スクエアンノウン.06.順番に読んだ貴方は次に「お前かよ!」と言う。
前回のあらすじ「忍者。はい、解散。」
————————————伝人視点————————————
ジョースターさんの部屋に呼び出され、念聴を試みたと話をされた。テレビが壊れている。相違点としては裏切り者は花京院ではなくポルナレフで、でもあいつデーボぶっ殺したじゃねーかどうなんだ、というような流れだった。
俺は真剣な顔で語るジョースターさんを見ながら、今朝方、突然の『ジャパニーズニンジャ』にテンションの上がったジョースターさんとアヴドゥルさんが小百合に延々忍者の話をさせ続けたことと、最終的に昨晩と同じように、やんのかゴルァ状態になった小百合が手に持っていたスチール缶コーヒーをブシャッと潰し、「疲れたんで外行ってきます」と、承太郎と列車の手配に向かっちまったことを思い出していた。
承太郎にはイエローテンパランス用に、普段は対、群衆に使っているアイテムを持たせているし、何より忍者と一緒ならなんとかなるかとそのまま見送った。
「ポルナレフに気をつけろか。……肝心の本人はどこへ?」
そう言う花京院も、物理タイプ2人の心配は全然していないようだ。
「確か、タバコを買いに行くとか言って、どこかへ出かけて行ったきりだ」
アヴドゥルさんもテンションが上がりすぎた反省故か、女子力(物理)の高さを思い知ったが故か、小百合を案じる様子はない。うん、そういう俺も全然心配してないが。
心配といえば家出少女のアンちゃんがいないくらいか。たぶんついて行った。
「ふむ……」
花京院が腕を組むようにして右手を左目の横あたりに持っていき、顔に触れない程度の空間を人差し指で突いた。
まるで、眼鏡の位置を直すように。そしてその手は見事に空振りする。
「あ」
そこで初めて、思い出したかのように目の周りを触って確かめる。
記憶が飛んでいるとはいえ、3ヶ月もアン・ノウンという名の眼鏡をかけて生活していたのだ。無理もない。
「クセが染み付いてんな」
「……失礼した」
「そうか、アン・ノウンなら解析できるわけだな」
花京院とグダグダやっていると、アヴドゥルさんが思い出したようにそう言った。
……分かる。もう忍者のインパクトが強すぎてアン・ノウンの能力忘れそうになる。分かる。
「いや、そもそも裏切り者なら香港で気づけていた筈です」
「それな」
花京院が前髪を触りながらそれに答えた。俺もそう思う。
敵さんがどの程度小百合の能力を把握しているのかは分からない。
だがポルナレフに関しては出会ってすぐにアン・ノウンに『触れ』させた挙句、漂流時には花京院もアン・ノウンをかけていた。念聴の言葉の意味がイエローテンパランスだと知らぬ前提で考えても、ポルナレフ本人が敵ではないのは疑いようがない話である。
「私が『見た』ときにも、状態異常の類は見えなかった。後ろめたい隠し事もないようだし、操られているとか、何かがくっ付いているということもありません」
「じょ、状態異常って……。混乱とか操り状態なんかも視覚情報として見えるってのか?」
「本人に自覚がなくても、別の意識が混入していたり、本人の意識が不自然に動かされている訳だから、触れていればその辺りも表示される」
「……それ、俺もそこまで『見られてる』ってことで良いんだよな?」
「Exactly」
アン・ノウンは『魂を見る』アトゥム神と違い、嘘か真かははっきり分からないが、その分使える幅はかなり広い。
本人に自覚がない状態異常も、他の意識の介入がされているならば『見れば分かる』と来たか……。
やっぱり味方にいるならこの上なく便利だし、心強い、が。
「……おっそろしー能力だな、ほんとに」
「…………」
さっきからジョースターさんは黙ったままで、うっすらと汗が滲んでいる。
この場に小百合がいたなら『状態異常:焦り』とでも言ってくれただろうか。
アン・ノウンの『直接触れれば』という条件、ジョースターさんは普段から露出は少ないし手袋もしている。意識しなければ直接触れることはまずない。あの長い髪だって、この人ならさりげなく避けられるだろう。だが、ジョースターさんは波紋使い。貴重な回復要員。
旅の終わりまで小百合に触らないというのは、どうあがいても、無理だ。
「……ジョースターさん?」
「いや、ということは『DIOの手下が』『ポルナレフとしている』。つまり化けて襲ってくる、という解釈が自然だと思うんじゃ。『われわれの中に裏切り者』というのは、DIO側からの視点にも捉えられるしの」
今、このじじいは絶対に東方朋子のことを考えていた。2ポンド賭けたって良い。
はっとしたようにべらべら喋って誤魔化しているが、頭の中は浮気のことでいっぱいいっぱいの筈だ。
どの道避けられないなら、早いうちに過ちを明かしてしまった方が色々とジョースターさんのためかもしれない。ただ、肝心の小百合と承太郎がこの場にいない。……またの機会だ。
小百合はクヌム神を直接見ていない。必然的に、小百合にとって個人的に憎いだろうイエローテンパランスの名前が挙がった。
「変身系だとして、小百合と一緒ですし、相手がイエローテンパランスでも承太郎にはトクセイグレネード持たせてあるんで、なんとかやるんじゃないっスかね」
「……グレネード? トクセイの?」
「催涙スプレーに手を加えただけっスけど」
少々物騒な単語にジョースターさんが反応した。スクエアを回しながら簡単に説明する。
ただまぁ、近距離パワー型ということは、遠距離特殊型にめっぽう弱いのは誰もが承知の上。補う手段は必要だ。
承太郎だって、今朝方渡すときにも、ああ、これ。的な感じで普通に受け取った。
「……」
「……」
「……」
「え?」
だというのに、お前らのその微妙な顔はなんだというのか。一歩引き下がった、まるで俺がおかしいみたいな……。花京院が墜落する飛行機の中で一歩引かれたときのことを思い出す。デジャヴ。
本人もそれを思い出しているのか、曲木も人のこと言えないだろ、みたいな顔をして口を開いた。
「さすがというか、普段からそんなものを持っているんだな……」
「いや~、小悪魔様々ってか?」
「……褒めていないぞ」
「だよなッ! ……あんだよ、忍者にはあんなに盛り上がっといて、アンタらッ……!」
なんだか不当だ。
こいつら、合法ショタで物騒なもん持ってる自称正義の味方の扱いがよろしくない。
「有罪!」
「いや、どちらかというと、有罪なのは伝人じゃよ……」
.
.
————————————承太郎視点————————————
「まさか忍者の話で、あの2人がああもグイグイ来るとは……」
昨晩、敵のスタンド使いをスタンド能力抜きに倒しちまった小百合は、黒光りする三つ編みを不機嫌そうに振り回している。
今なら分かる。普通じゃあ考えられんほどに長いこの髪は、どんな持ち物検査にも引っかからねー、使い勝手の良い暗器だったというワケだ。
「散々質問攻めにされたんだ。もう話すこともねーだろ」
「ええ。そう願います。もう敵が何を言ってこようとガン無視で行く所存ですよ私は」
小百合は俺のほうを見ずに金属の髪留めをぱしんと手で受け止め、深くため息を吐いた。
こいつは確かに、顔立ちも体つきも、男に見間違えるようなもんじゃあねぇ。
だが、花京院とほとんど変わらんような背丈と、落ち着いた声色。ガサツなのとは違うが、女らしくはない。
「ココナッツジュース、飲みますか?」
出店の前で立ち止まり、もはや本来の役割を失っているスカートのポケットからガマ口の財布を取り出す。
時折、常識外の言動と意味のない悪ふざけが目に余るものの、基本的には男と話しているときと変わりなく、それなりに話しやすい。
「ああ、2つくれ」
……それはそれで何か間違っている気もしたが、花京院の言うとおり、色々とどうでもよくなってきた。
店員が準備する間に、飾ってあったココナッツの見本を手に取り、もてあそんでいるのが目に付く。
「まさか、素手で穴開けるとか抜かすんじゃあねーだろうな」
「……やろうと思えば、出来ないことはないですが……」
「なんだと?」
俺も1つ手に取ってみたが、ココナッツの感触はただの木のボールだ。
素手で。……できるか、拳で割るだけなら兎も角、これに、穴を。
「……ジョセフさんもいないのにいきなりチャレンジしないでくださいよ?」
「……アン・ノウンで俺の意識を見やがったのか」
「えっ、今のはアン・ノウンで見なくても大体なに考えてるか分かりますけど……」
本気にやる��もりはなかったが、小百合は俺の動作を敏感に読み取ったらしい。
俺は伝人に、傍目に何を考えているのか分かりにくい自覚を持てと言われたことがある。
見りゃあ分かるだろうと思っていても案外と分かってくれていないらしいが、こいつは文字通りに『見れば分かる』能力者で、忍者だ。
やはり、余計なことを言わなくてもやりやすい。
大人しく見本を戻し、金を払って先に進んだ。
————————————小百合視点————————————
承太郎先輩は思ったより話しやすかった。散々ちょっかいかけておいてアレだが。
狙ったようにいかなかったのに一撃で倒してしまって微妙な気分になったとか、拳が思ったより深く沈んでヤっちまったかと一人で焦った話とか、おおよそ他の人間とはできないようなあるある話が結構あって、楽しい。
「……いやに平和、ですね」
ここへ来るまでに誰かしらに成り代わって接触してくるかと思っていたのに、あっさりとケーブルカーに乗り込んでしまった。私自身がやる気になると敵が来なくなる法則でもあるのだろうか。そういうの、やめていただきたい。
流れていく景色を眺め、そういえばアンちゃんがいないことに今更ながら気づく。承太郎先輩の好感度……とは思うものの、ホテルにいてくれるならひとまず安全だし、それに越したことはない。
「なんだ……?」
不意に、承太郎先輩が顔をしかめて右手を持ち上げた。
「どうかされました……か!?」
いつの間にか、承太郎先輩の右手の小指に、憎き黄色い粘菌が引っ付いている。
……貴様、貴様があんなとこでミンチ肉を食ってなければ!
「イエテンッ!!」
「なんだと? その、イエテンってのは変身能力じゃあなかったか?」
「普段の使用法はそれですが、それは対一般人用。スタンド使い、まして私のような解析能力者が一緒にいてはなんの意味もありませんから……」
どこでつけられた、いや、この付き方は、確実に乗る直前だろう。
「物質一体型で射程距離E、切り離せば制御を失い、バイオハザードになり町中に広がれば自身でも回収しきれませんから、本体は近くに……いや、違う……そのために、ケーブルカーを……?」
読めてきた。『物質一体化』ということは、『切り離せば制御を失う』ということは、逆に、『知っている』ことでこちらも動きを制限される。
しかし乗り場を振り返ってみても怪しい人物はいない。そういうプロを雇ったか。仕事が終われば撤退。当然だ。もう少し、そういった方向にも警戒すべきだった。
「小分けにしたものを誰かに持ち運んでもらって、適当に引っ付け、ケーブルカーの着いた先で私たちの死体を回収しよう。という魂胆だと思います」
「小百合」
推測を口にしながら行く先をよくよく見てみれば、本体からだろう意識の糸が、細く細くではあるが確かに伸びているのが分かった。
私がロープを伝って特攻でもしようかと考えていたところで、承太郎先輩の呼ぶ声で現実に引き戻される。
「なんでしょうか」
「仕込み刀か何か、刃物を持ってねえか」
「……刃物、ですか。ないことはないですが」
風見一族はとにかく、馬鹿が多かった。
数代前から、科学が進化したって関係ない暗器を『身に付けておく』ようにしてしまっている。
少しお披露目はしたが、勿論、刃物だって『身に付けている』わけで。
「まだ浅い。スタープラチナで、指の、皮を剥ぐぜ」
「……『作る』ので、少々お待ちください」
「……まさかとは思うがよ」
「ちょっと話しかけないでください」
流石は天下の承太郎様。これだけのやりとりで察したようで、若干引いた顔をされた。
それはそれとしてとりあえず黙らせ、思いっきり深呼吸。
右手を構え、全神経を親指に集中する!
「……ぐっ…………!!」
そんな目的に使うほど、しかも急いで伸ばすとなるとかなり疲れるのだが、とにかく伸ばす。
刃渡り7cmくらいになっただろうか。髪留めに彫られた風車の溝。これは爪やすりになっているのだが、そこで爪を研ぎ、刃物の完成だ。
ただ、このままでは使えないので、べりっと剥いで差し出す。剥いだ傷口は新たに爪を生やすことで強引に塞いでおく。
「……。切れ味は上々みてーだな」
承太郎先輩は色々言いたいことはあったろうが、黙って私の爪を受け取り、指で切れ味を確かめる。
刃物として賞賛のお言葉を頂いた。
「スタープラチナ!」
……流石は精密動作A。『見た』ところ、若干自我があることも、精密動作が得意な由縁であるらしい。
確かに、ステータスとかそういうのを抜きにしても、承太郎先輩はそこまで細かいことが得意なようにはとても思えない。細かい動きはスタンドに任せたほうが、確かに精密にやってくれるだろう。
肉片というか、人間の生皮が、黄色い粘菌と絡み合って、床に落ちる。
「ヌ……、思いのほか」
無事、切り離しには成功したらしいが、傷口からぼたぼたと血が流れて止まらない。これではイエテンの恰好の餌だ。私の爪と、垂れた血液をも吸収したイエテンは、向こうにつく頃になっても自然消滅しないくらいの体積になってしまった。
「使ってください」
「ああ、借りるぜ」
襟元からスカーフを外し、承太郎先輩に渡す。
赤い布が赤く濡れていくが、ぎゅっと引き絞ると血の勢いは弱まる。なんとか応急処置にはなったようだ。
「あとは、ひたすら逃げて向こうに着くのを待つしかねーな」
「ええ……。流石に瓶は持っていませんし、コイツを外に放るとマジでバイオハザード待ったなしですから……。ヘタに窓も開けられないです」
やはり、こちらの動きを視野に入れて計画を立て、更に『知られている』ことをも計算しているようだ。知らなければ黄色い粘菌を外に放り捨て、見事に大惨事を引き起こしていただろう。知っているゆえに、それができない。
……あの女、手ごわいな。
一人もやつく私の眼前に、ひゅるりと何か言いたげな意識の糸が躍り出る。
そちらに視線を向けると、承太郎先輩の意識が学ランのポケットに集中していた。
「小百合、テメー、息は何分持つ?」
「息……? 止めて、ということですよね。普通に動いて5分くらいは持ちますが」
「十分だぜ」
そう言って、ポケットから取り出したのは、なんていうか、どう見ても手榴弾の形を模した缶だった。
どういった経緯でこんなものを持っているのか、探らなくてもすぐに分かる。
あの小悪魔よ、中々どうして、やりおる。
「コイツを使ったら絶対に息を吸うな。目も開けちゃあならねー」
手渡されたブツはどことなく手作り感があって、明らかな違法の香り。
あの人も全然私のこと言えないじゃねーかと思うしかない。
「伝人が催涙スプレーに手を加えた『催涙グレネード』だぜ」
「なるほど了解いたしました。……とはいえ、法的に大丈夫なんですかこれ」
「何も、バレなきゃ犯罪じゃあないんだぜ」
「アッハイ」
聞いたことのある台詞に察するしかなく、手渡された缶をポケットにしまう。
先ほどの思考を少し訂正しよう。小悪魔と、ジョジョも、全然人のこと言えないじゃねーか。
なんだ、催涙グレネードって。
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.
.
.
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「キッツ……!!」
「……あとどのくれーだ?」
「景色からしてもう間もなく、2分ほどです」
その後、私たちはぎっちぎちになりながら、ケーブルカーの端に詰まっていた。
死んだように見せなければならないため、降り場からの死角に収まって大人しく待たなければいけない。だが、広がり縮こまりうぞうぞと這い回るイエテンにも、捕まる訳にはいかない。
承太郎先輩がでかいのがここまで邪魔になるとは思っていなかったが、実際、こう、どうあがいても邪魔だ。
「……もう少し、小さくなれたりしません?」
「なれるワケねーだろ」
しかもお互いに関節とかそういう話ではなく身体が硬いせいで、寄るに寄りきれない。
ただ、長い学ランの裾を女子のスカートのように膝のところに巻き込んでしゃがんでいるのは……イイ。全て許そう。
対する私は、太ももの中ほどまでしかないスカートに指定ジャージ。彼の皮靴に対し、私はバッシュ。足元の悪い場所で不利になるようなことは決してない。何に、ということはないが、勝った。と思った。
「……テメー」
「なんですか?」
「いや、マジで色々とどーでも良くなってきたぜ」
「それは何よりです」
馬鹿ばっかりの、歴史ある忍者の家系。
そんな風見家が跡継ぎ小百合様に対し、所謂女子な扱いはしてもらいたくない。
いよいよもってケーブルカーが降り場に着き、扉が自動的に開いていく。
2人同時に立ち上がり、イエテンを踏まないようにして素早く外へ出る。
「……ポルナレフ?」
何故かそこにいたのはポルナレフ。の、形をしたラバソだった。
ここに来てこれはないと感じたのか、承太郎先輩がこちらを確認する。なんとすれば伝わるのか一瞬悩み、目で後ろを指す。それを受け、ラバソから一歩距離を取ってくれた。伝わったらしい。
「ジャーン! 驚いたか? 先に来て待ってたぜ!」
「……ジャンだけにですか?」
さり気なく触れようと近づいてくる。
じりじりと位置をずれて、ケーブルカーのほうへ行く道をあけた。
向こうとしても、スタンドが回収しきれなくなる事態は避けたいのだろう。特になんとも言わず、大人しく流れに沿って足を進めた。
そんな彼に、真顔で言ってやる。
「笑えないですよ、ラバーソール」
ポルナレフはDIOの手下の中でもそれなりに名が知られている。
それはその存在そのものがかなり道化チックだったから、話に上がりやすいらしいのだ。
妹の仇を探してDIOに近づき、肉の芽を植えられ、Jガイルからは遠ざけられて、良いようにジョースターの血統の始末を……。
そう思うと、少し、腹の中で煮えるものがある。
「……へぇ、そこまで知ってんのか」
名前を言い当てられると、途端に日本人にお優しく日本語に切り替えてきた。
日本語に強い敵は『私達』にとって少々都合が悪いので勘弁してもらいたい。
能力の割りにあまり細かい計画や戦略を好まない彼であるが、完全に予想済みだという様子で勝ち誇った顔をしてみせる。彼が自信家で調子に乗りやすいことは『予習済み』だし『見て知っている』が、この、向こう側からつくられたイレギュラーな状況。館で何か吹き込まれて来た可能性もある。
「名前も能力も筒抜け。花京院のヤローがかけてたその眼鏡は、やっぱりスタンドだったってワケ……だなッ!!」
「!」
「小百合!?」
攻撃するとき、必ず意識だけが先行する。それを感知し、反射的に隣にいた承太郎先輩を庇ってしまった。
遠慮なくぶちまけてこられたイエテンを避けきれず、左のわき腹から背中側へ向けて引っかくように食らいつかれる。なるほど地味に痛い。皮ごと剥ぐには少々面積を食らい過ぎたか。出血を考えるとこのままでいる他ない。
「おっ柔らかいかと思ってたが、嬢ちゃんかなり鍛えてんなぁ~~」
「痛いではありませんか」
強引に身を捻り、バックステップでイエテンを切り離させた。これで意図的に這い上がってくることはない。
しかしじわじわと肉を食われていくなんてとんだチキンレース。早めに倒さねば。
「ハハハハハ! 力も強いッ!! ま、当然ッおれに敵うほどじゃあねェが!」
ポルナレフの顔が派手に裂け、自称ハンサム顔が顕わになった。周囲から軽く悲鳴が上がる。
コイツに暗殺者の自覚とか配慮とかはないのだろうか。こんな往来で。
「チッ……小百合、前に出たがりが過ぎるぜ」
「すみません、性分なもので」
承太郎先輩は帽子のツバを指先で撫でながら、別に庇ってもらわなくて良かったと主張する。
とりあえず口先だけで謝っておき、右手でアン・ノウンの位置を直す。過ぎてしまったものは仕方ない。
「なァ、とはいえ二対一だ。おれがどうすりゃあ確実に勝てるか、分かってんだろぉ? それは……」
「ハァン? この状態の私を放置してどちらへ?」
「なに?」
承太郎先輩のリアクションが少しもどかしい。これで隣にいるのが典明なら、既にアン・ノウンをかけてもらって全て分かっている状態でいられるのだが、いまひとつ、情報の伝達が遅れている。
まぁ、答えは分かっている。『逃げる』だ。
「逃げる!」
高らかに宣言し、バッと身を翻してビルから飛び降りる。流石は衝撃吸収ゲル。遠慮ない。
普通に考えたら追いかけられないわけだが、忍者の脚力を舐めてもらっては困る。
幸い、すぐ隣にもビルがあるし、向かいは窓が一つ奥まっている造りだし、イエテンが付いているのも背中だし……色々と、丁度良いい。
「こちらも飛び降りて追いましょうか」
「おい待て何しやがッ……おッ……!?!??」
細かいことは気にせず跳ぶ。
……ラバソの性格からして、もっと正面から挑んでくると思ったのだが。何か策を講じているらしい。
しかし違和感は拭い切れない。ならばどうして手下が一斉に襲ってこないのかという疑問が残る。これが彼女が口出しした結果なのなら、少し戦力を固めて襲わせれば、それだけで十分な脅威足りえるのに。
彼女が何を考えているのか。ほとんど会わなかったとはいえ、同じ『私ら』であるのに、私には分からなかった。
眠っているように静かな意識からは、さして何も読み取れずに時間が過ぎてしまったから。
「さて、いきなりでしたが、大丈夫ですか?」
「…………」
承太郎先輩をそっと地面に下ろしてやると、途端に距離を置かれた。
先輩は持ち上げてみたらやっぱり重たかったため、流石に抱えながらふざけるほどの余裕はなかったのだけど、『見れ』ば、何か信じられないものを見る顔で、意識の糸が動揺を隠し切れずに震えていて、それはそのまま自分自身を庇うような形で渦巻いている。
これは、初めてバレンタインにチョコレートをもらったテンションの高まりに任せ、傅いて手を取ってお礼を言ってあげたときの典明と同じような反応だ。やだ……私ってば、かっこよすぎ……?
「なにも唇を奪ったとかそういう訳でもなしにイてェッ!?」
「……行くぜ」
「殴りましたね!? 典明にもいつも殴られてるけど!!」
そんな反応しないでくださいよと続くはずだったのに、意味のある暴力が私を襲って言葉は途切れた。
一応、触れるときには布をはさむように気を使っていたのだが、本人に頭を『直接』殴られてしまったわけだ。来ると見えてはいたのだが、まさか頭とは。伝人先輩じゃないが、承太郎先輩は私に牙を剥くように威嚇して道案内を促した。ああ、良く見える。
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————————————————————————
193 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
そんな感じで安価達成しました!! やった! 私カッコイイ!!
194 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
承りおつかれさまです!!!!!wwwwwwwww
195 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
お前さぁ…前々から思ってたんだけど、前世男だったりしない?
196 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
>>195
え?? 嘘偽りなく前世から「腐女子」でしたけど????
197 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
男前振りかざして遊ぶの、さぞかし楽しいだろうな。
もはやサユがウラヤマシイくらいだわ。イケメン爆発しろ。
198 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
私ならそんなんされたら女の子としか付き合えなくなる
199 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
ちなみに動画見返すまでは気がつかなかったのですが、先輩、見事に「なぜならば顔」を晒してくれていました。
200 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
動画と聞いて
( ゚д゚) ガタッ
/ ヾ
__L| / ̄ ̄ ̄/_
\/ /
201 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
よし、貼れ!
202 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
何故ならば顔ってどんな顔だよwwww
203 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
>>202
「なぜならば」を変換してみてください。どんな顔か、よぉ~~~く分かる筈です。
っ【動画】
204 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
(∵)
205 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
くっそ(∵)wwwwwwww
それはそれは大層なイケメンをご発揮なされたんでしょうな(∵)wwww
206 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
ひぃーwwwwwwwwwまぁだろうよwwwwww
207 :212 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
承りwwww思ったよりうろたえてたwwwwwww
よくもまぁこれで別に何もなかったぜみたいな顔で帰ってきたなwwwwwwww
208 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
あの忍者動画から切り取ったんだけど、
三角跳び直前のサユの真剣なイケメン顔↓
【どこか日本人離れしている凛とした顔立ち、透き通った緋色の瞳の少女の写真】
だめだ俺なら落ちる(∵)
209 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
サユ…お願いがある…お前が「問おう。貴方が私のマスターか?」って言うだけの動画くれください。
210 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
俺もこんなただのおっぱいのついたイケメンにお姫様抱っこされたら(∵)ってなるしかねぇwwww
211 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
>>209
俺が思ってても言わなかったことをォオオオ!!
212 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
やめろお前ら!!俺はコイツの中の人のことを頑張って考えないようにしてんだよ!!
騎士王のイメージが!!こんな、こんな馬鹿に……俺の中の綺麗な思い出がッ!ウッ!!
213 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
え……? なんです……??? 言ったほうが良いんですか? 言わないほうが良いんですか……??
214 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
>> たのむからやめろ <<
215 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
六窓そんなにFate好きだったのかwwwwww
216 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
サユって普段から敬語だしなあ……
真面目にしてればさぞかし似てるんだろう……。…真面目にしてれば
217 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
え?でも公式からも結構やりたい放題やってね?
218 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
>>217
それはそれで、これはこれだ
219 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
【悲報】
追いついたら承り動画削除済み\(^o^)/ナンテコッタイ
220 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
前世の私の活動圏内に無かった話ですかね。
ちょっと良く分からないままですが、私の声とかその辺の話は雑談でお願いします。
221 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
くそ……まさかスレ民から言われるとは……承りの貴重な放心動画見て忘れよう……
222 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
>>219
ここで今北産業状態wwwwww
どんまいwwwwwwww
223 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
>>220
サユさん再うpしないっすか!? 本日の最大イベント逃した組にどうかお慈悲を!!
マジで褌買いに行ってたら流れましたとかマジで洒落にならないわ!!!!!!!!! お願いしますよ!!
224 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
>>223
お前もしかして、忍者の話題で盛り上がってるときに褌締めて待機してろって言われてた?wwwww
54 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
>>52
できるだけその場の流れに沿って違和感なく良い感じにやり遂げて見せますので、褌締めて引き続き待機しててください。
225 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
しかし、テンメイのそういう紳士的っていうか、
初期院のスカした感じが全然ないのが地味に気になってたんだが、やっぱりお前のせいだったんだな
こんなんが隣にいたらそりゃ止める側に回るしかねーよ
226 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
>>223
雑談スレで、なんとか他の人にもらってください。
227 :名無しの褌:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
\(^o^)/ナンテコッタイ
228 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
半年と思ってROMってましたが、書き込まずにはいられないッ!\(^o^)/ナンテコッタイ
229 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
同じく見逃し組として\(^o^)/ナンテコッタイ
230 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
結構いるwwwwwww今更どうしたwwwwwwww
231 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
なんで丁度そこだけ見逃すやつがこんなにいんの?
232 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
馬鹿野郎……時計見ろニート共……仕事終わってスレ覗きに来たに決まってんだろ……?
233 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
>>232
アッ
234 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
申し訳ございませんでした!!!お勤めお疲れ様です!!!!!!
235 :名無しの褌:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
寄り道しないで真っ直ぐ帰ってスレ確認すればよかった……(´;ω;`)
236 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
そんな社畜達のために、俺が文字にしてやった↓
まず画面が承りを写す。どっかのビルの屋上。
「こちらも飛び降りて追いましょうか」
見えない聖剣から派手に光線でもぶっ放しそうなイケメン女子ボイス。ほぼ間違いなくサユの声。
いまいち意味が分からない様子の承りに近づいたあと、横に回りこむ。
「おい待て何しやがッ……おッ……!?!??」
ブレてまくっててこの辺はよう分からんが、ケーブルカーのとこにいるのがなんとなく分かる。
映像が落ち着くと、お姫様抱っこで抱えられた承りを抱え上げたほうの主観で映している。
承り越しに、そのまま屋上のフェンスに足をかけたっぽいのが見える。
「屋上だぞッ……跳んっ……!」
思わずといった感じで手が上がって、はっとする承り。たぶんサユにしがみ付きそうになって我に返った。
しばらく画面があんまり手元を写さない。ビルの窓と壁ばっか。壁伝いにぴょんぴょん降りてるっぽい。
途切れ途切れだけど、映りこむ承りの表情がどんどん切羽詰ってって最終的に(∵)になる。
「さて、いきなりでしたが、大丈夫ですか?」
「…………」
地面についてすぐ、(∵)から回復してきた承りにイケボ女子が話しかける。
承りがバッと距離を取って、気持ち守りの姿勢に入ったところで動画が終わった。
大丈夫な要素なんて、身体に怪我がないってことくらい☆ かな☆ みたいな感じ。
褒めていいぜ?
237 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
>>236
ありがとうございます!! ありがとうございます!!!
238 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
いや、そりゃ(∵)にもなりますわー…
239 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
>>236
お前みたいなタイプほんと何様だけど今だけは>236様と呼ぶしかねぇ
240 :名無しの褌:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
こういうときだけはニートの存在がありがたい…!! 感謝でござる…感謝でござる…!!
241 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
テンメイにはそういうのやめろよって言われるんですけど、
逆スケコマシみたいなことやるの楽しすぎてやめられないんですよね。
242 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
もう次の話行って大丈夫か?
243 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
サユ格好良いわぁー、抱いて…
244 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
>>243
だが断る
>>242
進めましょう
245 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
>>244
お前って誰彼構わずイケメン振りかざすくせに、なんか茶番上でも貞操だけは硬いよな。
で?承りを(∵)にしてどうなったって?
246 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
>243-244
前もこのやり取りあったなwwww
247 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
はい、で、この動画の直後に頭を「直接」ぶん殴られまして、色々とよく「見える」ようになりました。
私にくっついてるイエテンと本体の間に伸びる意識の糸を辿ってラバソのいる方へレリゴー。
辿っていくと最終的に廃ビル?の地下に入りました。
途中、水道があったので、蛇口全開でウォーターアトラクション施設みたいにして更に追って行きます。
バケツもあったので水入れて持って行きます。
続きます
248 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
案の定殴られたのかよwwwww
249 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
水浸しにする意味が分からんのだが
250 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
あー…原作で海でオラオラできたのって、なんかそういうアレか…弱点あるじゃねーか…
251 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known-
>249ー250
私も「直接」食らって初めて分かったのですが、
イエテンは水に濡れると精密動作Eがさらに使えなくなります。
肉が流れやすくなるとかいうなんかそういうアレです。エネルギー消費もでかいみたいです。
最終的に扉を隔てた廊下に出たのですが、特攻以外に責め入れられないよう、イエテン祭りが開催されてました。
廊下の奥で余裕顔で待ち構えているラバソを見て、承り先輩にはアン・ノウンをかけてもらい、お望みどおりにそのまま私が特攻です。
息を吸ってはならない、目も開けてはならない。
といっても、5分くらい息を止めていられる私なら余裕ですね。と、思っていた時期が私にもありました。
続きます
252 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
スピードCなので特に盛大に食らうこともなく奥まで進み、ブツのピンを抜いて宙に放りました。
……で、承り先輩視点だけで遠くからのん気に眺めていたのですが、なにか、ラバソの反応がおかしいんですよね。
炸裂する「赤っぽい」煙。死にはしないと聞いていたのに、聞こえる声が鬼気迫りすぎている。
そして悲鳴に混ざる「カラい」という意味の言葉。
あれ、私も、このあとヤバくないです?
と思いましたね。
続きます
253 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
嘘だろ六窓
254 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
催涙グレネード(激辛)wwwww
255 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
>>253
いいや! マジだぜ!!
256 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
なりふり構わず私達が入ってきた扉から全力ダッシュで外へ出ようとしたラバソですが、
ガードがゆるゆるになったところを先輩に殴られて廊下にもんどりうってました。
そこまで「見て」私は承り先輩からアン・ノウンを奪い去り、全部任せて戦闘放棄で、離れた位置の水道に向かいました。
めちゃくちゃ良く洗い流してから息をしたんですけどちょっと辛くて、承り先輩を殴り返そうかと思いました。
戻ってみたらラバソはずぶ濡れで顔面が歪んでました。
とりあえず戦闘はここでひと段落です。
>>255
あんたらもほんと大概ですよ。ラリアットかまして良いですか?
おかげで今もなんか首とか顔とか熱っぽいですからね。
257 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
見返してみたけど、確かにイエテン、ちょっと水に浮き気味……?
ケーブルカーの中であんなに広がってたのが海に落ちてどこへ消えたのかと思ったらエネルギー消費か
258 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
>>257
そちらでどういう理屈なのかは知りませんが、こちらではそういうことになってました。
259 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
>>256
スイませェん。
承りが説明すると思ってた。ていうかお前が色々煽るからいけなかったと思う。
260 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
催涙グレネードの中身、なに…?
261 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
>>260
粉タイプ催涙スプレーとブート・ジョロキアの粉。
手榴弾型にすることにより勢い良く弾ける、両者のエクストリームなハーモニーをお楽しみください…。
262 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
えっほんとに人死なない?大丈夫?
263 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
>>259
>eee(-ロ-ロ)煽る? 私がイケメンなのは通常運転ですよ? ン?
その後なんですが、どう考えても勝負はついたのにラバソはまだ粘る気でいたので、
遠くの水道まで引っ張って「面倒なので始めに足を折ります」と宣言し、そのままへし折ったら素直に答えてくれる気になってくれました。承り先輩は何も見なかったぜみたいな顔してました。
まだ私のターンが続きます。ご容赦ください。
264 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
>>262
使う相手は選んでるから死なない
265 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
普通「折られたくなかったら」だろ、お前ら本当物騒だな
266 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
ご容赦くださいって言ってるやつが一番ご容赦ない罠
お前のようなイケメンがいるか
267 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
なんだかんだ身体は丈夫で、その上しつこいと予習済みですし、実際面倒なタイプだと判断したまでです。
偽名でプロフィールが見れなかったという口実で、オペレータのねーちゃんのこと話してもらったわけです。
結果、彼女のスタンドが、材料さえあればどんな機械でも組み立てられる能力ということが分かりました。
機械人形は彼女が作ったもので間違いないようです。
あと…………まだ六窓先輩にも言ってなかったんですが、
彼女、元々裏社会で過ごしていたわけではないらしく、一人、世話係的な人がいたんですけど……。
268 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
いたんですけど?
269 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
いたけどどうした?
270 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
新たな俺らか?
271 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
ちょっとこっちの事情的に危うかったです↓
ラバソ「シスター上がりで裏社会の事情に詳しくねーから、ダンせんぱ……、えーと、恋人のスタンド使い、鋼入が面倒を見てる」
サユ「えっ」
承り「『えっ』?」
サユ「面倒、見てるんですか? そんな風には……とても……」
実際、彼女、鋼入の前を悠々と歩いて、楽しそうに日本語で喋ってましたしね。
……いや、あのキャラを知っていたら誰だって「えっ」って言っちゃいますよね。これは仕方の無いことですよね。
続きます
272 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
えっ
273 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
え???
274 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
アイツ、人の面倒とか見れるのか?????
275 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
(´◎w◎)誰の人選だ?
276 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
お前かよwwwwなんでだよwwwwwww
277 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
ラバソ「は、はぁ? ソコ引っかかるか? その眼鏡で、館の中……見てたんじゃあ、ねーの?」
サユ「……? 小柄なブロンドの女ですよね?」
ラバソ「???」
承り「嘘は吐いてねーようだが、認識が違ってるのか」
サユ「貴方から見てどういう人間でしたか?」
ラバソ「……ちっとばかしネジがトんでるが、大人しくて気が利く。でもぼーっとしてることが多かったぜ」
サユ「……テンメイの肉の芽の事情を知っていて、普段被っている猫を外していた、ということですかね」
承り「更に事情がややこしくなってきやがったか」
続きます
278 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
単に黄色いヤツの味方なら猫被る意味だろ
マジかよ…探っておくこと増えたな…
279 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
黄色いヤツの側にいながら猫を被る勇気よ
280 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
鋼入りと知り合いなのか? シスターで? 何がどうなったらそうなる??
281 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
サユ「2人は黄色いヤツを通じて始めて知り合ったのですか?」
ラバソ「なんでそんなに知りたがッぶへっ! わ、分かった! 思い出す!」
余計なこと考える前に頭から水ぶっかけました。なんかガチの筋者がその辺の不良イジメてるみたいだなあと思いました。
ラバソ「…………どこで知り合ったとかは知らねぇ。ただ……仲が良いっつーか、鋼入があんなに世話を焼いてやるの、ちょっと変かなとは思ったけどよ、そんくらいだ。おれだって別に四六時中館にいたわけじゃねぇし、これ以上は知らない」
そこから先の進展は見込めなかったため、アン・ノウンでちゃんと戦意喪失をしつこく確認し、
ラバソをビルの地下に放置して列車予約して帰ってきました。
私からは以上です。
282 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
色々考えたが、俺なら機械を組み立てるスタンド持ってても鋼入と仲良くできる気は全くしない
283 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
>>281
帰ってきたあと、隠紫さん別室に連れてったとこは報告なしなのか?
284 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
鼻も顎も足も骨が折れてるのに放置されるラバソ…暗殺者だしなんとかするか。
285 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
>>283
別室の中でのことは、「秘密にする代わりに秘密をもらいました」とだけ言っておきます。
帰ってきたその辺のくだりは六窓先輩からどうぞ。
286 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
>>283
kwsk
287 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
そういえばサユ、背中にイエテン食らってたな。
隠紫さんのプロフィール筒抜け問題、結局どうしたんだ?
288 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
>>285
んー、了解。
戻ってきたらサユが全体的にしっとりしてるしセーラー服に点々と血がついてるし、
承りは小指に赤黒い布巻いてるし、一目見てなんかあったのが分かった。
そこでのテンメイとサユの会話をご確認ください。
テン「……おかえり、背中に結構な怪我をしているだろう」
サユ「うん、ただいま。イエテンに少し齧られただけ。もう血は止まってるし大したことないよ」
ここでハイエロファントが伸びて、一ミリの遠慮も無くセーラー服の裾に突っ込んだ
テン「そんなに深くはないみたいだな。ちゃんと隠紫さんに治療してもらえよ」
サユ「ン」
冷静に考えたら負けみたいなを会話を目の前でされて、俺はどういう顔をしたらいいか分からなかった。
ここまでテンメイとサユのやりとりに誰も何も言わない。
続く
289 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
なんかちょっともやもやするぅwwwwwww
290 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
サユがでかい傷負ってるの一瞬で分かったのかよwwwwww
291 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
女子メンバーが怪我を負って帰ってきたんだから、みんなもう少しなんか反応があって良い筈だと思うの……
292 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
ちゃんと治療してもらえよという言葉に、俺はそっと隠紫さんのほうを見てみた
アン・ノウンがなくても、顔に「やべぇ」と書いてあるように見えた気がした
サユ「んー……すみません、一応、傷が体中にあるので、別室での治療をお願いいたします」
隠紫「お、おお。分かった」
ナイス言い訳だが、隠紫さんはきっとこのあと地獄を見るんだろう。アーメン。って感じだった。
出てきたら2人ともなんでもない顔してたが。
俺もまだ内容知るわけにいかないから、そのときになったら教えてくれ
293 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
慣れって恐ろしいなwwww
294 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
テンメイとサユを逆にして考えるとすごい落ち着く会話な気もするんだが…
なんだ、この、落ち着かない感じ
295 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
別にいつもやってるようなやり取りですけど……?
296 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
…あれ?家出ちゃんどうした?結局ホテルにいたのか?
297 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
隠紫さんマジ生きた心地しなかったろうなwww
孫がすぐ近くにいる中でやらかした過去ばれるの確定とかwwwww
298 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
>>296
あー、それな。意外と戦車と一緒に帰ってきた。
俺もまだちゃんとは話聞いてないし、そろそろ飯だから一回落ちる。そこでkwskしてくる予定。
戦車の馬鹿、可愛い女の子にホイホイされてちょっと危なかったってよ
299 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
>>296
家出ちゃん曰く、私と承り先輩を天秤にかけて悩んでる間に置いてかれて、
諦めてホテルに戻ろうとしたら戦車見つけてうんぬんあったそうです。
300 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
家出ちゃんとか忘れてた。そういえば帰してなかった
301 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
戦車まさかのっていうかやっぱり色仕掛け引っかかったのwwwwww馬鹿なのwwwwwww
302 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
どこ行っても敵だらけだなオイ
303 :六窓:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:Square
黄色いヤツの刺客じゃあないが、アカン筋の人間に絡まれたとよ
だから帰したかったのにって思ったんだが、家出ちゃんファインプレイだったらしくて複雑。
すぐ戻る予定だが、保守は頼んだぜー(`◉w◉)ノ
304 :サユ:1988/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:an known
また来ます>eee(σロ∀ロ)σ
305 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
予想できたとはいえマジで釣られたかー…
306 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
>>303-304
おつおつー
戦車、あのキャラで色仕掛けが本命の敵が来なかったのが謎だったくらいだしな…
307 :名無しの目覚め:XXXX/XX/XX(X) XX:X:XX.XX ID:--------
>>303-304
保守ならニートに任せろバリバリー
.
.
————————————この歯車こそが————————————
わたしがDIOという吸血鬼に従うようになり数ヶ月が経ったあとで、丁度館にいるときに一人の女が尋ねてきた。
その女は、貢物を持ってきたのでも、自身の生き血を捧げに来たのでもなかった。
アメリカからDIOというヒトを尋ねて来ましたと、聞き取りづらい声で告げたという。テレンスが中へ通したのを好奇心から軽く伺う。
とてもエジプトにいるとは思えない、ダークブラウンのタートルネック。白いジーンズに、ヒザまであるブーツ。
腰にはオレンジ色のラジオが括り付けられていて、薄くノイズを垂れ流している。
くすんだブロンドの髪と、眠たげな緑色の目。化粧をしていても、そばかすがあるのが透けて見えた。
時間が止まったかと思った。
当然に、悪い意味で。
『あれ』から数年。20歳前後だろうか。
柔らかな微笑みを携え、奥へ奥へと歩みを進めていく姿は確かに『優しくて良い子』で、だからこそわたしは確信する。危うくわたしが殺されるところであった『シェルビー』であると。
しばらくして、呼び出しがかかった。
この時点で嫌な予感しかしていなかったが、わたしには逆らう理由も、他へ代わって貰う理由もない。
床を踏みつけるようにして告げられた部屋へ向かい、扉を開けると、案の定テレンスとシェルビーが椅子に座って待ち構えていた。
「ようやく来ましたか」
〈私、ペレータと申しマス〉
「ペレ……?」
椅子に座ったまま軽く一礼、名乗った言葉に混乱する。
聞いたことのある無機質な声。
見たことのある沈んだ緑の目。
「声の出なかったのを、故あってDIO様に救われたと……」
「それは良い。本題に入ったらどうだね」
本音を言うとその話は最後まで聞きたいくらいだったが、それではわたしとしては不自然かと思い、テレンスの言葉を遮った。
入ってきた扉を後ろ手に閉めて、背を預ける。
そんな筈がない。彼女はどう考えてもシェルビーだし、シェルビーは絶対に、元からスタンド使いだ。
「彼女はこれまで教会に勤めていて、裏の人間の事情に詳しくありません。貴方のスタンドなら、常に本人を人質を取っていられるでしょう?」
「…………おい、まさかとは思うが」
「もちろんタダで受けろなどとは言いません」
テレンスはわたしの目の前にスーツケースを引っ張り出してきて、がぱりと開けた。中身はギッシリだ。
……生まれてこの方、自分のためだけに生きてきた。いよいよそのツケが回ってきたらしい。表情は殺したが、軽く眩暈を覚えた。
「彼女の監視、保護をお願いいたします」
「だけでこんなに?」
「例えば……これが、実際に使える『電話』だと言ったらどうされますか?」
安いテレビショッピングのように、どん、とテレビをテーブルに置かれる。セットで、リモコンの代わりに電話の子機がついていた。
高さ30cm、幅40cm、厚みは、10cmないくらいだろうか。コードも何も繋がっていない。
「……テレビのように見えるが」
「『テレビ電話』だそうです」
言いながらどこかへ電話をかけ始める。
こんなふざけた形状で本当に使えるのであればとんでもない話だ。
しばらく経って相手が出たのか、子機を渡される。画面をわたしのほうへ向け、本体の電源を入れた。
〈スティーリー・ダンか〉
「ディッ……!? ��IO様!!」
〈フフ……わたしが出るとは思っていなかったようだな〉
顔は暗がりではっきりとは見えないものの、まさに我らが主、その人であった。
普通、一言あるだろうとテレンスを睨む。だがヤツはそ知らぬ顔でスーツケースの中身を綺麗に整え、蓋を閉めようとしているところだった。
〈ペレータに発現したスタンドは、まだ発明されてもいないような機械を作れるというものだ。……確かめたので間違いはない〉
「それで、死んでもらっては損失だということですか……?」
〈テレンスは執事の仕事がある。他の者は……お前も分かってきているだろうが……。流石のわたしも、その辺りの問題はどうしようもないからな〉
忠臣筆頭のヴァニラ・アイス、同じ女とはいえ、マライア、ミドラー……。
自称女に優しいホル・ホース……は、確か、世界中に彼女が…………。
わたしは20歳そこそこの女の面倒が見れそうなアテを探すのをやめた。
〈大事に扱えとは言わない。いつの間にか死んでいたり、始末せざるを得ないようなことにならんように見張っていて欲しい〉
「……かしこまりました」
ぷつ、と通話が切られた。遅れて画面のほうに手が伸びて、映像も途絶える。
自分でもまさか女の護衛のような仕事に向いている性質だとは思わない。
しかしどれほど考えてみても、思い浮かぶのは金を積まれたところでそれができないような面子ばかりだった。
妥協点で、丁度館に居たわたしになったのだろう。
「ではよろしく頼みましたよ、ダン」
立ち上がったテレンスはキャリーカートにテレビを載せ、手のひらを上に向けてこちらに突き出した。そこに電話を返してやり、道を譲って扉の外に出るのを横目で見送る。
そして部屋には問題の『ペレータ』と2人きりになった。
テレンスの足音が十分に遠ざかるのを聞き、ラバーズを飛ばして脳内に入り込ませてから口を開く。
「……一つ、聞いておきたいのだが」
〈なんデショウか〉
人当たりのよさそうな、まるで世間知らずのお年頃な表情で小首を傾げる。
しかし依然として声は無機質で、ラジオのノイズに重なっており、わたしの脳裏に火柱が浮かぶ。
「お前の本当の名は『シェルビー』ではない、の、か……!?」
〈……ザァーーーガガ・ギィイイァーアアーーーーーガガ・ピーーィイイイイーー〉
知った名を呟くと、言葉通りに彼女から表情が抜け落ちた。それとは反対に、わたしは自分の顔がこわばったのが分かった。
ラジオから、肌を引っかくような尖ったノイズが流れる。
〈あら、嫌だわ〉
それまでと打って変わって、用意していたような『滑らかな日本語』が聞こえた。
唐突な言語の切り替えに頭が追いつくのに何秒かかっただろうか。彼女の口が少しも動かないことも大きな要因だった。
〈どこかで会ったかしらァ?〉
自分が負けることなど寸分も考えていないような自信に満ちた足で立ち上がり、一歩、わたしの方へ進む。
ここは意地でも下がれないとは思ったが、どちらにせよ、わたしの足は動く気配もない。
ラバーズは殺し合い向きの能力ではない。痛みが返るからと強気でいられるのは、相手がヘッドショットを決める状況でないことと、死を恐れない相手でないことが前提なのだ。
〈答えなくば今ここで殺す〉
腰に括り付けられたラジオが彼女の声とともに『割れ』て、そのまま大振りな銃の形をとった。
その銃口の上部分に、赤い光が見える。自分では見ることはできなかったが、考えるまでもなく、その光はわたしの脳天を照らしているだろう。
「……わたしは、見ていた。5、6年前にバスを工場へ突っ込ませたのを」
わたしは会話を成立させやすくするため、頭の中を日本語に切り替えながら簡潔に答えた。
余計なことを聞いたと後悔する暇もない。米神に嫌な汗が伝う。
しかし彼女はわたしの答えに満足していないらしく、機械音を響かせながらまた一歩、ブーツの踵を鳴らした。
「その数ヶ月前、孤児院のキャンプファイヤーから外れて本を呼んでいるのも見ている。お前は一瞬わたしを見て、すぐに視線を本に戻してあくびをしたのを覚えている。その先で、子供が何故シェルビーはこちらに来ないのかと十字架をつけた女に質問しているのを聞いた。名前を知ったのはそのときだ」
〈キャンプファイヤー? ……あァ、あのつまらない火か。……そのことを誰かに言ったか?〉
「いや、誰にも」
〈私に誓えるな?〉
目の前まで歩いてきて、こちらを見上げる。
それでも、目は光を映していない。
「誓う」
〈そうか。なら、まァ良しとしよう〉
無機質に言い捨てて、がしゃんとラジオは再びラジオに戻る。上から覗くような形になり、初めて彼女の首もとが窺えた。歯車のような枷がはまっていて、そこからコードが下のほうへと伸びている。それは服の裾から、ラジオに繋がっていた。
この歯車こそが彼女のスタンドで間違いないし、やはり、彼女は『あのとき』からスタンド使いだったと見て良いだろう。
〈それから〉
彼女は小さな手で自分の首を掴むようにして、ラジオを低く唸らせた。
〈その虫唾の走る単語で私を呼ぶな。私からは以上だ〉
「……分かった」
ペレータの傍に居ることを義務付けらたのは、返って良かったかもしれない。
このことが発覚したときに別の立ち位置であったならば、即その場で撃ち殺されていた可能性が高い。
彼女は、殺すといったら間違いなく殺すだろう。
〈しかし、見られていたとはな〉
「……火柱に随分見とれ、いや、なんでもない」
〈ギギッ……美しかったのだ。仕方なかろ〉
自分で人を殺した光景を見ているとは思えないくらいに、あどけない顔で喜んでいたのは強烈だった。
そして今、人を殺しそうな目で睨んだ直後につんと顔を反らして扉の外へ出て行くのも、やはり何かが決定的に狂っている。
「……護衛が欲しいのは、わたしのほうだ」
わたしは盛大にため息を吐きながらスーツケースを回収し、ペレータの後を追った。
もはや意味はないと判断し、ラバーズを脳の中から呼び戻す。そして、彼女が『何であるか』について思考を巡らす。
そうしなければ、このままではわたしは死ぬ気がする。
ラバーズで見るペレータの脳の中は、異様に静かだった。
これで普通に立って歩いて、スタンド能力を使ってさえいるというのが、信じられないほどに。
生命維持に必要な動きは見られるが、それだけに見える。これでは、生きた死体だ。
追いついた後で、わたしは目の前の化け物に取り急ぎ欲しいものはあるのかと聞いてみた。
彼女の荷物はラジオと現金しかなかった。そんな身で今日ここへ来たのなら生活に必要なものも何もない筈なのだが、ペレータは少し悩んだあと、〈たくさんあるが、取りあえずは一番新しい型のカメラを〉と答えた。
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