#母の友特選童話集
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映画 『そして、バトンは渡された』
石原さんとお会いできた記念と、田中さんが帰ってきた記念ということで、今回は『そして、バトンは渡された』の感想を。映画の公開から約1年半、撮影から2年半と少し時間が経ちましたが、作品と向き合いピアノの練習に励んだ撮影期間のことは鮮明に覚えています。今回も映画を見てから、ながのによるながの視点のながのの為の感想文(ネタバレ含む)を読んでいただけたらと思います。皆さまからの感想もお待ちしております。
原作者、瀬尾まいこさんのWikipediaには「家族の物語が多いが、愛情を注ぐのに血縁は関係は無いと思い、家族に限定しない人と人が関わることに関心があり、それを書く。」とあり、まさにその通りのお話。
「この物語には《命をかけた嘘》と《知ってはいけない秘密》がある」というキャッチコピーだけど、ミステリー映画のような雰囲気はほとんど感じられない。命をかけた嘘に関しては伏線が丁寧すぎるほどに張り巡らされているから展開が読めてしまうかもしれないし、2つの家族の仕掛けは〝謎風〟なだけであって人によっては謎とすら感じないかもしれない、クライマックスの盛り上がるであろう場面が答え合わせのようで、なんだかなあと演出に少し物足りなさを感じる部分もあるかもしれない。だけど、あらすじの原作が本屋大賞受賞作ということだけあってよく練り込まれていたから、こんなに綺麗な話はそうないのかもしれないけど、こんな素敵なことが起こるかもしれないと人を信じる気持ちにさせてくれた。
石原さんが演じるのは自由奔放に生きる優子の母、梨花。とにかく容姿端麗、綺麗すぎる。非現実的なのに、中には愛情が詰まったかっこいい魔性の女。美しすぎて浮いているようにも見える部分もあるけど、お金がなくても目的の為には美しくいなくてはいけないという、なりふり構わず一生懸命で真っ直ぐな姿はどこか助けてあげたくなってしまう愛おしさがある。そのバランスが妙に複雑だけど「まあ、許そう」で終われる不思議な感覚だった。この映画でながのが演じる優子と石原さんが演じる梨花の共演シーンは卒業式の合唱のシーンだけで、2人が顔を合わせるのはこれが最後でお別れのシーンのはずなのにいつか一緒に過ごせるであろう情景が浮かんだ。 田中さんが演じるのは血の繋がりがない優子の父、森宮さん。お父さんだけどお友達のような感覚で、だけどやっぱりお父さんで。そんな絶妙な距離感の親子の関係が一番映し出される家での撮影はとても敏感で繊細で、言いたいことを言い合っているように見えて実はお互いに物凄く気を遣っていて、そのことが露わになった時の戸惑う感じ、それは森宮さんにとって家族というものがとても大切で特別なものであることの裏返しでもあり、血の繋がりとは別の特別な���い絆を感じられた。優子が見た森宮さんはいつも笑ってた。田中さんという人間から滲み出る温かさが森宮さんの中にあって、そんな森宮さんの笑顔の中の優しさと安心感のおかげで優子は優子でいられた。 そしてながの演じる森宮優子。お母さんに「実写化したら芽郁に演じて欲しい」と言われていた小説だったので出演が決まった時は嬉しくてすぐに脚本を読んで、お母さんのためにも自分のためにも絶対にやりたいと思った作品。グレてもおかしくないような破天荒な児童期を過ごしたにも関わらず、優子は素直で優しく強くしなやかに生きてきた。それは優子を囲む全ての人がその人たちならではの愛情を注いでいたから。感じたことのない愛の種類や温かさを知って、人との繋がりは強くなる。泣き虫っ子みぃたんが魅力的な女の子になっていく過程に説得力を持たせられるだけの、バリエーション豊富な笑顔と泣き顔、繊細な表情の演じ分けがながのにできていただろうか。読んだ脚本には破天荒な母に振り回されて可哀想な優子が描かれていたけど、演じてみる不思議と最初から最後まで幸せな感覚に陥った。
バトンを渡す人はもちろん重要だけど、受け取る人がどう受け取って次に繋げるかが1番重要な気がする。言葉も行動も、その行動に誰のどんな意図が隠されていてどんな意味を持たせるかは全て受け取った人に最終の決定権があるから。「笑っていれば、いろいろなラッキーが転がり込むの」どうしても辛い時は辛い顔、悲しい時は悲しい顔になるけど、それを乗り越えて辛い時も悲しい時も〝笑顔〟。その理由はただ1つ、笑顔がラッキーを呼び込むから。 お父さん達が集まる中、バージンロードを歩く役割に森宮さんが推薦される事によって繋がれたバトンの真意とそのバトンの重さ、タイトルの意味がわかった。式場で「笑っていれば幸せは転がり込むんだよ」という優子の台詞を形にしたら、泣いている暇なんてないくらい前を向けた。 ラスト、優子と早瀬くんが買い物帰りに横断歩道を渡るシーン。自ら選んだ大好きな相手と安心しきった笑顔で笑い合う優子の姿を見て、幸せになってほしいと願った。早瀬くんの手はとても大きかった。
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"Kill them with kindness" Wrong. CURSE OF MINATOMO NO YORITOMO
アイウエオカキクケコガギグゲゴサシスセソザジズゼゾタチツテトダ ヂ ヅ デ ドナニヌネノハヒフヘホバ ビ ブ ベ ボパ ピ プ ペ ポマミムメモヤユヨrラリルレロワヰヱヲあいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわゐゑを日一国会人年大十二本中長出三同時政事自行社見月分議後前民生連五発間対上部東者党地合市業内相方四定今回新場金員九入選立開手米力学問高代明実円関決子動京全目表戦経通外最言氏現理調体化田当八六約主題下首意法不来作性的要用制治度務強気小七成期公持野協取都和統以機平総加山思家話世受区領多県続進正安設保改数記院女初北午指権心界支第産結百派点教報済書府活原先共得解名交資予川向際査勝面委告軍文反元重近千考判認画海参売利組知案道信策集在件団別物側任引使求所次水半品昨論計死官増係感特情投示変打男基私各始島直両朝革価式確村提運終挙果西勢減台広容必応演電歳住争談能無再位置企真流格有疑口過局少放税検藤町常校料沢裁状工建語球営空職証土与急止送援供可役構木割聞身費付施切由説転食比難防補車優夫研収断井何南石足違消境神番規術護展態導鮮備宅害配副算視条幹独警宮究育席輸訪楽起万着乗店述残想線率病農州武声質念待試族象銀域助労例衛然早張映限親額監環験追審商葉義伝働形景落欧担好退準賞訴辺造英被株頭技低毎医復仕去姿味負閣韓渡失移差衆個門写評課末守若脳極種美岡影命含福蔵量望松非撃佐核観察整段横融型白深字答夜製票況音申様財港識注呼渉達良響阪帰針専推谷古候史天階程満敗管値歌買突兵接請器士光討路悪科攻崎督授催細効図週積丸他及湾録処省旧室憲太橋歩離岸客風紙激否周師摘材登系批郎母易健黒火戸速存花春飛殺央券赤号単盟座青破編捜竹除完降超責並療従右修捕隊危採織森競拡故館振給屋介読弁根色友苦就迎走販園具左異歴辞将秋因献厳馬愛幅休維富浜父遺彼般未塁貿講邦舞林装諸夏素亡劇河遣航抗冷模雄適婦鉄寄益込顔緊類児余禁印逆王返標換久短油妻暴輪占宣背昭廃植熱宿薬伊江清習険頼僚覚吉盛船倍均億途圧芸許皇臨踏駅署抜壊債便伸留罪停興爆陸玉源儀波創障継筋狙帯延羽努固闘精則葬乱避普散司康測豊洋静善逮婚厚喜齢囲卒迫略承浮惑崩順紀聴脱旅絶級幸岩練押軽倒了庁博城患締等救執層版老令角絡損房募曲撤裏払削密庭徒措仏績築貨志混載昇池陣我勤為血遅抑幕居染温雑招奈季困星傷永択秀著徴誌庫弾償刊像功拠香欠更秘拒刑坂刻底賛塚致抱繰服犯尾描布恐寺鈴盤息宇項喪伴遠養懸戻街巨震願絵希越契掲躍棄欲痛触邸依籍汚縮還枚属笑互複慮郵束仲栄札枠似夕恵板列露沖探逃借緩節需骨射傾届曜遊迷夢巻購揮君燃充雨閉緒跡包駐貢鹿弱却端賃折紹獲郡併草徹飲貴埼衝焦奪雇災浦暮替析預焼簡譲称肉納樹挑章臓律誘紛貸至宗促慎控贈智握照宙酒俊銭薄堂渋群銃悲秒操携奥診詰託晴撮誕侵括掛謝双孝刺到駆寝透津壁稲仮暗裂敏鳥純是飯排裕堅訳盗芝綱吸典賀扱顧弘看訟戒祉誉歓勉奏勧騒翌陽閥甲快縄片郷敬揺免既薦隣悩華泉御範隠冬徳皮哲漁杉里釈己荒貯硬妥威豪熊歯滞微隆埋症暫忠倉昼���彦肝柱喚沿妙唱祭���阿索誠忘襲雪筆吹訓懇浴俳童宝柄驚麻封胸娘砂李塩浩誤剤瀬趣陥斎貫仙慰賢序弟旬腕兼聖旨即洗柳舎偽較覇兆床畑慣詳毛緑尊抵脅祝礼窓柔茂犠旗距雅飾網竜詩昔繁殿濃翼牛茨潟敵魅嫌魚斉液貧敷擁衣肩圏零酸兄罰怒滅泳礎腐祖幼脚菱荷潮梅泊尽杯僕桜滑孤黄煕炎賠句寿鋼頑甘臣鎖彩摩浅励掃雲掘縦輝蓄軸巡疲稼瞬捨皆砲軟噴沈誇祥牲秩帝宏唆鳴阻泰賄撲凍堀腹菊絞乳煙縁唯膨矢耐恋塾漏紅慶猛芳懲郊剣腰炭踊幌彰棋丁冊恒眠揚冒之勇曽械倫陳憶怖犬菜耳潜珍
“kill them with kindness” Wrong. CURSE OF RA 𓀀 𓀁 𓀂 𓀃 𓀄 𓀅 𓀆 𓀇 𓀈 𓀉 𓀊 𓀋 𓀌 𓀍 𓀎 𓀏 𓀐 𓀑 𓀒 𓀓 𓀔 𓀕 𓀖 𓀗 𓀘 𓀙 𓀚 𓀛 𓀜 𓀝 𓀞 𓀟 𓀠 𓀡 𓀢 𓀣 𓀤 𓀥 𓀦 𓀧 𓀨 𓀩 𓀪 𓀫 𓀬 𓀭 𓀮 𓀯 𓀰 𓀱 𓀲 𓀳 𓀴 𓀵 𓀶 𓀷 𓀸 𓀹 𓀺 𓀻 𓀼 𓀽 𓀾 𓀿 𓁀 𓁁 𓁂 𓁃 𓁄 𓁅 𓁆 𓁇 𓁈 𓁉 𓁊 𓁋 𓁌 𓁍 𓁎 𓁏 𓁐 𓁑 𓀄 𓀅 𓀆
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住民の2割以上が外国人の町 “共生”のための知恵 相互理解に「文化の通訳」 10/17(木) 18:02配信
人口約4万人の群馬県大泉町。製造業が盛んなこの町の住民の5人に1人は外国籍だ。群馬県で一番小さな町だが50以上の国の人が暮らし、人口の2割以上を占めている。市街地にはポルトガル語にトルコ語、英語、ハングル…さまざまな言語の看板が立ち並ぶ。
【画像】外国人との”共生”進む 群馬・大泉町
大泉町で生まれ育ったという住民は「最初はいきなり外国人が増え、何事か?と思ったけど、今は外国人の友達もたくさんできた。古くから付き合いのある地元の仲間と変わらない」と話す。
30年以上前から外国人労働者を受け入れ、外国人との“共生”が進む町として知られる大泉町は今も外国籍の住民が増え続けている。当初は製造業に従事する外国人労働者がほとんどであったが、最近は違う分野で活躍する人材も出てきた。
日本で労働人口の減少が懸念され、海外から労働者の受け入れが議論されている昨今、1990年代にいち早く外国人を招き、すでに共生が進むこの町の取材を進めていくと、日本が抱えている大きな問題とどのように向き合っていくべきか、ヒントが見えて来た。
(外報部 横田容典)
■「みんなアミーゴ」 9月22日、大泉町中心部にある公園は、様々な言語の歓声で賑わっていた。2010年から始まった地元住民と、移住してきた外国人の交流イベント「活きな世界のグルメ横丁」は今回で第101回を迎えた。ブラジルや、ネパール、ベトナム、トルコ、パラグアイなど、様々な国の料理を出す屋台の前には��列が伸びている。シュラスコやケバブなど、世界各地の本格的な味を楽しむことができる。イベントのクライマックスには、ステージでプロのダンサーによるサンバが披露され、会場が歌や踊り、写真撮影で一体となって盛り上がった。
地元のブラジル人女性が、この町の魅力を話してくれた。
「人種、国籍関係なく、誰もが仲良くなれる町。みんなアミーゴ!」
いまや全国から観光客も集まる人気イベントとなり、日本人の観光客からは、「海外旅行に来ているみたいで楽しい」といった声も聞かれた。
「町に住む外国人と触れ合うことができるこのイベントは、いつも楽しみにしている」と話すのは地元で生まれ育ったという70代の男性。最初は良い印象だけではなかったが、徐々に町に外国人が増えていくことに対しても好意的な考えに変わっていったと話す。
■30年を超える“共生”への道のり 町では、1990年代から工場などでの労働力の不足を補うため、外国人労働者を主に日系ブラジル人から受け入れ始め、1996年には外国籍の住民が4000人を超えた。労働人口が増えることで税収は伸び、地元経済も活性化した。
2008年にリーマンショックが起きると、“出稼ぎ”のため来日していた外国人の中には帰国を選択する人も増え、一時町の人口も減少した。当初は数年間日本で働き、貯金がたまったら帰国する人が多かったという。
しかし、2013年以降は再び増加傾向に転じた。「町に定住しよう」と考える人も増えて来た。「外国人が住みやすい」という評判は南米系だけでなく、アジアや中東出身の外国人の間にも広まり、移住者の国籍も増えた。
今年に入り外国籍の住民の人数は8500人を超え、増加し続けている。
大泉町の日本人の高齢化率は上がっているが、若い世代の外国人が増えているため群馬県内では最も高齢化率が低い自治体となっている。
■「最初は大変だったけど…」 大泉町の観光協会に所属し、「世界のグルメ横丁」の運営スタッフの一人、斉藤恵梨子さんも、「外国人が大勢入ってきて最初は、日本の文化を知らなかった事によるトラブルもたくさんあった。最初は大変だったけど、町も色々な施策を打ち出し、徐々に(外国人と地元住民が)お互いを思いやる気持ちも芽生え、みんなが心地よく暮らせる町になっていった」と話す。
外国人労働者を受け入れ始めた1990年代当初は、ゴミ出しの分別がされていなかったり、静かな住宅街で大音量の音楽を流したり、喫煙マナーも守れない人も少なくなかったという。
特に言葉が通じないという点が、地元住民との間に大きな壁を作っていた。どのように注意をすればいいのかわからない。「体格も良く、瞳の色も違う外国人ににらまれたらとにかく怖かった」と住民は話す。
■言葉���訳すだけではなく“文化”を通訳 外国人が日本の文化に馴染めるように、町は2007年から地域で暮らすためのマナーや日本の文化、習慣、制度などを伝える「文化の通訳」を導入した。母国語で正確に情報伝達できる外国人住民を登録して、ボランティアで自身の周囲の人たちに周知してもらうのだ。現在、文化の通訳には739人が登録していて、 ポルトガル語、スペイン語、英語、ベトナム語、などの言語を話せる人たちが活躍している。
この取り組みが徐々に効果を発揮して、住民とのトラブルも減っていったという。
また、住民が緊急に情報を把握する必要がある場合、速やかに役場から文化の通訳にメールで伝達される仕組みができている。彼らからそれぞれの言語の話者の住民に情報を拡散してもらうのだ。
最近では��風が接近した際、役場から文化の通訳の元に、最新の状況や防災マップの確認を促すメールを送り、コミュニティーに周知してもらった。新型コロナウイルス蔓延時には、緊急事態宣言に関する情報や日々の感染者数、感染対策の周知などについても速やかに情報を共有することに成功した。
文化の通訳として活躍する外国人も「地域に貢献できるだけでなく、さらに日本の文化を学ぶことができるので楽しい」と、やりがいを持って取り組む。
■役場にはポルトガル語の通訳が常駐 また、大泉町は特にポルトガル語を話すブラジル人が多いため、文化の通訳とは別にポルトガル語の通訳を積極的に職員として採用している。語学に堪能な職員は、ブラジル人の住民に日本の慣習を広めるため年に10回ほど役場で講習会を開いたり、行政手続きに必要な書類などもポルトガル語に翻訳したりと、少しでも日本の生活で困らないよう力を発揮している。
こうした取り組みが実を結んだのか、実際に大泉町を歩いていても、ゴミ集積所が荒れている様子は見受けられず、マナーの悪い外国人に出会うこともなかった。
9月、来春、小学校に入学する児童を持つ家族を対象とした説明会が役場で開かれ、ブラジル人を中心に数十組の親子が参加した。
「筆記用具は各家庭でそろえる」「欠席や遅刻の連絡は必ず入れる」「荷物はロッカーにしまう」といった日本の小学校の基本的な決まり事を、職員がポルトガル語で丁寧に説明すると、親子は真剣に聞き入っていた。
参加した親からは、「私たちが知らないと、子どもたちが恥ずかしい思いをしてしまうことがたくさんあるので安心する」と、感謝の声が聞かれた。
■大泉町に住み続ける外国人 「活きな世界のグルメ横丁」で出会った、大泉町で生まれ育った20代のブラジル人男性は、日本語もポルトガル語もネイティブで、現在は町内の工場に勤める。
「東京に出ようかと思ったこともあります���、やっぱりこの町が好きなんです。あたたかいし、みんなにすぐ会いに行ける」と笑顔で語った。
近年では工場だけでなく、福祉の分野で働く外国人労働者が目立つようになってきた。大泉町の介護施設では日本で身に付けたスキルで、日本のお年寄りに外国人が寄りそう姿もよく見られる。
町に住む10人ほどの外国人に大泉町に住む理由を尋ねたが皆、同じような答えが返って来た。
「様々な人種、国籍を持つ人が暮らしていて、住みやすくていい町だから」
また、話を聞かせてくれた日本人も外国人も、色んな文化が同居する地元の話を、楽しそうに、誇らしげに語った。
「子どもが将来大きくなって、どんな仕事に就きたいか考えるようになった時、きっと視野が広がるんだろうな」
■町長「共生のモデルとして全国に発信」 大泉町の状況を見ると、さまざまな国籍を持つ住民と、古くから地元に住む住民たちは、互いの文化を尊重し合いながら平和に暮らしていて共生を実現している。海外から日本に移住してきて働き、家族を築いて、その次の世代も町で働くというケースも珍しくない。持続化可能な労働力を創出している。
日本では、労働人口はこの先大幅に減り、福祉、医療など、様々な分野で問題が生じてくることが懸念されている。社会を維持していくための手段として、外国人労働者の受け入れに関する議論は続いている。
「外国人の労働者を受け入れて行かなくては日本の経済は回らなくなってしまう」
こう話すのは、大泉町の村山俊明町長だ。
「外国籍の方々と本町の住民が一つの共生のモデルとして、全国に発信できるような政策を打ち出していきたい」と話し、大泉町を成功事例と見て視察に来る自治体や大学も増えているという。町長は今後も外国人の受け入れを続けていくという。
外国人の受け入れは世界の前例を見ても容易ではない。
戦後から積極的に移民労働者を受け入れて来たドイツでは、移民排斥を訴える極右政党が台頭している。アメリカでは過激な発言で移民を批判するトランプ前大統領が大きな支持を集めていて、移民を巡り社会の分断も生じている。
もし、日本が今後外国人労働者をさらに増やしていくというのであれば、「共生」はキーワードになる。大泉町が歩んできた30年間はこれからの日本社会全体にとって大きなヒントになる。
(住民の2割以上が外国人の町 “共生”のための知恵 相互理解に「文化の通訳」(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュースから)
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「こどもてつがく」 開催日時: 2023年12月17日(日) 場所: 茅スタジオ ファシリテータ: 割田美由紀 企画: 茶畑ゆか 書手: 割田美由紀 テーマ「おとなってなんで怒るの?」
こども哲学で特徴的なのは、おやくそくがあることと、ボールがあること。
おやくそくは、 「なにをはなしてもいいよ」 「おともだちの話をさいごまできこう」 「たくさんしつもんしよう」
の3つ。
何を話してもいい安全な場であること、それを周りの人たちが批判をするのではなく、"ただ聞く"をする場であることを���指します。
そしてボールは「コミュニティーボール」というもので、発言する人はボールをもち、ボールを持っていない子は発言をしないというのが視覚的にわかりやすくなる道具です。このボールを回しながら対話を進めていきます。
さて「おとなってなんで怒るの?」のテーマ通りの展開となった今回…
対話に入る前に、テーマに関連したブレイクタイム (心をほぐして、自然に哲学対話に参加出来るような、頭のストレッチと自己紹介のような時間) をします。
今回は参加するメンバーが初めましてのお子さんがいたので、哲学対話に入る前に楽しみながら馴染めるようなブレイクタイムを選んでみました!
「なんじゃもんじゃ」ゲーム
学童保育や幼稚園で見たり遊んだ事がある子どもも居たので、スムーズにスタート!
それぞれ形や色に特徴のある、キュートなキャラクターに名前を付けてあげます。それを覚えて、同じキャラクターが出たら誰かが命名した名前を叫ぶ!早く言えた人がそのカードをもらえます。
ハートのくちびるの「くちびるちゃん」 意味はないけど「かきくけこ」 赤い頭の怪獣は「赤モジャくん」
数が増えれば増えるほど、なんだっけー?あっ〇〇だー!と大盛り上がり。終わる頃には十分頭のストレッチが終わり、すっかり子ども達は打ち解けました。
気分は楽しいままメインの哲学対話へ。
「みんなは怒られたことがあるかな?」
「お母さんにお片付けしていなくて怒られたー」 「100回位怒られたことある」 「迷子になってお父さんに怒られたー」 「おふざけしてて怒られたー」
「どうして怒られたんだろうね?」
「お片付けしていないと、踏んづけて転んじゃうかもしれないから」 「怒られることしてるから」
「怒られるとどんな気持ち?」
「悲しい」 「嫌だ」 「怒られたく無い」
歩き回ったり、遊びながらも、少しずつ言葉やエピソードが出てきますが、今回は対話と関係なく遊ぶシーンが多くなり、対話としてなかなかつながらず深掘りできない場になってしまっていたので、ここでファシリテーターはひと演技を入れてみました!
「おやくそくの『お友達のお話は最後まできこう』が今日は守られていなかったなあ。だからミユクは怒ります!」「こらー!」
きゃ〜‼️と注目する子ども達。
怒ったふりをしてみました。
「みんな怒られてどんな気持ち?」
「嫌な気持ち〜」
「なんで怒られちゃったんだろうね?」
「お約束やぶったから」
すると、
「私は〇〇ちゃんが遊び回っててそこ���はまっちゃうんだよ。」
と自分の行動の反省点を客観視出来てるAちゃん。
「他のお友達が怒られているのを見てどう思ったかなあ」
約束を守っていたBちゃんは、
「約束を守らないと怒られちゃうから約束を守ったよ。」
幼稚園や学校で他のお友達が怒られているのを詳しく説明してくれたAちゃん。危ないことをしていたから怒られたんだと教えてくれました。
C君は少し離れた場所からも、よく話を聞いて頭で思い巡らせている様子がよくわかりました。
少しの注目で、一気に子どもの集中が戻り、「怒られること」をそれぞれがそれぞれの立場で考えていきました。
最後にはコップタワーのアクティビティです。 回を重ねる事に、声を掛け合って協力しながら一つの大きなタワーを作ることが上手になっています。
この共同作業ではどうしたら限られた時間の中で大きなタワーが出来るのか、それぞれが良く考えながら、他者に声をかけることが必要になってきます。
また、ぐしゃぐしゃに踏み潰したりして使えるコップが減ってしまうと、次も大きなタワーが作れない。。。ので、コップを大切に扱うということも必要になってきます。当初は気にせず踏み潰したりしていた子も、自然と紙コップを大切にしてくれる姿が見られるようになってきました。
恒例のアクティビティをする中で、子ども達の成長やよく考えている姿が見えてきている最近です。
次の会ではどんな対話が生まれるでしょうか。楽しみです!
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今回のテーマ:「おとなってなんで怒るの?」
おとなってなんでおこるんだろう。 ふざけたらわらってくれるかな。 へんなことしたらどうだろう。 あれ、もっとおこられた。 なんでだろう、やっぱりぜんぜんわからない。
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こども哲学・参加者募集中!
■ 日時: 2月10日(土)10時30分〜12時ごろ ■ 料金: 1,650円(税込)/1人 ■ 対象: 5-6歳(年長)頃から、7-8歳(小2)頃までのお子さま ■ 予約: [email protected] まで ■ ファシリテータ: 割田美由紀さん(みゆく)
テーマの決め方について:
茅スタジオの「こども哲学」では疑問に対する回答を示すのではなく、答えがない問いについて自ら考えを深めていくことの楽しさを味わうことを大切にしています。
とくに低年齢のお子様に向けては思考訓練の意味合いが大きいと考えており、繰り返し考えを深める体験をしていくことで「自分の頭でかんがえる」ことの面白さにつながっていくことがあると感じ��います。そのため、テーマはこどもが自然と「かんがえること」に入っていけるものを選ぶことが多いです。大人目線ではなく、こども目線で考えながらテーマを選んでいます。
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イメコンよもやま話
私は2018年頃イメコンにハマっていた。
イメコンにハマる少し前の時期、今よりおしゃれの解像度が低くて、ツインテール・リボン・ピンクなどが「かわいい」の全てだと思っていた。そのため、それらが似合わないのは容姿が劣っているからなのだとよく落ち込んでいた。
祖母と買い物に行くと、女の子らしい洋服の売っているお店に寄るのだが、試着しても全く似合わず、試着した姿を見せても祖母も家族も微妙な反応...。それを見てさらに落ち込み、なんだか申し訳ない気すらするのだった。
華奢で童顔でツインテールの似合う女の子になりたいなと思っていたが、なれないなとも薄々気づいていた。
そんな時にネットで見かけた「イメコン」。パーソナルデザイン診断(PD)というのを受診すると自分に似合うデザインが分かるらしい。もしかしたら、自分の容姿が劣っている訳ではなくて似合わないデザインの服を着ているだけでは?と思い、希望が持てた。
パーソナルカラー診断1回目
とはいえ、パーソナルデザイン診断を行っているのは個人のアナリストさんでなんとなく敷居が高いように感じた。値段も思いつきで出せる金額ではなかったし。
当時、パーソナルカラー診断(PC)が流行り出した時期だったので、デパートで比較的安価に診断してもらえるという案内を見かけ、まずはそれに申し込んでみた。
大人気だったので予約は大変だったが、なんとか予約することができた。窓のない部屋で蛍光灯の下ではあったが丁寧に診断していただき「ブルーベース」の「サマー」で、特にくすんだ青みのある色が似合うと診断してもらった。
顔タイプ診断
ただ、PCでは似合う色は分かるが似合う服の系統は分からない。今度は顔タイプ診断に行ってみることにした。やはり個人のアナリストさんに見てもらうのはハードルが高いような気がしてショッピングセンターの一画に常設しているところに行くことにした。
顔タイプ診断では、写真を撮ってもらい、理論に従って計算してもらった。計算結果は数値が中間だったのかすぐには分からなかったが、まあ「ソフトエレガンス」でしょうということだった。似合う柄など教えてもらった。しかしアナリストさんの「大学生みたいね」という何気ない一言に、当時年次は浅いが社会人だった私はなんとなく落ち込んでしまった。
そんなこんなで似合うものが分かったような分からないようなモヤモヤとした試行錯誤の日々が続いた。ドラッグストアで似合うと診断してもらったコスメを大量に買い、似合うと診断してもらった柄の洋服を買った。毎日Twitter(現X)を見ては自分と同じ診断結果の人がおすすめしているものを見ていた。でも、特におしゃれ��なった気はしなかった。
パーソナルデザイン診断、パーソナルカラー診断2回目
どうしたらいいんだと悩み、なんとなく弾みもついたので個人でやっているプロのアナリストさんの診断を受けに行くことにした(PC・PD)。抽選は1回外れてしまったが、2回目の応募で診断してもらえることになった。
すごく緊張しながら当日を迎え、しかし同時にワクワクしていた。知らない方とペア診断のはずだったが、その方は都合がつかなくなったとのことでマンツーマンで診断をしてもらった。
自然光のもと、パーソナルカラー診断をしてもらった。ドレープを顔にあててこの色は顔色が綺麗に見える、この色は顔色が暗くなると教えてもらったがあまりよく分からなかった。診断結果は「ブルーベース」の「ウィンター」だった。これは結構すぐに診断結果が出た。
次にパーソナルデザイン診断をしてもらった。雰囲気や体型など見てもらったが、かなり悩まれていた。
診断結果を教えてもらう前に自分では何が当てはまらないと思うか聞かれた。まず思いついたのは「キュート」タイプ。上記のように女の子らしい格好は似合わないと思ったから。正解です!とのこと。次に、見た目的に運動できなそうだから「ナチュラル」でもなさそうとのこと。
最初は、PD「ファッショナブル」で、サブ「グレース」と言われた。大きめのアクセサリーが似合うなど説明をしてもらった。
質問をしてもいいとのことだったので、家族で写真を撮りに行った際に、レースのワンピースを着たがなんとなくしっくりこなかった...ということを写真を見せつつ相談した。
そうしたところ、診断結果を改めさせてほしいと言われPD「ロマンス」で、サブ「ファッショナブル」という診断結果に変わった。割合としては「ロマンス」8:「ファッショナブル」2ということだった。
様々説明をしてもらい、メイクレッスンもしてもらった。黒いアイシャドウが案外馴染んで驚いた。
PDの診断に時間がかかったこと、結果が変わったことから私の印象ってあまり輪郭が無いのかなと思った。
その後は診断結果に従って服を選んだ。少し期間を置いて同じアナリストさんに買い物同行もお願いしたりしてかなり熱心にやっていたと思う。その恰好で友人に会って褒められたり嬉しいことが結構あった。服を選ぶ際も明らかな外れを引くことは無くなって楽になった。
(私はブルーベースで青みのあるものが似合うのだが、以前はオレンジの服を買ったり茶髪にしたり良かれと思ってしたおしゃれがしっくりこないことが多かった。)
サイズについて考える
それから少し時間が経って、新型コロナウイルスが流行り始めた頃。
その頃よく見ていた「ソーイング・ビー」(裁縫自慢達が集まって洋服を縫い、チャンピオンを目指す番組)でモデルの体型にあった服を縫えているかという審査基準があった。
モデルの体形に服が合っているかは、私のような素人でもよく分かり、やはり体形に合っている服は素敵だった。
ふと自分の持っている服は自分の体形に合っているのかが気になり始める。コロナ禍で運動量が減り太ったのと、私は日本人女性の平均身長より背が高いので服が小さいかも?と気づく。
「ソーイング・ビー」のように全身のサイズを測ってみる。そして、自分のサイズに合う服をネット検索してみる。あれ...ルミネに入っているようなブランドはサイズ合わないじゃん。特にボトムス。
UNIQLOやGU以外は、外資のブランドであればサイズがあることが分かったのでL.L.Beanをよく買うようになった。後は日本のブランドだとオンワード系列とワールド系列も結構サイズが豊富で助かる(組曲のフレアスカートとUNTITLEDのワンピースはかなり買ってよかったと思っている)。
サイズにこだわるのとPDにこだわるのはなかなか両立しなくて難しいが、ベーシックなアイテムはサイズに合うものを揃えて、アイコニックなアイテムでPDを意識するのがちょうどいいと感じるバランスなのでしばらくはこれで行きたいと思っている。顔タイプがソフトエレガントだから全てが派手だとなんか違うし...
(さらに最近のこだわりは洗濯機で洗える服が買いたい。なかなか服を買わなくなった。)
ファッション難しい
自分に似合う服を着たいのは、人から丁寧に接してもらいたいからという理由が大きい。だからか考え続けているとなんだか嫌になってきてしまうこともある。だって本当は楽な服だけ着ていたいし...
でも自分を客観視してどうすれば似合うか考えていくのは面白くもある。印象を変えられるのも面白いし。
これからも悩まなくてはいけないのだろうか...と嘆きつつ、友人と会う時の服をワクワクしながら選んでいる。
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こんにちは。こんにちは。 9月13日(火)☀️ 秋なのに夏の暑さですね💦 絵本ちゃんときのこ文庫は 16時までオープンです📚️ 有難いことにオープンから次々と お客様が途切れなくお越し下さり 嬉しい気持ちでいっぱいです❤️ 旧質美小学校は、pandozo cafeさん カフェ盲亀浮木さん、おかきのお店も 16時までオープンです🏫 #母の友特選童話集 #こどもに聞かせる一日一話 #福音館書店 #京丹波町 #質美笑楽講 #旧質美小学校 #質美小学校 #しつみしょうがっこう #本屋 #絵本屋 #絵本ちゃん (絵本ちゃん) https://www.instagram.com/p/CibxqYnvpyz/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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構成・演出
額田大志 Masashi Nukata 作曲家、演出家。1992年東京都出身。 幼少期��り、母親の影響でリトミックを始める。中学二年生の頃、友人の影響でロックバンド『UNICORN』にのめり込みバンド活動を開始。20歳までは主にドラムを演奏。高校時代に作曲、編曲の面白さに気付き、朝まで打ち込みをしては授業中に寝るという生活を送ったため、成績が学年で下から二番目になる。一般大学への道のりは絶望的だったが、音大なら進学できるかもしれないと思い立ち、運良く東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科に入学。 その後、複数のロックバンドでドラムを叩き、ライブハウス『下北沢屋根裏』などに定期的に出演するも中々上手くいかず、大学二年生の冬に8人組バンド『東京塩麹』を結成。同バンドは活動を継続していく中で様々な機会に恵まれ、ツアーやフジロックの出演などで注目を集める。現在は主にシンセサイザーを演奏。 また、大学時代に友人の演出する舞台に衝撃を受け、自らもダンス公演を主催するなど舞台芸術の活動を開始。とはいえ厳しい道のりであり、プロのアーティストの道を諦めて大学留年の後に音楽企業へ就職。しかし、誘われたライブ活動で有給(厳密には特別休暇)を即座に使い切ってしまい、なし崩し的に休職。そして、休職中にのんきに金沢観光していたことがSNS経由で上司にバレて、勤続7ヶ月でスピード退職。活動を本格化。 就職と同時に演劇カンパニー『ヌトミック』を結成(こちらは継続)。カンパニーは現在5人のメンバーで活動。舞台音楽や広告音楽も手がけるが、その便利屋的な立ち回りに、そろそろ自分の軸を持たなければと焦りながら創作を続ける。
演奏
※出演を予定していたCharさんは、ご家庭の事情により不参加となりました。何卒ご了承くださいませ。 波岡康之 Yasuyuki Namioka パフォーマー。 まず私の人生で最初に影響をあたえたのはブルース・リーです。 そして空手をはじめました。私の通っていた道場には、少年部はなかったので、大人と一緒にトレーニングしていました。そのせいかみるみる体力がつきました。以前は学校でほとんど選ばれることのなかったリレーの選手に選ばれるようになりました。そしていろいろなことに積極的に取り組めるようになりました。 役者にも挑戦しました。アルゼンチンタンゴもやりました。 そしてよく行くようになったJAZZ喫茶のとなりの座っていた方が有名なサックスプレイヤーで、その人に習い、サックスも��けるようになりました。 ブルース・リーの有名な言葉に“Don’t think feel”というのがあります。 そしてジークンドーに、型はないというのがあります。私も既成概念にとらわれず格闘技にARTにTRYし続けていきます。 遠山ひかり Hikari Tohyama 1997年生まれ。東京都出身。幼少期から一日中絵を描き続けたり、5歳からピアノを習うなど芸術全般に多く興味を示す子供であったが、小学校3年生の学芸会で主人公『負けうさぎ』を演じたことが深い興奮として記憶に残る。芝居の世界への憧れから、中学時代は邦画を観漁るようになる。そうして高校では念願の演劇部に入部。この頃から、小劇場の公演に足を運ぶようになる。晴れた日は高校の屋上で寝て過ごしていたのでクラスで浮いていたが、文化祭のクラス演劇で主演女優賞を獲得したことから急に人に話しかけられるようになった。すっかり演劇以外にやりたいことがなくなっていたので、桜美林大学芸術文化学科演劇専攻に進学。学生団体に出演したり、作・演出・出演の一人芝居に挑戦したりして過ごすが、様々な出会いを通して学外の活動が盛んになり大学から足が退く。何か続けられる仕事を始めたくて、憧れていたバーテンダーの求人に応募。アルバイト生活をしながら2019年に同世代の劇団に俳優として加入するも、現在は活動休止している。演劇や生活に挫折する日々ではあるが、救急車で運ばれた際に生死を彷徨いながら「女優です!」と叫んだ自分を信じ、舞台活動を続けたいと思っている。 小又旭 Asahi Omata 学生。1997年生。自己紹介に苦手意識がある。小学校時代には図書室によく通い、アルセーヌ・ルパンなどの冒険譚や、ハリーポッターなどの長編ファンタジーが好きな少年だった。 図書室に折り紙が常設されていたことをきっかけに、小3から中学校くらいまでは折り紙に傾倒していた。そのころは学校で配布されたプリントを折ってしまい、ぐちゃぐちゃになっていた。高校に入り演劇を始めるとともにほとんど折り紙を折らなくなったが、自己紹介の際に「折り紙好き」という情報が使いやすいので頼りがちである。 その後、演劇系の大学に入学。他学科との関わりや実習など、校内施設を使った授業の多さに惹かれて入学したものの、体調を崩したためほとんど参加できない日々が続く。 今年に入り、二年間の休学から復学した。しかしコロナの関係であまり実習もないので、家で折り紙を折ってSNSにアップすると割と反響があるのでたまにやる。現在はサボテンを育てはじめた。 カワイサンホ Sanho Kawai 会社員。1992年生まれ。長野県出身。 実家はス��ー場近くの山の中。両親が脱サラ後に自分で建てた丸太小屋で育つ。自然と動物に囲まれ、近所に子供がいなかったので一人遊びをして過ごすことが多かった。西日の当たる部屋で絵を描きながら眠るのが幸せだった。 運動はてんでダメで、その代わり音楽はずっと好きだった。中学生では吹奏楽部でバリトンサックスを吹いていたが、その傍らロックやバンドという概念に強く惹かれ、自分もバンドを組んでみたいという思いが日に日に強くなる。 高校生の時にエレキベースを購入。念願の軽音楽部に入る。大学時代はコピーバンドサークルに入り、ソウル、ファンク、R&Bなど様々なジャンルの音楽に触れる。 社会人になっても音楽活動をゆるく続けている。去年は「Cutty Scooner」というユニットで音源をリリースし、ベースで参加している。 今回、粘土という素材で参加した理由は、会社員で調子を崩してしまった時に、たまたま家にあった粘土で造形を始めてみたら気持ちが楽になったことがきっかけ。現在も気が向いた時にオリジナルの作品を作っている。Instagram:@__pumo 八木佑平 Yuhei Yagi 1996年3月28日生まれ、香川県出身。現在は都内にある建築デザイン事務所に勤務。普段全くと言っていいほど音楽を聞かなかったのだけれど、3年前くらいから音楽というより音に興味を持ち始めた。 それは大学4年の冬、友人の研究の手伝いで音楽を制作したことがきっかけで。 ある音とその音がもつイメージとの関係についての研究だったように思う。 1人用の特殊なドームの中で、ヘッドホンとVRゴーグルをつけてその制作は始まった。まずセミの鳴き声・海の音・風の音を同時に聞いて、夏が見えるでしょうと友人はサンプルの音源聞かせてきた。 うん、確かに。VRはウユニ塩湖みたいな映像になっていたけれど、いわゆる夏感を音によってイメージさせられた。音も、ある体験の重要な要素なのだ。 音によって感情が引き出される。日常でもよくある事だ、音楽を聞く目的のほとんどと言ってもいい。 その音に対する自分の認識。解像度が様々なイメージまでくっついている。黄色を見て「黄色」と言う。その共通認識ゲームは音にも言えるのだと改めて知覚したことは大きな衝撃だった。 次は100種以上あるサンプリングされた音源を自由に組み合わせ、あるイメージを実現させる音楽を作ってみる。雨音なら「小雨」から「豪雨」まで、鳥のさえずりは複数種の鳥の鳴き声があり、車や人混みなどの騒音も用意されていた。 何をイメージしてどの音源を組み合わせたかは忘れてしまったのだけれど(悲しい…)、それは生きてきて聞いたなかで一番不快な音楽になってしまったのだ。 自分が聞きたい音を6種くらい、ある程度風景のイメージ���=絵とそこになる音の成立)も持って組み合わせたその音楽は、とにかく聴き心地が良くない。不快。 雑多な音が同時に存在する日常はなぜここまで不快にならず成立しているのだろうか。耳が慣れているのだろうか。ある音が許容値を越えると異常事態化し(うるさいなど)不快になる。 ましてや音楽を作るなんて、なんて難しい制作なんだ。とここ数年悶々としていたところ今回のWSを知って参加してみた。 ひろすえゆうた Yuta Hirosue 介護福祉士。先天性の心室中核欠損症で運動が出来なかったのですが、音楽の授業で自分を表現する楽しさを知り、中学、高校と吹奏楽部でパーカッションを担当しました。 高校卒業後は福祉の専門学校へ進み、保育士、幼稚園教諭、介護福祉士の資格を取得し、福祉施設で働いています。現在は福祉施設で働きながら、児童館で小学生から高校生を対象としたドラム講師のアルバイトをしています。 お笑いが好きで、ライブを観に行くことやラジオにハガキを送ることが好きです。昨年からは自分も何かやってみたい、という気持ちが強くなり、自分自身もエピソードトークやフリップネタでお笑いライブに出演するようになりました。 コロナ禍で自分にとっての幸せは人と出会うことだと思い知り、「一度きりの人生、出来ることは何でもやってみよう」と前向きになることができました。 共演者との出会い、私が鳴らす「物体」との出会い、観てくださるお客様との出会い、全ての出会いへの感謝と幸せを噛みしめて演じます。 長沼航 Wataru Naganuma 俳優。ヌトミック所属。幼稚園くらいまではそこそこ内気なシャイボーイ、保健室のれいこ先生と仲良しこよしでお届けしておりましたが、家では風呂から出てくるやいなやソファに飛び込み「おもしろ劇場」を開催する陽気な一面もある男の子でした。小学3年生からはマーチングバンドに所属してユーフォニアムとチューバを担当、朝練はよくサボっていた。中学校では一旦科学部に鞍替えするも、母親の友人経由で週末にゴスペルを歌い始める。高校ではオリエンテーションでかっこいい演奏をしていた吹奏楽部に入ろうと決意し仮入部に行く。すると、「久しぶり、ビリー!」と会ったこともない先輩にいきなり抱擁され、そこからあだ名は基本的にビリーで統一している。また、その人とは別の打楽器の先輩につかまり実はずっとやりたかったパーカッションに転向する(ちなみに人生のどこかでベースもやってみたい)。高校は笑いにシビアなところだったので、文化祭や合唱祭のたびに漫才やコントのコピーをやっていた。高2の定期演奏会で寸劇をやり、ウィンクキラー役を務めたのが演劇に目覚めたきっかけ、ではないのだが台本係の後輩と帰り道にフィクション��ことばかり話している時間は楽しかった。大学に入って下北沢・本多劇場で観たヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』が衝撃的に面白くそこから演劇にハマり、いつの間にか舞台の上に俳優として立っている。今年度からは横浜国立大学大学院の修士課程に在籍し、作品制作という形で研究を行っている。ちなみに、順調ではない。 深澤しほ Shiho Fukasawa 俳優。ヌトミック所属。山梨県出身。母親がドラマを見るのが好きで、小さい頃、一緒に寝るまで横で見ていたことをきっかけに「テレビの中の人になったらお母さんが喜んでくれる!」と思い「テレビの中の人」になることを目指す。 田舎の小さな中学校・高校には演劇部が無く、地元には映画館も無く、俳優になることを本格的に意識し始めたのは高校2年の進路提出のとき。 社会人としてなりたいものが本当に浮かばず、どうしたら俳優になれるのかもわからず、とりあえず学校帰りに「月刊 デ☆ビュー」を買って、当時人気だった小池徹平が「君も応募しよう!」と微笑みかけてきたのでこっそり応募。俳優養成所に合格するも、よくあるぼったくりの養成所だと気づくのは5年後。 心理学を学べる大学に通いながら、俳優養成所に通い、大学ではなぜか図書館司書の資格を取得するというブレブレの時代を通過する。「タマビ」「ムサビ」「オウビリン」という美術系の大学もあることを教えてくれなかった高校3年の時の担任・本多の顔は忘れない。そしてそういう大学があることを調べもしなかった当時の自分の怠慢を今でも根に持っている。 ようやく人生の軌道修正するのは大学を卒業して3年後、養成所で奇跡的に知り合うことができた〝師匠〟から「これを読め」と『東京ノート』(平田オリザ著)を渡され、以降は青年団関連の舞台を片っ端から見に行く。 アーツ千代田3331でやっていた、わっしょいハウス『木星の運行』を見に行ったとき、出演していた浅井浩介さんの佇まいに度肝を抜かれ、今まで私が養成所で教わっていた〝それら〟が一気に崩れ去る音を聞く。ぼんやりしていた心の目がついに開眼し、青年団の俳優が講師をしてくれるという「映画美学校アクターズコース」を受講。その後のスピード感は自分でもよくわからないが、生粋の下克上精神は維持しつつ、人生遠回りしてもまあいいじゃないか、と楽観的な思想も持っている。 << 公演トップページ << 無料楽譜公開
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エンリケ後悔王子
※本テキストはPCでご覧頂いた場合雑誌風の縦書き表示となります。
先が見えない。行き詰まりのどん詰まりで我々は今抗ったり、受け容れたり、或いは諦めたりしている。想像した未来はもっと華やかで便利で、そうじゃないとしてもマトモだったはずなのに。
効率化を突き詰めればその先には『死』しかない。バンドは非効率の極みだ。その非効率を更に極め、自ら修羅の道を行く��れ者たちことエミリーライクステニス。今回メンバー全員にインタヴューを敢行することにより、その哲学がヴェールを脱いだように思う。まずは唯一のオリジナルメンバーであるエンリケ後悔王子だ。
(聞き手:早瀬雅之)
友達もいないけど、いじめられるでもない。何もない。毎週ブックオフに行ってた
●まず生い立ちを訊こうかなと。
「出身は群馬の前橋っていう県庁所在地なんですけど」
●結構中心地というか栄えてる?
「いや、死んでますね(笑)。オリオン通り商店街っていうのが近所にあったんですけど、ブラックビスケッツが一体五万円の木彫りのブラビ像を売っていて、どうしても売れなかった最後の一体を買い取ったのがその商店街で。商店街の人が『この通りの名前もブラビ通り商店街にしましょう!』って言ってた(笑)。そんな街です」
●ええ…。今もその名前なの?
「多分…。僕が大学生くらいの時にその近くにモールが出来ちゃって、商店街は蹂躙されちゃったんですけど、そこに新星堂があってD☆SELDOMっていう安いオムニバスと、フリーペーパーを毎月取りに行ってた記憶が」
●ああ、出してたね。それが情報源みたいな。
「そうそう、音楽雑誌かそれ。タワレコは高崎に行かないとなかった。県庁は前橋なんですけど高崎の方が栄えているんですよね」
●何か栄えているイメージがあるよね。
「自分の思春期で結構(高崎に)持ってかれたかな。ヤマダ電機の本店とか」
●ライブハウスもclub FLEEZが高崎に移って。
「そうそう、G-freak factoryの根城でお馴染みの」
●家族構成はどんな感じだった?
「祖父母と両親と姉と兄と…」
●三人兄弟?
「姉貴が九個上で兄貴が二つ上ですね。だから僕が小学生のうちに大学進学で家を出ていきました」
●何か姉弟仲が良いイメージがある。
「今でも年数回会うし、兄貴も姉貴もうみのてのライブ観に行ったことがあったはず(笑)」
●その節はどうも(笑)。
「洋楽を最初に教えてくれたのが姉貴で、後は兄貴とオルタナを掘ってたかな」
●なるほど。やっぱり上に兄弟いると強いというか影響受けるし、早熟になるというか。
「そうですね。一番最初は小学生の時に、姉貴がミスチルのファンクラブに入ってたので、当時出たDISCOVERYかな。あと深海をずっとカセットで聴いてた記憶が」
●いい入りなんじゃない?
「入門編としては(その二枚は)間違っているような(笑)。あとは兄貴がビーズが好きだったから聴いてましたね」
●じゃあ結構音楽には入っていきやすい環境だったんだね。
「両親は大学の合唱団か何かで知り合ったんだっけな。あとはクラシックが好きで��音楽番組を観てると「最近のは全然わかんねーな」って機嫌が悪くなるような感じの人でした」
●タチが悪いやつだ。
「かと言ってクラシックを強要するでもなかったですけどね」
●学校ではどんな感じだったの?
「小学校入るまではものすごく引っ込み思案で。それが小学校入ってからすごい、何か陽キャみたいになって」
●え?そうなの?
「文集のランキングに入ってる『面白い人』とか『将来有名になりそうな人』とかあらかた名を連ねてるんですよ。今じゃ考えられないんですけど(笑)」
●何でこうなってしまったんだ、みたいな(笑)。
「いわゆるクラスの中心人物だったんですよね。アクティブな。でも小五くらいからかな、今思うと些細なことですけど、自分の家庭が新しいガジェットに対してものすごい嫌悪感を出すというか。プレステとかアドバンス買ってくれないみたいな。それで段々みんなの話題についていけなくなって、翳りが見えてきた(笑)」
●(笑)。
「結局小学生の「面白い」「つまらない」の尺度って如何に話題を共有できるかがほとんどじゃないですか」
●そうだね。特にゲームとか。
「あと漫画、昨日のテレビ、流行りの音楽くらいか…。段々それについていけずに、スクールカーストが下がっていく(笑)」
●でも野球やってたし、運動なんかは出来る方だったの?
「小学生までは自分が主人公だったから(笑)。少年野球で打率六割くらいあったし。『ヒット打つの簡単じゃないですか?』とか言って調子に乗ってた」
●ムカつくなぁ(笑)。
「シングルヒットしか打てなかったんですけど。早熟だったのかな。当時は背も小さくて痩せてて。段々みんな身体が大きくなって。中学くらいだともう置いてかれちゃったみたいな」
●今の感じに段々近づいてきたね(笑)。
「中学くらいで陰と陽が逆転して陰の者に(笑)。タウン&カントリーの黒い方になっちゃった」
●陰陽のマークね(笑)。部活はずっと野球?
「中学は野球で、高校も途中まで軟式をやってたけど「勝つぞお前ら!」みたいな顧問に代わって…。高校の軟式野球ってすごいヒエラルキーが低いんですよ」
●そうなの?
「甲子園もないし。甲子園決勝の一週間後に明石の球場で偽甲子園みたいなのをやってるけど、誰も気にしてないというか」
●硬式と軟式ってまったく別物?
「全然違う。硬式はボールがまず痛い」
●(笑)。
「練習が好きだったんですよ。でも試合は緊張するから嫌いで。それと硬式は甲子園を目指してレギュラー争いもそうだし、負けたらお終いみたいな…。野球は好きだけど、競争とかバトルしたくない、みたいな精神性でしたね」
●ああ、そうなんだ。
「こっちは楽しく野球やりたいのに、強要するなよ。って。その顧問は初心者をすごくないがしろにしていたし。それで辞めちゃった」
●勝ちたいよりも楽しみたかったんだね。高校のカーストは?
「中学で底辺で…。紅白戦でわざとデッドボール当てられたりするんですけど」
●イジ��じゃん(笑)。
「『先輩、塁に出られてよかったッスね』みたいな。だからとにかく、輩とかしょうもないいじめっ子がいない進学校に行くしかないっていう強迫観念だけで勉強してました」
●その頃は頭はよかったんだ
「うん。学年で十番以内だった」
●おお、すごい。
「それで前橋高校っていう男子校の進学校に行って。そこはね、スクールカーストがなかったんですよ、何もない。いい大学行けるように自由にやれ。みたいな」
●グループがないの?
「いや、グループはあるしもちろんイケイケな奴もいましたけど、男子校なのでカーストを思い知らされる現場に遭遇しない。『あ、あいつ俺の好きな子と一緒に帰ってる…!!』みたいなシーンを見ないで済むというか。たぶん九割以上童貞だったはずですよ」
●男子校だとそういう劣等感は生まれにくいのかもね。
「そう、友達もいないけど、いじめられるでもなく。何もない。部活が終わったら自転車圏内にある三つのブックオフを毎週ローテーションするだけ。三週間後に行くと微妙にラインナップが変わってて。あとはツタヤで安い日に下北系を借りまくる日々」
●なるほど。
●話が戻るというか変わるけど、兄弟の影響とかありつつも、高校くらいは自分の意思で音楽を聴いてたの?
「そうですね。中学終わりくらいまで洋楽を聴いてなくて。兄貴がツェッペリンとかハードロックが好きで聴かせてきたんですけど、ハードロック伝説みたいなエピソードあるじゃないですか」
●はいはい。ありますね。
「オジーオズボーンがコウモリ食べたとか、ホテルでグルーピーと…とか。それがすごくカッコ悪く感じて」
●ああ、ロッククラシック的なエピソードが。
「『俺たち、ロックだぜ』みたいなのが嫌だったんですよ。でも中三の時に姉貴がWEEZERを『これ聴きやすいよ』って貸してくれて。それですごく衝撃を受けた。こんな冴えない人がバンドやってるんだ!みたいな」
●大味なロックバンドよりもうちょっとパーソナルなのが好みだった?等身大の。
「そうそう、等身大の。中学の野球部引退した後から邦楽のギターロックにハマりだしたんですよね。くるりから始まりモーサムとかシロップとか。ちょうどその頃全盛期だったんですよ。アジカン、アシッドマン、レミオロメンの御三家を筆頭に…」
●一番アツい時期だね。後に続けとたくさんのバンドが。
「あとアートスクールとバーガーナッズかな」
●UKプロジェクトとかQuipマガジン的な。下北が盛り上がってた頃だ。
「で、洋楽はWEEZERからオルタナとかシューゲイザーにハマっていった」
●今でもその辺りは好きだと思うんだけど。その時期に聴いていたものがバンドのルーツになってる?
「そうですねぇ、初めてやったバンドはNIRVANAのデモみたいな音質の、汚くて演奏が酷い感じだったような(笑)」
●ライブ初体験は?
「一番最初は中三の時に行ったゴーイングアンダーグラウンドかな」
●おお、意外。
「受験期にハートビートが出て、ずっと聴いてたんですよ。後は高校のとき、FLEEZにアートスクールとか観に行っ��た。早瀬さんも行っていたとされる…」
●パラダイスロストのツアーだっけな。モーサムと。
「あと結成当初の秀吉が出ていた」
●意外と群馬はバンド大国だよね。
「当時はメロコアと青春パンクが強かったですね。で、陽キャがそういうのを聴いてるから逆張りで内省的なギターロックが好きだったのかも知れない。バンドに一切罪はなくても、銀杏とかが聴けなかった」
●ああ、自分が入っていく余地がないみたいな?
「そうですね」
●そこから大学に行くタイミングで上京?
「はい。東京じゃなくて横浜だったけど」
橋本君に『こんなくだらないとこ、さっさと抜け出そうぜ』って言って軽音部を辞めた
●そういえば楽器っていつ始めたの?
「中学の選択授業で体育選んだのに手違いで音楽になっていて、ピアノも辞めちゃったしどうしよう。ってなって」
●ピアノやってたんだ。
「小一から小六までやったのに何も身につかなかったけど。ト音記号の場所しかわからない。コンクール用の曲をひたすら半年前から練習してやり過ごしてたと思う。で、その授業でどうしようかなと思っていたら、いとこで駅でギター弾いている子がいて、その人がギターを貸してくれて。ゆずの楽譜とともに(笑)」
●まったく(ゆずを通った)イメージない(笑)。
「それでその曲は簡単だから何となく発表も乗り切れて。でもある日家に帰ったら兄貴がギター弾いてて、既にFとか抑えられるんですよ。『俺が借りたのに!』って。すごくムカついて(笑)」
●ああ、利用されたみたいな。
「そう。それでロクに弾いてなかったけど、高校受験の直前にギターロック聴きだしたからエレキが欲しいってなって。親に受験終わったらいいよって言われたんです。そしたら兄貴が『絶対ベースを買うべき。エレキは俺の弾けばいいから。ベース弾ければ高校でバンド組むとき重宝されるぞ』って言うんですよね」
●そうかな…。
「そしたら受験真っただ中で最初に話したオリオン通りにある新星堂が潰れることになって、弾くのは受験終わってからって約束で閉店セールでベースを買ったんです。で、勉強しててこっちは弾けないのに兄貴が弾いてるんですよ(笑)」
●ズルい奴だな(笑)。
「結局自分が弾きたいから弟に買わせると」
●それで「ベースを買った方がいい」って力説してたんだ。
「そうなんですよ。で、兄貴が僕が高二のときに大学進学でエレキ持ってっちゃって。家にアコギとエレキベースだけがある状態(笑)」
●厳しいね。
「しょうがないからアートスクールのベースをずっと耳コピしてて。部屋を暗くしてコンポ爆音でヘッドフォンつないで、小さいアンプからベースを弾いてる。親からしたら心配ですよね。子供部屋から重低音だけが鳴っている」
●うちの息子は大丈夫かって(笑)。
「受験の時もそうだしいろいろと心配をかけましたね」
●大学はどうやって選んだの?
「結果論というか、もともと大学デビューしたくて関西の方の大学を目指してたんですけど、高校の先輩が行ってた大阪大学ってところを志望校にして。センター試験って会場が適当な高校に割り振られて受けるんですけど、なんと会場が自分の高校の自分のクラスだったんですよね」
●えーすごい偶然だね。
「そのホームグラウンドで何故か受験科目を間違えて(笑)」
●何で(笑)。
「一日目にロッカー開けて確認したら『あ、阪大受けられないじゃん』って。それでやる気がなくなって高校も行かずに、もうA判定のとこならどこでもいいやって思ったら国公立の前期も落ちて、たまたま後期で引っかかって、気づいたらビーズの稲葉の後輩になっていたと。進路が決まったのが三月の二十日過ぎだったと思う」
●めちゃくちゃギリギリだな。
「ロックコミューン(立命館の音楽サークル)に入りたかったですね。くるりを輩出したでお馴染みの」
●あとヨーグルトプゥね。
「そうそう(笑)」
●そこでエミリー結成したの?
「満を持して『バンドをやるぞ!』って軽音サークル入ったんですけど。上下関係が厳しくて。しかもみんなメタルのコピバンをやっている。学園祭になるとOBたちが集結してジューダスプリーストとかやってるみたいな(笑)」
●すごいサークルの良くない感じが出てるね。
「新入生はすぐバンドを組んで五月にお披露目ライブで一曲やらなきゃいけないんですけど、僕は何故かたまたま同じ大学に進学した高校の同級生三人とバンドを組んだんですね(笑)」
●意味ないじゃん(笑)。
「陰の者同士で(笑)。それで何かコピーしようとしたけど全員下手過ぎてコピー出来なかったんです。ドラムはドラムマニア上がりでベースとギターはほぼ初心者で。だからオリジナル曲をやることにしたんです。で、同時期に橋本君ていうサークルの同期のミクシィが炎上しちゃった子がいて。『軽音部は内輪ノリでクソ寒いカスの集まりだな』みたいなのが先輩に見つかって」
●うわ怖いなー。
「その子もお披露目ライブで頭脳警察みたいなオリジナル曲やって。すごいカッコいいんですけど、めちゃくちゃ物を投げられるんですよね。ライブ中に。その後何故か僕のバンドも物を投げられまして(笑)」
●すごい荒廃してるな(笑)。
「終わった後橋本君に『こんなくだらないとこ、さっさと抜け出そうぜ』って言って辞めましたね。で、他の音楽サークルにロバートジョンソン研究会っていうのがあったんですけど」
●なんだそりゃ(笑)。
「あんまり研究してる感じはなかったかな(笑)。まぁ、ブルースとかハードロックのコピーをする割と穏健派のサークルだったんですけど。新歓行ったら最後に名のあるOBみたいなのが袖からわらわら現れて、十人ぐらいで「いとしのレイラ」を弾いてるんですよ(笑)」
●それは、ダメだね(笑)。
「ここもダメだって(笑)。で、ある日ロック研究会っていうサークルが大学の路上でライブをやってて。JR ewingっていうノルウェーのハードコアバンドのカバー…その時はカバーって知らなかったんですけど。それを演奏してて、ドえらいカッコよかったんです。赦先輩の同級生たちだったんですけど。で、そこに入ろうと思ったら、『ここはサークルというか半年5000円でスタジオ利用権をバンド単位で買う人たちの集まりだから、まぁ好きにしなよ』みたいな」
●へー。
「当時赦先輩はすごい怖い先輩とスリーピースやってて、赦先輩も怖かったんですよね��
●ちょっとイメージと合わないね(笑)。
「そうですね。『後のバンドメンバーである』って漫画だったらナレーションがつく」
●『この時はまだ知る由もない』みたいな。
「(笑)」
今日大学ですごい面白いことあったのに、ライブで今歌ってるの、めちゃくちゃ暗い歌詞だなぁコレ
●なかなかエミリー結成しないね…
「いや、その同級生とのバンドが大学一年の終わりくらいに解散しちゃって、遅いハードコアをやってたんですけど」
●遅いハードコア(笑)。
「で『よし、今度はシューゲイザーをやろう』ってエミリーライクステニスが結成された」
●シュー…ゲイザー?
「当初はギタボが自分で、ベースが女の子で、ドラムは残留して、あとギター兼フルートがいた」
●編成だけ聞くとそれっぽいね(笑)。
「そうなんですよ。で、新歓ライブをやったらフルートが『カッコ悪いことしたくないわ』って抜けちゃって」
●曲はオリジナル?
「全部自分が作ってましたね。で、スリーピースになっちゃって、ギター二本ないとキツいわって思って。当時僕とドラムがポストパンクにハマってたんで、じゃあそういうのをやろうってなって。それが2008年の夏くらいかなぁ」
●なるほど。バンド名はずっとエミリー?
「そう。でもその後ドラムがギャンブルにハマっちゃって」
●ああ、良くない方向に。
「どうしたんだよ、って家に行ったらスロットの筐体が置いてあって」
●もうダメだ。
「それで脱退して途方に暮れてたらバイト先にクロアチア人が入ってきて。『ドラム出来ます』って言うからあ、ちょうどいいじゃん!って。デヤンさんっていうんですけど」
●加入したの?
「うん。クロアチアン・パンク時代ですね」
●そんなのあるの?
「いや、わかんないです(笑)。で、その人がライブの前日に『もうすぐ子ども生まれるからライブ無理かも』ってメールがきて、マジかと思ってたら翌日普通にリハ来てるんですよ(笑)」
●(笑)。
「『赤ちゃん大丈夫?』って訊いたら『昨日生まれて今ガラスん中入ってるから大丈夫』って」
●ガラスん中(笑)。
「それがきっかけかわからないけど、家族の圧により2009年の春くらいに脱退して。その後ベースも辞めるってなって」
●とうとう一人に。
「そう、で、どうしようと思ったんだけど、サークルの一学年後輩に泉君っていう毎日JOJO広重のブログを読んでる子がいて」
●だいぶオルタナティブだな(笑)。
「その子にベースをやってもらって、あと二つ下の武井君って子がドラムに加入した」
●だいぶ変わったね。
「でもその頃の音楽性はポストパンクとニューウェーブみたいな感じのままですね。で、どこでライブやっていいかわからないから、横浜…中華街の近くのライブハウスに毎週出てた」
●あーあそこね。
「そう、あれは本当に時間の無駄だった」
●(笑)。
「ブッカーにすごいナメられてたんですよね。暇な大学生の穴埋めバンドって」
●学生のバンドっていうのはねぇ…。
「酷い時は『来週の水曜日出れる?』みたいな。で、『面白いイベントになりそうなんだ』って言うから出てみたらアコースティック・ナイトってイベントで(笑)」
●酷いな(笑)。ありがちですね。いや、ありがちじゃよくないんだけど。じゃあ横浜が多かったんだ?
「あと下北のいろんなところに、殊勝にもデモを送ってたんですよ���モザイクとか25���とか、今思うとちょっと違うんだけど(笑)」
●カラーが違うね(笑)。でもちょっとずつ広げようとする気持ちが。
「あと当時MySpace全盛期で」
●流行ってたね。
「そこでモーションとグッドマンと…葉蔵さん(中学生棺桶、例のKのボーカル)が働いてた頃のバベルかな。誘ってもらって。『あ、あっちから誘ってもらえることあるんだ!?』みたいな」
●『音源を聴いて連絡しました』みたいなのね。
「そうそう。まぁ、���わゆる平日の条件で今思えばアレですけど、それでも嬉しかったですよね。だからその人たちの悪口は言えない」
●(笑)。見出してくれたから。
「別にそこから鳴かず飛ばずですけど(笑)」
●(笑)。でもそこで知り合ってまだ付き合いがあるバンドがいる。
「そうそう。だから初めてモーション出たときのブッキングは今でも覚えてて、クウチュウ戦(現Koochewsen)、ギター大学、プラハデパートっていう」
●すごいメンツだな(笑)。
「すごいですよね。で、クウチュウ戦なんて年下じゃないですか。なのに上手過ぎて。『え!?東京ってこんなにレベル高いの??』。もう、幽遊白書の魔界統一トーナメントみたいなモンですよ」
●こんなすごい奴らが何の野心も持たずに…っていうやつね(笑)。
「そう、雷禅の喧嘩仲間のくだりね。で、初めてバンド友達が出来たというか。otoriとかもかな」
●音楽性的にも共鳴出来て。
「同世代だし。そんな感じでやってたんですけど、ライブやった後めちゃくちゃテンション下がるんですよね。当時の音楽性が」
●自分たちの音楽性のせいで?
「そう、お葬式みたいな気持ちになるというか。早瀬さんは四人になってからしか観てないと思うんですけど。当時は歌詞も暗いし」
●今とは全然違うね。
「うん。リフとか再利用してるのはありますけどね。普段部室で泉君とムーの話とか未解決事件の話をいつもしてて、そういう瞬間はテンション高かったり楽しかったりするのに、ずっと暗いことを歌ってなきゃいけないのはしんどいなって」
●最初の部活の話と少し繋がってくるかもね。
「うん。あと暗いバンドをやっていると暗くなきゃいけないと思っていて。打ち上げはしちゃいけない。みたいな思い込みもあり(笑)」
●イメージに縛られ過ぎてる(笑)。
「でも『死にてぇ』とか歌ってた人が打ち上げで乾杯してたら違和感あるじゃないですか。そういう強迫観念で自家中毒になってしまったというか。『今日大学ですごい面白いことあったのに、ライブで今歌ってるの、めちゃくちゃ暗い歌詞だなぁコレ』って」
●過敏だったんだね。
「センシティブだったんですよ。グッドマン出ても(ブッキングの)鹿島さんにすごいディスられてたし」
●ダメ出しが。
「で、MCだけすごい褒められる(笑)。当時三曲くらいやると僕が小噺をして(笑)」
●面白エピソードみたいなのを。
「『この間バイト先で…』みたいな。今思うとああ、平日のモーションだなぁって思うんですけど(笑)」
●そうだね(笑)。
「でも『この後もカッコいいバンドばっかり出るんで最後まで楽しんでいってください』とかは言ったことないですよ」
●『名前だけでも覚えて帰ってください』みたいな奴ね。
「(笑)。そう、それも言ったことないです。で、だんだんしんどくなってきたんで、どうしようかなと。当時の曲作りが僕がリフを持っていって、泉君がめちゃくちゃにするみたいな感じでやっていて。ドラムの武井君はすごいいい奴なんですけど、当時から曲の展開が多くて、たまに展開を忘れて、止まっちゃうんですよドラムが(笑)。ドラムの音がなくなったその瞬間僕と泉君がキレて楽器を投げつけてしまう。そういうことをしてたら『正直もうしんどいッス』って言われて、本当に申し訳なかったなと思いますけど」
●行き詰ってるね…。
「当時二学年下に獣-ビースト-とT-DRAGONがいたんですよ。僕が四年生、泉君が三年生の時です。みんなロック研究会にいたからそれなりに話してたんですけど、T-DRAGONは当時ノイカシのシグマとよくわからないバンドをやってて、あんまりパっとしなくて。獣-ビースト-はもっと謎で、時折八時間くらいスタジオ抑えてるんですけど、一人で入ってて何やってるかよくわからないんですよ」
●怖いな(笑)。
「本人曰くテクノっぽいのを作ってたらしいんですけど、結局一度も日の目を見ることなく。で、見た目がセドリック(At the Drive-Inのボーカル)っぽいじゃないですか。当時今よりもセドリックっぽかった。それでT-DRAGONに武井君の代わりに叩いてってお願いしたら、ライブとか観に来てくれてたのもあり割と快諾してくれて。で、獣-ビースト-に『At the Drive-Inみたいなバンドをやることになったから。ボーカルやって。この日スタジオいるから』ってメール送って。返事がなかったんですけどちゃんとその日スタジオに来てくれて、漸く今の編成の原型が出来たんですよ」
●やっと今の形に!
「いやー長いですね。この時点で大学卒業する直前ですね」
仕事に好きとか興味とか求めない方がいいな。土日休みならバンド出来るから
●就職とかはどうしたの?
「大学三年の秋くらいに『どうしよっかなぁ』って出版社とか何となく受けていて。で、僕はマルチタスク機能がものすごく低いんですよ。いろんな会社を同時に受けるみたいなのが出来なくて、一社受けてそこそこのところまで行って、落ちて、また別のところにエントリーして、みたいな」
●落ちるとゼロになっちゃう。
「そう。変に真面目なところがあるんですよ。面接で絶対「弊社が第一志望ですか?」って訊かれるんだからそこ以外受けちゃダメだよな。みたいに思っていた。あと某音楽雑誌の会社も受けたんですけど圧迫面接だったんで逆ギレして帰った」
●えー圧迫面接なんだ。
「エントリーシートに物凄い熱量をぶつけたんですよね。そしたら面接官に鼻で笑われたというか。『随分音楽が好きなんですね。ハハッ』みたいな。ライターの坂本真里子が好きだったんで受けたんですけど。まぁ入る価値のない会社ですね!って」
●すごいな。
「そういう感じで疲弊してきたからとりあえずモラトリアムを伸ばそうと、大学院行こうかなぁって思ったんですよね。そしたら親もそうだけど姉がすごい説教をして。うちの姉はすごい傾き者なんですよね(以下、傾き者エピソード)。で、大学院も行かない方がいいか、と。それでもう仕事に好きとか興味とか求めない方がいいな。土日休みならバンド出来るから。って今の会社に入ったんですよ」
●就職してからバンドとの両立はどうだった?
「難しいというか、当時僕が一番年上で唯一社会人だったからノルマとかスタジオ��全部負担してたんですよね。それがキツかったかな(笑)。たぶん2014年初頭くらいまで」
●結構最近までじゃん(笑)。
「獣-ビースト-とかT-DRAGONが就職するまでは基本的にあまり負担させないようにしようと。赦先輩も当時サポートだったし。でもグッドマンとモーションは本当に良くしてもらったから。あと両立と言うか…。僕大学を卒業する時に大学の近くに引っ越したんですよ」
●卒業するときに?
「意味がわからないんですけど。入った会社が家賃補助がないということに気づいて、極限まで安いところに住まなきゃって。本当にヤバい、タックルしたら崩れるような家。後にT-DRAGONもそこに住むんですけど」
●安いってどれくらいなの?
「えっとね、18000円」
●安すぎでしょ!!
「七畳+キッチン+風呂トイレ別でそれですからね。本当は20000円だったけど入るときに『大学院生です』って言ったら安くしてくれた(笑)」
●いいなぁ。
「いや全然良くない。ボロいなんてもんじゃないですよ。木造の長屋を三分割して三部屋になってるんですけど。築は…五十年くらいかな。で、風呂が外にあるんですよ」
●共用?
「いや、共用じゃなくて、もう一つのプレハブ長屋みたいなのがあって、それが三分割されてるんですよ」
●なるほど。
「で、その外風呂が、外からしか鍵がかからない(笑)」
●閉じ込めることしか出来ない(笑)。
「そう。で、大学が近いので土日のスタジオは大学でやってたんですよね。ライブは基本土日で。平日のライブの時は誰か後輩に楽器を託して…。無理やりやってましたね」
●その頃はもう割と東京のオルタナシーンに食い込んでる感じの。
「確かうみのてと対バンしたのが2012年初頭で」
●一月だった気がする。
「グッドマンでね。あれが転機っていうと大げさですけど」
●いわゆるライブハウスに良く来る人たちに知られた感じかもね。
「その頃はやたらトリプルファイヤーと対バンしてた気がする。2012年から今でも親交がある人と一緒にやり始めた」
●まだ2012年だ。
「長いですね。とりあえず赦先輩が入るまでの話をすればいいかなって…」
●いつだろ
「2013年の春くらいかな。で、2012年の春に泉君が大学院に進学するんですけど、関西に行っちゃったんですよね。もう続けられないねって。で、サークルのかなり下に内海君ていうスキンヘッドの子がいて、見た目がいいから誘った。それが失敗だった(笑)」
●まぁいろいろ、あったね(笑)。
「うん、いろいろあった(笑)。それでバンド辞めてもらって。赦先輩はしばらく連絡もとってなかったんですけど、サポートやってもらえませんか?ってお願いして。で、なし崩し的に正規メンバーになってもらった。現在に至る」
●赦さんが入ってだいぶ音楽性に幅が。
「内海君の頃までほとんど僕が考えてたんですけど、赦先輩が入って初めてスタジオで曲を練り上げる、みたいな。バンドっぽくなってきた」
●他のメンバーのエッセンスが入ってきて
「こういうフレーズはどうかな、とかイメージを膨らませたり」
●やっとバンドらしいエピソードに(笑)。
「そこまで辿り着くのに五年くらい要してる(笑)」
●そこからは今に至る。
「メンバーは変わらないけど、音楽性はだいぶ変わったかな。ハードコアが薄れて…何というかメタ的な曲が増えた��
●そうだね、ハードコアでもプログレでもない、何とも言えない。
「何とも言えない(笑)。演劇の要素だったり、曲の中にもう一曲あったりとか」
●はいはい。
「構ダンカンバカヤロー!を観て『あ、こういうのでもやっていいんだ』とかボーダーを再確認させてもらってますね」
●アウトとセーフの線引きを。
●バンドの成り立ちはこれくらいにして、曲のアイデアとかどういう時に考える?
「基本のリフは今でも僕が考えるんですけど、スタジオで試して、カッコいいだけだとボツになるんですよ(笑)」
●(笑)。
「後はコンセプトをみんなで固めて。リフのパーツを無数に作っておいて、当てはめる感じ。シチュエーションとか」
●コンセプトありきでそこから曲と歌詞?
「それがないと今は逆に作りづらいですね」
●歌詞は誰が?
「今はほとんど獣-ビースト-です。Brand-new suicides(エミリーの楽曲の中に登場する架空のバンド)の曲だけ僕ですね」
●そうなんだ(笑)。ライブの時の意識は変わってきてる?
「昔はカッコよく思われたいみたいなのが多少あったと思うんですけど、今はもうとにかく面白いかどうか、みたいな。『さぁ、消費しろ!』って。最悪『何も思い出せないけどとにかく楽しかった』でいいや。って。『よくわかんなかったけど面白かった』でいい」
●それはすごくいいことだと思う。
「『よくわかんないけど凄い』という方向だと絶対勝てないじゃないですか。グランカとかルロウズとか。最高峰に。そっちは無理だから、変化球で攻めるしかない」
●ライブ中ってどういうことを考えてる?
「なるべく仕事のことを考えないようにしている(笑)」
●(笑)。
「ハンターハンターのシャルナークのオートモードみたいな。あれに近い感じになると割といいライブが出来ますね。今何を弾いてるとか一切考えずに弾けるときがあって。逆に『このフレーズ難しいんだよな』とかふと思い出すと弾けなくなっちゃう」
●邪念が入ってくるとね。
「だからなるべくオートモードで弾くようにしたい」
●展開がすごく複雑だから身体が覚えるまですごく時間がかかりそうな印象があるけど。
「でも正直、曇ヶ原(エンリケ後悔王子が過去在籍していたプログレバンド)より全然覚えやすいですよ」
●マジか(笑)。
「曇ヶ原はA→B→フォントが違うA→フォントが違うBみたいな感じで繰り返しが多いけど微妙に違ってて。でもエミリーはとにかくAからZまで覚えるだけなので(笑)」
●なるほどね。
●平日はどういう生活をしてる?
「仕事に行って、帰って、疲れて寝る。みたいな(笑)。『無』でしかない」
●仕事終わった後に何かするって難しいよね。
「平日何も出来ない病なんですよ。かれこれ十年」
●音楽は聴いてる?
「精神的にキツいと音楽も聴かなくなるというか、耳馴染みがいいやつしか聴けない時がある」
●新しい物を受け入れる体力もない時はあるよね。
「昔のJ―POPとか、中高のとき聴いてたのとか」
●最近はどんなのを?
「ジャンル的にはユーロビートですかね」
●ええ!?
「あれって速いんですけど、リフ的にオイシイというか。ファ���レスで言うとミックスグリル定食みたいな曲ばっかなんですよ。キラーリフてんこ盛りみたいな」
●詰め込んである感じで。
「これは意外とヒントがあるなと」
●なるほど。バンド的に取り入れるぞ!って意識で聴いてるの?
「サウンドは取り入れようがないので、和音のリフとかフレーズを参考にしている感じ。あとは昔J―POPとして聴いてた、例えばglobeとかSPEEDとか、それをCDで聴き返すとめちゃくちゃ発見がある。『この曲のバンドサウンドすごいな』とか『あ、あの曲のパロディーなんだ』みたいな」
●メロディーしか覚えてなかったけど、聴き返すとアレンジがすごい、みたいなのはあるよね。
「そうそう。小さい頃はマイラバの声は『すごい声だな』って。オーバーダビングの概念がないから(笑)。みんなホーミーみたいにああいう声を出せるんだと。ミスチルとかめちゃくちゃハモれてすごいなって(笑)」
●すごい技術だ(笑)。
記録媒体として一番長持ちするのは石か壁画なんですよ。レガシーをね、遺したい
●バンドをやってもう結構な歴があるけど、やってなかったらどうなってた?
「うーん。土日関係ない仕事をしてたかなぁ。あの…中学の時の夢が『オリックスの球団職員になること』だったんですよ」
●球団職員なんだ(笑)。
「プレイヤーとしての限界は悟ってたので(笑)」
●裏方でもいいから野球に携わるという。
「もっと前は小説家とか、マンガ家とか。いわゆるキッズが憧れるクリエイティブ職になりたかったけど。バンドやってなかったら…。ちょっと想像つかないですね」
●例えば今の生活からバンドが何らかの理由でなくなったとして、今の仕事だけ続けてくのは気持ち的にしんどい?
「しんどいですね。実際今それに近い状況になっているけど…。表裏一体というか、それでバランスとってたんだなぁって。普段はバンドと野球とハリエンタルラジオだけで生活出来たらいいなって思ってたのに(笑)」
●なるほどね。
「仕事以外のコミュニケーションが欠乏してて、ストレスが溜まっていく。バンドメンバーって十年近く、今まで少なくとも二週間に一回は会ってたのに。その人たちに一ヵ月以上会わないのは違和感がすごくて」
●フラストレーションが溜まってる感じ?
「この間スカイプでバンド会議みたいなのをして『いやぁ、楽しいなぁ』って(笑)。普段赦先輩がスタジオ遅刻するとすごく嫌な対応をみんなでしてたのに(笑)」
●失って初めてわかる大切さみたいな。
「前よりも優しくなれるかも知れない(笑)」
●今はこういう状況ですけど、また落ち着いた頃にこうしていきたいとかバンドである?
「昔の自分みたいな、基本的に陰の者に『楽しいなぁ。バンドやってみたい』とか思われたいですよね。以前モーションで話しかけてきた男の子が、二十歳くらいなんですけど。『僕もバンド組みたいです!』って言ってて、あ、嬉しいなって思って。その後コンパクトクラブで群馬に行ったときにその子がまたいて『僕、バンド組みました!』って嬉しそうに報告してくれたんですよ」
●普通にいい話だ(笑)。エミリーは水とかうちわとかいろんな形態でリリースしてるけど、今後こういうのを出したいとかある?
「そうですね。僕が考えていたのがダウンロードコード付土地なんですけど]
●(笑)。
「10万円くらいの離島の土地を買って、そこに看板とQRコードを貼って、辿り着きさえすればフリーでダウンロード出来るみたいな(笑)」
●なるほど。
「アドベンチャー型音源」
●面白いな(笑)
「石碑でもいいけど。記録媒体として一番長持ちするのは石か壁画なんですよね。だから最終的にはそれでリリースしたいんですよね。将来オーパーツみたいになるかも」
●遺跡として遺っていくかもね。
「レガシーをね、遺したい」
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看完日本人的報紙廣告設計賞,我感覺紙媒復興又有希望了!
左手握著digital媒體準備投放,右手刷著iphone盯預覽效果的agency們,如果有天資源方對你說,“要不投個報紙廣告吧!”我相信,你的每個頭髮絲都會提出抗議:“不了、不了,這誰會看啊?”
聽到這段對話,隔壁鄰居日本人可不樂意了。 4月初,一年一度,歷史最悠久的報紙平面設計廣告——每日廣告設計賞公佈了第87屆獲獎結果,備受廣告從業者的關注。看完一圈,我感覺紙媒復興又有希望了呢! (劃掉,有創意的內容永遠不過時)。
眾所周知,日本人是最愛讀報紙的民族,即使在紙媒式微的今天,大部分日本人還是保留了閱讀報紙的習慣,光是18到25歲之間的年輕人就有61.9%的人閱讀報紙的習慣,這個數據還是很驚人的。
為了探索報紙廣告的未來,自1931年(昭和6年)以來,報業巨頭每日新聞主辦的每日廣告設計賞,每年都通過競賽的形式,挖掘富有創意、成品具備美感、廣告表現優秀的報紙廣告。
以“突破藝術街道,融合藝術與工業”為口號,每日廣告設計賞的出題範圍,涵蓋食品、出版、汽車、旅遊、金融,也有政府、教育等公共議題,最終評選出了「一般公募・廣告主課題部」和「廣告主參與作品部」兩個類別下的30 多組平面廣告設計作品。其中「一般公募・廣告主課題部」是基於贊助廣告商的問題,來徵集廣告作品,得到了麒麟啤酒、資生堂、三得利、豐田、岩波社等知名企業的支持。
正是因為該獎項和巨型商業公司密切結合,對設計師而言,如果作品能被入選每日廣告設計賞,這無疑多了條通向設計行業的快速捷徑,(還有誘人獎金也是參賽的原因,最高獎可獲得100萬日元)。因此,每年每日廣告設計賞吸引了很多廣告從業者、獨立設計師以及學生的參與。
今年第87屆廣告設計賞的評選結果到底長什麼樣?我們先來盤它幾個! (不分先後)
SDGs×Uchimizu
夏日潑水節大作戰
廣告課題:“ Uchimizu”是日本的傳統習俗,每年夏天,大約有500萬的人紛紛上街,在街道上灑水,從而達到降溫、清潔的作用。為此,環保組織可是操碎了心。面臨2020奧運會,如何通過“Uchimizu Operation”喚醒大家對可持續發展的認知,這就是可持續發展組織SDG的廣告課題。
剛剛洗完澡的狗子都在參與“夏日潑水節大做戰”,用盡奶勁,將身上的水珠撒向周圍。狗狗憨態可掬的姿態在戳動大家內心萌點的同時,也在身體力行地傳遞了潑水節的實質:人人參與、反復用水、利用自然力獲得涼爽。 麒麟啤酒Kirin Body FREE
廣告課題:“啤酒肚”大概是一個世界難題,據說有70%的日本中年人都在擔心腹部脂肪囤積。為了滿足這5700萬位日本人的訴求,麒麟啤酒推出了Kirin Body FREE,這是一種無酒精啤酒味飲料,口感和啤酒差不多,但又有減少腹部脂肪的功能。麒麟啤酒的課題則是:如何鼓勵那些沒有喝過無酒精飲料的顧客來嘗試這款Body FREE?
象徵麒麟啤酒的麒麟小蹄子伸入畫面一角。拿著啤酒的小人,大腹便便。隨後,一口啤酒下肚,麒麟從畫面上一躍而過,帶來了清爽,也帶走了小人的大肚子。作為麒麟啤酒忠粉的topys君都想立馬下單,體驗一下喝了不會胖肚子的Kirin Body FREE。 松下廣告每個人都能通過“ AKARI”燈光看到他們的夢想
廣告課題:松下電器自2018年3月啟動“ AKARI”光明計劃,通過捐贈太陽能節能燈,將光明帶給更多的地區。不過這些節能燈不是買到的,捐贈者需要通過募集二手書和其他物品,用義賣的錢來購買節能燈。既幫助了貧困地區的孩子,又鼓勵了二手書市場的活化,這個社會項目可謂是一舉兩得。
夢想,對於孩子來說是什麼呢?通過學習,成為救死扶傷的醫生、教書育人的老師、飛向外太空的宇航員。對於參與“ AKARI”的讚助者來說,他們的夢想是募集更多的二手書,讓更多小朋友實現人生夢想。海報用影子勾勒孩子的夢想,傳遞了捐助者和被捐助者的雙層用意,讓人為之動容。 岩波書店x和y這種字去不了的地方
廣告課題:岩波少年文庫的《岩波日語詞典》自1963年首次出版以來已積累了900萬冊。最新版本,則著眼於日語現代化。它的訴求對象則是:中小學生及孩子的祖父母,以及想要提高日語能力的商人,鼓勵他們用日語打開通往未知世界的大門
如果讓你列舉日語學不好的理由,你估計會摔出一籮筐:片假名、平假名太難背了?顛倒的語序搞得我頭大?我年齡太大記性可不好?為了降低的學習的畏難情緒,這幅廣告的設計者可謂是腦迴路清奇,用一串拼貼畫(x和y這種字去不了的地方)為大家脫敏,把學數學和學日語的選擇題丟你面前。你來康康:這本字典裡沒有頭疼的數學X、Y公式,好讀的很。 emmm,好像有點道理吧。 資生堂安耐晒廣告
廣告課題:吸引喜歡運動的人使用安耐晒完美紫外線護膚乳。資生堂這個課題好像有那麼點簡單,但是廣告創意卻非常有看頭。
夏天過後,你最討厭點事情是什麼?不就是因為防曬不足,造成膚色不均。每一條白花花的印子,都是敢於直面太陽的勇士徽章,也是防曬不足的羞愧印章。插畫師洞察到這個生活細節,用顆粒質感的筆觸,將拖鞋印、bra印、手錶印,以及夏日炎炎的回憶丟給你:與其花一年時間去養白,不如防曬於未然!用安耐晒吧! ·第87屆每日廣告設計賞獲獎名單· ·最高獎SDGs×Uchimizu:夏日潑水節大作戰
·優秀獎
資生堂:安耐晒品牌廣告
麒麟啤酒:body free
超級推理雜誌月刊:月光
·鼓勵獎
岩波社:x和y這種字去不了的地方
資生堂:安耐晒廣告
久保田農機:在天空中飛行的久保田
久保田是一家賣農用插秧機、拖拉機的企業。 ·學生獎平凡社:平凡
天鹽:赤穗的天鹽
超級推理月刊雜誌:月光
用神秘符號寫的報紙是不是只有雜誌愛好者才能讀懂? 總統出版社:dancyu丹西美食雜誌
龜甲萬食品公司:醬油廣告
廣告主參與作品部
·最高獎
豐田汽車:企業官網
紅色字為企業官網的logo,無實際意義,這個網站實時更新關於豐田汽車的最新消息。
·卓越獎 三得利:BOSS咖啡 /人間如此美好,不是你活下去的理由嗎
五十鈴汽車:輕型“小精靈”卡車誕生60週年,無論多少歲都要重獲新生。
雅虎日本:日本換新年號了,有關詳細信息,請訪問雅虎網站。
·特別獎
資生堂公司:令和元年香水
·類別獎
日本煙草株式會社:表揚一下討厭抽煙的人吧!正因不同,所以才能互異共生。
食品/煙草/企業廣告
(犬猿の仲)日本傳統中,狗和猴子不和,被形容關係比較差,水火不相容。
FANCL公司:我不想吃藥。
家用產品/藥品/企業廣告
���談社:狼和山羊已經成為好朋友,人類呢?
出版/電影/娛樂/廣播/新年廣告
凸版印刷有限公司:我想讓女兒入讀這裡的小學,請問需要什麼手續?
汽車/工業/企業廣告
Cyber Agent:不是遺照,而是加入公司的證件照。
信息與通信/精密/電力/辦公機器/資深廣告撰稿人招聘廣告
星飛科技:涉谷站的忠犬八公雕像和它的故事。
旅行/交通/物流/服務/企業廣告
住友林業株式會社:平成年代之後的東西。
房屋/房地產/金融保險/法人廣告
東京平山校園:文化藝術團2020年春季OPEN。
政府機關/團體/教育/開幕廣告
·策劃獎
松下公司:每個人都能通過“ AKARI”燈光看到他們的夢想。
電器/公益廣告
·特別獎
味之素有限公司:烹飪是大腦訓練。
食品/烹飪課程廣告
BEAMS:屬於微笑灰姑娘的慶典。
製藥/家庭用品/ 高爾夫/體育廣告
聯合集英社:兒童,努力發展。
出版/電影/娛樂和廣播/元旦廣告
伊藤忠商事株式會社:幫助商家,走向下一個世界
汽車/工業/企業廣告
軟銀公司:我們一起走進新時代吧!
信息和通信/精密/電子/辦公設備/企業廣告
日本鐵路:您能走多遠?
旅行/交通/物流/服務/企業廣告
東京海上消防保險公司:保險源自冒險。
住房/房地產/金融保險/企業廣告
東京造型大學:新年快樂
政府機關/組織/教育/品牌廣告
實在搞不懂,機智的小伙伴可以分享一下你的看法?
人們不反感廣告,只是反感無聊的廣告。如果紙媒的廣告能像這些獲獎作品一樣可圈可點,我也願意天天讀報紙、看雜誌呀! *Article from TOPYS.com
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Tumblr創業者David Karpが天才すぎてビビった話
■ ついさっき再会した。
僕も使っているこのブログサービス「Tumblr」の創業者であるDavid Karp氏と、ついさっき再会して挨拶をしたのだが、それで色々と思い出した。 去年、某店で彼に会った時、Tumblrの存在を知ってはいたけど、申し訳ないことに、それがどれほど偉大なサービスなのかは勉強不足で存じ上げておらず「背は高いしイケメンだなぁ」程度にしか思っていませんでした。 僕「こんにちは。今日はどうされたんですか?」 D「ああ、どうも。君は?」 僕「TOSHIYUKIです。アメリカとアジアで貿易会社と教育系のデジタルコンテンツを作る会社を経営してます」 D「本当に?僕より若いのにすごいね。僕はDavid。Tumblrというブログサービスを作ってるんだ。よろしくね。」 僕「そうなんですか。今度、僕にも是非とも招待を送って下さい。使ってみますから」 D「ありがとう。送っておくよ。ああ、そうだ。名刺もらってもいい?」 僕「どうぞ。」 D「サンキュー。申し訳ないけど、僕の名刺はないんだ。今日そういうつもりで来てないからさ。後で送っておくね。」 僕「ありがとう。それで今日は何を?」 D「東京に住んでいた時の友人と一緒に遊びにきたんだ。はぐれちゃったけど。」 僕「そうでしたか。東京に住まわれていたんですね?」 D「うん。少しだけどね。あ、居た! 連れを見付けたから、僕はこの辺で。バイバイ!」 僕「ありがとうございました」 覚えている限りだと、彼とはそんな話をしました。軽くあしらわれた程度にしか思わなかったのですが、その後、本当にメールのやり取りがありました。 初めてフルネームを知って色々調べたら、今一番ホットな人の1人だったという。 そして彼が再び来日して講演したSocialMediaWeekでの講演を聞き、ようやく理解した。 ああ、これは革命的だなと。
■ 講演内容
Tumblrを2007年に創設。 現在6000万以上のブログが開設、170億のポストが投稿されている。 様々なクリエイティブ表現がより多くの人とシェアされ、急拡大するTumblr上でのコミュニティについて、彼は熱く語りました。
■ そもそもTumblrとは??
マイクロブログサービスで、画像やテキスト、動画、音声、web上の記事引用、リンクなどを投稿でき「オンラインのスクラップブック」としての要素が強く、Twitterのように他ユーザーの投稿を共有する仕組みを持っている。Tumblr(wikipedia)
■ デイビット・カープが語るTumblrの2つの特徴
・Limitless Expression(制限なしの表現力)
Tumblr創業の2007年当時、Webへのパブリッシングツールとして存在感を持っていた、Flickr、YouTube、Twitterという3つのサービスは、いずれも簡単に投稿ができたが、デザインについては自由度が少なかった。 一方で、wordpressに代表されるブログCMSは、利用者の裁量は大きいものの、使い方が複雑だった。 そこでTumblrは、7つボタン(テキスト、画像、引用、リンク、チャット、音声、動画)を並べて、簡単に投稿できる仕組みを考えた。 いろいろな種類のものが簡単に投稿でき、そしてデザインを自由に選べ、自由に自己表現ができる、スクラップブックのようなブログサービス。それがTumblrだ。
・Huge Opporunities (巨大な機会)
Tumblrのコミュニティはクリエイター、キュレーター、オーディエンスの3層構造になっている。クリエーターが作品をアップロードすることで自己表現をし、キュレーターはそのクリエーターの作品を集めることで自己表現をする、そうしたキュレーションの集まりをオーディエンスが閲覧する。 そうした行為を繋ぐのためにReblogという機能が上手く動作している。 ■ Tumblrが目指すのはクリエイターのためのツール デイビット曰く「我々はクリエイターにとっていいツールを作っていく。何にフォーカスするかということ。つまりクリエイティビティだ。表現をするプラットフォームは現在、YouTube、Instagram、Tumblrしかない」 コミュニケーションツールとして、FacebookやTwitterなどがあるが、そんな中で「Tumblrはクリエイションツールになることを目指している」と明確に宣言していた。
■デイビット・カープが語るTumblrの状況
・ユーザー年齢層 13-17歳 - 17% 18-34歳 - 37% 35-49歳 - 30% 50歳以上- 15% メインユーザは世に出ることを目指している14-20歳の若者と写真の楽しさに目覚めたシニア層 ・男性52%,女性48%で男女比に主な差はない ・グローバルでのアクセスは、50%がアメリカで最近はブラジル、イギリスが伸びている。 ・日本でTumblrへのアクセスは33%がモバイル、グローバルでは20%がモバイル ・ビジネスモデルはTumblrのデザインテンプレートの販売、投稿自体を目立たせるプロモート投稿の提供 ・グローバルでは月間160億PVのアクセス、日本では9400万PVのアクセス ・アクセスの70%がTumblrユーザーで30%がビジター ・アクセス元としてはGoogleよりもFacebookからの方が多い ・オバマ米大統領も選挙戦で活用した。選挙戦を制したのはTumblrのおかげか?
■ 本物の天才
David Karp氏はニューヨーク生まれの25歳。14歳でアニメプロデューサーのFred Seibert氏の元でインターンを始め、その後、年齢を隠して、都市部に住む母親が情報交換するためのサイト「アーバン・ベイビー・ドットコム」でソフトウェアコンサルタントを務めたという“神童”。 14歳と言えば、僕が東南アジアで事業を始めた歳だが、そんな僕などお話しにならないほど実績になるキャリアを積んでいることは、経歴からも分かる。 (僕はこの頃は生活が苦しくてGoogle様のところでバイトしてたっけ・・・、Google様は神である) 彼と話してみて、または話しているのを聞いて思ったことは、彼はとても「人間らしい」ということ。感性がものすごく強いということか。でも頭は天才的に良いから、どこまでも切れているから、これからサービスは拡大し、クリエイションツールの1つとして名を馳せていくのだろう。 何よりもセンスが良い。 僕が彼から招待を送られてTumblrを使い始めたのもデザインにセンスの良さを感じたからだ。言葉で説明するのは難しいが、このサービスは本当に良いと思った。 「ブログが日記だとしたら、Tumblrはスクラップブック」「”The easiest way to blog”(一番簡単なブログする方法)」などのキャッチフレーズからは、分かりやすく手軽なフォーマットで自己表現の幅を拡大したデビッドの考えが滲み出ている。 それにしても、彼はアニメのプロデューサーのFred Seibert氏のところでインターン、それが高校中退して、学校に行かず家でホームスクーリング(homeschooling)で勉強して、17歳で日本に来て、戻ってTumblrを作り、それで今、注目の若手アントレプレナー。 とても興味深い経歴ですよね。 もう「自分で必要なことがきちんと学べる人」は、前時代的な手段に則って学校に行って、みんなと同じことを同じように体系的に学ぶ必要なんてないのでしょうね。 彼は間違いなく「天才」に属する人間だと思います。 人間の根源的な欲求を知っていて、なおかつ必要なものを適切に提供できる能力に長けている。 「ブログは普通の人には難しすぎる」というところからスタートしているところも面白い。確かにその通りだ。 ユーザーに対して1つ、2つとステップを入れてあげることで、既存のブログサービスが持つ問題を解消することに成功。 そうして見事、最高の自己表現の場「Tumblr」を創り上げた。 とにかく、そのセンスには脱帽です。彼の今後からは目が離せません。
” - TOSHIYUKI’S BLOG: Tumblr創業者David Karpが天才すぎてビビった話 (via poochin)
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今年2月、強豪ひしめく格闘ゲームの世界大会で、無名のパキスタンの若者が「番狂わせ」の優勝を果たした。さらに業界を騒然とさせたのは優勝後に放った一言。「パキスタンには強い選手が、まだまだいる」。まるで漫画のような展開。真偽を確かめるため訪れた現地で待っていたのは「ラホールの強心臓」「コンボの魔術師」「青シャツの神童」などの猛者たちだった……。ネットゲームの時代、わざわざゲーセンに通う理由。宗教指導者に「がん見」されながら腕を磨くそこはまさに「虎の穴」。パキスタンでいったい何が起きているのか。真相を探った。(朝日新聞イスラマバード支局長・乗京真知)
パキスタン東部ラホールの町並み
行きつけの「道場」
1千万人超が暮らすパキスタン東部ラホール。砂ぼこりが舞う大通りを2人乗りのバイクが競うように走り抜けていく。流行をいち早く取り入れる学生や商魂たくましい起業家が集まる国内有数の商都だ。 「市内に行きつけのゲームセンターがあります。そこで落ち合いましょう」。人気の格闘ゲーム「鉄拳7」の世界大会(今年2月、福岡)を制したアルスラン・アッシュさん(23)。彼の「道場」とも言えるゲームセンターは、クラクションの音が鳴り響く幹線道路沿いの雑居ビルに入っていた。
ゲームセンター「マニアックス」は、雑居ビル1階にあった
バイク修理工場や雑貨屋が入るビルの1階。エンジンオイルのにおいが漂う。通路の奥まで進むと、ゲーム機の効果音が聞こえてきた。ゲームセンター「マニアックス」。店主のザミン・アッバスさん(34)が顔を出し、「日本からですか?なんて光栄な」と招き入れてくれた。照明を落とした店内は20畳ほどの広さで、ゲーム機は計10台。ラホールでは最大の規模だという。日が沈むころ、腕に自信のある若者たちが20人ほど集まってきた。
ゲームセンター「マニアックス」にはパキスタンの強豪が集まる
「これ才能?」気づいた反射神経
アルスランさんもバイクで駆けつけた。「お待たせしました。ちょっと遅れちゃいました」。人なつっこい笑顔で、右手をさしのべた。わずかな遅刻でも、律義にわびる好青年だ。少し前にイスラム教徒の悲願であるメッカ巡礼に行ってきたとのことで、髪をきれいに刈り上げていた。 ゲームセンターの中にあるソファで、アルスランさんの話を聞いた。格闘ゲームにはまったのは2008年頃。12歳のときだった。立ち寄ったゲームセンターで見た格闘映像の鮮やかさに衝撃を受けた。当時は国産アニメもない時代。3次元のキャラクターが、自分の指示通りに動く世界観にのめり込んだ。
ゲームセンター「マニアックス」の店主ザミンさん(右)とアルスランさん
コントローラーの操作を覚えると、すぐに成績が付いてきた。自分の反射神経が抜きんでていることを、思いがけず発見した。キャラクターの動きが、友人たちより数段速かったからだ。「これはギフト(授けられた才能)なのかもしれない」と思い始めた。 家にはゲーム機もパソコンもなかった。ゲームセンターだけが練習の場だった。毎日5時間、放課後に通った。3ゲーム先取のゲーム代は10ルピー(約8円)。負けた方が払うルールで、強くなるほど出費は減った。試合前は練習時間を8時間ほどに増やした。4年後の2012年に全国大会で初優勝したのを皮切りに、2018年までに地方大会も含めて計40回ほどお立ち台に立ったという。
独特のフォームでプレーするアルスランさん(右)
対戦フォームは「ピアニスト」
特徴的なのは、その指づかいだ。パンチやキックを繰り出すためには、右手でボタンを正確に押せるかが鍵となる。ボタンを押し間違えないよう、指の腹でパンパンと強く押したくなるところだが、アルスランさんは指をほとんど動かさない。 代わりに指を立て、ピアノでも弾くように優しくトントンとボタンを押す。手首を1センチほど上下させるだけで、指は固定されている。
「鉄拳7」を練習するアルスランさん
また、キャラクターを前後左右に動かす左手のレバーも、動きこそ小刻みで素早いが、軽く握る程度で腕に力みはない。肩を張らず、背筋を伸ばし、目線がぶれない。プレー中は、まばたきさえも極端に減る。 この「省エネ」フォームが、安定したパフォーマンスにつながっているようだった。
世界大会の門をたたいたアルスランさん(左)=大会「EVO Japan」の公式ツイッターから
国際大会への扉
パキスタン国内で実績を積んだアルスランさんが、次に目指したのは国際大会だった。転機は2018年夏。中東のプロ集団「vSlash eSports」が、アルスランさんの戦歴に目をつけた。スポンサーとして旅費を出してくれることになった。 スポンサーが付くことには、旅費以外にも大きなメリットがあった。それは、海外のビザが取れるようになった、ということだった。治安が安定しないパキスタンの国民に対して、スポンサーや一定額の預金があることをビザの申請条件とする国が、いまも多いからだ。
優勝したアルスランさん(下段中央)=大会「EVO Japan」の公式ツイッターから
ビザの問題を克服したアルスランさんが、初めて挑んだ世界大会が今年2月の「EVO Japan」だった。著名な「鉄拳」プレーヤーたちが一堂に会する世界最大級の祭典だ。 アルスランさんの闘いは、試合前から始まっていた。万全の態勢で臨むつもりだったが、飛行機の乗り継ぎトラブルが相次いだ。パキスタンから福岡まで丸3日。会場にたどり着いたのは、大会当日の午前10時だった。 試合の様子はインターネット上で生中継された。ラホールのゲームセンターではパブリックビューイングが開かれた。仲間30人以上が集まって歓声を送った。
ラホールのゲームセンターで応援する仲間たち=店主ザミンさん提供
アルスランさんは睡眠不足を引きずりながらも、有名選手を次々に破った。得意の防御でダメージを抑えつつ、隙を見て連続攻撃を繰り出す、新顔らしからぬ戦いぶり。中継者は「素晴らしいガードです!」と絶叫した。 最後にフィリピンのAK選手を下して初優勝を決めると、アルスランさんは右拳を握りしめ、立ち上がった。「鉄拳」開発プロデューサーの池田幸平さんは「新時代到来を予感させる驚異的な強さ」とツイッターでたたえた。
優勝したアルスランさん=大会「EVO Japan」の公式ツイッターから
知られざる猛者たち
新星誕生の衝撃はさることながら、話題を呼んだのは、アルスランさんの勝利後のコメントだった。 ――パキスタンには強い選手が、まだまだいる―― ビザが取れないから大会に出場できないだけで、母国には知られざる猛者たちが潜んでいると、世界の強豪を前に言い放ったのだ。ネットでは「漫画の展開かよ」「世界には裏ボスがいる」と物議を醸した。
インタビューに答えるアルスランさん
ラホールのゲームセンターで、本人に発言の真意を聞いた。アルスランさんは「あまりの興奮で、自分が何を言ったか、はっきり覚えているわけではないのですが」と前置きした上で、「強いのは僕だけじゃない。僕を育て、競えてくれた仲間が、たくさんいるということを伝えたかったのです」と語った。 もし「鉄拳」の国際試合があって、アルスランさんが監督だったら、誰をパキスタン代表に選ぶか。そんな問いをぶつけると、アルスランさんは即答した。「ラホールだけでもビラル、イムラン、アワイスは外せないし、ほかにヒーラやアディルもいますね。ラホール外ならハムラズやアビドもいる……えーっと、何人まで選んでいいんですか?もっといますよ」。名前を挙げた面々はいずれも展開次第で、アルスランさんを負かす力を持った、国内の上位陣だという。 その上位陣を紹介してくれないかと尋ねると、「オレだよ」と隣の男性が笑って話しかけてきた。赤シャツにサングラス姿の「ビラル」。「ラホールの強心臓」と呼ばれる、ビラル・イリアスさん(24)だ。
アルスランさんがパキスタンの「鉄拳」プレーヤーのトップ8に選ぶビラルさん(中央)
ビラルさんは、アルスランさんと同時期にスポンサーが付いた、国内で数少ないプロ選手の1人だ。仲間たちが「どんな試合でも表情を変えない精神力の持ち主」と評するビラルさんは「アルスランの勝利に刺激を受けた。彼と一緒にパキスタン勢の強さを世界に示したい」と語った。 しばらくすると「アワイス」も、ゲームセンターにやってきた。目が覚めるような波状攻撃「コンボ」で知られる、ラホール出身のアワイス・ハニーさん(24)。ゲームセンターでアルスランさんと夜な夜な特訓してきた盟友だ。 アワイスさんには、まだスポンサーが付いていないため、国際大会の経験は無い。ただ、その名はパキスタン中にとどろいている。「アルスランとタメを張る選手」として挙げられる1人で、ユーチューブのゲーム専用チャンネルはアワイスさんの対戦動画を引き合いに「アワイスがどんな人物かは分からないが、動画を見る限り、アルスランがどれだけ強い相手と競い合ってきたがわかる」と紹介。アワイスさんの攻撃力が、アルスランさんの防御力を世界トップに押し上げる一因となってきたことは、間違いなさそうだ。
アルスランさんと特訓するアワイスさん(左)
ゲーム熱は電気とともに押し寄せた
しかし、なぜこれほど、ゲーム熱が高まっているのか。ビラルさんやアワイスさんらは、主に3つの理由を指摘した。 1つは、若者の多さだ。パキスタンの人口は、世界6位の2億777万人。このうち約6割を、25歳以下の若者が占めている。圧倒的なゲーム人口と、層の厚さ。各地方の有名選手たちが100人近く集まる全国大会は、年10回近く開かれるまでに市場が育ってきた。 また、電力事情の改善も追い風になっている。中国によるインフラ投資で発電所が整備され、ここ数年、停電が少なくなってきた。中流階級では希少だった電気が当たり前のものとなりつつあり、ゲームを楽しむ環境が家庭に浸透してきたことが、大きく影響している。
ゲームセンターには一家言持った中高年や宗教指導者などの「うるさがた」も顔を見せる。様々な来客にもまれながら、若者たちは鍛えられていく
さらに、ゲームセンターの役割も無視できない。インターネットの通信速度が上がってきているとは言え、オンライン対戦を楽しむほどには、回線や機器が整っていない。ゲームセンターに足を運んだ方が、より早く、より安く、強い練習相手を見つけられる。騒がしいゲームセンターでヤジを飛ばされたり、初対面の相手に値踏みされたりしながら場数を踏むことで、大一番で実力を出し切る「勝負度胸」が鍛えられていくのだという。 ラホール市内に住む学生のムハマド・ファルズィーンさん(16)も、ゲームセンターを好む選手の1人だ。放課後に塾で2時間勉強した後、ゲームセンターで2~3時間練習して帰る。先輩の技を間近で観察し、対戦を申し出る。2018年の全国大会で3位に躍り出て、2019年もベスト4入りした。
2018年に頭角を現した期待の新星、ムハマドさん
ムハマドさんは公立学校で学年約300人のうち成績トップ。両親も学業とゲームの両立を後押しする。本人は流ちょうな英語で「あと数年も経験を積めば、先輩たちに負けることはないでしょう」と涼しげに語る。 ゲームセンターの店主ザミンさんは「この子は間違いなく、第2のアルスランになる。経験がものを言う『鉄拳』で、一回り上の選手と渡り合っているのだからね」と太鼓判を押した。
仲間に囲まれて談笑するアルスランさん(中央)
ゴールデンウィークに大阪へ
アルスランさんは近く、再来日する予定だ。 招いたのは、ゲームの企画���実況も手がける日本の鉄拳プレーヤー・黒黒さん。「(アルスランさんの)実力が本物なのか、皆さん観たくありませんか?」とクラウドファンディング(https://camp-fire.jp/projects/view/141700)で呼びかけると、目標額の渡航費20万円が6日間で集まった。ゴールデンウィークに大阪で開催される催しに参加する見通しだ。 アルスランさんは「短い期間で支援金を集めてくれた皆さんに感謝しています。日本の人たちとプレーするのを楽しみにしています」と意気込んでいる。
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sli.do(4/24)の質問への回答
皆さんの質問にお答えします(個人的なものです)
Q:正しさについては道徳的正しさ、社会的正しさによって大きく意見は変わると思いますが、先生はどちらを優先して教えますか。 E3 A:正義論についての質問だと思います。前提として絶対的な正しさはあるのか?ということや、それをどのように決定するのか?など、設定そのものが難しい問題です。時代や国などによっても正しさとは変わっていくものです。このあたりを議論すると、一冊の本が書けてしまうくらい多様な見方や考え方をする必要があります。カント的正義と、ベンサム的正義、アリストテレス的正義、サンデル的正義論など多様にありますので、どれが最も正解か、選択できないと思います。私は、可能な限り道徳的正しさに従って行動していきたいと思います。ただ、組織に所属していたり、仲間がいたり、正しいと思うことをそのまま話をしたり行動することが時には大きなトラブルに発展することもありますから、このあたりは社会的な協調を優先する場合もあります。先日観た映画で、「正しいことを相手に言うときは、最も慎重に言わなければ相手を追い詰めてしまう」という台詞があり、一人で納得していました。絶対的な正しさだけで生きることは、人間社会の中では難しいと思います。かといって、いい加減なことばかりの人は信頼されず、頼りにされませんから気楽ではありますが、寂しいでしょうね。多様な価値観を持ちながら、バランスを取って生きていくことが日本社会で求められている協調力というものの内容でしょうか。
Q:先生は豚を食べることに賛成ですか、M1 A:今回の 映画はもともと先生が食べるために飼うという設定が、小学6年生にとって適した内容・方法だったかということです。これが大学生であったらどうでしょう?高校生であったら?教育内容・方法は対象者の発育段階に応じて考慮することが教師の役割です。以前どちらかの大学の先生が小学6年生に、よくお肉屋さんが仕入れる処理された後の丸々一頭のブタを、子どもに解体させながら命を食べることを教えている授業が紹介されていました。こちらの方もなかなか強烈な内容・方法ですよね。100年先にはもしかすると、動物を食べること自体をやめている可能性もあります(牛肉を1キロ作るのに穀物はその8~10倍、豚肉を1キロ作るのに穀物は4倍、鶏肉は1キロ作るのにその2倍の穀物が必要です。穀物を世界の人で分け合える日がくれば飢餓はかなり緩和されます)。人類が肉食をやめる日が来るのかどうか分かりませんが、現在は食べているわけですから、そのことに目をつむって、スーパーのパックに入っている肉がどのようなものから来ているのかを,理解させることは必要です。小学6年生を低く見ているわけではありませんが、感情がまだまだ成長途中であるため、中学校・高等学校あたりならば、このような授業も可能なのかもしれません。
Q:小学校の複数科目担当制度廃止についての意見、感想はありますか?t2 Q:小、中、高それぞれの教員の大変な点はなんですかA2 A:小学校では、学習指導30%:生活指導70%、中学校は50:50,高校では学習指導80~90%:20~10%と考えられています。つまり小学校の先生は、教科を通して人格形成をメインにおこなっていると言っても言い過ぎではありません。教科の知識は人格形成の次ということです。ところが小学校まで受験指導が進み、教科指導をより強くしていきたいことから、専門の教科担当を置くという話になってきているわけです。1人の生徒を多様な学習を通して成長させるということがこれまで求められてきたわけですが、文科省や保護者などが受験指導に対する圧力を高めてきたことがこのような方向性を生み出したのでしょう。小学校における児童の成育のために私は教科専門性となることは、良くないと考えています。実際に、中学校・高校においても何十年前から受験体制を合理的に進めている学校に、多くの生徒が集中している現状があります。人としての成長が本来の教育の目的であったわけですが、よりよい学歴を手に入れることが現在の教育の目的になっています。それを教師も生徒自身も、保護者も,社会も望んでいるという歪みが、生徒児童に大きな圧力をかけている結果になっています。
Q:先生は、豚の授業についてどのように思いますか?L4 Q:小学生に命の尊さ、残酷さを問い直させることについて先生はどう思いますか。また、先生が今日の大学生について思うことは何ですか。X1 A:命の重さ、大切さを教えるために、多くの動植物などを育てることを小学校では数多くおこなっています(都市化が進み、動植物を育てることが難しくなっている学校も多いそうです)。個人的な体験ですが、私は祖母に小さい頃面倒を見てもらって、大人になっても遊びに行くととても良くしてくれました。大人になって感じることは、祖母から無償の愛を受けていたことです。とにかく可愛がってもらいました。もし私が悪いことをしても、「あなたは悪くない,相手が悪いはずだ」と私をきっとかばってくれたでしょう。命の重さや大切さを教えるためには、まず自分自身が誰からか愛されていて、必要とされていると感じることなのではないでしょうか。もちろん過保護すぎる愛は、良くない面も生み出しますが、少なくても小さい頃に両親や祖父母などから愛情を注いでもらう経験を受けた人は、他者に対しても尊重の気持ちを常に持っていると思います(個人的な感想です)。いじめが大きな問題になっていますが、いじめをおこなっている子どもたちの家庭状況や生育環境など今後の研究を待たなければなりませんが、いじめをおこなっている子どもたちは、相手を思いやる心を育てる機会がなかったのかもしれません。ぜひどなたか研究の対象にしてもらえないでしょうか。 今日の大学生に対して思うことは、50年前の私が子どもだった頃より、とても豊かな生活を送っているということです。私が子どもの頃は、自分が働いて一人前になることが最大の目的で、勉強をしなければ貧しさを享受しなければならないという社会状況でしたから、かなり必死に勉強しました。現在、自宅があり家庭的にも豊かな家族生活を過ごして成長した大学生が多く(家庭の所得と学歴が比例していることは統計が証明しています)、未来に対して希望を持って勉強している姿はうらやま��い限りです。ただ、その一方で貧困に苦しむ子どもが世界には数億人もいる現状を忘れてはならないと思います。貧困家庭の低賃金が、先進国の豊かさを支えていることを忘れずに、世界をより良い方向に変化させる努力をしていって欲しいと思います。
Q:幼稚園、保育園、小学生は特に、成長のスピードが違うと思うが、どのような工夫が必要か。T2 A:子どもの成長は異なる学年で大きく異なりますし、同学年のなかでも大きく異なっています。AIが担当できない仕事に学級担任があると思います。40人の児童生徒の心の成長の違いを感じ取り、その場その場に適した対応・言葉がけをしなければなりません。工夫としては、全体的に話をする場合も必要ですが、個に対応する面談などを数多くこなすことが必要です。面談でなくても、休み時間や昼休み、清掃の時間などなど私は特に意識して声をかけていきした。教育は個に対応したものでなければならないのですが、時間的空間的な制約などが全員一律の指導となってしまいがちです。(受験指導は、比較的画一的な指導が可能です)
Q:尊敬される先生像とは、どのようなものでしょうか?E3 A:尊敬されるという語句の解釈が人によって異なるので、一言では難しいですが、やはり小学校(児童)では、自分のことをいつも気にしてみてくれる大人でしょうか。中学校・高校(生徒)ではロールモデルになる憧れの先生ではないでしょうか。厳しく部活を指導してくれる先生が尊敬される場合もあり、同じ先生に対してイヤな気持ちを持つ場合もあります。同様に優しく接してくれる先生が尊敬される場合と、厳しく指導ができない頼りないという気持ちを持つ場合もあります。一般的には、個人的に優しく接してくれる、気にしてくれる、相談にのってくれるなど、自分と先生の関係性が重要な要素になると思います。生徒によって対応を上手く変えることができる先生が尊敬される場合もありますし、対応を変えることがおかしいと思われる場合もあります。部活では、そのスポーツや芸術に抜きん出た能力を持っている先生がかなり尊敬されますね。 ただ、先生の尊敬度というような調査をしたことも見たこともありませんので、なかなか断定的なことは言えませんが、休み時間や放課後に生徒が次々と訪ねてくるような先生は、生徒に頼りにされている様子を反映していると思います。
Q:命の長さを結局は人が決めてしまうことはしょうがないことなのでしょうか。 L2 Q:全ての命は平等だと思いますか? また平等でない場合、その差はなんだと思いますか? T1 Q:ブタがいた教室で、最後にPちゃんが強引に車に引きずられていくところを見て残酷で悲しくなりました。もしあの二択ではなかったなら僕は絶対Pちゃんをペットとして寿命が尽きるまで小学校で代々飼わせたかったです。それも命の教育だと思います。先生ならどうされますか?T1 A:今回、最も難しい質問ですね。豚の命、鶏の命、魚の命、野菜の命(?)など 、命の定義がとても難しいですね。植物に命があると一般的に言わないところは、意思が見て取れない点なのでしょうか。基本的に命(生命)は最大限に尊重しなければならないと思います。ただ、毎日食べていかなければ私たちも生きていけませんから、他の生命体の一部を取り入れることは必要です(将来完全栄養サプリメントなどが開発されれば別ですが)。 太古の昔から動植物を食べてきた人類は食物連鎖の頂点におり、他の動植物の命の長さを決定して、平等に扱わない(有効に利用するかしないか)力を有しています。未来に、宗教上、栄養上、常識上、その他の社会的要因などで変化するのかもしれません。 食用の家畜と、ペットとの間に、どのような違いがあるでしょうか?動植物から人が受ける愛情(のようなもの)の違いでしょうか。ペットはもちろんですが、植物を大切にしている人もその植物の命を大切にしています。動植物から愛情を受けていると感じている人にとっては、命の重さを感じていると思います。海外では、犬や猫を食べる習慣がある地域もあります。新潟県では戦争中食用うさぎを大量に生育していました。日本は鯨を食べることで海外から批判されていますね。食べるだけではなく、毛皮を取るためミンクもアライグマもキツネもウサギもムートン用ヒツジも殺されるそうです。また殺処分となるペットも毎年数十万匹もいるということです。どこまで考えてみても、答えの出ないとても難しい問題です。 私が教師だったらこの授業の最後をどうするのか、これも難しい質問ですね。このままの設定とした場合、食肉場へ送ることを私が最初から決めて、その決定の責任を子どもには負わせないと思います(小学生にその責任を負わすことはちょっとコクだと思います)。討論するのであれば、この質問と同じように食用動物の命の重さは、命の長さは人が決めて良いのかをテーマにして討論させることが良いと考えます。中学生や高校生だったらどのような決定を下すのかも興味がありますね。 私も子どもの頃、鶏を絞めている場面を見る機会があって、とても好きだった鶏肉(焼き鳥や唐揚げ)を半年くらい食べられませんでした。現実から目を反らしてしまうことになるかもしれませんが、現物の解体の場面を見てしまうと、圧倒的に食欲が無くなってしまいます。現代的な日本人の生活様式(食事に関して)が、動物の命を食べていることをいつの間にか忘れられています。これは良いことなのか、忘れることは悪いことなのか、もう一度考える必要があると思います。
Q:幼児教育が無償化されるということは、保育士や幼稚園教諭の給料は税金で支払われて、保育士や幼稚園教諭は公務員扱いになるのですか? A:無償化という定義は、保護者の負担がなくなるということです。結果的に税金で給与は税から支払われるということになりますが、雇用関係などは今まで通りなので、公務員扱いになるわけではありません(もともと公立の幼稚園・保育園の先生・保育士は公務員扱いです)。 それにしても、幼稚園教諭や保育士の給与水準は低く過ぎます(介護士や看護士も低く過ぎます)。公立の給与を上げて行かなければ人材も育ちません。労働条件の水準も上げて行かなければいけないですね。
Q:���供が0歳や1歳の頃から保育園に入れてしまうのは、可愛そうではないですか?また、その後の成長に影響はないですか?E4 A:0歳や1歳児が、母親と離れて過ごすことがどのような影響を及ぼすのか、いろいろ研究があるようです。ひとまず通説では、1998年厚生白書で「三歳児まで常時家庭で母親の手で育てないと子どものその後の成長に悪影響を及ぼす」というものを否定しています。可愛そうかどうかは、主観的な面が大きいようですが、悪影響がないと考えるのであれば、母親の育児を少しでも軽減できること、職場復帰ができることなどからメリットも多くありと思います。また、同年代の友だちや、保護者以外の大人との接触が多様な刺激になると思います。子どもはたくましくて、最初は母親と離れるときには大泣きしますが、すぐに慣れて泣くこと無く園に入っていきます。それほど心配しなくても大丈夫だと思います。
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茨戸編での尾形は何だったのか あるいは沈黙する破戒神父・鶴見中尉はなぜ死神を自称するのか
ガッツリ本誌176話まで。
1、序 鶴見と尾形の言説の不思議な酷似
父殺しってのは巣立ちの通過儀礼だぜ…お前みたいに根性のないやつが一番ムカつくんだ
ホラ 撃ちなさい 君が母君を撃つんだ 決めるんだ 江渡貝君の意思で… 巣立たなきゃいけない 巣が歪んでいるから君は歪んで大きくなった
こと江渡貝母への発砲については、私は鶴見の言い分をずっと好んできた。ここでの鶴見の江渡貝への殺害の示唆は正しく思える(母君は元々死んでいたから私にも倫理的禁忌感がない)。鶴見は時折とんでもない正しさで私を苦しめる。硬直した仲間の死体に向かって「許せ」と言う男。同じ4巻の回想には、マシュマロでゴールデンカムイには珍しい雲吹き出しで内面が記されていることも教えて貰った。
まるで死の行進曲のようなマキシム機関銃の発射音 この無駄な攻略を命令した連中に間近で聞かせてやりたい
私は鶴見中尉の内面描写が少ないという通説をとてもとても疑問視している。これはもはや読み手の願望に近く、検討するのであれば幅広い読解が必須であろう。ゴールデンカムイの人物は総じて内面描写が少ない。それところか、当初は梅ちゃんと寅次についてあれだけ饒舌だった杉元の内面は、「俺俺俺俺俺俺俺俺俺」という叫びとは裏腹に、「俺」も、その内面も、徐々に欠落を始めてしまったのだ。15巻にはアシㇼパの顔を思い出せていないのでは無いかと思わせるカットすらある。15巻で杉元の『妙案』が宙に浮いたままであるのは象徴的だ。私たちの心が取り残され、疑問は解決されず、1つの核心だけが深まるーー杉元佐一は自分を失っている、と。この話は杉元が梅ちゃんに認識されるような自分を取り戻す話出会った筈なのに(そしてそれを認知できない杉元は、梅ちゃんに自分を認識してもらえるように視力回復に躍起になる)、旅の過程で彼はますます自己を喪失していく。
これから延々と鶴見の話となる。
2、死神の自称
鶴見は意図的に自分を失わないために死神になることを選んだ男である、というのが私の基本的な考えである。それは「脳が欠けているから杉元佐一は自分を見失っている」という説を遠回しに否定する存在である。だいたいにして脳が欠けていなかったら杉元はスチェンカで相手を殴り続けなかったと言えるのだろうか。まぁ、杉元の話はさておくとして、それはおそらく尾形のこういった態度と対照づけることも出来る筈だ。
俺のような精密射撃を得意とする部隊を作っておけばあんなに死なずに済んだはずだ
今となってはどうでも良い話だが
鶴見は「今となってはどうでも良い」をやり過ごさなかった男である。一度は鶴見の腹心の部下であった筈の尾形は、戦後も心を戦場に置いてきたのではなく、戦場の側を自らに引き寄せようとする鶴見(や土方)にたいして冷笑的な視点を浴びせ続ける。
仲間だの戦友だの……くさい台詞で若者を乗せるのがお上手ですね、鶴見中尉殿
変人とジジイとチンピラ集めて 蝦夷共和国の夢をもう一度か?一発は不意打ちでブン殴れるかもしれんが政府相手に戦い続けられる見通しはあるのかい? 一矢報いるだけが目的じゃあアンタについていく人間が可哀想じゃないか?
ここでの尾形の「正しさ」は、鶴見の「正しさ」とは違い私の心の拠り所になっていた。尾形が「いい人になれるよう 神様みていてくださろう」に適合するような行動をすると私はいちいち救いを求めてしまい、彼の行動がいつも噛み合わず言説が否定されるのを見てこの男の救いのなさに頭を抱えていたのだ(まさに本誌の『176話 それぞれの神』で現れた関谷の神にすがる心情である)。そして鶴見は、月島をある意味救ったが、尾形を救うのには失敗した。むしろ鶴見は尾形を利用するだけ利用していたように思えた。
尾形と鶴見と親殺しは4度交錯する。江渡貝。花沢中将。月島。ウイルク。
外敵を作った第七師団はより結束が強くなる 第七師団は花沢中将の血を引く百之助を担ぎ上げる 失った軍神を貴様の中に見るはずだ よくやった尾形
たらし めが…
尾形にとって鶴見の取り巻きであることが幸せなのかどうかは分からないが、他の造反組や、あるいは役目を見つけて下りた谷垣とは異なり、尾形は鶴見を『切』った、数少ない人物である。尾形は、月島同様戦前から鶴見の計画に加担していたのにもかかわらず、鶴見中尉から月島と同じ様に扱われなかった人間でもあった。
江渡貝の母殺しに関しては鶴見にも見るところがあると考える私も、この鶴見の花沢中将殺しにおける尾形��扱いが原因で、長らく鶴見のことをよく思えずにいた。さらに15巻149話、150話で鶴見が月島を父親殺しから救った(?)事実や、本誌にて戦前から尾形が鶴見の命で勇作を篭絡および殺害しにかかっていた事が判明した事を鑑みて、鶴見の風見鶏的態度に辟易していた。加えて言うのなら、ゴールデンカムイの中に時折現れる聖書に基づく表象や、それに対するキリスト教に軸足を置いた読み解き方というのは私が最も苦手とするところであったが、一方で鶴見が71話の表紙にて不完全に引用された聖書の一節を通じて『にせ預言者』(マタイ7:15)であると示されていることを筆頭に、いくつかのキリスト教的モチーフを(ところどころで反語的に)取り込んだキャラクターであることも否めずにいた。
にせ預言者を警戒せよ。彼らは、羊の衣を着てあなたがたのところに来るが、その内側は強欲なおおかみである。(wikisorceの口語訳より)
そもそも鶴見もまた、その他大勢のキャラクターおよび我々と同様、多面的な人物として描かれている。偽預言者であり、彼の演説はヒトラーのパロディとして描かれるほど(作者によるとミスリードらしいが。Mislead? Misread?)だ。そして、外敵に対しては自らのことを死神と称しながらも、仲間に対してはむしろ告解をうける神父の役割に近いものを演じ、坂本慶一郎とお銀の息子の前では聖母マリアとなり、月島や杉元と共有する傷は、スティグマと見ることも出来るだろう。キャラクターデザインには、明らかに鶴の要素が取り入れられている。さらには編集者のつけた仮面を被る悪魔、という表象ですら許容される向きにあるのだから、鶴見も大変である(悪魔という呼称は江渡貝の母によっても齎されている)。私がこの鶴見という、出自も分からぬいろんな人形が載せられたクリスマスケーキを長らく食べる気になからなったのは、そこに土俗の信仰と西洋的信仰が混ざり合って、あまつさえ鶴や死神の細工菓子まで載っていたことを考えると不思議ではあるまい。
私はどこかで、にせ預言者としての鶴見、という表象の正当性についてすら、もしかして議論になるのではないかと辟易している。不信の徒である私の読み解ける事項など限られていることは重々承知だし、そもそも私はゴールデンカムイを読み解くときに、作中での記載を第一に考え、外的世界に存在するマキリで作品をチタタプしない様に細心の注意を払ってきた。最近ラジオが出現したことで、ようやく文言に尽くし難かったそのバックグラウンドをまとめる事ができたような気がするが、私は解釈を取り払った読み方が先にくることを好むし、そもそも『らしさ』への拘泥は私の目を曇らせるのではないのかと考えている。とりわけキリスト教を扱う時には、竹下通りで千円で買った十字架のアクセサリーを身につける女の子のようにならないためには、むしろ触れずにいるのが一番なのではないかと長く考えていたものだった。それが私の最低限の敬意の示し方であった。
とはいえ、キリスト教と日本の間での困難を感じてい���のは何も私だけではなかった。多くの作家がそれに苦しみ、むしろその困難を以って、日本を描き出そうとする作家もいた。もちろん私の考えでは、作家の作るものに於ける宗教的解釈は、仮に異端であっても一つの芸術作品になり得る一方で、評論家の宗教的解釈の異端さは、単なる誤読として片付けられる可能性がより高く、慎重を期するものであるのだが…。しかし私はだんだんと、そういったキリスト教と日本の狭間で描かれた作品であれば、鶴見像を見出せるのではないかと思う様になっていった。もっと言えば、私がキリスト教的表象を前にして立ち竦む、その逡巡自体を語ることならできるのでは無いか、と思う様になったのだ。
「にせ預言者ー貪欲な狼」「ヒトラー(ミスリード)」「マリア」「告解を受けるもの」、そして「聖痕」…を持つ「悪魔」で「死神」…の「鶴」をモチーフとした「情報将校」。
「にせ預言者ー貪欲な狼」に対してのとても簡潔な読み解き方は、単に鶴見が偽の刺青人皮を作ろうとしている、というものである。もう少し解釈を広げれば、鶴見が北海道の資源を活用して住むものが飢えない軍事帝国を作ろうと嘯くことであろうか。
軍事政権を作り私が上だって導く者となる お前たちは無能な上層部ではなく私の親衛隊になってもらう
これはヒトラーとして描写されていること(繰り返しとなるが、作者によるとミスリード)でもあり、ヒトラーとはたとえばその土地の出身では無いという点などでも共通点が見られる。実際には北海道はロシアと違って天然資源には恵まれておらず、またその後の軍事政権というトレンドの推移、戦争特需にも限りがあることを考えれば、金塊を持ってしても独立国家としての存続がおよそ不可能であっただろうことは見て取れる。
3、マリア、そして告解を受ける破戒的神父としてのあべこべさ
面白い事に、聖母として描かれる鶴見はほとんどもって無力であり、子をアイヌ的世界に属するフチに預ける事しか出来ない。
一方で「告解を受けるもの」、すなわち神父としての鶴見は極めて破戒的である。鶴見への告解は子羊たちの救済を意味しない。鶴見は誰とも共有すべきではない告解を共有することで、結束を強める「見返り」を期待する者である。教会に於いては告解の先には主による赦しがあることが期待され、十字架に架けられたキリストの苦難がそれを象徴していた。一見してキリストの苦難は鶴見の告解室においては「戦友は今でも満州の荒れた冷たい石の下だ」で代替されている。しかし鶴見の厄介さはその様な単純な構造におさまらないところである。一方で満州を彼らのいる北海道と分けて見せるそぶりを見せながら、時として「満州が日本である限り お前たちの骨は日本人の土に眠っているのだ」と口にし、それどころか戦争の前から月島・尾形らと何かしらの謀略を図っていたことすらわかり、『我々の戦争はまだ終わっていない』という悲壮にも満ちた決意が段々と『戦争中毒』である鶴見のハッタリであったことに我々は気づかされる。
彼への告解は何もかもがあべこべであり、神父の皮を被りながら極めて破戒的である。洗礼後ではなく洗礼前――つまり第七師団入隊前――の罪を、谷垣に至ってはあまつさえ衆人の前で告白させ、傷を共有させる。告解が終わった後に司祭は「安心して行きなさい(ルカ7:50)」というものだが、鶴見は自分に付いてきてくれるように諭すのだった(「私にはお前が必要だ」)。
破戒というのはあまり神父に使う言葉ではない。それでも、島崎藤村の『破戒』は、聖書のモチーフを色濃く反映させながら、被差別階級とその告白を描いた作品だったのだから、やはり破戒、と言う言葉はここにふさわしい気がする。
『破戒』において島崎が真に目指したのは、「身分は卑しくてもあの人は立派だから別」という、個人の救済を批判することであった。そのような個人の救済は、いわば逆説的に被差別階級の差別を補強する、矛盾した論理であったのだ。
この論理は2018年にも広く流通した。杉田水脈氏がLGBTに生産性がないと発言したことに、一部の人が、アラン・チューリングやティム・クックといった生産性のあるLGBTの名前を挙げて反論を試みたのである。このような言説が流布した後、リベラル派は、自分たちの身内の一部に対して、「生産性のないLGBT」が仮にいたとしても、その人たちも等しく扱われなければならない、とお灸を据えなくてはならなかった。
これこそ私が鶴見の恣意的な月島の依怙贔屓を、そして尾形の利用を、いまだに批判すべきだと考える理由である。
外敵を作った第七師団はより結束が強くなる 第七師団は花沢中将の血を引く百之助を担ぎ上げる 失った軍神を貴様の中に見るはずだ よくやった尾形
誰よりも優秀な兵士で 同郷の信頼できる部下で そして私の戦友だから
私はこの差異に於いて鶴見を許す気は毛頭ない。それは、私が谷垣を愛しながらも、アシㇼパを人質に取った事を未だに許していないのと同等である。谷垣を受容するに至った経緯が、私に鶴見というキャラクターを拒絶する理由は最早ないことを教えてくれた。そしてよくよく読み解いてみると、この、一見すると月島への依怙贔屓ですらあべこべなような気すらしてくるのであった。
4、主格の問題 ー 「死神」という主語について
ここにおける問題は『主格』に於いても明らかだ。鶴見が月島に話す時の態度は、���帽を脱ぎ、主語は「私」、時折「おれ」と自らを自称する親しみのあるものだ。その一方でしかし尾形へは軍帽またはヘッドプロテクター(仮面)を装着して主語をあろうことに「第七師団」に置いている。尾形の父殺しについては未だに謎が多く、発端が誰なのか(花沢中将自身・尾形・鶴見)、なぜ花沢中将が死装束を身につけられたのかを筆頭に、また鯉登少将への手紙をいつ誰が書いたのかも問題となろう。よって、尾形が鶴見への忠誠心を失いつつも自らの父殺しの願望を成就させるために鶴見の案に乗っただけなのかどうかは、よくわからない。とはいえ、自らが時に「どんなもんだい」と誇示さえする狙撃手としての腕を買わなかった第七師団への離反は、狙撃手と対称をなすような旗手としての勇作を評価し、勇作の殺害作戦を撤回した鶴見への、勇作の狙撃をもっての”謀反”を契機として、花沢中将死亡時に、すでに尾形の胸の内にあったと考えるのが自然であろう。加えて尾形も、どこかの段階で破戒的神父・鶴見への告解というステージを踏んでいたことも想像に難くない。
このように読み解いていくと、単に鶴見は月島にだけ心を許しているようにも読めるのだが、そうは問屋が卸さない。まずはいご草への呼称問題である。月島は自らのことを『悪童』ではなく『基ちゃん』と呼ばれる事に意義を見出しているのに、彼女の事を『いご草』と表現する(本当は鶴見との会話の上でも名前で呼んでいたのだろうが)。さらにそれを受けて鶴見は『えご草ちゃん』と彼女の非人格化を進め、さらには自らの方言も決して崩さないことで会話の主導権を握る。加えて、私は長らく、江渡貝と炭鉱での爆発に巻き込まれ、煤だらけで雨の中を帰ってきた月島への労いの少なさにも違和感を抱いていた。これも一つの「あべこべ」なのかもしれないし、あるいは月島への圧倒的信頼が根底にあり、彼なら心配に及ばないと考えていただけなのかもしれず、もしくは鶴見がヘッドプロテクターという仮面をつけた時の「死神」としての決意の表れかもしれない。
「死神」を自称すること。
そもそもにおいて、我々が日々感じている他人への判断、偏見、予断の集合体、例えば、あの人は秋田出身で大柄で毛が濃く少々ドジなマタギである、と言われたことによって”我々が想起する予断と偏見”と、漫画を切って話すことはできない。小説よりもさらに視覚的な漫画という分野においては、ステレオタイプと”キャラ”立ちするための記号化というのはほとんど隣り合わせにあり、分離することがむずかしい(この論だけで何百ページも割かなければ説明できないであろう)。それでも、だ。この作品のキャラクターほど、「あの人はこう言う人だから」と型に嵌める行為が適切ではない作品もないのではないか。
作品内で繰り返される「あなた どなた」という問い、あるいはその類型でのマタギの谷垣か兵隊さんの谷垣かどっちなのか、山猫の子は山猫なのか、という問い、そしてその問いに対するわかりやすすぎる「俺は不死身の杉元だ」という回答を、繰り返しながらもゆるやかに否定し続ける世界線の中で、「私はお前の死神だ」という言葉は鶴見の決意と選択を象徴しながらも、結局のところ杉元の「不死身」の様にアンビバレントな価値を持つ言葉の様にすら思える。
鶴見と杉元はスティグマを残す男である点も共通している。鶴見は月島が反射的に自らを守った際に微笑み、二人はその後スティグマータを共有する人物になった。
杉元と傷の関係については未だに謎が多い。彼自身が顔につけた傷についても多くが語られる事はない。時間軸として1巻以降で彼が顔に受けた傷跡はかならず治っていくのに、彼が周りに残していく傷は確実に相手に痕を残していく。なぜ尾形が撃った谷垣の額の傷跡は消えたのに、杉元が貫いた頬の傷はいつまでたっても谷垣の頬から消えず、尾形の顎には縫合痕が残り、二階堂は半身を失い続けているのか、分からないままだ。ずっと分からないままなのかも知れない。
そしてウイルクもまた、顔に傷を残す男性である。傷を残しても役目を終えない男たち。聖痕と烙印ーー両極な語義を内包するスティグマータを共有し合う男たち。それはかつての自己からの変容であり、拭い去れない過去の残滓でもある。そしてそれは、作中の男性キャラクターたちが「視覚」を中心として動き回ることと決して無関係ではないが、ここではその論に割く時間はない。
「あなた どなた」に対してあれほど口にされる「俺は不死身の杉元だ」を“言えない”こと。この言えない言葉について、私はどれだけの時間をラジオに、文章に、割いて来ただろうか。そのことを考えると矢張り、「あのキャラクターはこうだから」と言う解釈がいかに軽率にならないかに気を使ってしまう。たとえば鶴見においては、まさに本人が、「俺は不死身の杉元」よろしく「私はお前の死神だ」と言っているのだから、もうそれで良いではないかと言う気がする。「不死身の杉元」は杉元が不死身ではないからこそ面白みの増す言葉であるように、今まで見てきた通り鶴見も何も「死神」だけに限定するには勿体無いほどの表象を持っているが、その中で杉元が、ある種の悲痛な決意を持って、半ば反射的に「不死身の杉元」と口走る一方で、「死神」にはもっと計画的な、そして底が知れぬ意志の重みを感じるのは私だけだろうか。「不死身の杉元」にも感じないわけではないが、「死神」はより一層”選択”であった、という感じがする。偽の人皮を、扇動を、月島を、傷を、周りに振り回されることなく自ら道を切り開いて”選ぶ”という高らかな宣言が、「死神」である、という感じがする。
5、「運命」と「見返りを求める弱い者」
『役目』を他人に認めてもらうことが作品内でどれくらい重要なのかは難しいところだ。谷垣源次郎が役目を見出し、果たす事を体現す��キャラクターとして描かれ、見出す事、果たす事の重要性は単行本の折り返しから我々に刷り込まれているとは思うが、その結果としての他者承認は必須なのだろうか。杉元や尾形が他者承認を執拗に追い求めている様に見える一方で、白石が、シスター宮沢、熊岸長庵、アシㇼパ、杉元と、認めないー認められないことをずっと体現し続けているのもまた面白い。
長年の谷垣源次郎研究の成果として、谷垣の弾けるボタンは、インカラマッが占いきれない予測不可能性と、それを元にした因果応報やら占いに基づく予測的行動の否定の象徴であると気付いて、私はだいぶスッキリした。網走にいるのがウイルクである可能性は彼女の占いに基づくと50/50であるが、これがウイルクではないと100/0で出ていたとしても、彼女は網走にそれを確かめに行かなくてはならなかっただろう。それは北海道の東で死ぬと知っていながら網走に行く選択をするのと同根であり、いずれボタンが弾けとぶと知っているからと言ってボタンを付けない理由にはならないこと、またはボタンが弾け飛ぶからといって、彼女が谷垣に餌付けするのをやめはしないことと共通する。そもそもにおいて自分の死期を悟っている、ある種の諦念を持つインカラマッの行動は、途中から愛に近しいものを手にいれるにつれ、淡い未来への希望と言語化されない献身を併せ持つものになりつつあった。未来への希望と言語化されない献身……そういったものの為に嘘をつくことすら厭わない女たちを総括して、二瓶は『女は恐ろしい』と称し、自分たちの行動原理では理解不能なものとして警戒していたのだった。二瓶の持つ『男の論理』は、明白な見返りを望むものだったからだ。谷垣もその例に洩れず、インカラマッは怪しい女だからといって救わずにいようとすらしたし、彼女と打ち解ける様になった後も、その『女の論理』の如何わしさを感じ取って、彼女と寝る際には、やましさから『男の論理』の権化である二瓶の銃を隠し、彼女と寝た後には、その求愛は彼女を守らせるための行動ーーすなわち明白な見返りを求めた打算ーーだと考えすらしたのだ。もちろん、彼女自身のかつての行いによって、それを谷垣に見えづらくして、当たりすぎる占いが谷垣の心を遠ざけているのも皮肉であるし、その当たりすぎる占いが全て占いではなかったことは皮肉であった。妹を亡くしていること、アシㇼパの近くに裏切り者がいること、東の方角が吉と出ていることは、すべてインカラマッが既に知っていたことであり(探しているのはお父さんだという占いも同等)、キロランケの馬が勝つかもしれない可能性や、三船千鶴子の場所を言い当てるだけの能力を持ちながら、占い師としての力を使わず内通者として動いたことで、彼女自身が彼女を『誑かす狐』に貶めてしまっていた。彼女が溺れる話の表題が『インカラマッ 見る女』なのは、そんな彼女の人間性の回復を示唆しており、それは彼女自身が占いから逃れて、弾け飛ぶボタンの行き先ような、予測不可能性に身を委ねることであった。
「最悪の場合、こうなるかもしれないからやらないでおこう」だとか、「相手がいずれ自分にそうしてくれるはずだから、今こうしよう」という報酬と見返りの予測に基づく行動とその否定は、ゴールデンカムイを読む上で極めて重要な要素だと考える。
予測に基づく行動の抑制を行わない登場人物たちの決定は、残念ながら愛のみではなく、殺しと暴力も含まれる。即断性という言葉で言い表すこともできるかもしれない。私はこれをよく『反射的』という言葉を用いて説明している。私に言わせれば、極めて幼稚な、原始的な論理であり、月島が鶴見を助けたのもこれに分類される。それで鶴見が満足をしたのは、それはそれで鶴見の孤独を浮き上がらせる。反射とは、結局のところ「そうするしかなかったんだ」という男たちの言い訳に使われるものでもであり、杉元が初めて尾形に会った時に川に突き落とした時の口ぶりと100話の口ぶりなどは、まさにその代表例である。杉元という人物の中では、そのような反射的な即断性と、殺したものの顔をずっと覚えているという保持性の二つの時間軸が交差しており、その内的葛藤が我々を強く惹きつけている。そしてそこから、杉元が持つ時間軸は「地獄だと?それなら俺は特等席だ」「一度裏切った奴は何度でも裏切る」という回帰性、または因果応報性にまで波及するのだが、その思考の独特さは「俺は根に持つ性格じゃねぇが今のは傷ついたよ」という尾形の直線性と対をなす。尾形は直線的に生きていかなければ耐えきれない程の業を背負っている。それでも過去は尾形を引き止めに来る、杉元が梅ちゃんの一言を忘れられないのと同等に。
即断性/反射的の反語はなにも計画的/意図的なことだけではない。極めて重要な態度として、保留があり、現在この態度はインターネットが普及して、即時的な判断とその表出のわかりやすさが求められるようになったことで、価値が急速に失われつつあるが、明治期においても軍隊の中では持つことが叶わなかった態度であっただろう。保留を持つキャラクターの代表格こそ、白石由竹であることは言うに及ばないであろう。
保留を持ち得なかったものたちが代わりに抱くのが反発か服従であり、造反組は勿論のこと、気に入らない上官を半殺しにした杉元と、諦念に身を任せて問いすら捨てた月島を当てはめることができるであろう。
その即時性や保留や反発や服従を生み出すのが、自らを死神に例える鶴見であり、鶴見はまさに意志の人、意図の人、計画の人である。そして仲間に対して「相手がいずれ自分にそうしてくれるはずだから、今こうしよう」という見返りを期待して関係を構築する人である。これも、私が彼を苦手としていた理由の一つであった。しかし繰り返しになるが、鶴見の”選択”は、「即時性や保留や反発や服従」を生み出す。そして本編では、どちらかというと出だしから鶴見からの離反者ばかりが描かれ、人たらしの求心力を持つ魅力的な人物であるということを読み解くまでに、私はじっくりと長い期間をかけなければならなかった。「先を知りたくなる気持ち」「ページをめくる喜び」を強く求められる男性向けの週刊連載において、保留の態度を試されていたのは、読者の方であったのだ。
それでもなお私は、裏切られる鶴見、離反される鶴見というものを立ち返って見るにつれ、この男の立場の脆さというのを改めて重要な要素として捉えるようになったのだ。
それは「死神」とは遠く、自らの周りを賞賛者で固めた男の、ともすれば惨めとすら言える姿であった。そして私は遂に「死神を目指す弱い男」、鶴見を見出したのであった。
そこで大事なのは、鶴見が「死神」になろうとしている、というただ一点であった。それはおそらく尾形が銃に固執するのと同等の、自己決定権のあくなき希求であった。
11巻で尾形は言った。「愛という言葉は神と同じくらい存在があやふやなものですが」。その11巻で鶴見は愛を見出していた。「あの夫婦は凶悪だったが…愛があった」。そして同じ巻で、鶴見はふたたび高らかに宣言したのだ、「私は貴様ら夫婦の死神だ」ーーと。
以上の文章は既に3週間以上前に書いたものだったのだが、本誌ではさらに「神からの見返りを求める弱い男」として関谷が登場した。この「弱い」という言葉は私の元ではなく、イワン・カラマーゾフが『カラマーゾフの兄弟』の一節『大審問官』にて述べた、大部分の信者を指す言葉である。さらに本誌では、私が谷垣とインカラマッの関係に見ていた「予測不可能性」を、ある意味逆手に取った様に、自分への逆説的幸運をもたらす人物として門倉が描かれ始めた。私は一読して彼は谷垣の類型であると感じ取ったが、それは即ち尾形の「かえし」である事も意味することを忘れてはならない。尾形はキロランケが神のおかげだと言った直後に、「俺のおかげだ」「全ての出来事には理由がある」と神の采配を否定するような男だからだ。
すべてのあやふやな存在に輪郭を持たせ、弾け飛ぶボタンを先にむしり取っておこうという「覚悟」。その覚悟の名前が「死神」。私にとっては、それが最もしっくりくる「死神」の捉え方であるような気がした。
覚悟については鶴見の口から15巻でこのように語られる。
覚悟を持った人間が私には必要だ 身の毛もよだつ汚れ仕事をやり遂げる覚悟だ 我々は阿鼻叫喚の地獄へ身を投じることになるであろう 信頼できるのはお前だけだ月島 私を疑っていたにも拘らず お前は命がけで守ってくれた
そう思うと尾形と月島の扱いの差にも、月島へのあの苦しい弁明も納得がいくような気がした。
6、月島への『言えなかった言葉』
話は最後まで聞け 月島おまえ… ロシア語だけで死刑が免れたとでも思ってるのか?
初読時にはこの物言いは癪に障った。そこまで自明のことだと思うのなら。そうやって父の悪名を利用して月島を助けたのなら。月島にそう言えばいいじゃないか、と思っていた。しかしそれは、結局の所「ゴールデンカムイ」の根底を為す、『言えなかった言葉』の一種であったのだ。9年間、鶴見は自分の工作を月島に明かすことが出来なかった。それは杉元が、いずれ梅子に再び見出してもらう未来を目指している期間(つまり本編)よりもっともっと長い時間であるような気がする。その事実だけがまずは大事で、それに対して色々な意味づけをする前に、私は鶴見が”言い淀んだ”事実に向き合わなければならなかった。私は鯉登でも宇佐美でもないのだから、鶴見を信望する必要などなかったのだった。裏切りたくなるほど痛烈に、その存在を意識すればいいだけであった。
そして、理由はどうであれ『言えなかった言葉』を9年間抱えていた鶴見には、やはり弱さという単語が似合った。もし、もし本当に、月島の父親の家の地下から掘り出されたのが白骨であったのなら、10日前に行方不明になったいご草ちゃんが月島が逮捕されてすぐに掘り出されたのだから、白骨化するのには時間がかかりすぎるので、ジョン・ハンターよろしく骨格標本を作るような細工でもしない限り、髪やら服やらで誰だかすぐに分かってしまう。だから、きっと鶴見の工作は説得力のある良く出来たものであったのだが、それですら、月島に言えなかった、という事実の確認。
月島をどうしても手元に置いておきたかったのだろう。「告解を受けるもの」であった鶴見が月島の前では弁明をする男に成り下がる。それでもそこで「スティグマ」が2人を繋ぎ止める。鶴見は言った。「美と力は一体なのです」。そして彼の言葉にある”美”の定義は彼の顔の傷をも厭わないものであった(二階堂が本当にヒグマを美しいと言ったかどうかは大きな疑義が残るが)。この点に関しては、私はずっと鶴見の考え方に感心させられていたものだった。自らを美しいと定義してしまえば、もはや何も恐れるものはない。
ますます男前になったと思いませんか?
これは鶴見が自らの容姿に(杉元のように)無頓着であるとか、または本当にますます男前になったと考えている訳ではない、と考える。15巻で大幅に加筆された鶴見のヘッドプロテクター装着シーン。
どうだ 似合うか?
鶴。
杉元の言を借りよう。
和人の昔話にも「鶴女房」って話があってね 女に変身して人間に恩返しするんだけど 鶴の姿を見られたとたんに逃げていくんだ
鶴の頭部を模したヘッドプロテクターは、おそらく杉元が被り続ける軍帽と同種のものである。とはいえ杉元は軍帽をなぜか捨てられない男として描かれているのに対し、鶴見はむしろ「覚悟」の顕在化としてヘッドプロテクターを装着している。そしてその内部には、自ら御することすらできない暴力への衝動があり、その暴力を行使する時に、そのヘッドプロテクターからあたかも精液/涙のように変な汁が”漏れ出る”。編集の煽りによるとこれは「悪魔」の「仮面」である。たかだか煽りの一文を根拠に、悪魔かどうかを議論するのはかなり難しいが、それでもやっぱりヘッドプロテクターが「仮面」であるというのは、意を得た一文と言って良いのではないだろうか。それは不思議にも姿を隠す鶴の昔話に符合する。
正直に言おう!鶴見が悪魔だったらどれだけ解読が楽だった事か��原典が山ほどある。しかも悪魔は二面性を持つ。ファウスト 第一部「書斎」でメフィストフェレスはこのように話す。
Ein Teil von jener Kraft, 私はあの力の一部、すなわち
Die stets das Böse will und stets das Gute schafft. 常に悪を望み、常に善をなすもの。
Ich bin der Geist, der stets verneint! 私は常に否定し続ける精霊。
Und das mit Recht; denn alles was entsteht, それも一理ある、
Ist wert dass es zugrunde geht; すべてのものはいずれ滅びる。
Drum besser wär’s dass nichts entstünde. であれば最初から生まれでない方が良かったのに。
そしてイワンの夢の中で、スメルジャコフは「メフィストフェレスはファウストの前に現れたとき自分についてこう断じているんです。自分は悪を望んでいるのに、やっていることは善ばかりだって。」と、ファウストに言及するのであった(第四部第十一編九、悪魔。イワンの悪魔)。
このファウストの素敵な一節にはいずれ触れるとして、鶴見は悪魔を自称はしないことを念頭に先を急ごう。
この情報将校を語る上で、最も大事な事象は彼が自身を「死神」と定義��ることだと私は考えている。そんな中で、数々の日本的ーキリスト教的装飾に彩られ、たとえば「スティグマ」というキリスト教的文脈で鶴見に聖痕/烙印という聖別を与えることを全く厭わない私からも、「死神」がキリスト教的であるかどうかには首をひねってしまう。よしんばキリスト教のものを作者が意図していたとして、「死神」という訳語を当てるのは、デウスに大日という訳語を当てたザビエルの如き、弊害の多いものであるように思える。もしかしたら鶴見はpaleな馬に乗った男であり、隣に連れるハデスが月島か何かであり、第一~第三の騎士が鯉登、宇佐美、二階堂のいずれかの人物であるのかもしれないが…それにしても示唆する表現が少なすぎるのだった。このことは私を悩ませた。というのも鶴見をキリスト教的に読み解くという行為は、私にとって禁忌だからこそある程度の魅力を感じさせるものだったからである。ましてや鶴見を「弱い神」と位置付けるならなおのことであった。日本におけるキリスト教的神は、決して強者たりえない。強者だと感じていたらこの程度の信者数には収まっていない。そもそもゴールデンカムイには何となくキリスト教を思わせるような描写が散りばめられており、それでもいかにそれが合致していてもその文脈で語る必要はないのではないかと思われる事象も多々ありつつ(たとえばアシㇼパによる病者の塗油をサクラメントとして読み解く必要はないと感じるなど)、その禁じられた評論とやらを、試しにやってみるとこうなる。
そもそもにおいてまず、キリスト教に触れること自体に禁忌感がある、というのは既に記した通りだ。「スティグマ」「マリア」一つに取っても、私にとっては言及する前に、日本的キリスト教観について長大な考えを巡らせることがそもそも不可欠であった。キリスト教自体は現地の土俗宗教を取り込んで来たが、こと日本においてはそれすら叶わず、日本的キリスト教観というのは、おおざっぱに言えば日本の多神教感との習合ということが出来るかもしれないが、むしろ、日本の側がキリスト教の本質を捉えることなくキリスト教を取り込んでいく、という逆転現象の方が著しいほどだ。
評論家における教義の解釈のズレは、ともすれば不勉強や読み違えとたがわない為、私も慎重にならざるを得ない。しかし創作者における教義や解釈のズレは、等しく芸術となり得る力を持っているのであって、私はそれを読み解いて良いのかどうなのかずっと逡巡していたのだった。日本に於いてキリストを描くことの可能と不可能は、作家自身がキリスト者であった遠藤周作が身をもって体現していた。遠藤の描く神は一部で絶賛を受け、2016年にマーティン・スコセッシが映画化したことも記憶に新しいが、一方でカトリック協会の一部からは明白な拒絶を受けた。そして彼の描く神は、誰かを救う力を持つような強い神ではなく、弱い誰かに寄り添うような神であった。
鶴見は「愛という言葉は神と同じくらい存在があやふや」であるものに、覚悟を持って形を付けていった。それは日本人に許された特権であるかもしれない。ゴールデンカムイの作品世界の中で「神」「運命」「役目」が目に見えぬ大きな力としてキャラクターを飲み込む中(そしてそれが本誌に置いてリアルタイムでますます力を持とうとし、ともすれば谷垣のボタンすらそれに組み込まれてしまうのではないかという恐怖に怯えながら)、鶴見はひたすらに自律できる人生を求めている。運命を意のままに操ることへの飽くなき渇望。その裏返しとして彼は大嘘つきとなった。
そんな大嘘つきの鶴見ですら、嘘すらつけなかった事実が月島をあの手この手で自らの手元に置いておこうとした事実であった。9年間も彼はその努力をひた隠しにしようとした。それは大嘘つきの死神に存在した「俺は不死身の杉元だ」と同義の『言えなかった言葉』であった。奇しくも遠藤周作は、まさにこの国での神との対話の困難さについての一片の物語を、まさしくこのように著したのである――『沈黙』と。
対話の不可能さには逆説的な神性がある。
それはアイヌのカムイにおいても同じである。だからこそ送られるカムイに現世の様子を伝えてもらおうとし、それでもバッタに襲われた時にキラウシは天に拳を振りかざして怒ったのだ。しかしカムイとキリスト教的神の間には決定的な違いがある。キリスト教的神は全てを統べているのだ。そして「知って」いる筈なのだった。長年このことは日本の作家を悩ませていた。遠藤の『沈黙』においても、主人公は繰り返し、聖書におけるユダの記載、そして「あの人」がなぜユダをそのように取り扱ったのかを問うている。
だが、この言葉(引用者注:「去れ、行きて汝のなすことをなせ」)こそ昔から聖書を読むたびに彼の心に納得できぬのものとしてひっかかっていた。この言葉だけではなくあのひとの人生におけるユダの役割というものが、彼には本当にところよくわからなかった。なぜあの人は自分をやがては裏切る男を弟子のうちに加えられていたのだろう。ユダの本意を知り尽くしていて、どうして長い間知らぬ顔をされていたのか。それではユダはあの人の十字架のための操り人形のようなものではないか。
それに……それに、もしあの人が愛そのものならば、何故、ユダを最後は突き放されたのだろう。ユダが血の畠で首をくくり、永遠に闇に沈んでいくままに棄てて置かれたのか。(新潮文庫 遠藤周作『沈黙』p.256)
当時若干25歳の萩尾望都が抱いたのも全く同じ疑問であった。編集から1話目にて打切りを宣告されるも、作者自ら継続を懇願した結果、その後少女漫画の祈念碑的作品として今尚語り継がれる『トーマの心臓』において、萩尾は以下のようなシーンをクライマックスに持ってくる。
ーーぼくはずいぶん長いあいだいつも不思議に思っていたーー
何故あのとき キリストはユダのうらぎりを知っていたのに彼をいかせたのかーー
“いっておまえのおまえのすべきことをせよ”
自らを十字架に近づけるようなことを
なぜユダを行かせたのか それでもキリストがユダを愛していたのか
その後も「知ってしまうこと」は萩尾望都の作品の中で通底するテーマとして描かれ続け、時にそれはキリスト教的なものとして発露した。『トーマの心臓』の続編『訪問者』はもちろんのこと、『百億の昼と千億の夜』ではまさに遠藤が指摘した通りの役回りをキリストとユダが演じ、そして敢えてキリスト教的な赦しを地上に堕とした作品として、『残酷な神が支配する』を執筆することとなる。
私は日本に生まれた非キリスト者であるからこそ、むしろ不遜に、無遠慮に、宗教的な何かについて切り込んでいけるのではないかと常々感じていた(例えば私にとっては聖典とされる教義の中でも聖書に記載がないのではないかと思う箇所がままある)。そしてその鏡写しのように、概して宗教が封じ込めるものは懐疑と疑念と疑義と疑問ではないか、と考えてきたのだった。
神とは何か、愛とは何か。
そういった問いを挟まないために自らが神になることを決めた男。
それはおそらく弱さを自認した上での自らへの鼓舞であった。
はたして私のような不信の徒が、どのような表象にまで「神」を見て良いのか、いつも憚られると同時、そしてその弱い神をまさに、ドストエフスキーは『白痴(Идиот-Idiot)』として現代化を試みたのではなかったか、という思いがある。『白痴』という和訳は今からするとやや大袈裟なきらいもあるが、それでもやはり、罪なく美しい人間というのは、当時のロシア社会において『Идиот』としてしか発露し得ないというドストエフスキーの悲痛でやや滑稽な指摘は、裏を返せば知恵の実を食べた狡猾な『人間』であるためには、罪を犯し汚れる覚悟をしなくてはならないということであり、それをナスターシャ・フィリッポブ��とロゴージンというキャラクターに体現させていた。このような本作を、黒澤明は、日本的なキリスト映画の『白痴』として図像化したのである。このように日本において不思議と繰り返される弱い一神教の神としてのキリストという存在は、ますます持って私の鶴見観を固めていく。
罪を犯し汚れる覚悟は、鶴見によっては以下のとおり示されているものかもしれない。
殺し合うシャチ… その死骸を喰う気色の悪い生き物でいたほうが こちらの痛手は少なくて済むのだが… 今夜は我々がシャチとなって狩りにいく
一方でキリストを『Идиот』と呼ぶことすら厭わないその姿勢は、私にとっては極めてロシア的なものである。信仰において美しく整っていることは最重要課題ではない。そのような本質性がロシアでは”イコン”に結実している。家族が毎日集まって祈る家の片隅のイコンコーナーの壁に掛けられた、決して高い装飾性や芸術性を誇るわけではなく、木片に描かれたサインすらない御姿の偶像。しかしそれこそが最も原始的な「信仰」のあり方なのではないか。ゴテゴテとした教会の装飾でも着飾った司教の権威でもなく、余分なものが根こそぎ取り払われて、日々の礼拝と口づけの対象となる木のキャンバス。真に信仰するものへの媒体としてではあるが、特別な存在感と重みを持つ象徴的なイコンという存在は、英語では「アイコン」と読み下されるものであり、文脈を発展させながらポップカルチャーにおいてもその役割を大きくしていったことは周知の通りだ。
7、親殺しの示唆と代行 ー 尾形の場合
翻って尾形の新平の親殺しはどうか。
父殺しってのは巣立ちの通過儀礼だぜ…お前みたいに根性のな���やつが一番ムカつくんだ
鶴見も尾形も親殺しの事を「巣立」ち、という同じ形容を使うという事実。きっと何度も語られてきたことだろうけど、改めて15巻にて新たな父殺しが描かれてたことで、その関連性に驚く。父親の妾を寝取りながら、自らが手を汚す事もなく、両親が絶命した事で自由を得る新平のような人物は、私が『因果応報のない世界』として称するゴールデンカムイの特徴である。あるいは『役目』重視の世界とでも言おうか。そこで『役目』を果たしたのは意外にも尾形と彼の「ムカつき」であった。ただし尾形は、他人を結果的に助けてもその事を認識されない人物であるので、この『役目』もまた誰にも認識されることなく消えていく。
ホラ 撃ちなさい 君が母君を撃つんだ 決めるんだ 江渡貝君の意思で… 巣立たなきゃいけない 巣が歪んでいるから君は歪んで大きくなった
江渡貝の母は既に死亡していたが、江渡貝には支配的な母の声が聞こえ続けており、その声は鶴見に与することに反対し続けていた。母は江渡貝を去勢していたことすらわかっている。そんな母を殺せと示唆する鶴見。何より面白いのは「決めるんだ 江渡貝君の意志で…」という鶴見らしくない言い回しである。しかし結果として齎される“対象の操作””偽刺青人皮の入手”という点では功を奏しているので、単に相手によって取る手法を変えていて、それが本人にとってプラスに働くこともあれば、そうでないこともあるだけかもしれない。
ここで関谷のような問いを死神たる鶴見に投げかけるとこうなるーー鶴見は江渡貝から得る『見返り』がなくても江渡貝を助けただろうか?
これは関谷への以下の問いはこのように繋がるーー弱く清い娘を殺し、殺人鬼たる関谷を生かす神だったとして、関谷は神を信じ続けただろうか?
善き行いをした者に幸運しか降りかからないのであれば、なぜこの世に不遇は、不条理は、戦争はあるのであろうか。
これに対して「すべての出来事には理由がある」とする尾形が、自分の置かれた環境と新平の環境をダブらせた上で、親を殺す事が出来ず(巣立つ事が出来ず)大口を叩くのみの新平に対する「ムカつき」であることは明らかでありながらも、そこで結局新平が「救われた」事の偶発性、蓋然性、見返りのなさは見逃してはならないであろう。
同時に、墓泥棒を捕まえるのは自分の仕事ではない、と語る鶴見が、なぜ遺品の回収をしていたか(出来たか)、そして「傷が付いていた」という詳細、のっぺらぼうがアイヌだということまで尾形に情報共有していたという二人の結びつきを考えるのも実に面白い。アイヌを殺したのは誰なのか? そこにいたと分かっているのはもはや鶴見だけなのである。
兎にも角にも、鶴見は、むしろその「不遇、不条理、戦争」の側に立つ事で、幸福を齎そうとする者なのである。
それは奇しくも、イワン・カラマーゾフが大審問官で言わせた「われわれはおまえ(キリスト)とではなく、あれ(傍点、悪魔)とともにいるのだ。これがわれわれの秘密だ!」のセリフと合致するのであった。
8、デウス・エクス・マキナの否定
と、ここまで書き上げた中で、本誌でキリスト教の神を試すキャラクター関谷が出てきた事で、私は論考を一旦止め、その後176話が『それぞれの神』というタイトルで柔らかく一信教を否定する日本的描写にひどく満足し、自らの「弱い神」「死神」の論考を少しだけ補強のために書き加え、大筋を変える事がなかったことに安堵した。
既に触れたファウストでの悪魔の発言、「すべてのものはいずれ滅びる であれば最初から生まれなければよかったのに」は、自らの死に対して諦念を、そしてウイルクとの再会に疑念を抱いていたインカラマッを連想させる。インカラマッ、そして関谷がこだわった『運命』は、やはり緩やかに谷垣によって、そして土方・門倉・チヨタロウによって否定される(このあたりはまさにドストエフスキー論的に言うポリフォニーというやつだ)。
関谷の持つ疑問は「ヨブ記」に置いて象徴されている。ヨブは悪魔によって子供を殺されるが、信仰を捨てず、最終的に富・子供をもう一度手にいれる。『ファウスト』では、やはり悪魔がファウストを試すが、最後に女性を通じて神がファウストを助ける。『カラマーゾフの兄弟』では、神を疑ったイワンは発狂・昏睡に陥る。つまりヨブ記を元にした作品群では、一神教の神は勝利している(『カラマーゾフの兄弟』のドミートリーのストーリーラインは除く)。これは演劇において「デウス・エクス・マキナ」と呼ばれる手法であり、最後に神が唐突に出てきて帳尻を合わせていく手法の事である。
関谷は自らの死にそれを見た。自らの悪行に等しい罰、裁きが下され、意志の強い土方が奇跡を起こしたと考えることで神の実在を感じたのであった。もっとも、我々読者にとっては、関谷への裁きは遅すぎるし、それが娘の死の何の説明にもならないため、関谷がどう捉えようと我々には神の存在が十分に確認できた「試練」ではなかった、と指摘しなければならないだろう。ただ、「デウス・エクス・マキナ」はむしろ因果応報を覆す超常的な描写であり、関谷が見た「意志の強い人間の運命」や「奇跡」、「裁き」という物差しすら飛び越えるものであったので、皮肉なことに、かえって関谷を包む状況とは一致を見せるとすら言えるのであるが……。おおよそにおいて良作とは、物語も人物も「あべこべ」で「矛盾」と「パラドックス」を抱えるものであるため、関谷とヨブ記についてまとめた記載をするには、稿を改めた方が良いと思われる。
それでも関谷についての序章を、本稿の終章に持ってきたかったのは、まさに、新平への運命を急に出てきて変えていく尾形が、あくまで人として、それも銃の腕を除くととてつもなく弱く、惨めな人間として現れ、新平の親の殺人によって新平を救ったという、いわば「デウス・エクス・マキナ」の”変形という名の否定”ではないか、と指摘したかったからである。
時に死神でなくとも、人の子も人を救う。その一端が、尾形の「ムカつき」であったこと、そしてそれが本誌の白石や1牛山に引き継がれていくことを指摘して、この文の結論とする。
そこに「見返り」はない。尾形は新平を助けようとしたわけではないし、白石はアシㇼパを助けても依頼主の杉元が生きているかどうかすら知らないし、チヨタロウは牛山を失って自身に新たな力を得たわけではない。
だからこそ、「見返り」を問題にしてはならないーー外れてしまうとしても、ボタンを縫い付ける必要はあるのだから。
そしてインカラマッはきっと、情を持たず自分を守ってくれないとしても、谷垣に愛を伝えなくてはならなかったのではなかったのかと思うのだ。
読んでくださってありがとうございました。
過去の文をまとめたモーメント。
マシュマロ。なぜ書いているってマシュマロで読んでるよって次も書いてって言われるから書いているのであって、読まれてない文も望まれていない文も書かないですマシュマロくれ。と言って前回こなかったので人知れず本当に筆を絶ったのであった。そのことを誰にも指摘されなかったので、やっぱそんなもんなんだなって思ってる。
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各地句会報
花鳥誌 令和4年1月号
坊城俊樹選
栗林圭魚選 岡田順子選
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令和3年10月2日 零の会 坊城俊樹選 特選句
秋蝶のひと差し舞うて女坂 順子 筆塚に鏡花名残りの桔梗とも 要 秋草や妓楼のなごり今も濃く 悠紀子 筆塚に秋思の女佇ち替はり 順子 鉄の日時計錆びて天高し 要 蓮の実へ東天紅の影をひく はるか 女坂思ひありしか秋の蝶 三郎 蓮の実を飛ばせぬままに朽ちにけり 和子 実を抱きしままの蓮が水の底 和子
岡田順子選 特選句
実の飛んで慕情の蓮となりしかな 俊樹 蓮の実や弁財天の琵琶に飛び 眞理子 水澄んで鯉肉色の口開く 和子 野分後嘘つぽくなるりんごあめ きみよ 秋高き処に棲みて水のうへ いづみ 秋晴を細く傷つけ昼の月 小鳥 野の秋へからからと鳴る旅鞄 はるか 鶏頭を咲かせて人を葬りけり 和子 竜田姫広小路まで人力車 きみよ オレンヂのカンナの横が台東区 いづみ
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月6日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
近松像離れぬ秋の蝶一つ ただし 啄木鳥や祈りの道の仏たち 同 切株の匂ふ日照りに秋の蝶 同 彼岸花終りし畦に道祖神 清女 夜の森静かにきのこ生まれけり 誠
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月7日 うづら三日の月 坊城俊樹選 特選句
祝詞声秋風に乗り天に消ゆ 喜代子 蔵の戸を引くや新酒の香り立つ 都 長き夜や身を乗り出して艶話 同 鬼ごつこ影長くして秋うらら 同 山の辺の刈田に映ゆる入日かな 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月7日 花鳥さヾれ会 坊城俊樹選 特選句
九頭竜の水面芒と光り合ふ かづを 九頭竜に秋晴と云ふ寂しさよ 同 月見草サーカス小屋のたちし頃 清女 小鳥来よ玻璃を磨きて待つ我に 同 落葉舞ふ左内の像や江戸を向く 千代子 江戸を向く左内の像や身にぞしむ 同 河口より秋潮つれて虹屋まで 笑 少年の秋蝶追うて一乗谷 同 柏翠忌思ひおもひの星月夜 匠 忌の心持ちて迎ふる十月を 和子 秋潮の白波高し柏翠忌 啓子 柏翠忌墓石と知るや秋の蝶 希
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月8日 鳥取花鳥会 岡田順子選 特選句
新しき杉玉軒に新走り 益恵 秋の暮澪引く船に集魚灯 宇太郎 一人居の軒賑はひて吊し柿 すみ子 曼荼羅華とは雨跡の草紅葉 悦子 一面のすみずみ揺れて蕎麦の花 都 猪に荒れし跡ある法の庭 すみ子 人知れず烏瓜にもあをき時 美智子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月9日 札幌花鳥会 坊城俊樹選 特選句
中子逝くとしあつの待つ天の川 独舟 秋刀魚船銀波を超えて今寄港 同 大空を全て我が物鰯雲 晶子 母の字をなぞるノートや夜半の秋 のりこ 魔女の住む庭の真つ赤な唐辛子 岬月 拾ひたる木の実に森の物語 同 弾け出て校庭の子ら秋高し 慧子 一位垣途切れるところ野紺菊 同 時刻表より消えし駅秋桜 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月11日 武生花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
干されたる地下足袋に来る赤とんぼ 上嶋昭子 小鳥来て神なび鳥語弾みをり 時江 遠堤の紅は静かに曼珠沙華 三四郎 滅亡の火の色をして狐花 上嶋昭子 時空越えお伽の国へ菊人形 中山昭子 野にあれば力むがごとし男郎花 時江 したたかに生き残りたる蚊にさされ 英美子 猪垣に全校生徒十五人 清女 鶏頭の全身燃ゆる赤の庭 三四郎 松手入身を伸ばしつつ縮めつつ みす枝 街角のペンキの匂ひ秋の風 三四郎
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月11日 なかみち句会 栗林圭魚選 特選句
採血の血管逃しうそ寒し 貴薫 目覚めれば仄かに香る菊枕 せつこ 木の実落つ音におびえしお留守番 和魚 木の実独楽いつとき影を正しうす 有有 うそ寒や日の傾ける山の翳 ます江 菊枕闘ふ君の息遣ひ 美貴 橡の実も薪も干されて山の宿 あき子 碧色の潜む湖あり木の実落つ 貴薫 傘寿なる姉に縫ひあぐ菊枕 三無 児童館木の実工作靴多彩 聰
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月12日 萩花鳥句会
柿紅葉狭庭はんなり染めにけり 祐子 手を繋ぎ竹灯城下夜夜の月 美恵子 稲田へと鳥たち今は庭へ来ぬ 健雄 彼岸花年ふる毎にいとほしく 陽子 初紅葉抱きしみどりご目も見えて ゆかり 今年また総代のみの在祭 克弘
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令和3年10月12日 さくら花鳥会 岡田順子選 特選句
秋潮や櫓を漕がずとも進む舟 登美子 秋の野にちらりと見えるかくれんぼ 裕子 黙祷は東の空の秋虹へ 登美子 ベトナムの友と見上ぐる渡り鳥 同 山装ふ街に住む子に電話する あけみ 車窓より刈田黄金に流れゆく 同 鳥覗き我も覗くや水澄めり 紀子 休みつつ鍬打つ母や千代見草 登美子 朝参褒美なるかな終の蓮 みえこ 次男坊白菊かかへ祖父の墓 令子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月16日 伊藤柏翠俳句記念館 坊城俊樹選 特選句
わが裳裾翻しをり萩の風 千代子 わが里と連なる大河鮭のぼる 同 柿すだれ過疎の一戸を守りけり 真喜栄 荒磯みち名残りの句碑や野菊晴れ 同 月明り金星月に相寄りて 玲子 長き夜や���を丸めて爪を切る 富子 暗闇を一枚にして虫時雨 みす枝 すがりたき女ごころや男郎花 世詩明 隠し田の稲も刈られてゐたりけり 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月17日 風月句会 坊城俊樹選 特選句
末枯を見すゑ子育地蔵尊 慶月 本堂に秋灯暗く濡れてをり 斉 矢印に従ひ行けば秋の声 菟生 昨夜の酔ひ残して雨の酔芙蓉 秋尚 大寺にごつごつ競ふ青花梨 幸風 武士の鬨の声かと鵙鋭声(とごえ) 眞理子 秋雨の空白色に降り続く 貴薫 姦しく森はみ出してゐる小鳥 斉 瓢簞の細きくびれを打てる雨 圭魚 かくれんぼ鬼と芒の残さるる 千種
栗林圭魚選 特選句
秋雨の音聞くばかり年尾句碑 秋尚 濡れそぼつ幼の合羽のうそ寒く 斉 大寺にごつごつ競ふ青花梨 幸風 多重塔おほふ大樹や小鳥来る 芙佐子 白つつじ暗闇坂の返り花 文英 姦しく森はみ出してゐる小鳥 斉 かくれんぼ鬼と芒の残さるる 千種 年尾句碑静寂を好む小鳥来る 三無
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月19日 福井花鳥句会 坊城俊樹選 特選句
ひよんの笛吹きつゝ左内偲びをり 千代子 洒落れた街しやれた雲浮く洒落れた秋 和子 夫の忌や空いつぱいの鰯雲 令子 鉄塔の先つちよ点り星月夜 清女 金色の仏の流転秋の風 雪 菊に立ちふと薫陶と云ふ言葉 同 朝倉の世も金風のかく吹かん 同
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月22日 鯖江花鳥俳句會 坊城俊樹選 特選句
戸袋にひそんでゐたる名残りの蚊 上嶋昭子 名画座に清張ものや秋深し 同 母に付き落穂拾ひの遥けき日 一涓 小鳥来る私雨の只中を 同 巫(かんなぎ)のまたあるときは稲刈女 同 秋深む軒に干すもの吊すもの みす枝 鳴らぬまま秋風鈴となりにけり 洋子 耳たぶの大いなる子の帰省かな 世詩明 かぐや姫もしやと思ふ月夜かな 信子 風音も乾いて来たる刈田かな 同 朝は銀夕べ金波の花芒 同 雨よりも雨音淋し冬に入る 中山昭子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月 九州花鳥会 坊城俊樹選 特選句
双つ児の生声高し天高し 孝子 地図に読む夜長の旅の物語 ひとみ いぼむしり意図なく背の枯れはじむ 成子 いつしかに末枯の野に踏み入りぬ 光子 赤鬼も青鬼も棲む唐辛子 喜和 無花果の固き扉の半開き 千代 パンドラの箱の底より秋の声 ひとみ 虚空に日輪枯野には未来図 睦子 金風は檻のものらに吹いてゐる 佐和
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年10月 枡形句会 栗林圭魚選 特選句
朝寒や鐘の音とよむ磧径 幸風 団栗を五百羅漢に配る子等 同 母の塔真赤に熟るる烏瓜 同 その中の尾花に乱れなかりけり 百合子 ほろほろと零るも雅式部の実 三無 持ち寄りの千草の彩や中子師に 亜栄子 朝寒にペダル踏み出す重さかな 白陶 盛り沢山秋草活けて師を偲ぶ 教子
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
令和3年9月1日 立待花鳥俳句会 坊城俊樹選 特選句
銀漢の尾に街の灯を繋ぎたし 世詩明 色白が七難隠す砂日傘 同 昼寝してしばし地獄を見に行きし 同 一乗谷無縁仏や茄子の馬 ただし 生き残りかけし秋蚊の刺しつぷり 清女 曼珠沙華蘂が派手や数少な 輝一 漕ぎ出だす柳橋より花火船 誠 遠き日の桑食む夏蚕みしみしと 同 線香の煙漂ふ終戦日 信義
(順不同特選句のみ掲載) ………………………………………………………………
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☆プロトタイプ版☆ ひとみに映る影シーズン2 第七話「復活、ワヤン不動」
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(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。)
དང་པོ་
ニライカナイから帰還した私達はその後、魔耶さんに呼ばれて食堂へ向かう。食堂内では五寸釘愚連隊と生き残った河童信者が集合していた。更に最奥のテーブルには、全身ボッコボコにされたスーツ姿の男。バリカンか何かで雑に剃り上げられた頭頂部を両手で抑えながら、傍らでふんぞり返る禍耶さんに怯えて震えている。 「えーと……お名前、誰さんでしたっけ」 この人は確か、河童の家をリムジンに案内していたアトム社員だ。特徴的な名前だった気はするんだけど、思い出せない。 「あっ……あっ……」 「名乗れ!」 「はひいぃぃ! アトムツアー営業部の五間擦平雄(ごますり ひらお)と申します!」 禍耶さんに凄まれ、五間擦氏は半泣きで名乗った。少なくともモノホンかチョットの方なんだろう。すると河童信者の中で一番上等そうなバッジを付けた男が席を立ち、机に手をついて私達に深々と頭を下げた。 「紅さん、志多田さん。先程は家のアホ大師が大っっっ変ご迷惑をおかけ致しました! この落とし前は我々河童の家が後日必ず付けさせて頂きます!」 「い、いえそんな……って、その声まさか、昨年のお笑いオリンピックで金メダルを総ナメしたマスク・ド・あんこう鍋さんじゃないですか! お久しぶりですね!?」 さすがお笑い界のトップ組織、河童の家だ。ていうか仕事で何度か会ったことあるのに素顔初めて見た。 「あお久しぶりっす! ただこちらの謝罪の前に、お二人に話さなきゃいけない事があるんです。ほら説明しろボケナスがッ!!」 あんこう鍋さんが五間擦氏の椅子を蹴飛ばす。 「ぎゃひぃ! ごご、ご説明さひぇて頂きますぅぅぅ!!」 五間擦氏は観念して、千里が島とこの除霊コンペに関する驚愕の事実を私達に洗いざらい暴露した。その全貌はこうだ。 千里が島では散減に縁を奪われ��人間が死ぬと、『金剛の楽園』と呼ばれる何処かに飛び去ってしまうと言い伝えられている。そうなれば千里が島には人間が生きていくために必要な魂の素が枯渇し、乳幼児の生存率が激減してしまうんだ。そのため島民達は縁切り神社を建て、島外の人々を呼びこみ縁を奪って生き延びてきたのだという。 アトムグループが最初に派遣した建設会社社員も伝説に違わず祟られ、全滅。その後も幾つかの建設会社が犠牲になり、ようやく事態を重く受け止めたアトムが再開発中断を検討し始めた頃。アトムツアー社屋に幽霊が現れるという噂が囁かれ始めた。その霊は『日本で名のある霊能者達の縁を散減に献上すれば千里が島を安全に開発させてやろう』と宣うらしい。そんな奇妙な話に最初は半信半疑だった重役達も、『その霊がグループ重役会議に突如現れアトムツアーの筆頭株主を目の前で肉襦袢に変えた』事で霊の要求を承認。除霊コンペティションを行うと嘘の依頼をして、日本中から霊能者を集めたのだった。 ところが行きの飛行機で、牛久大師は袋の鼠だったにも関わらず中級サイズの散減をあっさり撃墜してしまう。その上業界ではインチキ疑惑すら噂されていた加賀繍へし子の取り巻きに散減をけしかけても、突然謎のレディース暴走族幽霊が現れて返り討ちにされてしまった。度重なる大失態に激怒した幽霊はアトムツアーイケメンライダーズを全員肉襦袢に変えて楽園へ持ち帰ってしまい、メタボ体型のため唯一見逃された五間擦氏はついに牛久大師に命乞いをする。かくして大師は大散減を退治すべく、祠の封印を剥がしたのだった。以上の話が終わると、私は五間擦氏に馬乗りになって彼の残り少ない髪の毛を引っこ抜き始めた。 「それじゃあ、大師は初めから封印を解くつもりじゃなかったんですか?」 「ぎゃあああ! 毛が毛が毛がああぁぁ!!」 あんこう鍋さんは首を横に振る。 「とんでもない。あの人は力がどうとか言うタイプじゃありません。地上波で音波芸やろうとしてNICを追放されたアホですよ? 我々はただの笑いと金が大好きなぼったくりカルトです」 「ほぎゃああぁぁ! 俺の貴重な縁があぁぁ、抜けるウゥゥーーーッ!!」 「そうだったんですね。だから『ただの関係者』って言ってたんだ……」 そういう事だったのか。全ては千里が島、アトムグループ、ひいては金剛有明団までもがグルになって仕掛けた壮大なドッキリ……いや、大量殺人計画だったんだ! 大師も斉二さんもこいつらの手の上で踊らされた挙句逝去したとわかった以上、大散減は尚更許してはおけない。 魔耶さんと禍耶さんは食堂のカウンターに登り、ハンマーを掲げる。 「あなた達。ここまでコケにされて、大散減を許せるの? 許せないわよねぇ?」 「ここにいる全員で謀反を起こしてやるわ。そこの祝女と影法師使いも協力しなさい」 禍耶さんが私達を見る。玲蘭ちゃんは数珠を持ち上げ、神人に変身した。 「全員で魔物(マジムン)退治とか……マジウケる。てか、絶対行くし」 「その肉襦袢野郎とは個人的な因縁もあるんです。是非一緒に滅ぼさせて下さい!」 「私も! さ、さすがに戦うのは無理だけど……でもでも、出来ることはいっぱい手伝うよ!」 佳奈さんもやる気満々のようだ。 「決まりね! そうしたら……」 「その作戦、私達も参加させて頂けませんか?」 食堂入口から突然割り込む声。そこに立っていたのは…… 「斉一さん!」「狸おじさん!」 死の淵から復活した後女津親子だ! 斉一さんは傷だらけで万狸ちゃんに肩を借りながらも、極彩色の細かい糸を纏い力強く微笑んでいる。入口近くの席に座り、経緯を語りだした。 「遅くなって申し訳ない。魂の三分の一が奪われたので、万狸に体を任せて、斉三と共にこの地に住まう魂を幾つか分けて貰っていました」 すると斉一さんの肩に斉三さんも現れる。 「診療所も結界を張り終え、とりあえず負傷者の安全は確保した。それと、島の魂達から一つ興味深い情報を得ました」 「聞かせて、狸ちゃん」 魔耶さんが促す。 「御戌神に関する、正しい歴史についてです」 時は遡り江戸時代。そもそも江戸幕府征服を目論んだ物の怪とは、他ならぬ金剛有明団の事だった。生まれた直後に悪霊を埋め込まれた徳松は、ゆくゆくは金剛の意のままに動く将軍に成長するよう運命付けられていたんだ。しかし将軍の息子であった彼は神職者に早急に保護され、七五三の儀式が行われる。そこから先の歴史は青木さんが説明してくれた通り。けど、この話には続きがあるらしい。 「大散減の祠などに、星型に似たシンボルを見ませんでしたか? あれは大散減の膨大な力の一部を取り込み霊能力を得るための、給電装置みたいな物です。もちろんその力を得た者は縁が失せて怪物になるのですが、当時の愚か者共はそうとは知らず、大散減を『徳川の埋蔵金』と称し挙って島に移住しました」 私達したたびが探していた徳川埋蔵金とはなんと、金剛の膨大な霊力と衆生の縁の塊、大散減の事だったんだ。ただ勿論、霊能者を志し島に近付いた者達はまんまと金剛に魂を奪われた。そこで彼らの遺族は風前の灯火だった御戌神に星型の霊符を貼り、自分達の代わりに島外の人間から縁を狩る猟犬に仕立て上げたんだ。こうして御戌神社ができ、御戌神は地中で飢え続ける大散減の手足となってせっせと人の縁を奪い続けているのだという。 「千里が島の民は元々霊能者やそれを志した者の子孫です。多少なりとも力を持つ者は多く、彼らは代々『御戌神の器』を選出し、『人工転生』を行ってきました」 斉一さんが若干小声で言う。人工転生。まだ魂が未発達の赤子に、ある特定の幽霊やそれに纏わる因子を宛てがって純度の高い『生まれ変わり』を作る事。つまり金剛が徳松に行おうとしたのと同じ所業だ。 「じゃあ、今もこの島のどこかに御戌様の生まれ変わりがいるんですか?」 佳奈さんは飲み込みが早い。 「ええ。そして御戌神は、私達が大散減に歯向かえば再び襲ってきます。だからこの戦いでは、誰かが対御戌神を引き受け……最悪、殺生しなければなりません」 「殺生……」 生きている人間を、殺す。死者を成仏させるのとは訳が違う話だ。魔耶さんは胸の釘を握りしめた。 「そのワンちゃん、なんて可哀想なの……可哀想すぎる。攻撃なんて、とてもできない」 「魔耶、今更甘えた事言ってんじゃないわよ。いくら生きてるからって、中身は三百年前に死んだバケモノよ! いい加減ラクにしてやるべきだわ」 「でもぉ禍耶、あんまりじゃない! 生まれた時から不幸な運命を課せられて、それでも人々のために戦ったのに。結局愚かな連中の道具にされて、利用され続けているのよ!」 (……!) 道具。その言葉を聞いた途端、私は心臓を握り潰されるような恐怖を覚えた。本来は衆生を救うために手に入れた力を、正反対の悪事に利用されてしまう。そして余所者から邪尊(バケモノ)と呼ばれ、恐れられるようになる……。 ―テロリストですよ。ドマル・イダムという邪尊の力を操ってチベットを支配していた、最悪の独裁宗派です― 自分の言った言葉が心に反響する。御戌神が戦いの中で見せた悲しそうな目と、ニライカナイで見たドマルの絶望的な目が日蝕のように重なる。瞳に映ったあの目は……私自身が前世で経験した地獄の、合わせ鏡だったんだ。 「……魔耶さん、禍耶さん。御戌神は、私が相手をします」 「え!?」 「正気なの!? 殺生なんて私達死者に任せておけばいいのよ! でないとあんた、殺人罪に問われるかもしれないのに……」 圧。 「ッ!?」 私は無意識に、前世から受け継がれた眼圧で総長姉妹を萎縮させた。 「……悪魔の心臓は御仏を産み、悪人の遺骨は鎮魂歌を奏でる。悪縁に操られた御戌神も、必ず菩提に転じる事が出来るはずです」 私は御戌神が誰なのか、確証を持っている。本当の『彼』は優しくて、これ以上金剛なんかの為に罪を重ねてはいけない人。たとえ孤独な境遇でも人との縁を大切にする、子犬のようにまっすぐな人なんだ。 「……そう。殺さ���に解決するつもりなのね、影法師使いさん。いいわ。あなたに任せます」 魔耶さんがスレッジハンマーの先を私に突きつける。 「失敗したら承知しない。私、絶対に承知しないわよ」 私はそこに拳を当て、無言で頷いた。 こうして話し合いの結果、対大散減戦における役割分担が決定した。五寸釘愚連隊と河童の家、玲蘭ちゃんは神社で大散減本体を引きずり出し叩く。私は御戌神を探し、神社に行かれる前に説得か足止めを試みる。そして後女津家は私達が解読した暗号に沿って星型の大結界を巡り、大散減の力を放出して弱体化を図る事になった。 「志多田さん。宜しければ、お手伝いして頂けませんか?」 斉一さんが立ち上がり、佳奈さんを見る。一方佳奈さんは申し訳なさそうに目を伏せた。 「で……でも、私は……」 すると万狸ちゃんが佳奈さんの前に行く。 「……あのね。私のママね、災害で植物状態になったの。大雨で津波の警報が出て、パパが車で一生懸命高台に移動したんだけど、そこで土砂崩れに遭っちゃって」 「え、そんな……!」 「ね、普通は不幸な事故だと思うよね。でもママの両親、私のおじいちゃんとおばあちゃん……パパの事すっごく責めたんだって。『お前のせいで娘は』『お前が代わりに死ねば良かったのに』みたいに。パパの魂がバラバラに引き裂かれるぐらい、いっぱいいっぱい責めたの」 昨晩斉三さんから聞いた事故の話だ。奥さんを守れなかった上にそんな言葉をかけられた斉一さんの気持ちを想うと、自分まで胸が張り裂けそうだ。けど、奥さんのご両親が取り乱す気持ちもまたわかる。だって奥さんのお腹には、万狸ちゃんもいたのだから……。 「三つに裂けたパパ……斉一さんは、生きる屍みたいにママの為に無我夢中で働いた。斉三さんは病院のママに取り憑いたまま、何年も命を留めてた。それから、斉二さんは……一人だけ狸の里(あの世)に行って、水子になっちゃったママの娘を育て続けた」 「!」 「斉二さんはいつも言ってたの。俺は分裂した魂の、『後悔』の側面だ。天災なんて誰も悪くないのに、目を覚まさない妻を恨んでしまった。妻の両親を憎んでしまった。だからこんなダメな狸親父に万狸が似ないよう、お前をこっちで育てる事にしたんだ。って」 万狸ちゃんが背筋をシャンと伸ばし、顔を上げた。それは勇気に満ちた笑顔だった。 「だから私知ってる。佳奈ちゃんは一美ちゃんを助けようとしただけだし、ぜんぜん悪いだなんて思えない。斉二さんの役割は、完璧に成功してたんだよ」 「万狸ちゃん……」 「あっでもでも、今回は天災じゃなくて人災なんだよね? それなら金剛有明団をコッテンパンパンにしないと! 佳奈ちゃんもいっぱい悲しい思いした被害者でしょ?」 万狸ちゃんは右手を佳奈さんに差し出す。佳奈さんも顔を上げ、その手を強く握った。 「うん。金剛ぜったい許せない! 大散減の埋蔵金、一緒にばら撒いちゃお!」 その時、ホテルロビーのからくり時計から音楽が鳴り始めた。曲は民謡『ザトウムシ』。日没と大散減との対決を告げるファンファーレだ。魔耶さんは裁判官が木槌を振り下ろすように、机にハンマーを叩きつけた! 「行ぃぃくぞおおおぉぉお前らああぁぁぁ!!!」 「「「うおおぉぉーーーっ!!」」」 総員出撃! ザトウムシが鳴り響く逢魔が時の千里が島で今、日本最大の除霊戦争が勃発する!
གཉིས་པ་
大散減討伐軍は御戌神社へ、後女津親子と佳奈さんはホテルから最寄りの結界である石見沼へと向かった。さて、私も御戌神の居場所には当てがある。御戌神は日蝕の目を持つ獣。それに因んだ地名は『食虫洞』。つまり、行先は新千里が島トンネル方面だ。 薄暗いトンネル内を歩いていると、電灯に照らされた私の影が勝手に絵を描き始めた。空で輝く太陽に向かって無数の虫が冒涜的に母乳を吐く。太陽は穢れに覆われ、光を失った日蝕状態になる。闇の緞帳(どんちょう)に包まれた空は奇妙な星を孕み、大きな獣となって大地に災いをもたらす。すると地平線から血のように赤い月が昇り、星や虫を焼き殺しながら太陽に到達。太陽と重なり合うやいなや、天上天下を焼き尽くすほどの輝きを放つのだった……。 幻のような影絵劇が終わると、私はトンネルを抜けていた。目の前のコンビニは既に電気が消えている。その店舗全体に、腐ったミルクのような色のペンキで星型に線を一本足した記号が描かれている。更に接近すると、デッキブラシを持った白髪の偉丈夫が記号を消そうと悪戦苦闘しているのが見えた。 「あ、紅さん」 私に気がつき振り返った青木さんは、足下のバケツを倒して水をこぼしてしまった。彼は慌ててバケツを立て直す。 「見て下さい。誰がこんな酷い事を? こいつはコトだ」 青木さんはデッキブラシで星型の記号を擦る。でもそれは掠れすらしない。 「ブラシで擦っても? ケッタイな落書きを……っ!?」 指で直接記号に触れようとした青木さんは、直後謎の力に弾き飛ばされた。 「……」 青木さんは何かを思い出したようだ。 「紅さん。そういえば僕も、ケッタイな体験をした事が」 夕日が沈んでいき、島中の店や防災無線からはザトウムシが鳴り続ける。 「犬に吠えられ、夜中に目を覚まして。永遠に飢え続ける犬は、僕のおつむの中で、ひどく悲しい声で鳴く。それならこれは幻聴か? 犬でないなら幽霊かもだ……」 青木さんは私に背を向け、沈む夕日に引き寄せられるように歩きだした。 「早くなんとかせにゃ。犬を助けてあげなきゃ、僕までどうにかなっちまうかもだ。するとどこからか、目ん玉が潰れた双頭の毛虫がやって来て、口からミルクを吐き出した。僕はたまらず、それにむしゃぶりつく」 デッキブラシから滴った水が地面に線を引き、一緒に夕日を浴びた青木さんの影も伸びていく。 「嫌だ。もう犬にはなりたくない。きっとおっとろしい事が起きるに違いない。満月が男を狼にするみたいに、毛虫の親玉を解き放つなど……」 「青木さん」 私はその影を呼び止めた。 「この落書きは、デッキブラシじゃ落とせません」 「え?」 「これは散減に穢された縁の母乳、普通の人には見えない液体なんです」 カターン。青木さんの手からデッキブラシが落ちた途端、全てのザトウムシが鳴り止んだ。青木さんはゆっくりとこちらへ振り向く。重たい目隠れ前髪が狛犬のたてがみのように逆立ち、子犬のように輝く目は濁った穢れに覆われていく。 「グルルルル……救、済、ヲ……!」 私も胸のペンダントに取り付けたカンリンを吹いた。パゥーーー……空虚な悲鳴のような音が響く。私の体は神経線維で編まれた深紅の僧衣に包まれ、激痛と共に影が天高く燃え上がった。 「青木さん。いや、御戌神よ。私は紅の守護尊、ワヤン不動。しかし出来れば、お前とは戦いたくない」 夕日を浴びて陰る日蝕の戌神と、そこから伸びた赤い神影(ワヤン)が対峙する。 「救済セニャアアァ!」 「そうか。……ならば神影繰り(ワヤン・クリ)の時間だ!」 空の月と太陽が見下ろす今この時、地上で激突する光の神と影の明王! 穢れた色に輝く御戌神が突撃! 「グルアアァァ!」 私はティグクでそれをいなし、黒々と地面に伸びた自らの影を滑りながら後退。駐車場の車止めをバネに跳躍、傍らに描かれた邪悪な星目掛けてキョンジャクを振るった。二〇%浄化! 分解霧散した星の一片から大量の散減が噴出! 「マバアアアァァ!!」「ウバアァァァ!」 すると御戌神の首に巻かれた幾つもの頭蓋骨が共鳴。ケタケタと震えるように笑い、それに伴い御戌神も悶絶する。 「グルアァァ……ガルァァーーーッ!!」 咆哮と共に全骨射出! 頭蓋骨は穢れた光の尾を引き宙を旋回、地を這う散減共とドッキングし牙を剥く! 「がッは!」 毛虫の体を得た頭蓋骨が飛び回り、私の血肉を穿つ。しかし反撃に転じる寸前、彼らの正体を閃いた。 「さては歴代の『器』か」 この頭蓋骨らは御戌神転生の為に生贄となった、どこの誰が産んだかもわからない島民達の残滓だ。なら速やかに解放せねばなるまい! 人頭毛虫の猛攻をティグクの柄やキョンジャクで防ぎながら、ティグクに付随する旗に影炎を着火! 「お前達の悔恨を我が炎の糧とする! どおぉりゃああぁーーーーっ!!」 ティグク猛回転、憤怒の地獄大車輪だ! 飛んで火に入る人頭毛虫らはたちどころに分解霧散、私の影体に無数の苦痛と絶望と飢えを施す! 「クハァ……ッ! そうだ……それでいい。私達は仲間だ、この痛みを以て金剛��汚された因果を必ずや断ち切ってやろう! かはあぁーーーっはーーっはっはっはっはァァーーッ!!!」 苦痛が無上の瑜伽へと昇華し���ヤン不動は呵呵大笑! ティグクから神経線維の熱線が伸び大車輪の火力を増強、星型記号を更に焼却する! 記号は大文字焼きの如く燃え上がり穢れ母乳と散減を大放出! 「ガウルル、グルルルル!」 押し寄せる母乳と毛虫の洪水に突っ込み喰らおうと飢えた御戌神が足掻く。だがそうはさせるものか、私の使命は彼を穢れの悪循環から救い出す事だ。 「徳川徳松ゥ!」 「!」 人の縁を奪われ、畜生道に堕ちた哀しき少年の名を呼ぶ。そして丁度目の前に飛んできた散減を灼熱の手で掴むと、轟々と燃え上がるそれを遠くへ放り投げた! 「取ってこい!」 「ガルアァァ!!」 犬の本能が刺激された御戌神は我を忘れ散減を追う! 街路樹よりも高く跳躍し口で見事キャッチ、私目掛けて猪突猛進。だがその時! 彼の本体である衆生が、青木光が意識を取り戻した! (戦いはダメだ……穢れなど!) 日蝕の目が僅かに輝きを増す。御戌神は空中で停止、咥えている散減を噛み砕いて破壊した! 「かぁははは、いい子だ徳松よ! ならば次はこれだあぁぁ!!」 私はフリスビーに見立ててキョンジャクを投擲。御戌神が尻尾を振ってハッハとそれを追いかける。キョンジャクは散減共の間をジグザグと縫い進み、その軌跡を乱暴になぞる御戌神が散減大量蹂躙! 薄汚い死屍累々で染まった軌跡はまさに彼が歩んできた畜生道の具現化だ!! 「衆生ぉぉ……済度ぉおおおぉぉぉーーーーっ!!!」 ゴシャアァン!!! ティグクを振りかぶって地面に叩きつける! 視神経色の亀裂が畜生道へと広がり御戌神の背後に到達。その瞬間ガバッと大地が割れ、那由多度に煮え滾る業火を地獄から吹き上げた! ズゴゴゴゴガガ……マグマが滾ったまま連立する巨大灯篭の如く隆起し散減大量焼却! 振り返った御戌神の目に陰る穢れも、紅の影で焼き溶かされていく。 「……クゥン……」 小さく子犬のような声を発する御戌神。私は憤怒相を収め、その隣に立つ。彼の両眼からは止めどなく饐えた涙が零れ、その度に日蝕が晴れていく。気がつけば空は殆ど薄暗い黄昏時になっていた。闇夜を迎える空、赤く燃える月と青く輝く太陽が並ぶ大地。天と地の光彩が逆転したこの瞬間、私達は互いが互いの前世の声を聞いた。 『不思議だ。あの火柱見てると、ぼくの飢えが消えてく。お不動様はどんな法力を?』 ༼ なに、特別な力ではない。あれは慈悲というものだ ༽ 『じひ』 徳松がドマルの手を握った。ドマルの目の奥に、憎しみや悲しみとは異なる熱が込み上がる。 『救済の事で?』 ༼ ……ま、その類いといえばそうか。童よ、あなたは自分を生贄にした衆生が憎いか? ༽ 徳松は首を横に振る。 『ううん、これっぽっちも。だってぼく、みんなを救済した神様なんだから』 すると今度はドマルが両手で徳松の手を包み、そのまま深々と合掌した。 ༼ なら、あなたはもう大丈夫だ。衆生との縁に飢える事は、今後二度とあるまい ༽
གསུམ་པ་
時刻は……わからないけど、日は完全に沈んだ。私も青木さんも地面に大の字で倒れ、炎上するコンビニや隆起した柱状節理まみれの駐車場を呆然と眺めている。 「……アーーー……」 ふと青木さんが、ずっと咥えっ放しだったキョンジャクを口から取り出した。それを泥まみれの白ニットで拭い、私に返そうとして……止めた。 「……洗ってからせにゃ」 「いいですよ。この後まだいっぱい戦うもん」 「大散減とも? おったまげ」 青木さんにキョンジャクを返してもらった。 「実は、まだ学生の時……友達が僕に、『彼女にしたい芸能人は?』って質問を。けど特に思いつかなくて、その時期『非常勤刑事』やってたので紅一美ちゃんと。そしたら今回、本当にしたたびさんが……これが縁ってやつなら、ちぃと申し訳ないかもだ」 「青木さんもですか」 「え?」 「私も実は、この間雑誌で『好きな男性のタイプは何ですか』って聞かれて、なんか適当に答えたんですけど……『高身長でわんこ顔な方言男子』とかそんなの」 「そりゃ……ふふっ。いやけど、僕とは全然違うイメージだったかもでしょ?」 「そうなんですよ。だから青木さんの素顔初めて見た時、キュンときたっていうより『あ、実在するとこんな感じなの!?』って思っちゃったです。……なんかすいません」 その時、遠くでズーンと地鳴りのような音がした。蜃気楼の向こうに耳をそばだてると、怒号や悲鳴のような声。どうやら敵の大将が地上に現れたようだ。 「行くので?」 「大丈夫。必ず戻ってきます」 私は重い体を立ち上げ、ティグクとキョンジャクに再び炎を纏った。そして山頂の御戌神社へ出発…… 「きゃっ!」 しようとした瞬間、何かに服の裾を掴まれたかのような感覚。転びそうになって咄嗟にティグクの柄をつく。足下を見ると、小さなエネルギー眼がピンのように私の影を地面と縫いつけている。 ༼ そうはならんだろ、小心者娘 ༽ 「ちょ、ドマル!?」 一方青木さんの方も、徳松に体を勝手に動かされ始めた。輝く両目から声がする。 『バカ! あそこまで話しといて告白しねえなど!? このボボ知らず!』 「ぼっ、ぼっ、ボボ知らずでねえ! 嘘こくなぁぁ!」 民謡の『お空で見下ろす出しゃばりな月と太陽』って、ひょっとしたら私達じゃなくてこの前世二人の方を予言してたのかも。それにしてもボボってなんだろ、南地語かな。 ༼ これだよ ༽ ドマルのエネルギー眼が炸裂し、私は何故かまた玲蘭ちゃんの童貞を殺す服に身を包んでいた。すると何故か青木さんが悶絶し始めた。 「あややっ……ちょっと、ダメ! 紅さん! そんなオチチがピチピチな……こいつはコトだ!!」 ああ、成程。ボボ知らずってそういう…… 「ってだから、私の体で検証すなーっ! ていうか、こんな事している間にも上で死闘が繰り広げられているんだ!」 ༼ だからぁ……ああもう! 何故わからないのか! ヤブユムして行けと言っているんだ、その方が生存率上がるしスマートだろ! ༽ 「あ、そういう事?」 ヤブユム。確か、固い絆で結ばれた男女の仏が合体して雌雄一体となる事で色々と超越できる、みたいな意味の仏教用語……だったはず。どうすればできるのかまではサッパリわかんないけど。 「え、えと、えと、紅さん……一美ちゃん!」 「はい……う、うん、光君!」 両前世からプレッシャーを受け、私と光君は赤面しながら唇を近付ける。 『あーもー違う! ヤブユムっていうのは……』 ༼ まーまー待て。ここは現世を生きる衆生の好きにさせてみようじゃないか ༽ そんな事言われても困る……それでも、今私と光君の想いは一つ、大散減討伐だ。うん、多分……なんとかなる! はずだ!
བཞི་པ་
所変わって御戌神社。姿を現した大散減は地中で回復してきたらしく、幾つか継ぎ目が見えるも八本足の完全体だ。十五メートルの巨体で暴れ回り、周囲一帯を蹂躙している。鳥居は倒壊、御戌塚も跡形もなく粉々に。島民達が保身の為に作り上げた生贄の祭壇は、もはや何の意味も為さない平地と化したんだ。 そんな絶望的状況にも関わらず、大散減討伐軍は果敢に戦い続ける。五寸釘愚連隊がバイクで特攻し、河童信者はカルトで培った統率力で彼女達をサポート。玲蘭ちゃんも一枚隔てた異次元から大散減を構成する無数の霊魂を解析し、虱潰しに破壊していく。ところが、 「あグッ!」 バゴォッ!! 大散減から三メガパスカル級の水圧で射出された穢れ母乳が、河童信者の一人に直撃。信者の左半身を粉砕! 禍耶さんがキュウリの改造バイクで駆けつける。 「河童信者!」 「あ、か……禍耶の姐御……。俺の、魂を……吸収……し……」 「何言ってるの、そんな事できるわけないでしょ!?」 「……大散、ぃに、縁……取られ、嫌、……。か、っぱは……キュウリ……好き……っか……ら…………」 河童信者の瞳孔が開いた。禍耶さんの唇がわなわなと痙攣する。 「河童って馬鹿ね……最後まで馬鹿だった……。貴方の命、必ず無駄にはしないわ!」 ガバッ、キュイイィィ! 息絶えて間もない河童信者の霊魂が分解霧散する前に、キュウリバイクの給油口に吸収される。ところが魔耶さんの悲鳴! 「禍��、上ぇっ!!」 「!」 見上げると空気を読まず飛びかかってきた大散減! 咄嗟にバイクを発進できず為す術もない禍耶さんが絶望に目を瞑った、その時。 「……え?」 ……何も起こらない。禍耶さんはそっと目を開けようとする。が、直後すぐに顔を覆った。 「眩しっ! この光は……あああっ!」 頭上には朝日のように輝く青白い戌神。そしてその光の中、轟々と燃える紅の不動明王。光と影、男と女が一つになったその究極仏は、大散減を遥か彼方に吹き飛ばし悠然と口を開いた。 「月と太陽が同時に出ている、今この時……」 「瞳に映る醜き影を、憤怒の炎で滅却する」 「「救済の時間だ!!!」」 カッ! 眩い光と底知れぬ深い影が炸裂、落下中の大散減を再びスマッシュ! 「遅くなって本当にすみません。合体に手間取っちゃって……」 御戌神が放つ輝きの中で、燃える影体の私は揺らめく。するとキュウリバイクが言葉を発した。 <問題なし! だぶか登場早すぎっすよ、くたばったのはまだ俺だけです。やっちまいましょう、姐さん!> 「そうね。行くわよ河童!」 ドルルン! 輩悪苦満誕(ハイオクまんたん)のキュウリバイクが発進! 私達も共に駆け出す。 「一美ちゃん、火の準備を!」 「もう出来ているぞぉ、カハァーーーッハハハハハハァーーー!!」 ティグクが炎を噴く! 火の輪をくぐり青白い肉弾が繰り出す! 巨大サンドバッグと化した大散減にバイクの大軍が突撃するゥゥゥ!!! 「「「ボァガギャバアアアアァァアアア!!!」」」 八本足にそれぞれ付いた顔が一斉絶叫! 中空で巻き散らかされた大散減の肉片を無数の散減に変えた! 「灰燼に帰すがいい!」 シャゴン、シャゴン、バゴホオォン!! 御戌神から波状に繰り出される光と光の合間に那由多度の影炎を込め雑魚を一掃! やはりヤブユムは強い。光源がないと力を発揮出来ない私と、偽りの闇に遮られてしまっていた光君。二人が一つになる事で、永久機関にも似た法力を得る事が出来る! 大散減は地に叩きつけられるかと思いきや、まるで地盤沈下のように地中へ潜って行ってしまった。後を追えず停車した五寸釘愚連隊が舌打ちする。 「逃げやがったわ、あの毛グモ野郎」 しかし玲蘭ちゃんは不敵な笑みを浮かべた。 「大丈夫です。大散減は結界に分散した力を補充しに行ったはず。なら、今頃……」 ズドガアアァァァアン!!! 遠くで吹き上がる火柱、そして大散減のシルエット! 「イェーイ!」 呆然と見とれていた私達の後方、数分前まで鳥居があった瓦礫の上に後女津親子と佳奈さんが立っている。 「「ドッキリ大成功ー! ぽーんぽっこぽーん!」」 ぽこぽん、シャララン! 佳奈さんと万狸ちゃんが腹鼓を打ち、斉一さんが弦を爪弾く。瞬間、ドゴーーン!! 今度は彼女らの背後でも火柱が上がった! 「あのねあのね! 地図に書いてあった星の地点をよーく探したら、やっぱり御札の貼ってある祠があったの。それで佳奈ちゃんが凄いこと閃いたんだよ!」 「その名も『ショート回路作戦』! 紙に御札とぴったり同じ絵を写して、それを鏡合わせに貼り付ける。その上に私の霊力京友禅で薄く蓋をして、その上から斉一さんが大散減から力を吸収しようとする。だけど吸い上げられた大散減のエネルギーは二枚の御札の間で行ったり来たりしながら段々滞る。そうとは知らない大散減が内側から急に突進すれば……」 ドォーーン! 万狸ちゃんと佳奈さんの超常理論を実証する火柱! 「さすがです佳奈さん! ちなみに最終学歴は?」 「だからいちご保育園だってば~、この小心者ぉ!」 こんなやり取りも随分と久しぶりな気がする。さて、この後大散減は立て続けに二度爆発した。計五回爆ぜた事になる。地図上で星のシンボルを描く地点は合計六つ、そのうち一つである食虫洞のシンボルは私がコンビニで焼却したアレだろう。 「シンボルが全滅すると、奴は何処へ行くだろうか」 斉三さんが地図を睨む。すると突如地図上に青白く輝く道順が描かれた。御戌神だ。 「でっかい大散減はなるべく広い場所へ逃走を。となると、海岸沿いかもだ。東の『いねとしサンライズビーチ』はサイクリングロードで狭いから、石見沼の下にある『石見海岸』ので」 「成程……って、君はまさか!?」 「青木君!?」 そうか、みんな知らなかったんだっけ。御戌神は遠慮がちに会釈し、かき上がったたてがみの一部を下ろして目隠れ前髪を作ってみせた。光君の面影を認識して皆は納得の表情を浮かべた。 「と……ともかく! ずっと地中でオネンネしてた大散減と違って、地の利はこちらにある。案内するので先回りを!」 御戌神が駆け出す! 私は彼が放つ輝きの中で水上スキーみたいに引っ張られ、五寸釘愚連隊や他の霊能者達も続く。いざ、石見海岸へ!
ལྔ་པ་
御戌神の太陽の両眼は、前髪によるランプシェード効果が付与されて更に広範囲を照らせるようになった。石見沼に到着した時点で海岸の様子がはっきり見える。まずいことに、こんな時に限って海岸に島民が集まっている!? 「おいガキ共、ボートを降りろ! 早く避難所へ!」 「黙れ! こんな島のどこに安全が!? 俺達は内地へおさらばだ!」 会話から察するに、中学生位の子達が島を脱出しようと試みるのを大人達が引き止めているようだ。ところが間髪入れず陸側から迫る地響き! 危ない! 「救済せにゃ!」 石見の崖を御戌神が飛んだ! 私は光の中で身構える。着地すると同時に目の前の砂が隆起、ザボオオォォン!! 大散減出現! 「かははは、一足遅いわ!」 ズカアァァン!!! 出会い頭に強烈なティグクの一撃! 吹き飛んだ大散減は沿岸道路を破壊し民家二棟に叩きつけられた。建造物損壊と追い越し禁止線通過でダブル罪業加点! 間一髪巻き込まれずに済んだ島民達がどよめく。 「御戌様?」 「御戌様が子供達を救済したので!?」 「それより御戌様の影に映ってる火ダルマは一体!?」 その問いに、陸側から聞き覚えのある声が答える。 「ご先祖様さ!」 ブオォォン! 高級バイクに似つかわしくない凶悪なエンジン音を吹かして現れたのは加賀繍さんだ! 何故かアサッテの方向に数珠を投げ、私の正体を堂々と宣言する。 「御戌神がいくら縁切りの神だって、家族の縁は簡単に切れやしないんだ。徳川徳松を一番気にかけてたご先祖様が仏様になって、祟りを鎮めるんだよ!」 「徳松様を気にかけてた、ご先祖様……」 「まさか、将軍様など!?」 「「「徳川綱吉将軍!!」」」 私は暴れん坊な将軍様の幽霊という事になってしまった。だぶか吉宗さんじゃないけど。すると加賀繍さんの紙一重隣で大散減が復帰! 「マバゥウゥゥゥゥウウウ!!!」 神社にいた時よりも甲高い大散減の鳴き声。消耗している証拠だろう。脚も既に残り五本、ラストスパートだ! 「畳み掛けるぞ夜露死苦ッ!」 スクラムを組むように愚連隊が全方位から大散減へ突進、総長姉妹のハンマーで右前脚破壊! 「ぽんぽこぉーーー……ドロップ!!」 身動きの取れなくなった大散減に大かむろが垂直落下、左中央二脚粉砕! 「「「大師の敵ーーーっ!」」」 微弱ながら霊力を持つ河童信者達が集団投石、既に千切れかけていた左後脚切断! 「くすけー、マジムン!」 大散減の内側から玲蘭ちゃんの声。するうち黄色い閃光を放って大散減はメルトダウン! 全ての脚が落ち、最後の本体が不格好な蓮根と化した直後……地面に散らばる脚の一本の顔に、ギョロギョロと蠢く目が現れた。光君の話を思い出す。 ―八本足にそれぞれ顔がついてて、そのうち本物の顔を見つけて潰さないと死なない怪物で!― 「そうか、あっちが真の本体!」 私と光君が同時に動く! また地中に逃げようと飛び上がった大散減本体に光と影は先回りし、メロン格子状の包囲網を組んだ! 絶縁怪虫大散減、今こそお前をこの世からエンガチョしてくれるわあああああああ!! 「そこだーーーッ!! ワヤン不動ーーー!!」 「やっちゃえーーーッ!」「御戌様ーーーッ!」 「「「ワヤン不動オォーーーーーッ!!!」」」 「どおおぉぉるあぁああぁぁぁーーーーーー!!!!」 シャガンッ! 突如大量のハロゲンランプを一斉に焚いたかのように、世界が白一色の静寂に染まる。存在するものは影である私と、光に拒絶された大散減のみ。ティグクを掲げた私の両腕が夕陽を浴びた影の如く伸び、背中で燃える炎に怒れる恩師の馬頭観音相が浮かんだ時……大散減は断罪される! 「世尊妙相具我今重問彼仏子何因縁名為観世音具足妙相尊偈答無盡意汝聴観音行善応諸方所弘誓深如海歴劫不思議侍多千億仏発大清浄願我為汝略説聞名及見身心念不空過能滅諸有苦!」 仏道とは無縁の怪獣よ、己の業に叩き斬られながら私の観音行を聞け! 燃える馬頭観音と彼の骨であるティグクを仰げ! その苦痛から解放されたくば、海よりも深き意志で清浄を願う聖人の名を私がお前に文字通り刻みつけてやる! 「仮使興害意推落大火坑念彼観音力火坑変成池或漂流巨海龍魚諸鬼難念彼観音力波浪不能没或在須弥峰為人所推堕念彼観音力如日虚空住或被悪人逐堕落金剛山念彼観音力不能���一毛!!」 たとえ金剛の悪意により火口へ落とされようと、心に観音力を念ずれば火もまた涼し。苦難の海でどんな怪物と対峙しても決して沈むものか! 須弥山から突き落とされようが、金剛を邪道に蹴落とされようが、観音力は不屈だ! 「或値怨賊繞各執刀加害念彼観音力咸即起慈心或遭王難苦臨刑欲寿終念彼観音力刀尋段段壊或囚禁枷鎖手足被杻械念彼観音力釈然得解脱呪詛諸毒薬所欲害身者念彼観音力還著於本人或遇悪羅刹毒龍諸鬼等念彼観音力時悉不敢害!!」 お前達に歪められた衆生の理は全て正してくれる! 金剛有明団がどんなに強大でも、和尚様や私の魂は決して滅びぬ。磔にされていた抜苦与楽の化身は解放され、悪鬼羅刹四苦八苦を燃やす憤怒の化身として生まれ変わったんだ! 「若悪獣囲繞利牙爪可怖念彼観音力疾走無辺方蚖蛇及蝮蝎気毒煙火燃念彼観音力尋声自回去雲雷鼓掣電降雹澍大雨念彼観音力応時得消散衆生被困厄無量苦逼身観音妙智力能救世間苦!!!」 獣よ、この力を畏れろ。毒煙を吐く外道よ霧散しろ! 雷や雹が如く降り注ぐお前達の呪いから全ての衆生を救済してみせよう! 「具足神通力廣修智方便十方諸国土無刹不現身種種諸悪趣地獄鬼畜生生老病死苦以漸悉令滅真観清浄観広大智慧観悲観及慈観常願常瞻仰無垢清浄光慧日破諸闇能伏災風火普明照世間ッ!!!」 どこへ逃げても無駄だ、何度生まれ変わってでも憤怒の化身は蘇るだろう! お前達のいかなる鬼畜的所業も潰えるんだ。瞳に映る慈悲深き菩薩、そして汚れなき聖なる光と共に偽りの闇を葬り去る! 「悲体戒雷震慈意妙大雲澍甘露法雨滅除煩悩燄諍訟経官処怖畏軍陣中念彼観音力衆怨悉退散妙音観世音梵音海潮音勝彼世間音是故須常念念念勿生疑観世音浄聖於苦悩死厄能為作依怙具一切功徳慈眼視衆生福聚海無量是故応頂……」 雷雲の如き慈悲が君臨し、雑音をかき消す潮騒の如き観音力で全てを救うんだ。目の前で粉微塵と化した大散減よ、盲目の哀れな座頭虫よ、私はお前をも苦しみなく逝去させてみせる。 「……礼ィィィーーーーーッ!!!」 ダカアアアアァァアアン!!!! 光が飛散した夜空の下。呪われた気枯地、千里が島を大いなる光と影の化身が無量の炎で叩き割った。その背後で滅んだ醜き怪獣は、業一つない純粋な粒子となって分解霧散。それはこの地に新たな魂が生まれるための糧となり、やがて衆生に縁を育むだろう。 時は亥の刻、石見海岸。ここ千里が島で縁が結ばれた全ての仲間達が勝利に湧き、歓喜と安堵に包まれた。その騒ぎに乗じて私と光君は、今度こそ人目も憚らず唇を重ね合った。
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