#程よく分離したリビングとダイニングキッチン
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リビングとダイニングキッチンが程よく分離し、L型に設けた開口部と傾斜天井で空間に繋がりを持たせています。 物件名:Dgh-house Photo : (株)VA 岡村靖子 #スレッドデザインスタジオ #moderninterior #housedesign #residence #furniture #interiordesign #名古屋設計事務所 #住宅設計 #設計事務所 #住宅デザイン #木造住宅 #リビング #ダイニングキッチン #オーダーキッチン #勾配天井 #L型の開口部 #大きな窓 #程よく分離したリビングとダイニングキッチン https://www.instagram.com/p/CpPKYGML-Nz/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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赤い糸
月が落ちてきそうな夜だったから、一緒に帰ろうと雪歩を誘った。久しぶりだね、と数歩前を行く華奢な背中。口ずさむ大好きな歌。立ち止まり、眩しそうに月を見つめる横顔。雪歩の全部は透明な水みたいに滲み込んで、僕は、胸の内で融けるような感情を確かめる。 だから、並んで歩こうとほほえむ雪歩へ別れを告げた。 そして、一つの約束を交わした。
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ランニングコースのイチョウに黄色い葉が混じったと気付いたのは、一息ついたベンチでのことだった。そんなことにも気付けなかったんだ、と見上げた朝の光には、少しだけ冷ややかな硬さが混じっている。道沿いの小川は緩やかに流れ、目を閉じれば心地よい水音が弾む息を穏やかにさせた。 「だーれだ」 閉じた瞼の上から、両眼を塞がれる。よく知った手のひらの感触だとか、声色だとか、それはもうクイズにもならないのだけど、僕はその感覚が好きだった。 「今日は早いね、真美」 「今日も早いね、まこちん」 たぶん、それはもっと別の意味を持っていて、真美はその意味を知っているんだろう。けれど何を語るでもなく真美はベンチの隣にすとんと腰を下ろし、一つ大きく息を吐き出した。ポーチから取り出したボトルを口に当てる仕草で僕も喉の渇きを思い出すけれど、同じように含んだスポーツドリンクからはなぜだか、いやな鉄の匂いがしていた。 「まこちん、まこちん」 「なに?」 「真美、速くなってる?」 「うん。かなりね」 「だよねー、真美もそう思う」 「なんだよそれ……」 そうやってけらけらと笑う、真美が一緒に走ろうと言ったのは数ヶ月前、ちょうど二十歳の誕生日のすぐ後のことだった。はじめは一緒に走ろうとかなり無理をして、次第に時間だとかペースだとか��調整して、そして今では自分の走り方を見つけたらしい。平生な呼吸を取り戻しつつある、真美は心地良さげに笑っている。 「実際、すぐだと思うよ」 「何が?」 「僕を追い抜くの」 「いやいやいや、そういう目的じゃないから」 「……そうだね」 何が真美をそうさせたのか、そのある程度を知りながら言葉にはしない。そういう距離感を身につけるくらいには歳を重ねていたけれど、それが良いか悪いかは知らないくらい、僕は幼い。 「ね、一緒に走ろう」 まこちんが合わせてね、と走り出す背中を追いかける。肩を並べるには、少し時間が必要だった。 「無理してない?」 「ぜんぜーん!」 「じゃ、三十分そのペースでいこうか?」 「……オニがおる」 やがて落ち着いた真美のペースで、僕らは走る。灰色の地面を蹴り上げて、時に散らばった落ち葉を踏みしめて、流れる景色を弄びながら走る。そうしてコースの四分の三を終えて、もう一周いこうか、と立ち止まった信号で思案していた。 「どうして、ルームシェアやめちゃうの?」 不意の問いかけに息を呑んだ僕を置いて、青だよ、と真美は一人走り出す。追いつくのは簡単だった。真美はあえてゆっくりと足を進めているし、その背中は僕の言葉を待っていたから。 「ねえ、真美。みんな気にしてる?」 「当たり前だよ、ずっと一緒に暮らしてたのに」 「ずっとって……ああ、でも高校を出てだから……八年かあ……うん、そうだね」 「うん。驚いてるし、心配してる」 そうだよね、と残してまた少しペースを緩めれば、小さく乱れた呼吸はすぐに快いテンポに戻っていく。 「いつかはくると思ってたけど」 真美を安心させるために、そんな不純な目的で生まれた笑顔だったけれど、僕は正しく笑えていたように思う。 「やっぱり真美は、僕なんかすぐに追い抜くよ」 「……どゆこと?」 「素敵な大人になるってこと」 「まこちん、話そらしてる」 「……ほんとだね」 昔と比べて、回り道が増えた。それはたとえばランニングでも同じで、十代の頃は前だけを見てどこまで行けるかとか、どれだけ進めるだとか、そんなことを考えていたのに、今は横道を見ることが増えたし、心地良い速度を探していることばかりだ。 それを変化と呼ぶのは正しい。だけど、成長と呼ぶのは? あるいは妥協や諦めと呼ぶ? そんな考え自体を迷いとするのなら、僕はいつも迷ってばかりいる。 「……雪歩のことは今も、昔と変わらず、ううん、昔よりも大切に思ってる。喧嘩したとか嫌いになったとか、そんな理由じゃないんだ」 それだけは信じてと、伝えた。真美は(きっと)かすかに頷いて再びペースを上げる。僕はその隣を走りながら、二周目に入ったコースで再び目に入る景色を慈し���でばかりいた。 ありがとうと呟いたその時に、一枚の紅葉が視界の��で枯れ落ちていった。
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十時と言えば、九時四十分。十二時と言えば、十一時四十分。約束の二十分前が、いつでも僕たちの時間だった。そう決めたわけもなく、意識するでもなく、けれど自然重なり合ったこの時間はいつからか僕たちの一部だった。 だから、今日は十五時四十分。僕は先に仕事を終えて、この小さな喫茶店で雪歩を待っている。有線から流れるヒットチャートは本をめくる指先を鈍らせるけれど、その感覚は決して厭わしいものではなかった。 聞こえるのは、雪歩の歌声。役者の道を進んで久しい雪歩の、実に一年と二ヶ月ぶりのソロシングルはチャートの上位を獲得し、無為に騒ぎたがる世間の声を少しだけ静かにさせた。けれど僕にとってこの曲は、それよりも、雪歩の鼻歌や夜遅くまで詩を暗記する背中、レコーディングが楽しい、歌が楽しいと笑う声、そんな思い出で彩られていた。 思い出はページ���たぐる手を停滞させ、諦めて本を閉じたその時に、喫茶店の扉が開いた。いらっしゃいませ、と控えめな声を流れ込んだ外気が運び、そして、白いリボンのかんかん帽と淡い雪色のフレアワンピースのシルエットが僕を見つけ出す。 近付くその姿に、赤フレームの眼鏡を確かめる。一緒に買いに行って、僕は結局お気に入りを見つけられなかったその日。予報外れの雷雨に降られて、駅で買った一本の傘じゃ全然雨を避けられなかった。 二年も前、その夏の日はあまりに鮮やかで、僕の決心はたやすく鈍ろうとする。 「……ごめんね、遅れちゃって」 「全然、だってほら、まだ十五分以上あるよ」 「そうだけど、でも、待ったよね」 「来たばっかりだよ。とりあえず、何か飲む?」 「うん……じゃあ、アイスレモンティーかな」 「緑茶は?」 「あるの?」 「ないね」 「……もう」 笑顔を交わし言葉を重ね、冷たいグラスを手に取りながら、僕たちは準備をする。 二人が、一人と一人になる、そのために。
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「本当に、良かったの?」 夕暮れも過ぎて帰りを急ぐ車の流れに乗って、僕たちを乗せたタクシーは軽快に道を進む。気のいいおじいちゃん、といった様子の運転手は、特にこちらを気にすることもなくただ車を走らせている。FMラジオは今日一日のニュースを伝えているけれど、この空間においてそれは特に意味を持っていなかった。 「どっちかにするって決めてたから」 屈託なく答えた雪歩の膝の上、ハンドバッグの中には契約書や説明書類の束が入っている。雪歩が暮らすことになる��ンションは、おおむね都心の駅から歩いて数分、良いところはたくさんあったけれど、何より駅からの道に暗闇がないことが決め手だった。 暗闇を怖がるのは、当然。僕も、雪歩も同じ。だから二人の意見は一致して、けれど、僕はその中に僕自身のエゴを見つけだす。 一人そんなことを考えてしまう僕は、やっぱり変わった。 「ならいいんだけど……ちょっと、押しつけちゃった気がして」 「ううん。一緒に考えてくれて、嬉しかった」 ありがとう、と雪歩は言う。その言葉を返そうとして、返すより早く、タクシーは緩やかに停車した。降車して五分、小川に沿った側道を歩いて、暗いよと雪歩が苦笑いをして、僕が暮らすことになるマンションのエントランスをくぐる。オートロックの分厚い自動ドアを開き、二列並んだエレベーターで十一階へ、まだ慣れない鍵の重みを指先に感じながら、扉を開いて室内へ入り込んだ。 「新しいにおいがするね」 「僕は好きだよ」 「私も」 靴を脱いで、右手には洗面台、バスルーム、トイレ、まっさらな空間の一つ一つを確かめて、ドアを引いてリビングへ。ダイニングキッチン、リビングにはソファを置いて、机やテレビ、本棚を置いて、ちょうど持て余さない程度の広さ。けれど今は、何もない。クローゼットを開いて、閉じて、寝室へ。照明は点けずに、月や星の明かりを望むように。そして、この楽しみの最後にベランダの窓を開いて、僕たちは並んで座り、足を投げ出す。 「いいお部屋だね」 「でしょ? けっこう掘り出し物なんだって」 「……夜道がちょっと、気になるけど」 「あはは、駅からの道は平気だよ」 ベランダの柵、格子越しにきらめく街の明かりが見える。視線を空に向ければ、星はあまり見えないけれど、半分に欠けた月の光が降り注いでいる。夜風は涼やかで、喧噪はこの高さまでは届かない。昼間は空に漂っていた雲も、穏やかに流れ去っていた。 ふと、右の肩に重みを感じる。考えるでもなく、よく知った雪歩の感触。何度も繰り返したのと同じに、僕も体重を預け返す。首すじをくすぐる、雪歩の髪。その柔らかさに触れる度、僕は目を閉じる。たとえば満月も、星の光も、一面の花畑でさえ、その喜びには届かない。 「……がんばろうね」 「明日のこと?」 「それもだけど……」 「……大丈夫、だよ」 それで、言葉は閉じられる。あとは、夜風と僕たちの呼吸、心臓の鼓動や、血液の循環。最後には確かなものが残り、僕は、僕たちは決心を結び直す。 別れの日は、止めようもなく近づいていた。
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『765PROメンバー、禁断"同棲"愛』 写真週刊誌が僕たちのルームシェアをそう報じたのは、雪歩が二十歳を迎えた次の日のことだった。荒れたモノクロ写真��同じマンションに入っていく僕たちを写し、ちょうどその日は雪がちらつくような冬日で、僕たちは身を寄せ合い寒さを白い息と笑い声に融かしていたから、それはそれは幸せそうな二人の女の子の姿が誌面を飾っていた。 悔しくて、燃えるみたいに胸が熱くなって、息も満足にできなかった。その軽薄で、遊びみたいに書かれた記事に誰よりも強く怒りをぶつけた。 だけど、それだけじゃなかった。心の中、一番奥の部分には、すごく冷たい目をした自分がいた。ああ、そうかと、そういうふうに見えるんだと、妙に納得していたことを覚えている。 でも、雪歩は違った。 僕の、プロデューサーの、小鳥さんの、高木社長の、誰のどんな言葉も届かず、ただ声を上げて泣いていた。触れようとする手は拒まれた。日が暮れた頃どうにか家に連れ帰ってからも、食事も水も摂ろうとせずに真っ暗な寝室で一人きり、小さな体をベッドに横たえていた。 翌日にはプロデューサーの判断で雪歩は実家へ帰され、無期限の休養。回復を待って、後のフォローを検討。雑誌社へは厳重な抗議。僕たちは、どうにか仕事を続けながら、雪歩が戻ってくる日を待つことにした。 けれど、その日は思っていたよりも早く訪れた。たったの十日後、事務所へ姿を現した雪歩は、まるで何もなかったみたいに僕に笑いかけて、プロデューサーと一緒に社長室へ消えていった。 その一週間後、雪歩はレギュラーのラジオに僕を招き、僕たちはそこでルームシェアの様子を話した。最初は僕から誘ったこと。僕の両親が、雪歩が一緒なら安心だと笑ったこと。仕事の関係で夕ご飯は僕が作る日が多いこと。洗濯物の干し方の違いでちょっとけんかしたこと。部屋に飛び込んできたが蝉と何十分も格闘したこと。 そうして、僕たちのルームシェアは公然の事実になった。隠さなければ、暴かれない。それが雪歩の提案で、実際に(抗議の結果でもあるだろうけど)、僕たちの関係を明からさまに追いかける人もいなくなったし、その決断は正しかったのだと思う。 放送を終えた夜、次の朝まで、降り積もった感情の全てを洗い流すように、雪歩は涙を流した。言えなかった言葉の全てを吐き出すように、嗚咽をこぼし続けた。 僕はその体を抱きしめながら、雪歩が二十歳になったことを今更みたいに感じていた。 雪歩の左の耳、僕の贈ったイヤリング。 僕の右の指、雪歩のくれた指輪。 思えば、声を上げて泣いている雪歩を見たのはあの日が最後だった。
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式場の扉を開いた僕と雪歩を迎え入れたのは、ほとんど叫ぶみたいな挨拶と腰の位置まで深々と下ろされた後頭部だった。清潔なショートヘアーにパンツスーツ姿の女性はプランナーを名乗り、改めて、この企��の意味と僕たちが仕事を受けたことへの感謝を何度も重ね続ける。こちらもその度に頭を下げ返して、プロデューサーまで一緒に繰り返して、僕たちは我慢できずに笑ってしまって、ああ、緊張していたんだと知った。 前の撮影が続いているので少し見ていきますか、と彼女の勧めに応じてエントランスを曲がった。真っ白な壁とクリーム色のカーペットに包まれた廊下は、窓から差し込む秋の陽光を柔らかく反射して、このまま歩けば天国へ行けそうな、そんな空想さえ描かせる。 こんな日に、愛する人と結ばれるためにこの道を歩くならどれほど幸せだろう。その光景は思いがけず鮮やかで、つんと鼻の奥を熱くさせる。このままじゃ、と気を散らすために首を回せば雪歩と視線が重なる。雪歩はほほえみ、けれど僕に触れた視線は、すぐに離れていった。 (きれいだね) 言葉は、唇の動きだけ。僕にだけ届く。
僕たちは、重厚な木製の扉の前で足を止めた。まずプランナーの彼女がそっと室内を覗き、それから手招きをする。撮影中なので、という言葉にしたがって僕たちはそれが悪いことであるように、礼拝堂に体を滑り込ませた。 想像していたよりも、小さな空間だった。真珠色のリボンで飾られた濃木色の長椅子は十数列。五、六十人入れば満席だろう。左右の壁にはアーチ状の採光窓。柔らかな曲線を描く天井から降り注ぐ純白の光。足下から続くワインレッドのカーペットを目でなぞった先の光景に、僕は、呼吸を忘れた。 礼拝堂の中心、祭壇の前で黒いタキシードの男性が、燭台や十字架を背景に指輪を差し出した。彼と向き合っているのは、白いタキシード姿の男性。左の手のひらを彼に預け、指輪が通される様子を静かに見つめた。その二人を見守るように、祝福するように、聖母をかたどったステンドグラスから暖かな光が降り注いでいる。 不意に、指先に触れる感触があった。それは触れて、つながって、やがて雪歩の手のひらになった。よく知っているはずの温もりは、どうしてか初めて触れたようで、僕はただ握り返すしかできない。 そうしなければ、消えてしまいそうだった。 ぱん、と静謐を破る音が響き、電気に触れたように僕たちの指先はそれぞれへ返る。同じように、壇上の彼らの心もそれぞれへ返った。声を上げて笑い、肩を叩き合い、スタッフにたしなめられて身を正してみせる、その変化は、まるで魔法が解けたみたいに正しかった。 雰囲気は掴めたかと声をかけられ、ほとんど反射で肯定を返す。撮影スタッフと打ち合わせをするプロデューサーを残して、僕たちは控え室へ導れた。 「撮影、きれいだったね」 「ね、でも実際見るとやっぱりドキドキするよ」 三面鏡や姿見に、充実した照明を備えたこの空間はメイクルームだろうか、花嫁が式を待つのもここなのだろうか。 「……真��ゃん、資料見せてもらっていい?」 「忘れたの? 珍しいね」 「緊張してたから……たぶん」 取り出した紙資料。その表紙を見つめ直して、雪歩に手渡した。 『同性、という運命』 LGBT。レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、それぞれの頭文字を取って作られた言葉。端的に言えば、性的マイノリティ。彼ら、彼女らをを対象にしたウエディングプランのパンフレット、及びウェブサイトで使用する映像の撮影が、今日の仕事。 そう、仕事。 プランナーは僕たちの過去を知りながら、オファーを出してくれた。プロデューサーは隠さず、けれど慎重に伝えてくれた。僕は、それを承諾した。迷いはなかったし、それは雪歩も同じだったと思う。 それでいい。他の撮影と変わらない、仕事でいい。 なのに、先の光景を目にして、わからなくなった。 あんな綺麗な光に包まれて、僕は、いいのだろうか。 「真ちゃん」 気が付けば、雪歩が覗き込んでいた。その目は、きっと僕を簡単に見抜くとわかっていた。 「……ごめん。どうしたの?」 白々しく聞いてみて、声の震えを知る。 「なに考えてたの?」 「当ててみる?」 「……当てても、いいの?」 「……だね」 へたくそに取り繕った平常心をほどいて、雪歩は僕の俯いた頬に触れる。優しく導かれた、まっすぐ見つめる瞳の奥に、小さく燃える炎に似た揺らめきを見つけ出す。 「いい撮影にしようね」 そう言って、雪歩はほほえんだ。少なくともそこには、僕が思うような迷いは存在していない。 そのほほえみに、憧れている。女の子らしくて、儚くて、決して揺らがない強さがある。 まるで、僕とは真逆。 憧れは、いつもほんの少しの嫉妬をはらんでいる。 「そうなるよ、きっと」 笑ってみせて、言うだけのつもりが、本当に軽くなった心に気付く。 もしも運命があるのだとしたら。 そんなことを、考えている。
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この部屋の、扉から見て左手奥。そこに、ベッドがあった。カーペットを敷いていたのに、フローリングにはくっきりと跡が残っている。空っぽのクローゼットに広い広いと体をおさめたのは、十八歳の春だった。買ったばかりのカーテンは採寸ミスで床を引きずり、二人で手直ししたことを覚えている。本棚。サイドチェスト、に置きっ放しだった少女マンガ。窓際のバンブー。白盤の山。ずっと捨てられなかった台本。 全てが、もうない。 この部屋は昨日まで寝室だったのに、扉を閉める、この瞬間にはもうそうではなくなっている。 リビングも、同じ。何もない空間に、落ちる頃を早めた光が差し込んで、空気はかすかに煙ったようだった。 管理会社の人に鍵を手渡す。これでさよならだと思う間もなく、最後の瞬間はあっけなく過ぎていった。 手荷物だけを持って、僕と雪歩はこの部屋を出た。扉を閉じて、少しだけ、立ち尽くす。次に何をすればいいのか、わからなかった。 ただいま、と扉を開けば全てが元に戻っているのかもし��ない。涼やかな秋の空気に触れて、肌を刺す冬の冷気に触れて、ずっとそうしていれば、終わらないのかもしれない。 変わろうと望んだ僕は、この痛みを知ってなお同じ道を選べたのだろうか。 不意に、雪歩の右手がドアノブに近づく。その手は何かを摘むような仕草で、ノブの前で半回転。 鍵を閉める、その仕草。 顔を見合わせて、僕もその動きを真似してみる。 涙は流れなかった。けれど、その瞬間の雪歩は、ほほえみが滲んで見えたのは、やっぱり僕が泣いていたからなのかもしれない。 そうして、僕たちの八年は終わりを迎えた。
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マンションを出て、最寄り駅の逆方向へ数分歩くと、商店街があった。僕が生まれるずっと前から変わらないのだろう、その素朴な街で帰りがけにお団子やアイスを買い歩くのが、すごく好きだった。それは雪歩も同じだから、二人で大判焼きを買う。僕はカスタード。雪歩はチョコ。熱い湯気まで味わいながら歩く道は、初めてここに来た日と同じに温かかった。 商店街を過ぎてまた道をそれると、河川敷へ出る。やけに赤い今日の夕焼けに照らされて、背中が暖かくて、胸がちょっとだけ高鳴っていた。 遠くにこれから乗る電車を眺めながら、僕たちは河川敷の舗装路を歩いた。制服の女の子たちだとか、ジャージの男の子、手を繋いで歩く父子、ランニングをしている綺麗なスタイルの女性、誰かが折った草木から漂う緑の香り、ぎこちないトランペットの音色と、空には消えかけたひこうき雲。 いつもこの世界の新しい輝きを教えてくれるこの道へ、寂しいとこぼしてしまうようで、雪歩に気付かれないように口を結んだ。 「座っていかない?」 ふと、背中にかかる声。振り返れば、数歩後ろの雪歩が木製のベンチを示している。 淡いベージュのカーディガンが、風にたなびいていた。 「まだ大丈夫だよね」 先に座るのは僕。あとから座るのは雪歩。隔てる仕切りはなく、けれど肩を寄せ合うでもなく、僕たちは、知りすぎるほどに必要な距離を知っている。 「これ、見て」 雪歩が差し出した、一枚の写真。 ウエディングドレスの僕たちが写っている。 「チェック用のデータ、貰ったの」 僕たちは笑っていた。僕は上を見ながらカスミソウのヘッドドレスに触れて、雪歩は反対に首を下に傾けながら口もとに指で触れて、ほとんどオフショットみたいな写真。ベールはなく、映っているのはドレスの腰から上。二人の間から、ちらりとのぞく純白のブーケが、僕たちと一緒に目を細めている。 「……これは、バツだね」 「……どうして?」 どうしてと、雪歩の言葉に驚いている僕がいた。少しラフな印象だけど、いい写真であることは確かだと思う。楽しげで、幸せそうで、自然で。 そう考えて、気がついた。 この気持ちは、あの二十歳の冬と同じ。 「……誰にも、見せたくないんだ」 この写真は、あまりにありのままだから。剥き出しの僕たちを、写しているから。 誰にも触れさせたくなかった。 「真ちゃん」 「うん」 俯いていた顔を上げて見つめた、雪歩の瞳から滴がこぼれていた。暖かな夕日を映して���何度も、何度も、かすかな虹を乱反射していた滴はやがて、初雪色の頬を流れる川になった。 「指切り、しよう」 「うん」 雪歩が差し出す小指に、僕の小指を絡める。その指の柔らかさや温かさ、爪の透明感も、か弱い握力も、何もかもを知っていながら、けれどこの瞬間には、初めてこの世に生まれた日のような驚きに満ちていた。 「雪歩」 「うん」 「約束だよ。五年間、僕たちが何も変わらなかったら……そしたら、また一緒に暮らそう」 「……うん」 約束を交わし、僕たちの指は離れていく。けれど、僕の目には残像が、こんなにも綺麗な夕焼けが残した、オレンジ色の光の糸が映っていた。 それは、きっと未来に繋がっている。 「五年なんて、あっという間に過ぎちゃうんだろうね」 「……でも、やっぱり長いよ」 「……ちょっと、泣いてこっか?」 「……真ちゃんの、ばか」 そうして、雪歩は僕の胸に寄り添って、沈んでいった。雪歩の泣いている声は記憶の中にあるよりずっと穏やかで、そうやって僕はもう一度、過ぎ去っていった時間を理解していく。 五年が過ぎた後、僕たちはどうしているだろう。今日みたいな暮れ行く秋の陽に包まれながら、一緒に暮らす部屋を探しているかもしれない。もしかして、互いに違う人の隣で、違う形の幸せを手にしているのかもしれない。 空を、見上げてみる。 鮮やかだったオレンジの色は少しずつ夕闇に飲み込まれ、その色に代えて、夜を背景に真っ白な月が輝こうとしている。 どちらでも、とは本心とは程遠く、けれどどうあっても雪歩が笑っていたらいい。そんなことを考えて、ちょっとだけ熱くなる瞳を、胸の内にある雪歩の感触が押し留めた。 とりあえず。 雪歩が泣きやんだなら、その時は、落ちてきそうな月をまた一緒に見上げよう。 きっと、とても綺麗だから。
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