探偵やらが邪魔をしたのだ。土人を引き入れた悪逆非道のブローカーを殺し、土人の組織がやったのだと上奏したのに組織対策は受け入れん。だから殺したのだ。だが組織対策本部長が殺されたとあれば、土人どもが結託して美しい日本を汚そうとしている事を疑う者もいるまい。これから美しい日本を取り戻す戦いが始まるのだ」
 意識朦朧としているせいだろう、聞いてもいない事までペラペラと風間が喋る。
「それは無動正義の指示か?」
「無動閣下は総理を代弁し天皇陛下の目を覚まさせる為に戦いを始められたのだ! 私のような一兵卒は臣従するのが……務め……というもの……だ……」
 清史郎の前で風間が崩れ落ちる。
 清史郎は風間の放った鍵を拾ってコンテナの扉を開く。
 無数の歯ぎしりをするネズミの鳴き声が響き、ネズミのケージ、TVスタジオのような照明装置、そして殺された被害者が吊るされていた現場が姿を現す。
 清史郎は健に映像と音声を切るように合図する。
「私は愛国という言葉が嫌いだから郷土愛と言わせてもらうがな、郷土愛っていうのは自分の国を移り住んだ人が住んで良かったと思える国にする事だ。他人に冷たい人間は自分にも優しくできない。誰かを迫害する人間に国を愛する事はできないんだ。覚えておけ」
 清史郎は倒れた風間に向かって言う。
「ジョーカー、今の一言バッチリもらったから」
 加奈が楽しそうに言う。
「動画配信する時は削除しろ。俺はジョーカーなんだぞ」
『言って無かったっけ。これリアルタイムで動画配信してんだ。しかもようつべとヌコヌコで』
 イヤホンから健の声が聞こえてくる。
 清史郎は顔から火が噴き出るような気分になる。
「だったらショータイムだ! これが愛国防衛戦線と大日警備保障の悪の城だ!」
 清史郎はコンテナの照明のスイッチを入れる。
 暗かった殺戮の舞台がステージのように映し出される。
 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。
 今度こそ警察の大群が押し寄せてくるのかも知れない。
『ジョーク、動画停めたぜ』
 健が言うと円山が音も無くコンテナの上から飛び降りてくる。
「それではお暇しましょうか? 警察は厄介ですし」
「違いない」
 円山が素早くボートに飛び乗り、清史郎は加奈が乗ったのを確認して乗り込む。
 健がエンジンをかけて波を切る。
 入れ違いになるように港に赤いパトライトを点滅させたパトカーの群れがやって来る。
 パトライトの明かりが港の明かりに溶ける頃、清史郎はようやく詰めていた息を吐いてジョーカーのマスクを脱いだ。
「みんなお疲れ様だな。これで事件は一件落着だ」
 清史郎の言葉に三人の笑顔が答えた。
  エピローグ 
 
 
「……被告はビザを有しておらず、六十日を超えて無許可で労働していたのであり、これは入国管理法違反に相当します。従って強制送還が適当であると検察は判断します」
 検察が法廷で声を張り上げる。
「被告は六十日を超えて就労できるとしたフューチャー人材ネットの詐欺によって滞在したのであり、そもそもが入管で適切な説明を受けておりません。入管では入国目的を確認しているはずであり、六十日を過ぎて当人に確認を行わなかった入管に不備があるのでは無いでしょうか? 加えて被告は一日十八時間を超える労働に従事させられており、これは国籍を問わずに労働基本法違反に当たります」
 慶田盛が答弁する姿を清史郎は健と加奈に挟まれながら眺めている。
「異議あり! 被告の労働条件は入管法とは関係ありません」
 検察が慶田盛の陳述を遮る。
「異議を却下します」 
「そもそも日本国憲法三条十一項の基本的人権は日本国籍保有者のみに与えられたものではありません。一九七九年、最高裁のマクリーン判決の判例を資料として提出します」
「異議あり! 弁護人の資料は時世にそぐわぬ古いものであり判例として相応しくありません。二〇一八年十月二日改正出入国管理法案を資料として提出します」
「異議を認めます」
「出入国管理法は出入国に関する法律であり、被告は既に国内で就労済みであり法の適用外であります。また弁護人は改正出入国管理法に対し、一九七九判決に基づき違憲審査を請求します」
 慶田盛の言葉に法廷が騒然となる。
「一時休廷します」
 裁判官が言って慶田盛と検察を呼んで法廷を出ていく。
「慶田盛のオッサンって弁護士なんだな」
「昔から弁護士だよ」
 健に答えて清史郎は言う。
「何かドラマ見てるみたい」
加奈が呟く。
「私たちが風間や無動やらの事件を暴けなかった���、不法滞在どころか殺人容疑だったんだ」
「そう考えると俺たちすごくね。もっと注目されても良さそうだけどな」
「現場押さえて風間とやりあったのはあくまでジョーカーなんだから」
「へいへい、元優等生は言う事が一々真面目ですね~」
「うっさい!」
 清史郎が二人のやり取りを聞いていると裁判官と慶田盛、検察が戻って来た。
「本法廷は被告に情状酌量の余地があるとし、在留カード取得の意志の有無を確認し、在留の意志のある者には発行するものとする」
 裁判官が重々しい口調で言ってハンマーを打つ。
「これって慶田盛のオッサンが勝ったって事か?」
「概ね勝利って所だろうな」
「ミンさんたち幸せになれるといいね」
 加奈が嬉しそうに言う。
「どうだかな。国籍があってもヒーター一つでひいひい言わなきゃいけない国だからな」
 清史郎が言うと健と加奈が笑い声を上げた。
 
 
「と、いう訳でウチに入国管理官やら何やらが来て大わらわだ。こっちはシノギを一つ潰されたのに割に合わない話だ」 
 緒方は『殺し屋』のカウンターに座って焼酎を飲んでいる。
「それでも組員を殺した相手には意趣返しができたんでしょう?」
 言って殺し屋円山がグラスを磨く。
「動画配信でジョーカーに全部持っていかれたよ」
 組員に呼ばれて途中から映像を見ていたのだが、ジョーカーの一人舞台と言っても良かっただろう。
 内密に知っていれば大日警備保障と愛国防衛戦線を締め上げて金を巻き上げられたのだが、これでは踏んだり蹴ったりのままだ。
「その割には嫌そうな顔をしていないんですね」
 円山がいつもの笑顔のまま言う。
「欲の皮の突っ張った野郎はまだ見逃せるが、能書き垂れて悪さする野郎には反吐が出るんだよ」
 緒方が言うと円山の笑顔の質が変わったように見える。
「ええ。確かに。だから僕も殺し屋であって殺人鬼ではないんです」
 円山の言葉に緒方は久しぶりに笑い声を立てた。
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trendstee · 7 years ago
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レイトンミステリー探偵社 第7話 ~カトリーのナゾトキファイル 第7話 – Layton Ep07
次回 | 5月20日(日) 8:30~9:00 放送 レイトンミステリー探偵社 ~カトリーのナゾトキファイル~ #07
ロンドンに現れた正義の味方ラットマン!しかし3カ月前から姿が見えなくなる…。悪の組織に捕まってしまったのか!?彼が消えた理由、そして驚きの正体は…!
放送内容詳細 舞台はロンドン。主人公はレイトン教授の娘であるカトリーエイル・レイトン(CV:花澤香菜)。「どんなナゾもすべて解明、それが我がレイトン探偵社のモットーです。」を掲げ、しゃべる犬のシャーロと助手のノアと一緒にレイトン探偵社を営んでいる彼女は、もともとは、突如姿を消した父を探す目的で探偵に。しかし、奇想天外な発想によるナゾトキが徐々に話題を集め、いろんな依頼が舞い込んでくるようになり、ロンドンで起こる不思議な事件を日々、解決しています。 アニメは1話完結型で、ナゾトキのワクワク感はもちろん、アクションあり、ギャグあり、感動もあり、老若男女問わず幅広い世代が家族そろって楽しんでいただける、まさに日曜の朝にピッタリな内容となっています。 また主人公が、女性で探偵という類を見ない設定はとても新鮮。どんな探偵よりもキュートに、華麗にナゾを解き、新たな国民的人気探偵となります。
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kazuya1984 · 8 years ago
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#道尾秀介 / #ラットマン #読了 📚 バンドマンが主人公のミステリーサスペンス。 スタジオ内で亡くなった元メンバー。 そこからメンバーのあらゆる事が蠢く。 エピローグまで気が抜けなくて良かったです👍🏼 #読書 #読書記録 #読書倶楽部
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cmyk13 · 10 years ago
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読了日:20150318 【道尾秀介:ラットマン】 叙述トリックのミステリー。 この人のは面白い。二転三転するから二度三度びっくりすることになる。 ラットマンももちろん\えっ!!/てなった。しかも二回。 ちゃんと伏線の回収も出来てるのよなー。しかも二転三転するのにしっかりきっちりきれいに回収。うわー!ってなる。 この人の本は心理描写がしっかりしてるから、騙されるんかもしらんね。 そこに肩入れするっていうかなんていうか。特に今回は同年代のバンドマンってところがね。感情移入しちゃうよね。 いやもうお見事。面白かったわー。
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jinnseigame · 4 months ago
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4ばん~~~
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jinnseigame · 4 months ago
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2ばん~~~
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moth-ratman · 3 years ago
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モルモットは千日紅を咲かすか?
「俺を解剖(バラ)してくれ!」 山深くで怪しい研究を行うアーデン博士の元に突如物騒な物言いで現れた青年・レオン。彼はナタを手にするとおもむろに自分の首を斬り落とし——…!? スプラッタで温かい、倫理を超えた友情譚。
ジャンプ+掲載中
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496779364832
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moth-ratman · 3 years ago
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『ライトandトランスフォーム』
ジャンプSQ.RISE 2021WINTER 掲載
https://jumpsq.shueisha.co.jp/sqrise/2021winter/light.html
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lovecrazysaladcollection · 5 years ago
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個性ってのはさ、 何かを一生懸命に真似しないと、 手に入れることなんて 絶対にできないんだよ。 はじめから 独自のものを目指そうったって、 そんなの上手くいくはずがない。 音楽だって、絵だって、 人生だってそうさ。 by ラットマン、道尾秀介 from http://twitter.com/MeikakuGen
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