#ラウンジ六甲
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こんな関空見た事ない。 久しぶりの海外 コロナ前はなんだかんだと 毎月レベ丸だったのに 英語忘れたかもしれない し、嬉しいのと不安なのとで 数日前から眠れず(笑) 遠足前の子ども状態 昨日のPCR検査受けるまで 陽性だったら(-。-;とドキドキな中アプリに陰性連絡🤗 やっと一山越えての 関空 ほぼいない。。 ほぼ人はいない。。。 エールフランスのカウンター以外空いてるの? カウンターも陰性証明と渡航書類PCR検査で発行してもらったの見せたらそれでお終い。 ○ク○ンなんか不要だ。 みんな本当に危険だと知らないよね。。。(怖) 南ウィングは閉鎖のため サクララウンジ使えず 仕方なくカードラウンジでおかき食べてます(笑) 食べ物屋もほぼ閉鎖 イミグレ抜けちゃうと 食べるところがない💧 お腹すいたなぁ💦 コンビニしかないなぁ。 念のためにと早くきたけれど 暇だ(朝5時半起床) そして、 プチファスティング状態だ(笑) 誰か知り合いいないのか? そんな朝です。 追伸:最近色んなことが当たり前過ぎて、、、感謝の気持ちが薄れていたように思う。 今回の旅で、、、沢山の感謝とありがとうを見つめ直します😭 #関空 #サクララウンジのカレー #サクララウンジ #エールフランス #フランス #youtuber #france #ラウンジ六甲 https://www.instagram.com/p/CekGPYiPD0r/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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ロマンティックなホテルと温泉旅館どっちにしよう?!って迷った時 神戸観光もUSJも行けちゃう立地の、ミシュラン四つ星なのにお手頃プランもあったホテル♥ ちょっと早めのクリスマスに12/20-21と全国旅行支援を今年4回目利用で行ってきました😄 (20代の頃ではないのでクリスマスに宿泊するなら3万円も変わって来るとかあるので少しずらす😆) 初め三宮駅周辺で1泊朝食付で探していたのだけど、予算内だとどうしてもお部屋が狭いか、景色がない⤵ そこで範囲を広げて2食付で探していたら凄いのあったー! 六甲アイランドの神戸ベイシェラトン ホテル&タワーズ✨ 朝夕種類豊富なバイキング付🎶 朝食の和風メニューやデザートが◎ そしてこんな洋風のホテルなのに、ここで湧いた源泉かけ流しの温泉大浴場&露天風呂がある〜〜🥰 六甲アイランドに温泉ってイメージないですよね?日本のMIX文化良いわ〜。 金茶のにごり湯で塩分多め、お肌すべすべ♥ 広い湯上がり休憩室もあり。 さらに嬉しいのが大浴場直結エレベーターのあるフロアに泊まると、ホテルなのに浴衣&スリッパで行け��ゃうんです🎶 これ嬉しいよねー。お風呂上がりのくつろぎたい、汗もかきそうなタイミングで服と靴はキツい💦 さらにもう1つ、このフロアに泊まると、専用の別の湯上がりラウンジがあり、 淡路島コーヒー牛乳、アセロラジュース、ヤクルトなどが無料で飲めちゃう😋こういうちょっとした事が嬉しい❣ そのフロアはいくつもプランやお部屋が選べます。お部屋の事はそれも特別で写真がいっぱいなのでまたにさせて下さい。 ウッドデッキの屋内プールや、ホテルにしては珍しく地元食材まで扱うお土産店もあり。 今まで神戸は日帰りが多かったけど、非日常な空間でのお泊り、観光も2日出来て、いいな〜こういうのも やっぱり神戸いいわ〜もっと来ないと!って思いました😄 こんな時期だからこその近場の良さを再認識する機会になって良かったです。 📍神戸ベイシェラトン ホテル&タワーズ 🚞JR住吉駅(大阪駅より約19分、三ノ宮駅より約7分)より六甲ライナー約9分 または 阪神電鉄魚崎駅より六甲ライナー約6分 「アイランドセンター駅」下車徒歩1分 🚗阪神高速湾岸線「六甲アイランド北」ランプより約2分 阪神高速神戸線「魚崎」「摩耶」ランプより約10分 🚌空港リムジンバス 関西空港より約57分 🚌六甲アイランドへの定期バス JR神戸線三ノ宮駅より約18分 新幹線新神戸駅より約26分など 🌟USJへは土日及び繁忙期は直行バス25分 🌟徒歩での近隣観光は 神戸ファッション美術館、小磯記念美術館。 ✵✧✵✧✵✧✵✧✵✧✵✧✵✧✵✧✵✧✵✧ 〚プロフィール〛 📷一眼歴33年のフォトグラファー/ライター 🗺️旅歴31ヵ国83地方じっくり滞在 🖊SNS総フォロワー50000人 💖海、光、町並、南国、ヨーロッパが特に好き 〚投稿内容〛 ●ときめく刺激&まったりのちょうどいい旅😍😌 ●詳しい下調べ後のベストチョイス! ●体験したリアルな旅行情報・失敗談 ●海外旅行・国内旅行・お出かけ フィードは主に風景写真 ストーリーはグルメ・お土産他 @akane.suenaga ⏪他の投稿を見る・フォローはこちら ✵✧✵✧✵✧✵✧✵✧✵✧✵✧✵✧✵✧✵✧ @sheraton_kobe @sheratonhotels @stay_hotel_official @japan_luxuryhotels @atta.travel @hotelsdotcom_jp @relux_jp kobe Japan #ホテル #トラベルフォトグラファーAkane #トラベルライター #神戸 #六甲アイランド #神戸ホテル #神戸温泉 #兵庫温泉 #兵庫観光 #兵庫ホテル #ホテル好き #ホテル好きな人と繋がりたい #クリスマスディスプレイ #ホテル好きと繋がりたい #ホテルステイ好きな人と繋がりたい #ホテルインテリア #ホテル巡り #ホテルステイ #クリスマスツリー #温泉旅行 #温泉デート #温泉好きと繋がりたい #温泉♨️ #温泉旅行♨️ #神戸デート #神戸が好き #神戸好きな人と繋がりたい #今日もx日和 #旅行好き #旅行好きな人と繋がりたい (Kobe Bay Sheraton Hotel & Towers) https://www.instagram.com/p/CmjWfLLJ41D/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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山倭厭魏トークイベント 『山倭流 姓名判断からわかる心のレントゲン(対人関係編/恋愛編)』(幻冬舎)出版記念
『山倭流 姓名判断からわかる心のレントゲン(対人関係編 / 恋愛編)』 刊行を記念してトークイベントを開催します。
コミュニーケーションを円滑にするヒント満載の著作に関して、出版の背景や込めた思い、書籍の活用方法まで著者自ら話します。 また、運命鑑定師の著者が陰陽五性術についてや、運気の波に乗る方法等についても語ります。
当日は姓名判断/占いの実演コーナーもございます。
楽しくて、あなたの運命を変えるヒント満載のイベントとなりますので、是非奮ってご応募下さい!!
【プロフィール】 山倭 厭魏(ヤマト オウギ) 大阪府生まれ。仏教家系に育つ。現在、相談窓口「倭会」会主。 体育学士であり、解剖学、運動力学、代謝に関する専門分野を学ぶ。 後、経営学を実社会にて経験学習指導を継続。 若年期より易学、数理学、四柱学、五行、占星術、風水、奇門遁甲、六壬、姓名学、気学など多岐にわたって学び「陰陽五性術」を確立。 主に、これまでの経験と学びを駆使し、運命学をベースとして現代社会情勢に応じた内観的行動カウンセリングを行っている。 相談者は、一般人から、芸能関係、各経営者、政界、スポーツ界と幅広い。 それと同時に、後進の指導にもあたる。 「恋バナ占い生電話」レギュラー出演。 「ヒルナンデス」など、各種メディアにも出演。 宝島社「GLOW」占いコーナー連載。 宮家、三大褒賞文化褒賞受賞。
【参加費】 無料
【申し込み方法】 下記予約フォームまたは店頭にてお申し込みください。
【注意事項】 ・お座席は自由席です。会場にお越しの順にお入りいただきます。 ・会場でのご飲食は9Fでお買上げの商品のみとさせていただいております。 ・録音・録画はご遠慮頂いております。 ・お客様ご都合によるキャンセルは承っておりません。予め御了承ください。 ・ベビーカーはお預かりする場所がございませんので予めご了承ください。 ・お子様が泣かれた場合、ご配慮を頂戴できますようお願いすることがございます。 ・サイン会は当店でご購入頂いた方のみご参加いただけます。 ・サイン本のお渡し会の場合、名いれ等はお断りをさせていただく場合がございます。
会期 / 2019年12月08日(日) 時間 / 15:00~17:00(開場14:30) 場所 / 梅田 蔦屋書店 店内 4thラウンジ 定員 / 70名 講師/ゲスト / 山倭 厭魏様 主催 / 株式会社幻冬舎ルネッサンス新社 共催・協力 / 梅田 蔦屋書店 問い合わせ先 / [email protected]
チケットのご予約はこちら(ページ下部)
イベント情報の詳細はこちら
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. なんでこんなに暑いねん😣 このクソ暑い中、六甲から伊丹空港までは戻ってきた 14時便には間に合わず . 羽田に着いたら、トランプ大統領来日のため、大警戒モードなんやろなぁ😩 . #ana #anaラウンジ . #伊丹空港 #大阪 #osaka . #伊丹空港_羽田空港 #大阪_東京 . #iphonex http://bit.ly/2EvQTT0
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復讐、それは秘密の茶菓会で/07/2011
ぎりりぎりりと縄が絞まり、ひゅうと喉が鳴る。 いくら口を大きく開けてぱくぱくとしてみても、少しも喉に胸に空気が入らない。 縄はゆっくり、ゆっくりと首を絞めつける。
容子はほわりと頭の芯が熱くそして軽くなるような心地がした。 一定の苦しさが過ぎ去ってみると、驚くような快感が脳を占めることに気づく。
それなのに、しばらくすると再び首の縄は弛められた。 ぜはぜはと肺が胸が上下して、息を吸い込む。 苦しい。あまりに苦しすぎる。 いっそのこと、あの感覚のまま殺してくれと懇願したかった。
容子の首を縄で絞めては弛め、また絞めては弛める。 それがもう、ずうっと続いている。 どれほど時間が経ったのか分からなくなるほどなので、この空間だけはまるで時間が歪んでしまったかのようだと思った。
助けて、と声を出して抗っていたのは最初だけで今はもうとっくに諦めている。 この場所は、容子たちのお気に入りの空き家だった。 他に声が漏れないし、人通りもないのでよく何かをするときはこの空き家に集まったのだった。 それを容子たちは”秘密の茶菓会”と称していた。
容子の命の綱を握る男は、まるで般若のような顔をしていた。 悲しみと怒りをその面にひそめたような、底冷えするほどに美しい顔。 容子はこの男の普段の顔を知っていた。 だからこそ、恐ろしい。 まるで別人のような顔に気迫だった。 いや、別人だったのは容子に見せていた方の面だったのだろう。
「君は――約束を守れと。――そう言ったのだね」
そう言うと男は容子の指をそっと触った。 うんともすんとも返事が出来ない、それを見て男はゆっくりと容子の指に重みをかける。
「う――あ――」
ぱきりと小気味のよい音をたてて指が折れた。 ひい、と容子は喉の奥で唸り、自然と涙があふれる。
「痛い?」
その柔らかな微笑みに、容子は底知れぬ恐ろしさを感じながらもこくこくと頷いた。
「どうして、君は、教わるまで分からないのかなあ」
まるでひとりごとのようにそう言うと、再び縄に手をかける。 容子はただただ咽び泣きながら、早く楽になりたい、とただそれだけを待ち望んだ。
真っ暗な闇は安寧な死。
容子は死を持ち詫びていた。
出版社で働き始めて、半年。 インキを敷く作業から卒業した百合子は、麻袋いっぱいに入った野菜のクズを抱えていた。 どれもこれも、少しいたみすぎているようで、ぷうんと酸っぱい匂いが鼻をつく。
「はいはい、餌のお時間よ」
そう言うと金網を押し開けた。 とたんに、くるぽくるぽとけたたましい鳩の鳴き声が降り注ぐ。 下手を打つと鳩たちの糞が降り注ぐので、百合子は最近はもう慣れきっってしまったように麻袋を鳥小屋の隅に放り投げた。 すると一斉に、ばさばさと音をたてて鳩たちが餌をむさぼる。 その隙に、箒で鳩小屋の中を掃き清めた。
「お前たち、美味しいのそれ?」
悪くなった野菜のクズを嬉しそうに食べる鳩たちにあえて問う。 当然答えはなく、一匹がこちらを見て赤い瞳をキョロキョロさせながら首を捻っただけだった。
百合子は、編集者の見習いをしつつ一日の大半を鳩の世話と伝書鳩による伝言の書き留めをしていた。 編集者の見習い、と言ってもまだ原稿には触れさせてもらえず、預かった原稿の枚数を数えたり、汚い字を直して読みやすくするといった程度だった。
(この鳩たちの仕事の方がまだ編集や記者の仕事に近いわ……)
百合子は一回だけ、一人の作家の屋敷に原稿を取りに行った。 しかし、案の定というか編集長も承知の上だったのだろうが、居留守を使われている。 上司らに聞くと、なかなかの偏屈者で書くものは一級だが書く人も一級の変人だそうだ。
洋装の袖の部分をくんくんと臭ってみる。 かなり鼻が慣れてしまったが、どうやら糞の匂いが染み付いているようだ。 はあ、とため息をつきながら空っぽになった麻袋を担いで鳥小屋を出た。
最後の一件の伝書を書き上げ、鳩たちを小屋にすべて戻す。 暗幕をかけて、飲み水が十分にあるのを確認をすると百合子は会社を後にした。
暗くなった東京の街を歩きながら、路面電車に飛び乗った。 比較的空いている時間帯だったのが幸いして、木造の長椅子にふうと腰掛ける。 人が降車しない停留所では甲高くチンチンと鐘がなる。
ぼうっと東京の街並みをながめる。 ビルディングが立ち並ぶ一角で、香水の広告塔が目に入った。 そしてはっとする、周りには数えるほどしか乗客がいないが、鳩の匂いがしているかもしれない。 どぎまぎと緊張するも、路面電車の中は様々な匂いが漂っていた。 機械工の作業着からは油のような匂いや、背広に染み付いた安い煙草の匂い。 革靴の苦いような独特の匂いに、老人のお線香のような渋い香り、若い女性は新しい香水の甘やかな柔らかい香りを漂わせていた。
その様々な生活の匂いに囲まれながらふうと息を付く。 とんとんとゆるやかな振動で、百合子はうとうとと眠ってしまいそうになる。 チン、と停止の音がしてはっと気がつくと家の近くの停留所だった。 慌てて立ち上がり、料金を支払ってから路面電車を飛び降りる。 電車が行き、2、3自動車が通り過ぎるのを大人しく待って小走りで道路を横断した。
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「君、台所は僕の領分なんだ。下手に手出しをしてもらいたくないのだよ。 もういいから、君はさっさと帰るか、それともすぐさま帰るかしておくれ」
瑞人は切れ味の悪い包丁を片手に、ざくざくと馬鈴薯の皮を剥く。 緑の芽が出たところは念入りに刃元で芽をくり抜いた。 袖が水にかからぬように、長い細帯でするりと袂をまとめている姿はなかなかの見物だった。 一方の斯波はいつも着つけているスーツの上着を脱ぎ、白いシャツを袖まくりして瑞人の手元をはらはらと見守る。
「いやはや、殿様の手元が危うすぎて……ああ、――ああ、もう見てられん。 ちょっと貸してくれ、俺がやる」
そういうとついには、瑞人の隙をついて横から包丁と馬鈴薯をとりあげた。 皮を剥いたばかりの馬鈴薯を嬉しそうに水洗いしていた瑞人は興が覚めたと言う風に眉間に皺を寄せる。
「……あのねえ斯波君」
口の端を歪めて嫌そうな顔を露骨にしているのにも関わらず、斯波は得意げにするすると馬鈴薯の皮を剥く。
「ほらどうです?なあに、上手いもんだろ。 ま、俺は成り上がりですからね馬鈴薯の皮むきのひとつやふたつ軽いもんだ」 「僕の話を聞いているかい? どうしてこう暇があるごとに家に来てはご飯を食べて帰るんだ」 「殿様の馬鈴薯……ほとんど身がないじゃあないか。 これでは、もったいないと思うんですがねえ」
斯波の馬鈴薯と瑞人のそれを比べてみると火を見るよりも明らかだった。 しかも斯波の方は、とっとっとと手際よくまるでダンスを踊るように巧みに馬鈴薯を剥いていく。 瑞人は悔し紛れに、竈の火をつついた。
「――。ふん、竈の火には絶対に触らせやしないよ」
その様子を家の外から観察した百合子はまたかと思いつつ、がらりと引き戸を開けて土間に入る。 出来るだけ鳥の糞の匂いに気がつかれないように早足で台所を通り過ぎる。
「ただいま帰りました……」 「やあ、お姫さん!お帰り!」 「ああ百合子、疲れただろう?食事にするかい?」
二人ともせわしな��手を動かしながら、上半身だけこちらに向けて微笑む。 さささと荷物を部屋に置き、桶と手ぬぐいを用意するとにこりと笑って誤魔化した。
「いえ、今日は汗をかいてしまったので先に銭湯に行きます」 「そうか……そうだな。ああ、そうだ。だったら俺も――」
剥きかけの馬鈴薯を放り投げ、台所用の手ぬぐいでごしごしと手を拭く斯波の背中に瑞人が冷たく言い放つ。
「君は、馬鈴薯が、まだ残っているだろう。君がやると言い出したのに途中で諦めるのかい? ――それにこれから人参と玉葱もある」
侮蔑の色を浮かべた瞳に斯波はぐぐぐと唸ると大人しく馬鈴薯の皮むきの作業に戻る。 瑞人の言葉からメニューを推測した百合子は嬉しげな声をあげた。
「まあ、お兄様のライスカレーですか?」 「そうだよ。とびきりに美味しいやつを作っているからね」 「嬉しいわ、では私行って参りますわね」 「うん、ゆっくりしておいでよ」
桶と手ぬぐいをもって銭湯へでかける、最初はそれなりの冒険だったが今はすっかり慣れてしまった。 むしろ大きなお風呂に入れる銭湯の方が百合子は好きだった。 昔の邸では簡単に身体を拭うか、もしくは専用の大きな盥で入る事が多かった。 もちろん、普通の風呂もあったが銭湯ほどに大きくはなかった。
あと角を曲がれば銭湯というところで、一人の男が百合子に声をかける。
「やあ、百合子さん。銭湯ですか?」 「ええ、高遠さんも?」 「はい、なかなかいいお湯でしたよ」 「そうですか、嬉しいわ」
声をかけたのは百合子たちの住んでいる家の斜向かいに住んでいる変人と有名な男だった。 その噂のとおり、今日も瓶底の眼鏡に今日は風呂上りと一目でわかる畳んだ手ぬぐいを頭の天辺にのせている。 くんくんと不躾に鼻をひくひくさせて、百合子に近づく。
「うん?鳥の匂いがしますね」 「あら本当に?嫌だわやはり匂います?」
慌てて服を臭ってみる。 独特の鳥の匂いが染み付いているようだ。 はあと百合子はため息をついていると、男は面白そうに眼鏡の奥の瞳が光る。
「面白い人だなあ、この前まではインキのような匂いがしていたのに」 「ふふ、ずっとインキを敷く仕事をしていたのですわ」
早朝、よく井戸端で会っていた時期を思いだす。 編集の使い走りと、鳩の世話になってからは早起きをする必要もなくなったのだ。
「ああ、新聞者のお仕事ですか――じゃあもう分かった。この匂いは鳩ですね」 「そうです、今は鳩のお世話をしているの」 「聞いてみるとよくよく変わった人だ、あなた���が越してきてから近所中噂になったんですよ。 何やら僕の家にも興味深そうな奥様方が話にきたりしてね」 「あら、そうでしたの?」
百合子は慣れたように答える。 引っ越してきた当初は遠巻きに見られている事に気づいていたが、 仕事が忙しくそれどころでは全くなかった。 そして近所と徐々に打ち解けてきたのは、瑞人がお裾分けをもらったりし始めた頃��った。
「僕も世俗にはまったく興味がないんだけど、そういう噂があると少し興味がありますね」 「そんな大したものではないですわ、申し訳ないけど。 ただ単に借財が増えて爵位を返上した没落貴族の成れの果てです」 「あはは、立派な経歴をお持ちだなあ」 「そういう、高遠さんの方こそ。 町内で変わった人だと噂になっていますよ」 「あ、そうなんですか?あなたもそう思います?」 「いいえ」 「へえ、なぜ?」
男は面白そうに百合子に聞いた。
「だって作家さんって変な方が多いんですもの。 私、編集の仕事をしていますので職業柄慣れていますわ」
その言葉に男は驚く。 飄々とした態度が一変し、慌てて言葉を紡ぐ。
「ど、どうして――僕が作家だと分かったんですか?!」
男の様子に、百合子は少し笑ってしまう。 奇人変人と呼ばれる男でも、動揺してまごついたりするのだなあと思った。
「あら、本当に作家さんでいらっしゃるの? うふふ、少しかまをかけたのだけど当たってしまったわ」 「ぜひ聞きたいな、どうして僕が作家だと分かったのですか?」
桶を持ち直し、うんと考える。 どうしてと改めて聞かれると――答えにくかった。
「そうですわね、作家の方ってね。すごく個性が強いんです。 統計的に作家の方は大半は身なりに気を使わなくて眼鏡の方が多いの。 あまり人の話を聞かないし、いつもぼうっとして、そうかと思えば急にあくせくしたりして――」
編集室で見かけた作家、原稿を取りに通った作家たちを思い浮かべながら百合子は続けた。
「それに、毎朝井戸場で合うときに煙草の匂いとインキの匂いが混ざっていたのに気がついて、 そうですわ、最初それで作家の方かなあと思いましたの。高遠さん夜はずっと起きているみたいだし」 「それだけ、……ですか?」 「いいえ、あとよく高遠さんの右腕とその着物の袖にインキがついていましたし、 それに今私がインキを敷く作業と鳥にかかわる仕事をしていると言ったらすぐに新聞社だと当てたでしょう?」
男はうんうんと考えながら頷く。
「だから、業界をよくご存知の方かしら……って。 あ、それに――その右手の指のペンだこもね」 「ああ、これは――なるほど……」
そう言ったきり、男は急にその場で考えるように顎に手をあててぶつぶつと何か呟き始めた。 この突拍子の無さも作家やもしくは芸術家に多い型だわ、百合子はくすりと笑った。 聞いているかわからないが、一応に声をかけてみる。
「では私はこれで失礼しますわ、湯冷めなさらないでくださいね」
そういうと桶を抱えて小走りで銭湯の暖簾をくぐった。 ぐうとお腹がなる、瑞人はライスカレーだけは失敗しないのだと自慢気に言うくらいライスカレーが得意だった。
湯気のたつ大きな浴槽に肩まで浸かって一息つくと、凝り固まった疲労がゆるゆると溶け出してどこかへ流れ去っていくような感覚を覚えた。 ほう、と吐いた息が湯殿にふわんと反響した。
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自動車の往来を見計らって、道路を渡る。 ある休日に、百合子は鏡子婦人に呼び出された。 場所はいつものホテルのラウンジ、副業である探偵稼業の依頼だった。 人目で鏡子婦人と分かる派手な着物が眼に入る、すると向こうも百合子に気がついたようで明るく手を振った。
「ああ、お姫さんこっちよ、こっち!」 「きょ、鏡子様……」
いまだに百合子のことをお姫さんと呼ぶ鏡子に百合子は困った顔をして頭をさげる。 真っ赤な紅の唇に、白粉をはたいた白い肌。 鏡子婦人は大輪の薔薇のような笑みを浮かべて、百合子を迎えた。
「早かったわね、今日は編集はお休み?」 「はい」 「そう、きりきりと働いているのね。偉いわ」 「そんな、まだまだです!」
百合子は一瞬ちらりと鳩たちの事を思い浮かべた。
「ところで、ご依頼というのは……?」
それがねえ、と鏡子は苦虫を噛み潰したような顔で切り出す。 厄介な内容なのだろうか――。 ここ最近は不倫調査や素行調査、失せ物探しなどの依頼が多かった。 普段の依頼の時とは違う表情に、百合子は少し不安になる。
「ご依頼は、警察官の方――なのよ」 「警察ですか?」 「そうなの、しかもね――なにやらあなたと面識があるらしいの」 「……あ、ひょっとして……」
ぱっと一人の警察官を思い浮かべた。 以前、令嬢誘拐事件の折に知り合った警官だった。それ以外には知り合いの警官は一人もいないはずだ。 しかし、また、どうして彼が百合子に依頼などするのだろう? 不思議に思いながら鏡子婦人の話の続きを聞く。
「ほら、ずうっと未解決の誘拐事件があるでしょう?」 「ええ、三人のご令嬢が行方不明になって犯人が捕まらなかった事件ですわね」 「そうなの。最近はもうめっきりと記事にもならなくなってしまったけど……」
確かに今では別の事件や記事が新聞の紙面を割いており、以前ほどの報道の過熱ぶりは薄れてきているように思う。
「なにせ、身代金の受け渡しに現れないものだから犯人の検挙が難しいらしくてねえ」 「そうですわね」
事件を思い返してみる。 三件とも身代金の受け渡しに失敗していた。 通常、検挙しやすい場面が身代金の受け渡しの瞬間だと言われている。
「それで、その事件をもう一度洗いなおして欲しいということなのよ」 「そういうことなら――分かりましたわ」 「お姫さん一人で大丈夫かしら?ああ、心配だわ――」 「そうですね……大丈夫ですわ。頼もしい助手もいますもの」
百合子はにっこりと微笑むとティーカップの珈琲を飲み干した。
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<<事件概要>>
令嬢誘拐事件
発生日 4月17日 被害者 田中千鶴子 年齢 十五歳 発見時 4月19日 場所 山林 死因 絞殺(首をつった状態で発見) 追記 両親は卸問屋を営む。六人兄妹の次女。 要求 17日夕方に身代金要求の手紙。三千七百円の身代金。 受け取りに失敗。以後連絡なし。 特記 最後の目撃情報から女学校の帰宅途中に誘拐されたと思われる。
発生日 4月19日 被害者 山本容子 年齢 十五歳 発見時 4月20日 場所 公園近くの雑木林 死因 殴打されたような痕あり、死因は頸部圧迫による絞殺 追記 両親は酒屋を営む。二人姉妹の長女。 要求 19日夕方に身代金要求の手紙。身代金は三千七百円。 封筒には本人のものと思われる指が入っていた。 受け取り場所に犯人が現れず受け取りに失敗。 特記 最後に目撃されたのは稽古事の舞踊へ通う姿。 教室へ現れなかったため、途中に誘拐されたと思われる。
発生日 4月20日 被害者 新田香代子 年齢 十六歳 発見時 4月21日 場所 川べり 死因 拷問のような痕ああるも直接の死因は絞殺。後に首を切り落とされる。 追記 両親は高利貸しを営む。一人娘。 要求 身代金要求の手紙がくる。三千七百円用意するも以降に連絡なし。 特記 活動写真を見に行くとでかけそのまま帰らず。
<<事件概要おわり>>
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「なあ、お姫さん。警察がお手上げの事件を一体どうやって洗いなおすつもりだ?」 「……そうですわね。新鮮な目で違う角度から見れば何か分かるかもしれませんわ」
斯波の自動車に揺られながら、百合子は考えをまとめていた。 以前、とある事件のきっかけでこの令嬢誘拐事件のことはよく知っている。 百合子が様々な探偵の心得をまとめた手帳をとりだすと、面白そうに斯波がそれを覗き込んだ。
「それは、一体何を書いてるんだ?」 「もう、見てはだめよ」 「なんだ、意地が悪いな。 別に少し見たって減るもんじゃないだろう?」 「嫌なものは嫌よ。ケチでも意地悪でも何とでも仰って」
百合子の言葉に斯波がむくれたように眉をぴくりと動かす。 その子どもっぽい仕草をみてくすくすと笑っていると、斯波はふいに微笑んだ。 あまりに唐突だったので、不思議に思って斯波に問う。
「どうかして?」 「いや、――まあ、こういう関係も悪くはないな、とね」 「探偵とその助手?」 「ああ」
考えてみれば斯波も相当忙しいだろうに、何故か百合子の探偵業の助手を勤めている。 本人に言わせると、百合子は一人だと何をしでかすかわからないから不安だという事なのだが、 貿易商というのはそんなに暇がある仕事だとは思えない。 金持ちの道楽でもないようだ。
「斯波さんも随分と酔狂でいらっしゃるのね」 「それを言うなら百合子さん、あなたもだろう?」 「あらどうして?」 「編集者の傍ら探偵稼業なんて、奇特な人のやることだ」 「そうかもしれないわね。でも、私が探偵をやる理由はね――」 「理由は?」 「……」 「どうした?」 「言えないわ、ごめんなさい」 「そこまで言っておいて狡いな」 「大切なことなの、言葉に出してしまったら――何かが欠ける気がするの」
言わないのではなくて、言えない。 その事は百合子の胸に隠しておかなければならないような気がした。 また気を悪くしているのではないかと斯波を見上げると、複雑そうに口元を歪めている。
「……まあ、そういう想いは誰しも持っているんだろうな」 「え?」 「なに、俺の話だ」
斯波はひとりごとのようにそう言うと、目を自動車の外に向ける。 苦みばしった横顔が自動車の窓に映った。 百合子は急に居心地が悪くなり、居住まいを正した。 先ほどまでは気にならなかった斯波の煙草とコロンの香りを急に意識し始めてどぎまぎとしてしまう。
(この人――時々急に真剣な瞳をするのだから……)
百合子は自分が戸惑っている理由を斯波に押し付けて、言い訳をした。
しばらくして自動車が停まったのは最初に誘拐された田中千鶴子という少女の家だった。 古くから卸問屋を営んでおり、屋敷は卸問屋街の近くにあった。 江戸から続く日本風の武家屋敷の流れを汲んでおり、黒い甍に白い壁、そして木造の大きな門があった。 当然、自動車を入れるような広さはなく門を一歩入れば美しい緑をした松に大小様々な岩が囲う大きな池のある庭があった。 門の手前で自動車を降りた二人は、警察からの紹介状を下男に手渡す。
「ほう、これはまた随分と古風なものですな」
下男に案内され広い庭を見渡しながら斯波がつぶやく。 池には錦鯉がいくつも泳いでおり、暗い水面を華やかに彩っている。 しばらくすると、当主ではなくその使いが現れた。
「旦那様は店に出ておりますので、全て私が一任しております」 「分かりました。私は、野宮百合子と申します」
モダンな洋装と短い髪の毛に使いの男は驚いたのだろうが、全く顔には出さずに頷いた。
「では、野宮様。客間へ案内いたします」
内玄関から入り、廊下を渡る。 すすと音もなく障子を開けると広い客間があった。 年月に磨かれた座卓はひのきを一本切り出したような大きなもので、黒くびかびかと光っていた。 女中が飲み物を運び終え、障子を閉めると使いの男が切り出す。
「それで、今日はどういったご用件で」 「今回、私がお聞きしたいのはお嬢様のこと――なんです」 「千鶴子様のこと……でございますか?」 「ええ。どのようなお嬢様だったのですか?」
思いも掛けない質問だとばかりに使いの男は言葉につまる。 今まで散々警察を取次ぎしてきたが、その内容の多くは”商売敵はいないか”とか”当主は誰かに恨まれてはいないか”というような内容が主だったからだ。 誘拐され殺された令嬢は単なる不運な犠牲者だと誰もが思っていた。 男は少しつまったが、やがてゆっくりと思い出すように答えた。
「そうでございますね、とても大人しく慎ましいお嬢様でございました」 「そうですか。このお屋敷を見ても思ったのですが、当主様は��風なお方のようですね」 「はい、伝統を重んじるお方で現在の風潮をあまり良くは思っていないようです」 「千鶴子さんも、控えめな女性として教育されていたと――」 「そうですね」
明治の文明開化の音すら響かない静寂の屋敷、きっと当主は断髪するのも嫌っただろう。 時が止まっているかのような印象をうけるのはそのためか。 不意に百合子は真剣な顔つきになって、使いの男に言う。
「今回の誘拐事件は、身代金が目的ではないと思いますの」 「つまり、旦那様を恨んだ何者かによる犯行だと?」
百合子はその言葉にも首を振った。
「まだ、分かりません。 けれど、私――どうして、千鶴子さんが誘拐されたのかしら、と思って」 「それは、女性で力が弱いからだろう?」
斯波が横から口を挟む。
「いえ、たしか千鶴子さんには妹さんが居られましたよね?」 「はい。3つ年下の美代子様が」 「ということは12歳。千鶴子さんよりも美代子さんの方が誘拐しやすいと思うのです。 これは、他のお嬢様方にも言えることなのですが、容子さんもたしか妹さんが居られた」
ぱらぱらと手帳をめくる。
「三人のお嬢様方の共通点を申し上げますわね。 まず、年齢、誘拐された状況、死因、身代金――」
そこまで言ってふと考え込む。
「確か身代金は三千七百円――でしたわよね?」 「はい」 「そうですわね、だいたい東京で家が一軒立つくらいのお値段かしら? 危険を犯してお嬢様を誘拐したにしては少しばかり安くはありませんか?」
指折り数えて計算してみる。 金銭感覚に疎い百合子はいまだに物の値段がよく分からなかった。 それに比べ、斯波は慣れたようなもので、百合子の意見に頷いた。
「そうだな。――だが、まあ三人の誘拐が成功したら一万二千円くらいにはなる」 「でも、失敗しているわ。それに、このキリの悪い数字も気になるの」
一件目の受け渡しに失敗したのなら、次の誘拐ではそれの更に倍は要求しないと意味が無いのではないかと百合子は思った。
「金目的じゃなくて、怨恨の線は俺も同意だ――だが、だとしたらご当主に関する事か商売上のものであって、やはりご令嬢は関係ないんじゃあないか? 確かに、十五のお嬢さんの方を誘拐するのはなかなか骨がいるだろうが、やってやれないこともない。 たまたま、妹さんよりもそちらに目がいったとか、誘拐しやすい隙があった――とか」
斯波の言う事を何度か反芻して考えてみる。 たまたま偶然に誘拐したのか――。 一人目の令嬢が誘拐され、山中で首吊り死体で発見された時のことを百合子は思い出していた。 輪転機がぐるぐると目が回るほど新聞を刷り、事件概要をどこの新聞社も競うように掲載していた。
「三人ともそれはひどく暴行されていたそうなの。 いくら、身代金の受け渡しに失敗したからと言ってそこまで暴力を振るう必要があるかしら?」 「いや、ならず者や暴漢といった類の者たちは得てしてそういう輩ですからね」
ならず者、暴漢。 それは新聞の記事を追えばどこにでも載っている言葉だった。 犯人は数名の組で動いている、とか、いかにもあやしい出で立ちをした男を多数目撃した、とか。 どの新聞も躍起になって、鬼畜のごとき誘拐犯をとりあげていた。 犯人はボロを着たみすぼらしい男とある記事が書けば、いや犯人は黒っぽい洋装を着た怪しげな男のようだ、と���
「私、この誘拐犯は何となく――そういう者たちではないと思っていますの」 「なぜ?」 「だって、斯波さん。あなたがもしもか弱い女学生だと想像してみて?」 「俺が女学生、か。何だか奇妙な気分だが――」
斯波の言葉に、百合子は想像して少し笑う。 彼はか弱い女学生の対極にいるような男だからだ。 ごまかすように、咳払いをひとつする。
「良い?最初のお嬢さんの時はともかく、それ以降は新聞やうわさ話で誘拐事件が持ち切りになっているのよ? もしも、あなたの目の前にそんな怪しげな男達がうろついてごらんなさい?」 「――ああ、成程。あきらかにみすぼらしい身なりの男や、真っ黒の洋装などという如何わしい人間には近づこうとも思わないな。 そう、俺ならむしろ、警戒して敬遠する」
百合子は頷く。そして更に問いかけた。
「犯人は、お嬢さん方を昼日中に拐かしている。 三人とも学校の帰りやお稽古へ行く途中など往来の多いところで――よ。 あなたならどんな人間についていくかしら?」
ふむ、と少し考える。 もしも、自分がか弱い女学生でしかも最近物騒な誘拐事件が起きていると。 それでも、着いて行くとすれば――。
「そう、だな。安心できる相手なら着いて行くだろうな。 例えば、知り合いとか――」 「知り合い、もしくは信頼できるような容姿をした人、制服なんか着ている職業なんかは信用してしまうわね。例えば警察、学生――。 私が思うに、その犯人はきっと普通以上の見た目をしていると思うの。 目撃情報が殆ど無いことからも、お嬢さんたちは抵抗することなく安心してその犯人について行ったのではないかしら」 「令嬢ならば、幼い頃から危機意識は高いはず。そして巷を賑わせている誘拐事件、それでも着いて行くとしたらそれなりの人物――か」
斯波と会話を繰り返すうちに、どんどんと思考が固まってくる。 そう、女だ子供だと言われてもその芯はしっかりしているのが、最近の女学生たちだ。 うかうかと人攫いについていくほど愚かではない。 しかも、千鶴子は使いの男が言うように「大人しく慎ましい女性」だったそうだ。
百合子はその言葉を少しも信じてはいない。 使いの男が嘘をついているのではない、女性は色々な自分を使い分けるのがとても上手いのだ。 例えば、父親の前では大人しく粛々とした女性を、女学校の友達の前では明るい友人として――。
「お聞きしますけど、千鶴子さんは他のお二人と面識は?」 「そうですね、仕事柄お名前は存じていましたが、お嬢様と面識があるかは分かりません」 「女学校は同じでしたかしら?」 「いえ、確かお二人とも違ったと思います」
百合子は徐々に事件の概要が掴めてきた。 やはりこれは、金銭が目的の誘拐ではない。 そして、狙われたのは間違いなく”三人の令嬢自身”だ。 大人しく慎ましい、と称される令嬢がなぜ標的になったのか。
この三人の共通点が分かれば、何かを重要なことが見えそうな気がする。
百合子と斯波は使いの男に案内され、千鶴子の部屋に入る。 和風の調度品で飾られた部屋は、今頃の女学生のものとは思えないほど奥ゆかしい。 町娘と武家娘の身なりをした市松人形に、小さ��和箪笥。 舞踊のための大小様々な扇が開いて飾られ、机には文箱や折り紙が並べられていた。 扇を手にとって扇いでみると、甘やかな良い香りが漂う。
「失礼ですけど、日記などは?」 「ありましたが、奥様がお持ちです」 「見せていただくわけには――なりませんよね」
百合子がおずおずと聞くが、使いの男は困ったように首をかしげた。 その時、障子の向こう側から使いの男を呼ぶか細い声が聞こえた。
「失礼とは思いましたが、お話を全て聞いていました。 ――日記はここにあります、私も読んでみたけれど何も……」 「奥様……ありがとうございます、拝見させていただきますわ」 「ええ……あの子を苦しめた輩を――見つけてくださるのなら私は……」
婦人は青い顔でそう告げた。 百合子は受け取った日記をぱらぱらとめくる。 婦人の言うとおり、特に目ぼしいものはない。 稽古に行ったとか、女学校へ通ったとか、お友達とお茶をしたとか、簡素な文だった。 百合子は日記を文箱の横に置く。 千鶴子はいつもこの机で、文箱の筆を使ってこの日記を書いていたのだ。 そう思うと胸が痛まずにはいられない。 どうして、誘拐されて暴行されそして殺されなければならなかったのか。
本当にならず者や暴漢に偶然目をつけられただけなのか――。
百合子と斯波は屋敷を出て、自動車が停まる往来まで歩いた。 斯波はおもむろに問いかけた。
「どうだい、お姫さん。何か分かったか?」 「そうね……。あの三人に共通点があれば……何か分かるかもしれないのだけど」 「共通点ねえ……。ああ、そうだ三人目の被害者の新田の高利貸し屋がたしかこの往来の近くにあったようだが」 「あらそうなの?でしたら、先にそちらに向かいましょう」
問屋街を抜けて少しあるくと、広い往来に出る。 向かいは銀行やオフィスなどモダンなビルディングが固まって建っていた。 自動車が行き交い、警察が手信号で交通整理をしている。 同じ東京、同じ街でも少し場所が違えばまるで過去と未来を行き来しているかのように、 建物も人間も雑音さえも違ってくる。
新しく建てられたビルディングの一角、銀行の体裁をとった高利貸しだった。 他にも証券や株なども取り扱っているようで、随分と羽振りが良いのか店の構えは一級だった。
「おや、斯波さん。これはこれは――今日はどういったご用件で?」 「いや、今日は仕事ではないんです。ちょっとお聴きしたいことがありましてね」
そう言うと百合子を背で控えさせるように影にすると、慣れたように店主と話を取り交わす。
「それよりも、お嬢さんのことは残念でしたなあ」 「……ああ、そうですな……。 まあこればかりはどうにもならんが、ようやくブン屋どもが散ってこちらとしても助かりましたな」
はははと豪快に笑う。 百合子が憤慨しかけているのを腕でつついて黙らせながら更に問う。
「そう、それで俺の知り合いのお嬢さんも誘拐されてしまってね。 ほら、一人目の田中千鶴子さんという方だ。 少し煮え切らないので個人的に調べているんだが、そちらのお嬢さんと面識があったかな」
口八丁とは彼のことを言うのだろうか。 するすると、嘘に真実をまぜて相手も信用するような巧みな話を創���上げる。 抑揚のついた喋り方や、間の取り方が抜群で、思わず百合子もびっくりしてしまう。 これが一代で貿易商となった男の仕事のやり方なのだ。
(詐欺師にだってなれそうね……)
相手の男はその話を疑うこともなく、聞き入っていた。
「ああ、そう、ええと。何でしたかな、田中? 申し訳ないが、娘のことは家内に全てまかせていましてね。 交友関係などは何一つ把握してはいないんですよ」
がっかりしたというように肩を落とす。 半ば大仰すぎるその仕草に、百合子はやりすぎではないかとはらはらせざるをえない。
「そうなんですか、それでは仕方ないな」 「斯波さんが仕事よりも優先しているとは、よほど大事なことなんでしょう。 よろしかったら家内に電話を入れておきますが?」 「ああ、ぜひそうしていただけるとありがたい」 「なに、いつもお世話になっていますからね。どうぞ、これからもひとつご贔屓に」
はははと斯波は笑って答えるとビルから出た。 しばらく歩いてから、食えない狸爺めと斯波が吐き捨てる。 百合子は少し怒った風に頬をふくらませた。
「あの方――ご自分のお嬢様がお亡くなりになったのに……」
事務的に娘の話をする男に百合子は憤慨した。 しかも、娘のことを商売の取引にすら使ったのだ。 わらわらと腹の底から熱くなった。
「あれは俺と同じ成り上がりですよ。 まあ、あこぎな手を色々使っているという噂だがね。 今の婦人とは政略結婚のようなものなので、外に女を囲っているっていう話だ」
斯波は冷静に言うが百合子はその言葉にも噛み付いた。 豪奢だが品のない店、嫌味らしくもったいぶった喋り方、にやにやと笑う口元。
「あなたと同じではないわ。 それよりも、斯波さん。あの方最後あなたに交換条件で便宜を図れと言ったのでしょう?」 「情報の見返りだ、そう珍しいことじゃない。 あなたが気にすることでもない、それよりも事件を解決することの方が先決だろ?」
百合子は感情に流されてしまった自分に気づき、はっとした。 女は感情的、男は理論的、とはよく言ったものだ。 斯波は基本的には冷静で理論的な男だった。 しゅんと肩を落とす。
「……ああ、もう、またあなたに借りが出来てしまったわ」 「俺は気にするなと言っている。 なぜなら、俺は好きでお姫さんの助手をやっているんだからな」 「気にするに決まっているでしょう?借りはきちんと返します」 「そうか?――ああ、そうだ。 それなら���ても簡単な返し方があるんだがね」
斯波はにやりと笑って自動車の車内で、足を組み直す。 百合子はその顔をみて、ぎくりとしてじりじりと斯波から離れた。
「ああ、嫌だわ――嫌。本当に嫌な予感。 あなたがそうやって意地悪そうな眉をして、口の端をあげているのって――」 「よく分かっているな、お姫さん。さすがは探偵さんだ。 そう、さっきの借りは接吻ひとつで軽く返せますよ」 「ほうら、そう言うと思いましたわ」
つんと横を向く。 百合子は父親の頬以外に接吻などしたことがないのだ。 初めて接吻をこんなところで使ってたまるものか。
「私、初めての接吻は大切にとってますの。 ��家予算くらいお積みにならないと差し上げられませんわ」 「ふうん、なんだ国家予算でいいのか?」 「……斯波さん?」
百合子が呆れたように見上げると、斯波は、はははと笑った。
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新田の邸に行く前に、先に山元酒造へと向かう。 山本酒造は古くから続く酒蔵をもつ酒屋で、 江戸時代の末期には有名な武家御用達の酒屋としても知られていた。
二人は屋敷につくも、当主は留守婦人は園遊会へ出かけているとのことだった。 事前に警察から連絡もあったようで、紹介状を見せると容子の部屋へ案内される。
洋風の机に竜胆の形をした洋燈、読書家のようで本棚には様々な本が配置していた。 開いた棚には色付けされた肖像写真、そして扇。 百合子はそれを見て、はっと気が付き手に取る。 閉じてある扇をぱらと開く。柔らかく甘やかな香りが広がる。
「そう、たしか――千鶴子さんのお部屋にも扇があったわ……」
そして、その扇からも同じ匂いがした。
「何の香りかしら……白檀?――いいえ、違うわ。 けれど、私――どこかでこの香りを……」
容子は稽古事へ通う途中にさらわれたのではなかったか――。 三人の共通点が徐々に浮かび上がる。
「斯波さん、この香り――何か覚えはない?」 「どれ……」
そう言ってはたはたと扇を扇ぐ。 すると、すぐに斯波が閃いた。
「これは、――そうだ。いつぞの夜会で嗅いだことがある。 ああ、思い出した。新しく発売した香水だ」 「香水……」
百合子はその匂いをもう一度深く吸って思い出す。
「ああ、そう、そうだわ……」
かちかちと音をたててパズルのピースがはまっていく。 頭の中を様々な言葉がぐるぐると回り、回る。
「今、電話を借りて確認した。 新田のお嬢さんも日舞の稽古に通っていたそうだ」
十五、六歳の女学生。 大人しく慎ましい令嬢。 絞殺。 広すぎる邸に、疎遠な家族、抑圧された少女たち。 扇には、白檀ではなく流行りの香水。 少女たちの秘密。
「彼女たち――恐らく知り合いだったのだわ。 いいえ、たぶん友人だった――」
二人は自動車に乗り、令嬢たちが通っていた日舞の教室へ向かった。
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(結婚など……嫌よ!絶対に嫌!!)
少女は瞳に涙を浮かべながら、ヒステリックに机の上のものを投げ飛ばした。 がしゃんがんと音をたてて床におちて弾ける。 そうやって不満を発散させてみても、湧き上がる怒りや哀しみは消えなかった。
少女の名前は新道光子、年齢は十五。 結婚するにはやや若いが、光子は華族の令嬢であり物心ついた時にはすでに婚約者がいた。 相手はでっぷりと太って脂ぎった身体に、ぺったりと黒い髪の毛をはりつけた四十路前の男。 会社は紡績をやっており、随分と儲かっているようだった。 桁の違う金遣いに、光子の父と母の方が婚約話に食いついたのだった。 二人が嫁げといえば、光子はそうせざるをえない。 下卑た笑いを口元に浮かべ、目の下のくまは黒ずんでいる。 肌��黄色く染みがぼつぼつと浮かび、口からはすえたような匂いがした。
気味が悪い。 光子は男の話にはいはいとただ大人しく頷くだけなのに、今にも胃の中の全てを戻してしまいたくなるほどに腹がむかむかし、胃がぎりぎりといたんだ。 おまけに、人からの話を聞いたところによると、その男は他に何人も愛妾を抱えているのだそうだ。
その事を母に告げるも、それが当たり前だ、とばかりに叱られた。 誰も彼も、光子の心を理解してはくれなかった。
深爪の汚らしく太い指が、光子の手に触れる。 白い手ですなあ、と撫で回すのを光子は恐怖に震えながら耐えた。
光子はその時のことを思い出してぞっと寒気がする。 本棚に入れていた小説やら雑誌やらも全て床にぶちまけて踏みつける。 それらは、全て偽りしか書いていなかった。
ただ、稽古用の扇。 それだけは、唯一清廉で高潔なもののように思える。 光子は扇を持つ白い手を思い出した。 稽古で通っている舞踊の師で、東山のながれを汲む男。 涼やかな目元に、通った鼻筋――美しい所作に目を伏せて喉で笑う声。
たった一度、扇の持ち方を指摘された時にわずかに指が触れた。 ほんの僅かな瞬き程の時間なのに、光子はそれを繰り返し何度も思い返す。
(あの男なんかとは――何もかも違う)
繊細な白い指、桃色の美しい形をした爪。 誰もが彼のことを懸想していた、もちろん光子も――。
舞の振りを覚えるようごまかして、光子はただただその男を見つめていた。 だから、他の女たちの視線もよく分かった。
稽古にいそしむ令嬢たち。 時々話す内容は持っている扇の柄だとか、髪留めだとか――。 光子は三人の少女たちと仲良くなっていった。 そして光子たちは茶菓会と称しては、家では絶対に許されないような雑誌やお菓子、 化粧道具やら舶来物の酒やらを持ち込んで秘密の集会を開いていた。
親に家に抑圧された少女たちは、何か一つの秘密を共有したかったのだ。 自分が自分でいられる場所をつくり、ただただ今その瞬間を楽しむための場所が。
茶菓会の同志である容子が使っていない洋館の鍵をくすねた。 洋館の家具を綺麗に磨き、茶器や雑誌や本などをそれぞれで持ち寄っては稽古の帰りに寄っていた。 午後の陽気に包まれた洋館は埃っぽく、微睡むほど暖かい。
「ねえ、ごらんになって。この間の園遊会の時の写真よ」 「まあ、あなた吉岡先生と一緒にお写真を?」 「そうよ。自然にお誘いするのすごく難しかったのだから。 妹も一緒に写っているけれどね」 「もう、卑怯者!抜け駆けは禁止と言ってるでしょう?」 「うふふ、私これを一生の宝ものにするわ」 「ああ羨ましいわ……」
少女たちは代わる代わる写真を覗く。 色を付けていない白黒の写真に、千鶴子とその妹の美代子そして吉岡が写っている。 容子はうらやましそうにその写真を眺めながら、ふと光子が暗い表情���しているのに気がついた。
「光子さん、どうかしたの?」 「……ううん、少し――考え事」
そう言って自分の手をぎゅっと握った。 千鶴子は手鏡を見ながら髪をおろし、束髪くずしを挑戦している。 家が厳しく、束髪以外の髪型は出来ないがここでだけは違った。
「ねえ、ホットカーラというのでこう髪をウェーヴするのも素敵ね」 「ほんと、そうしたら、この表紙のみたいに……」
そう言って香代子は雑誌を楽しそうにぱらぱらとめくった。 美しい花柄のスカーフやハンカチ、夜会用のレースの手袋……。 そう言えば、と香代子は切り出した。
「教室にね、下女がいるでしょう?」 「下女?」 「ええ、ほら。何だか冴えない感じの――いつも舞の後にお掃除をしている子よ」 「……ああ、分かるわ。口がきけないのよね」 「あら、そうなの?」 「口はきけるわよ、たぶんね。いつか返事しているところを見たから」 「それで、その下女がなんだというの」 「あら、いけない。そうそう、あの下女がね。 吉岡先生のハンカチを持っていたのよ。 私、稽古が終わってから先生がハンカチで汗をお拭きになるのをみていたから 同じ物だと思うわ。見間違いではないと思うのだけど……」 「ふうん、下げ渡したのではないの?」 「……盗んだんじゃないかしら?その下女が」
気怠そうにカウチにもたれかかり、持っていた本をぱたりと閉じて。 不意に光子が口を挟んだ。三人は驚いて光子を見る。
「その下女、私も知っているわ。いつも教室の影から先生を見ているでしょう?」 「そうなの?」
光子の言葉に少女たちはくすくすと笑う。
「ああ、おかしい。それが本当だとしても先生に懸想するなど下女のくせに身の程を知らないのね」 「じゃあ、先生の見えないところでこっそりそのハンカチを盗んだのね」 「まあ、それでは泥棒だわ。ああ、いやだいやだ」 「ねえこれだから、下々の者は」 「ほんと嫌になるわ、よりにもよって先生のハンカチを盗むなんて……。 そんな下女が私たちの荷物を預かったり、床を磨いたりしていると思うとぞっとするわ」 「ねえ、いいことを思いついたわ。それを取り返して先生にお返ししてさしあげましょうよ」 「そうよね、先生もきっとお困りだわ」
少女たちは名案だとばかりに手を打った。 そして、次の稽古の後その下女を呼び寄せた。
「な、何か私――失敗をしたんでしょうか」
その怯えて声が震える様子に四人の少女はくつくつと笑う。 下女は赤い頬に黒い髪を後ろで括り、粗末な着物を着ていた。 香代子はその言葉の調子にわずかに違和感を感じて問う。
「あら、お前変な喋り方をするのね。お国はどちらなの?」 「は、はい――岡山です……」 「まあ、そんな田舎から東京まで奉公に来ているのね」 「ふふ、変な訛りね。ねえ」
そう言うと下女はかっと顔を更に赤くした。 すみませんと頭を下げ、今にも泣き出しそうに涙を浮かべている。 少女たちはその様子にさらに嗜虐心が揺さぶられる。
「ねえ、あなた先生のハンカチを持っているでしょう?」 「え?」 「岡山ではどうかは知らないけどね、東京ではね人の物を盗んではだめなのよ?」 「ち、違います!――盗んだなんてとんでもない!!」
その言葉に少女たちはいらいらと足を踏み鳴らした。 下女ごときが自分たちに反対意見を言うなどと、さっさと��を床にこすりつけて謝ればいいのだ。
「では、何だというの?落ちていて拾ったの?」 「いえ、あの、せ、先生がくだすったんです――」
蚊の鳴くような声でそう言うと、少女たちは再び声をあげて笑った。 面白くもない冗談だ。 嘘をつくにしても、もっとマシな嘘をつけばいいのに。 千鶴子はその嘘にのってやるように、意地悪そうに瞳を輝かせた。
「嘘おっしゃい、どうして先生があなたに?」 「きっと、同情したのね。その赤土にまみれたお顔を拭いなさいと」
あははと少女たちが口元を手で隠して笑う。 意地悪そうに容子がそう言うと下女は堪忍してくださいとばかりに着物の袖で顔を拭った。 光子はどんと下女の肩を押して言い放つ。
「どちらにせよ、あのハンカチはねお前のような人間が持っていいものじゃないの。 私から先生にお返しするから、早く出しなさい」 「……で、も。でも――」 「物分りの悪い人ね、さっさとだしなさいよこの愚図!」 「――あ、か、返して――くださ……」 「下女の分際で何を勘違いしているのかしら?」
下女と舞踊の師が釣り合うはずがない。 そんなのは夢物語か、流行りの恋愛小説ぐらいなものだ。 令嬢たちですら、その淡い恋ごろろを胸の奥底に秘めているだけだというのに。
「お、お願いします。何でもしますから……どうか、どうか……」 「へえ、何でも?」 「はい……」
その言葉に光子はううんと唸った。 こぢんまりと身を竦める様子に、暗く笑う。
「ねえ、ちょうど茶菓会の女中がほしいと思っていたのよね」 「そうねえ、あの洋館ちょっと埃っぽいし、紅茶を入れるのも大変だしね」 「ちょっと、私は反対よ。こんな下女をあそこに招くのなんて」 「招くのではないわ、ちょっと雑用をさせるだけよ」 「あ、そ、掃除なら……得意です!」 「お前紅茶は淹れれる?」 「はい!」 「なら、それをやれたら、このハンカチを返してやってもいいわ」
光子たちは柔らかく微笑む。 けれど、もちろん光子はそのハンカチを返してやるつもりはなかった。 愚鈍な下女。 それは、化粧道具やお菓子の少女たちの暇つぶしの道具のひとつだ。
四人でいるうちに、誰がというわけではないが次第に要求は増えていった。 誰が主犯というわけではない、誰が命令したというわけでも――。 ただ、古ぼけた洋館の閉塞的な少女たちの秘密の茶菓会はある事件をきっかけにお開きになった。
「おまえ新しい香水買ってきた?」 「はい……」 「わあ素敵。――邸では絶対に買ってくれないわ」
はちみつ色の液体がゆれる豪奢な香水瓶を手にとって、蓋をあける。 ふわと甘やかな柔らかい香りに、香代子はうっとりとした。 いくら家が金持ちだと言っても、少女たちが自由に使える小遣いなどたかが知れいている。 新しい香水はそれこそ、普通の人の給金の半年分ほどかかった。
「ああ、この練習用の扇に少し垂らしてみましょうよ」 「いいわね。私白檀よりもこちらのほうが素敵だと思うわ」
秘密を共有するように、扇に香水を垂らす。 そして、はたりと扇ぐと芳しい香りがふうわりと優しい風になる。
「素敵よ、ああ、素敵だわ……」 「私のにも落としてくださいませ」
少女たちは笑いあいながら扇をはためかせる。 下女は遠慮が��に、口を開いた。
「あのう……」 「ああ、お前はもう帰っていいわよ。 紅茶は入れておいてね」 「あの、あの……」 「なあに?」 「あの、ハンカチを――」
光子は下女のとろくさい喋り方にいらいらとした。 ハンカチは光子が持っていたし、もちろん下女に返すつもりもない。
「ああ、先生にお返ししておいたわ。 盗まれてしまって困っていたと仰って、ありがとうと言って下さったわよ」 「うそ……嘘です!」
光子はかっとした。
「本当よ!!」 「だって、あのハンカチは誠司さんがあたしにくれるって言うたんです!!」 「誠司――さん?」
吉岡の名前だった。 不愉快気に眉を吊り上げて、ぱちりと扇をしまう。 すたすたと下女に近寄り、真っ赤な頬に扇をぺちりとあてた。
「お前、何様のつもりなの?先生のことを名前で呼ぶなんて」 「……すみません……」
下女は光子に謝ったがその瞳はどこか怒りと憎しみを湛えていた。 光子の心のなかに一抹の不安がよぎる。 思春期独特の危うい勘の良さ、けれど光子はその思いを否定するしかなかった。 その不安を認めてしまったら光子の全て何もかもが瓦解してしまう気がしたのだ。 そして認めないためには、徹底的に相手を詰ることしか出来なかった。
「本当に悪いと思うなら、きちんと謝罪しなさいよ。 おまえね、いつもびくびくおどおどしていて、そのくせそんな目をして。 私、とっても不愉快だわ」 「――申し訳、ございません」 「ねえ、お前が先生に懸想しているのは知っているわ。 でもね、お前のような者はそういう気持ちを抱くことも許されないのよ?」 「……」 「ねえ、なあにその目付き。私何か間違ったことを言っている?」 「……吉岡様は……人を身分で分けたりなさいません……」
普段はおどおどと怯えるように喋っている下女が妙にきっぱりと言い放つ。 その言葉に少女たちはわずかにたじろいだ。
「先生の事を言っているのではないのよ。 おまえに”わきまえなさい”と言っているの」 「気持ちを……抱くことも許されないのですか?」
光子は腹が立ってしようがなかった。 華族の令嬢である自分でさえ、吉岡のような理想の男性と恋仲になることはできない。 そして、家のため金のために嫁ぎたくもない老人に嫁いでその子供を生まなくてはならないのだ。 下女の言葉や行動の端々から、二人は恋仲なのかもしれないということは伺いしれた。 おそらく、他の少女たちは気がついてはいないだろうが。 どうして、この下女が吉岡と想いあうことが出来、自分には出来ないのか。 吉岡の一時の気の迷いか遊びではないのか、いやそうであってほしい。 自分が恋焦がれる青年が、下女などと恋仲になるはずがない。 そう思って、自分を支えては慰める。――だというのに、この下女はあからさまに吉岡を庇うように正論を吐き捨てる。 それが光子は気に入らなかった――下女が彼を深く理解しているように思えて。
「あのハンカチは……私が吉岡先生からいただいたものです。 返してください――どうかお願いします」 「だから、”ない”と言っているでしょう。先生にお返ししたもの」
光子は嘘をつき続けながら、ハンカチをしまっている胸元が不思議に痛んだ。 それを見抜くかのように、下女が光子にせまる。 光子はしめたとばかりに、広げた扇で下女を押し返した。
びっ。 紙の破れる音がして、こつんと扇が落ちる。 下女はあわてて下がったが、その足は扇を��んでいた。
「何するのよ!大丈夫?光子さん!」 「す、すみません!」 「おまえ――謝ってすむと思っているの?! 逆上して襲いかかろうとするだなんて……!」 「光子さん、大丈夫?お怪我はない?」 「ええ、でも――お祖母様の扇が――」
そう言って光子は顔を手で覆う。 肩を震わせ、よろよろとその場にしゃがみこんだ。 下女は真っ青になってその扇を拾おうとするがそれを香代子が諌める。
「触らないで頂戴!」 「お前、大変なことをしたわね……。 光子様のお祖母様ご存知でしょう?東山の傍流の名舞手であらせられたのよ? その扇を――破ったばかりか足蹴にするなんて……」 「本当にすみません!!私、弁償します!!」 「おまえね、おまえの卑��い金などですむと思っているの? これは、お前の一生分の働きでだって、お前の命でだって補えないほどの扇なの!」 「……だから、私はおまえにわきまえろと言ったでしょう? こうなっては私一人の問題ではないわ。お父様やお母様にご相談しなくては」
光子は神妙にそう言うと、下女は顔面蒼白だった。 その様子に光子はようやく満足した。 下女がこの先どうなろうが、もう光子には関係ない。
「そんな……そんな……私一体どうしたら……」 「私もそれほど鬼ではないわ。 お父様やお母様には内証にしていてあげる」 「本当ですか?」 「ええ。――こっそり修繕してもらえば誰も気がつかないわ。 だから、その修繕費をおまえが負担しなさい」 「でも、私――」
そういうと、香代子がにっこりと笑った。
「あら、大丈夫よ。お金なら家のお父様が貸してくれるわ。 私の知り合いだからと言うときっと勉強してくださるわよ」
容子の申し出に下女は深く腰を折って礼を言う。 光子は笑い出しそうになるのを止めることが出来なかった。 この下女は香代子の父が高利貸しの仕事をしていて、どんな金利でそれを貸しているのか全くしらないのだ。
「それから、これからもう二度と先生に近づかないとお約束なさい」 「……はい」
光子の父も母も娘である光子がいつも稽古で何をしているのか、どんな舞を舞っているのかさらさらに興味がない。 祖母の大切な扇というのは本当だが、蔵で埃を被っていたものを光子が見つけて勝手に持ち出しただけだった。 これで安寧な気分に戻れ、また面白い暇つぶしが出来た――と光子は胸がすく思いで微笑んだ。
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「こんなの逆恨みよ……逆恨みだわ……!!」
光子は自身の部屋に閉じこもり、何かを恐れるかのようにぶつぶつと言い訳する。 その後、伝え聞いた話では高利貸しで借りた金の金利を払うことができなくなり下女は女郎屋に売られ、その後自殺したのだという。 話を聞いたときも光子は何も感じなかった。 むしろ、せいせいしたとすら思った。 あの下女が、見も知らぬ男たち相手に身体を売っているのかと思うと、光子自身の境遇もそれほど不幸ではないと思えたからだ。
しかし、それから半年が過ぎる頃に異変が起き始めた。 友人の一人であった千鶴子が誘拐されて殺されたのだ。 その事件があっても稽古には通った、そして教室を見渡して容子が欠席している事に気づく。 そしてやはり誘拐して殺された。 光子はこっそりと新聞に目を通す。 すると驚くよう��記述があったのだ――。 二人は三七〇〇円の身代金を要求され、そして首を絞められて殺されていたのだ。
光子はこれは何かの因縁のような――怨念のようなものを感じた。 その事をこっそりと香代子に伝えるも、彼女は偶然だろうと話を聞かなかった。 身代金は金利の額、そして絞殺は首吊り自殺、両方ともあの下女を想起させた。 いよいよに、香代子まで誘拐されてしまうと光子は一歩たりとも外出をしなくなった。
女中たちが気味悪がるほど痩せて憔悴していった。 まるで、呪われているようだ。光子は震えながら泣く。 ふと窓をみると、その端に白目を剥く下女の顔が見える。 鏡に、真っ黒な髪をした下女がふっと映る。 「お前が殺した」「次はお前だ」――と幻聴が聞こえてきた。
気が狂って死んでしまいそうだった。 光子は慌てて香を焚く。 その香りを嗅いでいると、不思議と心が休まった。 翡翠で出来た美しい香炉。 その綺麗な青緑の造形をみていると、舞の師を思い出す。
光子はあの後すぐにハンカチを吉岡に手渡した。 落ちていた、と嘘をついて――すると、やはりなくして困っていたと微笑んだ。 光子はそれだけで心が満たされたのだった。 やはり、あの下女と吉岡が恋仲などであるはずがなかった。 そしてつい一ヶ月ほど前に、その時のお礼ですとこの香炉をくれたのだった。 その時の光子の喜びは、言い表せないほどだった。
燻らせる煙は、甘い甘い香りがした。
うっとりと、その香りに包まれながら目を閉じてうとうととしていると廊下が騒がしい。 どんどんと扉が叩かれて、光子は気だるげに身を起こす。
「なに?」 「光子さん、失礼しますよ!」
そう言って怒鳴るように扉を開けたのは背の高い赤っぽい髪をした男だった。 まったく見知らぬ男性に、光子はわずかに動揺する。
「あなた――誰?」 「……何だ……この甘い匂いは……」 「斯波さん!あれ……」
男の影に隠れていた女が、翡翠の香炉を指さした。 部屋に光がさして見ると、もうもうと煙が充満しているのが分かる。
「阿片だ!お姫さん吸うなよ!」
男はそういうと翡翠の香炉を持ち上げて中身を床に捨てて革靴の底で踏みにじった。 光子は慌ててそれを止めようと男を押しのける。
「な、なにするの――?!」 「これは阿片だぞ!分かってて吸っているのか?!」 「あへん……?」
少し聞いたことがある、確か常習性のある毒ではなかったか。 どうして――そんなものを吉岡は――。 いや、この男は何か思い違いをしているのだ――きっとそうだ。
「窓を開けるわね!」
閉めきっていたカーテンをざっと引かれ、窓が開け放たれる。 暗闇に慣れきっていた瞳を陽光が刺した。 とっさに扉のほうに目を向けると、そこには黒髪に白い肌切れ長の目をした男が立っている。 舞の扇を持たずとも、ただ凛と立っているだけなのに華やかで香り立つような美しい容姿。
「吉岡先生?」 「光子さん、お久しぶりだね。具合はよくなっている?」 「ええ、ええ。先生のくださった――」
そこまで言うと吉岡は目を細めて、光子の唇に指をあてた。 ひやりと冷たい白い指先。 光子はどきりとしてうっとりとその美しい所作に魅入った。
「それで――名探偵さん。 私があの三人を殺したという証拠があるのですか?」 「いいえ、悔しいけれど何一つ証拠はありませんわ」 「ああ、でもな。このお嬢さんが証言してくれる筈だ。 あの洋館であったこと、そしてこの阿片の香炉についてな――」
光子は斯波という男の言葉に再び痙攣するほどに不安が蘇る。 吉岡はその震えを察して、ぎゅっと手を握った。 はっとして吉岡を見上げると、その能面のように美しい顔が近い。
「あくまで想像ですが、あなたと美帆子さんは――恋仲だった。 けれど美帆子さんはなぜか高利貸しから莫大なお金を借りてそしてその金利が返せずに、 舞の見習いを止めて女郎屋に身を売った。……そして首を吊って自殺した」 「あなたは岡山の後楽園での舞い踊りで美帆子さんと出会った。 そして、彼女の中に類稀な舞の素質を見出した――そう聞いています」 「そう、彼女は稀代の舞手になれる子でしたよ……けれど、恋仲ではない。 私がね、恋焦がれていたのはこの――光子さんなのだから」
吉岡はその美しい微笑みを光子に注いだ。 まだ夢を見ているのだろうか――幻覚を見ているのだろうか? 光子は、あまりにも現実離れした展開に、心が付いていかなかった。
「光���さん!騙されてはいけません! 三人を殺したのは――この吉岡先生です!」
女が必死に言えば言うほど、それは空々しく聞こえた。 吉岡が、あの三人を殺した? そんなわけあるはずがない――吉岡の手は驚くほど白く高潔だ。 一点の染みもない。光子はその手が好きだった。
「先生……」 「光子さん、心配しないで。 彼らは私を犯人に仕立てあげたいだけなのでしょう」 「そうよ、……そうだわ。 先生が人を殺すなんて……ありえない。 あの三人は――亡霊に殺されたのよ……」 「では、この阿片の香炉はどう説明する?」 「――私があげたものじゃあないよ、ねえ光子さん?」 「ええ、そうですわ。これは何かの間違いです」
そう言うとまるで上手く振りが舞えたときのように、吉岡は優しく微笑んだ。 光子はそれだけで幸せだった。
「では、証拠がないのなら私は無罪放免ですね」 「……」 「お姫さん……」 「そうね、光子さんの証言がなければあなたを捕らえることは出来ないでしょう――絶対に」 「では、お帰り頂けるかな。私は光子さんに大事なお話がありますからね」 「……まさか、光子さんを――」 「何を想像しているのやら、無粋な人ですね。 ただ、私の思いを正式に告げるだけですよ」
ぱあと光子は顔を輝かせた。 やはり先程の言葉は夢ではなかったのだ。
「光子さん、お気をしっかりしてくださいませ!」
女の言葉はもう耳に届かなかった。 女中を呼び寄せてさっさとお帰りいただくと、吉岡はふわりと壊れ物を抱くように光子を抱いた。 考えられなかった、まるで本の中の物語のようだ。
「やれやれ、すっかり順番を間違えてしまったな。 光子さん、私の伴侶になっていただけますか――?」 「はい……はい!」 「よかった……とても緊張しました。 今は――時期が悪いから一ヶ月ほどしたら公表しましょう」 「一ヶ月も?」 「ええ、それまでは私と光子さんとの秘密です」 「――ええ、先生分かって��ます」 「ほら、その先生はお止めなさい」 「誠司――さん」 「そう、よく出来ましたね。 それから、こうやってカーテンを閉めて窓を閉じっぱなしはいけませんよ。 東山は風の様に舞い、が信念でしょう?」 「ええ、ええ。心得ておりますわ」 「いつもこうやって、窓を開けて風のそよぐ中に身をおいて――」
吉岡は光子を抱きしめたままその唇に接吻を落とした。
(幸せだわ……)
光子は愚かではない。そして思春期の少女特有の勘の良さを持つ。 だからきっと彼女は全てどこかで理解していた。それでも、それを認めようとはしなかった。
時に”幸せ”とは――そうしたものだろうから。
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「お姫さん!今日の新聞見たか!?」 「新聞……?」
斯波は建付の悪く滑りにくい引き戸を強引に開けると、靴を脱ぎ捨ててどすどすと居間へあがった。 部屋はすっきりと片付いており、荷物はもう全て運びだした後だった。 結局、犯人を検挙することが出来ず――それでもそれまでの報酬を受取り、ようやく仮住まいから鏡子婦人の用意してくれた家へと引っ越すところだったのだ。 荷物と言ってもそれほど多くはなく、生活用具や着物、あとは少しの家具だった。 百合子はようやく荷物をまとめ終えて、一息着こうとしたところだったのだ。 その居間の卓上に、ばさりと新聞を置く。 三面記事の端に、見覚えのある名前があった。
「これ……」 「飛び降り自殺――だそうだ」
見出しは『気ノ狂ッタ華族令嬢、投身自殺!』の文字があった。 名前は新道光子――ああ、と百合子は手を握りしめる。
「私――助けられたのに――もっと注意を促しておけばよかった」 「一応、両親や邸の人間には注意をしていたんだ。 これ以上、どうしようもなかっただろう……」 「いいえ、いいえ。どうして、光子さんには直接手をくだせないと分かっていた―― だとしたら、方法はこれしかなかったというのに――」
光子は極度の阿片中毒だった。 その副作用は幻覚、幻聴――。
「急に阿片を断っては、その幻覚作用が出ると――少し考えれば分かったのに……」 「その事は家の人間も気をつけていたさ」
記事によると、光子は亡霊に殺されると騒ぎ立て、そのまま逃げるように窓から外へ飛び降りたのだという。 家の女中が窓を閉めても、光子は自ら窓を開けていたと書かれていた。
「それにな、皮肉なのは次の記事なんだが」
そう言うと斯波はぺらりと新聞をめくる。 大きな写真で舞を踊る男が映っていた。
「稀代の舞手覚醒、吉岡誠司――鬼気迫るその舞、か」
写真からも彼の気迫が届くようだった。 扇を持つ手は白く、そしてその顔は般若のように美しく恐ろしかった。
「それじゃあ、これで荷物は最後だな」 「ええ、もう私だけ」 「では……出発しよう、お姫さん。さあ、自動車に――」 「あ、ちょっと待ってください」
斯波が自動車の扉を開けるのを止めて百合子はかけ出した。 ぽっくりぽっくりと下駄を鳴らしながらこちらに来る男を見つけたからだ。
「高遠さん、すみません。ご挨拶も出来ずに……」 「ううん、ほんとは居たんですけどね……居留守を使っていました。 今でないと書けないと思ったから――」
そういうとへろへろにくたびれた茶封筒を百合子に手渡した。
「引っ越し祝い――です。まあちょっとした餞別にと思って」 「あら、何かしら……」
百合子はずっしりと重たい茶封筒を開封して一枚目の白紙をめくり、目を見開く。
「これ――」
そこには、何百枚という原稿用紙が入っていた。 そして、題名と作者の名前がミミズののたうちまわったような字で書いてある。 悪筆を修正する仕事をこなしていた百合子には、そのみみず文字が何と書いているのかすんなりと理解できた。
「高遠さんが流星先生だったのですね――」 「そうです。あちらの屋敷にいると編集者がうるさくて時々こちらの長屋に逃げているんです」 「まあ、どおりで一度も捕まらないはずですわ」 「編集長には、くれぐれもこれからもよろしくとお伝えください」 「はい……!ありがとうございます、何よりの餞別です!」
百合子は、初めて受け取った作家の原稿を抱きしめて微笑んだ。
そして、翌日。 戦争のような編集部にいる鬼の編集長を百合子が呼び止める。 編集長はどうして鳩小屋の掃除婦がここにいるのかというような顔で百合子を一瞥するが――。
「あの、これ――流星先生の原稿をお預かりしてきました!」
という言葉で、騒然としていた編集部内が急に水を打ったように静まり返った。 わずかにげほんげほんと誰かが煙草をむせてしまった音だけが響く。
「流星先生の――?!」 「はい!編集長に、くれぐれもこれからもよろしくとのことです……」 「……お前、その意味が分かっているのか?」 「はい?」
社交辞令ではないのか?と百合子は首を傾げる。
「流星先生が――うちの出版社と専属契約してくれる、と言う事だ!」
そう言うと、どんと百合子の肩を叩く。 いや、よくやったという意味だったのだろうがあまりにも強すぎて一瞬だけ息が止まる。 編集部内が一斉にどよめきたち、びびびと安いガラスの窓枠が振動する。
(高遠さん……これのどこがちょっとした餞別なのよ……)
雑多として煙草の煙がもくもくと充満する編集室、そしてその隅っこに机が置かれる。 野宮百合子、編集者としての第一歩を踏み出したばかりだった。
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