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聖なるかな、性なるかな、魔女かな?
愛と希望の物語のその跡に、屹立するネオンカラーの空虚なきらめき。
30才、ああいつの間に、私の中にバビロンがある。
恋と世界と少女のために!
ヴァージンの誇りを高らかに謳った日々よさようなら。三十路にして処女にしてフリーターにして人生の落伍者の頭ん中に、そんな崇高は詰まってない。
読まれなかったラブレターの束が日に焼けて朽ちてく。
あの人に、届かなかった。だから。
焦り、官能、そして反芻。
可愛いって最後に言われたの、いつ?
残酷な時の流れを隠そうと、厚塗りしたファンデーションは余計に顔を老けさせるばか��。
ああ4年前の自撮り、アイドルみたいだ…
誰だって落とせたのにね。かまととぶってアイアン・メイデン。誰にも摘まれない花に価値は無いのよ。愛なんて後付け、とりあえず王子様と口づけ。若くて格好良くて賢い男の子と、エッロいこと出来るチャンスを棒に振るなんて馬鹿なんじゃないの!!!
……もちろんこのネオンカラーの後悔はしていい方の後悔で、私はそれでも、いざ尋常に純情と殉情した28才の私を、22才の私を、14才の私を、褒め讃えたいと思う。もう貫けそうにないから、眩しいとさえ思う。ママにはなれない。少女漫画のヒロインにもなれない。女の道の狭間に落っこちて、奈落の恋のどん底で、だあれも起こしに来ないから、自力で目覚めた女は魔女だ。
「淫婦の母、地上のあらゆる憎むべきものの母である大バビロン!」
7トーンのゆるふわロング、純白のファーコートにヌーディーな婚活リップ。幸福な女の鎧は現代の火炙りから逃れるために。性なる魔女、肌に一番近い場所に秘密の黒を這わせた。聖なる魔女、ハートと子宮に喪服を着せた。
30歳、空虚なきらめきを振り撒いてたましいを膿む退廃都市は、かつて愛と希望の物語だった。確かに愛と希望の物語だったのだ。
この先どんな恋に溺れようと、それだけは忘れないで。
聖なるかな、性なるかな、魔女か。
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日記以上私小説未満(2/5-3/31)
一度だけお昼を一緒した時(そしてそれが二人で会えた最初で最後のことだった)、サンドイッチにコーヒーの簡素なメニューで済ます私に向かって君は、「女の子だなあ」と揶揄した。ホラー映画を大画面で観れないと言った時も。スリリングに生きたいと危険な人生観を吐露する君に、反論した時も。それはもう楽しそうに。いっそ年下の女の子にするみたいな、呆れたような諦めたような、でもちょっぴり憧れるような口ぶりで。
ああ、だから私(みたいの)なんだ、と腑に落ちた瞬間だった。女の子は愛でるもの守るもの、そして消費するもの。そんな時代錯誤の下卑たロマン、もう流行らないよ絶滅危惧種の王子様。お伽噺を書いたのは何を隠そう男達なんだって、とっくにバレてしまったこの21世紀に。
ミントタブレットと猟奇映画とスリルと女の子が手放せない君に会うことはもう無いだろうけど、もしまた何かの間違いでランチを同席出来たなら、その対角線上の哲学にあと少しだけ触れてみたい。多分、これっぽっちも共感出来なくて笑っちゃうと思うんだけど。来世の後学のためにね。
ねえ、私は君のスリルにはなれなかったけど、君は私の、多分、最初で最後のスリルだったよ。「王子様」
さて、日常日常!泣いても笑っても29才がはじまるよ!
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日記以上私小説未満(2/5-3/31)
一度だけお昼を一緒した時(そしてそれが二人で会えた最初で最後のことだった)、サンドイッチにコーヒーの簡素なメニューで済ます私に向かって君は、「女の子だなあ」と揶揄した。ホラー映画を大画面で観れないと言った時も。スリリングに生きたいと危険な人生観を吐露する君に、反論した時も。それはもう楽しそうに。いっそ年下の女の子にするみたいな、呆れたような諦めたような、でもちょっぴり憧れるような口ぶりで。
ああ、だから私(みたいの)なんだ、と腑に落ちた瞬間だった。女の子は愛でるもの守るもの、そして消費するもの。そんな時代錯誤の下卑たロマン、もう流行らないよ絶滅危惧種の王子様。お伽噺を書いたのは何を隠そう男達なんだって、とっくにバレてしまったこの21世紀に。
ミントタブレットと猟奇映画とスリルと女の子が手放せない君に会うことはもう無いだろうけど、もしまた何かの間違いでランチを同席出来たなら、その対岸の哲学にあと少しだけ触れてみたい。多分、これっぽっちも共感出来なくて笑っちゃうと思うんだけど。来世の後学のためにね。
ねえ、私は君のスリルにはなれなかったけど、君は私の、多分、最初で最後のスリルだったよ。「王子様」
さて、日常日常!泣いても笑っても29才がはじまるよ!
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ラブ&ラブ&ラブ&サッドストーリー(再掲)
あたし昨日の夜、「ありがとうありがとう」って、百遍も繰り返して泣きながら眠った。だって、いくらなんでも美しい。
あたし、あたしは。
生きて、恋をして死ぬまでに人が通り過ぎることを許された美しい景色の、臨界点ならとっくに超えて、もう楽園に生る実の色までありありと思い出せる。
人類には時期尚���な、巨大過ぎる感情に触れて今にも焼け焦げそうなたましいを、神さまと呼んで差し支えない何かは華氏−459.7度の手でそっと撫でてくれるから、辛うじて炎にならずに済んでいる。
炎に、そしてプラネットに、まだ誰も拓いたことのない、未知の運命に。
生まれる前に言われたの。
「ラブ&ラブ&ラブ&サッドストーリー」
困ったように笑って、どうか瞳見つけないで、と君は、ノーカウント・キス。
そう、二人はSADに負けないように、キスの間だけ生きた。そしてキスとキスの間に死んだ。キスと、キスとキスの間に運命は告げた。滑らかに軽やかに、正しさ故に何度でも。
「ラブ&ラブ&ラブ&サッドストーリー」
ーあたしはね、いつかそんな残酷な運命にはならないよ。
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飛んで神に入る恋の虫
私、鬱陶しく神様に払われて、取るに足らない拒絶の裡に死ぬ蚊柱の一匹でいたくなかったから、黒く渦巻く運命から抜け駆けして、貴方の中に飛び込むことにしたのです。 振り返れば、セヴンティーン・ラブに裏切られた少女たちの、赤い怨念が追いかけて来ます。17才の虚妄と幻想と崇拝は、いつか終末の日に絶滅の鎌を振るう、呪いの太母を産むのでしょう。 さようなら、いつか私だった可哀想な彼女たち!私は世界を滅ぼしたりしたくないの!王子様とキスしたいの! 夢にまで見た唇の門をくぐり、辿り着いた胃酸の海で溶かされながら、私、なんて幸福なんだろうって思いました。 昨日の夜、貴方が恋人と分け合って食べたバースデーホールケーキと今、同じになれたから。本当の本当は、心臓まで辿り着きたかったのだけれど。 ううん、これで十分幸せなのです。恋の虫は少しだけ受け入れられて、そして死ねるのです。 神様、これでもう私、世界を滅ぼしたりしないよね?未来永劫たましいが、穢されることはないんだよね?
Yes(はい)って言って…Yes(はい)って言って……
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偽ロリータの告白
黒髪ロング貫いて来たのはロックなロリータ魂の叫びなんかじゃ全然無くて、多分「王子様」に媚び売ってたんだと思う。本当にあたしがパンクでロックなロリータなら、髪ピンクに染めてたよ。あーあ、王子様なんていないんだ!から!もうブリーチで色抜いてザンギリ頭にしちゃおっかな!ガリガリに痩せて、ジーンズにTシャツ一枚だけで格好良く生きようかな!…でも、咥えタバコで一匹狼気取れるほどあたし器用じゃ無いし、才能無いし強くも無いし、敵だらけの世の中だし、実際「王子様」にも頼りたいよ…世界一可愛い雌猫、家で作る青いクリームソーダ、給料日の高級チョコレート1ダース、金曜日のひと抱えの花束、SNSで淋しいと鳴けば駆けつけてくれる甘い女友達、3日にいっぺん思い出すとてもとても好きだった人。悲しいかなこれだけかき集めたって、王子様一人分にもならないんだよ。まあ王子様って、「大金持ちでハンサムで猫好きの、女の子をとことん甘やかすのが趣味の人」のことなんだけど。安心と共感とときめきをくれる人のことなんだけど。第二次性徴期を迎えた男の子にAV女優達が暗い夢を見せてくれるように、あたしたちにだって都合の良い異性像はあるんです。フェミなんて恥ずかしくて賛同出来ないくらいには。誰のことも、王子様のことも、たぶん世界一可愛いあたしの雌猫のことも幸せに出来ないと分かっているのに、まだ��にたくないのは罪かな。性懲りもなく黒髪を長く伸ばしているのは、馬鹿かな。
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Flashlight,CuteCat
飼い猫は、懐中電灯の光に戯れるのが好きだ。好きどころか、もうそのためだけに生きていると言っても過言ではない。自由と子宮を奪われ、この1K(ロフト付き)に自分を溺愛するアラサーニート女と閉じ込められた彼女にとって、懐中電灯の光を捕まえること唯それだけが、生きる目的で意味で理由なのだ。
懐中電灯は、世界の果てであるところの玄関の靴箱の上にある。しかし彼女の肉体構造では到底、独力でスイッチを入れることは叶わない。彼女に出来る精一杯の試みは、神��るニート女を玄関まで誘い、真っ暗に瞳孔の開いた瞳で懇願すること。小刻みに声を震わせ主張すること。 私はそれを壁にもたれかかり、文字通り神様にでもなったつもりで高みの見物に勤しむ。その必死な様子があんまりいじらしいので、ついつい焦らしてしまうのだ。私は赤コーラで喉を潤しながら、あるいはチュパチャップスチェリー味を口の中で転がしながら、もしくはキュウリのサンドイッチをつまみながら、まじまじと飼い猫を観察する。…可愛い。とても可愛い。もうトンデモなく可愛い。嗚呼、この子は。非力で無力なかわゆいこの子は、自らの心よりの願いを、神様にディディケートすることでしか叶える術を知らないのだ。そしてこの子はかわゆいから、一日に何十回だって「お願い」を叶えてもらえるのだ。多少意地悪はされるけど。 (可愛い人の運命は、凡ゆる願い事の成就と、Sっ気のある神様のスパイス程度の意地悪で出来ています)
彼女は今日も狂ったように光を追いかけ回している。光を捕まえることが、彼女の生きる目的で意味で理由だから。そして神様は、彼女のために軽々しく光を差し出す。光。そう光。神様に愛されたかわゆい女の子だけが、手に入れることの出来る至上の喜び。 ふいに私の瞳に陰が差して、彼女から喜びを奪ってしまいたい衝動に駆られる。 「君が可愛いからいけないんだよ…」
でもやっぱり可愛いから、すぐまたあげちゃうんだ、光!
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宝物は何ですか?
今から十数年前、私が小学生だった頃のとある授業の一コマ。一人ずつ教卓の前に出て、それぞれが思う「宝物」を発表することになった。よくあるチンケな道徳教育だ。
優等生は家族の名を愛おしげに挙げ、ちょっと斜に構えた子は、何よりお金が大事なんだとニヒルに論じた。私は、当時滅多に町の外に出ることのない、その狭く閉ざされた世界の中で、それでも自分が最も美しいと思うものはなんだろう、と考え抜いた末に、「水田の水面を風が攫う時、漣に砕ける五月の光」が宝物だと、自信いっぱいに発表した。 クラスメイト達は、そんなのは物じゃないと口々に笑った。家族だってお金だって厳密には所有物じゃないけど、それでも私の宝物が一番間違って��、と言うのが全会の一致だった。その無邪気な嘲笑に、思いがけない反応に、私は深く傷付いた。私は、私のものになるかならないかよりも、私を感動させてくれるかどうかが大事だと、思ったんだけど、な…。
それは今でも変わらない。私は、未来永劫決して私のものにならない「宝物」にかまけて、緩めた腕からするすると零れ落ちていく、かつて私のものだった懐かしい全てにサヨナラさえ告げない。 私の宝物は、私を幸福にはしてくれない。宝物はいっそ、私に不幸の粗探しを強要する。それでも私は、この世で最も美しい貴方を見つめ続けていたいのだ。永遠ほどの時間をかけて、いつか二人の視線が交わる奇跡に立ち会いたいのだ。それがどんなに不毛でも、この人生に、質量を伴う愛をくれたはずの貴方を無碍にしてでも。
初夏、幼い私は水田の前に立ち尽くしている。まだ稲の植えられていない、薄く水の張られた田圃の表面を風がサッと撫でる度、五月の太陽の分身は散開する。それはまるで、幾千億のダイヤモンドが投げ入れられたかのような眩しさで。世界の終わりに逃げ惑う星々のような刹那で。すっかり心を奪われてしまった私の耳に、もう母の呼ぶ声は届かない。
おそらくその時、たましいは盲いてしまったのだ。
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Top of the World
私はよく夢の国で、架空の恋人から海へ行こうと誘われる。そして決まって断る。夢から醒めた私は、あれが「向こう岸」の無い臨死体験だと知っているからだ。
生きとし生けるもの全ての母の肉を啄ばみ、今、冥王星へと渡る天葬鳥の群れ。方舟から海に降ろされた密航者の水死体。遠い場所で起きたあらゆる事象が、五感を通して一気に流れ込んで来る。私はそれが恐ろしくて、いつまでも海に辿り着けないのだ。 「ねえ、どうしてなの?私、神様になんかなりたくないのに。まだ、普通の女の子でいたいのに」 恋人は、カーペンターズのあの有名な曲を口ずさみながら、「安心おし、ハニー。それはね、ここが世界の天辺だからさ」と、まるで答えにならない理由で夢を締め括ろうとする。
今夜も私は海へ行かない。次の夜も、次の次の夜も行かない。でも、きっといつか手を取ってしまう時は来る。飼い慣らしたはずの夕焼けに噛みつかれて、この顔の無い恋人を縋ってしまう時が来るのだ、必ず。
終末を千年も引き延ばしてるみたいなおどろおどろしい空を、恋人は「煮詰まったバレンシア・オレンジ・マーマレード色」と例えた。 またね、とりあえず今夜は夢から醒めた。
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プレゼント
骨董市に出品した方が、高速を走るよりよほどしっくり来る車に乗って、恋人は僕をデートに誘い出す。薄いプラスティックの箱(“ラジカセ”って言うらしい)をダッシュボードの溝に押し込むと、僕が生まれる前の流行歌が、スピーカーから流れ始めた。 (♪キリンがさかだちしたピアス フラッグチェックのハンチング ユニオンジャックのランニング 丸いレンズのサングラス) 深く倒したシートに頭を預ければ、見えるのは空ばかり、時代考証はもう出来ない。 (♪ヘップバーンの写真集 お菓子のつまった赤い靴 テディベアーのぬいぐるみ アンデルセンの童話の本) 「タイムスリップしたみたいだ」思わず口に出た言葉に恋人は、「ふふ、そしたら私、君と同い年だね。お天道様の下を、手を繋いで歩けるね」って、本当にまだ18才の女の子みたいに、国家に仇なすことばかり毎日考えてる悪い女の子みたいに、笑った。 (♪ヒステリックなイヤリング ボートネックのしまのシャツ 道で売ってるカレッジリング マーブル模様のボールペン)
気付くと僕は、埼玉県警とインターポールとFBIの執拗な追跡から、何故かセーラー服を着た恋人と、手に手を取り合って逃げていた。三歩に一個落ちている贈り物の箱を開けながら進むので、追っ手との距離は見る見る内に縮まった。それでも、ダブルのスーツをビシッと決めた身長2メートルの大男である僕に、守れない愛などもうなかった。 「夢みたいだ!」
助手席の役目も忘れ眠り呆ける僕の寝言を、恋人はいつか、聞いたろうか。 (♪bye bye my sweet darlin さよならしてあげるわ)
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よだか、最期の願い
まだ10才かそこらの頃、妙にディティールの凝った夢を見たことがあった。時は黄昏の19世紀末、場所はパリだかロンドンだかウィーンだかの高級娼館。私はそこに売られて来た、見てくれだけはまあ良い、貧しい漁村の生まれの少女、という設定だった。
自分を攫った人買いの男の、「良い子にしてたらもう一度攫いに来るからね」って言葉をまるで恋みたいに信じて、それを、そのシーンだけを何度も何度も再生して、男に抱かれてる間も必死に再生し続けて、だからこそこの性なる籠城で、十年もの長きに渡りたましいの尊厳を守り抜いて来れたのに。 結局人攫いには一度も会えず、自分は娼婦にはありふれた病に罹り死んでしまうのだ。 可哀想な女の子!せっかく綺麗に生まれたのに!誰からも愛されてたった一人恋して誰とも愛し合えなかった!
もし、もしもだよ?これが天使の職務怠慢で上書き保存に失敗した前世の記憶なんだとしたら、あの子の今際の際の願いは、「清らかな身体のまま命を全うすること」だったんじゃないかって。それで「もう一度、赤毛の人攫いに会うこと」だったんじゃないかって、そう思うんだよ。 だとしたら笑っちゃうくらい、あなたの願った通りの人生だ。
もちろんこれは、前世とたましいと赤い糸が存在する世界を前提として初めて成り立つ、極めてプライベートでデリケートな自論です。
好きな人にもう会えないこと、処女のまま死ぬ恐怖にもロマンティックな理由が欲しかったの。このクソみたいな毎日も、誰かが命を賭してまで願った人生の一部なら、あんまりいじらしくて死ねなくなるじゃない?
よだか、人攫いはまた行っちゃったよ、私どこまで追いかけたらいい?来来来世まで追いかけたらいい?
「愛と呪いの境界線が濁るまで!」
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若くして死ぬ
夕方、ようやく目を覚まし微睡みの中でiPhoneを開くと、ネットは18才のアイドルの死と言う、まだ夢でも見てるような不思議なニュースで持ちきりだった。そう、少女の死くらい現実感の無い死はない。
突然だけど、私は高校生の時にクラスメイトを亡くした経験がある。不謹慎なことに、顔も名前も思い出せないクラスメイトを。始業式から数日しか経っておらず、おまけに座席は私から対角線上に最も遠く離れていた。だから、神妙な顔をした、(やはりまだ馴染みの薄い)担任教師から彼女の突然の訃報を聞かされても、どう「感じ」たら良いのか分からなかった。ただでさえ人の顔と名前を覚えるのが苦手な私は、クラス替えから日の浅く、しかも教室の反対側に座っていた彼女のことを、認識すらしていなかったのだ。 なのにあの日、燦々と春の陽が降り注ぎ、真っ白に燃えていた窓際の空席だけは、今でもくっきりと瞼に焼き付いていて。
同級生に聞けばすぐなのに、もう十年も名前を忘れたままでいるのは、なにも悪趣味なセンチメントに酔っていたいわけじゃない、死が輪郭を持つことを怖れているからだ。少女のまま死ぬ、そんな不思議なことがこの世に起こり得る残酷を目の当たりして、記憶が不明瞭なのを良いことに、私は彼女を概念にした。
踏み躙られた桜の季節、日の当たる机、私から最も遠く、近く、美しく、虚ろな場所、死。ねえ、不謹慎なこともう一個言ってもいい?あの娘は処女のまま死んだのかな?
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2016.9/4「夢日記」
風の強い日だった。
私はお気に入りの傘を片手に、少しだけ浮いたり流されたりしながら、気の向くまま風の向くまま、街から街へ漂流していた。 夕日に照らされたレモン畑の色した鳥居が、消失点の果てまで連なる商店街に辿り着いた途端、傘がポキリと折れた。自由を得て天に羽ばたこうとした傘を、異国の血が混じる青年が現れて、捕まえてくれた。彼はすぐそこのアトリエで、仲間と共に短編映画を撮っているのだと言う。青年に心惹かれながらも、若者たちの活気と熱気に気圧された私は、お礼もそこそこに商店街を後にした。 一方、二度(にたび)自由を奪われて、怒り狂う傘は言うことを聞いてくれない。あれよあれよと言う間に見知らぬ街に連れて来られた私の、視界の端を過ぎった天啓の青。それは、目の覚めた今では何物にも喩えようがない、おそらく鳥居の赤いこの世界には存在しない、海の青だった。 大学生くらいの年頃の美しい男の子たちが、二人から三人、三人からまた二人へと、増殖と減衰を繰り返しながら、海に続く坂道を転がるように下って行く。笑い声がさざめいて、青春と言う一つの現象が立ち昇る。 右手には、フジツボに覆われた旧い教会が、海底遺跡のように厳かに佇み、左手では、短編映画祭の準備が急ピッチで進められていた。 そこへ再びあの映画青年が現れて、200㎞もの距離を傘一つでやって来たと申告する私に驚きの表情を浮かべる。 フィラメントが一斉に輝き、映画祭が幕を開けると、それぞれ異なる恒星系から飛んで来た、奇怪な形態のUFO群が縦横無尽に夜を翔けた。
彼の作った映画の記憶は、ほとんど無い。
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なんか可愛いの作ってくれた。
ドット絵ぽちぽちするのが楽しい今日この頃
看板娘?の恋世少女(こいせおとめ)
文章/イメージはポエ美さんところからお借りしました
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Kiss or bullet.
どだい、会えないことの方が多い過去世だったんです。なのに今世では、目と目が合い言葉を交わし、(たぶん)名前まで覚えてもらった。 ボーナスステージ!そう、恋も知らずに死んでった沢山の可哀想な私たちに比べたら、奇跡的に上出来の人生なんです(全然思い出せないけどね)。 それでも年頃に欲望を持て余す時は、キスしたこともあったかも知れない、このたましいの淡い桃色の部分に触れてみる。あんまり惨めで私が恥ずかしくて、いっそひと思いに殺してしまいたくなる時は、撃ち抜かれたこともあったかもしれない、このたましいの愛しい銃痕をなぞってみる。 “Kiss or bullet.”ここに一つの短い英文がある、君ならなんて読ませる?お願いだから、「キス、或いは銃弾」なんて無粋な直訳だけはやめて欲しい。「恋か死か」惜しいね、まだ「愛してる」が「���が綺麗ですね」で通用した頃の日本人の感性をお持ちのようだ。だけど正解はー 「恋しかない!」 バーデンバーデンかモンテカルロ辺りに入り浸ってる人間なら、即答出来たはずだよ。
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marriage gray
「ねえ、このドレス何色だと思う?」 花嫁が言いました。「白」すかさず私は答えました。何が可笑しいのか花嫁は、ひとしきり大笑いした後で、「そうね、そうよね」と、確かめるように何度も何度も、頷きました。 いやに明るい曇りの日でした。空の一面には、雨になるか光になるか、ついに決め切れなかった微睡みのグレイが、こんこんと広がっていました。 処女の道のあちら側から、白いはずのドレスを纏った花嫁がやって来ます。誓いは、ステンドグラスから差し込む光の七色に、煌めいているものとばかり思っていました。でもその日、���こまでも灰色の世界には、大切なものの輪郭だけを鮮やかに燃え上がらせるほどの力は、ありませんでした。あなたの半分になるために、私の半分を迷わず脱ぎ捨てられるだけの、盲目の力は。 悲劇とも、大団円ともつかぬ曖昧な表情は、ヴェールの下で永遠の秘密になりました。おめでとう。おめでとう。おめでとう。
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ピクニックpart2
東京一美味しいケーキ屋さん、目白のエーグルドゥースに行って来た。
「ほら、あの店だよ」そう言って友人が指差す先には、薄曇りの空を背景に、コントラストの強いチョコレート色の建物。真っ昼間に煌々と照明が輝いて、まるでマグリットの絵画のように、そこだけ永遠の黄昏時が浮き上がっていた。家路を急ぐ人々が、オレンジの光の中に家族の顔を思い浮かべ、ささやかな贈り物を買い求める、そんなノスタルジックな時間帯の。 ドアをくぐれば天井からは、プラネタリウムを思わせる、白や透明や銀のオーナメントがきらきらと吊り下がっていて、ショーケースの中は、およそ人が幸福と聞いて思い浮かべることの出来る全ての色に溢れていた。いつだって今日は、誰かの誕生日なのだ。 私たちは、生涯の伴侶を選ぶ真剣さでもってケーキを吟味し、でもやっぱり一人には決め切れず、金に物言わせ浮気して、カロリーの重みを確かに感じながらしばし昼下がりの高級住宅街を彷徨った。 イートスペースを求めようやくたどり着いたのは、東京一のケーキには不釣り合いの裏寂れた児童公園。だけど、はやる心はもう待ってくれない。自動販売機のボタンを押すのも焦れったく、年季の入ったベンチに腰掛けるや否や、本能の赴くまま戦利品を貪った、悦楽。
そう言えば何年か前にもこの娘と、ここにはいないもう一人のあの娘とでピクニックしたっけな。秋薔薇の咲く午後の庭園で、シャボンを吹いてカヌレを齧り、それから恋を、打ち明けたんだ。
「女の子は何も男相手じゃなくたって、甘いもの食べたらエクスタシーを感じられる」いい年して処女の甘党が二人、倒錯のピクニック。真向かいのお屋敷のベランダから、マ��ムが聞き耳を立てていた、気がする。
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