Tumgik
#猫全身黒タイツ組
caramelcubechocolat · 2 years
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☆**CARAMEL MUSEUM情報  CMお品書きご紹介PT.2♡**☆
こんにちは♡キャラメルキューブです😃
遂に開催まで
後,,,,,,,
✨✨✨✨✨5日✨✨✨✨✨
となりました❣️
3月3日~3月28日の26日間、池袋P’PARCOさん 1Fにて開催する
🎪ハンドメイドの博物館🎪
✨🌸🌷CARAMEL MUSEUM 🌷🌸✨
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開催発表BLOGはこちら✨
ご参加作家様一覧はこちら🎶
冬のCMお迎えフォトBLOGはこちら📸(CC.CH)
☆**CARAMEL MUSEUM**☆イベントハッシュタグ
#CARAMEL_MUSEUM
こちらは
ご参加作家様・サークル様からお届け頂いた
・**。+お品書き。**・
のPART.2となっております♪
ぜひPART.1と合わせてお目当ての作品を事前にチェックしてみてくださいね🎶
☆**CARAMEL MUSEUMお品書き♡**☆
スペースC
全期(3/3~3/28)ご参加
中後期 (3/12~3/28)ご参加
前期 (3/3~3/11)ご参加
中期 (3/12~3/19)ご参加
後期 (3/20~3/28)ご参加
スペースM
1部 (3/3~3/8)ご参加
2部 (3/9~3/15) ご参加
3部 (3/16~3/21) ご参加
4部 (3/22~3/28) ご参加
*Atelier Chouchou様*
CMスペース番号 :C中期・C-10
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*一言コメント*
「毎日にキラメキとトキメキを」というテーマで、色や季節を楽しめる作品を制作しているAtelier Chouchouです。
今回は春にピッタリな桜、苺、蜂蜜のアクセサリーをご用意しております。
※写真とは一部仕様が異なる場合があります。
キャラメルミュージアム→ C中期 C-10
キャラメルキューブショコラ→ A-77
Twitter → https://twitter.com/AtelierChou2
*ノエルリボン様*
CMスペース番号 :M1部・M-16
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*一言コメント*
ひとつずつ結んだリボンを型崩れしないよう加工し、ネックレスや耳飾りに仕立てています。 カラフルなリボンと可愛いチャーム。 たくさんの組み合わせがあるので、お気に入りが見つかると嬉しいです。
*花纏様*
CMスペース番号 :C中期・C-7
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*一言コメント*
「花纏」はなまとい、と申します。
種から育てたネモフィラや、自分で染めたかすみ草など、本物のお花をドライフラワーに加工して、アクセサリーを仕立てています。
シンプルで華奢なデザイン、
そして花の鮮やかさと透明感あふれる作品達をお届け致します。
(画像には以前の作品も含まれています。ご了承下さいませ)
*Stone Valley工房様*
CMスペース番号 :C前期・C-9
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*一言コメント*
こんにちは!Stone Valley工房(ストーンバレー工房) です。 「四季」をテーマに暗闇で光る四季の窓シリーズ等、レジンでキーホルダーや小物雑貨を制作しています。 春はもう、すぐそこ…今回は桜、干支であるうさぎをテーマで制作しました。 ぜひお楽しみ頂けたら嬉しいです。 詳細等はTwitter(@svkobo)で最新情報載せています。 Stone Valley工房 みと
*keimiilagun様*
CMスペース番号 :M2部・M-12
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*一言コメント*
今回も人気カラーのイヤーカフ中心に製作しました❣️
ハートバブルイヤカフ新作は、オレンジ・ブラック
ハートウイングピアスも新作カラバリ増やしました
地球ネックレスも新作シルバーカラー!(※金具のカラー)
他アイテムも金属はシルバーカラーで製作しました
季節アイテムとして月夜桜/星夜桜イヤーカフ、ピアスも製作しました🌸
ぜひ推し活やお花見のお供にご利用くださいませ😆
*Glassぶどうの実様*
CMスペース番号 :C前期・C-13
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*一言コメント*
いつもキャラメルキューブショコラ様でお世話になっております(B-19)。
自然をテーマにしたガラスのアクセサリーを制作しています。
心はずむ春♡新作の四葉のピアス、季春限定のさくらんぼピアス、定番のキラキラシリーズはフリーサイズのリングもご用意致しました。
ガラスの輝きがウキウキのお出かけのお手伝いをすることが出来ますように…♡
どうぞよろしくお願い致します。
*MaRin様*
CMスペース番号 :C後期・C-12
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*一言コメント*
桜モチーフを中心に春の新作沢山準備しています!
お花の作品は瓶入りとなっているので身につけるだけではなく飾っても楽しんでいただけます^ ^
桜以外の春のお花も準備予定ですのでどうぞよろしくお願いします。
*Strawberry♡flower様*
CMスペース番号 :M3部・M-3
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*一言コメント*
【くまカップケーキ&うさぎカップケーキピニャータのバッグチャーム】 『毎回イベントで完売しているカップケーキピニャータのパステルシリーズになります。 ピニャータケーキをカットした時に溢れ出てくる驚き、嬉しさ、楽しい気持ちを表現したくて生まれたデザインです。 くまやうさぎちゃんが好きな方♡ 可愛いものが好きな方♡ パステルカラーが好きな方♡ 手にしたみなさんがHappyな気持ちになりますように☆』
*SheRa様*
CMスペース番号 :M1部・M-11
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*一言コメント*
「日々を彩る」をテーマにアクセサリーを作っていますSheRaです。CARAMEL MUSEUMでは、レースリボンのポニーフックと刺繍リボンのカチューシャを販売します。
春のコーディネートに合うカラーと使いやすいカラー両方を揃えました!
ぜひご覧いただけたら嬉しいです!よろしくお願いします!
*Nyomin ~Fake*Sweets~様*
CMスペース番号 :M2部・M-3
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*一言コメント*
M2部 3/9-3/15まで参加します「Nyomin ~Fake*Sweets~」と申します。
樹脂粘土でフェイクスイーツをモチーフにした、バッグチャームやブローチを制作しています。
キャラメルキューブ様では、AA-47に委託させて頂いております。
アンティーク・スイート系などのバリエーションで、世代を超えて身近にフェイクスイーツを楽しんでいただけたら嬉しいです♪
*黒猫亭様*
CMスペース番号 :M2部・M-17
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*一言コメント*
【魔女が紡ぐ物語のカケラ】をコンセプトに創作しております〝手作り装身具 黒猫亭〟です。 3回目のキャラメルミュージアム参加となります。 そして今回は3月開催ということで暖かな春の装いにふわりと華を添えるアイテムをメインにご用意いたしました。 開催中に行か��る方はもちろん、web通販にも対応していただけますのでよろしくお願いいたします。
*LittleSpica様*
CMスペース番号 :C中期・C-17
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*一言コメント*
Cスペース中期に参加しますLittleSpicaです。春をイメージしたアクセサリーを出展する予定です。 新作ができましたら随時Twitter(https://twitter.com/_LittleSpica)にて報告致しますのでよろしければご覧ください。 今回もよろしくお願いいたします。
*雪月風花様*
CMスペース番号 :M3部・M-10
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*一言コメント*
雪月風花です。 今回は春爛漫。 柔らかく咲く身に付けられる春をお届けします。 心癒されるアクセサリーたちをぜひお手に取ってご覧下さい。
*THEORY_MOVE様*
CMスペース番号 :M1部・M-18
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*一言コメント*
UVレジンやスワロフスキーなどを使って、お菓子をイメージしたアクセサリーを制作しています。 今回はパフェやクッキー缶、チョコレートギフトをイメージしたアクセサリーを制作しました。
*くろねこ工房様*
CMスペース番号 :C後期・C-18
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*一言コメント*
アクセサリー・雑貨やタイツ・オーバーニーソックスなどを制作している、くろねこ工房(CCC BB-10/AA-29)です。 猫ちゃんアピールアクキーの新作チャームver.と月モチーフアクセを正式販売開始します! 可愛い一輪桜や、そのまま定規シリーズの新カラーも並びます。 詳細はTwitter @conecowork にて。 軽くて使いやすいアクリルのオリジナルデザインアクセサリー、ぜひご覧ください!
*sakura日和様*
CMスペース番号 :M1部・M-12
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*一言コメント*
小さな中に世界と面白さを詰め込んだレジンアクセサリーを作っています。sakura日和です!
今回は桜をイメージした作品が多めで出展します♪
ほかに、美濃和紙を花にした和華シリーズの小さいバージョンも新しく登場! 万能クリップは相変わらず1点ものです。 そして変わらず中身は小さいので、是非お手に取ってご覧ください♪ 皆様と良きご縁が有りますように。
*porupotoruko様*
CMスペース番号 :C後期・C-5
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*一言コメント*
主に生き物モチーフを1点1点手描きで制作しておりますporupotorukoです。
今回は『花束とブレーメン』をテーマに春の陽気に踊りだしたくなるようなアクセサリーを出展します。
たくさんのお花の周りで音楽を奏でる動物、一緒に踊る動物。
楽しく、優しくなれるようなアクセサリーになるよう努めて制作いたします。ご覧頂けますと幸いです。
*TARADOLL様*
CMスペース番号 :M3部・M-7
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*一言コメント*
ゆめかわいい世界に、一軒のキノコのおうち。
女の子の名前はTARADOLL。
目を瞑って、楽しいことを考えるのが大好き。
とってもオシャレでレトロかわいい女の子や男の子のイラストを描いています。
彼らも目を瞑って楽しい事を考えているよう…
こちらはそんな女の子が開いているお店です。
今回のイベントでは、新作のオリジナル切手が
入ったポストカードセットや、リリアンで編んだアクセサリーなどなどを販売します。
*tommy110369様*
CMスペース番号 :M2部・M-8
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*一言コメント*
レジンを用いて、綺麗な景色を小さな世界に閉じ込めています(*uωu*)
可愛いモチーフや、綺麗な世界を眺めて身につけて癒されて、元気になって頂ければと思います♡ 是非ご覧頂けたらと思います(*´꒳`*)
*-Kotorico-コトリコ様*
CMスペース番号 :C前期・C-16
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*一言コメント*
-Kotorico-コトリコです。
プラバン、レジン、ビーズメインで和装小物やアクセサリー等を製作しています。
定番の蝶々ブローチや春らしいヘアゴム等ご用意しました。身につけて楽しくなるような作品作りを心がけて丁寧に製作しております。
*citron candy様*
CMスペース番号 :M1部・M-2
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*一言コメント*
citron candyのchaboと申します。
自分の好きを素直にをコンセプトにお花やフェイクスイーツのアクセサリー、ミニチュアのお帽子などの自分が可愛いと思うものを気の向くまま楽しく作っています。
ミニチュアのお帽子は、ぬいちゃんやドールさんだけでなくインテリアやご自身のヘアアクセなど使い手様のお好きなようにお使いいただけたら嬉しいです。
1つ1つ表情が違いますので、是非お手に取ってご覧ください。
*雪華様*
CMスペース番号 :C前期・C-18
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*一言コメント*
金属を薬品で腐食させる、エッチングという手法で作成したオリジナルデザインの純金めっきプレートを使って、アクセサリーや雑貨を作っている雪華です。
桜のヴィジューイヤーアクセ中心に春らしいアイテムのほか、卒業式など式典用にも人気の和綴じアクセ、定番の風鈴風イヤーアクセには柄入りビーズが新登場!
そのほか新作も準備中です。どうぞよろしくお願い致します!
*blaue meer様*
CMスペース番号 :C中期・C-9
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*一言コメント*
同じ形のない世界に1つしかない紫陽花クラゲのアクセサリーと、耳元で輝く小さなアクセサリーをお届けします。 ブリザードフラワーの紫陽花に、足をイメージした長めのチェーンはユラユラと揺れ、雫のようなクラゲをイメージした他には無いアクセサリー。 また、日常使いは勿論仕事でも使える、耳元で輝く小さなアクセサリーをご用意しました。好きな色、推し色を見つけて下さい どうぞよろしくお願いいたします
*月のきまぐれ様*
CMスペース番号 :M3部・M-8
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*一言コメント*
M3部(スペース番号M-8)に参加させて頂くことになりました月のきまぐれと申します。 レジンやリボンを使ったアクセサリーを製作しています。 今回はキラキラ可愛い魔法モチーフに加えて春らしいデザインのアクセも多数ご用意しております。 詳細はTwitter(@tkmk_lights)でも発信しておりますので是非チェックしてみて下さい(^^)
*pure*wire様*
CMスペース番号 :C前期・C-24
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*一言コメント*
チタンワイヤーと天然石やガラスでアクセサリーを作っています。
前回ご好評頂いた雪の結晶を始め、春らしい桜や薔薇、定番の翼もご用意致します。
チタンは軽くて丈夫で錆びない、そして金属アレルギーを非常に起こしにくい素材ですので、お手入れの煩わしさや、重さ、アレルギーでアクセサリーを諦めていた方等、沢山の方に楽しんで頂けたら嬉しいです。
*NERO様*
CMスペース番号 :M4部・M-15
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*一言コメント*
「幻想的」「繊細」「儚さ」がコンセプトなアクセサリーを製作。 自作イラストから様々な色、形の「夢胡蝶シリーズ」を作っています。 儚くもあり”個性”のある作品たちが 皆さまを幻想的な世界へと誘います。 今回は、ご好評のパール×蝶シリーズや、鮮やかな色に注目して作ったネックレスを中心に置かせていただく予定です。是非お手に取ってご覧くださいませ。
*ななつ森様*
CMスペース番号 :C後期・C-3
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*一言コメント*
「ななつ森」と申します。イーハトーブの片隅にある名もなき小さな森に咲く花をイメージし、マニキュアフラワーをメインとしたアクセサリーを作成しています。
一つ一つ咲かせた花は同じ花でもそれぞれの個性があるので、貴方だけの花として楽しんでいただければ嬉しいです。 今回は桜、椿、アネモネや雪柳など春の花を集めましたので、よろしくお願いします。
*wangen様*
CMスペース番号 :M3部・M-14
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*一言コメント*
「見た人の顔がほころぶような、そんな一品との素敵な出会いを」をテーマに、仕事の傍ら花や星、月をモチーフにしたアクセサリーを製作しています。
今回は春ということで、ピンクなど春の色を中心としたラインナップでお届けします!
*爪装猫丸様*
CMスペース番号 :C中期・C-21
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*一言コメント*
天然石を指先だけを使いワイヤーラップするフカネ巻き®でのアクセサリーを作っています。
14KGFワイヤーの色味とカラフルなストーンをお楽しみください。
*Spica LILA様*
CMスペース番号 :C後期・C-8
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*一言コメント*
ちょっとロマンチックなきらめくアクセサリーを制作している【Spica LILA】です。 今回はC後期 3/20〜3/28の期間に参加させていただきます! 春らしいお花やはちみつモチーフを中心に、お出かけに上品なかわいさと華やかさをプラスするアクセサリーをご用意します。 お気に入りが見つかりますように! 新作・新色制作などの情報はTwitter(@Spica_LILA)でお知らせします。
*SugarShark様*
CMスペース番号 :C前期・C-17
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*一言コメント*
ブログをご覧の皆様こんにちは!
3/3から3/11まで初参加のSugarSharkです✧︎
今回は春ということで春にピッタリなパステル系の色でお花×ビジューのアクセサリーを沢山制作しました!
シンプルなものからキラキラなものまで幅広く用意しています!
少しでもワクワクしたり自信になったらいいなと思い制作してまいりましたので手に取って見て頂けたら幸いです!
ご来場、心よりお待ちしております♡
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replus-japan · 7 years
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引き続き連投📩 びったんちゃんも気に入ってくれまたか❣️ 嬉しいです〜〜😊😊 Repost from @mirai0121 @TopRankRepost #TopRankRepost びったんも使うー ・ #新しい爪とぎ #replus #nailcat #保護猫祭 ・ #チビ太 #nicochibi #猫全身黒タイツ組 #猫 #黒猫 #cat #blackcat #ピクネコ #ペコねこ部 #みんねこ #catsofinstagram #telekitty #vitjunk #instacat_meows #pecon #にゃんとかめら #ウェブキャットショー #ウェブキャットショー2 ・ #nikon1j4 #1nikkor18_5mm
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kurihara-yumeko · 3 years
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【小説】The day I say good-bye(4/4) 【再録】
 (3/4)はこちらから→(https://kurihara-yumeko.tumblr.com/post/648720756262502400/)
 今思えば、ひーちゃんが僕のついた嘘の数々を、本気で信じていたとは思えない。
 何度も何度も嘘を重ねた僕を、見抜いていたに違いない。
「きゃああああああああああああーっ!」
 絶叫、された。
 耳がぶっ飛ぶかと思った。
 長い髪はくるくると幾重にもカーブしていた。レースと玩具の宝石であしらわれたカチューシャがまるでティアラのように僕の頭の上に鎮座している。桃色の膨らんだスカートの下には白いフリルが四段。半袖から剥き出しの腕が少し寒い。スカートの中もすーすーしてなんだか落ち着かない。初めて穿いた黒いタイツの感触も気持ちが悪い。よく見れば靴にまでリボンが付いている。
 鏡に映った僕は、どう見てもただの女の子だった。
「やっだー、やだやだやだやだ、どうしよー。――くんめっちゃ女装似合うね!」
 クラス委員長の長篠めいこさん(彼女がそういう名前であることはついさっき知った)は、女装させられた僕を明らかに尋常じゃない目で見つめている。彼女が僕にウィッグを被らせ、お手製のメイド服を着せた本人だというのに、僕の女装姿に瞳を爛々と輝かせている。
「準備の時に一度も来てくれないから、衣装合わせができなくてどうなるかと思っていたけど、サイズぴったりだね、良かった。――くんは華奢だし細いし顔小さいしむさくるしくないし、女装したところでノープロブレムだと思っていたけれど、これは予想以上だったよっ」
 準備の際に僕が一度も教室を訪れなかったのは、連日、保健室で帆高の課題を手伝わされていたからだ。だけれどそれは口実で、本当はクラスの準備に参加したくなかったというのが本音。こんなふざけた企画、携わりたくもない。
 僕が何を考えているかを知る由もない長篠さんは、両手を胸の前で合わせ、真ん丸な眼鏡のレンズ越しに僕を見つめている。レーザー光線のような視線だ。見つめられ続けていると焼け焦げてしまいそうになる。助けを求めて周囲をすばやく見渡したが、クラスメイトのほぼ全員がコスチュームに着替え終わっている僕の教室には、むさくるしい男のメイドか、ただのスーツといっても過言ではない燕尾服を着た女の執事しか見当たらない。
「すね毛を剃ってもらう時間はなかったので、急遽、脚を隠すために黒タイツを用意したのも正解だったね。このほっそい脚がさらに際立つというか。うんうん、いい感じだねっ!」
 長篠さん自身、黒いスーツを身に纏っている。彼女こそが、今年の文化祭でのうちのクラスの出し物、「男女逆転メイド・執事喫茶」の発案者であり、責任者だ。こんなふざけた企画をよくも通してくれたな、と怨念を込めてにらみつけてみたけれど、彼女は僕の表情に気付いていないのかにこにこと笑顔だ。
「ねぇねぇ、――くん、せっかくだし、お化粧もしちゃう? ネイルもする? 髪の毛もっと巻いてあげようか? あたし、――くんだったらもっと可愛くなれるんじゃないかなって思うんだけど」
 僕の全身を舐め回すように見つめる長篠さんはもはや正気とは思えない。だんだんこの人が恐ろしくなってきた。
「めいこ、その辺にしておきな」
 僕が何も言わないでいると、思わぬ方向から声がかかった。
 振り向くと僕の後ろには、長身の女子が立っていた。男子に負けないほど背の高い彼女は、教室の中でもよく目立つ。クラスメイトの顔と名前をろくに記憶していない僕でも、彼女の姿は覚えていた。それは背が高いという理由だけではなく、言葉では上手く説明できない、長短がはっきりしている複雑で奇抜な彼女の髪型のせいでもある。
 背が決して高いとは言えない僕よりも十五センチほど長身の彼女は、紫色を基調としたスーツを身に纏っている。すらっとしていて恰好いい。
「――くん、嫌がってるだろう」
「えー、あたしがせっかく可愛くしてあげようとしてるのにー」
「だったら向こうの野球部の連中を可愛くしてやってくれ。あんなの、気味悪がられて客を逃がすだけだよ」
「えー」
「えー、とか言わない。ほらさっさと行きな。クラス委員長」
 彼女に言われたので仕方なく、という表情で長篠さんが僕の側から離れた。と、思い出したかのように振り向いて僕に言う。
「あ、そうだ、――くん、その腕時計、外してねっ。メイド服には合わないからっ」
 この腕時計の下には、傷跡がある。
 誰にも見せたことがない、傷が。
 それを晒す訳にはいかなかった。僕がそれを無視して長篠さんに背を向けようとした時、側にいた長身の彼女が僕に向かって口を開いた。
「これを使うといいよ」
 そう言って彼女が差し出したのは、布製のリストバンドだった。僕のメイド服の素材と同じ、ピンク色の布で作られ、白いレースと赤いリボンがあしらわれている。
「気を悪くしないでくれ。めいこは悪気がある訳じゃないんだけど……」
 僕の頭の中は真っ白になっていた。突然手渡されたリストバンドに反応ができない。どうして彼女は、僕の手首の傷を隠すための物を用意してくれているんだ? 視界の隅では長篠さんがこちらに背を向けて去って行く。周りにいる珍妙な恰好のクラスメイトたちも、誰もこちらに注意を向けている様子はない。
「一体、どういう……」
 そう言う僕はきっと間抜けな顔をしていたんだろう、彼女はどこか困ったような表情で頭を掻いた。
「なんて言えばいいのかな、その、きみはその傷を負った日のことを、覚えてる?」
 この傷を負った日。
 雨の日の屋上。あーちゃんが死んだ場所。灰色の空。緑色のフェンス。あと一歩踏み出せばあーちゃんと同じところに行ける。その一歩の距離。僕はこの傷を負って、その場所に立ち尽くしていた。
 同じところに傷を負った、ミナモと初めて出会った日だ。
「その日、きみ、保健室に来たでしょ」
 そうだ。僕はその後、保健室へ向かった。ミナモは保健室を抜け出して屋上へ来ていた。��のミナモを探しに来た教師に僕とミナモは発見され、ふたり揃って保健室で傷の手当を受けた。
「その時私は、保健室で熱を測っていたんだ」
 あの時に保健室に他に誰かいたかなんて覚えていない。僕はただ精いっぱいだった。死のうとして死ねなかった。それだけで精いっぱいだったのだ。
 長身の彼女はそう言って、ほんの少しだけ笑った。それは馬鹿にしている訳でもなく、面白がっている訳でもなく、微笑みかけてくれていた。
「だから、きみの手首に傷があることは知ってる。深い傷だったから、痕も残ってるんだろうと思って、用意しておいたんだ」
 私は裁縫があまり得意ではないから、めいこの作ったものに比べるとあまり良い出来ではないけどね。彼女はそう付け足すように言う。
「使うか使わないかは、きみの自由だけど。そのまま腕時計していてもいいと思うしね。めいこは少し、完璧主義すぎるよ。こんな中学生の女装やら男装やらに、完璧さなんて求めてる人なんかいないのにね」
 僕はいつも、自分のことばかりだ。今だって、僕の傷のことを考慮してくれている人間がいるなんて、思わなかった。
 それじゃあ、とこちらに背を向けて去って行こうとする彼女の後ろ姿を、僕は呼び止める。
「うん?」
 彼女は不思議そうな顔をして振り向いた。
「きみの、名前は?」
 僕がそう尋ねると、彼女はまた笑った。
「峠茶屋桜子」
 僕は生まれて初めて、クラスメイトの顔と名前を全員覚えておかなかった自分を恥じた。
    峠茶屋さんが作ってくれたリストバンドは、せっかくなので使わせてもらうことにした。
 それを両手首に装着して保健室へ向かってみると、そこには河野ミナモと河野帆高の姿が既にあった。
「おー、やっと来たか……って、え、ええええええええええええ!?」
 椅子に腰掛け、行儀の悪いことに両足をテーブルに乗せていた帆高は、僕の来訪を視認して片手を挙げかけたところで絶叫しながら椅子から落下した。頭と床がぶつかり合う鈍い音が響く。ベッドのカーテンの隙間から様子を窺うようにこちらを見ていたミナモは、僕の姿を見てから興味なさそうに目線を逸らす。相変わらず無愛想なやつだ。
「な、何、お前のその恰好……」
 床に転がったまま帆高が言う。
「何って……メイド服だけど」
 帆高には、僕のクラスが男女逆転メイド・執事喫茶を文化祭の出し物でやると言っておいたはずだ。僕のメイド服姿が見物だなんだと馬鹿にされたような記憶もある。
「めっちゃ似合ってるじゃん、お前!」
「……」
 不本意だけれど否定できない僕がいる。
「びびる! まじでびびる! お前って実は女の子だった訳!?」
「そんな訳ないだろ」
「ちょっと、スカートの中身、見せ……」
 床に座ったまま僕のメイド服に手を伸ばす帆高の頭に鉄拳をひとつお見舞いした。
 そんな帆高も頭に耳、顔に鼻、尻に尻尾を付けており、どうやら狼男に変装しているようだ。テーブルの上には両手両足に嵌めるのであろう、爪の生えた肉球付きの手袋が置いてある。これぐらいのコスプレだったらどれだけ心穏やかでいられるだろうか。僕は女装するのは人生これで最後にしようと固く誓った。
「そんな恰好で恥ずかしくないの? 親とか友達とか、今日の文化祭に来ない訳?」
「さぁ……来ないと思うけど」
 僕の両親は今日も朝から仕事に行った。そもそも、今日が文化祭だという事実も知っているとは思えない。
 別の中学校に通っている小学校の頃の友人たちとはもう連絡も取り合っていないし、顔も合わせていないので、来るのか来ないのかは知らない。僕以外の誰かと親交があれば来るのかもしれないが、僕には関係のない話だ。
 そう、そのはずだった。だが僕の予想は覆されることになる。
 午前十時に文化祭は開始された。クラス委員長である長篠めいこさんが僕に命じた役割は、クラスの出し物である男女逆転メイド・執事喫茶の宣伝をすることだった。段ボール製のプラカードを掲げて校舎内を循環し、客を呼び込もうという魂胆だ。
 結局、ミナモとは一言も言葉を交わさずに出て来てしまった、と思う。うちの学校の文化祭は一般公開もしている。今日の校内にはいつも以上に人が溢れている。保健室登校のミナモにとっては、つらい一日になるかもしれない。
 お化け屋敷を出し物にしているクラスばかりが並んでいる、我が校の文化祭名物「お化け屋敷ロード」をすれ違う人々に異様な目で見られていることをひしひしと感じながら、プラカードを掲げ、チラシを配りながら歩いていくと、途中で厄介な人物に遭遇した。
「おー、少年じゃん」
 日褄先生だ。
 目の周りを黒く塗った化粧や黒尽くめのその服装はいつも通りだったが、しばらく会わなかった間に、曇り空より白かった頭髪は、あろうことか緑色になっていた。これでスクールカウンセラーの仕事が務まるのだろうか。あまりにも奇抜すぎる。だが咄嗟のことすぎて、驚きのあまり声が出ない。
「ふーん、めいこのやつ、裁縫上手いんじゃん。よくできてる」
 先生は僕の着用しているメイド服のスカートをめくろうとするので、僕はすばやく身をかわして後退した。「変態か!」と叫びたかったが、やはり声にならない。
 助けを求めて周囲に視線を巡らせて、僕は人混みからずば抜けて背の高い男性がこちらに近付いてくるのがわかった。
 前回、図書館の前で出会った時はオールバックであったその髪は、今日はまとめられていない。モスグリーンのワイシャツは第一ボタンが開いていて、おまけにネクタイもしていない。ズボンは腰の位置で派手なベルトで留められている。銀縁眼鏡ではなく、色の薄いサングラスをかけていた。シャツの袖をまくれば恐らくそこには、葵の御紋の刺青があるはずだ。左手の中指に日褄先生とお揃いの指輪をしている彼は、日褄先生の婚約者だ。
「葵さん……」
 僕が名前を呼ぶと、彼は僕のことを睨みつけた。しばらくして、やっと僕のことが誰なのかわかったらしい。少し驚いたように片眉を上げて、口を半分開いたところで、
「…………」
 だが、葵さんは何も言わなかった。
 僕の脇を通り抜けて、日褄先生のところに歩いて行った。すれ違いざまに、葵さんが何か妙なものを小脇に抱えているなぁと思って振り返ってみると、それは大きなピンク色のウサギのぬいぐるみだった。
「お、葵、お帰りー」
 日褄先生がそう声をかけると、葵さんは無言のままぬいぐるみを差し出した。
「なにこのうさちゃん、どうしたの?」
 先生はそれを受け取り、ウサギの頭に顎を置きながらそう訊くと、葵さんは黙って歩いてきた方向を指差した。
「ああ、お化け屋敷の景品?」
 葵さんはそれには答えなかった。そもそも僕は、彼が口を利いたところを見たことがない。それだけ寡黙な人なのだ。彼は再び僕を見ると、それから日褄先生へ目線を送った。ウサギの耳で遊ぶのに夢中になっていた先生はそれに気付いているのかいないのか、
「男女逆転メイド・執事喫茶、やってるんだって」
 と僕の服装の理由を説明した。だが葵さんは眉間の皺を深めただけだった。そしてそのまま、彼は歩き出してしまう。日褄先生はぬいぐるみの耳をぱたぱた手で動かしていて、それを追おうともしない。
「……いいんですか? 葵さん、行っちゃいましたけど……」
「あいつ、文化祭ってものを見たことがないんだよ。ろくに学校行ってなかったから。だから連れて来てみたんだけど、なんだか予想以上にはしゃいじゃってさー」
 葵さんの態度のどこがはしゃいでいるように見えるのか、僕にはわからないが、先生にはわかるのかもしれない。
「あ、そうだ、忘れるところだった、少年のこと、探しててさ」
「何か用ですか?」
「はい、チーズ」
 突然、眩しい光が瞬いた。一体いつ、どこから取り出したのか、先生の手にはインスタントカメラが握られていた。写真を撮られてしまったようだ。メイド服を着て、付け毛を付けている、僕の、女装している写真が……。
「な、ななななななな……」
 何をしているんですか! と声を荒げるつもりが、何も言えなかった。日褄先生は颯爽と踵を返し、「あっはっはっはっはー!」と笑いながら階段を駆け下りて行った。その勢いに、追いかける気も起きない。
 僕はがっくりと肩を落とし、それでもプラカードを掲げながら校内の循環を再開することにした。僕の予想に反して、賑やかな文化祭になりそうな予感がした。
 お化け屋敷ロードの一番端は、河野帆高のクラスだったが、廊下に帆高の姿はなかった。あいつはお化け役だから、教室の中にいるのだろう。
 あれから、帆高はあーちゃんが僕に残したノートについて一言も口にしていない。僕の方から語ることを待っているのだろうか。協力してもらったのだから、いずれきちんと話をするべきなんじゃないかと考えてはいるけれど、今はまだ上手く、僕も言葉にできる自信がない。
 廊下の端の階段を降りると、そこは射的ゲームをやっているクラスの前だった。何やら歓声が上がっているので中の様子を窺うと、葵さんが次々と景品を落としているところだった。大人の本気ってこわい。
 中央階段の前の教室では、自主製作映画の上映が行われているようだった。「戦え!パイナップルマン」というタイトルの、なんとも言えないシュールな映画ポスターが廊下には貼られている。地球侵略にやってきたタコ星人ヲクトパスから地球を救うために、八百屋の片隅で売れ残っていた廃棄寸前のパイナップルが立ち上がる……ポスターに記されていた映画のあらすじをそこまで読んでやめた。
 ちょうど映画の上映が終わったところらしい、教室からはわらわらと人が出てくる。僕は歩き出そうとして、そこに見知った顔を見つけてしまった。
 色素の薄い髪。切れ長の瞳と、ひょろりとした体躯。物静かな印象を与える彼は、
「あっくん……」
「うー兄じゃないですか」
 妙に大人びた声音。口元の端だけを僅かに上げた、作り笑いに限りなく似た笑顔。
 鈴木篤人くんは、僕よりひとつ年下の、あーちゃんの弟だ。
「一瞬、誰だかわかりませんでしたよ。まるで女の子だ」
「……来てたんだ、うちの文化祭」
 私立の中学校に通うあっくんが、うちの中学の文化祭に来たという話は聞いたことがない。それもそのはずだ。この学校で、彼の兄は飛び降り自殺したのだから。
「たまたま今日は部活がなかったので。ちょっと遊びに来ただけですよ」
 柔和な笑みを浮かべてそう言う。だけれどその笑みは、どこか嘘っぽく見えてしまう。
「うー兄は、どうして女装を?」
「えっと、男女逆転メイド・執事喫茶っていうの、クラスでやってて……」
 僕は掲げていたプラカードを指してそう説明すると、ふうん、とあっくんは頷いた。
「それじゃあ、最後にうー兄のクラスを見てから帰ろうかな」
「あ、もう帰るの?」
「本当は、もう少しゆっくり見て行くつもりだったんですが……」
 彼はどこか困ったような表情をして、頭を掻いた。
「どうも、そういう訳にはいかないんです」
「何か、急用?」
「まぁ、そんなもんですかね。会いたくない人が――」
 あっくんはそう言った時、その双眸を僅かに細めたのだった。
「――会いたくない人が、ここに来ているみたいなので」
「そう……なんだ」
「だからすみません、今日はそろそろ失礼します」
「ああ、うん」
「うー兄、頑張って下さい」
「あり���とう」
 浅くもなく深くもない角度で頭を下げてから、あっくんは人混みの中に消えるように歩き出して行った。
 友人も知人も少ない僕は、誰にも会わないだろうと思っていたけれど、やっぱり文化祭となるとそうは言っていられないみたいだ。こうもいろんな人に自分の女装姿を見られると、恥ずかしくて死にたくなる。穴があったら入りたいとはまさにこのことなんじゃないだろうか。
 教室で来客の応対をしたりお菓子やお茶の用意をすることに比べたらずっと楽だが、こうやって校舎を循環しているのもなかなかに飽きてきた。保健室でずる休みでもしようか。あそこには恐らく、ミナモもいるはずだから。
 そうやって僕も歩き出し、保健室へ続く廊下を歩いていると、僕は突然、頭をかち割われたような衝撃に襲われた。そう、それは突然だった。彼女は唐突に、僕の前に現れたのだ。
 嘘だろ。
 目が、耳が、口が、心臓が、身体が、脳が、精神が、凍りつく。
 耳鳴り、頭痛、動悸、震え。
 揺らぐ。視界も、思考も。
 僕はやっと気付いた。あっくんが言う、「会いたくない人」の意味を。
 あっくんは彼女がここに来ていることを知っていた。だから会いたくなかったのだ。
 でもそんなはずはない。世界が僕を置いて行ったように、きみもそこに置いて行かれたはずだ。僕のついた不器用な嘘のせいで、あの春の日に閉じ込められたはずだ。きみの時間は、止まったはずだ。
 言ったじゃないか、待つって。ずっと待つんだって。
 もう二度と帰って来ない人を。
 僕らの最愛の、あーちゃんを。
「あれー、うーくんだー」
 へらへらと、彼女は笑った。
「なにその恰好、女の子みたいだよ」
 楽しそうに、愉快そうに、面白そうに。
 あーちゃんが生きていた頃は、一度だってそんな風に笑わなかったくせに。
 色白の肌。華奢で小柄な体躯。相手を拒絶するかのように吊り上がった猫目。伸びた髪。身に着けている服は、制服ではなかった。
 でもそうだ。
 僕はわかっていたはずだ。日褄先生は僕に告げた。ひーちゃんが、学校に来るようになると。いつかこんな日が来ると。彼女が、世界に追いつく日がやって来ると。
 僕だけが、置いて行かれる日が来ることを。
「久しぶりだね、うーくん」
「……久しぶり、ひーちゃん」
 僕は、ちっとも笑えなかった。あーちゃんが生きていた頃は、ちゃんと笑えていたのに。
 市野谷比比子はそんな僕を見て、満面の笑みをその顔に浮かべた。
   「……だんじょぎゃくてん、めいど……しつじきっさ…………?」
 たどたどしい口調で、ひーちゃんは僕が持っていたプラカードの文字を読み上げる。
「えっとー、男女が逆だから、うーくんが女の子の恰好で、女の子が男の子の恰好をしてるんだね」
 そう言いながら、ひーちゃんはプラスチック製のフォークで福神漬けをぶすぶすと刺すと、はい、と僕に向かって差し出してくる。
「これ嫌い、うーくんにあげる」
「どうも」
 僕はいつから彼女の嫌いな物処理係になったのだろう、と思いながら渡されたフォークを受け取り、素直に福神漬けを咀嚼する。
「でもうーくん、女装似合うね」
「それ、あんまり嬉しくないから」
 僕とひーちゃんは向き合って座っていた。ひーちゃんに会ったのは、僕が彼女の家を訪ねた夏休み以来だ。彼女はあれから特に変わっていないように見える。着ている服は今日も黒一色だ。彼女は、最愛の弟、ろーくんが死んだあの日から、ずっと黒い服を着ている。
 僕らがいるのは新校舎二階の一年二組の教室だ。PTAの皆さまが営んでいるカレー屋である。この文化祭で調理が認められているのは、大人か、調理部の連中だけだ。午後になり、生徒も父兄も体育館で行われている軽音部やら合唱部やらのコンサートを観に行ってしまっているので、校舎に残る人は少ない。店じまいしかけているカレー屋コーナーで、僕たちは遅めの昼食を摂っていた。僕は未だに、メイド服を着たままだ。
 ひーちゃんとカレーライスを食べている。なんだか不思議な感覚だ。ひーちゃんがこの学校にいるということ自体が、不思議なのかもしれない。彼女は入学してからただの一度も、この学校の門をくぐったことがなかったのだ。
 どうしてひーちゃんは、ここにいるんだろう。ひーちゃんにとって、ここは、もう終わってしまった場所のはずなのに。ここだけじゃない。世界じゅうが、彼女の世界ではなくなってしまったはずなのに。あーちゃんのいない世界なんて、無に等しいはずなのに。なのにひーちゃんは、僕の目の前にいて、美味しそうにカレーを食べている。
 ときどき、僕の方を見て、話す。笑う。おかしい。だってひーちゃんの両目は、いつもどこか遠くを見ていたはずなのに。ここじゃないどこかを夢見ていたのに。
 いつかこうなることは、わかっていた。永遠なんて存在しない。不変なんてありえない。世界が僕を置いて行ったように、いずれはひーちゃんも動き出す。僕はずっとそうわかっていたはずだ。僕が今までについた嘘を全部否定して、ひーちゃんが再び、この世界で生きようとする日が来ることを。
 思い知らされる。
 あの日から僕がひーちゃんにつき続けた嘘は、あーちゃんは本当は生きていて、今はどこか遠くにいるだけだと言ったあの嘘は、何ひとつ価値なんてなかったということを。僕という存在がひーちゃんにとって、何ひとつ価値がなかったということを。わかっていたはずだ。ひーちゃんにとっては僕ではなくて、あーちゃんが必要なんだということを。あーちゃんとひーちゃんと僕で、三角形だったなんて大嘘だ。僕は最初から、そんな立ち位置に立てていなかった。全てはそう思いたかった僕のエゴだ。三角形であってほしいと願っていただけだ。
 そうだ。
 本当はずっと、僕はあーちゃんが妬ましかったのだ。
「カレー食べ終わったら、どうする? 少し、校内を見て行く?」
 僕がそう尋ねると、ひーちゃんは首を左右に振った。
「今日は先生たちには内緒で来ちゃったから、面倒なことになる前に帰るよ」
「あ、そうなんだ……」
「来年は『僕』も、そっち側で参加できるかなぁ」
「そっち側?」
「文化祭、やれるかなぁっていうこと」
 ひーちゃんは、楽しそうな笑顔だ。
 楽しそうな未来を、思い描いている表情。
「……そのうち、学校に来るようになるんだって?」
「なんだー、あいつ、ばらしちゃったの? せっかく驚かせようと思ったのに」
 あいつ、とは日褄先生のことだろう。ひーちゃんは日褄先生のことを語る時、いつも少し不機嫌になる。
「……大丈夫なの?」
「うん? 何が?」
 僕の問いに、ひーちゃんはきょとんとした表情をした。僕はなんでもない、と言って、カレーを食べ続ける。
 ねぇ、ひーちゃん。
 ひーちゃんは、あーちゃんがいなくても、もう大丈夫なの?
 訊けなかった言葉は、ジャガイモと一緒に飲み込んだ。
「ねぇ、うーくん、」
 ひーちゃんは僕のことを呼んだ。
 うーくん。
 それは、あーちゃんとひーちゃんだけが呼ぶ、僕のあだ名。
 黒い瞳が僕を見上げている。
 彼女の唇から、いとも簡単に嘘のような言葉が零れ落ちた。
「あーちゃんは、もういないんだよ」
「…………え?」
 僕は耳を疑って、訊き返した。
「今、ひーちゃん、なんて……」
「だから早く、帰ってきてくれるといいね、あーちゃん」
 そう言ってひーちゃんは、にっこり笑った。まるで何事もなかったみたいに。
 あーちゃんの死なんて、あーちゃんの存在なんて、最初から何もなかったみたいに。
 僕はそんなひーちゃんが怖くて、何も言わずにカレーを食べた。
「あーちゃん」こと鈴木直正が死んだ後、「ひーちゃん」こと市野谷比比子は生きる気力を失くしていた。だから「うーくん」こと僕、――――は、ひーちゃんにひとつ嘘をついた。
 あーちゃんは生きている。今はどこか遠くにいるけれど、必ず彼は帰ってくる、と。
 カレーを食べ終えたひーちゃんは、帰ると言うので僕は彼女を昇降口まで見送ることにした。
 二人で廊下を歩いていると、ふと、ひーちゃんの目線は窓の外へと向けられる。目線の先を追えば、そこには旧校舎の屋上が見える。そう、あーちゃんが飛び降りた、屋上が見える。
「ねぇ、どうしてあーちゃんは、空を飛んだの?」
 ひーちゃんは虚ろな瞳で窓から空を見上げてそう言った。
「なんであーちゃんはいなくなったの? ずっと待ってたのに、どうして帰って来ないの? ずっと待ってるって約束したのに、どうして? 違うね、約束したんじゃない、『僕』が勝手に決めたんだ。あーちゃんがいなくなってから、そう決めた。あーちゃんが帰って来るのを、ずっと待つって。待っていたら、必ず帰って来てくれるって。あーちゃんは昔からそうだったもんね。『僕』がひとりで泣いていたら、必ずどこからかやって来て、『僕』のこと慰めてくれた。だから今度も待つって決めた。だってあーちゃんが、帰って来ない訳ないもん。『僕』のことひとりぼっちにするはずないもん。そんなの、許せないよ」
 僕には答える術がない。
 幼稚な嘘はもう使えない。手持ちのカードは全て使い切られた。
 ひーちゃんは、もうずっと前から気付いていたはずだ。あーちゃんはもう、この世界にいないなんだって。僕のついた嘘が、とても稚拙で下らないものだったんだって。
「嘘つきだよ、皆、嘘つきだよ。ろーくんも、あーちゃんも、嘘つき。嘘つき嘘つき嘘つき。うーくんだって、嘘つき」
 ひーちゃんの言葉が、僕の心を突き刺していく。
 でも僕は逃げられない。だってこれは、僕が招いた結果なのだから。
「皆大嫌い」
 ひーちゃんが正面から僕に向かい合った。それがまるで決別の印であるとでも言うかのように。
 ちきちきちきちきちきちきちきちき。
 耳慣れた音が聞こえる。
 僕の左手首の内側、その傷を作った原因の音がする。
 ひーちゃんの右手はポケットの中。物騒なものを持ち歩いているんだな、ひーちゃん。
「嘘つき」
 ひーちゃんの瞳。ひーちゃんの唇。ひーちゃんの眉間に刻まれた皺。
 僕は思い出す。小学校の裏にあった畑。夏休みの水やり当番。あの時話しかけてきた担任にひーちゃんが向けた、殺意に満ちたあの顔。今目の前にいる彼女の表情は、その時によく似ている。
「うーくんの嘘つき」
 殺意。
「帰って来るって言ったくせに」
 殺意。
「あーちゃんは、帰って来るって言ったくせに!」
 嘘つきなのは、どっちだよ。
「ひーちゃんだって、気付いていたくせに」
 僕の嘘に気付いていたくせに。
 あーちゃんは死んだってわかっていたくせに。
 僕の嘘を信じたようなふりをして、部屋に引きこもって、それなのにこうやって、学校へ来ようとしているくせに。世界に馴染もうとしているくせに。あーちゃんが死んだ世界がもう終わってしまった代物だとわかっているのに、それでも生きようとしているくせに。
 ひーちゃんは、もう僕の言葉にたじろいだりしなかった。
「あんたなんか、死んじゃえ」
 彼女はポケットからカッターナイフを取り出すと、それを、
      鈍い衝撃が身体じゅ���に走った。
 右肩と頭に痛みが走って、無意識に呻いた。僕は昇降口の床に叩きつけられていた。思い切り横から突き飛ばされたのだ。揺れる視界のまま僕は上半身を起こし、そして事態はもう間に合わないのだと知る。
 僕はよかった。
 怪我を負ってもよかった。刺されてもよかった。切りつけられてもよかった。殺されたって構わない。
 だってそれが、僕がひーちゃんにできる最後の救いだと、本気で思っていたからだ。
 僕はひーちゃんに嘘をついた。あーちゃんは生きていると嘘をついた。ついてはいけない嘘だった。その嘘を、彼女がどれくらい本気で信じていたのか、もしくはどれくらい本気で信じたふりを演じていてくれていたのかはわからない。でも僕は、彼女を傷つけた。だからその報いを受けたってよかった。どうなってもよかったんだ。だってもう、どうなったところで、あーちゃんは生き返ったりしないのだから。
 だけど、きみはだめだ。
 どうして僕を救おうとする。どうして、僕に構おうとする。放っておいてくれとあれだけ示したのに、どうして。僕はきみをあんなに傷つけたのに。どうしてきみはここにいるんだ。どうして僕を、かばったんだ。
 ひーちゃんの握るカッターナイフの切っ先が、ためらうことなく彼女を切り裂いた。
 ピンク色の髪留めが、宙に放られるその軌跡を僕の目は追っていた。
「佐渡さん!」
 僕の叫びが、まるで僕のものじゃないみたいに響く。周りには不気味なくらい誰もいない。
 市野谷比比子に切りつけられた佐渡梓は、床に倒れ込んでいく。それがスローモーションのように僕の目にはまざまざと映る。飛び散る赤い飛沫が床に舞う。
 僕は起き上がり走った。ひーちゃんの虚ろな目。再度振り上げ��れた右手。それが再び佐渡梓を傷つける前に、僕は両手を広げ彼女をかばった。
「    」
 一瞬の空白。ひーちゃんの唇が僅かに動いたのを僕は見た。その小さな声が僕の耳に届くよりも速く、刃は僕の右肩に突き刺さる。
 痛み。
 背後で佐渡梓の悲鳴。けれどひーちゃんは止まらない。僕の肩に突き刺さったカッターを抜くと彼女はそれをまた振り上げて、
  そうだよな。
 痛かったよな。
 あーちゃんは、ひーちゃんの全部だったのに。
 あーちゃんが生きているなんて嘘ついて、ごめん。
 そして振り下ろされた。
  だん、と。
 地面が割れるような音がした。
  一瞬、地震が起こったのかと思った。
 不意に目の前が真っ暗になり、何かが宙を舞った。少し離れたところで、からんと金属のものが床に落ちたような高い音が聞こえる。
 僕とひーちゃんの間に割り込んできたのは、黒衣の人物だった。ひーちゃんと同じ、全身真っ黒で整えられた服装。ただしその頭髪だけが、毒々しいまでの緑色に揺れている。
「…………日褄先生」
 僕がやっとの思いで絞り出すようにそれだけ言うと、彼女は僕に背中を向けてひーちゃんと向き合ったまま、
「せんせーって呼ぶなっつってんだろ」
 といつも通りの返事をした。
「ひとりで学校に来れたなんて、たいしたもんじゃねぇか」
 日褄先生はひーちゃんに向けてそう言ったが、彼女は相変わらず無表情だった。
 がらんどうの瞳。がらんどうの表情。がらんどうの心。がらんどうのひーちゃんは、いつもは嫌がる大嫌いな日褄先生を目の前にしても微動だにしない。
「なんで人を傷つけるようなことをしたんだよ」
 先生の声は、いつになく静かだった。僕は先生が今どんな表情をしているのかはわからないけれど、それは淡々とした声音だ。
「もう誰かを失いたくないはずだろ」
 廊下の向こうから誰かがやって来る。背の高いその男性は、葵さんだった。彼はひーちゃんの少し後ろに落ちているカッターナイフを無言で拾い上げている。それはさっきまで、ひーちゃんの手の中にあったはずのものだ。どうしてそんなところに落ちているのだろう。
 少し前の記憶を巻き戻してみて、僕はようやく、日褄先生が僕とひーちゃんの間に割り込んだ時、それを鮮やかに蹴り上げてひーちゃんの手から吹っ飛ばしたことに気が付いた。日褄先生、一体何者なんだ。
 葵さんはカッターナイフの刃を仕舞うと、それをズボンのポケットの中へと仕舞い、それからひーちゃんに後ろから歩み寄ると、その両肩を掴んで、もう彼女が暴れることができないようにした。そうされてもひーちゃんは、もう何も言葉を発さず、表情も変えなかった。先程見せたあの強い殺意も、今は嘘みたいに消えている。
 それから日褄先生は僕を振り返り、その表情が僕の思っていた以上に怒りに満ちたものであることを僕の目が視認したその瞬間、頬に鉄拳が飛んできた。
 ごっ、という音が自分の顔から聞こえた。骨でも折れたんじゃないかと思った。今まで受けたどんな痛みより、それが一番痛かった。
「てめーは何ぼんやり突っ立ってんだよ」
 日褄先生は僕のメイド服の胸倉を乱暴に掴むと怒鳴るように言った。
「お前は何をしてんだよ、市野谷に殺されたがってんじゃねーよ。やべぇと思ったらさっさと逃げろ、なんでそれぐらいのこともできねーんだよ」
 先生は僕をまっすぐに見ていた。それは恐ろしいくらい、まっすぐな瞳だった。
「なんでどいつもこいつも、自分の命が大事にできねーんだよ。お前わかってんのかよ、お前が死んだら市野谷はどうなる? 自分の弟を目の前で亡くして、大事な直正が自殺して、それでお前が市野谷に殺されたら、こいつはどうなるんだよ」
「……ひーちゃんには、僕じゃ駄目なんですよ。あーちゃんじゃないと、駄目なんです」
 僕がやっとの思いでそれだけ言うと、今度は平手が反対の頬に飛んできた。
 熱い。痛いというよりも、熱い。
「直正が死んでも世界は変わらなかった。世界にとっちゃ人ひとりの死なんてたいしたことねぇ、だから自分なんて世界にとってちっぽけで取るに足らない、お前はそう思ってるのかもしれないが、でもな、それでもお前が世界の一部であることには変わりないんだよ」
 怒鳴る、怒鳴る、怒鳴る。
 先生は僕のことを怒鳴った。
 こんな風に叱られるのは初めてだ。
 こんな風に、叱ってくれる人は初めてだった。
「なんでお前は市野谷に、直正は生きてるって嘘をついた? 市野谷がわかりきっているはずの嘘をどうしてつき続けた? それはなんのためだよ? どうして最後まで、市野谷がちゃんと笑えるようになるまで、側で支えてやろうって思わないんだよ」
 そうだ。
 そうだった。日褄先生は最初からそうだった。
 優しくて、恐ろしいくらい乱暴なのだ。
「市野谷に殺されてもいい、自分なんて死んでもいいなんて思ってるんじゃねぇよ。『お前だから駄目』なんじゃねぇよ、『直正の代わりをしようとしているお前だから』駄目なんだろ?」
 日褄先生は最後に怒鳴った。
「もういい加減、鈴木直正の代わりになろうとするのはやめろよ。お前は―――だろ」
  お前は、潤崎颯だろ。
  やっと。
 やっと僕は、自分の名前が、聞き取れた。
 あーちゃんが死んで、ひーちゃんに嘘をついた。
 それ以来僕はずっと、自分の名前を認めることができなかった。
 自分の名前を口にするのも、耳にするのも嫌だった。
 僕は代わりになりたかったから。あーちゃんの代わりになりたかったから。
 あーちゃんが死んだら、ひーちゃんは僕を見てくれると、そう思っていたから。
 でも駄目だった。僕じゃ駄目だった。ひーちゃんはあーちゃんが死んでも、あーちゃんのことばかり見ていた。僕はあーちゃんになれなかった。だから僕なんかいらなかった。死んだってよかった。どうだってよかったんだ。
 嘘まみれでずたずたで、もうどうしようもないけれど、それでもそれが、「僕」だった。
 あーちゃんになれなくても、ひーちゃんを上手に救えなくても、それでも僕は、それでもそれが、潤崎颯、僕だった。
 日褄先生の手が、僕の服から離れていく。床に倒れている佐渡梓は、どこか呆然と僕たちを見つめている。ひーちゃんの表情はうつろなままで、彼女の肩を後ろから掴んでいる葵さんは、まるでひーちゃんのことを支えているように見えた。
 先生はひーちゃんの元へ行き、葵さんはひーちゃんからゆっくりと手を離す。そうして、先生はひーちゃんのことを抱き締めた。先生は何も言わなかった。ひーちゃんも、何も言わなかった。葵さんは無言で昇降口から出て行って、しばらくしてから帰ってきた。その時も、先生はひーちゃんを抱き締めたままで、僕はそこに突っ立っていたままだった。
 やがて日褄先生はひーちゃんの肩を抱くようにして、昇降口の方へと歩き出す。葵さんは昇降口前まで車を回していたようだ。いつか見た、黒い車が停まっていた。
 待って下さい、と僕は言った。
 日褄先生は立ち止まった。ひーちゃんも、立ち止まる。
 僕はひーちゃんに駆け寄った。
 ひーちゃんは無表情だった。
 僕は、ひーちゃんに謝るつもりだった。だけど言葉は出て来なかった。喉元まで込み上げた言葉は声にならず、口から嗚咽となって溢れた。僕の目からは涙がいくつも零れて、そしてその時、ひーちゃんが小さく、ごめんね、とつぶやくように言った。僕は声にならない声をいくつもあげながら、ただただ、泣いた。
 ひーちゃんの空っぽな瞳からも、一粒の滴が転がり落ちて、あーちゃんの死から一年以上経ってやっと、僕とひーちゃんは一緒に泣くことができたのだった。
    ひーちゃんに刺された傷は、軽傷で済んだ。
 けれど僕は、二週間ほど学校を休んだ。
「災難でしたね」
 あっくん、あーちゃんの弟である鈴木篤人くんは、僕の部屋を見舞いに訪れて、そう言った。
「聞きましたよ、文化祭で、ひー姉に切りつけられたんでしょう?」
 あーちゃんそっくりの表情で、あっくんはそう言った。
「とうとうばれたんですか、うー兄のついていた嘘は」
「……最初から、ばれていたようなものだよ」
 あーちゃんとよく似ている彼は、その日、制服姿だった。部活の帰りなのだろう、大きなエナメルバッグを肩から提げていて、手にはコンビニの袋を握っている。
「それで良かったんですよ。うー兄にとっても、ひー姉にとっても」
 あっくんは僕の部屋、椅子に腰かけている。その両足をぷらぷらと揺らしていた。
「兄貴のことなんか、もう忘れていいんです。あんなやつのことなんて」
 あっくんの両目が、すっと細められる。端正な顔立ちが、僅かに歪む。
 思い出すのは、あーちゃんの葬式の時のこと。
 式の最中、あっくんは外へ斎場の外へ出て行った。外のベンチにひとりで座っていた。どこかいらいらした様子で、追いかけて行った僕のことを見た。
「あいつ、不器用なんだ」
 あっくんは不満そうな声音でそう言った。あいつとは誰だろうかと一瞬思ったけれど、すぐにそれが死んだあーちゃんのことだと思い至った。
「自殺の原因も、昔のいじめなんだって。ココロノキズがいけないんだって。せーしんかのセンセー、そう言ってた。あいつもイショに、そう書いてた」
 あーちゃんが死んだ時、あっくんは小学五年生だった。今のような話し方ではなかった。彼はごく普通の男の子だった。あっくんが変わったのは、あっくんがあーちゃんのように振る舞い始めたのは、あーちゃんが死んでからだ。
「あいつ、全然悪くないのに、傷つくから駄目なんだ。だから���くて、いじめられるんだ。おれはあいつより強くなるよ。あいつの分まで生きる。人のこといじめたりとか、絶対にしない」
 あっくんは、一度も僕と目を合わさずにそう言った。僕はあーちゃんの弱さと、あっくんの強さを思った。不機嫌そうに、「あーちゃんの分まで生きる」と言った、彼の強さを思った。あっくんのような強さがあればいいのに、と思った。ひーちゃんにも、強く生きてほしかった。僕も、そう生きるべきだった。
 あーちゃんが死んだ後、あーちゃんの家族はいつも騒がしそうだった。たくさんの人が入れ替わり立ち替わりやって来ては帰って行った。ときどき見かけるあっくんは、いつも機嫌が悪そうだった。あっくんはいつも怒っていた。あっくんただひとりが、あーちゃんの死を、怒っていた。
「――あんなやつのことを覚えているのは、僕だけで十分です」
 あっくんはそう言って、どうしようもなさそうに、笑った。
 あっくんも、僕と同じだった。
 あーちゃんの代わりになろうとしていた。
 ただそれは、ひーちゃんのためではなく、彼の両親のためだった。
 あーちゃんが死んだ中学校には通わせられないという両親の期待に応えるために、あっくんは猛勉強をして私立の中学に合格した。
 けれど悲しいことに両親は、それを心から喜びはしなかった。今のあっくんを見ていると、死んだあーちゃんを思い出すからだ。
 あっくんはあーちゃんの分まで生きようとして、そしてそれが、不可能であると知った。自分は自分としてしか、生きていけないのだ。
「僕は忘れないよ、あーちゃんのこと」
 僕がそうぽつりと言うと、あっくんの顔はこちらへと向いた。あっくんのかけている眼鏡のレンズが蛍光灯の光を反射して、彼の表情を隠している。そうしていると、本当に、そこにあーちゃんがいるみたいだった。
「……僕は忘れない。あーちゃんのことを、ずっと」
 自分に言い聞かせるように、僕はそう続けて言った。
「僕も、あーちゃんの分まで生きるよ」
 あーちゃんが欠けた、この世界で。
「…………」
 あっくんは黙ったまま、少し顔の向きを変えた。レンズは光を反射しなくなり、眼鏡の下の彼の顔が見えた。それは、あーちゃんに似ているようで、だけど確かに、あっくんの表情だった。
「そうですか」
 それだけつぶやくように言うと、彼は少しだけ笑った。
「兄貴もきっと、その方が喜ぶでしょう」
 あっくんはそう言って、持っていたコンビニの袋に入っていたプリンを「見舞いの品です」と言って僕の机の上に置くと、帰って行った。
 その後ろ姿はもう、あーちゃんのようには見えなかった。
 その二日後、僕は部屋でひとり寝ていると玄関のチャイムが鳴ったので出てみると、そこには河野帆高が立っていた。
「よー、潤崎くん。元気?」
「……なんで、僕の家を知ってるの?」
「とりあえずお邪魔しまーす」
「…………なんで?」
 呆然としている僕の横を、帆高はすり抜けるようにして靴を脱いで上がって行く。こいつが僕の家の住所を知っているはずがない。訊かれたところで担任が教えるとも思えない。となると、住所を教えたのは、やはり、日褄先生だろうか。僕は溜め息をついた。どうしてあのカウンセラーは、生徒の個人情報を守る気がないのだろう。困ったものだ。
 勝手に僕の部屋のベッドに寝転んでくつろいでいる帆高に缶ジュースを持って行くと、やつは笑いながら、
「なんか、美少女に切りつけられたり、美女に殴られたりしたんだって?」
 と言った。
「間違っているような、いないような…………」
「すげー修羅場だなー」
 けらけらと軽薄に、帆高が笑う。あっくんが見舞いに訪れた時と同様に、帆高も制服姿だった。学校帰りに寄ってくれたのだろう。ごくごくと喉を鳴らしてジュースを飲んでいる。
「はい、これ」
 帆高は鞄の中から、紙の束を取り出して僕に差し出した。受け取って確認するまでもなかった。それは、僕が休んでいる間に学級で配布されたのであろう、プリントや手紙だった。ただ、それを他クラスに所属している帆高から受け取るというのが、いささか奇妙な気はしたけれど。
「どうも……」
「授業のノートは、学校へ行くようになってから本人にもらって。俺のノートをコピーしてもいいんだけど、やっぱクラス違うと微妙に授業の進度とか感じも違うだろうし」
「…………本人?」
 僕が首をかしげると、帆高は、ああ、と思い出したように言った。
「これ、ミナモからの預かり物なんだよ。自分で届けに行けばって言ったんだけど、やっぱりそれは恥ずかしかったのかねー」
 ミナモが、僕のプリントを届けることを帆高に依頼した……?
 一体、どういうことだろう。だってミナモは、一日じゅう保健室にいて、教室内のことには関与していないはずだ。なんだか、嫌な予感がした。
「帆高、まさか、なんだけど…………」
「そのまさかだよ、潤崎くん」
 帆高は飄々とした顔で言った。
「ミナモは、文化祭の振り替え休日が明けてからのこの二週間、ちゃんと教室に登校して、休んでるあんたの代わりに授業のノートを取ってる」
「…………は?」
「でもさー、ミナモ、ノート取る・取らない以前に、黒板に書いてある文字の内容を理解できてるのかねー? まぁノート取らないよりはマシだと思うけどさー」
「ちょ、ちょっと待って……」
 ミナモが、教室で授業を受けている?
 僕の代わりに、ノートを取っている?
 一体、何があったんだ……?
 僕は呆然とした。
「ほんと、潤崎くんはミナモに愛されてるよねー」
「…………」
 ミナモが聞いたらそうしそうな気がしたから、代わりに僕が帆高の頭に鉄拳を制裁した。それでも帆高はにやにやと笑いながら、言った。
「だからさ、怪我してんのも知ってるし、学校休みたくなる気持ちもわからなくはないけど、なるべく早く、学校出て来てくれねーかな」
 表情と不釣り合いに、その声音は真剣だったので、僕は面食らう。ミナモのことを気遣っていることが窺える声だった。入学して以来、一度も足を向けたことのない教室で、授業に出てノートを取っているのだから、無理をしていないはずがない。いきなりそんなことをするなんて、ミナモも無茶をするものだ。いや、無茶をさせているのは、僕なのだろうか。
 あ、そうだ、と帆高は何かを思い出したかのようにつぶやき、鞄の中から丸められた画用紙を取り出した。
「……それは?」
「ミナモから、預かってきた。お見舞いの品」
 ミナモから、お見舞いの品?
 首を傾げかけた僕は、画用紙を広げ、そこに描かれたものを見て、納得した。
 河野ミナモと、僕。
 死にたがり屋と死に損ない。
 自らの死を願って雨の降る屋上へ向かい、そこで出会った僕と彼女は、ずるずると、死んでいくように生き延びたのだ。
「……これから、授業に出るつもり、なのかな」
「ん? ああ、ミナモのことか? どうだろうなぁ」
 僕は思い出していた。文化祭の朝、リストバンドをくれた、峠茶屋桜子さんのこと。僕とミナモが出会った日に、保健室で僕たちに偶然出会ったことを彼女は覚えていてくれていた。彼女のような人もクラスにはいる。僕だってミナモだって、クラスの人たちと全く関わり合いがない訳ではないのだ。僕たちもまだ、世界と繋がっている。
「河野も、変わろうとしてるのかな……」
 死んだ方がいい人間だっている。
 初めて出会ったあの日、河野ミナモはそう言った。
 僕もそう思っていた。死んだ方がいい人間だっている。僕だって、きっとそうだと。
 だけど僕たちは生きている。
 ミナモが贈ってくれた絵は、やっぱり、あの屋上から見た景色だった。夏休みの宿題を頼んだ時に描いてもらった絵の構図とほとんど同じだった。屋上は無人で、僕の姿もミナモの姿もそこには描かれていない。だけど空は、澄んだ青色で塗られていた。
 僕は帆高に、なるべく早く学校へ行くよ、と約束して、それから、どうかミナモの変化が明るい未来へ繋がるように祈った。
 河野帆高が言っていた通り、僕が学校を休んでいた約二週間の間、ミナモは朝教室に登校してきて、授業を受け、ノートを取ってくれていた。けれど、僕が学校へ行くようになると、保健室登校に逆戻りだった。
 昼休みの保健室で、僕はミナモからルーズリーフの束を受け取った。筆圧の薄い字がびっしりと書いてある。
 僕は彼女が贈ってくれた絵のことを思い出した。かつてあーちゃんが飛び降りて、死のうとしていた僕と、死にたがりのミナモが出会ったあの屋上。そこから見た景色を、ミナモはのびのびとした筆使いで描いていた。綺麗な青い色の絵具を使って。
 授業ノートの字は、その絵とは正反対な、神経質そうに尖っているものだった。中学入学以来、一度も登校していなかった教室に足を運び、授業を受けたのだ。ルーズリーフのところどころは皺寄っている。緊張したのだろう。
「せっかく来るようになったのに、もう教室に行かなくていいの?」
「……潤崎くんが来るなら、もう行かない」
 ミナモは長い前髪の下から睨みつけるように僕を一瞥して、そう言った。
 それもそうだ。ミナモは人間がこわいのだ。彼女にとっては、教室の中で他人の視線に晒されるだけでも恐ろしかったに違いないのに。
 ルーズリーフを何枚かめくり、ノートの文字をよく見れば、ときどき震えていた。恐怖を抑えようとしていたのか、ルーズリーフの余白には小さな絵が描いてあることもあった。
「ありがとう、河野」
「別に」
 ミナモは保健室のベッドの上、膝に乗せたスケッチブックを開き、目線をそこへと向けていた。
「行くところがあるんじゃないの?」
 もう僕に興味がなくなってしまったかのような声で彼女はそう言って、ただ鉛筆を動かすだけの音が保健室には響き始めた。
 僕はもう一度ミナモに礼を言ってから、保健室を後にした。
    ずっと謝らなくてはいけないと思っている人がいた。
 彼女はなんだか気まずそうに僕の前でうつむいている。
 昼休みの廊下の片隅。僕と彼女の他には誰もいない。呼び出したのは僕の方だった。文化祭でのあの事件から、初めて登校した僕は、その日のうちに彼女の教室へ行き、彼女のクラスメイトに呼び出してもらった。
「あの…………」
「なに?」
「その、怪我の、具合は……?」
「僕はたいしたことないよ。もう治ったし。きみは?」
「私も、その、大丈夫です」
「そう……」
 よかった、と言おうとした言葉を、僕は言わずに飲み込んだ。これでよいはずがない。彼女は無関係だったのだ。彼女は、僕やひーちゃん、あーちゃんたちとは、なんの関係もなかったはずなのに。
「ごめん、巻き込んでしまって」
「いえ、そんな……勝手に先輩のことをかばったのは、私ですから……」
 文化祭の日。僕がひーちゃんに襲われた時、たまたま廊下を通りかかった彼女、佐渡梓は僕のことをかばい、そして傷を負った。
 怪我は幸いにも、僕と同様に軽傷で済んだようだが、でもそれだけで済む話ではない。彼女は今、カウンセリングに通い、「心の傷」を癒している。それもそうだ。同じ中学校に在籍している先輩女子生徒に、カッターナイフで切りつけられたのだから。
「きみが傷を負う、必要はなかったのに…��」
 どうして僕のことを、かばったりしたのだろう。
 僕は佐渡梓の好意を、いつも踏みつけてきた。ひどい言葉もたくさんぶつけた。渡された手紙は読まずに捨てたし、彼女にとって、僕の態度は冷徹そのものだったはずだ。な���にどうして、彼女は僕を助けようとし��のだろう。
「……潤崎先輩に、一体何があって、あんなことになったのか、私にはわかりません」
 佐渡梓はそう言った。
「思えば、私、先輩のこと何も知らないんだなって、思ったんです。何が好きなのか、とか、どんな経験をしてきたのか、とか……。先輩のクラスに、不登校の人が二人いるってことは知っていました。ひとりは河野先輩で、潤崎先輩と親しいみたいだってことも。でも、もうひとりの、市野谷先輩のことは知らなくて……潤崎先輩と、幼馴染みだってことも……」
 僕とひーちゃんのことを知っているのは、同じ小学校からこの中学に進学してきた連中くらいだ。と言っても、僕もひーちゃんも小学校時代の同級生とそこまで交流がある訳じゃなかったから、そこまでは知られていないのではないだろうか。僕とひーちゃん、そして、あーちゃんのことも知っているという人間は、この学校にどれくらいいるのだろう。
 さらに言えば、僕とひーちゃんとあーちゃん、そして、ひーちゃんの最愛の弟ろーくんの事故のことまで知っている人間は、果たしているのだろうか。日褄先生くらいじゃないだろうか。
 僕たちは、あの事故から始まった。
 ひーちゃんはろーくんを目の前で失い、そして僕とあーちゃんに出会った。ひーちゃんは心にぽっかり空いた穴を、まるであーちゃんで埋めるようにして、あーちゃんを世界の全てだとでも言うようにして、生きるようになった。そんなあーちゃんは、ある日屋上から飛んで、この世界からいなくなってしまった。そうして役立たずの僕と、再び空っぽになったひーちゃんだけが残された。
 そうして僕は嘘をつき、ひーちゃんは僕を裏切った。
 僕を切りつけた刃の痛みは、きっとひーちゃんが今まで苦しんできた痛みだ。
 あーちゃんがもういないという事実を、きっとひーちゃんは知っていた。ひーちゃんは僕の嘘に騙されたふりをした。そうすればあーちゃんの死から逃れられるとでも思っていたのかもしれない。壊れたふりをしているうちに、ひーちゃんは本当に壊れていった。僕はどうしても、彼女を正しく導くことができなかった。嘘をつき続けることもできなかった。だからひーちゃんは、騙されることをやめたのだ。自分を騙すことを、やめた。
 僕はそのことを、佐渡梓に話そうとは思わなかった。彼女が理解してくれる訳がないと決めつけていた訳ではないが、わかってもらわなくてもいいと思っていた。でも僕が彼女を巻き込んでしまったことは、もはや変えようのない事実だった。
「今回のことの原因は、僕にあるんだ。詳しくは言えないけれど。だから、ひーちゃん……市野谷さんのことを責めないであげてほしい。本当は、いちばん苦しいのは市野谷さんなんだ」
 僕の言葉に、佐渡梓は決して納得したような表情をしなかった。それでも僕は、黙っていた。しばらくして、彼女は口を開いた。
「私は、市野谷先輩のことを責めようとか、訴えようとか、そんな風には思いません。どうしてこんなことになったのか、理由を知りたいとは思うけれど、潤崎先輩に無理に語ってもらおうとも思いません……でも、」
 彼女はそこまで言うと、うつむいていた顔を上げ、僕のことを見た。
 ただ真正面から、僕を見据えていた。
「私は、潤崎先輩も、苦しかったんじゃないかって思うんです。もしかしたら、今だって、先輩は苦しいんじゃないか、って……」
 僕は。
 佐渡梓にそう言われて、笑って誤魔化そうとして、泣いた。
 僕は苦しかったんだろうか。
 僕は今も、苦しんでいるのだろうか。
 ひーちゃんは、あの文化祭での事件の後、日褄先生に連れられて精神科へ行ったまま、学校には来ていない。家にも帰っていない。面会謝絶の状態で、会いに行くこともできないのだという。
 僕はどうかひーちゃんが、苦しんでいないことを願った。
 もう彼女は、十分はくらい苦しんできたと思ったから。
    ひーちゃんから電話がかかってきたのは、三月十三日のことだった。
 僕の中学校生活は何事もなかったかのように再開された。
 二週間の欠席を経て登校を始めた当初は、変なうわさと奇妙な視線が僕に向けられていたけれど、もともとクラスメイトと関わり合いのなかった僕からしてみれば、どうってことはなかった。
 文化祭で僕が着用したメイド服を作ってくれたクラス委員の長篠めいこさんと、リストバンドをくれた峠茶屋桜子さんとは、教室の中でときどき言葉を交わすようになった。それが一番大きな変化かもしれない。
 ミナモの席もひーちゃんの席も空席のままで、それもいつも通りだ。
 ミナモのはとこである帆高の方はというと、やつの方も相変わらずで、宿題の提出率は最悪みたいだ。しょっちゅう廊下で先生たちと鬼ごっこをしている。昼休みの保健室で僕とミナモがくつろいでいると、ときどき顔を出しにくる。いつもへらへら笑っていて、楽しそうだ。なんだかんだ、僕はこいつに心を開いているんだろうと思う。
 佐渡梓とは、あれからあまり会わなくなってしまった。彼女は一年後輩で、校舎の中ではもともと出会わない。委員会や部活動での共通点もない。彼女が僕のことを好きになったこと自体が、ある意味奇跡のようなものだ。僕をかばって怪我をした彼女には、感謝しなくてはいけないし謝罪しなくてはいけないと思ってはいるけれど、どうしたらいいのかわからない。最近になって少しだけ、彼女に言ったたくさんの言葉を後悔するようになった。
 日褄先生は、そう、日褄先生は、あれからスクールカウンセラーの仕事を辞めてしまった。婚約者の葵さんと結婚することになったらしい。僕の頬を殴ってまで叱咤してくれた彼女は、あっさりと僕の前からいなくなってしまった。そんなこと、許されるのだろうか。僕はまだ先生に、なんのお礼もしていないのに。
 僕のところには携帯電話の電話番号が記されたはがきが一枚届いて、僕は一度だけそこに電話をかけた。彼女はいつもと変わらない明るい声で、とんでもないことを平気でしゃべっていた。ひーちゃんのことも、僕のことも、彼女はたった一言、「もう大丈夫だよ」とだけ言った。
 そうこうしているうちに年が明け、冬休みが終わり、そうして三学期も終わった。
 三月十三日、電話が鳴った。
 あーちゃんが死んだ日だった。
 二年前のこの日、あーちゃんは死んだのだ。
「あーちゃんに会いたい」
 電話越しだけれども、久しぶりに聞くひーちゃんの声は、やけに乾いて聞こえた。
 あーちゃんにはもう会えないんだよ、そう言おうとした僕の声を遮って、彼女は言う。
「知ってる」
 乾燥しきったような、淡々とした声。鼓膜の奥にこびりついて取れない、そんな声。
「あーちゃん、死んだんでしょ。二年前の今日に」
 思えば。
 それが僕がひーちゃんの口から初めて聞いた、あーちゃんの死だった。
「『僕』ね、ごめんね、ずっとずっと知ってた、ずっとわかってた。あーちゃんは、もういないって。だけど、ずっと認めたくなくて。そんなのずるいじゃん。そんなの、卑怯で、許せなくて、許したくなくて、ずっと信じたくなくて、ごめん、でも……」
 うん、とだけ僕は答えた。
 きっとそれは、僕のせいだ。
 ひーちゃんを許した、僕のせいだ。
 あーちゃんの死から、ずっと目を背け続けたひーちゃんを許した、僕のせいだ。
 ひーちゃんにそうさせた、僕のせい。
 僕の罪。
 一度でもいい、僕が、あーちゃんの死を見ないようにするひーちゃんに、無理矢理にでも現実を打ち明けていたら、ひーちゃんはきっと、こんなに苦しまなくてよかったのだろう。ひーちゃんの強さを信じてあげられなかった、僕のせい。
 あーちゃんが死んで、自分も死のうとしていたひーちゃんを、支えてあげられるだけの力が僕にはなかった。ひーちゃんと一緒に生きるだけの強さが僕にはなかった。だから僕は黙っていた。ひーちゃんがこれ以上壊れてしまわぬように。ひーちゃんがもっと、壊れてしまうように。
 僕とひーちゃんは、二年前の今日に置き去りになった。
 僕の弱さがひーちゃんの心を殺した。壊した。狂わせた。痛めつけた。苦しめた。
「でも……もう、『僕』、あーちゃんの声、何度も何度も何度も、何度考えても、もう、思い出せないんだよ……」
 電話越しの声に、初めて感情というものを感じた。ひーちゃんの今にも泣き出しそうな声に、僕は心が潰れていくのを感じた。
「お願い、うーくん。『僕』を、あーちゃんのお墓に、連れてって」
 本当は、二年前にこうするべきだった。
「……わかった」
 僕はただ、そう言った。
 僕は弱いままだったから。
 彼女の言葉に、ただ頷いた。
『僕が死んだことで、きっとひーちゃんは傷ついただろうね』
 そう書いてあったのは、あーちゃんが僕に残したもうひとつの遺書だ。
『僕は裏切ってしまったから。あの子との約束を、破ってしまったから』
 あーちゃんとひーちゃんの間に交わされていたその約束がなんなのか、僕にはわからないけれど、ひーちゃんにはきっと、それがわかっているのだろう。
  ひーちゃんがあーちゃんのことを語る度、僕はひーちゃんがどこかへ行ってしまうような気がした。
 だってあんまりにも嬉しそうに、「あーちゃん、あーちゃん」って言うから。ひーちゃんの大好きなあーちゃんは、もういないのに。
 ひーちゃんの両目はいつも誰かを探していて、隣にいる僕なんか見てくれないから。
  ひーちゃんはバス停で待っていた。交わす言葉はなかった。すぐにバスは来て、僕たちは一番後ろの席に並んで座った。バスに乗客の姿は少なく、窓の外は雨が降っている。ひーちゃんは無表情のまま、僕の隣でただ黙って、濡れた靴の先を見つめていた。
  ひーちゃんにとって、世界とはなんだろう。
 ひーちゃんには昨日も今日も明日もない。
 楽しいことがあっても、悲しいことがあっても、彼女は笑っていた。
 あーちゃんが死んだ時、あーちゃんはひーちゃんの心を道連れにした。僕はずっと心の奥底であーちゃんのことを恨んでいた。どうして死んだんだって。ひーちゃんに心を返してくれって。僕らに世界を、返してって。
  二十分もバスに揺られていると、「船頭町三丁目」のバス停に着いた。
 ひーちゃんを促してバスを降りる。
 雨は霧雨になっていた。持っていた傘を差すかどうか、一瞬悩んでから、やめた。
 こっちだよ、とひーちゃんに声をかけて歩き始める。ひーちゃんは黙ってついてくる。
 樫岸川の大きな橋の上を歩き始める。柳の並木道、古本屋のある四つ角、細い足場の悪い道、長い坂、苔の生えた石段、郵便ポストの角を左。
 僕はもう何度、この道を通ったのだろう。でもきっと、ひーちゃんは初めてだ。
 生け垣のある家の前を左。寺の大きな屋根が、突然目の前に現れる。
 僕は、あそこだよ、と言う。ひーちゃんは少し目線を上の方に動かして、うん、と小さな声で言う。その瞳も、口元も、吐息も、横顔も、手も、足も。ひーちゃんは小さく震えていた。僕はそれに気付かないふりをして、歩き続ける。ひーちゃんもちゃんとついてくる。
  ひーちゃんはきっと、ずっとずっと気付いていたのだろう。本当のことを。あーちゃんがこの世にいないことを。あーちゃんが自ら命を絶ったことも。誰もあーちゃんの苦しみに、寂しさに、気付いてあげられなかったことを。ひーちゃん��さえも。
 ひーちゃんは、あーちゃんが死んでからよく笑うようになった。今までは、能面のように無表情な少女だったのに。ひーちゃんは笑っていたのだ。あーちゃんがもういない世界を。そんな世界でのうのうと生きていく自分を。ばればれの嘘をつく、僕を。
  あーちゃんの墓前に立ったひーちゃんの横顔は、どこにも焦点があっていないかのように、瞳が虚ろで、だが泣いてはいなかった。そっと手を伸ばし、あーちゃんの墓石に恐る恐る触れると、霧雨に濡れて冷たくなっているその石を何度も何度も指先で撫でていた。
 墓前には真っ白な百合と、やきそばパンが供えてあった。あーちゃんの両親が毎年お供えしているものだ。
 線香のにおいに混じって、妙に甘ったるい、ココナッツに似たにおいがするのを僕は感じた。それが一体なんのにおいなのか、僕にはわかった。日褄先生がここに来て、煙草を吸ったのだ。彼女がいつも吸っていた、あの黒い煙草。そのにおいだった。ついさっきまで、ここに彼女も来ていたのだろうか。
「つめたい……」
 ひーちゃんがぽつりと、指先の感触の感想を述べる。そりゃ石だもんな、と僕は思ったが、言葉にはしなかった。
「あーちゃんは、本当に死んでいるんだね」
 墓石に触れたことで、あーちゃんの死を実感したかのように、ひーちゃんは手を引っ込めて、恐れているように一歩後ろへと下がった。
「あーちゃんは、どうして死んだの?」
「……ひとりぼっちみたいな、感覚になるんだって」
 あーちゃんが僕に宛てて書いた、彼のもうひとつの遺書の内容を思い出す。
「ひとりぼっち? どうして? ……私がいたのに」
 ひーちゃんはもう、自分のことを「僕」とは呼ばなかった。
「私じゃだめだった?」
「……そんなことはないと思う」
「じゃあ、どうして……」
 ひーちゃんはそう言いかけて、口をつぐんだ。ゆっくりと首を横に振って、ひーちゃんは、そうか、とだけつぶやいた。
「もう考えてもしょうがないことなんだ……。あーちゃんは、もういない。私が今さら何かを思ったって、あーちゃんは帰ってこないんだ……」
 ひーちゃんはまっすぐに僕を見上げて、続けるように言った。
「これが、死ぬってことなんだね」
 彼女の表情は凍りついているように見えた。
「そうか……ずっと忘れていた、ろーくんも死んだんだ……」
 ひーちゃんの最愛の弟、ろーくんこと市野谷品太くんは、僕たちが小学二年生の時に交通事故で亡くなった。ひーちゃんの目の前で、ろーくんの細くて小さい身体は、巨大なダンプに軽々と轢き飛ばされた。
 ひーちゃんは当時、過剰なくらいろーくんを溺愛していて、そうして彼を失って以来、他人との間に頑丈な壁を築くようになった。そんな彼女の前に現れたのが、僕であり、そして、あーちゃんだった。
「すっかり忘れてた。ろーくん……そうか、ずっと、あーちゃんが……」
 まるで独り言のように、ひーちゃんは言葉をぽつぽつと口にする。瞳が落ち着きなく動いている。
「そうか、そうなんだ、あーちゃんが……あーちゃんが…………」
 ひーちゃんの両手が、ひーちゃんの両耳を覆う。
 息を殺したような声で、彼女は言った。
「あーちゃんは、ずっと、ろーくんの代わりを……」
 それからひーちゃんは、僕を見上げた。
「うーくんも、そうだったの?」
「え?」
「うーくんも、代わりになろうとしてくれていたの?」
 ひーちゃんにとって、ろーくんの代わりがあーちゃんであったように。
 あーちゃんが、ろーくんの代用品になろうとしていたように。
 あっくんが、あーちゃんの分まで生きようとしていたように。
 僕は。
 僕は、あーちゃんの代わりに、なろうとしていた。
 あーちゃんの代わりに、なりたかった。
 けれどそれは叶わなかった。
 ひーちゃんが求めていたものは、僕ではなく、代用品ではなく、正真正銘、ほんものの、あーちゃんただひとりだったから。
 僕は稚拙な嘘を重ねて、ひーちゃんを現実から背けさせることしかできなかった。
 ひーちゃんの手を引いて歩くことも、ひーちゃんが泣いている間待つことも、あーちゃんにはできても、僕にはできなかった。
 あーちゃんという存在がいなくなって、ひーちゃんの隣に空いた空白に僕が座ることは許されなかった。代用品であることすら、認められなかった。ひーちゃんは、代用品を必要としなかった。
 ひーちゃんの世界には、僕は存在していなかった。
 初めから、ずっと。
 ずっとずっとずっと。
 ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと、僕はここにいたのに。
 僕はずっと寂しかった。
 ひーちゃんの世界に僕がいないということが。
 だからあーちゃんを、心の奥底では恨んでいた。妬ましく思っていた。
 全部、あーちゃんが死んだせいにした。僕が嘘をついたのも、ひーちゃんが壊れたのも、あーちゃんが悪いと思うことにした。いっそのこと、死んだのが僕の方であれば、誰もこんな思いをしなかったのにと、自分が生きていることを呪った。
 自分の命を呪った。
 自分の存在を呪った。
 あーちゃんのいない世界を、あーちゃんが死んだ世界を、あーちゃんが欠けたまま、それでもぐるぐると廻り続けるこの不条理で不可思議で不甲斐ない世界を、全部、ひーちゃんもあーちゃんもあっくんもろーくんも全部全部全部全部、まるっときちっとぐるっと全部、呪った。
「ごめんね、うーくん」
 ひーちゃんの細い腕が、僕の服の袖を掴んでいた。握りしめているその小さな手を、僕は見下ろす。
「うーくんは、ずっと私の側にいてくれていたのにね。気付かなくて、ごめんね。うーくんは、ずっとあーちゃんの代わりをしてくれていたんだね……」
 ひーちゃんはそう言って、ぽろぽろと涙を零した。綺麗な涙だった。綺麗だと、僕は思った。
 僕は、ひーちゃんの手を握った。
 ひーちゃんは何も言わなかった。僕も、何も言わなかった。
 結局、僕らは。
 誰も、誰かの代わりになんてなれなかった。あーちゃんもろーくんになることはできず、あっくんもあーちゃんになることはできず、僕も、あーちゃんにはなれなかった。あーちゃんがいなくなった後も、世界は変わらず、人々は生き続け、笑い続けたというのに。僕の身長も、ひーちゃんの髪の毛も伸びていったというのに。日褄先生やミナモや帆高や佐渡梓に、出会うことができたというのに。それでも僕らは、誰の代わりにもなれなかった。
 ただ、それだけ。
 それだけの、当たり前の事実が僕らには常にまとわりついてきて、その事実を否定し続けることだけが、僕らの唯一の絆だった。
 僕はひーちゃんに、謝罪の言葉を口にした。いくつもいくつも、「ごめん」と謝った。今までついてきた嘘の数を同じだけ、そう言葉にした。
 ひーちゃんは僕を抱き締めて、「もういいよ」と言った。もう苦しむのはいいよ、と言った。
 帰り道のバスの中で、四月からちゃんと中学校に通うと、ひーちゃんが口にした。
「受験、あるし……。今から学校へ行って、間に合うかはわからないけれど……」
 四月から、僕たちは中学三年生で高校受験が控えている。教室の中は、迫りくる受験という現実に少しずつ息苦しくなってきているような気がしていた。
 僕は、「大丈夫」なんて言わなかった。口にすることはいくらでもできる。その方が、もしかしたらひーちゃんの心を慰めることができるかもしれない。でももう僕は、ひーちゃんに嘘をつきたくなかった。だから代わりに、「一緒に頑張ろう」と言った。
「頭のいいやつが僕の友達にいるから、一緒に勉強を教えてもらおう」
 僕がそう言うと、ひーちゃんは小さく頷いた。
 きっと帆高なら、ひーちゃんとも仲良くしてくれるだろう。ミナモはどうかな。時間はかかるかもしれないけれど、打ち解けてくれるような気がする。ひーちゃんはクラスに馴染めるだろうか。でも、峠茶屋さんが僕のことを気にかけてくれたように、きっと誰かが気にかけてくれるはずだ。他人なんてくそくらえだって、ずっと思っていたけれど、案外そうでもないみたいだ。僕はそのことを、あーちゃんを失ってから気付いた。
 僕は必要とされたかっただけなのかもしれない。
 ひーちゃんに必要とされたかったのかもしれないし、もしかしたら誰か他人だってよかったのかもしれない。誰か他人に、求めてほしかったのかもしれない。そうしたら僕が生きる理由も、見つけられるような気がして。ただそれだけだ。それは、あーちゃんも、ひーちゃんも同じだった。だから僕らは不器用に、お互いを傷つけ合う方法しか知らなかった。自分を必要としてほしかったから。
 いつだったか、日褄先生に尋ねたことがあったっけ。
「嘘って、何回つけばホントになるんですか」って。先生は、「嘘は何回ついたって、嘘だろ」と答えたんだった。僕のついた嘘はいくら重ねても嘘でしかなかった。あーちゃんは、帰って来なかった。やっぱり今日は雨で、墓石は冷たく濡れていた。
 けれど僕たちは、やっと、現実を生きていくことができる。
「もう大丈夫だよ」
 日褄先生が僕に言ったその声が、耳元で蘇った。
 もう大丈夫だ。
 僕は生きていく。
 あーちゃんがいないこの世界で、今度こそ、ひーちゃんの手を引いて。
 
 ふたりで初めて手を繋いで帰った日。
 僕らはやっと、あーちゃんにサヨナラができた。
  あーちゃん。
 世界は透明なんかじゃない。
 君も透明なんかじゃない。
 僕は覚えている。あーちゃんのことも、一緒に見た景色も、過ごした日々のことも。
 今でも鮮明に、その色を思い出すことができる。
 たとえ記憶が薄れる日がきたって、また何度でも思い出せばいい。
 だからサヨナラは、言わないんだ。
 了
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chaukachawan · 5 years
Text
この世で最も大切なもの
それはバックアップデータです。
おはようございます、30期の木下愛梨(通称:きりみ。)です!…あれ?おはようございます?
すみません…こんなはずじゃ……こんなはずじゃなかったんだ!!私、役者紹介はとっくに下書きが終わっているということで昨日の投稿を当てられたのですが、さぁメモ帳からコピーしようという段階で��違って「切り取り」をタップしてしまいました。さらにパニクった私は何故かそのまま保存してしまいました。もちろん役者紹介は消えました。まぁまぁの人数分消えました。詰んだーーー。どんなものでもバックアップをとることは大切ですね。内容を思い出してひたすら入力する作業、なんともいえない悲しさですよ。皆さんは大切なレポートのデータとか飛ばさないように気をつけてくださいね!
そんなこんなでなんとか自力で復元した役者紹介でございます。今回は新歓公演ということで、役者としての姿と先輩としての姿、その両面から紹介していきたいと思いますよっ!しばしお付き合いくださいませ〜♪
●森中社(29期,法)ニックネーム:ジンジャー
ちゃうかのラブコメ作家といえばこの人でしょう!会社名ではなく「もりなかやしろ」さんです。すっかり脚本・演出の人という感じですが、役者としてもすごいのよ!学外公演で演じていた酒呑童子は本当にかっこよかった!普段はマスコットキャラみたいな先輩。この前天王寺動物園でトドだかセイウチだかを見たとき、この人に似てるなぁと思ってしまいました。
●児玉桃香(29期,文)ニックネーム:ぺちか
今年のうちの看板女優はこの人(※あくまで個人の感想です)!可愛いんだけどそれだけじゃないぜって感じの役者。その演技は、男も女も虜にするでしょう。まぁとにかく一度ご覧下さい◎普段は、溢れる「彼女感」がはんぱない先輩。女の子っぽい服のときとラフな格好のときのギャップがたまらん可愛い。初対面での話しやすさはトップクラスだと思う(経験者は語る)!
●渡部快平(30期,経)ニックネーム:ワカ
私は認めていないがイケメン!高身長(1820mm)イケボ経済学部、つまりイケメン!当初はクールな男かと思われていたが、なかなか弾けた演技もする役者。過去公演もぜひチェックして頂きたい!普段は、優しいお兄さんって感じの先輩になると思うけど、たまにキャラブレするので注意。舞台監督として厳しい姿も見せつつ、自由な私たちをきちんとまとめあげている。
●古家健作(30期,経)ニックネーム:あずぁす、Google(どっちも呼ばれてない)
さっきの渡部快平と並ぶ、30期の二大イケメン!公演終了後、いちばんかっこよかったって言われがちな役者。ちゃうか屈指の遅刻魔でありながら、演出補佐としてはその実力を遺憾なく発揮している。普段は「なんだこいつ……ただ者じゃねぇッ」って感じの先輩になるんじゃないかな。写真の腕がそんなに良くなくても彼はなんかかっこよく映るので、撮りたくなる。
●遠藤由己(29期,工・環エネ)ニックネーム:えんDo
ミスターオリジナリティ!表情と動きのコミカルさが特徴で、他の人にはなかなか真似できない役者。いい人やクレイジーキャラがテッパンかなぁ?普段は優しくて、「まぁなんとかなるんじゃね?」って言ってそうな先輩。言ってるかどうかは知らん。何を隠そう、このお方こそ我らが座長である!いつも太陽みたいな笑顔でちゃうかちゃわんを明るく支えてくれている。
●久保伊織(29期,人科)ニックネーム:イッヒ、ミッフィ、久保マッチョ(中略)伊織(後略)
ちゃうか随一のイケボの持ち主。演技の幅は広く、イケメンな役も似合うけれど、個人的にはむしろばりばりネタキャラの方が好きだなーと思う役者。普段はマッチョ紳士な副座長で、ポイ○ルを常に持ち歩いている。そんなポイフ○お兄さんは非常にデキる男。「困った時は久保伊織」みたいなとこある。全然怒らないからいつもおちょくってしまうけど、尊敬している。
●小澤祐貴(30期,工・電情)ニックネーム:オッズ
ちゃうかのツッコミマスター!難しいツッコミでも簡単そうにやってのけ、どんな役も彼色に染めてしまうタイプの役者。彼の代読をすると、彼が如何に凄いかを実感する。その無表情の裏にはアツいアドリブ魂と笑いの創造力を秘めているよ!普段は取っ付きにくい先輩…と見せかけて「なんやこの人めっちゃおもろい!」ってなると思う。後出しジャンケンみたいね。
●樹木キキ(30期,文)ニックネーム:キキ
群馬が産んだギャグマシーン!舞台上でいちばん可愛いのがこの子(公式)。たとえセリフが少なくても、観る者に鮮烈な印象を残していく役者。凄いと思う。でもそろそろこの子がヒロインの舞台も観てみたい気がする。普段は笑いに貪欲でありながらも品の良さを感じる、とてもキュートな先輩になるでしょう。似てるのかどうかよくわからんモノマネも可愛いからOK!
●三葛麻衣(30期,外・スペ)ニックネーム:きらら
圧倒的コメディヒロイン。メンヘラ情緒不安定ハイテンションキャラが上手いと思う。変顔やコントなど体を張って笑いを取りに行く傍ら、確かな演技力を見せている役者。普段は、「キラキラ外語女子…うっ眩し…くない!?」って感じの先輩になるでしょう。とても真面目なワーカホリック系女子です。まぁ働きすぎは良くないので、いいところだけ見習いましょう。
●髙木悠(30期,工・環エネ)ニックネーム:ばたけ
30期唯一のフォルムを持つ男。初稽古から本番までの伸び幅がいちばん大きい役者だと思う。まぁお客様は本番しか観られないので、これは言っても伝わらないんですけどね笑。普段は、新入生が話し下手でも沈黙回避できる先輩になるんじゃないかな。遊戯王と料理とメイクについて語らせたら急には止まれないぜ!あ、最近ダイエットを始めたらしい。頑張ればたけ!
●GEO(30期,工・応理)ニックネーム:GEO
身体能力高い系男子。ちゃうかの誰よりも高く飛べるよ!振り付けにジャンプがあると、彼だけ滞空時間がおかしくなるらしい。もし松岡修造役があったら絶対こいつに回ってくるだろうなって感じの役者(?)。普段は、新入生の憧れをかっさらっていく先輩になりそう。コミュ力と意識が高い。忙しい人だからあまり会えないかもしれないけど、絶対すぐ仲良くなれる。
●Airman(30期,基礎工・情)ニックネーム:エアーマン
史上最恐の奇才!ヤベェ奴の役がデフォルトな役者。脚本の段階でヤベェ役が、彼の演技によってよりヤベェ完成体となる。しかし奇行に惑わされず顔面だけ見てみると実は結構可愛かったり?普段は、後輩にも敬語で喋る先輩になりそう。いろいろ勢いが凄いので新入生は最初ヒくかもしれませんけど(笑)、すぐにめちゃくちゃいい奴だって分かるのでご安心ください◎
●初田和大(29期,工・応理)ニックネーム:Z
ちゃうかの騒音源!いるとうるさいがいないと寂しい。全身タイツ&ドーラン(顔用塗料)の装備率と劇中死亡率が高い役者。私にとって、ちゃうか本公演共演率100%の人。普段は、ぐいぐい来る割に引くところを弁えているため絡みやすい先輩。いつも(無駄に)元気なのに、最近は少しお疲れのご様子…私が所属する班のチーフなので、公演が終わったら労わってあげたい。
●音川(29期,文)ニックネーム:こりん
29期ナンバーワンパワープレイヤー(らしい)!男共が引き抜けなかった聖剣を引き抜いた過去を持つんだとか。可愛さとかっこよさを兼ね備えた役者です。ダンスや殺陣などで発揮される動きのキレが素晴らしい。普段は、人のことをよく見ていてくれる先輩。ちょっと沈んでいるときにはすぐに声をかけてくれたり、いいお姉ちゃんって感じ!でも誰よりもミニサイズ!
●木下愛梨(30期,工・環エネ)ニックネーム:きりみ。
GEOいわく、ちゃうか唯一の魚類。ちゃうかちゃわんの哺乳類率が100%にならない原因はこいつらしい。あ、これが私ね。人工知能・鬼女・黒猫・魔法少女と、普通の人間をまだ演じたことがない役者。早く人間になりた…って誰がベムやねん!普段は、方向音痴極めた世話の焼ける先輩になるでしょう。誰かと一緒に出かける時は、たとえ後輩でもその人を頼りにする予定。
●lulu(30期,法)ニックネーム:lulu
圧倒的正統派ヒロイン!なんと2018年度に出演した舞台の半数以上でヒロインを演じている。最年少とは思えない貫禄を見せる役者。普段は、一部(の性癖)に刺さる先輩になりそうな予感?従順なイヌよりも歯向かってくる者をねじ伏せる方がお好きらしい。…あれ、こんなこと言ってたかしら。なんか違う気がするけどとりあえずそんな感じの子!でもとても可愛いよ!
はい、役者は以上でございます。ただし、今回は出ていなくても個性的で素敵な役者は他にもたくさんいます◎その一例が以下ですね。
●小林秋人(30期,工・環エネ)ニックネーム:ハーベスト、長谷部
30期のアイドル!?みんな大好きハーベストは今回、照明操作です。滑舌とイントネーションと表情筋に悩みながらもひたむきに稽古に取り組み成長を続ける役者。普段はツッコミがボケみたいな人なので、いじりがいのある先輩になりそう!まぁめっちゃいい奴だから後輩が出来たらモテるんじゃね?なんて言われている。なんか最近本当に若くなった。見た目的に。
●町民I(29期,人科)ニックネーム:トム
ちゃうかの職人!小道具職人でありながらツッコミ職人でもある今回の音響操作さん。レジ打ちのマイムがやたら上手い役者。私とはまだ共演したことがない。普段は同期後輩関係なくいじり煽ってるけど、とても楽しい先輩。さらっと出てくるツッコミが頭良くてほんと職人、憧れる!いつも着ているウインドブレーカーは、開閉したくなる絶妙な位置にチャックがある。
●あみ(30期,工・地総)ニックネーム:ドンキー、あみちゃん
30期バ畜三銃士のひとり。何気にキャパシティが半端ない彼は今回、映像操作を担当します。可愛い役ならお任せあれ♡って感じの役者。でもあみちゃん、歴とした男の子です。普段は、雑に扱ってもいいような気がする先輩になるでしょう。ドMなのかなんなのか、自分に冷たい人が大好きみたい。それとも大好きな人がたまたまあみちゃんに冷たいのかな。分かんねーや!
さてさて、本来ならもうスタッフも不参加も含めてちゃうか民を全員紹介したいところですが、みなさんそろそろ飽きてくる頃でしょう。というか、どんな役者かなんて観に来てくださったお客様が自分の感覚で決めることですから!いや、ここまで書いておいてなんやねんって話ですけども…。とにかく、1年前の私が惚れたちゃうかちゃわんを、今度は皆さんに観て頂きたいです。ぜひご自分の目でお確かめください!今日から3日間、大集会室でお待ちしております♪
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ntrcp · 8 years
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混乱する夫8
翌週は天気も良く日に日に緑を濃くする街路樹をみると時折妻を飲み込む不幸を忘れ普段と変わらぬ平和を感じることもあった。 安閑と日々を送っていると、入社当時から指導にあたり親しい部下の抱えていたプロジェクトが客先都合で延期となり、当面のスケジュールに空きがでた報告があった。人柄も良く、仕事も実直にこなす態度を評価しており、今回の件も客先から届いた詫びのメールをみればこちらの不手際によるものでなく、先方の予算取りの失敗によるもので、彼に帰する責任はなかった。 それでも、報告しながらしきりに自分の配慮不足を詫びるかれの姿は少々力づける必要があるように思われた。部下を率いるに当たっては、極力丁寧な指導を心がけていたが、必要以上の働きかけはその可能性を摘むことが時にあるように思う事がポリシーとなっており、それはいまは本社に去った入社当時自分の指導にあたった先輩の信条でもあった。 なにかの機会を捉えて彼がしぼまないようにする対策を考えつつ自身のスケジュールをみると週末の出張が目に止まった。すでに申し込みをした新しいシステムの説明会だったが、彼と同行することで力付け、また、その分野に取り組むにあたって彼の実直な姿勢は適任であるように思われた。 その考えを進めると、名案であるように思われ早速説明会の事務局に増員を半ば強引に取り付け、そのまま社内の遠距離の交通費申請を本人の確認も取らずにすすめた。 通常はシステムに入力するだけで旅券が数日中に届く便利な方式だったが、日が迫っており単に出張だけでなく部下を励ます意図もあったので不手際を避けるため、内線をとると庶務に念押しの連絡をした。 電話にでた相手は珍しく男性の声で要件をつたえると、やや不慣れなのか数度のやり取りで伝えることができた。念のため通話の終わり際に氏名を尋ねると聞き慣れない名前が返ってきた。受話器を置くと週末の出張に部下と同行することを伝えた。 報告から間も無く急に出張となったことに面食らっていたが、部下は週末に仕事となることを快く受け入れてくれたので、普段と異なる強引な進行をしたことにやや違和感を感じていた自分も安心できた。 帰宅すると妻はいつもと変わらず自分の帰宅にあわせて夕食を準備しており、着替えるとそのまま食卓につける幸せを噛み締めた。 食事の際に今日気がついた庶務所属と思われる氏名を告げると妻はそれが最近数名が退職した人員を補うため、一時的に採用した派遣社員であることを教えてくれた。 妻の感想としては得体がしれない雰囲気を漂わせており、あまり近づきたくないタイプであるとのことだったが、通話を思い返せば不慣れであるにもかかわらず慇懃無礼な感があり、その評価は納得できるものだった。 部署によってはパートがいたが、地方採用の事務員以外には本部採用の社員のみの人員構成はよく言えば能力のある社員を均一的に揃えることとなっていたが、反面ユニークな人材に欠ける点があることも感じていたので、例外処理を嫌うことで名が通っている人事部が派遣社員の受け入れをしたことは目新しいことだった。 妻の働く部署は庶務と同じ部屋であるため、自分が週末に出張することは既に妻の知るところとなっていた。知らせが数日前となったことを妻に謝ると、妻は仕事であれば仕方が無いことを言うと自分がいない週末は羽を伸ばすと笑うのだった。本心としては寂しいと言って欲しいところだったが、妻の屈託のない表情からはなにかを読み取ることはできなかった。 寝る時間となり布団に身を横たえると、後から洗い髪を乾かし床についた隣の妻に週末の予定を尋ねた。���は急な事なのでなにもするつもりはないと返し、日曜日は早く帰って欲しいことを小声で囁くと自分の手を握ってきた。 食卓での一抹の寂寞感はそれで解消しそのまま妻の手を引くと妻の布団にはいり夫婦の夜を営んだ。 翌朝は早くに寝たために、薄暮の時間に目が覚めた。妻との行為で股間が少々体液が付着していたため、朝風呂にはいるため妻を起こさないように床を抜けるとポストから新聞を手にとった。この時間は物音なくかすかに漂う堆肥の臭気が自分が育った都市部と違う地域であることを今更ながらに思い起こさせた。以前ポストにあった紙片から一連の出来事が始まったことを考えることは目に映る清浄な光景に似合わななかったが、葉を広げ自宅を周囲から隔絶するように立つ植木が自分の領域である自宅を守ってくれているように思えた。 庭に停めている自家用車も丸いヘッドランプをこちらに向け、自分に同意しているようだった。と、その車内をみるとかすかな赤いLEDランプがまたたいており、それは先日取付けたドライブレコーダーだった。それがあるだけで防犯効果があることに感心したが、先程感じた自動車のヘッドランプが眼のように思ったことはあながち間違いでないことに納得するのだった。それは家を出た時から自分を見守っていたに違いなく、急に自分がどのように映ったのか見たいと思うと玄関の鍵をとり、それの後部カバーを開けるとメモリカードを取り出した。 pcに挿入して映された映像は思いのほか鮮明で、売り文句にあった万が一の事故でもナンバープレートまで詳細に記録することが間違いででないことを示していた。 ふと、それを眺めていると、自分が不在時の家の様子を記録できることに思い至った。完全に妻の疑惑を消すことはできなかったが、自分の不在時の妻の行動が確認できることは自分の安心材料とできる筈だった。妻を裏切るようで気が引けたが、自分の携帯電話の一件から猜疑心の生まれた心はそれを秘匿するため、LEDランプに手近にあったテープを細かく裁断すると幾重に貼り付けその自己主張を欺瞞した。 金曜日の晩、久しぶりの出張の荷造りは妻がしてくれていた。旅行用のスーツケースには衣類が整然と畳まれており、脱いだ下着を収納する袋まで用意されている心遣いには改めて妻に感謝を言うに値した。 代わり映えない自分の下着を見ると、褒められてにこにこしている妻に、次に妻が旅行をするときは自分が下着まで準備することを提案すると破顔して自分を変態よわばりして笑うのだった。 内心妻が身につける下着を選べるのなら楽しいと想像したが、不埒な考えを除けると妻に週末の予定を改めて尋ねたが、実家に行く用事もないので多分一日家にいる、との返事だった。付け加えるように食料品の買い物には行き日曜日は晩は腕を振るうので食べたいものがあれば事前にメールを送ることを約束させられた。 妻の様子からは不審な点は全く見受けられず、単に自分のいない週末を侘しく思っているようだった。 翌朝は小雨模様だったので休日の外出を疎ましく思ったが、朝食を終えると早々に家を出た。家を囲む植樹垣根を一歩出てから振り返ると、玄関を出て見送る妻の隣に斜に構えた自動車の存在感が家を守るように見えた。 出張では移動中に部下と日頃話せない事にまで話が及び当初の目的を達することができた。先日の案件の流産も失敗として前向きに捉えており、会話の端々からその成長を見て取れ、今後仕事を任せられる範囲を広げることを決意できた。 2日に渡る説明会は密度の濃いもので思っていたより販社がその商品に力をいれていることを頼もしく思ったが、説明会の後の実機での体験では気になる点も多く質疑の内に時間が過ぎていた。 日曜日も詳細な説明を受けることに終始したが、夕方には解放され部下と報告書と提案書を作る労力を思うと顔を見合わせるばかりだったが、それも収穫と思うと勘定はおつりがくるものと思われた。 帰宅の前に妻との約束を思い出し、携帯に電話すると普段と変わらぬ妻の声を聞くことができた。一日の不在でも妻のいない晩は開放感よりも心配が募り、声を聞くことができただけでも胸をなで下ろすことができた。 特に食べたい料理もなく、妻にそれを告げると電話口の先で膨れる妻の表情が想像されたが、ともかく豪勢な食卓の待つ家路を急ぐ気持ちがはやるのだった。 電話を切り、車中の飲み物を買いに出かけた部下を探し視線を回すと、列車がホームに入るアナウンスが流れた。それに続いて別の列車の発車を告げるメロディーが流れた。それは聞き覚えのないものだったが、何故か自分の記憶にその単調な音の連続は既視感を感じるものだった。 幼い時分は人並みに電車に興味を持ったことはあったが、それからは鉄道に興味を持つこともなく過ごしていた。なにかの楽曲のアレンジかと記憶を探ったが帰る答えは全て否定のみだった。 納得がいかない様子で考え込んでいた姿を戻ってきた部下は怪訝な表情で伺っていたが、我にかえると適当に誤魔化し車窓に流れる景色を楽しみながら家路についた。 部下と別れ、電車を乗り換えると家に戻る実感も湧き、緑の多くなった風景を眺めていると、遠くにショッピングセンターが望まれた。特徴のある建物はこの地域の新しい建物としては斬新奇抜だったがいまではそれが目印となっていることは旧態とした地域にあっても環境を受け入れる柔軟性に感心したものだった。 そこはいつか妻を陥れる犯人の誘導に従って、そこで妻の姿を探した場所だった。当の妻自身は殺風景な事務所で犯人の陵辱を受けていたことは屈辱だったが、その日の夕方には妻に電話をして安心した自分の愚かさがいまさらのように胸の内を蝕むのだった。思えばその時妻の声を聞いてことで心が鎮まったのだったが、おそらく妻自身はその前後に犯人の行為によって雌の声で鳴いていたのだろう。 口惜しさに唇を噛み締めていたが、ふとその時に妻の電話口から聞こえたメロディーが脳裏に走り、頭の隅にもやもやと留まっていた音の連なりに一致を見出した。表情は変えなかったと思うが、強烈な閃光を浴びたように目に映る風景が白く霞み、そのことに全ての脳細胞が集中した。 鉄道のメロディーは地域によって決まっており、中には特定の駅だけで流れるものもあったが、それらは地域を越えて同じものが流れることはない筈だった。自分と通話した時に妻の受話器に流れ込んだメロディーは、妻がそのとき先程まで自分が出張していた地域にいたことになる。それ自体は解決する役には立たないが、また一つ犯人へと至る手がかりを得ることができた。 考える内に電車は駅に着いており、考えていた時間に比して実際に経過した時間を思ったが、劣等感じみた奇妙な満足を胸に秘め、駅を出ると妻の待つ自宅に向かった。 自宅に帰ると約束の通り豪勢な食卓が待っており、帰宅に合わせてそれを準備してくれた妻の心遣いに感謝しながら舌鼓をうった。 食事を終えると妻に週末の行動を尋ねたが、特段することもなく買い物の他は家で読書していたとのことだった。 表情を変えることなく後でドライブレコーダーを確認することとして、早々に明日作成する出張報告のアウトラインを思案するためpcに移動した。 pcを起動すると犯人からの知らせをみることを考えたが、妻が不意に現れないとも限らない状況ではそれを見ることはできず、報告内容を考えることに専念しようとしたが、雑念が混じる頭では考えもまとまらず、画面を漫然と資料をみているばかりだった。 それでも考えがまとまらないなりに資料から幾つかの着目点を得ることができ、それを端緒に追加の質問事項をまとめると報告の方向性をまとめることができた。 思いのほか時間が過ぎており、既に風呂に入って就寝すべき時間となっていることに我に帰ると、妻は既におらず寝室に向かったようだった。2階にあがると既に妻はすでに就寝しており、ドアを開けたことで寝ぼけ眼でこちらに目を向けたが、自分をみると安心したようにそのまま眼を閉じた。着替えて床に就こうかと思ったが、改めて服を脱ぐと今日の行動によってついた匂いが鼻につき、そのまま床に入ることが躊躇われたので入浴をすることにした。 休む妻をあとにして、階下に降り脱衣所で衣服を脱ごうとしていると正面の勝手口に目が止まった。一仕事終えた疲労で頭が回っていなかったが、先ほど考えていたドライブレコーダーのデータを確認することを忘れていた。玄関のドアは重さもあり開け閉めで2階にいても気配を感じることもあるが、目の前の勝手口であれば階段と離れていることもあり、おそらく2階の妻の眠りを妨げることは無いと思われた。 居間から車の鍵をとって引き返すと、あまり開けることのなかった勝手口をそっと開け外に出た。昼間は暖かだったがこの時間は冷んやりとした空気に包まれ、空を見上げると薄く雲のかかった満月が青白い光で自分を照らし一気に頭が冴えた。 裏を回り庭に出ると、つい癖で鍵のボタンを押しそうになったが寸前でそれが車のアンサーバックを呼ぶことを思い出し手を止めた。鍵で直接ドアを開けることにしたが、その際にロックを解除する音が響くことを考慮し、後部のハッチの鍵穴に鍵を差���込んだ。 ハッチから身を乗り上げ後部座席に収まるとドライブレコーダーからメモリーを引き抜き、今後に備えてルームランプを消すと車を後にした。pcまでは僅かな距離だったが、はるか昔に親の目を忍んでアダルトビデオを手にいれて自宅に帰る道程と同じ興奮を覚える自分に違和感を感じるのだった。 pcの前に着くと、万が一妻にこの場面を見られた場合の言い訳が難しいことを考えて先に入浴をする事にした。風呂上りに寝付く前にpcを見ていることは自然と思われた。何故か入浴中にこれから見る映像が予期できなかったにもかかわらず自身の性器が勃起しているのだった。 妻の淫らな姿を想像したのではなく、妻が自身の留守の間に自分を裏切っているかもしれない事自体が自身の性的興奮を呼んでいるとは思いたくなかったが、それは事実のようだった。 映像の立ち上がりに画面下部に表示されるスライダーバーを見る限り、映像の長さはさほど長いものでないようだった。画像の始まりは一匹の猫だった。常時撮影のドライブモードでなく、映像に差異を感知したときのみ撮影のするモーションセンサーモードだったので、家の門の前を猫が横切ったことで撮影が始まったものだった。猫が立ち去ってから数秒間は映像が見慣れたものを映し出していた。画面左には玄関が僅かに写り、画面中央には玄関から外の光景が普段と変わらないものとして存在していた。 唐突に画像が切り替わると、明るくなっており丁度自分が玄関から出てゆく姿だった。つい昨日の姿だったが、映像で自分の姿を見ることは、その時の自分が抱いたこのカメラについての感情を裏返しに見ているようで複雑なものだった。 玄関をでてから振り返る自分の双眸を見ると、自分の分身が聖域から出かけてゆき、この自宅が無防備な空間となるようで、画像に声が届くなら引き止めたい衝動に駆られるのだった。 画面から遠ざかる自分が角を折れて曲がると、また最初と同じ光景が映し出されたが、それからしばらくは自動車が通ることにカメラが反応した姿が数度あるだけだった。 自分がやや焦れていることを感じたが、一方で焦燥の理由を不審におもう自分もおり、それを考えていると手はマウスに伸びず、ただ暗い室内に顔面を照らす画像に見入っているのだった。 と、画面がより陽光の強さを増したものに切り替わると画面の左から妻が出てくるところだった。少し小走りに手にはゴミ袋を持っているところを見るとやや慌ててゴミを出しに行ったようだった。映像が一旦切れたものの、程なくして妻は玄関に姿を見せ小走りになったためか、手で顔を扇いでいた。普段と変わらないシャツにスカートだったが、無防備なリラックスした姿を映像でみるとアダルトビデオの導入部をみているようで、挙げた腕の脇から見えるシャツのこんもりと膨れた乳房が揺れるさまを凝視していた。自分が不在でも妻の歩き方は整ったもので、それはそれで改めて妻の所作の隙のなさが伺えた。 そのまま妻は家にはいると再度画像は退屈な時折通る車と、ランニングする学生など変哲もないものとなった。 普段の妻はゴミ出しに慌てることなどなく、いつも余裕をもって出している筈だったが、今日に限って小走りになっていた事は自分の不在で気を抜いていたかと思うとやや微笑ましかったが、次の映像はその理由を説明した。 玄関をでた妻の姿は髪を束ねており、それだけで違和感を感じたが、その服装は薄手の春コートを纏っており中はわからなかった。 あまり履くことの多くない黒のエナメルのパンプスが一層不安を掻き立てたが、そこから優美な脚線美を描く脚は濃いめのストッキングかタイツに覆われコートの裾に隠されていた。 妻は履きなれない靴でも、姿勢を乱すことなくドアを振り返ると鍵を施錠し、僅かに身を屈めて床に置いた鞄を手に取ると、そのまま美しい後ろ姿を自分が辿った道を歩いていった。 画面から妻の姿が消えるまで呆然としていた。妻の姿はどう考えても買い物に行く服装ではなかった。友人と会う時でも楚々とした服装、例えば淡い色合いのカーディガンにシフォンスカートなどで、カクテルドレスなどでなければエナメルの靴は履く姿は見かけることはなかった。妻の行く先に頭一杯の疑念が湧いたが、我に帰ると慌てて妻が家を出る場面まで映像を戻した。 家からでてドアを抑えつつ鞄を玄関外に置くところでコートの裾が開くと、その中には数センチと思われる妻の太腿があった。 自分の思いを無視して流れる映像をを一旦停止にすると、該当の場所にスライダーバーを合わせた。 妻の脚を覆っていた黒い布は膝上十数センチで、映像の中でさえ肉欲を催す太腿の柔らかさを示すようにへばりつくことで画面の解像度でもほんの数ドットを食い込み、そこから少し太腿を見せるとダークグレーのタイトスカートと思われる無粋な布地に消えていた。妻がこのような扇情的な外出時にすることは無く、その膝上で終わる妻の脚を覆うものはそれだけで、先日の他人の妻が着用していたものを思い起こさせるもので淫靡といって差し支え無い物だった。 今見た光景に愕然として前後に映像をスライドしたが、次に鞄を取り上げる際に見えたものは、それを裏付けているだけだった。 鞄はショッピングバッグなどではなく、旅行の際に用いるもので内容を満たしていることはその膨らみと妻が持ち上げる時の力の掛け方から明白だった。 出かけるために振り向くまでの妻の表情はいつもと変わらず、これといった感情を読み取ることができなかったが、かえって無表情な妻は普段の自分のそばにいる笑ったり喜んだりする妻でないようで不安を増した。 それからは、ただ画像を妻の帰りを待つだけだったが、画面に映るものはどれも自分の期待を裏切るものだった。ドライブレコーダーだけあって薄暗い時間でも、荒れた映像ながら動きを監視していたが日が沈んでも妻が帰る映像はなかった。自動で点灯した玄関の灯りで撮影が始まってからは、通る車も減りやがて朝の新聞配達のバイクが通る時間となった。妻が昨晩留守にしていたことはほぼ確実だった。それは妻が言っていた買い物に行く以外は自宅にいたとの事が偽りであることを物語っていた。 画像は日曜日の朝の姿を写していたが、呆然とする自分の目に妻が帰宅する姿が写っても直ぐに反応出来なかった。妻は画面の奥の角から来たのではなく、門の脇から突然現れた。駅から帰ってきたのであれば出かけた道順と逆となる筈だったが、妻の表情は無表情というより呆然としたといった表情で感情を読み取る以前に、そのような表情を見たことがなかったので、ただやや覚束ない足元で家に消えるまで妻を凝視するばかりだった。先ほどと同じようにスライダーを妻が現れたところまで戻し、妻が画面に映る数秒を改めてみると妻の脚は出掛けた時のようではなく、素足かストッキングかはわからなかったがともかく肌色だった。 一挙に昨晩の妻の行動の疑念で思考が埋まったが、画像が途切れると同時にタクシーが家の前を通り過ぎる姿が写った。周囲のあまり無い家でも朝からタクシーで帰宅することは多くないと思われ、妻がタクシーで帰宅したと考えることが自然だった。 タクシーが通り過ぎる映像を一旦停止してみると、鮮明ではなかったものの個人タクシーと判別でき、その社名を読み取ることができた。ありがちな名前のタクシー会社は幾つもあるが、比較的珍しい名前だったので特定は容易と思われた。考えているうちに時間が過ぎ、昨日と変わらない映像が数刻流れた後、妻が普段と変わらない姿で玄関のから出掛けた。 その姿は普段通りのもので、朝の映像からは想像がつかないほど、清楚で健康的なものだった。表情はなかったが朝の不気味ささえ感じるものでなく全く異常を察知できるものではなかった。しばらくして妻が買い物袋を提げて家に入ると、あとは自分が帰宅するまで問題とするようなものはなかった。 妻が自分に明かすことなく、自分の不在に留守にし、その出入りの映像をみる限り妻は明らかに自分に秘密の外出をしたのだった。2階で休む妻を揺さぶり起こし事情を問い詰めたいと自分の脳髄が訴えたが、それが犯人の誘導によるなら、今はまだ動くべきではないとする理性がそれを押しとどめた。 映像にはなにも妻の痴態を晒すものはなかったが、犯人だけでなく自分も妻を盗撮していることに後ろめたさを感じた。一方で妻をこの状況から救う決意を新たにしたが、外出時の妻のした事を単純に下半身が見たいと声をあげていることも事実だった。 夜半も過ぎ床に就くことにしたが、悶々とした気持ちを和らげることができず階上の妻の隣に身を横たえると、姿勢良く眠る妻の横顔を見ながら寝入ったのだった。 翌週のはじめは何事もなく過ぎたが、先週の出張報告は上層部の興味を引いたようで、月曜日晩の会議報告だったにも関わらず、水曜日には計画の更なる検討と詳細を詰めるように指示を受けた。本社と異なり万事に緩慢なこの地方の事業所としては異例の進行���思えたが、自分自身としても面白いプロジェクトと思えたので異を唱えることもなく、先日の出張を共にした部下と今後の検討も兼ねて会社近くの居酒屋で現段階の祝杯をあげることにした。 出張の報告に上層部が興味を示したことは部下にとってもプラスに働き、日中にその話をしたのだが、すでに進行について計画を練っており、ほとんど酒が進むこともなくビジネスライクな夕食となった。先日の落ち込んでいた部下は過剰とも思えるほど計画に興奮しており、改めて出張に部下を巻き込んだことに満足を覚えた。 結局、10時過ぎまで密度の高い打ち合わせを済ませ、勘定をしようとすると平日もあって店に客は他に疎らとなっており、他の客は酔いが進んでいるところ、個室のテーブルには部下のノートパソコンと散らかした書類が散乱している様は改めてみると奇異に思われ、場所を誤ったことを部下に詫びたが、部下はこの場所だったからこそアイデアも生まれたと逆に感謝されてしまった。 会社からさほど遠くない場所に住んでいるので店の前で別れると、それぞれ逆の方向に歩み去った。先ほどの会話を考えながら歩くと、二三考えているおかなくてはいけないことがあり、咄嗟に携帯電話電話のメモにそれを記録しようとしたが、まださほど会社から離れていない場所でもあり、軽く酔いが回っているためか頭が鮮明に動くことを感じ、踵を返すと会社に向かった。 会社の門を過ぎると、既に建屋にはセキュリティがかかっていたが、不思議なことに妻の勤める事務棟の登録はoffとなっていた。この時間にその建屋に誰か勤務していることは珍しいことだった。現場が稀に徹夜作業となることもあったが、以前に労働監督署の監査があってからは本社の指導もあり労働時間が管理されていることで無茶な強行作業も減っていた。 自分としては酔っていることもあり、できれば社内で誰かに会うことは避けたいこともあったので、足早に自分の職場に向かうと、先ほどの検討を進めるため先日の出張に資料を机に出し数値の確認を始めた。 pcには本社や他事業所からのメールが届いており、よる遅くにも勤務している場所があることに感慨を覚えたが、興味半分に現在この事業者でpcを起動してる人員を確認することにした。 事業所単位でサーバが設置されており、基本的にすべてpcはこのサーバに接続して認証することになっているので、このサーバの管理権限を持っている自分は、誰が現在オンラインとなっているか分かる仕組みとなっていた。 使用者のリストには自分の他には見慣れない名前があった。人員表から確認すると、それは以前に自分の出張の際に対応した男だった。この時間に派遣社員のみが働いていることは不可解だったが、さらにログイン履歴を照会すると、一旦18時にはpcが接続を終了しており、そこからついて先ほどログインしていた。 事務棟の勤務が遅くなることは珍しく、好意的に考えれば勤務熱心とも考えられるが、やはり不審なことであることは確かだった。自分の職場は外壁に面しており、事務棟を見渡すことはできなかったが、屋上にでればそこを見ることができた。そもそも入社間もない派遣社員にセキュリティを任せることは常識的に考えられなかったが、警備会社に電話してそれを確認することは時期尚早と思われたので、足早に階段を上がると屋上にでた。 昼から風が強い日だったが、この時間にはさらに強さを増しており、屋上ではやや歩みをしっかりしないとよろけてしまう程となっていた。 目的の位置に達すると、事務棟の明かりのついている部屋を見た。角度の関係で部屋のすべてを見ることは出来なかったが、全体の半分以上を見渡すことができた。が、人影はなく、特に異常を認めることはなかった。呆気にとられたが、ともかく誰がいないとしても明かりが灯っていること自体が異常であり、自分で行って確認しようと思った時、机の隅から腰から下が出ている姿に気がついた。 今までそれに気が付かなかったことに驚いたが、改めて見ると幾つかの椅子が机から引き出されており、その一つの机から腰が突き出されているのだった。 間も無く、腰が後ずさると若い男の頭が顔を出し机の前に立った。眼鏡をかけており、やや肥えた体型だったが特段目立つ特徴の無い男だった。男は見る間に別の机に跪くと先ほどと同じ姿勢で机の下に潜り込んでいった。何かの配線作業もかもしれないが、その机は妻の席を含めて女性が勤務していることを考えれば、怪しい行動と推定できた。一台起動しているノートパソコンがおそらく男のものと思われたが、その画面を見て衝撃を受けた。それは先ほど自分が確認したサーバ画面だった。これは管理者権限を持つ人員だけが接続できるもので、管理者グループに登録されれば自分にも通知がある筈だったが、そのようなものを見た覚えはなかった。 疑惑はますます明白となると同時に、男にも自分の所在が明らかになると分かった以上、小走りに自分のpcに戻ると電源を落とした。履歴を確認されればそれまでだが、おそらく男が画面を起動していた理由は現在の接続者を確認するためと思われた。さらに机を手早く片付けると建屋のセキュリティを起動した。 建物の外に出ると、照明がところどころ灯っている他は薄暗い事業所が自分の勤務する見知った場所でないように思え、ふとスパイという言葉が脳裏をよぎったが、男の行動は注目するべきものだった。 疑念を抱えたまま帰宅することは論外で、事務棟に近づくと隣の建屋の非常階段の踊場のスリットから姿を隠して男の行動を監視した。 風が強いため、外の物音が聞こえる事はなく、男のいる場所には照明があるので、こちらが見えることはまず無いと思われた。 男は自分の会社のpcとその隣に置いた派手なカラーリングからおそらくは個人所有と思われるpcを操作しており、なにか忙しそうに、交互に画面を見ては操作を繰り返していた。 十数分すると、作業に満足したのかpcを閉じリュックを肩にかけると部屋をでるような所作をした。風が強いため、自分の体も冷えてきており、ようやく監視を終えることができると安堵したところ、男は思いがけない行動にでた。 自分と対面するようにこちらを向くと、無表情のまま、椅子にかかるストールを手に取ると、それを両手に広げ顔面をなすりつけた。しばらく顔面の形が浮き出るようにストール擦り付けていた。それは正に妻のものだった。妻の机であることに間違いはなく、それを購入するときは一緒にいたのでそのデザインがやはり記憶にあるものだった。 正直、そのようなものにする行為は気持ち悪いとしか思えなかったが、自分の妻のものとなれば男がしている行為は罰するべきだった。風で音は聞こえない筈だったが、低く変態と毒づくと、それが聞こえたかのように男は椅子にストールを置くとさらに執拗に椅子の尻があたる部分に頬ずりするのだった。現実のこととも思えず男の正気を疑ったが、程なく丁寧に元通りにストールを畳むと元通りに椅子の背にかけた。 自分の妻に欲情している無様な男の姿には軽蔑を覚えたが、一方では自身の男性が魅力的な妻を我がものとしている優越感が凱歌を挙げていた。男は変態的な行為に似合わず、しっかりした足取りで部屋を後にすると、程なく部屋は消灯し人影のない事業所に自分は残された。 丁度そのとき妻から電話が入った。部下と夕食をとって帰ることはメールがしていたが、帰りが遅いので心配して電話がしてきたものだった。咄嗟に答えに詰まったが、遅くまで飲んでいたことを詫び、遅くなるので先に休んでいるように伝えると電話を切った。先ほどまで男が妻のストールにしていた行為の直後に妻の声を聞いたので複雑な心境だったが、慎重に事務棟の入口が見える位置に移動した。 そこはここに配属された当初は同僚から、冬場は女子社員がブーツを履き替える姿を観察できる穴場と案内された場所だったが、視線の先には男がセキュリティをかけている様子が見えた。自分の頭の中では男が変態と同義語となっており、まして妻のものにしていた行為から明確に敵として認識されていた。この場で問い詰めたい衝動にも駆られたが、見ているうちに男は建屋から周囲をキョロキョロと見渡すと先ほどと同じようにしっかりした足取りで立ち去った。 この後の行動について考えたが、やはり男の行動は不穏当なものでありそのしていた事を確認することにした。事務棟に入るとセキュリティを解除し、先ほどまで男のいた場所に立った。静まった事務所内には全く異常は感じられなかったが、男の潜り込んでいた妻の机の下は気になった。そこを確認しよう思ったが、机の前に立つ前に男の目的に思い至った。自分にはあまり理解できないことだった、男が女性の机の下でなにかしているとしたら、その可能性は盗撮以外には想像が難しい。推定が正しければそこにはカメラがある筈であり不用意に頭をそこに入れれば自分が撮影されることとなってしまうのだった。 しばらく考えたあぐねたが、男のpcを起動することにした。盗撮しているとすれば、それを記録することが自然と思われた。事業所内は情報セキュリティの観点からサーバを通して外部接続する仕組みとなっており、盗撮した映像を外部に直接発信しているのでない限り、一旦はサーバに接続しているので、それを調査しようと思ったが、特段不審な点は見当たらなかった。手掛かりがないことに苛立ったが、サーバのこのpcの管理情報を参照すると、許可されたデバイスがあることを見つけた。個々のpcのインストールされたアプリケーションから接続しているデバイスまでサーバ管理されていたが、通常pcには全ての外部機器の接続は不許可となっている筈だった。 以前、ある社員が不用意に持ち込んだUSBメモリからコンピュータウィルスの騒動があってからは、使用する物品は厳密に管理され、それを管理している部署はほぼ全ての許可申請を拒否することから、別名鉄壁と揶揄されるほどの堅牢さを誇っていた。 男の立場からは許可されることは不可解であり、サーバの登録をみると許可は驚くことに本部の部門の登録となっていた。定期的に監査が行われることから奇妙と思ったが登録日はついて最近であり、男がサーバに侵入していることから考えると、定期的に使用許可を偽装しているようだった。 これだけでも充分に懲戒処分できるものであり、派遣であれば即座に契約解除となる筈だった。想像の通り、デバイスは通信機器であり、情報を発信するものだった。先ほどの男の行動はこれで説明できた。 おそらく普段は盗撮映像を持ち込みしたpcに直接送信しており、職場のpcからも持ち込みしたpcを制御できるようにしている様だった。後は疑惑を証明するカメラを確認するだけだった。妻の机の反対側の机のしたに潜り込むと、床から携帯電話を差し入れ、おそらくカメラが設置されていると思われる場所を携帯電話のカメラで撮影した。 画面は暗いものだったが机下部の上辺に自然な形で設置されていることが確認できた。それは親指ほどのサイズだったが、今潜りこんでいる机にはなく、それが盗撮用のカメラであることは確信できた。電源をとっているケーブルはなかったが、おそらく電池で一定期間は動作できるものと思われた。そうであれば先ほどの男の行動は電池の交換かもしれず、以前から撮影されていると想像すると軽い戦慄が背筋を走った。 その映像を確認する方法は男のpcから容易に調べることができ、カメラへ接続する方法が理解できればもはやこの場での調査はこれ以上は不要だった。 静まった事務所を眺めつつ、冷静に男のpcとサーバから自分が接続していた痕跡を消すと、会社を後にした。 帰りの道中では、妻に降りかかった犯人からの災厄の加え、おそらく妻は認識していない盗撮を考えると、近頃の出来事が良くない事ばかりと暗澹となったが、男の問題に関しては自分で解決することができることは救いだった。 帰りの電車は終電となっており、帰宅した時間も遅かったが妻はまだ起きており、食事を温めて用意してくれた。改めて妻と結婚したことをありがたく思い、それを伝えると妻はキョトンとした表情をするとすぐに相好を崩し、妻も自分と結婚できて嬉しいと言いながら自分の後ろから抱きつくと、頭を回した自分の唇に妻の唇が触れた。 妻からキスされたことは以前から数回しか記憶にないところ、食事の後で歯磨きもしておらず躊躇いがあったが、妻は軽く唇に触れたあと、深く自分の唇を吸うのだった。積極的な妻の行為に戸惑っているうちに、側面から自分の唇と交差するようにぴったりと合わさった柔らかなそれから湿った下で自分の唇を舐め始めた。その感触は心地よく入浴後の妻の香りを鼻腔に感じると、健康的な愛情表現は大人の互いを求める空気に変化していた。 背後の妻を正面に向けると、片手を妻の背に回し身体を密着させ、妻の口蓋を舐め尽くすように舌を侵入させた。それは妻の性器を貫くような感覚を覚えたが、妻は口を割れ目から攻め入った自分の舌を懐柔するように舌の側面から優しく包み込みそれは下半身の快感とまた別種の快楽を生んだ。 妻は風呂上りでも床につくまで寝巻きに着替えず、軽い衣服を纏っていることは、普段から自宅ではだらしない姿の自分には比べしっかりした育ちを感じていた。この時間はタンクトップにゆるいシャツを被せて、巻きスカートを合わせていた。 身体を密着させたことで柔らかな胸の膨らみを感じるとすでに自身の股間はスーツの形を歪めていた。しばらく妻の口蓋の隅々まで舐め取っっていると、妻は目を閉じながらもやや呼吸が乱れ、その表情が扇情的に上気していることがわかった。 リビングで性交に及ぶことは初めてではなかったが、このような晩にすることはなくソファーの上に妻を横たえることは、そこに取り込んだ洗濯物があったので考えものだった。 次第に姿勢が覚束なくなってくる妻を支えながら、どこで妻と交わろうかと視線を回したが思わしい場所は見当たらなかった。やがて自分の股間も妻を求めて収納場所からの解放を叫ぶようになり、唐突に妻を振り返らせると、食卓に妻の上半身を乗せ、腰を突き出すような姿勢とした。 妻は運動した時の呼吸と異なる艶かしい吐息を漏らしていたが、自分の意図を読み後ろから責められることを理解したようだった。自分が慌ててスラックスを脱ぎ、寝室にある避妊具を取りに行こうと妻の横を過ぎようとすると妻は自分の手を取り、このまま一緒になりたいと言った。 その表情は眉をハの字にしていたが困っている訳でなく、いままでない程の恥じらいの表情だった。それを見ては止まることも出来ず元の位置に戻ると、外に出して欲しいことを妻は消え入りそうな小声で言った。妻の豊かな胸はテーブルに押し付けられたことでボールが押し付けられたように脇の先の薄い布地ははちきれそうに張り詰めており、そこから角度をやや上方に変えて腰がこちらに突き出されていた。 妻がここまで自分とのセックスに積極的になったこともないことを考えていると、悪戯心が浮かび妻を焦らすように性器のあたりをスカート越しに愛撫した。最初は妻は喘ぎ声を漏らしていたが、一分もしない内に自分の手を脇に除けると、自ら巻きスカートの側面からスリットをたくしあげると、眼前には妻の白く丸い尻と、その間には有るべき下着はなく、わずかに色を濃くした性器があるのだった。 妻が下着を履いていなかった事は驚くべき事だったが、その尻に挟まれた性器と肛門が自分には突きだれている様は自身の理性を吹き飛ばすに充分の破壊力だった。 性交の前には愛撫をして妻の性器が自分を受け入れるように整えていたが、眼前のそれは合わさった大陰唇から湿り隠微なサーモンピンクを示す小陰唇の襞が見えそれは既に男性器の挿入が可能な状態となっていた。 妻自身が自分のスカートをめくったことに加え、そこが隠す布地がなく晒したことは自分の頭を麻痺させており、自分が獣になったように妻の腰骨のあたりを両側から掴むと、妻の小陰唇に亀頭をめり込ませた。 ズブズブと飲み込まれてゆく先端はやがて矢じりまで達し、その瞬間妻は背筋をやや震わせた。性器からは妻の暖かさが感じられ避妊具を着けないことで妻の胎内が自身を包み込む快感が直接脳髄に送り込まれるようだった。 一瞬の間の後、性器の全てを妻の胎内に埋め込むと、妻の口からは明らかに女性としての快楽を貪っている声が漏れた。同時に伏せた頭が持ち上がり、自身の与えた衝撃の強さに獣としての満足を覚えた。妻の胎内は前後の運動の動きに、埋め込まれた肉棒を捉えるように柔らかく幾重にも感じれらる襞がぴったりと張り付き、摩擦が亀頭をの先から根元まで快感を呼んだ。 避妊具を着けないことで増した快感は腰の抽送速度を際限なく加速させた。妻の性器は動きを増すほどに比例した快感を生み出し惚けた自分の頭から全ての思考を奪い去ってゆくのだった。 あまりのピストンに受け止める妻の腰はテーブルに押し付けられるようになっており、その間も妻はもはや声を抑えることもなく淫らな快楽を歌っていた。流石に連続した動きに腰が悲鳴をあげ、一旦は深く妻を貫き動きを停めると、妻は深呼吸をし自身にわかるほど胎内の性器を締め詰めると荒い呼吸のまま姿勢を変え、テーブルの上に仰向けに横たわると、自分を淫らな言葉で誘うのだった。 妻の口から考えられないような表現がでたことには驚いたが、もともと関節の柔らかい妻は股を開くと両足をテーブルの縁に載せ、股間もからはサーモンピンクから充血したことでさらに濃いフレッシュピンクに色を変えた性器が蒸れたように挿入を誘っていた。 それだけでは自分を誘惑するに足りないと考えたのか、タンクトップに手を書けると胸を露出し片方の乳首を捏ねるようにしながら、もう片方の手は恥じらうこともなく人差し指と薬指で小陰唇を開くと、そこから溢れる粘液を掻き出すようにすくい上げるとクリトリスを中指の腹で嬲っていた。妻と自分の体液の混じったものがテーブルの下に数滴光っており、溢れ出る妻の愛液は巻き上げられたスカートの背後の部分に濃い染みを作っていた。 頭で考えるより早く、丁度立った姿勢での男性器の位置にある妻の淫裂に抵抗なく吸い込まれると、頭は揺れる乳房をしゃぶった。 自身が立っていることで妻をより深く貫くことができ、その都度妻は淫らな喘ぎ声をあげた。姿勢から妻にキスすることは出来なかったが、その柔らかい乳首を口内で転がすと妻は両手で自分の頭を掴み、それが気持ち良いことを無我夢中で叫んでいた。 やがて絶頂が近づき、妻の乳房の間には顔を埋めると、両側から柔らかな乳房に包まれ、うわ言のように悦楽を叫ぶ妻の声を聞きながら、切迫した感覚を覚えた。 胎内射精するほど理性は失っておらず、ほぼ射精と同時に腰を引き抜くと、勢いよく噴き出した精液は体勢から角度がついていたためにスローモーションのように放物線を描くと、着地した地点は妻の唇から喉元の位置だった。荒い呼吸のまま自身に浴びせられた精液に妻は反応しなかったが、やがてそれを理解すると熱っぽい表情のまま自分にそれを飲んで欲しいか尋ねてきた。急速に醒める意識のなかでは問いに瞬間で反応をすることができず、妻の意図を測りかねていたが妻はそれを諒と取ったのか、手で唇についた塊をすくうと舌でそれを舐め取り視線を合わせたまま、それを嚥下した。乱れた服装に自分の放った液体に汚れた妻は、普段の清楚な妻とは思えず、一瞬犯人の映像にあった妻を脳裏に浮かべてしまったのだった。
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