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January 12 2023
「太陽では育たない、激しい雹と雷だけが私を育てる」
高校三年生の頃、大阪市の天王寺にかつてあった美術大学予備校に、大学合格までの一年間だけ通っていました。
予備校で唯一の先生は、名門公立美大の日本画科を首席で卒業されていて、自ら「俺は日本で一番厳しい予備校教師や!」と豪語されていました。
他の予備校のことは知りませんが、指導内容を振り返ると、その言葉は決して嘘や虚勢ではなかったと思います。
生徒には女子もいたので、体を殴る蹴るなどの直接的な暴行はありませんでしたが、毎日、大声で罵倒したり、机や壁を蹴ったり殴ったり、心臓をえぐるような皮肉を言っておられました。
教室は広くはなかったですが、先生が怒る時以外はいつも静まり返っていて、入室すると胃がキリキリ痛むような緊張感がありました。生徒が泣き出すのはよくある光景で、なかにはトイレで嘔吐したり、気絶してしまう人もいたようです。勿論退学していく人も多かったす。結果を出せなかった卒業生もそうでしたが、退学した人は後に、先生から「あいつはヘタレ」などと陰口を言われるのが当然でした。
あと教室が地下にあったので、私はいつも地獄巡りだと思って通学していました。
私なんかは教室のなかで一番デッサンが下手だったので、さんざん辛酸を舐めました。 「デッサンをする時は、首にナイフを突きつけられていると思え」「制限時間に完成しないと刺されて死ぬぞ」という言葉が今でも脳裏に焼きついています。鉛筆デッサンが時間内に仕上がらなかった場合、生徒に黒の極太マジックペンで大きくバツ印を描かせて、正面の壁に貼り付けさせるルールを課すこともありました。
それでも私は一度も退学したいと思ったことがありませんでした。当時はその気持ちを言語化することができませんでしたが、厳しいところに身を置くことが、自己の成長につながると本能的に感じたからだと今になって思います。実際、理性よりも本能が役立つことが多いです。
私は今でも先生に本当に感謝しています。今も昔も私にはなんの取り柄もありませんが、少なくとも高校生の自分に存在した誇大妄想や根拠のない自信をさっぱり取り払ってくれました。何より、現実をありのままに見る大切さを身をもって知りました。
今も私の心にはあの頃の先生がいて、たびたび叱って正気に戻してくれたり、ときどき励ましてくれたりします。
現在の話になりますが、先生はすでに予備校を退職されていて、九州地方で画家として活動されています。卒業後、私は一度だけ先生の個展にお伺いしたことがあります。予備校教師の時と比べて、先生はさらにお痩せになられていましたが、饒舌で快活なお姿は相変わらずだなとほっとしました。勿論、作品の温度も高く、現実の辛さをありのままに捉えている人だと改めて脱帽しました。
そのような少しだけ苛烈な経験もあり、いざ大学に入ると、終身雇用で自分の保身しか考えていない教授、セクハラ似非講師、不勉強で無気力な同級生、そのひとたちの態度や作品が、気持ち悪いほど生ぬるく濁った雰囲気を醸し出していて、私は辟易して彼らを避けるためにいつも独りでいました。
あれから15年以上経ったので、私も色々な人と出会い、正直先生よりも厳格で結果のためには手段を選ばない指導者にもあったことがあります。先生は自身で語られたように、結局、魂を悪魔に売ることはなかったようです。個人的には映画「Wiplash」のフレッチャー教授みたいに、人間性を捨て去り、真顔でパイプ椅子を掴んで、高速で投げつけてくださっても良かったのではと思います。勿論、椅子がもったいないので、出来の悪い私には投げつけてもらえるだけの価値はありませんが。
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