#手に地図持ったままおみくじ引いたら地図が飛んで行きそうになって慌てて阻止
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「香港最後の自由だぞ!」
といった内容のメッセージが香港人の友人たちから相次ぐ。 「何してるんだ!早くこい!」と。6月9日にあった100万人参加のデモの様子を見ていただけに、こりゃ行くしかない。表面上は逃亡犯条例改正に対するデモだが、本当の目的はそれだけではないのは明白。(あとはググってください)
6月11日
連絡をもらったのが未明。取り急ぎチケットを買い、慌ただしく準備。最速のチケットを探すがどれも満席。奇跡的にキャンセル分のチケットが買えた。早朝6時の羽田発便だったので、とりあえずパスポートとカメラ、フィルムを。この日にも抗議デモがあると香港の友人からメッセージを受ける。タクシーとバスを乗り継いで空港へ。
12:00 香港着。まずはバスでシャムシュイポーへ。ここはいつも最初に立ち寄る下町���何も変わらない風景にやや戸惑う。香港は無事だったことに安堵。その後、MongKokにある仲の良いカメラ屋さんへ。写真を撮りに来たというと、クレイジーだなと言われる。いろいろ話を聞いて情報を集める。今夜の集会には参加するの?と聞かれ、うん、と答える。彼らも参加するらしい。
夕方、友人のウィスキーと落ち合い、彼女のスタジオへ。アイリスたちと話す。今日は座り込みをするらしい。彼女たちは準備を始めた。ゴーグル、マスク、そして手製の防具やを取り揃えていたことに驚く。
途中、デモ会場では警察が荷物検査をしていると情報。その対策のためにも準備に時間がかかるということなので、自分はプレスカードとカメラだけでスタジオをあとに。
20:00 抗議活動の現場は、香港島側に位置するCentral地区。立法会(議会)周辺だ。最寄駅はAdmiralty。雨傘運動でCentaral Occupyがあったエリアだ。電車内は普通の人がほとんど。デモ参加者もちらほら。
どの程度の規模でやってるのか不安。そのために来たのだから、と思っていると。駅を降りると構内は参加者でごった返していた。
批判があったからか、警察は荷物検査をやめたらしい。
21:00 立法会周辺で行われている会場周辺を歩いて位置関係を確認する。すでに大勢の参加者や警察が集まり始めていた。
カトリック系の信者が賛美歌を歌っていたのが印象的だった。
宗教的な集会だと抗議活動に合法性を持たせることが可能だから。 香港では宗教的な集会であれば無許可も可能だという。
警察は立法会前で警備中。
22:00 参加者と警察によるちょっとしたもみ合いになり、警察が増員。特に速龍部隊と呼ばれる特殊部隊が増える。催涙弾と思われるライフルや背負うタイプの催涙噴霧器も持ち込み始めた。
その後、アイリスやウィスキーたちと合流。彼女たちは逮捕された場合にどう対処するかhow toのビラ撒きに専念。おおっぴらに配るのではなく、コソコソと人に渡していく。
明日は朝早くから抗議行動を始めるとのこと。その後、こちらは撮影に専念。別行動に。警察がバリケードを持ち込みはじめて、警備強化し始める。
23:00 MongKokのカメラ屋さんのメンバーと合流。アルバイトたちもみんな参加しているらしく、総勢15名ほど。みんな揃ってフィルムカメラを手にしているのがおかしかった。アイリスたちが体育会系だとしたら、こちらは明らかに文化系のメンバー。明日はもっと激しい抗議活動になるらしく、多くの若者が泊まり込むとのこと。
03:00 時間も時間になり、現場に動きがなく、カメラ屋さんたちとタクシーで帰宅。一部のメンバーはそのまま朝を迎えるらしい。 アイリスたちも一度帰宅したようだ。
05:00 ウィスキーのスタジオに宿泊。スマホで日本語での情報収集。就寝。
6月12日
11:00 ウィスキーからの電話で起きる。 「ようやく起きた?もう始まってるよー!」 あちゃー寝坊したか!と急いで準備。出発。
11:30 会場到着。地下鉄から地上に上がるとAdmiraltyはとてつもない群衆。昨日とはまったく風景、空気感が違う。はたして何万人いるのか。そして殺気立っている。 道路にある中央分離帯などは、柵を立てかけて階段に。朝、警察が警備のために用意していた柵を奪いとったようだ。 しかし、すさまじい群衆のなかにもきちんとした秩序があった。手作りの階段の上り下りする参加者をサポートする人員がいたり、ペンチを用意しろ!傘を用意しろ!とジェスチャーをすると、どこからともなく、スルスルと人の手をつたい、それらが運ばれてくる。ペンチは警察のバリケードを解体するため、傘は際榴弾から身を守るために用意しているようだ。 どうやらこれは雨傘運動で得た技術らしい。 群衆の中に物資運搬や急病人を運ぶための通路が空けられていた。
13:00
会場全体をとにかく歩き回って撮影。
香港の友人にメール「人がどんどん増えてくるよ!すごいな!」と送ると、「ゴキブリみたいでしょ、ははは」と返事が。
あちこちで前線のためのバリケードが市民によって作られていた。 一番激しくなりそうなのは立法会正面玄関。しかし人が多すぎて近寄れない。民主派政党が用意したステージもあり、議員がスピーチをしていて、テレビ中継もそこで流れていた。
ウィスキーと落ち合う。朝は市民と警察のちょっとしたもみ合いがあったみたい。途中、怒号も鎮まり返り、座る人が目立つ。
どうやらお昼ご飯休憩。
ウィスキーと離れ、自分も昼ごはんを食べる場所を探す。 地下鉄にあるマクドナルドなどのファーストフードは営業中だが、若者が殺到していた。 諦めて遠くにあるカフェまで歩きサンドイッチを購入。
道路の高架下で休憩。
突然の大雨。そしてピーカン照りの繰り返し。
今日もカソリック系の信者の賛美歌は続く。 友人の一人は、このやり方はクールだと賞賛していた。
14:00 午後3時ぐらいから警察による��斉行動が行われると友人たちから連絡が来る。正面玄関から一番近い、そして一番激しくなりそうな前線のバリケードを選び、そこで待機。 およそ100m先には大量の警察が準備しているのを昼ごはんで立ち寄ったカフェからの帰りで確認していた。
15:30 ちょうど後ろ方向にある立法院正面玄関から突然、催涙弾の音とともに煙、叫び声が轟く。 政党のステージにはそれらが映し出される。そのほかのバリケードにも警官隊が攻め入ったようだ。 自分がいる前線もそれらを見た参加者や正面玄関から逃げてきた人たちで一時パニックに。 逃げてきた参加者は、救護班に目を洗ってもらったり、うがいをする。 その光景を見たショックで呼吸困難になっている女の子もいた。
ヘルメットをやマスク用意しろというジェスチャーも。 その間に100mほど離れていた警察はじわりじわりと距離を詰めてくる。
最前線に並ぶ男たちはバリケードを打ち鳴らして士気を高める。傘を集めて催涙弾を防ぐ用意。自分もその辺に転がっていたマスクをつける。
16:00 バリケードから50mほどの距離から警察が催涙弾を打ち込む。 前線はパニックに。その間、大勢の警察、速龍部隊が走り込んで来る。 誰かによる「逃げろ!」の合図、みんなダッシュで後方へ下がる。後方にもいつのまにか、速龍部隊がいて、挟み撃ちに。中央分離帯を頭から飛び越えようとして転ぶひとたちも。それらを撮影。 催涙ガスによって息が吸えないので息を止めて冷静になろうとする。
わかっていたけど、フィルムロールチェンジがやっかいで、隠れてチェンッジ。
逃げる人たち、逮捕されている人たちを撮影。 逮捕された人はなんと報道関係者のジャケットを着ている。 彼は逮捕された時に頭を打ち、脳震盪のせいか、体を激しく震わせていた。 それを押さえつける警察。撮影。これはひどすぎる。
煙幕のせいか、空が暗い。
16:30 群衆は一番広い道路へ逃げる。 そこへも特殊部隊がなだれ込み、何発も催涙弾を打ちまくる。 右手に手袋をして催涙弾を拾って投げ返す者、水で消火活動をする人、様々。 散乱していた物資のなかから、 ヘルメットやゴーグルを拾う。 途中、警察の列の前へ、煙に耐えながら一人の男が歩み寄り、英語で抗議する。
警官隊を指揮していた指揮隊長はイギリス人らしかった。 抗議する男を確保しようと数人の警察が走り込んでくる。 プレスがそれらの前に立ちはだかり、阻止。 無言で警察にレンズを向け続け、警察は怯んで引き下がる。
その間、催涙弾をモロに受け、息が出来ない、目も痛い。 持参していた水でとにかく洗う。 カメラにも水がかかるがそれどころじゃない。 安全な場所を探して隠れる。
群衆は陸橋などの階段に駆け上がり、逃げる。 そこへ催涙弾を打ち込む警察。下からは詳し��見えないが、叫び声などが聞こえる。もし逃げるために陸橋から道路へ人が飛び降りたら、、、と考えると怖い。
カメラのレンズを見ると、水がかかっていたため、レンズフィルターが曇っていた。ショック。これまで撮った写真は大丈夫だろうか。
別の陸橋を駆逐、占拠していた特殊部隊らがコッソリ降りようとしてきた。
参加者が見つけ、傘やヘルメット、ペットボトルを投げ込み、特殊部隊は引き下がる。
17:00 参加者は細い道路、裏道などに逃げ込み、そこでゴミ箱を倒したりその辺にあるもので、即席のバリケードなど作る。警察は威嚇としてプラスチック散弾銃を打ち込む。バリケードを作っては攻め込まれ、逃げ、下がってまたバリケードを作る。
めまぐるしく前線の場所が変わる。市民には武器がなく、どう考えても劣勢。参加者に広東語でまくし立てられるが、理解不能。片言の広東語で「私は日本人」というと「ガンバッテネ」と日本語で返された。
21:00 攻められてはバリケードを作る、ずっとこのような状態の繰り返し。携帯の電池がどんどん減り、心配。電池がなくなったら友人たちの安否確認ができなくなる。節約のために電源オフ、1時間に1度だけメッセージのやりとりのためにONにする。
22:00 ウィスキーは怖いし、気持ちも疲れて帰ったらしい。警察に対して憤ったメールが届く。怪我はしていないようで安心した。
途中、極端に人が減った。 ウィスキーの連絡によると群衆の多くはAdmiraltyから隣駅のWanChai周辺に移ったようだ。
WanChaiまで歩く。 途中、参加者の人たちに話を聞く。 参加者の学生は「こんなことはしたくない、家でテレビ見たり映画を見たりゴロゴロしたい」「普通の生活を守るために戦う」とのこと。 雨傘運動の時のようなリーダーは今回はいないらしい。リーダーを作ればそいつが逮捕されるため。今回はゲリラ戦に徹しているとのこと。 友人たちに連絡、安否確認。
23:00 WanChaiの警察署の前で群衆が取り囲んでいた。警察による暴力的制圧に市民が憤っている。陸橋には大勢の警察が待機している。ライフルあり。
陸橋から特殊部隊が降りてきた。一瞬、緊張感が漂うが、参加者やプレス、酔っ払いが取りかこみ、怒号を浴びせかける。部隊は引き下がり、陸橋へ戻る。
にらみ合いは続く。
24:00 参加者がみんな帰り始めた。
とくにめぼしい動きがないからだという。 野次馬も多いらしかった。集まるときはバーッって集まって、帰るときはさっさと帰るのも香港スタイルか。 自分も地下鉄へ。 他の通りでは酔っ払った欧米人や商売に勤しむ地元人の姿があり、とても奇妙に思うが通りを挟んだら別の世界、これが香港らしさでもある。 電車に乗る。乗っている人たちは普通のひとたち。 九龍半島側では何事もなかったような風景で不思議。 無事帰宅したことをみんなに伝える。
友人の何人かはまだ現場にいるようだが、無事だった。
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忘れないうちに時系列でのメモでした。
帰国後、6月16日には200万人が参加する大規模デモが発生。 現在も抗議活動は続いている。
#hongkong#streetphotography#noextraditiontochina#反送中#demonstration#HONGKONG2019#2019 hong kong anti-extradition bill protests
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安倍晋三首相の訪中に先立つ4日前に、筆者は「透ける本音:なぜ中国は安倍首相訪中を促したか 中露の焦りは日本の主張を通すチャンス、明確に言うことが大切」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54423)を掲載した。
掲載時の「記事ランキング」で上位を維持し続けたのは、中国の反日や覇権志向に安倍首相がいかに対処するか関心が高かったからであろう。
総じて、戦後の日本は媚中外交を展開し、ODA(政府開発援助)に見たように徹底的に利用され、今日の軍事強国に心ならずも貢献してきた。
いままた、一帯一路で新植民地主義に走りつつある習近平政権である。その路線にストップをかけ、共生する国際社会に転換させる役割を、地球儀外交で世界を俯瞰してきた安倍政権に国民が期待した面もあろう。
産経新聞は「『覇権』阻む意思が見えぬ 誤ったメッセージを与えた」と厳しい総括をしたが、他の全国紙は「安定した関係構築の第一歩に(読売新聞)」「新たな関係への一歩に(朝日新聞)」など、関係改善への期待を示した。
媚中外交の是正なるか否か。筆者も注文を出した手前、成果を総括する義務があろう。
■ 3原則に対する認識問題
安倍首相が中国の首脳との間で確認したとする「競争から協調へ」「隣国同士として互いに脅威にならない」「自由で公正な貿易体制を発展させる」について、双方に認識の違いがあるのではないかという問題が浮上している。
首相は李克強首相および習近平国家主席との会談でこの文言に触れ、「日中関係を発展させていきたい」(対李首相)、「日中の新たな時代を切り開いていきたい」(対習主席)と発言したのに対し、中国側は「首相の表明を歓迎する」と表明したが「3原則」の文言を使わなかったとされる。
官邸のフェイスブックやテレビ・インタビューで安倍首相は(李首相や習主席と3原則を)「確認した」としているが、取材が許された首脳会談の冒頭発言や共同記者会見では「競争から協調へ」などのフレーズを使って原則に言及するが、「3原則」という用語は使わなかったようだ。
中国外務省も今回の会談で、習氏は「共同でグローバルな挑戦に対処し、多国間主義を維持し、自由貿易を堅持しよう」と発言し、また「『互いに協力のパートナーであり、互いの脅威とならない』という政治的合意を貫徹しなければならない」とも述べたと発表しただけである。
最初に報道したのは、10月28日付「読売新聞��朝刊である。「日中『3原則』食い違い」「首脳会談 首相『確認』、中国は触れず」と、ゴシック体の2行見出しをつけ、リードでは「安倍首相が中国の習近平国家主席と『確認した』とする『3つの原則』を巡り、日中で微妙な食い違いが生じている」と書いた。
2日後の「朝日新聞」(30日朝刊)も、「日中3原則 食い違い?」「首相『確認』、中国明言せず」と報道するが、読売新聞のゴシック見出しが明朝体になっただけでほとんど同じだ。
西村康稔官房副長官や外務省幹部は、一連の会談で首相が呼びかけたが、「3原則」や「3つの原則」という言い方はしていないという。
ただ、会談に同席した日本政府関係者は「会談で中国側からも反論はないし、一致している」と強調し、外務省幹部は「首相が言った3つは事前に中国側とすり合わせている」とも語る。
菅義偉官房長官は29日の記者会見で、「中国側の説明に『3原則』の文言がない」との指摘について、「これらの原則の重要性は会談で中国側と完全に一致しており、日中で食い違いが生じているという指摘は当たらない」と否定した(「産経新聞」10月30日)。
■ 原則を守らない中国・守る日本
中国は原則が好きだ。しかし、その原則を簡単に破り平然としているのも中国である。
周恩来元首相とインドのジャワハルラール・ネール初代首相は1954年に会談し、国際関係を律する一般原則として「平和5原則」を打ち出した。それは、領土・主権の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵、平和共存である。
翌1955年のバンドン会議(アジア・アフリカ〈AA〉会議)では平和5原則を踏まえ、基本的人権尊重、自国防衛権尊重(国連憲章の趣旨尊重)、紛争の平和的解決、相互利益と協力促進、正義と国際義務尊重などを加えた「平和十原則」を打ち立てた。
1978年締結の日中平和友好条約では「主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則」を認めた上で、「平和友好関係を発展させる」(第1条1項)、「紛争を平和的手段で解決する」(同条2項)と謳った。
第2条では「覇権を求めない」し、「覇権を確立しようとするいかなる国にも反対する」という文言がある。
当時の中国はソ連が覇権国となることだけは阻止しなければならないと必死であった。
日本に覇権条項の文言化を強く求め、日中共同声明発表から6年弱も費やしてようやく条約締結に至った。その中国が今は覇権を求めているとみられ、日米を含めた世界の脅威になっている。
第3条では、善隣友好の精神を説き、さらに平等・互恵・内政不干渉の原則を認めたうえで「経済・文化関係の発展と国民の交流促進」を謳った。
日本はいつも原則や条約などでの約束事��守る努力をするが、中国側は靖国問題や尖閣諸島、東シナ海ガス田問題などでしばしば約束違反の行動をとってきた。
WTO(世界貿易機関)加入後も中国は違反を繰り返して経済発展と軍事力の近代化を図り、反省するどころか、「太平洋は米中両国を受け入れるに十分である」などの発言で覇権志向をむき出しにし、一帯一路構想で具現化を図ろうとしている。
こうした覇権的言動や自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値観の無視は、17世紀から続くウェストファリア体制に基づく国際秩序の転換を目指しているとしか思えない。
■ 3原則は合意のもの
2006年10月の初外遊で中国を訪問した安倍首相は、胡錦濤・前国家主席との首脳会談で「戦略的互恵関係」を打ち出す。
「両国はアジアと世界に対して厳粛な責任を負う認識の下、国際社会に貢献する中で共通利益を拡大し、日中関係を発展させる」というものであった。
福田康夫政権は「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」を発表し、「政治的信頼の増進」「人的・文化的交流促進と友好感情の増進」「互恵協力の強化」「アジア太平洋並びにグローバルな課題への貢献」として、この概念を具体化した。
「共に努力して、東シナ海を平和・協力・友好の海とする」と謳ったのも、この共同声明においてである。北京オリンピックを3か月後に控えた中国の日本懐柔策でもあったようだ。
安倍首相は第2次安倍政権でも「戦略的互恵関係」を日中関係の基礎と度々強調しており、中国の掲げる一帯一路をテーマとした国際協力サミットフォーラムでも戦略的互恵関係に触れてきた。
中国の対日姿勢が軟化し始めた日中国交正常化45周年記念行事(2017年9月)頃から、首相は対中関係改善に意欲を示すようになる。
同年11月には習近平国家主席および李克強首相と第三国での国際会議で立て続けに会談し、戦略的互恵関係に基づいて経済協力や朝鮮半島問題での連携で一致したと語っている。
首相は「大国である中国と、それを追う日本が協力し、時に競争することも必要」と述べており、財界も「戦略的互恵関係に民間の立場から貢献する」と表明したことから、日本政府は軍事利用されかねない港湾開発を対象外に指定しつつ一帯一路に関する日中民間経済協力指針を策定する。
こうした最中の今年5月9日、李克強首相が来日した。首脳会談で一帯一路に関する第三国でのインフラ整備協力を具体化させる官民協議体の設置で合意し、10月の安倍首相の公式訪中で第三国でのインフラ共同投資など官民で52件の協力文書を交わした。
こうした経緯を経て、安倍首相は日中新時代の3原則を打ち出したもので、中国は「3原則」という用語を使用していないが、十分な合意があったとみ���いいであろう。
■ 安倍訪中は媚中外交に終わったか
11月1日付「産経新聞」オピニオン欄掲載の「China Watch」で、「日中首脳会談で得した中国」と評したのは石平氏で、安倍訪中は媚中外交に終わったとの見立てのようだ。
中国側が得したものとして、通貨スワップ協定、第3国での経済協力、中国経済の延命、さらには尖閣諸島への中国の挑発を議論に乗せなかったことを挙げている。
金融危機発生の可能性は中国側が高いので、通貨スワップ協定は中国側を助けることになる。
一帯一路はEUやアジア諸国からも反発されているが、首相は「潜在力のある構想」と評価し、第3国での経済協力という形での関与は中国にとって干天の慈雨であるという。
米国との貿易戦争で経済の減速が顕著となり、企業や国民の間には沈滞ムードが広がっていた。そこに安倍首相が「協調」を語ったことは国民の失望感を払拭し、中国経済を延命させるカンフル剤になるという。
また、安倍訪中の直前に連日、中国公船が尖閣諸島周辺の接続水域に侵入したが、挑発行為の防止策は議題にすらならなかった。こうしたことから、経済の減速で深刻な打撃を受けつつあった習政権は再浮上の自信を深めたという。
他方で、日本側の外交上の成果と見えるものは日本産食品の輸入規制緩和を求めたこと、拉致問題解決への協力の意思表明を引き出したことであるが、石平氏は「単なるリップサービス」の可能性があるとみる。
中国を利する行動は新植民地政策に加担する日本とみられ、また対中冷戦状態にある米国にとっては中国接近が裏切りにみえ、同盟に亀裂を生じさせかねない。
以上から、「日本側にとって成果は殆んどないが、大きなリスクを背負うことになった」と総括している。
他方、櫻井よしこ氏は、日本が中国に注文をつけた今回の会談を、「安倍首相は日本優位へと逆転したこの状況を巧く活用した」と評価した。
また、尖閣やガス田などの主権問題、慰安婦をはじめとする名誉にかかわる歴史問題、ウィグル人への弾圧や日本人の拘束などの人権問題などは何一つ解決していないが、「人権状況について日本を含む国際社会が注視している」と注文をつけたことは従来なかったことで、「日本外交の重要な転換点となるだろう」とみる。
懸念事項として「第三国への民間経済協力」と名を変えての一帯一路への協力を挙げる。また、大規模通貨スワップ協定についても、「中国と必要な関係は維持しつつも、彼らに塩を送り過ぎないことだ」と注意喚起する。
それは「(彼らは)自力をつければ、助けてくれた国に対しても牙をむく」からで、「彼らの笑顔は薄い表面の皮一枚のものと心得て、日本は戦略を読み違えてはならない」と警告する。
宮家邦彦氏も「産経を除く主要��紙の前向きの評価は表面上の成果に目を奪われた」結果だと述べる。そして、元外交官らしく、共同声明などの発表がなかったのは双方が「合意内容に満足していない」暗示で、いつでも蒸し返す可能性があると指摘する。
すなわち、「尖閣や歴史問題での戦略的対日譲歩はあり得ない」から、「現在の対日秋波は日本からの対中投資を維持しつつ日米同盟関係に楔を打つための戦術でしかない」と言い切る。
戦術的な秋波でしかないが、「(強国路線に手を貸さずに)経済分野で可能な限り譲歩を引き出すこと」は日本に可能だと述べる。
筆者は「3原則」を中国も確認したという前提で、原則から外れる状況では経済協力を唯々諾々と進める必要はないと思考する。
中国は自己都合で約束事を朝令暮改し、稼いだ金を持ち出せないように平気でやる国である。どっぷり浸からず、いつでも引き返せるように命綱をつけておく必要があろう。
なお、中国政府が共産党・政府系メディアに対し、日本のODAが中国の経済発展に貢献したことを積極的に報じるよう指導したという。
安倍訪中の期間だけの報道なのか、それとも主要なインフラ施設で銘板表示などして恒常的に国民に知らせるのかは中国の本気度を見る指標として注視に値すると思料する。
■ 首相訪中のための対米対策
なお、本節と次節は安倍首相の人となりから筆者が読み解くものである。
「アメリカ・ファースト」「メイク アメリカ グレイト アゲイン」を声高に叫ぶドナルド・トランプ米大統領は、「ドナルド・シンゾ―」の友情などかなぐり捨てて、いつ日本に襲いかからないとも限らない。国際政治や覇権を目指す国家の非情でもある。
米初代大統領のジョージ・ワシントンは「外国の純粋な行為を期待するほどの愚はない」と言ったし、フランスのシャルル・ドゴール将軍は「同盟などというものは、双方の利害が対立すれば一夜で消える」と述べ、独自の核戦力を整備した。
安倍首相は首脳会談10日前に、谷内正太郎国家安全保障局長を派遣してジョン・ボルトン米大統領国家安全保障担当補佐官に訪中の意図を説明させている。
それによって、日本の政府関係者は「対中接近ではないという点を米政府は十分理解している」と語っている。
また、ちょうど1か月前(9月26日)の日米首脳会談で、「第三国でのインフラ整備」に関する協力については「トランプ氏と同様の協力を進める方針を確認していた」と、10月27日付読売新聞朝刊は報じた。
こうした日米の意思疎通を図りながらも、安倍首相には「独立国家・日本」の立ち位置を改善する意志があるように思える。一帯一路に協力するような素振りは、そうした梃子の一つとして利用したとは言えまいか。
覇権志向や歴史問題��どはあるが、隣国である地勢はいかんともしがたく、上手くつき合っていくしかない。
また、朝鮮半島問題、中でも北朝鮮の核や弾道ミサイル対処と拉致被害者の帰国では、北朝鮮に影響力を有するとされる中国の力にも期待するよりほかにない。
加えて、日本が独立国家であるからには、対米自主性が必要である。在沖縄米軍が事故を起こしても、日米安保に基づく地位協定によって、日本政府のコントロールが効かない。
横田基地に通じる航空機管制も同様であり、静内(北海道)では米空軍機の超低空飛行で、競走馬の被害がしばしば起きた。
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)でも日本は米国に翻弄され、今では日本に2国間協議を強要しかねない状況である。
米国という国家に品格がないと言えばそれまでだが、国家の力関係、中でも日本の安全は日米同盟によって保障されており、特に核兵器において然りであり、致し方ない面がある。
しかし、ドイツやイタリアは自国の主権を保持した地位協定を結んでおり、米軍が勝手に訓練などができる環境にはない。
独伊同様の地位協定への突破口を開くためにも、米国に対し日本の地勢を戦略的に高く評価させると同時に、ある程度の焦りを持たせる戦術も必要となる。
大袈裟に言えば、米国を一瞬慌てさせるような日本の対中姿勢は、日本が独立国である意思の対米示唆であり、米国に「そうだ、日本は独立国家だ」という意識をもたせる側面効果もあるであろう。
郵政民営化は日本の主導性で進められたのではなく、米国が改革リストで示したものであった。この一事からも、米国は日本を従属国のように見る傾向がある。
ズビグネフ・ブレジンスキーがずばり、「ひ弱な花・日本」と表現した通りで、米国には「保護国」としか見えていないのだ。
■ 日中・日米関係史からの読み
有史以来の日中関係を概観すると、朝貢外交をはじめとして、日本が中国(経由地としての朝鮮半島を含む)と関わりをもった時、日本は大陸や半島の混乱に巻き込まれている。逆に、関係をもたないときは平安が続いた。
平家の天下は清盛の南宋貿易から一代の栄華で終わり、天下人の豊臣秀吉も半島出兵で一代政権に終わった。他方で、関東武士の流れを汲む源頼朝、足利尊氏、徳川家康は幕府を開き150年から270年の長期政権を維持した。
江戸の太平を破ったのはペリーの来航であり、明治維新を経て再び半島・大陸に関わり日清・日露戦争、そして大東亜戦争へと繋がり、かつて経験したことのなかった敗戦で米国による占領政策を強いられた。
戦後の約30年間は大陸と途絶し、日本は著しい復興を遂げた。しかし、1972年の日中国交正常化以降は中国への媚中外交に翻弄され、7兆円に上るODAや資源ローンを中華人民共和国につぎ込む。
結果は期待に反するどころか、自由・人権や法の支配といった普遍的価値観を否定し、強大化した軍事力を背景に独自の社会主義世界を目指し、日本を敵視する今日の中国を出現させることにつながった。
以上に見るように、対中接近・関与は歴史が示すとおりあまり良いことはなく、適当な距離が必要である。それでも、つき合わないわけにはいかない。
第1次政権の安倍首相は、真っ先に中国を訪問して「戦略的互恵関係」を打ち出す。しかし、その後の日中関係は、戦後最悪とまで言われるようになっていく。
政権に返り咲いた安倍首相は、中国の頑なな反日姿勢に動ずることなく、この原則を曲げることはなかった。
そうした中で、米国の高関税や新植民地主義と批判され始めた一帯一路の突破口を開くべく中国が日本に近づいてきた。そこに実現した今回の相互訪問による首脳会談である。
安倍首相にとってはまたとない機会であった。
日本の基軸にある対米同盟関係を熟慮したうえで、許容できる範囲内で冷え込んだ日中関係を発展させる構想は不思議ではない。それが3原則に基づく「新しい日中関係」であるに違いない。
中国を助ける思わせぶりで米国からも譲歩を引き出す。しかし、断じて中国の軍事強国化には与しない。そして日米、日中を共にウィン・ウィンの関係にもっていく。
こうした高等戦術が今次の安倍訪中の深層にあったと思えてならない。
■ おわりに
安倍首相は中国首脳と会談して帰国した翌日、インドのモディ首相を山荘に迎え、中国首脳の安倍歓迎とは一味も二味も異なる振る舞いを見せた。
そして翌日の首脳会談では、「自由で開かれたインド・太平洋」に向け価値観を共有することを確認した。日中協力を約した日本ではあるが、覇権志向で一方的に中国が突き進めば、日本は3原則を盾に非協力に出ることができる。前のめりの企業もあるだろうが、日中友好下でも共産党首脳部の考え一つでナショナリズム一辺倒に傾き、日本企業にも莫大な損害を与える「中国」であることを一時も忘れてはならない。
筆者の好きな言葉は「和して同ぜず」である。「日中関係は『友好ごっこ』である」と語ったのは古森義久氏である。今回の会談を筆者も冷めた目で見てきた。首相が確認したという3原則も、中国は一切触れていない。歴史認識では「過去を直視し」と、今回も語っている。尖閣周辺の動きも変わっていない。
日本の支援をどこまで進めるか、3原則に照らしながら進める必要がある。反するようであれば、手を引く、その決断を適切に行う必要がある。決して中国の覇権に手を貸すことがあってはならない。
油断すれば、ジョージ・オーウェルの『1984年』が中国に出現し、日本と世界に想像もできない災難をもたらすからである。
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敵のタイプ別攻略方法 敵の値踏みとタイプ別の攻め方
市営住宅集会所へ講演会を聞きに行った。 演題は「 兵法書 ( へいほうしょ ) を読んで『生き方』を考える」。内容の要点は次の通りだった。 呉起 ( ごき ) は、今から2400年ほど前に、 魯 ( ろ ) ( 斉 ( せい ) の近隣諸侯国)、 魏 ( ぎ ) 、 楚 ( そ ) と転職をくり返し各国で華々しい軍功を挙げながら、素行の悪さで定着できず、最後には、富国強兵策で特権を奪った貴族たちから恨まれて殺された 軍略家 《 ぐんりゃくか 》 。
以下は、呉起が説いた兵法の要旨。 〖国を治める〗 〔不和〕 1_国内が不和であれば、軍を発することはできない。 2_軍内が不和であれば、陣を組むことができない。 3_陣営内が不和であれば、進撃することができない。 4_兵士が不和であれば、勝利を収めることはできない。 〔徳目〕 1_道:根本原理に立ち返り、始まりの純粋さを守る 2_義:事業を行い、功績をあげる 3_謀:禍を避け、利益を得る 4_要:国を保持し、君主の座を守る 〔戦の原因〕 1_名誉欲 2_利益 3_憎悪 4_内乱 5_飢饉 〔軍の名目〕 1_義兵:無法を抑え、乱世を救う兵⇐礼をもって和を求める 2_強兵:兵力を頼んで戦を仕掛ける兵⇐謙虚な態度で説得 3_剛兵:私憤から戦を仕掛ける兵⇐外交折衝 4_暴兵:礼節を棄てて略奪をほしいままにする兵⇐策略 5_逆兵:���内が乱れ、民が苦しんでいるのに戦に駆り出される兵⇐臨機応変の処置 〔百人部隊の編制〕 1_肝のすわった勇者の集団 2_好んで戦い全力を挙げて武功を立てようとする者の集団 3_高い障壁を飛び越えたり遠い道を踏破したりできる者の集団 4_位を失って再起を図ろうとしている者の集団 5_城や陣地を棄てて敗走した汚名をそそぎたいと思っている者の集団 [注 伍は五人、両は伍が五つで二十五人。 卒 ( そつ ) は四両で 百人 ( ・・ ) 。旅は五卒で五百人。師は五旅で二千五百人。軍は五師で一万二千五百人] 〔必勝法〕 日ごろから、優れた者を高い地位につけ、無能な者を低い地位にすえる。 民の生活を安んじ、役人に親しませる。 百官がみな、わが主君を正しいと信じ、隣国を悪いと考えるような政治を行う。 〖他国を評価する〗 斉:人は剛毅で、国も富んでいるが、主君も臣も驕り高ぶって、民をないがしろにしている。その政治は寛大だが、俸禄は公正でなく、軍は統一しておらず、先陣がしっかりしていれば後陣は手薄になる。⇐必ず兵を三分して敵の左右を脅かした上で追撃する。そうすれば敵軍を破ることができる。 秦:人は強靭で、地形は険しく、その政治は厳しくて、信賞必罰で、人も功を競い合い、みな闘争心が旺盛で、勝手に戦おうとする。⇐必ずまず利益を見せびらかせて釣り、兵を引く。そうすれば敵は功をあせって統制を乱す。これに乗じて伏兵を繰り出し、機会を捉えれば、敵の将を虜にすることができる。 楚:人は軟弱で、国土は広く、政治は乱れ、民は疲弊している。そのため規律があっても持久力が乏しい。⇐本陣を襲撃して敵の戦意を削ぎ、機敏に行動して敵を翻弄し、疲れさせる。 燕:人はまじめで、民は慎重であり、勇気や義理を重んじて、策をめぐらすことは少なく、ゆえに守りを固めて逃げ出したりしない。⇐近づいたと見せて急に攻め、攻めるとみせて退き、追うとみせて背後にまわるなど、神出鬼没に行動する。そうすれば必ず敵の指揮官はこちらの意図がわからず、部下は不安になる。兵車や騎兵を伏せ、敵をやり過ごして襲えば、敵将を虜にすることができる。 三晋:性格は穏やかで、政治は公平。しかし民は戦に疲れ、兵事に慣れている。そのため指揮官をあなどり、俸禄が少ないと不満をもらし、死ぬまで戦おうとしない。ゆえに統制は取れているが、実戦の役には立たない。⇐対陣して相手を圧倒する。攻めてくれば阻み、退けば追撃するといったようにして、戦に嫌気を起こ��せる。 〔敵情:攻撃適機〕 1_風が強く、厳しい寒さで、敵が早朝に起きて移動したり、氷を割って河を渡り、難儀を顧みないでいる 2_夏の真っ盛りの炎天下に、日が高くなっても起きず、起きると間もなく行軍し、飢え渇きながら行動している 3_軍が長い間戦場に止まり、食糧は欠乏し、百官の間に不満の声が高まり、奇怪な事件がしばしば起こっていながら、指揮官がこれをおさえきれていない 4_軍の資材がつき、薪やまぐさも少なくなり、雨が続き、物資を略奪しようにもその場所がない 5_兵数も多くなく、水地の便も悪く、人馬ともに疲れ、どこからも援軍がこない 6_行軍が長く日も暮れ、兵士は疲労と不安におそわれ、うんざりして食事もとらず、鎧を脱いで休息している 7_指揮官の人望が薄く、参謀の権威も弱く、兵士の団結力が弱く、全軍がおびえていて、援軍がない 8_布陣が完成せず、宿舎が定まらず、また険しい坂道を行軍して、到着予定の半分も着ていない 9_敵の進軍がしまりがなく、旗が乱れ、人馬とも振り返ることが多い 10_同盟する諸侯が到着せず、臣君が和せず、陣地も完成しておらず、禁令が施されておらず、全軍が戦戦兢兢として進もうにも進めず、退くこともできない 11_敵が遠くから来て、到着したばかりで、まだ陣地も整わない 12_食事をし終えて、まだ防禦態勢が整っていない 13_あちこちと走り回っている 14_疲れている 15_有利な地形を占領していない 16_時勢を失っている 17_長距離の行軍で、遅れた部隊が休息できていない 18_河を渡ろうとして、軍の半分しか渡り終えていない 19_険しい狭い道を行軍している 20_旗が乱れている 21_陣営が忙しく移動している 22_将と兵士の心が離れている 23_兵士がおじけづいている ―敵の充実したところを避け、手薄なところを攻める― 〔戦を避けるべき相手〕 1_土地が広大で民が豊かで、人口が多い 2_君主が下々の者を愛し、恵みが国中に行き渡っている 3_賞罰が公平であり、発する時期も時を得ている 4_功績のある者に高い地位を与え、賢者や能力のある者を重用している 5_軍団の兵士が多く、装備が整っている 6_隣国や大国の助けがある 〖軍隊の管理〗 〔四軽〕 1_地形をつぶさに見極めたうえで馬を走らせる 2_まぐさを適当に与える 3_車に油を十分注す 4_武器を鋭く、甲冑を堅固に整える 〔二重〕 1_進んだ者には重い賞を与える 2_退いた者には重い罰を加える 〔勝敗の要因〕 1_平生の訓練で、礼節を守り、行動を起こすときには威厳があり、進むときには阻むことができず、退く時には追撃できず、進退に節度があり、左右両翼の軍も指揮に呼応し、分断されても陣容を崩さず、分��しても隊列をつくることができ、安全な時も危険な時も、将兵が一体となって戦い、いくら戦っても疲労すしないような軍隊を作れるかどうか 2_飲食を適切に取り、人馬の力を消耗させていないかどうか 3_将が、穴のあいた舟に乗り、燃えている家で寝ているように、必死の覚悟をしているかどうか 4_優柔不断に陥るかどうか 5_訓練が良くできているかどうか(近くにいて遠くの敵を待ち、余裕を持って敵の疲れるのを待ち、満腹の状態で敵が飢えるのを待つ。円陣を組んだかと思えば方陣を組み、座ったかと思えば立ち、前進したかと思えば止まり、左に行ったかと思えば右に行き、前進したかと思えば後退し、分散したかと思えば集中する。様々な変化に対応できるよう習熟させる。) 6_戦の訓練で、背の低い者には長い矛を持たせ、背の高い者には弓や弩を持たせる。力の強い者には旗を持たせ、勇敢な者には鐘や太鼓を持たせる。力の弱い者は雑用に使い、思慮深い者は参謀とする。同郷の者で 伍 ( ご ) を編成し連帯責任を持負わせる。 7_一度目の太鼓で武器を整え、二度目の太鼓で陣立てを整え、三度目の太鼓で食事をとり、四度目の太鼓で武器を点検し、五度目の太鼓で進軍の状態にさせ、そして太鼓の音が揃ってはじめて、旗をかかげる。 〔行軍の定石〕 1_深い谷間の入口や大きな山のふもとを避ける。 2_青竜の旗を左に、白虎の旗を右に、朱雀の旗を前に、玄武の旗を後ろに立て、招搖の旗を中央にかかげて、その下で将が指揮を執る。 3_順風のときは敵を攻め、逆風のときは陣を固めて待機する 〔軍馬の飼育〕 1_環境を良くし、水や草を適度に与え、腹具合を調整し、冬は厩舎を温め、夏にはひさしをつけて涼しくし、毛やたてがみを切りそろえ、注意深く蹄を切り、耳や目をおおって物に驚かないようにし、走り方を学ばせ、留まりかたを教育し、人と馬がなれ親しむようにする。 2_鞍、おもがい、くつわ、手綱などはしっかりとつける。 3_馬は、仕事の終わりや腹が減ったときよりも、仕事の始まりや食べ過ぎたときに駄目になる。 4_日が暮れてもまだ道が遠い時には、時には降りて休ませる。人はくたびれても馬を疲れてさせてはならない。いつも馬に余力をもたせ、敵の奇襲攻撃に備える。 〖将軍のあるべき姿〗 〔心得〕 1_管理:大部隊をあたかも小部隊を治めるように掌握して統率する 2_準備:門を出れば、いつ敵に襲われてもいいように備える 3_決意:敵を眼の前にして決死の覚悟を持つ 4_自戒:勝っても戦を軽々しく考えないように自らを警戒する 5_法令簡略化: 6_形式的な煩雑さを避けて分かりやすくする 7_命令を受ければ家人に別れを告げることもなく、敵を撃ち破るまで家人のことを言わない 〔好機〕 1_精神:全軍兵士の動きを充実させる将軍の気 2_土地:道が狭く険しい高山の要塞では、十人の兵卒でも千人の敵を防ぐことができる 3_状況:間諜を放ち、軽装備の兵を発して敵の兵力を分散させ、君主と臣下の心を切り離し、将と兵がお互いに非難しあうようにしむける 4_力:車の楔を堅固にし、舟の櫓や櫂を潤滑にし、兵士をよく訓練させ、馬は良く走るように調教しておく 5_将の威徳や仁勇:部下を統率し、民を安心させ、敵をおののかせ、疑問が生じても迷うことなく判断する。 〔軍の威信を兵卒に伝える戦具〕 1_太鼓・鐘:耳から 2_軍旗・采配:目から 3_禁令・刑罰:心から 〔敵将のタイプ別対応策〕 1_愚直で軽々しく人を信用する⇐だまして誘い出す 2_貪欲で恥知らず⇐賄賂で買収する 3_状況の変化を軽く考える無思慮⇐策をつかって疲れ苦しめる 4_敵将が富んで驕り高ぶり、部下が貧しくて不満をもっている⇐これを助長し、離間させる 5_優柔不断⇐驚かせて敗走させる 6_兵が敵将を軽んじて帰郷の心がある⇐逃げ易い道を塞いで険しい道を開いておき、迎え撃って殲滅する 〔敵将タイプ判別法〕 1_身分は低いが勇気のあるものを選び、敏捷で気鋭の兵士を率いて試みる。彼らにはもっぱら逃げさせ��勝利を収めさせない。敵が追ってくるのを観察し、兵卒の一挙一動を見て軍規がゆきわたっているかを見る。追撃するときもわざと追いつけないようにみせたり、有利とみてもわざと気づかないふりをして誘いに乗らないようであれば、智将。戦を避ける。 2_部隊がさわがしく、旗は乱れ、兵卒はばらばらに動き、隊列が縦になったり横になったりして整わず、逃げる者を追おうとしてあせり、利益があると思えばやたらそれを得ようとするのは愚将。捕虜にできる。 〔場所別対応〕 1_進みやすく退却が難しい場所では、敵が行き過ぎてきたところを討つ 2_進みにくく退きやすい場所では、こちらから討って出る 3_敵軍が低湿地に駐屯していて、水はけが悪く長雨が続いているようであれば、水攻めで溺れさせる 4_敵が荒れた沢地に駐屯していて、雑草や潅木が繁茂しておりつむじ風が吹いているようであれば、火攻めで焼き滅ぼす 5_敵が駐屯して動こうとせず、将兵ともにだらけ、軍備も十分でない場合は、深く侵入して奇襲する 〖ケースごとの対応〗 1_敵の急襲を受け、混乱して隊伍が乱れた場合 ↑←自軍に威光が行きわたり士卒が命令どおりに動くのであれば、慌てず対処する。 2_敵が大軍で、自軍が少ない場合 ↑←平坦な土地での戦闘を避け、狭く険しい地形にさそいこむ。 [一の兵力で十の敵に当たるときは狭い場所で。十の兵力で百の敵に当たるときは険しい場所で。千の兵力で万の敵に当たるときは障害の多い場所で。] 3_敵の兵力が非常に多く、武勇に優れており、大きな山を背にして要害の地に拠り、右手に山、左手に川、堀を深くして砦を高くし、強弩をもって守っており、退くときは山のように堂々としており、進むときは雨風のようにはげしく、兵糧も十分で、長期戦になってもこちらが不利になる場合 ↑←千輌の戦車、一万の騎馬兵を備え、さらに歩兵を加え、全軍を五つに分け、それぞれの道に布陣させる。五つの軍が五つの道に布陣していれば、敵は必ず迷って、どこを攻めればよいか分からないでしょう。敵が固く守るようであれば、急いで間者を送り込み、敵の意図を探る。敵がこちらの言い分を聞けば、囲みを解いて去る。聞き入れずに使者を斬って、文書を焼き捨てるようであれば、戦闘開始。勝てなければすばやく退却する。勝っても追い討ちをかけない。余力残してわざと逃げ、整然と行動して、すばやく戦い、ひとつの軍は前方の敵をくぎづけにし、ひとつの軍は後方を分断し、別のふたつの軍は、馬に枚をふくませてひそかに左右に動かして急襲し、五軍が次々に攻め立てる。 4_敵が近づいて自軍に迫り、退却しようとしても道がなく、兵卒が不安におちいった場合 ↑←もし敵が少数で自軍が多数であれば、部隊を分散して代わる代わる敵を討つ。もし敵が多数で自軍が少数であれば、策をめぐらせて相手の隙を狙い、継続的に敵を攻める。 5_敵に渓谷でぶつかり、周囲は険しい地形が多く、しかも敵が多数で自軍が少数の場合 ↑←丘陵や森林、深い谷や険しい山、大きな沼沢地にあえば、すばやく通過する。万一、深山幽谷でいきなり敵と遭遇したら、必ず先手を取って太鼓をたたいて敵を驚かせて、弓や弩を射掛けながら攻め立て、敵を捕え、敵軍の混乱を見極めたうえで、ためらうことなく追撃する。 6_左右に山がそびえ立ち、地形は狭く、身動きできないようなところで、急に敵に遭遇し、あえて攻撃もできず、退却もできない場合 ↑←味方の兵のうちから武術に優れた者を選んで敵に当たらせる。そして身の軽い兵を先頭に立たせて、戦車や騎兵を分散させて四方に潜ませる。敵との距離を数里に保ち、相手に見つからないようにする。陣を固く守り進退できない敵に対して、山かげから旗を押し立てて陣立てを現す。驚く敵に向かって、戦車と騎馬を出動させ、休む間もなく攻めかかる。 7_敵と大きな沢沼地で遭遇し、車輪はぬかるみに落ち、轅は水につかり、水は車にせまり、舟の用意もなく、進退に窮した場合 ↑←戦車や騎兵を用いることなく、しばらく待機させ、高いところに登って四方を観察し、幅の狭いところ広いところ、浅いところ深いところ、水の状況を調べたうえで策を巡らす。もし敵が水を渡って攻めてきたら、およそ半数が渡るまで待って、攻める。 8_長雨続きで、馬はぬかるみに落ち、戦車も動かないようなときに、四方から敵の攻撃を受け、全軍が驚き慌てふためいた場合 ↑←戦車は、晴れて湿気がないときに動かすもの。雨天や湿気のあるときには用いない。頑丈な戦車を走らせ、進むにしても止まるにしても、必ずその道理に従うようにする。雨天や湿気のあるときには低い土地を避け、高いところをめざす。 9_凶悪な敵がいきなり侵入してきて、わが国土を侵し、牛や馬を略奪していくような場合 ↑←昼間は守りを固めて敵に応じず、日暮れになって敵が退却するときに追撃する。敵は、帰りを急ぐが、戦利品で動きが鈍くなっているので、焦りで部隊が乱れる。 10_城邑をすでに攻略し、それぞれの宮殿に入った場合 ↑←宮殿の財貨を奪い、収用する。軍が駐屯した土地では、住民を害しない意図を示して不安をとりのぞく。自軍を厳しく取り締まり、材木を切ったり、建物を荒らしたり、食糧を盗ったり、家畜を屠ったり、財産を焼き払ったりさせないようにする。安心して投降できるよう、寛容さを示す。 〖信賞必罰〗 〔供応エピソード〕 呉王は、廟前で宴会を開き、家臣たちを3列に並べて供応した。最高の功績をあげた者は前行に座らせ上等の器に上等の料理を盛ってもてなした。それに次ぐ功績をあげた者は次の列に座らせ皿数をやや少なくした。功績のなかった者は後の列に座らせて、料理の数をわずかにした。 饗宴が終わると、功績ある者の父母妻子には、廟の門外でみやげ物を贈った。そのときも功績ある者とない者で差をつけた。 戦死した者の家族には、毎年、使者を送ってその父母をねぎらい、贈物をして、功績を忘れないでいることを知らせた。 これを行うこと3年。秦が軍を興して西河に進軍してきた。魏の臣はそれを聞くと、命令を待たずに装備を整えて奮って敵を討とうとする者が数万におよぶほどであった。 呉起は、「人には短所と長所があり、意欲には盛んになるときと衰えるときがありる。功績のなかった者を試しに五万人ほど徴集してください。五万の兵を死にもの狂いにして、戦ってみせます。」と言って、五万の兵を託された。戦いの前日、呉起は全軍に、「各吏士たちよ、戦車、騎兵、歩兵それぞれに対応して戦え。戦車隊が敵の戦車隊を打ち破れず、騎馬隊が敵の騎馬隊を打ち破れず、歩兵隊が敵の歩兵隊を打ち破ることができなければ、敵を破ったとしても、功績があったといえない。」と訓示した。そして、戦車五百乗、騎馬兵千人を含む五万の兵で、秦軍五十万を破った。
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昔書いた小説(という名の黒歴史)
小説は読むのも書くのも好きです。時間を忘れてしまう…
まあ小説書くと言っても完成させられた試しがないのですがorz
というわけで書き途中の過去作です。赤ずきん風味のダークファンタジー。
続きもこれから上げるかもしれません。
狼姫
1.赤の饗応
武装した一群の携えた松明の炎が、洞窟の闇をあかあかと照らしている。
赤光を照り返して浮かび上がる洞窟内部の景観は地獄絵図のようにおどろおどろしい。
壁面にうねる大量の襞、上方から幾重にも折り重なって垂れ下がる鍾乳石。岩石でできているとは思えないほど複雑かつ有機的なそれらの造形は、罪人の魂をむさぼる化け物の口内を思わせる。
実際にこの空間は、構造だけでなくその果たす役割も、化け物の口、あるいは食道そのものと言えた。
明かりに驚いた蝙蝠たちがせわしなく飛び交う悪夢じみた魔窟の中に、片手に松明、片手に武器を携えた戦士たちの姿がある。
化け物退治の一隊だった。この地で人間を喰らい続ける悪魔を成敗するための。言わば正義の戦いに身を投じる、銀の鎧に鎖帷子で身を固めた兵士たち。とはいえ内実はほとんどが賞金目当てで招集に応じた傭兵崩れであるが。
彼らは全員固唾を飲んで、人がようやく二人すれ違える程度に狭く曲がりくねった洞窟の中、一列に並んで前方に目を凝らしていた。
いくら洞窟の奥を伺おうと曲がりくねった道でのこと、岩壁に視界を阻まれる。それでも彼らは凝視せずにはいられない。
けれど、彼らに視覚をはたらかせる必要はない。先行した仲間の行く末を知るためには。
耳さえ機能していれば十分だった。
またも、骨が噛み砕かれる嫌な音と共に仲間の絶叫が響き渡る。これで7人目だ。
隊列の最先端で、腕を喰いちぎられた男―7人目は自らの血に塗れながら、死に物狂いの形相で転がるように後ずさった。
片腕を捧げた化け物に命まで取られないため、本能的にそうしたのだった。
血や人体の一部や丸ごとの骸が散乱したその場所には、唸り声を上げる黒い大きな影がたたずんでいた。
力強い前脚、血潮を被って赤黒く変色した体毛。松明を反射して真っ赤に輝く双眸は、人間の原始的な恐怖をかきたてる。
古くからこの地域に君���する人喰いの魔性にして、この度の討伐行の標的…それは巨きな、巨きな狼の姿をしていた。
・・・・
狼は巨大な顎を開いて、噛みしめていた7人目の肘から先を吐き出した。
ごとり、と音を立てて地面に投げ出されたそれは、本体から切り離された今も手に銀の刃を握りしめている。
『…だから、何度も言っているだろう。私に銀は効かないよ。』
赤黒い血が滴る牙もあらわに、狼は唸り声交じりの人語を発した。
「くそ…よくも!」
深手を負った7人目が命からがら退避するのと同時に、後詰めの戦士が敵を迎え撃たんと前に出る。
しかし次の瞬間、銀の長剣が戦士の手元から消え、狼の口元に移動している。
狼を恐れて剣を前方に大きく突き出していたのが災いして、あっさりと奪い取られたのだった。
さらに次の瞬間―後方に並ぶ戦士たちが8番目の悲鳴を聞いた直後―8番目は鎧に覆われていない首筋に牙を立てられる。
…7番目とは違い運悪く急所を噛まれたから助からない。
もう限界だった。後詰めの戦士たちの、ギリギリで持ちこたえていた士気が崩れ去る。
「ひいっ…!」
「もう嫌だぁ!!」 「殺される!」
十数人分の悲鳴と共に、戦士の列は押し合いへし合いしながら敗走を始めた。
「何をしているか!臆病者どもめが!!化け物の首を取らぬ限り、洞窟の外には出さんぞ!」
崩れた隊列を立て直そうと指揮官が唾を飛ばして怒鳴り散らすものの、
恐慌をきたした軍隊にもはや規律はなく、指揮官の権威など毛筋ほどの意味もない。
麾下の戦士たちは立ちふさがる上官をためらいなく突き飛ばし押し倒して、その体を踏み台代わりに、重い銀の鎧を鳴らしながら洞窟の外を目指しがむしゃらに走る。
だが敗走を選んだ以上、狼に無防備な背中を晒すことになる。だから殿の戦士から続々とやられていく。
前脚の薙ぎで9人目が頭部を跳ね飛ばされ、10人目が腿を引きちぎられて絶叫し、11人目の犠牲者は転んで倒れて後ろから来た戦士に散々踏みつけにされた末、狼に首を喰いちぎられた。
討伐隊の生き残りは、残り10人。狼は戦士たちの鎧が立てる音から正確に判断する。
…まあ大した人数ではないし、逃がしたところで今後大した脅威にはなるまい。
それにこれ以上生き残りを追い続ければ、戦いに不利な地形におびき出される可能性がある。
狼はそう考えて追撃の速度を徐々に落とし、立ち止まった。
『(全く…今回の討伐隊も、他愛ない。)』
心の中で呟きながら首を巡らせ方向転換し、ひたひたと足音を響かせながら、洞窟の奥に向かって進み始める。
命拾いした討伐隊の残党のたてる鎧の音はだんだん遠ざかり、やがて聞こえなくなった。
戦士たちが去った今、当然洞窟の中に明かりは一切ないが、狼にとってこの洞窟は長い歳月の間住み慣れた我が家だ。何も見えずとも行動に支障はない。
奥の方にある寝床へ戻る道すがら、狼は返り討ちにした戦士の骸を腹に入れる。負傷して洞窟内に取り残された戦士たちも、息の根を止めたあとで同じようにした。
「贄」が途絶えてもうずいぶん経つが、その代わり定期的に討伐隊が来るようになったから食料には事欠かない。…多すぎて困るくらいだ。
けれど討伐隊の死体は食べずに放っておくと嫌な臭いを発散するので、無理にでも食べるしかない。
眩しい松明の光が去り、平和な暗闇を取り戻した洞窟の中で、ミチミチ、パキパキと骸を齧る音が響く。
しかし肉を千切る音と骨が割れる音の中に、少しだけ…ほんのかすかであるが別種の音が混じっていることに気が付いた狼は、食事をやめて顔を上げた。
聞き違いではない。やはり肉を食むのを止めてからも、その異音は響いている。
かつり、かつりと、徐々に近付いてくる。
『何者だ。』
洞窟の入り口がある方向に向かって低く問いかけると、地の底から轟くような恐ろしい声は何重にもなって洞窟中に木霊した。――洞窟の入り口付近にいるはずの足音の主にも聞こえたのだろう、音はしばらくの間鳴りやんだ。
けれど、その何者かは威嚇を受け流すかのように、再びかつり、かつりと足音を立て始めた。
…自分の声を聞いても慌てふためいて逃げ帰らないということは、只の迷子ではない。
それに、足取りに迷いがない。洞窟の奥に化け物がいることを重々承知した上でまっすぐに洞窟の奥を目指しているようだ。恐らく先ほどの討伐軍同様の敵だろう。狼は考えた。
しかし妙だった。化け物退治にやってくる連中はそのほとんどが、兜と鎧で武装して大人数で隊列を組んだ男たちであったが、聞こえてくる足音はたった一人の人間、それも華奢な若い女のものだ。
人間の女一人など、普通なら脅威になり得ない。それでも狼は決して警戒を緩めなかった。
やがて遠くに微かな明かりが現れる。闖入者が持つランプの光だ。
光で闇が淡い橙色に切り取られた中に、闖入者の姿が見えた。
予想通り、華奢な少女だ。
金髪で、きれいな顔立ちをしている。やや吊り上がった瞳は気が強そうだ。
彼女の姿を見て狼は緊張を高めた。正確に言えば彼女の服装に反応した。
少女が着ているのはフリルで装飾された白いワンピースだったが…無論それだけなら警戒に値しない。
問題は少女がワンピースの上に纏っている、いかにもアンバランスな古めかしいフードつきのローブだ。
狼の住むこの集落で、このローブはかつて宗教的指導���―祭司の地位を示すものだった。
使い古されたローブは裾がぼろぼろで煤けていて、染みや汚れが目立つ。しかし、そのくたびれたローブの本来の色彩を狼は知っている。
幾度となく目にしてきた色。熟れた林檎よりも、沈む間際の夕日よりも鮮烈な、真新しい血潮そのものの紅。
狼は驚愕に目をみはる。遠い過去の陰惨な記憶が脳裏をよぎる。
『お前は…赤ずきん!』
思わず、狼は吠えるように叫んでいた。
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【CoC】顔(だけ)はいいアイツが行方不明になった件について
【概要】
プレイ人数:2〜3人
所要時間:ボイセで2〜3時間程度
推奨職業:探偵、警察関係者、もしくはNPCの知人
推奨技能:なし
形態:シティシナリオ、村を回る程度のもの
ある程度軽めのシティシナリオとなっています。また、グロ描写は無い為、クトゥルフによくある事件!死体!内臓!!が苦手な方、初心者の方にもお勧めです。
特にこれといった技能がなくても、行動次第でクリアが可能となります。推奨技能は無しと伝えてください。
【シナリオ・イラストの利用規約】
OK:主旨が変わらない程度の軽度の改変、このシナリオを回す場合のNPCとしてのイラスト使用、このシナリオのリプレイ動画への使用(報告不要)や卓画面のスクリーンショットの投稿
NG:イラストのサイズ以外の加工処理、シナリオやイラストの二次配布、無断転載、このシナリオ以外での立ち絵、トレーラーの使用、重大なネタ��レとなる画像や文字を多くの人の目に留まる場所へ投稿する行為
リプレイ動画等に使用される場合は、絵師様のお名前、Twitterアカウントの明記をお願い致します。
トレーラー・キャラクター画像 黒川たすく @tas_po
シナリオ 詐木まりさ @kgm_trpg
【あらすじ】
サークル旅行先で美人を捕まえたイケメン、丘竹義人(おかだけよしと)。やることをやって別れた後も連絡を取り続けており、一ヶ月後にまた逢いたい♡と呼び出されてのこのこ出かけて行った、が、実は人に化けたキツネであった彼女から告げられたのは妊娠だった。責任を取って結婚してもらおうと父親やら親類やらに拉致されてしまった丘竹はどうなってしまうのか………!!
このシナリオは、友人、知人、探偵、或いは警察関係者である探索者達が、丘竹を連れ戻すことを目的としたシナリオになります。探索者は彼の彼女として参加してもよいでしょう。
【導入】
探索者たちは行方不明になっている男「丘竹義人」の捜索の為、とある旅館を訪れることになる。探偵や警察をやっていて丘竹の両親に依頼されても良いし、直接の知り合いであっても構わない。
◎丘竹義人(おかだけよしと)
21歳、大学三年生。明るく社交的な性格で決して評判は悪くないが、少々、というよりかなりノリの軽いところがある。ある意味とても、大学生らしい大学生。3月1日頃、晴間荘と言う温泉宿に二泊三日の一人旅に出かけたが、予定を三日過ぎても帰ってこない為、様子を見てきてほしいと依頼された。旅の目的などは誰にも告げていない。
もし探索者が彼の彼女である場合、親戚の家に行くと伝えられている、が、彼のパソコンの履歴を見たところ、晴間荘の予約が取れていたようだ。どういう
ことだと不審に思ってもおかしくないだろう。
◎晴間荘(はるまそう)
中部地方の山間部、轟木村(とどろきむら)にある温泉宿。観光地化が特にされている場所ではなく、田舎にひっそりとある宿らしい。露天風呂があり、一応団体が宴会を出来る部屋などもある様で、幾つかの部屋の写真がネットに載っているだろう。
3月7日、一日二本のバスに乗り目的地を目指せば、19時過ぎに田んぼの広がる山のふもとに一件の宿が見えてくる。暖簾をくぐると年老いた女将が、遠路はるばるようこそおいでくださいました、と探索者を出迎えてくれるだろう。
◎女将に何か尋ねる場合
丘竹を知らないか→チェックアウトはしていないが、部屋に宿泊費が置いてあった。普通に帰ったのではないだろうか。荷物等はなくなっていた。
誰かと一緒にいたか→若い女と二人で泊まっていた。名前などは分からない。
この地方について→観光地ではないのでみて回るほどのものも無いが、美味しい豆腐屋がある。名物は油揚げ。本日の営業は終了している。
他の宿泊客について→あまり細かいことは答えられないが、三人ほど泊まっている。
丘竹���部屋を調べたいといった場合、特に断られもせず普通に案内されるだろう。また、丘竹が来て以降この部屋には誰も泊まっていないことも教えてもらえる。偶然丘竹が泊まっていた部屋に案内されてもよい。
小さな和室に目星を振るならば、30分程しっかり調べた結果、押し入れの奥に充電の切れたスマートフォンを見つけることが出来る。手持ちの充電器で回復させることが出来ても構わないし、もしも探索者がガラケー所持者な場合、他の部屋の宿泊者に借りに行っても構わない。電源を入れると、複数人で映った飲み会の様な写真がロック画面に出てくる。その中に丘竹の顔を見つけることが出来ていいだろう。
また、事前に晴間荘をネットで検索しており、この時点アイデアに成功すれば、ロック画面の写真が晴間荘の宴会の間であることが分かる。ここに気付き写真の取られた日付を調べれば、2月3日であることも分かってよい。スケジュール帳などを調べれば、ここに二泊三日のサークルの旅行が入っていたことも知ることが出来る。
携帯を調べる→晴間荘に来る前「天谷さつき(あまやさつき)」と呼ばれる女性とやり取りをしていたことが分かる。やりとりが始まったのは2月5日からで「また遊ぼ」「もっかいこっち来ない?」といった会話から、3月1日に丘竹がこちらへ来るようになった流れが確認できる。また、美人な女性の写真も途中に添付されている。会話は3月1日、丘竹の「着いた!」が最後となっている。
部屋を一通り調べ終えると、女将が「食事の準備が出来ました」と声を掛けてくる。
もしここで天谷さつきについて尋ねる場合「ああ、さつきちゃん?」と知っている素振りを見せるだろう。この宿のすぐ近くに住んでいるらしいことは教えてもらえるが、もし写真を見せるならば「これはさつきちゃんじゃないよ」と断言されるだろう。そして「こんな感じの人と丘竹さんは一緒にいたけれど」とも返される。また、帰省している天谷さつきの姉が、こちらに泊まっていることも教えてもらえる。
自室に向かえば山の幸と、噂の豆腐屋の豆腐と油揚げが並べられている。非常に美味な食事に舌鼓を打てば、女将が温泉も是非、と言うだろう。もし温泉に入ろうと思うのならば、浴場へ案内される。そこまで広くはないが風情があり、田舎ということもあってひっそりとしている。
もし女湯に入る場合、脱衣所で目星に成功するとぱらぱらと、小さい毛が落ちているのを見つける。生物学に成功すれば、これは動物の毛では、と思う。クリティカルがもし出れば、これが狐の毛であることが分かってよい。
探索者がのんびりと露天風呂に浸かっていると、突然、大雨が降りだす。天気予報を思い出したり調べたりするのであれば、その様な予報は一切出ていない。もし女将に何かを尋ねるなら「この地域ではよくあるんですよ、悪戯天気なんて言ってねぇ。急に止むこともあるから一概に悪いとも言えなくって」と話してくれる。
◎隣室の誰かを訪ねる場合
隣1:声を掛ければ「今忙しいんで後にしてもらえますか」という女性の返事がある。出ては来ない。もしもしつこく声を掛けるのなら一瞬だけドアが開き「うるっさいな!仕事中なの!忙しいからあとにして!!」と目の下にクマを作った女性が叫び、一瞬で戸は閉まるだろう。
隣2:声を掛ければ「どうしました?」と一人の男性が出てくる。四十代ほどの彼は「東風谷太郎(こちやたろう)」と名乗り、職業などを尋ねるのならの獣医であると答えられる。仕事ではなく、偶に都会の喧騒が嫌になって、こちらへ来ているらしい。何故ここにと尋ねれば「いやぁ、油揚げが絶品で、つい」と答えるだろう。
また、先に隣1に声を掛けていれば「そういえば、隣の人、びっくりしたでしょ。ファッションデザイナーさんみたいでね、今仕事が佳境っぽいんだよ。そっとしといてあげて」と言われる。
彼はこの地方に狐が多いことや、���俗学的なことは知らないが、もし狐に関しての知識を訪ねるならば、その生態を教えてくれる。「大体全国にいるかな、普通小さな家族単位で生活しているけど、大きなグループで生活していた例もあってね。宮城あたりだったかな。肉食に近い雑食だから餌が少なければ人の残飯とかも食べるし。あとは夜行性で用心深いけど、賢いし好奇心もつよいからね。慣れたら結構大胆になっちゃうからもちろん餌付けとかはしたらいけないよ。繁殖期は12月から2月くらいの間で、妊娠期間は二ヶ月いかないくらい。大体一ヶ月くらいで赤ちゃんいるってわかるよ、割と犬みたいなもんだしね。巣穴の長さが30メートルくらいになることもあるっていうから、すごいよねぇ」
隣3:声をかければ「はーい、ちょっと待ってくださいね」と一人の女性が出てくる。二十代ほどの彼女は「天谷あかね(あまやあかね)」と名乗り、職業などを尋ねるのなら、東京でOLをしていることを教えてもらえる。もし天谷と言う名前で丘竹のメールで見た名前を思い出し、そのことについて尋ねるのであれば、彼女の姉であることを教えてくれる。しかし写真を見せられたのであれば「これ、さつきじゃないけど」と言われるだろう。
帰省理由:休みが取れたので、また、さつきの具合があまりよくないと聞き、心配だったらしい。一週間ほど前に治ったらしく、明日の夜、ここから発つ様だ。家のすぐそばにあるここの宿の女将とは家族ぐるみの付き合いで、旅館業務の手伝いも兼ねてよくこうして泊まっているらしい。
さつきの具合の詳細については話してくれないが、一ヶ月ほど調子が悪かったことは話してくれる。
※もし積極的に探索者から隣室を訪ねなければ、風呂上りに自販機の前などで東風谷に遭遇してよい。出会えば軽く会釈をする程度の彼が自分から話しかけてくることはないが、何か声を掛ければ快く言葉を返してくれるだろう。そこから他にも宿泊者がいる情報を手に入れることが出来る。
◎食後
外は街灯の明かりなどもなく真っ暗で、この日は探索を続けることは出来ないだろう。
布団の中で寝入ったあと、気が付けば探索者は知らない黒い空間にいる。そして、誰もいない空間で呻き声のような物を耳にする。
「うう………ごめん…悪かったよ……帰して……俺を帰してぇ…………」
もし探索者が丘竹と知り合いであれば、その呻きが彼のものであるということは分かってよい。
また、ここで聞き耳に成功すると、小さなぼそぼそとした声を聞き取ることが出来る。「タイアン、ツギノタイアンニ、ギヲ」という声は人のものとは思えず、非常に不気味な響きである。SANチェック0/1。
次の瞬間、目が覚めれば朝になっている。
また、探索者がもしカレンダー等を調べるなら、次の大安の日が、明日であることがわかる。
朝、部屋を出ると食事の盆を三つ用意している女将に出会う。目星に成功、もしくは盆の上を注視すれば、三つ中二つに、油揚げがたっぷり盛られていることに気付く。指摘するならば「お客様からのリクエストなんですよ、九守(くもり)さんとこの、おいしいから」と答えてくれる。
※女将にこの地方の言い伝えや観光名所を聞いても、きつねのきの字も出て来ない、というのも、所詮は伝説であり、あまり実感がないからである。観光名所もこんなさびれた田舎には無く「美味しい豆腐屋くらいしかないですねぇ…」と答えられる。
◎九守豆腐店(くもりとうふてん)
豆腐屋に行くならば、旅館から歩いて10分ほどの場所に小さな店があるだろう。
中には鉢巻きを巻いた店主がおり、にこやかな声で「旅行かい?」と聞いてくる。
この地方や油揚げのことに関して尋ねれば「油揚げ、人じゃなくて狐にも人気なんだよ、あ、買いに来るわけじゃないけどね」もしくは「この地域はそうだなぁ……あ、狐が多いよ」などと答えてくれる。会話を続けると「化ける、みたいな話も伝わっててね」「きつねが一斉に宴会をやる、なんて伝えられてる河原もあるんだよ。宴河原って言うんだけど。たまにウチの油揚げをお供えしてるよ。無くなってるから本当に食ってるのかもしれないねえ」「何か知りたいのなら天谷さんの所に行ってみたらどうだい?古い蔵があるからね、何か見つかるかもしれないよ」等の話をしてくれるだろう。
◎天谷さつき宅
旅館から3分ほどの蔵のある古民家に行けば、一人の老婦が出迎えてくれる。
彼女に蔵の中のものを見たいと言えば「どうぞ、眠っているだけなのも可哀想ですから、見てやってくださいな」と、快く案内してくれるだろう。しかしさつきの事を聞くなら「あの子は今出かけています」と返す。心理学に成功すれば、彼女が何か隠していることが分かるだろう。病状などについても何も答えてくれない。
結構な広さのある蔵には、骨董品などが所狭しと並んでいる。目星か図書館で、二時間ほど探索すれば轟木の歴史に関してつづられた小さな書物を見つけられる。その中に探索者は狐の文字を見つけられるだろう。
「ある所に、狐を愛してやまない男がいた。男は毎日の様に山へ向かい、狐に食べ物をやり、時には家に上げるほどであった。そうして日々狐と共にいたある日、一匹の若い狐は男に恋をし、男も同じく雌狐に恋をした。一人と一匹は狐の父親に結婚させてほしいと頼んだが、父親は頑なに大事な娘を人へ嫁にはやらぬの一点張りだった。それでも男が何度も頼み込めば、普段食わせてもらっていることもあったのだろう、父親は”上等な婚礼衣装を用意し、吉日に天気雨を降らせれば結婚を赦してやる”と約束した。翌日、早速男は仕立て屋に赴き、殆どの財産を渡して婚礼衣装を作るように頼み込んだ。そしてその日から噂という噂を集めて回り、十里先の村に非常に力を持った陰陽師がいると聞きつけ、すぐさまそちらに出向いた。男は事情を話すと、人の言葉と引き換えに、天気を変えることの出来るまじないの書かれた書を譲ってもらう事が出来た。
早速試そうとした男だったが、人の言葉を失ってしまった男はまじないを唱えることが出来ず、途方に暮れていた。それを見た雌狐が、今度は反対方向へ十里の道のりを超え、とある薬師(くすし)から人に化けられる薬を手に入れて来た。人に化けた娘がまじないを唱えれば、雲一つない空から雨が降り始めた。狐は晴れ着を身に纏えば男のもとへ出向き、めでたく結ばれたという。そして空模様を変える術を手に入れた狐は、それからも嫁入りの度に天気雨を降らせている、それ故に天気雨が多いと、この地方では古くから伝えられている。」
蔵の探索が終わり天谷宅を出て一分ほどすると「待ってください!」と言う声がする。後ろを振り返ると一人の高校生くらいの少女が息を切らして立っている。「私のこと、探してました?」と言う彼女は天谷さつきと名乗るだろう。
「おばあちゃん、私が具合悪くなってから、あんまり人の前に出してくれなくて……」「実は、狐屋敷に行ってみたんです」「話に聞いてたから気になっちゃって」「行ったあとから最近までの記憶、実はほとんど無いんです」「……周りの人が言うには、乗っ取られたみたいだったって、割と有名な話なんです。狐屋敷に行くと屋敷に住むたくさんの狐に憑かれるの、イタズラ好きだからって。だからあの家壊せないんですよ」「屋敷って言ってもちっちゃい古い家ですけどね、たまに気になって行っちゃう観光の人もいるみたいです。やっぱりあんまり良い噂は聞かないですね、私みたいになっちゃったのかな」「携帯は失くしてました、仕方ないから新しいものを買いました」「記憶が戻ったのは、なんか勝手に出歩いちゃった日に、隣の隣の柴田さん家でなぜか。あれ?って思って、それで自分が靴も何も履いてないことに気付いて」
彼女は口を開けば大体この様なことを語ってくれる。また、丘竹のことや写真の女のことは知らない様だ。
※もし豆腐屋に行く前に、さつきに会いたいという用件のみで来れば、老婦は決して中へは入れてくれない。その後豆腐屋に行って蔵に興味を示せば、豆腐屋の主人が電話をかけてくれ、とりあえずそちらへは入れてもらえるだろう。さつきとのイベントは蔵を調べ終えた後となる。
※伝承に残る陰陽師はニャルラトホテプ、薬師はミ=ゴである。クトゥルフ神話技能等で分かっても良いが、特に知るメリットは無い。無闇に降らせず、探索者の提案があった場合のみダイスを振ってもらうこと。成功した場合はSANチェック1/1d3。
◎柴田家
入ろうとした途端、犬小屋の犬に激しく吠えられる。その声を聞きつけてか出て来た50代ほどの男性は柴田秋男(しばたあきお)と名乗り、すみませんねぇ、この子気性が粗くって、と謝ってくる。
さつきに関して尋ねると、一週間ほど前、急にちょうどこの玄関前に裸足で座り込んでいて驚いたという。暫く姿をみていなかったが、病気だったとはねぇ、と言った様子だ。
また、狐の話に関しては「五年くらい前に緑が欲しくてここに引っ越してきてね、あまりそういった話は知らないんだ」と言ってくる。
※狐は犬が苦手な為、さつきは徘徊中にここで目が覚めている。犬を借りようとするならば、それなりの嘘をつけば「犬を散歩に?構わないよ」と言ってくれるが、もし狐屋敷に連れていきたいと言うと「愛犬を廃墟に連れて行かれるのはちょっとね………」と断られるだろう。
◎宴河原(うたげがわら)
ごろごろと石が転がった河原。旅館からは徒歩約10分。油揚げは今は供えられていないが、平たいテーブルの様な岩が幾つかあることは分かる。目星に成功すれば、その側に毛を見つけることが出来る。生物学に成功で、動物のものだと分かってよい。
◎狐屋敷
ぼろぼろの小さな民家は集落から歩いて30分程度の山の中にあり、壁や屋根などあちこちに穴が開いているだろう。玄関から入ってすぐは土間で、他は囲炉裏や押入れのある小さな部屋が一つあるのみである。
聞き耳に成功すれば、飼育小屋の様な匂いがうっすらとすることにも気付いてよい。また、聞き耳でクリティカルを出せば「姿は全く無いのに何十もの瞳に見つめられている様な感覚」を覚える。SANチェック1/1d2。
家に足を踏み入れ何か技能を振ろうとする探索者は、その前にPOW×2。失敗すると、探索者は狐に二時間ほど憑かれることになる。憑かれる場合、次に幸運を振る。失敗すれば探索者は一目散に屋敷から飛び出してしまう。正気の誰かがそれを止めるには、DEX対抗や組み付き、STR対抗等が必要になってくる。
また憑かれた場合は1d6を振り、下の表通りのロールをする事。探索者は今は探索者であって探索者で無い状況であり、探索者の本来の精神は眠ってしまっている様な状況なので自我を出すことは一切不可能だ。一人称などが変わってしまっていてもよい。精神分析も不可である。中の狐はただ笑うだけだろう。
憑かれ表
1 何を聞いても油揚げの事しか答えず、隙を見てはすぐに豆腐屋へ行こうとする。
2 何を聞いても嘘や適当な事しか言わず、すぐに寝ようとする。
3 何を聞いても何も答えず、ずっと地面のあちこちを掘り返している。
4 何を聞いても何も答えず、じっとしゃがんで目を光らせている。幸運に失敗するとネズミが出現し、脇目も振らずそちらに飛びかかる。ネズミのDEXは15。
5 何を聞いても歯を見せて獣の様に唸るばかりである。時には飛びかかり、作業を妨害しようとする。
6 探索者の誰かを執拗に誘惑してくる。探索の事に関して質問しても、そんなことよりも、と一緒に旅館に帰ろうとするだろう。
もし、探索者全員が狐に憑かれた場合、意識が遠のき気がつけば、幸運に成功している場合狐屋敷で、失敗している場合私物や服を一つ無くした状態で河原にいる、時計を見ると時間が二時間経過している、という描写で構わない。SANチェック1/1d2。
もし、直前に宴河原に油揚げを供えていれば、もしくは犬を連れて来ていれば、POW×2は必要���い。また、上記の対策が出来ていない場合、何か技能を振る度に、その前にPOW×2の判定をやり直すこと。
屋敷にいる探索者をじっと見ている数十匹の狐は、常に乗っ取る機会を伺っている。
土間:目星に成功すれば、名刺ケースが落ちているのを見つける。中に入っている名刺には「デザイナー・松雪ミヤビ」と書かれている。
押し入れ:小さな化粧箪笥の様なものが入っている。中には巾着袋が一つ入っており、大量の何かの粒が入っている。聞き耳に成功すると薬の様な匂いが嗅ぎとれる。また、薬学を所持しているならば、何かの薬であることまでは分かるが、用途までは分からないだろう。
目星に成功すると、隠し引き出しを見つけられる。どうやらここを開けるには、鍵が必要な様だ。囲炉裏の鍵で開けることが出来、小さく折りたたまれた紙切れを見つけることが出来る。母国語に成功で読解可。「空ヲ操ル呪ヒ」と書かれており、読めはするがどこか背筋の寒くなる、奇妙な言語がつづられているだろう。SANチェック0/1。この呪文はMPを10消費し詠唱を唱える事によって一定範囲の天候を少し変えることが出来る。
詳しくはルールブックの天候を変える呪文参照(P273)。ただし今回は雨のレベル1とレベル2の間に、天気雨が存在する事とする。
囲炉裏:目星では何も見つけられないが、手を突っ込んで幸運に成功すれば、鍵をつかむことが出来る。鍵を使えば押入れの化粧箱の隠し引き出しが開けられる。
◎松雪ミヤビ
ドアを叩くと「ご飯そこ置いといてください」という声がするばかりで開かない。無理やり呼び出すとやはり怒りながら扉を開けて来る。説得や言いくるめに成功すれば「本当に忙しいんですよ、衣装製作してるんです。デザイナーなんです」「白無垢作ってます、知り合いが結婚するんですよ、もういいですか?」と疲れ切った目で状況の説明をしてくる。
目星で、部屋の中に白い布切れが散らばっていることが分かる。
狐に憑かれている彼女は油揚げで容易く外へ呼び出すことが出来る。誰かが彼女を呼び出している間、部屋に侵入することは可能だろう。その場合、部屋の中央には白無垢が掛けられており、脇の盆に大量の油揚げが積まれていることもわかる。
【丘竹の救出方法】
3月8日中に、
「天候を変える呪文の書かれた紙切れを盗む、燃やす、処分する」
「婚礼衣装を破壊する」
「薬を盗む」
のどれかを行うことにより、結婚式を阻止することが出来る。
もし上記の行為を行えば、その晩、眠っていた探索者はふと目を覚ます。聴こえてきたのは何十という爪がカリカリカリカリ、と窓や壁、扉を引っ掻く音だ。体は金縛りに遭ったように一切動かず、ひたすら全方位から響いてくる爪の音を長時間聞かされるだろう。SANチェック1/1d3。
そして爪の音はタイミングを合わせたようにぴたりと止み、同時にどっと眠気が押し寄せる。微睡む探索者の頭の中では不気味な呪うような声が遠くに聞こえる。「これではよめにいけぬ、これではよめにいけぬ、ええいいまいましい、すててしまえ、おぼえておけ」この声は、初日に夢の中で聴いた囁きと同じである。
次の瞬間悲鳴が聞こえ、探索者は寝た気がしないまま、明るい部屋の中で目を覚ますだろう。
悲鳴の声には聞き覚えがある、初日に夢の中で助けてくれと叫んでいた声だ。
慌てて宿の外に向かえば、全裸の丘竹がそこに転がされている。
彼は全身引っ掻き傷だらけで号泣しており、何を聞いても謝るだけである。しかしキツネ、と言う単語を聞くだけで腰を抜かしガタガタと震え、謝罪の言葉は一層多くなるだろう。命に別状は無いようだ。
壁や窓に傷は一切ないが、丘竹の周囲には動物の足跡が大量にあることが分かる。気味が悪いほどの量だ。背筋に寒気を覚えた探索者はSANチェック0/1。
その後、探索者たちはチェックアウトを済ませれば、本数の少ないバスに乗ってこの地を発つことになる。田舎道を揺られている最中、ふと窓の外を見れば、一瞬、三角の耳が草むらから飛び出していたような、そんな気がするだろう。
エンド1:人のハッピーエンド。
もし上記の三つを一つも行えないまま3月9日を迎えた場合、太鼓や鈴の音で探索者は目を覚ます。外に出れば空は雲一つ無く晴れているというのに雨がしとしとと、地面に降り注いでいるだろう。また遠くの道に何かの行列が見える。目星に成功すればそれが花嫁行列で、しかし顔が全員狐であること、その中に一人だけ人間が紛れていることが分かる。同時に離れているというのに探索者の頭の中に「たすけてくれ、たすけてくれよぉ………」という悲痛な声が聞こえてくるだろう。そして瞬きをした瞬間、その光景は消え、音も声もすっかり止んでいる。SANチェック1/1d3。
それから丘竹の姿を見たものは、決して現れなかった。探索者たちは何も得られぬまま、晴間荘から帰ることになる。
エンド2:キツネのハッピーエンド。
【生還報酬】
丘竹を救出した 1d4
尚、SAN値は上限を超えて回復しないものとする。
ここまでお読み下さりありがとうございました!
シナリオを楽しんで頂ければ幸いです。
丘竹君ですが、これからは静かに生きていくと思います。仲良くしてやって下さいませ。
詐木まりさ @kgm_trpg
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1543年にニコラウス・コペルニクスは地動説の論文「天球の回転について」を出版した。その題名で使用された「回転」(Revolution)は 天文用語であった後に政治体制の突然の変革に使用された。この用語の政治的な最初の使用は、1688年のイギリスでのジェームズ2世からウィリアム3世への体制変革で、名誉革命と呼ばれた。このため欧米の革命という言葉は、近世から近代への移行期以後の政治的な変革に使われる。前近代の政変は、どれほど大きな体制の変革があっても通常は革命とは呼ばれない。
漢語の「革命」の語源は、天命が改まるという意味である(「命(天命)を革(あらた)める」)。古代中国では易姓革命など東洋での王朝交代 一般を指す言葉であった。中国における代表的な易姓革命は殷(商)から周への王朝交代で、殷周革命と呼ばれる。東洋においては革命と王朝交代はほぼ同一の概念であったが、西洋においては革命が起きなくても王朝が交代することもあり、革命と王朝交代は同一の概念ではない。そのため、西洋では「反革命」と表現されるものも東洋では「革命」とされることもある。
したがって「revolution」の訳語として革命の語を用いるのは後世における用法であるのだが、現代ではこの意味で革命の語を用いる事が多くなり、むしろ本来の意味で用いる場合に「易姓革命」などと呼ぶようになった。
(革命 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%A9%E5%91%BD)
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第一次世界大戦は、1914年7月28日から1918年11月11日にかけて、連合国対中央同盟国の戦闘により繰り広げられた世界大戦である。
7千万以上の軍人(うちヨーロッパ人は6千万)が動員され、史上最大の戦争の1つとなった。第二次産業革命による技術革新と塹壕戦による戦線の膠着で死亡率が大幅に上昇し、ジェノサイドの犠牲者を含めた戦闘員900万人以上と非戦闘員700万人以上が死亡した。史上死亡者数の最も多い戦争の一つであり、この 戦争は多くの参戦国において革命や帝国の解体といった政治変革を引き起こした。終戦後(戦間期)も参戦国の間には対立関係が残り、その結果わずか21年後の1939年には第二次世界大戦が勃発した。
(第一次世界大戦 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E4%B8%80%E6%AC%A1%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%A4%A7%E6%88%A6)
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1918年11月、第一次世界大戦敗北が決定的になったことを契機としてドイツ革命が勃発、ドイツ帝国が崩壊した。これにより、第一次世界大戦は終結(11月11日、ドイツ代表が連合国との休戦条約に調印)した。
1919年1月5日、ミュンヘンでドイツ労働者党(後のナチス)が結党。 1919年1月5日から1月12日、ロシア革命の再現を狙ったスパルタクス団と呼ばれる共産主義者が暴力蜂起。鎮圧された。1月15日、スパルタクス団のカール・リープクネヒトとローザ・ルクセンブルクはドイツ義勇軍に捕らえられ、殺された。 1月19日、国民議会選挙が実施。2月6日、ヴァイマルで国民議会が召集された。国家の政体を議会制民主主義共和国とすることが確認され、いわゆる「ヴァイマル共和国」が誕生した。 6月28日、ヴェルサイユ条約締結。 7月末にはヴァイマル憲法が採択され、8月11日制定、8月14日公布、施行された。
国民議会でドイツの敗北の原因を調査する調査委員会が開かれた。11月、この委員会で喚問された元参謀総長ヒンデンブルク元帥が、ドイツ帝国は「背後から匕首(ドイツ革命)で刺された」と発言した。この発言はドイツの「突然の敗北」に不審を抱いていた人々や左派の暴動に不満を抱いていた人々の間に、ドイツ帝国は内部からの裏切りによって敗北したのだという「背後の一突き」伝説を広める事となった。革命の指導者のクルト・アイスナー、ローザ・ルクセンブルク、エルンスト・トラー、オイゲン・レヴィーネらがユダヤ人であったことから、ドイツ革命に反発した民族主義の右翼は、共産主義者とユダヤ人による「背後の一突き」でドイツを敗北へと導いたとする見方を広め、革命後のヴァイマル共和国では反ユダヤ主義が高まっていった。
ヴァイマル共和政は 世界初の社会権を盛り込んだヴァイマル憲法を生み出したものの、革命の急進化を阻止する政府の動きが却って極左、極右両勢力を刺激し、その勢力拡大が進行する事態となる。フランスとベルギーによるルール占領が行われた1923年には政情不安定はピークに達し、破滅的なインフレーションとミュンヘン一揆などの政治的混乱が発生した。しかしシュトレーゼマンやヒャルマル・シャハトの尽力もあり、政治や経済は相対的な安定期を迎えた。1925年のロカルノ条約締結によってドイツは国際社会への復帰を果たし、1926年には国際連盟への加盟が認められた。しかし1929年の世界恐慌以降、経済悪化が社会不安を呼び、国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)の台頭を招いた。1933年、ヒトラーの首相就任とその後の権力掌握によってヴァイマル共和政は終焉する。
20世紀初頭に始まった表現主義運動はこの時代に大きく開花し、その大きな対象の一つが映画であった。
表現主義映画は人性の暗黒面を抉るプロットが特徴的で、大道具から形式に至るまで、正に陰々滅々という言葉が似合う。
ロベルト・ヴィーネ監督映画『カリガリ博士』(1919年)は、ドイツ初の表現主義映画とされる。物語が棺を思わせる謎めいた、魔法の箱を巡って展開する一方、いびつなセットやドイツの町に忽然と現れる歪んだ建造物が、観る者に猟奇的な感傷さえ与えていた。
未来主義は表現主義者が好むもう1つのテーマで、『メトロポリス』(フリッツ・ラング監督、1927年)におけるディストピアがその代表例である。
ナチスが政権を掌握すると、この時代に生まれた新しい芸術はナチスによって退廃芸術とされて大きく抑圧された。
(ドイツ革命 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E9%9D%A9%E5%91%BD スパルタクス団蜂起 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%91%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%82%AF%E3%82%B9%E5%9B%A3%E8%9C%82%E8%B5%B7 ヴァイマル憲法 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%AB%E6%86%B2%E6%B3%95 ヴァイマル共和政 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%AB%E5%85%B1%E5%92%8C%E6%94%BF 背後の一突き https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%83%8C%E5%BE%8C%E3%81%AE%E4%B8%80%E7%AA%81%E3%81%8D ヴァイマル文化 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%AB%E6%96%87%E5%8C%96)
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未来派とは、フトゥリズモ(伊: Futurismo、フューチャリズム 英: Futurism)とも呼ばれ、過去の芸術の徹底破壊と、機械化によって実現された近代社会の速さを称えるもので、20世紀初頭にイタリアを中心として起こった前衛芸術運動。この運動は文学、美術、建築、音楽と広範な分野で展開されたが、1920年代からは、イタリア・ファシズムに受け入れられ、戦争を「世の中を衛生的にする唯一の方法」として賛美した。
1909年、イタリアの詩人フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ (1876年-1944年)によって「未来主義創立宣言」が起草されたことが発端である。よりセンセーショナルにするため前世紀の有名な共産主義者宣言(1848年)に倣い、題名には「宣言」(Manifesto)が使われた。内容は前年に出版されたジョルジュ・ソレルの「暴力論」(1908年)に影響されており、あら���る破壊的な行動を讚美する非常に過激なものだった。未来派の思想は「未来主義」と呼ばれることもある。
産業革命以降、ヨーロッパでは中世の封建社会から資本主義社会への転換が起こり、それに伴い様々な社会情勢も劇的な変化を遂げた。また、科学技術の進歩により戦争に人間を大量に殺戮する「兵器」が投入され、近代戦争へと変容した。旧来の価値観の変化と、それに伴う社会不安を背景に、19世紀末頃より「表現主義芸術」が興隆し始める。
未来派は、表現主義芸術の影響を受けつつも、もっと純粋に肯定的に、近代文明の産物や、機械の登場によって生まれた新たな視点を、芸術に取り入れようとした。
未来派の芸術家たちの一部はやがて、好戦的で戦争や破壊を新しい美とする部分の認識で共通していたファシズムの政治運動と結びついていく。
思想的矛盾やファシズム政党への反発などにより芸術家達の内部離反を招き、後期には未来派は「退廃芸術」とイタリア国家から看做され活動が制限され、彼らの集団は崩壊していく。
(未来派 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E6%B4%BE)
未来派宣言
一 われわれは危険を愛し、エネルギッシュで勇敢であることを歌う。
...
十一 われわれは労働、快楽、さては反抗によって刺激された大群衆を、近代の首府における革命の多色多音な波動を、電気のどぎつい月の下にある兵器廠や造船所の振動を、煙を吐く蛇を呑み込む貪婪なる停車場を、黒鉛の束によって雲にまで連なる工場を、体操家のように日に輝く河の兇暴は刃物を飛び越えている橋梁を、水平線を嗅いで行く冒険的な郵船を、長い筒で緊められた鋼鉄製の巨大な馬に似てレールの上を跳躍する大きな胸をした機関車を、プロペラの唸りが翼のはばたき、熱狂興奮した群衆の喝采にも似て滑走飛揚する���行機の歌を歌う。
(未来派宣言 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E6%B4%BE%E5%AE%A3%E8%A8%80)
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『メトロポリス』は、フリッツ・ラング監督によって1926年製作、1927年に公開されたモノクロサイレント映画で、ヴァイマル共和政時代に製作されたドイツ映画である。
製作時から100年後のディストピア未来都市を描いたこの映画は、以降多数のSF作品に多大な影響を与え、世界初のSF映画とされる『月世界旅行』が示した「映画におけるサイエンス・フィクション」の可能性を飛躍的に向上させたSF映画黎明期の傑作とされている。当時の資本主義と共産主義の対立を描いた作品でもある。
1924年のクリスマス間近、ラングは初めて見たアメリカの巨大都市ニューヨークの圧倒的な印象に影響を受け帰国し、なんとか映画化したいと相談すると、妻のテア・フォン・ハルボウも熱狂しシナリオを完成させた。ただし、完成したシナリオはラングの構想した物とは若干異なる物だったが(ラングは労働者の勝利による結末を考えていた)、興行的な面などを考え受け入れたという(後年のラングの回想によると、楽観的な結末になったのは当時台頭し始めたナチス・ドイツに妻が傾倒していた影響があったと語っている。ちなみにこの思想的な食い違いにより、後に二人は離婚、さらにラングはアメリカに亡命することとなる)。
興行的な理由や「共産主義的な傾向を本質的に持っている字幕があった」という政治的な理由によりアメリカ公開時に編集が為されるなど、事情により様々な長さの版が存在している。
ストーリー: (2002年にマルティン・ケルパーが復元した版では、1927年上映されたベルリンでのガラ・プレミア版に比べると約4分の1の部分が欠落している。以下のあらすじは現在観ることができる『メトロポリス』についての記述である。)
2026年、ゴシック調の摩天楼がそびえ立ちメトロポリスと呼ばれる未来都市では、高度な文明によって平和と繁栄がもたらされているように見えたが、その実態は摩天楼の上層階に住む限られた知識指導者階級と、地下で過酷な労働に耐える労働者階級に二極分化した徹底的な階級社会だった。
「父たちには歯車の回転が金を意味した」
ある日、支配的権力者の息子・フレーダーは労働者階級の娘マリアと出逢い、初めて抑圧された地下社会の実態を知る。
「脳と手の媒介者は、心でなくてはならない」
マリアが階級社会の矛盾を説き、「脳」(知識指導者階級)と「手」(労働者階級)の調停者「心」の出現を予言すると、労働者達にストライキの気運が生じる。マリアはフレーダーがまさに調停者になる存在であると見抜き、フレーダーもまた美しいマリアに心を奪われる。
「今日はみなさんにバベルの塔の話をしましょう」 「バベルの塔建設の伝説」 「さあ頂上が星にまで届く塔の建設をしよう そして塔の頂上にこう書こう <世界とその創造主は偉大なり! そして人間は偉大なり!>と」 「しかしバベルの塔を考えた人たちは それを建設することができませんでした その作業があまりに大きすぎたのです そこで彼らは外国人の手を雇ったのです しかしバベルの塔を建設した手は この塔を考えた頭脳が思い描いた 夢のことを何も知りませんでした」 「ある者の賛歌は他の者の呪いになりました 同じ言葉を喋っても 人々はお互いに理解しあいませんでした」 「<世界とその創造主は偉大なり! そして人間は偉大なり!>」 「頭脳と手は媒介者を必要としました 頭脳と手の媒介者は 心でなければなりません」
この様子をこっそり見ていたフレーダーの父であり支配的権力者のフレーダーセンは危機感を抱き、旧知の学者のロトワングに命令してマリアを誘拐させ、マリアに似せたアンドロイドを作り出させる。このアンドロイドをマリアとして地下社会へ送り込み、マリアが作りだした労働者の団結を崩す考えである。
「ロートヴァング、 機械人間にあの女の顔を与えろ 私は彼らと彼女の間に 分裂の種を蒔きたい あの女への信仰を破壊してやりたい」
しかし、かつてフレーダーセンと恋敵であったロトワングが影で意図したのは、フレーダーセンが支配するメトロポリスそのものの壊滅であった。ロトワングの意を受けたアンドロイド・マリアは男達の羨望の的となり、乱痴気騒ぎをさせる一方で階級闘争を過激に扇動するようになる。フレーダーは豹変したマリアが別人であることを見抜くが、興奮した労働者に追いたてられる。
アンドロイド・マリアに扇動され、暴徒となって地上の工場へ押し寄せた労働者達は、メトロポリスの心臓ともいうべきHertz-Maschine(ヘルツ・マシーネ、英:Heart-Machine)を破壊し、地下の居住地区を水没させてしまう。しかし地下にはまだ労働者の子供たちが大勢残されていたのだ。扇動による行為が自分達の首を絞めていると気付いた労働者達は、自分達を扇動したマリアを糾弾し火あぶりにする。炎の中でマリアはアンドロイドに戻り、労働者達は自分達を扇動していたものの正体を知る。
一方、ロトワングから逃げ出した本物のマリアと地下で再会したフレーダーは、残されていた子供達を水没寸前で地上へと避難させ、時計台の上でロトワングとの決着をつける。そしてすべてが終わった後、調停者として父と労働者達との仲介を図るのだった。
「頭脳と手は 合体することを望みます でもそこには 心が欠けています 媒介者 あなたが 彼らに道を示すのです」
「頭脳と手の間の媒介者は 心でなければならない」
(『メトロポリス』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%82%B9_(1927%E5%B9%B4%E3%81%AE%E6%98%A0%E7%94%BB) メトロポリス (1927, 日本語字幕) https://www.youtube.com/watch?v=Z8lh4HRwYCk)
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メトロポリスとは、国または大きな地方における経済・文化の中心であり、かつ、国際的な連携のハブとなるような大規模な都市のことである。日本語では中心都市あるいは大都市と訳されることがある。
メトロポリスという言葉は、ギリシャ語でmeter(母)とpolis(都市)をつなげたmetropolis(母都市)に由来する。metropolisは、古代ギリシャの植民地において、最初に入植した都市を指すもので、それはその植民地における政治・文化の中心であった。
(メトロポリス https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%82%B9)
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マトリックスとは、本来は「子宮」を意味するラテン語(< Mater母+ix)に由来するMatrixの音写で、そこから何かを生み出すものを意味する。この「生み出す機能」に着目して命名されることが多い。
SFドラマ『ドクター・フー』(1963年-)88話『Deadly Assassin』(1976年)に登場する用語。知識が集積された仮想空間のことを「マトリックス」と呼んでいる。ウィリアム・ギブスンのサイバーパンクSF小説『ニューロマンサー』(1984年)、『カウント���ゼロ』(1986年)、『モナリザ・オーバードライブ』(1988年)、『記憶屋ジョニィ』(1981年)、『クローム襲撃』(1982年)、あるいは記憶屋ジョニィを基にした映画『JM』Johnny Mnemonic(1995年、米国)での用語。それらの作品において、コンピューター・ネットワーク上のサイバースペース(電脳空間)に築かれた「仮想現実空間」、人類の全コンピューター・システムから引き出されたデータの「視覚的再現」、「共感覚幻想」のことを「マトリックス」と呼んでいる。
(マトリックス https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9)
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媒介は、心でなければならない。
2019年12月 インテルメッツォ
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遅い奴
遅い。 遅すぎですね。今何日ですか。9日ですよ。秋公園の終演は?4日。切腹。 綺麗な臓物が出てくる自信がないので腹を切るのは止めておきますが、それにしても各方面の方々申し訳ございませんでした。
こんな書き方をしているので自己紹介はいらないと思うのですが、Airmanです。 誰お前?へぇ、B脚本「メタフィクション:ザ・ゲーム」の脚演です。 あー………………って顔してる。今絶対あー………………って顔してますよね。そうです。もうネタバレも怖くないのでぶっちゃけますが、暗殺者の首を折ったりエルフをバットでリンチしたりするシーンで子供さんを泣かしたのは私です。その節は本当に申し訳ございません。 なんでそんな事になったのかは後々お話しするとして、いや変ですよね。後でご紹介する石英さんも言及なさっておられたのですが、何故人は役者紹介の最初に自分の名前を書かないのでしょうか?いやでも分かる。その気持ちは分かる。その方がクイズみがあって面白いって考えるんですよね。実際そういう面白さはあるんですが、「そこで面白さを取るか、役者紹介において必須の『誰が誰を紹介している』という前提を先に伝えて情報の伝達性を良くするか」というのは尽きない議論ですね?いや尽きるかも。割とすぐ尽きちゃうかも。 ようやく温まりました。 何がしたいかというと、役者紹介です。 諸々の都合で敬称略です。
・ニッキ役/でぃあ(31期) イカレた世界のイカレた主人公を演じてくださいました………………え?。読み合わせの前段階で既に役を作ってくる?え、何イリハケ表?はー、神。 いや、そんな気はまぁうすうすしていたというか、やぁまさか本当に役を作ってきて下さるとは思いませんでしたが「ヤケに嵌まってるなぁ」という気はしたというか、凄い。役者魂。楽ステ最後のアドリブにも対応して下さるあたり、いやもうこの方は役者として域に達している気がします。怠惰ゲージがMAXになると自分で自分を傷つけて死ぬタイプの演出だったので、そうした心労を大分軽減して下さった神ですあなたは。そして場当たりの時は酷使して、というか変更点を噴出させて本っっっっっっ当に申し訳ございませんでした。なます斬りされてもおかしくなかった。というかされたかった。だってこの人が演じるニッキ本当に狂っててカッコいいんですよ。全編ふざけた勢いだけで押し通してしまいそうな役ですが、この方は締める所ちゃんと締めて下さる。そして作中でも〆るべき敵をちゃんと〆て下さる。でぃあさんに主人公お任せして本当に本当に楽しかったです。秋公演まではそんなにお話しする機会もなくて、正直ニッキというキャラクターをそこまで気に入って下さって嬉しかった。「自分以外にニッキは演じさせない」。その覚悟を、この一か月間通してしかと目に焼き付けました。
怨霊の手が肩を撫でる。気色が悪い。 しかし中身を聞くと妙に笑える。
負け犬が。
そんなんだから死ぬんだっつのバーカ。 恨み言吐いてる余裕があったら首でも締めて来いや。 テメェで持ってきたルールさも当然みたいな顔で宣いやがって。 だったら!………………殺してみろ。
そう思ったのが、疑いなく口に出ていた。
・レミ役/児玉桃香(29期) ペチカさん!御紹介致します、私の師です(無許可)。シザーズの時に演出としての基礎知識を叩き込んで下さった恩人です。あれ一般化してマニュアルにして後世の演出に読まれるべき。まず役者に脚本を読ませ、該当部分を一人で演じさせてみる。その上で、違和感のある部分があれば/役者さんが違和感を覚えていそうな部分があれば演出が質問を受けに行き、適宜イメージを調整する。「頑張って考えた演技の方向性を全否定してくる演出にはなってほしくない」という言葉から、演技というものがどれだけ役者さんの内的イメージによって生まれ、変わってくるかに気付けました。そうですね。生地に型を押し付けてもその型通りにはならないんですね。だから生地の元の形にある程度あった型を選んで、自分からそこに入ってもらう事が大事なんですね。オムニの最初は重大な勘違いをしていた私ですが、今回はそうでなかったのであれば有難いです………………! 余談ですが、私はPCの音声データを普段イヤホンで聞きます。諸事情でペチカさんにはキャラクターのセリフを読んで頂いた音声を送って頂いたのですが………………いや、もう二度としません。アレはマズい。意味合いが変わってくる。違う、そう言う個人的な目的で送ってもらったんじゃないのに、その、あの、ペチカさんの演技が上手過ぎるからぁ………………!!(涙) 完全に予想外でした。具体的にはバイノー………………何でもないです。特定の方へ後でファイルをお送りします。そして私の方からは完全に削除します。それがいい。あれは世の中から消すべきではないけど、私が持つべきものではない。本当にそう。 告解が終わり、私の黒歴史がまた一つ増えました。死んで詫びたいレベルです。ごめんなさい。
あーあ、死んじゃった。 日用品で喉掻っ切られちゃって、死んじゃった。 これが呪い? あっけなーい。
ねぇ、どんな気持ち? 格下だと思って気楽に襲い掛かって、結局お仲間さんと一緒に殺されちゃって。 分かるよ。辛いよね。怖いよね。屈辱だよね。 こんなにいろいろ予想外だと、一周回って笑えてきちゃうよね。 子犬みたいな目で縋ってきちゃって。 嘘ついたら目ぇ輝かせちゃって。 裏切ったら傷付いて激昂しちゃって………………ねぇ、バカなの? 殺しに来た奴助ける訳ないよ。当たり前じゃん。 そんで、殺したらそうやって血ぃぴゅーぴゅー噴いちゃって。 あー、もぅ。
かーわい。
・マギー役/ちゃわんちゃうか?(31期) 芸名を訳すと「違わないのではないか?」となるのではないでしょうか?御本人の知った事でしょうか?これ所謂クソリプという奴ではないでしょうか?でもエアーマン、お前の存在その物がクソだからある意味当然ではないでしょうか?それもクソリプではないでしょうか?どうでもいいのではないでしょうか? えっと、新入生の方です。疑わないで下さい。マギー役、この人以外には務まらなかったと思います。だってFF7レベルの大剣持たされるんですもん。完全に演出の悪乗りでした。途中から刃の部分持っておられたので、あーマギーの肉体は刃の概念を理解してないんだな、つまりマギーの中でコレは鈍器のカテゴリなんだなぁと解釈してました。いや、でもマギーは強い。貞子レベルの怪物を素手で殺る。 ただの脳筋キャラにしたくなくて色々詰め込みましたし、役者さんの今までの御経験なども彷彿とさせながら「バカっぽく見えていろいろ考えてるキャラ」を目指してみたら演出の中で見事にブレまくり。最終的に丸投げしてしまったのですが、楽しんで頂けた様で何よりです(クズ)。 今思うと素のマギーは四千頭身の後藤さんみたいな雰囲気かも知れませんね。更に訳わかんねぇ。 本公演ではめちゃくちゃ暴れて下さいましたが、いつか素でカッコいいこの方を見てみたいというのはあります。実力不足でした。次回はちゃんとキャラクターを練ってきます。
呪い、ってくらいだから何かあんだろうよ。 ぼんやりと、ただそう思った。 根拠なんてねえけど。 だから、寝ずの番って奴をやってやった。 実際、俺はいなくてもいい。トークならあいつらの方が上手い。
何が来ても相討ち覚悟で殺す。 最初に死ぬなら、俺が一番良い。 何の感動もなくそう思って、色んなモンが転がった床に寝た。
出た。
出たよ。
マジで出たよ。
いやいやいやンだコイツ。忍者。忍者か。そこは幽霊とかそんな感じの奴寄越せや。 なんだ「呆気ない、ものよな」って。呆気ねえのはお前だよ。多分。 刀を避けたら目ぇ丸くしてやがった。 顔に一発。鳩尾にキック。めっちゃ吹っ飛んで机とか巻き込んで壁にドーン。どうでもいいけど真夜中なのにすっげえ音した。御近所さん迷惑だな。つかアイツら起きんじゃねえか。 そんで呻いて咳き込んで逃げようとしやがるから背中に乗って首をゴキッと。いっちょ上がり。
いや弱っ。 呆気ねえもんだな。
・いろり役/久保伊織(29期) 正式名称がめちゃくちゃ長いバンコクの様な方です。これは私の予想ですが、ここから約10年で何度か二刀流スキルを獲得したりヒノカミ神楽を学校教育に取り入れたりトラックを異世界転生させたり未曽有の星6鯖を手に入れたりしてなんやかんやで宇宙を何回か救ってその度に二つ名が増え、最終的には「18カ月ごとに名前の長さが倍になるイケメン」という称号を手になさいます。実を言うと予想ではなく真実です。 役の名前と御本人の芸名が似ている事で同じ29期の先輩方からいじられたり演出から呼び間違え………………てません。ホントです。そんな事してません。一回位素で間違えたとかそんな事は絶対にないです。空飛ぶスパゲッティモンスターに誓って本当です。様々な人物を惹きつける魅力をお持ちの方で、もうちゃうかのイケメンといえば物理的にも精神的にもこの方に他ならない、と言った感じです。しかしアレですね。去年(2018)の新歓公演を見た直後の私に本公演の写真を見せたらマジでお前何したんとかなじられそうですね。その位今回は今までの役との差分が凄かったのではないでしょうか。ヒールとして妖しい魅力を存分に………………ヒール?あれ?主人公サイドですよね?でも陽な感じの狂気を称えた技術顧問、という中々ない、それまでのイメージとは大分違う役を最高の笑顔で演じ切って、最高に弾けて下さいました。 本当に何をなさってもそのイケボで彩って下さる、そしてノリもいいし、あと殺陣。キャスパ中の殺陣とかvs剣客とか全部この方が担当なさってます。凄いですよね。「PCを腕に巻き付けて戦ってほしい」「短剣は二種類用意してほしい」みたいな無茶振りにも応えて下さって………………いや神です。この稽古場にはなんて神が多いんだろう。 いつかこの方を主人公にしたなろう小説を書きたいです。本当にお世話になりました。
これをこうして………………っと。 おニッキ、丁度良かった。割ったゲームのコピーガード突破したぜ……… 「なぁいろり。お前秘蔵のエロ画像とか持ってる?」 ………………いや急かよ。何だよ。持ってたとして何に使うんだよ。 「企画に………………」 ほう貴様さてはネタ切れか。 「うっせー!あーネタ切れだよ何か文句あんのかよ!」 別に?まそんな気はしてたけどな。 で、どんな企画? 「い、『いろりのエロ画像だいこうかーい』、いぇーい………………」 ハッ。 「鼻で笑うんじゃねーよお前こっちは昨日夜通しで考えたんだかんな!」 何が夜通しだ何が。 お前ら三人「企画会議ぃ」とか言って結局夜中じゅう酒飲んで暴れて近所のアパマンショップに放火してただけじゃねぇか。つーかその様子撮っときゃ良かったろ。 「いや、流石にスポンサー敵に回すのはマズい………………」 逆にそこでよく理性が働いたな。もうええわ。 で、どうすんの。俺そういうの持ってねえけど。 「は?」 いや、逆に俺がそういうのに興味あると思う?割れるゲームも弄れるコードも溢れてる世の中で何で他人の裸見て興奮すんのかマジで理解できねえ。 「あーそういやお前そういう奴だったわ………………うわ最悪」 何が最悪だよ。無いなら作ればいいじゃん。 「え、どゆ事?」 要はその辺から適当に落としてくりゃいいんだろ。『プライベートな写真を公開されて俺がひたすら困ってる』って絵が撮れればいいなら別に俺が普段使ってる奴じゃなくてもいい、それっぽくヤバい性癖の画像漁って来るわ。 「や、でも本物じゃねえとリアクションが………………」 言っとくけど俺結構演技上手いからな。死にゲー実況とか何度気ぃ使って死んでると思う? 「え、あれ演技?マジか初耳」 あぁあとな、ただ公開するんじゃ面白くないだろ。他のYoutuberみたく「お前ら三人と俺でミニゲームやって、俺が勝ったら公開阻止」みたいなルールにすれば尺も稼げる。お、そうだ。ただ公開するんじゃなくて「ネット上に公開された暗号を解けばエロ画像にありつける」みたいな形にして最終的に「釣りでした」ってやれば……………… 「いろり」 何だよ。 「………………お前、最強の友達だな」 ヘヘッ………………そういうの。『悪友』って、言うんだぜ。
『泣きながら抱き合って何してんのかな、あの二人』 『そういう事だ、ほっといてやろうぜ』 『………………いや、ちょっと何言ってんのか分かんない』 『何で分かんねえんだよ。つか俺がツッコミかよ』 『もうええわ!』 『いや雑か。こっちサイド雑すぎだろ色んな意味で』 ・織戸役/武田聖矢(29期) 見透かされている。何を?どこまで? 物凄く頭が回る方、というイメージでした。「この場にいる方の中で、私の発言の意図をこの方だけが理解している」というシーンが何度かありました。かなり分かり辛く、さりとて特に面白くない事を言う事が多い私ですが、それでもぽにょさんには全て見透かされている。その上で何かのリアクションを返してくださる程優しい方です。演出としてぽにょさんにお世話になるのは二度目ですが、思えばシザーズの頃から言葉足らずな私の意図を汲んで下さり、最適な知恵を………………オムニの場当たりでは御迷惑をお掛けしました。ちょっとした事で自信を喪失しがちな私に優しく声を掛け���下さり、気付けば近くにいらした時に心の中で何となく癒しを求めてしまう自分がいました。物語の最後の最後に真理っぽい事を言って去っていく織戸。キャスト選考の際に何故かぽにょさんの姿が被ったのですが、いやでもカッコいいんですぽにょさん。スタッフワークではめちゃくちゃかっこいいのに、基本的に舞台上では何か叫ぶ系の可愛い役ばっかり。もっと教え説くようなカッコいい役回りの、あるじゃーん!という訳で、大分すんなり決まりました。ちゃうかで普通の人をやるぽにょさんが見られて満足ですが、もっと見たかったです。 「あれ、もういいの?」 「はい。………………もう、大丈夫です」 じゃあ、気を付けて。 大人としては無責任かもしれない一言を残して、職務に戻る。 随分しっかりした感じの子だった。 本当は誰かとはぐれてなんていなかったのかも知れない。 となると、こんな街の中を一人で………………親はどうしているのだろう。 首を振り、妙な邪推も振り払う。 この区画で育児放棄なんて珍しくもない。 あの子の境遇は自分の仕事と関係ない。 それこそ、あの子が死体にでもならない限りは。 もしくは……………… そこまで考えて、下らないと切り捨てた。 そう言えば、警察の役目を教えてくれた人。 別に、「何が悪か」までは教えてくれなかった。 それから十数年。 考えてみれば、別に大した話じゃなかったのかも知れない。 「正義」や「悪」は、道具だ。 守るべきものが「正義」。倒すべきものが「悪」。 互いにそう決めつけあってるだけで、本当にあるのは単に殴ったら殴り返されるだけ、自己責任の野蛮な世界。 「なんでマイナスの平方根があるんですか」みたいな質問みたいなもの。便利だからそこにあるだけで、それ自体に意味なんてない。 下らないけど、それで社会は回ってる。 別に壊す理由も、逆らう理由もない。 それでも、あえて「正義」を見出すなら。 廊下を歩き、仕事をする。 その事に疑いはない。 突然爆発が起こって壁が吹き飛ぶ事も、ない。 深く考えないで、前に進める環境。 当たり前が当たり前のままであり続ける。 それも、一つの正義。 それを守る事が、自分達の正義。 そう思うと、今の自分は間違っていないように思えた。 急に、暖かさを感じる。 体のどこかに熱がこもったかの様な感覚があって、それでようやく迷いが消えて……………… 焦げ臭い匂いで、それが違和感に変わった。 暖かい、じゃない。熱い。 いつのまにかポケットに入れたタバコが、スーツを内側から焦がしていた。 それに気付いて、絶叫した。 ・芒役/大林弘樹(29期) サイゴンさん。すごく優しい方です。そしてすごくエ【自主規制】アンケートを拝見しました所、御自分でなさったのであろう芒としてのメイクは「大学生とは思えない」等と評判を博していました。思えばオムニバス公演で役者メイクについて教えて下さったのもこの方だった、そんな気がします。まぶたの縁のギリギリに鉛筆を突っ込むという(役者としての通例とは言え)なかなかの恐怖体験ですが、サイゴンさんに指導していただいている最中はそんな不安もありませんでした。 本公演では主にいろり役のイッヒさんと過激なスキンシップを………………詳細は述べませんが、中々に印象的な光景でした。あとすれ違う時には【検閲済】とある事情でアドリブが多くなりがちな刑事サイドでしたが、それを自然な演技で軌道修正して下さるという点ですごく頼りになる存在でした。芒という「場を取り仕切る」役に最も馴染み、その持ち味を最大限に生かして下さったと思います。そのお陰で周りの役者さんもアドリブをぶち込み易かったのではないでしょうか。いえ私は怒りません。ただし一部のアドリブについて周囲の役者さんがどう思うかは別問題です。「悪い事は自己責任」。 文字通り予測不能、キャラと同じく胃の痛い環境の中で進行を務めて下さってありがとうございます。 「織戸の野郎、どこほっつき歩いてやがる」 「絶叫しながら廊下走ってましたよ。服に火が付いたとかで」 「何やってんだアイツ………………」 現状報告を終えた部下を見送り、溜め息を吐く芒。 学歴を鼻に掛けて露骨に見下してくる同僚は何故か辞表を提出した。 加えて最近自らを悩ませていた肩の荷がようやく降りた、そんな感覚。 芒の記憶は数週間分不自然に抜け落ちていた。 だが、その上でなおも本能が「終わった事だ」と訴える。 そんなものか。 声に応じ、その傷が癒える事を許し始める。 当たり前の様に信じていた法則が破壊される。 予測しようもない事態が次から次へと襲い来る。 白昼夢の様な経験。 省みるでもなく、懐かしむでもなく。 ただ人として、芒はそれらを「呑み込んだ」。 後には何も残らない。 それで良い。 根拠の無い確信は、何故だかある種の安心感を伴っていた。 「遅ぇんだよ���何時間かけてんだ」 険のある声色に思考が遮られる。 同じ部署の人間が作業机に部下を呆れた顔で叱り付けていた。 「おぅ、どうした」 「芒さん。聞いて下さいよ、コイツ中々作業を進めないんです」 ふぅむと唸り、当の人物を見遣る芒。 俯き、混乱した様な表情。目は泳ぎ、脂汗を流している。 屈む事で視線を合わせ、その奥の感情を見据えようと試みる。 「どうした? ………………訳があるなら話してみろ」 「いえ、その………………」 「何だ?」 怪訝な表情が威圧となって相手を怯えさせる。 その事に気付き、芒は慌てて柔和そうな態度を取り繕う。 数秒後、件の人物は意を決して話し始めた。 「字が、読めないんです」 「読めない。前からか?」 「突然です。朝起きたら、急にそうなってて………………文字が全部ミミズみたいな記号に見えて、日本語のはずなのに全く意味が」 「下らない事言ってんじゃねえ。仮にも警察官が、そんな出まかせで仕事サボれるとでも思ったか?芒さん、コイツ人事に掛け合って更迭しましょう」 「………………いや、待て」 芒は悩んでいた。 『刑事として培われた長年の勘』なるものも、この場合は上手く働かない。 見え透いた嘘、と断じるには絶望した様な表情が真に迫りすぎている。 しかし、発言の内容が内容故においそれと信じる事も出来ない。 仕事柄、作業量の多さや精神的な負担に耐えかねて心を壊す同僚の存在は少なくない。芒自身、そうした人物を幾度と無く目にしてきた。 今回もその類の事かと結論付けた所で、 軽い眩暈が芒を襲う。 知るはずもない人物の、聞くはずもない言葉が脳裏に過る。 『呪いの渦中にいない以上、その呪いについてとやかく邪推すべきでない。 大きなお世話という物です』 『御自分の考え、常識。そうした物を一義的であると思わぬ方がいい』 気付けば体勢を崩していた。 叱っていた人間はおろか、先刻まで怯えていた人物にすら心配そうな視線を向けられている。 仕切り直す様に芒は姿勢を整え、指示を下す。 「今日はもう上がれ。んで病院行って来い」 「良いんですか?」 「おう。場所は分かるか………………というか、行けるか?」 「はい、何とか。ありがとうございます!」 「ちょっと、芒さん!?」 「この作業代わってやれ。大した量じゃねえだろ。 今の仕事があったらそっちは持ってやる」 「しかし、現状の案件は………………」 「気にすんな。なんだ、今流行ってんだろ。マルチタスクがどうたら」 少なくとも、すべき事はある。 それを続けていれば、自らの勢いが衰える事はない。 漠然とした、にもかかわらず確かなる信念を持って。 芒も、また再び歩み始めた。 件の人物が実際にとある病気を発症していたと分かるのは、先の話。 ・大下役/渡部快平 ワカさん。今年「美」に目覚めたんだな、と思いました。 思えば今年度の新歓、まさか脚選でご自分の脚本をお書きになるとは思いませんでした。それからオムニで一度脚本を通し、その美しい世界観は言うまでもなく好評を博しておられました。その後は言うまでもなく劇団内にも固定ファンをされ、舞台監督としても多くの団員から信頼を集めている凄い方です。 社会派な作品を書きたいと仰っていたのが私個人の記憶に新しいですが、それと関係があるのかないのか今回の大下という役ではめちゃくちゃ輝いて下さいました。「低学歴」を見下すあの表情。何て楽しそう。いや、ありがとうございます。「普段の様子を知っているから逆に面白い」という声が何となく理解できました。やー、面白かった。 癖も強く、中々演じたがられなさそうな大下という役の魅力をここまで引き出して下さったのはひとえにワカさんの教養というか、想像力というか、そういう部分があったからだと思います。「脚本を書く上で人間性の闇と向き合い続けたら病んだ」という逸話をお持ちなくらいなので、それだけ人間の負の側面という物を見据えて来られたのだと思います。だからあの闇の塊みたいな大下もあの仕上がりに。すごい。でも、人間の闇ってそこ止まりじゃないんですよ。RPG「ダークソウル」シリー��とかプレイした後になるにぃさんの動画とか見てみて下さい。ちなみに私は未プレイです。 未明とは言え、人の往来は少なくない。 市街地の中心地、一際大きな交差点。 行き交う各々の事情に思いを馳せるでもなく、その怪人物は佇んでいた。 薄汚れた赤いトレンチコート。 風呂に入っているのかも怪しいボサボサの髪。 中華風の丸いサングラス。 長老の様に伸びた無精髭。 所々生地がほつれ、破れた焦げ茶色のベスト。 ダボついた深緑のズボン。 全体的に浮浪者じみた風体は、少なからず衆目を集める。 その中に二つ、明らかな警戒を孕んだ視線。 ある種の殺意めいた物を背中に感じながら、怪人は動き出す。 信号は既に青。 それをちらと確認し、尾行者二名もあくまで自然な風を装って歩を進めた。 区画の発展は目覚ましいが、完全ではない。 主な通りを少し外れれば程なく「裏路地」に入る。 解体されずに放置された廃墟群。 複雑に絡み合った利権や都合が整理を許さない文字通りの暗部。 如何ともし難く、さりとて誰にとっても有用でない無法地帯。 というよりは、無の地帯。 誰もいない、敢えて足を踏み入れない、ビルに挟まれた虚無の歩道群。 尾行者は並みでない苦労を強いられていた。 第一に、通路の複雑な構造。 不規則に別れ、出鱈目に繋がったそれらの中では一歩先を行く人物の位置すら把握が困難になる。 第二に、尾行対象の挙動。 おちょくっている。 尾行者の片割れは直感した。 一つの通路へ頭を向けたと思いきや、そちらには行かない。 足を踏み入れた、次の瞬間バックステップで急に元の分岐点へ戻る。 恐る恐る様子を伺う相棒が息を呑む様子が聞こえた。 以降、対象の挙動は激しさを増す。 時折何の脈絡もなく振り返る。 明らかに不必要な動きが増える。 ゴミを拾って見せる。 何かを思い出し、腹を抱えて笑う。 立ち止まってロボットダンスを披露したかと思えば急に歩き出す。 相棒の困惑した視線を受け取る。尾行者は頷く。 意を決して身を乗り出したその瞬間、怪人は軽やかなターン。 慌てて遮蔽物に飛び込むも時既に遅し。体が急な制動に対応しきれずバランスを崩す。強かに尾てい骨を打った。 起き上がるや否や、怪人が逃走を始める。 追う相棒が怪人へ怒号を飛ばし、慌ててそれに着いて行く。 以降、仁義なき追走劇が10分程度。 息切れも激しく、明らかに許容量を超えた運動を行ったと分かる。 満身創痍の二人に目もくれず、余裕綽々と言った怪人がせせら笑う様に背中を向けて立ち止まる。 埒が明かないとばかりに尾行者は懐へ手を入れる。 「動くな」 台詞の内容、金属部品が擦れ合う音。 取り出した物を察したのか、怪人の様子が変わる。 言わずもがな、拳銃。 漸く話の通じそうな雰囲気を感じ取り、尾行者が要件を口にする。 「警察だ。署まで同行しろ」 「ちょ、流石に拳銃はマズいですよ。一応任意同行なのに」 「うるせえ。散々面倒掛けてくれやがって、この………………」 「………………何故、私が?」 くぐもった声。 対称的に毅然とした声で返す警察の片割れ。 「礼楽町付近で起きた連続不審死。 ここ最近、現場周辺にお前みたいな奴の姿が複数回目撃されてる」 「どう考えても関係者だな、テメェ。何を知ってる」 観念したかのように怪人が振り向く。 瞬間、その眉尻が上がる。 「………………織戸君に、芒さん?」 「は?」 「え、えー。うわー、意外だなぁ。もう会う事ないとばかり思ってたけど、まさかこんな感じで再会するなんて。ねぇ、二人とも元気でやってます?大事件とかない?その辺どうなんです、ねぇ」 「お、ち、近寄んな!これ拳銃!見えねえのか!?」 「安全装置外し忘れてますよ。それじゃ撃てない」 「あ、本当だ。何してんですか」 「うわ、クッソ………………つうかそじゃねえ、そうじゃねえ!」 親し気な様子で近付いて来た不審者に調子を崩され、一瞬和気藹々とした雰囲気に呑まれかける芒。 幸いにして持ち直し、根本的な問いを放つ。 「テメ誰だ!少なくとも俺の身内に浮浪者はいねえぞ!」 「浮浪者?あー、そっか。イメチェンしたんだった」 「イメチェン………………?」 「参ったな。あ、サングラス外せば分かる?」 訝しむ織戸を他所に、怪人物は一方的に自らの素性を明かそうとする。 隠されていた目元が明らかになった事でその顔立ちの全貌が見える。 髪や髭に邪魔されて輪郭が見えづらいものの、その人を食った様な独特な表情、整った各部の配置はその人物を特定するに十分だった。 今世紀最大の驚愕を込め、芒が情けなく叫ぶ。 「お………………………………大下ァ!?」 「え、そんな驚きますか。僕が僕で」 「変わったな………………というか変わりすぎでしょ! もう原型留めてないもん!」 「そこまで言う?やー、意外だなぁ。 自分じゃそんなに変わってないつもりだったんだけど」 「いやいやいや………………あ、違う!大下テメェ! 現場近くで、そのクッソ怪しい風体で何してやがった!」 呆れも込めた激しい追及に、あっけらかんとして答える大下。 数か月前とは打って変わり、その様子には一切のしがらみを感じさせなかった。 「何って、捜査ですよ。聞き込みというか、情報収集?」 「捜査って、警察は辞めたはずじゃ………………」 「こっちの話。要は、そういう仕事があるんです。金さえあれば、普通の警察が太刀打ちできない事件の全貌を明らかにできるって約束の仕事」 「はぁ?」 只管困惑する二人を前にして、大下はマイペースに言葉を紡ぐ。 「という訳で、昔の同僚とはいえ今は部外者。 本件に介入させる訳には行きません、お引き取り願えますか」 「こっちの台詞だ!おい、今のお前が何に手ぇ染めてるかはどうでもいい。 ただな、お前の言動は明らかに捜査妨害………………」 「あーその辺の問題じゃないんですよ。こっちにも同じ事情があるって言うか………………面倒臭いな。おい!」 「はいはーい!」 大下が呼びかけ、返事を返したのは路地裏の上方。 道を挟むビルの屋上、その縁に座る小柄な人影。 妙な既視感が奇妙な風切り音に遮られる。 矢。 妖しく白い輝きを放つそれが、織戸と芒の足元に突き刺さる。 驚く間も与えず、矢は一際眩い光を放つ。 強烈な眠気によって二人が倒れるのに、そう時間は要しなかった。 効果の程を確認すべく、寝顔をまじまじと眺める大下。 その様子を見た人影が、猫じみた身のこなしで飛び降りる。 高さと質量からは想像も出来ない程に軽やかな着地音を聞き、思わず感嘆の声が漏れる。 「俺も中々かと思ったけどさ、やっぱお前は大分違うな。 2,3日でもう人間辞めやがって」 「人でなしみたいな性格した人に言われたくないなぁ。 でぇ、大下さーん。今日の分のお小遣いは?」 後ろで手を組み、上目遣いで期待を込める大下の協力者。 そのわざとらしさに若干白い目を向けながら、大下は苦々しく確認する。 「隠しカメラとか仕込んでねえだろうな」 「まっさかぁ。ケーヤクイハンだし?」 「白々しい………………」 「あ、でも報酬次第だかんね。 動画にした方が儲かるなら無許可でそっちに切り替えるし、その辺宜しく」 「………………4人分か?」 「当然でしょ。4人揃ってこぉそぉのブランドなんだし」 「なぁにがブランドだ。どぉせこないだの放火もお前らだろ。 炎上系の癖に気取りやがって、偉そうに。地獄に落ちろ」 「そんな連中頼ってメシ食ってんだし、お互い様でしょー?」 「ハッ。そうだな………………」 自嘲気味の笑いを漏らし、清々しさを湛えた顔で向き直る。 煽った相手も心底楽しそうな笑みを浮かべていた。 厚みを持った封筒を手渡すや否や、協力者は当然の様にひったくる。 苦笑いを浮かべながら、険の無い口調で嫌味を放った。 「じゃ、午後もよろしく。犯罪集団」 「どーも、似非捜査官さん」 別れの言葉もそこそこに、互いに別の方向へ歩み出す二人。 相変わらず白目を向いて横たわる織戸と芒。 それぞれの姿を、上り始めた朝日の反射光が照らしていた。 ・三珠役/遠藤由己(29期) ハイ。説明不要でカッコよくて面白くて優しい我らが座長です。そして本公演での舞台監督です。そのゴリラとバナナと演劇に対する情熱で皆から愛される凄い方。え、完璧。欠点と言ったら作ったラーメンの生地をサークルの冷蔵庫の中で腐らせる事くらいしか思いつきません(実話。なお物体Xはちゃんと処分されました)。面白い人ってたまに人をダシにして笑いを取る、いわゆる陽な���メージがあるんですけど、この方には一切それがない。絶対に他人を責めないし、本気で人を蔑んでる所とかみたことがないし、ミスをしてもちゃんと注意して許して下さるし、もう、ちゃうかにとって太陽みたいな方だったと思います。リミッター掛けずに暴れて他人様に迷惑を掛ける事が多くて、後会話が苦手でよく人を避けがちな私にも沢��話しかけて下さったり、もう天使みたいな人です。本公演も滅茶苦茶なスケジューリングの所為で予定押しまくって、御自分が泣きたいくらいの状況においても優しい言葉で気に掛けて下さって、もう色々限界に近い様な状況でも絶対に激昂したりせず笑顔を保ち続けて下さった、それらの事へ申し訳ないの気持ちと伝えきれない程の感謝の気持ちが渦巻いております。本当に御迷惑をお掛けしました。そして、本公演本当にお疲れさまでした。 ………………はっ!「役者」紹介なのに役者としてのエンドゥーさんをご紹介出来ませんでした。カッコいいのはそうなんですけど、実際面白い、というかアドリブを多めに入れて下さる方です。 とはいえ今回はその余裕がない脚本でした。いえアドリブが悪かった訳ではなく、そうした「遊べる」部分がないような脚本だったのが良くなかったかな、と思ってます。 なので、その無念を晴らすべく脚本の方を書き換えてみます! IFストーリー、「もし三珠がアドリブしやすい環境だったら」。 「所有者は実行ファイルをJadでデコポンした、と言ってましたが」 「デコポ………………デコンパイルの事っすか?」 「そうそう、そのデコピン」 「デコンパイルっす。ちょっと遠くなってる」 「ほう、そのデコッパチってのは大変なんですかい」 「いや惜しい。今までのに比べたら惜しいレベル」 「レコンキスタが何ですって?」 「あ大分離れた。イベリア半島の再征服活動は全く関係ないっす大下さん」 「デコレーションケーキですかな?」 「矢盛さんデコしか合ってない。というかあなたもそっち側なんすか」 「えーっと、………………ヒロポン」 「いや原型失ってるっす。何すかヒロポンって。 思い付かないからってデコポンから雑に派生すんのやめて下さい」 「ちゃんぽん」 「クーポン」 「ピンポン」 「じゃんけんぽん」 「NEXCOニシニッポン」 「ポンで畳みかけないで下さい。 そもそも『デコンパイル』にポンつかねーから!」 「えっと、何の話でしたっけ………………」 「忘れてんじゃねーよ!」 結論:話が進まない。 おあとがいけないようで。 本式のIFは後で書きます。予告しよう。長いよ。 ・矢盛役/石英(29期) 入団当初、まだ人間性を獲得しておらず暴れまくっていた頃の私は(今思うと大分失礼な発言ですが)ある方に似ている、と言われた事がありました。無論見境がない分私の方がヤバかったらしいですが………………お察しの通り、その方が■■さんです。一目見たとき「あ、キャラ被ってる」と思ってしまいました。眼鏡、あと敬語キャラ。後者が特に大きかった。しかし聞いて下さい、色んな意味で暴走する私と違って■■さんは落ち着いた凄い人なんです、言わば私の上位互換。ああでも■■さんを私ごときの上位互換だとか言ったらそれはそれで無礼度がマッハ有頂天、どうしよう、みたいな事になったのでとりあえず私はフードとマスクとサングラスを着用しました(全くの無関係)。 この方の普段の振る舞いを見るとまず「人間科学ってすげぇ」という感想が溢れてきます。人間に精通している。どう言えば伝わり、どうすれば動き、何をやっても大丈夫なのか把握しておられる気がします。そして私の取り扱い説明書を持っておられる貴重な方です。通訳さんとして大分お世話になりましたし、この公演中「この方にしか理解できないだろうなぁ」みたいな事も大分お話させていただいた事があります。あと照明の「チーフ補」を務めて頂きました。もう、諸々神の様なお方です。私にとっては最高神。 お世話になった事を箇条書きしていったらそれだけで脚本が一個できるレベルで御迷惑をお掛けしました。役者として?めっちゃくちゃ上手い方です。脚本の理解に掛ける執念と言え、プラス私の脳内を推察できる方なのでもうそれはシンクロです。不明点などどんどん質問して下さって、本当に有難うございました。長台詞ばっかりでごめんなさい、でもカッコよく決めて欲しかった、啓蒙の高いカッコよさを存分に示してほしかったのです!よって後悔はありません、お疲れ様でした!なんて鬼畜な私ぃ! 「それで、話というのは何ですか。久保田君」 昼下がり。 どこにでもある喫茶店。 二人の客が会話を始める。 「………………お願いがあるんです」 「ほう、お願い」 「ええ。自分が、死んだ後の事を」 尋ねた方の人物が片眉をひそめ、もう片方を吊り上げる。 薄布で出来た黒のローブ、頭には二本の蝋燭。 奇態な格好が衆目を集める事は、何故かなかった。 相対する紙袋を被った人物、久保田についてもそれは同様だった。 「死ぬとはまた縁起でもない。一体何に首を突っ込んだんです?」 「………………他愛もない、呪いの類です。 ネット上に転がってて、まだ誰も傷付けた事がない様な」 「それを、消そうとしたのですな?」 「そうです。でも………………」 「上手く行かなかった。なるほどなるほど」 オカルトじみた服装の人物、矢盛。 最も酷薄な、かつ当たり前の言葉を選び、相手に向けて躊躇なく吐き出す。 「まぁ、自業自得でしょうな。 どんな理由があったかは知りませんが、その辺に転がる呪いに手を触れるなどあってはならない事。無論君ならば良く分かっていたはずです。 その上で、なぜその様な真似を?」 「………………子供」 「はい?」 「子供が作った呪いなんです、それは」 矢盛の脳内を様々な推測が去来する。 亜事象………………呪いを含む、超常現象。 それらを構築する知識を子供が得るのも、あり得ない話ではない。 しかしながら。 「一体なぜ?」 爆弾を作る知識を偶然手に入れた子供、そのどれだけが実際に爆弾を作ろうとするだろうか。倫理的な問題は省くにせよ、手間は掛かる。一歩間違えれば自らの身に危険が降りかかる。「面白そうだから」という目的だけで殺人兵器を完成させる物は、まずいない。 誰かに殺意でも抱いたのだろうか。それでは「誰も傷付けていないまま、呪いがネットに流れている」状況と矛盾する。誰を狙って? 久保田の答えは、そうした矢盛の疑問を更に深める事となった。 「芸術………………多分、そんな感じだと思います」 「どういう意味です?」 「その子は、その呪いを一つの作品として完成させたんです。 誰かを殺すことも、その一部として」 要領を得ない答えが返る。 様々な疑問を飲み込み、矢盛は最低限の解釈で応じた。 「………………ただの子供では、ないと」 「ええ」 「しかし、それならますます意味が分からない。 君、なぜそんな人物を敵に回したのですか?自分の命すら危険に晒して」 沈黙。 紙袋の上から、その表情は窺い知れない。 「………………守りたかったんです」 「誰を。何から?」 「その子をです。このままだといずれあの子は、あの呪いは、誰かを傷付ける。それだけじゃ済まない、いずれあの子自身も復讐に遭って殺される。 誰かを殴れば殴り返されて死んでしまう、それをあの子は!」 「お、落ち着いて。あ、どうもすいませんね店員さん。 ほら。一旦食べて落ち着きましょう」 「あ、すいません………………」 立ち上がっていた久保田が気を取り直し、椅子に座る。 紙袋の所為で悪くなった視界は、プレートを持ったまま困惑する店員の存在を捉えていなかった。 矢盛の注文はパンケーキ。久保田はフレンチトースト。 すぐさまナイフを入れ、舌鼓を打ちながら互いに考えを整理する。 もきゅもきゅ。 全てを胃袋に収める頃には、矢盛はある程度その理解を纏めていた。 紙ナプキンで口元を拭い、再び話を切り出す。 「つまり、アレですな。 亜事象世界のシンプルで残酷な掟からその子を庇護したかったと。 その子、ひいてはその呪いに関わるにあたって、どうしても君自身が狙われる必要があったと」 「ええ。道を踏み外したとはいえ、あの子にはそれだけの才能がある。 若い芽が摘まれるなんて、俺には耐えられない」 「正義感の強い君らしいですな。 誰かを殺めようとする子供すらそこまで気に掛けるなど。 しかし、才能というのは呪いを作る事だけですかな?」 「どういう事です?」 「いや何。先程から話を聞いてみると、何か君自身その呪いに感銘を受けた節が感じられると思いまして」 「………………一つ、見ていただけますか。 呪いに関わる画像なので、あまり」 「その程度気にしていたら亜事象家などやっていられませんよ。是非」 促され、久保田はポケットから一枚の紙を取り出す。 画像がプリントされたそれを見て、矢盛はただ美しいと感じた。 中世のそれを思わせる、ファンタジー的な街並み。 山肌の質感。自然な光。現実には存在しえない、だが「何処かにあってもおかしくない」とすら感じさせる趣ある建築。細部に至るまで生々しく描写された人、生物、その他全て。 最新のCG技術ですら再現出来ない程の光景、一枚の紙に映し出されたそれですら矢盛の心を掴むには十分だった。 「ほう、なるほど……………亜事象で生成した光景、ですか。 ここまで見事な物は見た事がありません。しかし、呪いと何の関係が?」 「呪いのゲームのスクリーンショットです。 この世界の中で悪行を犯したプレイヤーは裁きを受ける」 「何と。要はグラフィックがめちゃくちゃ綺麗な呪い版UNDERT〇LEと。 はー、確かにこれは危険ですな。良い評判に騙されてその辺の一般人が手を出してしまうかもしれない」 「でしょう? こんなに美しい物が作り出せる子なのに、勿体ない」 「ちなみに『子供』というのは、何故?」 「追われてる時に何回か姿を見ました。 やってる事と言い体格と言い、少なくとも大人じゃない気がし��」 「ほーん………………」 納得しかけた所で、本題から逸れた事を思い出す矢盛。 そも、久保田から自分に託された願いとは何であったか。 AM6:00。 日が昇り、矢盛は「吸血鬼」の亡骸が崩れ去るのを確認する。 亜事象の研究家として適宜警察等の公共機関に協力し、必要に応じて自ら手を下してほしい。 丸投げともとれる雑な願いに対し、事実矢盛はやり遂げるに至った。 身勝手に命を賭け、死んでいった久保田。 その行いに、何らかの意味があったのか。 確かめる術もないまま、弔いを胸に矢盛は佇む。 もう、あの姿のままで相まみえる事はない。 路地裏の静寂が、惜別の情を静かに包んでいた。 昼下がりの喫茶店。 甘味を味わい尽くし、席を立とうとする二人。 今生の別れを前に、矢盛が希望的観測を口にする。 「時に、久保田君。 怨霊を、信じますか」 「………………信じます」 「そうですか………………」 根拠もなければ、証拠もない。 ただ、「そうであれば良い」だけの噂。 「この世界は、産み落とした物を無碍にはしないそうです。 例え姿形が変わろうとも、今ある物は残り続ける」 矢盛が久保田から視線を外す。 「いずれ、また会いましょう。 互いが互いに出来る事をやり尽くした、その後で」 その声は、心なしか震えていた。 応える久保田も、また死の恐怖を掻き消すように声を張る。 「ええ。負けません。 必ず、この世に想いを遺します」 それが、矢盛の聞いた久保田の最後の一言となった。 ・玉池役/堀文乃 らめるさん。お世話になるのはシザーズ以来ですね。 いや、プロです。上手い。それっぽく投げたイメージの解像度を物凄く引き上げて下さる神です。それだけに学生役にとどめるのが申し訳なかった。前座コントで見た様な虚無感の演技然り、もっと幅広い顔があるはずなのにそれを見る事が出来ないっ………………!!!!あ、ああ悪役!次は悪役をお願いします!!!フリーが濃すぎた影響か、今回の役は割と常識的に見えたかもしれませんがホントにすごいんです。楽しみ方とか喜び方とか満面の笑みがもう輝くような感じだし、「草」の言い方とか「あミスった」とかすごい自然だし、推しに遭えた感情で限界に達するムーブとか安易に共感できて、もう玉池やってもらってよかったなぁと。配役に関する個人的な妄想をもう少し広げると、そうですね………………次はめっちゃクールな役も見てみたいし、自然に微笑みながらサラッととんでもない事を語るようなにこやかサイコパスも見てみたいし、逆に怒涛のツッコミをお任せしまくるのもいっかなぁ、あーでも笑顔が見れない、何をお願いしても笑顔で演じ切ってくれそうな感じがあるからこそその笑顔がもっと輝いてほしい、はぁよすぎでしんど。でも一番しんどいのは勝手に色々言われてるご本人かもしれませんね。この辺で止めにしときます。 ・多賀役/岡山桃子 この方の優しさをフルコースで体験しました。いや音響。音響。舞台上の役者の動きに合わせて音が鳴ったりするんですが、今回はその回数が3桁を超えたそうです。やーすごいですね。誰のせいなんでしょう。下手人は大集会室の床に土下座の要領で頭を叩きつけまくって脳漿をぶちまければいいのに。すいません私ですごめんなさい。でも全然キレないんですこの方。慈悲の化身か。本当にしんどい思いをさせて申し訳ございませんでした。 役者としてですが、可愛らしい役をする事が多い方だ���思ってます。それだけに今回はただ可愛いというよりも大人しい感じの役だったというか、そこまであざとさに向いてなかったというか、むしろカッコいい部分もあったかもしれない?スタッフワークとかで人間性的なカッコ良さを発揮する人が舞台上でそうなれないのに耐えられなかったんだよ!!!!!(謎の告白)何でしょうね。そう考えると今回はまだ役にイケメンさが足りなかったかも知れないです。でもいつかどちゃくそイケメンな役を演じさせてみたい。そして全国のみこた………………みこさんランドの住民の村を焼きたい。見てみたくないですか?私は見たい。 久保田inにその片鱗はあった気がする。目覚めよその魂………………!! ・中西役/lulu ラブノートからの………………ペチカさんの所でコレ書くんだったー!!先に言っておくと、luluさん/児玉桃香さん/中戸太一さん/サミュエル・ツヤンさんの4名とは2018オムニB脚本「LOVE NOTE」メインキャストからの仲です!なのでこの5人はこの脚本に揃ってました!懐かしー! え、役者として?この御方を誰だと思ってるんですか。luluさんですよ。初登場からその圧倒的なカリスマ性で固定ファンを大量に獲得、今やその影響力は政財界の域を超えを揺るがさんとしているluluさんですよ?真実はさておき、私も稽古場で「ルルさんに逆らうんですか?」という脅し文句を使った事があります。怒られました。いやでもカッコいい。キャスパも凄い。一回ぐらい主役やってほしい。というか最近「殺されるならこの人かな」みたいな感情が芽生えてきています。気持ち悪いですね。今作ではツッコミ役の学生としてこれ以上ないほどリアルで引き締まるような演技を披露して下さいました。 本公演では演出補佐も務めて下さいました。そう考えると演技面ここどう思いますか、みたいな感じでもっと御意見を求めれば良かったのかな、と思うシーンが山の様にあります。いやでも十分ですね。キャスパしかり、学生サイドの監修しかり、「一つのシーンが演出の手を経ずにほぼほぼ完成する」という夢の様な事例を作って下さってありがとうございました!luluさん最高! マッカブランカによる前代未聞の生放送企画から3週間後。 一切の情報を残さず、件の4人は消息を絶った。 遺されたのは、一瞬の安寧。 あるいは……………… 「玉池ぇ、いい加減立ち直んなよ。 別にマッカが死んだって決まった訳じゃ………………」 「アァアァアァアァァァ………………」 「しょうがないよ。あれからすっかり落ち込んじゃって。 夜も眠れず食事も喉を通らない、唯一体が受け入れるスタバの新作メリーストロベリーケーキフラペチーノで辛うじて生きながらえてるんだって」 「弱ってるにしちゃ主食がハイカロリーだな」 あるいは、死んだ目の玉池。 生気を感じない瞳の下には幾重にも隈ができ、顔色は青白さを通り越して純白、あらゆる問いかけに対して「マッカしゅき」としか返さぬ有様。 ゾンビ。 端的に表現すれば、それそのものとしか言い様がなかった。 「どうすんのコイツ。てか何でこんななってんの?」 「何日か前からおかしかったっちゃおかしかったんだよね。 最初こそ『大丈夫。マッカは生きてる』って怖いくらいの笑顔で言ってたんだけど、段々『マッカニウムが足りない』とか『まばゆい推しの記憶があたしを生かし、同時に苦しめるんだ』とかうわ言いい出すようになって」 「しまいに教室のど真ん中でカッター持って『我ガ臓器ヲ捧ゲマッカヲヨビダス』とか叫びやがった、と」 「止めてなかったらホントに切腹してたかもね………………」 多賀が玉池の様子をみやる。 焦点の合わぬ視線が虚空を見据え、時に痙攣しては弛緩していた。 その様に呆れ、中西が眉間を指で抑える。 「勘弁してよ………………このままじゃウチらまで変人扱いじゃん。 玉池、どうしてもマッカじゃないとダメなn」 「いい訳ないでしょぉおぉぉぉおおおお!!?!?!?!?!?!?」 「うわっ………………」 「二度とあたしに向けてその言葉を放つな、それはあたしにとっての禁句だ、いいか。故郷に替えが利かない様に」 「おかえり玉池」 「ただいま多賀。一生の推しはずっと代えられない。他人がどうだか知らないけど、あたしにとっての推しYoutuberは今後一生、何があっても絶対、どんな不幸や災難があたしを襲おうとも、間違いなく、確実に、マ、ッ、カ、ブ、ラ、ン、カ、だ分かったかぁ!!!!!」 「離せ」 「あいだだだだだだギブギブギブ!!!」 激昂しながら中西に掴み掛かり、結果手酷い反撃を受ける玉池。 野に咲く花を見るかの様な面持ちで眺める多賀。 最早、日常であった。 関節技を解かれるや否や、玉池が喚く。 「あー中西余計な事すんなよぉ、何も言わなきゃあたしは今も虚ろで空虚な夢の中を一人さみしく泳いでいられたのにぃ」 「『虚ろ』と『空虚』は同じだよ」 「るっさい。あー、やだなぁ。これから何十年もマッカのいない世界を生きてかなきゃいけないのかぁ。退屈だなぁ、いっそ死んでやろうかなぁ。しかし死ぬと言っても色々方法はある。転落、焼死、窒息死………………」 「お前は何がなんでも過去公演ネタをやらないと気が済まんのかい」 「え、じゃあ何?信じてればいつかあたしの目の前にドラゴンに乗ったマッカブランカの4人が来てくれるとでも?」 「いや知るかよ。勝手に信じてれば」 「ハクジョーな事いうなよー友達だろー?」 「とち狂った挙句クラスみんなの前で割腹自殺しようとするような奴を友達とは呼びたくない」 「ひどい………………え待って何の話」 「記憶すらねーのかよ最悪だな」 「二人とも」 縋りつく玉池、邪険にする中西。 二人が、多賀の声によってようやく異変に気付く。 周囲を見れば、クラスメートも同様に騒いでいる。 薄暗い。 教室のみならず、学校全体を覆う影。 窓から見えるは硬く、煌びやかに輝く固い鱗の群。 古典的RPGじみたドラゴン。 何かを振り落とさんと、必死に暴れ翔んでいた。 そして、その背中には。 「視聴者のみなさーん、おっひさー! 待たせたお詫びに今回は特大スペシャル!何とみんなの目の前でドラゴンの解体実況をやっちゃいまーす!いぇーい!」 多賀や中西にとっても見覚えのある、クロスボウを抱えた小柄な人物。 背後にはいつもの3人。 謎の空撮ドローンに向かって手を振りながら声を張る、その様は。 玉池が、弾けた。 枯れかけた草木が生命の輝きを取り戻すかの如く、弾けた。 肌は瑞々しさを取り戻し、四肢には宿るは火事場の馬鹿力。 特に邪魔だった訳でもない中西の足を掴んで持ち上げ、後ろに放り投げる。 宙を舞う中西。 飛距離は5m。 壁に激突。 駆け寄る多賀。 唖然とするクラスメート。 それら全てを完全に意識から外しながら、玉池は。 力の限り。 喉が割れんばかりの大声で、叫んだ。 「マッカじゃああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁぁあぁああぁあぁあぁあぁああぁぁぁああああっぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁっぁあぁああぁあぁぁああああああぁあぁぁあぁあぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁあぁあぁあああぁぁああぁああぁああぁあああああああああぁああぁあぁんっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 教室のガラスが、一斉に吹き飛ぶ。 クラスの大半が耳を抑え、うち幾人かは失神する。 数百人分のそれに匹敵する声量の応援を受け、レミがそちらに手を振る。 玉池の視力、今や5.0。 無論その仕草を捉え、その精神が天へと召されゆく。 推し、即ち神。 自らの声が神に届けられる。 この世の何物にも耐え難い自己肯定の証左、狂おしい程の悦楽に呑まれながら玉池は有頂天であった。 ふと、側頭部に違和感を覚える。 足。 どす黒い殺意を纏った中西の飛び回し蹴りが、玉池の頭蓋に横から深く食い込み、破壊する。 必死に止めようとした多賀は、既に振り払われていた。 ああ、何だ。 たった、それだけの事か。 意識が、徐々に霞となって消える。 机や椅子を薙ぎ倒し、玉池の体が床へと零れ落ちる。 暖かい布団に包まれ、微睡みに墜ちるかの様に。 怒り冷めやらぬ中西の幾度とない踏み付けを食らっても、なお。 玉池は、笑顔であった。 ………………駄目だ。耐えられない。 一つのキャラにつき一つの物語を書かないなんて、そんな馬鹿な。 待てよ、僕の仕事は………………こんな風に、想像する事。 文字によって、頭の中の世界を描く事じゃなかったか? そうだ。 何を忘れていたんだろう。 これはあくまでも本編後のアフター/IFストーリー。 役者紹介は、その口実に過ぎない。 ハ………………ハハハ。そうだ。それこそが、僕の! 「ちょっと待って」 ………………誰だ? 「お世話になった人、迷惑をかけた人。 その人たち全てに感謝と謝罪の念を述べ、過去を供養する事。 その大切さを、君は忘れている」 何を、言って………………ぐっ!? ぐ、ぐあ………………あが、ぐあぁあぁああぁああぁああ!!! できません……………… 私の仕事は、公式二次創作を、書く事だから………………!!! 「違うって。 君の仕事は、役者紹介だよ」 -transmission complete- ぐ、ぎゃぁあぁああぁああぁああぁあ!!!!!!! あ、あ……………… 『メタフィクション:ザ ゲーム』に、接続。 マジですいません。 流石に十勇士ぐらいはまとめます。
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“コレは私の友人『独楽』氏に送られて来た彼の友人の手記です 以下独楽氏の文面途中からそのまま転載します 届いたメールを公開しようと思う。 このポスト内で一気に公開します。(文字数制限にひっかかるかな?) 悩んだけど、、彼の意向でもある公開です。 相当な長文ですが、良かったら読んでください。 因みに彼はスポーツインストラクターでありながら、文筆活動もしています。(していました。かな?) 一句一文の表現が大袈裟(K!ゴメンな!)に感じられるかもしれませんが、彼が目の当たりにしている事実を、彼が文体表現として“伝えよう”としているものなのでご理解ください。 別に何かを煽るつもりは毛頭ありません。 余震、計画停電、原発に振りまわされつつも、何とか震災以前の生活リズムを取り戻しつつある関東以西ですが、これを読んだ方が何か���感じてもらえたら嬉しい。 以下、友人Kからのメールです。 俺の名前が“独楽”にしてあるのと、念のため個人名は伏せてありますが、それ以外はそのまま記します。 今からメールを6連発で送る。 あの日、 俺がどこで何をしていたか 独楽にも知って欲しいと思ったんだ。 また記録として様々な人へ転送してもらえると嬉しい 東京の小中学校では俺の手記を全校集会で使ってくれたそうだ。 事実から目を背けず、 現実にあったことを忘れないためにも。 それが亡くなった人たちの供養になるかもしれないと思った。 でも被災者には厳しすぎる現実かもしれない… 【生還】 3/11(金)午前9時。 亘理町・荒浜海水浴場。 今夏の死亡事故0を目指し、役場からの依頼��今年初のライフセービング訓練を実施。 金土日3連チャンの予定で救助要員の大学生たちと朝からブッ通しで砂浜ダッシュなどをこなし、 ヘロヘロになった15時を目前に初日の訓練を終えようとしていた。 ストレッチしながら海を見ると、海面が煮えたぎったお湯のように泡立っている。 その直後、 立ってはいられないほどの激震にみな尻餅をついた。 揺れに揺れる。 さらに揺れる。 異常な揺れが際限なく続き背骨の底から戦慄が走る。 砂浜がひび割れて段差がで始める。 ただの地震ではないと悟り防波堤まで戻るよう指示。 しかし往復18�もある浜の中腹にいたため、 かなりの距離を走らなければならない。 遠い遠い、 めまいがするほど遠い道のりを、 何度も足を取られながら、胃液が逆流するほど走りに走った。 それぞれの車で高台へ逃げるよう声を張り上げる。 続いて自分の車へ向かおうとした矢先、 海に落ちた釣り人&サーファーを発見。 消防団のにいちゃんたちは泳げないという。 仕方なく外気温が3℃の中、パンツ一丁で海へ飛び込み、重装備の釣り人から救助。 だがオッサンは完全にパニクッて鬼のような形相でつかみかかってくる。 顔面をぶん殴って大人しくさせ、 水中で立ち泳ぎをしながら肩に足を乗せて防波堤へと押し上げた。 続けて1人また1人と救助し4人目を助けようとした時、 今の今まで横にいた若者が一瞬で沖へ運ばれた。 空は墨をぶちまけたような暗黒に渦巻き、 砂浜を境に青と黒まっぷたつに割れている。 辺りは雷鳴のような轟音が鳴り響き、 信じられないほどの早さで一気に波が引いた。 見たこともないほど沖まで砂地が露出し、 魚がピョンピョンと飛び跳ねている。 アカン… 要救助者はまだ多数いたが俺だって死にたくない。 水から上がり、慌てて服を着た。 「助けてくれ!!」と泣き叫ぶ怒号と悲鳴。 悲しそうな目で俺を見つめ沖へ運ばれてゆく人々。 見なかったことにして先を急いだが…足が止まる。 くるりと振り返り、 ふたたび飛び込もうとして上着に手をかけた時、 見上げるようにそそり立つ巨大な白い壁。 俺は走った。 死に物狂いで走った。 轟音が背後に迫り来る。 波に飲みこまれる間一髪でブロック塀へ飛びつき、 すぐさま真横の電柱へ飛び移った。 上へ上へ死に物狂いで這い上がる。 足のすぐ下を怒濤の勢いで濁流がなだれ込む。 家屋を飲み込み、 松林をなぎ倒し、 電柱を引き抜き、 すべてを木端微塵に破壊しながら流れてゆく。 そこで俺が見たものは、 地球の滅亡を想わせる光景だった。 あちこちで爆発が起こり、火柱が上がる。 高圧電線が音を発てて弾け火災が多発。 ワイヤーで固定された電信柱と鉄筋の建物以外はすべてが飲み込まれた。 それから約3時間、 俺は救助が来るのを信じ、必死で電柱にしがみついていた。 横殴りに雪が吹き付ける。 歯がガチガチに鳴って噛み合わない。 上空をヘリが飛び交う。 どんなに叫ぼうとけし粒のような俺に気付いてはくれない。 握力がみるみる削り取られていく。 刻一刻と陽が沈み、 吐く息は白くなる一方。 耳はちぎれそうな激痛。 指先の感覚はとうにない。 このままここにいたら死ぬ… 俺はついに覚悟を決めた。 電柱の一番上まで上ると、高圧電線に恐る恐る触れてみた。 電流がないのを確かめて、決死の覚悟でぶら下がる。 レスキュー隊のように3本の高圧電線を伝い、 一歩、一歩、這うように次の電柱まで進む。 落ちたら引き潮の渦に飲み込まれて死ぬ。 地上20メートルの上空に猛烈な吹雪が吹きつける。 突風にあおられ何度も落ちかけながら、 果てしなく遠い次の電柱へイモ虫のようにノロノロと進む。 どんどん陽が沈んでゆく。 焦っても焦ってもなかなか先へ進まない。 何度もとまり、 何度もあきらめかけ、 叫び声を上げてまた進む。 クンダリーニ・ヨーガの火の呼吸で体の中心に炎を宿し、 完全に凍えるのを防いだがそれにも限界がある。 すっかり陽が沈んで辺りが夕闇に包まれた頃、 やっとの思いで最後の電柱へとたどり着いた。 しかし… 電線は根元からずたずたに切り裂かれていた… この時の落胆と絶望をどう表現すればいいのか。 俺はがっくりとうなだれ、両手に顔をうずめた。 思考も体も外気温の低下とともにみるみる凍結する。 もはや万事休す。 切れるカードはみな使い切りもう打つ手はない。 眼下には目を背けたくなるような地獄絵図。 人形のような屍の山が藻屑とともに流れくる。 耳の穴に少しずつみぞれが降り積もり、 冷たいや痛いを通り越し、吹き付ける雪になぜか熱を感じる。 辺りは既に漆黒の闇。 尋常ではない暴風雪。 このままでは凍死する。 救助を期待することはもう完全にあきらめた。 頼れるのは自分だけ。 子供の頃から絶えずあった概念が今、 究極の形で試される。 喉が焼けただれんばかりに絶叫し、 すべての迷いを断ち切る。 犬や猫など置き去さられたペットの死骸、 牛、馬、豚など家畜の死骸。 そしてるいるいたる人間の遺体が浮かぶ中、 俺はうねり逆巻くどす黒い激流へ飛び込んだ。 全身に電流が走る。 さっきの冷たさなど問題にならない。 冷水をたっぷりとふくんだ衣服が水の鎧と化す。 複数の人間がしがみついているように動きを阻害し、 すさまじい水圧が俺の体を沖へ運び去ろうとする。 「ちきしょうッ!!」 「死んでたまるかコラッ!!!」 叫ぶことで自らを鼓舞し、木から木へ瓦礫から瓦礫と泳いだ。 手をかき足をかき、 墨汁のようなうねりの中を持てる技術と能力と精神力を残らず出しきり、 全身全霊をかけて泳いだ。 泳ぎ続けた。 海へ引きずり込まれる寸前防波堤の残骸にぶつかって止まる。 震える手でコンクリートをつかみ凍りつく体を引き上げた。 もう体が動かない。 朝から飲まず食わずで一体どれほどエネルギーを消費したのか… あきらめたら死ぬ。 死んでたまるか!! よろめきながら立ち上がり震える歩を進める。 本当に1�ずつ足を進めた。 低体温症になるのを防ぐためにまた火の呼吸をする。 しかし極度の疲労と空腹、そしてあまりに膨大な消費エネルギーに崩れ落ちる。 ずぶ濡れの体に吹き付ける氷点下の風。 足元も見えぬ漆黒の闇。 雄叫びを発して膝を立て、 渾身の力で立ち上がる。 そしてまたひきずるように震える歩を進める。 釘が飛び出した瓦礫の山にうず高く積み上がる流木が行く手をさえぎる。 海面と地面の区別がつかず何度も深みにはまり、 首まで海水につかる。 また這い上がる。 またはまる。 そんなことを嫌になるほど繰り返しているさなか、 またも地獄の底から轟音が響く。 「うそだろぅ…」 驚愕の眼差しを向けた時、 暗黒の大海から押し寄せる強大な白い壁。 逃げる間もなくやすやすと瓦礫の山を乗り越え、 津波の第二波が来襲。 今度は完全に頭から飲み込まれた。 どっちが空でどっちが大地かも分からないほどぐらんぐらんに引き回され、 巨大洗濯機へ放り込まれたようにぐるぐる回る。 あぁ…… 俺はこんなことで死ぬのか… そうか… 死ぬのか…… 塩辛い暗黒の無重力世界で俺は他人事のようにそんなことを考えていた。 あきらめかけた矢先、 背中が鉄柱に激突。 何がなんだか分からぬまま上半身だけで這い上がり、 一度は完全に消えたはずの握力で鉄柱にしがみつく。 すさまじい水圧が俺の体を根こそぎ引き離しにかかる 死んでたまるか!! 死んでたまるか!! 体が真横になっても絶対に手は離さなかった。 その時、 俺は確かに声を聞いた。 誰かの声が、 「お前はまだ生きろ」 「お前にはまだやるべきことがある」 そう言っていた。 10分後、 クツもズボンもパンツも靴下もすべて流され、 下半身丸出し。 素足のまま寒風が吹き荒ぶ闇夜をとぼとぼと歩いた。 漏れた油が月光に反射し、夜行虫のようにうごめいている。 足を踏み出すたびに水面がキラキラと光る。 時間も方角も分からない。 もう自分がどこで何をしているのかも分からない。 見慣れているはずの亘理の風景はどこにもない。 気が遠くなるほど長い闇を機械仕掛けの人形のように黙々と歩いた。 そしてついに力尽きる… 完全なる電池切れだ。 がっくりと膝が折れ、 汚泥の上に崩れ落ちた。 あおむけに横たわる。 見上げれば満天の星。 ひっきりなしに流星が飛び交う。 助けてください。 助けてください。 くちびるが声にはならない声をつぶやく。 タイタニックのジャックのように、髪の毛やまつ毛がバリバリに凍りついている。 精も根も尽き果て、 静かに瞳を閉じかけた時、 瓦礫の中にゆ��動く灯りが見えた。 俺はガチガチに固まった体を無意識に引き起こし、 また1�ずつ歩いた。 もう一滴の声も出ない。 誰かが俺の体を勝手に操作しているようだ。 水産加工会社◎◎ビルの3階から薄灯りがもれている。 俺は30分以上かけて階段を這い上がった。 屋上へ逃げて助かった◎◎の社長夫妻と漁労長の3人。 時は深夜1時半。 下半身丸出しで急に現れた俺に仰天した彼らだが、 すぐリンゴをむいてくれた。 むさぼるようにかきこむ。 出された水も喉を鳴らして一気に飲み干した。 震えが止まらずぼたぼたとこぼす。 着替えと毛布をくれた。 裸の大将のようなへそより高いでかパンツ。 ラクダのももひき。 おばぁちゃんの赤い毛糸のとっくりセーター。 凍えきった体で眠ることもできなかったが、 止まらない手足の震えは、いま生きていることをありありと実感した。 朝9時からトレーニングを始めて約16時間。 それから俺は飲まず食わずぶっ通しで動き続け、 誰ひとり助けのない孤独な闘いに打ち勝った。 俺は生きて帰った。 生きて帰ったのだ。 これが3/11(金)深夜1時半、生還劇の全貌である。 【帰還後】 翌日は社長夫妻や漁労長を自衛隊のヘリに乗せ、 俺は心身共にズタボロのまま消防団の救援活動に参加。 瓦礫の中からまず息がある人を優先して捜索。 ヘリから降り立った赤十字の医療団は、 職務上しかたないとはいえ助かる者とそうでない者をわずか数秒で判断し、 容赦なく切り捨てていく。 初めて見るトリアージに戦慄とむなしさを覚えながらも、 俺は俺のできることだけを精一杯やった。 そして数日ぶりに町中へ。 赤十字の医師によれば俺は全身89ケ所の擦過傷と刺傷。合計28針を縫った。 少し休めと1人用テントをあてがわれたが、 なぜか眠る気がしない。 風呂も入れず、歯も磨けず、限界を通り越してにおいもかゆみも麻痺している。 旅での風呂なしは最長5日。 今回はその倍以上でいくら旅なれた俺でも正直キツイ。 まして普通の人なら拷問に近いだろう。 特に避難所にいる赤ちゃんを連れたママたちは辛い。 ミルクもオムツもなく悲惨の一語に尽きる。 亘理は報道も少なく、 すべてにおいて後回しだ。 被災した夜はのどの渇きに絶えきれず、 俺は自分の尿を飲んだ。 何ら恥じることはない。 生きるのが先決だ。 自分で言うのもなんだが、 俺には一生物としての尋常ならぬ生命力があった。 それに日本一周や北中南米の旅で得た死ぬ一歩手前、限界ギリギリの過酷な体験。 日頃からの異常な運動量のトレーニング。 スポーツ・インストラクター20年選手としての経験と知識。 フツーの人がフツーに生活していたら、 まず出くわさないであろう数々の修羅場、 命のやり取り。 そうした場数を踏んできた経験が冷静さを保ち、 どう転んでも助かる見込みのない、 希望を見出だせる要素など1ミリもない状況でもパニックに陥らず済んだのだろう。 そして何より、 「死んでたまるか!!」という怨念にも似た執念。 そんなこんなをひっくるめたすべてが一つに集約し、俺の命を紡いだのだろう。 フツーの人は電柱に3時間つかまるのもムリかも知れない。 だが子どもの頃から遊んだ荒浜の海は、 原爆を投下したような焼け野原へと変わり果てた。 もはや見る影もない。 ニュースステーションや朝日新聞などマスコミ各社の取材は断った。 助けられなかった人の方が圧倒的に多いからだ。 中学の同級生たちもかなり死んだ。 津波がくる直前までともに救助活動をしていた警官や消防団の青年たちもみんな死んだ。 いとこや親戚のほとんどは一週間が過ぎた今も安否が分からない。 ヘドロをかき分けながら町へ向かう時、 木の枝からぶら下がる中年女性の遺体を見た。 深みに背中を見せて浮かぶ子ども。 瓦礫の隙間から飛び出している無数の白い手足。 あぶくま大橋では若いママがチャイルドシート��幼児を乗せたまま車ごと波に飲まれた。 戦争でもないのに数え切れないほどの遺体を見た。 俺だけがこうしてのうのうと生き残ってしまった… 他の地域がより酷いせいか亘理の遺体回収は後回しにされている。 帰還後、 奈良県から派遣されてきた自衛隊テントで初めてテレビを見た。 上手いこと遺体だけ外して映している。 車のドアをバールでこじ開け、金品を強奪する人々。 給水車を前にわずか一列の違いを巡り、 唾を飛ばして激昂する醜い大人たち。 そんな親の姿を見て途方に暮れる子ども。 俺とは仲が良かったが、 役場ではいつもは役立たずと陰口を叩かれていた××××課の★★班長は、 自分の家族を投げ打って、部下や住民のため汗をふりちぎって奔走していた。 女子職員から絶大な人気の☆☆次長は、 さっさと自分だけ山梨県へ避難してしまった。 自分のことは後回しにし、一心不乱に救助活動をする一般人の青年を見た。 両親の安否も分からぬまま不眠不休で介護する女性がいた。 生まれて初めて間近に見る地獄絵図に原発の恐怖心が拍車をかけ、 みな集団心理特有のパニック状態に陥っている。 異常に雄弁となるか一言も語らず一点を見つめている極端な違い。 報道はされてないが相馬、山元、亘理は未曾有のパニック状態だ。 他人のことなどかえりみず人を蹴落として生き抜こうとする人々。 そのおぞましき姿はもはや人間ではない。 まさか自分の町がこんなになるとは… こうした生きるか死ぬかの修羅場にこそ、 それぞれが内包する真実の【人間】が露わとなる。 おてんとさまは見ている。 俺には御大層な宗教心などないが、 善も悪もおのれの胸にあることを知った。 自衛隊から出た豚汁と握り飯は死ぬほど美味かったが心の底から喜ぶことはできなかった。 しかし俺は天の声をハッキリと聞いたのだ。 「お前はまだ生きろ」 「おまえにはまだやるべきことがある」 と… 不思議なことに、 その声は間違いないくこの俺自身の声だった。 俺のやるべきことは何か… 今の俺には分からない。 ただ一つだけ分かっていることは、 それを探しながら生きていこうということだ。 おめおめと生き残ってしまった俺は、 彼らの分まで生きなければならない。 明日はくる。 必ずくる。 そう信じて歩いていこう。 【お願い】 今春から職場になる予定だった海辺の町は過疎地域。 銀行が一軒もない。 そのため被災当日は郵貯へ一点集中しようと、 3ケ所の銀行から現金を全ておろし、車に積んでいた。 キャッシュカードもVISAもETCも、 免許証も保険証も通帳も、 その日に限ってなぜかありとあらゆる貴重品を車内に入れていた。 そして積年の想い出が詰まった我が愛車は遥か外洋へ消え去った。 つまりほぼ全財産を失ってしまったことになる。 もうその町もない。 亘理よりはるかにひどい、壊滅状態だ。 そこでお願い。 いつか宅急便などの物流が一般人にも再開したら、 日持ちのする食品や衣類を送ってくれると嬉しい。 (カロリーメイト、水、ジャージetc~) そして少し言いにくいが、 ほんの気持ち程度でいい。 一円でも送金してくれると生きのびる希望が持てる。 決して無理はしないで。 あくまでも出来る範囲でのお願い。 今回の被災で唯一の光は、 長らく疎遠だった人からの連絡だった。 何もかも失ってしまったが俺にはまだ命がある。 そして俺の安否を気遣ってくれた友人知人がいる。 それだけで俺は生きている価値がある。 素直にそう思えた。 この一連のメールは9日ぶりに復活した携帯で打ってる。 ガラスが散乱した自宅の部屋から発見した、 02年当時に使ってた激古の携帯を0円で再契約。 文字が、 言葉が、 津波のように沸き上がってとまらない。 洪水のように次から次へと文章が押し寄せる。 連絡が遅れてすみません。 俺は今、生きています。 2011.3.21(月) ○○○○(Kの本名) 追伸. 今は電気、ガス、水道、ライフラインすべて遮断されて���。 亘理町は復旧の目処が立ちそうもない。 車もなければ電車もない。 臨時のバスすら通れない。 だから送金されてもしばらく引き落としはできない。 今回のお願いはいつの日か復旧する日まで、 事前に送金してもらえるとありがたいという話。 頭の隅にでもとどめてもらえると助かります。 よろしくお願いいたしますm(__)m 何か今日の朝日新聞夕刊の全国版に俺の記事がチョロッと載るみたい。 手記はいずれ朝刊に載るそうだ。 友人.知人へ送ったメールが思った以上に反響が大きく、 友人の先生経由で板橋区の小学校では全校集会で読まれたそうだ。 自分だけが助かった負い目から、 最初は記事になるのもどうかと思っ��たけど、 あの日、 俺がどこで何をしていたか 様々な人に知ってもらうのは亡くなった方々の供養になるかもしれないと思い直した。 でも被災者には厳しすぎる現実かも… 以下は相馬在住の先生からきたメール。 ↓ △△です。 家も家族も大丈夫です。 学校が避難所になり毎日夜8時過ぎまで働いています。 なんと夜勤もあります。 それが今日です。 多数の死者がでたことを知りました。 しかし映像には人がまったくうつってません。 (写っても困るでしょうが) 相馬の小学6年生。 40%が避難して相馬にいません。 原発のせいです。 教職員は職務上逃げ出すわけにもいきません。 しかし原発の職員も私たち教師も生身の人間です。 職務を全うし学校や児童を守るか、 自分の家族を守るか。 難しいところです。 津波直後の原発はさらに絶望的だったと思います。 津波で非常発電システムが壊れ冷却装置が全く動かなくなったからです。 つまり温度が上昇し続ける原子炉をみてるしかなかったのですから。 これをいち早く知った原発関係者、医療従事者はすぐ50�圏外へ逃げました。 これこそ亘理・山元・相馬が報道されない理由の最たる要因です。 避難所、病院を捨てて、 南相馬・浪江・富岡辺りは行方不明者の捜索は一切やってません。 1200人以上いるそうです。 すべて野ざらしです。 避難・屋内退避だからです。 ヒドイもんです。 南相馬や新地の火発はオイル漏れの修理途中で退避しました。 とにかく今回の津波は巨大すぎました。 今日初めて相馬の浜を見てきました。 避難所でのお世話で行けなかったのです。 とにかくむちゃくちゃでした。 酷かったです。 息子も連れて行きました。 K先生よく生きて戻れましたね。 K先生でなければ生きていなかったですね。 本当に凄まじい経験をされましたね。 驚きです。 ほんとは死んでんじゃないの? 生きてるつもりでいるけど・・・。 100回ぐらい死んでてもおかしくない。 うん。 こうしよう。 実際に顔をみるまで死んでることにします! △△△△ 追伸. 本日、 ともに救助活動をした若い警官の遺体が上がった。 去年の夏も一緒に盗撮犯を捕まえた□□くん。 まだ28才。 新婚で赤ちゃんが一人。 俺はのうのうとメールを打っている… 本音を言えば原発の恐怖もあるし、 友人宅へ一時避難させてもらって、 風呂に入ったり歯を磨いたり温かい料理とかを食べたいけど、 同級生や親戚の安否がワカランままでは亘理を離れるわけにいかない。 いつもソフトクリームを大盛りにしてもらってた鳥の海荘のおばちゃん。 遺体が上がった。 先週も冗談を言い合ってたばかりなのに。 これは現実なんだろうか… 荒浜に行けばおばちゃんがいて、 またソフトクリームを売っている気がしてならない。 明日を信じて歩いていこう” - 宮城県亘理郡在住『K』の手記 - PADDY - ONE (via gotouyuuki-text)
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20/アルファルド
. 地上を滑る流れ星を見た。 今思い返してみれば、あれは吹雪が見せた刹那の幻影だったかもしれないし、本当に雪原の大地を奔る流星だったのかもしれない。それでも、確かにあれは輝いていた。星のように眩くきらめいていた。それだけは、疑いようの無い事実だった。 星は何も囁かなかった。それでもそれを星と見間違えたのは、白く弾けた視界の中で、燦然と閃く青く冷たい輝きは、星以外に喩えようが無かったからなのかもしれない。 吹雪の中の出来事だったので、流星はすぐに雪にかき消えて、その尾の痕跡さえ残さなかった。しかし到底、ただ極北が見せた幻には思えなかった。なぜかそう思いたくはなかった。あんなに凍えるような光であったのに、網膜に焼き付いたように忘れられなかった。未だにその、言語にできない感情を覚えている。それはその後、彼女と出会うことになった切っ掛けだったからかどうかは、彼には終ぞ解らないままだったのだが。 流れ星に願い事を三度繰り返すと、願いが叶うのだって。 イフはそんなことを思い出した。誰が言ったことだっただろうか。母親か、兄弟か。もしかしたら、空の噂に星自身がさざめいただけだったかもしれない。しかし彼はそれを思うと、不快になるほど肺腑が締め付けられるのだった。重たい左腕に力が籠もり、拳を作ってしまうほどに。 だって、流れ星なんて見つけたその瞬間に消えてしまうものだ。願い事を言いたくたって、一瞬で消えてしまうなら、どう必死に唱えたってそんなもの、叶いやしないじゃないか。そんな噛み切れない固い泥のような不快感を、奥歯でぎりりと噛み締めながらそう考えたのだ。 誰の願いも受け止めることができず、堕ちていった星は、一体どこに行くのだろう。 † 「遭難しました」 サアレは取り留めて問題は無いような口調でそう言った。 イフは頭を抱えながら大きな溜め息を吐く。周囲は木立は茂っているものの、鬱蒼とまではいかない程度の山林だ。夕空の紺が、木葉の間に見え隠れしている。そしてそれらはじきに葉擦れの音ごと夕闇に飲まれてしまうのであろう。彼は木立を仰ぎ見て、そして空を睨んだ。 晩秋、冬に入る一歩手前の深山は落日。釣瓶落としの勢いだ。 この日は珍しく、イフとサアレは二人で狩りに入っていた。……そう説明をすると彼は機嫌を悪くするかもしれない。正しく言えば、イフの用事にサアレが相乗りをして着いてきただけで、彼としては伴なんていらない筈だった。照れ隠しなどではなく、割合本心からの思いだ。なにしろ、事実本当に彼女は相乗りをしただけだった。目的地に着くなり彼女は「じゃ」の一言と片手を上げる挨拶を一瞬しただけで彼のことなんてまるで居ないかのように山奥に滑るように潜って行ったし、本当にその後日が沈むまで彼の元へ帰っては来なかった。 苦い言葉の一つや二つ言いたくなって然るべきだろう。最初から一人で来るつもりであったとはいえ、一応伴連れで訪れているのである。ましてや率直に言えば夫婦であるのに――彼女のその振る舞いに、不可解な音色を持つ怒りが沸いて来たことは、イフには到底説明がし難いものであったが、妥当な感情だと言えよう。 結局彼は自分の用事を済ませた後、いや流石に置いて帰��のは、という憐憫を抱いたせいでサアレを探して山の深い所まで潜ってしまった��だった。その選択が今となっては大きな誤算となって彼を悩ませている。 結果として、山慣れをしている彼女は獲物を両手にひっさげてけろっとした顔をしていた。置いて行っても問題無かったのではないだろうか、とイフが考える前に、「なんでここにいるんですか」と、表情だけではなく発言をして真顔で首を傾げたサアレに、彼が激昂しなかったことは賞賛に値するべきだった。 深山は上ることも容易でなければ、その逆もまた然りであり、下山にも困難を要した。枯れかけた草木は、そう移動を阻害しなかったにせよ、如何せん山奥まで立ち入り過ぎた。下山が遅れたのが最も大きな理由で、更に徐々に暗くなっていく風景に珍しく焦ってしまったのか、二人は戻りの路を外れてしまったらしい。 気がつけば山中で立ち往生。黄昏はあっという間に闇へと色を変えていく。彼らは文字通り、遭難していた。 とはいえ、二人の表情には焦りも緊迫も、もっと言えば緊張もさほど見受けられなかった。強いて言えば、イフがわずかに「面倒な事になった」と言いたげに顔を歪ませている程度で、サアレはいつも通りのぼうっとした真顔のまま木立が揺れるのを眺めている。 「もう夜だが。……無理をすれば、下りられるか?」 イフが溜め息交じりにそう尋ねた。 夜という時間においては、彼だけでなくサアレも得手とする舞台である筈だ。お互いに夜目は利く。道は見えなくても、自分に聞こえる星の声と、彼女の聴力・視力さえあれば、そう困難も無く下山ルートを探し出せるだろう。最も、懸念していることはそこではない。夜間、魔物けだものが跋扈しているところに突っ込んでしまった時、それを対処できるかという意味を込めての問いだった。 サアレは耳だけを動かして、少しだけ考える素振りを見せたが、しかしすぐに頭を振り「いける、とは思いますが。……オレの目が少し厳しいですね今日は月が明るすぎるので」溜め息と共に、ぱちりと目をしばたかせた。瞼が持ち上がるのと同同時に、白い強膜がすうっと黒く反転した。赤い光彩がらんらんと輝くふちに、涙がこぼれた。 イフは空を見上げた。木々の切れ間に微かに見える月は大きく、明るく、丸い。満月が近いのだった。
「……下山は無理、か」 「いいんですよ別に放っておいて下りられても一夜だけ過ごせばいいだけですし夜は不眠でもなんとかなります。一人ならですが」 音も無くぼろぼろと後をついて零れる涙を、煩わしそうに手の平で拭う。辺りに噎せるような甘い香りが風に乗って広がった。イフは思わず顔を逸らす。同時に、首を横に振った。 夜に涙が出る体質の彼女は、更に月の満ち引きにより涙の濃度が影響されるらしい。つまり、満月に近い今は常日頃よりも強い香りをする代わり、良く“沁みる”のだった。そんな状態であれば、視界は封鎖されたようなものだ。夜目は利くとはいえ、此処は市街地ではなく森だ。滲みっぱなしの視界では、暗さも際だって、盲目に等しい。とあれば、強行軍をするのは得策ではないだろう。 「今日は野営だな」 イフの否定をする隙の無い断定的な言い方に、サアレが「そうですか」と小さくぼやいた声だけが、風の隙間に重なった。 周囲に廃屋が無いか散策しても、歩ける範囲内には何も見当たらなかった。 彼らは仕方なく薪を集め火を熾し、今日の獲物を早速捌いたものを串に刺して焼いたものと携帯食で、黙々と食事を済ませた。 何一つ滞りも緊張感もなく、それらは進んだ。夜闇に便乗してこちらを虎視眈々と狙う獣がいないとも思えないのに、それに対する切迫した思いすら、両名とも抱いてはいない。不思議な事だと、二人とも思っている。それは恐らく、自分だけの身なら守れるだろうという、希薄な逃走の意思とはまた異なったものだということも、なんとなく理解はできていた。 サアレだけは、なんとか言いたげな視線を時折、イフへ投げかけていたがそれも一瞬で、二人は暫く無言で焚き火を見ていた。イフが生乾きの枯れ枝を投げ入れると、火の粉がぽっと踊って、煙がもうと上った。焚き火の赤が、黒い片目に反射している。まるで炉みたいだ。サアレはぼたぼたと流れる涙の隙間に、何度目か考えたそれを見て、その熱さを思った。白い左目よりも、それはずっと明るく見えた。 不意にサアレは空に呼ばれたような気がして、すっと真上の空を見上げた。視界がぐるり、天球と枝葉で埋まる。 その視界の真ん中をさあっと光の筋が尾を引いて、消えた。涙が頬を伝って地面に滴るのと、ほぼ同時だった。 その一瞬だけ、ぼやけた視界はクリアで、満天の星の群れが見えた。涙の膜はすぐに瞳孔を覆って、曇らせる。 「流れ星」 子供のような声音で呟くと同時に、サアレはまず、イフがそれに反応して同じように空を見上げたことに驚いた。目を丸くして、「え、」と声のない声が漏れる。イフははっと気がついたように、直ぐに目線を地面に落とした。 少しの、無音。 不思議そうに首を傾けたサアレの視線を汲んで、イフは目線だけをサアレに向ける。彼女はもう一度空を見上げて、流れ星の軌跡を指でなぞっていた。もう視界に流星は残像すら残ってはいないだろうに。ぶつぶつと、夜空に散らばる星々の位置をぽつぽつ指さしながら、あれは、これは、と名前を呟いている。涙で潤む視界にも、星は見えているのだろうか。 「……北天の、」 「?」 「星の帯の隣、……白く大きな星が一つあるだろう」 「はい」 「それが、白鳥の尾。そこから南へ真っ直ぐ伸びて、それより一回り小さい星が、白鳥の胸」 「はい」 イフは空を見上げずに、書物を諳んじるような口調で淡々と空をなぞる。サアレはじっと空を見上げ、時折視界を覆う涙を手の平で拭いながらその言葉に従って星と星の間を指で繋いで行く。 「胸から左右、歪曲するように等間隔に伸びた暗い星の連なりが右翼、胸と同じ輝きをした星とその先の星、二つ結ばれる線が左翼」 薪が火の中で小さく爆ぜる。 「胸の星から南へ、二つ暗い星を越して、一回り明るい橙色の星、そこが、」 「白鳥の嘴。……終着点ですか」 「そうだ」 サアレの瞳は終点となった橙色に煌めく星を見つめている。空に引かれた白い星々の群体の隣、湖畔のほとりを飛翔するように、美しい尾を靡かせた白鳥が北天の空に翼を広げて優雅に飛んでいるのが、サアレにも解った。手の平を広げる。翼は遙か彼方、夜の闇の向こうにあって、サアレには掴むことが出来ない。 イフは何故、このような話をしているのか自問自答した。自らの血に所縁のある事象を、偶々耳に入れた為だろうか。 唐突にサアレが「あれ、」と声を上げた。釣られてイフは空を見上げてしまった。「あの」サアレは彼を見ずに尋ねる。視界の紺碧は遙か彼方の星雲の色を、滲んだインクのようにかき混ぜた紫と、青と、緑と、鮮やかな黒から成っている。己の翼にもあるそれらは触れることができるはずなのに、どうしてか苦しいほど、遠くに見えた。 「白鳥の嘴、あの橙色の星の直ぐ側にもう一つ小さな星がありませんか」 「、は」 「小さな白い星が重なっているように思います。見間違いでしょうか見間違いではないと思ったのですが。貴方ならご存じかと思いまして」 指の先が何処へ通じているのか、その線を追うことは難しかったが、彼女の口調から何を指しているのかは解った。きっと、白鳥の嘴を言っている。 イフは体内に冷たいものが広がるような奇妙な感覚を覚えた。冬空の下、冷たい空気を肺いっぱいに吸い込んだ時の、体の芯までがすっと痺れる時の感覚に良く似ていた。このまま口を噤むべきか否か悩んで、イフは躊躇いがちに唇を開いた。 「……二重星だ」 「ニジュウセイ」 はてと首を傾げるサアレの横顔にイフは頭を抱えた。 「双子星だ。あの星は一つに見えるが、遠くを見透かすと二つの星が重なっている。二つで一つの星に数えられている」 「上顎と下顎ですか。ははあなるほど色の違う星が双子とはオレも思いつきませんで。天の星には色々なものがあるのですね勉強になります」 「……あんな遠いもの、良く見えたな」 「目が良いので」 サアレは「あんなに近いところにあって、お互いぶつかってしまわないのでしょうか」と呟いた。イフは吐く息が冷たくなっていることに気がつかないふりをした。 「あれらは重なっているが、本当はずっと遠いところにお互い居る」 「側にいるように見えるのにですか」 「そう見えているだけだ。星同士なんて、お互いが俺たちにひとまとめのくくりにされていることなど知りもしないだろうがな」 「そんなものでしょうか」 「そんなものだ」 暫くサアレは、はばたく白鳥を大人しく眺めていたが、ふと思い出したように立ち上がって、焚き火の周りをうろうろし始めた。空を見上げながら。「おい」イフが咎めるように声を出しても、サアレはぶつぶつと人差し指をコンパスに、空を製図するようになぞり続けている。もう一度イフが声を出そうとしたとき、「イフ」不意に名前を呼ばれた。 「あれ、あの星は何という星でしょう」 「……どれだ?」 少し離れた場所、そこは枝葉の位置が異なるので、焚き火の側とはまた違った星模様が見れるのだろう。別に空なんて見上げなくても、翼を覗き込めば直ぐに探せるだろうに。という事を言いかけたが、イフはその言葉を���み込んで同じように天を仰いだ。サアレの指先は、南西の空を指している。 「あそこの薄い橙色を帯びた明るい星です。山の縁視界が切れそうなところにいるでしょう。あれが貴方にとても似ていると思ったのでつい」 空の位置、得手がいったイフは一瞬だけ苦い顔をして、すぐ無表情に戻った。気取られてはいないはずだと思い直して、イフは言った。偶然の皮肉にしては、出来過ぎていると思えた。 「……海蛇の心臓」 「うみへび」 南西の夜空は確かに他の空と同じく、幾億もの星々もの囁きを集めたように輝いている。しかしどうだろう、彼女が指さした一点、海蛇の心臓に当たる赤い明るい星は、その空の中心で一人ぽつんときらきらしく瞬いている。その星の周囲には暗い星が散らばるばかりで、同じように強く輝く星が見当たらなかった。北極星は眩く、乳の道は白く美しく、空は彩られている筈なのに、どうしてかその星の周りは言葉に出来ない孤独で溢れていた。 「どうしてあれが俺だと思った?」 「はあ。強いて言うのであれば他の場所が星同士賑やかなのにたった一人意地を張って誰も居ない空にぴかぴか光っているあたりがとてもとても貴方らしいとおもったただそれだけなのですが」 「……意地を張っては余計だが、まあ、あんたの言いたいことも解らんでもない」 「おや珍しい」 天は広く、気が遠くなるほどに遠い。 例えば北極星がすぐ隣にある明るい星に手を差し出したとしても、その手は爪の先に触れることすらできないだろう。イフはそのことを知っている。見上げる空に涯はなく、追い求めたぶん疲弊するだけなのを知っている。どうせすぐ隣にも腕が伸びないのであれば、どこで輝こうと同じ事だ。双子と形容される星同士ですら、触れることすら叶わないというのに。 遠い。届かない。他の光に手を伸ばすことで、一体星の何が変わるというのだろう。人はそれを孤独と呼ぶのだろうか。それは忌むべきものなのであろうか。 そうであるのならば、サアレの言葉は酷く正しいものに思えた。 「そうかあれは俺か。釈然と行った」 「認めるんですか」 「……あんたが言ったんだろう」 「だっていつもは真に受けないじゃないですか」 今日の彼女はやたら正論ばかり言うな、とイフはぼんやり考えた。 小さくなりつつある焚き火を横目で見て、まだ何かを見上げているサアレの背中に「おい」と声を掛ける。薄ぼんやりとした風景の中、サアレの白銀がくるりと振り返りざまに翻った。 イフは呼吸を忘れる。 あの吹雪の夜に見た、流れ星に良く似ていると思った。 「イフ、貴方に似た星があの空の上にあるのならオレに似た星もあるのでしょうええきっとあるでしょう。オレの星はどれに見えるでしょう? 見繕えませんか?」 「……星は無理矢理、自分に合うものを見繕うようなもんじゃないと思うが。そもそも、あんたはあの空には居ないだろう」 「?」 確信めいた溜め息に、思わずサアレは疑問符を浮かべる。涙は音も無く零れた。見上げた空は、静かに輝く星たちで埋め尽くされている。暗黒は揺らめく兆しを見せず、押し黙ったままだった。空気を裂く、青い光はどこにも見当たらない。 瞬きの間に消えてしまう、青い冷たい、狐火のような燐光を翻す、あの。 「……あんたは、流れ星みたいなもんだろう。青い尾を引いて夜を奔る。……あんたそっくりだ」 サアレは押し黙っていた。無言で、目を丸くして――しかしその顔は驚きともとれない不思議な様相だった――イフを見ている。 サアレの網膜の上を、青い閃光が奔って行った。空はちりばめた星屑で彩られている。その隙間を縫う、青く冷たく、燃えさかるほどにあつい流星。先ほどの一瞬で瞳の中に焼き付いた、眩い程に白い青が、サアレの瞳の中に未だ瑞々しく残滓を残して生きていた。あれはもう死んでいるのに、死に向かう一瞬に一際強く���く、今際の塵であるのに。 「失言した。今のは忘れろ」 イフははっとして、慌てて頭を振った。 「嫌だと言ったら?」 「……二度とは言わんからな。もう遅いしあんたもさっさと寝ろ。……無駄な事を話した」 イフはサアレの言葉に被せるようにして、我に返ったかのように寝支度を整え始めた。まるで空を見上げていた先ほどの一幕などそもそも無かった事だと言わんばかりに、荷物を纏め、バックパックを枕代わりにして、薄手の毛布を引っかける。 サアレは取り付く島を強制的に排除されて、非難めいた息を吹いたが、イフが足で焚き火に土を掛けている姿を見て、渋々自身も寝支度に入ることにした。くあ、と大きな欠伸をする。 サアレの荷は少ない。そもそも彼女は野営に荷物を持たないたちであるから、仕方が無い。雪山で遭難した所で着の身着のまま生きて帰ってこれる自信があるからこその無謀だと言うことはイフも知っていた。 サアレはまず周囲の枯れ葉のうち、綺麗なものだけを集めて土埃を蹴って払うと、その場にすとんと腰を下ろした。そうして、六つある大きな尾を器用に体に巻いたり、捻ったりして、まるで動物がそうするように自らの尾に包まってみるみるうちに寝床を作り上げた。 ……器用なものである。と端から見ていて、イフは無駄に感心をしている。尾に包まっている姿を見ると、本当に大きな狐一匹にしか見えない。顔が見えないのでなおさらだ。野営が嫌いな訳ではないが、そもそも今日は野営をする予定を組んでいない。バックパックの硬い枕と薄い毛布では、やはり寝心地は今ひとつだ。と、イフは地面に寝そべる為体を横にした。 視線が、合った。 焚き火はすっかり消えているので、辺りはサアレの持つランプが光る薄ぼんやりした青い光に照らされている。その仄かな青のベールの向こうに、煌々と燃える赤が水に滲んだ輪郭を持って、こっちを見ていた。目線が、切れない。イフは言葉を失って、起き上がる途中のような、寝ようとする途中のような、微妙な姿勢で固まっている。その姿を見て、合点が行ったかのようなサアレは、 「……使います? 尻尾」 そう、おずおずと聞いたのだった。 「何を、……どう解釈したら、俺があんたの尻尾を欲しがっていると、思えるんだ……」 「いえ寝心地が悪いと寝られない性分なのかと思いまして」 「バックパックはあるし、毛布だってある。簡易だが」 「ここに柔らかい枕兼厚い毛布が四本も余っています」 「いらん」 ぴしゃりと言い切られて、サアレは少し考え込む。何を考えているつもりだ、とイフが胡乱げな顔をする横で、サアレはぽん、と手を叩いた。頭の上に電球が現れるような、そんな勢いで。 「気が使えずにすみません」 何が言いたい。と、イフが声にするよりも早く、腰を下ろしていたサアレが立ち上がった。そのまま彼女は前屈をするように体を折り曲げる。両腕が地面を掴み、ぐうっと、動物が伸びをするように背中が仰け反ったかと思うと、瞬きの間にするりと体躯は銀色に覆われ、背骨は伸びて前肢は縮んだ。尾をひとふり、ふたふりして、後肢を交互に伸ばす。魔法のように一瞬の変化に、流石のイフも驚いて声が出てこない。 「人の姿のままでは使うのに抵抗があったのですよね?」 「誰がそんなこと言った」 てこてこと軽い足取りで側に寄ってきた大きな妖狐は、さあ使えと言わんばかりに白銀の尾を差し出してくる。ばふ、と顔が尻尾に埋もれて、イフは邪魔そうに尾を手で退けた。 「……邪魔だ」 「まあまあ折角ですしどうせ夜は冷えることですし」 「俺は固い枕と土の布団で十分だ」 「なるほどそこに毛皮を敷くだけで豪華な寝台のできあがりという手はずですねよくわかります」 「人の話を聞け」 払っても払ってもばっさばっさと巻き付いてくる尻尾の群れに、イフは呆れた顔になる。サアレはその姿から戻る意思を見せず、起き上がらざるを得なかったイフの背中側に寝そべった。お前な、と小声でまた溜め息。サアレは知らん顔をして地面に顎を置いている。 しかし、この姿のサアレをよくよく見たことがなかったのもまた事実であった。狐になれる事実は知っている。見たこともある。あるが、あるにしろ。触れる機会などそうそう無いし、第一そうする理由もない。興味が、……無いことも、無い、のだが。 恐る恐る、躊躇いがちにその背に手を伸ばす。背、横腹。この場合はどこになるのだろう。とにかく、寝そべっているその胴に手の平を埋める。もふ、と音を立てずに指先が細い毛の束に飲み込まれた。思っているよりも柔らかく、長い毛足をしている。サアレは顔を動かさず、耳だけでこちらの動向を伺っているようだった。イフは、釈然としない面持ちをしていた。 ごく短い間、その見事な毛並みを手の平だけで味わう。この柔らかさであれば、確かに枕としては上等だろう。だが、それは果たしてやっていいものであるのか否か、イフには判断が困難だった。 これがもし、野生の人なつこい狐であれば、特に何を思うこともなく枕代わりにしていたかもしれない。イフは考える。そうきっぱりと道具代わりにすることができないのは、勿論相手がサアレであるからなのは明白である。色々な意味で。 「……変な気を起こすなよ」 「何阿呆なこと言ってるのかわかんないですが突然頭噛んだりとかですか」 「大体そう言う事だ」 「では善処します」 「……しないように務めてくれ」 最終的にイフは折れた。本人が布団として使えと言っているのであれば、もう諦めて使ってやろうという結論だった。腰の位置をずらして、丁度白い腹が枕になるように仰向けに横になる。もぞ、と背中の下を尻尾が動く気配がして、イフの眉間に皺が寄った。 「おい、尻尾は要らないからな」 「まあついでですし」 「お前な、おいサアレ、ちょっ……」 ぐいぐいと地面と体の隙間にねじ込まれる尻尾が無理矢理イフの体の下に潜り込み、背中と腰を支える。十二分に敷き毛布として優秀な厚みをもったその上に、覆い被��るようにしてもう一本、尻尾がかぶせられた。毛布のつもりなのだろうか。先ほどの薄手の毛布とは比べものにならない厚みは、どっしりと重い。 獣の匂いはしなかった。諦めて、腹の毛皮に頭を深く埋めると銀の毛並みが頬をくすぐった。さらさらと揺れるそれらからは、甘い花の香りがする。……それはそうだ。姿は違えど、これは狐でも魔物でもなく、サアレ本人なのだから。 呼吸を深く、吸う、吐く。息を吐ききると、体が厚い下毛と同化するように沈んだ。 小さく、一定の間隔でどくん、どくんと低い音が聞こえる。心臓の、音がする。 「……暖かいな」 「それはそうですよ、生きていますから」 サアレはそう言って、小さく欠伸をした。微笑っているのかもしれなかった。 森は静かだった。空もまた静かだった。 星の海は凪いでいる。水面を揺らす青い閃光もなく、ただ穏やかに暗黒だった。ぼんやりと、重たくなりつつあるまぶたの隙間から、夜空を仰いでいる。星々は相も変わらず手も届かぬ所で何も知らず輝いている。空に向かって手を伸ばす。届くはずはないと解っている筈なのに、伸ばさずにいられなかった。例えば、手を伸ばして縋る頃には、そこにはもういない流れ星のことを思うと。 彼らの唄はどこから聞こえるのだろう。吐いた息が白くなった。体に巻き付くように掛けられた尾の重さが、少しだけ身に沁みた。 ふっと視界が刹那ぶれた。幻視かと瞬きをすると、まぶたの裏側に吹雪が吹いている。夢に落ちかけているのかと自覚をして、とろとろと落ちてくる帳に素直に従おうかと瞳を閉じる。横から叩き付けるような冬の嵐は、しかし幻である証拠に寒さも、痛みも無かった。ぼんやりと体は温かく、心地よく疲労している。 イフは傾斜のついた雪原の上で立っていた。それはいつかの大地を奔る流れ星を見た景色と同じだった。視界は霞んでいる。視界の端に煌めくものを見つけて、イフははっとした。おぼろげな、吹雪でそれと解らないのに、それだけは煌々と瞳に焼き付いてきた。青い、冷たい、まっしろな閃光。 「あ」 「? なにか」 「……なんでも。ただ、」 「はあ」 「流れ星」 「?」 「いや、あんただったんだなと、今更になって思っただけだ」 「……何の話なんでしょうね」 「さあな」 それは大地を駆けていた。吹雪の中を、それを苦ともせずに走っていた。青い燐光を残像に滲ませながら、白銀は雪を蹴散らしていた。流れ星なんかではなかった。しかしそれは、確かにイフが見た流れ星そのものだった。 それは一匹の獣だった。 白い体躯をした狐は一度瞬きをした合間に、もう雪原の向こうにいて、傾斜のついた丘を越えて見えなくなった。そこだけは、イフの記憶の中にある流星の光景と重なっていた。あれは、あの青い光は、尾だったのだ。流星の、尾。 暖かい。 「サアレ」 「はい」 「……流れ星は、最後にどこに行くと思う?」 「なんですかそれ。…………そのへんの地面にでもころがってるんじゃあないですか。解らないですけど」 「そうか。……そうだな、そうなのかもしれないな」 「話の流れがわからないですがわからなくていいですか」 「ああ」 「……変なイフ」 堕ちていった星は、一体どこへ行ったのだろう。 流れ星なんて、見つけた瞬間に消えてしまうものだ。そう思っていたけれど、それがただの石ころでも、屑鉄でも、隕鉄でも、そっと手の平に乗せることができるのならば、願いを囁くことくらい許されるのではないだろうか。 それに、案外すぐ側に、流れ星は転がっているのかもしれなかった。 「おやすみなさい」 とろり、融けるような眠気の波に覆われて、ゆっくりと夜の闇に意識は融けていく。サアレが顔を寄せて来た。その額を一撫でしてまぶたを閉じる。音が遠くなる。瞼の裏には、温かな闇が広がっている。あの日の吹雪は、もうどこにも見えなかった。
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SQXプレイ記(16):2周目ダイジェスト
日記書くタイミングが遅くなりましたが、8/30〜9/23までプレイしてました。 ↓2周目ラストメンバーのみなさん。エミルはマスコット。
趣旨というか発端としては、気になってたけど1周目パーティの都合で入らなかったブシドーを使おう! ということで
・1周目メイン使用職は封印(1周目クリア後のみ使ったゾディは除外) ・店売りとマップは引き継ぎなし、それ以外は引き継ぎあり、倉庫アイ��ムは売り出されるまで封印。クリア報酬系も該当の時期まで封印。 ・キャラは前データであらかじめ作成したサブクラス付きのLv1キャラ。途中入れ替えは自由。 ・闇の眷属を使ってみようキャンペーン。日中は体力減少があるので基本夜行動。 ・難易度はエキスパ
大前提として上記PT編成とか私のプレイの趣味とかありつつのことなので、この職入れればとか、この職はこういう行動をすればとか、効率良い方法は以降に書いてる他にいろいろあると思います。攻略記事じゃなくてただの日記なんでそういうつもりで読んでいただければと!
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■初期パーティ ・ブシ/シノ(ミツルギ):新2でも途中使ってたブシドーミツルギ氏。いずれ分身して火力あげる想定のサブシノ ・インペ/ハイラン(シュミット):ブシドーのために盾職入れるならもう一人高火力紙装甲系を入れてまとめて守ろう、という趣旨。ドライブ撃たなければ硬いんですが。 ・パラ/メディ(レオニード・闇の眷属):特に回避タイプにしないブシ使うならパラ欲しいかなと思った。このグラフィックが好きすぎてなんとかして使いたかったのと、眷属フォースブーストとの相性がとてもよさそうだったので。 ・レン/ソド(シノン):後衛攻撃担当として。サブソドセレクトは一部のパッシブが相性良いかなと思ったけど使ってみた感じよくわからなかったw ・ゾディ/ショー(カイユ):同じく後衛攻撃担当。今回のプレイは基本夜なのでショーグンの無名の極は相性良い。1周目と違って最初の低レベ時から使うとなかなか厳しい職だなと思った。
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■第一迷宮 この時点のSPでのフロントガードではブシがハエに殺されるのでガード系に振るのをやめてセルディバイドにシフト。 パラディンのサブにはメディをつけてましたが、戦闘中は回復なんて使う余裕がなくて失敗した感。レンメディがよかったような。しかし第八迷宮まで変更はできないのだ。
インペはドライブうっても思ってたほど大した火力ではない…w 比較対象がブシなのも悪いとは思う。これからスキルを伸ばしていったら化けてくれ(願望)
ボス戦は1周目はダラダラ30ターン以上かかってたけど今回は20ターンくらいでいけて満足。封じ特化職はいないものの「ダメージ+バステというスキルの付与率に響くのはSTR*2+LUCっぽい」とあらかじめ見てた通り、ブシドーで腕封じが入ってました。
レンジャーは盲目が便利だけどTPの減りが激しい…(TPが少ない)
■第二迷宮 新ためてプレイすると、この時点から(不意打ちからの)ボス二段構えになっててなかなか鬼畜だなとw
ただやっぱり知ってるぶんもあって1周目よりはスムーズでした。ブシの小手討ちもジャストなタイミングで入ってくれて。1周目から言ってるけど、ミスティックの陣って複数ターン継続のためにか本人の高LUCでも付与率がおとなしくて、欲しいタイミングで入らなかったりしてたよな〜と。リアルラック依存。
この辺で今回(X)のバステ累積耐性が大したことなくて、解魔なくてもまあまあ入ると気づく。新2のときは一度入れたらもう当〜〜分入らないくらいの耐性だったと思ってて、その感覚があったんで1周目ではあまりバステ連打はしなかったのだった。
回復職がいなく、プリやヒロみたいな回復パッシブ持ちもいないので主にレンジャーがアイテム使って回復してましたがなんとかなるもんですね。ダメージがパラディンに集まり気味だからかもしれない。
■第三迷宮 これ! 眷属への大いなる罠!!! 強制的に朝にするんじゃねえ〜〜〜!
パラディンはグラだけじゃなく実際眷属として使っていきたかったんですが、この時点での日中ダメージは痛すぎるので敢え無くアクセを外すことに。(大したダメージ量ではないのでプリとかいたら平気だったかもしれない、と思うとほんとプリ強いな)
レンジャーがいるとダメージ回避できるアドベンチャーエピソードもあるんだな〜と知る。1周目知識人がいなくてやたら虫に刺されてたエミルにここで思い出し萌えしてしまった。ネッドもエミルも不思議のダンジョンには潜ってたが樹海慣れはしていないのだ。
道中は1周目は特に飛竜に拉致されたあとにすごく苦労した覚えがあるんですが、今回はそこまで問題なかった気がします。ゾディがいたから属性攻撃もあったし。ボスは相変わらず強くはなかった。
■第四迷宮 ボス楽だという意見を割と見るんですがどうも私はここのボス苦手なんですね〜。今回まだ全体攻撃もないし。インペの脚封じは入らないことはないけどブシの腕ほど確実ではないという感じで。苦労したもののなんとか。 レベルが20超えてますが、ブシはまだ分身解禁してなかったはず。
■第五迷宮 道中は長くなってきたな〜という印象ですが、見た目が強そうなボス戦は特に苦労はしませんでした。ダークミストってバステ回復不可になるっていう状況自体は不味そうなんですが、なんか割と放っておいても平気というか。毒ダメがそこまででもないせいかもしれない。
■第六迷宮 1周目はけっこう後の方まで鍛治をスルーしてたというかその存在に気づいてなかったんですが、今回は知ってたのでボス戦はチアブレード持ってってました。知ってるって強い。(ので、やっぱ初見での高難易度プレイ好きだなとも思った)
■第七迷宮 表で一番苦労したボス戦。1周目も普通に苦労してた記憶があるけど、今回状態異常を防ぐ手段がなさすぎる+毒ダメージが強くて、1ターン目のスネークパイルがゾディに当たってるとそのターン終わりの毒ダメージでもう死ぬ。 チアブレードは+5でもここの時点では大して役に立たないです。 第八迷宮を待たずにもうここが終わったらメンバーちょっと入れ替えるぞ!!!! と強く思ったものの、ここは意地でクリア。いやなんとかなるもんです。ちゃんと全員生きてるし!
■第八迷宮 レンOUTリパIN。回復職いないせいもあるけどレンジャーがほぼアイテム係になってたのと、回避盾系のスキルがパラディンいるPTだといらないんだよな〜というのがあって。リパ/メディINしてパラディンのサブをハイランダーに変更。探索系のスキルは1周目ほぼ使わなかったので、なくても別に問題ないという認識。 ここのボス戦では別にレンのままでもよかった気はしますが。
サブ解禁で休養が可能になったことでスキル振り直し。ボス戦でブシ分身が安定する形になってめちゃめちゃ楽に倒せました。
条件ドロは砲剣なの知ってて狙いました。刀のニッカリ+5の混乱スキルで(ブシで)付与。いや〜バステもできる火力職で頼もしいです。好評価。なお介護しないと死ぬ模様。 ただ砲剣はこの時点では強すぎるので十二迷宮まで封印されることに。
■第九迷宮 どうもここの迷宮は長いって感じがします。一周目も同じことおもったはず。中間あたりだからダレやすいんだろうか。 ボス戦はゾディ先見、ブシインペの封じが入って楽にいけました。
狙ってなかったけど条件ドロをゲット。後日一応購入したけど、メインシノビはいないので結局使うことはなかった。
■第十迷宮 ・サラマンドラ戦 炎攻撃わりとランダムでやってきたよね? て思って先見ではなくて耐炎ミストを使ってた記憶があります。それ以外の記憶はない。
・ホムラミズチ戦 ブシの三属性大したダメージ出ないし要らなくない? と言ってたけど、ここでウロコ凍らせるのに使いました。分身してたから二人掛かりでバシバシと。ほんとになんでもできるな。
インペは相手に属性弱点があっても属性ドライブよりアクセルドライブのほうが倍率高いので、属性ドライブは前提のみしか振ってなくて使ってませんでした。
ブシでそれをやってたくらいなのでゾディは先見やってたと思われる(うろおぼえ)
■第十一迷宮 バジリスク戦後の画像撮り忘れ。ここ最近ではめずらしく属性のないボスでしたが特に問題はなく。
ノア君の髪色がなんとなくマイナーチェンジされる。
イワオは属性は特定の行動の○ターン目とかで固定で撃ってきてるよな? て思ったものの、自分を信じきれず先見とラインディバイド同時につかってTP無駄にしたりなどしていた。
与ダメ的にパッとしないな〜と思ってたゾディも9〜11迷宮では先見でめっちゃ役立ってました。相手の属性ダメージも大したことないからアイテムのミストでも全然凌げるけど。先見★使った後の弱点属性の星術は強くて良いです。
パラいるのに属性ガードじゃなくて先見推しなのは、パラがディバイド型なので自分に防御バフなど掛けるターンが必要なため。
■第十二迷宮 一周目はミスティックがいて苦労しなかったので、今回はどうだろな〜と結構楽しみにしていたボスです。
ふつ〜に挑んだらまあそうですねクソ強いですね! ブシ分身したそばから全体ブレイブワイドで落とされてるし。これはキレる。
ブレイブワイドをインペが食らうと全体攻撃にされてしまうのがキツい(インペをパラがかばうのでも全体化)。ここではゾディのサブをレンジャーにしてて、後列からラインディバイド+スケゴすれば全体をかばうことも可能なんですが、それではさすがにパラディンが長く持たない。かといってかばってないと誰かしら(特にブシ)が落ちる。
鈍弱★入れてインペの装備とサブを工夫して素早さあげたら相手より先行できないかな〜? とか考えてたんですが、パラディンがディバイドじゃなくて挑発することでアッサリ解決できました。 鈍弱は一応入れてるけど、防御ならよほどのことがない限り相手より先行になるんですよね。��発ってそんなに全部の攻撃吸わないでしょと思ってたんですが(実際雑魚戦はそう)なんかブロートはやたら挑発され…分身って本体と同じキャラ狙う仕様か?
パラは挑発防御、デバフで弱体化した残像から単発のブレイブワイド食らうくらいでは大した被ダメにはならないので全然耐えられます(適宜回復は必要)
ガードラッシュ残像はきついので出たらすぐに倒して、弱体化ブレイブワイド残像のみで埋める。封じがついてて厄介な凍砕斬は特定行動の後しかやってこないので先見で防ぐ。
ブシは分身はするけど、パラディンが前に出たいので一人は下がって空刃。このスキルも妙に強くて使い勝手がいいです。
このくらいでそんなに難なく…て思ってた割にパラディンが瀕死になってるじゃんな!!!(下画像)
これ相手のHP的に発狂モードじゃんやべー!!! て思ってパラブースト+ラインディバイド+スケゴでミラクルエッジを庇ったんだったと思う。なんでブシ分身が死んでるのかは忘れた。パラディンが前列でディバイドしてしまったから漏れた…?(サブのスケゴは2回までの発動なので。パラが前列にいて前列ディバイドだと一人分漏れる)
そして慌てて混乱付与。このためにブシのサブ武器にニッカリを持ってきていた。パラが全部受けるならブシの防御力はどうでもいいし。
「発狂される前に混乱入れよう」と思ってて入れ忘れてるの結構やります。いい加減改めたい。
なにはともあれ撃破。
1周目のミスティックでも共通だけど、倒してもポンポン新しい残像生み出されるので弱体化 or 無力化してある程度放置するほうが簡単だと思いました。(ミスの腕封じについてはそのうち解けるので全体攻撃で潰していく感じで)
■第十三迷宮 今までバトルリザルトの画像を撮ってきたのに表の締めのここで撮り忘れるという。すぐ気づいたんでそのときのギルカの画像です。
脚封じ入れたいボスですが、インペはちょっと信用しきれないのでブシのサブシノ脚封じスキルに振って短剣持ってったら狙い通りのことができました。満足。ブシは結構前の時点からシノビの抑制攻撃B★(半分)まで振ってる。
■三竜など 1周目ではクリア後にゾディ加入したんだから、2周目ではクリア後はゾディ外すべきでは? てちょっと考えたんですが、しょう〜〜じきXのゾディ強くはないし、この周回は強力な属性強化役のプリもいない。先見欲しいならサブでも取れるので、ゾディがいるのはプレイの縛り的にはあんまり問題ではない。と判断したので入れてました。
最初から使ってきたからというのもあり。ゾディ外してたらガンナーでゴーグルつけて跳弾パナそうかというのはありました。
・雷竜。今回はバフ担当がいないPTなので1周目より楽でした。パラディンの鎧とゾディの杖の材料が欲しかったので水溶液もっていった。
・氷竜は撮り忘れ。雑だな! ・火竜。こちらはブシの刀のための水溶液。水溶液最終的に余るから温存しなくてもいいな〜と思って
今回、というか比較対象が新2でしかないんですが、竜は特別に強いって感じではないですね。コアも大したことしてこないし。ブレスで即死しないし。 新2はエキスパ火竜で止まってますよ…。
画像がないけど小迷宮のジャガノ条件ドロからブシの鎧とったり、装備品集め。ジャガノはHP高くて到達時点で条件ドロップ狙うのはちょっと大変ですね。
■第十四迷宮 1周目では4Fがすごくきつくて、ここで探索スキル(奇襲とか)を解禁した思い出。ただ今回は比較するとそこまででもなかったです。もちろん楽勝でもないけど、1周目PTに比べて下準備なしで高火力出せるからだと思う。
パラディンを眷属として使うためには令嬢夜パターンに挑まねば…というわけで、夜にいってみて45Tくらいで残り30%くらい?まで削ってTP切れ死。(記憶うろ覚えなので当時のツイと違うこと書いてるかも) パターン自体はもうわかってるので耐えるだけならできるけど、火力爆上げ手段のないこのPTではきつすぎるぞ〜 とお察しする。
一応、夜パターンの特徴は3属性ターンに撃ってくる属性がランダム、物理攻撃系は最初から全部使ってくる、不死再生の予告メッセージがない、あたりです。予告メッセージ以外は昼のHP30%以下の状態と一緒かなと。
やってみた感じ:属性は阻止手段を三人に持たせる、物理攻撃については夜だからどうこうは特にない、再生の予告メッセージがないのは1ターンに大量ダメージ与えるPTじゃなければ別に問題ない、という感じでした。 1ターンに大ダメージ与えてしまうと再生がずれるので、そういうタイプのPTでは夜だと再生がめんどくさいだろうなと思った。1周目PTの猛攻ターンがそんなかんじ。
夜絶対無理! 絶望!!! みたいな感じでもないけど、攻撃できるメンバーが減って長期戦になるわなあ、アムリタ持っていくにも限度が…となかなか厳しそう。
とりあえず昼の部やってブシの武器をもらおう、というわけで
何度か試してみて、火力減ってもブシ分身じゃなくてリパを分身させて安定感あげたほうがいいと判断。実際そのプレイで撃破できました。
二人なら防壁の維持も、常時ではないものの霊魂固着(即死防止)もやっていける。パラディンに常時2〜3つ防御系バフをつけてて、デバフを入れると解除されがちなのでデバフは封印。
例のごとくブシはサブ刀ニッカリ持ってきててなんでも死ぬレベルなので、物理攻撃はほぼほぼパラが受ける必要がある。が防御バフついてれば大丈夫でした。上でも書いてるけどデバフは無しで耐えれる。
瞬黒貫は最速っぽくラインディバイドより先行するけど、パラディンが前列に出てあらかじめ挑発しておけばほぼパラに当たる。後ろは運ゲーにはなってしまうけど、リパに当たる分には死なない。(スケゴもしてたかも。忘れた)
昼の部なので、パラディンは眷属のアイデンティティを捨ててアームガード装備してました。ド安定だけど何か悲しい…。
上の画像で混乱付与してますが、火力アップ手段の乏しいパーティなので付与中に倒せず。その後は夜パターン同様属性ランダムなどがあって結局50ターンくらいかかってしまった。まあ倒せたのでOK。
130引退、ブシ/シノ、インペ/ゾディ、パラ/ハイ、ゾディ/レン、リパ/シノでした。 ブシは分身はしないけど抑制攻撃ブーストや一部パッシブが欲しくてシノビのままにしてました。インペのサブがゾディなのは夜用(属性阻止用)のサブをそのままにしてたんですが、これが混乱解除後の低HPモードで役立ってくれました。
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余談。リパもここまでLUC上がるよの図(もっとあげる手段もあるかもしれない)お香投げようかと思ってLUC上げたけど、この回ではお香もっていくの忘れたっていう。さらにお香じゃなくてブシのニッカリで混乱が入るという。
というかリパは職業の割にLUC大したことないんだな〜と驚く。そしてSTRも低いのでバステの付与は…私は鎌スキルは全部切ってました。
■真・ヨルムンガンド戦 令嬢夜の部はこいつ倒してやる気があったらでいいや、ていうか常時発狂モードなんだから制限パーティじゃなくてプリ解禁とかするべきでは!? とかなど思いつつ。
でもやっぱりこいつもきつくて、1周目同様令嬢より苦手だ〜〜と思いました。何度もやった結果、これメンバー変えたほういいなーメインレン欲しいかも…。となり、ゾディOUTレンジャーIN。名前が変わってますがキャラ自体は最初のころ使ってたレンジャーです。カラーも変わってるけど(なんとなく彩り的に)
メインレンジャーINした最初のチャレンジは様子見、ちゃんとパターンを見極めよう、とか思ってたんですが意外とその回で撃破できてしまった。
PT崩壊→ブシの瞬黒貫で眠らせてる間に建て直し。もうヨルムン発狂しててきつい→ブシで石化入れてからの兜割など、ぐだぐだの末のブシ劇場で51ターン。
2周目の趣旨的にブシドーが活躍できたのは大団円て感じで、この時点で令嬢夜モードをやる気は失せているw
パーティ編成は インペ/ハイ、ブシ/シノ、リパ/ゾディ、レン/メディ、パラ/ハイ でした。
途中でパターン読み間違えて崩壊したからブシが活躍してしまった感じで、それまでは他のメンバーもがんばってました。
とりあえずボスへのデバフとパラへの防御バフ重ねは必須。(このPTでの話)
サブレンのスケゴの2回発動とメインレンジャーのスケゴ3回発動には絶対的な差があって、メインのほうならそれだけで三人いる列への列攻撃を庇える。列攻撃or貫通攻撃、ていうのをやってくるであろうターンがスケゴ一発で済むんですよね。 ラインディバイドでは前列or後列の判断が必要になるし、外せば死ぬしw パラに挑発かかってればパラのいる列に撃ってくるけど、パラが自バフかけられるターンの余裕もそんなにない。
レンのサブメディは回復量はどうでもよくて、恨みの眼光時のデバフ打ち消しヒールデジャヴが欲しかったため。 リパは絶対防壁使いたいターンがある、雷のターンは全体物理がくる可能性がある、とかいろんな都合でレンメディ、リパゾディになりました。 あとリパは兵装+素早さアップ装備にしとけばシールフレイムに炎の先見できますね。(素のゾディでは無理、あとファイアガードなら普通に先行できる)
やってて途中で気づいたんですが、ペダンはフルガード+全員防御でなくてもパラディンにストナードと渾身ディフェンスついてればラインディバイド+スケゴで全員分受けきれてしまう。無論エキスパのダメージ量。 HPがっつり減るので次ターンに回復が必須ですが、これ知ってる状態でもう一度やったらもっとスムーズにいけるかも。
とは思ったものの、もうあの音楽聞き飽きたからいいや! と。 そんなパラディン氏
いや〜VITカンストいいですね! 硬い! サブハイランダーも硬い。 あと、戦闘直後のHPとかなどの画像が残って…て石化してるときと大差ないんだけど、インペがコンバージョンのせいでもりっとTP残っている。
私はスキル極振りというか★まで上げていきたいほうで、インペは低TPなのに消費TPの大きい行動(アクセル★、強制排熱★)をしていくので、ボスや強敵戦では基本的にコンバージョン使ってました。TP残量気にしてアムリタ使う対象が減るのは楽だし、それで令嬢戦での先見も使えてた感じです。インパルスも上げてたけどボス戦とかでは手数掛かるの嫌で使わなかった。
真ヨル戦のインペはドライブ、強制排熱、アイテム係、てかんじでした。特にパラディンへのストナードが必須なので、ブシが攻撃以外のことしないで済むためにも丁度良いポジだったと思います。
〜第2部完〜
1周目ラストのデータが116時間だったので約76時間。お疲れ様でした! 1周目は序盤が低火力すぎて雑魚戦などに時間かかりすぎだったせいで長かったと思います。あと図鑑埋めとかもしたしね。
三周めもまだやる気ありますw エミル(プリ/ドク)、ネッド(ミス/レン)、ビクトル(シカ/ヒロ)精霊族三人BASICの旅
今のところやってる感じは三人でも(BASICだから)問題なさそうですが、最後までやっていく気力があるかどうかは謎。 そろそろ同人誌の原稿やらなきゃとも思ってます。
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1-4
帰還したリコナとローガンは、身支度を整えてから、揃って村長の家を訪ねた。 そして、ここ数日の森の様子や、アオアシラの死骸のこと、そして光る海と、海から覗いた影のことを伝える。伝えて、訊いた。 一体あれはなんなのか? その心当たりを。 応えは程なくして返ってきた。村長の顔を彩るのは渋面ともつかない微細な苦みだ。ため息と共に吐き出された紫煙はゆっくりとほどけて、天井へ上っていく。 「心当たりがある」 「それは?」 急かすように言ったのはリコナ��った。それも当然だろう。ここしばらくの、得体の知れない危機感や疑問が解消されるのだから。 「それは、ラギアクルスと呼ばれておる」 「ラギアクルス……その名前は、聞いたことがないな」 「ローガンは、以前は大陸でハンターをしていただろう。知らなくてもおかしくない。何せラギアクルスは海に棲むものなのだからな」 「なるほど」 それから村長はラギアクルスについて知っていることを語った。 ラギアクルスは別名では海竜と呼ばれ、近隣の島々でも書物や詩歌にと語り継がれている存在だという。そして海に棲み、雷を操る故、その際には海が光ること。普段は人界に立ち寄る事はないが、たまに姿を見せることがあることを口にする。 「神様の遣いとする話もある。そうすると、刺繍のパターンにも使われる場合があるわけじゃ。ほれ、ここを見なさい」 村長が、足元の敷物にある一点を指さす。 そこには首の長い竜のようなものが描かれていた。 そして近くには雷雲と、舟の刺繍。舟には皿をもった人の姿がある。先ほどの話を考えれば、これは嵐を収めて貰おうとラギアクルスに捧げ物をするシーンを示しているのだろうか。リコナは、もうじきやってくる雨季の事を思い出した。 符号していると思った。ラギアクルスの外見やもうじき雨期に入ろうかと言う時期に、それから雷を操り海を光らせるという点。 「よく分かった」 リコナが思案している横で、ローガンはそう言って席を立とうとする。 「ちょっと、ローガン?」 「なんだ」 呼び止められた男は面倒くさそうな目でリコナを見る。 「いや、なんだじゃなくて。これからどうするか決めなきゃ……」 「それは決まっているだろう。無視するんだよ」 「ええ……?」 ローガンが深い息を一つついて、座り直した。 「神様扱いされていて、供物を渡したこともある。この刺繍にあしらわれた事や言い伝えの全部が真実とは言わないが、だとしてもこいつはそうそう人間に危害を与える存在ではない」 「そうかもだけど」 「いいか? お前が勝手に嫌な予感を抱いているだけで、ラギアクルスとやらは未だ何もしていない。やったことと言えば、リコナが把握してる限りでも僅かに二度、アオアシラを喰った事だけだ。竜だって腹が空けば飯くらい食う。その程度の話だよ」 そう言われてしまえば、それはその通りだった。反論の余地もない。 「ちなみに村長、ラギアクルスってのはどのくらいの大きさなんだ」 「言い伝えでは頭から尾まで、大人が四、五人といったところだと聞いておるが」 「結構大きいか……。まあ、いざとなっても狩れないレベルじゃないだろう?」 そう言いきるローガンは頼もしい。 きっと何かが起こった時にはラギアクルスを狩る気ではいるのだろう。そう思いつつもリコナは釈然としなかった。
* * *
「それはきっと、何かが起こってからでは遅いと思ってるかどうか、ではないでしょうか?」 疲れた体を引きずって自宅に帰ったときには、もう真夜中になっていた。手早く汗を流して着替えたリコナに、その従者であるカナトは言う。 彼は漁師が大半を占めるこの村の子供としては線が細い方だ。それは彼の体が人より少し弱いことに起因する。その代わりと言っては難だが、同年代の男の子のなかでは飛び抜けて賢かったし、落ち着きがあった。だからこそ、リコナはカナトのことを従者に選んだのだ。 「……そうだね」 そして、その通りだ。何かが起きてるということは、それについて既に手遅れなのだから。 「リコナさんは、ずっと何かが起こる前に対処していましたから」 「それって普通でしょ? 誰かが怪我したり、死んだりしてからじゃ遅いじゃん」 「うーん、それはそうですね。ただ、そうあり続けることは、リコナさんにとって、やはり負担なのだと思っています」 そう言ってカナトは、机の上に広がった地図や、壁に貼られたモンスターの目撃情報メモの方をちらりと見た。それらは全て、リコナが誰にも言われるでもなく、自分の手に届く範囲を守るために収集した情報の積み重ねだった。 常に新しい情報を入れるために、リコナは狩りに出ない日も部屋にこもって眠り更ける……ということはしない。出かけて、村人の仕事を手伝うことすらあった。夜は夜で、見聞きした情報をまとめて、考察をする。その結果、危険だと思えば狩りに行くし、もちろん問題ないとする範囲ならばわざわざ狩ることはしない。 それはとても勤勉な姿だ。だからこそ負担もあるとカナトは言う。 「まあねえ」 リコナはベッドに寝そべり、さもありなんと思う。そういう細かい心労や肉体の疲労は、全て、心当たりのあることだ。だからといって、止める気はないけれど。 ローガンの部屋を思い出す。彼の部屋には酒瓶がたくさんあった。それが彼のストレス解消方法なのは容易に想像がつく。自分にとってのそれは、きっと……。リコナはそう思いながら、目を閉じる。 疲労は、彼女の意識をあっという間に眠りへと誘った。 その翌日、リコナはいつも通り夜明け前に目を覚ました。 動きやすい服装に着替えて、軽くストレッチを始める。黒いレザーのトップスとホットパンツは、リコナがハンターになる際に教官を務めた人物から記念にと贈られたものだ。戦うには心許ないので実戦では使っていないが、体の動きを阻害しないのでトレーニングには便利なものだ。 一通りストレッチを終えると、付属の鎧を着ける。彼女の持つ最も上等な鎧よりは全然軽いものではあるのだが、重要なのは、少しでも重いものを身につけると身体の動かし方も変わるということだ。 「さて、と。……っとお!」 「わ、すみません」 部屋を出るところで、リコナはカナト少年とぶつかった。カナトの手にあったバスケットが揺れて、危うく落ちかけるのを、リコナは空中でキャッチする。 「今日も早いね、カナトくん」 「いえ、リコナさんこそ。昨晩は遅かったので、さすがに寝ていらっしゃるかと思いました」 従者はハンターの家に住み込むことも出来るのだが、冷静に考えればカナト少年も思春期なわけで、と思って通わせている状態だ。それでもいつも、カナトはリコナの起床に合わせて部屋を訪れていた。 ふと、ローガンは……というよりラシェアはどうしてるのだろうと考えかけて、リコナは頭を振った。それは考えても詮無いことだ。 「目が覚めちゃってね。まあ適当に流して直ぐに���るから、部屋で待っててね」 「はい」 切り替えよう。リコナはバスケットをカナトに返し、大地を蹴った。 身に纏った軽装の鎧は、心地よい重みをもたらし、カチャカチャという音を響かせる。潮風が素肌を擽った。今日は港の方まで足を伸ばしてみよう。リコナは軽快な足取りで坂を下る。
* * *
村を一回りした後、リコナは部屋に戻った。カナトが持ってきたバケットから朝食を摂り、それから地図を手にベッドに座る。 「何か、気になることでもありましたか?」 「ちょっとね」 リコナは地図をざっと見ると、昨日、目星をつけたメラルーの住処や生活圏、アオアシラの死骸の発見地点を割り出して印をつける。随分と時間が経った気がするが、案外しっかり記憶していることに自分の事ながら感心する。 「ふむ」 印を指で辿ってみる。 それらは一直線とは行かないまでも綺麗に道なりになっており、リコナの推測が正しいことを教えてくれた。 「間違ってない。と、思う」 最後に、あの時ラギアクルスがいたであろう箇所にバツをつける。 ラギアクルスは海に棲む竜種だという。アオアシラが海岸を歩いていたところ、突然襲われたと思われた。油断していたアオアシラは、その初撃で絶命したはずだ。 ラシェアと薬草取りに出かけた日に現れた方のアオアシラは、逃げ出す事には成功したのだろう。しかしその��は深く、パニックに陥りながら逃げるうちに失血……力尽きるに至った。 「んー」 リコナはそのまま仰向けに寝転んで考える。ローガンの言葉が脳裏に残っていた。 ラギアクルスは餌を獲っていただけで、まだ何の問題も起こしてない。だからまだ狩る必要はない。 確かにそうだ。そもそもラギアクルスがいた場所も、村からは離れた狩猟区の奥。心配するのも馬鹿らしいほど遠いのだ。 「カナトくんは、もし隣にとても凶暴な肉食のモンスターがいたとして、でもこのモンスターは人を襲ったことがないから平気だろうって言われたら、納得できる?」 「どうでしょうか……」 カナトは微妙な苦笑いを浮かべる。それがリコナの意地悪な設問なのが直ぐに分かったからだ。 本音を言えば、大丈夫ではない。怖いだろう。例えそれがアオアシラであり、鎖に繋がれ、檻に入っていたとしても恐ろしいものは恐ろしい。でもそう答えるということは、リコナを戦いに駆り立てることと同義だと思えた。 この世界での暮らしは、何処までいってもモンスターの直ぐ隣。モンスターという危険な隣人を許容しなければとてもではないが、この世界の何処にも安寧の地は見出せない。しかし、それが隣にいることが分かっていて、平然とすることもできはしないのだ。いつ、その牙が、ひとを脅かすかも知れない限りは。
「でも、僕は、リコナさんの思うことであれば、信じたいです。リコナさんが、平気だって言うのなら」 「……そうだね」 リコナは小さく嘆息する。 カナトの言いたいことはつまり、リコナが常に村の安全を第一として、精力的に狩りを行ってきたことに対して、信頼したいとする考えだ。 リコナというハンターは、少しでも危険を見出せばそれらを全て排除してきた。だからこそ、そのリコナが安全だというのなら、それは妥当なものであると。 でも、自らの幼い従者が、そんな打��的な思いの下に言葉を発したとは思いたくなかった。リコナは、カナトの感情をこそ、受け取りたかった。 「あの、僕は何か間違ったことを言ってしまったでしょうか?」 「ううん。そんなことない。カナトくんの気持ち、嬉しいよ」 本音だった。本音だと思いたい。リコナはそう思う。 リコナはそこで手にした地図をテーブルの上に放り投げた。それから少しだけ勢いをつけて立ち上がる。 何となく気分が暗くて、気合いを入れないと立ち上がれなかった。 「お出かけですか?」 「うん。また少し、走ろうと思う」 「ええっと、疲れてませんか?」 「それとこれとは別の話だよ。ハンターは体力勝負。その体力は日々の鍛錬で培うもので、サボればそれだけ体力は落ちちゃうの」 「うーん。仰りたいことは、分かります」 そう言いながら、カナトはリコナの進路を塞いだ。 「言ってる事とやってることが違ってるよ」 リコナは困ったように言うが、彼は首を振って、リコナのことをベッドに押し戻した。休め、と言うことか。リコナは思う。 リコナがベッドに腰掛けたせいで、彼の方が少し目線が上になる。そうすると、リコナは少しだけ落ち着かない気分になった。 「ここ最近、リコナさんが何かを気にして気を張ってることは、誰の目から見ても明らかだと思いました。その結果、リコナさんが体調を崩したら、僕は何のために従者をしているんだということになりかねません」 「そう……かもね」 「というわけで、今日はお休みです。久しぶりにマッサージでもどうですか?」 カナトはそう言って、身軽な動きでリコナの後ろに回った。 指先が首筋をさわりと擽って、それから肩をぐっと押し込む。ぞわりとしたのは一瞬で、じわりと広がる気持ちよさにリコナは深く息を吸った。 どちらかと言えば、リコナもマッサージをする側の立場だ。長老衆の集会所では、リコナはよくよく肩揉みをお願いされる。若い女性に肩を揉まれるというのは、肉体、精神共に一定の快楽を伴うものなのかも知れない。リコナは年寄り臭いと思いながらもそれに同意するに近い事は考えていた。 触れ合いというのは、どこかで欲してるものなんだなと。 肩をひとしきり揉んでから、カナトはぐいぐいとリコナの背を押す。どうやらまだまだ続けるらしい。リコナがベッドに寝転ぶと、カナトと覚しき重みがかかって、微かに息苦しくなるのを感じた。 「カナトくーん、体重増えたんじゃないかなぁ」 「どうでしょうか。自分ではよく分からないです。でも、友達と比べればまだまだ全然軽いとは思います」 「うーん」 そうかもしれない。村で見かける子供たちは、子供であっても筋肉は結構あるように見受けられるから。そもそも、そういった子らは背中に乗せるのはいろいろ心配だろう。悪戯的な意味で。上で跳ね飛ばれたりして、腰を傷める羽目になっては叶わない。 リコナは、身体の奥から滲み出すように出てきた睡魔を噛み殺しながら、カナトの指先の感覚を追うのに集中した。 肩から、背中を押して、腰へと降りて、ちょっと飛んで、太腿に触れる。太腿に触るときに少しだけ戸惑いが感じられるのはご愛嬌だろう。 彼にとって、このマッサージは生殺しなのか、ご褒美なのか。少しだけリコナは気になったが、その脳内議会が立ち上がる前に、その意識は眠気の波にさらわれていく。 さすがに無防備すぎではないかと思ったが、それは眠気を散らすほどの感情には満たなかったようだった。
* * *
木々が粉微塵に砕け、水柱が高く立つかのような轟音で、リコナは目を覚ました。 部屋は暗い。夜になってしまったようだ。一つだけランプが付いているのは、カナトが自分のためにつけたものだろうと思う。扉は開きっぱなしになっており、カナトの姿は室内にはなかった。 リコナはゆっくりと身体を起こすと、念のために双剣を持つ。部屋を出ると、少し離れたところにカナトは立っていた。 「カナトくん。今の音って……」 轟音で目が覚めたにしては、静かだった。リコナが暗闇に立ち尽くす従者に並ぶと、そこからは村を一望することができた。リコナが住む家は、村の高台にあるのだ。 しかしそこに広がっていた光景は、のどかな村の港ではない。 ごうっと風が吹く。 風は焦げ臭い。 リコナは眼下に広がる光景に絶句した。港が燃えている。海の上に浮かぶデッキはバラバラになり、陸上にある部分は燃え盛り、闇夜を煌々と照らしていた。 遅れて、悲鳴と、何かが激しく燃える音が、耳に届く。 「何なの、これは」 リコナは呟いた。 目の前にある光景が信じられなかった。これまで必死に守ってきた村が、燃えている。 何で? そう思った瞬間、村に、咆哮が轟く。青い光が、闇を奔った。そしてまた何処かが燃える。 「まさか……、こ、の……!」 気付いたときには、リコナは走りだしていた。 クロオビの装備は、耐久性が不安だとか、そういうことは脇に置いておく。むしろ普段着に着替えてなかったことこそ僥倖だ。 一息に坂を駆け下りると、そこはまるでまるで地獄絵図かの様だった。家屋は燃え、砕けた木片は辺りに散らばっていた。そしてそんな破滅の光に照らされ、薄暗闇のなか睥睨するのは、海竜だった。 何が、村からは離れた狩猟区の奥だからだ。馬鹿なんじゃないのか。リコナは歯噛みした。相手は海を縄張りとする竜なのだ。だとすれば、安全なのは内陸に村がある場合であって、間違っても港のあるような海沿いの村は安全ではない。 リコナは双剣を構え、ラギアクルスと対峙する。 しかし、かの竜は、余りにもあっさりと背を向けると、水底へと潜っていった。 「ちょっと……!」 拍子抜けだ。納得できない! リコナは海に飛び込もうとして、誰かに腕を掴まれる。 そして目の前で、村を滅茶苦茶に蹂躙したラギアクルスは、姿を消した。後に残ったのは、バラバラに砕かれて燃える港と、無力なハンターの少女だけだった。 「落ち着け」 そう声がして、リコナは自分の腕を掴んで止めているのがローガンだと気付いた。 「なんで止めたの!」 「お前な……夜の海だぞ。俺はそこまで海の狩りには詳しくないが、これだけは分かるって事がある。今飛び込んでも、暗くて何も見えやしない。返り討ちに遭う可能性が高いって事だ」 正論だ。 だからこそラギアクルスも、去ることを選んだのだろうと思える。海のなかは海竜のフィールドであり、ハンターの領域ではない。夜の海であれば尚更だ。 「それより、手伝ってくれ。ラシェアが見つかってない」 追い打ちのようなローガンの言葉にリコナは総毛立つのを感じた。冷や汗がどっと溢れて、声が震える。 「どういうこと!?」 「タイミング的には、俺の所から家に帰っているところかと思う。いつもどういう道を歩いてるのかは分からんが、もしかしたら港を通ったかもしれない。とにかく、ラシェアが見つかってないんだ」 「嘘……」 リコナの脳裏にラシェアの顔が浮かぶ。この村に来てからの付き合いではあるが、親友と呼んで差し支えない相手のことだ。 辺りを見渡す。この酷く荒れた港の何処かにいるのだろうか? リコナは駆けた。 駆けつけた村人たちの姿が見え始めていた。そちらにも目を向けるが、やはりラシェアはいない。ラギアクルスはアオアシラを襲っていた。それは食糧を得るためだ。でも、だからといって、まさか。 「リコナ、こっちだ!」 ローガンの声に、少女はハッと顔を上げた。声を頼りに合流すると、ローガンはラシェアを抱きかかえていた。ぐったりと、ローガンに身体を預けている。 「大丈夫なんだよね?」 「目立った外傷はないと思う。血が出てる様子もない。単に気を失ってるだけ、だと思いたいな」 「とりあえず、休ませよう」 リコナの言葉に、ローガンは賛成だと頷いた。 「リコナは、ここで引き続き、行方不明になってる奴とか、怪我人がいないか見ててくれないか。俺も、ラシェアを寝かせたら直ぐに戻る」 「わかった。ラシェアのこと、お願いね」 夜中にも関わらず、港はざわつき始めていた。でもそれは普段通りの何処か心地よい喧噪ではなくて、例えば手を貸してくれと叫ぶ声だったり、見るも無惨に破壊された港を嘆く声だったりした。 悲痛だった。無力だった。 リコナは泣き叫びそうになるのを堪えた。きつく手を握りしめた。でも握った手は何処にも振り下ろせなくて、自嘲する。 こんな思いをするためにハンターになったんじゃないのに、と。 「リコナちゃん、すまねえ、こっち手伝ってくれえ」 誰かの声がする。 リコナを必要とする声だった。少女は己の無力を忘れるために、その夜が明けるまで、我武者羅に働いた。
* * *
「おい、リコナ?」 ローガンの声が聞こえた。 反応して、身体を動かそうとするが、それは上手くいかなかった。 リコナは、眠りの淵にある己の状況を見直そうとする。しかし、港で人助けして、片付けをして、それ以降の記憶は見つからなかった。 目を開く。目の前にあったのはベッドの脚だ。どうやら家に帰り着いたところで限界を迎えて、意識を失っていたらしい。硬い床の上で眠っていたせいか、彼女の身体は強張っていた。 「リコナ、返事をしろ」 扉がどんどんと叩かれている。これ以上、返事がなければ今にも侵入せんという勢いだった。昨晩の事を考えれば当然ではあるが。 リコナは身体に力をこめて、立ち上がる。床に倒れたの無様な格好で迎えるわけにはいかなかった。着替えもしてないし、とても他人様に見せられる様ではない事に気付く。慌てて扉の向こうに返事をした。 「起きたみたいだな。別に急がなくてもいいが、ラシェアの家に行ってやれ。目を覚ましたらしいからな」 リコナは慌てて身支度を整えるが、着たままにしていたクロオビ装備を干す頃には、日は高くなっていた。水が滴る髪を乾かすのももどかしく、歩くうちに乾くだろうと家を出る。 そこで、ちょうどカナトが歩いてくるのにかち合った。 「あ……」 気まずそうな表情を浮かべた。カナトの視線がリコナの顔を捉えて、それから地面に落ちる 手にはいつもの、パンの入ったバケット。 「おはよ、じゃなくて、こんにちは……かな」 「……はい」 「珍しく寝坊しちゃってさ、はは、カナトくんも?」 「��う、ですね」 歯切れの悪いカナトの様子に、リコナは首を傾げた。彼は体質上、常から声にそこまでの張りがあるわけではないが、変に言葉尻を濁したり、あからさまに沈んだ声を出すことは珍しかった。 「どうしたの?」 リコナはチュニックの裾を押さえて、カナトの前にしゃがんだ。覗き込んだ彼の顔は、今にも泣いてしまいそうに見えた。 「僕の……あれは、僕のせいです。僕が、リコナさんに休んだ方が良いって言って、だけど、いつも通り見回りしてたら、もしかしたら気付けてたかもしれなくて」 「……それは」 昨日は全然、そんなことは思わなかった。だけどそう思っても仕方のない事かもしれない。 その二つは、少しも無関係だとは思えないほどの関わりがあった。確かにリコナが外にいれば、眠っていなければ、それはもう少し早くに分かったのかもしれなかった。それは事実かもしれなくて、カナトはそれを気に病んでいた。
「カナトくん」 でも、それはそれだ。 「それは、カナトくんが背負う重みじゃない」 リコナは、カナトの持っていたバスケットを脇において、それから少年の身体を抱きしめてやる。 「それは、ハンターである私が背負うべき重みだからさ。カナトくんは気にしなくていいの」 そうなのだと、リコナは自分でも思った。 確かにカナトは、リコナに休むよう気遣いから提案した。でもリコナは、村の安全の為に、それを断ることができたのだ。ラギアクルスの事を知っているのだから、そうするべきだったのに。 それは、ハンターであるリコナの判断の誤りであって、カナトの発言に責任はない。 「それはカナトくんが、ちゃーんと従者の仕事を考えてるって事なんだよ。私はそれが嬉しい」「でも」 「でも、じゃないの。私はね、あの竜の事を知っていたの。そういうやつがいるんだって知ってて、危ないなって思ってたの。でも些細な事ばかり気にしててさ。それで、見誤ったんだ」 それは言うまでもなくローガンのことだった。彼と足並みを揃えるべきなのではないか、という遠慮だ。 でも、ローガンが来なければ、リコナは一人でさっさとラギアクルスを倒しに行くはずだった。そうしたら、こんな酷いことになんてならなかったのだ。 「カナトくんだって、それを知ってたら、休んだらなんて言わなかったはずだった。でも、私は直接には言わないで、曖昧な事を言ったから、それはカナトくんには分からないわけで」 「それは……」 「ほら。だから、カナトくんは悪くないよ。それは、私の重みなんだよ」 「…………はい」 答えるのを待ってから、リコナは、抱擁を解いた。 カナトは、今にも泣きそうな顔だった。必死にこらえていたけど、それでも、もうすぐそれは決壊して、泣いてしまうんだろうとリコナは思う。 それでも我慢している姿は、とても強かった。 「私は、ちょっとラシェアのところに行ってくるよ。しばらく戻らないけど、お腹は空いてるから、家で待っていて」 一緒に食べよう? そう言ってリコナは少年の頭を撫でて、それから、その場を足早に去った。カナトが見せた強がりを無駄にしないように。 悔しいだろうなと、思った。 その口惜しさを、消化しないまま奪ってしまったのはリコナだ。でも、これでよかったのだとも思った。カナト少年は、身体が弱い。日常生活に苦労するほどではないが、生まれついた体力の無さはその細い線に表れていて、ハンターを目指すことなど到底できないだろう。 モンスターに関する悩みの殆どは、その相手を討ち倒せば解決できる。今回の事も、そうだ。でもそれは、カナトには叶わない。だから最初から、彼にその口惜しさを自力で解消できる手段なんてなかったのだ。
* * *
カナトと分かれたリコナは、村はずれにあるイクスジニア家を訪ねた。イクスジニア家は、村の薬師の家で、ラシェアはその三姉妹の三女だった。 リコナが家に入ると、計四対の視線が彼女を刺した。刺したというのはリコナの主観で、それは事故を防げなかったという負い目から来るものなのだが。 「リコナちゃん、よく来たわね。ラシェアはもう起きてるから、ちょっと話し相手になってあげてよ」 イクスジニアおばさんは、そう言ってリコナを歓迎した。 姉妹の二人も、やれ「ラシェアったら薬が苦いなんて文句言うのよ、薬ってそんなものだって自分で分かってるだろうのに」だとか「ちょっと怪我してるからって果物が食べたいなんて姉を使いっ走りさせるなんて」だとか、口々にリコナへと愚痴を向ける。 誰も、これがリコナの怠慢から招かれたことだとは思っていなかった。それが少し彼女の気持ちを軽くする。会釈して、リコナはラシェアの部屋に入った。 ラシェアは憮然とした顔で「もう苦い滋養強壮剤なんて要らないわ。怪我もしてないのに……」と言ってから、それからリコナの姿を認めて、笑顔になる。 「あら、お見舞いに来てくれたの?」 そう言われてから、リコナは特に何も持ってきてないことに気づいた。不死虫がひとつまみもあれば、冗句にはなったかもしれないのに。 「えっと、顔を見に来ただけだよ」 「それを、お見舞いに来たと言うんじゃないかな……」 ラシェアが苦笑して、ベッドの上で身体を起こした。 部屋の空気が動くと、リコナの鼻腔を快い香りが擽る。花の香りだ。ポプリか何かか。部屋の主に似た優しさを感じた。 「ラシェア、無理しなくていいよ」 「ううん。平気。というか、特に怪我はしてないの。元気だし。なのにこんな大事みたいにして、心配性よね」 「……ラシェアの事が大切なんだよ」 リコナは、ベッドの縁に座り、身体を起こしたラシェアの様子を窺う。 確かに、ローガンの見立てや彼女の自己申告の通り、目立った傷はないようだ。身体を起こす所作も、微かに気怠げな雰囲気が混じるだけで、筋を傷めているとか、骨を折っているとか、そういった気配はなかった。 「そうそう、リコナかローガンが来たら聞こうと思ってた事があるの」 「?」 「姉さんたちがこんなに私に構ってるってことは、怪我人は居なかったって事で良いんだよね?」 「少なくとも昨日の段階では、ね。今日、正確な被害がハッキリすると思うけど。怪我に関して言えば、たぶん、ラシェアが一番、重症なんじゃないかな」 「よかった」 「うーん、それは、よかった……と言えるのかなあ」 あっけらかんと、被害者が思ったより少なかった事を喜ぶラシェアに、少女は微妙そうな笑みで返す。見た目、怪我はしてない。だけど気は失っていた。その時点で、何事もなかったはずがない。 あの夜、何が起きたのか。リコナは正確に知る必要があった。 ラギアクルスが襲撃し、港の一部が破壊されたというのは、あくまでもアウトラインだ。詳細ではない。そしてそれを聞くのは、ラシェア以外ではあり得なかった。 「……いや」と、リコナの口元が小さく動く。 それはやっぱり、言い訳にしかならない情報だ。 結局、ラギアクルスを討伐するのは間違いない。そして、リコナは、それを可能な限り早く成したかった。引き延ばすほど、村が危険に曝される可能性が高まるからだ。 でもローガンにとっては、今回のラギアクルスの襲撃は未だ様子見の領域みたいだった。そのつもりなら、第一声は、ラシェアの体調ではなくて、討伐についてだったろうからだ。 彼が考えているのは、精々、夜中にもちょっと見回りしよう、程度のものだろう。それが、彼のスタンス。 そうしたらリコナは、討伐を早める理由をローガンに示さないといけない。もしラシェアの体験のなかに、ラギアクルスの危険性や再襲撃の可能性を示唆するものがあれば、それを足がかりにしてローガンを説く事になるだろう。そのために正確な情報が知りたいが、それは、リコナの都合だ。 「? リコナ、どうしたの?」 ラシェアが、数瞬、意識を逸らしたリコナの顔を覗き込んでいた。心配そうな表情だ。心配なのはこっちなのにと、リコナは思った。 ラシェアに問うことは簡単だ。 でもそれを聞いたら、彼女はそれを思い出すことになる。昨晩の、お世辞にも素敵とは言えないであろう恐ろしい体験を反芻することになるのだ。 それは、自分の都合によって引き起こされてよい事だろうか? リコナは、言葉を飲み込んだ。 「ん……明け方まで作業があったからね。ちょっとは寝たんだけど、本調子じゃないのかも」 「お疲れさまだね」 「いえいえ。じゃあ、そろそろ帰ろうかな。カナトくんも待たせてるし」 リコナは立ち上がる。小さな未練のようなものが、身体を重くしたような気がした。 いや、気のせいじゃない。服を引っ張られてるのだ。誰に何て、考えるまでもない。 「なーに、ラシェア?」 振り向いて、リコナはどきりとする。 「……リコナ」 声は、震えていた。 気丈に笑っていたはずの表情は凍っていて、ラシェアは今にも泣きそうな顔で、リコナを呼び止める。 リコナは座り直して、ラシェアの頭を撫でてやった。 ああ、なんて馬鹿だったんだ。人の痛みと言うものがまったく分かってない人間だ。カナト少年には大人のふりをする事はできた。でも、それはあくまで自分の為の行動に理屈を付けてるだけのことだったのだ。 リコナは溜息を押し込めて、ただ、友を労る。 恐ろしい体験を反芻させることになる、というのはリコナから見ての話だった。実際は、彼女はどの道、絶対に反芻することになる。だから怖いことを怖いまま抱えることの方が、辛いに決まってるのだ。 それに触れないで置くというのは、その恐怖の解決に手は貸しませんよと突き放すのと同じこと。 リコナは、それでよかった。恐ろしいモンスターとの邂逅を経た後でも、ハンターだからという思いがあれば、自重を支える事ができた。 でもラシェアはそうじゃない。 ハンターじゃないから。見た目で平気そうだなんて思わないで、きちんと気を配るべきだったんだ。 「ねえ、ラシェア。昨日、何があったか聞いていいかな。その重みを、少しだけでも私に預けてほしいんだ」
* * *
リコナはローガンの家に向かった。帰りは遅れるが、カナト少年には後で一言謝りを入れれば済むと思う。それよりも重要なのが、ローガンと今後の事を話すことだった。 結論を言えば、ラシェアの話は、何の新情報ももたらさなかった。ただの主観的な話である。そして後から現場を見れば分かるくらい、ざっくりとした記憶。 ラシェアは大きな恐怖を感じていた。そしてその恐怖が、辺りの様子や経緯を記憶することを阻害した。 あるいはショックを和らげるために、詳しいことを忘れてしまったか。 まあ考えてみれば分かる事だ。彼女の話によれば、ラギアクルスとは、かなりの至近であったという。そして彼の竜は雷を放ち、巨体をうねらせて、港を破壊して���た。 目の前で暴れる竜、見慣れた港が破壊される光景。これが怖くないというのなら、何を見ても膝を抱えることはないだろう。 だから、仮にローガンが、リコナの見立て通りに、直ぐに討伐しようだなんて少しも思ってなかったら、それを論理的に説得する手段はない。すごく怖がっていたから、というのは、感情論に過ぎないからだ。目の前にいて怖くない竜種なんて存在しない。重要なのは客観的に危険かどうか。けれど。 考えている間に、ローガンの家に到着する。逡巡は、一呼吸だけ。 感情論で結構。 リコナは戸を叩いた。 「リコナか?」 「はい」 「……お前、明日じゃ駄目なのかよ」 「駄目です」 きっぱりと即答する。 対する返事は少し間があった。扉が開く。そこにいたローガンの顔は面倒臭いという表情だったし、リコナの顔を見て、さらにその色は深まった。 「とりあえず入るか」 「ううん。ここでいい」 「そうかい。で?」 「その」 リコナは、ローガンの顔を見る。面倒臭いという色はなりを潜めていた。何を話そうとしているのかの想像はついているのだろう。 「私は、ラギアクルスを討伐することにした。これについては、私が勝手にそうした方が良いと思っただけなので、はっきり言って、あなたの意見は求めてない」 「……おう」 「決して、邪魔はしないで」 「もし邪魔したら?」 「ラギアクルスと戦う前に、双剣を研ぎ直すことになる」 リコナが言うと、ローガンは参ったねと肩をすくめた。 「……本気なんだな」 「ええ」 「分かった。この村を守ってきたのはお前だ、リコナ。そこまでの覚悟で言うなら、俺も協力する」 「……」 「なんだその意外そうな顔は」 「またそんな非論理的な判断でと、咎められるかと」 ローガンは頭を掻いた。 「そう言って、結局今回のことはお前の言うとおりだったからな。だから今回はお前の顔を立てる」 「今回こそローガンの言うとおりかもよ」 リコナが言うと、ローガンは半笑いで応えた。 「じゃあその時は、その次で俺を立てないといけないな。そう言うときに限ってお前が正しいかも知れないが」 「そうだね」 「……いずれにせよだ。俺は女の刃を受けて死ぬ趣味はない」 「よく言うよ」 二度も裸を見たくせに。とは言わないけれど。 「じゃあ、リコナ。話は終わりだ。今日は休め。明日の朝、万全の体調と、装備で会おう」 「うん」 扉が閉じて、リコナは握りしめていた手を解いた。いつの間にか握っていたらしい。最悪、妨害を受けながらの狩りになると思っていたから。 でも、協力は取り付けられた。 リコナは少しだけ足取り軽く、自宅を目指した。 村には、昨晩襲来したラギアクルスの残した爪跡がしっかりと残っている。幸いにも、死者は出なかったようだが、誰の心にも恐怖を植えつけたことは間違いなかった。片づけをする村人に声をかけながら、彼女はそう思う。守らなければ。それがハンターの使命だ。この村の、爪であり、牙である者の責務であった。 翌日、リコナは身支度を整えて、家を出た。 彼女のまとう蒼い鎧は、大空を統べる王者、飛竜リオレウスの素材によるものだ。それも、ただのリオレウスではなく、その亜種となる蒼き竜のものである。 それは彼女の最高の装備であり、最も気合の入る装備だ。 言うまでもなく、彼女は倒すつもりだった。村を襲った、あの海竜……ラギアクルスを。 「……?」 しかし、ローガンの指定した待ち合わせの場所で待っていたのは、彼の従者となるラシェアだった。 「ラシェア、もう出歩いて平気なの? それも、こんな朝早くから」 「怪我をしたわけじゃないし。ずっと寝てる方が体に悪いから」 リコナが駆け寄りつつ言うと、ラシェアはあっけらかんと言ってみせる。その姿に安心してから、そうじゃなくて、と言った。 「ここには待ち合わせで来たんだけど。なんでここに? ローガンは?」 彼女はその問いに、困ったように眉を寄せてから、答える。 「ローガンは、もう出発してる」 「え、なんで!?」 「ええと……」 剣幕に圧されるラシェアの顔を見て、リコナはそこで追及をやめた。それよりも、まず追いつくことが先決だ。 「とにかく、私も急いで向かうから! ラシェアも、気をつけて家に帰ってね!」 要は、先に行っているというだけだ。 腹立たしいが、追いかければ済む話でもある。そう思えば、それをラシェアが呼び止めた。 「リコナ、待って」 「……何?」 「えっと、実はね。ローガンから、リコナを引き止めておけって言われてて」 「どうして?」 と聞きつつも、その理由は想像がつく。 きっと、怠慢で村の港を破壊されたことに対する贖罪のつもりなのだ。しかも相方のハンターが警告していたのに。それを対処不要だと断じてこれなのだから、その落とし前はつけなければならないと思っているらしいわけだ。 「これは、俺の責任だからって、ローガンは」 「そんなの知らないよ」 強く言った。 そんなの知らない。 百歩譲って先行するのは許すとしても、ラシェアを使って足止めにかかるなんて、全く理解不能だ。馬鹿みたい。呟くように毒づいた。 「リコナ……頼みたいことがあるの」 彼女の手には、二つの包みがあった。どちらも厳重に包装されており、中身はよく分からない。大きさは手のひらに載る程度で、一辺五センチもなかった。 「これは?」 「ローガンの薬。これを彼に渡してほしい」 「ふう……ん? 二つも?」 受け取ったそれをポーチに入れる。包みは二つ。よく見ると、一つにはリコナ用、とタグが打ってあった。 「えっと、彼に渡すのは、一つでいい。もう一つは、リコナが持ってて。……本当は、こう��うのは良くないの。でも、胸騒ぎがするから……」 ラシェアの言葉の意味を、リコナはうまく理解できずにいた。少なくとも、今の段階では。 「とにかく、片方をローガンに渡せばいいんだよね?」 「ええ」 「じゃあ、行くから」 走り出し、狩猟区への船渡しを目指す。 一度だけ振り返ると、ラシェアはまだこっちを見ていた。
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表現不自由勢力 = 異論封殺派 2019年8月3日午前11時、私は名古屋市東区の愛知芸術文化センタービル10階の愛知県美術館チケット売り場に並んでいた。 この日の名古屋は最高気温34・8度が示すように朝からぐんぐんと温度計の目盛りが上昇。汗がねっとりと首にまとわりつく典型的な熱暑の一日だった。 広い吹き抜けの空間は冷房があまり効いておらず、汗が滲む中、チケット売り場には、2百人近くが並んでいた。 だが、窓口には職員が2人しかいない。緩慢な切符の売り方に、列は時間が経つごとに長くなっていった。窓口の2人も、やがて片方が消え、1人だけの販売になる。あまりのサービス精神の欠如に、私は近くの職員に「この長蛇の列が目に入りませんか? なぜ売り場が一人だけなんですか。おかしいと思いませんか」と言った。 しかし、職員は「申し訳ありません」というだけで何もしない。私は同じフレーズをこの入口だけで別々の職員に3回も言う羽目になる。 しかも、チケットをやっと買って中に入っても「順路」の案内がない。仕方がないので左側に歩を進めたら「順路はあっちです」と職員に注意されてしまった。順路を示す印も出さないまま「順路はあっちです」と平然と言う職員。これほど観覧者をバカにした芸術祭も珍しい。 芸術祭のテーマは「情の時代」である。パンフレットには 〈「情の時代」とは、いかなるものでしょうか。そこではきっと、私たちの習慣的な知覚を揺さぶる視点、例えば、動物の視点、子供の視点、いま・ここから遠く離れた「誰か」の視点などが盛り込まれることでしょう〉 とある。何が言いたいのかよくわからない文章だが、芸術祭にはままあることだ。 私は、まず10階の展示をひとまわりした。この手の作品は、作家の意図が伝わるものと、そうでないものとが明確に分かれる。いったい何を表わしたいのだろう、という作品もあれば、ストレートに心に飛び込んでくるものもあった。ひと通り10階の観覧を終えた私は、いよいよ「表現の不自由展・その後」の会場がある8階に向かった。 同展示は、日本国内の美術館やイベント等で撤去や公開中止になった作品ばかり20点以上を集めた企画である。すでに公開中止になったものを集めて展示するのだから、「あいちトリエンナーレ」にとって当然、覚悟の催しということになる。私も、「いったいどんなものなのか」と興味が湧いた。 8階には長い列ができている場所があり、すぐに「あそこか」とわかった。近づくと職員が「待ち時間は1時間ほどです」と叫んでいる。 すでに百人以上が並んでおり、人々の関心の高さが窺えた。やがて30分ほどで会場の入口が来た。 「展示品の写真撮影は結構です。ただし、SNS(ソーシャルネットワーク)への使用はお断りしています」 観覧にあたっての注意事項をスタッフが一人一人に伝えている。また、そのことを書いた「撮影写真・動画のSNS投稿禁止」という注意書きが入口手前に掲示されていた。どうやら「表現の不自由展」には、観る側も「不自由」が強制されるものらしい。そういう不自由さについて訴えるはずの展示なのに、「自己矛盾」に気づかないところが主催者のレベルを物語っている気がした。
入口には、白いカーテンがかかっている。めくって中へ入ると、幅2メートルもない狭い通路に、ぎっしり人がいた。左右の壁に作品が展示されており、それを人々が食い入るように見つめている。 手前の右側には、いきなり、昭和天皇を髑髏(どくろ)が見つめている版画があった。最初から“メッセージ性”全開だ。 反対の左側に目を向けると、こっちは昭和天皇の顏がくり抜かれた作品が壁に掛けられている。背景には大きく✕が描かれ、正装した昭和天皇の顏を損壊した銅版画だ。タイトルは「焼かれるべき絵」。作者による天皇への剥き出しの憎悪がひしひしと伝わってくる。 皆、無言で観ている。声を上げる者は1人もいない。 その先には、モニターがあり、前にはこれまた「無言の人だかり」ができている。 やはり昭和天皇がモチーフだ。昭和天皇の肖像がバーナーで焼かれ、燃え上がっていくシーンが映し出される。奇妙な音楽が流れ、なんとも嫌な思いが湧き上がる。次第に焼かれていく昭和天皇の肖像。すべてが焼かれ、やがて燃え残りが足で踏みつけられる。強烈な映像だ。作者の昭和天皇へのヘイト(憎悪)がストレートに伝わる。よほど昭和天皇に恨みがあるのだろう。これをつくって、作者はエクスタシーでも感じているのだろうか。そんな思いで私は映像を見つめた。思い浮かんだのは「グロテスク」という言葉だった。 画面は切り替わり、若い日本の女性が、母親への手紙を読み上げるシーンとなる。「明日、インパールに従軍看護婦として出立します」「私の身に何が起こっても、お国のために頑張ったと誉めてくださいね」 そんな台詞を彼女は口にする。インパール作戦は、昭和19年3月から始まった補給もないまま2千メートル級のアラカン山脈を踏破する過酷な作戦だ。とても看護婦が同行できるようなものではない。 私自身が拙著『太平洋戦争 最後の証言』シリーズ第二部の「陸軍玉砕編」でこの作戦の生き残りに直接取材し、飢餓に陥って数万の戦死・餓死者を出し、退却の道なき道が“白骨街道”と化した凄まじいありさまをノンフィクションで描いている。おそらくこの映像作品は真実の歴史など“二の次”なのだろう。 やがて、海岸の砂浜にドラム缶が置かれた場面となり、そのドラム缶が爆発し、宙に舞う。まったく意味不明だ。私の頭には、「自己満足」という言葉も浮かんできた。これをつくり、展示��てもらうことで作者は溜飲を下げ、きっと自らの「創造性(?)」を満足させたのだろう。 私が取材させてもらった老兵たち、つまり多くの戦友を失った元兵士たちがどんな思いでこれを観るだろうか、ということが頭に浮かんだ。そして一般の日本人は、これを観て何を感じるだろうか、と。当時の若者は未来の日本を信じ、そのために尊い命を捧げた。私たち後世の人間が、二度とあの惨禍をくり返さない意味でも先人の無念を語り継ぐことは大切だ。少なくとも私はそういう思いで10冊を超える戦争ノンフィクションを書いてきた。 しかし、この作者は違う。そのことを肌で感じる作品だった。 少女像が展示されているのは、この作品群の先である。通路を出て広い空間に出たら、そこにはテントのような作品がまん中に置かれ、左奥に少女像があった。 少女像を人が取り囲んでいる。いきなり、「やめてください」「なぜですか!」そんな怒号が響いてきた。観覧者の一人が少女像の隣の椅子に座り、紙袋をかぶっている。どうやら、その紙袋を少女像にもかぶせようとしたらしい。それを阻止されたようだ。少女像のある床には、〈あなたも作品に参加できます。隣に座ってみてください。手で触れてみてください。一緒に写真も撮ってみてください。平和への意思を広めることを願います〉という作者の呼びかけがあり、それを受けて隣の席に座ろうとする人間もそれなりにいるようだ。 「やめてください」と叫んだ人は、どうやら展示の案内人らしい。観覧している人から質問をされたら答え、抗議されたら、それに応えるためにここにいるようだ。ご苦労なことだ。なかには過激な抗議をする人もいるだろう。いちいちこれに対応するのは大変だ。 少女像と一緒に写真を撮りたい人がいれば、この人はシャッターも押してあげていた。この日、美術館で最も大変な“業務”に就いていた人は間違いなくこの人物である。 怒号はすぐに収まり、何事もなかったかのような空間に戻った。日本人はおとなしい。ひどい作品だと思っても、ほとんどが抗議をするでもなく、無言で観ていた。その代わり、ひっきりなしにカメラやスマホのシャッター音が響いている。 少女像自体は、どうということはない。あのソウルの日本大使館前や、世界中のさまざまな場所に建てられている像だ。その横にはミニチュアサイズの少女像も展示されていた。さらにその左側の壁には、元慰安婦の女性たちの写真も掲げられている。説明書きには〈1992年1月8日、日本軍「慰安婦」問題解決のための水曜デモが、日本大使館で始まった。2011年12月14日、1000回を迎えるにあたり、その崇高な精神と歴史を引き継ぐため、ここに平和の碑を建立する〉と書かれている。 英語の解説文には、「Japanese Military Sexual Slavery」(日本軍の性奴隷制)という言葉が書かれていた。「日本軍」の「性奴隷制」の象徴としてこの少女像が存在していることがしっかり記されている。日本の公式見解とは明らかに異なるものであり、これらの説明には二つの点で「虚偽」があった。 まず、慰安婦は「性奴隷」ではない。あの貧困の時代に春を鬻(ひさ)ぐ商売についた女性たちだ。当時の朝鮮の新聞には 〈慰安婦募集 月収三百圓以上 勤務先 後方〇〇部隊慰安所 委細面談〉 などの新聞広告が出ていたように、上等兵の給料およそ十圓の時代にその「30倍以上」の収入を保証されて集まった女性たちである。彼女たちの収入は、当時の軍司令官の給与をはるかに凌駕していた。 恵まれた収入面については、さまざまなエピソードがあるが、ここでは触れない。ともかく慰安所(「P屋」と呼ばれた)には、日本人女性が約4割、朝鮮人女性が約2割、残りは……という具合に、あくまで日本女性たちが中心だった。ちなみに日本女性で慰安婦として名乗り出たり、補償を求めた者は一人もいない。 もちろん喜んで慰安婦になった女性は少ないと思う。貧困の中、さまざまな事情を抱えて、お金のために慰安婦の募集に応じざるを得なかったのだろう。私たち日本人は大いに彼女たちの身の上に同情するし、その幸せ薄かった人生に思いを致し、実際に日本は代々の首相が謝罪し、財団もつくり、その気持ちを談話として伝え、現金支給も行っている。
しかし、朝日新聞や韓国は、これを日本軍や日本の官憲が無理やり「強制連行した女性たち」であるという“虚偽の歴史”を創り上げた。韓国は世界中に慰安婦像なるものを建て、性奴隷を弄んだ国民として日本人の名誉を汚し続けている。私たちは、この虚偽を認めるわけにはいかない。 まして「少女が性奴隷になった」などという、さらなる虚構を韓国が主張するなら、それはもう論外だ。そして、目の前の少女像は、その「虚偽」を世界中に流布させることを目的とするものである。日本人は少女像が虚偽の歴史を広めるものであることを知っており、少女像の存在は間違いなく「両国の分断」をより深くするものと言える。 しかし、韓国がどこまでもこの虚構にこだわるなら、もはや両国に「友好」などという概念など、未来永劫生まれるはずはない。 軍需工場などに勤労動員された「女子挺身隊」を慰安婦と混同した朝日新聞の信じられない大誤報から始まった虚構がここまで韓国の人々を誤らせたことに、私は両国の不幸を感じる。それと共に同じ日本のジャーナリズムの人間として朝日新聞のことを本当に腹立たしく、また悔しく思う。 私は、少女像の前に展示されていた作品にも首を傾げた。「時代の肖像―絶滅危惧種 Idiot JAPONICA 円墳―」と題されたその作品はテントのような「かまくら形」の外壁の天頂部に出征兵士に寄せ書きした日の丸を貼りつけ、まわりには憲法9条を守れという新聞記事や靖国神社参拝の批判記事、あるいは安倍政権非難の言葉などをベタベタと貼りつけ、底部には米国の星条旗を敷いた作品だった。 Idiot とは「愚かな」という意味であり、JAPONICAは「日本趣味」とでも訳すべきなのか。いずれにしても「絶滅危惧種」「円墳」という言葉からも、絶滅危惧種たる「愚かな」日本人、あるいは日本趣味の「お墓」を表わすものなのだろう。日の丸の寄せ書きを頂点に貼った上にこのタイトルなので、少なくとも戦死した先人たちを侮蔑する作品と私には感じられた。 どの作品も「反日」という統一テーマで括られた展示だった。会場の壁には「表現の不自由をめぐる年表」も掲げられていたが、「表現の自由」といえば、チャタレー事件に始まり、四畳半襖の下張事件、日活ロマンポルノ事件をはじめ、ポルノやヘアをめぐって当局との激しい闘いの歴史が日本には存在する。 私は、これらが「なぜ無視されているのか」を考えた。つまり、展示はあくまで政治的な主張が目的なのであって、純粋な「表現の自由」をめぐる訴えなどは考慮にないのではないか、と感じたのである。 あいちトリエンナーレは、日本人の税金が10億円も投入され、公の施設で開かれる「公共のイベント」だ。そんな場所で、わざわざ他国が主張する「虚偽の歴史」のアピールをする意味は何だろうか。 それを許す責任者、つまり大村秀章・愛知県知事は余程の「愚か者」か、あるいはその韓国の主張に確固として「同調する人物」のどちらかなのだろう。 私は、こんな人物が愛知県知事という重責を担っていることに疑問を持つ一人だが、首長を選ぶのは、その地域の人たちの役割なので、私などがとやかく言う話ではない。 私は、試しに韓国や中国へ行って同じことをやってみたらどうだろうか、と想像した。たとえば韓国人の税金が投入された芸術祭で、何代か前の大統領の肖像をバーナーで焼き、その燃え残りを思いっきり踏みつけてみる。そして、その大統領の顔を損壊し、剥落させた銅版画や戦争で死んだ先人を侮蔑する作品を展示してみる。韓国人は果たしてどんな反応を示すだろうか。 また中国へ行って、中国共産党の公金が支出された芸術祭で、同じように毛沢東の肖像をバーナーで燃やしてみる……。どんな事態になるかは容易に想像がつく。作者は、おそらく表現の自由というものは、決して「無制限」なものではなく、一定の「節度」と「常識」というものが必要であることに気づかされるのではないか。イスラム社会で仮にこれをやったら、おそらく命が断たれるだろう。逆に私は「日本はいかに幸せか」をこの展示で感じることができた。 しかし、日本人にとって国民統合の象徴である昭和天皇がここまで貶められるのはどうだろうかと思わざるを得ない。昭和天皇、そして昭和天皇のご家族にとどまらず、自分たち日本人そのものの「心」と「尊厳」が踏みにじられる思いがするのではないだろうか。つまり、これらは、間違いなく日本人全体への憎悪を表現した作品なのである。 もし、これを「芸術だ」と言い張る人には、本物のアーティストたちが怒るのではないか、と私は思った。「あなたは芸術家ではない。偏った思想を持った、ただの活動家だよ」と。 それは昭和天皇を憎悪しない普通の観覧者にとっては、ただ「不快」というほかない作品群だった。少なくとも、多くの日本人の心を踏みにじるこんなものが「アート」であるはずはない。作者が日本人に対するヘイトをぶつけただけの醜悪な展示物だったと私には思えた。 私が会場を去って間もなくの午後5時。同センターで緊急記者会見した大村秀章・愛知県知事は、「テロや脅迫ともとれる抗議があり、安全な運営が危ぶまれる状況だ」と語り、突如、展示中止を発表した。芸術祭事務局に「美術館にガソリン携行缶を持って行く」との脅迫のファクスがあり、安全が保てないことを理由に「中止を決めた」という。開幕からわずか3日。信じがたい展開だった。 それは「あってはならないこと」である。「表現の自由」を標榜して展示をおこなっているなら、どんなことがあっても脅迫や暴力に「負けてはならない」からだ。まして大村氏は愛知県知事だ。愛知県警を大動員してでも、「暴力には決して屈しない」姿勢を毅然と示さなければならない立場である。 一方で私には「ああ、逃げたな」という思いがこみ上げた。あの展示物を見れば、常識のある大人ならこれに税金を投じることの理不尽さを感じ、非難がますます大きくなることはわかる。それを察知した大村知事は、テロの危険性をことさら強調し、自分たちを「被害者の立場」に置いた上で“遁走”したのだろう。 その証拠に4日後、実際にファックスを送った当の脅迫犯が逮捕されても大村知事は展示再開を拒否した。 芸術祭の実行副委員長である名古屋市の河村たかし市長はこの展示を知らず、慌てて観覧した後、「少女像の設置は韓国側の主張を認めたことを意味する。日本の主張とは明らかに違う。やめればすむという問題ではない」と大村知事と激しく対立した。 これに対して大村知事はこう反撃した。「(河村氏の)発言は憲法違反の疑いが極めて濃厚。憲法21条には、”集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する” “検閲は、これをしてはならない”と書いてある。公権力を持っているからこそ、表現の自由は保障しなければならない。公権力を行使される方が“この内容はいい、悪い”と言うのは、憲法21条のいう検閲と取られても仕方がない。そのことは自覚されたほうがいい」 だが、憲法12条には、「表現の自由」などの��法上の権利は濫用されてはならないとして、〈常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ〉と記されている。表現の自由をあたかも「無制限」であるかのように思い込んでいる大村知事の認識の甘さは明白だった。 もうひとつの問題点は、報道のあり方だ。産経新聞やフジテレビを除くマスコミは、少女像のことばかりに終始し、昭和天皇の肖像焼却や顔の損壊などのヘイト作品について一切、報じなかった。ただ「表現の自由が圧殺される日本」という報道に終始したのである。 もし、展示中止が妥当なほど作品がひどいものだったら、そもそも自分たちの論理は成り立たなくなる。そのため少女像だけの問題に矮小化し、いかに日本では「表現の自由」が風前の灯であるかという報じ方に徹したのだ。 真実を報じず、自分の論理展開に都合のいいものだけを記事化するのは、日本のマスコミの特徴だ。 8月4日の朝日新聞の天声人語では、 〈75日間公開されるはずだったのに、わずか3日で閉じられたのは残念でならない▽ある時は官憲による検閲や批判、ある時は抗議や脅し。表現の自由はあっけなく後退してしまう。価値観の違いを実感させ、議論を生みだす芸術作品は、私たちがいま何より大切にすべきものではないか〉 と主張し、8月6日付の記事では、 〈表現の不自由展 政治家中止要請 憲法21条違反か 応酬〉〈永田町からも危惧する声「政府万歳しか出せなくなる」〉 と、展示物の詳細は伝えないまま大村知事を全面支援した。 だが、ネットではいち早く作品群の詳細が伝えられ、芸術監督を務めた津田大介氏と企画アドバザーの東浩紀氏が昭和天皇の肖像を焼却する作品が展示されることを笑いながら話す動画など、さまざまな情報が炙り出されていった。 今回も新聞とテレビだけを観る層とネットを観る層との著しい情報量の乖離が明らかになった。いま日本は情報面において完全に「二分」されているのである。 ネットを駆使する人たちはマスコミが隠す情報さえ容易に手に入れることができ、一方では、偏った主義主張を持つメディアにいいように誘導される人たちがいる。そこには、大きな、そして根本的なギャップが存在している。 今回の出来事は、「芸術である」と主張さえすれば何でも通ってしまうのか、極めて偏った政治主張によるヘイト行為もすべて認められるものなのか、という実にシンプルな問題と言える。同時に、韓国への批判は「ヘイト」、日本を貶めるものは「表現の自由」という実に倒錯したマスコミの論理に国民が「ノー」を突きつけたものでもあった。 一部の反日、反皇室、親韓勢力による公的芸術祭の乗っ取りとも言える行為は、こうして途中で頓挫した。そして、日本のマスコミの「あり得ない姿」も露わになった。 今回の出来事を通じて、私たち日本人は日本の“内なる敵”マスコミと、特異な主張を展開する一部政治勢力への「警戒」と「監視」を疎かにしてはならないことを、あらためて学ばせてもらったのである。
「表現の不自由展」の真実を再び 2019年10月08日 門田隆将
紆余曲折の末、いよいよ「言論の不自由展・その後」が再開された。しかし1日2回に制限し、抽選で1回あたり30人に絞り、しかも鑑賞者は事前にエデュケーション(教育)プログラムなるものを受けなければならず、ガイド付きでの鑑賞になるそうだ。 まるで「鑑賞の不自由展」である。SNSでの拡散も禁止するという。
愛知県内で開かれている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で、企画展の一つ「表現の不自由展・その後」の中止が決まった8月3日夜、芸術監督を務めるジャーナリスト、津田大介氏が会見を開いた。
「想定を超える事態が起こったことを謝罪する。僕の責任であります」と全面的に非を認めた津田氏の会見は当初の30分間の予定を大幅に超過し、1時間以上に及んだ。会見場には、地元名古屋市を拠点とする中日新聞や全国紙、通信社の駐在、テレビ各局、雑誌、フリーランスの記者など、ざっと50人はいただろうか。 津田氏の釈明もさることながら、質問を繰り返す一部の記者の発言内容には違和感を抱かざるを得なかった。
「(不自由展の中止を求めていた)河村たかし名古屋市長や(文化庁の芸術祭への助成に慎重姿勢を示した)菅義偉官房長官の発言は検閲だと思うか」「電凸(企業や団体などに電話をかけて見解を問いただす行為)をやれば、自分たちの気に入らない展示会などの催しを潰せるという成功体験を与えてしまったのではないか」 当然だが、たとえ気に入らない表現や作品でも、暴力による圧力や脅迫行為が許されることはない。とはいえ、彼らの質問は憲法21条が保障する表現の自由への介入を憂うものばかりで、昭和天皇の肖像を燃やす映像や慰安婦をモチーフにした「少女像」(以下、慰安婦像)のいったい何が「芸術」なのか、それを追及しようとする記者はほぼ皆無だった。 要するに、集まった記者の多くが、「表現の不自由展」を中止に追い込んだ抗議電話の殺到、脅迫行為、河村たかし市長をはじめとする政治家の主張だけをことさら問題視したのである。各社が後日報じ、論じた内容が、そういったトーンになったのは、ある意味必然だったのかもしれない。 放火予告のようなファクスを送り付けた脅迫行為は論外だが、一千件以上も寄せられた抗議電話もそれと同列の「テロ行為」であるかのように論じるのは明らかにおかしい。
一般論として、展示会の主催者が外部からの指摘で自主的に催しを中止することはあり得る。むろん、個人が展示内容を自由に論評・批判する権利もある筈だが、 8月6日付 朝日新聞社説《あいち企画展 中止招いた社会の病理》は 「人々が意見をぶつけ合い、社会をより良いものにしていく。その営みを根底で支える『表現の自由』が大きく傷つけられた。…中略…。一連の事態は、社会がまさに『不自由』で息苦しい状態になってきていることを、目に見える形で突き��けた。病理に向き合い、表現の自由を抑圧するような動きには異を唱え続ける。そうすることで同様の事態を繰り返させない力としたい」 旨、主張した。「昭和天皇の肖像を燃やし踏みつける映像や慰安婦像の展示」を批判する意見・抗議の自由を、朝日新聞社は認めない。 言論に対して反論するのでなく法廷闘争で批判封殺をはかる朝日新聞社 らしい主張である。 そもそも、同展で展示された昭和天皇の肖像を燃やす映像やエッチング作品の何が芸術なのか。特定の政治的主張、あるいはプロパガンダに過ぎないのではないか。公金を使って展示することは、公権力がその主張なりプロパガンダに同調することにならないか。 「表現の不自由展」の中止問題を扱ったメディアの多くは、この問いについて論じようとしなかった。特にテレビの多くは昭和天皇の肖像を燃やす映像に触れることすらなかった。国民の多くに強い不快感や屈辱感を抱かせる刺激の強い映像を紹介することが憚られたのか、天皇をめぐる問題としてタブー視したのか。あるいは不自由展を応援したい番組側が、批判が集中するだろう映像を意図的に隠したのか。 活字メディアで中止問題を最も熱心に扱った朝日新聞は、「焦点となっている作品は、慰安婦を表現した少女像や、昭和天皇を含む肖像群が燃える映像作品」(8月6日付第3社会面の特集)などと、たびたび映像について触れてはいる。しかし、芸術作品としての妥当性には踏み込まず、表現の自由の議論に持ち込むだけだ。 こうした議論の建て方は、同芸術祭実行委員会会長の大村秀章愛知県知事や津田氏とも共通する。
10日後、芸術祭アドバイザーの東浩紀氏が辞意を表明した。
〔東氏のツイート〕 7月末からの休暇が終わり、帰国しました。休暇中に、ぼくが「企画アドバイザー」を務めるあいちトリエンナーレ(以下あいトリ)で、大きな問題が起きました。 このアカウントは、7月の参院選直後に、あいトリの問題とはべつの理由で鍵をかけていたものであり、これからもしばらくは鍵は外しません。しかし、このスレッドについては、転記し紹介していただいて結構です。そのときは、一部を切り取らず全体をご紹介ください。 まずは今回のできごとについて、スタッフのひとりとして、愛知県民の皆さま、出展者の皆さま、関係者の皆さまにご迷惑をかけたことを、心よりお詫びいたします。 ぼくの肩書きは「企画アドバイザー」となっていますが、実行委員会から委嘱された業務は、芸術監督のいわば相談役です。業務は監督個人との面談やメールのやりとりがおもで、キュレイター会議には数回しか出席しておらず、作家の選定にも関わっていません。 けれども、問題となった「表現の不自由展・その後」については、慰安婦像のモデルとなった作品が展示されること、天皇制を主題とした作品が展示されることについて、ともに事前に知らされており、問題の発生を予想できる立場にいました。相談役として役割を果たすことができず、責任を痛感しています。 僕は7月末より国外に出ており、騒動の起点になった展示を見ていません。今後も見る機会はなくなってしまいましたが、そのうえで、展示について所感を述べておきます。以下はあくまでも僕個人の、報道や間接情報に基づく意見であり、事務局や監督の考えを代弁するものではないことにご留意ください。 まずは慰安婦像について。いま日韓はたいへんな外交的困難を抱えています。けれども、そのようないまだからこそ、焦点のひとつである慰安婦像に、政治的意味とはべつに芸術的価値もあると提示することには、成功すれば、国際美術展として大きな意義があったと思います。
政治はひとを友と敵に分けるものだといわれます。たしかにそのような側面があります。けれども、人間は政治だけで生きているわけではありません。それを気付かせるのも芸術の役割のひとつです。あいトリがそのような場になる可能性はありました。 ただ、その役割が機能するためには、展示が政治的な扇動にたやすく利用されないように、情報公開や会場設計を含め、もっとていねいな準備と説明が必要だったように思います。その点について、十分な予測ができなかったことを、深く反省しています。 つぎに天皇の肖像を用いた作品について。ぼくは天皇制に反対する立場ではありません。皇室に敬愛の念を抱く多くの人々の感情は、尊重されるべきだと考えます。天皇制と日本文化の分かち難い関係を思えば、ぼく自身がその文化を継承し仕事をしている以上、それを軽々に否定することはできません。 けれども、同時に、「天皇制を批判し否定する人々」の存在を否定し、彼らから表現の場を奪うことも、してはならないと考えます。人々の考えは多様です。できるだけ幅広い多様性を許容できることが、国家の成熟の証です。市民に多様な声の存在に気づいてもらうことは、公共事業の重要な役割です。 しかし、これについても、報道を見るかぎり、その役割を果たすためには、今回の設営はあまりに説明不足であり、皇室を敬愛する多くの人々の感情に対して配慮を欠いていたと感じています。この点についても、役割を果たせなかったことを悔いています。 政治が友と敵を分けるものだとすれば、芸術は友と敵を繋ぐものです。すぐれた作品は、友と敵の対立などどうでもよいものに変えてしまいます。これはどちらがすぐれているということではなく、それが政治と芸術のそれぞれの役割だと考えます。 にもかかわらず、今回の事件においては、芸術こそが友と敵を作り出してしまいました。そしてその対立は、いま、どんどん細かく、深くなっています。それはたいへん心痛む光景であり、また、私たちの社会をますます弱く貧しくするものです。それは、あいトリがもっともしてはならなかったことです。 僕は今回、アドバイザーとして十分な仕事ができませんでした。辞任を検討しましたが、いまは混乱を深めるだけだと考えなおしました。かわりに個人的なけじめとして、今年度の委嘱料辞退の申し出をさせていただきました。今後も微力ながらあいトリの成功に向けて協力させていただければと考えています。 あらためて、このたびは申し訳ありませんでした。力不足を反省しています。そして最後になりましたが、現在拡散されている4月の芸術監督との対談動画において、多くの方々の感情を害する発言を行ってしまったことを、深くお詫びいたします。
緊急シンポ「表現の不自由展・その後」中止事件を考える 8月22日(木)18時15分開場 18時30分開会(予定) 21時終了 定員:470名 参加費:1000円 会場:文京区民センター3階A会議室
第1部:18:30~19:50 出品していた美術家などが語る「何が展示され何が起きたのか」 安世鴻(写真家)/朝倉優子(マネキンフラッシュモブ)/中垣克久(美術家)/岡村幸宣(丸木美術館学芸員)/武内暁(「九条俳句」市民応援団)/他 第2部:20:00~21:00 会場討論「中止事件をどう考えるのか」 金平茂紀(TVジャーナリスト)/鈴木邦男(元一水会)/森達也(作家・監督)香山リカ(精神科医)/滝田誠一郎(日本ペンクラブ)/他 進行:篠田博之(『創』編���長)/綿井健陽(映像ジャーナリスト) 主催:8・22実行委員会〔『創』編集部/日本ビジュアル・ジャーナリスト協会/OurPlanet-TV/アジアプレス・インターナショナル/メディアフォーラム/表現の自由を市民の手に全国ネットワーク/アジア記者クラブ/他〕
「天皇陛下の味方」を標榜しながら「天皇陛下を冒涜する自由」を啓発するパネリスト
2019年9月5日夜10時、NHK「クローズアップ現代+」で「『表現の不自由展・その後』中止の波紋」が放映された。 筆者(門田隆将)は、展示中止から1か月以上経ってからの番組なので、ある1点に注目していた。それは、展示作品を番組が「正確に取り上げるかどうか」だった。 というのも、この問題では、展示作品を正確に伝えた「インターネット」と、都合の悪いものは報じず、一部だけを報じた「新聞とテレビ」とに明確に分かれていたからだ。 インターネットだけがこの1か月、展示された作品群の中身をきちんと伝えたが、筆者自身、展示中止になる当日の8月3日、ぎりぎりで観にいくことができた。そしてその作品群の明確なメッセージ性には驚かされたものである。 それは、ひと言でいうなら「反日ヘイト」と「皇室憎悪」だ。国民の税金を使ってこのような展示を愛知県が行うことについて、正直、筆者は首を傾げざるを得なかった。その作品をNHKは1か月を経てどう報じるのか。そのことに注目したのである。 作品がきちんと報じられなければ、いうまでもなく視聴者は正しい判断ができない。「正確に伝えない」ことは報道機関として許されることではない。 だが、結果は、筆者が危惧したとおりの番組になっていた。番組の主張に都合の悪い作品は、一切、報じられなかったのだ。つまり番組は、本来、問題のない「表現の不自由展」が、理不尽な反対や脅迫によって「中止に追い込まれた」ということを懸命に訴える番組構成となっていた。
番組で紹介されたのは、ごく一部の作品で、あの展示の性格を表わす肝心の作品群のことは伏せられた。なぜ伏せられたのか。理由は簡単だ。それを報じれば、自分たちの主張の方が「間違いである」ことが白日の下に晒されるからだ。 「ああ、この表現の不自由展の実行委員会には、もともと2001年に大問題となった『問われる戦���性暴力』をつくった曰くつきの元NHKプロデューサーが入っている。番組は最初からそっちの線で描くことに決まっていたんだ」 筆者はそう思った。公平な番組ができるかどうかを期待していた自分が逆に恥ずかしくなった。では、まず実際の展示にはどんな作品があったのか、それを先に説明しておこう。 8月3日昼、白いカーテンをくぐって当該の展示コーナーに足を踏み入れた筆者の目に真っ先に飛び込んできたのは、2メートルほどの狭い通路の両側に展示された昭和天皇に関する作品群だった。 右側には、正装した昭和天皇の肖像を髑髏(どくろ)が睨んでいるもの、左側には昭和天皇の顏の部分を剥落(はくらく)させ、背景には大きく赤で✕が描かれた銅版画が掲げられていた。タイトルは「焼かれるべき絵」。作者による天皇への激しい憎悪が剥き出しにされた作品だった。 その先の右側にあったのが、昭和天皇の肖像がバーナーで焼かれていく映像作品だ。奇妙な音楽が流れ、なんとも嫌な思いが湧き上がるような演出の中、次第に焼かれていく昭和天皇の顏。すべてが焼かれ、やがて燃えかすになると、今度はこれが足で踏みつけられる。人間の尊厳というものをズタズタにする強烈な映像作品である。 よほど作者には昭和天皇への恨みがあるのだろう。これをつくって、作者はエクスタシーでも感じているのだろうか。そんな思いで筆者は映像を見つめた。思い浮かんだのは「グロテスク」という言葉である。 少女像が展示されているのは、昭和天皇へのヘイトを全開にしたこの作品群を通り抜け、右側に広がった空間の一角だった。少女像の手前の広い空間の真ん中には、テントのような作品が置かれていた。 題して「時代の肖像―絶滅危惧種 idiot JAPONICA 円墳―」。かまくら形の外壁の天頂部に出征兵士に寄せ書きをした日の丸を貼りつけ、まわりには憲法九条を守れという新聞記事や靖国神社参拝の批判記事、あるいは安倍政権非難の言葉などがベタベタと貼りつけられ、底部にはアメリカの星条旗を敷いた作品だ。 idiot とは「愚かな」という意味であり、JAPONICAは「日本趣味」とでも訳すべきなのか。いずれにしても「絶滅危惧種」「円墳」という言葉からも、絶滅危惧種たる「愚かな」日本人、あるいは日本趣味の「お墓」を表わすものなのだろう。 日の丸の寄せ書きを頂点に貼った上に、このタイトルがつけられているので、少なくとも戦死した先人たちへの侮辱の作品であることはわかった。筆者は戦争ノンフィクションを10冊以上刊行しており、これまで最前線で戦った多くの元兵士を取材している。今ではほとんどが鬼籍に入られたが、その先人たちを貶める目的の作品であると感じた。 そして少女像。これはどうということはない。あのソウルの日本大使館前や、世界中のさまざまな場所に建てられている像だ。英語の解説文には、「Sexual Slavery」(性奴隷制)という言葉があり、「性奴隷」の象徴としてこの少女像が存在していることがしっかり記されていた。 説明書きを読んでみると〈1992年1月8日、日本軍「慰安婦」問題解決のための水曜デモが、日本大使館で始まった。2011年12月14日、1000回を迎えるにあたり、その崇高な精神と歴史を引き継ぐため、ここに平和の碑を建立する〉と書かれている。 慰安婦のありもしない強制連行を否定する日本側の見解とは明らかに異なる主張を持つものだ。少女像の左側の壁には、元慰安婦の女性たちの写真も掲げられている。筆者には、これらが「反日」という政治的メッセージを訴えるための作品群であることがわかった。 しかし、クローズアップ現代には少女像の作者が登場し、「(これは)反日の象徴として語られていますが、筆者たちは平和の象徴と考えています。(戦争の)悲しみと暗い歴史を語る象徴なのです」というインタビューが放映された。慰安婦であることの明確な説明書きと矛盾しているのに、番組では、それを指摘もしない。 つまり良心的な作家が「平和を祈ってつくった作品が脅迫で圧殺された」という番組にしたかったのだろう。そのためには、昭和天皇や戦争で死んでいった若者たちを損壊、侮蔑する作品群だったことは「報じられない」のである。 この番組の悪質性は、自らの主張に「都合のいい作品だけを取り上げた」という点にあり、この展示の中止を求めた河村たかし名古屋市長には、当然“悪者”というイメージが植えつけられた。 日本では、公の電波を使ってこのような一方的な番組が放映されることを防ぐために放送法4条に以下の条文が定められている。 (1)公安及び善良な風俗を害しないこと (2)政治的に公平であること (3)報道は事実をまげないですること (4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること クローズアップ現代は明確に(2)(3)(4)に違反している。放送中から筆者のもとには「こんな番組が許されるのか」「作品の中身がこれだけネットで明らかにされているのにNHKはまだこんな番組をやっている」という訴えが相次いだ。 実は、日本の新聞やテレビがよくやるこのやり方は「ストローマン手法」と呼ばれる。対象となる出来事、あるいは対象者の発言の一部を切り取ったり、主旨をねじ曲げて報じて自己の主張に添うように記事や番組をつくるものだ。ストローマン(straw man)とは、もともとは藁(わら)で作られた人形(藁人形)を指す英語である。つまり案山子(かかし)だ。都合のいいように事実をねじ曲げて報じるのだから、「倒す」のは簡単なことからついたとされる。 ちなみに、これは欧米の言論界で最も軽蔑されるやり方として忌み嫌われている。
実は、産経新聞とフジテレビを除いて、この1か月間、これらの作品群の真実を報じたメディアはほとんど見られなかった。報じたら忽ち「そんな酷い展示だったのか!」と非難が高まり、「表現の自由が圧殺された」という趣旨の記事や番組ができなくなってしまうからである。 クローズアップ現代には日本文学研究者のロバート・キャンベル氏が登場し、こんなコメントをした。「筆者は“エビデンスのない共感”と呼んでいるんですが、自分にとって心地よい考えに出会った時や物の見方をみた時に、それに連動して、リツイートをしたり、コメントしたり、拡散していくということはあるわけですね。その傾向が今、世界中で広がっている中で、今回のケースは、日本の中で極めて特徴的なものとして現われたのかなと思います」 筆者は耳を疑った。このクローズアップ現代こそが、目の前の作品群の真実を封じて少女像だけの問題に矮小化し、“エビデンスのない共感”を大衆に求めたのではなかったのか、と。 筆者は、こういう公平性を欠いたマスコミ報道、特に新聞を取り上げて5月末に『新聞という病』(産経新聞出版)を出版した。3か月余りを経た現在、これが10万部を超すベストセラーになっている。 国民がいかに「事実をねじ曲げる」新聞に怒っているかを痛感した。だが、NHKも同じだ。筆者は「NHKという病」を追及する必要性を痛感している。なぜこんな放送局に税金が投じられ、国民が受信料を払わなければならないのか。国会での徹底追及をお願いしたい。
リベラル勢力の二重基準 愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が中止となった。憲法違反だとか、さまざまな物議を醸したが、そもそも公費を使ってやるようなイベントなのか。その上、昭和天皇の御真影を燃やす映像などはもはや芸術とは呼べない。 作家の竹田恒泰氏は、展示の中止を「憲法違反」や「検閲」と指摘する声に対し、一つ一つ論理的に反論。反日の偏った思想に基づいた作品しか展示されておらず、公平性もないため、実体は「反日展」にすぎないと断じた。 著書が「表現の自由」を逸脱するとして朝日新聞に訴訟を起こされた文藝評論家の小川榮太郎氏は「私の表現の自由は無いのか」と、自身の言論を封殺した勢力の一方的でゆがんだ構図を糾弾する。 産経新聞大阪正論室は実際に展示会場をルポし記者会見も取材。大阪と神戸を舞台にした「御代替わり朝礼」非難報道や幼児図鑑「絶版」騒動とあわせて、平気でダブルスタンダード(二重基準)をふりかざすマスコミの病理をあぶり出す。 「表現の自由」を盾に、昭和天皇の御真影を燃やすなどという非芸術的行為を擁護する勢力は横暴だ。
愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で中止となった企画展「表現の不自由展・その後」について、1週間後の展示再開で、芸術祭実行委と不自由展実行委が合意し、展示中止のポーズを解除した。さらに、開会時の内容を維持し、必要に応じて教育プログラムを実施することや県が来場者に対し、中止になった経緯などを検証した中間報告の内容をあらかじめ伝えることも告げた。 これに伴う批判の殺到を怖れた知事は、ツイッター上で、自身を誹謗中傷するアカウントをブロックする旨、宣言した。
ブロックされれば強制的にフォローが解除され、ツイートを読んだりリツイートしたりできなくなる。早速、「見事にブロックされちゃった」と大村知事のブロックを示す画像が次々と投稿された。「誹謗中傷」の基準を質問するだけでブロックされたと主張するユーザーや、愛知県民であるにも関わらずブロックされたという��もあった。 大村知事は、批判的意見・質問をブロックするにとどまらず、韓国軍の蛮行について論ずる自由は無い旨、言い放った。 企画展「表現の不自由展・その後」は、昭和天皇の写真を焼いたような映像や「慰安婦像」として知られる少女像の展示などが批判を浴び、脅迫ファクスが届いたことを口実に企画展を中止していた。大村知事が津田氏と並んでピースする画像をツイッターに投稿し、その後削除したことも話題になった。 不自由展が提起した問題の一つは、文化庁などの助成基準との整合性だ。 「表現の不自由展・その後」では、政治的論争のある慰安婦像や昭和天皇の写真をバナーで燃やした灰を踏みつける動画など、日本国民の感情を害し心理的な傷を与える展示があった。
2019年10月8日、「表現の不自由展」再開に抗議する為、名古屋市の河村たかし市長は、同展会場前広場で座り込みを行った。河村氏は芸術祭の実行委員会の会長代行だが、再開についての協議はなかったといい、「(再開決定は)無効だ」と批判している。 河村氏はこの日、約30人の支持者らと抗議活動を実施。座り込みで約10分間、「県は公金の不正使用を認めるな」「知事は名古屋市民の声を聞け」などとシュプレヒコールを上げた。
マイクを握った河村氏は、とくに昭和天皇の肖像を燃やすような動画について問題視し、「愛知県や名古屋市が主催しているところで展示すれば、県や市が認めたことになる」と指摘。「表現の自由の名を借り、世論をハイジャックする暴力だ」などと再開に強く抗議した。 会場前の広場には、同展に反対するプラカードを掲げた人たちの姿も見られた。その場に居合わせた名古屋市民は「天皇を公然と侮辱するようなものを芸術と呼べるのか、不自由展ではなく不愉快展、市民として黙っていられない」と憤る。 同日の 大村秀章氏ツイート は、画像の通り
検証委は、中間報告で「誤解を招く展示が混乱と被害をもたらした最大の原因は、無理があり、混乱が生じることを予見しながら展示を強行した芸術監督の行為」と津田氏の責任を指摘した。しかし、津田氏は、責任を感じるどころか、文化庁の補助金交付を求める署名活動を支持し、政治的な対立を煽り続けている。 検証委は、大村氏については、「検閲」を禁じた憲法の制約、リスクを軽減するガバナンスの仕組み欠如等を理由に、責任を不問にしているが、陳腐な言い訳で説得力はない。
朝日新聞社は、公権力が表現活動を抑圧した旨報道し、さらに「ヘイト行為の一般的なとらえ方に照らしても、少女像はそれに当たらない」という検証委の指摘に賛同している。特定法規が定義する「ヘイト」の概念に該当しないことを論拠にしているが、これは、日本人を食い物にする発想方法である。 2015年に、朝日新聞社は、①故吉田清治氏の慰安婦に関する証言の誤報取り消しが遅きに失したこと、②吉田調書報道の取り消し、③池上彰氏の連載掲載見合わせ をおわびする旨、自ら 発表した が、そのことを忘れてしまったのだろうか? この展示がもたらしたハラスメントは、多くの人に国民としての自尊心を過度に傷つけられただけでない。自分たちが納めた税金を利用して行���れたことによって、さらに傷ついている。 しかもこの展示は、芸術監督の自発的な意図として成立した、むしろ積極的で公的なハラスメントともいえるものだ。日本国民の被害感情を軽視する人々が、メディアや文化人界隈に少なからずいることに驚かざるを得ない。 因みに、「展示スペースの大きさや実際の展示費用などを計算しカットした補助金を交付すべき」旨、補助金ルール無理解な三浦瑠麗氏が述べている。
表現の不自由展 きょう午後再開 警備強化 金属探知機も 2019年10月8日 愛知県で開かれている国際芸術祭で、テロ予告や脅迫ともとれる電話などが相次いだため中止された「表現の不自由」をテーマにしたコーナーについて、愛知県の大村知事は、警備を強化したうえで1回当たり30人を上限としたガイドツアー形式で、8日午後から再開すると発表しました。 8月1日から愛知県で開かれている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」では、「表現の不自由」をテーマに、慰安婦問題を象徴する少女像などを展示するコーナーが設けられましたが、テロ予告や脅迫ともとれる電話などが相次ぎ、開幕から3日で中止されました。 愛知県は、中止前の状態と展示の一貫性を保ちつつ、安全対策などを講じて再開することを目指してきましたが、展示の在り方などをめぐって協議が難航してきました。
芸術祭の実行委員会の会長を務める愛知県の大村知事は7日夜、記者会見し、コーナーを8日午後から再開すると発表しました。 具体的には、 ▽抗議の電話の専用回線を設け、会場の警備を強化するといった安全対策を講じ、 ▽事前に抽選をして作品の解説を行う教育プログラムを受けてもらったうえで、 ▽1回当たり30人を上限としたガイドツアー形式で再開するということです。 さらに、 ▽鑑賞の前には手荷物を預かり、金属探知機でのチェックを行うほか、 ▽動画の撮影も禁止するということです。 芸術祭では、中止に抗議して作品の展示を辞退するなどしていた国内外の作家たちの作品も8日からすべて展示されるということで、大村知事は「円満な形で日本最大級の国際芸術祭の完成を目指したい」と述べました。 8月1日から愛知県で開かれている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」では、「表現の不自由」をテーマに、慰安婦問題を象徴する少女像などを展示するコーナーが設けられましたが、テロ予告や脅迫ともとれる電話などが相次ぎ、開幕から3日で中止されました。
愛知県は、中止前の状態と展示の一貫性を保ちつつ、安全対策などを講じて再開することを目指してきましたが、展示の在り方などをめぐって協議が難航してきました。 芸術祭の実行委員会の会長を務める愛知県の大村知事は7日夜、記者会見し、コーナーを8日午後から再開すると発表しました。 具体的には、 ▽抗議の電話の専用回線を設け、会場の警備を強化するといった安全対策を講じ、 ▽事前に抽選をして作品の解説を行う教育プログラムを受けてもらったうえで、 ▽1回当たり30人を上限としたガイドツアー形式で再開するということです。 さらに、 ▽鑑賞の前には手荷物を預かり、金属探知機でのチェックを行うほか、 ▽動画の撮影も禁止するということです。 芸術祭では、中止に抗議して作品の展示を辞退するなどしていた国内外の作家たちの作品も8日からすべて展示されるということで、大村知事は「円満な形で日本最大級の国際芸術祭の完成を目指したい」と述べました。
・「 表現の不自由展 」は安全地帯での覚悟なき玩弄。表現の自由は侵されず。 ・米国でも「表現」で一大騒動。NY市長助成金カットと立ち退き要求。 ・中国、韓国はもちろん、米国でも「表現」によっては日本より遥かに厳しい。
2019年10月14日、 国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」 の 「表現の不自由展・その後」 が、突然の中止、「不自由な」限定再開を経て、会期終了と共に閉幕した。 主流メディアの多くは、最も問題視された、昭和天皇の写真を焼き文字通り踏みにじる映像については触れず、もっぱら慰安婦少女像が不寛容な勢力に攻撃されたかの如き「表現の不自由」を体現したような報道を続けた。
主催者である 大村秀章愛知県知事 と 津田大介芸術監督 の責任について、「企画アドバイザー」だった 東浩紀氏 が、当事者として的確に指摘している。 ���『表現の自由』vs『検閲とテロ』という構図は、津田さんと大村知事が作り出した偽の問題だと考えています。…今回『表現の不自由展』が展示中止に追い込まれた中心的な理由は、…天皇作品に向けられた一般市民の広範な抗議の声にあります。津田さんはここに真摯に向かい合っていません」
今回、表現の自由は、常識的意味において、何ら侵されていない。 せいぜい、税金の補助を受ける対象から排除されただけである。問題となった一連の「作品」群は、破壊も没収もされておらず、民間の場に移せばいくらでも再展示できる。写真や動画のネット拡散により、むしろ当事者の予想以上に多くの人が「表現」の実態に接した。 これが中国で、毛沢東の写真を焼く映像を展示したのだとしたら、関係者は既にすべて獄中、ネット拡散した者も国家安全部に拘束され拷問という展開になっていただろう。 あるいは韓国で、慰安婦の写真を焼いて踏みにじるパフォーマンスをしたなら、やはり関係者は、元慰安婦が共同生活を送る「ナヌムの家」で土下座謝罪の上、何らかの罪状を付けられ服役となったろう。 「テロ脅迫」に責任転嫁を図った大村、津田両氏の行為は、日本という安全地帯における、覚悟を欠いた「表現」の玩弄に過ぎなかった。
政治性と宗教性という点で違いはあるが、 アメリカでも1999年、「センセーション」と題したブルックリン美術館の特別展示が一大騒動を巻き起こした。
問題の作品はイギリスの黒人画家 クリス・オフィリ(Chris Ofili) の 「聖処女マリア」 で、デフォルメされた黒人女性の乳房のコラージュ(貼付)部分と台座に象の糞が使われていた。また画面に多数飛ぶ蝶のような物体が、近づいて見ると、突き出した女性のヒップの写真であった。 経緯は後述するが、同作品は現在 ニューヨーク近代美術館(MoMA) に収蔵されており、「MoMA, Ofili, Mary」で検索すると同美術館の説明入りで 画像 が見られる。 「センセーション」展を開催したブルックリン美術館は、ニューヨーク市の財政補助を受け、市所有の建物に入居している。 当時のルドルフ・ジュリアーニ市長(現在トランプ大統領の私的法律顧問)は、「嫌悪すべき企画に表現の自由は適用されない」と、作品を撤去しなければ助成金を打ち切り、美術館自体の建物からの立ち退きも求めるとの姿勢を打ち出す。 事態は法廷で争われるに至ったが、特別展示終了で作品が建物外に搬出されたこともあり、結局、市側は美術館に対する立ち退き要求を取り下げた。
その後この作品は、460万ドル(約5億円)である富豪が落札し、昨年(2018年)ニューヨーク近代美術館に寄贈された。ところがその際は騒動とならなかった。
最大の理由は、 同美術館はロックフェラー財団など民間資金で運営されており、税金が入っていないこと にある。 日本でも同様、個人美術館や朝日新聞あたりが「表現の不自由展」を引き取り、自らの費用と責任で展示する覚悟を示せばよいのである。 またオフィリの作品には、題名以外に聖母マリアを思わせる要素は乏しく、構図や色彩にアートとしての面白さを感じる人々が少なくない。象の糞も彼が好んで使う画材で特に冒涜の意図はなかったとされる。 もっともアメリカでも、例えばマーティン・ルーサー・キングの写真を焼いて踏みにじる映像を展示したなら、主催者は囂々たる非難と資金引き上げ、訴訟に見舞われるだろう。その点は、日本より遙かに厳しいはずだ。
島田洋一 (福井県立大学教授)
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3: レディ・バードは飛んでいく(1/2)
けたたましいベルが鳴るのが聞こえていました。
恐怖とは、取り除けない死の実感ことだと知ったのはあのときです。そしてその実感が、必ずしも適切な前触れをもってやってくるものだとは限らないことを。
それは初めて、八歳の私にはほとんど、衝撃のような形で与えられた命題でした。なにせ私は、自分自身が標的にされたのだとほとんど直観的に悟ったのですから。
こわい、こわい、たすけて。
おとうさま。
泣きながら開けた扉から、いっぱいの黒煙が入ってきて悲鳴を上げながら閉じた瞬間のことを私は覚えています。黒い扉に、あれほ��願いをかけたことはありません。それはでも、暫時的な砦でした。おそらく廊下に敷かれた簡素なラグをつたって、火の手は着実に床の隙間を舐めていたからです。
たすけて、おとうさま、たすけて、神さま。たすけて、ニコ。
私の知る限り、私の味方をしてくれる人を順番に思い浮かべました。だけど私の嫌な予感はとどまることを知りませんでした。お父様も児子も、現場から遠くにいるのを私は事前に見ていたから。
もうあとは神さまに願うしかありませんでした。そうじゃなければ、男の子たちが好きなフィルムに出てくる、ヒーローか誰か。
あるいは私自身が、あの頃好きだった少女アニメの王子様。
どれだってかまわなかったのです。私はそのとき自分を悲しいほど打ち捨てられたように感じていました。ここには誰もいない。私の傍には誰もいない。
誰でも良かったのです。誰でもいい。
私を、
×××
Hush a bye baby, on the tree top,
When the wind blows the cradle will rock;
When the bow breaks, the cradle will fall,
And down will come baby, cradle and all.
×××
口ずさむ少女が歩むたびに、奇異の目で見ていた通行人たちがふうっと眠りについていく。
ある人は受付に座ったままで、ある人は建物の壁で、ある人はその場で崩折れて。少女の周りにはドーム状の不可視の空間ができていた。それは不気味なようでいて、揺り籠のように安らいで、花園のあたたかさに満ちていた。少女の優しい羽が降り注ぎ、触れた人びとが俗世を忘れて寝息を立てているように。
ばたばたばた、と、ヘリコプターが一台上空を過ぎって離陸する。風が少女の髪を煽る。
誰も止めない。少女は口元で笑う。すべてが一本の激情に収束する。
「耳に入れるな、意味を取ろうとするな、っていうのはそう。それと姿も視界に収めないほうがいい」
息を切らして背中をビルの壁に付けながら、高瀬望夢は早口に言った。
「お前、詩は覚えちゃってるんだっけ?」
「え……いや、」
翔成もぜえぜえと肩で息をしながら夏のなまぬるい外気に汗を振り払う。
「気になって調べたからモチーフを覚えてるくらいです。全文はさすがに……」
「だけど莉梨の声を聞いたら意味がわかるよな?」
「はい。あれ、そういう洗脳なんですか」
莉梨と接触したビルの裏手の道を回り込んで移動している。翔成には莉梨の姿は目視できなかったが、感知系に優れた望夢が気配を測りながら距離を取っているらしい。歌も今のところ聞こえてこない。
翔成が英語を始めたのは小学校の科目からだが、せいぜい中学一年生のリスニング能力で歌の歌詞まで聞き取れるはずがない。本来はそのはずだ。けれど莉梨のライムはすべて、明確な像を結んで頭の中に入り込んでくるのだった。
望夢は苦い顔をした。
「莉梨は……あれは、カリスマっていうの、総体なんだと思う……」
何を言っているのか。話している望夢自身も、まだ見つけたばかりの公式を矯めつ眇めつするような表情だ。
仕切り直すように、小さな咳払い。
「莉梨の言ってた、〈女王のカリスマ〉。あれはキーワードこそマザーグースを使ってるけど、歌だけで構成されてる妖術じゃない。仕草とか、表情も仕掛けの内だ」
まだ分からない。翔成は眉をひそめる。
「俺も莉梨のやり方はよく知らなかったから、ずっと観察して法則を知ろうとしてた。いくつかは莉梨が自分で言ってたぶんもある。……たぶん、全部だ。莉梨自身なんだ。〈女王のカリスマ〉っていうのは。莉梨がそこにいて、俺たちがそれを知覚する限り、莉梨の求めることに逆らうことはできない」
そこでようやく理解が追いついた。つまり莉梨を五感のどこかにでも捕えたら、その時点で言いなりになってしまうってことだ。
息のとまるようなぶっ飛んだ考察だった。
「嘘だろ……」
「嘘ついてどうすんだよ」
当たり前だ。嘘を吐かれているわけではないことは翔成も分かっている。そうじゃなくて、受け入れがたい。
そもそも状況は分からない。だけど、こちらを洗脳してこようとした莉梨の表情には明らかな悪意があって、あれへの対抗手段がないというのはそこそこの絶望なのだった。
「聴いてる俺たちにも歌詞の意味が分かるのは、莉梨が的確に補助誘導してるからだ。歌い方の、抑揚とか、身体の動きとか。相手との相対位置とかを使って……ほんとうに指先一本、いや髪の毛一本に至るまでの組み立てで洗脳してるんだ。だから歌だけじゃない」
「……おまえは、さっきから感知して逃げてるけど、それは大丈夫なのかよ」
感知系は結局自然条件の変化を見ているわけだから五感による知覚だ。
「俺は知覚しても解除できる」
望夢はきっぱりと言った。
「だけど解除できるだけだ。恒久的に全員に対して無効化とか、そういうのは無理だ。俺もともと腕っぷしは護身だけだし」
どうしろと、と翔成は頭を抱えた。抱えている暇もなく、望夢から「来る。こっち」と腕を引っ張られる。ヘリポート出入口の方向に戻りつつある。
「七花(なのか)のほうに行こうとしてると思います?」
「どうなんだろう……」
望夢は少し言い淀んだ。
「目的が分からない」
「春姫さんに連絡は……」
せっつくような思いで、恐らく頼れる味方なのだろう人物の名前を出した。ところが少年は隣で目を閉じて首を振った。
「莉梨がよく分からないのは確かだ。だけど、春姫も結論を急ぎすぎてると思う」
「結論……」
さっき伝えられた神名春姫の言い分を思い出す。莉梨がヒイラギ会と内通している、というやつ。
「春姫あいつ、すぐ感情的になるから。自分の持っていきたい結論のためにぜんぶ牽強付会する奴だから。あいつも何もできなくて焦るのは分かるけど。せめて証拠を掴んでからだ」
「でも……」
「信じたい? 瑠真をからかってるのが莉梨だって。お前の家族を焚きつけたのが莉梨って」
少年は通路のほうに意識を集中しているようだった。両目を閉じたまま。
「俺はまだ莉梨を信用したい」
不思議な静けさをもつ声だった。
少しのあいだ言葉を咀嚼して、翔成は憮然とした。さっきまで、莉梨の尻尾が掴めないとか警戒するべきだとか言ってたくせに。望夢自身が疑っているのかと思えば、おそらくまだ迷っているのだ。これで両方に気を配っている。人間性が迂遠すぎる。いちいち言葉が足りない。
「あなたは莉梨さんの何を知ってるんです」
つい詰問に近い口調になる。
「もともと知り合いなんでしょう。おれたちに分からなくてあなたが知ってることがあるはずです」
望夢が両目をゆっくりとしばたいてこっちを見た。迷いの色が硝子みたいな瞳にひらめく。
「なんていうか」
言葉をぶつ切る。そこまであれだけ真っすぐな調子で喋っていたのにためらったらしい。
「一回会ったことがあって、そのとき、俺は……」
ぴたりとその説明が途切れた。
×××
ぱたぱたぱたと通りを横切るような足音が響いた。観測範囲で莉梨の周囲の人間はみんな眠っていたはずだ。望夢は身を乗り出そうとする後輩の額を雑に押し返して通りを覗いた。
「倉持寿々だ」
「寿々さん……? そういえば」
莉梨が最初に出てきたビルから姿を見せていないと認識していた。足並みを揃えているのなら今耳目を惹く理由はないし、対立しているのなら眠らされない理由がないはずだ。
継続的に思念負荷を与えてくる莉梨の容姿を極力視界の真ん中にしないようにしながら、様子を窺う。表通路に走り出てきた浴衣に黒髪の倉持寿々は姦しい声できゃんきゃんと莉梨に言い募っていた。
聞き取るためにやや意識を集中する。ぐわんと耳が鳴って思念負荷が高くなるのを逆算操作でねじ伏せる。
何をしてるの、何だって言うの。それは当惑の声だ。勝手に動かないで、私たちは……勝手? 力関係が読み取れるような気がする。望夢は目を凝らした。これ自体パフォーマンスだったらどうしようもないけど……
莉梨は無表情だった。その唇が素早く動く。
うるさい。
「うわ」
がつん、と脳天を打たれたような痛みが知覚域に加わって体勢を崩した。後輩が慌てて袖を引く気配を感じる。壁際に引っ込んで息を整えながら妖術効果を解除した。こっちを標的にしていたわけじゃないのに引きずられていた。
後輩が囁きかけてくる。
「莉梨さん、どういうことですか、ヒイラギ会と……」
「いや」
きちんと見ることはできなかったが、直接攻撃された寿々は望夢に加えられたものの数倍もの衝撃で倒れ込んでいた。仲間割れ? それとも最初から敵? いくつかの選択肢を思い浮かべ順次棄却していく。考え、意識を外に集中しながらの返事になったので、翔成に対する説明はきっと上の空だった。
「あいつ、たぶん、どこでもない……」
言い終える前、ふいに一陣の風が南の空を吹き払った。
空気にわっと爛漫の花が咲いた。「あっ」その真ん中を小天狗のように華麗に鮮やかな着物姿が跳ね飛ぶ。
「春姫さんっ……」
「来た」
また状況を見ようとする無謀な後輩を引き留めて短く言った。春姫も介入することに決めたらしい。
暮れ空を舞うように花弁を蹴立て、神名春姫の猛攻が迫った。莉梨が暗闇にも明るい翠緑の瞳をきっと上げた。口元が歌の形を作って素早い詠唱をする。〈神よ月を守り(God bless the moon)私を守り給え(and God bless me)〉。
春姫の放った風に乗って、敵意を示す青い桔梗が莉梨の前の空中で幾粒もの光に弾けた。加護の呪文に阻まれたのだ。春姫は気を払うことなくくるりと身を返すと菖蒲(あやめ)の白花を手元に産み出す。同じように消し飛ばされかけるが、忍耐を司る花はゆっくりと根を伸ばして莉梨の足元から吹きこぼれた。
もう一つの象徴は反抗。ぱんっと壊れた花の粒が刺すように渦巻いて莉梨を下がらせる。追い討つように竜胆(りんどう)の花が咲く。春姫の一閃に勝利を加える花。
莉梨の瞳がぎんっと意志を帯びた。
〈魔女を祓えよ(Rowan trees and red thread)〉
「にゃっ」
春姫がわかりやすく音を上げた。
展開していた彼女流の花園が吹き散らされたように掻き消えた。続いて莉梨が容赦なく春姫を視界に据え、カリスマ術式の呪文(The queen of hearts)を唱える。
両目をバッテンにするような勢いで春姫が戦闘区域を転がり出てきた。迷いなく望夢と翔成がいる陰に逃げ込んでくる。思わず反射的に「来るなよ」と言う。隠れてるんだよこっち。
「見つかるなら逃げれば良いじゃろて。ひいっ、あれは無理じゃ無理」
おそらく十字架越しに位置を把握していたのだろう。春姫は完全に同舟(どうしゅう)面(づら)だった。後輩と片手ずつで手を掴まれ引っ張られて駆け出す。
「はっ、春姫さんでもダメなんですかっ」
「相性が悪いものは如何ともならぬ! 初手で押し切れれば成算があったのじゃがな!」
疾風のごとき遁走は物陰を求めて近くの施設内に及んだ。従業員たちとすれ違うたび春姫が片手間に眠らせる。便利屋としては限りなく心強い助っ人だが、彼女だって協会式の超常想像図で戦っていることには変わりない。いや正確には、彼女の方式が汎用化されたのが協会式。ホムラグループには何にせよ太刀打ちできない。
望夢はガレージの下を走りながら春姫に問いかけた。
「倉持寿々をけしかけたのはお前か」
「肯(そう)じゃ」
金色の瞳がちらりと振り向いた。
「フライトリリーフ社の一階に倒れておった。妾は寿々を起こして莉梨を見つけさせ、自分は隠れて見守っておった。あやつ素直じゃな、莉梨にしてやられたと気づいて大目くじらの直行じゃ。誰ぞを思い出す」
素直で直情的。誰のことを思い出しているのか分からなくもなかったが本題を逸れるので望夢は言及しない。
「じゃあやっぱり、莉梨は最初に寿々を無力化してたんだ」
「捨て駒扱いじゃな? 寿々を迎えるために一時的には無差別支配を解いたように見えたが」
「春姫、その後のあいつらのやり取り見たか。聞いて、俺――」
推測を口に出そうとした。けれど先を行く春姫がばたりと足をとめたので一瞬追い抜かした後引っ張り戻されて立ち止まった。
施設内の監視カメラ統制室の扉が開いていた。紺色の制帽を被った中年男が、驚いてはいるのだろうが厳格な職務の顔でこちらに歩いてくる。
「逃げ込み先が際どかったか」
これは妾も叱られるな。適当に嘯きながら春姫はやはりあっさりと眠りの術をかける。白雛罌粟(ひなげし)の一輪を投げかけられた職員はふわっとその場に座り込む。
ようやっと望夢も周囲を確認して、それが消防局施設であることに気が付いた。ヘリポートには航空隊の訓練所が付属していたはずだ。
「だ、大丈夫なんですか」
「妾らが通り過ぎれば忘れて目覚めるわ。職務に励んで頂こう」
人気のない角に三人で身を寄せた。言葉通りこちらを見咎めていたはずの職員が何事もなかったかのように動き出す。
それを確かめて望夢は咳払いをした。
「春姫、聞いて。翔成も。俺は莉梨のこと、敵側じゃないと思う」
「敵じゃないも何もすでに無差別兵器じゃが。ふむ、あれをどうにかできると言うなら言い分は聞く」
春姫が試すような視線を向けて腕組みをする。言下に交渉途絶されなかったことにまずほっとした。彼女も彼女なりに状況を見ていて、これが組織的行動の一部とするとおかしいことに徐々に気づいていたのだろう。
望夢は息を整えて情報を組み上げる。
「莉梨は利用されてる。何をどう、っていうのは全部推測にしかならなくて言っても無駄だけど。あいつ、元から味方がいないと思う――」
×××
味方なんか最初からいなかった。それが私の世界認識です。
お父様とお母様は私をとても大切にしてくれました。欲しいものはなんでも買い与えて、抱き上げては頬ずりしてくれました。
でもそれは私が正しい成果を残すからです。
物心ついたときすでに、私はおぼろに気づいていました。私がウェールズの森の中で先進的な教育を受けていること。そして私に比べると無関心に置かれていたきょうだいたちの中では、私がいちばん出来が良かったのだということに。
お母さまが課したテストで良い点を取ると、お母さまは抱きしめて喜んでくれました。
お父さまが教えた武芸ができると、お父さまは頭を撫でて凄い子だと言ってくれました。
弟がふたり、兄がひとりいましたが、あの頃の彼らのことはもうあまり覚えていないようです。数年後に帰郷して再会したとき、はて私にはきょうだいなどいたのだろうか、と私は驚いてしまいました。それほど、印象がなかった。
私に人間としての情はあまり期待されていなかったのですから。
まだ見ぬ解釈を容れるための女王の器としてつくられた私は、器として愛されていました。
器が割れたり、傷ついたり、壊れたりしたら……そのときには愛の終わりなのだと、うすうす気づいていたのでしょう。
私は、強くなりました。
×××
四つで私は異国に越しました。新しい「お父さま」もまた、生まれの父とは違う意味で優しい父だったと思います。
お父さまは、私に難しいことをなにも期待しませんでした。小さな子はありのままで良いのだと言ってくれました。
児子操也という仲良しができました。児子は私にとって、遠い海の向こうの父親の代わりであり、兄であり、ときに母や弟であり、友です。
この日々で最も度し難かったのは、私が何かを為すことを人が求めていないことでした。私が難しい問題を解いたり、うまく舞踏をこなすと周りは眉をひそめていたようです。
子供らしくない。可愛くない。普通に育ててあげないとかわいそうだ。
子供らしいとか普通とかって何でしょう?
とにかく私は褒められたかったのです。
がむしゃらに勉強しました。みんなが使っている妖術というもの。それが共通の評価指標になるはずです。七歳か八歳か。私はもともと頭が良くなるよう育てられていたのですから、人より早く一通りの術を扱えるようになりました。
この国では、成果の達成が悪とされるのでしょうか。
私にはさらに味方が減りました。
そして、八歳の夏、私は正式なお世継ぎに認められます。
×××
「作戦コードとか付けようか」
高瀬望夢は首を傾げてとぼけた物言いをした。
「莉梨のほうはマザーグースだし、こっちも英語唱歌で通じないかな。〈Lady bird, lady bird, fly away home〉……」
知らないです、と翔成は苦情を申し立てる。ああそう、と望夢は笑う。
「魔には帰ってもらう。『てんとう虫(レディ・バード)』だ」
×××
施設外に出て緊張気味に電話をかけ、状況を説明すると、先輩の少女は開口一番に『私に来るなって言いたいんでしょ?』と言った。
「えー、あの、あなたが頼れないと言うのではなく」
『うん』
「引っ掻きまわして邪魔だと言いたいわけでもなく」
『うん』
翔成は電話口で硬くなりながら、ごにょごにょと言い訳を重ねる。すっかり暗くなった道路沿いに海風が吹き込んでくる。街灯がぽつぽつと滲む。
少女は淡々と相槌で先を��していた。
『それで?』
「だから、こちらとしては相性の問題です。あなたが直接莉梨さんにかかっていっても絶対に勝てない」
『…………』
なぜそんな分かり切ったことを何べんも繰り返すのか、と平たく言えばそういう不満が少女の無言から目に見えるほど伝わってきた。翔成だって言いたくてこの言い方をしているわけではない。ドヤ顔で台本を伝えてきたのは後ろで様子見している高瀬望夢だ。責めるならあっちを責めてほしい。
気を取り直して台詞に集中する。ここからが本題だ。
「それで、逆転方法を思いついたんです」
『……ほう』
少女の相槌に少しだけ色が乗った。
だけどそれはまだ量るような声だ。翔成の意図を探り、己の感情の持っていき場所を検討している声。迂遠な電話への苛立ちも多少はあると思う。
それでこそお願いだ、と翔成は思う。
「事情があって、頼れる人員は多くありません。莉梨さんを敵視しうる勢力は信用できないから全部ダメ。ホムラグループは莉梨さんの帰国時点で分裂が疑われている。迂闊に連絡もできない」
『だから、何?』
「おれたちだけでやります」
翔成の声が震えた。だけど言い切れたと思う。
後ろで秘匿派警察の少年と協会の長の少女がじっと見ていた。翔成は己を鼓舞するために拳を握る。
「それで、作戦にはあなたの力も必要です」
暮れの日の名残りを軽やかに跳ね飛んで、少女の姿が宙を舞った。
ぽかんと見上げる翔成の眼前にざっと足を鳴らして、膝を曲げて音を殺す。二つ結びが肩の上でふわりと動いた。背筋を伸ばしたその姿の向こうで残光が見え隠れした。
莉梨のせいで警備員がいないのをいいことに、表からフェンスをショートカットしてきたのだった。近くで待機していたのは薄々察していたが、呼ぶにしても五秒で来いとはこちらは要求していない。
頼れるの頼れないのってさっきまで言ってたくせに、やっぱり地平線の最後の光にその姿は強く見えて。
「呼んだ?」
挑戦するような問いかけに、まだぼうっとしている翔成に代わって、後ろの少年がにやりと笑う。
「呼んだ」
格好つけても仕方がないが、これで役者は全員集合だ。ほうっと安心に近い感情で翔成の頬が緩んだ。
少女はふんと鼻を鳴らして腕を組んだ。何やら常の豪気よりは突き放した無表情でそっぽを向いている。
「まあ、お邪魔虫なら任せてよ。今回は悪者上等だから」
「……はぁ」
きょとんとして望夢に目をやると、分かっているのか分かっていないのか、少年はこちらを見返して肩をすくめた。たぶんわかってないと思う。春姫が袖口を口元にやって何か言いたげな目をした。女子なりのなんらかの共通認識があるらしかった。
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そして
雲が通り過ぎるような感覚だった。
「胸が痛い」という表現は長い間比喩だと思っていたが、ああ、もしかしたらこんな感覚なのかもしれないと思った。だとしたら、なんと直接的な表現なのだろう。確かにこれは、痛い。内側に広がるような、靄がかった痛みだ。薄い雨雲が、心臓の上を通り過ぎる気配。垣間見た己の心象の汚らしさに、思わず目を背けて蓋をした。
なんとなく、この靄のような感情を背負って生きていかなきゃいけない予感がした。
1
横浜にも梅雨がやってきたらしい。太宰は無意識のうちに首回りの通気性を確保しようと、シャツの襟元を引っ張って糊の復活を試みていた。蓬髪が湿気を含んで鬱陶しい。包帯で巻かれているところも蒸し暑く感じられて、しかしジャケットを脱ぐと肌寒いものだからうんざりするのも仕方ない。太宰はうんざりして隣にいた中原に腹を立てた。完全な八つ当たりだが、彼らの間にあるべき礼節は出会って二日で消滅したのだから、理不尽も今更といったところ��。 きっちり小洒落た服を着こなし、帽子まで被った中原の不快指数も相当なものだったのだろう。そうでなくともこの所は任務が立て込んでいて、忙しいのと相棒とべったり行動しなければならないのとで、二人を取り巻くストレス係数は凄まじいものだった。もはや、相手の咳払いにも腹が立つ。中年離婚の危機ってこんな感じだろうか。窓の外は灰色だった。 ふと脳内に予定帳を広げてみればやらねくてはいけないことがびっしり思い起こされる。太宰は思わず目をつぶって、 「6月から脱出出来る気がしない。」 げんなり溜息をついた。 「珍しいな、7月まで生きているつもりとはな。」 中原が答える。 「今死んでも良いのだけれど。」 太宰が投げやりに答えて、車のボードに部下が持ってきたばかりの書類を投げ出した。 ちらりとその表情を盗み見すれば驚くほど覇気がなくて、中原は見張りをつける算段をやめた。 太宰という男は修理不能なまでに壊れていて、自殺の前には目を輝かせているのが常だ。未来への希望を語るような無邪気な目で首に縄を結ぶのを見た時は、百戦錬磨のマフィアたる中原でさえ背筋に冷たいものを感じた。死への希望、というのは馬鹿みたいな聞こえだが、太宰を言い表すには丁度良いフレーズだ。能面みたいな顔で車のダッシュボードを見つめている太宰治は、端的に言うと絶不調。つまり自殺は起こらない。 「てめェはなんでそんなに疲れてンだ。」 自殺する元気もないくらいに。 助手席の太宰は窓の外を眺めたまま、中原の方を見もせずに、 「君だって相当気が立ってるでしょう、中也。そのダサい帽子脱いだらいくらか湿気から解放されるんじゃないの。」 中原の胸に微かな違和感が生まれた。 「そんな鬱陶しい包帯してる奴に言われたくねえよ。」 「はあ…こんなスケジュール、流石の私でも疲れるんだよ。通常任務ならいざ知らず、特殊任務はなんてったって君が付いてくるんだもん。最悪。」 カチンと来た。胸ぐらを掴んでやりたい衝動に駆られるが、すんでのところで踏みとどまる。違和感が肥大していた。何かがおかしい。太宰が不機嫌そうに、こんな安い挑発を吐くことが珍しかった。人をいかに嫌がらせるか、そんなことばかりニコニコ考えているような奴が、返り討ちに逢う隙をこれでもかと提げて嫌味を言うなんておかしい。簡単に言って仕舞えば、悪口のクオリティが低すぎる。 「寝てねぇんだろ。」 何を言い出すのやらと太宰が苦笑する。苦笑と言うより、鼻であしらったとでも言う方が正しいか。中原はハンドルに凭れかけた姿勢のまま太宰を見やった。元々あちこちに怪我を作っては手当てでどこかしらを覆っている人間だったが、目の下にうっすら隈を作っているのは初めて見た。肉体派の中原ほどではないが彼も体力はある方だし、そもそも他人に弱みを見せるなんてことはありえないのである。梅雨時の低気圧に不機嫌になっている姿など、通常の太宰ならいとも簡単に隠し通してしまうはずだった。 「何を企んでやがる。」 日中ともに過ごす彼が、柄にもなく睡眠を削って何かをしている。裏工作が必要な案件など思い当たらない。違和感が不信感に進化する。 「別に、何も。」 「はっ、嘗められたもんだな。」 中原の左腕が蛇のように太宰の首を襲う。遅れてやって来た右腕も合流して、襟ぐりを掴む。無理矢理にこちらを向かせた。 証拠はない、しかし確信できる。 この男が、ただでさえハードなスケジュールの中休息を犠牲にするほど手間のかかる何かをこそこそとやっているということに。雨に濡れたままの 太宰と中原は同じ組織に属しているが、個人レベルではむしろ敵同士だ。組織などというものは大抵中にいる者同士の方が現実的な他者であり、つまり中原にとって太宰は最も警戒すべき対象だった。互いの腕は信用していても、人格と友情の話になれば全く別の次元にコンバートされる。 太宰は襟元を掴まれたまま冷たい目で中原を見返す。急所から本の数ミリに緊張した他者の手があってもどこ吹く風。鬱陶しそうに目を細めるが、悔しいかな、太宰には絶対の余裕があった。追い詰めているはずの中原の手が震えそうになる。それを叱咤して、底の見えないダークブラウンの瞳を正面から睨みつけた。 「本当に、何なの君。」 「答えろ。」 「質問の意味がわからない。仮令私が君と別れた後で君の言う『何か』をしていたとしても、何も関係ないよねえ?」 中原は無言のまま手を緩めない。 「それとも、」 太宰が挑発するように唇を舐める。 「独占欲?うわぁ気持ち悪いね。」 掴んでいた首元を、思い切り助手席のドアに押しつける、つもりだった。 手に力が入らない。 太宰の右手が中原の左手首を掴み、握り込んでいた。 「ーーーっ、」 大した力も込められていないはずなのに、数秒で痺れがやって来た。掴まれている痛みはない。それが何よりの危険の証拠だ。 中原は咄嗟に太宰のYシャツを解放し力一杯腕を引き抜く。太宰は執着する様子も見せずに中原の手首を離した。掴まれていたところに力が入らず冷たい汗が背を伝った。 「何の心配してるのか知らないけど、」 太宰はシャツを直しながら、 「君を殺すのに必要な策略なんて寝ながらでも作れるんだから、安心しなよ。」 怒りに震える中原を残して、太宰が車から降りる。助手席のドアを開けた瞬間雨の香りが部割と飛び込んできた。さりげなく残りの任務を全て押し付けて行こうとしているのに気付き、中原は慌てて車を降りようとする。銀色の取っ手を引こうとすれば、かけた覚えのないロックが阻んで、手前に引くことすら叶わない。 「くそっ」 いつの間にか太宰の座っていた席に車のキーが落ちていた。先程の一悶着の間に彼が車のロックをかけたに違いない。 脱走の鮮やかな事。あんまり自然な流れで、中原が鍵を開けてドアを開け直した頃には捕獲は絶望的だった。 どさりと革の座席に身を戻す。ふとダッシュボードに目をやれば、太宰が無造作に置いて行った書類には書き込みがしてある。拾い集めて目を通す。彼愛用のブルーブラックのインクで住所と、「20人くらい」という雑なメモが書いてあった。 「くそっ」 中原はハンドルに拳をぶつける。いつでも逃げられるように、そしてその際はひとりで仕事を片付けておけと、そういう心算で次の取引現場を推理して残していったらしい。 イグニッションに、助手席から取り上げたキーをねじ込む。 本当に癪な話だが、魔法のように敵対組織の取引現場を言い当てる太宰の頭脳は中原の持たぬものだ。何もかも彼の思い通り、結局手柄が欲しい中原はそのメモに従うしかなかった。 「ぜってえ殺す」 中原はもう何度目かになる誓いを胸のうちに立てて、港を背にして車を走らせた。
2
最近太宰が姿を見せない。 そう気付いたのは既に四日前のことで、だから、彼とは随分会っていないことになる。 織田は物足りない気持ちでカウンターに肘をついて坂口と並んでいた。出張から帰ってきた彼も同じ気持ちのようで、二人してちらちらとドアに目をやっている。しかし、不在の彼の話題を出すことはなんとなく今いる相手に申し訳なくて、結局その日は2時間ほど近況報告と猫の飼い方について意見を少し交わしただけで坂口が先に席を立った。 帰り際に、やっぱり気になったのか太宰の安否を問われたが、同じに横浜にいても立場に雲泥の差がある。無言で首を振ると、坂口も期待していなかったらしく、まあ太宰君のことだからそのうちふらりと此処に来るでしょう、と言って微笑した。織田はそれに首肯する。先日の抗争以来、マフィアは上も下もバタバタしている。もちろん最高幹部である太宰もその影響を受けているのは間違いないが、彼のことだ。うまく仕事をあしらってやあ織田作、なんて今にもそこのドアから入ってきそうなのに。 坂口も少しは期待していたのだろう。なんとなく立ち去りがたそうにしていたが、明日は早いからといって会計を済ませて帰って行った。 一人残された織田は、グラスについた体温の指紋がゆっくり消えていくのを見る以外にすることがなくなってしまう。 思えば、最後に会った時、何か違和感を感じたような気がする。どこか、寂しさのような、諦めのような、普段なら彼が隠してしまっているであろう何かを、片っぽしか見えない瞳に見かけた記憶がある。その時は程よく酒に酔っていて、あれ、と思った時には普段の屈託ない笑顔が戻っていたから忘れてしまっていたのだが、ちっとも酔えやしない夜に一人にされた途端気になってきた。カウンターに落ちた水滴が、すぐ近くのそれとくっついて一つになるのを見ていたら、どうしても太宰に会いたくなった。会いたいというよりは、不安でしょうがないという方が正しい。織田は携帯に手をかけて、その後どうしようかと動きを止めた。 会いたいと思ったのに、その後どうすればよいか分からない。 電話をかけても最近は繋がらないし、本部に行っても簡単に会える相手ではない。まともに呼び出すなら申請が受理されたとして一ヶ月は待たねばならない。太宰の家はもちろん、この店の他にどこに飲みに行っているのかも知らない。 自分は、太宰のことを何にも知らなかった。 自分から彼に手を伸ばすことをしないできた。 いつもそこにいることに甘んじて、「たまたま居合わせた」という偶然に胡座をかいていた。 織田はバーの奥に置いてある太宰のボトルを見た。前回会った時から減っていない。いつもそうだった。彼気に入りのボトルはいつ見ても織田たちが集まった日のまま。彼が、ひとりではこの酒場に来ないらしいという仮定が頭の中で確信に変わっていく。 このささやかな集会は、本当に偶々のものだったろうか? 太宰は織田が現れる時には必ずと言っていいほどそこにいた。偶然なんて、自分や坂口がこの関係に疑問を持たないために彼が作り出した幻想なのではないだろうか。 グラスの中で氷が溶けて小さくなる。上に積まれて方がカランと音を立てて落ちた。疑念が確信に変わる。太宰は、自分たちに会いたくて、しかしわざわざ偶然を装って時々の酒盛りを楽しんでいた。互いに手を伸ばさない、乾いた友情など幻想でしかなかったのではないか?彼は手を伸ばしていた。もう、ずっと。 酒場の、しっとりした喧騒がどこか遠く感じられる。 自分からは与えるばかりで、いざこちらから手を伸ばそうとすれば掴む欠片も残してくれないのは、太宰の寂しい性格故か。 ���いようのない寂寥と、不安と、それから純粋に、会いたいという気持ちで、水に濡れたコースターをじぃっと見つめた。 気づいたことは、存在の大きさだ。
俺は、俺は、
なあ太宰、俺は、どうしたら良い?
3
全く、変なところで勘が良いのも考えものだ。 中原が突然閃いたように尋問を始めたのにはいささか驚いた。 人を冷静に観察し分析する観察眼なんて持たないはずの中原が、一体何をきっかけに太宰の夜遊びを確信するに至ったのか。太宰は考え出してすぐに諦めた。どうせ、動物的直感に違い無い。あれは、動物だ。そういうことにしておかなきゃ、気味が悪い。 雨が上がっても尚じっとり重い空気には気が滅入った。吸い込んだ街の香りにもたっぷり水が含まれていて、ちらほらつきだした街灯が水溜りを光で彩る。 太宰は付き人もなしにひとり横浜の埠頭を歩いていた。夜の散歩と洒落込むように、立ち並ぶ倉庫の間を堂々と歩く。目星をつけた倉庫に着くと、扉には目もくれずに海に面していない方ーーライトのついていない壁面に身を預ける。太宰が歩くのをやめると、辺りは不自然なまでの静寂に包まれた。近くの倉庫のライトがじりりと音を立てるだけ。わずかな水音が心地よくて、疲れた身体は緊張させたままに瞼を落とした。 太宰が、このまま時間が止まって仕舞えば良いのにと思うのはこんな時だった。 普通の人間なら、友人と楽しい酒を酌み交わしている時や、想い人と手を繋いで歩く瞬間、と答えるだろうに、こんなだから私はいけないのだと太宰は苦笑する。 そう答えられる人間だったらどんなに幸せだったろう。 友人と過ごしていたって、相手の持つ自分の預かり知らぬ時間の長さに思い当たっては不安に襲われる。好意を寄せる相手と指を絡める機会があったとして、太宰なら相手のわずかな顔色の変化や歩く速度に気をとられてとても楽しめない。だけど、見つめているだけで気を済ませられるほど謙虚にもできていない。死にたい気持ちになるとわかっていて、それでもすっぱり全部捨てることはできないのだ。あわよくば、好かれたい。打算が働いて、太宰は道化を演じる。面白い話をして、少し過激な言動を取って、それで調節するように甘えてみせる。太宰には友人と呼べる存在が少なかった。自分に近いレベルで頭脳を働かせる(と言っても動かし方が根本的にずれているので話していると気分が悪くなるのだが)森は上司だ。年の近い中原は互いに反目し合う相棒で、彼の思考は時々を除いて大抵見透せてしまう。あれはただの同僚だ。つまるところ、18年も生きてきて、寂しいかな、真に友人と呼べるのはあの織田と坂口の二人しかいないことになる。 (私には君たちしかいないのに、君たちときたら…) 大切なものをたくさん抱えた彼らが大好きだ。だから、矛盾している。 太宰は、大切なものほど、損なわないように、間違えないようにと打算の海に沈めてしまう。抱えていられない。だから、友人に憧れていた。自分の小さな手が嫌で、たまらなく嫌で、抱えていれなくなって逃げ出してしまいたくなる。元来そんな思い入れの強いものなんて持ち合わせないできたから、今までうまく生きてこれたというだけのこと。最近の太宰は友人なんて曖昧な定義の宝物を手にしてしまったから、自己嫌悪と諦観の渦にのまれて息もままならない。 淡い水音に、革靴のこんこんという足音が混じりだす。永遠にしてしまいたい空っぽの時間は霧散して、太宰は現実に引き戻された。武器と弾薬を積んだコンテナが、フィリピンバナナのふりをして降ろされる世界だ。気狂いと煙草と免許証と勤め人が一緒に息をする世界。 腰に下げていた自動小銃をするりと抜く。中原はその服飾のセンスを武器にも発揮して、どこぞの国で先の大戦時に作られていた型を大幅に改良して使っているらしいが、太宰にはそのこだわりの意味がわからない。織田のように、手に馴染んだ古い品を使うほど拳銃に思い入れもなく、コンビニで修正テープを買う感覚で選んだ代物だ。自動小銃にありふれた、という形容詞を使うのも考えものだが、少なくともマフィアの世界においてはさして特筆に値しない平凡な型。並の構成員が使うものより値が張るらしいが、少なくともその分の金は装飾の類には費やされていない。大方華奢な体躯の太宰に使いやすいよう、いらぬ配慮でも施されているのだろう。太宰はそれを手のひらで弄んで、ポケットに手を滑らせた。 革靴が近づいてくる。太宰はゆらりと体を起こした。 「やあ。」 いつの間にかとっぷり日の暮れた港に、ゆらりと歩き出す。 革靴の音がパラパラと止まった。 「こんなところで夜遊びなんて、よくないねぇ。」 事情を知った風の太宰の言葉に、男らの手が一斉に腰に向かった。拳銃をぶら下げておく場所なんて大体同じようなものである。 「誰だ。」 「またまた、私のことを知らないわけないでしょう?」 太宰は目を細めて微笑む。ゆっくりと、自宅のバルコニーで洗濯物でも干すような気軽さで今しがた口を開いた男に歩み寄る。そのあまりの自然さに、男は一拍遅れて一層の警戒を示した。 太宰は、あ、とわざとらしく声を漏らすと、そのすぐ横にいた男に向き直る。 「すまない、君だったね、間違えた。いや、彼の表情があんまり恐ろしいから気付けたよ。ご苦労様、彼等は私が始末しておくから、君は一応きちんと事の顛末をまとめておいてくれよ?」 にっこりと微笑む。話しかけられた男は、受け取った言葉の意味を計りかねて拳銃に指を這わせたままの状態でこちらを凝視している。予想された敵意でないものを向けられた時、人間というのは判断に窮しやすい。動いたのは太宰から一番離れた長身の男だった。 「裏切ったな。」 男は大股で近づくと、太宰に微笑みかけられた哀れな男に準備していた拳銃を突きつける。 「裏切ったのは君たちで、彼は筋を通しただけだ。勝手な仲間意識より、組織の掟が大切だと、ごく正常な判断を下したまでだよ?ほら君も、」 太宰は呆れたようにため息をつきながら 「危ないよ、退いていなきゃ」 「待て、何の話だ、俺は、」 乾いた銃声。 言葉を遮られた男が、くたびれた小麦袋のように膝を折って地面に倒れこんだ。 血がみるみるうちに広がって、近くのコンテナの安全灯のわずかな明かりがぬらぬらと照らす。それをきょとんと見下ろして、一言、
「あれえ、君じゃなかったかも。」
それからきっかり10分後、太宰は自分の撃った三発分の痕跡を朝ごはんの皿でも片付けるように始末して、9人分の死体を無感動に見下ろした。 「…っ、い、う、」 血だまりの中から、意味をなさない母音を拾って太宰はしゃがむ。5番目に、リーダー格の男に撃たれた髭面の大男が、死ねないでこちらを見ていた。 「そうだ、結局、君たちの組織の名前ってなんだったの。」 太宰は唇に薄い笑いを浮かべて男の目を覗き込んだ。ぴくぴくと痙攣する瞼がわずかに大きく動き、男は死にゆく者なりに目を見開いて見せる。汗と血と、煙草の匂いが鼻につく。 8体の死体と1体の重傷者は太宰の組織の者ではない。 所属する組織を裏切って武器の密輸をしていた男らが、自らがポートマフィアの領域を侵したことに気づいていたのか、今となっては確認する術もなかった。つまり太宰はひとりで知りもしない組織の上役を演じていただけ。男のカサカサに乾燥した唇が、何事か語りかけるが無駄な震えで判別できない。わからないなりにじっと見つめていたら、最後にしっかりこちらの目を見て、悪魔とつぶやいた。それだけはよく伝わった。太宰は表情を崩さない。足元にまで彼の血液が迫っていた。 「ごめんね、」 太宰は貼り付けていた笑みを冷たく濡れた地面に落っことして、遠い水の音と同じくらいの微かな音量でつぶやいた。髭面の男の瞼は閉じられて、もうピクリとも動かない。 雨と、外気独特の埃っぽさと、鉄の香り。達成感も優越感も、罪悪感も嫌悪感も感じない。すくりと立ち上がると、黒い外套の裾が誰かの血を吸い上げて僅かに変色していた。仲間に撃たれてこちらに倒れこんできた男を押し返した時、両の掌もべっとり血に濡れたらしい。頼りない街灯の光に、絵の具を塗りたくったような赤がぎらぎらと主張する。 ハンカチで手を拭おうと思って、ポケットに伸ばしかけた手が空で静止した。そこに入っているのは、織田が貸してくれたもので、次にいつか例の酒場であった時に返そうと畳んで持ち歩いていたものだ。汚してしまう。 ハンカチなど、もう一度洗うか、似たものを見繕って返せば良いのだろうが、太宰は織田の手にあったもので自分の汚いそれを拭うなんて到底出来なくて、それなら仕方ないなあと包帯の端っこまで赤く染め上げる誰かの血を放置した。そのままにしてみれば妙な躊躇いも消えて、血溜まりの中に落っこちた誰かの拳銃を拾い上げる。弾を3発抜いて、拳銃の方は仰向けに絶命した男のそばに放った。それから、道端の看板でも一瞥するような目で凄惨な光景をチラと見やって、背を向けて歩き出した。
海があった。番号以外全くそっくりなコンテナをいくつも追い越していく。こつこつと自分の足音だけが響いて、目眩がした。01の番号を与えられた箱の向こう側に、真っ黒い海が広がっている。太宰はふらふらとそれに近寄った。少し剥げた手すりのすぐ先には、なんでも飲み込む静かな水たまりが佇んでいる。そこに、さっき血の海から拾い出した弾丸をポトリと落とした。鳥の餌にもならないけれど、ここにあってはいけないから。だから、捨てる。シンプルな図式に従えば太宰もここに自分を棄ててしまいたかった。9人のチンピラの抗争に巻き込まれるのはやはり疲れる。手すりを掴もうと伸ばした両方の掌は血塗れで、太宰はそれに触れることができずにぼうっと突っ立っていた。ちらと見上げた空に月は見えなかったけれど、夜にも消えない周辺の建物の光で海の表面は輝いていた。 太宰は羨ましそうにそれを見つめて、しかしここに自分の死体が上がってはーー或いは、生きたまま回収されても、少し面倒なことになるから踏みとどまる。 中原は自分のことを身勝手な自殺常習者と言い捨てるが、それは少し違う。太宰が考慮する事物のプライオリティが中原のそれと異なるだけであって、死にたいという己の願望が何か不都合をもたらす時はちゃんと我慢しているのだ。身勝手な、の部分は削除してもらいたい。 足が重い。遠くで、車の音がした。昨夜一睡もできなかっただけに体がだるい。中原と組まされている時はたいていの場合身体的負担で考えれば自分にかかるものは通常任務より軽い。それにもかかわらず体は鉛のように重くて、矢張りあの馬鹿帽子の戦闘に付き合うと随分疲労が蓄積されるものだとひとりごちた。飯を食いに行く時間を彼への嫌がらせに費やしてしまったのも大きな失策だ。中原は一緒にいても痛いところばかりついてくるし、彼の持つ自信とか生命力は隣にいる太宰を疲弊させる。無性に、織田に会いたいと思った。人を殺さないでいようとするマフィアらしからぬ信念も自分に向けられる優しさも、太宰にとっては憧れだ。最近はあんまり眩しくて、忙しさを言い訳に会いに行くのも躊躇っていた。自分と同じく汚れた世界に生まれ、しかしそこに留まりながらも精神世界ではとうにこの沼から足を引き抜いている。 織田の存在は太宰にとって一つの可能性でもあったし、彼という人間が優しくあればるほど太宰は焦がれ、憧れ、その分距離が遠のいていくから苦しい。苦しいのだけれど、会いたい。こう言う気持ちに名前をつけてみないかと気まぐれに紅葉に尋ねてみたら、名づけるまでもない、もう既にあろうと言われて一瞬阿呆みたいな顔をしてしまった。紅葉はそんな阿呆を慈しむように、鮮やかな紅を引いた唇で恋、と言った。聞いた太宰が馬鹿だった。これが恋なら、世の中みんな自殺マニアになるほかないねえと言ったら、紅葉は少し悲しそうに苦笑いした。
港はずいぶん広かった。 車は中原が運転していたのに同乗するのが習慣だったので、来る時はタクシーだった。こんな港まで巡回している空車はもちろんなくて、帰りは繁華街の方まで歩かねばならない。地面が低反発マットレスみたいに、軽く自分を押し返してくる感覚がして、気持ちが悪い。今頃中也に押し付けてきた仕事は片付いただろうか。織田作はきっといつもの酒場で小さなグラスを手にしているだろうな。今日は、安吾もやってくるかもしれない。うん、そうだ、そんな気がする。抑えた照明に、心地よいグラスの音。たわいもない雑談に、ふわりと服につくタバコの香り。 帰りたい、帰りたい。 真っ暗な港で一人ふらついている自分が惨めで、惨めで。鼻の奥がツンとした。雨の香りと、埃っぽさと、血の香り。最後のそれは自分の手からするものだと気づいて、痛んで熱かった心が冷える。 足音が、かすかに聞こえる。それは普通に歩くときでも己の音をできるだけ消すように生きてきた人間の足音で、 「太宰、」 予想通りの声。 太宰は、一瞬、このまま自分が俯いているうちに世界が終わってくれないかなあなんて都合の良いことを考えて、それが無理だとわかったから、ぱっと顔をあげて笑顔を作った。 「やあ、織田作。」 予想通りの鳶色の髪が目に飛び込んできて、泣きたい気持ちになる。最悪だ、完璧なはず計画が、紙一重で大失態に転じてしまった。こんな時に、君に、会いたくなどなかった。浅ましい口がぺらぺらと嘘を紡ぐ。 「こんなところでどうしたの?私は、少し散歩をしようと思ってふらふらしていたら、良い海が広がっていたからね、つい飛び込んでしまおうかと考えて、だけど、ちょうどやめてきたところだよ。最近の海は汚いって聞くし、それに、ほら、」 「太宰、」 織田が駆け寄ってくる。 手を伸ばして、咄嗟に背中に回して隠そうとした太宰の腕を掴む。 「…!血が、」 「やめてっ、」 太宰が、身を捩って腕を引き抜く。 突然の拒絶に驚いた織田がぱっと身を引いた。 力いっぱいに身���引いたものだから、太宰は勢い余って後ろによろめいて、普段なら堪えられるその反動にもふらついて、 「危ない!」 バランスを崩した太宰がその場にしゃがみ込む。後頭部をアスファルトに激突させなかっただけ良かった、というところか。織田が駆け寄って膝をつく。 「こめんね、織田作、大丈夫だから。」 織田が身をかがめて顔を覗き込んでくる。もう、どんな顔をしたらいいのか、どんな顔をしているのか全くわからない。 「さっき、俺が今当たっている組織に関係する組織の連中が奥で死んでいた。あれは、」 あれは、 その先に何が続くんだろう。周囲から音が消えていく。嫌だ、嫌いにならないで。小さな声が頭の隅で上がった。 お前がやったのか、そう聞きたいんだろう、どうして言葉を詰まらせるの?それは、汚いことだから?だから、言葉にするのも躊躇ってしまうの? 消えた音の代わりに、自分の呼吸がうるさい。どうして、こんなに息を乱しているんだろう、私は。頭がくらくらする。 太宰は、織田から身を離すように立ち上がると、 「私が殺したんだ。」 素直に、そう答えた。 織田がこちらを見つめてくる。ああ、織田作、君は軽蔑する?それとも、可哀想だと思う?殺す以外の方法があったかもしれないって、そう言うの?なんだっていいよ、きっとそれが正しいんだ。私の正義は、この血が君につかないことであって、君が汚れさえしなければ、それで構わないんだ。私は、それに忙しい。本当に正しいことなんて、考えるのもやめてしまったよ。そういうことは、どうか優しい君が考えてくれ。 視界がぼやける。太宰は涙が零れないように、必死で意識を集中させる。変なことをしたせいで、治りかけていた腕の骨折がずきりと痛んだ。 「…っ、」 「太宰!?」 危ない、笑顔を落としそうになった。早く、別れてしまおうと思った。それが良い。 「大丈夫、君は私が守るから。」 「何を言ってるんだ太宰、これは、」 「大丈夫。」 もう、何を言っているのかわからない。何を言っていいのかもわからない。太宰はじゃあ、と一方的に話を切り上げると、織田に背を向けて走り出す。背後で、織田が追いかけようとして諦めた気配を感じた。それで良い。そのまま家に帰って、綺麗なまんまで眠ってくれ。じゃなきゃ報われない。 最悪だ、最悪すぎる。 ずいぶん長い間走って、歩いて、最後にはふらふらと棒のような足を前に進めるだけになっていた。 何もないところで躓く。前につんのめって、無様にアスファルトに投げ出される、 はずだった。 脇の下に腕を差し込まれて、すんでのところで抱きとめられる。一日食事にありつけなかったせいか、足に力が入らず、そのままずるずると力が抜けていく。ふわりと、趣味の良い香水の香りがして、太宰は不覚にも安堵で態勢を立て直す気力を手放してしまった。 「おい、」 太宰の体を受け止めていた男ーー中原が慌てて、体をゆっくり離す。まだ湿っているアスファルトにへたり込む。 「てめェ何でこんなもんに首突っ込んでる。」 「…中也、何してるの、仕事は、」 うつむいた太宰には、中原こだわりの洒落た靴の先っちょしか見えない。 ああ、駄目だ、こんなへばった姿を見せては。 しかし、中原なら。 中原なら、こんな汚い私でも抱きとめていてくれる。 ああ、やっぱり中也なんだなぁ。 私のことを、理解せずとも拒まない。同じくらい汚い私達は、幼いまんま肺にガスを吸い込みすぎた。ありがとう、中也。 私たちは双黒。真っ黒い血の海の中で、手に手を取って人を殺す、哀れなハイティーン。
3
ずるずると地面に蹲った太宰の手を掴んで引き上げると、ぬるりと嫌な感触。 とっさに彼が出血しているのかと外傷を探すが、自業自得の腕の怪我の他には問題は見当たらない。両方の手のひらが真っ赤に染まっていて、ああこれは誰か他の奴の血か、と安堵する。自分の手も汚れてしまって、湿った地面に膝をついて、誰もいない見捨てられたみたいな街外れに二人分の吐息ばかりがうるさい。 「中也…」 小さな声。真っ白な顔でこちらを見上げてくる。 「大丈夫かてめェ」 柄にもなく優しい言葉を返したら、そのまま黙りこくってしまう。 コンテナの壁面から伸びる心許ない明かりの元でもわかるくらい太宰は青白く、片方しか見えない瞳の下にはしっかりクマができていた。 「おい、しかりしろ。」 頬をつねると、体温が少し高いのに気づく。これは熱が上がるんじゃないかと中原は顔をしかめた。明日以降の仕事から太宰が降りれば、組織全体の回転効率が今の三分の一くらいにまで落ちてしまう。今回彼がこんなにも外回りの仕事をしなくてはならないのも、全て前線で最高効率で情報をインプットし即座に全体の判断を下すためだ。その為に部下を何人も戦闘要員として引き連れていては動きづらいというので、中原が太宰につきっきりになっている。彼の頭脳が常に前線で機能しているということは、かなりの負担なのだろう。物理的な疲労もたまる上に片方の目が使い物にならない今、失われた情報量を補うために彼にはさらなる余計な負担がかかっていることになる。本人が気付いているかどうかは定かではないが、思い返せばごしごしと目を擦る姿を最近よく見たの思い出した。 中原はため息をついて自分より長身の太宰を持ち上げた。汚れた手を取って体を引き上げ、肩に腕を回させると、太宰が薄く開いた瞳で避難するようにこちらを見つめる。 「放して」 耳元でつぶやくような非難。 「ごめん」 この後に及んでてめェ、と言いかけて、太宰の呟きに慌てて言葉を飲み込んだ。ぐらぐら揺れる瞳にいつもの余裕は欠片も見えず、真っ暗な夜を埋め込んだみたい。普段は聞こえもしない本音に、中原は馬鹿、と雑に返事をした。なんとなく、無視は良くないと思ったからだ。他にまともな言葉が思いつかなかった。 「さっき転がしてた奴ら、」 沈黙に耐えかねて話し始める。 「末端の連中が小突けば良いような力仕事だろう。頭の悪い下っ端の暴走に、ポートマフィアの幹部が何の用だったんだ。」 部下に調べさせてすぐに素性が掴めたのは、下層の部署の一つが丁度排除に当たっている密輸組織だったからだ。金に動かされた元気な馬鹿どもが、頭数だけ揃えて動いているにすぎない。太宰ほどの人間がわざわざこの多忙の隙を縫って手を下す相手ではなかった。 「殺さないために、だよ。」 中原が引きずるようにして抱えている男は、どうやら本当に発熱しているらしい。港を丁度突っ切る頃には先程より触れている部分が熱くなっていた。息を吐き出すついでみたいな小さな声は、ここまで密着していなかったら多分取り零していただろう。 「…あの織田って奴のためか。」 中原がある男の名を出すと、真横で太宰がピクリと肩を揺らす。その小さな反応が、部下から担当部署を聞いたときにちらとよぎった疑念を確実なものに変えた。 「ちっ」 つまらない。中原の舌打ちに、太宰がびくりと震える。それを感じて、溜息をついた。 殺さないため、という言葉の意味はわからないが、下っ端構成員のためにこの男が必死になっているのはわかった。それがつまらない。殺さないため、ってなんだ。まるで、堅気みたいなこと言いやがって。飯を食う、髪を切る、人を殺す、くらいの軽さで生きてきたくせに、何を今更「ごめん」だのと抜かしやがって。太宰を抱えていない方の手をぎゅっと握りしめた。 中原は織田という男をほとんど知らないから、何が相棒をここまで追い詰めたのか見当もつかない。以前の太宰は自分の体力の限界を押し切ってまでごろつきを始末しに行くことなんてなかったし、弱ったところを人に見せるなんてことも、なかった。 空いている手で携帯を操作し、部下の一人に車を回させる。コンテナ街を突っ切って、徐々に夜の喧騒が聞こえて来る。人通りの多い道に入る手前で、建設会社の社屋の壁に太宰を押し付けた。中原が手を離すと、壁を伝うようにずるずる崩れ落ちて、しゃがみこんでしまう。横目でそれを見て舌打ちすると、部下に連絡を入れて詳しい場所を指定する。すぐに黒塗りの車が闇夜からぬっと現れ、ぱかっと扉が開いた。太宰を後部座席に押し込んで、自分は助手席に座る。よく気の利く腹心の部下は、ぐったりとした最年少幹部には何も言わず、滑らかに車体を加速させて本部へと走った。 太宰を奴の執務室まで運び、カウチに放り投げた。机の上にはお菓子の箱と立体パズルとインク壺が置いてあって、確かに太宰の部屋だとわかるのだが、それ以外の私物が少なすぎる。風邪薬がないというのは想定内のことだが、ブランケット一枚見当たらないのには参った。中原が面倒を見てやる義理はないのだが、はあはあと熱い息を漏らし、寒さに体を丸めた相棒の背の貧相なこと。きゅうと胸を締め付けられて、中原は溜息をついた。自分も大概彼に甘い。 「おい、クソ太宰、なんかかけるもの無いのか。」 そう尋ねても、目を瞑ったまま首を振るばかりだ。首元に手を当ててみると、猛烈に熱い。執務室の重い扉をノックする音がして、開けてみると、さっきまで車を運転していた部下がブランケットと体温計と、ペットボトルの水を持って立っている。中原は呆れたようにその男を睨み付け、ありがとうよと言ってそれらを受け取った。あの男、気が回りすぎるのも気持ちが悪いなとブツブツ言いながら、太宰の服を少し脱がせて体温計を脇に挟ませ、小さくなった体にブランケットをかける。それから、電子音を待つまでの間見慣れた相棒の横顔を眺めていた。 どうしてしまったのだろう。 太宰のことは自分が一番わかっていた。この男は沼のようで、その根底にある真意なんてとてもじゃないが覗くこともできない。しかし、それを理解している点で他の人間よりは彼をわかっていることになる。中原は先程まで真っ白だった頰が赤く染まっていくのを横目に思案に耽る。 太宰治を一言で表すなら、期待だった。 彼のことは心底うざったいと思っている。それから、退屈そうにしているのも知っていたし、たびたび自殺に繰り出すその思考回路も訳がわからない。どうしたってこの男をばりばりと咀嚼して丸ごと飲み込んでやることなどできなくて、もちろんそんなことわかってはいるのだが、それでも、彼は中原にとって期待すべき相手だった。 こんなちっぽけな体で、闇社会で生きていくことは容易くはない。時々、自分の周囲の黒い溝に、自分の中の真っ赤な暴力に、中原中也という人間が溶かされて何か醜悪なものに変えられていく錯覚に陥る。もともと綺麗なものだったかというとそんなことは決してないし、中原もそうでありたかったなどと望むわけではないのだが。 それでも、自分の知らないものになっていくのは、怖かった。ちょうど、中原にとって自分の異能はその恐怖の対象を明確に体に教えこむ材料となっていた。 「だ、さ…」 太宰が横で何か呟く。 とっくに計測の終了したらしい体温計を慌てて抜き取り、小窓に浮かぶ数字を見て眉をひそめた。こいつも人の子だったんだなあと妙にしみじみ感じられて、ソファからおっこちていた腕を拾ってやる。先ほど清めてやった手は熱く、爪の間に微かに血が残っていた。中原は何となく悲しくなって、タオルを濡らして丁寧にそれを拭き取った。 「お…さく、」 それにしても、先ほどから、看病している自分のことなど全く気付かずにうわごとで織田を呼ぶのはどういう了見だろう。何だか無性に腹が立って叩き起こしてやろうかとも思ったが、ぎゅっと閉じた目尻から涙がつうっと零れているのを見て、そんな気も失せてしまう。虚しさが、胸を覆った。 太宰は期待だった。自分より細っこい体で、老獪で凶暴なマフィアの古株達を次々に従わせていく。やっていることは外道そのものなのに、周囲の溝に溶かされない凛とした何かがあった。何かとはなんだと言われれば、語彙が足りなくて言い当てられぬが、その何かが、中原を魅了していた。だから。 「お前って本当に嫌な奴だな」 中原は爪が手のひらに食い込むほどぎゅっと握り込んで、太宰のそばにかけてあった外套を引っつかんだ。
4
夢を見ていた。 小さい頃から父親のいない家で、自分と、小さな妹一人抱えて母は余裕なく生きていた。父親は身勝手にどこぞへ消えて、生活費は滞納するし家賃も滞るしで本当にひどいやつだった。らしい。らしいとしか言えないのはその頃の私はまだ幼くて、母ももちろんそんなことは言わないからで、後になって全部の真実を知った。 その頃から、プライドと偏見と、被害者意識の強かった母は私たちを絶対の監獄に閉じ込めて育てた。監獄の中で、母の気に食うように振る舞える妹は良かったが、代わりに、全ての馬鹿は私が踏んだ。何度も殴られ、蹴られ、髪をひっつかんで床に投げ飛ばされ、頭を足でがつがつと蹴られた。馬乗りになって首を絞め、衣類ケースを投げられて、家から追い出され鏡に向かって彼女の気に入るように謝る練習をさせられた。薄暗い洗面所に、泣き腫らして髪もぼさぼさになった私が一人、鏡に向かってごめんなさいごめんなさいと何度も言っている。鏡の中の惨めな自分に、何度も頭をさげる。謝っても許してもらえぬから、何度も土下座した。刃物を投げられたこともあったし、毎日のように害虫呼ばわりされた�� 母は、良い母であろうとしたらしい。 彼女は長男である自分を自分の理想に育てたかった。彼女の中で彼女の行為は全て正しいものに変換されている。そんな人間に、誰が何を言おうと役には立たないのだ。母親の理想というのは彼女の偏見に埋もれたものであり、全ての善悪の基準を母に奪われた私は、どうしようもなく不安定で、家族の外にあっても上手く立ち振る舞えず厄介児のレッテルを貼られた。誤解が誤解を生んで嫌われ者に成り下がった。頓珍漢な教師にカウンセラーの元へ送り込まれたが、私の精神の歪みを見つけてやろうと虫でも見るような冷たさがちらつく双眸に耐えかねて、呼び出しを無視するようになった。 それから、徐々に人の気持ちを、本心を、計算を、小さな言葉の選択や向いた爪先の方向、笑い方や呼吸の合間に見つけるようになって、うまく立ち回るようになっていった。相変わらず家庭は地獄のように狭く、救いのない場所だったが、せめて、外の世界では。そう思ってへらへら笑うようにしていたが、そのうち、うまく立ち回れることにも気分が悪くなって、全てがむき出しの世界に憧れた。 父親がいつの間にか失職し、その間に作った借金を返せないことが発覚したのは、ちょうどその頃だった。 私はヒステリックを極めた母と、薄気味悪い 自分から逃げるように、進んで組織に売られていった。売られた組織の名はポートマフィアで、それはちょうど、こんな雨の降りしきる鬱々とした6月のことだった。
「あ…」 雨の音が、すうっと消えた。夢の中まで梅雨に侵食されていた。息ができる。良かった、私、生きている。死ねないまんま、生きていた。捨てられた癖に、まだ。 ゆっくり目を開ける。見慣れた天井が視界に飛び込んできた。 どうして、しょうもない昔のことなんて思い出していたんだろう。気分が悪い。散々眠った後なのに、全身が内側から楔を打たれているよう。嫌な夢を見た。 額に手を当てるとじっとり汗をかいている。気持ちが悪くて前髪をかきあげた。 太宰が寝かされていたのは本部の執務室のカウチで、そばにある小さなテーブルには薬と体温計とミネラルウォーターが置いてある。 自分を運んできたのは中原のはずだ。埠頭で、どうにも動けなくなったところを不本意ながら助けられた。だとすれば、この気遣いもまた中原のものなのかと思うと、違和感で変な声が出そうになる。体を起こすと、見覚えのないブランケットがぱさりと落ちて、やっぱり中原の仕業かと若干気持ち悪ささえ感じた。 さすがに、今回は無茶をしたと思っている。戦闘向きでないから口先で煽って仲間内で撃ち合わせたものの、9人のチンピラを相手にするコンディションではなかった。太宰はカウチの上で伸びをして、まだ怠い体を無理に動かす。それにしても、昨日の私は余計なことを口走らなかっただろうか。太宰が曖昧な前日の記憶を必死で呼び起こしていると、 コンコン 控えめな、しかしよく通るノックの音。 「伝達です。」 聞き慣れた部下の声に入室の許可を出すと、まだ朝も早いというのに皺ひとつないスーツをびしりと着こなして側近の一人が入ってくる。 「今日は中原さんから、12時にメールで送った場所に来い、との伝言、首領からは明後日エリスちゃんのお誕生会だからあけといてね、との伝言が来ています。その他は端末に送信しておきました。」 「12時?中也、本当に頭おかしくなったんじゃないの、」 それまでの仕事は一人でこなすというわけか。首領がおかしいのは最初からのことである。それを部下に聞かせても仕方ないから、太宰は首を振って他に何かないか尋ねたが、手にしていた手帳をもう一度確認して、側近は無いと答えた。 今日は晴れている。最近滅多に顔を見せなかった太陽が窓の外で燦々と主張しているだけで気分が良くなっている。マフィアの幹部が何を可愛らしいこと、と思うかもしれないが、天候が悪いと頭痛がひどかったりするから、やっぱり人間はお天道様に逆らえない。そして、太宰だって人間だ。掌を窓にかざしてみる。昨日はべっとりと真っ赤に染まっていたそれは、綺麗に清められている。それでも、どこか鉄の匂いを感じたような気がして、太宰はすぐにぎゅっと握り込んで目を逸らした。 織田作に会わねばならないと、頭の片隅が警告を発した。あんな別れ方をしたまま会わないでいれば、きっと気まずさが尾を引いて私たちの仲はぎこちないものになってしまう。しかし、太宰にはやらねばならぬ仕事と、やり遂げなければいけない仕事と、どんな顔をして会えば良いのだろうという本音がしっかり揃っていて、携帯の電話帳を開いてはすぐに閉じた。最近は、織田に会おうと思うとすれば胸が締め付けられて諦めていた。ちょっとした不貞腐れのようなものだ。どうせ、君にとっては少し変わった酒飲み友達、といった程度なんでしょう。それは至って正しい評価で、太宰はそれを責めること権利も資格もないのをよくわかっていた。わかっていたけれど、いつ織田が全く見知らぬ人になってしまうかもわからない、と思えば怖くて、確かめるように会いに行くのに疲れてしまった。いっそ、彼の心全て引き受けるから、こちらだけ見てくれていれば良いものを。そうする以外に自分が彼を信用できる術は全くなくて、否、そうしたって未来のことはわからないから、まあどちらにせよ、私はもう、ただの楽しい友人には戻れない。戻れなくしたのは、自分なのだけど。 指定された時間までは、一夜にして溜まった報告書とそれに対する指示で飛ぶように流れていった。書類をめくる手の速さから中原にはちゃんと読んでいないのではないかと疑われることも少なくないが、これできちんと頭に入っている。そろそろ出発しないと間に合わないかな、と時計を見て、流れるような手付きで弾の補充をした。
織田が人を殺す映像を見た。 彼のように未来を見る異能なんて持っていなくとも、太宰の優秀な脳は彼の部署が上げてきた報告書に目を通してすぐに、銃を抜かねばならぬ事態へ進展することを見抜いた。 太宰の脳内にぱっと選択肢が広がった。 このまま何もしないーーさすれば、織田は敵と遭遇して人を殺す。 織田に自分の見通しを説明して回避させるーー彼の性格が許さなそうだから、不可能。 ここで、太宰は溜息をついてぐらつく気持ちを叱咤した。 もし、彼が人を殺したら。 自分と同じ、暗くて汚い世界に織田はやってくる。彼が必死で足を引き抜いた、同じマフィアのものであっても明確な一線を持って隔てられる世界だ。 彼が、夢を見失ったら。傷ついたら。 自分を、頼ってくれるだろうか。縋って、同じ世界で生きてくれるだろうか。 そこまで考えて、太宰はほとほと呆れて自分の頬を打った。やっぱり私は死んだ方がマシだ。
彼は、最後の選択肢を取る。 織田に、綺麗でいてもらうために、
この手は、彼の手に掬い上げられることなんてない空っぽの手は、汚れてもいいやと、そんな選択肢だった。
4
太宰治は、どうも、自分を買いかぶりすぎている節がある。 「人を殺さないマフィア」という彼が好んでつけた通り名だが、正確に言えば「もう、人を殺さないマフィア」というだけであって、織田の手にはしっかり不可視の血がこびりついていた。それを知っているはずで、それでも自分のことを綺麗なものを見つめるあたたかさで眺めるのだから、太宰治はほとほと難しい男だ。織田はそう評するほかなかった。
突然中原中也から呼び出しをくらった時は、とうとう自分も始末されるのかと思った。何か、彼の気に障ったのだろうか。電話口からの恐ろしく不機嫌そうな声に頭の中では記憶の大清掃大会が始まるが、そもそもこんな高位の人間に関わった覚えもない。 高位の、と彼を評したところで、さっきまでちょうど太宰に埠頭で逃げられて、追いかけた先には彼がいなかったことを思い出した。 もしかして、と用件にあたりをつけたら、そうだよ、いいから来い、と更に不機嫌な声で言われて、かかってきた時と同じように一方的に電話は切られた。
「てめェ、太宰に何を吹き込んだ。」 つや消しをした趣味の良いテーブルに、手袋をはめた手をついてこちらを睨む、小柄な猛獣。 会って数秒、考えてきた挨拶の口上を全て無駄にする唐突な切り出しに織田は面食らった。太宰の話が脚色されているのを考慮しても、短期そうな人だなあとは思っていたが、本当にそうらしい。尤も、彼と長い間コンビを組んでいられるということは深いところで考えれば短期とは正反対な性格を有しているのかもしれないが。 「俺は、何も。」 体を大事にしろとか、そういうことなら言ったことがある。しかし、自分ごときの中途半端な諫言が彼を動かすとも思えなかったし、中原が聞きたいのはそんなことじゃないのだろうと直感が告げていた。 中原の方も、質問というよりは喧嘩調子に話を始めたかっただけのようで、すぐにふうっと息を吐くと喫茶店の椅子にどかりと座った。 天井ではファンが生ぬるい空気をかきまぜている。注文を取りに来た店員に中原が短く「アイスティ」と言い、織田はメニューを開くのも躊躇われて、同じ��のを、と告げた。店員が踵を返すのを見て中原は、なんだ気色悪ぃと毒突く。なんならアイスコーヒーにでも変えようかと思ったが、ここには飲料の味を楽しみに来たのではないからやめておいた。中原はすでに三度目となる溜息をついて、じろりと織田を睨みつけた。 「太宰の野郎が、」 中原が話を切り出す。 「お前が手をつけていた仕事に裏で手を加えていた。覚えはあんだろう。」 織田は首肯する。昨夜のことを思い出していた。 「なんでだかわかるか。」 何となく、答えは中原がすでに持っている気がして織田は黙ったままでいた。 「お前に、人を殺させないためだよ。」 だから、ほら。太宰治は自分を買い被りすぎている。 織田は、全ての意味を悟ってぎゅうと締め付けられた胸にもう一度問うた。
どうすれば、良い?
中原の4度目の溜息が、味の薄いアイスティーの氷を少し揺らした。
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指定された場所に向かうと、中原のものとは思えない長身のシルエットがぽつりとあって、太宰は息を飲んだ。中原が端末に送りつけてきた住所は、観光客も通らない静かな港で、太宰はこんなところ、敵の拠点だとしたらよく中也一人で見つけたなあなんて思いながら、ちゃんと5分前にはたどり着いていた。 待っていたのは、決して背の低くない太宰をゆうに見下ろすほどの身長に、見慣れたコート、頼り甲斐のある背中。 どこからどう見ても、ちんちくりんの中原ではなくて、 「おださく…」 風にさらわれて消えてしまいそうな小さな声も逃さず、友人は振り返って、大股でこちらに近づいてきた。 「太宰、」 太宰の脳が追いつけない事態なんて、人生に何度起こるものか。中原が自分を騙して彼と引き合わせたのは、わかる。しかし、その目的と中原、織田両人の心境が謎だ。何がしたいのかちっともわからない。 少し湿気を含んだ風が太宰の髪をなびかせる。 「具合は、大丈夫なのか。昨日会った時、ひどく辛そうだったが。」 織田が尋ねる。 「あの、織田作…?」 織田は太宰の、昨日は血に濡れていた手を取って、細い体を引き寄せて、 「心配していた。」 太宰の痩身は、すっぽり腕に収まってしまう。 「最近、全く例の酒場でも会わなかったし、昨日やっと会えたと思えば体調もすぐれないみたいで、俺は、」 織田が言葉を探して息を飲む。 「俺は、今まで、偶然っていう響きに甘んじてお前と付き合っていた。でも、それじゃあ、会いたいと思った時に、心配だと思った時に、全くお前のことがわからなくて、会うことも、追いかけることもできなくて、それで、やっと気づいたんだ。お前が大切だ。俺の何よりも、大切だ。」 力強く抱きしめられる。太宰の顔は織田の肩口に押し当てられて、香辛料と煙草の香りが彼を包み込んだ。暖かい。誰かに抱きしめられるなんて、本当に初めてのことだ。 ぶわりと風が二人のコートをかきあげる。
幼い太宰が泣いている。初めて、誰かに、一番をもらえた。一番大切だと、心配したと。子供じみた願いだった。願いですらなかった、はなから期待などしていないのだから。ただ、世の中には、誰かの一番になれる人がいて、それはわかっていて、そういう人たちのことを心のどこかで、羨望していた。 一番汚い姿を見せた。真っ赤に濡れた掌を。それでも、彼の美しい世界は太宰を排除しなかった。認められていたんだ、私は。 「お、ださ、く、」 太宰が、しゃくりあげながら名前を呼ぶ。 「すまなかった、太宰。お前が私を守ろうとしてくれたように、俺も、お前を守りたいんだ。俺のエゴが、お前を苦しめていたなんて、全く知りもしなくて、俺は、」 「違う、…私は、君に綺麗でいてほしくて、っく、でも、それも、ただの私の逃げ道だったんだ。織田作、ごめんね、わた、し、」 織田の大きな手が、太宰の背をあやすように撫でる。 「ありがとう、太宰。」 船も寄り付かない港で、わんわん泣き続ける太宰を、怖いものから守らんとするように、織田はずっと抱き��め続けていた。
なあ太宰、世界はお前の評す通り、冷たくて汚くて、残酷なことでいっぱいだよ。それを否定して生きていくほど私は夢を見ているわけではないし、そうありたいとも願わない。 とどのつまり、人を殺そうと殺さないでいようと、私たちはどうしようもなく汚い海に溺れてもがいているんだ。そこで、手が何色に濡れていたって大差はないだろう。私たちは吸い込む空気さえ冷酷な時間に生きている。 だから、手を取らせてくれ。 溺れるなら二人がいいし、助かるのも二人で。こんないびつな世界で、私は人を殺さないマフィア、お前は包帯だらけの自殺マニアときた。正直、これ以上にこの海に毒された人間はいないと思う、二人とも。 けれども、綺麗事や理想で現実に蓋をしている輩より、お前はよっぽど綺麗だ。
この泥沼の底辺で、一番汚い部分を見つめ続けている。 いつか、二人で出て行こう。 酸化する世界から。
そうしたら、お前は信じてくれるだろうか。 大好きだという、なんの根拠も保証もない言葉を。
海辺の風が、さらりと吹き抜けて涙をぬぐっていく。 太宰、俺はどうしたら良いか、ちゃんとわかったんだ。
この手を離さない。
fin
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