Tumgik
noakisaku · 4 years
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見つめることが、正しいことではない。
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noakisaku · 4 years
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「なんか緊張してきた」
「…や、まあそやろね」
人生には分岐点がいくつもある、その中には所謂"大きな分岐点"だってある。
俺たちは今その大きな分岐点に足を踏み入れた。
人体実験の被害者、そしてその数少ない成功例の俺たちはこの施設からの脱出を試みている。
怪我の功名とでも言うのだろうか、実験で得られた身体能力の向上はこの施設からの脱出を現実的な物にした。
施設内で生きることを良しとしなかったのは、俺たち2人ともが望んでここに来たわけじゃないから、だから被害者なのだ。
計画に穴はない…はずだ。
あとは俺たちがどれだけ動けるか、どれだけ逃げられるか、そして、どれだけ殺せるか、…ここから抜け出す覚悟があるかだ。
脱出するまでは同行、その先は真反対の経路を進むことになる、それが少しだけ悲しい。
「まあ、生きてればいつか会えるやろ」
「いつかかあ…でもまあ、そやろな」
識別票を取り出す。ドッグタグのようだが、鎖の先で揺れるプレートは1枚しかない。
「交換しよう、いつか会えたらきっとわかるから」
「…おん、またな」
基本情報と、ここでの名前"0227"が刻まれた物を預け、"0927"と刻まれた物を預かる。
少しだけ温もりを共有して、それから監視カメラを壊して駆け出した。
無我夢中だったことをよく覚えている。
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noakisaku · 5 years
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2月27日、或いは別の日
お前とじゃあなきゃ意味がないんだぜ
珍しく2人きりで過ごす教室に、どこか冷えた感じを含む音がぽつりと鳴った。
冷えた感じ、というのは声の雰囲気の話で、授業机ひとつぶんの2人の空間は微睡んでしまいそうな暖かさがあった。
さらりと流れたうすい色の髪は、日本人のものではない、長めに揃えられた前髪からこちらを覗く緑色の瞳も。
おれも、短く応えた。
蛍光灯の下で見るのとは違う、陽の光を受けた髪を右手の指で静かに流せば、緑色の瞳は僅かに細められる。
「とっておきの口説き文句だったのに」
「ふーん、それで落ちなかった女の子はいなかったって?」
「そんなんじゃあない」
右手に白い左手が重ねられる。
「父さんが母さんに贈ったことば、ずっと大切にとっておいたんだよ」
窓の向こうから聞こえてくる喧騒、時折通りかかるおしゃべり、自分たちが着ている学生服。
どこまでも日本によくある景色だったのに、一瞬、彼がかつて暮らしていた街の雰囲気を、感じた。
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noakisaku · 5 years
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8月32日
薄暗い教会の中に、ステンドグラス越しの夕陽が射し込む。
日中のそれとは違う落ち着いた色彩を背に、自分よりも幾らか背の高い男を受け止めた。
涙を流していることは、音から、感触から理解できる。
立ちながら宥めることもできたろうに、背中を預けた教壇の感触を背骨で感じながら座り込み、彼を胸の中に迎え入れた。
ここは懺悔室ではないのだけれど、それでも聖職者を自称する者は男を赦すようにひとこと、ふたこと、声をかける。
助けて欲しいのはこちらも同じだよ、少しだけきつく抱きしめた。
黄金色に包まれた黒づくめの2人をみているのは、人を超越した瞳だけであった。
これは、夢のような現実の話
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noakisaku · 6 years
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ばか、貴方私を愛しているのよ
昔読んだ本の、大体そんな感じの台詞を忘れられないままでいる
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noakisaku · 6 years
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世の中はゆっくりと、確実に、良くない方向に流れている、そんな風を私は常々感じます。この凡そ20年間、あるいは学生を終えるまでが私の人生の、受け身で居続けることが許された最も幸福な時間になるでしょう。
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noakisaku · 6 years
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ことばを、知らないのだ
表現を、感情を、身なりを飾り立てることをやめて涙を落とすその姿はあまりにも雄弁だったので、そっと口を塞いでやった
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noakisaku · 6 years
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ほむらの
知らないことを思い出してしまった。
確かに此岸にはなかったもの、しかし彼岸にはあったよく似たもの。
紡ぎ続けた言葉よりも、流れ続ける音楽のような心よりも、正直だったのは身体だった。
もつれた舌が丸まって喉を塞ぎ、泣くように音だけを零し続ける。
いけないよ、と影が脳裏で囁き、唇は呼べない名前を食み続ける。
鐘の音の響く頭が瞼の裏に幻想を見せる。
歩き続けた、逃げてしまおう、早く終わらせてしまおう、と。
いけない、いけない、だめ、確かに呟けた逃げるための言葉だけが耳に入り��茶苦茶な映像と五感が少しずつ擦り合わされて繋がっていく。
うっそりと薄く瞳を開いた。
夢を見ながら歩いていたのだと気づいた頃には、胸の隙間を理屈で埋めることでいっぱいだった。
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noakisaku · 6 years
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重くなる瞼に抵抗はせず、滅茶苦茶にした熱の破片へと手を伸ばした。
平時よりも熱を持ったそれに驚き、手のひらを沈めるように触れる。
しっとりとした表面は特有の匂いのする眠る前の赤ん坊のようで、静かに呼吸をする眠った子犬のようで、ある筈のない幼さとあどけなさを感じさせた。
冷え切った外気に晒されたままの足を折り曲げる。
密接することで温もりを生んでいるその空間は、どうしようもなく自分が生きていることを突きつけてくる。
溶けている、と思った。
ふたつの熱は今、混じり合うことはなく恋人のように寄り添っているのだと。
いつからか愛欲に取り憑かれたこの身体は、忌避を続けた先に辿り着いてしまった。
静穏な頭はいつまでも投函されることのない艶書を綴っている。
ふと、時計の秒針の音に気付く。
空はまだ暗いままだった。
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noakisaku · 7 years
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きづな
闇に目が慣れたのなら
精霊のカンテラを吹き消せば
母が守る夜が包み込む
緑のローブを脱ぎ捨てて
父の零す雫をひとつ身体に落としたら
世界とはさよなら
光を返さない寝具を乱し
春の香りを漂わせる
未だ見ぬ太陽の人を想う
黒檀の木の上、ケシの花に囲まれ
人々に夢を
大きな白い花を
紫色の星屑を
返済しきれない愛を
今日だけは好きなだけ与えましょう
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noakisaku · 7 years
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人に成る
さようなら、別れのときがきました
れもんの苦い皮をガリリと噛み切るときです
これを建物を吹き飛ばすものにするのか、とぱあず色の香りあふれるものにするのかは私が決めます
何が正解かは、私にもあなたにもわからないのだから、私に選ばせてください
ごめんなさい、大好きなのに大嫌いなあなた
あなたはれもんを踏み潰した
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noakisaku · 7 years
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夜の海の思い出
悲しげな顔で 夜の海で探し物をする彼は 何の比喩もなく そのまま海に溶けてしまいそうに見えて 行くなよ、と言うと 煙草のフィルタアを海水で濡らし 晴れやかな顔で、ざぶんと腰まで濡らし じゃあな、と応えて 嘘だよ、大丈夫だって、と応えて 己の腕で彼にしがみつきたい ���がる海藻を投げつけたい 彼を照らす物は煙草の火だけ それすらも、照らしてるとは言えないほど頼りない そのことばに偽りは有りませんか
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noakisaku · 7 years
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愛或いは爆弾
煙草が燃え尽きるまでの恋 新婦の角隠し或いはヴェール 粗悪な磨りガラス或いはレースのカーテン 薄ぼんやりとしか見えない相手 その時間にだけ捧げよう 目の前に現れる全ての人間へ 爆弾の予想し得ない熱量を 僕はそれを愛と呼ぶ
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noakisaku · 7 years
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ジリジリと肌を焼く熱 水場でくるくると回る子どもたち 結露するペットボトル 進んでるはずの時間は永遠に思える 夏は、果てのないものだ 痛みさえ感じさせる冬の寒さは、思い出せない あの人に会いたい 夏の笑顔と夏の憂鬱を抱えたあの人 春ではだめだ あの人は春のような暖かな日差しの感性より 夏のような身を焦がす苛烈な感性を思わせる 秋ではだめだ 秋の涼やかさよりも 不意に吹く夏の涼風の方があの人似合う 冬ではだめだ 冬の寒さに身を縮こませる孤独よりも 伸びやかに育つ夏があの人に適した環境だ 強いていうなら、梅雨が似合う 重なる雨に萎れても 虹を見つけようと空を見上げてくれるような そんな、強さがきっとある まだあの人は、私のことを好きだと言ってくれるだろうか 今の私は、きっとあの人に嫌われてしまう 私は冬が好きだから、夏が嫌いだ けれども、あの人のいる夏はきっと好きになれる あの人が夏が好きかどうかなんて知らない けれど、私の中のあの人は 夏の日差しに負けない帽子をかぶり 裸足で踏み入った海にポタリと汗を落として 泣きそうな顔で笑っている 本棚の中で唯一ブックカバーがされてる本を取ろうとして、やめて 彼女が読んでるであろう一冊の本に手を伸ばした
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noakisaku · 7 years
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敷地内を歩くだけだから、と僕らに与えられた傘の色は、とにかく鮮やかな色だった。 何の気もなしに掴んだ傘の色は紫。雨傘を揺らしながら、わざわざ外の喫煙所へ向かえば先客がいた。肩に預けているのだろうか、梅雨の景色によく映える赤が体の半分を隠している所為で、後ろ姿だけで見当をつけるのは難しい。どうせ、ここに来る人間は見知った顔だ。何の声も掛けずに時を過ごすのも居心地が悪いので、やあ、と一声かける。 赤がゆらりと横に流れ、ああ、今日は、と寡黙な口から発せられる。雄弁な瞳からは、どうも今の僕には耐え難い感情(どうも、照れくさいような気持ちにさせられる)を、彼の盟友程ではないが、読み取ることができた。正直、人に慕われる、というのは慣れていない。忘れてしまったのかもしれないが、どうしても結びつくような経験を思い出すことはできない。 火鉢の側へ陣取るように、置かれた灰皿に寄れば、自然と彼へと体を向ける形になった。何か思い耽ってるのだろうか、横顔は弱く波打つ雨のヴェール、その向こうの景色へぼんやりと、しかし、何かを凝視するようにじっと動かない。 何だか不思議な気分だった。いつもなら、と自分で言ってしまうのも何だかなあと思うが、視線を送られる僕が、視線を送る彼を見つめる機会が来るだなんて、と素直に思ったのだ。 形の良い唇が、短くなった煙草を優しく喰む。短くなった煙草から上る煙が目にしみるのか、瞼は閉じられていた。そっと口を離し、すぅ、と鋭い呼吸が聞こえたと思えば、音もなく煙を揺蕩わせる。 こちらも煙を吸いながら、ほう、と彼を見つめていたが、どういうわけか、ふと、彼が煙草へと口付けをしたように錯覚した。どうしたんだ、と思うもの、一度突飛なことを思いついてしまえば、暫くはその考えが思考の平行線から消えることはない。顔が良い分、とにかく絵になるし、どぎまぎさせてくる、僕が悪いことをしているよう倒錯さえ覚える。 灰を落とすために目線を下げると、泥に汚れて湿った、白い爪先が此方に向いてることに気付いた。トン、と灰を落として顔をあげれば、どうかしたのですか、と普段と変わらない、きっと何か考えこそあれど、普段と変わらないような、僅かに綻んだ表情で問われてしまう。反射する傘の赤が、彼を普段よりも血色よく見せ、身に纏う儚げな雰囲気と相反して、妙な美しさを演出していたのが瞳に残る。 見惚れていた、と正直に伝えてしまっても良いが、何だか気恥ずかしいので傘をくるくると回しながら、いつもの仕返しさ、と答えてやった。決して目は逸らさずに。すると、喜びの色を湛えた瞳は緩やかに弧を描く。 ならば、私もその仕返しを、してやらないといけないのでしょうね 遠くに聞こえる足音と、濃くなる彼の影、雨はいつの間にか止んでいた。僕らの間に流れる時間はとにかくゆっくりなものに感じたし、微睡みの中にあるような気さえした。しかし、夢は覚める。梅雨の景色には奇抜な僕らの傘達が、ガツンと骨をぶつけた瞬間、落ちた水滴が、灰を抱えた煙草を持つ僕の手を濡らした。 ああ、何だか林檎畑の樹の下に居たようだ。そう思うや否や耳元から熱が広がるのを感じ、急に逃げ出したくなった。これ以上は、きっといけない、薄着で雪国へ向かうようなものだ、響く警鐘には従え、だ。けれども、またね、だなんて言葉を言ってしまう。これでは、火花へ飛び込む夏の虫と何ら変わらないじゃないか! 暗いトンネルを抜けるように、僕は早足で歩いた。水晶で着飾った緑が、紫の隙間から覗いて見えた。
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noakisaku · 7 years
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貫通
貫くことは
もっと、痛烈で、甘美なものと
夢見ていたのに
現実というのは
あまりにも呆気なく終わってしまうなんて!!
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noakisaku · 7 years
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きつねのまど
「きつねのまど」を知っていますか。知らない、なら教えて差し上げましょうね。まず、両の手で狐を作って、そう。それから、両の手の狐の耳を合わせてあげてください。そう、片方の掌がこちらを向くように、そうです。次、耳を合わせたまま折り曲げてある指を開いてください、ええ、そうです、それで完成です。それでですね、中央の穴を通して『人』を見るのですよ。ふふ、するとですね、『人』に化けたものの、眞の姿を見ることができるのです、ええ。 ね、あなたは今、誰を疑ったのです。
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