Tumgik
#針音ノ時計塔
deadrosencrantz · 4 years
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oh yukina, we’re really in it now 
(premieres 9PM BST!)
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master of the heavenly yard
Master of the Heavenly Yard
[1. エピローグ]
[1. Epilogue]
.
僕らはいつでも
We have done nothing but
間違いだらけだった
Make mistakes
この千年の時で
During these thousand years
 .
「もしも」の願いが
A wish of "if only"
叶うことはもうない
Will never be granted now
罰は下された
Punishment has been passed down
 .
幾億の魂たちよ
You several hundred million souls
幾億の悪意たちよ
You several hundred million villains
 .
不幸な結末は誰かのせいなのか?
Is this unhappy conclusion someone's fault?
そう考えてる奴らは皆「くそったれ」さ
Those who think so are all "sons of bitches"
 .
僕らは結局
In the end
何かを残したのか?
Have we left something behind?
この千年の旅で
In this thousand year journey
 .
答えはきっと
The answer will surely
いつまでも出ないから
Never come forward
君に会いに行くよ
So I will go to see you
.
[2. 大罪狩り]
[2. The Hunt for the Deadly Sins]
 .
滅びた世界の中心
In the center of the ruined world
荒野に浮かぶ映画館
A theater floats in the wasteland
死なせる魂が集いて
The dead spirits gather together
黒き箱を崇めている
And worship a black box
 .
館の主 庭師の男
Their master, the male gardener,
魂たちに指令を下す
Gives orders to the souls
世界を救うためには
There are things they need to do
為さねばならぬことがある
In order to save the world
 .
悪魔に魅入られた魂を滅ぼせ
Destroy the souls possessed by demons
全ての元凶「大罪契約者」を殺せ
Kill the cause of everything, the "deadly sin contractors"
 .
動き出す魂の従者
His spirit followers start to move
「大罪狩り」が今 始まった
"The hunt for the Deadly Sins" has now begun
.
[3. 王女の旅立ち]
[3. The Princess Sets Out]
 .
王女の前には
Before the princess
眠りこける家臣たち
Are her deeply sleeping ministers
それは誰かからの「gift」
That is a "gift" from someone
彼女を守れる者は
The one who could protect her
もういない
Is gone now
迫りくる庭師の軍勢
The gardener's troops approach
 .
白き馬に乗って現れた修道女
The nun that appeared riding a white horse
王女を助け出し
Helps get the princess away
新たな旅へ
Towards a new journey
 .
もう待っているだけのは
I'm fed up
たくさんなの
With just waiting
守られてばかりは嫌だ
I hate always being protected
自分自身で
If I accomplish everything
全てを成し遂げたら
All on my own
胸を張って
I'll puff up my chest with pride
君に会いに行くよ
And go to see you
.
[4.英雄たち]
[4. The Heroes]
 .
「悪とは一体何なのか?」
"Just what in the world is evil?"
七つの罪 背負いし者
The ones burdened with the seven sins
世界と共に滅んだはず
Should have been destroyed along with the world
されども まだ
But they are still
生きている
Living
 .
罪は決して許されぬのか?
Can sins never be forgiven?
声をあげる者がいた
There is one who raised her voice
庭師の野望を止めるため
To stop the gardener's ambitions
英雄も平民も
The heroes and the commoners
幻の剣をとる
Take up phantom swords
 .
正義も悪も
Justice, and evil,
全てを唄に変えよう
Let's change all of it into a song
罰はすでに下されたのだから
Because punishment has already been handed down
過ちを二度と
So now is the time
繰り返さぬよう
Where we shall fight
今こそ我々は戦おう
So that our mistakes don’t repeat again
.
[5. BLACKBOX]
 .
禁じられた黒き箱
The forbidden black box
今開かれる
Will now be opened
その力は神の浄化
Its power is the purification of gods
あるいは初期化
Or a formatting
 .
人の魂など所詮は
People's souls are after all
データーの一部に過ぎない
Little more than pieces of data
黒き箱のぜんまいは廻り
The springs of the black box go around
全てを溶かし尽くしてゆく
And everything melts away
 .
その渦に逆らう事は出来ぬ
You can't defy that vortex
あれは神の定めしプログラム
That's an unchanging program of the gods
それを止めることができるのも
Because there is no one aside from a god
神以外にはいないのだから
Who can stop it
 .
この世でたった一人だけ
In this world only one person
生き続けていた
Has continued to live
彼女の銃から放たれた
From her gun was fired
金色の銃弾
A golden bullet
 .
空に舞う黒き花火を
Who is she thinking of
見つめ続けながら
While continuing to gaze at
誰の事を想うのか
The black fireworks dancing in the sky?
古き神々の時代が
Signaling that the old era of the gods
終わりを告げ
Has ended
そして
And
また時が動き出す
Time begins to move again
.
[6. Not Eve]
 .
これは終焉の物語
This is the story of the end
何から語りましょうか?
From where shall I tell?
 .
私の名前は……
My name is...
私の名前は……
My name is...
私の名前は……
My name is...
私の名前は……
My name is...
 .
……誰?
...Who am I?
.
[7. 狂想の終わり]
[7. The End of the Capriccio]
 .
辿り着いた映画館
She'd arrived at the theater
王女にとってそこは
To the princess, this place was
黒幕の住む場所
Where the mastermind lived
そしてかつての故郷
And an old home
 .
庭師などしょせん傀儡
Those like the gardener are puppets after all
真に倒すべき敵は
The enemy she truly ought to defeat was
人形に宿りし者
The one who dwelled in the doll
箱庭の少女
The girl of the miniature garden
 .
ああ歯車よ 何故に
Ah, Gear, why
お前は彼女を守るのか
Do you protect her?
その女はお前の
Even though she's
想い人ではないというのに
Not the one you long for
 .
邪魔するというなら
If you say you will get in the way
温情などかけぬぞ
I shall not be kindly to you
我は傲慢な王女
For I am the prideful princess
悪ノ娘なのだから
I am the Daughter of Evil
 .
ついにその時はやってきた
Finally that time arrived
終わりを告げる鐘がなる
The bells signaling the end ring
あれは心音の時計塔 罪を刻む針
That is the Heartbeat Clocktower, sin carved into its hands
いかなる者であろうとも
No matter what kind of person they are
私に逆らうなら 粛清してしまえ
If they oppose me, completely purge them
 .
「さあ、ひざまずきなさい!」
"Come, kneel to me!"
.
[8. 再会]
[8. Reunion]
 .
僕らはいつでも
We have done nothing but
間違いだらけだった
Make mistakes
この千年の時で
During these thousand years
 .
君にずっと会いたいと思ってた
I had always wanted to go see you
そう 君の名は……
Yes, your name is...
.
MA
.
[9. 純粋なる悪]
[9. The Pure Evil]
 .
王女を探し求めた少年
The boy who had searched for the princess
その姉の中に彼女はいた
She was inside his older sister
真の純粋な存在 目指して
The witch who had taken in the seven demons
七つの悪魔 取り込んだ魔女
Seeking to be a truly pure being
 .
消滅の直前 人形は
Just before vanishing, the doll
魔女の意思を蘇らせた
Resurrected the witch's will
黒き箱に飲��込まれながら
While being pulled into the black box,
庭師は最後にこう叫んだ
In the end the gardener cried out this:
 .
世界を救いたくばその娘を殺せ
If you want to save the world, then kill that girl
魔女と同化した悪ノ娘を殺せ
Kill that Daughter of Evil who assimilated the witch
 .
迫られる最後の決断
He is urged to a final decision
少年よ どちらを選ぶのか
Boy, which will you choose?
.
[10. 少年の選択]
[10. The Boy's Choice]
 .
「悪とは一体何なのか?」
"Just what in the world is evil?"
誰かの言葉
Those are someone's words
人は誰しも欲深いもの
All people are greedy
 .
僕だってそれは
Because I myself
同じだから
Am the same
君と世界 どちらも
The world and you; I will
手に入れる
Obtain both
.
[11. Re_birthday Truth]
 .
強き決意が気まぐれな
My strong determination brought about
奇跡をもたらした
A miracle on a whim
君の手から落ちた小さな小瓶
A small bottle fell from your hand
書かれていたメッセージ
The message that you had written
『必ず助けなさい』
"Make sure you save me"
君らしいやと小さく笑う
I quietly laugh that it's so like you
 .
大丈夫 僕は君を
It's alright, because I will
絶対に守るから
Protect you unconditionally
世界はもはや僕らの敵じゃない
The world isn't our enemy anymore
さあ共に手を取り
Come, let's join hands
前に進もう
Let's move forward
新たな世界と
For the new world
君の為に
And for you
 .
ほら
Here
空を見てごらん
Look at the sky
世界は
The world
月に映る鏡
Is a mirror that reflects the moon
その先で
It is time 
こちらを見ている
For you who is looking our way
あなたが
From beyond there
今目を覚ます時
To awaken
 .
[12. プロローグ]
Prologue
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nemurumade · 7 years
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永い夜の瀬でぼくらは、
1
 熱い湯が素肌を叩いて、眠気を醒ましていく。ハンドルを回してシャワーを止め、濡れた髪を無造作に掻き上げた。  浴室を出て、バスタオルで肌についた水滴を拭い、ドライヤーで髪を乾かし、質のいいワックスを使ってセットする。下着を重ね、クリーニングに出したばかりの白いニットに袖を通し、黒のジーンズを合わせた。  動くたび、鈍い痛みが微かに腰に走る。しばらく会えないからと言っても、これから長旅に出るというのに、あの男は容赦ない。  二年ほど暮らした、都心にそびえ立つマンションの高層階の一室も今日で見納めだ。泉の荷物はすでに向こうのホテルに送ったため、この部屋には手荷物以外、何も残っていない。カーテンから外を覗くと、十二月の空は分厚い雲で覆われ、昼頃になっても気温はさほど上がらないだろうと思われた。ジャケットを羽織る方がいいか、と考えながら、短針が八を指す腕時計を左手首につけた。 「……泉、」 不意に名前を呼ばれて、振り返る。目をこすりながら起き上がった男は、眠たげな声で尋ねる。 「もう出るの?」 「うん、」 「来て」 泉がベッドの側へ行くと、手を引かれ、キスをされた。 「たった二ヶ月離れるだけなのに、恋人の関係を終わらせるの?」 悲しみを宿した瞳を向けられ、泉は罪悪感を噛み締めながら、彼の寝癖を手櫛で直してやる。 「俺の気持ちは変わらないよ」 「……僕も、離れても泉を愛する気持ちは変わらない」 泉は彼の手を離した。彼は繋ぎ止めようとはしなかった。 「そういう優しいこと言ってくれる人ほど、離れていくんだよねぇ」  だから、ごめん。今までありがとう。そう続ければ、彼は諦めたように笑った。  手荷物だけを持って、泉は寝室を出る。その直前、彼が声を掛けた。 「泉、向こうでも元気で」  泉は微笑みを浮かべただけで何も言わずに、静かにドアを閉めた。  ロビーを出れば、真冬の朝の冷たい空気が頬を撫でる。  呼んでいたタクシーは路肩に停まって乗客を待っていた。後部座席に乗り込み、運転手に行き先を告げた。 「成田空港まで」
 正午頃のフライトまでに時間があったため、泉はラウンジでカクテルを頼んだ。長いフライト中に睡眠を取るためだ。適度に酔っておけば眠れなくなる心配はない。  ちまちまとそれを飲んでいると、スマートフォンに着信があった。  朔間凜月、の名前に驚きながらその電話に出る。 「もしもし、」 「これからロンドン行きって言うのに、辛気臭い声だなぁ」 クスクスと笑う声に、泉は溜息を吐いた。 「くまくんが早起きなんてするから、こんなに天気悪いんじゃない?」 「嫌味は健在で安心安心」 「ぶっ飛ばすよぉ?」  そう言いながらも、昨日、気をつけてね、なんて言いながら泉愛用のパックを一ダースもくれたので可愛くないことはない。凜月はそういう男だ。 「で、なんでわざわざ電話なんて掛けてきたわけぇ?」 「昨日はナッちゃんもス〜ちゃんもいたから訊き損ねたから。ちゃんと振ったの?」 あいつのこと、と問われて、 「振ったよ」 とキッパリと返事をした。少しの沈黙の後、嘘じゃなさそうだねぇ、と間延びした声が返ってきた。 「俺にとってはやっとか、って感じだけどね。別れて正解だよ、あんな男」  凜月は、交際当初から泉の恋人————つい先ほど別れたが————二つ年上のカメラマンの男を嫌っていた。一度ふたりがエンカウントしたとき、凜月は目も合わせなかった。普段、自分とはそれほど関わりのない人物を嫌わない凜月にとって珍しいことだった。  泉はグラスを揺らした。オレンジテイストのカクテルが小さな波を立てる。 「……それを確かめるためにわざわざ?」 「そうだったら悪い?」 「なんでそこまで……」 「前に言ったでしょ、『王さま』が可哀想だからだよ」 その言葉に、カクテルを一口飲む。仄かな苦味が喉を焼く。 「……その呼び方よしなよ」 「じゃあ、『れおくん』」 押し黙った泉に、凜月が溜息を吐くのが聞こえた。 「ほら、こっちでも嫌がるじゃん」 「うるさいなぁ」 不機嫌を露わにしながら、泉は足を組み直す。 「……あいつの話ももうよしてよ、何年前のことだと思ってんの」 「二年前」 と正確な数字を出してくる男に舌打ちをすれば、 「怒んないでよセッちゃん」 悪気のなさそうな声がして、少し間が空いた。 「……それだけだから。じゃ、気をつけてねぇ」 泉は、うん、と小さな声で返事をした。 「お土産よろしく〜」 そう言葉を残して、凜月は電話を切った。スマートフォンを耳元から離し、ポケットに入れ、カクテルを一気に飲み干す。苦味が喉を通り、真っ逆さまに、胃に落ちていく感覚がした。  搭乗案内のアナウンスが響く。泉は席を立ち、搭乗口へ向かった。
 瀬名泉は、夢ノ咲学院を卒業後、進学をせずにモデルの道を選んだ。ありがたいことに、卒業前から大手芸能事務所から声が掛かり、所属先には困らなかった。キッズモデル時代、学生時代の知名度もあり、期待の新人モデルとして優遇されることが多かった。  現に、世界的に有名なイギリスのブランドの広告塔に選ばれた。日本人初の快挙に、日本のファッション界隈はその話題で持ちきりだ。泉は、これから約二ヶ月間、撮影やショーへの出演のためにイギリスのロンドンで生活し始める。  それをきっかけに、約二年間付き合った男に別れを告げた。  カメラマンの彼は、紳士的で、穏やかで、素の泉を理解してくれる数少ない人物のひとりだった。その上、カメラマンとしての腕も良く、国内の賞を総ナメにしていた。だから、付き合ってほしい、と言われても嫌な気はしなかった。いいよ、という一つ返事でふたりは後藤が元々住んでいたマンションの一室で生活を始めた。  彼のなにが嫌で別れたのではない。ただ、自分はこの男を愛しているのだろうか、と自問しても、答えは出てこなかった。  ————泉、愛してる。 彼の腕に抱かれながら、そう囁かれても、泉はいつもなにも言えなかった。  ありがとう、とか、俺もだよ、とでも言えばいいのに、その言葉たちはいつも浮かんでは消え、声ではなく吐息となった。  優しくて、穏やかで、料理もキスもセックスも上手いのに、泉は、最後まで、彼を愛せなかったのだ。
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 着陸を知らせるアナウンスの声で、浅い眠りから目が覚めた。分厚い窓の外を見れば、夕方の空とコンクリートの地面を、滑走路の端が隔てていた。  飛行機はゆっくりと着陸し、人々は荷物を持って立ち上がる。彼らに続いて、泉も飛行機を降りた。  広いロビーには多くの人がいた。出発を待つ人、誰かを迎えに来た人、荷物を取りに行く人。みな足早にロビーを歩いていく。  泉は入国審査を待っている間に、すでに数日前に入国していたマネージャーに連絡をしておいたため、すぐに落ち合えた。 「泉、お疲れさま」 泉のマネージャーは、四十歳手前の女性だ。テキパキと仕事を捌き、ハキハキとした物言いで泉との相性は良い。 「お疲れさまです」 「タクシーでホテルに向かうけど、何か食べる?」 「いや、まだ大丈夫」 そう、と彼女は返事をして、タクシー呼んであるから、と泉のスーツケースを引いて歩き始める。彼女は結婚して十年の、テレビ局のプロデューサーの夫がいるが、子供はいない。だからなのか、彼女は泉を自分の息子のように接するし、泉はそれが嫌だというわけではなく、むしろ心地良かった。  タクシーの後部座席に乗り込むと、マネージャーは流暢な英語で目的地を告げた。
 ホテルには一泊し、その次の朝には、これから暮らすスタジオフラット、いわゆるワンルームマンションに移動した。中心地近くに建つ赤茶色の壁のフラットに、泉とマネージャーは一部屋ずつそれぞれ借りた。撮影からコレクションを二ヶ月かけて全てロンドンで行われるため、ホテルに長期宿泊するよりも賃貸の方が安上がりだという理由からだ。 「ブランド側との顔合わせは明後日だから、それまでに時差にも慣れてね。八時頃、一緒に夕食でもどう? 近くに美味しい店を見つけたのよ」 「うん、行く」 マネージャーに言われて、高校時代の頃と食生活は少し変化した。サプリメントに頼ることもほとんどなく、バランスの良い食事を三食しっかり摂ることを徹底している。  彼女は、泉より一つ上の階に上っていった。その後ろ姿を見送って、泉は受け取った鍵で自室の玄関扉を開けた。  小ぢんまりとした部屋だったが、家具は全て揃っている。ベッドの側のドアの先は、床が青いタイル張りになって���るトイレとシャワールームだった。  悪くない、と思いながら窓を開けた。夜の冷たい空気が部屋に入り込む。  それから絨毯の上でスーツケースを開け広げる。その他の生活用品はこっちで買えばいいと考えていたため、中身は洋服ばかりだ。それらを備え付けのクローゼットに移し、同じく備え付けの電化製品たちがちゃんと動くか確認した。テレビでは夕方のニュースが流れていた。  近所を散歩でもしようとまた外に出る。聞いていた通り、ロンドンの気温は低い。日本の十二月は、これほど寒くないはずだ。  若いカップルが寒さに肩を寄せ合いながら、泉の横を通り過ぎた、そのときだった。  泉より少し先を歩く、その背中。  車のタイヤがコンクリートの地面と擦れ合う音も、ざわめきとなった人々の話し声も足音も、膜をかけたかのようにくぐもって聞こえた。  ハーフアップにまとめられたあの長い赤毛、立てたコートの襟、軽快な歩き方とその歩幅と足音、すべてが、懐かしく感じた。  気づいたときには走り出してその背中を追いかけていた。 「待って!」 ぐい、と腕を引いて、振り向かせる。ゆらり、とエメラルドの中の光が揺らいだ。  目の色形も、手の大きさも、高く小さな鼻も、間違いなかった。この目の前にいる男は———……。 「……れおく、」 「Who are you?(おまえ、誰だ?)」 その声もレオのものにそっくりで唖然とした。だから、その喉から発されたのが流暢な英語だと気づくのに数秒かかった。  ————れおくんじゃ、ない。  そう理解して、慌ててその手を離して謝った。 「Oh,I’m sorry. I thought you were someone else.(ごめんなさい、人違いをしました)」  彼は驚いたように目を見開いてから、ゆっくりと微笑みを浮かべた。 「……英語も話せるのか。さすが日本が生み出したモデル界の新星、イズミ・セナ、だな」 日本語でそう、はっきりと自分の名前を発音され、泉は目を丸くして彼を見つめた。 「……俺を知ってるの、」 「知ってるよ、ファッション業界は君の話題で持ちきりさ。こっちのブランドの広告塔をするって噂には聞いてたからなぁ。まさか本物に会えるなんて嬉しいよ」 レオの声なのに、話し方は似ても似つかない。大きな違和感を咀嚼しながら、差し出された手を握り返した。 「おれはレナード。日系のイギリス人だよ。これも何かの縁だ、どうぞよろしく」 「よろしく……」 彼は屈託のない笑顔を泉に��けた。 「そんなに似てたの?」 黙って頷けば、彼は緑色の瞳を細めた。  途端、息苦しくなって目の前が真っ暗になった。  ぐらり、と傾いた身体を彼が支える。  セナ、と呼ばれた気さえして、泉は参ったなぁ、と思いながら、瞼を閉じた。
 次に目が覚めた時には、泉は見知らぬ部屋の天井を見つめていた。身体は痛まない、背中越しに感じる柔らかな感触に、自分がベッドの上に横たわっているのだと理解する。 「……気がついた?」 そう声がして、泉は上半身を起こした。そこにはマグカップを二つ持ったレナードがいた。そのうちの一つを泉に差し出す。 「ホットミルクだ、飲めるか?」 「ありがとう……」 微かな甘みが乾いた口の中に広がり、泉の意識を鮮明にさせる。レナードは、ベッドサイドの小さなテーブルに自分のマグカップを置き、ベッドの端に腰掛けた。 「急に倒れたから驚いたよ」 「ここは……?」 「俺のバイト先の休憩所。仮眠を取るためにベッドが備え付けられてるんだ」 「あんたが運んでくれたの、」 「うん」  泉も、彼に倣ってマグカップを置いた。  「ごめん、なさい。迷惑かけて、」 「謝ることない。寝不足か、貧血だろ。飛行機で眠れなかったのか?」 「まぁ、うん……」 いつもなら熟睡できるのに、今日は違った。意識はいつまでも泉のそばにいて、機内のざわめきや外から聞こえる微かなエンジンの音に鼓膜と神経が震えて眠りに身を委ねることが上手くできなかった。  ふと、窓の外に目を向けて、夕食の約束を思い出した。 「ねぇ、今、何時か分かる?」 「今? 六時半過ぎだけど」 その答えに、ほっと息を吐く。一度自分の家に戻ることはできそうだ。が、しかし、 「まさか、俺、一時間もここにいたってこと……?」 「まぁ、そうだな」 さらっと答えた彼に、泉はさらに罪悪感を覚えた。 「本当にごめん。いろいろとありがとう。またお礼をさせて」 と言いながら、泉は立ち上がる。 「もう行くのか?」 「うん」 と頷くと、彼は一度部屋を出て、泉の着ていたジャケットを手渡してくれた。それに袖を通す泉の横で、彼も上着を羽織り、鍵を尻ポケットに入れていた。 「ちなみにどこまで? 案内するよ」 「そこまでしなくても……!」 「おまえ、道分かんないだろ」 気絶してる間に運ばれてきたのだ。ここがどこだか、泉はもちろん知らない。 「……ごめん、ありがとう」 そう言えば、彼は、「いーえ」と無邪気にはにかんだ。それは、少しばかり彼を幼く見せた。  出会ったばかりの素性も知らない男に助けられ、その男とふたりきりの部屋で一時間も死んだように眠り、そのうえ道案内までしてもらうなど、我ながらどうかと思った。  しかし、彼があまりにも昔の恋人に似ていたから、悪い人じゃない、と思ってしまったのだ。  泉は彼の半歩後ろをついて歩いた。狭い階段を降りると勝手口があり、人気の多くない路地に出た。そのドアの鍵を掛ける彼の背中に話しかける。 「レナードさんは、」 と言いかければ、 「レナードでいいよ」 と口を挟まれ、レナードは、と言い直す。 「仕事はなにしてるの、」 「アルバイトだよ、今はこのバーで働いてる」 「なら、どうして俺を知ってるの。自分で言うのもなんだけど、俺はファッション業界では話題に上がるだろうけど、ロンドンにいる一般人で俺を知ってる人はまだ少ないでしょ」  仕事を終えた鍵を再びポケットにしまい、今度は胸ポケットから煙草とライターを取り出した。吸っても?と尋ねるように片眉を上げた彼に、どうぞ、とだけ返事をする。彼は煙草の先に火を点けながら、にやりと笑った。 「いいね、『まだ少ない』ってところにおまえの自信が見える」  答えを急かすように泉が肩を竦めれば、レナードは細い路地を出た。夜の街はどこの国も賑やかだ。ほろ酔い気味の男女が楽しそうに笑いながら、ふたりの横を通り過ぎていった。 「この町はブティックが多いから、おれが働いてるバーも、デザイナーやモデルたちの御用達なんだ。プライベートな話はもちろん、仕事の話も嫌でも聞こえてくるってわけ」 「へぇ……」 「また飲みに来いよ。安くしてやるから」 「ありがと」 「あ、でも気をつけた方がいい」  急に声色を変えた彼の目線を辿ると、体格のいい男ふたりが、手を繋いで、またちがうバーに入るところだった。 「おれの働いてるところも、いわゆるゲイバーってやつだから。まぁ、ストレートも大歓迎なんだけど」 レナードは泉の方を見て悪戯っぽく笑った。 「おまえは綺麗だからさ。狙われやすいよ」 「……レナードもその気があるの?」 率直に尋ねれば、レナードは、 「俺はバイだよ」 とウインクした。  夕方、泉が倒れた場所で別れた。レナードは、自分の働くバーのカードを手渡した。泉がそれを受け取ると、 「Good night,sweet dream!(おやすみ、いい夢を!)」 と手を振って、電飾が輝く繁華街の方へ歩いていった。長い赤毛が靡くのを見て、泉は彼と逆方向へ歩き出す。  カードには店の名前と住所が記されていた。その下には「Homosexuals and heterosexuals are also welcome!(同性愛者も異性愛者も大歓迎!)」と綴られており、レナードの言葉は本当だったのだと知る。  このカードを見たら、マネージャーはまた呆れるに違いない。彼女には一度、男とキスしているところを目撃されたことがあるのだ。
3
 夢を見た。  雪に包まれた、白銀の世界だった。  広いグラウンドに積もった雪の上で、彼は笑っていた。  セナ、と呼ぶその男に、泉は手編みのマフラーを巻いてやる。赤い毛糸で編んだそれに、彼は嬉しそうに顔を埋めた。  ————おれはね、セナがだぁ〜いすき!  ————おまえが一緒にいるなら、おれは幸せだから。  ————あいしてるよ、セナ!  無邪気な笑顔と、まっすぐな言葉が遠のいていく。  いつのまにか、粉雪は、身体を叩きつける吹雪になっていた。  ————もう、終わりにしよう。  赤いマフラーが風に吹かれて、彼の首から離れていく。  音にならない声で、彼の名前を呼んだ。  マフラーが、彼の姿が、雪にまみれて、消えていった。
 「Nice to meet to you,Mr.Sena.(はじめまして、瀬名くん)」 打ち合わせの場所であるロンドン市内のスタジオで待っていたのは、ブランドのプロデューサーとスタッフたちだった。 「Nice to meet to you,too.(はじめまして)」 握手をしながら、プロデューサーの男性は泉の顔をじっと見つめた。 「You’ve got beautiful eyes.(とっても綺麗な瞳をしているね)」 「Thank you.(ありがとうございます)」 彼は人好きの良い笑みを浮かべ、泉とマネージャーに席に座るように促した。  テーブルの上に広がった書類、椅子の後ろに並べられた真新しい服たち、誰かの香水の匂い。  通訳を交えながら、泉とブランドスタッフは話し合いを進めた。撮影のこと、コレクションのこと。すべてが新鮮で、泉の胸は高鳴った。  打ち合わせの最後に、プロデューサーは嫌味のないウインクをしてみせた。 「I’m counting on you,Izumi.(期待してるよ、泉)」 その言葉に、泉は頷いた。 「I’ll do my best.(頑張ります)」
 打ち合わせが終わった後、スマートフォンを確認すると、レナードからのメッセージが入っていた。 『一緒にディナーでもどう?』 その誘いに嫌な気はしなかった。先日のお礼もしたいし、と思いながら、 『七時以降なら』 と返信した。するとすぐに既読の文字がついて、 『終わったらおれの店に来て』 と新しいメッセージがその下に浮かんだ。  ねぇ、という泉の声に振り返ったマネージャーに尋ねる。 「この後は仕事入ってないよね」 「ええ」 彼女は泉の手の中のスマートフォンを見て、驚いたように瞬きした。 「もう知り合いができたの?」 「まあね」 「スキャンダルはやめてちょうだいよ」 念を押されてしまった泉は苦笑いしながら、 『分かった』 とだけ打ち込み、送信した。
 街はクリスマスソングに溢れ、電飾が輝いていた。  ソーホー地区では、同性カップルたちが楽しげに腕を組みながら、店に入っていく。  その後ろ姿を見送って、泉はマフラーに顔を埋めながら、足早に歩いた。  スマートフォンのマップに頼りながら、レナードが働く店に辿り着く。店の灯りは点いていない。そのうえ、店のドアには『CLOSED』のプレートが掛かっていた。  レナードはまだ来ていないのだろうか、と思いながらドアと睨めっこする。泉の後ろを、カップルたちが笑いながら通り過ぎていった。  それと同時に、バーとその隣の店の間の路地からの入り口から、レナードがひょっこりと顔を出した。 「Good evening,Izumi.」 彼の笑顔に、泉は肩の力を抜いた。 「店長が風邪ひいて臨時休業なんだ。裏から入って」  レナードについて、裏口から店の中に入る。  スタイリッシュな店内は、他のバーとはなんら変わらなかった。レナードに促されて、泉はカウンター席に腰掛ける。 「なにが食べたい?」 そう問いながら、レナードはエプロンの紐を腰の位置で蝶々結びにし、髪をポニーテールに結った。 「お任せする」 そう言えば、彼は少し困ったように眉を下げて笑った。 「お任せか〜」  彼は奥の厨房に入っていった。  店の中は見た目の割に広く感じた。テーブル席もあり、その奥には小さなステージがあった。ここで酔った客たちが歌うのだろう、と思った。 「今日は仕事だったのか?」 と厨房からレナードが尋ねた。 「そう」 と少し大きめの声で返事をする。ジュー、となにかを焼いているような香ばしい音がした。 「ロンドンコレクションに出るのか?」 「まあね」 「さすがだなぁ」 彼の感心したような声に、泉は少し誇らしく思った。  世界四大コレクションの一つであるロンドンコレクションは、一ヶ月後に行われる。それに泉は出演する予定になっているのだ。泉にとって、今までで一番の大仕事だ。ここで結果を残せば、瀬名泉という名は世界に知られることになる。  しばらくして、レナードが完成した料理とともに厨房から出てきた。  ミートパイとチップス、トマトサラダのセットだった。 「ワイン飲む?」 と訊きながら、レナードはセラーからボトルを取り出す。 「明日も仕事だから一杯だけね」 グラスに注がれた白ワインが煌めいた。ふたりでグラスの縁を合わせれば、チン、と軽やかな音が響いた。 「ふたりの出会いに」 「クサいセリフ、」 「ロンドナーだからさ」 ふたりは笑いながら食事を楽しんだ。  レナードが作ったディナーはどれも美味しかった。頬張る泉を見て、レナードは嬉しそうに笑った。  食事を終えると、レナードは煙草に火をつけた。彼が換気扇のスイッチを切り替えると鈍い音を立てて、どこにあるか分からない換気扇が回りだす。 「イズミ、」 少し酔いが回ったらしいレナードが、蕩けたような瞳で泉を見つめる。  その甘い表情に、泉は息を呑んだ。 「歌ってよ」 「……そんなとこまで知ってるわけ」 「おれの情報網をナメてもらっちゃいけないなぁ」  腕を引かれ、ステージの目の前に立つ。小さな円形のステージの中央には、スタンドマイクが待っていた。  聞き慣れた音楽が天井についたスピーカーから流れ出す。ピアノをメインにしたバラード。学生時代に所属していたユニット————Knightsの曲だった。  泉はレナードの方を振り向いて、静かに言った。 「……俺に、歌う資格なんてない。俺はアイドルじゃない。今歌ったら、あいつら……昔の仲間に、失礼だから」  "アイドルの瀬名泉"は、もうどこにもいなかった。瀬名泉を"アイドル"としてたらしめているのは、レオと凜月と嵐と司と、レオが作った曲だった。それらを失った今、泉は"モデルの瀬名泉"として生きるしかないのだ。  レナードは驚いたように見開いた目を二度瞬き、申し訳なさそうに眉を寄せた。その表情には、先ほどまであった酔いはなかった。 「……そうだよな。無理言ってごめん」 泉は慌てて首を横に振った。泉のわがままを、レナードが知る由もないのだ。自分の言葉に後悔した。 「……でも、」 そう言葉を続けたレナードに、泉は顔を上げた。 「おれは、悲しそうな顔をしてるおまえを、楽しませることはできるよ」 まっすぐな瞳に、泉は息を吐いた。懐かしいピアノのメロディーが、よけいに切ない。 レオにそっくりで、そしてレオではないこの男にだけは、言ってもいい、甘えてしまいたい、と思った。どうせお互い酔っているのだ。明日には忘れているかもしれない。  溢れそうになる涙を乱暴に拭って、喉に絡む言葉を吐き出した。 「……本当に、大事な人がいた。でも俺は、二度もそいつを守れなかった……ううん、二度も、傷つけてしまった」 滲む視界の中で、レナードはじっと泉を見つめ、泉の声に耳を澄ましていた。 「……俺は、強くなるために、ここに来ることを選んだ。自分を変えるために。もう二度とあいつに、あんな思いをさせないために。あいつに、見つけてもらうために」 レナードはゆっくりと泉に近づいた。 「触れていい?」 と問われ、その指が濡れた頰を拭う。 「……おまえなら大丈夫だよ、」  その言葉も、その眼差しも、目がくらむほど眩しくて、あぁ、レナ���ドも強いのだ、そう、思った。
4
 なぁ、セナ、そう呼びかけられて、なぁに、と振り返る。楽譜が散らばった床の上に寝転び、その右手を動かし続けていた。  夕焼けの色に染まった窓の向こう側で、カラスが鳴いた。 「……おれがいなくなったら、どうする」 その問いに、泉は答えを見つけることなどできなかった。そんなことを想像したくなかった。  レオは仰向けになって、楽譜を片手に立ちすくむ泉に、力なく微笑んだ。もとも細い身体がさらに細くなっているのが嫌でもわかる。 「こっち来て」 レオの頭の方にしゃがむと、レオの左腕が首の後ろに回される。そしてそのまま引き寄せられて、唇を重ね合わせた。顎の先にレオの柔らかな前髪が触れた。 「……セナ、愛してるよ」 ————そんな悲しそうな表情で、そんな優しい言葉、言わないでよ 掠れた声は喉の奥に張り付いて音にはならなかった。ただそこから微動だにせず、泉の喉を絞めるのだった。  その後、レオは本当にいなくなってしまった。取り残された泉は、夢の残骸を拾い集めて足掻き続けることしかできなかった。  戻ってきたレオと日々を重ねても、レオに対する罪悪感と後悔が、時間の経過によって消えるはずがない。今でもそれらに苛まれる夜もある。だからといって、償いとして献身しているわけではない。  ただ、ただ純粋にレオのことを愛しているから、彼のそばにいた。泉の気持ちにも、ふたりの関係性にも、名前などつけられないのだった。
 卒業後すぐに上京し、泉とレオは、さほど広くない郊外のマンションの一室で暮らし始めた。  レオから手渡された部屋の鍵は冷たかった。握りしめているうちに温まって、金属独特の匂いが右の掌に染み付いてしまったけれど、それさえも気にならなかった。 「一緒に、暮らそう」 泉に拒否権など最初からなかった。いつもそうだ。声色も言葉も優しいのに、その瞳に宿された光に、泉はいつも逆らえなかった。  一緒に食事をし、風呂に入り、ダブルサイズのベッドに潜った。  たまにセックスもした、次の日がオフでも、オフじゃなくても。レオが泉の背筋や頸に指を這わせるのは、しよ、という言葉の代わりだったし、たまに泉から誘うこともあった。  レオは、泉をほぐすように優しく抱いたり、肉食獣のように激しく抱いたりもした。彼はキスもセックスも上手だったが、途中で曲を書き出すのはさすがに勘弁してほしかった。  その頃が、一番幸せだったのだと、今になって気づく。  二年前のある寒い冬の日の朝、レオは忽然と、泉の前から姿を消したのだった。  同じベッドで寝ていたはずのレオの姿はなく、彼の服も、靴も、食器も楽譜も消えていた。窓の外で降る雪がコンクリートの地面に触れる音が聞こえそうなほど静まり返った部屋に、心臓がドクドクと脈打っている。  スマートフォンを手に取ると、その液晶画面に『留守番電話に一件のメッセージがあります』という通知が浮かんだ。発信元は非通知だった。恐る恐るそれをタップし、音量を上げる。  機械的な音声案内の後に、ピー、と甲高い音がなる。少しの沈黙、そして、微かな雑踏と、聞き慣れた声がスピーカーから溢れてきた。 「……セナ、急に出ていって���めん。でもいつか、この関係も終わりにしようと思ってた。セナも、その方がいいだろ?ごっこ遊びはもうおしまいだ。おまえとはもう会わない。じゃあな、元気で」  メッセージの終了を告げる機械音が鼓膜を震わす。  冷たいスマートフォンを握ったまま、泉は身動きできなかった。  そのメッセージは、つまり、ふたりの間にあった関係に終止符を打つもので、レオはあっさりと泉の傍を離れてしまった。昨晩だってあんなに優しく泉を抱いたのに、所詮それは演技にすぎなかったのだ。そんなことを信じたくないし、信じてもいないけれど、ただ、レオがふたたび泉のそばからいなくなってしまった、ということだけが事実として残った。  いつから、どうして、という疑問が浮かんでは消える。そんなの直接言いなよ、という怒りを覚えて、どこが悪かったの、と問い詰めたくなる。  ————ちゃんと愛してるってれおくんみたいに言葉で伝えれば良かったのかな。きっと、俺の愛は、れおくんに、伝わってなかったんだ。  悲しみも怒りも虚しさも悔恨も、すべてをぐちゃぐちゃに掻き混ぜてできた感情が喉の奥から迫り上がり、泉はベッドに飛び乗って枕に顔を埋めた。涙と嗚咽がひとりの部屋に響いたのが、滑稽で、無様で、哀しくて、泉は声を押し殺して泣いた。  レオのいない部屋はひどく寒くて広く感じた。  ふたりぶんのうち、ひとりぶんが消えた。  レオがいなくなってしまった。  実感が湧かないまま、食事も取らずに仕事に没頭していた。あっという間に減っていった体重にも、なんとも思わなかった。  そして、とうとう撮影現場のスタジオで倒れた。その頃のことはよく覚えていない。ただ、目を覚ますと楽屋のソファーに横になっていて、そばにはカメラマンの男がいた。 「気がついた?」 その優しい声色に、勝手にレオを重ねていた。  だからその出来事の数日後、一緒に洒落たバーに行ったとき、告白されて嫌な気はしなかった。いいよ、とだけ返事をした。  彼の住むマンションは都心にあり、主に泉の撮影現場となるスタジオにも近かったため、ほとんど同棲状態になった。  彼は写真の腕ももちろん、優しく紳士的で、料理もキスもセックスも上手かった。  それでも、レオを失った虚しさはいつもどこかにあった。泉はたびたび留守番電話に残された彼の声を聞いた。  いなくなったあの日から、レオのスマートフォンに何度も電話を入れた。しかし、聞こえるのは無機質な自動音声だけだった。  カメラマンの男といても、考えるのはレオのことばかりだった。  れおくんだったらもっと乱暴にしてくれるのに、優しくしてくれるのに、笑い飛ばしてくれるのに。  触れ合う肌がレオのものより冷たいことに、泉は泣きたくなった。  泉が求めているのは、レオだけなのだ。
 カメラマンの男と付き合い始めて二ヶ月。運の悪いことに、彼と一緒にいるところを同じスタジオにいた凜月に目撃され、強引に個室のあるレストランに連れて行かれた。  赤ワインとトマトサラダを頼み終え、店員が個室から出て行くと、凜月は泉に向き直った。 「……あのカメラマンと付き合ってんの?」 凜月は心底嫌そうな顔をしながらそう訊いた。そうだよ、と答えるとますます嫌悪感を露わにした。 「『王さま』はどうしたのさ。最近急に見てないし連絡も来てないけど」 先ほどとは違い、泉を咎めるような声ではない。 「……その呼び方よしなよ」 「あぁ、ごめん。もう大人だもんね、じゃあ、れおくん」 本当に意地の悪いガキだと思いながら、目の前の男を睨む。ほら、と凜月が促したところで店員がやってきてグラスと赤ワインのボトルを一本置いていった。  凜月は黙って二つのグラスにワインを注いだ。その色は、凜月の瞳と同じだった。 「……れおくんが、」  この先の言葉を、続けたら。そう考えると唇が震え、喉が締め付けられ、声が出なかった。  言って、と凜月が柔らかな声で宥めた。泉はグラスを傾けて、アルコールを胃に流し込んだ。それを終えたと同時に、 小さな声で絞り出すように呟いた、 「……れおくんが、いなくなった、」  大きく息を吐くと、アルコールの匂いが嫌でも分かった。  凜月は、真紅の瞳を泉に向けた。 「探さないの、」 そう言いながら、泉のグラスに赤ワインを注ぐ。それをまた飲み干す。だめな飲み方だと分かっていても、身体がアルコールに頼ってしまう。 「……探してる、けど、」 泉の言葉の続きを凜月は求めなかった。代わりに、泉を見つめて目を細めた。 「またおんなじこと繰り返すの? もういい大人なのに?」 「大人だから、しょうがないこともあるでしょ」 「『王さま』に会いたくないの、」  ふたたびグラスを手に取ろうとしたとき、一気に酔いが回った気がして、胃の奥から何かがせり上がってくる感覚がした。口元を押さえた泉に、凜月は、げ、と顔を引きつらせ、慌てて泉を立たせてトイレへ向かう。  個室に駆け込み、泉は空の胃から吐き出した。 「ほんっと、今日のセッちゃん、チョ〜うざい」 トイレのドア越しに凜月の声が聞こえた。
 スマートフォンのアラームで起こされる。目を開ければ、下瞼の縁に沿って、一滴の雫が流れた。それに気づいて、慌ててそれを手の甲で拭う。  さきほどまで見ていた朧げな幻を思い出そうとする。五人で籠城していた学院内のスタジオ、その窓から射し込む淡い夕焼け色の光が彼の頰を照らしていた。その首に手編みのマフラーを巻いてやれば、彼は嬉しそうに笑って、なにか口にした。その声を思い出そうとしても、懐かしい夢は淀んで消えていく。  寒さに身を縮めながら、ベッドから身を起こす。窓の外では粉雪がちらちらと舞っていた。  レオは、渡り鳥のように、どこか暖かい場所に向かっただろうか。ひとりで冬の寒さに凍えていないだろうか。  温かいココアでも作ろうとお湯を沸かす。やかんが鳴るまで、寒さに鼻を赤く染めた夢の中の彼のことを考えていた。
5
 ゲイバーらしからぬ外観には、電飾が増えていた。開け放たれたドアからは大音量のクラブミュージックが流れてくる。  ヘアアイロンをかけてまっすぐになった髪を流し、薄く色づいた縁なしサングラスを掛けていれば、スキャンダルに発展することもないだろう。黒いシャツの上にはファーコートを羽織り、ボルドーのベロア素材のパンツを合わせた普段しないような格好だから、なおさら。  腕を組んだレナードは、長髪をひとつにまとめたためか、幾分大人っぽく見えた。服装はTシャツに薄手のパーカーと革製のジャケットを重ね、ダメージジーンズに厚底のブーツ。泉の見立ては間違っていなかったらしく、よく似合っている。 「恋人らしく、って言っても、おまえは普通にしてていいから」 と言いながら、彼が泉の腰に腕を回す。普通でなんかいられるものか、と思いながら、緊張が伝わらないように頷いた。
 なぜ泉がゲイバーのパーティーに来ているのか、もちろんレナードの誘いだった。  出会ってから、ふたりは友人として距離を縮めていた。一緒に食事をすることはもちろん、買い物をしたり、レナードが好きなジャズの店に行ったりもした。  数日前、衣装合わせの終わりにスマートフォンを確認すると、レナードからメールが入っていた。  『二十時に俺の店に来れる?』 そのメッセージに泉は躊躇うことなく、 『分かった』 とだけ返事をした。  泉の方が先に席に着いていると、レナードは申し訳なさそうな顔をしながら、エプロン姿でやってきた。 「ごめん、ちょっと打ち合わせが長引いて」 「打ち合わせ?」 泉がそう聞き返すと、レナードはジャケットを脱ぎながら頷いた。 「来週の週末に、あのバーでパーティーを開くんだ」 「パーティー?」 「そう。開店五周年祝い。歌って踊って一晩中飲み明かす、ってわけ」 「へぇ……」 「だから頼みたいんだけど、おれの恋人役してくれない?」 だから、が意味をなさない脈絡のない頼みに、泉は眉間にしわを寄せた。 「……なんで?」 「実はさぁ、ひとりの客からすごいアタックされてて。おれはバイだけど、誰でもいいってわけじゃないからさ、恋人がいるって嘘吐いてはぐらかしてるんだよ。でも今回のパーティーは恋人がいる奴は、その恋人を連れてくるっていう暗黙のルールがあってさぁ、困ってるんだよね」 「嘘吐くあんたが悪いでしょ、それは」 「分かってる、分かってるけど……! このままだと俺の貞操が危ないんだよ!」 だったらゲイバーのアルバイトなんて始めなきゃ良かったのに、と思いながらも、彼に恩を感じていないわけではない。だから、 「しょうがないなぁ」 と肩を竦めて承諾してしまうのだった。  レナードは、 「ありがとう、イズミ」 と嬉しそうに言いながら、メニューに手を伸ばした。
 店に入ると早速レナードは声を掛けられた。女装した男たちだった。 「Wow! Is he your boyfriend?(そちらがレナードの恋人?)」 「So cute!(やだ、可愛いじゃない)」 その言葉にレナードは笑って、そうだろ、と流していた。  彼女ら(と言うべきなのだろう)の横を通り過ぎて、レナードが誰かを見つけたらしく、足を止めた。 「俺、オーナーに挨拶してくるから、そこのカウンターに座って待っててよ」 と言われ、レナードは出入り口のドアの横へ向かって戻っていく。泉は彼の指示通り空いている席に座ってカウンター越しに、バーテンダーにアルコール度数の低いサワーを頼んだ。  差し出されたそれをちびちびと飲みながら、辺りを見渡す。ゲイじゃなくても入れるこの店は、多くの男女で溢れていた。ダンスフロアではDJを囲み、アルコールに酔った人々が曲に合わせて踊っていた。壁に背中を凭れて酒を飲みながら楽しそうに談笑している人々も多い。隅では、ゲイのカップルがキスを交わし、周りの友人たちから���やかされて恥ずかしそうに、しかし幸せそうに、はにかんでいた。  自由に踊り、笑い、キスをする彼らが羨ましかった。大事な人とこんなふうに一緒に時間を過ごせることほど幸せなことはないと、泉はもう知ってしまっているから、余計にひとりで心細くなった。  ハァイ、と声を掛けられて振り返った。背の高い細身の男が、グラスを片手に人好きのする微笑を浮かべていた。 「Is the seat free? (ここ、いいかな?)」 と問いながら、泉の返事を待たずに隣の椅子に腰掛ける。 「Did you come alone today? (ひとりで来たの?)」 「No.(いえ)」 首を横に振りながら答えると、彼はグラスの中のワインを一口飲み、それからまじまじと泉を見た。 「Are you Japanese? You’re very beautiful.(君は日本人? とっても綺麗だ)」 それが分かりやすい口説き文句だとすぐに理解できた。サンキュー、と愛想笑いをしながら、目だけでレナードを探す。彼の貞操を守るどころか、これでは自分の貞操が危うくなりそうだ。  実際、彼は既に相当アルコールを摂取しているらしい。香水に混じって酒の匂いがするし、目尻は赤く染まっている。彼が何か言ったが、泉は聞き取ることができなかった。気づけば、彼の手が泉の耳に伸びる。こういうとき、何と言ったらいいか分からない。  彼の腕を掴もうとしたところで、後ろから声がした。 「Keep your hands away from my sir.(おれのツレに手ぇ出すなよ)」  振り返れば、煙草を唇から離して白煙を吐くレナードがいた。目の前のイギリス人は驚いたように目を見開いて、優しい声色で言った。 「Such a beautiful sir is yours?(レナードのツレ? こんな綺麗な子が?)」  どうやらこの店の常連客らしい。レナードは呆れたように、悪いかよ、と答えていた。  彼は不機嫌な顔で近くにあったカウンターの上の灰皿を引寄せて無造作に火を消して、泉を見た。その目がこちらに来い、と言っていた。泉が立ち上がって近づくと、腰に腕が回され、耳元で囁かれる。 「ごめん、キスさせて、」 驚いて彼から離れようとしたが、さらに身体を引かれて泉は顔をしかめた。 「どうしてそこまで、」 「こうでもしないと、あいつ、おまえを犯しかねないんだよ、」  その言葉は間違ってはいない。溜息をひとつ、いいよ、と言い終わらないうちに唇を塞がれた。  レナードは泉の腰にあった腕をほどき、今度は首の後ろに回した。  泉が柔らかな感触に驚いて唇を閉じ切らなかったのをいいことに、彼は乱暴に舌を入れてきた。熱と重たい煙草の味が、泉の理性を溶かしていく。泉が苦しげに鼻から息を吐けば、彼は時折唇を離し、また重ねてきた。そのたびに、透明な糸が切なげにふたりの唇の間で光る。 「ん、」 思わず声が漏れ、体温が上がっていくのがわかった。いつの間にか周りの人々が観衆となっていた。彼らの冷やかす歓声と大音量のクラブミュージックで満ちているから、周りの人々には聞こえなかっただろう。  しかし、目の前にいる男は違う。  さらに泉を攻め立てる。首に回った右手は頸をなぞり、そして耳裏に触れた。左手はシャツの裾から入り込み、背中を這う。硬い指の腹は、まっすぐな背筋を辿っていく。  薄目を開ければ、彼は緑色の瞳を満足気に細めていた。その表情に悔しくなって、泉も反撃の一手に出る。  彼の細い腰に回していた手を離し、シャツの隙間から露わになった鎖骨に触れる。間の窪みを押せば、彼は興奮し切った瞳で泉を見た。  熱を持ったその肌に、舌に、眼差しに、泥酔した気分になって、腰が砕けそうだ。下腹部が限界を訴えて痛む。  泉は彼の胸元を軽く叩いた。  彼は、薄い唇の端から垂れた、もはやどちらのものか分からない唾液を拭った。その指先が、あまりにも扇情的で。 「……イズミ、来い」  手首を掴まれ、泉の返答を待たずに歩き出す。周りの男たちは楽しそうに笑い、手を叩き、そしてグラスを空けた。 「It’s getting hot here!(お熱いねぇ!)」 観衆のうちの誰かの冷やかす声を背中に受けて、ふたりは賑やかな狭い店を足早に出た。  レナードが連れてきたのは、裏口を入ってすぐ横にある、従業員用のトイレだった。タイルの壁や床には汚れが残っていれば、使用期限の切れた芳香剤が汚い便器の横に転がっている。それでいて窓はなく、低い天井の小さな換気扇が音を立てて回っていた。  レナードは後ろ手で鍵を閉め、変わらず熱っぽい瞳で泉を見つめた。 「……野次馬の中に、例のやつもいた」 「あんたのことを好いてる人?」 「あいつ、諦めはいいから、もう大丈夫」 我慢できない、というふうに彼が泉を引き寄せる。それを制止しながら、泉は彼を見つめる。 「俺の貞操の方が危うくなるところだった」 「うん、ごめん、ひとりにして、」  レナードの指が泉の唇の輪郭をなぞる。 「……キスしてるときも綺麗だ、」 「当たり前でしょ」 きっと、自分も同じくらい熱のある眼差しを彼に向けてしまっているのだろう。興奮し切った身体は、自分自身で制御できない。  彼は、今度は優しく啄ばむようにキスをしてきた。いじらしくなって、思わずその腕を引いた。  まるで、レオとキスしているかのようなのだ。容姿も、キスの仕方も、そっくりで嫌になる。ただ、こんな苦い味はしない。彼は煙草を吸わなかった。 「……泉、」 彼の手が泉の腰を撫でた。 「したい、」 まっすぐ向けられた視線に侵食される。目の前にいる男が、月永レオにしか見えなくなって、縋るように彼を抱き締めた。 「……俺も、」
 ゆっくりと意識が浮上し、泉は瞼を持ち上げた。冬の朝に相応しい寒さに、泉は布団を引き寄せた。  昨晩隣で寝ていたはずのレナードの姿はない。腕を伸ばしてスマートフォンを引き寄せれば、その液晶画面には午前九時を示す数字が浮かんでいた。  上半身を起こしてから後悔する。ずきずきと腰が痛み、目を伏せた。  昨晩、レナードは泉を慰めた。トイレでキスをしただけなのに、泉の足腰には力が入らなかった。レナードは呆れたように、けれど欲情に満ちた目を、黙って細めた。泉を軽々とおぶり、バーからさほど離れていない彼の部屋に向かった。  暗がりの中、レナードは服を脱がなかった。最初はそれをずるい、と思った。隣室から壁を叩かれもした。しかし、すぐにそんなことはどうでも良くなって、泉は快感によがった。お互いを擦り合わせるだけでも、死んでしまうのではないかと思うほど、気持ち良くて、ふたりは大きく息を吐いて同時に果てた。あのときの、彼の濡れた瞳が脳裏に浮かんで、腰とはまた違う場所が微かに痛んだ。  バスルームからは水が弾ける音がする。昨晩、行為の後に泉がシャワーを借りて脱衣所から出ると、彼はそのままベッドで寝ていた。泉より早く起きて、身体の汚れを落としているのだろう。  獣を連想させた瞳は伏せられ、寝顔は少し幼くて、あまりにも、彼に似ていた。  それを思い出して、泉は柔らかな毛布に顔を埋めた。  レナードは、レオじゃないのに。 「……ごめん、」 小さく呟いた言葉は、冷たい空気に吸い込まれて消えていった。
6
 泉とレナードが身体を重ねたのは、あのパーティーの夜だけだった。その後、レナードも泉もお互いを求めはしなかったし、泉の方は求めてはいけないような気がしていた。  レオは他の誰でもないのに、他人のどこかにレオを重ねようと必死に足掻いて、寂しさを埋めようだなんて、レオに、重ねられる彼らに対して、あまりにも不誠実だと気付いているから。  月永レオはただひとりであって、その代わりなどいないのだ。
 パーティーの三日後の夜のことだった。その日は日暮れから雨が降り出し、夜が更けるにつれて雨脚は強まっていった。  十一時を回った頃、チャイムが鳴った。マネージャーだろうか、と思いながらドアスコープを覗くと、濡れ鼠になったレナードがいた。  慌ててドアを開けると、 「Good evening.」 彼はへらっと笑った。 「なんで傘差してないの」 「途中で折れたんだ。その上飛行機は欠航だよ。もちろん部屋も引き払っちゃったし、空港に寝泊まりするのは嫌だし……だから、な、泊めてくれよ」 彼の右手には大きなスーツケースがあった。どうやら本当に飛行機に乗ってロンドンを発つつもりだったらしい。髪の毛先やコートの裾からぽたぽたと水滴を垂らすレナードを訝しげに見ながら、他の住人が外廊下を歩いていった。 「……分かった、いいよ」 そう答えれば、ありがと、と彼は笑い、シャワールームへと直行した。  新品のバスタオルと自分のパジャマを脱衣所に置いといてやり、彼の濡れた服を洗濯機に突っ込んだ。  熱い湯を浴びた彼は、髪を乾かしながら泉に話し出した。 「母さんの具合が悪くなったから、実家へ帰るよ」 「……ロンドンには、もう帰らないの」 「うん。元々こっちに来ること、反対されてたから」 長い髪はドライヤーの熱風に晒され、乾いて靡いた。 「だから、おまえと会えるのも今日で最後だ」 「別に、スマホがあるから連絡なんかいつでも取れるでしょ」 「……うん」 ドライヤーの電源を切って、彼は寂しそうに笑った顔を泉に向けた。  ベッド使っていいよ、と言ってソファーで眠ろうとすると、腕を引かれてベッドに連れていかれる。彼は壁際に寄って、 「いいじゃん、一緒に寝れば」 ほら、と空いたスペースを手で叩いた。 「あんたのベッドじゃないけどねぇ」 という文句を言いながらも、泉はおとなしくベッドに潜った。 「人肌が恋しいんだよ」 「よく言うよ」 「本当だよ。おまえと離れるのが寂しい」 レナードは泉を見つめた。その眼差し���、泉は���を逸らす。 「それ以外はしないから、抱きしめてもいい?」 静かな声に、泉は黙って頷いた。彼は泉の背中にそっと腕を回した。その温もりと重さに、泉は唇を噛んだ。 「おれと、おまえの大事なひとが似てるって、言ったじゃん」 「そうだねぇ」 出会ったあの日、そんなに似てる? と言った彼の表情が脳裏に浮かぶ。 「……イズミは、そいつのことが好きだったのか?」 レナードはそう訊いた。泉は寝返りを打ち、彼に背中を向けて答えた。 「愛してる」  レナードは、エメラルドの双眸を瞠り、そうか、とだけ返事をした。泉は、うん、とだけ言った。そのあとは、ふたりとも、もうなにも言わなかった。  窓の外、雨が地面を打つ。その音を包み込むように夜は深まっていく。目を閉じれば、背中越しに彼の鼓動が聞こえた。
 目を覚ますと、レナードの姿はなかった。ベッドには彼の分の温もりが残っている。  今頃、空港に向かっているのだろう。何時のフライトか聞き忘れたことを後悔しながら、泉はベッドから出て、キッチンへ向かった。  ペットボトルのミネラルウォーターを飲みながら、ふと、ダイニングテーブルに目をやった。  その上に、マフラーがあった。赤い毛糸で編まれたそれに、泉は、まさか、と思いながら手を伸ばす。  編み方から、手作りだと分かる。端の方に、小さな王冠のワッペン、金色の糸で、"L.T"のイニシャルが刺繍が施されていた。  間違いなかった。そのマフラーに顔を埋めた。懐かしい匂いに泉は目を閉じた。  ————ありがとな、セナ!  思い出すのは、さきほどまで隣で眠っていた男ではない。  ぱっと顔を上げて、泉は素早く着替えてコートを羽織った。スマートフォンを引っ掴んでマネージャーに、 『体調が悪いから打ち合わせは俺抜きでやっておいて』 とメールを送っておく。マフラーを手に部屋を出て、タクシーに飛び乗った。
 空港は、相変わらず多くの人で溢れていた。クリスマス休暇を使ってロンドンへ来る人、ロンドンから他国へ出る人が多いのだろう。  そんな人混みを縫うように泉は走った。  搭乗を知らせるアナウンスと雑踏、売店から流れるBGMのクリスマスソングが入り混じっている。  もう飛行機に乗り込んでしまったかもしれない。どこの国へ行くのかも聞かなかったから時間も分からない。  出るとは思わなかったが、彼の番号に電話を掛けた。自分のスマートフォンから呼び出し音が虚しく聞こえる。  留守番電話にメッセージを残そうと思った————その時だった。  近くで誰かの携帯電話が鳴っているのが聞こえた。  その着信音は、彼のスマートフォンのものと、同じだった。  ぐるりと周りを見渡した。  人々が身に纏う服の色がやけにくすんで見え、動きもゆっくりに見えた。今まではっきり聞こえていた音も遠ざかる。  泉の視線の先、揺れる赤毛が見えた。  人混みの中、異様な存在感に泉は息を呑む。  泉は無意識のうちにふたたび駆け出した。 「待って!」 そう叫べば、周りの人々が驚いたように泉の方を見て、また素知らぬふりして、スーツケースを引っ張りながら歩いていく。  彼は振り返らずにすたすたと歩く。聞こえてるくせに、そう思うと泣きたくなって、大きく息を吐いた。
「待ってよ、ねぇ、……れおくん!」
 震えた声に、赤毛の男が立ち止まった。  彼に追いついた泉は、その腕をぐい、と強く引いた。  振り向いた彼が、は、と小さく息を漏らした。  ゆらり、とエメラルドの中の光が揺らぐ。  それは、泉の姿だけを映していた。  空気に晒された細い首に、そっと、赤いマフラーを巻いてやる。 「……こんなの、まだ持ってたの、」 震えた声でそう問えば、張り詰めていた緊張が解けたように、彼は、優しく笑った。  泉の大好きだったそれが変わっていないことに、堪えていた涙が零れて頬を伝う。
「……大事な、おまえとの思い出だから」
 ずっと、この日が来るのを願っていた。  セナ、と呼ぶその声を、ずっと、ずっと聞きたかった。  間違いなくそれは、レオのもので。  強く腕を引かれ、抱き竦められる。背中に回された腕も、顔を埋めた肩も、泉の頰に触れる赤毛も、ぬくい体温も、ぜんぶ、ぜんぶレオのものでしかなかった。 「……二年間、おまえのことしか、考えてなかった、考えられなかった」 「うん」 耳元で囁かれる言葉に、上手く返事ができない。涙がレオのコートの肩を濡らす。 「ひとりにしてごめん、勝手にいなくなってごめんな」 「……ほんとだよ、バカ」 「愛してる、愛してるよ、セナ。もう、いなくならないから、離れないから、おれと、一緒にいて、おれの、傍にいて……」 レオの声も、肩も、震えていた。彼の背中に両腕を回し、力を込めた。彼がもうどこかへ消えてしまわないように。 「うん、ずっと一緒にいる、もう二度と、離れないから」  涙で濡れた声を絞り出す。 「……ずっと、れおくんを、探してたよ」
7
 二年前の、クリスマスも近い夜だった。街は煌びやかなイルミネーションで飾り立てられ、浮かれたクリスマスソングと人々のざわめきで満ちていた。  レオと泉は久々にオフが重なり、レストランで食事を取ることにした。  ふたりは向かい合って、美味しいディナーとワインを嗜みながら、他愛の無い話をした。  泉は、以前テレビ局の廊下で偶然会ったらKnightsで集まりたいと駄々を捏ねられたこと、クラスメイトだった千秋が特撮の主演に選ばれたこと、今度UNDEADのライブに凜月と行くことになったこと、自分がブランドの広告塔に抜擢されたこと、などを楽しそうに話した。レオは、適度にお酒が入ると饒舌になる泉を愛おしく思いながらそれを聞いた。  店を出る頃、夜は静かに深まっていた。紺色の艶やかな空には、白い星々が人工の光に負けないようにと明るく光っている。南にはオリオン座が一際輝きながら浮かんでいた。  泉は、お気に入りのコートのポケットに両手を入れながら、寒そうにレオの半歩前を歩いていた。 「セナぁ、」 と呼べば、 「なぁに、」 と少しだけ火照った顔をレオに向けた。ワイン数杯で十分酔った泉はあまりにも無防備で、今すぐに食べてしまいたい、と思った。だから、その首の後ろに腕を回してキスをした。サングラスの下、彼が驚いたように目を見開いたのがわかった。 「……外だよ、」 「誰もいねえじゃん」 「そういう問題じゃ、」 ないでしょお、と文句を言おうとしたその口を再び塞ぐ。下唇を噛んでやれば、期待を含んだ濡れた眼でレオを見つめた。たぶん、ここからホテル街が近いのを、泉も知っている。 「……セナ、行くぞ」 泉はなにも言わない代わりに、繋いだ右手に少しだけ、力を込めた。  あの時の温かい手を、今でもレオは忘れていない。
 その数日後のことだった。  打ち合わせが終わり、スタジオを出たレオは、ロビーのソファーに座っていた男に呼び止められた。 「……月永レオくん、だよね?」 「そうだけど、」 と立ち止まって答えれば、レオの前に立った彼は名刺を差し出した。そこには、名前と職業が印字してあった。それを見て、あ、と思った。  泉が仕事で世話になっているらしいカメラマンだ。泉と一緒にいるのを見かけたことがあるし、泉からも度々話題が出るので、レオもなんとなく覚えていた。  どうも、と名刺を受け取りながら、背の高い彼を見上げる。彼はにこり、と微笑んで言った。 「折り入った話があるんだ。あまり人に聞かれたくないから、会議室を借りた。そこで話せるかい?」  レオは、嫌な胸騒ぎを抑え込むように黙って頷いた。  小会議室に入ると、彼は丁寧に内鍵を掛けた。  そして、カバンから取り出したのは一枚のプリントだった。怪訝そうな顔をするレオをよそに、彼は見開きページを開けて、レオの前に差し出した。  画質のいい写真数枚と、大きな見出し、そして記者が書いた文章が並んでいた。  それに、レオは思わず息を呑んだ。 「こ、れ……」 その写真には泉とレオが路上でキスをしたり、手をつないだりしているところがはっきりと写っていた。 「週刊誌の原稿だ。まだ印刷も発売もされる前のものだよ」  服装や場所からして、先日、ふたりで夕食を食べた後のものだ。 「その反応は、間違いないってことだよね?」 男は真剣な瞳でレオを見つめた。沈黙を肯定と受け取った男は、写真を一瞥する。 「僕は、この写真を撮った男の弱みを握っている。僕の力でこれを揉み消すことができる」 は、と顔を上げたレオに、男は優しく微笑んだ。 「……君が条件を飲むなら、ね」 その低い声に、レオは、全身の筋肉が強張るのが分かった。 「……条件って、なんだよ」 「なに、そんな身構えなくていい、簡単なことさ」 男は優雅な手つきで煙草を咥え、その先にライターで火をつけた。 「瀬名泉と別れろ」  突きつけられた言葉を瞬時に理解できなかった。ただ、言葉がひとりでに溢れる。 「どうして、」 「どうして、だって? 分かるだろう、この記事はそのまま来週の週刊誌に載るよ。メディアに取り上げられ、未だ同性愛に厳しい世間は大騒ぎだ。フリーで活動する君とはちがって、唯一無二の宝石のようなイメージを持たれている瀬名泉にとって、このゴシップは大ダメージだろう」 口を開きかけたレオの言葉を遮るように、彼はまくし立てる。 「加えて、君の母校にとっても。同じユニットメンバーだった後輩が、まだ在籍中だろう?きっと彼も被害を被るさ。君らのせいでね」  その言葉に、真新しい衣装をまとった司の姿が脳裏に浮かんだ。  泉は、司のことをよく気にかけていた。どこまでも面倒見が良い男は、弟が心配なのだろう。レオにもその気持ちがわかる。  まだ長い煙草が、灰皿に押し付けられた。彼は追い討ちをかけるように、にこりと微笑を浮かべる。  その表情には、冷徹さしか感じない。 「君のせいで、瀬名泉は穢れるのさ、月永レオ」  どくどくと心臓が脈打っている。喉を絞められているかのように苦しい。  れおくん、と呼ぶ彼の姿が瞼の裏に浮かぶ。  有名なブランドの広告塔に選ばれたんだよねぇ、と言いながら見せた、昨晩の嬉しそうな表情。  店頭に並ぶ、彼が表紙を飾った多くの雑誌。  群青のブレザーを纏い、かつての仲間を睨む瞳。  ————あのとき、彼は泣いていた。  おれが、セナを汚してしまった。  あの赦されない罪を、また、ふたたび、おれは繰り返してしまうのか。  レオは、記事から目を離し、目の前の男をまっすぐ見据えた。 「……分かった」  別れるよ。  そう告げると、男は満足そうに目を細めた。
 泉の部屋に帰ってきて、レオはベッドに腰掛けて、二年前のことを話した。そしてその後、泉のスマートフォンに留守番電話を残して、日本を出たのだ、と。  泉は、呆然と、レオを見つめた。 「あのとき、酷いこと言って、ごめん。おれ、けっきょく昔と変わってなかったんだ。おまえのことが大事だからって、セナを傷つけるような道を、選んで、おまえを、傍で守り続けられなかった、離れることしか、できなかった……なぁ、セナ、ごめん、ごめん……」 ぽろぽろと溢れる涙は、宝石のように美しく、哀しい光を放った。その煌めきを一粒一粒、零さないように泉は指で拭う。 「……泣かないでよ、れおくんは悪くないでしょ。あんたは俺を守ってくれたよ。寂しかったけど、でも、でもこうして、またちゃんと会えたから、ねえ、れおくん、もういいよ、だいじょうぶ、だいじょうぶだから、」 言葉を紡げば紡ぐほど、涙が溢れ出してきた。いずみ、と呼ばれて、涙で濡れた頰をレオが撫でる。  彼の瞳に映った自分は、見たことのない、みっともない顔をしていた。でも、今なら言える気がした。 「……もう、二度と離れないで、」 ずっと、言えなかった。言葉にしたら叶わない気がしていた。けれど今なら。  レオの小指が、泉のそれを絡め取る。 「約束する」  本当に? と訊けば、キスをされた。熱い唇が離れていき、は、と吐いた息が混じり合う。 「……今の、誓いのキスな」 レオが紡ぐありきたりな言葉に、泉は笑った。
 レオが慣れた手つきで泉のシャツのボタンを外していく。 「……いつからこっちにいたの」 「おまえと別れてすぐ」 細くくびれた腰をレオの指がなぞり、思わず声が漏れた。 「で、学生時代知り合ったやつがあのバーで働いてて、そのツテでバイトさせてもらえることになったわけ。ゲイバーって思ったより危険でさぁ、おれは何度ケツを狙われたかわかんない」 「……したの、」 「してないって」 「うそ」 「セナこそ、あの変態カメラマンと何回もしたんだろ」 言葉に詰まった泉を、レオは冷たい目で見下ろした。自分の被虐心を許しそうになってしまうその目線に、泉は息を吐いた。  レオは、泉が一番触ってもらいたいところには触れず、胸元に唇を寄せる。 「おれ、あの後スランプにも不能にもなってさ。おまえとバーのトイレでしたときに治ったんだよ、両方」 「ば、バッカじゃないのぉ!?」 と絶叫すれば、レオは舌を這わした。 「や、ァ、それ、やだ……っ」 泉は羞恥に自分の顔を覆った。レオの長い指が、泉が履いたパンツのジッパーを下げ、下着を脱がす。  おれさ、という声がいつもより低く聞こえて、心臓が痛いくらいに脈打った。そっと目を開けば、劣情と興奮を混ぜた色の捕食者の瞳が泉だけを見つめていた。 「おまえにしか興奮できないんだよ、セナ」  反らした首筋に優しく噛みつかれ、泉ははしたなく嬌声を上げた。レオは満足げに目を細め、今度は歯型が残るほど、強めに噛まれる。  レオの汗が泉の鎖骨に落ち、泉のものと混ざっていく。  あちこちに紅い痕が浮かぶ身体を捩れば、強い力で押さえられ、身動きが取れなくなった。  肩で息をしながら、泉はレオを睨んだ。 「明日、撮影なんだから、さぁ……!」 「二年越しのおれとのセックスと、毎日してる撮影、どっちが大事なんだよ!?」 と凄まれて、 「……れおくん、」 と答えてしまった泉の自業自得だ。明日、現場でなんと言われるか分からない。  しかし、あっという間にそんなこともどうでもよくなる。  触れる汗ばんだ肌はレオのものでしかない。その汗の匂いも、獣じみた深緑の瞳の光も、二年前となんら変わっていなかった。舌は煙草の味がするし、苦しそうに眉を寄せるその表情は、少し大人びたかもしれないけれど。 「あの後、おまえが、あんな男とセックスしてたとか本当にムカつく!」 あんな男、とは、あのカメラマンしかいない。 「俺だって、自分に、腹が立って、る!」 「ねぇ、あいつと何回した? どういうふうに抱かれた?」 「思い出させないでよ、萎える、」 「おまえの口から萎える、とか聞きたくなかった、な!」 「あっ、ちょ、ばか……っ」  意地の悪い目に、背筋が震えた。 「おれとのが、気持ちいいだろ、セナ」 彼の首の後ろに両腕を回して引き寄せ、キスを求めれば、レオはそれに応えた。 「……れおくんがいいに、決まってるでしょ」  それからは、泉にも、レオにも、余裕などなかった。  泉は抵抗さえできず、ただよがって喘いだ。  レオは満足そうに舌舐めずりをし、薄い唇で泉の肌に口付け、強く吸った。そのとき、わざとらしく立てられる、ぢゅ、という音と、レオの熱い吐息を、敏感になった耳が捉え、その毒が全身に回っていく。  長い赤髪を、形の良い耳にかけてやった。彼は、まだ涙の跡が残ったままの、上気した顔を綻ばせた。 「いずみ、好き、愛してるよ」 「俺も、」  愛してる、と答えたと同時に、ふたりで果てた。
 目を覚ましてから、二年越しではなく、三日ぶりじゃないか、と冷静な頭が気づいた。  あぁ、でも、彼はレナードとして泉を抱いていたから、れおくんとのセックスは二年ぶりで正しいのかなぁ、なんて思いながら、隣で眠る彼の頬を撫でた。薄い瞼が震えて、ゆっくりと彼が眠りから覚醒する。微かに揺れたエメラルドが泉を映す。 「……セナ、」  そう呼ばれて、泉は、は、と短く息を吐いた。  何もかもを投げ出してしまいたい。ここから何処にも行きたくない。このままこの瞬間が続けばいい。そう、願った。  気づかぬうちに、涙が頬を伝っていた。レオの指先がそっとそれを拭い取る。  その優しさに、泉は目を閉じて、彼の胸元に頭を押し付けた。レオは黙って、その首の後ろに腕を回す。 「もう、おれ、どこにも逃げない。何があっても、誰が邪魔しても、セナのそばで、セナを愛し続けるよ」  顔を上げた泉の唇に、レオは優しくキスを落とした。 「もう泣くなよ、今日、撮影なんだろ?」 「うん、」 「何時から?」 「夜の六時」 「分かった。朝メシ、食べれる?」 泉が頷くと、彼は裸体を起��した。しなやかな筋肉のついた背中に、いくつもの自分の爪の痕を見つけて体温が上がった。  ふと自分の身体を見下ろせば、至るところに唇の跡が紅く残っていた。腹や背中、脚は百歩譲っていいとしても、腕や手首など人の目線に晒されるところにもお構いなしだ。 「れおくんのばか」 と言えば、ベッドから降りたレオが、え〜?と悪戯っぽく笑う。反省の色など微塵もない。 「だって気持ちよかったじゃん?」 そう言い放った彼に、泉は枕を投げつけた。  レオは慣れた手つきで朝食を作ってくれた。トーストに焼いた目玉焼きを乗せ、軽く塩胡椒を振った。その横に付け合わせのポテトサラダが添えられる。香りのいいコーヒーはマグカップに並々と注がれた。  レオは自分のコーヒーに砂糖を2杯、ミルクを少々入れながら、口を開いた。 「セナが来るって聞いたのは本当だ。あの日、おまえを見かけて、相変わらず綺麗だな、って思った。もしこれで話しかけてもらえなかったら諦めよう、そのまま違う国へ移ろうと思ってた。でも、おまえが泣きそうな顔しておれの名前を呼んだとき、おれはなんてばかだったんだろうって思った」  その言葉に、マグカップを取ろうとした手を引っ込める。 「……じゃあ、なんで、偽名で名乗ったの。れおくん本人だって、言ってくれれば良かったのに」 「……勇気がなかった」  レオは泉の手を離して、目を伏せた。 「おまえに嫌われてたら生きていけないと思った。勝手におまえから離れたおれを許してくれなかったら、って思ったら怖かった。だから咄嗟に別人として振る舞ったんだ」  でも結局、と彼は申し訳なさそうに微笑んだ。 「おまえを苦しめてることには変わりないよな、ごめんな」 れおくん、と呼べば、なぁにセナ、と彼は答える。 「……俺がどんだけれおくんのことを愛してるか、ちゃんと、解ってよ」
8
 「I must apologize to you.(プロデューサーに謝らなければいけないことがあります)」 現場に入った泉の第一声に、プロデューサーをはじめ、スタッフたちは驚いたように目を瞬いた。  泉は視線の中、コートとセーターと、シャツを脱ぎ捨て、上半身を露わにした。  それを見たスタッフたちの何人かは驚き、何人かは苦笑いをした。そんな中で、 「It was a hot night,wasn’t it?(熱い夜だったんだねえ)」 とプロデューサーは楽しそうに笑った。 「I want take your skin if you don’t mind.(君が嫌でないなら、その肌を撮りたい)」 その提案に、泉は、安堵の息を吐き、 「Yes, my pleasure.」 と短く答えた。
 「れおくん、頼みがあるんだけど」 真剣な顔で泉にそう言われて、レオは緊張で肩を強張らせ、なに、とだけ返事をした。  ロンドンコレクションの当日。レオはファッション界の重要人物たちに囲まれ��がらコレクションの始まりを待っていた。泉が見立てたスーツをまとい、短く切った赤毛も美容院でセットしてもらったため、見劣りはしないだろうが落ち着けなかった。そんな中、胸ポケットの中のスマートフォンが震え、泉に呼び出されて、レオは今、関係者以外立ち入り禁止の楽屋にいるのだった。  目の前に立つ泉は、来冬の新作のファーコートを裸の上半身に羽織り、レザーパンツで脚のラインを強調している。化粧もすでに施しており、その美しさは何倍にも際立っていた。  泉はこのコレクションのファーストルック、つまり、最初にランウェイを歩く、という大役を務める。そこから業界からの泉に対する期待が窺えて、レオは泉を誇らしく思ったし、泉の他に適役はいないだろう、と思った。  その姿に見惚れていると、 「聞いてる?」 と足を踏まれた。 「痛い! ……ごめんって、セナがあんまり綺麗だから」  彼の横髪に伸ばそうとした手を掴まれ、そのまま楽屋を出てトイレへ向かった。個室に入って後ろ手で鍵をかけた泉を、レオは見つめることしかできない。 「あの〜、セナさん、もう、あの、出番まで三十分くらいしかないのでは……?」 三十分じゃ終われないけど、というレオの言葉は泉に塞がれた。 「キスマークつけて、」 「……は?」 早く、と彼はコートの前を開けて胸元を晒した。  レオは泉に問いただすことをやめ、彼の言う通り、胸元に口付けた。  泉の細い腰を掴んで引き寄せると、コートの下の肩がびくりと小さく跳ねた。  ぢゅ、という音を立てて皮膚を吸えば、紅い痕が残った。胸から鎖骨、それから首筋、耳朶を食んで、最後に唇にキスをした。下唇に歯を立てれば、泉の長い睫毛が震えた。  顔を離すと、お互いの濡れた息が絡み合って消えた。涙が滲んだ瞳でレオを見つめながら、泉はコートを着直した。 「……セナ、どうしよ、」 「なに、」 「勃った」 泉は照れたように、バカ、と呆れ笑いしながらドアを開ける。その笑った顔は、初めて出会った頃からちっとも変わっていなかった。 「……俺の出番に間に合うようにしなよね」  そう言い残して、さっさと出て行ってしまった。あまりにも横暴だ。でも、これが二年間の罰だとしたら、あまりにも甘すぎる。  あと二十分か、と腕時計を確認して、もう一度個室の鍵を閉めた。鼻腔には、泉の香水の匂いがいつまでも残っていた。
 観客席の照明は落とされ、中央に通る広いランウェイだけが照らされる。スタイリッシュな音楽が流れ出し、観客たちは皆スマートフォンを取り出し、その内蔵カメラを、世界中から集まったカメラマンたちは大きな一眼カメラをランウェイへ向けた。  ひとりのモデルが舞台に上がる。一斉にシャッターが切られ、フラッシュの光が彼を照らす。  決して高いとは言えない背でも、その身体には一切無駄がない。セットされた銀色の髪、ルージュを引かれた形の良い唇、まっすぐ前だけを見つめる薄青色の宝石のような瞳、ファーコートの前立てから覗く肌に点々と残された紅。  ランウェイの突き当たりで、彼はファーコートをはだけさせてみせた。蠱惑的で挑発的な笑みを、その美しい顔に浮かべて。  踵を返し、舞台へ戻る彼が一瞬だけ、レオの方を見た。その流し目に、レオは思わず息を呑んだ。 「Who is he?(彼は誰?)」 隣に座っていた女性が、連れの男性に問い掛ける。その男性は泉から目を離して彼女に答えた。 「He will be next top model. He is Izumi Sena,Japanese model!(次のトップモデルだ。イズミ・セナだよ、日本のモデルさ!)」  そうしてショーの直後に、あるブランドが公開した写真は、各界から絶賛された。  モノクロ加工が施され、色づいているのは澄み渡ったブルートパーズの瞳と、肌に刻まれた微かに見える官能的な赤いキスマークだけ。デザイナーの手書きでブランドのロゴとテーマが綴られた黒色の背景に、白い肌と身体を模る線がよく映えている。素肌にファーコートを羽織り、カメラから視線を外しているのは、日本人モデルだ。その美しさと危うさに、誰もが息を呑んだ。  期待の新星、瀬名泉に世界中が心を奪われたのだ。
 改札に向かう人々が足早に歩く。その足音と電車の出発を知らせるアナウンスが壁や天井にぶつかり、はねかえり、またぶつかって、絶えることなく駅を満たしていた。  その人混みの中に紛れて、ふたりは歩く。横に並んで歩いていたレオが急に立ち止まったことに気づくのに二秒かかって、その分遅れて泉は振り返った。  レオの目線は、壁の広告だけに注がれていた。少しだけ踵を返し、相変わらず細い手首を掴みながら、ちらりとその広告を見る。 「セナだ!」 まるで隠された宝物を発見した子供のように、レオは無邪気に笑った。 「うん、そうね。分かったから早く歩いて!」  足早に歩くサラリーマンや学生のうちの数人が、広告の前で立ち止まるふたりを煩わしそうに見ては、その横を通り過ぎていく。  泉はレオの手首を掴んだまま、出口に向かって歩き出す。 「ただでさえ電車が遅れて、あいつら待たせてるんだから急がないと」 「確かにあいつらには早く会いたいなぁ!」 「だったらさっさと歩く!」 しかし、レオが名残惜しそうに、泉が映った広告を振り返って見ているのが分かる。  一度強く手を引けば、レオは驚いたように泉を見た。 「……本物が隣にいるのに、満足できないわけぇ?」 嫌味ったらしく言ってやれば、レオは楽しげに笑った。 「どっちのセナも見てたいんだよ」 なんて言うのだから、やはり、レオの方が一枚上手だ、と思ってしまった。
 ふたりが着いた頃には、他の三人はすでに席についていて談笑していた。 「も〜、遅いわよ、『王さま』、泉ちゃん!」 子どもみたいにわざとらしく両頬を膨らませた嵐を、泉は呆れた目で一瞥する。 「電車が遅れてるって連絡したでしょぉ」 「俺たちは待ちくたびれちゃったんだけど〜」 凜月は頬杖をつきながら、司からメニューを受け取った。 「ともあれ! 久々に先輩方とこうして集まることができて嬉しいです!」 と、司はまだあどけなさが抜けない顔でレオと泉に笑いかけた。  泉とレオの帰国の報せを聞いて、五人で集まろうと言い出したのはもちろん司だ。自ら寿司屋の個室を予約し、五人のスケジュールを考慮しつつ日程を決めたのも司だった。 「leader、今までどこでなにをしていらっしゃったのか、ちゃんと説明していただきます」 レオの腕を掴んで自分の隣に座らせる司の背丈は伸び、精悍な顔つきになっていた。高校を卒業して二年が経つ。大学に行きつつ芸能界の仕事もこなすことが、彼をここまで成長させたのだろう。  レオは、そんな司に呆れたように溜息を吐きながら、さっそく日本酒を注文していた。 「聞いているのですか、Leader!」 「まぁまぁ、司ちゃんもなにか飲むでしょう?」 興奮気味の司の隣に嵐が腰を下ろしてそう宥める。  そんな彼らを見ていると、 「セッちゃんはこっち〜」 と、凜月に横から腕を引かれた。 「なぁに、くまくん」 「『王さま』とは向こうで散々イチャついたんでしょ」 「ちょっと、そういう言い方やめてくれない?」 横目で睨めば、凜月は楽しそうに笑った。  注文していたアルコール類が来て、機嫌を直した司が音頭をとる。 「それでは、Leaderと瀬名先輩の帰国と、Knightsの再結集に、乾杯!」 「かんぱ〜い」 グラスやお猪口を合わせ、冷たいそれらを飲む。泉の頼んだウーロンハイは飲みやすく、この一杯だけにしておこう、と思った。  凜月は慣れた手つきで自分のグラスに二杯目の日本酒を注ぐ。  泉と凜月の向かいに座る三人は、さっそく寿司に箸を伸ばしている。数貫を確保すると、凜月は、 「じゃあ本題ね」 と声を潜めた。 「いいもの見せたげる」  凜月はにやりと意地の悪い笑みを浮かべながら、嵐のカバンから新聞を取り出した。どうせ、コンビニで買ってからこれを入れるカバンを持っていないことに気づき、嵐に持っていてもらうように頼んだのだろう。  でもなんで新聞なんか、と疑問を口に出そうとした泉の前に、一面が広げられた。 「これ、読んだ方がいいよ」  凜月が指差したそこに大きく書かれたのは、”有名カメラマン、モデルらへの性的暴行で逮捕”の文字。その下には見覚えのある男の顔写真があった。 「別れて良かったねぇ、セッちゃん」 にやりと笑う凜月に、泉は眉間にしわを寄せながら、新聞を手にとってその記事を読む。  一緒に撮影していた男性モデルの複数人を襲ったらしい。被害者は皆新人モデルだというから、きっと、逆らったら仕事がなくなる、とでも脅されたのだろう。被害者の何人かが被害届を出したことで明らかになったそうだ。 「怖いのはさ、セッちゃんと別れてから、急にだからね」 「そうだねぇ」  素直に頷けば、凜月は物言いたげに目を細めた。その虹彩の色は昔とまったく変わっていない。それだけじゃない、その風貌も18歳の頃とあまり違わない。  なにを言うでもなく、黙ってお互いを見つめていると、向かいから低い声がした。 「リッツ、」 は、と振り返れば、猪口に日本酒を注ぎながらレオが言葉を続ける。 「近すぎ」 凜月は悪戯を咎められた子どものようにぺろっと舌を出して、ごめんね、と謝った。  レオが顔を上げて、泉を見た。長い前髪の間から緑色の瞳が覗いた。その光に、泉はすぐに目を逸らす。ドク、ドク、と心臓がうるさく脈打った。  特別なステージの上や、幾度も重ねてきた夜に、泉だけに向けるそれだったから。  なんで、今、と鼓動が速まっていく。レオに向けられた熱がじわり、と泉を侵食していく。  それに気づかないふりを装って、泉は凜月からお酌してもらった日本酒を喉に流し込んだ。
9
 五人揃った飲み会は午前十二時ちかくにお開きとなった。司は家の使用人の、凜月は兄の、嵐はマネージャーの車で帰っていった。  なんとなく、レオと泉は迎えを呼ばなかった。どちらからともなく、ふたりは歩き出した。  夜の東京は明るかった。ロンドンのものとは違う人工の光が、今は止んだ雨で濡らされたコンクリートを照らす。 「三人とも相変わらずだったなぁ」 「れおくんは会うの二年ぶりだもんね」  頷いたレオは楽しげに笑う。その笑顔が相変わらず眩しくて、泉は目を伏せて微笑んだ。 「スオ~もすっかりでかくなって……」 「あいつ、れおくんが卒業式に来なかったこと、相当怒ってたよぉ」 「うん、説教された。最後らへんはほとんど呂律が回ってなかったけどな」 下戸の司は、レオに負けまいと意地を張っていつも以上に飲んでいた。崩れた敬語には、彼本来の子供らしさが露わになっていて、レオは微笑ましそうに司の説教を聞いていた。  スクランブル交差点の信号は赤だった。大勢の人々に紛れるようにして、泉とレオも立ち止まる。  通り過ぎていく車の窓に、ビルの光が反射した。タイヤの擦れる音に紛れて、繁華街のざわめきが聞こえてくる。  信号待ちをする若い女性たちの何人かが、スマートフォンの内蔵カメラを目線の先の大型モニターに向けていた。  それに、映像が映し出される。  数年前に日本進出を果たし、若者たちから人気を集めているイギリスの有名ブランドの広告だった。  ひとりの男がカメラを睨む。その細められた薄青色の瞳に、彼女らは溜息を吐いた。 「瀬名泉、ほんとかっこいいよね」 「それね〜、なんであんなに美人なんだろ……」  車が停まり、歩行者用の信号が青に変わる。仕事終わりのサラリーマンや、飲みに来ていた大学生たちが重い足取りで交差点を渡る。  レオと泉も、その人の波に押されるように歩き出した。 「美人だって」 レオが陽気に笑いながら、泉の顔を覗き込む。 「言われなくても分かってるでしょ」 そう言い返せば、うん、と彼は泉の手を取る。そんなふたりを、誰も見咎めはしない。 「おれがいちばん分かってる」 素面で言うのだからずるい、と思う。レオは酒に強いうえ、今日はそれほど飲んでいなかった。その顔にアルコールのせいの赤らみなどはない。  どこまで歩く、とは尋ねなかった。レオが満足するまで着いていこう、と思った。  ただひとつ分かるのは、二年前まで一緒に暮らしていたあのマンションの方向に向かっていることだけだ。 「セナ、あの家、売ってなかったんだな」 「俺の家なんだから売るわけないでしょ」 「でも、二年間の間、ほとんどあのカメラマンの家にいたんだろ」 「まだあいつの話する?」  するよ、と彼は言う。 「まだおれは怒ってるもん」 「俺だって、置いていかれたこと、まだ根に持つからねえ、レナード」 そう呼べば、彼は困ったように眉を下げて笑った。 「じゃあお互い様だ」  繋いだ手は熱い。彼が寒そうに吐いた息は白く、闇に溶けるようにして消えた。  人気のない跨線橋の上で、レオが立ち止まった。彼の目線の先、細い線路が延びていた。そびえ立つビル群、その屋上では赤いランプがゆっくりと点滅していた。  真冬の透明な空気のおかげで、ふたりを取り囲む世界は美しく、鮮明だった。  唐突に腕を引かれ、唇が重なる。  彼らの下を、電車が通過した。 「……また、撮られるよ」  冗談めかしにそう言えば、レオは細めた瞳で泉を見上げた。 「そうしたら、ふたりで駆け落ちしよう」 その表情がひどく真剣で、泉は目を逸らしながら、ばか、としか言えなかった。 「おれだけのセナだったのになぁ」 なんて言いながら、レオは泉の顎をなぞる。 「……俺は、昔も今も、あんたのものでしかないよ」 そう言い返せば、彼は驚いたように瞬きした。まっすぐに伸びたまつげが震えるように揺れた。  レオの右手が首の後ろの方に回って、もう一度、そっと顔を近づけられる。  泉は黙って、優しい口づけを受け入れた。  唇を離したレオは、愛おしそうに泉を見つめた。 「……セナに出会えて良かった」  絡めた指先から伝わる熱も、昔から変わらないその眼差しも、泉は心の底から愛している、と思った。 「愛してるよ、セナ」 「……俺も、」  恥ずかしさにその胸元に頭を埋めれば、どく、どく、とレオの鼓動が静かに聞こえた。レオが笑えば、その肌が震えた。  彼の心臓が作り出すリズムに身を委ねるように瞼を閉じる。  最終電車が金属音を立てながら、轍を残していく。その音と窓から漏れる光が遠のいていった。  瞼の裏に思い浮かぶのは、この電車が行き着く先————夢の残骸が散らばった砂浜と、その先に広がる大きく青い海だ。  きっと、あの水平線の向こうから、永い夜の終わりがやってくる。  終わらないでほしい、と願った幸せな夜も、哀しみと息苦しさに首を絞められた夜も、レオと熱い肌を触れ合わせ抱き合った夜も、ひとりで冷たい布団にくるまり目を閉じた夜も、いつだって永遠を感じさせた。  けれど、それとは裏腹に、夜は明ける。泉の幸せにも、涙にも、素知らぬ顔をして。音さえ立てず、ただ新しい光を引き連れて。  そんな夜明けが来るのを、寂しい、とも、待ち遠しい、とも思う。  赦されるとか、赦されないとか、世間の目とか世論だとか、そんなことはどうでもよかった。  この男が好きだ。  月永レオを愛している。  今はただ、それだけでいい気がした。 「セナ、」  絡められた指先が、切ないほど愛おしい。  手を引かれて立ち上がる。夜風に彼の赤毛が靡いた。  星の見えない夜に、レオの瞳だけが優しい輝きを放ちながら、揺れた。 「帰ろう」  れおくんがそばにいる、ただ、それだけでいい。  そう思いながら、温かい手を握り返した。  永い夜が、ゆっくりと、静かに、深まっていく。
◇ 20171210
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針音ノ時計塔 | handbeat clocktower March 30, 2012 “What in the world is ‘evil’?”
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Liens vers les traductions dans l’ordre chronologique de l’histoire
Arc du Péché Originel
Queen of the Glass/La Reine de Verre
Project Ma/「Ma」計画/Projet Ma
Maサバイバル/Ma Survival
追想のオルゴール/Recollective Musicbox/Boîte à Musique des Souvenirs
奇跡の行方/Whereabouts of the Miracle/Sur la Piste du Miracle
どこかで聞いた唄/ /The Song I Heard Somewhere /Le Chant que j’ai entendu Quelque-part Autrefois/Clockwork lullaby 8
Escape of Salmhofer the Witch/魔女ザルムホーファーの逃亡 /La Fuite de Salmhofer la Sorcière
Moonlit Bear/L’Ourse du Clair de Lune
Tale of Abandonment on a Moonlit Night/Insane Moonlight/置き去り月夜抄/Abandonnés au Clair de Lune
クロノ・ストーリー (Chrono Story)/Clockwork Lullaby 5/L’Épopée du Temps
Arc de la Luxure
プラトーの花 /Flower of the Plateau/La fleur du Plateau
グラスレッドの肖像/The Portrait Glassred Drew/Les Portraits de Glassred
Arc de la Gloutonnerie
Evil Food Eater Conchita - 悪食娘コンチータ - Beelzebub party - Conchita, La Gloutonne Démionaque
Arc de l’Histoire du Mal-Arc de l’Orgueil
あの橋に誓って/Swear an Oath on that Bridge/Sur ce Pont nous en faisant la Promesse
逆さ墓標のネオマリア Neomaria of the Inverted Gravestone   Prototype N Neomaria de l’Épitaphe Inversée
トワイライトプランク / Day and Night/ Twiright Prank/ Farce au Crépuscule
悪ノ召使/The Servant of Evil/Le Serviteur du Mal
白の娘/Daughter of White/La Demoiselle Blanche
Tree Maiden ~Millennium Wiegenlied~ /樹の乙女~千年のヴィーゲンリード~/Spirit of ELD/La Fille du Bois ~Wiegenlied Millénaire~
Regret Message/Message de Regrets
またたき/Blink/Battement de Cil
針音ノ時計塔 Handbeat Clocktower L’Horloge aux Tintements d’Aiguilles
Reach For The Stars ~待ち続けた手紙~/Rejoindre les Étoiles~La Réponse qu’elle continuait d’attendre~
Re_birthday/Clockwork lullaby III /Re_naissance
Arc de l’Acédie
 眠らせ姫からの贈り物/Gift from the Princess who Brought Sleep/Le Présent de la Princesse du Sommeil
五番目のピエロ/Fifth Pierrot/Pierrot Le Cinquième
Arc de l’Envie
円尾坂の仕立屋 /The Tailor of Enbizaka /La Tailleuse d'Enbizaka
Arc de l’Avarice
箱庭の少女/Miniature Garden Girl /Clockwork Lullaby 2/La Fille du Jardin Miniature
悪徳のジャッジメント/Judgement of Corruption/Jugements Corrompus
Arc de la Colère
最後のリボルバ/The Last Revolver/Le Dernier Revolver
ネメシスの銃口 - Satan’s Revenge - The Muzzle of Nemesis - Le Canon de Némésis
Arc du Théâtre
ハートビート・クロックタワー/Heartbeat Clocktower/L’Horloge au Cœur Battant/Clockwork lullaby 4
茶番カプリシオ/Capriccio Farce/Clockwork lullaby 6
Quatre Fins et accompagnement
創世少女グレーテル/Genesis Girl Gretel/Gretel, Fille de la Génèse
Master of the Hellish Yard/ Maîtresse de la Cour Infernal
master of the court /Successor of the court /Maîtresse de la Court
Re_birthday/Clockwork lullaby III /Re_naissance 
悪の因果は終わらない/The Karma of Evil Will Not End/Le Karma du Mal n’aura jamais de fin/Clockwork Lullaby 11
バニカ・コンチェルト!!/Banica Concerto!!/Clockwork Lullaby 10
去り人達のワルツ Waltz of Those Left Behind La Valse de Ceux Partant
E.A.T Prologue
grEAT journey/Sa Chair Odyssée
臆病な黒鳥の唄/Song of the Cowardly Black Bird/Le Chant du Peureux Oiseau de Jais
モウモク少女とテンシ様 /The Blind Girl and the Angel/La Jeune Fille Aveugle et l’Ange
Compliqué
言葉遊び/Kotoba Asobi/Wordplay/Clockwork lullaby ZERO/Jeu de Mots 
赤い靴のパレード/Red Shoes Parade/La Parade aux Souliers Rouges
満月の実験室/Full Moon Laboratory/Laboratoire de la Pleine Lune
七つの罪と罰/Seven Crimes and Punishments/Clockwork Lullaby 7/Sept Péchés et Châtiments
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Pich Pich Pitch Mermaid Melody Lien vers les traductions
https://merryane-the-red-cat.tumblr.com/post/718664782971125760/liens-vers-les-traductions-des-chansons-de-pich
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