Tumgik
sotoba101 · 5 years
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冷たい
ピアノの肋骨をなぞる青白い指。透明な。 魚を分解して作った最新の音です。が星を暖め、それを遠くから見ていた。 ガラス越し。人工の星。 落ちていく夢を見た またどこかで—— 誰とも出会わず。 眠って起きて眠って起きて眠って ——起きた、繰り返した朝。   誰とも出会わずに、   歩きながら、遠くの雨音や爆発の、音を聞いた。 これが、わたしで あるときは、魚の展開図 を描きながら 火に焚べて、 それから、静かに、 星の降る音を聞いた。 それは、落下してゆく冷たいピアノ そのとき、傷が、寂しさが 燃え上がる。 わたしは、 透明な枯葉を踏んでどこまでも歩く、 歩いてゆくだろう。 またどこかで いや、もうどこかで—— 宙を使った会話をする。 少しずつ小さくなる。 それはわたし自身。 雨が降っていて、 誰かがそこに、 声が返って、 さよなら? 君は誰? 本当? あぁ 。
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sotoba101 · 5 years
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優しい震え
思い出しつつあった いつか 枯葉のような午睡の中で 目を細めると 姿を得た彼女、が 光の粒に包まれて 拝啓 あなたのあなたがわたしでないことへ 孤独になりたくて、たくさんご飯を食べる 老いた人の耳が行く、場所のことを 思いながら、 何億もの枯れ葉が、空から落ちてくる それらがわたしたちの食卓に降り積もった それからは何もかもが 眩しい 冬の始まり、には 夜空に難破船を隠して 笑っていて 撫でていて 輪郭がゆらゆら揺れていて 次の日の午後、荒れ野で傘を燃やした そうして、わたしも彼女も、ふたたび姿を得た あなたはまた去った それは眩しさの続き 頭の中にあるものをぜんぶ捨てた その空白にも、何億もの枯れ葉が落ちてきて その中を、ふさふさとした犬が駆けている うれしかった 何か、欠けていて 愛することの寂しさとか すこし寒くて、 震える
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sotoba101 · 5 years
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雨は美しく燃えて
恐竜の時代から私達の時代まで 地球のどこかで降り続けた、雨 の ひとしずくが 幾万も、幾億も この町に降り注いでいる あなたは部屋から外の雨を見ている ここでは 慌てて家財をビニールに包む必要はないし 傘をさす必要もない ただ静かに息をしていればよく つまりは安全で 孤独である 町では傘を忘れた誰かが、冷たくなってゆく どんな元素も星から生まれるのだから あらゆる雨粒が独立した一つの流れ星で その一つ一つに私は願いを掛ける 誰かががっかりする 今日ものら猫が死んだ あなたのあなたが私でないことが私の絶望で つまりは安全で 孤独である 他人の空に傘をさす それを光と呼ぶのなら 雷鳴。 靴のかかとの傷んだ部分から水が入ってきて 少しだけぶるりと震える、体だ 濡れたときに、初めて熱を感じる まだ生きていて 大嫌いで、大好きだ
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sotoba101 · 5 years
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九月の終わりを生きる
あなたの身体という、 あなたの一揃いの骨が埋まった墓地がある それは、九月の終わりの風に吹かれている 季節の変わり目には、どこにでも死が潜む あるときそれは紫陽花の花壇で眠っていた その微かに青さの残る花房に耳を傾けた時 わたしの中をめぐるあたたかな水に気づく あるいは、わたしは遠い海鳴りの音を聞く 死んだ魚をいっぱいに埋めた墓地があって それらは、わたしの中にある水と呼応する あるいは、生まれ、死ぬ  皺が増えてゆく すなわち 陰が増えてゆく やがて増え続けた陰から夜が生まれ あなたは夜の闇の中で自分の身体を感じる 墓守として あなたの骨はあなたの中で清潔を保ち続ける 今は 少しずつ涼しくなってゆく夜風が花を殺す 花を殺すものを季節と呼ぼう そうしたら、あなたの中から秋は訪れる 
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sotoba101 · 5 years
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この夜という巨大な影がいったいどこから落ちてきたのかは、町の誰も知らなかった。 町は高い壁で囲まれていた。町の街灯は青白く弱々しく、東の丘の施設から見下ろす夜の通りは、夜光虫の打ち付ける海岸線を思わせた。 東の丘の施設のことは、皆アイデスと呼んでいた。 私はアイデスで生まれた。
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sotoba101 · 5 years
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素晴らしいと思える瞬間がいくつかあった。今はもう遠くに行ってしまった。毎日、朝が来ると、心の在処を知らせる胸の痛みがやってきて、昼には激しく怒り散らし、やがて疲れ果てて、夜には無になる。そして眠る。夢を見る。湖の畔で私は抱かれていて、遠くから誰かの悲鳴が聞こえる。その悲鳴を聞くとなぜか涙が止まらなくなる。ある日の朝には、土砂降りの雨が降っていた。私は天窓を眺めていた。雨の、小さな一雫が、幾万も、幾億も、町に降り注いでいた。私は、遠くの町に住むあの人と、同じ雨で繋がっていることを祈る。傘をさしてあげられたらと祈る。何度も祈る。祈ることしかしてあげられない。
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sotoba101 · 5 years
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20181126
光に遅れて雷鳴。 今日、夏みたいな雨が降った。町の全てが音になって消えていくような、不思議な熱を持った、そんな雨。おれは嬉しくなって、靴を濡らして、犬みたいに水たまりを蹴っていて、それを伝えるべき相手はいない。電話がしたい。風邪を引きたい。そういえば髪を切りましたよって、誰かに教えてやりたくて、やっぱりやめた、そっとしまっておこうと思い直す。この回転して走っていく感情も全部、本当はおれのものではなく、そんなことより、今現在ただ強さを増していく、この雨脚と飛沫の方が何千倍も大切なことだと思える。 良い雨だ。 再び雷鳴。靴のかかとの傷んだ部分から水が入ってきて、少しだけぶるりと震える、体だ。濡れたときに、初めて熱を感じる。まだ生きている。大嫌いで、大好きだ。 
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sotoba101 · 5 years
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暗い花
僕と君の間にある暗い花
後ろ手に持って隠してた
夕闇に沈む教室、たくさんの窓に映った神様
祈るだけの僕はもう醜い貝殻
ずっと言えずに落とされた花
秘密の窓辺に火を放って、弱さ、
遠くなる
目を瞑って夕闇になった僕は
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sotoba101 · 5 years
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ねこの毎日
白い部屋で遊んでいたんだ、おれは。
ねこの毎日だった、隣は
一つだけの窓
星なんかいちいち見ねぇよ
なぁごなぁごと鳴いていたんだ。
なぁ
生きるねこは殺すねこってさぁ
今、おれの遠く遠くで息絶えた、小さな何者かが
見ているのか
なぁ
名前を付けて、別れを告げて、
誰もが誰かの最後の息を吸う
純粋な悪意である
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