#インターホン一体
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upfunnow · 9 months ago
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売り専を呼んだら友達だったw
前から気になってた売り専ボーイを呼んで、いつもより多めの30をプスっと突いた。
一瞬で全身に効いていくのがわかる。ふぅ…と一息ついて変態モード。それからすぐにボーイさんが到着。
インターホンの画面には知ってる顔が…
部屋のドアを開けると、やはり友達だったw
お互い えっw となったが一先ず部屋に上がってもらい、ビックリだね笑なんて話をしつつ俺は変態モードなのでとりあえず一緒にシャワーを浴びる事にした。
GOGO BOYもしている彼の身体は筋肉の上に程よく脂肪が乗ってまさに理想的な体型。
俺が彼の身体をいやらし��触っていると、彼も俺の身体をいやらしく触ってきた。
彼は勃起した上反り太マラを俺のケツに当ててきたので「早くチンポ挿れてほしい…」と言うと
そのまま押し当てて生挿入。「すぐ入っちゃったね。どんだけ掘られてんの?笑」と言いながら犯された。
「すげーよ。このケツマンコめっちゃ気持ち良いw」と気に入ってもらえたようだ。
シャワーを出てベッドへ。
「てか、キメてる?w」と聞かれ頷くと「だよねw俺も好きw今度キメて一緒にヤらない?」とまさかのお誘いにもちろんOK🙆
生チンポでガン掘りされてアンアン鳴いている俺。
キマってるし、相手は友達のGOGO BOYだし、普通に生掘りされてる状況に頭が追い付かないが身体は感じまくり。
奥を突かれたら潮吹きしてしまった。我慢出来ず突かれる度に出てしまう…
彼はそんな俺の姿に興奮したのか「イクよ。中に出すよ!あーーイク!!」と種付け
挿入されたまま「すげー変態マンコ。気持ちよかったw」
「前から顔タイプだったけど、脱いだらエロい身体してるんだねww」
やたらと褒めてくれた。さすが売り専ボーイ…
「次の予約で終わりだから、後で続きしない?」と聞かれ後ほどまた会う事になった。
続く
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kennak · 10 days ago
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長らく問題視されてきた「プロパンガススキーム」が、ついに全面的に禁止される。 プロパンガススキームとは、賃貸住宅のオーナーがガス供給契約を結ぶ代わりに、プロパンガス事業者から給湯器やエアコンをはじめとした設備の無償貸与を受けること。 オーナーが利益を得た分が、最終的に入居者の負担となっている点が問題になっていた。 このプロパンガススキームを前提に賃貸経営を行ってきた不動産投資家は、今回の改正により「年数百万円レベルの経費増加になりそうで痛い」と本音をこぼす。 今回の規制で何がどう変わり、不動産投資にはどのように影響してくるのか。投資家やプロパンガス事業者の声から探っていきたい。 ■「プロパンガススキーム」はなぜ封じられた? プロパンガス業界では、「大口顧客」である賃貸住宅オーナーを取り込むため、オーナーが所有するアパートなどに、給湯器やエアコンといった高価な設備をタダ同然で提供する慣習があった。 オーナーが契約を結んでくれれば、ガス事業者は一度に複数の供給先を獲得でき、設備費用はガス料金からコツコツ回収していける。 ガス事業者から便宜を受けることで、リフォーム費用を浮かせたり、安価にバリューアップができたり、オーナーにとってのメリットも大きい。 こうした手法は不動産投資家の間では「プロパンガススキーム」として知られ、都市ガスの供給エリアでも、あえてプロパンガスを契約したり、より豪華な設備を提供してくれる会社に切り替えたりするケースもあった。 一方で、このような設備の無償貸与が行われると、その分が入居者の支払うガス料金に上乗せされることもあった。オーナーが設備提供などで利益を得た分が、最終的に入居者の負担になっている点は、長年問題視されていた。 経済産業省は、設備の無償貸与などが「正常な商慣習を超えた利益供与」であるとの見解を示し、2024年4月には賃貸集合住宅向けのガス料金に設備の費用を含めることを禁止すると発表した。 「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律」(以下、液化石油ガス法)の施行規則の改正だ。 ■改正省令でどう変わった? 罰則適用も 改正内容は3点、「過大な営業行為の制限」、「プロパンガス料金等の情報提供」、「三部料金制の徹底」だ。 これらは2段階に分けて施行となっており、前者2つについては2024年7月にすでに施行されている。残る三部料金制の徹底は、2025年4月2日の施行だ。 (1)過大な営業行為の制限 プロパンガス事業者が、不動産オーナーや建設関係者などに対し、ガス消費に関係のない設備の無償貸与やキックバックなどを行うのは、「正常な商慣習を超えた利益供与」だとして禁止された。同時に、消費者が事業者を選択しやすい環境を整備するため、事業者の切り替えを制限するような条件付きの契約を締結することも禁止となった。 (2)プロパンガス料金等の情報提供 賃貸物件への入居希望者がガス料金などの情報を入手できるよう、入居希望者へあらかじめガス料金を提示することがプロパンガス事業者の努力義務となった。また、入居希望者から直接情報提供の要請があった場合は、事業者はそれに応じるよう定められている。 (3)三部料金制の徹底(2025年4月2日施行) プロパンガス料金の透明性を高めつつ、費用回収のあり方を適正化するため、事業者が消費者に料金を請求するときは「基本料金」「従量料金」「設備料金」の3つに整理して通知するよう義務化される。 4月2日以降は、ガスと関係のない設備費用をガス料金に計上すること自体が禁止となり、賃貸住宅はガス器具についても計上禁止となる。 な��、上記に違反したプロパンガス事業者は、液化石油ガス法に規定される罰則(立入検査、事業者登録の取り消し、30万円以下の罰金など)が適用される可能性がある。 上記3点の改正とは別に、経産省資源エネルギー庁はホームページに情報提供窓口(通報フォーム)を設置。消費者に対する不透明な料金請求や設備の無償貸与を行うガス事業者について、情報を受け付けている。 資源エネルギー庁の担当者によれば、通報フォームを設置した2023年12月から2024年11月までの期間で2400件を超える情報提供があり、これまで16事業者に対して任意のヒアリングや立入検査を実施しているという。 ■給湯器やエアコンは「無償貸与が当たり前」? プロパンガス事業者による設備の無償貸与は、業界で長年続いてきた営業手法だ。 関東圏の地方物件を複数所有するオーナーの浅田さん(仮名)は、「今回の改正はボディーブローのようにじわじわ効いてくるだろう」と語る。 浅田さん自身も、これまで契約したプロパンガス事業者から、給湯器やエアコンのほか、インターホン、温水洗浄機能付き便座、独立洗面台、キッチン、Wi-Fi機器など、さまざまな設備の貸与を受けてきた。 時には、紹介料等の名目で金銭的利益を得たこともあったという。 浅田さんはプロパンガスの契約を結ぶ見返りとして、「1戸あたり15万~25万円分くらいの設備がほしい」という基準を持っていたそうだ。 どんな利益供与があるかは物件や会社によって異なるが、給湯器やエアコンは無償貸与が当たり前になりつつあったという。 「プロパンガスを契約している物件では、ガス会社のおかげで一部の設備を大家の負担なくリフォームでき、コストを抑えられていました。都市ガスの物件だと、こんなことはまずないですからね」(浅田さん) しかし、今回の改正により、プロパンガス事業者による利益供与(新規)は基本的になくなったという。経産省の規制が厳しく、今は他社の動向を静観している会社が多いようだ。 浅田さん自身も最近、こうした事業者の対応の変化を実感した出来事があったという。 改正前に結んでいたある物件の契約では、エアコンの無償貸与および「保守・点検」がサービスとして付帯していた。以前であればエアコンが故障した際、ガス会社が修理や交換をしてくれていたが、2024年7月以降はそれも引き受けてもらえなくなったという。 通報フォームなどの存在もあってか、ガス会社が無償でサービスを提供することに慎重になったのだろう。 「改正前に締結した有効な契約なのにな」と思いつつ、浅田さんは自己負担でエアコンを新調した。約10万円の出費だった。 一方で、一部の事業者は改正後もやり方を変えて利益供与を行い、行政から指導が入った会社もあったようだ。 「改正後に結んだ契約なのに、改正前と時期を偽って無償貸与付きの契約を結んだり、大家への直接的なキックバックは行わないけれど、後に大家が受け取れるような手順を踏んで金銭的利益を供与したりしていたみたいです���(浅田さん) ■改正には反対? 事業者のホンネ プロパンガス事業者側はどのように捉えているのだろうか。 北関東エリアでプロパンガス会社を経営するAさんは、「無償貸与をやっていた会社以外はあまり影響がない」と話す。 「私の会社は供給エリア内に競合がいなく、そういった営業をする必要がありませんでした。三部料金制の徹底���始まっても、多少事務的な手間が発生する程度で、ガス料金や経営にほとんど変化はありません」(Aさん) 一方で、やはり業界として過大な営業行為や、大家からの設備貸与の要求が常習化していたことは事実だという。 「他社の話を聞いていても、たくさん設備を貸与している別の会社に顧客を取られたとか、大家さんから契約する代わりに何十台もの設備を要求されたとかは、よくあることですね」(Aさん) プロパンガスの供給エリア内では、事業者間の競争が非常に激しい。過大な利益供与が禁止となり、顧客の獲得が困難になれば、規模の小さな会社ほど窮地に立たされるのかもしれない。 Aさんによれば、近年は輸入価格・人件費・輸送コストの上昇や、後継者不足などの問題もあり、小さな会社がガス問屋に買収されるケースが増えてきているという。 経産省の統計を見ても、プロパンガスの販売事業者数は年々減少していることがわかる。 また、プロパンガス業界歴45年のBさんは、経産省の定めた方針に納得がいかない部分があるようだ。 「確かに、ガスに関係ない設備を無償貸与するのはモラルに欠けており、私もよくないと感じます。ただ、給湯器などガスが関わる設備の貸与に関しては、会社の努力・投資と言えるでしょうから、それすらもダメとするのはどうかと思います」(Bさん) Bさんは、入居者が不利益を被らないようにする方法として、無償貸与の有無に関係なくガス料金の幅を設定するなど、他のやり方があったのではないかと主張する。 ■改正でも「入居者の負担は減らない」? 今回の改正によって、実際に入居者が負担するガス料金は下がるのだろうか。これについて前出のBさんは「あまり変わらないのではないか」との見解を示す。 「経営コスト増加もあり、設備の貸与やガス料金への計上が禁止されても直ちに収益が改善するわけではありません。それに今後も、何らかの形で利益供与を行う会社はあるでしょう。私の予想ですが、リップサービス程度に少し下げるくらいの会社が多いのではないかと思います」(Bさん) 日本エネルギー経済研究所の石油情報センターによると、2024年10月時点の小売価格は9115円。コロナ禍以後はほぼ横ばいで推移しているが、改正後にどのような変化が起こるのか、動向が気になるところだ。 ■年600万円の負担増も、オーナーの嘆き 前出のオーナー、浅田さんは、今回の改正が発表されたとき、「なんだかんだ無償貸与の商慣行は存在し続けるだろう」と楽観的に捉えていた。付き合いのあるプロパンガス事業者や、他の不動産投資家も同様だったという。 しかし、思った以上に経産省の運用が厳しかったようで「これほど���況が変わるとは予想しなかった」と語る。 例えば、これまで無償で貸与・保守点検のサービスを受けていたエアコン。今後、浅田さんと事業者間の全ての契約が更新された場合、浅田さんの所有する400戸に設置されたエアコンの修理・交換が自己負担となる。 「通常、設置してあるエアコンのうち年間約40台が交換となることが多いです。仮に1台10万円とすると、今後はエアコンだけで年400万円かかることになります」(浅田さん) 本来は大家が負担すべき費用であることを承知の上で、やはりこれまでかかっていなかった経費が増えるということは痛手であるようだ。 プロパンガススキームが封じられることで、設備費として年500万~600万円がかかるようになると見込んでいるという。 今は改正の影響力が大きく、プロパンガス事業者も厳格な対応を取っているが、この効果は持続するのだろうか。 浅田さんは「いずれまた手法を変えて利益供与を行う事業者が出てくるのではないか」と考えている。 「経産省はおそらく『利益供与ではなくガス料金で競争してください』と言いたいのでしょう。しかし、賃貸住宅においてガス供給契約の決定権を握っているのは大家です。だから大家にメリットがないと差別化にならない。そこが構造的に難しいというか、経産省が思うように行くのかな、という疑問はありますね」(浅田さん) 今後、新規でプロパンガス供給契約を結ぶことについては、「もう旨味はない。都市ガスも通っているエリアで、あえてプロパンガスを選ぶことはなくなっていくだろう」と話す。 ただ地方では、都市ガスが供給されているエリアはごく一部に限られる。 プロパンガスしか選択肢がない場合は「大家はキツイけど、設備費用の上乗せがなくなって入居者にメリットが生まれるなら良かった、と受け入れるしかない」と心中を語った。 ◇ 不動産投資家にとっては、プロパンガス物件のオーナーチェンジの際にも問題となる可能性がある。 ガス供給の契約期間は、プロパンガス事業者が無償貸与した設備の減価償却期間を考慮して10~15年程度で設定される場合が多い。この契約期間中にオーナーチェンジが発生した場合、償還が終わっていない設備の扱いをどうするかが問われる。 ガス会社の変更が行われる場合は、貸与設備の精算が必要となり、基本的には従前のオーナーがその費用を負担するものとされる。 一方、ガス会社の変更なく、新しいオーナーが貸与契約ごと引き継ぐ場合は、その時点での精算は必要ない。ただ、新オーナーからすれば負債を引き継ぐようなものでもあるため、物件の売買時に揉める可能性も出てくるかもしれない。 細かい運用を含め、4月2日にある改正省令の施行以降、プロパンガス業界や不動産投資にどんな変化が起こるのか、注視していく必要がある。
プロパンガススキーム完全終了で大家に大打撃、「抜け穴」探すガス業者も《楽待新聞》(不動産投資の楽待) - Yahoo!ファイナンス
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newpntls-island · 6 months ago
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https://music.apple.com/jp/album/%E7%94%B0%E5%9C%92%E9%83%BD%E5%B8%82%E3%82%BD%E3%82%A6%E3%83%AB/1755083662?i=1755083673
Monday,Jul29,2024
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一年半ぶりに福岡に帰る日だ。昨日の夜に久しぶりにしたパッキングはすぐに終わった。慣れている、夏の衣服は薄いからかさばらなくて楽だ。予定してた時間より二時間くらいはやく起きてコーヒー淹れて、野菜を冷蔵庫に残さないようにサラダにして食べる。片想いの新譜を聴いていなかった。「田園都市ソウル」、下北の440でも三月のWWWでも見た好きな曲。音源になっていて嬉しい、夏のアジアの音。一週間家を空けるのはあまりない。色んなコンセントを抜いて、20時間ある今年のプレイリストをダウンロードして、換気扇を消して出た。シャッター、閉めてくればよかっただろうか。
山手線に乗りたくないから、中井まで行って大江戸線とモノレールの乗り継ぎ。モノレールで隣に座った男の子と、窓の外の港区の景色をぼうっと眺める。変な街。飛行機に乗るのもなんかあまりない。羽田から福岡空港にはすぐに着いた。隣の家族はずっと寝てた、寝てる窓際の人の代わりに外の景色を見てあげたかった。関東から九州ってこんなに早く着いてしまっていいものだっけ?すこし拍子抜け。福岡空港を歩きながら、高校の修学旅行でみんなで空港に集まって北海道に行ったことを思い出した。みんな元気にしてるかな?
地下鉄空港線で中洲川端。福岡の地下鉄のマークひとつひとつはかわいい。稲吉さんともこの前話した(稲吉さんは祇園のマークが好き)。行きたかった店は並びすぎててすぐに諦めた、炎天下の中でスーツケースを引いて近くの喫茶店に入る。コーヒーしかないお店。かわいいおじいちゃんに「旅行ですか?」と聞かれて、「帰ってきました」と答えた(逆でしたね、と言われて二人で笑う)。帰ってきました、と自分の声で発音してから帰ってきたことに気づいた。またスーツケース引いて天神の地下街を歩く。福岡って意外と都会だな。
天神から電車で20分くらいで最寄りに着く。相変わらず実家の前にある私立高校の学生しかいない。駅前の畑はなくなっていて、たくさんのトラクターが止まっていた。インターホンも押さずに鍵を開けて実家の扉を開けたら、親は拍子抜けしてた。冷やしぜんざいに白玉を入れたやつを出してくれて、冷たいお茶と食べた。実家は相変わらず清潔なにおいがする。五年前とほぼ何も変わらない自分の部屋で、見たことがない自分の小さい頃の写真を見た。若い姉と両親がいた、写真の中の自分はよくわからなかった。ここまで来たことの証拠だった、不思議だった。
夕方は地元の温泉街(わたしの中の星野源の「季節」の景色)でごはんたべて、温泉入った。ひとりで暗い道を散歩して、コンビニでスコール買って飲みながら帰った。
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https://music.apple.com/jp/album/summer-we-know/1740508536?i=1740508646
Tuesday,Jul30,2024
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朝起きるサイクルができてきつつある。起きてパン食べてコーヒー飲んで、近所の散歩。ありえないくらい蝉が鳴いている。近所の大きな公園への行き方を忘れていた、住宅街の同じ場所を何度もぐるぐるする。平日の朝なのに人と全くすれ違わない。高台から見える実家のマンションは巨大で異様だった。昔はこの場所から見えるこのマンションがなんとなく怖かった。
汗だくで帰って車乗る。柳川に行く。うなぎのせいろ蒸しおいしかった。なんか穏やかすぎて、また今の生活のこと全部忘れそう。柳川は異様に暑すぎる。暑すぎて、ほぼ記憶がない。昔のお金持ちの人の家を見学して、開け放されたでっかい和室の縁側で寝た。父親も寝てた。
熊本の滝に行く。後部座席でいつの間にか寝てた。久しぶりに子どもだ、子どもをやった(自分がシャッフルで流してたテレビ大陸音頭に異常を感じて起きた)。両親におニャン子クラブの岩井さん(ゆうゆ)を布教した。温泉も入った。パワフルなおばあちゃんたちの熊本の言葉が飛び交う脱衣所で、わたしは完全によそ者として存在していた。「ここ涼しいなあ〜!」と勢いよく入ってくる地元の顔なじみだろう少年、輝いてた。なんかうらやましかった。
帰りの車では、19:30を過ぎても明るい外の景色に驚いた。あとは久しぶりに見た広大な段々畑、サマーウォーズの屋敷みたいな家が立ち並ぶ景色。こういう景色を知っている、東京のみんなは本当に知らないのかな。こういう場所で住むってどういうことなんだろうと思っていたらまた寝てた。ラーメン食べて、中学校から知っている友だちと少しだけ散歩する。父親がたまに二人だけの時連れて行ってくれた、汚くて暑い中華料理屋はまだあった。変わってないよ、と言われることには安心する。自分でも、変わったけど変わってないと思う(というかもうあまり地元にいた時の自分のことが思い出せない)。友だちはもう四���も会っていなかったのに、「那珂川の温泉がよかったから連れていこうと思ってた」「(わたしの)日記も読んでる、小説読んでるみたいでたのしい」と言っていて、そんなことあるのかと思った。友だちはなんにもない商店街にひとりで住んでる。自転車で20分の、大きいショッピングモールの近くで働いているらしい。友だちは「わたしは平坦でもいいから同じ場所で平穏に暮らしてたい」みたいなこと言っていた。わたしは正直全然わからなかったけど、別にもうそういうのは悲しくなかった。もうこういう場所では暮らせないんだろうなと思いながらも、ニュートラルに移動できていたい(どこにいても自分を見失いたくはないな)と思った日。
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https://music.apple.com/jp/album/i-want-you/1537148471?i=1537148482
Wednesday,Jul31,2024
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もうあんまり寝てないけどなんかフル回転で動ける。朝は父親が走りから帰ってきたらコーヒーを淹れてくれる。ロールケーキ食べた。居間で化粧して、日傘を掴んでひとりで中洲川端に向かう。福岡の電車は空いている、地下鉄の一日乗車券を買った。高校の頃はまったく乗れなかった地下鉄が簡単で仕方がない。東京で暮らすと大体どこでも移動できるようになると思う。
一日目に諦めた鈴懸本店で30分くらい待ってランチ食べられた。待ってる間に二日分の日記を書いた、ベビーカーで泣いていた子どもと見つめ合う。アジア美術館に行った。東京で逃したエルマー展、福岡の地下鉄の広告で見てちょうど開催されてたから行こうと思ってた。本当に人が少なくてよかった。ぬいぐるみを抱いて自宅の庭で写真撮影しているルース・スタイルス・ガネット、素敵だ。ああなりたい。エルマーの冒険した島々の地図が描かれた薄いハンカチを買った。東京の家に帰ったら壁に飾る。
また地下鉄に乗って箱崎。誰もいない筥崎宮を歩く。暑すぎて鳩が水浴びしてた。暑い、と何度も独りごと言いながらブックスキューブリックに行く。いい本屋、(タトゥーを入れるにあたって知っておく必要があると思ったから)ディック・ブルーナの本、茨木のり子詩集、和田誠と平野レミの旅行記を買った。旅行してる時に他人の旅行記読みたい。ナガタパンに寄って、夜に会う友だち家族へのパンをお土産で買う。昔その友だちと、いつか一緒に行けたらいいねと言ってたお店。福岡の地下鉄沿線に住むのってすごくちょうどいいかもしれない。
天神で乗り換えたからついでに大名も見てきた。10代のわたしたちがなぜか足繁く通った、何にもない遊び場。高校の時にかなり高かった記憶のある古着屋に訪れたら、店員のお姉さんに捕まって、東京の古着屋と福岡の古着屋の違いを力説される。途中めんどくさくなって逃げた、しかもやっぱり社会人になって訪れても、東京より全然高かったし。
地下鉄乗って赤坂。前に高校の友だちが教えてくれた喫茶店に行ったらピンポイントで昼休みだった。大人しく地下鉄の椅子に座って一旦休み、開店したお店に行く。すごくいい場所だった。冷たい飲み物を頼んだはずがアツアツのものが出てきたけど。マスターの荘厳なおじいちゃんはパイプを吸いながら「男はつらいよ」を見てて、かなり九州のイケてる老人だと思った。カウンターでさっき買った本読んだ。ブルーナ、素敵な人。
ひと駅も歩けずに電車で大濠公園。ちょくちょく休みながらだらだら歩いてたら一周してた。本当にいい公園。あんまり人がいなくて、気を抜いていても全然大丈夫。井の頭公園も大好きだけど、公園って本来こういうものなのかも。ひとりで福岡を遊び、目が覚めるような気分だった。福岡にいた10代までの自分は、どこに行くにも人の目が気になってうまく街を歩けなかったのに。ここ五年間でだいぶ、かなり自由になったと思う。歳を重ねていいことは、よくも悪くもどんどん図々しくなっていくことだと思う。これからだってどんどん自由になりたい。
赤坂でいちばん長い付き合いの友だちと合流する。2022年〜2023年にかけての一日を一緒に過ごしたっきり会ってなかった(連絡も、別に取ってない)。誰とも久しぶりな感じがしない。取り立てて昔の話も別にあんまりしない。連れて行ってくれたお店、居心地がよかった。博多から帰った。博多駅はいつまでもラーメンとクロワッサンのにおい。生ぬるい風を浴びた。コンビニで友だちがアイスを買ってくれて、話しながらわたしの家まで帰った。中学生の時なんであんなに一緒にいたのか、何を話していたのか、わたしたちは二人とも何も思い出せなかった。最近のこともあんまり知らないし、何を考えてるのかもあんまり知らない。だけどなんかこれからもたまに会っている気がする。友だちが車から手を振ってくれて別れた。だいじな友だち。
なんかあっという間の福岡だった。東京でのこともちょっと遠くなった、楽だったな(関東は豪雨だったみたいだけど、わたしはなんの関係もない気持ちだった。距離はやっぱり自然に無関心を生むんだよね)。ただぼんやりしたり、歩いたり寝たり食べたりしてた。実家のベランダからの夕暮れを見忘れた、また行く。
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crispy-moratta · 10 months ago
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京都について3 日目、つーちゃんが京都→東京に引っ越して時にわたしとエクスチェンジするかたちになり、ママチャリを500円で譲ってくれるというので、京都は北区、建勲神社近くのつーちゃんちまでLOOPに乗る。LOOPデビューをしたのは昨年12月のこと。どう乗っても嫌なサラリーマン感のあるLOOP所作に、アイロニーをこめてわたしも直立して乗った年末であったが、2回目ともなるとLOOPとも身体が馴染んで参り、道をカーブする際や、親指で押さえるアクセルを全開にして速度を上げるときには思い切って膝を曲げると、すこしキックボード的なニュアンスが出る(実際には乗っているのでどう見えているかは不明)な気がする。つーちゃんにLINEで(今から取りに行ってもよいかな)と送ると(ぼくはいないけどユミックスがいると思うからいいよ)との返信。ユミックスさんとは話したことがなく、気まぐれで少しむずかしそうなひとだという印象をラジオ屋さんごっこからの情報でキャッチしていたので、少し緊張が高まる。春の夜、寒空の下でLOOPにて道路脇を滑り、緊張も相まって道中尿意が咳上がってくる。コンビニに寄るか迷うが、(コンビニってLOOPどこに停めんのよ) という思考が遮り、つーちゃんが家にいれば、一度は宿泊させてもらった過去もありトイレも借りやすいものだが、初対面のユミックスさんだとトイレを借りることにも気苦労がある。しかし、(だって、トイレにいきたいのだもの みつを)とわたしの中のリトルあいだみつを。つーちゃん家の近くのステーションにLOOPを乗り捨て、意を決してインターホンを押すが誰も出てこないので、少し戸をあけて「すみません〜、、」 と小声にいるっぽいユミックス呼びかけると「つーちゃんのおともだち? なんか聞いてるよ」 と奥から現れたのは、小柄でなんとなく水泳をやっていそうな流線型の女性であった。わたしは名乗り、玄関先の自転車を指をさして 「これですか?」 と確認すると、「それそれ」 玄関から首を出してくれるあたり、わたしの考えゆるパターンとしては、自分のパートナーがこさえた用などあまり首を突っ込まずに、そそくさ��終わらせてはやく生活に戻りたいという可能性は加味していたので、そのような愛想だったときにはママチャリで最寄りのコンビニまで直行し、膀胱の事情を解決しようと思っていたが、思ったより物腰の柔らかく、不思議と親近感の感じた声色とほほえみに魅了され、ここは甘えさせてもらおうと思いトイレの打診を行うと快く承認を得たので、奥に続く土間を進み靴を脱ぐ。以前つーちゃんに泊めてもらったので、トイレを場所は把握しており、最短ルートを進むが、年末のことを知らないユミックスさんは、わたしの先を歩��トイレまで案内してくれた。家に入り気づいたがつーちゃんは先んじて東京に引っ越し、なぜかここに残っているユミックスさん、数日後には彼女もここを去るのだろうというのが一瞬でわかるほど、各部屋には家具や物がなく、縦に長い街屋の家には、案内してくれる声がよく響いていた。
用を足し、自転車を持って帰ることが頭の中ではっきりとした頭のなかだが、前もって補足するとこれはうしろめたいような邪な気持ちではない。わたしは彼女の人間的に質量を感じる魅力、はたまた健康的な意味でなまめかしい印象に惹かれ、もう少し話してみたいと思った。トイレからでると引越しでまちまちになったゴミ袋やお掃除グッズなどがところどころに点在する部屋、明かりはついておらず土間からの光で左だけ半分照らされている彼女に、年末の泊まりにきたことの話をする。おそらくわたしの少し話したいのだろうという気を察してくれたのか(後に引越ししたなにもない家でひとりだと人の存在が恋しくなると言っていたのもあるか) 、コーヒーを淹れることを提案してくれた。搬出後の部屋、カップかどはもちろんなかったが、コーヒーを飲むために紙コップとインスタントのコーヒー、電子レンジだけが残されていて、簡易的なコーヒーが飲める最低限の機構だけが残された部屋 (力尽……)
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cvhafepenguin · 1 year ago
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海石
海石は海に入るのが好きだ。
彼女の名前は海石と書いて「いくり」って読む。
海中の石って意味らしい。かわいいけど、なんだか暗くて冷たい響き。
そんな彼女の名前が僕は好きだ。
海石は度々海に入っては僕に海中で拾った石をくれる。夏は素潜り、夏が過ぎても磯や浅瀬で拾ってくる。
その石のいろやかたちはまちまちで、どうやらそれは海石のその時々の心情に対応しているらしかった。
僕と喧嘩した次の日は鋭利に角張っててスカスカの石。
海石の家で介護しているおばあちゃんにいじめられた日は海藻だらけでぬめぬめの石。
初めてキスした日は薄くて平らな灰色の石。
初めてセックスした日はフジツボだらけのいびつな石。
日にひとつ、海石は僕に石をくれる。
僕はそれを持ち帰って部屋にかざる。
海石が海に入り出してから7年、僕の部屋は海石だらけになっていた。
潮に侵食された独特な形の、貝や海藻がひっついたそれらに囲まれ、
部屋にいながらにして僕は海石の作り出した海の底に沈んでいるみたいだった。
そしてそんな想像にふけると時間が止まり、ふさぎがちな僕の心は休まるのだった。
僕は時折それらの海石を眺め、愛撫し、味わってみる。
するとその石を拾ったときの海石の心を、海石のゆらぎを感じる。それからやがて朝靄のように、海石の体温が、匂いが、あらわれる。
背筋がぞくっとして鳥肌が立つ。射精のそ��とは質が違うけれどたしかにそれは甘いエクスタシーだ。それは脊柱をひた走る潮騒のメロディだ。
海石が産み僕が奏でるフレーズ、僕と海石は混ざり合いひとつとなる。
僕は両親の言うまま来年の冬に東京の大学を受験することにした。
両親のいない海石は、要介護者のおばあちゃんを残して島を出て東京に越すことはできない。
僕が合格すれば僕たちははなればなれだ。けれど「これからどうしようか」というふうな話をすることを僕と海石は無意識に避けている。
僕たちはいつもそうだ。2人ははかない影法師のように、所在なくゆれていた。
つばさは海に入るのを嫌う。
それはつばさが8歳のとき、飼い犬のチロがつばさの目の前で高波に攫われてしまったから。
それ以来、つばさは海を遠ざけてしまった。
つばさが1歳のときにチロはつばさの家へやってきた。友達も兄妹もいないつばさにとって、チロは唯一無二の友だちだった。
そしてつばさ同様に兄妹も友達もいない私は、いつもそんなつばさとチロの後ろをなんとなくついて回っていた。
私も私の両親もチロが大好きだった。けれど私は海に入る。私は海が好きだ。
初めて海で石を拾ったのは小学4年生のときの7月、両親が私とおばあちゃんを棄てて行った日。
朝、両親の書き置きを読んだおばあちゃんは、居間の安楽椅子で壊れたロボットのように両親と私への恨み言を繰り返していた。
私は頭の奥がじいんと痺れて何も考えられなかった。家を飛び出しひたすらに海岸沿いを歩いた。
両親のことやおばあちゃんのことを考えようとしても、それは読みかたがわからない漢字のように、私の心の表面のところでぱちんと弾かれてしまう。 
がむしゃらに歩いていると、いつの間にかつばさがついてきていた。
「ついてこないで」
そう言って突き放してもつばさはついてくる。
私はそのときチロが死んでしまってから私に依存して付き纏うようになったつばさのことが急に疎ましくなった。
自分にはお父さんとお母さんがいるくせに、犬1匹死んだくらいでいつまでもしょげてるつばさが憎かった。
私はつばさから逃げるために海へ走った。
自分のなかのどろどろがけがらわしくてたまらなくて、つきまとうものを振り切るように浜から海へ飛び込んだ。
海は私を抱き、眼と耳を塞いだ。
瞼の裏で光を、肌で波を感じた。
ゆらゆら静かに手脚を遊ばせる。
ながれていたじかんが、とまる。
海から顔を出すとつばさが所在なさげにこっちを見ている。
「つばさも海に入れば」
呼びかけてもつばさは困惑した表情でただ立ち尽くしている。
私は足下の掌大の石を拾い、つばさ目がけて投げつけてやった。石はぼとんと鈍い音を立てつばさの足下に落ちた。
つばさは両手でそれを拾い、取り憑かれたようにまじまじと見つめていた。
その様子を見ているとふいに「「海石」という名前には海底から出ずる石という意味があるんだよ」と囁くお母さんの声を思い出した。
そして両親が出て行ってから初めて私は泣いた。
産声のような大きな声で、いっぱい泣いた。
つばさは石を持っている両腕を真っ直ぐにのばし、泣いている私にそれを重ねてじっと眺めていた。
いつものように僕と海石はほとんど話さずに、ただ海を見ている。
今日も海石は海に潜り石をくれた。それは灰と白のマーブル模様の、円くてすべすべの石だった。
僕はそれを受け取り海石の濡れた頬にキスをする。
「つばさは私がいなくなっても寂しくないよ」
横に座る海石が海を眺めながらぼそりと呟く。
それは僕に向けた言葉なのだろうが、海石自身に言い聞かせる調子を帯びているようにも感ぜられた。
しばらく間を置きまた海石は呟く。
「私、私がなぜ生きているのかずっとわからないんだ」
「だって私の世界には、私だけがいない」
僕はただ黙って海を見つめながら、海石の声を聞いていた。
夕陽が水平線に没しようとしている。
世界の終わりのような黄昏が僕たちを染めていた。
海石を見ると、その頬に涙の筋が光っている。
僕はきれいなそれを吸おうと、海石の頬に唇を寄せる。
海石は驚いて身体を逸らす。
とっさに僕は海石を逃がさまいと海石の両の手首を掴む。
僕のしるしを海石に残したい。
掴んだ両手にぐっと力を入れると、海石から「んっ」って声が漏れる。
それから僕は海石の耳を噛み、それから顔に、身体に、たくさん口付けをする。
そうしていると強張っている海石の身体がだんだんとほぐれていく。
海石はほんとうにかわいい。
僕はそんな海石を傷つけてやりたい。
海石の手首についた僕の指の跡を愛撫しながら、暗雲のように広がっていくそんな欲望に酔った。
いつの間にか黄昏は去り、潮は満ち、波の音はうるさくて、僕たちの頭上には明るい星空が広がっていた。
「ねえ海石」
「ん」
「僕が来年東京に越しても、僕に海石を拾って送ってくれないかな」
「受かってから言え」
僕と海石は膝を抱え、星空の下の明るい海をぼんやり眺めていた。
「私つばさがいらないって言ってもずっと渡すつもりだよ」
「いつかうっとうしくなって捨ててしまうかもしれないけど」
「海石は私が生きた証なんだ。いま、急にわかった」
「たとえ私が死んでしまっても、私が拾った海石はずっと地上にあるでしょう」
「そうだね」
「海石。僕、海石のことがすきだ」
「なにそれ初めて聞いた」
海石はそう言って照れ隠しのように僕抱きしめ口付けをした。
寄せては返す波の音と、いびつな僕たちの舌の絡む音だけが、夏の夜の匂いのなか響いていた。
私はたびたび海石を添えてつばさに手紙を送る。
その内容は簡潔だ。
「今日は海鳴りが聞こえました」
「しけで戸沢さんの漁船が転覆して大騒ぎでした」
「大きなマテ貝にたくさんのかにがむらがってました」
「昨日おばあちゃんが死にました」
「ダイビングライセンスを取ろうと思います」
「最近つばさの夢をよく見るよ」
 
つばさが東京に行ってから2年間、たびたび私はこんな日記のような手紙を拾った海石を添えて送った。
つばさからの返事はあったりなかったり。
つばさを思って手紙を綴るとき、私は海を感じる。そのことは私の生活をそっと撫でる安寧だった。
私とつばさは深い海の中で繋がっている。そしてだれも知らないところで互いの息遣いを感じている。
それが始まったのは梅雨のことだった。
朝、どうしても起きるのが嫌でベッドから出られなくてその日の講義をさぼった。
その次の日も何もやる気がなくてご飯を食べることすらしなかった。
そして僕は学校やバイトに行くのをやめた。
頭に冷たい砂がたくさん詰まっているような感覚があって何もできない。
僕から色と音が遠のいていく。世界はモノクロになってしまった。
母に促され精神科に行った。医者にありのままを話したところ、自立支援を受けることを勧められた。大学は休校することにした。
頭のなかの砂は東京に出たきた頃から徐々に詰まっていったように思う。
何が原因かはわからないし、興味はなかった。ただ砂はぼくの体温を奪い、それから筋肉を硬直させ表情も奪い、次第に五感を麻痺させていった。
全てがどうでもよかった。
なにもかも古い絵本のように色褪せていた。
僕の当事者性は影の裏の月のように隠れてしまった。
海石へ手紙を返すのも億劫で、ほったらかしにしていた。
けれど海石は僕に海石を添えた手紙を送り続けた。
そのことを考えるとなぜだか僕は悲しくなって泣いてしまう。
そんな時は海石をひとつ胸に抱いて寝た。冷たくて、ずしんと重くて、たましいを感じる。
まどろみのなかゆめとうつつがないまぜになり曖昧になっていく。
ずっと外へ出ずに最低限の用事だけしてあとは薬を飲んで泥のように眠っていた。
昼も夜もなく意識は暗いもやのなかを彷徨っていた。
ひねもす海石に囲まれた孤独な海の底で本を読むようにその海石ごとの海石のことを回想した。
それは自分自身の記憶よりリアルで、現実世界よりも色彩が豊かだ。
やがて僕は海石の海に溶けて散り散りになっていく。
インターホンが鳴っている。
実家から食糧と水の仕送りだろうか、玄関まで移動するのも億劫だけど重い身体を引きずって何とかドアを開ける。
そこに立っていたのは配達員ではなく海石だった。
「手紙もメッセージもぜんぜん返ってこないからつばさのお母さんにどうしたのって聞いたよ」
「今日ずっと寝てたの?」
「部屋真っ暗だね」
「上がっていい?」
海石は部屋に入るなりリュックから水筒とコンビニ��おにぎりをテーブルに出し座って食べ始めた。
「今日何も食べてなくておなかすいてたんだー」
「海石、髪伸びたね」
「つばさもね、短いのと長いのどっちが好き?」
海石は自分のもみあげをひょいと摘んでにこやかだ。
「いまのほうがいい」
「じゃ、このままにしとく。仕事のときうっとうしいけど」
「最近仕事のほうはどう」
「楽しいよ、私海に入るの好きだし。スキューバ体験の人を海に案内するのってなんだか友達を私の地元に案内するような気分。私は沢山のことを海の中で考えたから、故郷みたいなもんだね」
「うん、そうだね」
「つばさの部屋に入るなんていつぶりかな」
「薄暗いし私の石の囲まれて海底みたいだね」
「たしかに」
「今日泊まっていい?」
「うん」
海石と少し近所を歩き、鄙びた商店街のスーパーで買い物をして、2人でカレーを作って食べた。
海石はじゃがいもやにんじんの皮を剥かずに入れた。
そのことを知って海石の海がまた少し深くなる。
部屋のまんなかにマットレスを敷き、そこに海石を寝かせた。
僕はその隣に毛布を敷き仰向けになる。
薄暗い部屋で2人呆然と天井を眺めていた。
暗闇に徐々に眼が慣れてくる。
遠くでかすかに電車の走行音が聞こえる。
部屋に配置された海石がぼんやりと光っている。
隣で海石は起きてるのだか眠っているのだか、よくわからない感じ。
僕の心にだんだんと淡い感情が降り積もっていく。
僕は海石をひとつ指差して「あれは初めてキスをした日の海石」と呟いた。
それからぼくはぽつりぽつりとそれを続けて行く。
 
「あれは2人乗りで「みけや」にラーメンを食べに行った日の海石」
「あれは喧嘩のあと仲直りした日の海石」
「あれはダイビングライセンスを取った日の海石」
「あれはおばあちゃんが亡くなった日の海石」
「あれは海石が僕に最初にくれた海石」
僕は人差し指で星座を結んでいく、その星座にはかすかでほわんとした物語がある。
「よくそんなの覚えてるね」
「私ぜんぜん覚えてないや、つばさ、きもちわるい」
「全部覚えてるよ」
僕は心の中でそうとなえた。
海石から生まれたささやかな海の水底に僕たちは沈んでいる。
やがて海石は微かな潮騒のような寝息を立て始めた。
僕は水底で色々なことを思い出す。
海石とチロと浜を歩いたこと。
チロが目の前で波に攫われたこと。
海石の両親やおばあちゃんのこと。
あの日黄昏に染まる海石の泣く顔がとてもきれいだったこと。
それらはみな、彼方へ去り永遠となったものたちだった。
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tanakadntt · 2 years ago
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三輪隊の小説(二次創作)
三輪隊で、たこパなんてどうだろう?
「たこ焼きを食べよう」
という話になったのは、三輪隊といえば焼肉、三輪隊といえばたけのこの里、三輪隊といえばコーヒー、三輪隊といえばカレーを食べたあとのお冷、である同隊にしては非常に珍しいことなのだが、いつも焼肉を遠慮する(おそらく苦手)月見蓮が珍しく興味を示したからである。
三輪隊オペレーター月見蓮は高嶺の花とも称される美しい令嬢ではあるが、同隊においてはクールな指導者で、かつマイペースな年長者だった。
皆に好みを合わせてまで一緒に食事はしない。以前、ハンバーガーを食べたことがないと聞いたことがある。飲食を伴うフランクな交流は作戦室のお茶の間まで。要は線引きがきっちりできている。
その月見がたこ焼きについて興味を持ったのだ。
元々は何の話だったか。場所はいつものお茶の間だった。
「お祭りの屋台で見たのよ」
出店は、チョコバナナにベビーカステラ、りんご飴と甘いものが多いが、たこ焼きのソースの香りと丸い見た目が印象に残っているという。
焼きそばは食べたことがあるというが、高級中華の色がついてないやつだと察せられた。
「そうなんですか? じゃあ、一緒にたこ焼き食べましょうよ?」
同隊狙撃手の古寺章平がそう誘ったのは軽い気持ちだった。買ってくればいい。チンでもテイクアウトでも、お茶の間で食べられる。今は十一月、日に日に寒さが増してくる季節だが、来年の夏になればお祭りに誘ってもいい。未成年者が多いこともあり、ボーダーにおける隊の結成期間はだいたい半年から一年と短いが、古寺には、この三輪隊が来年の夏までも、いやもっとずっと続くように思えた。
「ありがとう」
月見は微笑み、次のお茶菓子は菓子ではないけどたこ焼きだな、飲み物は何が合うだろうと考えていたところ、同隊攻撃手の米屋陽介がうなずいた。
「章平、いいこと言うじゃん。どうする? たこ焼きプレート、うちにはないぜ」
「え?」
「うちにある」
同隊狙撃手の奈良坂透が応じる。
「ええ?」
「奈良坂の家からじゃあ、ちょっと遠くねえ?」
「章平と運ぶ」
「えええ?」
古寺の驚きなどお構い無しに会話が進む。同隊隊長の三輪秀次は、そうかと言って腕組みをした。
「奈良坂、ガスか? 電気か?」
「電気だ」
「ていうか、作戦室でそういうのやっちゃっていいの?」
「加古さんだって、炒飯作ってるんだ。使ってもいいと思うが…」
三輪が顎に拳をあてて天井を仰いだ。
「…狭い」
ここで、ようやく古寺は口を挟んだ。
「作っちゃうんですか?」
「え?」
先輩三人は、意外なことを言われたような顔をして一斉に古寺を見た。顔の圧がすごい。
助けを求めて月見を見るが、抜群の指揮能力を持つ才媛もたこ焼きに関する知識がないので、頭の上にはてなマークを浮かべて、にこにこしている。
「作んないの?」
米屋が代表して無邪気に聞いた。
古寺はぐるりと狭い部屋を見渡した。狭いと言っても、���戦室のお茶の間よりはずっと広い。
(ここが三輪先輩の部屋)
たこ焼きパーティーの会場は本部住まいの三輪の部屋となった。
(シンプルだ)
予想通りというべきか。若くして人生から様々なものを削ぎ落としているひとつ歳上の隊長の私室は作戦室より更にすっきりしていた。仮設住宅住まいの古寺の部屋は二人の弟と一緒だ。漫画とトレカとゲームとランドセル、あと何だろう。様々なものが散らばる雑多な部屋とは大違いだ。
八畳程の広さのフローリングにソファと机、丸椅子ひとつ。それだけだ。どこで寝ているのか? 真ん中に折りたたみのローテーブルがある。みんなでおじゃましたあと、部屋の主である三輪がクローゼットから出してきたから、おそらく常日頃は仕舞われている。
その上に、
「四十個も焼くの?」
おっかなびっくりプレートをセットした月見がくぼみの数を数えている。
「四十個じゃ足りないですよ」
奈良坂がコードをセットしながら言う。米屋が家から持ってきた大きなボウルを取り出している。
「章平ん家、たこ焼き焼かねーの」
月見と一緒にたこ焼きの調理家電を覗き込んでいる古寺に米屋が聞いた。
「そもそも、うちにないですね」
両親は共働きだし、収納の少ない仮設住宅の台所で母親はなるべく物を増やさないようにしている。だから、こんな巨大なものが同じく仮設住宅の奈良坂の家にあったのは驚きだ。料理好きのお姉さんとお母さんがいるせいだろうか。
「あ、奈良坂、チョコを入れるつもりなわけ?」
「定番だろう」
各々手分けして買ってきた買い物袋を整理しながら米屋と奈良坂が会話している。
「オレもチーズとカニカマ買ってきた」
「生地を作るのはそっちの部屋でやってくれ」
台所から三輪が顔を出す。
「あ、おれは何をしましょうか」
古寺も立ち上がった。
「月見さんは机周りで進行状況の確認、奈良坂と米屋は具材のセットと生地作り、古寺は材料を切ってくれ」
「了解よ」
「わかった」
「オッケー」
的確に指示を出す隊長に古寺が声をかける。
「三輪先輩、慣れてますね」
「前にいた隊ではこういうことがたまにあった」
旧東隊のことだ。現東隊の奥寺と小荒井もそうなのだが、最初の狙撃手、東春秋を隊長とする東隊に所属していた事に古寺は憧れを感じる。
「よく作ってたんですか」
「いや、たこ焼きは初めてだ」
広いとは言えない台所で、まな板を古寺に渡しながら三輪は答える。
「でも、チームメンバーだから任務と同じに考えればいいかと思った」
「そうですか…」
古寺は不覚にもじんときた。不器用、と背中に大きく書いてあるような先輩に成長を感じる。
ネギを切って、蛸を切って、カニカマを切って。一心に切っていると目の前に花があるのに気づいた。
小さな花瓶に小さな花が無造作に挿してある。十七歳男子の台所にしては違和感があった。この後、テーブルに飾るには、既にたこ焼きプレートが占拠している。
「秀次、水と泡立て器だってさ」
そのとき、計量カップとボウルを持って米屋がキッチンにやってきた。
「泡立て器はないから箸でやってくれ」
三輪が言われた分量をしかめっ面できっちり測っているのを横目に米屋が花に向かって片手をあげた。
「お邪魔してまーす」
「先輩、何をしているんですか?」
古寺の疑問を受けて代わりに三輪が答える。
「ああ、陽介は姉さんに挨拶したんだ」
「お姉さん…ですか?」
四年前の近界民侵攻で、三輪は姉を目の前で亡くしたことは知っている。
しかし、目の前には花が一輪、写真も何も無い。
「前は写真立てがあったんだが、濡れるからしまったんだ」
なんでもないように古寺に説明する。しかし、それは本末転倒である。写真が本体ではないのか。
「台所にあるのは水が汲みやすいからなんだってさ」
米屋は付け加える。
「秀次って大雑把なとこあるよな」
三輪はムッとした。
「こういうのは気持ちだ」
さらに米屋が混ぜっ返そうと口を開けたとき、ピンポンとインターホンが鳴った。モニターを見る。
「弾バカだ」
A級一位太刀川隊の天才シューター出水公平である。彼は三輪と米屋の通う第一高等学校の同級生でもある。彼も参加することはあらかじめ聞いていた。
しかし、
「なんで太刀川さんまで」
一緒にモニターをのぞいた三輪はあからさまに嫌な顔をする。隊長はこのボーダー一位のアタッカーが苦手なのだ。
『餅を持ってきたぞ』
モニターの向こうでレジ袋を振っている。
「ごめんなさい。太刀川くん、私が話したから、羨ましかったのね」
月見が奥の椅子から立ち上がってやってくる。月見と太刀川が幼なじみの関係であることを三輪隊の誰もが失念していた。
「どうする? 三輪くん」
暗に追い返してもいいと提案するオペレーターに三輪はため息をついた。
「材料も持ってきたみたいですし、いいですよ」
「あんた、たこ焼きに入れるってわかってて、なんで、でかいまま持ってくるんだ」
「これしか、売ってねえもん。それにチンすりゃいいだろうと思ったんだ」
「レンジなんてない」
「普通、あるだろ。おまえ、弁当温めないのか?」
「コンビニで温めてもらうから必要ない」
「や、ちゃんと切りますから大丈夫ですから!」
古寺は隊長二人に挟まれて泣きそうである。古寺が餅を細かく切るのに苦労しているのを見た太刀川が俺がそういうの得意と言い出し、三輪があんたがやったらまな板も切れると断って、太刀川が反論して今に至る。
「太刀川さぁん、そろそろ焼きますよぉ」
出水が助け舟を出す。
「おう」
太刀川がのっそりとキッチンを出ていって、古寺はほっとした。
「俺が切っておくから古寺も行ってこい」
三輪に促される。
「先輩はいいんですか?」
「…俺は疲れたから休んでる」
冷蔵庫から買い出しのジュースをひとつ取り出して栓を開けた。
早速チョコを入れようとする奈良坂を抑えて、最初の四十個は全て蛸である。正統派だ。このあともチョコを始めとして、様々な材料が控えている。ネギと天かすを上から振る。たこ焼き用のピックは人数分買ったので全員が持っている。
最初の一口はもちろん月見へ。三輪もペットボトルを持ったまま、キッチンから眺めている。
大騒ぎを伴って作成されたそれはパラリと青のりが振られ、かつお節が踊っている。
月見は品よく口に運んだ後、熱さに苦戦しながらひとつを食べ終わり、
「とても美味しいわ」
と、頬に手を添え微笑んだ。
(終わり)
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lumitic · 2 years ago
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カンカン多感
pixiv主催 「執筆応援プロジェクト〜おしごと〜」に参加した際書いた習作です。悩み気味の浪人生が陽気な鍛金職人のところで数日間お世話になる話。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19395132
さらに読むをクリックすると読めます。
「……ここがいいだ工房か」  古びれた民家を思わ��る作りの建物を見て俺は一人呟く。手元の地図にも狂いはないだろうし、外側に手書きで書かれたようなパネルが「いいだ工房」と名乗っていた。  季節は初夏に入りかけていて、日差しは徐々に強くなっていた。周囲の木がザワザワと騒いでいる。  まばゆい陽射しの煩わしさからなのか、それとも単に虫の居所が悪いだけなのか自分でも理解できない苛立ちに俺は顔を顰めた。この頃は毎日こんなだ。  俺は手元にある地図をグシャリと丸めてポケットにしまうと、ズンズンと建物の玄関前に向かった。カンカンカンカンと鉄同士を叩いているような鈍い音が建物の中から響いている。……一度インターホンを押した程度では聞こえないのか、音は鳴り止まなかった。俺はため息をついて、もう何度かインターホンを押した。   中から聞こえるカンカンカンという音がピタリと止んだ。ガラガラと扉が開くと、中から一人の男が顔を見せる。面長な顔立ちをしていて、若干自分より背が高い。作業着なところを見ると、おそらくさっきの金属の音は彼の手によるものだったのだろう。俺が会釈をすると、彼はぱぁっと明るい表情をみせた。 「アナタが中田さん、デスか。お話は先生から聞いていマス。ひとまず入りましょう」  工房の中に案内されると鉄特有の香りが鼻腔をくすぐる。嗅ぎ慣れない香りに俺は少し顔を顰めた。老朽化のためだろうか。若干壁は煤や汚れで黒ずんでいる。  前を歩く男性の背筋を伸ばして歩く姿からは生真面目そうな性格を感じさせた。もしこの工房で過ごす中で困ったことがあったとしても、この人に聞けば大丈夫だろう。そんな安心感を感じさせるような背中だった。  玄関から続いている廊下を渡り、工具が散乱した作業場らしき場所を抜けて、少し奥の方にある応接室に通される。  応接室に案内されるまでの通り道で、男性はカタコトの日本語で自己紹介をしてくれた。彼・李俊(リ・ジュン)は、中国からの留学生で、二年前に日本に来たという。大学の講師をやる傍ら、この工房の主人である飯田さんの手伝いをしているらしい。 「先生は今、ちょうど外に出ていますカラ、少し座って待っていてください」  李さんがさし示したソファにひとまず腰掛ける。工房の主人である飯田さんがどこにもいる気配がなかったので少し不安ではあったが、本人が外出していると聞いて納得した。 「ええと、飯田さんはどれくらい外出されている予定でしょうか?」 「ああ、多分、ちょっとしたお買い物デス。中田さんがいらっしゃっいしたことをさっき連絡したので、きっとすぐに戻ってくると思いマスね」 「そうですか。では待っています」  そのやりとりが終わると、李さんがお茶の入った湯呑みをテーブルに置いてくれた。  湯気のたった��茶に手を伸ばす。暖かいお茶を飲むと張り詰めていた背筋の感覚がちょっと緩んできたような気がした。ふうと息をついてから、俺は、ここまでの自分の経緯に頭を巡らせた。
 きっかけは祖父の一言だった。 「仁、五月になったら飯田さんのところで三週間くらい勉強させてもらってきなさい」  唐突な祖父の提案に俺は、は?と間の抜けた返事をした。なんでも、いいだ工房の主人である飯田さんは版画家である祖父とは知り合いであったらしい。俺がバンドをやっている話をすると飯田さんが食いついてきて、興味深そうにしていたという。飯田さんは工房で鍛金を中心とする金工制作をする傍ら、何かと特別講師としてあちこちの学校や教室を飛び回っている人で、もし俺が金工制作に興味がありそうであれば、是非いらしてくださいとのことだったらしい。  ちょどその頃、俺は、大学受験に失敗して浪人生になることが確定した時期だった。親はどうしても俺をいい大学に行かせたいそうだったが、俺にとってはそこまでの期待がどうしても重荷になっていた。  支援はいくらでもする。浪人すればいい。両親はそう言ってくれたが、、そんなこと言われたところで、「いい大学に行く」ということが俺のモチベーションに繋がっていないのだからしょうがないだろう。  大学受験のために高校の軽音部も、仲間内で集まってできたバンドもすっぱりやめた。勉強も真面目に取り組んでいたはずだった。そしてこの結果である。そりゃ努力が足りないのは確かだとしても、俺としては、何だかもう解放されたい気分になっていた。  そんな時に、先ほどの祖父の提案だったのだった。浪人確定になって半ば投げやりになっていた俺はそんな提案を渋々承諾して今に至る。  と、ここまでの経緯を脳内で振り返ったところで、ドタドタと言う音が廊下の方から響いてきた。足音がこちらに近づいたと思えば、客室のドアが勢いよく開いた。 「李君!ただいま!!あ、君は仁君だよね!来てたんだね!お待たせしました!!僕は飯田鉱二っていいます!!よろしく!!」  飯田さんはものすごい勢いで捲し立てながら、買い込んできた物を袋から出したり棚に入れたりし始めた。相当急いで返ってきたのか、身体中から汗が吹き出している。李さんは、そんな飯田さんの様子を少し呆れたように眺めている。 「先生、中田さん驚いてマスから」 「え?!あ、ごめんね。驚かせたよね。もう少しで終わるから、ちょっと待っててくれてもいいかな?」 「ああ、いいえ、全然……大丈夫ですよ。ハハハ」  この人にこれから色々教わると思うと何だかちょっと不安になってきた。俺、本当にここでやっていけるのかな……。
 少しして落ち着いた感じの飯田さんから改めて紹介を受けた俺はさっそく工房の中を案内してもらった。応接間の隣には道具が収めてある倉庫があり、その奥には作品の保管庫。廊下を戻ると先ほど見かけた作業場に辿り着いた。李さんはすでに作業場に戻っていた。カンカンカンという音がまた響き渡る。飯田さんは机の上にあった銅板を手にしながら言った。 「鍛金���ことは裕之さんに少し聞いたと思うけど、仁君には今回銅で器を作ってもらおうかなって思ってるんだけど、どんな感じのがいいとかある?」 「ええ、ど、どんな感じといわれても……」  物作りに興味がなかったというわけではないのだが、正直イメージが全く湧かない。そもそもあの平べったい銅板がどうしたら器になるのだろうと思う。うんうんと悩んでいる俺をみて、飯田さんが、机の近くの棚に保管してあった金工作品を見せてくれた。 「これとかこれは銅板で作ったコップ。こっちとかはサラダボウルとかかな。こういうのはシンプルなんだけど、工夫すればとっくりとか窪んだ模様も作れるし、気になるやつとかある?」 「なるほど……すごいな、銅板ってこんなに変形できるんですね」 「もちろん!ちょっとずつだけど形を変えていけるからね。まあでも、せっかくここにきて3週間かけて作るものだから、仁君が欲しいものとか使いたい物とかがいいんじゃないかな〜って僕は思うけど。なんかアイデア浮かんだ?」 「……えっと、じゃあ、このコップみたいな形のやつに模様を入れたやつって作れますか?」  こんな感じの……と付け加えながら、俺は持ってきたメモ帳に模様を描いた。すると、先生は感嘆したようにそのメモ帳をまじまじと眺めた。 「いいねいいね、なるほどね。うん、全然できるよ」
 鍛金というのは一朝一夕でできるような物ではなくて、何度も何度も同じ動作を繰り返しながら形を整形して一つの作品が完成するものらしい。まず、焼き鈍しという工程で金属を火で炙り、加工しやすくする。それを薬品で洗って、それから打ち出しという作業に入っていく。打ち出しは当て金という角度のついた金属に沿わせてトンカチで叩いていくことで、形が少しずつ整形されていく作業だ。焼き鈍し、洗い、打ち出しを何度も繰り返していくことによって、平べったい金属板が器に整形されていくということだった。  とりあえず初日ということで、俺は作りたい形に沿った底を作るために木槌で銅板の形を緩やかに変形させていく作業に入ることになった。底に当たる部分を決め、それを中心に平べったい銅板を起き上がらせていく。作りたい物の底に当たる部分を整えてから、当て金を使って全体の変形をさせていく作業に入っていくというのが大まかな手順だ。  飯田さんは、黙々と作業している李さんを示して少し揶揄うような口調で 「李さんは本当に真面目で結構作り方も丁寧だから、僕がいないときにわからないことあったら彼に何でも聞くといいよ!作業中は耳栓してるけど、李様〜!!って大声駆けつければ気付いてくれるからさ」 と言った。幸い、その日にそのフレーズを使うことはなかった。ただ、飯田さんも李さんも時々気にかけるようにこちらの様子を見てくれているのを感じた。安全管理という面が主な理由だろうが、飯田さんにいたっては人が作っているのを見ているのが興味深いというような目つきでもあった。俺は何が面白くて素人の作品を見るのか全くわからなかった。  銅板を熱して叩いてを繰り返していると、あっという間に���七時。帰る時間になった。正午くらいにここを訪れたはずだったが、思った以上に没頭していたらしい。  作業着を脱いで道具の手入れをしているときに先生が思い出したかのように質問してきた。 「あ、そういえば仁君、好きなこととかある?」 「……そうですね。特にこれといったものは」 「……そうか。まあ、この時期はそういうときもあるよね。……ああでも、バンドやってるって裕之さんから聞いたけど」 「バンドは……三年の頃にやめました。ちょっと揉めちゃったし、勉強の邪魔になると思って」 「え?そうなの?……楽器は何やってた?」 「ドラムです」 「そうかー。ふーん、ドラムかー。面白かった?」 「ええ、まあ、それなりに」 「へー、いいじゃんいいじゃん」 「ドラム……叩いてたんですか?」 「んー?いやぁ~、僕はちょっとかじったことある程度かな。音楽はからきしでさ。でも……今聞いて僕は思ったね。君は、きっとうちの工房で過ごす時間が楽しいと思うよ」  やっぱ変な人だなと思った。何を考えているのかがさっぱり読めない。バンドのドラムと、トンカチで銅板叩いていることが何の関係があるというのだろう。大体どちらも俺の今後の人生には必要ないことなんじゃないか。そう思いながら、俺は手にある木槌をぎゅっと握りしめた。
 それから次の日もその次の日も毎日、俺はいいだ工房を訪れて、黙々と鍛金の作業を続けていた。毎日作業場の窓から射しこんでくる太陽の日差しが斜めになるのを見ては、今日もあっという間に終わったなと思っていた。それほどまでにこの鍛金という作業が俺にとっては面白いのかもしれない。底の部分は四日目程で整ってきて、それから後は当て金を使った作業に入っていた。  作業場では飯田さんや李さんも作業をしているため、部屋にはカンカンカンという音が響き渡っていた。さすがに耳がイカれそうになったので、李さんに倣って二日目からはしっかりと耳栓を用意して作業をしているが、それでも、カンカンカンという音はよく聞こえた。  俺は初日、飯田さんは何だか変わった人という印象ばかり抱いてしまっていたが、数日間過ごしてみると、根が非常に真面目な人であるということがわかった。一旦作業に入るとそれまでの気さくな雰囲気はどこへやら、表情の険しい一人の職人が作業台に鎮座していた。しかし、それ以上に面白いのは、彼が打ち出しの時に出すトンカチの音だ。李さんのようなカンカンといった音と違って、飯田さんはカンカン、カンカンカカンと言った風に一定のリズムを保っていた。そのリズムが面白くて、時々俺はそれが音楽のようにも思えた。真似をしようとしたがトンカチの重さのせいで飯田さんほどは気持ちいい音を出すことができなかった。    初めは平べったかった銅板がだんだんと器の形に近づいてくるのつれ、当て金を使った打ち出しが少しずつ難しくなってきた。銅板が起き上がってくるということは徐々に角度がついてくるということでもある。当て金と器との角度がうまく掴めないのだ。ちょうどいいところに当たれば綺麗なうちだし跡ができるのだが、下手に打つと斜めにずれてトンカチの縁の跡が濃く残ってしまう。トンカチの力加減もただ力任せに叩けばいいという訳ではないのが難しい。うんうんと難しい顔をしながら叩いていると、時々飯田さんや李さんがやってきてコツを教えてくれる。けれど、やはりすぐに習得するのは難しい。なかなか習得できないまま、残り日数が少なくなってきたのを見て、次第に俺は焦り始めていた。受験には落ちるしこんなこともできない自分が情けない。何でもかんでも惨めに感じるような気さえした。  そんな日々が何日か続いたときの帰り際、ふとしたように飯田さんが話しかけてきた。 「最近ちょっと行き詰まってる感じ?大丈夫そう?」  飯田さんはどうやらこの頃の俺の様子を心配してくれたらしい。 「ああ、えっと…多分大丈夫だと思うんですけど、打ち出しが思ってたより難しくって……。今日もトンカチの縁の跡ちょっとついちゃったし」  俺は自分の作っているコップを飯田さんに見せながら言った。飯田さんはコップを手に取って、それから縁の跡を指の腹で優しく撫でた。 「……これね。難しいよね。最後軽く研磨もするけど、跡がひどいとどうしても残っちゃうし、仁君もせっかくなら綺麗に作りたいよね」 「そりゃそうですよ」  数秒間静まり返った。飯田さんはさっきからじっと、俺の作りかけのコップを撫でながら何かを考えている様子でいた。外からまたザワザワと木の葉の音がした。そういえば初めて来た時もちょっと風が強かったなと思い出した。沈黙を破ったのは飯田さんだった。 「仁君って確かドラマーだったよね。やっぱ鍛金で叩くのって楽しいでしょ?」 「……ええ、確かにちょっとドラムというか、太鼓っぽさはあって楽しいです」 「僕は、鍛金っていうのは対話に似ていると思っているんだ」  唐突にそんなことを言われる物だから少し困惑した。ドラムにしろ、対話にしろ、何にでも鍛金に関連づけて考える癖でもあるんじゃないのか。  「対話?」 「そう。その人が好きな話をすれば、相手はちょうどいい反応を返してくれる。でも、こっちが好き勝手話せば向こうは受け止め損ねて話はぐちゃぐちゃになってしまう。……鍛金も同じだと思うよ。力任せにトンカチを振るっても当てどころが悪くっちゃ歪んでいってしまうんだ」  ふうんと思った。対話。なるほど。確かに日常でも話題が悪いとうまく返らないし、自分勝手に話したところで話は拗れてしまうのが常である。それなら、少しわかるかもなと思った。気付いたら、俺はずっと気になっていたことを聞いていた。 「飯田さんの打ち出ししている時の音って楽しそうですよね。やっぱり対話しているからなんですか?」 「え?僕の打ち出しの音……?ああ、まあ、あれは癖みたいなものかもな〜。でもなんか単調にカンカンやってても楽しくないじゃん?だったら楽しくしたくない?」  イタズラを思い付いたかのような顔で飯田さんが言うものだから、俺もつられて笑ってしまった。飯田さんらしい。 「だからさ、力任せにやらなくてもいいよ。あと時間はまだまだあるし。多分一週間くらい残ってるでしょ?」 「そうですね」 「初めっからなんでも丁度よくできる人なんていないんだから、できないことなんて気にしないで、ドラムみたいに楽しく叩きなよ」 「はい。……正直スティックの重さとめちゃくちゃ違うからドラムみたいに叩けってのは難しいですけどね」  俺の一言がよほどお気に召したらしい、飯田さん���、そっかそうだよねハハハだなんて笑いながら作業場を後にした。
 そんな日々を通して、いいだ工房で過ごす日はどん��ん過ぎていった。三週間が経って、季節が梅雨に差し掛かる頃、俺の銅製のコップは完成した。打ち出しをしながら模様も入れていった自分だけの銅食器は銅の持つ光沢以上に輝いて見えるようだった。  ……結局として俺は打ち出しのコツは掴み切ることができなかった。最後まで李さんや飯田さんからハラハラとした視線を向けられながら、どうにかこうにか形になったという感じだ。とはいえ、あれ以来、器に跡がつくことは少なくなったし、できない焦りよりも楽しい気持ちが最後は勝っていたように思う。  飯田さんは完成したい俺の銅食器を見て、「え!これ、めっちゃいい!見込みあるよ!!弟子にしたいな〜!!大学生になってからでもいつでもおいでよ〜!!」だなんて言っていた。李さんはハイテンションな飯田さんに、先生、誰にでも言ってマスよね〜と冷静な対応をしながらも、「本当によく頑張りマシたね。すごくいいと思いマス」と満面の笑みで伝えてくれた。  工房の中に置いていた私物を整理して、飯田さんや李さんにお礼を言うと、二人は別れを惜しむかのように沢山労いの言葉や激励の言葉を並べまくった。それから、飯田さんから半ば強引に連絡先を押し付けられる形で連絡先も交換した。…こういうところがあるせいで、飯田さんへの変な人だなぁという感想は最後まで消えることがなかった。  いいだ工房を後にしながら、あっという間の三週間を振り返る。思えば何かを学ぶには少なすぎる時間だった。その証拠に俺は初めの頃と俺は何も変わってはいない。何よりこれからは本格的に勉強漬けの日々になるだろう。それでも、自分だけの中にあった鬱憤をカンカンという音でほぐしていけたような気がする。煩わしいものが多かったのに、今は、ポツポツと降り始めた雨さえも、あの時の飯田さんのようにリズムを取っているようで面白くなっていた。  カバンから折り畳み傘を出して、考える。どちらにせよ浪人は確定してしまっている。志望校のこととか、予備校のこととか、向き合わなければいけないことが沢山ある。帰ったら、いいだ工房の話をして、それからこれからのことを親に話してみよう。綺麗に打ち返るかわからないけど、叩かなければ起き上がらないのと同じように、話さなければ、俺の形も曖昧なまま伝わって、どこか歪んでしまうだろうから。  だんだんと雨足が強くなってくる。それでも俺は構わないでのんびりと歩いていると、後ろからカンカンカンという音が聞こえたような気がした。
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fuzukiii · 1 month ago
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5月27日(火)
夜中に病院から電話がかかってきて、「すぐに病院に来てください」と呼ばれたので、おばあちゃん、母、妹、私で車に乗って深夜の病院へ向かった。
インターホンを押すと夜勤の看護婦さんが案内してくれて、裏口から業務用のエレベーターに乗る。病室に入ると、おじいちゃんは酸素マスクを付けたまま苦しそうに息をしていて、目はもう開かない。「文月だよ、会いに来たよ!」と大きな声で呼びかけると、液晶に映し出された心拍数が急に上がって、赤色の線が画面の中で波を打った。おじいちゃんの手を握ると、もう骨と皮だけのからだなのに、信じられないくらいぎゅって強く握り返されて、何かがたしかに伝わっているのだと思った。その瞬間に、私は破水��たみたいに膣から水が大量に出て、急にお腹が痛くなった。
トイレに行って、また病室に戻ると、おじいちゃんの周りをみんなが囲んでいて、私はこの繋がれてきた遺伝子の末端にいるのだと感じた。これまで一度もそんなことを考えたことがなかったのに、「もしも妊娠したら、子どもを産もう」と自然に思った。
数日前に内臓が破裂したというおじいちゃんの呼気からは、僅かな腐臭がした。ずっと病魔に侵されながら生き続けるのは、どれだけ苦しかっただろう。心の中で「もう大丈夫だよ、ありがとう」と言うと、血圧がみるみる急降下して、液晶の中で動いていた線はまばらな感覚になった。最後にゲートが開かれるみたいに目がゆっくりと開いて、数秒間おじいちゃんと目が合った。魂だけの存在になる直前のおじいちゃんの目のあちら側には、私がまだ行くことができない世界が広がっていた。
それから、またゆっくりと目を閉じて、ピーッという電子音が鳴るのと同時に息を引き取った。目の前にはさっきまで生きていたおじいちゃんの肉体があって、これまでの苦痛がやわらかく取り除かれたように安らかな表情でそこに横たわっていた。
私は悲しさよりも先に、目の前の大切な人が苦しさからやっと解放されたことに安堵する気持ちがあって、隣で泣いている母と妹と、まだ現実を受け止めきれていない祖母を交互に見ていた。
しばらくすると葬儀屋さんがやってきて、これからの段取りをてきぱきと進めていく。
祖母の家に戻ると深夜の2時を過ぎていて、ひどい空腹を感じたのでカップヌードルを食べた。胃のあたりが急にあたたかくなって、私は明日からもまだ生きるのだと思った。
5月29日(水)
おじいちゃんの死を悼んで数年ぶりに煙草を吸った。夜中の丘に寝転んで空を見ていたら、プラネタリウムで見るような満天の星が見えた。青く光りながら星がふたつ流れて落ちていくところを見た。
5月30日(木)
できれば木を切らないで欲しかった。おじいちゃんとの思い出が詰まった大きな胡桃の木をおばあちゃんは少し前に業者に依頼して切ってしまった。
「地主に返すときにみっともないから……」と、おじいちゃんの畑の象徴だった胡桃の木は、ただの太い切り株になっていて、まるで最初からそこには何もなかったみたいだった。
私はそれを見たら、たまらなく悲しくなって涙が止まらなくなった。
田んぼや畑、千曲川の河川敷をぐるぐると歩く。当たり前だけど、どこにもおじいちゃんは居ない。人はこんな風にして、突然居なくなってしまうのだなあって、いつか呆然としながら思った記憶がまた蘇ってきた。
弔辞を書いて欲しいって頼まれているのだけど、何を書けばいいのかわからないから、頭の中でおじいちゃんとの思い出をなぞってみる。思い出されるのは、一緒に楽しく過ごした記憶ばかりで、きれいじゃない感情だって何度も抱いたはずなのに、こうやって都合のいいように誰かとの記憶は改ざんされて、心の引き出しに仕舞われてしまう。別にそれが悪いことだとは思わないけど、私はどこまでも自分の都合で生きていて、身勝手な存在であることを忘れたくない。というか忘れてはいけないって思っている。
5月31日(金)
雨の日。お通夜の前の時間、親戚たちが集まってきて、昔のアルバムを見たりしながらわいわい話をしている。私は偏頭痛がひどくてその輪の中には入らなかった。
私の父は通夜に来られない。母方の親戚と関係がよくないことに加えて、持病の精神疾患が悪化していて、まともに人と話すことができないので、明日の葬儀だけ来られたら来るということになっている。「どうして⚪︎⚪︎さん(父の名前)は居ないの?」と聞かれるたびに、母は困ったように笑いながら曖昧な返事をしている。
それを見ているのが居た堪れなくなり「ちょっと散歩してくる」と言って、喪服のまま小雨が降る屋外へ逃げるように飛び出す。
雨に打たれた植物の緑が濃くなって、空気には青い匂いが混じっている。
息を大きく吸い込んで、吐き出して、人間が中心の世界の中で生きていくのはしんどいなあって思った。
6月1日(土)
火葬と葬儀の日。昨日からの雨は上がって、よく晴れていた。棺桶の中のおじいちゃんにお別れを告げて、遺体を焼いている一時間半で任されている弔辞を書こうとノートとペンだけ持って、火葬場の裏にある山を登った。見晴らしがよい場所を見つけて、木陰に座ってペンを走らせる。
弔辞の例文をネットで探してみる。形式ばかりのつまらない文章の中に、内田也哉子が父・内田裕也に送った弔辞を見つけて、それがかっこよくてしびれた。
「Fuckin’ Yuya Uchida,Don’t rest in peace. Just Rock’n Roll!!」
こんなイカしたこと言ってみたいなあ、と思ったけど私のおじいちゃんの性格にはそぐわないので、自分の言葉で気持ちを綴ってみる。頭の中で思い出を再生して、それを言葉に変換していく作業をしているとまた涙が零れた。
気持ちの良い風が頬を撫でて、目を閉じてじっとしていると妹から「そろそろ戻ってきてくださいー」と連絡がくる。私は今こんな風に生きていられていて、なんだかとても幸せだと思った。
焼きたての骨を拾いあげて、骨壺に入れる。骨をまじまじと見てみると珊瑚みたいに、白くてうすい層が重なっている。「こんなに骨がちゃんと残っているのはめずらしいことです」と火葬場の人が言う。たしかに、おじいちゃんの頭蓋骨はほとんどそのまま残っていた。
そのまま葬儀場に移動して、あっという間に葬儀がはじまった。名前を呼ばれて、さっき書き上げたばかりの弔辞をいざ読もうとすると、すぐに感情が込み上げてきてしまって、涙で原稿が見えなくなる。声が震えて、少し読むだけで止まってしまい、息を吸い込んでからまた少しずつ言葉を放つ。ぜんぜん思ったようには読むことができなかったけれど、今この場所で伝えたい言葉をちゃんと自分の声で言うことができたからよかった。
弔辞を述べ終えて、後ろを振り向くと親戚のみんなが泣きながら私の方を見ていたから、それを見て私は思わず笑ってしまった。
夕方になって外に出ると、山の上の方に橙色のとてもきれいな夕焼けがひろがっているのを見た。
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iarumurai · 3 months ago
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無題
こころがいたいから、とふたをする。
み(れ)ないように
秋の夜長の頃には相応しくないてらてらとした陽射しがダークカラーのベッドシーツを熱するから眠れない。ので、代わりに白昼夢を見る。
降り注ぐ光が蝶だったらここはもしかしたらこの世とあの世の狭間だったのかもしれない。それかあの子が話す言葉の一粒一粒だったなら、そう思って飲み込む唾液は甘い。
寝返りをうつと血の匂いがした。伝う感触が夢から現実への転換装置のように働いて、(こんなものただの電気信号のくせに)、テキパキと状況の処理をする。汚れた布を洗濯機に放り込んでそのまま冷たい水を浴びる。伝うものが液体であることは変わらないのにと少しだけ落ち着きながらあの子の声をもう思い出せないことに気がつく。
みないようにふたをする
めをくらませるながれ
レンジで500w3分半温めるだけの簡単な昼食は顔も知らないダレカの笑い声とともに胃に流される。消化にかかるのは多分5時間〜7時間。その頃には鈴虫の声が部屋の中にも届く。「電話越しだと声、聞こえないんだよね」というあの子の言葉は色はあるのにもうあつくなくなっていて、砂のようでそれを喰むとざりりと甘く喉が乾いた。
人の気配のするこの建物は四六時中生きている匂いがする。階段を登ってくる無骨な足音。インターホンが鳴る。ほら、隣の住人が扉をあけた。陽が沈むとベランダの窓はヤモリたちの食卓へと変わる。街中とは違う生活という名の喧騒の中で刻々とすぎゆく今日を見送る。
JR新宿駅で降りてすぐの階段で「またね」と言った。見送る背中が視界から消える前に私も反対側に歩き出す、そこからは君が辿った人生の記録と同じだ。疲れて部屋に帰る頃にはスーパーは閉まっているから最寄りのコンビニでレタスサンドと普段は飲まないカルピスウォーターを買う。それが夏の記憶だったかは定かではない。つけっぱなしにしたままのTVモニターではキリンが列を成していて、AM2:45の湿度に髪が伸びたことに気がついて美容室の予約を入れ明日の旅支度をする。
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mastercocoro · 5 months ago
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くうちゃん ベーシッククラス卒業おめでとう!
おりこうさんにお座りをして卒業写真を撮らせてくれて トイプードルのくうちゃん。 ベーシッククラスのトレーニングを飼い主さんご家族と一緒に がんばりました。 ものすごく慎重派でビックリすることも多く、 家族の人であっても急に身体に触れたりすることで ビックリして噛んでしまったり、インターホンでの吠え、 窓から感じる外の人の気配などで吠えてしまう。ということで レッスンをスタート。 パピーの頃からどういう風に接してあげると良いのか手さぐりで いろいろと試みられていたようなのですが、結果としてシャイだった性格を 余計に助長させてしまったようで、ビックリして噛んでしまうことや お家の中でも家族の人を守ろうとしてる行動が問題となる行動になってしまった。 というケースなので、、 問題の発端を作ったであろうところ(飼育環境や接し方)を変えてもらいながら 適切なコミュニケーションが取れるようにトレーニ…
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getrend · 7 months ago
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【ガチ】 日本の電車で撮影された「本物の痴漢動画」、海外でヤバすぎると話題に(動画あり)
今日のピックアップ記事 【GIFまとめ】 女性が『本当に気持ちいい絶頂』を体験するとこうなるらしい・・・ヤバすぎる・・・(オカズランド) 家の掃除を終えて一息ついてたら玄関のチャイムが鳴った。インターホンに出たら「宅��便です」との事。普段ならそこでどこの業者か名乗るのに何も…(修羅の華-家庭・生活まとめ) 【巨乳】 元AKB48鈴木優香さん、オッパいがデカすぎると話題にwww(動ナビブログ ネオ) 中国の少女たち、8才にしてタバコを嗜む(保守速報) 【動画】 石川県の居酒屋さん、隣の解体工事の失敗で壁を破壊されてしまう(@_@;)(1000mg) 【ガチ】…
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kennak · 27 days ago
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山梨県富士河口湖町にある中国資本ホテルが「あなたの家の木のせいで富士山がよく見えない」という理由で隣人宅のヒノキを無断で伐採、さらに除草剤を注入した事件。 週刊現代は2024年2月に『「富士山が見えないから切った」…中国資本のホテルが隣人宅のヒノキ23本を無断伐採した、「身勝手すぎる言い分」』でいち早く詳報した。 その後、器物損壊の罪に問われた実行犯の中国人男性に対し、甲府地裁は12月2日、求刑通り罰金30万円の判決を言い渡した。 「この件は本来、隣人とのトラブルなので内々の話し合いで収めたいと考えていました。ところが、ホテル側からは誠意ある対応が一度もなく、あまりにも倫理観が欠如していたため告発を決意しました。被害発生から3年近く経ちますが、まずは実行犯に対する処分が決まって安心しました」 こう安堵するのは、被害者の井上さん(仮名)だ。 2021年10月、敷地内の雑木林の一部を伐採する工事作業完了の挨拶のためにKホテルを訪れたときに撮影 2022年1月、敷地内の枝が無断で伐採されていることに気づき、事情を聞くためにKホテルを訪れたときに撮影 まずは前代未聞の事件を振り返る。複数の事業を営んできた井上さんは、終の棲家として富士山を一望できる高台の土地を購入して別荘を建築した。敷地の背後にはインバウンド向けのホテルがあり、HPでは「富士山の眺望」をアピールしていた。 「もともと富士山が見える客室は数室だけで、宿泊者から不満が出ることもあったようです。別荘の建築を始めると、ホテル側から『あなたの土地の雑木林が邪魔をしていてホテルから富士山を見ることができない。ホテルの眺望を良くするために木を切ってくれないか』と打診があり、プライベートを守るために一部だけ残して雑木林を伐採しました。ところが、富士山の眺望にこだわるホテル側はプライベートを守るためのヒノキの伐採も求めてきたのです。 先方の求めに対し、『では、そちらが塀を立てるなど代替案を出してくれないか』と伝えたところ、『プライバシー保護のために別途塀を立て、その費用を負担することもやぶさかではない』という趣旨の提案がありました。ところが、費用は一部しか負担できないというのです。そもそもヒノキの伐採に応じる義務はありません。そこで、『それだと難しいですね』と提案を断ると、まさかの出来事が起きました」(井上さん) ホテル関係者が「内部告発」 なんと、ホテルの関係者が井上さんの別荘の敷地内に不法侵入し、勝手にヒノキの枝を伐採してしまったのだ。非常識な行動は伐採だけではなかった。伐採された木の根元には直径2センチほどの穴があけられており、木を腐らせるためにグリホサートという除草剤が流し込まれていた。多数の事業を手掛け、法令遵守を徹底してきた井上さんにとって予想もしない事態だった。 枝をバッサリ切られてしまったヒノキ 根本には直径2センチほどの穴があけられており、除草剤が流し込まれていた 伐採および除草剤注入があったのは、2021年の年末から翌年の年始にかけて。ちょうど工事業者などの出入りがない時期だった。 「いくらなんでもやりすぎ。さすがにひどい」と心を痛めたホテル側の関係者からは「ホテルの眺望をよくするためという理由で経営者が従業員らに命じてヒノキを伐採させたのを現地で確認した」という情報提供があった。また、防犯カメラの映像を確認すると、経営者がヒノキの枝を片づける男性に謝礼を渡している姿も写っていた。 井上さんはホテルを訪れて『どういうことか?』と尋ねた。だが、ホテル側は『知りません。何のことだかわかりません。おたくが自分で切ったんでしょう』の一点張りだった。 河口湖にあるKホテル。近くには有名女優の別荘も建つ 前代未聞の行為に及んだホテルは富士河口湖町の別荘地にあるK。開業はコロナ渦の2020年12月。経営母体はAという中国籍の男性が代表を務めるM社で、Kホテルのほか、ジャパニーズウィスキー専門のウイスキー博物館や日本語学校を運営している。 「もともと中国資本のホテルとは知りませんでしたが、のちにその事実を知りました。その後、ホテルの中国人経営者から『会いたい。話がしたい』との要望があり、恐怖を感じていた私に代わって、代理人が面会しました。 経営者は通訳を通じて『仲良くしたい』『隣人としてちゃんと付き合いたい』と一方的に話すだけであり、こちら側が『切ったんですよね』と聞いても『私は知らない』『やってない』と否定するだけ。誠意の欠片もありません。それどころか、彼の側近は『私たちは日本の警察には捕まらない』と豪語していました」(井上さん) 「経営者から依頼された」実行犯が法廷で証言 Kホテルの経営者であるA氏からは、その後も謝罪はおろか、誠意ある対応は何ひとつなかった。 「枝を切られ、除草剤を注入されたヒノキは23本。しばらくすると朽ち果てました。仮に倒れて周囲に被害が出てしまった場合、所有者である私の責任になります。そこで、除草剤を注入されたヒノキはすべて処分しました。 一方で、ホテルは何事もなかったかのように営業を続け、インバウンド客で賑わっていました。やりたい放題は許されるのか。やり場のない怒りをどこにぶつければいいのか途方に暮れました」(井上さん) 除草剤によって腐り、倒れてしまったヒノキ 井上さんは除草剤によって腐ってしまったヒノキ23本を処分することになった 困り果てた井上さんは、2023年1月に被害届と告訴状を富士吉田署に提出。不安を抱えながら捜査の進展を待った。ようやく事態が一歩進んだのは、被害発生から2年半以上過ぎた頃だった。井上さんの代理人が明かす。 「実行犯グループのうち主犯のRという中国人男性が今年9月4日に器物損壊罪で逮捕されました。RはAの旧知の人物であり、Kホテル建設時には造園の仕事を担当していた。その後���残りの実行犯2人も逮捕されました。 Rは当初、容疑を否定していましたが、『Aからの依頼を受け、犯行に及んだ。他人の土地だとわかっていたが、無断で侵入し、毒を入れて木を切った。ほかの2人には私が指示した』と容疑を認めました。 なお、主犯のRが『依頼されたのは自分だ。2人は自分に指示されただけであり、他人の敷地だと知らなかった』と主張したこともあり、残りの実行犯2人は不起訴となり釈放されました。 公判にはRの妻も出廷し、『私が責任をもって更生させます』と情状酌量を求めていました」 実行犯逮捕の翌日に「日本脱出」 Rは80万円で無断伐採と除草剤注入を請け負ったという。伐採を断らなかった理由について、Rは次のように明かした。 「依頼者とは数年前に知り合い、何度か内装の仕事を受注していた。依頼者から『すでに施工完了した内装の未払い分の代金と伐採費用を一緒に支払う』といわれた。伐採を断ると未払いの施工代金が支払われない可能性があった。さらに依頼者から『何かあったら自分がすべての責任を取る』といわれ、伐採してしまった」 Rらの行為は許されるものではないが、A氏に金銭で依頼された実行犯であり、首謀者はA氏だ。 「Aの動きは早かった。実行犯の逮捕を受け、Aは妻子を置いて翌9月5日に出国し、現在も行方がわかりません」(井上さんの代理人) Kホテルからの富士山の見晴らしは良くなっていた(2024年3月下旬、ホテルを取材した際、記者が撮影) A氏の自宅は千葉県松戸市内の高台にある豪邸だ。近隣住民が言う。 「以前はパチンコ屋を経営する在日の方が住んでいましたが、3年ほど前に2億円で売りに出され、Aさん一家が引っ越してきました。お年寄りから子どもまで大人数で暮らしているようです。日本の常識が通用しないところがあり、引っ越してきた当初、ゴミ捨てをめぐるトラブルなどが相次ぎました。ご主人も奥さんも日本語をあまり話せません。通訳を介さないとやりとりできないので大変でした。そういえば、ご主人はしばらく見かけませんね」 インターホンを押すと、女性が対応したが、何を聞いても「日本語がわからない」と繰り返す。代わりに出た女性も「(Aは)海外に行っている。河口湖のホテルの件は何もわからない。弁護士に連絡してくれ」と話すのみだった。
「私たちは日本の警察には捕まらない」…隣人のヒノキを無断伐採した《富士山が見える中国資本ホテル》の実行犯が逮捕、実刑判決も中国人経営者は「国外逃亡」(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)
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psytestjp · 8 months ago
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zfxuz · 8 months ago
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珍しく。本当に珍しく急用があって。
インターホンを鳴らしたものの、応答の無いソレ。彼のことだからゲームでもして気付いていないのかもしれない。やっぱり一報入れてから来るべきだったか。そう踵を返そうとした時。ゴンッと鈍い音がした。何かが床に落ちたような。まさか、彼が倒れたのだろうか?連休だと言っていた彼は、自分一人では面倒だからと食べないきらいがあった。半ば衝動で引いたドアは鍵の存在など知らないかのようにガチャリと音を立てて。このご時世に不用心な、と思わなかったわけではないけど何かの因果が重なることもあるだろうと開けることにした俺はきっとこの瞬間のために、コイツの傍に居たのかもしれない。
「ウォヌや、居るのか。」
不気味なほどに静まり返った空間。明かりの漏れるリビング。室内へ上がろうとすると、目に入った見知らぬ靴。ゆらりと姿を現した家主と、目線の先の何か。錆び付いた金属かのようにこちらを向いた彼は、やっと俺の姿を認め、目を見開いた。
「ジフナ、」
その声がとどめだった。さっきまでの躊躇いなんて無かったかのように彼に近付けば今までに見たことないほど狼狽えた目。お前、そんな顔するんだな。ざっと部屋を見回し状況を把握すれば、異常なのは床に転がったモノくらいなもので。ぶつかったことで致命傷を与えたであろう場所も一見して分かるほどの変化はない。モノを、片づければ。
「ちょっと待ってろ。」 「え、」 「絶対動くな。すぐに戻ってくる。いい子だから守れるな?」
幼子へ言い聞かせるようにじっと見詰めながら言えば、理解が追い付いてないながらも動いていけないことは分かったらしい彼は小さく頷く。いつもは圧を感じるほどの躯体差なのに今は俺と同じように感じられる。そんな彼の頭を一撫でし、音を立てないように部屋を出れば、一歩、二歩、と離れるごとに足の速度は上がり、終いには駆け出していた。これから俺が、俺たちがすることは倫理に叛く事だ。言ってしまえは犯罪だ。今からだって通報してしまえばいい。人を殺した罪を償わせるべきだ。それでも、そんなことよりも俺はアイツの共犯者になりたかった。
「お待たせ。ちゃんといい子で待ってたんだな。」
未だ、茫然としたままの彼はいつもの理知など捨ててしまったかのようで。
「ほら、お前もこれ着て。」
言われるがままに黒いパーカーを纏った彼の腕を引き、モノの片方を持つように促す。
「なに、してんの。」 「手伝ってやる。」 「は、」 「早くしろ、捕まりたいのか?」 「そうじゃなくて、」 「日が昇る前に全部終わらせるんだよ。」
「俺とお前は、今から共犯者になるんだ。」
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shukiiflog · 11 months ago
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ある画家の手記if.?-8 雪村絢視点 告白
朝起きたら乾ききった大量の血でベッドのシーツはシワになったまま固まっちゃってた。 してる間ずっと端によけてた布団は無事、だけど血痕が、床にも壁にもそこらじゅうに飛んじゃってるから、大掃除して色々買い換えないと。前の家にいた頃、完全に乾いた布とかの血を洗って落とすのは至難の技だったから無駄に時間消費してないで血で汚れたものは丸ごと捨てちゃってた。今は綺麗に落とせる洗剤とか売ってたりするかな。 部屋やベッドはひとまず放置して先に人体。
二人でお風呂にお湯をためて使いながら、弱く出したシャワーで派手な血の跡を体から軽く流して落とす。真澄さんの背中はまだ生乾きの部分もあったから、広範囲の傷自体を流したりはしないでおいた。 少し思う、真澄さんってどこか…弱い? まったく同じように転んで同じように怪我しても、出血が激しい人と滲む程度にしか血も出ない人といる。血圧とか血液量とか血液の凝固のスピードとか皮膚の違い? 理人さんは後者に近くて、血みどろになるような日はもっと激しい暴力があった日だった。真澄さんの派手な出血量と凝固の遅さが気になる。元からの体質がこうじゃないなら、体が弱ってるか深刻な病気の可能性もある。 「……」 体を拭いて着替えて、リビングのソファに座って真澄さんに両手の指の手当てをしてもらう。真澄さんの背中を手当てするには俺がまともに指使えないと話になんないし。 俺の指は包帯とガーゼで綺麗に巻かれた。とれた爪はどうにもなんない、割れたり指に刺さった爪を丁寧にピンセットで動かしながら処置された。出血が止まるのが遅いのに痛覚は鈍い、俺も弱ってる。
次は俺の番。真澄さんの背中、まだ生乾きだから止血帯大きく貼ろうかな…とかやり方考えてたら、インターホンが鳴った。約束の時間より少し��いけど、たぶん香澄だ。今日デートの約束してたから。 「…。」 「……」 真澄さんと顔を見合わせる。 この状況を今からバタバタ隠そうとしてもな、寝室見られたら事が起きた場所は一目瞭然だし、背中の怪我、いろいろと言い逃れるのは無理。香澄がどこまで察するかだって分かんないんだし、とりあえず下手に取り繕うのはスッパリ諦めよう。 鍵を開けて香澄が来るのを待つ。 ドアを開けて入ってきた香澄は、まず俺の指を見て唖然とした。 「香澄おはよ~。キッチンにハーブティーあるから飲んで待ってて。今手が離せなくてさ。すぐ終わるから」 いつものちょっと気怠げなような穏やかなようなゆったりした口調で話す。以前よりさらに口調から覇気が抜けた。ここも省エネ。 場に緊張感がないことを香澄に示すためにあくびとかしながら、玄関からリビングのもといたソファの位置にぽすっと座って、真澄さんの手当て続行。 香澄は紅茶も入れずソファにも座らず、俺たち二人を見ておろおろしてる。明らかに自分も何かをすべき状況に見える、でも何をすべきか何もわからない、ような感じかな。ごめんね、話せること、今回はすごく少ないんだ。 「ど…したの…その、怪我…」 香澄のほうに微かに走る緊張感と不安と恐怖、いつも通りを徹底することでこの異常事態を平常に錯覚させるとか俺にできるかな…真澄さんの協力があればできるかな。 「どれも病院行くほどのやつじゃないから。そろそろ終わりそうかも。香澄、俺の部屋からコート取ってきて~」 「うん…」 二人とも処置が終わって怪我をいつもの服で覆い隠して、ぱっと見だけでも装って、香澄の目につく頻度が落ちれば少しは気にせずに楽しく過ごせるはず。…楽しい記憶を、幸せな記憶を一つでも 多く香澄の中に遺したい
香澄が俺の部屋にコートを取りに行ってる間に、痛まないようにそっと真澄さんの背中に頬を寄せてすり寄った。 本当は傷を労わって今日はずっとそばについてたかった。でも俺も指を怪我してちゃきっと大したことできないし。もともと今日は香澄と約束してた。それを前日に事態をこじらせたのは俺だ。 昨日はずっと予想外のことが続いたけど予想外のことが起きる可能性には前もって思い到れたはずだ、踏み込んだ話をするんだから。俺がもっとスケジュールに余裕みて真澄さんと話すべきだった。 ソファから立ち上がったらコートを体にかけてくれる香澄と二人で玄関に向かおうとして、真澄さんのほうを振り返る。「絢…」呼ばれて香澄のほうを振り返る。定まらない視線が二人を交互に行き来した末に、床に落下した。 こんなのは嫌い。 とどめられなかったどうしようもなく溢れる感情の発露とか、それで泣いたり怒ったりとか、体力いるから苦手だけど嫌悪してるってほどじゃない、特にこの家に来てからは、なるべく自分の素直な感情を圧し殺さないって決めたから。 でもこれは、そういうのとも違う。二人の間でどっちにするのか俺はどうするのかうじうじ俯いて悩んで、二人に決めてほしいアピールみたいで鬱陶しい… 「光を迎えに行くからそこらまで乗ってくか」 真澄さんが言い出してくれた。怪我させといて、また助けられてる…。 この場で俺が一番呑気でいい身分なのに。怪我も少ないし、ひどく詰られた訳でもないし、香澄みたいに事態の詳細がわからないまま俺も真澄さんも両方の怪我を心配してなくてもいい。 視線だけ俯いたまま動けずにいたら、頭にスポッと帽子被せられた。 「まだ家に居るんなら先に出るよ。もし出掛けるなら戸締まりしといて」 いつも通りの真澄さんに、背中の怪我は?って訊こうとして、結局訊けないまま俺も香澄も、さっさと廊下の横を通り過ぎて玄関から出ていく真澄さんの背中についていった。 「香澄、せっかくだしピアスのお店の近くに降ろしてもらおーよ。歩かずに済むし」 駐車場まであくまで笑っていつもみたいに歩きながら、先を行く俺の手を取ろうとした香澄が手をとめた。俺の指が痛むのを心配して。 香澄はいつも必要なときは真澄さんと接してるけど、多くを語る気はそんなにないみたい。これまでがこれまでだから、ってのは香澄の記憶の欠損で成り立たない。あるいはその欠損がギリギリ今の関係を保ってる、こっちかな。二人からは馴れ合いたくないというより不要に馴れ合えないみたいな、磁石のプラスとマイナスみたいなのを感じる。心配してることくらい語っていい気がするけど。 「今日は香澄が運転したら?うちの車、運転そんなに難しくないと思うよ」 暗に込めた意味をこれくらいなら香澄は十分察する。 「えっ うっうん…いや、あの」 「…」 察したせいで狼狽えてる。でもやっぱり詮索はできない。怪我の理由も、何があったかも。 俺は昨日の真澄さんとのことは、感情面や会話内容やしたことまでは詳しく話したくない。事実関係ならバレても平気だけど、…でもどこから寿峯に伝わるか分かんないし、知られればそこで寿峯の中では終わるって思うたびに、追い詰められるような、常軌を逸した悪いことをしてるみたいな気がして なんでそうなるのか分かってるけど解らないのがもどかしい、なんだって反論なら簡単だけど信じるものが違えばこうなる、多くの人が信じるものを寿峯も信頼してるから社会を形作る信頼を損なうなって指を指される俺は 悪者じゃなくて、ただの少数だよ。少数だってことを悪にするのが、悪だ。 「保険適応さしてねえからお前はだめだ」 「ち、ちがう!」 俺がごちゃごちゃ考えてる前後で真澄さんと香澄が言い合いしてる。ちょっとだけいいなとか思ったり。 「兄ちゃん怪我してるんだから運転はしちゃだめでしょ。車の運転は責任重大だよ!」 「お前話聞いてたか?大した怪我じゃねえって絢がそう言ったろう」 「うぐ…。…でも絢は兄ちゃんのこと心配してるよ」 「…」 三人で車に乗る。運転は真澄さんが緩やかに押し切った。 店の近くで二人で車から降りた。
いつもみたいに香澄の腕にまとわりつかないで、香澄の指先を包帯だらけの指先でキュッと軽く握った。香澄が俺のほうを見る前に、横顔で小さく呟く。 「俺、真澄さんのことが好きなんだ」 「……」 光さん、ごめんなさい。 家庭内だけに関係も事実もとどめて絶対外に漏らさないことで、誰からも許されなくても結実する関係だって。俺の想いを認めて、迷う俺に道を示してくれた、その条件が誰にも言わないことだったのに。 黙って静かに聞いてる香澄は”好き”の意味をちゃんと理解したかな。もっと小さな囁やくような声で付け足す。 「…まこには内緒にしてね」 眉を下げて、悲しく微笑む。 香澄も小さく「わかった」ってだけ答えた。 寿峯と一度少し似たケースで揉めた香澄なら責めないでいてくれるかも。直にぃとだけ結ばれたい香澄には理解不能で呆れられるかも。香澄も直にぃも愛す情香さんのことを知ってるから静かに納得してくれるかも。 俺は香澄にどれだけのことを求めてるんだろう。俺に守らせてくれるなら、俺の願いはたったひとつそれだけだったはずなのに。 「兄ちゃんのこと心配だよね?…戻る?」 隣から少し顔を傾けて俺のほうを見てくる香澄に、にっこり笑って返す。 「大丈夫。真澄さんは俺が香澄と一緒にいるほうが嬉しいと思う」 ピアス店の中に入っていきながら、真澄さんに借りた手袋をはめる。 店内が寒いわけじゃないけど包帯が目立つから。香澄は逆に手袋を外してた。白い毛糸の、ポンポンがついたクリスマスに俺が編んで香澄にあげたやつ。あの日の服に合わせて作ったけど、意外と香澄がはめてたら他の服とも合わないことない。俺の耳にはかいじゅうピアス。
綱渡りは避けるほう。100パーセントの安全がどこにもないにしろ、俺は俺の納得できるラインまで安全度が満ちるまでじっと待つ。でも同時に、ある程度のリスクと不確定の未来の恐怖に晒されてはじめて得られる堅実な安心や信頼ってものもある。 人間関係の深度が一気に進むときはそういうところを起点にしてたりとか。これまで築いたものが壊れる時に発生する。全てに言えるわけじゃないけど。 この前光さんが読んでた仏語の本を軽い気持ちでめくった、そこにあった”l’homme est d'abord ce qui se jette vers un avenir,et ce qui est conscient de se projeter dans l'avenir.”っていう一説。「人は賽子のように自分を人生の中へ投げる」? 本当の意味は知らないけど、言葉面だけならあんな感じなのかな。 黒髪に戻してからここまで外を出歩いたのって初めてだ。ここまで車だし、近場だけど。 来てるのはピアスのお店。寿峯が連れてきてくれた。香澄も寿峯とだいぶ前に来た記憶があるっぽい。
「思い立ってもさ、あの人の好みとか普段どういう系統の服着てるとか、俺なんも知らないんだよね。会ったのもほんの数回だし。そこで香澄の出番です。ピアス選ぶための手がかり知らない?」 ずらっと並んだピアスを二人で見ながら、横の香澄に振る。俺がピアスをあげたいのは情香さん。 最近、寿峯と香澄が少し衝突して仲直りした、なんの問題かは俺が本人たちに問うべき筋じゃないとしても察しはつく、香澄は寿峯��言い分に返す言葉がなくて情香さんに連絡した。情香さんは電話一本ですぐその場に来てくれて、香澄が傷つきすぎる前に寿峯と物理的な距離を離させた。 これはやや憶測混じり。だいぶ後になって和解も済んでから、香澄が俺との通話中にあのとき情香さんが来てくれたことを話したから、そこから。 「うーん…会ったばっかりの頃はカジュアルめなスーツとかだったけど、あれは仕事の都合だったみたいだし…最近は夏ならタンクトップとデニムに編み上げブーツとか、冬もロンTとデニムとか、ピアスはたくさんしてるけど飾り気なくてシンプルな…あ、靴はいつもすごく高いヒール履いてる」 「…」 それって護身用の武器としてのヒールじゃないかなぁ、とか思ったり。 情香さん、やり方は正攻法だけど同時に大胆でもある。誰かを守るとき仕方なく他の誰かから不興を買うことになっても大して意に介さないというか。俺は俺にとって瑣末なたった一人でも敵を増やさないように動くほうだから。 にしても、結果寿峯は香澄とは和解しても情香さんには不愉快な気持ちを抱えてた。おそらく情香さんが香澄を連れ出すときにそうなるように印象操作した、寿峯の中で香澄の立場が悪くならずにネガティブな感情は情香さん一人に集まるように。 一年前に真澄さんと話してた通り。情香さんはおそらく一生香澄を家族として守ってくれる。 それはおそらく、家族だからとか息子だからとか、そういう固定観念に縛られて愛情を落とした強迫的な守護の意思というより…愛情を基軸にした情香さんにとってごく自然なことだから。ただ自分だけにとって自然な行いっていうなら以前の直にぃもそうかもしれないけど、情香さんは自分の逸脱に仔細な自覚がある。 あの人柄なら、例えばいつか直にぃと香澄が完全に離別して戸籍も分けて他人として別々に生きるようになったとしても、情香さんは今とほとんど同じように香澄に関わり続けるだろう。 直にぃと香澄の関係は、情香さんと香澄の関係にそれほど影響しない、情香さんの価値観の中では、多分。 「あ、香澄のピアスあった」 指をさして香澄に見せる。ロップイヤーのピアス。 耳から下がるタイプより耳たぶに綺麗におさまるような小さめのがいいかな。香澄なりふり構わず唐突な動きとかするし。 「香澄はピアスしないの?」 「うーん、俺の服とピアスって合うかな」 「耳たぶからジャラジャラ下がってるアクセよりは小ぶりのが香澄は似合うかな?服には合うやつ探せばいいじゃん、ふんわりしたモチーフのさ、これとか」 目先にあった冠かぶったうさぎのピアスを掲げて見せる。 「か、かわいい… !」目を輝かせてピアスを見てる。確かにさっきのロップイヤーよりデザインがかわいいかんじ。 「まあ王子さまうさぎって実質俺だし。」 軽口叩きながらピアスを手に取る。これは俺から香澄へのプレゼント。香澄にはまだピアス穴も何もないし、これから穴あけてつけろって強要の意味でもない。 ピアス穴は放置し続けたらいつか自然に塞がってなくなる。またあけたくなれば香澄が自分であければいいだけで、そこには香澄の意思に基づいた決定と行動がある。刺青なんかより、ずっといい。 香澄が見つけた情香さんのピアスと、俺が見つけたインペリアルトパーズのピアスと、王冠うさぎ、これらを持ってカウンターに行こうとして、意外な二人組とはちあった。
虚彦くんと空ちゃんが俺たちより先に喫茶店から出ていって、愛想よく見送ってからソファの上で香澄にもたれてぐったりする。 「絢、疲れた?熱ない?」 俺の額に手を当ててる香澄の首元にグリグリ頭を押しつける。 「前よりさらに体力落ちたな~ってのもあるけど、そっちより気疲れ的な…人と話すの好きなほうなんだけどなぁ」 相手が悪かった。 空ちゃんのほうはかえって本人と話してよかったような感触。やっぱりデータ上だけだと憶測入れても拾えないものが多いな。だいぶ他人行儀に接されたけど、初対面の、それも成人済みの年長相手なら常識的だ。施設育ち、か。そういう対人スキルがないとやってけない場所だったってことか、…真澄さんがまったくどうでもいい他人に接するときの最低限の礼儀だけ弁えた態度とも少し似てなくもないか…?目もとが似てるからそんな気がしたかな。 面立ち…そんなに凝視するのも失礼だからそこまで念入りに見たわけじゃないけど、やっぱり目もとが似てるかな。年齢が比較にならない気がするけど、俺の歴代彼女とかとは全然違うタイプ。 元カノ、みんな細くてか弱そうで繊細そうで、顔やスタイルはキレイ系だけど化粧とかでニュアンス可愛くしてて、服は清楚で大学生の範疇から逸脱しないかんじで、俺が「こうしよっか」て言えばなんにでもついてきちゃう、常識とか判断能力がないわけじゃないけど、少し言いなりになりすぎるところがある、みたいな。 容姿だけなら空ちゃんもあんなかんじにもなるかもしれない。でも彼女には強い意志と自我があった。本人が強いとは自覚してないかもしれないような、潜在的な強さ。 なら、香澄のトラウマの起爆剤になるかもしれない自分を彼女がもし知ったとして、そんなものに成り下がるのはごめんだって反応、香澄がどうなろうが知ったことではないって反応、いろいろあるけど、どうかな…。 虚彦くん…は、俺には少し…おかしいように、見える。 あの子、まっすぐに俺のほうを見てくる。並んで歩いてるときも首曲げて俺の目を覗き込んでくるとかって意味じゃない。俺がそういう印象をあまりにも強く受けるって話。 静かに、まっすぐ。簡単なことのようで、普通は躊躇ってできない。 俺相手には虚彦くんは真顔みたいな無表情なことが多いから、あの目で見られると俺が俺を誤認しそうになる。…まるでとうに死んだ首吊り死体を見るような目で、目の前の事実を淡々と見つめてる、だから俺が気づいてないだけで俺の方が本当は首吊り死体なんじゃないか?ってふうに。 彼のモノの見方が全てになってモノの実態と入れ替わって支配する、そういう…少しだけ似てる目を知ってる。直にぃだ。 一、二度だけ会った若い頃の直にぃはもっと顕著だった。人間を無理やり強引に静物にする目をしてた。 相手の目を見て話しなさい、なんてよく言うけど、あれはその通りにするにしても相手の肩やせいぜい顎とかあちこちに目線は適宜移動させながら、本当に相手の目だけじっと見ろってことじゃない。 本当に相手の目を長時間じっと見つめて失礼じゃない関係っていうと、恋人同士とか夫婦とか。それも多分愛し合ってる感情を伝え合うための行為に分類される。 相手をじっと見ることは、付き合いの浅い相手とのコミュニケーションにおいてはディスコミュニケーションのほうに入る。 個人差はあれど一般的に、じっと見られてる相手は居心地の悪さや落ち着かなさや不快感を覚える。そういう不快感をわざと与えることでなんらかの感情を自分相手に抱かせて、その感情を恋愛感情や強い関心なんだって相手に錯覚させていく、結婚詐欺師とかそんな感じかな。 ぶっちゃけると昔の俺がよく使った手ってだけなんだけど。 二人が出ていって早々に手袋をとった。あったかい店内ではめてると蒸れて汗がしみるから。怪我、虚彦くんにはバレてたけど。俺の包帯だらけの指先を香澄の指先がそっと撫でる。
「俺もう一杯なんか飲みたいな」 「俺も。次はコーヒーとかお茶じゃなくてジュースにしようかな」 「香澄、ぶどうジュース頼んでよ、俺カルピス頼む」 「? 俺のぶどうジュースも飲む?」 「そーじゃなくてさ、香澄と俺のジュースを二人で混ぜたら多分ぶどう味のカルピスできるじゃん?美味しそう」 俺の体をソファの上で上体だけ楽な姿勢で寝かせて、頭を膝の上に乗せさせてる、香澄は俺の髪を撫でる。 香澄と俺が初めて会って、会話っていえないような会話で話をした、そこも喫茶店だった。 あのときの香澄を、何も知らない俺は大雑把に区分してだいたいこういう人種だろって、乱暴にあたりをつけた。そうすると全部俺の都合のいいように解釈ができるから。俺と話す気なさそうで口数少ないのも楽しくなさそうなのも、ああ人見知りね、で終わっちゃうんだよな。きっとどこまでいっても俺に非がこない。 そういうとこは、つくづく理人さんに似てた。
香澄と二人で細長いガラスコップからぶどうジュースとカルピスを混ぜるのに四苦八苦して、最終的には交互にすばやく飲めば口の中で味が混ざる!なんて言って笑う。 飲み終えたら二人一緒に喫茶店を出た。 店を出るときに香澄が俺にマフラーを巻いてうさぎ耳のついた帽子を被せてくれた。 今朝家を出てくるときに真澄さんが同じことしてくれた。 ねえ香澄。血縁関係がなくたって、一緒に過ごした頃が曖昧だって、それでも香澄を育ててくれたのは真澄さんで、二人は似てないけどときどき似てるよ。
俺がそろそろ体力的にきつくなってきたから、俺の家まで一緒に帰ってきた。香澄はいつもみたいに泊まってく。 真澄さんは光さんと一緒に先に帰ってきてた。ソファで二人で話してたら光さんが途中で眠り込んじゃったかんじか、真澄さんの膝の上に小さなまん丸の頭を乗せて、光さんは珍しく俺たちが帰ってきても気づかないでぐっすり寝てた。 帰宅したときのいつもの感覚で、香澄と一緒にお風呂入ろうとして、やめた。指に爪がないのバレちゃうし、服の上から���って香澄もわかってはいるだろうけど、実物見ると怖がらせそう。痩せすぎた。運動して絞ったんじゃないからきれいな痩身でもないし。 真澄さんと光さんと香澄と俺で、寝るまでになんかして遊んだり、ただのなんてことない雑談でもいい、できたらなって思ったんだけど、帰るなり俺が熱出して、何もできなかった。 書斎で布団に入って大人しくしてながら、取り繕えなくなっていくのを感じる。前から外出した日は帰ってきたらだいたい微熱は出してたけど、普通に振る舞うことだってできた。でも今はこの程度の微熱が誤魔化せないくらいあつくて苦しくて痛い、寝てるしかできない。 香澄はずっと俺についてるつもりだったのを、真澄さんに首根っこ掴まれて書斎から引きずり出されてった。 久々に外出したんだし、外でもらってきた風邪とかインフルエンザだと確かに危ないから、一人で少し様子を見なきゃ。
そのとき真澄さんに借りた手袋返そうとして、ひっこめた。 両手で手袋を持って引き寄せて、頰にあてる。俺の手よりずっと大きな手。革の部分がきもちいい。帰ったときにすぐ殺菌消毒したから顔すりすりしても一応大丈夫なはず。 少し眠った間に、俺が握りしめてた手袋が口元からなくなってて、ほつれて解けかけて出血が滲んでた包帯がきれいに新しく処置しなおされてた。…真澄さん。 眠ってたら何時間か経って夜になってた。 急な高熱とかその前兆とかひどい頭痛や関節痛も喉の痛みも、これから発症する兆しはなにもなかったから大丈夫かなと思って、リビングに出てってみる。 途端に香澄に書斎の中に押し戻されて抱えられてベッドに入れられて布団かけられた。 「まだ安静にしてなきゃダメだよ」 熱のことか指のことか、どっちもかなこれ。 「…ひどくなんないから、いつもの疲れたときの体が火照ってる感じだと思うよ。ひとに移さないやつ」 熱って前提で話したら、俺が話すうちにも香澄はサイドテーブルに常備してる解熱剤を出して、水を用意して持ってきた。 俺もベッドの上で体を起こす。 「香澄、薬飲ませて」 指差し指の指先で自分の唇をトントン軽く叩いて示す。にこって笑いかけたら香澄が急に挙動不審になった。意味は伝わったってことかな。 俺と薬を交互に見てたけど、意を決したのか薬と水を口に含んだ。 こぼしちゃわないように唇をきれいに合わせて喉に通す。 すぐ間近に香澄の顔がある。切れ長の涼しげな、俳優さんみたいな綺麗な目。何事もなく普通に学校いって、友達作ったり、部活入ったり、そんなありきたりな愛しい時間を今日まで積み上げられたなら。香澄は容姿だけでもきっと人気者でいっぱいモテた、そんな香澄じゃなかったから直にぃと出会った。 幸せを願うことだけでも難しい。 しっかり飲み込めてから唇を離して、お互いに微妙に照れる。布団を持ち上げて俺の横のマットレスをぽんぽん叩いたら、香澄がもそもそ潜り込んできた。
ベッドの中でしばらく香澄と身を寄せあってたら、またいつの間にか眠ってた。 夜中。 一人で布団から起き上がった俺の横で香澄もぼんやり目を覚ます。 こういうことは ずっと言いたくなかった。 誰かの体について何かを強いるようなこと。強いてなくても、願うだけでも、今の姿と本人そのものを否定してるようで、 俺の気に入る姿に変わってくれって 前後にどんな事情があっても、要はそういうことだ。 それなら刺青を入れた綾瀬樹と、刺青を消せって言う俺に、何の違いがある。違わないんだ本当は。 愛から生じて香澄を守りたいがために。
刺青を入れるのも消すのも惨い苦痛を伴う。どこかで「痛いから嫌だ」って香澄に言ってほしい。 でも …真澄さん 昨夜、眠りに落ちる寸前、俺の頰に落ちてきた雫 伝い落ちて俺の唇の間に滑り込んだ 血じゃなかった 泣かないで、俺の愛する人たち 香澄の話を真剣に聞いてくれた寿峯 誰より香澄を生涯愛してくれる直にぃ 二人を見守ってくれる情香さん 裏で手を回してくれた慧先生 虚彦くんと空ちゃん はじめから俺が何も言わなきゃいい、香澄は気にしてないんだから。 だってそれは本人から 見えない位置にある。 だから、それを一番近くで見続けてきたのは 直にぃだ それでもきっと何も知らない直にぃはどれだけ傷つきながらも言い出すことができない なら、俺が いなくなったあとも二人が愛し合い続けられるように
香澄のまわりの愛する人が損なわれずに 明日も香澄を惜しみなく愛してくれるように
「香澄 その背中の刺青、…消してほしい」
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qofthequinine · 1 year ago
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12+12=24=25-1
 クリスマスがやってくるというのに、息子が泣いていた。またママに「そんなことしたらサンタさん来ないよ!」と叱られたのだろうか?と思って、妻に訊いた。「今日、帰ってきてからずっと泣いてるのよ。訊いても教えてくれなくて」とよくわからない。
 泣き疲れたのだろうか、リビングにやってきて、「お腹空いた」と、少しおぼつかない足取りでやってくる。サッカー少年で、試合でも目一杯に活躍する子だ。こんな足取りは、相当疲れているらしい。
 食事を取って、「久しぶりに一緒に風呂入るか?」「うん」
 息子はお年頃なので、最近はなかなか一緒に入ってくれないし、私自身も残業続きで難しかった。子どもと過ごす時間を大切に、とシステムは言いながら、大人なんだから働きなさい、と同時に言われるサラリーマン。
 風呂に入った。私が太ったのか、彼が大きくなったのか、昔よりも湯船からこぼれるお湯の量が増えた。
「今日なんで泣いてたの?」
「あのね」また泣きそうになってる。「実は」
 ゆっくりと、学校でサンタがやってくると話すと馬鹿にされたこと、サンタの正体は私たちであると知らされたこと、しかしそんなことはないはずだ、と反論しようにも、サンタさんを見たことがないからね、とまた落ち込んだ。
「そうだな。話すべきときだな。実はな、サンタさんは、世界中の人間全員だ。例えば、欲しいものを買うとき、スーパーのレジの人がいるだろう?あの人がいなきゃ、物を買えない」
「たまに宅配のお兄さんが来るだろう?あの人はここらへんの人だけれど、あの人に海外からの荷物を手渡す人もいる」
「そうすると世界中で物を作っている人もいる。例えば、このマンションだって、誰かが作った。この風呂桶だって、誰かが作った」
「そうやって世界中はぐるぐる回ってるんだけれど、その中からちょっとだけ力を出して、みんなにクリスマスプレゼントを渡そうとしている」
「確かにプレゼントを置いたのは、パパかママだ。でもそのプレゼントを手に入れるために、世界のどこかでたくさんの人が頑張ってる。それが『サンタさん』という人の正体だ」
「ちょっと難しいかな。ハハ。パパはもうちょっと入ってるから、ママ呼ぼうか」
 風呂のインターホンを押す。扉から出る息子。しばらくしてドライヤーの音が聞こえて、止んだ。
 そろそろ出よう。脱衣所とはいえ、今年の冬は寒い。
 リビングに行くと、妻が息子とテレビを見ていた。ゲラゲラ笑っていた。
 一時間後、���子が寝た。リビングで妻が少し心配そうに「何を話したの?」と訊いてきた。「理解できるかわからないが……」と、風呂での話をした。明るくなった妻が、「じゃあ私、クリスマス頑張っちゃおうかな!」と張り切っている。
「まあ、無理はしないでな。まだまだ寒い。とりあえず、寝た方がいいかもな」「あなたは?」「もうちょっとしてから」
 妻の寝息が聞こえる。本を読みながら、ぼんやりしていたが、もう眠い。
 ぐっすり寝ている息子の手のひらに、人差し指を近づけた。ゆっくり、人差し指を握った。そう、キミが生まれたとき、こうやってキミの体温を知った。ありがとう。がんばろうな。
 あなた方に幸多からんことを。それでは、おやすみ。
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