tachi-kaze5555h-blog · 9 years ago
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オメシャ 何故僕に引き金を引かせたのか 2015/06/16
その日、数日ぶりの雨が降った。 誰との連絡も絶ってしまって、島に取り残されてから既に3日ほどが経過している。 島の上空には常に重たげな暗雲が広がってはいたが、実際に雨が降ったのは、シャドウが島に来た当日以来だ。周りを海に囲まれた、所謂孤島というやつである。島には人はおろか��き物一匹見当たらず、人間の生活の痕跡を残した、廃墟がただ呆然と建ち並んでいるだけだ。以前そこへ住んでいた者たちの手により造られたのであろう防波堤には、雑多な落書きが残されている。かろうじて読み取れる文字の羅列に、『Salvation Where is?』なんてものを見つけて、指でなぞる。 「………」 この文字をそこへ刻んだ人間は、何を抱えていたのだろうか。何に救いを、問うたのだろうか。 どうだっていい疑問に、漠然とした煮え切らないものが立ち込める。ふと空を見上げると鳥が鳴いていた。 シャドウがひとり雨を凌ぐ薄暗い廃墟には、GUNとの最後の通信手段であった、赤と黒の鉄片が転がっている。その本体らしき大きめの機体には、E-123のナンバーが刻まれていた。数日前にシャドウが破壊した、コードネーム オメガの残骸である。シャドウを制御、若しくは処分対象とすることのみを目的として造られた彼は、造り主たるDr.エッグマンに復讐を誓い、その為だけに淡々と目の前の道を突き進んできていた。 E-123、もといオメガは、Dr.エッグマンの手がけるE-シリーズ最終ナンバーにして最強の異名を持っていたが、こうなってしまっては、ただの鉄くず同然である。吹き付ける潮風に錆を募らせ、ピカピカに光沢を放っていた赤いそのボディは、早くもツヤを失っている。造った当人であるエッグマンが見れば、いくら命を狙われる立場とは言え、激昂するに違いない。 それらを暫く眺めてから、ゆっくりと傍へ歩み寄った。ホバーシューズのつま先が触れ、ガツッと無機質な軽い音がする。 辺りに散らばった破片は胴体やら腕や足があるが、頭は何故かそこにはなかった。風などで飛ばされてしまったのか、知らぬ間にどこかへ蹴飛とばしたのか。いずれにせよ、シャドウにその所存はわからなかった。 この島へ足を踏み入れた時、シャドウはひとりではなかった。 島で起きた争い事を鎮める、という任務を請け負い、オメガと行動を共にしていた。 そうして島へと送り込まれたが、着くなり船は早々にシャドウたちを置いて島を離れ、Good luck、なんてことを去り際に船員はこちらに吐き捨てて行った。 何もない土地、誰もいない場所、孤島、悪天候、偽りの情報、船員の笑顔。 ざっとそれらの状況が頭に流れ込み、なるほどな、と口に出してしまいそうになった。それをわざわざ口にしなかったのは、傍らにいる、機械への無意味な気遣いだったのかもしれない。 シャドウにとってオメガは、唯一境遇を認める事のできる存在だった。 同じようにだれかの手によって造られ、その存在意義が造り手の与えた使命によって支えられている。 それはお互いに認可しているものなのだと思っていたから、だから、何故、とシャドウは口にせずにはいられなかった。 「何故だ、オメガ」 お前はその手でドクターを倒すのではなかったのか? 残骸は返事をしない。土埃にまみれ、機動力である動物を失った彼に電源が入ることなどなければ、音声を発することははない。 「何故お前は、僕に引き金を引かせたんだ」 天井の高い無機質な部屋に、灰色の声がぽつんと落ちて響いた。ひとりぶんの心臓の音が、やけに騒めいて耳が痛かった。 ふと足元に転がった、オメガの右腕パーツと思われる鉄くずを拾い上げる。太めのアームボディの先端には、指先がマシンガンの形態に組み変わったものが備わっており、その先は微かに欠けてしまっている。多くの戦いの果てに彼がその細い銃口を最期に向けていたのは、紛れも無い、処分対象となったシャドウザヘッジホッグだった。 GUNからの指令だ、とオメガは言った。世界を脅かす存在である、貴様を排除する、と。 当然のように困惑した自分にシャドウは驚き、けれどもすぐさま乱れた心は安定を取り戻していた。そうか、とだけ短く紡ぐ。漸くか、なんてことを思う。 「それがお前の意思で無いのが残念だ、オメガ」 そんな言葉を口走って、無防備な両腕を広げた。 「GUNの指令だろうと大統領の命だろうと、何であろうと好きにするといい」 どっちみち、遅かれ早かれこうなってしまうことは分かっていたのだから、今更何を恐れることもなかった。 ソニックザヘッジホッグという英雄を失ったこの世界に、陰ながら英雄として肩を並べていた存在たるシャドウは、やはりどう足掻こうとも脅威らしかった。 表面上は彼と同じように扱われていたとはいえ、いざひとりの英雄として体現されてしまうと、どうもそうはいかないらしい。以前復讐のために世界を滅ぼすことを企てていた、Pr.ジェラルドの名がシャドウの存在意義を際立たせ、実際その企てを阻止したのもシャドウであったが、いつまたこの世界に手をかけられるのかと人々は怯えていたに違いない。いや、そうでなくとも、英雄は一種の脅威だ。世界を守り救う存在は、裏を返せば、世界をどうとでもできる存在ともなり得てしまう。だから人々は英雄に対し畏怖の念を知らず知らずのうちに抱き、消してしまおうとするのだ、彼のように。 それも相俟ってか、タイミングを見計らったような今に、動揺をしなかったのかもしれ無い。ある意味、感謝すべきなのだろうか。 「………?」 おかしい。 撃たれる体勢をわざわざとって目をつぶり、あれこれ考えていたが、一向に撃たれる気配は無い。何かあったのだろうかと薄っすら目を開けると、目前に赤いガラスのはめ込まれたふたつの目玉と目が合い、ぎょっとする。ガラにもなく肩が跳ね上がった。 「シャドウザヘッジホッグ」と真っ直ぐにシャドウを見下ろしたまま合成音声が響く。虚を突かれたまま棒立ちしていると、マシンガンを構えていない左腕で、オメガはシャドウの手を掴んだ。 「ワタシヲ撃テ」 と付け加える。 オメガとその名を呼んで意思を疎通した彼は機械だ。機械に血は通わない。だから当然そこへ人肌の触れ合ったときのような温もりなど有りはしなくて、ただただ冷たい機体の装甲が押し当てられてくるだけだ。その冷たさと相反するように、自身の熱は昂ぶっていく。擦り付ける手のひらに自然と力がこもる。速度を上げる。無造作に開いた口からは、生温かい吐息が漏れ出す。やがて背筋をぞくぞくと熱が体内を駆け巡り、ひんやりとした空白のような感覚だけを残し、愚鈍な手のひらに吐き出された。ねっとりとした粘液を見つめ、吐き気を催す。 実に、不愉快。 何をやっているんだ、と下半身へと押し当てていたオメガの腕を手放した。気持ちが悪い、確実に気が狂っている。 今こうしている間にも、通信の途絶えたオメガの所在を、GUNの連中は探しているというのに。呑気にひとりこんな場所で、自身を慰める行為に、溺れているなんて。 「僕はとんでもない大間抜けらしい!」 はははは、と乾いた嘲笑が反響する。なんだか無性に可笑しくなって、声を上げずにはいられなくなる。 機械として稼働していただけのオメガに対し、生きていたというのもおかしな話であるが、そんな彼には、触れることすらも躊躇ったというのに。 どうして なぜこんなにも簡単に、触れてしまえるのだろうか。なぜこんなにも簡単に、失われてしまうのだろうか。 彼が機械であったから単なるこれは破壊であったが、ある種の意思を持ったもののその稼働源を奪ったのだから、殺したことには違いない。この手で。 オメガに腕を掴まれ言葉を聞き終えた瞬間、何処からか勢いよく湧いた怒りのままに、カオススピアでその頭を射抜き吹き飛ばした。傾いた機体に構うことなく上段から蹴りを入れ、踏み倒し、抉り、引き裂き、装甲を引き剥がしてコードを乱暴につかみ出しばらばらにした。 火花を散らし、あっという間にオメガは原型を失っていった。当人は一言も発することなく、ただそれが当然のことであるかのように、黙々と崩れ落ちてしまった。 最強の名は、こんなものなのか。こんなにも、呆気ないものなのか。 だからもうオメガは動かなくて当然で、その死が何を意味したのかと考える。 身代わり?自己犠牲?同情による庇護? どれを並べ立てて考えてみても、シャドウにはどれが正解であるかなど分からなかった。 否、どれが正解であろうとどうだってよかった。 「貴様が死んで僕がのうのうと生きている」 殺すべき存在が死を乞い殺され、死ぬべき存在が死を乞われ殺したのだ。 だからどうしたというのだ、馬鹿馬鹿しい じゃあなぜ、こんなにも苦しいのか 胸の奥が針を刺したように強く痛んだ。突き刺さった小さな針はぐいぐいと押し込まれ、その痛みがなんであったのかわからなくさせる。 ああ、どうして 僕には奪うことしか出来無いんだ 雨脚が強くなって、古びた屋内に雨漏りの音が響き始めた。ぴちゃんぴちゃんと落ちる音に、カツンポツンと浮いた音が混じる。ふとそちらを見ると、じっと監視するように、ふたつの赤いガラスの目玉がこちらを向いていた。近寄ると、ガザガザと電波を弄るようなノイズ音が聞こえた気がして、静かに銃口を突きつける。
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tachi-kaze5555h-blog · 9 years ago
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シルブレ 2015/04/21
焦燥を潤した一時的な快楽の直後、途轍もない罪悪感が襲ってきた。それによりぼんやりとしていた思考が輪郭をくっきりとさせ、意識は現実へと引き戻される。 たった今、自分が、目の前の彼女へ何をしでかしたのか思い出せない。 ただ彼女が泣いているのは事実であり、そしてその状況を招いたのが自分であることにも違いなかった。 気が付いた時には彼女の手を握っていて、動揺する彼女の口元を塞いで、そのまま倒れ込んで、それからーーー 渦巻いたのは困惑だけだ。甘い蜜の味を感じたのは束の間だった。あっという間にその味は舌の上で褪せていき、鉛を飲んだような、鈍い感覚が喉には垂れ込んだ。焦る呼吸が心拍を早め、不意に冷静さを取り戻した頭が、彼女から自分を引き剥がした。 ああ、俺は、一体何を 何か、何か言わねばならない 何か
「…………ごめん」 乾いた喉から絞ったその言葉はあまりに貧弱で、相手の耳に届いたのか疑わしい。馬鹿だ、とんでもない大馬鹿者だ、俺は 「…いいんだ、別に」 彼女は此方を振り返らなかった。 俯いて、その華奢な肩を揺らし、しゃくり上げる呼吸を必死に殺し、再びいいんだ、と呟く。 「お前がそうしたかったんだろう?」 真っ赤に泣き腫らした金色の瞳が、暗闇で微かに光る。
好きだと告げるその前に、声より先に手が伸びたのだ。肩を抱き寄せ、鼻を近づけ、役割を果たさない口が、動揺する口を覆った。舌先から伝わった信号は火花のようで、けれど甘い綿菓子似た、夢のような錯覚を感じさせる。 彼女に触れたい、と思ったのだ。ただその体に触れて、直接その体温をこの手に感じたかっただけたのだ。 それなのに
「ブレイズ、」 混乱する脳のままに口が名前を紡ぐ。また動揺して、あの、えと、などと適当に誤魔化す。はっきりと視界には捉えられないながらも、呼ばれて此方を見上げる彼女の目は、未だ少し潤んでいた。きらきらとした輝きをまとったその瞳が、その金色を際立たせ、皇女の美しさに更なる美を漂わせる。 あ、 ふとその目を見つめながら、いつの間にか、自分の視線が見下ろす形になっていたことに気がついた。ついこの間まで、ずっと同じ高さか、或いは少しの差だったような気がするのだが。何か言わねば、と思考が絡まるのを他所に、どこか冷静にそんなことを考えてしまい、頭を振る。 とにかく謝るべきだ、と言う声と、抱きしめてうやむやにしてしまおう、という囁きが聞こえる。どちらのそれにも頷きかねて、ああもういい加減にしろと頭を掻いた。どうすればいい、どうしたらいい? 「シルバー」 不意に名前を呼ばれて、何の気なしに声の方を向いた、瞬間だった。 「ーーーーっ」 咄嗟のそれに対応しきれず、小さく声が漏れ、手足が硬直し、完全に思考が停止する。先ほど感じた幻影のような蜜の味が、舌先から食道へと垂れ、脳汁をそれで満たしていく。 ふわふわした感覚 そんな幼稚な表現しか浮かばないながらも、それ以外の適切な言葉を自分には分からない 「お前がやり出したことなんだぞ」 漸く自由になった口から、つんと微かに冷たい糸が伸びる。 いつものような堂々とした、けれどもどこか無理矢理にそれを演じているような、少しだけ上擦った声で彼女は続けた。
ちゃんと責任は取ってもらうからな
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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シャソニシャ 傷みを舐め合う 2015/03/28
努力でどうにもならないこととはどうしても存在するらしい。無意識のうちに繰り返す癖や、感情の制御など、直そうとしたり抑えようとしても、ふと気を抜いた瞬間に元に戻ってしまって、遣る瀬無さに気が狂う。 孤独なんかも、そうだ。 どんなに紛らわそうとしても、忘れても、ふとした瞬間に、甦る。けれどそれを感じることを、自分が今孤独であることを認めてしまうのが、何よりも怖い。怖くて怖くて仕方が無い。だからそれを埋める為に、孤独に好かれた者たちはそれを隠すべく必死に自分自身を取り繕う。それが本心であろうとなかろうと、そんなことは関係ない。 どうせ解らないのだから
「どういう風の吹き回しだ?頭でも打ったのか?」 壁際に追い詰められたソニックは、珍しく苛立っていた。別に、と返し、壁についた両手に力を込める。 「ソニック、僕はキミが好きだ。だからこうしてキスをしたい。恋仲には当然のことだろう?」 「Doubt」 頬に冷たい感覚が飛んだ。唾だ。そっと指先で拭い取る。 「一体いつからそんな下手くそな嘘つきになったんだ?お前が俺を、好きだって?恋仲?Ha,笑えないjokeに巻き込まないでくれよ」 しゃがんでシャドウの腕を抜けようと試みたその体を、手を掴んで引き止める。おいおい…とソニックはますます呆れた声を上げる 「いい加減にしてくれよ。シャドウ、お前に何があったか俺は知らないし、知りたいとも思わな」 耐えかねて、両手を掴んだまま口で口を塞いだ。うっと小さく呻く声が聞こえるが気にしない。膝を曲げた不安定な体勢だったからか、その勢いに押され、呆気なくその身体は床に倒れ込んだ。からからに渇いた喉へ水を流し込むように、もっともっとと求めたくなり、舌をぐいぐい押し込んでいく。息を荒げて飯を食らう犬のように、漏れる荒い吐息が、顔を近付けた相手との間にわだかまる。気持ち悪い、と思った。 「ッ!」 強い力が腹を抉った。一瞬息ができなくなる。置かれていたテーブルに��つかってめちゃくちゃにし、そのままその後ろにあった壁にぶち当たった。ぶつかった背中から順に、他の感覚を遮断する痛みが込み上げる。顔を上げると、咳き込んでいるソニックの姿が目に入った。よろよろと壁伝いに立ち上がり、右足を軽く振っている。どうやら腹を蹴り上げたのはそれらしい。 「少しはcool down出来たか?」 とんとん、と頭を指先でつついて見せ、ソニックはシャドウの前に立った。バギボギバギ、と指を鳴らす。 「クールダウンするもなにも、僕は最初からずっと冷静だ」 「冷静?男に告白してキスをする奴がか?」 「そうだ」 頭を振った。ばらばらと落ちてくる破片に目を閉じる。 「嘘はついていない」 「いーや嘘だね」 胸ぐらを掴まれ無理やり立たされた。ソニックの顔が近くなる。直視出来ない。 「お前はただ寂しいだけだ」 そうだろ? 胸の奥がざわめいた。急に喉が渇き、手のひらに汗が滲む。違う、と警報が鳴る。 「僕が?何を言っている、寂しいなど」 「目が泳いでるぜシャドウ。相変わらず嘘つくのが下手だなお前は」 ソニックを見る。獲物を捉えたような眼がこちらを見据える。窓から忍び込む陽光が、その背後にするするとよじ登った。作り出された逆光が、その演出に拍車を掛ける。 「ひとが他人を求めるのには幾つか理由があるらしい。本当にその相手が好きで、四六時中ずっと傍に居たいとか、頼れるものがそいつしかいないからとか、お互いに抱えてる孤独を相手を求めることで紛らわすとか、色々だ」 「何が言いたい」 「お前もそれだろってことさ」 ふざけるな、と手を振り回す。手が放れ自由の身になった。 「僕の愛がフェイクだと?」 「That’s not what I mean.もし仮にそうだとしても、お前が俺を好きだってのは嘘だね」 「何故そう言い切れる」 「俺がそうだからだ」 なんだそれは 目を見開いた隙に、今度はソニックの口がシャドウのそれを塞いだ。言葉を返す手段も、何かを考える余裕すら奪われる。何も出来ない。全身の力が抜けて行くのが分かる。覆った口から伸びてきた舌が、シャドウの口内を掻き回した。いじらしく歯を撫で、舌を押さえつけ、奥へ奥へと入り込んでくる。喰らうように動く唇が隙間を生み、汚らしく涎を垂らす。不愉快さが薄まる酸素と相俟って、脳が溶かされていくような錯覚を起こした。うねるソニックの舌が、シャドウのそれに絡みついて引き摺り出してしまう妄想に囚われる。時々無作為に漏れる自分の声が、ソニックの声が、混ざり合って、感覚とともに使い物にならない脳裏に刻まれていく。 「っは」 水面から顔を出して息継ぎをするように、ソニックはシャドウを離した。唐突に肺へ吸い込まれた酸素に噎せる。咳き込みながら、舌を確認し、安堵した。 「…説明しろ��� 何とか呼吸を落ち着けて、絞り出すようにシャドウは言った。睨むその目を意に介すことなく、涼しげな顔をしソニックはシャドウへ向ける。 「誰にだって孤独は存在するもんさ。誰かの造ったもんであるお前にも、勿論俺にも」 「キミが?」 耳を疑う。キミが、孤独だって? 「そんな信憑性のカケラも無いキミの戯言を、信じろと?」 「信憑性なら今ので十分だろう?俺もお前も同じだ」 馬鹿げてる、とシャドウは笑った。 「僕は究極生命体で、キミはただのハリネズミだ。同じだとは言えんな」 「でも今目の前に映る奴が好きで好きで仕方が無い。そいつに耐えかねて勢いでキスしてる。その好き���自分の孤独を紛らわす手段とは知らずにな」 「まだそんなことを」 「なぁ……シャドウ。もし、お前が言う言葉がすべて本当なんだとしたら、俺をどうしたい?俺にどうして欲しい?お前は俺に、何を望む?」 顎に垂れた唾液を、乱暴に左手で拭った。先に自分の、そしてシャドウの。それから中指のあたりを咥え、手袋を外した。 「同じだと言うなら、貴様はどうなんだ」 「お前が言ったら言う。Maybe」 「信用ならんな」 「そういう信用出来ない奴を好きになった自分は、信じられるか?」 気がつけば、先ほどとは逆の状況になっている。壁際に追い詰められ、両側に手をつかれ、逃げ場がない。何よりこの刺すような黄緑に覆われた眼が、シャドウを逃そうとはしない。観念するように呆れた口を開く。 「一番、信じられない」 「だろうな」 そこでようやくソニックは笑った。俺だって信じられない。
傷みを舐め合う
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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創作 煙 2015/03/05
私は器用ではないなんてことを口ではいいながら、何事も卒なくこなすその姿が酷く憎たらしく、嫉妬し、羨望の眼差し以外を彼女に向けることが出来ず、しかしいざその顔と面と向かって言葉を交わす際には、貴女には到底敵わないわなどと微笑まざるを得ないわけで。 コーヒーカップをさっと持ち上げ、何の情も抱かぬ容姿端麗な美女を演じ続けるのも、楽な話ではない。そんな自負を抱くことにすら、本来ならば馬鹿馬鹿しさを感じずにはいられないが、けれどもそれを守っていなければ、私は、無難に世渡りすることすらままならない。それほどに、ひどく臆病者で、加えて不器用であった。羽織っていた冬物の黒いコートの内ポケットへと手を伸ばした。それから探るようにして、ソフトパックの煙草の箱を掴む。次いでライターも掴まえる。空になったコーヒーカップに一瞥をくれて、私は煙草に火をつけた。幼い頃から両親の吸うその臭いが嫌いで、絶対に煙草などに私は手を出すことなどあるまいなどと決心をした日が懐かしい。あの頃は、兄もまだ元気に笑っていた。二つ上の彼は毎日のように野球の練習に打ち込み、勉学にもそれなりに勤しみ、彼女もいて、傍から見れば、良き好青年であった。全てがうまく行き過ぎていたのだ。順風満帆。そんな言葉がよく似合うような、似合い過ぎるような、出来過ぎていたような。幸せ過ぎたのだ。なにもかもが、手にするには早過ぎたのだ。あの頃の私の幸せは、私の人生全ての幸せを早々に見せつけ、後世をどん底に突き落とすための、甘い夢に過ぎなかった。悔しい、などと歯ぎしりをする。その隙間から煙が漏れ出す。歯並びが良いことだけが取り柄だった私の歯は、見事、ヤニを帯びた汚らしい喫煙者の口腔の身構えとなり、見る度私は、でっぷりとした成金が喉の奥で唾を飛ばして笑っているような、不快感と嫌悪感とを抱かずにはいられなかった。 「貴女、御煙草なんてお吸いになるの?」 そもそも女性の喫煙者なんて、私初めて見たわ、などと彼女は下水でもかけられたような、あからさまな不快さを顔に貼り付けた。 「そうよ、ご存知なかったの?」 「ええ」 短く言って、小指なんて立てながら、手元の紅茶をカチャカチャとかき混ぜたのち、すっと持ち上げて上品に口元へと運ぶ。我慢ならない、と声が聞こえた気がした。私は声の主にナイフを突き立てて、殺す。 「貴女には、無縁な世界ですものね。仕方がないわ」 なんて、皮肉が声になった。けれど彼女には聞こえていないのか、そんなフリをしているのか、何食わぬ顔をして、するするとカップの中身を流し込んで行く。 ああ、なんて憎たらしい 大きく煙を吐き出した。
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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ソニシャ 冷蔵庫は空じゃなくなった 2015/02/23
「…あっ」 布ずれする音だけが響いたのち、不意に声のない空間に打ち出すような声が落ちた。達したのだろうな、と感触と共にその声で確かめるように思う。ゆっくりと冷めて行く感覚に、反射的な昂りを覚えた。 深呼吸をする。そののち、一体自分は何をやっているのかと毎度の怠惰感に襲われた。 日中はGUNから与えられた任務をこなし、それが終わると着任と同時に���てがわれた居住区へと戻ってくる。睡眠や食事といった休息を必要としないシャドウにとってみれば、居住区へ戻るのは単なる義務でしかなかった。朝が来るまで夜を待機する場所。そんな認識でしかない。そのため備え付けとなっているキッチンは使ったことなどないし、冷蔵庫は常に空っぽだった。がらんとした六畳半ほどのワンルームスペースには、それら以外に支給されたベッドや一人用のソファ程度しか置かれていない。テレビなど娯楽を楽しむだけの電化製品は用意が無いため、各自で、と誓約書に記載があったような気がするが、この部屋に何も必要としないシャドウには無関係な話だった。 必要最低限、というか、元々置かれていたもの以外が無いせいか、白い壁や黒っぽい古びた板張りの床が、一層部屋の物悲しさを引き立てる。 「究極生命体ってのは、便利だが随分つまらなそうだな」 以前場所を教えたわけでもないのに、ふらっと現れた青いハリネズミはそんなことをシャドウ言った。 「つまらない?どういう意味だ」 「美味いもんを食ったり、疲れたら眠ったり。そんなのが別に要らないなんて、つまらなくないか?」 シャドウは首を傾げる。キミが何を言っているのか理解しかねる。そう言うと、ソニックは困ったように笑った。「That kind of thing.ま、善いも悪いも紙一重ってやつだな。」 ますます解らない、と顔に書いたようになったので、またソニックは笑う。 生き物の特権ってやつさ 時々こうしてソニックはシャドウの部屋へ訪れては、冷蔵庫を勝手に覗き込み、今日も空っぽなんだなと呟く。何度覗こうとその結果が変わることなどあるはずがないのに、一体何を期待しているのか疑問だった。けれどわざわざそれを自分から尋ねるのも億劫で、さして気にも止めないふりをし、ただその背中へ向けて、帰れ、とだけ吐き捨てる。 「いっつも来て早々にゴアイサツだよなぁシャドウは。俺がせっかく遊びに来てやってるってのに」 「頼んだ覚えはない。用は済んだろう」 鍵の空いたままの扉へ顎をしゃくって促した。冷蔵庫を覗いたまま、ソニックは振り返ろうともしない。 「さっさと帰れ、僕はキミと違って暇じゃない」 「飯を食うことも寝ることもしないお前が、任務の無い時間にまで仕事をするど熱心だとは思えないが、何をするから暇じゃないんだ?」 「……」 単なる口実であることを見破っているような発言にぐっと押し黙る。その隙が命取りだった。冷蔵庫の扉を閉めたと思った左手の脇から、手持ち無沙汰にし壁についていた右手が伸びて来たた。それからシャドウの口元へ指先を弄ぶようにし、自らのそれへずいと寄せて来たのである。そのまま唇は何事もなく重なった。所謂、口づけというやつだった。不意打ちに空いたままだった唇は呆気なく覆われ、歯と歯の空間にざらりとした生温かさを持ったもの��入り込んでくる。舌だ。 「…ッ、……なんの真似だ」 ショートした頭に脊髄反射のような思考の追いつかない動きを命じ、乱暴にソニックを引き剥がした。糸を引いた妙な温かさを持った自分以外の唾液が、口内にひんやりと張り付く。引き剥がす際に飛んだ唾液が微かに口周りに付着し、シャドウに不快感を抱かせる。 「朝起きたら任務、任務が終わったら帰還、帰還したらこの部屋で朝を待つだけでぼーっと夜を過ごす、夜が終わったら朝、任務、の繰り返し。いい加減飽きちゃこないか?」 こない、と口を動かす前にまた口を塞がれる。苛ついてそのまま力任せに舌を噛んだ。い"っ、と声よりも音に近い叫びを上げ、よろめきつつソニックはシャドウを離した。その僅かな隙をつき、そのまま飛びつくようにシャドウはソニックの首根っこを掴んで、力任せに床へその身体を押さえつける。木製の床がドタバタと動きを目立たせるように音を立てるのが煩わしい。追い打ちをかけるように、仰向けに倒れたそこへ腹這いになるように跨った。手のひらに殺意がまとわりつく。苛立つ。不利な状況であるにも関わらず、未だに余裕ぶった笑みを浮かべる目の前のハリネズミが憎い。けれど余裕ぶっているのでなく、本当に自分よりも余裕があるのかもしれないという考えがよぎったとたん、ざあっと身の毛がよだった。やはりこいつは、何を考えているのか解らない。緑の目が、開けっ放しのカーテンを抜けて来た月明かりを帯びて光った。気がした 「貴様、何を企んでいる?」 言え、首元を掴みと顎をしゃくるが、そんなの御構い無しなのか、ソニックは口を開こうともしない。 「ならば力ずくでーーー」 「ストレス、溜まってるだろお前」 カオス、と身構えたまま固まる。何の話だ、と先を促す。 「これはあくまで人間の場合だが、ヒトは些細なことにでもストレスを感じずにはいられない。例えば今日嫌なことがあった、とか、寒すぎたり暑すぎたり、とかな」 「貴様のそんな生物理論など聞きたくない」 「お前さっき、用が済んだんなら帰れって言ったろ?」 「だったら何だ」 「済んでないなら帰るなってことじゃないのか?」 「………」 こいつに付き合っていると本当に疲れる。無駄な時間だ。早くこの場から消さねばなるまい。再び身構えると、なあ、とソニックは声を上げる。らしくない命乞いでもしようというのだろうか。 「ベッドを使わせてくれないか」 「は?」 反射的な声を返す。状況がただ飲めていない馬鹿か、こいつは。 「この床綺麗じゃ無いだろ?お前掃除なんてしないだろうし。それに板張りに雑魚寝なんて俺はごめんだ」 「聞こえなかったのか?僕は帰れと言ってるんだ。泊まらせる気はない」 「どうせ使ってないんだろう?いーだろ一晩くらい」 腹這いにされている奴が撮る態度にしてはかなり自由すぎて、呆れた。なんだか先ほどまで湧き上がっていた苛立ちも消え失せ、気がつけば、好きにしろなどと言いながら、自分はソファに腰を下ろして頬杖をついていた。 「いやー悪いな。朝にお前が起きる頃には、ちゃーんと元通りにしとくからさ」 Don't worry、と聞こえた声が波打った気がした。 違う。 頭の奥が渦を巻くような、落ちて行くような感覚を覚える。そこでようやく波打ったのは自分の意識だと気がついた時には、手遅れだった。ゆっくりと瞼が視界を覆い始め、頬杖をついた腕に体重がかかる。 「Good night…」 Shadow 奇妙な夢を見た。 カサカサとした布ズレの音が暗闇から響き、誰かの熱を帯びたような声が聞こえる。なんだか息は荒く、けれど、苦しそうではないそんな声。 ぎいぎいと木が軋む音と、何事かを声はずっと呟いている。 不気味な夢だ。 真っ暗な視界の中そんなことだけが展開される夢に、そう印象を抱く。 「Shadow」 不意に、ハッキリとした音となって、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。 思わず目を開ける。 緑色をした眼球と、目が合う。 「昨日はよく眠れたかい?」 呑気なことを抜かした窓から顔を出す輩に向け、言葉を返すことなく引き金を引く。2、3発の弾は難なくかわされ、怪我するだろ!などという戯言が聞こえる。部屋に侵入を許し舌打ちをする。 「帰れ。二度と来るな」 「What's the matter?いつになく御機嫌斜めじゃないか」 「黙れ」 カシャンと弾倉から銃身へと弾丸を送った。今度は外さぬように目を凝らして的を見定める 「そんなに睡眠薬飲まされたのが不満だったってのか?」 耳の横を弾丸は抜け、その背後にあった白い壁に小さな黒い亀裂を作った。上ずった音の、乾いた口笛が微かに響く。 「俺じゃなかったらお陀仏だな」 「避けるな」 「あいにく、まだ死ぬわけにはいかないんでね」 小首をかしげる体勢だったソニックが、突如射程圏から姿を消した。何処へ行ったのかと周りを見回すことをせず、動くな、とシャドウは背後に声を掛ける。 「悪くなかったろう?睡眠を取るのは大事なことだ」 「究極生命体である僕には不要なものだ」 「でもあっちゃいけないもの、ではないだろ?」 だからどうした、と振り返ると同時に発砲する。弾丸は中々標的には当たらない。パチンガキンと金属音を鳴らして、部屋中に鉛が散らばって行く。GUN特製の防音室でなければ、今頃隣室の兵士が押しかけてきていたに違いない。そういえば、どんな奴が隣室にいるのかをシャドウは知らないかった。カチャンと情けない空砲が手元で鳴った。予備の弾丸はキッチンの引き出しだ。シャドウの立つ窓際からは数歩だが、余計な動きをして、背後から相手を見失うわけにはいかない。 「弾切れだな」 「それはどうかな?」 素早く左足を振り上げ、右足を支点にし踵からソニックめがけて大きく薙ぎ倒すように振った。案の定やすやすとかわされるが、その後に狙われるであろう右足���向けて何事かアクションを起こされる前に、その眼前に銃口を突き出す。一瞬でいい。その行動を怯ませ隙を生むのに、弾丸など不要である。 「っ!」 振り上げたままの左足を、今度は思い切り振り下ろした。ベギンッと盛大に木屑を飛ばし、床にでかでかとした穴が空いた。また外したか、と舌打ちをする。 「相変わらずキミは逃げるのは得意らしいな」 「お前も相変わらず、容赦ないな」 呆れたように言い、ソニックは肩を竦める。 「ずっと寝不足なんだろお前。顔が疲れてるぜ」 「僕には不要なものだと何度言えば」 「ホントは夜眠るのが怖いだけなんだろ?」 全身の身の毛がよだつのを感じた。無自覚だった事実を突きつけられ、言い返せないような錯覚が襲う。違う、と言葉が出ない 「お前は眠らないんじゃない、眠れないんだ」 「違う!」 今度ははっきりとした声になって、その言葉はその場しのぎに喉を抜ける。 「必死になって否定してっと、ますます自分の首を絞めることになるぜ」 余裕ぶった笑みをソニックは浮かべた。夜の暗がりの中ではあるが、夜目の利くシャドウにはその口角の釣り上がりがよく見える。眠るのが怖い?馬鹿馬鹿しい。無理やりに笑って見せるが、うまくいかない 「なあシャドウ、一つ提案なんだが、怖さなんて忘れて眠るいい方法がある」 否定するのも面倒で、黙ってそちらを目だけを動かし見やる。 見覚えのある、緑色をした眼球と目が合う。 背中に手を回して、体内をめぐる躍動任せに腰を動かす。ベッドが軋み声を荒げ、そのバネにより揺れ動くそれがもどかしい。見たこともないような淫虐な姿を晒し、時折熱を帯びた吐息の中に、溶け込まないようなひしゃげた声をソニックは上げた。シャドウの腹に跨り、しっとりと湿った瞼を半分ほど開き、その目がじっと此方を見る。 口元に光る唾液がいやらしい。その頭の針が音を刻むように揺れる。 また喘ぐのか その背に回した手のひらに力が篭る。 意識は次第に、ふわふわとした、取り留めもない快楽に消えていく。 それからである。毎夜こうして訪れるソニックが、自分に抱かれるようになったのは。朝起きて、任務をこなし、夕方居住区へ帰還しては、夜が訪れ、彼がここに現れることを、待ち望むようになったのは。 「よくも毎夜飽きもせずに来るんだな」 皮肉ったようにそう口走った時、なんとなく機嫌が悪かった。そう珍しいことではないが、シャドウの下敷きになり目を閉じていたソニックが気だるげにその瞼を上げ此方を見据える。同時に、シャドウが指を絡ませていた手を静かにほどいた。 「随分遠回しな言い方をするじゃないか。つまりお前は、飽きた、と言いたいわけだ」 この行為に 別にそんなつもりではなかった。けれども否定するのも煩わしくて、じっと押し黙ってソニックを見下ろす。赤と緑の視線を絡めるでもなく、ただ互いに互いへ刺すように見つめる。程なくして、いいぜ、とソニックは言った。 「飽きたってんなら、選手交代だな」 ぐいっ、とベッドについていた腕を引かれ、バランスを崩したシャドウは呆気なくソニックの腕の中に落ちた。放せ、と声を上げるより早く、その口が言葉を奪う。冷たい感覚が口内に満た��れる。そのままぐるりと視界が回転し、天井とソニックが映った。なんだか頭がふわふわとした靄に包まれ、体が火照る。たかがキス程度で一体どうしたというのか。まさか、また睡眠薬を 「今度は睡眠薬なんかじゃないぜ」 もっともっと、寝覚めの悪いやつだ 朝ごはんをソニックは食べてから帰るようになった。夜のうちには帰るのが定番だったくせに、立場が逆転してからというもの、疲れて走れないなどとらしくないことを口実に、勝手に他人の部屋に食糧を買い溜めするのである。 「Good morning!ほら起きろよシャドウ、出来たてだぞ?」 かんかん、とフライパンをソニックは鳴らした。また今朝もやたらと辛口の目玉焼きだろうか。薄ぼんやりとした意識のまま起き上がり、キッチンを通り過ぎ洗面台で顔を洗う。タオルで顔を拭ってから、ふと自分が手グセのように冷蔵庫を開けたのが、なんだか自分で可笑しかった。 冷蔵庫は空じゃなくなった
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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ソニシャ 烏有に還す 2015/02/02
ものの溢れたこのご時世では、失われることへの悲しみは、いくらか薄れてしまっているように感じる。かつては国内一と囃し立てられた巨大な建物でさえ、数年後にはあっという間に他の建造物に追い越され、積み上げられた瞬間とは反して、誰からも見向きもされることなく、ひっそりとその姿を消して行く。人はわざわざ自らが築いた幸福の象徴でさえ、時が経てばむざむざと破壊してのける。それほどにこの世は無情であると、KEEP OUTの黒いゴシック体の並んだ黄色いテープを遠目に見やる。それぞれ三階建てのビルに両脇を挟まれた、ポツリと突如出来上がった空き地を眺め、はてここには何の建物があっただろうかと小首を傾げる。建物というのは不思議で、毎日そこを通りかかり見ていたはずなのに、いざそこから無くなってしまうと、通いつめたものでもなければ、すぐには思い出せなくなってしまうようだった。数秒間足を止めじっと考えてはみたが、どうにも答えを思いつけず、まあ何であろうと既に此処から消え去ったものに何の意味があるのだろうと前を向いた。 「Unusual I. ぼーっとしてなに見てたんだ?」 反射的に舌打ちをした。それからフンッと小さく鼻を鳴らす。 あからさまに機嫌が曇った様子に、鼻先が触れそうになる距離に立っていた青いハリネズミはそんな顔するなよとけたけたと笑った。 「別に無意味にここで突っ立っていたていたわけではない。」 「じゃあなにしてたって言うんだ?かわい子ちゃんでもいたのかい?」 「ビル��」 「Bill?」 やたらと発音の良い鸚鵡返しをすると、シャドウの指差した方向をソニックも見やる。ソニックの軽口を、シャドウはいつものように無視した。 「あそこの二つのビルの間に出来た空き地。以前…つい昨日まで似たような建物がそこに存在していたが、何があったか、君は覚えているか?」 「あそこは…」 しばらく目を凝らしてから、バーガーショップがあったんじゃないか?と答える。 「どんな店だ。名前は何だ、亭主はどんな奴だった?」 「青い屋根の………いや、それは向こうの角の店だな…hum」 やはりソニックも思い出せないらしく、おかしいなぁと頭を掻いた。 「昨日まではあそこにあったんだよな?」 「その筈だ」 「確かに両脇の建物には見覚えがある。Hmm……一度でも行ってれば思い出せそうな気が」 そこまで呟いてから、パチンッとソニックが指を鳴らした。大きく目を見開いて、如何にも閃いた!という顔をしている。 「Remembered!テイルスの通ってたパーツ屋があったんだ!一回買い出しを頼まれて来たことがあったんだが、緑の屋根で二階建てくらいで、周りの建物より背が低い建物で、名前は…ちょっと思い出せねえけど、確か、年老いたじーさんが一人で切り盛りしてたんだよ」 なるほど、と声にせずに納得する。言われてみれば、確かにそんな店があった気がした。そういえば以前、オメガの修理パーツの調達に立ち寄った覚えがある。 「そうだったかもしれんな」 「だろ?あーっスッキリしたぜー」 そこまで考え込んだわけでもないのに、あっさりと答えを導き出し、ソニックは満足げだった。伸びをして、屈伸をはじめている。もう走り出そうとしているようだ。 「でも、不思議だよなぁ。ずーっと此処にあったはずの建物だったってのに、いざなくなっちまうと、こんなにも思い出せないなんてな」 こんこん、と地面につま先を2、3度鳴らす。靴底に詰まっていたであろう砂がさらさらと微かにアスファルトに落ちる。 「長くそこに存在するものほど、恐らく誰もが気にも留めなくなる。ずっとそこにあるからこそ、無くなるとは、思いもしないのだろうな」 シャドウは腕を組んだ。そーいうもんかねぇ、と並んで後頭部にソニックは指を組む。 「次は雪国にでも行くつもりか?」 「What’s?なんでそうなるんだ?」 「君の靴底に詰まっていたであろう砂、それは砂漠のものだろう?」 「That’s right!でもだからといって次は寒いところを目指したりするほど俺は極端じゃないぜ?」 だろうな、と鼻で笑って目を閉じる。ソニックザヘッジホッグという男は、そんなに単純なハリネズミではないことくらい、付き合いの浅い自分でもよくわかっていた。気まぐれで、けれども困っている輩は放っておけなくて、損得勘定などナシに、自分の意志で、決して最後まで諦めない。そういう奴だ 「一つ、君に頼みがある」 「What up? Dare say.」 日が真上から少し傾きかけて、時刻は恐らく昼を回った頃合いだろう。まるで何かにぐいぐいと引き摺り込まれるように、太陽はその身を立ち並んだビル群に隠して行く。真上にあった頃よりも、影が少し長めに伸びはじめている 「もし仮に僕が唐突にいなくなったとしても、」
烏有に還す
何も憶えていないでくれ
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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ソニシャ 2015/1/15 未完
生きることはこんなにも難解であるのに、死はほんの一瞬で全てを無にしてしまうとはよく言ったものだ、とソニックは柄にもなく呆然とその場に立ち尽くす。よろよろと後ずさると、かくんと膝から折れて尻餅をついた。同じ目線になった死体と目が合った。と途端に胃から昼食に摂ったものがせり上がってきて、食道を這い登る。寸でのところで口元を押さえなんとか吐き出すに至らなかったが、自分の動揺が尋常ではないことを悟り我に返るには十分だった。
シャドウ・ザ・ヘッジホッグが死んだ。
それを聞いてもどんな悪趣味な噂なのかと普段ならば相手にしないのだが、それが、今、自分の目の前で繰り広げられれば信じる他なかった。シャドウが死んだ。あの不死身を思わせるほどの強さを持った究極生命体が。 戦っていた相手が強過ぎただとか、そんなことではない。油断をしていて、相手の攻撃に太刀打ちできなかっただとか、そんなことでもない。ただ、ほんの一瞬だけ、何かを考え込んだ瞬間に生じたその隙に、崩れて落ちて来た瓦礫が、空いっぱいに広がっていたのだ。上空を見上げた視界を埋め尽くすほどのそれは、まるで線を引いたかのようにソニックの鼻先に触れない場所までに落ち、その少し先に こんなに簡単に死んでしまうだなんて、思ってもみなかった。 どうにも現実として現状を受け入れられなくて、珍しく頭が完全にショートしてしまっている。こんなにも天気がよく過ごしやすい気候なのに、どうしてか凍りつくような冷たさをその場の空気に感じた。身を包み込むような寒さに、動かない思考回路が凍りついていく。 一瞬だった、本当に。あっと声を上げる間も無く、有無を言わせず、呆気なく死はシャドウを支配した。慌てて瓦礫の中から探し出したシャドウの体は、触れてみても、当然冷たい。抜け殻同然となったその体に、まるで最初から知らないかのように、生き物としての温もりは感じられなかった。
混乱を隠せないソニックの表情には何も映らなかった。落胆の笑みを浮かべることもできず、悲観することもなく、何も無い。 涙は溢れなかった。当たり前である。悲しい、とは思わなかった。 誰かの死が、こんなにも何も無いものだとは、と頭を抱える。 視界を塞いだ指の隙間から、ちらりと死体を見やる。見開かれたままの赤い目、不自然な方向に曲がった首、黒い肢体を浮かべた赤い血溜まり。開かれたままの赤い瞳孔は、いつもとはまた違った威圧感があった。なんだかそれが少し可笑しくて、静かに瞼をおろしてやる。抉るような腹の傷口から溢れ出る血はまだ止まっておらず、広がった血溜まりが白い胸毛をじんわりと赤く染めていた。 あの時、こいつはこんな気持ちだったのか。 ふとそんなことを思い、そっと自分の腹に触れる。かつて、今は無かったことになっている別の時間軸での出来事で、ソニックは死んだことがあった。何を考える暇もなく唐突に訪れたその瞬間に、ソニックは為す術もないままに暗闇へと意識を引き摺り込まれ、確かに死んだ。けれども仲間たちの助けがあって、今こうして、
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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シャドマリ ボラレフィリアの情動 2014/11/22
目の前でしなやかな肌の色が揺れる。視界に伸びてきたマリアの腕を、初めて美味しそうだと思った。別に人の肉の味に興味があるわけではない。そもそもハリネズミに進んで肉を食らう習慣は無いのだから、それは当然のことだ。ならば今こうして華奢な少女の肢体をおもむろに床へ押さえつけてまで、拘束し食らわんとする意味がわからない。 「……シャドウ?」 あからさまな混乱の色がマリアの表情を覆う。表情だけじゃない、全身の筋肉が強張っているし、絞り出された声色は、平静を装おうと必死である。 「マリア、」 返事をするように彼女の名前を呼んでみる。そうすれば、いつもの自分に戻れるような、そんな気がしたのだ。けれど、違った。事はそう甘くはなかった。抑えつけて楽にしようとした感情は逆なでされ、寧ろ逆効果となった。 「あッ…ぅ」 気がついた時には、遅かった。獣特有の尖った歯が、マリアの首筋の薄い肌に突き立てられ、ポツリと小さな針先ほどの穴を開ける。小さく声を上げたマリアは身をよじった。ますます理性の歯止めは利かなくなる。 「マリア…」 なんだか自分らしくない、熱を帯びた声で名を呼んで再びその首を甘噛みする。まるで甘えたがる子犬のような、ベタな必死さを他人事のように感じた。伸ばした舌先がマリアの肌に空いた、先ほどの傷口に触れる。小さく浮かび上がっていた赤い血の玉が、乾いたスポンジに吸収される水のごとく、シャドウの舌へ染み込んでいく。甘美な毒に触れたような、ビリビリとした罪悪感のような鉄の味が舌を覆った。その感覚は舌を通じて脳へと直進し、甘い蜜が脳を満たしていく。 「……ッ」 これ以上先へ進んではいけないような気がして、頭と体とを引き剥がすように、ぐ���ゃぐちゃの思考のままマリアの肩を抱いて体を引き離した。 息が荒い。マリアのそれは当然ながら、原因を作った当人である自分の息も荒く、絶え絶えである。なんだ?僕は一体何をしている…? 床に押し倒した彼女を、その上に四つん這いになって見つめている。 今の今まで、自分の感覚というものに興味がなかった。何を口にしようと美味いとも不味いとも感じなければ、抱いた喜怒哀楽によって不満や満足をしたこともない。これらはたとえ感じたとしても、それがどうでもいいと思ってしまえば、そもそもの自分への興味が無ければ、成立しないものだとばかり思っていた。この状況に混乱しているのは、被害者たるマリアはそうであるが、それ以上に、自分の方だと思った。
たった一滴の血が、全ての発端だった。
本のページを捲った際、それで切った指をマリアが何の気なしに舐めとったのを見た瞬間、白黒に乾いていたシャドウの脳内に、甘い蜜のようなものが染み込んだのだ。それに身を任せてしまえばどんなに快感だろうと唆す、今まで押し殺してきた声が、聞こえた。 血に飢えた獣は腹を空かせていた��� 干上がった地面は潤いを枯渇していた。 無意識に押し殺していた欲求が首をもたげた結果が、これだった。 はっとなって抑え込もうと試みたが、駄目だった。甘い囁きはシャドウを飲み込み、マリアを傷つけ、笑っている。
どうしたらいいのかわからなくなった。マリアを見つめたまま見開かれている眼球は乾き、ドクドクと脈打つ心臓の音が五月蝿く、彼女に聞こえ不安にさせてやしないかと心配になった。 こんなことは初めてで、今までに取り入れさせられた知識に該当するものがなく、混乱する。
「シャ、ドウ…」 弱々しくなった声に我に返る。 見ると小さな傷口からは、先ほど舐めとった量を超える鮮血が溢れて、その首を赤く濡らしている。 「マリア!」 抱きかかえるようにもう一度その体に触れる。僕のせいだ、と狼狽するが、彼女の顔を見た途端、硬直していた体がへなへなと脱力していくのがわかった。 彼女は、マリアは、笑っていた。 どうして、と問う前に、マリアは声を出してくすくすと笑い始める。 「ふふ…人間って欲望に勝てないことがあるっておじいさまが言っていたけど、シャドウも、私たちとおんなじなんだね」 ポカンとするシャドウの右手をとって、マリアは自分の頬へと添えた。 「いいんだよ、私を食べて」
それでシャドウが幸せなら
ボラレフィリアの情動
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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メフィシル 錆の雨 2014/10/14
くだらない話でもしようか 燃え盛る炎を前に、メフィレスは昨日の話をするかのような軽快さでそう言った。何度目��なるのかわからないイブリースとの戦いを終えた後、見計らったかのようなタイミングでメフィレスは現れてそんなことを言った。話し始める前のそれに対して、既にくだらないとレッテルを貼るのはいかがなものかとシルバーは怪訝そうに眉を顰めるが、特に何かをする予定もなく、たまには悪くないか、と相手の先を促す。 「例えば君の両親が生きていたとしよう。」 そう言うと、イブリースの残した炎に背を向け、ゆっくりとメフィレスは歩き出した。足音のしないその歩みはなんだか不安定で、まるで地に足を着けずに歩いているようだと、後をつけながらシルバーは思った。ごつんごつん、とシルバーのブーツの底が砂利の散らばった路面で音を立てる。そういえばいつもならば歩く足音は自分の他にもう一つあるが、今は自分のそれだけだ。廃墟同然の見慣れた街並みに目を向け、改めてシルバーはため息をついた。 「死んでいることを前提に話すのはやめてくれないか」 愉快そうに眉を寄せると、おや、と振り返ったメフィレスは意外そうに目を見開いた。ついでにその足もゆっくりと止まる。つられるようにシルバーも止まった。 「でも君は知らないんじゃないかい?自分の両親とやらを」 ちくりとした小さな痛みが胸を刺した。なにも言い返す言葉がなく黙りこくっていると、嘲笑するようにメフィレスはシルバーを視界に捉えた。見開かれた不気味な輝きを纏ったグリーンの瞳は、鈍い光を帯びている。気を抜けば、なんだかそこへ飲み込まれてしまいそうな気がして、シルバーは僅かに目を逸らした。 「知らないのならば生きてるのか死んでいるのかなんて分かるわけが無い。そうだろう?故に生死のわからない存在なんて、死んでいるも同然なんだよ」 「そんなことを言うためのくだらない話なのか?」 「いいや」 否定すると、見開かれていた瞳が静かに降りる。前を向いてメフィレスは再び歩き始めた。その口は相変わらず止まらない 「例え話に必死になるとは実に君らしい」 ほっといてくれ、と後を歩きながらそっぽを向く。 「じゃあ何が言いたいんだよ、あんたは」 「会いたいと思うかい?顔も知らない両親に」 「それは…」 ぴたり、とシルバーの歩が止まる。メフィレスの足は止まらない。 「生まれた時から君は一人ぼっちだったんだろう?それはさぞかし孤独だったろうねえ。歩き出しても街並みは廃墟同然。空はいつだって暗闇で、日中太陽は厚い雲に覆われ、夜は星はおろか月すら覗かない。それでも君はここまで逞しく育った。最初からこうだったものにも関わらず、これが普通の基準としてではなく最悪と捉えて君は光を求めた。だれもが笑って暮らせる世界平和を君は望み戦っている。これはとても素晴らしいことだよ?賞賛に値する。けれど、君の正義は本当に」 だれかのためのものだったのかな? 突然耳元で聞こえた声に顔を上げる。そこにはだれの姿もなく、ただ遠ざかったメフィレスの姿が僅かに映る。朗々と語っていたくせに、随分と離れてしまったものだ。 「メフィレス!」 呼ぶ声など聞こえないかのように、その姿はもっと遠くなっていく。慌てるように駆け出すが、なんだか���足が重たい。思うように走れない。 だれかのための正義 だれかのための世界平和 ただただみんなのためにとこの力をふるって来たが、いざそうなのかと問われると不安になって足がすくんだ。本当にそうか?本当に救うために戦っているのか?本当にそれは、みんなのためか? 「わからない…」 とうとう足が止まった。口から零れたのは情けない言葉で、足にまとわりつく感情に加担する。 「わからない…でも、俺は」 「もし今この瞬間そうだと断言したとしても、それはきっとその場しのぎの偽りでしかない。シルバー、君は何のために与えられている力をわざわざ終わりの見えないことに使う?今回の成果だってきっと無駄になる。何度倒そうと鎮めようとも、イブリースはまた現れこの世界を焼き尽くすだろうねえ」 君一人の力じゃ何も救えない、何も変わらないんだ ぐらりと頭が重たくなる。きっと炎の熱さのせいだ。瞼を覆った微睡みに、逆らうことなく目を閉じる。気が付けば周りは炎に囲まれていて、きっとそれのせいだろうと思った。 もう炎がこんなところまで来ていたのか。眠っている場合なんかではないのに、眠りたい、このまま眠ってしまいたい。 この世界を覆うのはいつだって巨大な暗闇で、それを禍々しい炎が照らす。 何も変わらない、自分は無力だった。 いざ正面からそう言われてしまうと、何も言えなくなって黙ってしまう。 「君の正義はだれかのためのものじゃあない。君は君自身の孤独を穴埋めるために力をふるってきたんだ。寂しさを紛らわすのには事足りただろう、シルバー?」 違う、とはっきり否定できないのが非常に悔しかった。終わることのない無限ループに、いつからか苛立ちや焦燥を忘れて、生き甲斐を感じていたのではないだろうか? 「やめろ」 違う、そんなことはない 「何故、そう断言できる?」 姿の見えないメフィレスが問いかける。 「俺は…確かに孤独だったかもしれない。でも、一人なんかじゃない…大切な仲間が」 口が止まる。仲間が…どこに? 思い出せない。 つい昨日まで、さっきまで傍に感じていた自分以外の気配が、思い出せない。メフィレスではなく、彼に出会うもっと前から、共に戦ったはずの仲間のことが。 「なんで…?なんで…思い出せないんだ……?」 思えば今どうやってイブリースを倒したのかも思い出せない。サイコキネシスを使って、けれどいつも一人ではなかったはずだ。だれかがいつも傍にいて、いつも一緒に戦ってくれていたから、何度イブリースが復活しようと戦ってこられたはずなのに。 「忘れてしまうことは、とても悲しいことだよねえ」 いつの間にか背後に立っていたメフィレスが語りかけてくる。 「だれしもが最も恐れていることは、大切な人に自分を忘れられることなんだよ。けれども忘れた当人は痛くも痒くもない。当然だよ、覚えてないんだから。実に滑稽だろう?」 目を覚ました。空気が熱い。 振り返りざまに手のひらに力を込めて念波を放った。高らかに不快な笑い声を上げるメフィレスは、ゆらりとその身をよじり難なくそれをかわした。 「あんた、何を知ってる?」 そういえば彼についてなに一つとして自分は知らなかったことに気がついた。けれども相手は何もかも把握しているような、すべてがその手中にあるかのような振る舞いに感じる。 「僕は君と同じさ。何も知らない。僕は一人じゃあ何もできない」 だから 錆の雨 大切なものを奪われる苦しみを、君にも味わって欲しいなぁ 暗闇に覆われた視界の奥で、小さく藤色の炎が揺れた。
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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ソニエミ アイ・マイ・ミー 2014/09/09
そんなのは卑怯よ、とエミーは叫んだ。けれども目の前を走る影は止まらず、それどころかますます加速し、残像さえも目に映らないほど遠くへと行ってしまった。 ソニック、と口の中でつぶやく。見えない相手の名をわざわざ口にするのも無駄に思え、��しくなくすっかり意気消沈したかのようだった。 好きだと言ってみても目を背けられ、挙げ句の果てには逃走し巻かれてしまった。こんなことではいけないと幾度も数え切れないほどにその後を追いかけ続けてきたが、それももうこれきりなのだという先ほど突きつけられた事実を思い返し、自然と涙が溢れてきた。 ソニック、ソニック、ソニック、ソニック……!!! 声に出してみようとしたが無駄だった。涙で潤む視界に同調するかのように声は上ずり、波を打ってまともに口を利けない。内側に反響するだけとなった相手の名前は、シャボン玉のように力なく浮き上がり、適当に浮遊すると音もなく爆ぜてしまった。 バカみたい、と涙を手の甲で乱暴に拭う。拭い去るそれよりも溢れる涙は多く、すぐにまた視界は沈没する。
「エミー、俺はお前が好きだ」 立ち止まった途端にそんなことをソニックは口走った。 「だからこそ俺はお前の気持ちを正面からちゃんと受け止めてやることはできないんだ」 エミーの方を振り返ることもなく、背を向けたままでそんなことを付け加える。突然のそれらに呆気にとられ、何事か言わなければと口を開いた時には既に遅く、じゃあな、といつものように手を上げ、気がつけば眺めていたそれ以上に遠くになったその後ろ姿があった。 「待って!」 駆け出すが足が重い。まるで両足に枷がはまっているかのようだ。嬉しい言葉のはずなのに、その言葉を枯渇し、その一言を心待ちにしていたはずなのに。みるみるうちに相手の背中は小さくなる。足はとうとう動かなくなった。
そんなの卑怯よ、とエミーは叫んだ。
たかがそんなことをするために、言うために、わざわざ足を止めたというのか。どうして、どうして、と惨めに足を引きずる。止まってしまった足は、鉛を入れられたかのように、まるで自分のものでは無いようにそこを動こうとはしない。それでも後を追いかけようとする。その後をついて行こうとする。追いついてどうしようというのだろう、とふとそんな思いが頭を過ったが、そんなの決まってるじゃない、と目を光らせる。さっきの言葉の意味を問いただすことと、今とこれまでの自分への仕打ちに対する謝罪をさせてやるわ。ただじゃおかないんだから。 ただそれと同時に、そうしてどうなるのだろう、という���情も噴き出す。 意味なんて聞いたところで何になるというの、そんなの聞かずとも既に分かっているんじゃないの? 「だからこそ聴きたいのよ、あいつの口から直接ね」
エミーは笑った。
アイ・マイ・ミー
目を開けた途端視界を覆ったエミーの姿に狼狽し、混乱する間も無く強引に唇を寄せられかわせなかった。いつも以上の積極性に声を荒げそうになったが、彼女の顔を見た途端、一瞬言葉を見失う。 「What’s the matter?エミーらしくないぜ?」 人差し指で涙を拭ってやると、嫌な夢をみたの、とだけエミーは呟いた。
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シャドマリ 独房の揺り籠 2014/09/02
彼女の愛する星の青に似た色をしたその両の眼は見るたびになんだか吸い込まれてしまいそうな、言い表しようのない、足のない不安のようなもの抱かせるのもあって、シャドウはマリアの瞳が苦手だった。見つめられて、見つめ返そうとと目を合わせると、いけない。ぽかんと口を開けて、じっとそれに釘付けになり、頭の中に浮かんでいたあれこれが綺麗さっぱり消えてしまって、気がつけばぼうっとしてしまっている。 「…シャドウ、どうしたの?大丈夫?具合でも悪い?」 「いや、なんでもない…」 その声にはっとして、おずおずと引き下がるように目を逸らす。マリアの目を見るといつもこうだ。なんだか無意識のうちにそれへと見入ってしまって、心配をかけてしまう。こうなってしまう特にこれといった理由がわからないのもあって、そうなってしまったあとには、もやもやとした後悔が渦巻き、わけのわからない苛立ちが痕を残していく。
「あの星の青色はね、全部海なんだって」 海、と口の中で復唱する。 「海水…と呼ばれる塩分濃度の高い水のことか?」 そう!とマリアは勢いよくシャドウを振り返った。急なその動きだったために、興奮気味の彼女の目を避けるあからさまな動きをとってしまう。 「…?シャドウ?」 「なんでもない、続けてくれ」 ホントに?と覗き込まれ、間近に迫った彼女の瞳が目の前に現れた。完全に逃げ場を塞がれた視線は当然そこ以外へ行くことができず、否応無しに真っ直ぐ見つめ返す羽目になった。 頭の中を弾丸のような空気が勢いよく通り抜けるような、ふっと息を吹きかけられたような感覚が通り抜けて行く。ふらついた足下に誘われるように、らしくなく地面へとへたり込んだ。 「シャドウ!?」 「……」 声が出ない。息も覚束ない。なんだか変だ。感覚がおかしい。 彼女の瞳を、見たくない
耐え兼ねて目を閉じた。瞼越しに薄っすらと光を感じる暗い闇が広がる。 遠くの方で、マリアがなんだか必死に呼びかけているような気がするが、段々とその声は遠のいて行く。 何がいけないんだ、と問いかけてみる。あんなにも美しく綺麗な瞳の、何がこうまでさせてしまうのだろう。 嫌いなものを見た時に抱く嫌悪感とは違う、不快感でもない、これは、なんだ?
「……あ、気がついたのね。大丈夫?」 目を開けるとそこには先ほどのそれがあった。仰向けに倒れた体勢のこちらを覗き込む姿勢でマリアが視界を覆っている。慌てて目を逸らすと、視界の端にギリギリ捉えられているマリアが、なんだか悲しげにするのが見えた気がして、少しそちらを向く。 「…いつもそうね。シャドウは私の目を見て話しをしない。もしかして、私、シャドウの気に障るようなことを」 「そうじゃない」 即座に否定する。 「たかがそんなことならとっくに原因を君に伝えている。」 なんとなく早口になる。言葉は止まらない 「僕はただ、…マリアのその瞳が、怖い」 一瞬躊躇したが、その躊躇いこそが彼女を余計に悲しませてしまうのではないかと思い、ストレートに零した。 「怖い?」 彼女は意外そうに復唱する。 「君のその青い瞳は、僕が今知る何よりも美しい。君の好きな、あの星と、それ以上に輝いたその目を、心の底からそう思えるのと同時に、…怖いと感じる」 「……」 「…すまない。気に障ったようなら」 「ううん、大丈夫」 マリアは、笑った。いつものその微笑みのような、なんの変哲もないそれは、けれども触れようとすれば壊れてしまうような気がした 「私の目を見てると、吸い込まれそう?」 「…そうも感じる」 そう告るとなんだか楽しそうに、マリアは声を出して笑う。 「そうなんだ。シャドウって素敵ね」 「なんだ、急に」 そういえばずっと寝そべったままだったな、と思い、返答をしながら起き上がろうとした。が、顔を両手で包み込むようにして、マリアがそれをやんわりと制した。 「いいんだよ、このまま」 「?マリア」 「シャドウは少し、休まなくちゃ」 眠っている場合ではない、と思った。なぜかやることがあるような気がして、マリアの囁きに抗おうとする。
目が合った。
独房の揺り籠
何も見えなくなる。底に落ちるような感覚があった。おやすみシャドウ、とかなしげな声が聞こえる。 それを掻き消すかのような風の音が聞こえる。 不意に開けた視界に広がったのは、いつもより大きく映ったあの青い星の光だった。背後の方で、爆発音が聞こえる。
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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ソニシャ 首を 2014/08/26
これは夢だ、と分かった。 よく知る嫌いな相手の腹に馬乗りになり、その首に手をかけている。 これで満足か、と相手は笑っていた。 その言葉に動揺するかのように、自分の意図しないままに指先に力が入る。 手袋越しに体温が伝わってきた。夢だというのに、それは実に、生々しい。 君の首を絞める夢を見たんだ そう言ってみるが、へえ、とだけ相づちを打つと、相手は眉一つ動かすことなく、手にしていたチリドックを何事もなかったかのように頬張った。朝から食べるチリドックは格別だなどと満足そうに呟いている。 何とも思わないのか? 何か思わないといけない��か? そう言われて、押し黙る。確かにそうだ。こうも固執する方がおかしい。これは、所詮夢の話だ。単なる脳の記憶整理に執着しても、何の意味も持たないだろう。 夜になって、寝具に横たわり、目を閉じる。案の定、また夢を見た。 今日も飽きずに、僕は君の首を絞める。殺す。 眠っている間、これはまだ眠っていない、今眠っている、夢を見ている、と認識していることが時々あった。こ���数日はそれが頻繁に続いており、それが続いている間、寝ても覚めても意識が覚醒したままで、休息は逆にどっと疲れを連れてくる。 かくん、と手の中で頭が垂れる。 また君は僕の手の中で息絶える。 よう、と何時ものようにひらりと手を上げて相手は挨拶する。横目で流し、それを無視した。おいおい無視かよ、と相手が肩を掴んでくる。 ああここは現実か、とその感触にはっとなって、僕に何か用か、とその手を払う。 今日はやけに機嫌が悪そうだな。何かあったか? あったとしても君には関係ない。 そうか、と呟いて、頑張れよとだけ残して相手は立ち去った。 何をだ、とボヤくが、それを向けた相手はもうここにはいない。 けほっ、と噎せる。強い力がぐいぐいと気道を塞いでいく。毎夜毎夜よくもまあ飽きないものだと、恐怖心を超えて慣れを感じ始めた頃、呆れを抱くようになった。 おいそろそろいい加減にしろよ、とその手を掴む。強い。全くもって外れないし、力は弱まるどころかますます強くなった。これはさすがにまずいかもしれないと相手の名前を呼ぶが、眠ったままの相手には聞こえないらしく、届かぬ声が虚しく夜に沈殿する。 シャドウ、 唐突に相手は自分の名を呼んだ。 何だ 手に入る力を弱めることなく、呼びかけに応答する。 お前苦しくないか?こんなこと毎日続けててさ しんと押し黙る。しばらくして、苦しい?と引っかかったように口にする。 それは君のことだろう? まあな 余裕の笑みが歪む。珍しい、と思ったが、だからと言って首を絞める力になんら影響はない。ただ変わらずにその首を両手で包み込み、そこへ力を加えるだけだ。
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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王ギガ きみのくびをしめるゆめをみた 2014/08/25
「王の首を絞める夢を見ました。」 「そう。どんな気分だった?」 朝食が上手く喉を通らないのは、その夢のせいだと言いたかっただけだったのだが、最初の言葉から続かない。 ギーガーの言葉を待つかのような空白が、数メートル先に座る王の席を更に遠くへ感じさせた。食事を摂る際に利用するこの部屋はどうしてこんなにもだだっ広く、何故二人だけしかいないにもかかわらずわざわざテーブルの両端に腰掛けなければならないのか、���ーガーにはいつも疑問だった。けれどもその疑問を投げかけるためには、自分以外の部屋の利用者、王に尋ねることを余儀無くされるわけで、そんなことを彼に安易に問うことはしてはならない気がして、黙々とただそこで一日朝と夜の二回の食事を済ませ、飲み込む。 「どうだったの?ギーガー」 二度目の王の言葉が聞こえ、ハッとなる。王のそれと目が合った。虚空にあるような王の目が、射抜くように自分へ向けられている。 王の直々の自分への問いかけに答えなければ、と焦燥する。手のひらに汗が滲んで、喉がからからになる。上手く言葉が脳内で継ぎ合わず、何を言えばいいのかわからない。 「とても…」 不意に漏れ出した残りをすんでのところで飲み込む。違う、そんなことを言いたいんじゃない。慌てて口元を押さえたため、手にしていたフォークが派手な音を立てて食器に落下する。 「どうしたのギーガー?お腹でも痛い?」 動かない王の目がギーガーをじっと見据えている。 「いえ、大丈夫です」 「そう、よかった」 口を開けて、王は食事を再開した。かちゃんかちゃんと心地いい音が聞こえてくる。 「ねえギーガー」 「はい」 「その夢、どんな感じだったの?」 「それは…」 思わず俯いてしまった瞬間、しまったと思ったが既に遅かった。喉元にはソースの付着したフォークが光っており、一呼吸の間も許されない状態にあった。 「いいんだよ、気にしなくて。見たものをありのままに話してよ」 「………」 一瞬躊躇ったが、そうすることが王を苛立たせることだと分かっているため、乾いたままの口をじっくりと開いた。 「とても、温かかったです。」
仰向けに横たわる王の腹に、あろうことか自分は馬乗りになりその首に手をかけていた。王は何時ものように笑っていて、どうしたの、と優しい声色で話しかけてくる。その途端に、首にかけていた手に力が入った。王は何かをするでもなく、反応を示すでもなく、ただただその笑みを崩すことなく、じっとこちらを見つめていた。
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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シャドマリ 食事 2014/08/03
食ったものは元には戻らない。食わなければ人は死ぬ。食えばものは無くなる。無くなればそれきりだ。 じゃあ何故食うのか。答えは単純に、死なないためである。 「じゃあマリアは、死にたくないからものを食べるのか?」 そうよ、とマリアはナイフで丁寧に切り離した料理を口に運んだ。もぐもぐと幾度か咀嚼して、ごくり、とその細い喉に流し込む。 「食べることをやめてしまうと、私たち人間は死んでしまうの」 「面倒なんだな」 「そんなことはないわ」 何故、とシャドウの瞳が鈍く光った。 「人が生きるのには食べることによる養分の摂取が必要不可欠だ。それがなければ死んでしまう。脆弱すぎる。どこに利点があると?」 「美味しいだけじゃ、シャドウは不満なの?」 かたん、とマリアは手にしていた銀食器を皿の上に置いた。食事はまだ終わっていない。少し冷めた料理がそこには残った��まだ。 「そんなことを訊きたいんじゃない」 「じゃあ、なあに?」 マリアの瞳の奥が、小さく揺れる。 「」 「ひとりでは、生きていけないとこよ」 「?」 ますます釈然としない表情を浮かべるシャドウを見て、マリアは笑った。それから見て、と再び左右の手に、ナイフとフォークとをそれぞれ握った。手にしたフォークを二口分ほどの大きさで皿に残っていた鶏肉の上に突き立てる。かつん、と皿の底に刃が擦れる。 「こうして」
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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ソニシャ 死体 2014/08/02
こんなにも呆気ななく死んでしまうものだったのか 足元に横たわる死体となった相手を一瞥して、舌打ちをする。泣き叫ぶエミーの声が耳に煩くまとわりつき、堪え兼ねて、その場を静かに後にした。 史上最速と呼ばれた英雄は、呆気ないと言わざるを得ないほどいとも簡単に殺され、死体と化した。もう軽口を叩いて自分を苛立たせることもなければ、競争しようと無理やりに手を引かれることもないのだ。ようやく静かになった。そう相手が消えれば思うものだとばかり思っていたにもかかわらず、いざそうなってみて自分の中に渦巻いたのは、言葉にならない気持ちの悪いわだかまりだけだった。
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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創作 2014/07/30
「僕にあなたがなにを考えているかなどわかるわけがないし、けれどもあなたには僕の思考回路は筒抜けていて、ねえ、これってフェアじゃないと思うんですけど。」 19歳の青年、御崎恒助は不満げであったが、特にそれ以上にはなにを言うことも無かった。 「つまり、私にどうして欲しいんですか?」 「いや、別にどうこうして欲しいとかそんなんじゃなくって…」 また始まった、と天使は腕を組み替えた。いいですか、と天使が言うと、また始まった、と青年は嫌々胡座を崩して、姿勢の悪い正座になった。 「アナタのはっきりとしないそのものいいがアナタをますます透過させる。つまらない言い訳しなくなったら、自然と筒抜けない人間になりますよ。」 「つまり、原因は僕にあると?」 「そう言ってるんじゃないんですよ。けれどもアナタがそうだと考えるならばそうなります。世の中の正と偽は自分次第でどうとでもなってしまいますから」 全身黒づくめの天使はそう言って、ぱっとその姿を消した。計ったかのようなピッタリなタイミングで、部屋に電子音のチャイムが鳴り響く。だれだろうと覗き窓を見た。見て、青年はため息をつく。覗いたドアの向こうには、律儀にチャイムをもう一度押そうとするアクマの姿があった。 「よう元気か?そろそろ気が変わったんじゃないかと思ってよ」 まるで友人を遊びに誘うかのような気軽さでアクマは言った。今日は女の姿���んだな、と豊満な胸の膨らみに思わず向けた視線を反射的に逸らしながら思った。 「…天使さんの次はお前か」 気を取り直してそう言うと、あからさまにアクマは怪訝な顔をし、なっ、と息を飲む。 「またあいつ来てたのかよ…!!」 畏怖するようにその両肩をかかえ、怯えの色を露わにしてアクマは震えた。 「いや、天使さんは来るっていうか…」 「ずっと恒助さんにまとわりついてます」 「そうまとわりつい…」 慌てて言葉を切って残りを飲み込む。傍らに当人がいては、これ以上の言葉を続けるわけにはいかない。恒助の目の前に立つアクマは、震わせていた肩を更に縮み上がらせ、この世の終わりとでも言わんばかりの顔面蒼白だった。 「い、いたんですね、天使さん…」 「いたもなにも、たかが見えなくなっただけでそこにいないものとして扱われるのはぞんざいですね。ところで恒助さん、ワタクシにまとわりつかれているという自覚があったんですねえ」 「あ、いや、そ、そういうわけでは」 「いいんですよ素直に仰っていただいて。そういう思っていることは逐一口にされた方がアナタのためでもありますから。そういえば恒助さん、ここにゴミがあるということは、ワタクシとのお約束、もうお忘れなんですねえ」 「はっ、え?ゴミ?」 天使の指差す先にあったのは、先ほどから閉めかけたドアからこちらのやり取りを覗き見ていたアクマだった。 「覗き見とは趣味が悪い。まあゴミだから教養も常識もなくて当然ですが」 スッと傍らから気配が消えたかと思うと、目の前にその姿が現れ、ビクつくアクマの肩に優しく手が置かれていた。 「ヒッ」 息を勢い良く吸い込んだ、尖ったような声をアクマは上げる。ゆっくりとそこへ力が加えられて行き、ミシミシと嫌な音が聞こえてくる。 「ゴミムシさん」 「は、はい、なん、でしょ」 「ワタクシ言いましたよねえアナタに」 「え、な、なにをで」 「おやとぼけるんですか?随分と今日は強気なんですねえ」 更に力が加えられ、完全に骨が砕けてゆく断末魔のような音が聞こえる。声にならない悲鳴を上げ、肩に手をあててもがいた。 「ちゃあんとワタクシ、予めアナタに警告はいたしましたよ?下手に恒助さんに手出しをすれば、容赦はしません、と。」
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tachi-kaze5555h-blog · 10 years ago
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シャドマリ 掌の声 2014/07/22
ああそうか、マリアが愛していたのは、その青い瞳に映していたのはーーー そう思った途端、反射的に彼女の体パッとを突き放した。 「シャドウ?」 突然の反応に、マリアはきょとんとシャドウを見つめる。だめだ、とそれを避けるように、シャドウはその目を見ようとはしない。 「マリア、君が愛しているのは僕じゃない」 マリアに背を向けるようにして、俯きシャドウは呟いた。外から部屋に入ってくる地球の光が、シャドウの体を這うように影を作る。 「…なに、言ってるの?」 肩に手をおこうとするが、振り払うように���て拒まれてしまった。 「……君が愛しているのは、この目に映った君自身だ。僕の中に君が垣間見たであろう、孤独だ。はたから見れば、それは僕だったかもしれない。君もそう思い込んでいたかもしれない。けれど、それは、違うんだ。君の目に映る僕は、僕じゃない。マリアが枯渇する、目に見えない君の君への想いーーー願望の虚像に過ぎない。」 「そんな、こと」 声が震えてしまって、残りの言葉が出てこない。違う、そんなことはない 「もしそうでないとしても、僅かながらにでもこれは嘘じゃない。僕を見ているようで映してはくれなかったマリアのその瞳には、いつだって心の底にある君自身が深く愛した、マリアの姿がそこにはあったんだ。」 シャドウは振り向くこともなく、外に浮かんだ惑星を眺めながら淡々と語った。そんなこと、ないよ…と絞り出すような声をそこに向ける。 「だってわたし」 「僕が、そうだからだ」 「…え?」 振り返ったシャドウは、その赤い両の目に光を溜めていた。その美しさにはっと息を飲む。光の粒が、その頬を伝った。 「僕はいつだって僕がここにいることを赦してくれるマリアが大切な存在だと思う。だがそれと同時に、それ以上に自分の愛しさに抗えない。愛しいと思うマリアの全てが、本当はマリアを介して見つめる自分自身でしかないことに気がついてしまった時、僕は、ひどく絶望した。そんなことでしかマリアを僕は愛せない。そうでなければ、他人としてでしか接することが出来なくなる。他人とはなんだ僕とはなんだ?君と僕との境界は曖昧で、けれど僕はマリアに僕自身を投影することでしか愛せない。自分と他人は別物で相容れない。…マリア?教えてくれ……僕はだれに愛されたいんだ…?僕自身なのか?それとも」 マリアは強くシャドウを抱きしめていた。ただただ力強いそれというわけではなく、想いを込めるように、強く強く抱きしめる。 「わからない」 震える声で、抱きしめたままマリアはつぶやいた 「わたしもだれに愛して欲しいのかなんて、わからないよ」 大粒の涙が閉じた目から溢れ出した。ぼたぼたと落ちる涙は、抱きしめられたシャドウの頬を伝い落ちて行く。 「でも、それでいいんじゃないかな。たくさんの人に愛されたくて、もちろん自分に一番愛されたくて…ねえシャドウ。だれに一番愛されてても関係ないわ。わたしがわたしを愛していて、そんなわたしに愛されるわたしがシャドウを愛しているなら、それで十分だって、そんな気がするの。 そんな欲張り、だめかな」 泣きじゃくる顔でマリアは笑った 掌の声 そんな自分にすら愛されなくて愛せなくなったその時、あなたに愛されていたなら、わたしはもうなにも要らない。
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