#鈴蘭の揺篭
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akihito-vrcrp · 2 years ago
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blanket
「あなた、これからお兄ちゃんになるのよ」
母さんのやさしい手のひらが僕の頬を包み、父さんの大きな手が僕の頭を撫でて、そして僕は弟か妹にやさしく語りかけるのだ。
――こんにちは。はじめまして。ぼくの名前はね……。
けれど、その夢はいつも途中で終わる。僕が名前を言う前に、誰かが叫ぶからだ。
『逃げろ! 走れ!』
それは大人の声だ。
『早く逃げるんだ!』
『こっちだよ』
誰かの手が僕の手を引いてくれる。誰かはわからない。でも知っている人のような気がする。あたたかい大きな手。
『ほら、早く』
その人の手に引かれるまま、僕は走る。
「待って!いもうとが、いもうとがまだ家にいるんだ!」
足をもつれさせ、転びそうになりながら、それでも必死になって手を引こうとする相手にしがみつくようにして訴える。
「ねえお願い、いもうとを助けて」
けれども相手は何も答えない。ただ無言のまま走り続けるだけだ。
「お願い……お願い……」
涙声で訴えても、誰も何も言わず、ただひたすら前へ前へと足を動かすばかり。やがて彼は立ち止まり、後ろを振り返る。そこに見えるのは、先ほどまでいたはずの我が家の光景。見慣れた家具、使い慣れた台所。それらは全て炎に包まれていた。ごうごうと音を立てながら燃え盛る赤い炎。その中に浮かぶ黒い影。
妹の名前を叫ぶ。駆け寄って抱き上げると、それはタールのようにドロリとした何かに変わっていた。
服にも顔にもべったりとまとわりつき、まるで妹の身体から流れ出た血に染まっているようだった。
蝿が湧きだして、腐臭を放ちはじめる。腕の中で妹はどんどん溶けていく。その熱さと苦しさに悲鳴を上げながら、ジョバンニは目を覚ます。
全身汗まみれになっていた。胸を押さえながら荒く息をつく。目尻には涙の跡がある。
部屋は静まりかえっていた。隣のベッドでは、相変わらずレオンがすやすや眠っていて、小さないびきが聴こえた。
ジョバンニはゆっくりと起き上がると、自分の顔を両手で覆う。 あの夢の続きを見るんじゃないかと思う��、ここに居ることすら怖く感じた。
「水でも飲もうかな……」
ひとりごちると、そっと部屋の扉を開ける。廊下に出ると、窓から月明かりが差し込んでいた。
昼間の喧騒とは打って変わり、シンと静まり返った夜の廊下。窓の外に見える夜空もどこかどんよりとしていて、まるで今の気分を表しているみたいだと感じる。
階段を下り、談話室の前を通りかかると、ドアの隙間から明かりが漏れていた。誰かが消し忘れたのか、それとも誰かが居るのか。
ドアをそっと開けて覗くと、暖炉の前のソファで誰かが力無く横たわっていた。ぐったりとした様子で、床には本が落ちている。
「あれは……フーガさん?」
まさか、死んでいるんじゃないだろうか。
『おまえのせいだよ』
「ッ……!!」
脳裏に浮かぶ暗い声。
駆け寄って、口もとに手をあてる。吐息を感じる。呼吸している。手首を握って脈を測る。トクトクと血管が動くのがわかる。
生きてる。
「…………よかった…」
ただ寝ているだけなのに、静かすぎて不安になってしまった。また自分のせいで、誰かが死んでいるんじゃないか。ずっとそんな妄想に取り憑かれている。
ふぅと安堵のため息をついて、それから慌てて立ち上がる。こんなところで眠っているなんて危ないじゃないか。風邪を引いてしまうかもしれない。それにここは少し寒いし……。
ジョバンニはブランケットを持ってくると、それを彼の肩にかけてやった。その時、彼が身じろぎしたような気がして、起こしてしまっただろうかと焦ったが、どうやら違うようだ。むにゃむにゃと何か言っている。
なんとなく、さっきまで感じていた心細さが落ち着いている気がした。
この人が起きるまで、ここで夜を過ごすのもいいかもしれない。そう思うとまたひとつ、胸の底から不安な気持ちが消えてゆく。
ソファの足元の床に座り、もう一枚持ってきたブランケットを自分の膝にかけた。
星の図鑑を開くと、こぐま座のページだった。迷子の船を導くポラリス。いつか僕にも目的地が見つかるだろうか。
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風雅が目を覚ましたのは明け方、まだ薄明かりが差し込見始める時間帯だった。
昨夜は鈴蘭の様子を見るついでに急ぎの仕事を片付けていたはずだ。完成させたものを秘書であるエドに送信した後の記憶が無いが、どうやら自分はそのまま寝てしまっていたらしい。
「片付けにゃならんな……」
身体を起こすと、近くで何かが動いたような気がした。膝に温かさを感じて見ると、そこにもたれるようにジョバンニが小さな寝息を立てていた。
「うわ、なんでここに?」
起こさないように立ちあがろうとするが、ズボンの裾を捕まれていて動けない。
「参ったな」
とりあえずもう一度腰を下ろす。そっと手を伸ばして頭を撫でてやると、彼は心地よさそうに身を捩って微笑んだ。
自分は彼らが安心する場所を作れているのか、何かを与えてやれるのか、自問自答する日もあったが、膝で眠るジョバンニの寝顔は、まるで答えを知っているかのように思えた。
風雅はしばらく、無防備に眠る少年の横顔を見つめていた。
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kachoushi · 3 years ago
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各地句会報
花鳥誌 令和3年10月号
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坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和3年7月1日 うづら三日の月 坊城俊樹選 特選句
ちらちらと風になびくや小判草 喜代子 月涼し越し人生を返り見る 同 堤防の舗装工事に夏深む 英子 大夕焼茜に染まる遊びの子 都 誰が化身蛍火となり闇を舞ふ 同 訳有りの香水今は琥珀色 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年7月3日 零の会 坊城俊樹選 特選句
吸殻はサルビアの雨に崩れて 和子 色悪の血まみれとなる夏芝居 要 柏手も汗も小言も楽屋口 荘吉 歌舞伎座の江戸むらさきの涼しさよ いづみ 通り抜けても青梅雨の銀座かな 要 辯松へ思ひありしか梅雨の蝶 三郎 歌舞伎座の裏店にある水羊羹 いづみ 木挽町の色を正して濃あぢさゐ 和子 風鈴や木挽町しか知らぬ風 順子 三つ編みをほどき蛍をとほくする 光���
岡田順子選 特選句
やうやくに楽屋貰ひて夏暖簾 佑天 高楼に埋もるる梅雨の小料理屋 小鳥 緑蔭にレノン形見の喫茶店 いづみ 三越の獅子にまたがる父の朱夏 俊樹 緞帳の街を治める朝曇 三郎 一センチほどの薔薇咲く木挽町 小鳥 垢抜けぬ頰で見にゆく夏芝居 光子 紅薔薇を傘もささずに買ふ男 きみよ 吸殻はサルビアの雨に崩れて 和子 夏深し妾の店の連子窓 光子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年7月7日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
手の窪に水の匂へる蛍かな 世詩明 梅雨ごもりポストは音を待つてをり 清女 魚の店は蝿取りリボンぶら下がる 誠 雲の峰海へと続く行者道 同 潮浴びの乾きし肌に白き塩 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………���……………………………………………
令和3年7月10日 花鳥さゞれ会 坊城俊樹選 特選句
栄枯知る一乗谷の大夏木 かづを 老鴬に耳遊ばせてゐる故山 同 山日和老鴬機嫌よく啼けり 同 夏潮の香を浴び渡る神の島 同 海に向く茶房の窓や夏の潮 匠 縁側は親のぬくもり端居せる 同 夏潮の三国河口に女佇つ 和子 棟梁で寡黙な男哥川の忌 同 泰山木花の大いさその白さ 天空 夏潮に護られるごと句碑三基 同 丸ごとのこれぞ西瓜と云ふ西瓜 雪 夏潮を佐渡へ蝦夷へと旅せし日 清女 なんとなく撫でてあげたい西瓜かな 笑 美しき娘を残し夏の月 千代子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年7月10日 札幌花鳥会 坊城俊樹選 特選句
とび降りる水待つ滝の流れかな 独舟 ドア開けて人を待つかに水中花 清 客一人静かさにある水中花 同 手も足も尻も出てゐる夏蒲団 晶子 口癖も日焼けもまさに親子なり 同 蜘蛛の囲に雨粒光り蜘蛛は留守 寛子 一滴のブランデーなりし夜の秋 岬月 鳶職の足場を雲の峰に組む 同 ボート漕ぐピアスとピアス光り合ふ 雅春
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年7月10日 ますかた句会 栗林圭魚選 特選句
月見草闇押し退ける力あり 秋尚 枕辺に老舗の名刺うなぎの日 多美女 リハビリを終へギヤマンの氷菓子 同 月見草夕靄濃ゆき無人駅 ゆう子 空蟬や古寺の砌に横たはり 幸風 けさの雨白く飛沫きぬ原爆忌 ゆう子 母の言ふ忘られぬ空原爆忌 多美女 女坂木々の重なり寺涼し 瑞枝
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年7月12日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
料亭の盛り塩に梅雨しとどなる 清女 剥落の蔵の上なる雲の峰 上嶋昭子 時鳥行幸の山鳴き交はす みす枝 一枚の��の落葉にある孤独 ただし 気に入らぬ日射しひまはり��を向く 時江 梅雨豪雨猛獣の群れ襲ふごと みす枝 木蔭には木蔭の色の額の花 信子 朝曇世の盛衰の見えかくれ 時江 喉飴をがりがり噛んで梅雨籠 清女 アマリリス弱気の兄を背に庇ひ 上嶋昭子 鬱憤を噴き出す如くソーダ水 みす枝 夏雲の一つ一つに獣住む 世詩明 青簾一枚外は日本海 ただし
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年7月12日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
海に果つ誘導灯や月見草 美智子 博物館枡に咲かせる古代蓮 悦子 雷鳴に引き摺られ行く雨の音 佐代子 短夜や寝返り毎に白みをり 宇太郎 幽妙な香となる風蘭の夜風 悦子 雷雨去り砂丘稜線みづみづし 都 沙羅散るや禅語の数と思ふ程 益恵
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年7月12日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
虹立ちてひと刷り濃かり空の碧 秋尚 捨て切れぬ夢まだありぬ雲の峰 同 神職の袴は浅葱雲の峰 美貴 たこ焼きのたこはみ出して雲の峰 有有 入道雲目指して彼方定期船 史空 片脚を天城嶺に置き朝の虹 怜 横寝する父の跣足や縒れる爪 聰 雲の峰青空少しづつ食みて 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年7月13日 萩花鳥句会
遠き日や開聞岳の夾竹桃 祐子 砂山の一つ残りて晩夏かな 美恵子 子窓開け直ぐ二度寝入る風晩夏 健雄 山津波救命急ぐ汗汗汗 陽子 月涼し今日も安堵の日でありき ゆかり 広島の空の青さよ夾竹桃 克弘
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令和3年7月14日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
八日目のバナナ甘美をまとひたる 登美子 テーブルにぽつんとバナナ夜を明かす あけみ 歳月に吾と琥珀色増す梅酒 みえこ 半夏生物忌みの日と畏みぬ 同 開け放す御堂鶯老を鳴く 令子 疫病を祓ふ茅の輪をくぐりけり 同 行く人も来る人も居てかき氷 裕子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年7月16日 伊藤柏翠俳句記念館 坊城俊樹選 特選句
雨蛙いつ迄其処にゐるつもり 雪 百年に滅びし栄華夏の草 同 修羅場秘め密かに待てる蟻地獄 みす枝 伝達はちよつと一ト言蟻の列 同 稲光どつと天地を翻へす 玲子 形代を流せる指の皺深し ただし 一山のみどり明りの中を来し かづを 雲の峰見上げて君を待ちをりし 高畑和子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年7月18日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
蟬の穴覗きて闇の深からず 三無 草いきれ甘く重たき風となる 和子 アイスキャンディー食ふ子とそれを見てゐる子 千種 しつかりと姉の手握り雲の峰 斉 炎帝や年尾の句碑の揺るぎなく 亜栄子 絵日傘をたたみ閼伽桶汲む女 芙佐子 少年へ機関車聳ゆ日の盛 千種 組む足で裾さばきをりサンドレス 和子
栗林圭魚選 特選句
草影の一枚はがれ夏の蝶 和子 炎天へかひな開けり母の塔 千種 背に誰か並ぶ気配や夏の果 和子 両手拡げ風となる子や夏野原 三無 菩提樹といふ仏性が蟬集め 同 這ひ上り仏足石に迷ふ蟻 芙佐子 少年へ機関車聳ゆ日の盛 千種
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年7月21日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
雲の峰仰ぐ男の子の目の青さ 和子 ナース行く七夕竹にすれすれに 昭子 半夏生ほどの化粧や母在さば 同 父の日や兄に残りし父の顔 令子 福井空襲夏休待つ前日だつた 同 洗ひ髪彼の世此の世の人を恋ひ 雪 猫であることを忘れて猫昼寝 同 青葉木菟明智軍記を蔵す寺 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年7月21日 鯖江花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
夕べ啼きをりし蛙は殿様か 雪 母に別れ蚊帳に別れし昭和かな 上嶋昭子 思案中らしき男の白扇子 同 水中花の水替ふ君の留守の部屋 同 蛍篭明りに本を読みし日も 洋子 仏壇にもつとも古りし水うちは 同 曇天にほのかな明り合歓の花 紀代美 御住職までもあやめり水鉄砲 一涓 青天を背にし三人ラムネ飲む ただし 炎天下裸婦像ことに裾からげ 世詩明 山を割る男瀧の水の白きかな 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
釘の錆風鈴を吊る指先に 睦子 行水の音たばしらせ若き父 同 炎昼や人みな影としか見えず 同 白刃のごとく立ちたり滝行者 伸子 風鈴の吊しままなる売家かな 久美子 人形の動かぬ瞳水中花 ひとみ 行けど行けど夏鶯の浦の径 由紀子 花海桐煌めいてゐる忘れ潮 さえこ 夏の夜のあやかし君とゐるスナック ひとみ 七夕や園児は時を駆けてをり 勝利 落蟬の足動きつつ曳かれ行く 志津子 噴水のあざとき色を噴き上げぬ 伸子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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