#感情を失くした少女と廃病院からの脱出
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"Kill them with kindness" Wrong. CURSE OF MINATOMO NO YORITOMO
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“kill them with kindness” Wrong. CURSE OF RA 𓀀 𓀁 𓀂 𓀃 𓀄 𓀅 𓀆 𓀇 𓀈 𓀉 𓀊 𓀋 𓀌 𓀍 𓀎 𓀏 𓀐 𓀑 𓀒 𓀓 𓀔 𓀕 𓀖 𓀗 𓀘 𓀙 𓀚 𓀛 𓀜 𓀝 𓀞 𓀟 𓀠 𓀡 𓀢 𓀣 𓀤 𓀥 𓀦 𓀧 𓀨 𓀩 𓀪 𓀫 𓀬 𓀭 𓀮 𓀯 𓀰 𓀱 𓀲 𓀳 𓀴 𓀵 𓀶 𓀷 𓀸 𓀹 𓀺 𓀻 𓀼 𓀽 𓀾 𓀿 𓁀 𓁁 𓁂 𓁃 𓁄 𓁅 𓁆 𓁇 𓁈 𓁉 𓁊 𓁋 𓁌 𓁍 𓁎 𓁏 𓁐 𓁑 𓀄 𓀅 𓀆
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77回目の8月6日が来ました。 あの日、そしてその後の“ヒロシマ”を知ってもらうことが、核兵器廃絶への道につながることを信じたいのです。 2年前に書いた文章ですが、読んでいただければ嬉しいです。
胎内被爆者の綴り方
<はじめに> 長い間、私は不特定多数の人に被爆体験を語ることにとまどいを覚えておりました。胎内被曝のため、実際に被爆の被害・惨状を見たわけでもなく、肉親を失ったわけでもなく、私自身もこの年齢まで生きてこれた幸運もあり、大きな嘆きの人々に比べれば語る資格がないと思っていました。 しかし、ここ数年、特に日本政府は広島・長崎の被害の事実をなかったものかのように動き始め、核兵器禁止条約に対しても、日本の代表とは思えぬ動きで、私は不安でたまりません。 今まで、生協の平和行進や集会、そして募金に参加したことがあるくらいで、平和や反核に対する運動をほとんどしていません。平和公園での座り込み運動にも、心をよせてはいても、ただの傍観者でした。私が育った戦後、ついこの間までは多くの活動をする人がいて、私も黙っていてもよかったのです。ただ被爆者の会も高齢化で消滅解散する中で、何かしなければならないのではと思い始めていました。 そんな時、オーラルヒストリーを研究しておられる元TBSアナウンサーの久保田智子さんの講演を聞く機会がありました。私が記憶を語るとしたら客観的事実ではないかもという懸念をもっていたのですが、久保田さんは「その人が感じ考え思ったことをいっしょに述べること、主観的事実でいい」と言われました。「複雑でいい、矛盾していい、個人的なものを社会的なものに関連づけて解釈するのだ」と。これは私を勇気づけました。 また、ピラミッドの一番上に直接被爆者がいて、その下にいろいろな人が階層的に存在し、それぞれに思うこと感じ考えることがある、それも大切だと。「ああ私の位置はヒエラルキーの二番目だ、それでも語っていいのだ」と強く励まされました。 それから1ヵ月後、ニューヨークの2020年NPT(核兵器不拡散条約)会議に広島生協の代表として行くことになった友人が、胎内被爆者の会が証言集を出す予定であることを教えてくれました。思い迷った末に、証言集に応募するしないにかかわらず、記憶がうすれる前に一度整理してみようかなとの思いに至りました。
<8月6日> 1946年1月24日生まれの私は、1945年8月6日原爆の炸裂したあの日、母の胎内にいました。予定より早く生まれたと聞いていますから、妊娠4ヵ月位ではなかったでしょうか。悪阻が激しく空襲警報がなっても「このまま死んでもいいから」と逃げるのが億劫だと言っていた母は、朝の洗たくものを干すため両手をあげた時、原爆の光を浴びたといいます。あっと思った時は、胸と腕に火傷をしたようですが、幸いにも「天ぷら油をぬったらいい」と教えてもらい、ケロイドにならずにすみました。借家だった家の前はごぼう畑が広がり、己斐駅がすぐ目の前に見渡せました。光線をさえぎるものは何もありません。爆心地から2.5kmとS42年(1967年)2月18日取得の被爆者手帳にはしるされています。 その時父は観音町の三菱重工の工場、爆心地から4kmの所で被爆。父がどのルートでどのように己斐まで帰ってきたのか全く知りません。9月に4才になる姉は、家の中の布団で寝ており、布団ごと部屋の端から端まで飛ばされていました。壁が少し崩れたくらいで、家は倒れずにすみ、姉も無事でした。 これらの話を父や母から直接聞いたという記憶はなく、どこでどのように知ったのでしょう。母が黒い雨にうたれ、髪の毛が抜け寝こんだこともどうして知ったのでしょう。それには一つの類推があります。
<近所の人々との思い出> 私が小学校低学年の頃住んでいた家はやはり己斐ですが、被爆した時とは違う近くの家です。家の前にも横にも40cm位の側溝に水が流れ、夏には青い露草の花が咲き蛍もとんでいました。暑い暑い8月6日の前後には、近所の人々が涼を求めて集まり、石垣に座って思い思いに語ります。クーラーも無い時代、手にはうちわがあります。冷蔵庫も氷で冷やす木の冷蔵庫です。家には西瓜が待っており、私たち子供は浴衣を着て、大人のまわりをうろちょろしています。そんな時大人の話が聞こえるともなく聞こえるのです。 「ようけえ逃げてきたのお」「おう、水あげりゃあえかったのう、どうせ死ぬんじゃったらのお」「Tさんの家は壊れたらしいのぉ」「下敷きになって男ん子が死んだんよ」「Nさんの奥さんは今年も日傘さして行きよっちゃったよ」「式典なんじゃろう。姉妹や親はえっとこ亡くなったって」 話が聞こえてくるうちにだんだん恐くなります。帰ってトイレに行くのも、夜寝るのも恐くなります。こんな会話の中で私の母の話も語られ、私が覚えたのだという気がします。 Nさんとは、私を実の娘と同じようにかわいがって、お風呂に入れて身体をごしごし洗ってくれたり、焼きリンゴを作ってごちそうしてくれたおばちゃんです。あの優しいおばちゃんが大きな悲しみを抱えておられたのに深く気づくのはずっと後です。このおばちゃんは小学生の女の子2人を残して腎臓病で、身体をパンパンにむくませて亡くなられました。きっと被爆の影響だったと今なら思いますが、当時小学生だった私は、おばちゃんの変わり様に恐ろしかっただけです。 あの夏の日々は、あらためて語り部と言わなくても、みんな思い思いに自然に語って、私たちに伝承されていたのだなあと改めて思います。
<己斐小学校でのこと> 伝承というと小学校の担任を1年から6年まで受け持ってもらったY先生のことが思われます。8月6日宝町の自宅から己斐小学校へ通勤した日のできごと。爆心地近くから相生橋、本川を通ってひたすら己斐へ歩く途中に見た被災の光景。川の中に浮かぶたくさんの人々、横たわる死者たち。その話を聞いた記憶がしっかり残っています。教壇に立って語る先生の息づかい。並ぶ生徒たちの机。写真のようにまぶたに残っています。先生はその日どのように自宅へ帰られたのでしょうか。全く知りません。Y先生はその後私たちが4年か5年生の頃、だから戦後10年くらいでしょうか、肝臓を悪くされ長く入院されたことがありました。きっとこれも原爆と関係があるに違いないと今は思います。 私の小学校は己斐小学校ですが、己斐はたくさんの被災者が流れ込んできて、小学校の校庭ではたくさん人を焼いたと言います。春秋に運動会があったのですが、グランド整理で土をならすと骨が出るというのをよく聞きました。私は直接拾ったことはないのですが恐くてたまりませんでした。それに春は校庭の桜が葉桜になる頃の運動会でしたから、毛虫がぞろぞろはい回ります。私は大の虫嫌い。二重に恐くて――。今と違って素足でかけっこですものね。
<ABCCの記憶> 私が唯一当事者として語れるのはABCC(現・放射線影響研究所)のことかもしれません。小学校低学年の時だったと思います。母と、あるいは近所の友と、そして級友と何回かABCCが近所まで迎えに来て出かけました。学校まで迎えに来たこともあります。黒塗りの大きなハイヤーが来るのですが、私はすぐ酔うので苦手です。行くと、全てがすんだあとクッキーやサンドイッチ、紅茶などをご馳走してくれるのです。異文化への興味や憧れのようなものがありました。けれども何しろアンパンやジャムパン育ちで偏食も多かった私は、なれないものを何とか口にし、帰りの車でまた気分が悪くなるのでした。 さて、ABCCの記憶で長く私が語れなかったことが一つ。検査に行くとズロース(パンツ)の上に白いスモックのようなものを1枚かぶるのですが、それを着てある部屋に一人連れて行かれます。大きな机、私には3m×4mぐらいにも思われましたが、その端に足をぶらんと下ろして、入口のドアに向かって不安そうに座っている自画像が脳裏に残って消えません。そして、立つように促されたのでしょうか。服を脱いでズロース1枚でテーブルに立ったと思うまもなく、大きな180cm位の白人男性がこれまた大きなカメラを抱えて10人近くどたどたと入って、テーブルの回りから、四方八方カメラのフラッシュをたきました。驚きと恥ずかしさと何があったかわからないのとで呆然としていたのでした。一番大きかったのはたぶん恥。何かいけないことのように思ったのでしょう。この話は帰りの母にも友にも誰にも話しませんでした。話せば自分一人の体験ではなかったことがわかったかもしれません。後に語れるようになり、友人夫妻にこの体験を話した時「つらい話をさせてしまった」と言われ、ああそうだったのかと納得したものです。映画のワンシーンのようなこの記憶は今後も決して消えることはないと思います。
<病気に思うこと> 私が生まれたのは、母の母・未亡人だった祖母のいた広島県北部の旧・山縣郡千代田町壬生です。大雪で2階の窓から出入りするような日だったということです。戦後の広島を避けてお産をしたのでしょう。私は乳を飲んでもすぐ吐き、胃の入口の調子が悪くて薬を飲んで治したといいますが、詳しいことはわかりません。その後10カ月位の時には百日咳の激しいのにかかり骨と皮になりました。母は父の実家の香川県高松市鬼無町にひきあげました。そこで祖父から「こんな子を連れて帰って」と非難されたことを相当うらめしく思ったようで、時々同じ話をしてくれました。父の家の事情もあり、結局両親と私たちはまた己斐に戻りました。 そこで成長して22才の大学卒業まで暮らすのですが、父も母も被爆者でしたが、特に母の身体が弱かった気がします。家事だけの人でしたが、一日中かかって掃除・洗たく・食事の支度をし、少し動くと休みながらという具合です。おまけに度の過ぎた清潔好きで、洗たくもハンカチを洗って次は上のもの、下着はその次、そのあとパンツ…といったくらいに丁寧でした。今思えば、それもこれも細菌におびえていた事情もあったかもしれません。私は母の身体の弱いのは偏食のせいと思っていましたが、ひょっとすると被爆の影響があったかもしれません。父は61才、母は57才で亡くなりました。二人とも脳内出血ですが、母は一度肺ガンということで、広島市のM病院で放射線治療を受けたこともあります。 私はよく熱を出し、決して強いとは言えず、身体も細く背も前から一・二・三を争うくらいのチビでした。それでも高校時代は皆勤賞をもらいました(授業中寝てばかりの子でしたが)。 それが��婚して1ヵ月ちょっとだったでしょうか。盲腸になり、夫も手術をしたこともあり夫の家族の中では名医と呼ばれていたN外科で手術をしました。なぜか2、3日眼が覚めず熱も出て、私が被爆者手帳で受診したからでしょうか、先生は慎重になられ結局1ヵ月入院しました。 また、二人目の子のお産の時、妊娠5ヵ月くらいから妊娠中毒症になりとうとう7ヵ月ころ入院。そして子供が9ヵ月に入った時母体がもたないということで早く生みました。お産がすめば蛋白尿がよくなるということでしたが、数値は4本プラスが2本プラスになっただけで入院がその後も続きました。家族を心配して泣き、食事もとれなくなり、そんな私を心配した先生が退院させてくれました。1年位かけて漢方薬をせんじて飲みながら治ることができました。この2回のトラブルで、人がスムーズにできることが上手にできないのは被爆と関係があるのかなあと思ったりしました。これが被爆者共通の心理かもしれません。
<家族の中で> 私が被爆者であるということを夫に初めて言ったのがいつかは覚えていません。当時は手帳取得が結婚にさわるという風評もあり、姉などは「いらない」とすぐにはとらなかったような気がします。私はそんな思いもなく所持していたのですが、夫が戦争の責任とか社会のものの見方などで、私よりはるかに反戦の意識が強かったので何も心配ありませんでした。広島・長崎の式典中継でも私より深く正座してみるような人で、これは幸いでした。 家庭の中で被爆体験を話せたこと。それを淡々と聞いてくれる家族がいたことはうれしいことです。 初孫が5才のころでしょうか。我が家には「原爆の図」「ひろしまのピカ」「ピカドン」(いずれも丸木位里・俊作)や原爆ドームの本など夫が集めた本がたくさんあります。それらを持って帰るほど興味をもち、「原爆ドームに行きたい」と親にねだるほどの孫娘。ホロコースト記念館にも何回か行き、私たち夫婦にもアンネの部屋を丁寧に教えてくれ、「ああこの子は平和の担い手に」と期待をこめて見守っていました。なにしろ8月15日生まれですから。そしてその孫に、佐々木禎子さんについてまとめたダイジェスト版の本を夫は作りました。それを読んだ孫は「禎子さんちは散髪屋さんだったんだね」と。夫はその一言に苦笑していました。2、3年もすると興味を失った孫娘が、いつの日かまた興味と関心を持ってくれれば幸いです。 孫娘が小学校1年生くらいの夏に遊びに来て、寝物語に被爆体験の話をしたところ「おばあちゃん(生きてて)よかったね」と言われ、私ははっとしたのを覚えています。「生きてて申しわけない」という被爆者のことばがよく言われます。私に明確にあるのではありませんが、いくらか私にも長生きへの申しわけなさみたいなものがあります。でも「よかったね」というのはありがたくかみしめたいと今では思っています。
<最後に> たまたま2020年��月15日付の中国新聞に、「被爆���リンピアン肉声現存・広島市出身36年出場故高田静雄氏」という見出しを見ました。その人は小学校時代の級友の父親です。また、米兵たちの被爆をほりおこし追悼してオバマ大統領にハグされた森重昭さんも級友のお兄さんです。佐々木禎子さんが白血病で亡くなられたころ入院した級友もいます。でも、私たちは戦後60年、還暦を迎えた同窓会でほんの少し被爆のことを話したことがあるくらいで、級友でも詳しいことはほとんど知りません。日々衰えていく記憶と、語りあう機会も減っていく中で、今回書き残してみたのはよかったように思います。記憶とは不思議なもので、自分流にゆがめているかもしれません。この主観的な記録がどのように伝えられていくのか少し楽しみです。長生きすれば「最後の被爆者」となる可能性もある人間の記録ですから。そのためにも両親からもっともっと話を聞いておきたかったです。
<さらに> この原稿のパソコン入力を娘がひきうけてくれました。彼女は幼い頃、原爆資料館のろう人形母子を見ておびえましたが、私と平和行進に参加したことや、大会で「青い空は青いままで子どもらに伝えたい。燃える八月の朝…」と歌ったことは覚えています。8月6日の式典で峠三吉の詩を子供代表が語ったのに感動して、東京から電話をかけてきたこともあります。彼女には彼女のヒロシマとの歴史が作られているのですね。いろいろな形でヒロシマが伝承され続け、子や孫・その先まで、この愚かなことがくり返されぬように祈ります。私の胸を今でもゆさぶる歌「原爆許すまじ」を心に銘じて。
(2020年4月記/上村洋子)
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丑の刻の平安京に羅城門が顕現し、下人が侍を鞭打ちしこと
今は昔、さる山中を根城とする盗賊の砦に、のちに都で下人をすることになる子供がいた。砦に囲われた女たちの一人が産んだ男の子だった。子供は口減らしのために棄てる決まりだったが、時々首領が気まぐれを起こして育てさせることもあった。それで、下人にとって女たちは母たちでもあった。
母たちは下人をかわいがった。乳をやり、口々にことばを与えた。
お前の本当の母さんは死んじゃってね。産んですぐ後にね。かわいそうにね。
下人には「本当の母さん」という言葉の意味するところがわからなかった。母はつねに複数いた。赤ん坊は横で頭を潰されて死んでいった。生かされた兄弟たちは、自分と同様に母たちに可愛がられていた。
盗賊たちは街道を通る商人や役人の一行を襲い、身ぐるみを剥いだ。男は報復を防ぐため皆殺しにした。女は裸のまま逃したり、時には何人かさらってきて元からいた女を代わり��捨てたりした。母たちの顔ぶれは入れ替わった。
成長すると、下人も盗みに駆り出された。
初めての仕事は、寺の鐘を盗み出す手伝いだった。まず老法師に扮した爺さんが寺に行き、うまく鐘堂に泊めさせてもらい、そのまま死んだふりをする。下人は、兄弟の一人と共に寺に赴き、激しく泣いて見せ、夕方に引き取りに来ると行って立ち去る。寺の僧たちは貰い泣きをしていた。あとは年上たちの仕事だった。死体を運ぶふりをして鐘を盗み出す者。鉦を叩き経を上げさせる俗法師の仲間たち。鐘堂の穢が明けて小僧が鐘堂を開ける頃には、鐘を鋳融かして加工し市で売りさばいた後だった。
母たちは下人がどんどん一人前の盗人になっていく様を見て嘆き悲しんだ。
ある日連れてこられた母は元は都で女房をしていたといい、男たちの目を盗んで地面に木の枝で読み書きを教えてくれた。下人はすぐに女手と男手のどちらも覚えた。女は夜みなを集めて「光る君」の話を諳んじてみせ、皆で貴人の生活や恋愛に思いを馳せた。あまり娯楽のない砦の生活で、「光る君」の朗読は女たちにとってお楽しみの時間となった。
やがて下人は成長したが、母たちは相変わらず母たちだった。寝ていると母たちの上に覆いかぶさって揺さぶる男たちを嫌悪していた。
自分も「光る君」のような男と「契り」を結んでみたいと思っていた。
そう女房の女に言うと笑われたが、下人が笑わないのを見て口をつぐみ、都に行くんだね、でもなきゃ寺にでも入りな、と言い捨てて母たちの集まりに戻った。
ほどなくして、役人と貴族たちの軍団が砦に攻め入ってきた。
女房は知らせを聞くなり下人を殴って昏倒させ、盗品から密かに隠しておいた女房装束を着せた。下人が目覚めた時には、男は子供に至るまで皆殺しにされ、女たちは砦の前に立たされた。貴族の一人が、何人かを奴婢として持ち帰りたい、と言うと、女房が下人の手を引き前に進み出て、これはかつては宮仕えをしていた女房だ、どうかこの女はそういうものとして扱ってくださらんか、と言った。本当かと訝しむ役人たちだったが、下人が漢籍をすらすらと諳んじて見せるとすっかりそれを信じ、貴族が都に持つ邸宅に仕える家女房として引き取られることになった。
母たちは何も言わず、ひとり都へ向かう牛車に乗り込もうとする下人を涙ながらに送り出した。
掠奪品と共に運ばれた男たちの首は日に日に腐っていき、都で晒される頃には誰が誰のものなのか区別が付かなくなっていた。
都は「光る君」の話から受けた印象とはとうてい異なる場所だった。
正門であったという羅城門はずっと前に倒壊して、柱の残骸のようなもの��残るだけになっていた。路上に死体と糞便が溢れているのに文字通りに閉口した。牛車の暖簾の間から、山では見たこともないほど肥え太った蝿が、何びきも入ってくるのだ。少し人通りの少ない所に入ると餓えた犬たちに襲われ、御者と兵が棒や刃物で殴り殺そうと大騒ぎになった。
受領の邸宅は七条と東洞院の交差する所から二町ほど下った所にあった。確かに内裏の近くではないが周りの家と比べては大きいように見えた。塀の中に複数の建物が集まっていて、池や金目のものを集めた倉庫すらあった。感心していると、非常にしばしば集団強盗や放火に遭うから少し離れた所にある別宅に住まうことになる、ここへは物を取りに来ただけだ、と言われた。
別宅はもっと内裏に近い所にある小さな屋敷だった。受領の娘はここで下人を数人従えて住んでいた。もともと居た家庭教師は、さる歌合で才を見出され、女房として出仕することになったそうだ。そういう者にものを教えられたせいもあってか、娘はまだ幼いのにとても利発で、歌や漢籍に関してはもう教えることがないほどだった。その代わり笛や箏は苦手なようで、自分にも教えられることがあることに下人は安堵した。毎日管弦の稽古をして、飽きると歌を作ったり、「光る君」の巻物を読んで感想を語ったりして過ごした。
数年経って娘の女房仕えの話がまとまりかけた頃、都に疫病が流行りはじめた。まず赤い発疹が腕や顔に現れ、数日で高熱を伴って全身に広がる。かすかに肉が焼けるような臭いがし始めると今度は代わりに血を吐き、青白くなって息絶える。下人の数人が倒れ、次は娘だった。
娘が苦しみ悶えながら死ぬ様を呆然と見送った。使いを送ってしばらくのち、受領が悲嘆に暮れつつ下人の前へと現れた。
ひどい有様だ。本当にひどい。鬼が……千切れた腕や、頭を持って、走り回っているんだ。
受領は、あなたを養子として迎える準備がある、と微かに涙の残る声で下人に告げた。思ってもいない話だった。下人は少し考えたのち、微笑みながら首を横に振り、立ち上がって服を脱ぎはじめた。単衣を床に落とすたび少し赤らんだ受領の顔が、肌を曝すと再び血の気を失い、袴を脱ぐ頃には昏倒した。
下人は死んだ下人の服に着替えた。
*
下人となった下人は、女房装束や日用品を一揃い背負い籠へ入れて家を出て、その辺をぶらぶらした。
疫病は大量の死を生み出していた。庶民の死は単なる悲劇だが、貴人のそれは大量の失業者の発生を意味し、路上には常ではありえないほどの路上生活者がいた。みな妊婦のような腹をしていて、何も身に付けておらず、土や垢で汚れきっており、老若男女の区別も付かぬような状態だった。力なくへたり込んでいるように見えて、屋内で出た死体が外に投げ出されると驚くほどの俊敏さで群がった。なるほど、鬼かもしれない、と納得した。しばしば彼らは疫病で死んだり、犬に襲われて死んだり、暴漢に殴られて死んだりしていた。
内裏の近くまで行くと、なぜかバラバラになった死体を集めているものたちに出くわした。ひとりの男に話を聞いてみると、怪訝そうな顔をしながらも、烏や鳶が途中で落としてしまうのだ、自分たちは刑吏や死体の廃棄を生業としている者たちで、内裏や貴族の家の近くで発生した死体を片付けると、検非違使が彼らに金を与えてくれるのだと言った。そういう利権で食っている集団が複数存在し、穢れの度合いで報酬も変わってくるのでどの集団がどこのどんな死体を拾うというのが大変微妙な機微をはらむ問題らしかった。話をしている間にも遠くの方で小競り合いが起き、加勢しなきゃ、と言いながら男は去っていった。
夜な夜な下人は死体が発生したという独居人の家に忍び込み、死体を運び出して空き地に捨てた。それから家に戻り、女房装束を着て笛を吹いた。しばらくすると、簾の向こうに人影が見え、細紙が簾の隙間から差し入れられた。「夢のような笛の音色に引き寄せられてたどり着いたこの破れ庵に美しいあなたが垣間見えたことだよ」という歌が書きつけられてあった。下人は少し考えて、「夢に見たあなたのことを思って笛を奏でておりました、夢であなたが教えてくださった曲を」という歌を書いて返した。
男は簾をくぐって入ってきた。下人は扇で顔を隠し、窺い見た。特に光り輝いてはいなかったのでがっかりした。
この家に住んでいたものは、亡くなったはずではなかったか。
こうして生きておりますわ。
女ではなかったはずだ。
そういうこともございますわ。
男は出口を塞ぐように立ち塞がって抜刀した。
そなたはあやかしか? それとも強盗か?
歌を解し文を書いて贈るあやかしや強盗など、聞いたことがございませんわ。
そう返すと男は納得した様子で刀を鞘に戻し、なるほど、貴人とは虫のように単純な頭をしているのだな、と思った。契りを結ぼうと鼻息荒く覆い被さってくるのを「このような夜を寝るだけで過ごすのは風情がないことだよ」とか何とか言って押しとどめ、娘の家からくすねてきた酒を飲ませた。
あなたは人を殺めたことがございますの。
なぜそのようなことを訊く。
武の道に秀でた殿方は素晴らしいと思いますわ。
そう煽てると男は敵対する貴族を刀で斬り殺しただの手際の悪い牛飼童を殴り殺しただの自慢しはじめた。こいつは「光る君」とは似ても似つかぬ下郎だなと思った。「光る君」は人を殺さない。男を手刀の一撃で昏倒させると、身ぐるみ剥いで背負いかごに突っ込んで家を後にした。
それからも何度も同じことを繰り返したが、その度に失望を味わうこととなった。誰に聞いても快楽殺人を一度は行なっているとは一体どういうことなのだろうか。都人たちを見ても、けだものが職と服を身につけて歩いているとしか思えなくなってきた。
それでもいつかは「光る君」のような有徳の���が垣間見てくれるのではないかと期待していた。
ある日、簾の前にすらりと高い影が差すのが見えた。笛を吹くのをやめて見上げたが、じっとそこに立って動く様子がない。じれったくなって「なぜそのようにじっと立っているのでしょう、私の心まで見透かしているなら中に入っていいとわかっているでしょうに」という内容の歌を書きつけた細紙を出し出すと、男は黙って簾をくぐってきて、下人の前に立ち塞がった。
何の御用でしょうか、と訊ねると、男は急にもじもじし始め、消え入りそうな声で話しはじめた。
頼みたいことがあるのです。
侍は俯きながら乗馬用の鞭を手渡してきた。
これは何でしょうか。
鞭です。
それは分かります。何故こんなものを渡してきたのかをお訊きしているのです。
男は答えず、着物をはだけて上半身を顕にし、後ろを向いた。毛深い背中には幾百幾千の傷跡が斜めに走り、醜く盛り上がっているのが見えた。
お帰りください。
男は下人の膝元に蹲り、涙ながらにこれまでの事の顛末を語った。元は侍として内裏に仕えていたが、ある女と共寝をしてこれを妻とした。しかしある日突然妻から鞭で何百回も叩かれ、なぜか強盗団の幹部として働くことになった。数年経ったある日のこと、愛する妻は家や家財もろとも蒸発してしまい、男は検非違使にひっ捕らえられて獄に入れられた。刑期を終えて宮中を彷徨っても結局妻を見つけることはできず、悲しみに暮れていたところ、笛の音が聞こえてきたのだという。
前の妻と出会ったときも、その曲を吹いておりました。きっとこれは宿世の縁です。さあ、私を打ってください。
理解はいたしました。お帰り願えますでしょうか?
侍はその格好のまま惨めに泣き始めた。身体の震えで着衣はますます乱れ、尻や腿までもが同じような傷に覆われているのが目に入ってしまった。
下人は肚を決め、衣をはだけて上半身を顕にした。
騙す形になってしまい申し訳ございません。私は女性ではございません。あなたの妻になることはできませんから、お引き取り下さい。
構いません。妻も私を鞭で打つ際は男装をしておりましたから。
そういう問題ではないのではないか? と下人は思った。侍は泣きながら遺品だという水干袴と烏帽子を見せてきた。
仕方ないので打ってやることにした。
試しにどんなものか一度叩いてみると、腐っても鞭、軽く打つだけで厚く堅くなったはずの侍の背中には鋭い傷が残り、血が滲み出した。侍がぐっと何かに耐えるような声を漏らしたのが真に迫っている感じで嫌になった。あんっ♡とかそういう、ちょっと楽しげな感じだと思っていたのに。
気を取り直して、何回打てばよろしいでしょうか、と訊ねると、妙にはっきりとした声で八十回よろしくお願いします、と返ってきた。
八十回打ち終わる頃には背中が一面血塗れになったが、男は、平気だ、と言うばかりだった。流石にこれを放置するわけにはいかぬという気持ちになり看病をしていると、下人は言い知れぬ理不尽さを感じ、涙が流れた。
ここを離れようと思い服を着直していると、侍がお待ちください、と手を握ってきた。
礼を言わせてくださいませんか。ご迷惑をおかけいたしました。
その真摯な眼差しから何故か目が離せなくなり、下人は無意識にいつもの質問をした。
あなたは意味もなく人を殺めたことはございますか。
侍は少し考えてから、ないと断言した。下人は、なぜ自分がそんなことを訊いたのかもわからぬまま、その家を立ち去った。
下人はその日を境に垣間見待ちをやめた。再びあの侍が来そうで恐ろしかったのだ。それから、食い扶持を稼ぐために盗賊団に入ることになった。
あんたも都にさえ生まれればね。こんなけだもの共とは無縁の現世だったろうにね。何にだってなれたのにね。
母たちはよくそう言ったものだった。実際、何にでもなった。女房のようなことをしたあとは、貴族から強奪した所持品を売り飛ばすために行商の変装をした。それで何とか生計を立てていた。今は強盗団だ。強盗団は強盗だけをして生きている人間ばかりではない。商人や聖職者、役人や女房のような者たちすらいた。貴族の家で働く使用人や侍はしばしば情報を売り渡し、自分で屋敷に火を放ちすらした。彼らもけだものだ。下人も仲間の手引きで貴族の家に下人として働きに行き、強盗を行うときは偵察や暗殺を行った。
朱雀大路にやってきた旅芸人の一座を見て、自分の生まれを思い出さずにはいられなかった。偵察し、場所を開けるよう頼む者がいる。声を出して人の気をひく者がいる。演じる者がいる。道具を運び、組み立てる者がいる。金を集める者がいる。彼らもきっと盗むのが上手いだろうと思った。
「光る君」のことを諦めた訳ではなかった。本物の下人として内裏へと出入りするようになった。しかし幾度宴を覗き見たところで、どの男も光り輝いていなかったので、いよいよ失望を覚えた。宇治にでも行った方がよいのだろうか、と思い始めた矢先に、腕の内側に赤い発疹ができた。信じられないような早さで熱が上がり、内裏の中で動けなくなった身体を下人たちが引きずり出して、路地に捨てた。
目を開けていることもままならなかったが、それでも飢えた犬と飢えた人間たちが近づいてくるのを感じた。襲い掛かられることを覚悟した瞬間、何かが自分を背負い上げた。まだ死んでいないのに河原に捨てられてしまうのだろうか。いったい私の穢れはどの程度、どのくらいの価値があると判断されたのか。
下人の意識はそこで暗転し��。
*
下人は小さな部屋で目覚めた。見知らぬ部屋のようでもあったし、これまで一夜を過ごして貴族を殺した部屋のどれかであるようにも思えた。簾が風にはためく音が耳に入り、目を向けると人影が見えた。すらりとした長身で、かすかに光り輝いていた。
簾の外に出ると、男の姿はなく、かすかな光が尾を引くのみだった。その光を辿っていくと朱雀大路に出た。南の果てが金色に光っているのが見えた。ふらふらと歩み出した。死人もなく、野犬もいないことに下人は気付いていなかった。
七条を過ぎる頃に、見慣れない建物が見えてきた。京の南端にたどり着くと、羅城門の跡地に巨大な建物が建っていることが分かった。朱雀門に似ていた。
門扉を開けると、上階から光が漏れ出ていた。階段を登ると老婆が死体の髪の毛を毟っているのに出くわしたが横を素通りした。廊の突き当たりに、薄金色に発光するものが見えた。近寄ってみると、あの侍が正座しながら発光していた。下人が追ってきたことを後悔して帰ろうとすると、またも鞭を手渡された。
さあ、私を打ってください。
お断りします。
打ちなさい。あなたは私を打たなければなりません。
なぜ。
なぜでも。
無視して帰ろうとすると、後ろから「わしが今、髪を抜いた女などはな、蛇を四寸ばかりずつに切って干したのを、干魚だと云うて、太刀帯の陣へ売りに往んだわ…」とぶつぶつ喋る声が聞こえてきて、横を通り過ぎて帰るのが嫌になってしまった。あの老婆が毟り終わって帰るまでここを動きたくない。
仕方ないので打ってやることにした。
今回は何回ほど打ったらよろしいでしょうか、と訊いたらまたも一時の逡巡もなく、八十回、と返ってきた。どうもその回数に拘りがあるらしい。
気乗りがしないままに叩きはじめると、また男が濁声で耐え忍ぶような声を上げはじめたのでうんざりした。どうせ叩かせるのなら、もっと気持ち良さそうにしてくれた方がまだ叩き甲斐があるのに、と思っていると、突然男が振り向いた。
手を抜いているでしょう。
はあ。
あなたはよっぽど度胸のないかたですね。
下人はその言葉を聞かなかったことにし、無心で八十回打ち据えた。侍の背中は樫の幹のように硬く頑丈で、手が痺れてしまった。こんなことをしてもらって悦ぶようになる前はきっとさぞかし立派な侍だったに違いないのに、どうして……。下人は、虚しくなってしまった。
終わりましたよ。
ありがとうございます、と言いながら侍は立ち上がり、下人の方に向き直った。
では、今度は腹を八十回お願いいたします。
ご冗談でしょう、と下人は叫んだ。背中はすでに裂傷でズタズタになり、どんな悪人でももうこれ以上は打たないのではないかと思うような状態になっていた。死んでしまいますよ。
これしき何でもありません。この傷跡が目に入りませんか?
侍は胸を張って見せた。確かに胸から背中ほどに掛けてびっしりと傷跡が隆起しているのが見えた。
下人は言葉を失ってしまった。老婆の声が再び響く。「…せねば、饑死をする���じゃて、仕方がなくした事であろ。されば、今また、わしのしていた事も悪い事とは思わぬぞよ。これとてもやはりせねば、饑死をするじゃて、仕方がなくする事じゃわいの。じゃて、その仕方がない事を、よく知っていたこの女は、大方わしのする事も大目に見てくれるであろ。」
下人は共感した。一緒に髪をむしりに行ってもいいかな、と思った。下人には地上の法が理解できない。下人は強盗だった。人を殺し、物を盗んで暮らしてきた。
下人が振り向こうとした瞬間、肩を強い力で掴まれ制止された。
そちらへ行ってはなりません。
なぜですか。
ならぬからです。
罪のある者たちの物や命を奪うよりも、あなたを鞭で打つほうがよほどならぬことだと思われるのですが。
侍はこれを聞いて、それはどうしてですか、と不思議そうに聞き返した。下人は答えに窮した。
あなたが死んでしまいそうで恐ろしいからです。
こんな程度で死にはいたしません。それに、私が死んだところであなたに何の問題がおありですか。
いけないことです。
なぜいけないと思うのでしょうか。
必要のない死、必要のない暴力だからです。強盗とは違います。強盗は生きるために行うことです。
私は必要としています。生きるために必要なことです。
私には必要がありません。
だからよいのです。人に施しを与えることは功徳を高める行いです。さあ、私をお打ちください。
全く納得のできない論理であった。躊躇していると、お打ち願おう! という大音声と共に間合いを詰められた。もう逃げ場がない。
仕方ないので打ってやることにした。
八十回でよろしいですか、と訊ねると、そうだが、とでも言わんばかりの慇懃さで頷かれて腹が立ち、思わず加減をせず一発目を叩いてしまった。
ぐっ……いい打ち加減だ。その調子です。
心底気持ちが悪いと思った。下人は何も聞かなかったことにして無心に叩こうとした。しかし背中を叩くのとは違って表情で反応がわかってしまう。普段通りの力で叩いたら物足りなさそうな顔をするのが見えてなんとも不愉快な気持ちになり、顔を背けてしまった。
なぜ……。なぜ私は、このような様子のおかしい者を殴らなければいけないのでしょうか……。御仏様、これが、私が今まで犯してきた罪に対する報いなのでしょうか……。生まれてきたことが、間違いだったのでしょうか……。
侍の腹は樫の幹のように硬く頑丈で、八十回打ち終える頃には手が痺れてしまった。
いいですか。これで最後ですよ。もう二度と絶対に叩きませんからね。
下人が顔を上げた。侍は全身からぼたぼた血を垂らしながらこちらを観察していた。鬼のようだった。
私を打って、楽しかったですか。
いいえ。
二百四十回も打ったのに、ただの一度も。
苦痛でした。
ならばあなたは暴力がお嫌いなんですね。本当は、人を殺すのも、人から物を盗むのも嫌いなはずだ。あなたは��手を理解し、管弦の扱いにも長けたお方。好きなはずがない。
強盗だって読み書きや管弦の扱いくらいわきまえていることくらいありましょう。
それにあの服。なぜ女房装束を着ていたのですか。
あなたの奥様が男装をしたように、私も女装をしていただけでございます。
では、どうしてあんなことを訊いたのです。あなたは意味もなく人を殺めたことがありますか、と。
下人には答えられなかった。黙っていると、侍は下人���抱擁した。自分が震えているのがわかった。なぜ震えているのか分からなかった。血の匂いが濃く香り、自分の着物を熱く濡らすのが感じられ、一層大きく身震いした。
強盗のあなたと女房のあなた、どちらが本当のあなたなのですか。どちらが本当の望みなのですか。
*
答えようとしたところで目が覚めた。
見知らぬ部屋に寝かされていた。頰が涙で濡れているのは意味のわからない夢を見たせいだろう。羅城門が再建されるなどという話は、聞いた覚えもない。いや、そんなことよりも。
生きている……。
弱った腕を持ち上げて、発疹がないことを確認した。信じられない。あの病に罹って生き延びたものなど、聞いたことがなかった。御仏の加護だろうか。この私に。
外から、貴人と思われる男が入ってきた。
目が覚めましたか。
ここは……。
私の家ですよ。部下の一人があなたをここまで運んできたのです。
家の中で死んだら大変なこと(内裏に出仕できなくなるなど)になるはずだった。よく匿ってくれたものだ。奇異の目で見ていると男は、私は自由の効く身なのです、と言って微笑んだ。
運んできて下さった方は……もしかして、身体中が傷だらけで赤い髭の方でしょうか。
そうです。
お礼を言いたいのですが。
死にました。
死んだ?
あなたはここに運ばれてすぐ血を吐きはじめ、もういつ息絶えてもおかしくない状態でした。あの男は熱心に看病をしていましたが、あなたの身体が青白くなる頃には黙って泣いていました。それが丑の時にもなろうというころに突然「行かねばならぬところがある」と屋敷を出ていったのです。そして今朝、羅城門の跡で、死体になって見つかりました。身ぐるみ剥がれた上に髪の毛まで抜かれており、体中に謎の鞭傷が残っていたそうです。……どうかしましたか?
いえ。悲しいことですね。
下人の頭には先ほどまで見ていた夢の光景が急速に蘇りつつあった。
貴人は、好きなだけここで身体を休めてくれて構わないと鷹揚に言い残してどこかに去り、それきり顔を見せなかった。頼りない、なよやかな首の感じが妙に印象に残る、美しい男だった。
下人は横になりながら、答えられなかった最後の問いについて考えていた。
──私は「光る君」に会いたかった訳ではなかったのかもしれない。「光る君」の話に出てくる者たちの生活に憧れていただけかもしれない。暴力もなく強盗もない美しい世界のように思われたのだ。そして、それは「垣間見」でしか得られないものであるような気がした。きっと、あの砦で一緒に話を聞いていた母たちにもとってもそうだったに違いない。
──私は色々なものになった。男にもなったし、女にもなった。どんな職業にも成りすまして、盗み、殺してきた。でも、私は母親にだけはなれなかった。母親になれなければ契ることはできない。母たちはきっと、そこに目を瞑っていた。それでも私に女房装束を着せて、生き延びさせてくれた。
──自分にはどうしようもできないことだ。どうにもやりきれない。そして、私たちの早急で不実な考えは、あの男に死をもたらした……。
下人は、枕の上ではらはらと涙を零した。大きな声を出して往来を走り回りたいような気分だったが、身体は相変わらずうまく動��なかった。
*
ある晩、夜半に目を覚ました。簾が風にはためく音が耳に入り、目を向けると人影が見えた。すらりとした長身で、かすかに光り輝いていた。
簾の外に出ると、男の姿はなく、かすかな光が尾を引くのみだった。下人は、光の後を辿って、歩みはじめた。身体の重みは感じなかった。
下人の行方は、誰も知らない。
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2019.12.07 感が動くと思考がとまる。そしてDQウォーク
このところ、趣味の激辛料理摂取をやめている。うどんに七味、パスタにタバスコくらいは軽くエンジョイするものの、人体に戦いを挑んでくる種の凶暴なチャレンジメニュー=大好物とは距離をおくよう心がけている。
というのも、酒と激辛の大量摂取のおかげさまで順当に罹った逆流性食道炎が、悪化傾向にあるからだ。刺激物を摂ると、明らかにみぞおちと背中が痛む。酒も飲みすぎると、塩に触れたかすり傷のごとく内臓がひりひりする。
長年飼っている胆石が悪暴れしている可能性も否めない。みぞおちの痛みはまさしくその症状のひとつ。胆石の中には投薬治療できる種もあるらしいが、私の子らには薬は効かず、いよいよ暴れた場合は入院手術が必要となる。
その胆石や生活習慣の影響を監視すべく、毎年胃カメラとエコーの検査を欠かさずおこなっている。小心者の大酒飲みの激辛愛好家ゆえに、いつまでも容赦のない刺激を受け続けるための健康チェックには余念がない。
余談だが、血液検査と尿検査は毎月おこなう。その都度、逆流性食道炎とか食後血糖値症とか自律神経失調症とか頚椎椎間板ヘルニアとか貧血とか、いろいろな不備が発見される。そう羅列するといかにも体調不良のオンパレードだが、最近思うのだ。私、お医者さんに行き過ぎなのではないかと。
もう中年なのだからまったくの健康体であるはずがない。内臓にダメージを食らわせる生活習慣にも心当たりがあり過ぎる。加えてそう頻繁に病院に出向いていたら、何かしらの不備が見つかるに決まっている。
健康診断を受けずに、突然大病を患い、こまめに受けておけばよかったと後悔したという話をよく聞く。それを避けたい一心でこまめにチェックしているわけだが、そもそも病気の原因となる生活習慣を改善する気がさっぱりないのはどういうつもりなのだろうか。
しかしそう鷹揚に構えているわけにもいかなくなった。今年は内視鏡等の診断結果が悪く、いよいよ明確に食道ガン予備軍と宣告されてしまった。さすがに反省し、先々月はとり急ぎ1週間アルコールをぬき、激辛とカフェインも控えた。
結果、食道の調子はすこぶる良くなった。が、困ったことに、頭がまったく働かない。集中力が低下し、原稿が書けない。単語は出てきても、文脈がまとまらない。6時間かけてなんとか記した文章は、たったの2行だ。
数年前までは、蒙古タンメン中本の北極10倍辛を汁まで食ら���て平らげた後、日中はコーヒーを、夜は焼酎をがぶ飲みながら1晩で2万字書いてた。それが一転、ひたすらに脳がもじゃもじゃして2行しか書けないのだから、廃業まっしぐらだ。
2年半前に煙草をやめたときもそうだった。煙草を吸いながら原稿を書く習慣がセットになってしまっていたせいで、片方を禁じたらさっぱり書けなくなってしまった。禁煙直後は、それまで2日で終えていた文章量の執筆に2ヶ月かかった。
それはいわゆるニコチン依存症の離脱症状で、ニコチンによって脳内に日常的に大量分泌されていた快楽物質ドーパミンが欠乏することにより、イライラしたり、怠くなったり、無気力になったり、眠くなったり、集中力が低下したり、抑うつ状態に陥ったりする。
アルコールもドーパミンをじゃんじゃん分泌させる。激辛のカプサイシンは脳内麻薬エンドルフィンをじゃんじゃん誘発する。疲労や眠気の受容を邪魔するカフェインも含め、様々に多幸感溢れる脳内分泌物によって散々鼓舞され、覚醒し続けた我が脳は、今、ドーピングを失い、すっかり鈍化した。
それまで酷使してきた疲労も蓄積されているのだろう。自ら動く力が弱まっている。我が脳は、いうなれば脳内麻薬の人参がなければ走れない馬。私は脳の持ち主のはずなのに、その分泌物に行動を制限されるとは情けない。
諸々の依存は、人間の意志や思考を無視して人間を支配する。身体にもダメージを与える。私は煙草の吸いすぎによって肺気腫になったし、酒と激辛の摂りすぎによって逆流性食道炎になった。なんとわかりやすい構造だろうか。わかっているのになぜ先にやめないのか。
呆れ果てながらも、身体からのダメだしを受けて、なんとか生活習慣の改善を試みる。禁煙を続け、激辛を避け、なるべく消化の良い食べ物を摂取する。コーヒーも常飲をやめ、外食ランチのときに1杯だけ飲んでいいご馳走方向へと切り替えた。
ところが、酒だけがやめられない。強敵。我慢できても、がんばって1週間。その後はご褒美とばかりにまた飲み出す。もっぱら焼酎の緑茶割りを飲んでいるのだが、緑茶もカフェインを含むわけだからコーヒーのみご馳走扱いしても意味がない。
さらに困ったことには、頭がクリアになってしまうのだ。依存のメカニズム上、本当は鈍重化を促進させているのだが、頭が軽くなり、気も晴れるような錯覚が生成され、調子がいいぞと脳が騙される。主治医曰く「酒はうつ症状の素。陽気になるのは脳が騙されてるだけ」とのこと。
アルコール依存の仕組みはひととおり理解している。支配されているだけで、心身ともに良いことなどないと承知のうえである。しかしながら酒を飲むとするする文章が書けてしまう。まじでただのドーピング、ヒロポンさながら。
コーヒーを飲むと、如実に頭が冴える。錆びて動かない思考��歯車が回転し始める。カプサイシンを摂ると急に霞のかかった脳内がクリアになる。気力活力ともに大充実。しかし食道は痛む。再び2、3日、それらを抜いて調子を整える。
ノンカフェイン、ノンアルコール、ノンカプサイシンの日々は憂鬱で、脳のひだというひだに灰が詰まったみたいに頭が重い。それも偏にカフェイン、アルコール、カプサイシン、かつてはニコチンがもたらした後遺症に他ならないのだから、ただの因果応報だ。
最も困るのは、私の意志や思考の許可なく、動きだしてしまう「感」である。脳内麻薬も、私の人体内の活動であるにも関わらず当の私の許可なく私を支配するが、感情や感覚もまた、私の意志���思考を無視して勝手に反応するのでうんざりする。
テレビで見かけた、親子の断絶とお涙頂戴の仲直りのような予定調和を斜めに見ながら、まじでくそくだらないと心底軽蔑している最中、なぜか、号泣している。頭は、感動ポルノなんか消滅してしまえと思考しているのに、身体はそれを無視して嗚咽を漏らしている。
Netflixで延々と映画やドラマを見続けて、頭では分かりきっているフィクションの設定に対し、脊髄反射的に激怒し、大笑いする。お笑い芸人さんにガチ恋してYouTubeを漁るうちに、おまえ本当にガチ恋してるけど大丈夫か、と自問自答することさえ忘れ、ただひたすらに漁り続ける。
買い物に行けば、すれ違った幼い子供を見て、子供を産まなかった自分の人生を、がらにもなく逡巡し始める。その選択には意味があった。理由もあった。何より意志がある。しかしそうした私の思考は棚上げされた状態で、感が動き、メランコリー質の戸惑いに心をとらわれる。
レジの長い列や混雑している病院の待合室で、公共のルールを守ってきちんと並んで順番を待とう、社会は自分の都合の良いようにできていないと考える一方で、なぜそんなにと理由を問いただしたくなるくらい激怒し、地団駄を踏みたくなる。ちょっとしたことで意味もなく喚き散らしたくなる。
他方、ふらっと立ち寄った手芸店で可愛らしいくるみのボタンを見つけたときには、本当は可愛らしいものが好きなのに照れて意識的に隠し、粗野な男みたいに凶暴に振る舞うペルソナを社会で機能させたわけだが、そんな設定どうでもいいくらい超可愛いなにこれ大好きと、激しいテンションで少女のごとく嬉々とする。ちなみに、後日見ると全然可愛くない。
ある日は、犬を見て泣いた。完全に情緒不安定である。これはおそらく、無情の灰の塊のように固まった脳に、私なのか、無意識なのか、脳自らなのかわからないが、何かが、刺激を与えて動かすべく、感情を故意に昂ぶらせにかかっているのではないかと推測する。
ならば、気に入らない。脳内分泌物質に支配され、思考が鈍った。その��に感情がつけ入り、いよいよ思考が止まった。そして、感情に支配される。私の人体が、脳内物質と感情に乗っ取られている。そこには、私がいない。私の言動に、私の自己決定が反映されていない。その私とは、果たして誰だろうか。
脳内物質が分泌されるきっかけを作ったのは、私の嗜好であり、摂取したのは私の選択である以上、その不足による不調は自己責任の範疇にある。人体の一部に滲み出る脳内物質の分際で私を支配するのは気に入らないが、自分の言動の結果として理解はしている。
だが、感情は、私の所有物ではない。自分の心に湧き上がる感情や、外部の刺激を察知する感覚は、私と、他者や社会や外界との摩擦によって生成されるただの反射反応である。私サイドには、私に与えられた環境や経験より培った価値観や思想があり、それが様々なひと・こと・ものと遭遇し、ある感情がどこからともなく現れたり、五感の感覚が生まれたりする。
その感じ方には、個体差がある。私にとって嬉しいことを、悲しいと捉える人がいる。誰かにとって美味しいものも、不味いと思う人がいる。よって、こと・ものを主語に据えた形で、「そのことは嬉しい」「そのものは美味しい」という事実はこの世には存在しない。ひとを主語に、「そのひとは、そのことが嬉しい」「そのひとは、そのものが美味しい」が正解である。
時に、他者と同様であるとは証明し得ない自分の感情や感覚を、無自覚的に全世界の事実と取り違えたり、「感じ方」を根拠に自分とは異なる「感じ方」の持ち主を人非人として断罪したり、そうした「感じ方」「お気持ち」を故意に引き合いに出してファクトを捻じ曲げたりする人を見かけるが、そういう方々は自分と「感」と他者と世界の境界線が有耶無耶になっていると「感じる」。
私は境界線に意識的でありたい。感情は反射・反応でしかない。それを感じる素養や肉体は私のものであっても、相対するものがなければ発生しない以上、すべて私が所有するとは言い難い。
両者の接触より発生する性質を鑑みると、作用とでもいうべきか。翻って私の意志や思考や決定権は、私の所有物だ。それが正しかろうが間違っていようが知ったことではない。それらは私だけのものなのだ。
その大切な私の所有物が、ただの反射反応の作用である感情によって、ねじ伏せられている。無意味、無思考、無許可のまま、漫然と犬を見ただけでメランコリーに陥り、泣いてしまうようなことがあっていいのか。
ノンアルコール、ノンカフェイン、ノンカプサイシンの、ないない尽くしの毎日をぼうっとやり過ごして、それでいいというのか己よ。嫌だろうよ。
とはいえ、ここにきて感情がのさばっている状況にも因果はある。私には、物心ついた時から感情を「ただの反射反応」と小馬鹿にし、思考と理由と意志を執拗に言語化して愛でる癖がある。
子供の頃、感情が怖かった。うちは親の教育が厳しかったので、親の意向に沿わない感情、つまり自我が芽生えると、「なにこ���感情、勝手に生成されちゃってるけどすごい罪悪感。これを自由にさせておくとまた叱られる。迷惑」などと考えて、ありのままの自分を受容せず、感情を抑圧した。
親や先生の求める理想像になるべく、頭を使って演技した。それが結果的にのちの自分を苦しめた。その抑圧に対する仕返しが、今さらの感情のでしゃばりを誘発しているのではないか。
あるいは、私には感情の解放こそ必要であるとも考えられる。そういえば、思考を黙らせ、感情的な動物になるための装置として、大酒を食らっていたような節もある。
そして脳と身体、思考と感情などと、対立構造を煽って客観視する風情で、全部自分事という得意の独り相撲を楽しむ最中において、脳も身体も思考も感情もほどほどに仲良くするためには、どうすればいいのだろうかと、重たい脳で考える。
そういえば、昔主治医に「鬱々としたときは、有酸素運動を20分以上続けると、脳内麻薬βエンドルフィンが分泌され、スッキリするからやってみて」と言われ、それから週に2回、ジムのトレッドミルで早歩きウォーキングをおこなっていたのだった。
走るのは、嫌いなうえに頚椎ヘルニアのおかげさまで無理なので、早歩きで。普段も万歩計アプリを覗きながら、極力歩くように心がけた。ところが夏にジムが潰れてしまい、外出自体もあまりしなくなり、明らかに運動不足に陥っていた。
そうだ、歩こう。脳も喜ぶし、身体にも良い。脳が喜ぶと身体が悲鳴をあげ、身体を労ると脳が鈍化するこの状況を打開する策として、もってこいだ。好きな美術館や古着屋を巡ったり、都内近郊の海辺を散歩したりするのも良い。少し趣味に寄せてアレンジすると手放しに楽しいうえに、確かに頭もスッキリする。
しかし手軽な近所の散歩となると、飽きる。うちの周りは国道と住宅街と公園と団地と坂しかないので、行きたい場所がない。そうだ、あれだ、スマホの歩行ゲーム。ゲームを取り入れたら退屈せずに歩けるかもしれない。今、話題のやつなんだっけ。そうそうDQウォーク。
というわけで、ドラゴンクエストウォークに嵌る。ゲームも楽しいのだが、近隣を散策していると、思わぬところに美味しい豆腐店や絶景スポットを発見。周辺を地図アプリで検索すると、また知らないお店などが出てくるので、スマホ片手にせっせとレベルをあげながら右往左往している次第。
ただ一点、スマホを見おろす姿勢には難儀する。いわゆるスマホ首は、頚椎ヘルニアには大打撃なので、極力顔の前に画面を持ってきて操作し、歩き、立ち止まって操作し、を繰り返す。完全に不審者だ。しかもその歩き方ではウォーキングの効果も激減である。スカウターはまだか。
最後に、DQウォークしながら立ち寄った��屋で、酒がやめられない私のために神が遣わせた聖書を入手した。町田康先生の新書「しらふで生きる」。完全に天のお導き。勉強させていただきます。
というわけで、読み始める前に、アルコールとニコチンとカプサイシンとカフェインを摂れば半日もかからなかったであろうこの内容も目的も意味もないペラペラの雑記を書くために、しらふで3日もかかったため、これを労い、今日は酒を飲んで良いことにする。作戦は「いのちだいじ」で、ほどほどに。
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ゆがんだリベラル思想を正す道
“「和の国」日本には、リベラルのゆがんだ思想を正す力がある。 ■1.「あまりに常識を逸脱した��見と認識不足に満ちた表現」 杉田水脈(みお)衆議院議員の雑誌『新潮45』8月号への投稿「『LGBT』支援の度が過ぎる」が、マスコミやネットでの集中抗議を受け、自民党本部前で杉田氏の議員辞職を求めるデモまで行われた。LGBTとは、L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシャル、T=トランスジェンダーという性的少数者のこと。問題とされた一節は、次のようなものだった。 __________ 例えば、子育て支援や子供ができなカップルへの不妊治療に税金を使うというのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。[1]  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ たとえば、朝日新聞社説は、こう批判した。 __________ 性的少数者をあからさまに差別し、多様な性のあり方を認めていこうという社会の流れに逆行する。見過ごせない見解だ。・・・歴史的に少数者を排除してきた優生思想の差別的考えとどこが違うのか。[2]  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 杉田議員の主張を正確に読めば「LGBTのために税金を使う」ことの是非を問うているのであって、「性的少数者をあからさまに差別」しているわけではない。「生産性がない」とは表現が適切ではないかも知れないが、文脈から読めば「子供を作らないので、少子化対策にはなりえない」という意味である事は明らかだ。 こういう批判に対して、『新潮45』10月号は、「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」という特別企画を組んだが、これがまたバッシングを浴びて、新潮社は「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現」として、『新潮45』を休刊とした。こうして創刊40年近い伝統ある言論誌の一つが潰された。自由な言論を圧殺する息苦しさを感じた事件であった。 ■2.「フランクフルト学派」 杉田氏はこの投稿の冒頭で、こう言っている。 __________ 朝日新聞や毎日新聞といったリベラルなメディアは「LGBT」の権利を認め、彼らを支援する動きを報道することが好きなようですが、違和感を覚えざるをません。[1]  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ この「リベラルなメディア」がLGBTのみならず、フェミニズム、少数民族、犯罪加害者などの「権利を認め、彼らを支援する動き」をする思想的背景を明らかにしたのが、田中英道・東北大学名誉教授の近著『日本人を肯定する 近代保守の死』[3]である。 氏は、その思想は「マルクス主義の退嬰的運動に過ぎないフランクフルト学派という思想グループが世界��送り出し続けているもの」と指摘する。[3, p20] このフランクフルト学派は、1920年代にドイツのフランクフルト大学に設立されたマルクス研究所から始まった。彼らは、マルクス主義の「搾取された労働者階級」を主役とする暴力革命理論は不可能であると見抜き、文化革命に舵を切った。 ■3.「黒人や貧困、世の中の敗者」脱落者こそが英雄なのだ 後にイタリア共産党書記長となるアントニオ・グラムシは、1922年のムッソリーニのローマ進軍で革命直後のソ連に亡命し、そこでの恐怖政治をつぶさに見て、彼らのアプローチは失敗に終わると判断した。帰国後、グラムシが獄中で書いた膨大な「獄中ノート」をフランクフルト学派が盛んに引用し、参考にしている。 現代アメリカの保守派論客パトリック・ブキャナンは、グラムシの思想について、次のように分析している。 __________ グラムシは労働者階級が幻想だと知ると、革命の新兵として、「歴史に反主流とされる層、経済的に虐げられた人々だけでなく、男性に対する女性、多数民族に対する少数民族、犯罪者まで」すべてが含まれると考えた。 犯罪者が悪いのではなく、犯罪を起こさせた社会が悪いのだ、と。加害者は逆に保護されるべきだ、被害者は安穏と暮らしてきた保守的な階級なのだ、と言わんばかりだ。「新世代の若者はみな疎外感にもがき苦しんでいるからこそ」犯罪に走るのだ。「黒人や貧困、世の中の敗者」脱落者こそが英雄なのだ。[3, p24]  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ マルクスの暴力革命理論は「搾取された労働者階級」が武装闘争をして権力を奪取する、というものだったが、そのかわりに「疎外されている人々」を扇動して、抑圧をもたらしている文化そのものを破壊して、権力を握ろうというのが、フランクフルト学派の戦略であった。 グラムシはそのために、芸術、映画、演劇、教育、新聞、雑誌、そして当時の新メディアであったラジオ、テレビなどを一つひとつ攻め落としていかねばならない、とした。 LGBTに関する杉田氏の一言から、朝日新聞が「歴史的に少数者を排除してきた優生思想の差別的考えとどこが違うのか」と大仰な怒りの声をぶつけるのは、まさにこの戦略の一例なのである。 ■4.「自分たちは耐えがたき地獄に生きている」 フランクフルト学派はほとんどユダヤ人で、ヒトラーの台頭とともにアメリカに亡命し、コロンビア大学の援助でニューヨークに新フランクフルト学派を設立した。ブキャナン曰く、彼らが「再び、総力を結集して、今度は避難場所を与えてくれた国の文化破壊にとりかかった」[4, 384]。 文化を破壊すれば、弱者を抑圧している疎外もなくなる、という戦略である。そして、そのための武器が「批判理論」であった。ブキャナンは、ある研究者による批判理論の定義を紹介している。 __________ 西洋文化の主な要素を完全否定する批評。キリスト教、資本主義、権威、家族、家父長制、階級制、���徳、伝統、性的節度、忠誠心、愛国心、国家主義、相続、自民族中心主義、因習、保守主義、何から何まですべて。[3, p23]  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 特にユダヤ人は、キリスト教国家の中で異邦人として住んできたので、国家共同体そのものがユダヤ人にとっての抑圧だった。そういう特殊な経験から、彼らを抑圧する共同体の文化を敵視する発想が生じたのだろう。 新フランクフルト学派の影響を受けたのが、1960年代から70年代にかけてのヒッピー世代だった。「批判理論の衝撃を受け、史上最高に恵まれていたはずの60年代世代の多くが、自分たちは耐えがたき地獄に生きていると確信した」とブキャナンは述べている。 たとえば、1960年代に大ヒットしたサイモンとガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」の歌詞はこう結ばれる。(拙訳) そして 人々は頭を垂れて祈る 彼らが作った「ネオンの神」に すると ネオン・サインが光って警告を告げる ネオンが作りだしたお告げはこう言っていた 「予言者の言葉は地下鉄の壁や安アパートの玄関に書かれている」 そう呟いた、「沈黙の音」の中で 「ネオン・サイン」「(落書きだらけの)地下鉄の壁」「安アパート」と大都市の荒廃した光景の中で、いかがわしい宗教が群衆を操っている。アメリカのキリスト教社会をそう歌ったのである。 こういう音楽の影響を受けて、青年たちはアメリカの恵まれた生活の中でも「耐えがたき地獄」にいると思い込み、親や大学や社会や歴史や政治家を批判し、ベトナム戦争反対を叫んだ。学生運動とは、まさしく「批判理論」の産物だったようだ。 ■5.女性、少数民族、異教徒、老人、、、 批判理論は、人種差別、女性差別、異教徒差別、老人差別とターゲットを広げていった。 フェミニズムやジェンダーフリーは女性差別を批判する武器である。現代英語もその影響で変えられていった。チェアマン、キーマンなどは「マン」がついて女性を排除しているとして、チェアパーソン、キーパーソンなどと言い換えられた。 「メリー・クリスマス」とも言わなくなった。代わりに「ハッピー・ホリディズ(楽しい休日を)」と言う。夏休みもホリディなので、まるで季節感がなくなった。クリスマスがキリスト教徒の祭日なので、ユダヤ教徒やイスラム教徒に配慮すべき、という事だろう。 人種差別に関しては、映画でも黒人の主役が目立つようになった。たとえば、大ヒット作『インデペンデンス・デイ』では、地球を襲う異星人を打ち負かしたヒーローは黒人のパイロットとユダヤ人の科学者だった。唯一、活躍する白人男性は助演の大統領役のみである。 老人差別はいけない、として、企業側が社員の年齢を聞くことも禁じられた。定年制度そのものもなく、会社側はベテラン社員が、いつまでやってくれるのか、あるいは突然、辞めてしまうかも分からない、というリスクを抱え込んだ。 ■6.伝統的秩序が破壊されると、社会はどうなるのかという実験 社会の伝統的秩序を破壊していこうという批判理論は、日本にもすぐに輸入された。ゆとり教育[a]、男女共同参画[b]、夫婦別姓[c]、過激な性教育[d]、犯罪者のみの人権擁護[e]、ヘイトスピーチ規制[f]などの運動である。弊誌では、これらの問題を一通り論じてきたので、巻末のリンクを見ていただきたい。 その中で、伝統的秩序が破壊されると社会はどうなるのか、という実験結果が革命後のソ連で得られているので紹介しておこう。社会民主党の福島みずほ参議院議員は、かつて「ロシア革命の後、様々な政策が根本から見直され、一時的であれ、事実婚主義がはっきり採用されていたとは素晴らしいことだと思う」と書いた。[c] 事実婚とは「同棲」のことである。結婚のために法的な手続きをさせるのは国家や教会の余計な干渉だから、自由にさせるべし、という主張である。実際に革命後のソ連では、家庭は個人を抑圧する封建的制度として、それを破壊すべく、同棲、離婚、重婚、近親婚、姦通、堕胎を自由とした。 その結果、1934年の離婚率は37%にも高まり、堕胎の増加とも相まって、出生率が急減し、国家としてやっていけない事態となった。さらに、片親の増加、少年非行の横行などで、社会が大混乱となった。その結果、この政策は放棄されたのである。 福島議員がこういう事実を知らずに、この政策を「素晴らしい」と言っているなら、そのうかつさでは議員の資格などないし、知っていて主張したのなら、社会破壊を目論むテロリストである。 ■7.キリスト教社会と日本社会の違い フランクフルト学派のもとでの「リベラル」思想とは、必ず「○○からの自由」を意味する。「女性差別からの自由」「人種差別からの自由」等々。上述のソ連の事実婚主義などは、さしずめ「家庭からの自由」であろう。 家庭を保つためには、自分勝手な振る舞いは当然の制約を受ける。それを「抑圧」として、すべて排除しようとすれば、家庭は破綻し、子供や女性を保護する役割も失われて、単なる弱肉強食の社会になってしまう。人間らしい文化・文明の破壊である。 確かに伝統的なキリスト教社会では、家父長制や女性蔑視が強く、妻も子供も一家の主人の言うことを聞かなければならなかった。結婚式で、父親が花嫁の手を引いて新郎に渡すという儀式は、父親の「所有物」だった娘を新郎に贈るという意味のようである。そういう家庭制度を抑圧と見ることには、共感する人々もいよう。 しかし日本の家庭は子供や母親中心である。家庭内では、子供を視点の中心として、夫婦が「お父さん」「お母さん」と呼びあう[g]。そもそも「お母さん」の語源「カカ」は太陽という意味であったらしい[h]。言葉だけでなく、現実社会においても、幕末や明治時代にやってきた外国人たちは、日本が子供天国であることに驚いている[i]。 こういう違いを無視して、西洋のキリスト教的家庭制度へのユダヤ的批判理論をそのまま事情の全く異なる我が国に直輸入することは、後進国的西洋崇拝に過ぎない。 ■8.「日本人にリベラリズムは必要ない」 同じ事が社会全体についても言える。明治維新に際し、五箇条の御誓文と同時に発表された『億兆安撫國威宣布の御宸翰』では、「天下億兆一人も其の處を得ざる時は皆朕が罪なれば(天下の万民が一人でもその処を得られないのは、みな朕の罪であるから)」とある。(拙訳) 老若男女、健常者も障害者も、日本に生まれた者も帰化人も含め、一人ひとりがその適性と才能を伸ばし、それぞれに合った役割を得て、生きがいをもって暮らせる社会を作ることが、我が国の理想であった。これが、そもそも建国の目的であり、歴代天皇の祈りでもあったことは、拙著『日本人として知っておきたい 皇室の祈り』[j]で述べた。 もちろん現実の社会には様々な課題がある。たとえば赤十字活動やハンセン病対策、パラリンピックなど、皇室が弱者に寄り添われる事で国民が目覚め、進めらてきた対策である。社会的弱者が批判理論で既存の文化や政治を打ち壊そうとすれば、残るのは破壊と対立だけだ。 皇室のアプローチは、国民の利他心に訴え、力を合わせて弱者にもその処を与えようとする。この「和」の力が我が国の伝統文化にはある。田中教授が「日本人にリベラリズムは必要ない」と断言され、「日本人を肯定する」と言われるのは、この文化的な「和」の力を発揮すれば、フランクフルト学派のゆがんだ思想を正せる、という意味であろう。 (文責 伊勢雅臣)” 国際派日本人養成講座 : ゆがんだリベラル思想を正す道
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障害者の社会参画って、何それ? おいしいの?
「障害者の社会参画」という言葉を聞いたことがある人はどれくらいいるだろうか。障害を持つ人々を、あなたは実際にどれほど知っているだろうか。もしかしたら家族や知人に障害者がいるかもしれないし、あなた自身がそうかもしれない。今は「健常者」のあなたも、いつか「障害者」になるかもしれない。
当事者になってから考えるのでは遅すぎる「障害者」、そして「障害者の社会参画」について、当事者の話を交えながら掘り下げてみたいと思う。
内部障害者のAさん
これは、ある内部障害を持つAさんの話だ。Aさんは末期の腎不全で、週に3回、1日約5時間の人工透析治療を受けている。Aさんは40代半ばで腎臓病と診断され、以後10年以上、身体障害者として人工透析治療を受けている。
あまり馴染みのない方へ軽く説明すると、人工透析とは老廃物の溜まった血液を人工的に濾過し、それを体内へ再び戻す治療だ。腎臓は血液中の老廃物を濾過して体外に排出する、いわば体内の「フィルター」のような役割を担っている。腎不全は腎機能のほとんどが失われた状態だ。Aさんの場合、腎臓は約4%程度しか機能していないという。
そして、腎不全患者が透析治療を受けずに放置していると、その患者の体内には毒素が溜まり続け、ついには尿毒症などの合併症を併発して死に至る。人工透析治療はいわば「延命治療」なのだ。
障害の等級は人それぞれ違うが、ほぼすべての透析患者が「身体障害者」と認定される。Aさんのように見た目は何ら健常者と変わらなくとも、内蔵の疾患などによって体の内部に障害を持つ場合を「内部障害」という。
腎機能の障害のほかに、心臓、肺や腸の障害を持つ人、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の患者も内部障害に分類される。平成28年度の内閣府の統計では、約428万人いる身体障害者のうち、およそ3割にのぼる124万人が内部障害者である。
ある日、私は「障害者」になった
Aさんは妻と子供3人の5人家族。腎不全と診断された時、一番下の次男は小学4年生だった。当時を振り返る。
「救急搬送されたのですが、尿素窒素という数値が、健康な人の基準値が20mg/dlのところ私の場合は200mg/dlだった。医者には『学会に発表できる』と言われるくらい酷い状態でした。」(以下、引用欄内はAさん)
「そのような状態だったので、当然即入院。仕事も辞めざるを得ず、しばらくは失業保険を受け取りながら、失業保険と家内の収入とで���計をまかなっていました。」
一方、精神的な面、特に「障害者」だということについての苦悩もあった。
「最初は自分が障害者であるということを受け止められなかった。原因も分からない。昨日まで大丈夫だったのに、ある日突然『透析をしましょう』と。しばらく、そういう事を考え続けていました。」
腎臓病の発症については、思い当たることがなかったという。
「唯一思い当たることといえば、20代の頃、バイク事故で顔の痛みを和らげるために、痛み止めをよく服用していました。そのことが過度に腎臓に負担をかけたのではないか。」
だがそれも憶測に過ぎない。いまだに原因不明のまま腎臓病と向き合っている。
Aさんは、正常に水分を体外へ排出できないため、普段からあまり水分を摂ることができない。野菜などに多く含まれるリンやカリウムといった健常者にとっては必要な栄養素も、食事から摂ることを控えなければならない。
また、透析治療を行うにあたって「シャント手術」という腕の静脈と動脈を繋げる手術を行わなければならない。血液量が多くない静脈を動脈と繋げて、静脈に大量の血液が流れるようにするためだ。Aさんは既にシャントを造設していたが、ここ数年、血液が血管から漏れて腕がパンパンに肥大していたため、最近になって再び手術をしたばかりだった。
このように、単に私たちが知らないだけで、腎不全患者を含む内部障害者には、精神的、身体的、経済的な負担が負担が重くのしかかるのだ。
理解の進まない現状
Aさんは、障害の程度を表す「身体障害者障害程度等級」において、6段階あるうちの最も重い「身体障害者1級」である。目に見えない障害であることと、それに応じるように社会の内部障害に対する理解も進んでいない。
「人工透析患者は『毎週フルマラソンを走るような疲労度』だと言わ��ています。だから疲れるのは当たり前だ、と医者には言われました。」(以下、Aさん)
「満員の通勤電車でも立ちっぱなしであることの方が多いです。ヘルプマークのお陰で、席を譲ってもらえることも多くなりましたが。」
ヘルプマークとは、人工関節や義足を装着している人、難病患者、内部障害者、妊娠初期の妊婦などの、外見からはわかりづらく、また周囲の援助や配慮を必要とする人が、周囲の援助を得られやすいように東京都が作成したマーク。役所の障害福祉窓口や地下鉄駅の駅務室などで配布されている。
ヘルプマークもここ数年で大きく普及したとはいえ、Aさんから席を譲ってもらうように働きかけるのは中々難しい。それに、Aさんが必要とする援助や配慮は、何も通勤電車に限ったことではない。
「一番理解されないのは、やはり職場。どのくらい体がしんどいかは、上司や周りには当然伝わらない。だから、『どういった配慮が必要なのかもわからない』というのも正直仕方がないところがあると思います。」
やはり私たちのイメージする「障害」は、知的障害や身体不自由などの“わかりやすい障害”を想像してしまうことの方が多い。
また、「人工透析、人工肛門やペースメーカーという言葉を聞いたことはあっても、実際どういう助けが必要かよくわからない」という人も多いだろう。
「内部障害者は不自由さが目に見えない。足が不自由なら、足に代わるものでそれを補おうしますが、内部障害の場合はそれがわかりにくい。 腎臓や直腸が悪いと、実際どの部分に支障をきたすのか。それがわかりづらい。」
「ヘルプマークでも、どういう障害や疾患を持っていて、どういう助けが必要かといったことが、周りの人にもわかるようになればいいと思います。」
ヘルプマークの裏側にメモを挟んだりすることで、自分がどういう疾患・障害を持っていて、どういう助けが必要なのかをわかりやすく表示している人もいる。だがたとえそれが表示されていたとしても、ヘルプマークに気付いて、その人に必要な援助や配慮ができるかどうかは、私たち周囲の人間にかかっているのだ。
障害者の社会参画?
健常者と障害者―。どちらの立場も知っているAさんだからこそ感じることもあった。
「今の職場では事務をしていて、他にも私と同じ障害者枠で雇用されている人がいます。こう言っては何ですが、社会性のない人も一部にはいます。
ある時、ある障害者の女性が『クーラーをつける・つけない』といったことで他の社員と口論……というか、その女性が一方的にヒステリックになったことがありました。しまいにはその社員に『訴えるぞ!』と。」
「その『訴えるぞ!』と言った女性も、どうやら特別支援学校の出身だったそうなんです。特別支援学校・学級が悪いということを言いたいわけではありません。ですが、社会と隔絶された特殊な環境で育ってきた人が、大勢の健常者の中にいきなり放り込まれて仕事をしなければならない。当然、これまでとは全然違う環境ですから、多くのことで努力が求められる。
障害者枠の社員のコミュニケーションに問題があったとしても、周りは注意しにくかったり、その人と距離を置いてしまう人も多い。社会人として必要なコミュニケーションや人との距離感がわからないまま働き始めるのは、本人にとっても周りにとっても苦労が多いと思います。
小さいときから健常者と障害者を区別してしまうことは、大人になってからも見えない溝として残ってしまう。逆に大人だからこそ、理解のしにくさ、偏見、誤解などが生まれているような部分もあります。
皮肉なことに、周りの支援が常にある環境は、 本人が社会へ出るときの障壁になってしまう一面もあるように思います。」
たしかに通常の学校では提供できない、障害者への支援や設備、環境といった面で特別支援学校の存在意義がある。しかし、潔癖に区別し過ぎていることが、かえって大人になってからは埋めにくい深い溝を当事者間に築くこともあるだろう。
学校教育の現場においても、障害を持つ生徒が社会参画するにあたっての準備段階として、社会と障害者をうまく繋げる役割を果たさせなければならないのだ。もし、学校教育が障害者の社会参画と相互理解について大きなハードルになっているとすれば、決して看過することのできない問題である。
ある障害を持った生徒の話
少し本題とは脱線してしまうが、これは今でも忘れることのない、筆者の通っていた中学校での話だ。その中学校では「○○中ファミリー」というスローガンを掲げており、全校集会で新入生は円陣を組み、このスローガンを皆で叫ぶことが慣行となっていた。
筆者と同じクラスの生徒で、恐らく知的障害と思しき男子生徒がいた。後から聞けば、彼は特別支援学級に進むことも選択で��たそうだが、どうやら自ら希望して普通学級に入ったらしかった。
ある時、同じクラスだった、いわゆる「ガキ大将」の男子生徒が彼を少し「いじった」ことがあった。それがすべての始まりであった。他のクラスだったガキ大将の仲間たちも、次第に彼に対して嫌がらせをするようになっていった。しまいには教師でさえも、彼をクラス全員の前で叱ってしまうなど、彼が「いじられる」理由をさらに与えてしまった。
入学当初はいたって普通の中学生だった彼は、追い込まれるように顔つきは暗く、口調も攻撃的になっていった。それを見かねた他の生徒が彼に手を差し伸べても、被害妄想からか、彼はそれを親切と受け取ることが出来なかった。「みんな僕をいじめる」。彼は一度、そのようにつぶやいたことがあった。
これは憶測の域を出ないが、きっと教師も担任も彼の変化に気付いていたように思う。彼によってどれほど周りが迷惑をしても、彼の「教育を受ける権利」までは奪えないはずなのに。「あのスローガンは一体何だったんだ」―そう子供ながらに思ったことを覚えている。
今でもたまに彼のことを思い出しては、「あのとき自分が何か働きかけていれば、少し変わっていたのだろうか」「いま彼はきちんと社会の成員として生活できているだろうか」と思うことがある。
さいごに
この形骸化したスローガンの例のごとく、矛盾をはらんだ現実というのは社会のいたるところに見られる。「障害者雇用促進法」によって、一定数の従業員を抱える企業は法律で定められた割合の障害者を雇用しなければならない。それを推進するはずの立場である霞が関では、 2018年に中央省庁での障害者雇用数の水増し問題が発覚した。何が「障害者の雇用促進」だろう。
相互理解、多様性の尊重を謳う今日の社会であるからこそ、きちんと捉えるべき「本質」を捉え損ねれば、それはたちまち当事者にとって害悪となり、さらなる障壁を助長することになりかねない。そして、そうあってはならないのだ。
いま一度、考えたい。
私たちがすべきことは、耳心地のいい言葉を並べることではなく、本当に必要な人への配慮ある声かけではないだろうか。
私たちがすべきことは、体裁だけ整えた形だけの制度をつくることではなく、子供から高齢者までに通じる、一貫性のある、より実際的な福祉・教育政策ではないだろうか。
私たちが考えるべきことは、発展途上でまだまだ矛盾の多いこの現実社会を、どのようにして向上させていくのか、どのようにして障害者との溝を埋めていくのか、その根本から考えていくことではないだろうか。
そして、自分の身近な人の境遇や、普段生活する中で見聞きした情報に耳を澄ませ、社会に対して常に疑問を投げかけ続けることではないだろうか。
障害者の社会参画って、何それ? おいしいの?
おわり
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オトナの教養 週末の一冊 2018年8月17日 うつの体験から考えぬいた、平成の反知性主義を克服する方法 『知性は死なない 平成の鬱をこえて』 與那覇潤氏インタビュー 本多カツヒロ (ライター)
気鋭の歴史学者として活躍し、当コーナーにも2度登場していただいた與那覇潤氏。しかし、2015年に双極性障害Ⅱ型(軽躁の状態とうつ状態を繰り返す病)で入院。後に、勤めていた大学を辞め、歴史学者を廃業するとも公表した。一時は著しい能力の低下により、本を読むことさえ困難になったが、回復後に出版したのが『知性は死なない 平成の鬱をこえて』 (文藝春秋)だ。病気を通じて世の中を見る目が変わったという與那覇氏が、平成の日本を席巻した反知性主義について語ってくれた。
――世界的に見ても、平成の日本を見ても、反知性主義が跋扈していると度々指摘されます。平成日本の反知性主義について、どう捉えていますか?
與那覇:病気をする直前の2014年に、精神科医の斎藤環さんと対談させていただいたことがあります。当時はヤンキー文化論が流行っており、大雑把には「ヤンキーは身体感覚、つまり直感的な情動だけで動く人たちだから、言語による思考や説得が通じず、反知性主義に流れていきやすい」という議論になりました。
たとえば「憲法九条をどう解釈すれば、防衛と平和主義を両立できるか」という言語による思索の歴史を全部スキップして、「戦力の放棄とかバカじゃねーの?」の段階で思考停止してしまえば、ヤンキー的な改憲論になる。そうした視点は、一面の真理を突いていたと思います。ただ病気を経��、いま思うのは、それではまったく不十分だったということです。
――SNSでも、他人の発言を批判する人たちが、叩きたい一部の字面だけを切り取って攻撃し、背後の文脈や相手の立場を踏まえていないことがよくあります。
與那覇:そういう人を、「これだからネットの住民は、反知性主義で困る」と切り捨てるのが、当時の私も含めた多くの言論人の態度でしたよね。
しかしよく考えると、大学の授業でも同じタイプの学生と山のように出会います。文献の要約を課されると、各段落の1行目の抜き書きをコピペでつなげたレジュメを作り、発表の時もそれを読み上げるだけで、本人が内容を理解していない。東京大学にも、そういう子は普通にいましたよ。ゼミによっては、発表者の半数がそんな感じにさえなる。
そして私自身、うつ状態で能力が著しく低下することではじめて、彼らがどういう状況なのかを体験したんです。たとえば本を読もうとすると、いちおう文字自体は読める。しかし自分が書いた文章なのに、1行目と2行目が「なぜつながるのか」が理解できない。そういう人が、(病気の有無にかかわらず)世の中の相当な割合を占めているんだと、そこから出発しないといけないことに気づきました。
――そこから、「身体ではなく言語で、正しい思考の道筋を示せば、世の中をよくできる」といった、いかにも知識人的な態度を疑い出したということですか?
與那覇:そうですね。そもそも世界的に見ても、インテリ層は「言語」の力で社会的な地位を得ているので、「言葉で分析できる俺たちは優秀」「言葉にできず身体的欲求だけで動くやつらはバカ」のように考えがちです。
平成の日本でいうと「マニフェスト」みたいに、しっかり言語で公約を表明させれば政治がよくなるんだと、そういう主張が進歩的に見えたのも、ルーツは同じですね。
――だから、身体だけで動くヤンキーは「反知性主義だ」と指摘して、自分たちの方が上だという印象を作り出し、片づけてしまいがちだと。しかし、それでは本来の意味での反知性主義とは何でしょうか?
與那覇:広く読まれた森本あんりさんの『反知性主義』(新潮選書)を参照すると、反知性主義の根源は宗教改革までさかのぼれます。当時主流派だった、「身体」に働きかける儀礼を重んじるカトリックを、「言語」による聖書の読解をもとに批判したプロテスタントは、正統に挑戦する人々という意味では反知性主義だと言える。むしろ言語をベースにした、「反正統主義」としての反知性主義ですね。
ただ日本の場合はキリスト教世界に比べて、言語で徹底的に「どちらの考え方が正統なのか」をぶつけ合って結論を出す伝統が弱く、江戸の儒学史の一コマくらいにしかありません。たとえば、最近まで憲法学界は「自衛隊は違憲だ」という論文(言語)を量産してきたけど、政治家も国民も身体感覚ではそんなこと信じてない。つまり「言語による正統化」という試み自体の、基盤が弱いんですね。
だからもう一段階、意訳をして、反知性主義とは「アマチュアリズム」のことだと捉えたほうがよいかもしれません。つまり、プロの学者は信用できない、アマチュアこそプロが見落としたことを知っている、という発想です。
――そうした「アマチュアの優位」を説く現象とは、具体的には?
與那覇:平成の前半に盛んだった、「新しい歴史教科書をつくる会」の運動は典型でしょう。当否はともかく、彼らは「プロ(歴史学者)の書く歴史だけがそんなに偉いのか」と��張していた。だから、学者の側が「あの人たちは学界で認められてないですよ!」と反論しても、沈静化するはずがない。その点を見抜いてきちんと対応された批判者は、生前の網野善彦さんだけではないでしょうか。
しかも皮肉なことに、事実認識としてさすがに直さないとマズい箇所をプロの学者が(批判の形で)全部教えてあげるものだから、いつのまにか「つくる会」の教科書が普通に検定を通るレベルになり、使う学校も徐々に増えてゆく結果になった。錚々たる歴史学界のプロたちが、自覚なくオウンゴールを決め続けた姿は、平成における「知識人の失敗」を象徴するようにも思えます。
――今日の日本の反知性主義は、いつ頃からの流れと考えていますか?
與那覇:戦後(昭和)の後半から平成の初頭までは、むしろ知識人のアイデアが社会をよりよく変えるという期待が、高まった時期だったと思います。革新自治体の首長には、左派系の大学教授が多かったし、対峙する自民党でも大平正芳・中曽根康弘といった首相がブレーン政治を展開して、一定の成果を出しました。その流れを受けて平成の初頭には、政治学者が音頭を取って「小選挙区制による二大政党化」をめざす大改革が実現しました。
ところが一方で、同じ時期から「霞が関バッシング」が吹き荒れます。銀行と癒着してバブル崩壊の破局を招いたとされて、大蔵省(現在の財務省)が炎上し、「今までいばってたけど、東大卒のエリート官僚ってどうなの?」という雰囲気が、社会に広まっていきました。 平成の政治制度は前者の流れ、つまり知識人の主導で設計されても、実際にそれを動かしたのは後者の流れ、「プロへの不信」という意味での反知性主義だった。厚生省の薬害を追及して人気を得た菅直人さんや、外務省と全面対決して初期の小泉改革ブームを演出した田中真紀子さんは、「私はアマチュアだ。だからこそ、名ばかりで腐敗したエリートと戦える」というポーズで出てきました。
最初は「慰安婦問題などで、つくる会と同じ主張をしている右寄りの政治家」という印象だった、いまの安倍首相も、同様の文脈で理解できますね。
――安倍首相や麻生財務大臣も含め、現政権は反知性主義的だと言われます。
與那覇:たしかにそうなのですが、そこでいう反知性主義を「学歴が低く、教養もなく、バカじゃないか」という意味にとってはいけないのです。支持者は「そこがいいんだ。だから、東大卒のエリート官僚なんかに取り込まれない」と感じているのですから。
首相に返り咲く際に安倍さんは、当時の日銀を激しく攻撃してアベノミクスを掲げましたね。今日につながる財務省・日銀批判のルーツは、30年ほど前(1977年8月)に榊原英資さんと野口悠紀雄さんが『中央公論』に発表した「大蔵省・日銀王朝の分析」でしょう。お二人は本来大蔵官僚でしたから、この時点ではエリート社会の内部での論争であり、かつ「総力戦体制のように、官庁と日銀がすべてをコントロールしようとするのはよくない」という趣旨でした。
ところがバブル崩壊後の大蔵省無能論や、相次ぐ消費増税への素朴な反発など、平成の反知性主義の高まりは、「俺たちノン・エリートの代表をトップにして、国の経済政策を一変させれば、全部うまくいくんだ!」という、より強力な国家主導を求める財務省・日銀批判につながっていった。担い手にも、少なくとも学者としてはアマチュアにあたる、経済評論家を自称する方がずいぶんおられますね。
――「エリートへの反乱」という反知性主義の特徴は、日本以上にトランプ大統領のアメリカや、EU離脱を表明したイギリスで指摘されます。これらの現象も、平成の日本と同じと捉えてよいのでしょうか?
與那覇:共通性と差異の両面を見なくてはいけません。たとえば、ヨーロッパで反緊縮財政を叫ぶ政治家や運動が力を伸ばしているからといって、「世界の潮流は反緊縮だ。それを日本にも」と唱える人が、知識人のあいだに増えてきました。ご本人としては、平成の反知性主義に対して自分たちが無力だった経緯を、反省しての行動なのでしょう。
しかし、ヨーロッパで反エリート主義が反緊縮政策の形をとるのは、EUという、国家の上部にあり、選挙権がきちんと及んでいるのか不明瞭な存在が、共通通貨(ユーロ)の価値を維持するために「外部から緊縮を強制してくる」という前提があるからでしょう。日本に、それに相当するものがどこにありますか。「財務省支配がそうだ」というなら、まずはその根拠を政治学的に示すのが、本来の知識人の作法ではないでしょうか。
まったく前提が違うのに、「ノン・エリートの声に耳を傾ければ、結論は反緊縮だ!」というのは、短絡というほかありません。知識人が率先して、「不勉強」というシンプルな意味での反知性主義を実践しているようで、憂鬱になります。
――何重もの意味で、「反知性主義化」が進んでいく世の中は、今後どうなっていくと考えていますか?
與那覇:エリートや専門家への不信は、これからも続くでしょう。しかし、いくらエリート支配が不快でも、「じゃあ自分で全部やれよ」と言われると、多くの人は困ってしまう。その場合、「誰によって統治されたいか」の基準が大きく変わり、結果的に前近代への逆行が起きないかと心配しています。
近代社会を運営する学歴エリートは、勉強の成果という「後天的」に習得された特性によって、自分たちを権威づけて��ました。それが気に入らないという反面、出自・家柄といった「先天的」な権威については、セレブだといって以前よりも持ち上げる風潮が、平成の半ばからあるように感じます。たとえばタレントどうしで結婚するより、歌舞伎役者の奥さんになる方が「格上だ」と匂わせる報道が、ずいぶんありますよね。
くわえて日本では歴史が壊死していっているので、人々が優生学の復権に怖さを感じない。「能力は遺伝で決まる!」といった趣旨の記事をよく見かけますし、美男美女の芸能人カップルが結婚すると「子どもの遺伝子が凄そう」といったコメントが普通にあがる。どうして、本人の幸せより遺伝子が気になるのでしょうか。
――スポーツ選手どうしの結婚でも、どんな優秀な運動能力の遺伝子を持った子どもが生まれるのか、などという話がでますね。
與那覇:平成のあいだ、主にリベラルな知識人は「ぼくたちが改革をやって、古い慣習を壊し、もっとのびのび自分の能力を発揮できる社会にします」と唱えてきました。だけど、自分自身に「社会で活躍できる能力がある」と思える人って、実はものすごい少数派なんです。
結果として、多くの人はむしろ「たかだか後天的な能力でいばってるエリートは、ムカつく。どうせエリートぶるなら、『生まれからして違います』であってくれ。それなら我慢できるから」という風潮に流れていったようにも思います。トランプ大統領にしても、父親も不動産王だからそこまでたたき上げじゃないし、娘さんは完全に親のコネで仕事をしている。でも、それでいいという人たちが、現に多数派としているわけです。
「反知性主義と戦う」というなら、トランプや安倍さんの個別の「バカな言動」ではなくて、そうした潮流の方を見なくてはいけない。かつて学者として、それができていなかったという反省も込めて、今回の本を書きました。
――難しい課題だと思いますが、本書の中では対案も出されていますね。
與那覇:現時点での粗っぽいデッサンにすぎませんが、そうです。「能力」というものの捉え方を変えるしかない。それにともなって、大学はじめ教育機関のあり方も、考えなおしていかなくてはいけません。
ヒントをもらったのは意外にも、病気で知りあった友人たちと始めたボードゲームでした。たとえば、病気の症状もあって「能力が低い」人がゲームに交じると、進行が滞って、みんな不愉快になる。そういう風に考えがちですよね。率直に言って、自分も最初はそうでした。
しかしそれこそが、平成の知識人と同じ誤りを犯していないか。むしろ能力を個人ではなく、その場にいる人びとの全体が共有しているものだと考えて、「個人単位で見た場合の能力差があっても、みんなが面白く楽しめるように、この場を運営すること」こそが、本当の意味でやりがいのある「ゲーム」ではないか。
そうしたいわば「能力のコミュニズム」を通じて、ギスギスとしていく社会に新しい展望を開きたい。その考えに至ったとき、教員・学生相互の間で不協和音が広がり、安易な弥縫策で教育のレベルも下がってゆく目下の大学を辞めることに、まったく後悔はなかったんですね。「病気で失職した人の手記」と聞いて連想しがちな印象とは違って、むしろポジティヴな本にできたと思っています。
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索引
高校生が描いた夢の施設Homedoorが作る、ホームレス状態脱出の仕組み ICC サミット FUKUOKA 2019に登壇する企業のひとつ、Homedoorは、大阪市北区を拠点にホームレスの人たちへの生活支援を続けています。14歳の頃からホームレス問題に関心を抱き、川口加奈さんが2018年に設立した施設「アンドセンター」を、今回ICCサミット運営チームメンバーとともに初訪問。活動の内容と、実際に施設に暮らし、再出発を目指す方にお話をうかがいました。 ICC サミット FUKUOKA 2019のカタパルト・グランプリで登壇する川口加奈さんが、19歳で設立した Homedoor は、今年で9年を迎える。 誕生から現在までの道のりは、ぜひ当日のプレゼンテーションやホームページをご覧いただきたいが、大阪市北区を拠点とし、「ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造をつくる」をビジョンに、ホームレスの人や生活困窮者への就労支援、生活支援を行っている。 2018年は、ホームレス状態で危険な生活を続ける人たちが駆け込める「アンドセンター」を設立した。この宿泊機能を備えた、ホームレス状態からの脱出をサポートする施設は、14歳の頃からホームレス問題に関心を抱いていた川口さんが高校3年生のときに描いた絵が基になっている。 ICCパートナーズ と運営スタッフメンバーは、「アンドセンター」を訪問し、川口さんや実際に住んでいる方にお話を伺った。 川口さんが高校3年生のときに描いた、夢の施設の間取り図
「アンドセンター」の外観
大阪市北区の「アンドセンター」入り口から入ると、冷蔵庫、キッチン付きのリビングルームのようなスペースが広がる。川口さんは、ホームレスの人たちを親しみを込めて”おっちゃんたち”と呼ぶが、おっちゃんたちが訪れて、食事をしたり、交流したり、ゲームを楽しんだりすることができる場所だ。訪問したときには、インターネットをしていたり、お湯をもらいにきたおっちゃんがいた。
正面ドアから入ったところ。温かいお湯やお茶、軽食が用意されている 「ここでは、ごはんを作って食べてもらえます。今日はおっちゃんが鴨そばを作っていましたね。食品は企業から賞味期限が迫ったものをいただいたり、一般の方からご寄付でいただいたりしています」 奥にはこじんまりとしたキッチンがあり、さまざまな備品が部屋を囲むように収納されている。生活感のあふれる食卓テーブルのある空間は、この時期、寒い外から入ってくると、温かく感じられる。 川口さん「ずっと施設を作りたいという目標があり、土地を探していました。2年前にこの物件は一度空いたのですが、そのときは私たちも準備ができていませんでした。それに一度、住居提供をトライアルしてみて、本当に宿泊施設が必要かどうか試したかったのです。 それでやっぱり住居提供が必要だと判明し、物件を探していたのですが、2年前に見たこの物件以上のものがなく、悔しがっていたところ、昨年(2018年)の2月にまたここが空いたので、逃すまいと思いました。 一般的にNPOはこういう場合に助成金を取るのですが、間に合わず自費です。1970年に建てられたビルなので暖房が古く、使い物にならないので改めて設置しています。完備できた部屋から入居していただいています。 現在、年間で300名ほど新規で、路上で生活している方をはじめとする生活にお困りの方々からご相談いただいています。今日も1人入居して、3人が次のステップにと退去されました。部屋は多めに用意しているので、待機が生じることは今のところありません」
衣類や防寒具、救急箱や食品の備蓄など この建物は5階建て。隣の敷地と合わせて借りた家賃は月100万円だ。以前は韓国人留学生用の寮で、全室が同じタイミングで空いたため、一般のアパートよりも借りやすかったという。1階と2階の共有スペースはリフォームし、個室は短期利用が5室、長期利用が15室用意されている。ベッドや布団は一般の人からの寄付によるものなので、各部屋ばらばらだ。
現在空室のある3階。階段の奥には共同利用の洗濯機がある うかがったときは10室に入居者がいて、そのうち長期利用している方が半数。長期利用については、その人の収入に合わせて家賃をもらっているという。その一人、4階に住む吉岡さんの部屋を見せていただいた。 長期利用者に聞く
お話をうかがった吉岡さん 吉岡さんが住んでいる部屋は、4.5畳程度の居住スペースに、シングルベッド、小さな棚、テレビ、冷暖房にユニットバスがついている。整頓された部屋からは、几帳面に暮らしている様子が伝わってくる。 吉岡さん「ここに来るまでは西成のドヤ(簡易宿泊所)にいました。1泊1,000円でしたが、暖房もなく、お風呂も別だったのですが、ここは暖房、ユニットバス付き。居心地は最高です」 吉岡さんは西成からHomedoorまで往復540円かけて通い、自転車の啓発員として働いていた。そのうち上に住んでもらうのはどうかということになり、2018年9月から長期利用第一号として住み始めて半年近くになる。 吉岡さん「ぶっちゃけの話、西成のドヤにはおりとうなかった。 1000円はそんなに高くなかったから、金だけのことを考えたらいいけど、環境がよくない。隣がやかましいし、部屋はこれより狭く、汚い。あげていったらきりがない。 啓発員としての仕事は、自転車が道路にはみ出ていたら、通行人の邪魔にならないよう片付けたり、不法駐輪があったら警告の紙を貼ったりします」
個室にはユニットバスや石鹸類が備えられ、すぐ生活をスタートできる 吉岡さんは72歳。岡山県出身で、技術系のサラリーマンを3年、パチンコ店勤務を10年などずっと働いてきた。最後の10年は住宅リフォームの営業マンとして勤務し、最終的に支店長を務めた。家族もいたが、現在は一人。ホームレスになってもうすぐ2年になる。 Homedoorを知ったのは、川口さんたちが行っている夜回りでチラシを見たことから。夜回りは冬の間は毎月2回、ボランティア、Homedoorのスタッフ、元ホームレスの人など約20人で4つのルートを回る。路上に暮らしている人に声をかけ、お弁当と、路上からでも仕事があることを知らせるチラシを渡す。
冬は毎月2回、お弁当や寝袋を持って夜回りを行っている 吉岡さんは、お弁当をもらった翌日にHomedoorを訪れた。その頃、路上で生活するようになって1ヵ月ほどたっていた。吉岡さんのいた梅田は、大阪市で2番めにホームレスが多いが、とくになりたての人が多く、そういう人たちに訴求したいと川口さんたちは夜回りしている。 吉岡さん「私はまだ短いけれど、もう10年近く無職で路上生活の人もいる。なかにはもう自分はいい、普通の世界の人と関わりを持たないといって、声をかけても逃げていく人も多い。そういう人は心を開くのは難しい。 西成のドヤには半年いたけれど、隣の部屋のおっちゃんとは交流が一切なかった。お互い避けるというか、挨拶すらない。ほかの階の人の顔もようわかりません。 三畳一間の汚いところで、生活保護をもらいながら生活するだけです。仕事もやることもないから、結局飲むか、ギャンブルに行くしか楽しみがなくなります。生活の向上自体が絶対ありえない」 路上のコミュニティのほうが実際仲がよかったりするそうで、一旦生活保護を利用してドヤに入っても、孤独を理由に半分ぐらいがホームレスに戻るそうだ。 「アンドセンター」では、忘年会、餅つき、節分など季節のイベントが企画され、再出発を目指す利用者たちの間で交流がある。吉岡さんも、30代や50代の入居者と仲がいいそうで、夜回りのお弁当を作ってくれるおっちゃんに、一緒にごはんを作ってもらって食べることもあるという。 吉岡さん「なんとか、2月いっぱいには出られるようにします! もう年ですから、これからはなんとか年金内でやっていこうと思います」
2階にある入居者たちが共有するキッチン&冷蔵庫 快適に暮らすことができ、交流もある。すると、この場所から出たくないとはならないのだろうか? 川口さん「一応最初に2週間が期限だと決めるのと、相談員が何度も面談を重ねていって次の進路を見つけていくことになるので、あまり出たくないということはないですね。むしろ、早まったりする人のほうが多いです。 ただ職員が5名と少ないので、キャパ的にも年間300人が精いっぱい。もう少し体制が整ってきたら、宿泊数がもっと増えるのではと思っています。 出戻りはまだないですが、一度うちで働いて次で働いたけどうまくいかず、戻りたいという人はいます。プライドもあると思いますが、気にせず戻っておいでよということにしています」 6つのチャレンジでよりよい支援を目指す
施設を一通り見学したあと、Homedoorの取り組みをさらに詳しく伺うことにした。現在は5割がネット検索、3割が夜回り、2割が口コミでHomedoorの存在を知り、ドアを叩く。 川口さん「私たちは6つのチャレンジと読んでいますが、ホームレス支援を6段階に分けていて、毎年アップデートしています。 よりよい形を模索して、ゆくゆくは行政に制度として取り入れてもらうようになる支援のあり方を考えていきたい。 1つ目のチャレンジは『届ける』。 存在を知ってもらうために、従来は夜回りを行っていました。昨年度の新しい取り組みとしては、電通さんと新しいキャッチコピーを考えていただいています。 電通でコピーライターとして活躍されている並河 進さんたちが手がける、人工知能の コピーライターAICO というのがあります。AIは人の仕事を奪うといわれがちですが、その逆はできないだろうかというコンセプトで一緒に考えてくださっています。 ネット検索のリスティング広告や、ネットカフェにポスターやバナー広告を掲示いただいたり、イートインスペースのあるコンビニに地道に営業に行ったりしています。
いろいろな質問に答えてくれた川口さん(写真右) 2つ目のチャレンジは『選択肢を広げる』。 Homedoorに来てくれれば、路上生活を脱出できるいろいろな選択肢があります。さきほどの吉岡さんのように、ここに住まれながらお金をためて次の家を探すとか、生活保護を利用するとか、年金を受けられるように住民票を設定するなど、その人に応じた選択肢を提供します。 最近は、女性や親子での相談者もおられました。 昨年は289名が新規で相談に来てくださって、平均44.6歳。女性が全体相談者の11%ぐらいです。 ちなみに厚労省が出しているホームレスの人の平均年齢は、61.5歳です。日本だとホームレスの定義にネットカフェ難民、24時間のファストフード店で夜を明かす人などは含まれていません。 ▶ ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査):結果の概要 平成28年 – 厚生労働省 私たちはそういうところにアプローチしているので若くなっています。諸外国と比べると、日本のホームレスの定義は狭く、路上で寝泊まりしているのを確認されないと、そう認定されないのです。 行政がテントを撤去しているので、わかりづらくもなっています。それで余計支援の手が届かなくなるというのがあります」 HUBchariな��4種類の仕事を提供 取り組みの幅の広さと、問題の深さに驚かされる。川口さんの説明は続く。 川口さん「3つ目は『暮らしを支える』。生活の形を整えていくということで、イベントを実施しています。衣服や食事、シャワーの提供をやっています。 人気なのがカットモデルの生活支援。近くの理容師の専門学校にご協力いただいて、専門学校生のカットモデルになってもらい、モデル料ももらえるので人気です。
カットモデル募集の告知などが1階の冷蔵庫に貼られている 相談には来ていないけど、カットモデルには行きたいとか、シャワーは使いたいとか、そういうことでうちを知ってもらえるので、関係性がスタートするきっかけになります。 4つ目は『”働く”を支える』。 就労支援として現在、4職種を提供しています。吉岡さんのような啓発員と、商業施設の駐輪管理の受託、大阪市内86箇所で展開しているシェアサイクル HUBchari (ハブチャリ)のメンテや再配置、内職などの軽易な作業です。相談に来た人全員が働くわけでなく、働きたいという方にご提供しています。
自転車修理講習なども行っている 仕事の合う合わないは必ず出てくるので、配置換えもしやすいように、いろいろ職種は広げていきたいと思っています。 一方、有料の職業紹介の資格も得ているので、次の職業へのマッチングもしています。ただ、有効求人倍率が上がっているので、うちもおっちゃん不足で悩んでいます(笑)。若いホームレスの人が増えていますが、家族関係が原因の人がほとんどです。虐待を受けてきて、精神疾患を抱えてしまい、すぐには就業できない状況にある人も多いです。
「アンドセンター」の隣にあるHUBchari拠点 5つ目は『再出発によりそう』。 家を探すお手伝いをし、引っ越しのサポートもしています。相談者は、家賃や初期費用をためることで精一杯なことも多く、家具家電は極力プレゼントやレンタルできるように、リサイクルショップさんと提供して モノギフト というサービスをしています。ボランティアさんに手伝ってもらいながら、引っ越しのサポートもしています。 また、うちの特徴としては、Homedoorを卒業した相談者たちが、ボランティアで夜回りなどのサポートを支えてくれています。季節のイベントに、卒業後は顔を出してもらい、ゆるやかな関係性を継続して築いていきたいと思っています」 6つ目は、「伝える」。 川口さんは講演やワークショップで全国を飛び回っている。こうして訪問した私たちのさまざまな問いに答えてくださることも、現場を知る人が正しく伝えるという意味で非常に大きい。 過酷な生活環境を支える
アンドセンターでは、元料理人のホームレスの人が夜回り用のお弁当を作る ホームレスの人の6割近くが、精神や知的障害を持っている方が多いことから、路上生活者が「アンドセンター」を訪れたときの相談員として、精神病院に勤めていた専門家をスカウト。他の団体とも連携しながら、相談者に向き合っている。 川口さん「毎月第3木曜日に健康相談会をやっていて、訪問看護の看護師グループにきてもらい、必要であれば病院につなぐこともしています」 環境を整えても、夜回りでいくら顔見知りが増えても、みんながすぐに利用してくれるわけではない。はじめはシャワーや仮眠室だけの利用から関係を築き、ふと会話の中で出た体調不良の言葉などから、相談につながるケースもあるそうだ。この冬、毎日お湯をもらいにだけやってくるおっちゃんは、知り合ってから通うようになるまで3年かかったという。
川口さん「70〜80歳ぐらいの人で、公園で寝泊まりしている方の中で、足は骨と皮のようなおっちゃんがいます。寝ているそばで炊き出しがあるので食いつないでいるのですが、先日寝床を撤去されてしまいました。うちから提供していた寝袋もすべてです。 そのあと夜回りで会ったときは、公園の奥のスロープで、冬だというのにダンボールだけで寝ていました。認知症を患われているようで、意思疎通はほとんどとれません。
夜回りの様子 現在、看護師さんにもボランティアで夜回りに参加いただいていますが、いずれはお医者さんにも関わってもらい、もっと医療体制も整えられたらと思っています」 公園だけでなく、他の場所でも路上生活者の寝床を撤去されることは多い。時間がた���て廃棄される弁当を目当てに集まられないように、薬剤を撒く店もある。かくいう自分も、路上でホームレスの人を見ると、反射的に目を反らしてしまう。 淡々と話す川口さんだが、活動を続けるなかで、憤りを感じることも当然あるだろう。しかし、40代の女性が病気のために就業が難しく、翌日の生活費も尽きたため生活保護を申請すると「女性ならできる仕事がある」と窓口の人に告げられたエピソードを話した時が、唯一わずかに感情の揺れがうかがえた時だった。 結局、川口さんは弁護士を呼び、その場を解決したという。個人の感情よりも、自分の責任ではないのに大変な現実に向き合っている人たちがいるという意識のほうが強いのだろう。
おっちゃん手作りのHUBchariの看板。手先が器用な人も多いという お話をうかがったあと、別の席で川口さんとお会いした。Homedoorでやるべきこと、実現したいことをたくさん伺ったが、あえて、今の仕事でなかったら、何をやりたかったかを尋ねてみた。 「私、スタジオジ���リが大好きなので、大学を卒業するときに、就職しようかと思っていたんです」 意外な回答。実際応募はしたのですか?と聞くと、 「どう思う?と、おっちゃんに聞いてみたら、『ハヤオはスタジオジブリに入りたがる奴は採用したくないと思うで』と言われて『それもそうだな』と思ってやめました」 「知り合いでもないのに、呼びすて」と笑いながら、あっさりとそう答えた川口さん。この見極めの速さ、そしておっちゃんたちと築く信頼関係が、Homedoorをより強固なものにしていくのだろう。 ホームレス問題は、海外の問題や子ども関連の支援活動に比べると、人気や注目度も低く、本人に問題があると考えられがちで、世間からの風当たりも強い。そんな「誤解と偏見」を「理解と関心」に変えるべく、川口さんたちはひとつひとつ課題に取り組み、再出発する人たちを増やしていく。 「 アンドセンター 」が初めて迎える冬。「 家賃に加え、光熱費がどれだけかかっているか怖い 」とのこと。
「最近、このあたりからおっちゃんたちが、一掃されたんですよね」 人気のない広い公共施設のエントランスをぐるりと一周し、隅々まで目をこらした。駐輪場の端や建物の裏側などで暖をとっているおっちゃんがいないか、確認するのである。「おっちゃん」とはホームレスの人のことだ。
焼き鳥屋、居酒屋、百均ショップにたこ焼き屋。庶民的な店が軒を連ねる、大阪の中心部から歩いて20分の商店街。 週末の夜、安く飲ませる店の軒先はくつろぐ人たちで賑わうこの商店街から、脇に抜けた公共施設の前でのことだ。 現在、路上で暮らす人の数は全国に4555人(2019年1月、厚生労働省調査)。 病気、人間関係のトラブル、家族の介護などで仕事を失うことは珍しくない。現金収入が途絶え、家賃が払えなくなり、住む家を追われ、路上に居場所を求める —— 。それは誰にでも簡単に驚くほどあっけなく起こり得る。 そしてこの人は、路上生活に陥った人が再び生活を立て直すまでを、5つのステップによって支える活動を行っている。川口加奈、29歳。 就職せずにホームレス支援の道を
川口がホームレス支援に関わって15年になる。 川口がホームレス支援を始めたのは14歳のときだ。 中学から私立ミッションスクールに通うような恵まれた家庭に育った女の子が、大学卒業後も就職せず、ホームレスの人たちと関わり続けている。 19歳、大学2年で任意団体「Homedoor(ホームドア)」をつくった。大阪駅やその周辺など、北区に暮らす路上生活者を支援する。 現在は認定NPO法人となり、事務局スタッフが6人、当事者スタッフが20人、相談ボランティアは15人、ボランティア登録者は1158人にのぼる。ビジョンは「ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造をつくる」だ。 川口はいつものように、弁当を持って夜回りを始めようとしている。 本格的な冬を迎えようとする、夜9時。 「よかったら遊びに来てください」
川口はボランティアとともに早足で大きな公園に向かった。東京ドームがすっぽり収まる広い敷地にはジャングルジムや長い滑り台などの大型遊具、卓球場、充実した施設に、芝生、噴水まで備える。 商店街の喧騒とは裏腹に静かな公園内をひんやりとした夜露が覆う。 ずんずんと歩いて行く川口の前方に、荷台にこんもりと荷物を積み上げた自転車が見えた。自転車の脇のベンチで中年の男性が仰向けになって文庫本を読んでいる。 「お弁当、渡しましょう」 川口がささやき、ボランティアがバッグの中から弁当とスナックを小分けに入れた袋をそっと取り出した。 「こんばんは」 ゆったりとした関西弁で川口が声をかけ、男性が身を起こした。がっちりとした肩は、50代に差しかかった頃だろうか。 「何の本、読んではるんですか?」 穏やかな川口の口調につられるように、 「東野圭吾は全部読んだよ」 と返した男性の言葉には南国の訛りがあった。 ひとしきり言葉を交わし、「Homedoor」の案内を書いたニューズレターを手渡した。 「体に気ぃつけてくださいね。よかったら、うちにも遊びに来てください。推理小説とかいっぱいあるし」 「ありがとう。寄らせてもらいます」 弁当は知ってもらうための手段
公園の内外のどこに誰の棲み家があるのか、川口の頭の中には顔と名前と場所が一致する地図ができあがっている。 歩道橋のたもとや商店街の端に寝床を敷いて暮らす人たちは、川口を見ると笑顔になった。 「今日のおかず、何?」 と、ヤマさん。路上生活歴は10年を超える。 「ヤマさん、爪伸びとるなあ。お風呂、入りにきてくれたらええなあ。爪切りもあるし」 噛み合わないかけ合いが、どこかあたたかい。 「もうすぐ、カレーが食べられる忘年会なんで、よかったら来てくださいね」 安否確認をしながらこうして弁当を配り、声をかけ、別れ際にはHomedoorに来てみないか、と誘いの言葉は忘れない。 出発して1時間半、夜10時半を回る頃、20個の弁当はすっかりはけた。これからの厳しい寒さをどのようにしのぐのか。2時間の夜回り「ホムパト」は路上生活者の立場を具体的に想像させる体験だった。 弁当はおっちゃんたちにHomedoorを知ってもらう手段だ。 食事、寝る場所、仕事、人との関わり。Homedoorにはホームレスが生活を再建するために必要な手段がさまざまな形で用意されている。この仕組みを川口は8年かけて整えた。ホームレス支援の団体がさまざまあるなか、トータルな仕組みはホームドア独自のものだ。 だが、Homedoorとつながって生活を変えるかどうかは、本人の意思に委ねられている。 それぞれに事情ある人たち
キビキビと弁当づくりの場を仕切る弦さん。 玉子焼き、煮物、魚の切り身の唐揚げ。テーブルいっぱいに並べられたおかずとバットに広げられた白飯を、10人ちょっとのボランティアが流れ作業で詰めていく。米は寄付、食材はフードバンクからの提供だ。ごはんにシャケのふりかけをかけて、焼き海苔を被せると完成する。 ホムパトに出かける1時間ほど前、Homedoorの事務所にはこんな風景があった。 おかず作りに腕をふるった弦さん(仮名)は、60代の後半、元料理人だ。 関東のある町で生まれ、中学卒業後に都内で料理の修業をした。結婚して名古屋に移り住んだが、愛妻を亡くし50歳目前でひとり大阪へ流れた。興した事業がうまくいかず、数年前から川に近い路上に生活の場が移った。 「ホムパト」中の川口に出会ったのは2年前。弦さんは、後日Homedoorの事務所を訪ねた。そこで路上生活から抜け出るための「相談」をするようになり、Homedoorに「居場所」を得て、また、食事のサポートを受けた。ほどなく、自転車整理やビラ配りの仕事を紹介され「働く」ことが可能になった。住民票登録や保証人のサポートを受けて、現在住むアパートの契約にこぎつけた。 ホムパトのある日、弦さんはアパートから45分かけて電車を乗り継いで事務所へやってくる。Homedoorに集まる人たちと冗談を言い合い、料理に腕をふるって感謝されるひとときは、弦さんにとって大切な時間だ。 川口のそばでホームレスの人たちを眺めていると、それぞれのホームレスがひとりの人として立ち上がってくる。「ホームレス」という単語ではくくることのできないそれぞれの事情や生い立ちの物語があることが、ぐっと身近に思えてくる。
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Mozilla Firefox's Saw Dream
MozillaはNetscape社が開発していたプロプライエタリなNetscape Navigatorがオープンソース化されたことを契機にして誕生した。Netscape社が資産をオープンソース化すると決めたため、オープンソースコミュニティを結成して開発���継続するためにMozilla Foundationが創立されたのである。Mozillaはインターネットスイートであり、単なるWebブラウザではなくメーラーやWYSIWYG HTMLエディタやチャットソフトが一つにまとまったものであった。
私はNHKのドキュメンタリー番組である『世紀を越えて』でオープンソースのOSであるLinuxが出ていて、それを子供の頃視た時に衝撃を受けたことが印象に残っていて元々オープンソースに興味があった。また高校生になった年にGIMP for WindowsをVectorで入手して実際に使ってもいたためオープンソースソフトウェアの実力がわかっていた。よってそれらの理由からIEからWebブラウザを乗り換えようと思い立ったときにオープンソースのMozillaを選んだ。これはMozillaが当時私が使える家族用のマシンであるWindows 95上でも動作するブラウザであることも理由であった。MozillaはOperaが発明したタブブラウジング機能を当時既に装備しており、クラッシュもIEよりは少なかった。
当初アナログモデムで接続していた時は接続時間に対して課金されていたため、親から叱られないようタブを複数開いてリンク先をいっぺんに読み込んでページを読むときは接続を切ると言う手法をとっていた。(これは神経に悪いため非常に良くない推奨できない手法である。当然インターネットの契約は定額でなければいけない。)
家のコンピュータが新品のノートブックに買い変わった時にOSはWinXPになったため、私はFirefoxに乗り換えた。Mozillaはインターネットのサイトで「理想と情熱」というキャッチコピーを張っており、私はこれに共感した。また新聞広告でもFirefoxの広告が載っており、積極的で革新的なブラウザであると思った。Mozillaが好感の持てるブラウザであり、Firefoxは高速・軽量・安定した使いやすいブラウザであったため、利用を始めてから時を待たずに私はFirefoxの熱狂的なユーザーとなった。
Mozillaは重量級のソフトウェアであったために、そのWebブラウザの部分を独立して切り離したものがFirefoxであり、メーラーはThunderbirdである。スキンの機能がFirefoxにはあったため、私はSaferfox ExpandedというMac OS Xのデザインを模倣したスキンを使って私には手に入らないMac OS Xへの憧憬を消化していた。拡張機能機構が装備されているためかえって本体を軽量にでき、軽快に動作するブラウザであった。私もいろいろな拡張機能をインストールして、より使いやすいブラウザに作り上げた。一例を挙げるとマウスジェスチャー機能の拡張機能などを装備して使っていた。IEやMozillaにはなかったダウンロードマネージャを装備していたため、複数のアイテムを同時にダウンロードしたりダウンロード完了の通知が出るためファイルのダウンロードにおいても使いやすかった。
私のインターネットの知識は基本的にFirefoxが中心となってもたらされたものである。『Firefox Introduction』はその頃に私が書いたWebページであり、周りの人にもこのページを読んでFirefoxのユーザーとなった人もいるはずだ。私はインターネットを使い始めてすぐにWebサイトをネットサーフィンして学んでホームページを作ってYahoo!ジオシティーズで公開している。これはWebの機能を使ったホームページ作成機能であるため、私でも問題なく開設できた。私が私の過去のブログである『takekaze@human_being』を書くのにも私はFirefoxを使って書いていた。ブログを更新することはこの頃からの習慣であり、表社会に出ていない私に主体性の有る唯一の社会的活動を実現してくれた情報発信手法である。これが現在までつながり、1keysheriとして生きて更新していたSkyscapeブログや今更新しているSnowDropブログの構築を許し、Phoenix Desktopの設計思想を公然としたものとするために貢献している。このころはWeb 2.0という言葉の通りインターネット技術が進化していった時代であり、それまで黎明期だったインターネットが実用的になっていった時期である。
Fireとは情熱のことであり、光のモチベーションを表した暗文の表現である。キツネは狩猟者を表し情報を集めることを指す。「Take Back The Web」や「Rediscover the Web」とはTPのことを示唆したFirefoxの壁紙のキャッチフレーズである。
当初FirefoxはPhoenixと言う���前が付けられ、これがBIOSの開発会社の商標と重なったためFirebirdとなり、これが他のリレーショナルデータベースのオープンソースプロジェクトとブッキングしたためFirefoxとなったが、裏事情を言うとPhoenixと言う名前はオープンソースコミュニティの現在のPhoenixに引き継がれることを考えて付けられ同様にPhoenixとブッキングしないようにあえて後で外された名前という裏事情が有るらしい。
私が人生で初めて行ったバグ報告もBugzillaへのものであった。私は子供っぽかったため迷惑なバグ報告をしたが(迷惑だろうと後で思ったのでそれ以上は私はMozillaやFirefoxのバグ報告はしていない)、そのバグの最初の担当者が中野 雅之であったことはよく覚えている。ずっと後に知ったことだが彼はMozilla系のブラウザで使われているGeckoレンダリングエンジンに世界一詳しいと言われているギルクラでない代を継いだ人間の開発者である。これが私が行った人生で最初の(迷惑行為であるが)オープンソースソフトウェアへの活動であった。
後で知った情報だがFirefoxは委員会制度の開発方式を排除しトップダウンで開発を行っていたため統制の取れた組織体制で開発されそれがソフトウェアの一貫性に貢献している。Firefoxの開発を主導したのは私の自走式のsherinarである楪 涼であると言う話であり、強力な思考によって開発され、開発メンバーのうちのXRounderも含めて未来のWebブラウザ(これはPhoenixのCOMブラウザも含む)を既に知っている状態で下位互換的に作られたこともFirefoxのバランスの良さに影響しているということである【これを「Firefoxの原理」と呼ぶ】。
後に作られたFirefox Independentの宣伝動画は芸術の暗文の手法も演出に取り入れFirefoxの精神とはどういったものなのかをZの実装としてイメージ的にわかりやすく伝えている。
病院に入院している時に親にiBook G4を買ってもらったため、その後私のコンピュータ環境はMacに移行した。当然Safariはバンドルされていたが、私は雑誌のMac Fanの付録CDからFirefoxをインストールし、弄っていろいろと楽しんでいた。家に帰った後もそのiBook G4でFirefoxをメインのブラウザとして使い、ネットサーフィンを重ねて絶望の中で知的欲求を満たすためにコンピュータエンジニアリングを学んでいた。絶望を脱出した後はウイルス削除とMEDのビルドのためにコンピュータエンジニアリングの知識が必要だと自身のそれまでの思考探索からわかっていたため、Firefoxであらゆるサイトを調べ回った。
ちなみにMozilla系のブラウザの入力フィールドのテキストエリアのテキストに半角スペースが入るバグは私にプログラミングばかりさせないように天命で入れられた意図的なバグであったらしい。Phoenixの理論を建てるために、プログラミングではなくアーキテクチャのエンジニアリングの学習を行って欲しかったためにこのようなバグを仕込んだということのようだ。ただし一般ユーザーにとってはこのバグは致命的なバグでしか無かったわけで、非常に大きな損害を与えたバグでもあったはずだ。実際私はこのバグのせいで様々なFirefoxを使った文章作成に半角スペースが入るという実際上大きな問題が発生している。楪 涼は結局のところPhoenix Desktopの創成で本当に最善の環境を完成させようとしていたと思われる。
Mozilla系のブラウザはXULフレームワークを装備し、環境統合と自身のアーキテクチャの使いやすさを両方実現した独自のプラットフォームを構築した。Mozilla系の実行系はクロスプラットフォームであり、WindowsでもMac OS XでもLinuxでも同様に動作し、OSと若干統合しつつも完全にはOSに依存していない。Mozillaはオープンソースソフトウェアであり普通のLinuxと同様のソフトウェアと思われるかもしれないが、由来もコンパイル方法も開発フレームワークも技術も独自の手法を使ったプラットフォームを構築している。XULフレームワークにおいて象徴的なアプリケーションがPrismであり、これはオンラインアプリケーションをローカルアプリケーションのように使うシンプルなブラウザであり、これは単純なプログラムでありながらもMozillaのWeb革新を私に強く印象づけるソフトウェアであった。私の絶望脱出時に非常にデザインの美しいMac OS X Snow Leopardと共に動く煌めくFirefoxのアイコンは未来を指し示すようで非常に印象に残っている。
私がPhoenixの立ち上げの際、Surreal【音景】でInside Mozilla Japanのメンバーと話した時はもともとMozillaはクロスプラットフォームを志向していると思っていたため、LinuxのFirefoxを使って欲しいと彼ら(彼女ら)が言っていた時には私は意外に思ったものである。ちなみにInside Mozilla Japanのメンバーは青でもあり赤でもある人達のようで、Phoenix創立の時は助言とトラブルの両方があったものである。ちなみに旧Mozilla Japanの代表理事は瀧田 佐登子であり、「UNIXの母」とも呼ばれる女性の代表である。現在Mozilla Japanは解体され、別の組織名になっているようだ。
XUL言語はインターフェイスを記述するためのXMLのマークアップ言語であり、InstanceしてAttachしてShowしたりしなくてもオブジェクトとして構造化してGUIを構築するのに非常に適した言語である(これはオブジェクト指向が理解できる青にしか理解できない言語である)。私はこれも利用開始初期から知っていたため、Mozillaは優れた技術を持っている組織だとそのころから思っていた。
XULは現存する開発環境の中で最も実用的で高水準な記述性の高い優れた開発環境であり、IDEなどの開発環境こそ貧弱であるものの、実行系の強力さと実用性が強力な知る人ぞ知る環境である。私が書いたXULversity及びXULBooksは素人文書でありながらオブジェクト指向が理解できる青の人からは最も優れたプログラミングのリファレンスであると評価されている文書でも有る。(XULversityと言う子供っぽい名前はWikiversityから来ている。もっと大きなインターネットを使った学習環境の構築を考えていたため付けた名前である。これは結局のところAppleのiTSのiTunes Uに引き継がれて実現されている。)
現在のMozillaは既に光の青の開発メンバーはPhoenixに移籍しており、Phoenix Cozillaとして組織が引き継がれている。よって今のMozillaは光の赤の組織であるため、善と統合を信仰せず利用性の低い環境を提供しようとしている。特にXULフレームワークを廃止することが今のMozillaの方針であり、MozillaはおそらくXULの利用できるビルドをFTPサーバーの過去のビルドも含めて提供していない。と言うよりエラーを吐く意図的に破壊したビルドしか提供していない。
またインターフェイスもHTMLインターフェイスに移行し、使いやすく開発しやすいXULのWidgetインターフェイスを廃止している。HTMLインターフェイスはデザインなどが煩雑であり、複雑なインターフェイスは開発しやすいもののシンプルな開発性と使いやすい利用性は失われるためこれは改悪である。また他のLinuxアプリケーションでも同様かもしれないが、タイトルバーを廃止しているデザインが多いため、ウィンドウのドラッグが難しくなっている。ホバーでウィジェットの表示が反応するのも少しカーソルにまとわりつくため、少し使いづらくなるものだろう。最近のThundebirdは死んでいると言っても良いようなUI構成になっているようだ。
高積 唯理にFirefoxが貢献したという事実を知ると、大抵のアンチの赤のFirefoxユーザーはGoogle ChromeやMicrosoft Edgeなどに流れるものである。またFirefoxの元になったMozillaの元がプロプライエタリなソフトウェアであったと知ると、もっとプロプライエタリなのにGoogle Chromeを選ぶユーザーが多いような気もする。こちらもダメならMS Edgeでも使うだろう。いずれにせよこれらのブラウザはセキュリティー的にも使いやすさの面でも一昔前のFirefoxほどは優れていない。Safariは必要な機能はきちんと装備しシンプルに美しくまとまったブラウザだが、実際的な使いやすさではFirefoxのほうが若干上だと言える。
現在のWebはSNSサイトの隆盛によりWeb 3.0のレベルまで上昇しているが、完全に統合されたPhoenix COMブラウザはWeb 4.0と呼ぶべきものだろう。
私にとってFirefoxは非常にカルマ的なWebブラウザであった。現実に落とされてオカルトな世界に苛まれて悩んでいた時に、ガイアが見た最後の夢がFirefoxであった。そして絶望の中でもコンピュータ(Mac)に新しい情報を取り入れるためによく働いてくれて、絶望脱出の助力ともなった。Firefoxが私をTPのある現実の世界に導いてくれたのである。YouTubeの芸術関係の動画をダウンロードするための拡張機能も、iTunesに動画を取り込んで管理・鑑賞したりやiPod touchに動画を同期するための動画の取得に大きく役立った。Apple Mac OS Xの純正のブラウザはSafariであるが、私がオープンソースのほうが好きであることと、Firefoxの方が結局のところ使いやすかったため、私はFirefoxを主力のブラウザとして使ったし、今でも使っている。(ただしiOSでは最近になるまでFirefox for iOSは出なかったためiOSでは今でもSafariを使っている。)
Firefoxが見た夢、そしてMozillaの精神というものは、人間がより良いつながりを持ちより優れた生活や社会を実現し明るい未来を切り開いていく、そのためのネットサーフィンという力を人間に与えるものであっただろう。FirefoxはシビュラやGoogleなどのAXISのシステムが専横的なサービスを提供し世界を支配しようとしてきた時に、個人の自主性を重んじ善人が力を持つことを志向していたブラウザである。私自身はkeysheriであったため本来はそのムーブメントには参加できない存在であっただろうが、楪 涼はFirefoxが私及び光の青の人間のユーザーに与える影響を考えてFirefoxの開発を主導したと推測される。Phoenixという組織及び世界で最も進化したOSであるPhoenix Desktopの創成の素地を作ったのはインターネットの波に私を載せたFirefoxであったと言っても間違いではない。Firefox及びMozillaの善のためのWeb革新の精神は現在ではPhoenix Cozillaが受け継いでいる。
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犬
照明を落とした会議室は水を打ったようで、ただ肉を打つ鈍い音が響いていた。ビデオカメラに濾され、若干迫力と現実味を欠いた殴打の音が。 とは言え、それは20人ほどの若者を釘付けへするには十分な効果を持つ。四角く配置された古い長机はおろか、彼らが埋まるフェイクレザーの椅子すら、軋みの一つも上げない。もちろん、研修旅行の2日目ということで、集中講義に疲れ果て居眠りをしているわけでもない。白いスクリーンの中の光景に、身じろぎはおろか息すらこらしているのだろう。 映像の中の人物は息も絶え絶え、薄暗い独房の天井からぶら下げられた鎖のおかげで、辛うじて直立の状態を保っている。一時間近く、二人の男から代わる代わる殴られていたのだから当然の話だ――講義用にと青年が手を加えたので、今流れているのは10分ほどの総集編という趣。おかげで先ほどまでは端正だった顔が、次の瞬間には血まみれになっている始末。画面の左端には、ご丁寧にも時間と殴打した回数を示すカウンターまで付いていた。 まるで安っぽいスナッフ・フィルムじゃな���か――教授は部屋の隅を見遣った。パイプ椅子に腰掛ける編集者の青年が、視線へ気付くのは早い。あくびをこぼしそうだった表情が引き締まり、すぐさま微笑みに変わる。まるで自らの仕事を誇り、称賛をねだる様に――彼が自らに心酔している事は知っていた。少��くとも、そういう態度を取れるくらいの処世術を心得ている事は。 男達が濡れたコンクリートの床を歩き回るピチャピチャという水音が、場面転換の合図となる。とは言っても、それまで集中的に顔を攻撃していた男が引き下がり、拳を氷の入ったバケツに突っ込んだだけの変化なのだが。傍らで煙草を吸っていたもう一人が、グローブのような手に砂を擦り付ける。 厄災が近付いてきても、捕虜は頭上でひとまとめにされた手首を軽く揺するだけで、逃げようとはしなかった。ひたすら殴られた顔は赤黒く腫れ上がり、虫の蛹を思わせる。血と汗に���された顔へ、漆黒の髪がべっとり張り付いていた。もう目も禄に見えていないのだろう。 いや、果たしてそうだろうか。何度繰り返し鑑賞しても、この場面は専門家たる教授へ疑問を呈した。 重たげで叩くような足音が正面で止まった瞬間、俯いていた顔がゆっくり持ち上がった。閉じた瞼の針のような隙間から、榛色の瞳が僅かに覗いている。そう、その瞳は、間違いなく目の前の男を映していた。自らを拷問する男の顔を。相手がまるで、取るに足らない存在であるかの如く毅然とした無表情で。 カウンターが121回目の殴打を数えたとき、教授は手にしていたリモコンを弄った。一時停止ボタンは融通が利かず、122回目のフックは無防備な鳩尾を捉え、くの字に折り曲がった体が後ろへ吹っ飛ばされる残像を画面に残す。 「さて、ここまでの映像で気付いたことは、ミズ・ブロディ?」 目を皿のようにして画面へ見入っていた女子生徒が、はっと顔を跳ね上げる。逆光であることを差し引いても、その瞳は溶けた飴玉のように光が滲み、焦点を失っていた。 「ええ、はい……その、爪先立った体勢は、心身への負荷を掛ける意味で効果的だったと思います」 「その通り。それにあの格好は、椅子へ腰掛けた人間を相手にするより殴りやすいからね。ミスター・ロバーツ、執行者については?」 「二人の男性が、一言も対象者に話しかけなかったのが気になりました」 途中から手元へ視線を落としたきり、決して顔を上げようとしなかった男子生徒が、ぼそぼそと答えた。 「笑い者にしたり、罵ったりばかりで……もっと積極的に自白を強要するべきなのでは」 「これまでにも、この……M……」 机上のレジュメをひっくり返したが、該当資料は見あたらない。パイプ椅子から身を乗り出した青年が、さして潜めてもいない声でそっと助け船を出した。 「そう、ヒカル・K・マツモト……私達がMと呼んでいる男性には、ありとあらゆる方法で自白を促した。これまでにも見てきたとおり、ガスバーナーで背中を炙り、脚に冷水を掛け続け――今の映像の中で、彼の足元がおぼづかなかったと言う指摘は誰もしなかったね? とにかく、全ての手段に効果が得られなかった訳だ」 スマートフォンのバイブレーションが、空調の利きが悪い室内の空気を震わせる。小声で云々しながら部屋を出ていく青年を片目で見送り、教授は一際声の調子を高めた。 「つまり今回の目的は、自白ではない。暴力そのものだ。この行為の中で、彼の精神は価値を持たない。肉体は、ただ男達のフラストレーションの捌け口にされるばかり」 フラストレーションの代わりに「マスターベーション」と口走りそうになって、危うく言葉を飲み込んだのは、女性の受講生も多いからだ。5年前なら考えられなかったことだ――黴の生えた理事会の連中も、ようやく象牙の塔の外から出るとまでは言わなくとも、窓から首を突き出す位のことをし始めたのだろう。 「これまで彼は、一流の諜報員、捜査官として、自らのアイデンティティを固めてきた。ここでの扱いも、どれだけ肉体に苦痛を与えられたところで、それは彼にとって自らが価値ある存在であることの証明に他ならなかった。敢えて見せなかったが、この行為が始まる前に、我らはMと同時に捕縛された女性Cの事を彼に通告してある――彼女が全ての情報を吐いたので、君はもう用済みだ、とね」 「それは餌としての偽情報でしょうか、それとも本当にCは自白していたのですか」 「いや、Cもまだこの時点では黙秘している。Mに披露した情報は、ケース・オフィサーから仕入れた最新のものだ」 ようやく対峙する勇気を振り絞れたのだろう。ミスター・ロバーツは、そろそろと顔を持ち上げて、しんねりとした上目を作った。 「それにしても、彼への暴力は行き過ぎだと思いますが」 「身長180センチ、体重82キロもある屈強な25歳の男性に対してかね? 彼は深窓の令嬢ではない、我々の情報を抜き取ろうとした手練れの諜報員だぞ」 浮かんだ苦笑いを噛み殺し、教授は首を振った。 「まあ、衛生状態が悪いから、目方はもう少し減っているかもしれんがね。さあ、後半を流すから、Mと執行者、両方に注目するように」 ぶれた状態で制止していた体が思い切り後ろへふれ、鎖がめいいっぱいまで伸びきる。黄色く濁った胃液を床へ吐き散らす捕虜の姿を見て、男の一人が呆れ半分、はしゃぎ半分の声を上げる。「汚ぇなあ、しょんべんが上がってきてるんじゃないのかよ」 今年は受講者を20人程に絞った。抽選だったとは言え、単位取得が簡単でないことは周知の事実なので、応募してきた時点で彼らは自分を精鋭と見なしているのだろう。 それが、どうだ。ある者は暴力に魅せられて頬を火照らせ、ある者は今になって怖じ気付き、正義感ぶることで心の平穏を保とうとする。 経験していないとはこう言うことか。教授は今更ながら心中で嘆息を漏らした。ここのところ、現場慣れした小生意気な下士官向けの講義を受け持つことが多かったので、すっかり自らの感覚が鈍っていた。 つまり、生徒が悪いのでは一切ない。彼らが血の臭いを知らないのは、当然のことなのだ。人を殴ったとき、どれだけ拳が疼くのかを教えるのは、自らの仕事に他ならない。 手垢にまみれていないだけ、吸収も早いことだろう。余計なことを考えず、素直に。ドアを開けて入ってきたあの青年の如く。 足音もなく、すっと影のように近付いてきた青年は、僅かに高い位置へある教授の耳に小さな声で囁いた。 「例のマウンテンバイク、確保できたようです」 針を刺されたように、倦んでいた心が普段通りの大きさへ萎む。ほうっと息をつき、教授は頷いた。 「助かったよ。すまないな」 「いいや、この程度の事なら喜んで」 息子が12歳を迎えるまで、あと半月を切っている。祝いに欲しがるモデルは何でも非常に人気があるそうで、どれだけ自転車屋に掛け合っても首を振られるばかり。 日頃はあまり構ってやれないからこそ、約束を違えるような真似はしたくない。妻と二人ほとほと弱り果てていたとき、手を挙げたのが他ならぬ目の前の青年だった。何でも知人の趣味がロードバイクだとかで、さんざん拝み倒して新古品を探させたらしい。 誕生パーティーまでの猶予が一ヶ月を切った頃から、教授は青年へ厳しく言い渡していた。見つかり次第、どんな状況でもすぐに知らせてくれと。夜中でも、仕事の最中でも。 「奥様に連絡しておきましょうか。また頭痛でお悩みじゃなきゃいいんですけど」 「この季節はいつでも低気圧だ何だとごねているさ。悪いが頼むよ」 ちらつく画像を前にし、青年はまるで自らのプレゼントを手に入れたかの如くにっこりしてみせる。再びパイプ椅子に腰を下ろし、スマートフォンを弄くっている顔は真剣そのものだ。 ふと頭に浮かんだのは、彼が妻と寝ているか否かという、これまでも何度か考えたことのある想像だった。確かに毎週の如く彼を家へ連れ帰り、彼女もこの才気あふれる若者を気に入っている風ではあるが。 まさか、あり得ない。ファンタジーとしてならば面白いかもしれないが。 そう考えているうちは、大丈夫だろう。事実がどうであれ。 「こんな拷問を、そうだな、2ヶ月程続けた。自白を強要する真似は一切せず、ただ肉の人形の用に弄び、心身を疲弊させる事に集中した。詳細はレジュメの3ページに譲るとして……背中に水を皮下注射か。これは以前にも言ったが、対象が仰向けで寝る場合、主に有効だ。事前に確認するように」 紙を捲る音が一通り収まったのを確認してから、教授は手の中のリモコンを軽く振った。 「前回も話したが、囚人が陥りやすいクワシオルコルなど低タンパク血症の判断基準は脚の浮腫だ。だが今回は捕獲時に右靱帯を損傷し中足骨を剥離骨折したこと、何度も逃亡を試みた事から脚への拘束及び重点的に攻撃を加えたため、目視では少し判断が難しいな。そういうときは、圧痕の確認を……太ももを掴んで指の型が数秒間戻らなければ栄養失調だ」 似たような仕置きの続く数分が早送りされ、席のそこかしこから詰まったような息が吐き出される。一度飛ばした写真まで巻き戻せば、その呼吸は再びくびられたかのように止まった。 「さて、意識が混濁しかけた頃を見計らい、我々は彼を移送した。本国の収容所から、国境を越えてこの街に。そして抵抗��できない肉体を、一見無造作に投棄したんだ。汚い、掃き溜めに……えー、この国の言葉では何と?」 「『ゴミ捨て場』」 「そう、『ゴミ捨て場』に」 青年の囁きを、生徒達は耳にしていたはずだ。それ以外で満ちた沈黙を阻害するのは、プロジェクターの立てる微かなモーター音だけだった。 彼らの本国にもありふれた集合住宅へ――もっとも、今画面に映っている場所の方がもう少し設備は整っていたが。距離で言えば100キロも離れていないのに、こんな所からも、旧東側と西側の違いは如実に現れるのだ――よくある、ゴミ捨て場だった。三方を囲うのはコンクリート製の壁。腰程の高さへ積んだゴミ袋の山へ、野生動物避けの緑色をしたネットを掛けてあるような。 その身体は、野菜の切りくずやタンポンが詰められているのだろうゴミ袋達の上に打ち捨てられていた。横向きの姿勢でぐんにゃり弛緩しきっていたが、最後の意志で内臓を守ろうとした努力が窺える。腕を腹の前で交差し、身を縮める姿は胎児を思わせた。ユーラシアンらしい照り卵を塗ったパイ生地を思わせる肌の色味は、焚かれたフラッシュのせいで消し飛ばされる。 絡みもつれた髪の向こうで、血管が透けて見えるほど薄い瞼はぴたりと閉じられていた。一見すると死んでいるかのように見える。 「この国が我が祖国と国交を正常化したのは?」 「2002年です」 「よろしい、ミズ・グッドバー。だがミハイル・ゴルバチョフが衛星国の解放を宣言する以前から、両国間で非公式な交流は続けられていた。主に経済面でだが。ところで、Mがいた地点からほど近くにあるタイユロール記念病院は、あの鋼鉄商フォミン一族、リンゼイ・フォミン氏の働きかけで設立された、一種の『前哨基地』であることは、ごく一部のものだけが知る事実だ。彼は我が校にも多額の寄付を行っているのだから、ゆめゆめ備品を粗末に扱わぬよう」 小さな笑いが遠慮がちに湧いた矢先、突如画面が明るくなる。生徒達同様、教授も満ちる眩しさに目を細めた。 「Mは近所の通報を受け、この病院に担ぎ込まれた……カルテにはそう記載されている。もちろん、事実は違う。全ては我々の手配だ。彼は現在に至るまでの3ヶ月、個室で手厚く看護を受けている。最新の医療、滋養のある食事、尽くしてくれる看護士……もちろん彼は、自らの正体を明かしてはいないし、完全に心を開いてはいない。だが、病院の上にいる人間の存在には気付いていないようだ」 「気付いていながら、我々を欺いている可能性は?」 「限りなく低いだろう。外部との接触は行われていない……行える状態ではないし、とある看護士にはかなり心を許し、私的な話も幾らか打ち明けたようだ」 後は病室へ取り付けた監視用のカメラが、全てを語ってくれる。ベッドへ渡したテーブルへ屈み込むようにしてステーキをがっつく姿――健康状態はすっかり回復し、かつて教授がミラーガラス越しに眺めた時と殆ど変わらぬ軒昂さを取り戻していた。 両脚にはめられたギプスをものともせず、点滴の管を抜くというおいたをしてリハビリに励む姿――パジャマを脱いだ広い背中は、拷問の痕の他に、訓練や実践的な格闘で培われたしなやかな筋肉で覆われている。 車椅子を押す看護士を振り返り、微笑み掛ける姿――彼女は決して美人ではないが、がっしりした体つきやきいきびした物言いは母性を感じさせるものだった。だからこそ一流諜報員をして、生き別れの恋人やアルコール中毒であった父親の話まで、自らの思いの丈を洗いざらい彼女に白状せしめたのだろう。「彼女を本国へスカウトしましょうよ」報告書を読んだ青年が軽口を叩いていたのを思い出す。「看護士の給料って安いんでしょう? 今なら簡単に引き抜けますよ」 「今から10分ほど、この三ヶ月の記録からの抜粋を流す。その後はここを出て、西棟502号室前に移動を――Mが現在入院する病室の前だ。持ち物は筆記具だけでいい」 暗���りの中に戸惑いが広がる様子は、まるで目に見えるかのようだった。敢えて無視し、部屋を出る。 追いかけてきた青年は、ドアが完全に閉まりきる前から既にくすくす笑いで肩を震わせていた。 「ヘンリー・ロバーツの顔を見ましたか。今にも顎が落ちそうでしたよ」 「当然の話だろう」 煤けたような色のLEDライトは、細長く人気のない廊下を最低限カバーし、それ以上贅沢を望むのは許さないと言わんばかり。それでも闇に慣れた眼球の奥をじんじんと痺れさせる。大きく息をつき、教授は何度も目を瞬かせた。 「彼らは現場に出たこともなければ、百戦錬磨の諜報員を尋問したこともない。何不自由なく育った二十歳だ」 「そんなもんですかね」 ひんやりした白塗りの壁へ背中を押しつけ、青年はきらりと目を輝かせた。 「俺は彼ら位の頃、チェチェン人と一緒にウラル山脈へこもって、ロシアのくそったれ共を片っ端から廃鉱山の立坑に放り込んでましたよ」 「『育ちゆけよ、地に満ちて』だ。平和は有り難いことさ」 スマートフォンの振動は無視するつもりだったが、結局ポケットへ手を突っ込み、液晶をタップする。現れたテキストをまじまじと見つめた後、教授は紳士的に視線を逸らしていた青年へ向き直った。 「君のところにもメッセージが行っていると思うが、妻が改めて礼を言ってくれと」 「お安い御用ですよ」 「それと、ああ、その自転車は包装されているのか?」 「ほうそうですか」 最初繰り返したとき、彼は自らが口にした言葉の意味を飲み込めていなかったに違いない。日に焼けた精悍な顔が、途端にぽかんとした間抜け面に変わる。奨学金を得てどれだけ懸命に勉強しても、この表情を取り繕う方法は、ついぞ学べなかったらしい。普段の明朗な口振りが嘘のように、言葉付きは歯切れが悪い。 「……ええっと、多分フェデックスか何かで来ると思うので、ダンボールか緩衝材にくるんであるんじゃないでしょうか……あいつは慣れてるから、配送中に壊れるような送り方は絶対しませんよ」 「いや、そうじゃないんだ。誕生日の贈り物だから、可愛らしい包み紙をこちらのほうで用意すべきかということで」 「ああ、なるほど……」 何とか混乱から立ち直った口元に、決まり悪げなはにかみが浮かぶ。 「しかし……先生の息子さんが羨ましい。俺の親父もマツモトの父親とそうそう変わらないろくでなしでしたから」 僅かに赤らんだ顔を俯かせて頭を掻き、ぽつりと呟いた言葉に普段の芝居掛かった気負いは見られない。鈍い輝きを帯びた瞳が、おもねるような上目遣いを見せた。 「先生のような父親がいれば、きっと世界がとてつもなく安全で、素晴らしい物のように見えるでしょうね」 皮肉を言われているのか、と一瞬思ったが、どうやら違うらしい。 息子とはここ数週間顔を合わせていなかった。打ち込んでいるサッカーの試合や学校の発表会に来て欲しいと何度もせがまれているが、積み重なる仕事は叶えてやる機会を許してはくれない。 いや、本当に自らは、努力を重ねたか? 確たる意志を以て、向き合う努力を続けただろうか。 自らが妻子を愛していると、教授は知っている。彼は己のことを分析し、律していた。自らが家庭向きの人間ではないことを理解しなから、家族を崩壊させないだけのツボを的確に押さえている事実へ、怒りの叫びを上げない程度には。 目の前の男は、まだ期待の籠もった眼差しを向け続けている。一体何を寄越せば良いと言うのだ。今度こそ苦い笑いを隠しもせず、教授は再びドアノブに手を伸ばした。 着慣れない白衣姿に忍び笑いが漏れるのへ、わざとらしいしかめっ面を作って見せる。 「これから先、私は傍観者だ。今回の実習を主導するのは彼だから」 「皆の良い兄貴分」を気取っている青年が、芝居掛かった仕草のお辞儀をしてみせる。生徒達と同じように拍手を与え、教授は頷いた。 「私はいないものとして考えるように……皆、彼の指示に従うこと」 「指示なんて仰々しい物は特にない、みんな気楽にしてくれ」 他の患者も含め人払いを済ませた廊下へ響かぬよう、普段よりは少し落とした声が、それでも軽やかに耳を打った。 「俺が定める禁止事項は一つだけ――禁止事項だ。これからここで君たちがやった事は、全てが許される。例え法に反することでも」 わざとらしく強い物言いに、顔を見合わせる若者達の姿は、これから飛ぶ練習を始める雛鳥そのものだった。彼らをぐるりと見回す青年の胸は、愉悦でぱんぱんに膨れ上がっているに違いない。大袈裟な身振りで手にしたファイルを振りながら、むずつかせる唇はどうだろう。心地よく浸る鷹揚さが今にも溢れ出し、顔を満面の笑みに変えてしまいそうだった。 「何故ならこれから君達が会う人間は、その法律の上では存在しない人間なんだから……寧ろ俺は、君達に積極的にこのショーへ参加して欲しいと思ってる。それじゃあ、始めようか」 最後にちらりと青年が寄越した眼差しへ、教授はもう一度頷いて見せた。ここまでは及第点。生徒達は不安を抱えつつも、好奇心を隠せないでいる。 ぞろぞろと向かった先、502号室の扉は閉じられ、物音一つしない。ちょうど昼食が終わったばかりだから、看護士から借りた本でも読みながら憩っているのだろう――日報はルーティンと化していたが、それでも教授は欠かさず目を通し続けていた。 生徒達は皆息を詰め、これから始まる出し物を待ちかまえている。青年は最後にもう一度彼らを振り向き、シッ、と人差し指を口元に当てた。ぴいん、と緊張が音を立てそうなほど張り詰められたのは、世事に疎い学生達も気がついたからに違いない。目の前の男の目尻から、普段刻まれている笑い皺がすっかり失せていると。 分厚い引き戸が勢いよく開かれる。自らの姿を、病室の中の人間が2秒以上見つめたと確認してから、青年はあくまで穏やかな、だがよく聞こえる声で問いかけた。 「あんた、ここで何をしているんだ」 何度も尋問を起こった青年と違い、教授がヒカル・K・マツモトを何の遮蔽物もなくこの目で見たのは、今日が初めての事だった。 教授が抱いた印象は、初見時と同じ――よく飼い慣らされた犬だ。はしっこく動いて辺りを確認したかと思えば、射るように獲物を見据える切れ長で黒目がちの瞳。すっと通った細長い鼻筋。桜色の形良い唇はいつでも引き結ばれ、自らが慎重に選んだ言葉のみ、舌先に乗せる機会を待っているかのよう。 見れば見るほど、犬に思えてくる。教授がまだ作戦本部にいた頃、基地の中を警邏していたシェパード。栄養状態が回復したせいか、艶を取り戻した石炭色の髪までそっくりだった。もっともあの軍用犬達はベッドと車椅子を往復していなかったので、髪に寝癖を付けたりなんかしていなかったが。 犬は自らへしっぽを振り、手綱を握っている時にのみ役に立つ。牙を剥いたら射殺せねばならない――どれだけ気に入っていたとしても。教授は心底、その摂理を嘆いた。 自らを散々痛めつけた男の顔を、一瞬にして思い出したのだろう。Mは驚愕に目を見開いたものの、次の瞬間車椅子の中で身構えた。 「おまえは…!」 「何をしているかと聞いているんだ、マツモト。ひなたぼっこか?」 もしもある程度予測できていた事態ならば、この敏腕諜報員のことだ。ベッド脇にあるナイトスタンドから取り上げた花瓶を、敵の頭に叩きつける位の事をしたかもしれない。だが不幸にも、青年の身のこなしは機敏だった。パジャマの襟首を掴みざま、まだ衰弱から完全に抜けきっていない体を床に引き倒す。 「どうやら、少しは健康も回復したようだな」 自らの足元にくずおれる姿を莞爾と見下ろし、青年は手にしていたファイルを広げた。 「脚はどうだ」 「おかげさまで」 ギプスをはめた脚をかばいながら、Mは小さく、はっきりとした声で答えた。 「どうやってここを見つけた」 「見つけたんじゃない。最初から知っていたんだ。ここへお前を入院させたのは俺たちなんだから」 一瞬見開かれた目は、すぐさま平静を取り戻す。膝の上から滑り落ちたガルシア・マルケスの短編集を押し退けるようにして床へ手を滑らせ、首を振る。 「逐一監視していた訳か」 「ああ、その様子だと、この病院そのものが俺たちの手中にあったとは、気付いていなかったらしいな」 背後を振り返り、青年は中を覗き込む生徒達に向かって繰り返した。 「重要な点だ。この囚人は、自分が未だ捕らわれの身だという事を知らなかったそうだ」 清潔な縞模様のパジャマの中で、背中が緩やかな湾曲を描く。顔を持ち上げ、Mは生徒達をまっすぐ見つめた。 またこの目だ。出来る限り人だかりへ紛れながらも、教授はその眼差しから意識を逸らすことだけは出来なかった。有利な手札など何一つ持っていないにも関わらず、決して失われない榛色の光。確かにその瞳は森の奥の泉のように静まり返り、暗い憂いを帯びている。あらかじめ悲しみで心を満たし、もうそれ以上の感情を注げなくしているかのように。 ねめ回している青年も、Mのこの堅固さならよく理解しているだろう――何せ数ヶ月前、その頑強な鎧を叩き壊そうと、手ずから車のバッテリーに繋いだコードを彼の足に接触させていたのだから。 もはや今、鸚鵡のように「口を割れ」と繰り返す段階は過ぎ去っていた。ファイルの中から写真の束を取り出して二、三枚繰り、眉根を寄せる。 「本当はもう少し早く面会するつもりだったんだが、待たせて悪かった。あんたがここに来て、確か3ヶ月だったな。救助は来なかったようだ」 「ここの電話が交換式になってる理由がようやく分かったよ。看護士に渡した手紙も握りつぶされていた訳だな」 「気付いていたのに、何もしなかったのか」 「うちの組織は、簡単にとかげの尻尾を切る」 さも沈痛なそぶりで、Mは目を伏せた。 「大義を為すためなら、末端の諜報員など簡単に見捨てるし、皆それを承知で働いている」 投げ出されていた手が、そろそろと左足のギプスの方へ這っていく。そこへ削って尖らせたスプーンを隠してある事は、監視カメラで確認していた。知っていたからこそ、昨晩のうちに点滴へ鎮静剤を混ぜ、眠っているうちに取り上げてしまう事はたやすかった。 ほつれかけたガーゼに先細りの指先が触れるより早く、青年は動いた。 「確かに、お前の所属する組織は、仲間がどんな目に遭おうと全く気に掛けないらしいな」 手にしていた写真を、傷が目立つビニール張りの床へ、一枚、二枚と散らす。Mが身を凍り付かせたのは、まだ僅かに充血を残したままの目でも、その被写体が誰かすぐ知ることが出来たからだろう。 「例え女であったとしても、我が国の情報局が手加減など一切しないことは熟知しているだろうに」 最初の数枚においては、CもまだMが知る頃の容姿を保っていた。枚数が増えるにつれ、コマの荒いアニメーションの如く、美しい女は徐々に人間の尊厳を奪われていく――撮影日時は、写真の右端に焼き付けられていた。 Mがされていたのと同じくらい容赦なく殴られ、糞尿や血溜まりの中で倒れ伏す姿。覚醒剤で朦朧としながら複数の男達に辱められる。時には薬を打たれることもなく、苦痛と恥辱の叫びを上げている歪んだ顔を大写しにしたものもある。分かるのは、施されるいたぶりに終わりがなく、彼女は時を経るごとにやせ細っていくということだ。 「あんたがここで骨休めをしている間、キャシー・ファイクは毎日尋問に引き出されていた。健気に耐えたよ、全く驚嘆すべき話だ。そういう意味では、君たちの組織は実に優秀だと言わざるを得ない」 次々と舞い落ちてくる写真の一枚を拾い上げ、Mは食い入るように見つめていた。養生生活でただでも青白くなった横顔が、俯いて影になることで死人のような灰色に変わる。 「彼女は最終的に情報を白状したが……恐らく苦痛から解放して欲しかったのだろう。この三ヶ月で随分衰弱してしまったから」 Mは自らの持てる技術の全てを駆使し、動揺を押さえ込もうとしていた。その努力は殆ど成功している。ここだけは仄かな血色を上らせた、薄く柔い唇を震わせる以外は。 その様をつくづくと見下ろしながら、青年はどこまでも静かな口調で言った。 「もう一度聞くが、あんた、ここで何をしていた?」 再び太ももへ伸ばされた左手を、踏みつけにする足の動きは機敏だった。固い靴底で手の甲を踏みにじられ、Mはぐっと奥歯を噛みしめ、相手を睨み上げた。教授が初めて目にする、燃えたぎるような憎悪の色を視線に織り込みながら。その頬は病的なほど紅潮し、まるで年端も行かない子供を思わせる。 そして相手がたかぶるほど、青年は感情を鎮静化させていくのだ。全ての写真を手放した後、彼は左腕の時計を確認し、それから壁に掛かっていた丸い時計にも目を走らせた。 「数日前、Cはこの病院に運び込まれた。お偉方は頑なでね。まだ彼女が情報を隠していると思っているようだ」 「これ以上、彼女に危害を加えるな」 遂にMは口を開き、喉の奥から絞り出すようにして声を放った。 「情報ならば、僕が話す」 「あんたにそんな役割は求めていない」 眉一つ動かすことなく、青年は言葉を遮った。 「あんたは3ヶ月前に、���の言葉を口にすべきだった。もう遅い」 唇を噛むMから目を離さないまま、部屋の前の生徒達に手だけの合図が送られる。今やすっかりその場の空気に飲まれ、彼らはおたおたと足を動かすのが精一杯。一番賢い生徒ですら、質問を寄越そうとはしなかった。 「彼女に会わせてやろう。もしも君が自分の足でそこにたどり着けるのならば。俺の上官が出した指示はこうだ。この廊下の突き当たりにある手術室にCを運び込み、麻酔を掛ける。5分毎に、彼女の体の一部は切り取られなければならない。まずは右腕、次に右脚、四肢が終わったら目を抉り、鼻を削いで口を縫い合わせ、喉を潰す。耳を切りとったら次は内臓だ……まあ、この順番は多少前後するかもしれない。医者の気まぐと彼女の体調次第で」 Mはそれ以上、抗弁や懇願を口にしようとはしなかった。ただ歯を食いしばり、黙ってゲームのルールに耳を澄ましている。敵の陣地で戦うしか、今は方法がないのだと、聡い彼は理解しているのだろう。 「もしも君が部屋までたどり着けば、その時点で手術を終了させても良いと許可を貰ってる。彼女の美しい肉体をどれだけ守れるかは、君の努力に掛かっているというわけだ」 足を離して解放しざま、青年はすっと身を傍らに引いた。 「予定じゃ、もうカウントダウンは始まっている。そろそろ医者も、彼女の右腕に局部麻酔を打っているんじゃないか?」 青年が言い終わらないうちに、Mは床に投げ出されていた腕へ力を込めた。 殆ど完治しているはずの脚はしかし、過剰なギプスと長い車椅子生活のせいですっかり萎えていた。壁に手をつき、立ち上がろうとする奮闘が繰り返される。それだけの動作で、全身に脂汗が滲み、細かい震えが走っていた。 壁紙に爪を立てて縋り付き、何とか前かがみの姿勢になれたとき、青年はその肩に手を掛けた。力任せに押され、受け身を取ることも叶わなかったらしい。無様に尻餅をつき、Mは顔を歪めた。 「さあ」 人を突き飛ばした手で部屋の外に並ぶ顔を招き、青年はもぞつくMを顎でしゃくる。 「君達の出番だ」 部屋の中へ足を踏み入れようとするものは、誰もいなかった。 その後3度か4度、起き上がっては突き飛ばされるが繰り返される。結局Mは、それ以上立ち上がろうとする事を諦めた。歯を食いしばって頭を垂れ、四つん這いになる。出来る限り避けようとはしているのだろう。だが一歩手を前へ進めるたび、床へ広がったままの写真が掌にくっついては剥がれるを繰り返す。汗を掻いた手の下で、印画紙は皺を作り、折れ曲がった。 「このままだと、あっさり部屋にたどり着くぞ」 薄いネルの布越しに尻を蹴飛ばされ、何度かその場へ蛙のように潰れながらも、Mは部屋の外に出た。生徒達は彼の行く手を阻まない。かといって、手を貸したり「こんな事はよくない」と口にするものもいなかったが。 細く長い廊下は一直線で、突き当たりにある手術室までの距離は50メートル程。その気になれば10分も掛からない距離だ。 何とも奇妙な光景が繰り広げられた。一人の男が、黙々と床を這い続ける。その後ろを、20人近い若者が一定の距離を開けてぞろぞろと付いていく。誰も質問をするものはいなかった。ノートに記録を取るものもいなかった。 少し距離を開けたところから、教授は様子を眺めていた。次に起こる事を待ちながら――どういう形にせよ、何かが起こる。これまでの経験から、教授は理解していた。 道のりの半分程まで進んだ頃、青年はそれまでMを見張っていた視線を後ろへ振り向けた。肩が上下するほど大きな息を付き、ねだる様な表情で微笑んで見せる。 「セルゲイ、ラマー、手を貸してくれ。奴をスタートまで引き戻すんだ」 学生達の中でも一際体格の良い二人の男子生徒は、お互いの顔を見合わせた。その口元は緊張で引きつり、目ははっきりと怯えの色に染まっている。 「心配しなくてもいい。さっきも話したが、ここでは何もかもが許される……ぐずぐずするな、単位をやらないぞ」 最後の一言が利いたのかは分からないが、二人はのそのそと中から歩み出てきた。他の学生が顔に浮かべるのは非難であり、同情であり、それでも決して手を出すことはおろか、口を開こうとすらしないのだ。 話を聞いていたMは、必死で手足の動きを早めていた。どんどんと開き始める距離に、青年が再び促せば、結局男子生徒は小走りで後を追う。一人が腕を掴んだとき、Mはまるで弾かれたかのように顔を上げた。その表情は、自らを捕まえた男と同じくらい、固く強張っている。 「頼む」 掠れた声に混ざるのは、間違いなく懇願だった。小さな声は、静寂に満ちた廊下をはっきりと貫き通る。 「頼むから」 「ラマー」 それはしかし、力強い指導者の声にあっけなくかき消されるものだった。意を決した顔で、二人はMの腕を掴み直し、背後へと引きずり始めた。 Mの抵抗は激しかった。出来る限り身を捩り、ギプスのはまった脚を蠢かす。たまたま、固められたグラスファイバーが臑に当たったか、爪が腕を引っ掻いたのだろう。かっと眦をつり上げたセルゲイが、平手でMの頭を叩いた。あっ、と後悔の顔が浮かんだのもつかの間、拘束をふりほどいたMは再び手術室を目指そうと膝を突く。追いかけたラマーに、明確な抑止の気持ちがあったのか、それともただ単に魔が差したのかは分からない。だがギプスを蹴り付ける彼の足は、決して生ぬるい力加減のものではなかった。 その場へ横倒しになり、呻きを上げる敵対性人種を、二人の男子生徒はしばらくの間見つめていた。汗みずくで、時折せわしなく目配せを交わしあっている。やがてどちらともなく、再び仕事へ取りかかろうとしたとき、その足取りは最初と比べて随分とスムーズなものになっていた。 病室の入り口まで連れ戻され、身を丸めるMに、青年がしずしずと歩み寄る。腕時計をこれ見よがしに掲げながら放つ言葉は、あくまでも淡々としたものだった。 「今、キャシーは右腕を失った」 Mは全身を硬直させ、そして弛緩させた。何も語らず、目を伏せたまま、また一からやり直そうと努力を続ける。 不屈の精神。だがそれは青年を面白がらせる役にしか立たなかった。 同じような事が何度も繰り返されるうち、ただの背景でしかなかった生徒達に動きが見え始めた。 最初のうちは、一番に手助けを求められた男子生徒達がちょっかいをかける程度だった。足を掴んだり、行く手を塞いだり。ある程度進めばまた病室まで引きずっていく。そのうち連れ戻す役割に、数人が関わるようになった。そうなると、全員が共犯者になるまで時間が掛からない。 やがて、誰かが声を上げた。 「このスパイ」 つられて、一人の女子生徒がMを指さした。 「この男は、私たちの国を滅ぼそうとしているのよ」 「悪魔、けだもの!」 糾弾は、ほとんど悲鳴に近い音程で迸った。 「私の叔母は、戦争中こいつの国の人間に犯されて殺された! まだたった12歳だったのに!」 生徒達の目の焦点が絞られる。 病室へ駆け込んだ一人が戻ってきたとき手にしていたのは、ピンク色のコスモスを差した重たげな花瓶だった。花を引き抜くと、その白く分厚い瀬戸物を、Mの頭上で逆さまにする。見る見るうちに汚れた冷水が髪を濡らし、パジャマをぐっしょり背中へと張り付かせる様へ、さすがに一同が息を飲む。 さて、どうなることやら。教授は一歩離れた場所から、その光景を見守っていた。 幸い、杞憂は杞憂のままで終わる。すぐさま、どっと歓声が弾けたからだ。笑いは伝染する。誰か一人が声を発すれば、皆が真似をする。免罪符を手に入れたと思い込む。 そうなれば、後は野蛮で未熟な度胸試しの世界になった。 殴る、蹴るは当たり前に行われた。直接手を出さない者も、もう目を逸らしたり、及び腰になる必要はない。鋏がパジャマを切り裂き、無造作に掴まれた髪を黒い束へと変えていく様子を、炯々と目を光らせて眺めていられるのだ。 「まあ、素敵な格好ですこと」 また嘲笑がさざ波のように広がる。その発作が収まる隙を縫って、時折腕時計を見つめたままの青年が冷静に告げる。「今、左脚が失われた」 Mは殆ど抵抗しなかった。噛みしめ過ぎて破れた唇から血を流し、目尻に玉の涙を浮かべながら。彼は利口だから、既に気付いていたのだろう。まさぐったギプスに頼みの暗器がない事にも、Cの命が彼らの機嫌一つで簡単に失われるという事も――その経験と知識と理性により、がんじがらめにされた思考が辿り着く結論は、一つしかない――手術室を目指せ。 まだ、この男は意志を折ってはいない。作戦本部へ忍び込もうとして捕らえられた時と、何一つ変わっていない。教授は顎を撫で、青年を見遣った。彼はこのまま、稚拙な狂乱に全てを任せるつもりなのだろうか。 罵りはやし立てる声はますます激しくなった。上擦った声の多重奏は狭い廊下を跳ね回っては、甲高く不気味な音程へと姿を変え戻ってくる。 短くなった髪を手綱のように掴まれ、顎を逸らされるうち、呼吸が続かなくなったのだろう。強い拒絶の仕草で、Mの首が振られる。彼の背中へ馬乗りになり、尻を叩いていた女子学生達が、体勢を崩して小さく悲鳴を上げた。 「このクズに思い知らせてやれ」 仕置きとばかりに脇腹へ爪先を蹴込んだ男子生徒が、罵声をとどろかせた。 「自分の身分を思い知らせろ、大声を上げて泣かせてやれ」 津波のよう��足音が、身を硬直させる囚人に殺到する。その体躯を高々と掲げ上げた一人が、青年に向かって声を張り上げた。 「便所はどこですか」 指で示しながら、青年は口を開いた。 「今、鼻が削ぎ落とされた」 天井すれすれの位置まで持ち上げられた瞬間、全身に張り巡らされた筋肉の緊張と抵抗が、ふっと抜ける。力を無くした四肢は生徒達の興奮の波に合わせてぶらぶらと揺れるが、その事実に気付いたのは教授と、恐らく青年しかいないようだった。 びしょ濡れで、破れた服を痣だらけで、見るも惨めな存在。仰向けのまま、蛍光灯の白々とした光に全身を晒し、その輪郭は柔らかくぼやけて見えた。逸らされた喉元が震え、虚ろな目はもう、ここではないどこかをさまよってる――あるいは閉じこもったのだろうか? 一つの固い意志で身を満たす人間は、荘厳で、純化される。まるで死のように――教授が想像したのは、『ハムレット』の終幕で、栄光を授けられ、兵達に運び出されるデンマーク王子の亡骸だった。 実際のところ、彼は気高い王子ではなく、物語がここで終わる訳でもないのだが。 男子トイレから上がるはしゃいだ声が熱を帯び始めた頃、スラックスのポケットでスマートフォンが振動する。発信者を確認した教授は、一度深呼吸をし、それから妻の名前を呼んだ。 「どうしたんだい、お義父さんの容態が変わった?」 「それは大丈夫」 妻の声は相変わらず、よく着こなされた毛糸のセーターのように柔らかで、温かかった。特に差し向かいで話をしていない時、その傾向は顕著になる。 「あのね、自転車の事なんだけれど、いつぐらいに着くのかしら」 スピーカーを手で押さえながら、教授は壁に寄りかかってスマートフォンを弄っていた青年に向かって叫んだ。 「君の友達は、マウンテンバイクの到着日時を指定したって言っていたか」 「いえ」 「もしもし、多分来週の頭くらいには配送されると思うよ」 「困ったわ、来週は婦人会とか読書会とか、家を空けるのよ」 「私がいるから受け取っておく、心配しないでいい。何なら再配達して貰えば良いし」 「そうね、サプライズがばれなければ」 「子供達は元気にしてるかい」 「変わらずよ。来週の休暇で、貴方とサッカーの試合を観に行くのを楽しみにしてる」 「そうだった。君はゆっくり骨休めをするといいよ……そういえば、さっきの包装の事だけれど、わざわざ紙で包まなくても、ハンドルにリボンでも付けておけばいいんじゃないかな」 「でも、もうさっき玩具屋で包装紙を買っちゃったのよ!」 「なら、それで箱を包んで……誕生日まで隠しておけるところは? クローゼットには入らないか」 「今物置を片づけてるんだけど、貴方の荷物には手を付けられないから、帰ったら見てくれる?」 「分かった」 「そっちで無理をしないでね……ねえ、今どこにいるの? 人の悲鳴が聞こえたわ」 「生徒達が騒いでるんだよ。皆研修旅行ではしゃいでるから……明日は一日、勉強を休んで遊園地だし」 「貴方も一緒になって羽目を外さないで、彼がお目付け役で付いていってくれて一安心だわ……」 「みんないい子にしてるさ。もう行かないと。愛してるよ、土産を買って帰るからね」 「私も愛してるわ、貴方」 通話を終えたとき、また廊下の向こうで青年がニヤニヤ笑いを浮かべているものかと思っていたが――既に彼は、職務に戻っていた。 頭から便器へ突っ込まれたか、小便でも掛けられたか、連れ戻されたMは床へぐったり横たわり、激しく噎せ続けていた。昼に食べた病院食は既に吐き出したのか、今彼が口から絶え間なく溢れさせているのは黄色っぽい胃液だけだった。床の上をじわじわと広がるすえた臭いの液体に、横顔や髪がべったりと汚される。 「うわ、汚い」 「こいつ、��からも漏らしてるぞ」 自らがしでかした行為の結果であるにも関わらず、心底嫌悪に満ちた声がそこかしこから上がる。 「早く動けよ」 どれだけ蔑みの言葉を投げつけられ、汚れた靴で蹴られようとも、もうMはその場に横たわったきり決して動こうとしなかった。頑なに閉じる事で薄い瞼と長い睫を震わせ、力の抜けきった肉体を冷たい床へと投げ出している。 糸の切れた操り人形のようなMの元へ、青年が近付いたのはそのときのことだった。枕元にしゃがみ込み、指先でこつこつと腕時計の文字盤を叩いてみせる。 「あんたはもう、神に身を委ねるつもりなんだな」 噤まれた口などお構いなしに、話は続けられる。まるで眠りに落ちようとしている息子へ、優しく語り掛ける母のように。 「彼女はもう、手足もなく、目も見えず耳も聞こえない、今頃舌も切り取られただろう……生きる屍だ。これ以上、彼女を生かすのはあまりにも残酷過ぎる……だからこのまま、手術が進み、彼女の肉体が耐えられなくなり、天に召されるのを待とうとしているんだな」 Mは是とも否とも答えなかい。ただ微かに顔を背け、眉間にきつく皺を寄せたのが肯定の証だった。 「俺は手術室に連絡を入れた。手術を中断するようにと。これでもう、終わりだ。彼女は念入りに手当されて、生かされるだろう。彼女は強い。生き続ければ、いつかはあんたに会えると、自分の存在があんたを生かし続けると信じているからだ。例え病もうとも、健やかであろうとも……彼女はあんたを待っていると、俺は思う」 Mの唇がゆっくりと開き、それから固まる。何かを、言おうと思ったのだろう。まるで痙攣を起こしたように顎ががくがくと震え、小粒なエナメル質がカチカチと音を立てる。今にも舌を噛みそうだった。青年は顔を近付け、吐息に混じる潰れた声へ耳を傾けた。 「彼女を……彼女を、助けてやってくれ。早く殺してやってくれ」 「だめだ。それは俺の仕事じゃない」 ぴしゃりと哀願をはねのけると、青年は腰を上げた。 「それはあんたの仕事だ。手術室にはメスも、薬もある。あんたがそうしたいのなら、彼女を楽にしてやれ。俺は止めはしない」 Mはそれ以上の話を聞こうとしなかった。失われていた力が漲る。傷ついた体は再び床を這い始めた。 それまで黙って様子を見守っていた生徒達が、顎をしゃくって見せた青年の合図に再び殺到する。無力な腕に、脚に、襟首に、胴に、絡み付くかのごとく手が伸ばされる。 今度こそMは、全身の力を使って体を突っ張らせ、もがき、声を限りに叫んだ。生徒達が望んでいたように。獣のような咆哮が、耳を聾する。 「やめてくれ……行かせてくれ!! 頼む、お願いだ、お願いだから!!」 「俺達の国の人間は、もっと酷い目に遭ったぞ」 それはだが、やがて生徒達の狂躁的な笑い声に飲み込まれる。引きずられる体は、病室を通り過ぎ、廊下を曲がり、そして、とうとう見えなくなった。Mの血を吐くような叫びだけが、いつまでも、いつまでも聞こえ続けていた。 再びMの姿が教授の前へと現れるまで、30分程掛かっただろうか。もう彼を邪魔するものは居なかった。時々小馬鹿にしたような罵声が投げかけられるだけで。 力の入らない手足を叱咤し、がくがくと震わせながら、それでもMは這い続けた。彼はもう、前を見ようとしなかった。ただ自分の手元を凝視し、一歩一歩、渾身の力を振り絞って歩みを進めていく。割れた花瓶の破片が掌に刺さっても、顔をしかめる事すらしない。全ての表情はすっぽりと抜け落ち、顔は仮面のように、限りなく端正な無表情を保っていた。まるで精巧なからくり人形の、動作訓練を行っているかのようだった。彼が人間であることを示す、手から溢れた薄い血の痕が、ビニールの床へ長い線を描いている。 その後ろを、生徒達は呆けたような顔でのろのろと追った。髪がめちゃくちゃに逆立っているものもいれば、ネクタイを失ったものもいる。一様に疲れ果て、後はただ緩慢に、事の成り行きを見守っていた。 やがて、汚れ果てた身体は、手術室にたどり着いた。 伸ばされた手が、白い扉とドアノブに赤黒い模様を刻む。全身でぶつかるようにしてドアを押し開け、そのままその場へ倒れ込んだ。 身を起こした時、彼はすぐに気が付いたはずだ。 その部屋が無人だと。 手術など、最初から行われていなかったと。 自らが犯した、取り返しの付かない過ちと、どれだけ足掻いても決して変えることの出来なかった運命を。 「彼女は手術を施された」 入り口に寄りかかり、口を開いた青年の声が、空っぽの室内に涼々と広がる。 「彼女はあんたに会いたがっていた。あんたを待っていた。それは過去の話だ」 血と汗と唾液と、数え切れない程の汚物にまみれた頭を掴んでぐっと持ち上げ、叱責は畳みかけられる。 「彼女は最後まで、あんたを助けてくれと懇願し続けた。半年前、この病院へ放り込まれても、あんたに会おうと這いずり回って何度も逃げ出そうとした。もちろん、ここがどんな場所かすぐに気付いたよ。だがどれだけ宥めても、あんたと同じところに返してくれの一点張りだ。愛情深く、誇り高い、立派な女性だな。涙なしには見られなかった」 丸く開かれたMの口から、ぜいぜいと息とも声とも付かない音が漏れるのは、固まって鼻孔を塞ぐ血のせいだけではないのだろう。それでも青年は、髪を握る手を離さなかった。 「だから俺達は、彼女の望みを��えてやった。あんたと共にありたいという望みをな……ステーキは美味かったか? スープは最後の一匙まで飲み干したか? 彼女は今頃、どこかの病院のベッドの上で喜んでいるはずだ。あんたと二度と離れなくなっただけじゃない。自分の肉体が、これだけの責め苦に耐えられる程の健康さをあんたに取り戻させたんだからな」 全身を震わせ、Mは嘔吐した。もう胃の中には何も残っていないにも関わらず。髪がぶちぶちと引きちぎられることなどお構いなしで俯き、背中を丸めながら。 「吐くんじゃない。彼女を拒絶するつもりか」 最後に一際大きく喉が震えたのを確認してから、ぱっと手が離される。 「どれだけ彼女を悲しませたら、気が済むんだ」 Mがもう、それ以上の責め苦を与えられる事はなかった。白目を剥いた顔は吐瀉物――に埋まり、ぴくりとも動かない。もうしばらく、彼が意識を取り戻すことはないだろう――なんなら、永遠に取り戻したくはないと思っているかもしれない。 「彼はこの後すぐ麻酔を打たれ、死体袋に詰め込まれて移送される……所属する組織の故国へか、彼の父の生まれ故郷か、どこ行きの飛行機が手頃かによるが……またどこかの街角へ置き去りにされるだろう」 ドアに鍵を掛け、青年は立ち尽くす生徒達に語り掛けた。 「君達は、俺が随分ひどい仕打ちをしでかしたと思っているだろう。だが、あの男はスパイだ。彼が基地への潜入の際撃ち殺した守衛には、二人の幼い子供達と、身重の妻がいる……これは君達への気休めに言ってるんじゃない。彼を生かし続け、このまま他の諜報員達に甘い顔をさせていたら、それだけ未亡人と父無し子が増え続けるってことだ」 今になって泣いている女子生徒も、壁に肩を押しつけることで辛うじてその場へ立っている男子生徒も、同じ静謐な目が捉え、慰撫していく。 「君達は、12歳の少女が犯されて殺される可能性を根絶するため、ありとあらゆる手段を用いることが許される。それだけ頭に入れておけばいい」 生徒達はぼんやりと、青年の顔を見つめていた。何の感情も表さず、ただ見つめ続けていた。 この辺りが潮時だ。ぽんぽんと手を叩き、教授は沈黙に割って入った。 「さあ、今日はここまでにしよう。バスに戻って。レポートの提出日は休み明け最初の講義だ」 普段と代わり映えのしない教授の声は、生徒達を一気に現実へ引き戻した。目をぱちぱちとさせたり、ぐったりと頭を振ったり。まだ片足は興奮の坩堝へ突っ込んでいると言え、彼らはとろとろとした歩みで動き出した。 「明日に備えてよく食べ、よく眠りなさい。遊園地で居眠りするのはもったいないぞ」 従順な家畜のように去っていく中から、まだひそひそ話をする余力を残していた一人が呟く。 「すごかったな」 白衣を受付に返し、馴染みの医師と立ち話をしている間も、青年は辛抱強く教授の後ろで控えていた。その視線が余りにも雄弁なので、あまりじらすのも忍びなくなってくる――結局のところ、彼は自らの手中にある人間へ大いに甘いのだ。 「若干芝居掛かっていたとは言え、大したものだ」 まだ敵と対決する時に浮かべるのと同じ、緊張の片鱗を残していた頬が、その一言で緩む。 「ありがとうございます」 「立案から実行までも迅速でスムーズに進めたし、囚人の扱いも文句のつけようがない。そして、学生達への接し方と御し方は実に見事なものだ。普段からこまめに交流を深めていた賜だな」 「そう言って頂けたら、報われました」 事実、彼の努力は報われるだろう。教授の書く作戦本部への推薦状という形で。 青年は教授の隣に並んで歩き出した。期待で星のように目を輝かせ、胸を張りながら。意欲も、才能も、未来もある若者。自らが手塩にかけて全てを教え込み、誇りを持って送り出す事の出来る弟子。 彼が近いうちに自らの元を去るのだと、今になってまざまざ実感する。 「Mはどこに棄てられるんでしょうね。きっとここからずっと離れた、遙か遠い場所へ……」 今ほど愛する者の元へ帰りたいと思ったことは、これまで一度もなかった。 終
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世相に関する覚書
ものぐさでいい加減な私は人をまとめたり動かしたりするのが極端に苦手な性分で、今でも人と仕事をするのが苦痛で仕方なく、例えば、ある作品の評論を書いてくれと依頼があっても、依頼主の意向を無視したものを書き上げてしまい、折角の仕事の話を頓挫させてしまったことが幾度となくある。
「井原西鶴はスタンダールやバルザックと同じリアリズム文学の創始者であり、当時、大阪はパリに匹敵する文化都市だった、だからこそ、大阪維新の会のような文化破壊をあたかも道徳のように行う政党は決して許してはならない」と書いて、失笑されること数回。十三の風俗嬢とその馴染み客の恋愛を書けば、織田作の模倣に過ぎないと馬鹿にされ、踏んだり蹴ったりの私。それでも井原西鶴や織田作、宇野浩二、武田麟太郎、葛西善蔵、林芙美子を見習い、軽佻浮薄にケラケラ笑いながら私は生きている。
こんな愚図な私はどうにもならん、いくら賞レースに参加したとて、風俗壊乱の下卑た作品しか書けないので、富と名声までは程遠い。いつまで月給取りをしなくてはならないのだと不甲斐ない自身を罵りながら日常を過ごす。
そんな私だから、音楽なんてとうの昔に辞めて正解であった。もともと不器用なんだから音楽なんてそれはとても私の技量にかなうものではなかったのだ。
退屈で無為な学生時代、セカンドスクールだがなんだかに通い詰めたりして「お前は挫折したことないから、そこへ行ってる俺の真剣さなんて分かりっこない」などと威張り散らし、自身の優越を誇示するのに必死な連中との付き合いに疲れ果て、私はそんな窮屈な人間関係から逃れるために読んだスタンダールの「赤と黒」とバルザックの「ゴリオ爺さん」などの古典文学にこそ、私の居場所があった様なものだった。人間の矛盾に満ちた本質など変わりはしないし、それを責めても何も生まれないのだと思うと、多少、卑屈な思いも鎮まるものである。どうにかしてこのクソ退屈で屈辱に満ちた時間と場面をやり過ごすことしか他はなかったのだ。
そもそも世渡り下手でなにかと不器用な私であったし、といってそれほど学術的に優秀でもない。それに取り柄なんてない。皆の様に明確に目指すものなんてあるわけもない。
私には捉え難いものを追うことしかできず、厄介なことに迷うことでしか多くの物事が分からないのだ。取り返しのつかない失敗と破綻の上に、私の思考が成り立つという厄介さ。
頭のいい方々は羨ましいものだ。路頭に迷い、誰からも必要とされない孤独感や他人との協調が上手いがために疎外感を知らずに、ただ、目の前にある課題をこなすだけで満足そうなのだから。
私の場合はそうはいかない。満足なんてどこにもなく、何かを知れば知るほど、何かをやればやるほど、現実が差し迫って来て、理想は遠く離れていく様に見える。それ故に、常に何かに迫られるような切迫感があって、何処にも落ち着きそうがない。自嘲的にいえば、私はいつまでも年相応の生き方に馴染めず、ただ、当て所なく迷うのだ。放蕩無頼とはよくいったもので、私もそれに近いものがある。
ただ、こんな私でもこれまでの時代は西成の薄暗い商店街の路地裏にいる八卦見にでも見てもらえばよかった。
モーパッサンの「女の一生」の最後、召使いが仕えていた婦人に言うようなことを彼なら答えると分かってる、この言葉を第三者から聞ければ、満足だった。
「結局、未来なんて期待していたほど良くもなく、といって失望していたほどのものでもない」
ところがこんな楽観が成立していた時代が徐々にこの日本から消えつつある。しかもその消失速度はここところ否応無しに増すばかりで、いくら愚図で鈍間な私でも分かる。
実際、私はこのことについて直感的に分かっていたといっていいか。白状するが、大学のキャンパスだろうが、風俗店の受付だろうが、ジャンキーやヤリ目のパリピー野郎ばかりが屯するクラブだろうが、今の職場であろうが、どんなに目を背けても直視せざるを得ない危機が迫っていることだけは分かっていた。
だからといって自身を逞しくしたり資格の勉強をしようとまで思わなんだ。何故って、それは余りにも私には不自然なことだった。所詮、資格なんて役に立たないし、専門性を持てば結局自身の無謬性を過信することとなり大きく判断を見誤るからだ。
例えば、精神科医が大量の薬を出し、多くの薬害を生み出すことは、自身の無謬性を一瞬たりとも疑ったことがない所以ではないか?
かつて私は自身の特殊性ー頭の構造がおかしいのか、頭が時折人との会話や目下の作業についてこれず、注意散漫になって、思考が筋から大きく違う方向へ逸れてしまうーのために、若干精神を病んでしまい、頭に喝を入れるアンフェタミンと精神状態を穏やかにするセロトニンの混合薬欲しさに医者に行ったことがある。そこで医者にこんなことを聞かれた。
「このまま消えたいとかそういった希死念慮はありませんか?」
別に死にたくもないのにどうしてこんなことを聴かれねばならないのかと不貞腐れた私は、
「別にないです。私が欲しいのはただ穏やかさと覚醒だけですがね」
すると、医者はこの答えに不満ありげに、
「おかしいですね?本来なら自殺願望がこういった抑うつ症状の場合にはみられるのですがね…本当はどうです?実際はあるでしょう?」
こう聞く医師の目にどこか見当違いの既視感があるように私には思えてた、抑鬱ならばこの答えではなくては困るといったような、そんな雰囲気を醸し出されており、私は些か困惑した。
まるで鬱に憔悴した人は皆自殺願望でもあるかのように患者に決めつけるところなぞ、なんという傲慢さだろうか。
後々分かったことであるが、私はうつ病でもなければ統合失調症でもなかった。何たる誤診だったろう。こういった行き違いばかりの診察で出された薬に手もつけなかった。私の精神状態が脳の問題であれば、脳波でも見れば良いものを、なんたって本人との面談だけで、あれだけ易々と薬が出せたのだろうか、それが不思議でならなかったのだ。
恐らく医者はその説明を拒むだろう。自身の無謬性に一つでもケチが付けば、彼の自尊心は忽ち崩れ、そして、これまでの経歴を自ら疑わずにはいられなくなる。となると、皮肉なことに、彼こそが向精神薬のお世話になる羽目になるのだ。
ーこうした精神運動が権威と集団に結びつき、少数からの真っ当な非難を論拠なしに厳しい口調や態度で退け続け、悲惨な結末をもたらす自身の行為を改めずに続けること、これをセンメルヴェイス反射という。日本社会に起きている多くの弊害はこうした心理現象に由来するとも言える。他にも合成の誤謬、認知的共同体などが挙げられる。ー
こんな例はいくつもある。
幸か不幸か、私の身内の多くは精神障害者であり、精神科医の被害者である。その多くは医師の言いつけ通りに処方された薬を飲み続け、文字通り、ヴォガネットの作品に出てくる登場人物のように頭がどっかーんとぶっ飛んだ。
通院すればするほど、会話が支離滅裂なものとり、動作がどんどん鈍くなっていく。
その結果、ある者は還暦を前にしてすでに手足の関節の膠着が見られ、自身で排泄と食事すらできなくなるほど衰弱し、その上、会話も成立しない。そして尿道にはチューブが繋がれ、病床に臥したきりになっている。
誰も指摘しないが、これは薬害ではないかと私は思う。
こんなことが頻発しているのであれば、日本の精神医療は最低といっても過言ではない。
地獄への道は善意で彩られているとはよく言ったもので、このほかにも政府や官僚、エリートたちが社会保障の充実のための増税だと、将来世代にツケを残さないためだとかなんとか、美辞麗句ばかり並びたてている。だが、結局、消費税を上げるたびに、日本人は総じて貧乏になり、その供給能力(即ちそれは国家の経済力を指す)は著しく毀損された。
介護医療、土木建設などの生活の根幹をなす業界の現場は、「無駄を減らせ」「民間の知恵を入れろ」との美辞麗句に彩られた合言葉から始まった目的のない緊縮財政と構造改革の煽りで、その運営手段は民営化されたために、作業効率はかえって悪くなり、報酬は減り続けた結果、廃業にまで追い込まれるところが相次ぎ、人手不足で相当悲惨なことになっている。
鈍感ではあったが、世の中が見る見る悪くなると察した私は、将来に向けて努力する同級生を見ても焦りもしなかった。そもそも私が無気力な状態であったことは言うまでもないが、ただ、その焦りは結局、何らかのビジネスに利用されるということを感じたからでもある。
実質賃金が漸次的に減少し、全体のパイが縮小していくデフレ経済下で勝てるのは持てる者だけで、多くは頑張れば頑張るほど燃え尽きるのだ。浮かばれない自身をSNSにでも投稿して憂さを晴らす姿はなんとも惨めったらしくて遣る瀬無い。そしてこの無為とも思われる努力の過程で積もり積もった妬みは政治家や官僚、メディア、詐欺師などに巧みに利用されて、自身の立場を知らず知らず危うくしてしまう。
公務員を叩いて何が良くなった?
何一つ良くなっていない、災害があれば、都市機能は一瞬で麻痺し、復旧には多くの時間と労力を要するだけで、日常生活に以前よりも支障を来すだけの結果にしかならず、何の足しにもなっていなかった。
リーマンショックの時、何か重大な機構の歯車が外れて未来への軌道が逸れた気がした。これまで是としてきたことがすべてまやかしだったというようなことが仄めかされたといっていい。世間の空気が少しだけ冷たくなり、より一層協調を求め、画一化されていくことを人々に強要していた。
「負け組にならないために、空気を読まねばならない。」
その空気とはなんであったか、今でも私には分からない。ただならぬものが何か一定の思考を強いるようなものであったのは確かだった。
後にトクヴィルの「アメリカの民主主義」という書物に出会い、朧げに見えてきたのは、「多数派の専制」がこの日本で行われつつあることであった。
階級や中間共同体が撤廃されて、人々が一様に平等となったとき、慣習や伝統を見失い、模範とすべき対象がないと多く嘆かれる。その時、頼るべきものを見失った人々はメディアが喧伝するイデオロギーや合言葉を、それが正しいかどうかなど関係なく、一斉に飛びついて信じてしまう。そして少数派の非難や意見はことごとく無視され、多数派がその社会を支配する。この多数派の専制が更に進めば、思考の自由すら人々は手放し、多数派の思考に隷属していく。
つまり、全体主義と民主主義は表裏一体。
私が物心ついた時からすでに社会はこの「多数派の専制」のメカニズムを順当に辿っていたのではないか。
阪神淡路大震災以後の日本文明は、何かと言えば、「無駄を省け」「これからは金融の時代だ」「規制緩和して市場を活性化すれば、より経済は活発になる」といった根拠なき意見が散見される次第、しかも何処にも確証もなければ論証もない。これ���の試みが失敗したところで誰も責任を取らないどころか、「改革を十分に徹底していなかったから良くなかった、だからより抜本的に行う必要がある」という意見が支配的で、もう手の施しようがない。
つまりこの日本では健全な民主主義が機能していないのだ。
東日本大地震になると、この民主主義の機能不全は輪をかけて酷くなり、福島原発の爆発を見て、人々は恐れおののき、科学的根拠もなく、メディアの扇動だけで直ぐにでも脱原発と声高に多数派は叫ぶ有様。
正直にいって私も当初煽られてしまった。追い追い情報を精査すると、この事故はやむを得なかった。何しろ、想定外の事が起きたのだから。だったら、この想定外を上回る危機にも耐え得る原発を作れば良いではないか。しかしそんな議論は無かった。あったのは原発廃止、それだけ。
しかも脱原発に煽られて、人々は一斉に原発を叩き、根拠なき恐怖心は再エネビジネスに利用されたのだった。
結果、電気代に再エネ促進費用を上乗せされて支払う羽目になり、そのままその金は外資規制もなく再エネ事業者に横流し。しかもビジネス目的で山の斜面に多く作られたソーラーパネルのせいで、豪雨が見舞えば、土砂崩れは頻発する有様。
敗戦のショック同様に、このショックは人々の思考を停止に至らしめ、その隙間を邪なビジネスマンや工作勢力に利用されたのだった。
これをショックドクトリンという。
大惨事が起きるたびにこの国ではビジネスチャンスとなるわけだ。
過去の大戦の原因の一つが、石油をめぐるアメリカに対する我が国の過度な依存であったと分かれば、自ずと、結論は、エネルギーを自前で賄える可能性を有した原発を日本は国を挙げて維持すべきといった意見に傾く。この事故をあくまで日本の宿命と受け止めるべきではなかろうか。自立するために、多少の犠牲を払わなければならない日本の運命的境遇を理解できれば、何でもかんでも反原発と騒ぐのは話があまりにも飛躍しているのではないか。
しかし、こんな私の意見なんて多数派には届くはずもない。多くの人たちは、東電の管轄下にあったものが事故を起こしたのだから、その責任を国が東電に押し付けて当たり前と考え、異論すら聞き入れなかった。
想定外の事が起きているところへ、責任問題として、この事故を扱うこの国のエリート層の知性の劣化にはこの私でも舌を巻くものだった。これは誰の責任でもなく、その負担は政府をはじめとする国家全体が負うべき種類のものだろう。
しかし、政府はその負担を東電に押し付けた。メディアは、また放射能の被害を被った福島の農家に東電職員が土下座する写真を新聞の一面に載せたのだった。
どこまで煽られないと人々は気づかないのか。
その年行われたロックフェスは、従来通り、大量の電力を消費する大規模なものであったのに、ステージに立つ連中は悉く脱原発のイデオロギーに染まり、ある政治集団に至ってはジョンレノンに憧れてるのか、そこで夜中、大音量で音楽をかけながら、環境保護を標榜する集会を開いていた。60年代後半のウッドストックにいたヒッピーの幻想に頭がヤラレだのだろう、原発の利権構造が悪など偉そうな事を言う一方、大量の電力がなければ成り立たない生活をしている自身の矛盾には目を背け、偉そうに騒ぎ立てる姿は、自己欺瞞そのもので、実におめでたい姿だった。この光景をみて、こんな軽薄な連中とつるむのが気恥ずかしくなったものだ。私もそれだけ歳をとったのかわからぬが、彼らに言い知れぬ違和感を覚え、これ以降、私は音楽をやっている連中に関心を寄せなくなったのは事実だ。
一体、奴らの政治的主張のどこに耳を傾ける必要があろうか?実際、彼らの歌詞を仔細に読めば、その内容の空虚さ、幼稚さ、軽薄さが目につくだけで私は、彼らの音楽の不協和音も相まって、一層不快になってしまう。まさにこの自己欺瞞は滅びの兆候といってもいいのだろう。
こんな自己欺瞞ばかりの音楽の世界から遠ざかりたい一心で文学へと関心を移したわけだけど、これと同じことが文学でも起きていると分かった時の落胆は相当深刻なものだった。なんたって文学者の多くは音楽のそれと違って政治力まであるのだ。
私はそれでもこのクソみたいに高慢で自己欺瞞している連中の間で軽佻浮薄な振る舞いをして、世間の失笑と顰蹙を買うことだろう。
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ひとみに映る影 第五話「金剛を斬れ!」
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◆◆◆
ポーポーポポポーポポポー…
「こちらは、熱海町広報です。五時になりました。 よい子の皆さん、気をつけてお家に帰りましょう…」
冬は日が沈むのが早い。すっかり暗くなった石筵霊山では、 防災無線から地元の小学生の声と、童謡『ザトウムシ』の電子リコーダー音だけが空しく響いている。 一方、霊山中腹に建つ廃工場ガレージで、私は…
「ピキィェェェーーーーッ!!!」 「紅さん、落ち着いて下さい!」 「うっちゃあしぃゃあぁあーーー!!こいつがあ!鼻クソッ!殺人鬼のクソ!私の口、口にッ! お前も間接クソ舐めろゲスメド野郎おぉぉ!!こねぁごんばやろがあぁぁあああああああ!! キエェェーーーーッ!!」
その時私は言葉にならない奇声を上げながら、皮を剥かれた即身仏ミイラに向かって、半狂乱で錆びついたグルカナイフを振り回していた。 そこそこ大柄な譲司さんや、ガタイの良いアメリカ半魚人男性の霊を憑依したイナちゃんに取り押さえられていたにも関わらず、 どこから出ているかわからない力で、ミイラをジャーキーになるまで切り刻もうと試みていた。
そのまま体感二分ほど暴れ、多少ヒスが冷却してきた頃か。 突然ガレージ外からオリベちゃんがツカツカと近寄ってきて、
「!」
私の顎を強引に掴み上げた。 ラメ入りグロスを厚く塗られた彼女の唇が、私の唇に男らしく押し当てられる。
「んっむ…オ…オリベちゃん…!?」 <同じライスクッカーからゴハンを食べる、それが日本流の友情の証だそうね> 同じ釜の飯を食う?まさか、彼女も見てたのか。あの衝撃的なサイコメトリー回想を。 それでいてなお…私の汚い口に、キスを…? <それが何?子育てしてたら鼻吸いぐらいよくやる事よ。 だぶか(『逆に』を意味するヘブライ語のスラング)、これであなたも私のベイビー達の鼻水と間接キスしちゃったわね!> 嘘つき。今時医療機器エンジニアが、だぶか鼻吸い器も使わずに育児するわけがない! 私の思っている事を読み取った彼女が、テレパシーで優しい嘘をつきながら私を抱きしめてくれたんだ。 「お…お母さぁん…!」 これが人妻の魅力か。さりげなくナイフは没収されていた。
<ほらジャック、あんたもよ!> 「は!?」 次にオリベちゃんは、イナちゃんの肉体からジャックさんを引っ剥がして私に宛がった。 互いの唇が触れ合っている間、ジャックさんのコワモテ顔がみるみる紅潮していく。 「ぶはッ!」 唇が離れると、ジャックさんは実体を持たない霊魂にも関わらず、息を吸う音を立てた。 そして赤面したままそっぽを向いてしまった。 「や…やべえ、俺芸能人とキスしちまった…!」 たぶん彼は例のサイコメトリーを見ていないんだろう。ちょっと悪い事をした気分だ。
しかしオリベちゃんは既に譲司さんまでも羽交い絞めにしていた。 <コラ怖気づくんじゃないわよ!> 譲司さんは必死に抵抗している。 「そうやなくて!さすがに俺がやるとスキャンダルとかがあかんし…」 <男でしょおおおおおおぉぉぉ!!?> 「ハイイィィィィ!!!」 次の瞬間、譲司さんはとても申し訳なさそうに私と接吻を交わした。 そのまま何故か勢いでリナやポメちゃんともチューしちゃった。
全員が茫然としていると、いつの間にか意識を取り戻していたイナちゃんが私を背後から押し倒した。 「きゃっ!イナちゃん!?」 「みんなだけズルい!私もチューするヨ!」 そ、それはまずい!私はプロレスの手四つみたいな姿勢でイナちゃんを押し返そうとする。 「違うのイナちゃん!これにはわけが…うわーっ!!」 しかしなす術なく床ドンされ、グラデーションリップを精巧に塗られた彼女の唇が、私の唇に男らしく押し当てられる。
互いの唇が離れるのを感じて私は薄目を開けると、 目の前ではイナちゃんが『E』『十』の手相を持つ両手の平を広げていた。 「これ。ロックサビヒリュのシンボル」 肋楔の緋龍。さっきサイコメトリー内で、肉襦袢の不気味な如来が言っていた言葉だ。 どうして彼女がそれを? 「…見てたの?」 「意識飛んで、暗いトンネルでヒトミちゃんとヘラガモ先生追いかけた。 そしたらアイワズが、赤ちゃんのヒトミちゃんに悪さしてた」 アイワズ?もしかして、あの肉襦袢の事?イナちゃんは何か知っているのか…。
すると突然ポメラー子ちゃんが「わぅ!」と小さく鳴き、動物的霊感で床に散らばった半紙の一枚を選んで口に咥えた。 そのまま彼女はそれを私達の足元に置く。半紙には『愛輪珠』と書かれていた。 「これ、小さい頃私が書いたやつ…!」 「愛輪珠如来(あいわずにょらい)…」 譲司さんが呟いた。その語感は、忘れ去っていた私の記憶の断片とカチリと噛みあった気がした。
イナちゃんも、別の半紙を一枚拾い上げる。あの『E』『十』が書かれた半紙を。 「私、悪いものヒキヨセするから、 子供の頃から、韓国で色んな人見てもらってた。 お寺、シャーマン、だめ。気功行った、教会で洗礼もした。だめだった。 でも幾つかの霊能者先生、みんな同じ事言うの…コンゴウの呪いは誰にも治せないて」 私と譲司さんが同時にはっとする。 金剛…愛輪珠如来に続いて、またイナちゃんの口からサイコメトリーと合致するキーワードが飛び出した。
「まえ、気功の先生こっそり教えてくれた。地面の下はコンゴウの楽園あって、強い霊能者死ぬとそこ連れて行く。 アジアでは偉い仏様なアイワズが仕事してて、才能ある人間見つけると、 その人死ぬまでにいっぱい強くなるように、呪いかけていっぱい霊能力使わせる。 私のロックサビヒリュもそれで付けられた。 それ以上は私あまり知らない。たぶん誰もよく知らないこと思う」 地底に金剛の楽園?まるで都市伝説みたいだ。 でも、その説明を当てはめれば、愛輪珠如来と赤僧衣がしていた会話の意味が、なんとなく理解できる。
「なんだそりゃ。じゃあお前の引き寄せ体質は、呪いとやらのせいだったのか?」 ジャックさんの眉間に微かな怒りのこもった皺が寄った。 「うん。私、本当は悪い気をよける力使いヨ。でも心が弱ると、ヒリュが悪さするんだ!」 イナちゃんは悪霊を引き寄せた時と同じように、両手をぎゅっと固く握り合った。 今の私達はもう、この動作の意味を理解できる。 これはキリスト教的なお祈りのポーズじゃなくて、両掌に刻まれた呪いを霊力で抑えこんでいたんだ。
「…ねえアナタ」 突然リナがイナちゃんに問いかける。 「高校生ぐらいよね?年はいくつ?」 「オモ?十六歳だヨ」 「1994年生まれ?」 「そだヨ」
リナは暫く神妙な顔つきで何か考え、やがて口を開いた。 「どうやら、アナタにも…いいえ。 もうこの際、この場に集まった全員に知る権利があるわね」 そして顔を上げ、私達全員に対して表明した。 「紅一美と即身仏、そして倶利伽羅龍王について。アタシが知ってる事洗いざらい話すから、よく聞きなさい」
◆◆◆
1994年、時期は今と同じく十一月頃。アタシは紅一美という少女によって生み出された。 いや、正確には、アタシは石筵霊山に漂う動物霊の残骸をアップサイクルした人工妖精だ。 当時はまだ、リナという名前も人間じみた知性も持っていなかった。
アタシは与えられた本能に従って、自分を本物の鳥だと信じて過ごしていた。 そんなある日、金色の炎を纏った大きな赤い蛇に襲われて、食べられそうになった。 アタシはソイツを天敵だと見なして、無我夢中で抵抗した。
結論を言うと、ソイツはこっちが情けなくなるぐらい弱っちかった。 というより、戦う前から手負いだったみたい。 返り討ちされたソイツは、アタシを説得するために知能を与えて、こう語りだした。
「俺様は金剛の魂を金剛の楽園へ導く緋龍、その名も金剛倶利伽羅龍王だ。 本来ならお前如き軽くヒネってやれるが、今の俺様は裏切り者に大事な法具を盗まれ、満身創痍なのだ。 お前を生み出した者の家から金剛の赤子の肋骨を持ってきてくれるなら、お前の望みを一つ叶えてやるぞ」 そこでアタシは、そのクリカラナントカと名乗ってきたソイツに、人間になりたいと祈った。 知能を授かって、自分が人工の魂だ��知ったとき、自分も霊魂を創って生み出してみたいと思ったからだ。 でもクリカラは、「今の俺にそこまでする力はない」と言って、アタシの顔だけを人間に変えた。
アタシは肋骨を取り返しに行く前に、まず人里に降りる事にした。 一刻も早く人間の世界を知りたかったから。それに、人間の顔をみんなに自慢したかったからだ。 ところが霊感のある人間達は、みんなアタシを見ると笑った。クリカラはアタシに適当な顔を着けたのだと、その時初めて知った。 だからアタシは腹いせに、クリカラの目論見を全て『裏切り者』にチクってやろうと考えた。
改めて自分が生み出されたガレージに戻ると、アタシは初めて内部に仕組まれたトリックアートに気付いた。 そのガレージ内は、なまじ霊感の強い人間が見ると、まるでチベットの立派な寺院みたいに見える幻影結界が張られていたの。 緑のトタン壁や積み上がった段ボールは、極楽絵図で彩られた赤壁とマニ車に。 黄ばんだ新聞紙の上に砂だらけの毛布が敷かれただけの床は、虎と麒麟があしらわれた絨毯に。 中央に置かれた不気味なミイラは、木彫りの立派な観音菩薩像に。 人間の霊能者並の知性と霊感を得たアタシにも、それは見えるようになっていた。
すると、漆塗りのローテーブル、もとい、ベニヤ板を乗せたビールケースの上で物書きをしていた小さい子が、元気よく立ち上がった。頭は丸坊主だけど女の子だ。 その子に…一美によって生み出されたアタシには、女の子だとわかった。 「書けた!和尚様、書けましたぁ!」 幼い一美は墨がついた手で半紙を掲げる。そこに書かれているのは少なくとも日本語じゃない、未知の模様だ。 すると観音像から白い気体が浮かび上がり、とたんに人間形の霊魂になった。
「あぁ…!」 思わず感嘆の息が漏れた。その霊魂は、結界内の何よりも美し��ったのだ。 赤い僧衣に包まれた、陶器のような滑らかで白い肌。 まるで生まれつき毛根すらなかったかのような、凹凸や皺一つない卵型の頭部。 どの角度から見ても左右対称の整った顔。 細くしなやかで、かつ力強さをも感じ取れる四肢…。 これこそ真の『美しい人』だと、アタシはその時思い知った。 和尚、と呼ばれたその美しい人は、天女が奏でる二胡のような優雅な声で一美と会話したのち、アタシに気付いて会釈をした。
一美が昼寝を始めた後、その美しい人はアタシに色々な事を語った。 その人の名前は金剛観世音菩薩(こんごうかんぜおんぼさつ)、生前は違う名を持つチベット人の僧侶だったらしい。 金剛観世音…(ああ、面倒ったらしいわ!次から観音和尚でいいわね!)は生前、 瞑想中に金剛愛輪珠如来と名乗る高次霊体と邂逅した。 その時、如来に自分の没後全身の皮膚を献上するという契約を交わし、悟りを開いて菩薩になった。 皮膚を献上するのは、死体に残留した霊力を外道者に奪われなくするためだと聞かされて。 だけど、実際はその如来や、如来を送りこんできた金剛の楽園こそ、とんでもない外道だったの。
イナちゃんが話していた通り、愛輪珠如来はアジア各地の霊能者に、苦行という名の呪いや霊能力、特殊脳力を植えつけていた。 しかも金剛の者達は、素質のある人間は善人か悪人かなんてお構い無しに楽園へ迎え入れる方針だった。 それこそ、あの殺人鬼サミュエル・ミラーだって対象者だった。 そして、サミュエル・ミラーが水家曽良となって日本に送られてくると、 金剛の楽園で水家の担当者は愛輪珠如来になった。
だけど、愛輪珠如来と幽体離脱した観音和尚が水家の様子を検めた時、水家はNICの医師達によって、既に脳力や霊能力を物理的に剥奪されていた。 そこで如来は、水家と同じ病院で生まれた一美に、水家の霊能力を無理やり引き継がせたの。 それだけじゃ飽き足らず、一美の肋骨を一本奪って、それを媒介に、呪いの管理者である肋楔の緋龍を生み出すよう観音和尚に指示した。 観音和尚はここで遂に、偽りの仏や楽園に反逆する決意をしたのよ。
彼は如来の指示に従い、石英を彫って、緋龍の器となる倶利伽羅龍王像を作った。 但し、一美の代わりに自分の肋骨を自ら抜き取って、それを媒介に埋め込んだ。 この工作が死後金剛の者達に気付かれないように、彼はわざわざ脇腹の低い所を切って、そこから自分の体内に腕を潜らせて肋骨を折ったの。 そして一美の肋骨は、入れ替わりに自分の体内に隠した。
観音和尚は脇腹から血を流したまま七日七晩観音経を唱え続けた後、事切れて即身仏となった。 すると即座に生死者入り混じった金剛の者達が現れ、契約通り彼の遺体から生皮を剥いでいった。 霊力を失い、金剛の楽園にとって価値がなくなった遺体は、心霊スポットとして名高い怪人屋敷のガレージに遺棄されたわ。
一方何も知らないクリカラは、一美のもとへ向かっていた。 そして一美に重篤な呪いをかけようとしたその瞬間…突然力を失った! クリカラが自分の肋骨は一美のものではないと気付いた時にはもう遅かったわ。 仕方なくクリカラは、一美を呪う事を一時断念して、金剛の楽園へ退散した。
観音和尚はアタシに以上の事を打ち明けると、穏やかな顔で眠る一美の頬をそっと撫でて、続きを語った。
没後、裏切り者として金剛の楽園から見放された観音和尚は、怪人屋敷に集う霊魂や人工精霊達に仏の教えを説いて過ごしていた。 そして四年の歳月が流れた1994年、彼のもとに、不動明王に導かれし影法師の女神、萩姫が現れた。
「どういうわけか、金剛倶利伽羅龍王が復活しました。 龍王は県内各地のパワースポットを占拠して力を得ています。 一美は私達影法師にとって大切な継承者ですが、磐梯熱海温泉を守る立場の私は龍王に逆らえません。 どうか彼女を救うのを手伝って下さい」
これはアタシの想像だけど…クリカラは同時期韓国で、新たな金剛のターゲット、イナちゃんから力を奪ったんじゃないかしら。 萩姫に導かれ、観音和尚が猪苗代の紅家に向かうと、一美の胸元には確かに緋龍のシンボルが浮かび上がっていた。
観音和尚と一美の家族は協力してクリカラを退けたが、少ない霊力を酷使し続けた彼の魂はもう風前の灯火だった。 クリカラが完全に滅びていない以上、一美がいつまた危険に晒されるかわからない。 だからアナタの両親は、アナタを一人前の霊能者にするために、観音和尚に預けたのよ…。
◆◆◆
「以上、これがアタシの知っている事全て」 リナは事の顛末を語り終えると、改めて全員と一人ずつ目を合わせた。 私をさっきまで苦しめていた色んな感情…不安や悲しみ、怒りは、潮が引くように治まってきていた。 「この話、本当なら、アナタが二十歳になった時にご両親が話す予定だったの。…ていうか、明後日じゃないの。アナタの誕生日。 はっきり言って、観音和尚はアナタの友達が猪苗代湖で騒ぎを起こした頃には既に限界だったわ。 だから彼は最後に、アタシを猪苗代へ遣わせたの。 それっきりよ。以来、二度と彼を見ていないわ…」
数秒の沈黙があった後、私は口を開いた。 「リナにとって…観音寺や和尚様は、美しかったんだよね?」 物理脳を持つ人間と違い、霊魂は殆ど記憶を保てない。 だから彼らは自分にちなんだ場所や友人、お墓、依代といった物の残留思念を常に読み取り、 そこから自分の自我目線の思念だけを抽出して、記憶として認識する。 リナがこの観音寺を美しいと表現したのは、単に私の記憶を鏡のように反射しただけなのか、それとも…。 「少なくとも、この場から思い出せる景色を見て、今アタシは美しいと感じたわよ」 「…そうなんだね」
お蕎麦屋さんの予約時間はもうとっくに過ぎているだろう。 けど、私は皆に一つお願いをした。 「すいません。十分…ううん、五分でいいんです。 ちゃんと心を落ち着かせたいので、少しだけ瞑想をしてもいいですか?」 皆は黙ったまま、視線で許してくれた。 「わぅ」 構へんよ。と、ポメラー子ちゃんが代表して答えた。
影法師使いの瞑想は、一般的な仏教や密教のやり方とは少し異なる。 まず姿勢よく座禅を組み、頭にシンギングボウルという真鍮の器を乗せる。 次に両手の親指と人差し指の間に、ティンシャという、紐の両端に小さなシンバルのような楽器がついた法具をぶら下げる。 その両手を向かい合わせて親指と小指だけを重ね、観音様の印相、つまりハンドサインを作れば準備完了だ。
瞑想を始める。目を瞑り、心に自分を取り囲む十三仏を思い描く。 仏様を一名ずつ数えるように精神世界でゆっくりと自転しながら、じっくり十三拍かけて息を吸う。 「スーーーーーー…………ッフーーーー…………」 吐く時も十三拍で、反対回りに仏様と対面していく。 ちなみに一拍は約一.五秒。久しぶりにやったけど、相当きつい。肺活量の衰えを感じる。 でも暫くすると…。
…ウヮンゥンゥンゥン…ヮンゥンゥンゥン…
<何?何の音!?> 「この1/f揺らぎは…ああっ!紅さんや!」 私の頭上のシンギングボウルが一人でに揺らぎ音を奏ではじめ、皆がどよめいた。 実はこれは、影法師を操るエロプティックエネルギーという特殊な念力によるものだ。
…ワンゥンゥンゥン…ヮンゥンゥンゥン… テャァーーーーーン…!
息苦しさと過度の集中力が私の体に痙攣を引き起こし、時折自然とティンシャが鳴る。 波のように揺らぎ、重なり合った響きが、辺り一帯を荘厳な雰囲気で包み込む。 その揺らぎを感じて、私も精神世界で変化自在な影になり、万華鏡のように休みなく各仏様の姿に変形し続けている。 私は影、私は影法師そのものだ。完全黒体になれ。 そして心まで無我の境地に達した時、この身に当たる全ての光を吸収し…放出する!
テャァーーーーーン…!
「オモナ…すごい!」 そっと目を開ける。眼前に広がる光景は、もはやガレージ内ではない。 「そうか。ここが…あんたが信じ続けた故郷なんだな」 今ならイナちゃんやジャックさんにも見えるようだ。 懐かしい赤と真鍮のお御堂。窓辺から吹き抜ける爽やかな風。 そのお御堂の中心で、とりわけ澄んだ空気を纏って立つのは、仙姿玉質な金剛観世音菩薩像…和尚様。 そして、頭と両手に法具を置き、和尚様とお揃いの赤い僧衣を纏った私。 ここは、石筵観音寺。私が小さい頃住んでいたお寺だ。
『よく帰ってきましたね』 和尚様の意思が聞こえた。声でもテレパシーでもない、もっと純粋な波動で。 彼はまだ滅びていなかったんだ。 「あの…私達、申し訳ありません。和尚様の記憶、見ちゃって…それで…」 『一美』
和尚様は私の両手を取り、彼の胸の中に沈めた。ティンシャが「チリリリ」とくぐもった音をたてた。 心なしか暖かい胸の中で、私の手に棒のようなものがそっと落ちてきた。 両手を引き出してみると、それは細長い小さな骨…赤ん坊の頃に失われた、私の肋骨だった。 顔を上げると、和尚様の優しくも決意に満ちた微笑みが私の網膜に焼きつき、瞑想による幻影はそこで分解霧散した。
『行くのです』 彼は成仏したんだ。
次の瞬間、私達を取り巻く光景は薄暗いガレージに戻っていた。 でも、今のはただの幻影じゃない。和尚様のお胸には穿ったような跡が残っている。 私が握っていた肋骨はいつの間にか、何らかの念力によって形を変えていた。 「これは…プルパ」 <プルパ?> オリベちゃんが興味津々に顔を寄せる。 「私知てるヨ。チベットの法具ね。 煩悩、悪い気、甘え、貫く剣だヨ」 イナちゃんが私の代わりに答えてくれた。
そう、プルパは別名金剛杭とも呼ばれる、観世音菩薩様の怒りの力がこもった密教法具だ。 忍者のクナイに似た形で、柄に馬頭明王(ばとうみょうおう)という怒った容相の観音様が彫刻されている。
「オム・アムリトドバヴァ・フム・パット…ぐっ!!」 馬頭明王の真言を唱えてみると、プルパは電気を帯びたように私の影を吸いこみ…
ヴァンッ!…短いレーザービームみたいな音を立てて、刃渡り四十センチ程の漆黒のグルカナイフに変形した。 「フゥ!あんた、最強武器を手に入れたな」 影を引っ張られてプルパを持つ手さえ覚束無い私を、ジャックさんが茶化す。 「武器って、私にこれで何と戦えって言うんですか!?…うわあぁ!」 途端、プルパは一人でに動き、床に落ちていた『金剛愛輪珠』の半紙にドスッと突き立った。 「ウップス…」 ジャックさんも思わず神妙な顔になる。 どうやら、和尚様は…本気で怒っているらしい。 憤怒の観音力で、私に偽りの金剛を叩き斬れと言っているんだ!
◆◆◆
私達はガレージのシャッターをそっと閉じ、改めて公安���察内のNIC直属部署に通報した。 自分達はひとまず怪人屋敷内で待機。 譲司さんがお蕎麦屋さんにキャンセルの連絡を入れようとした、その時だった。
カァーン!…カァーン! スピーカーを通した鐘の音。電話だ。譲司さんはスマホをフリックする。 案の定、画面に再びハイセポスさんがあらわれた。 『やあ、ミス・クレナイ。さっきはすまなかったね。 石筵にあんな素晴らしい観音寺があるなんて、僕は知らなかったのさ』 「いえ、こちらこそ取り乱してすみませんでした。 …あの光景、ハイセポスさんも見られてたんですね」 『おっと、幻影への不正アクセスも謝罪しなければいけないかね』 彼はいたずらっぽく笑った。
『また電話を繋いだのは他でもない。ミス・リナの一連の話を聞き、一つ合点がいった事があってだな… ああ、その前に、アンリウェッサ。蕎麦屋の予約は僕が勝手にキャンセルしちゃったけど、構わないね?』 「え?あ、どーもスイマセン!」 譲司さんはスマホを長財布に立てかけようと四苦八苦しながら、画面に向かってビジネスライクな会釈をした。
『実は僕には兄がいて、中東支部で彼も殺されたんだ。 だが彼はある時突然、「俺はこいつの脳内で神になってやる」とかなんとか言って、水家の精神世界で失踪してしまった。 それから暫く経ち、僕達NIC職員のタルパが兄を捕獲すると、彼はこう言ったのさ…「俺は龍王の手下に選ばれた、神として生きていく資格があるんだ」とね』 「龍王!?」 「どうして水家の脳内に!?」 私達全員が驚きにどよめいた。
『そう、お察しの通り。君達の宿敵、金剛倶利伽羅龍王の事だろうさ。 龍王はなんでも、水家の脳内に蠢く『穢れ』を喰らっていたらしい。 そして僕の兄は、穢れを成長させるには沢山の感情が必要だから、あまりタルパを奪い尽くさないでくれとのたまったんだ』 「穢れ?」 『ジョージとオリベは知っているだろう』 「穢れ」譲司さんの額から汗が流れ落ちた。「…自我浸食性悪性脳腫瘍(じがしんしょくせいあくせいのうしゅよう)」 彼の口から恐ろしい言葉が飛び出した。
自我浸食性悪性脳腫瘍。私も知っている病名だ。 通称タピオカ病とも呼ばれるそれは、脳に黒い粒々の腫瘍ができて、精神がおかしくなってしまう病気だ。 発病者は狂暴になって、自分が一番大切な人を殺したり、物を壊したりするという。 ただでさえ殺人鬼の水家がそれに感染していたとなると…恐ろしいの一言に尽きる。 『その通り、穢れとはタピオカ腫瘍だ。 本来は生きた人間を狂わす脳腫瘍だが、霊魂にそれを感染させれば、そいつは強力な悪霊と化す。 だから龍王は、水家の脳内に閉じ込められたタルパ達を、穢れた腫瘍粒に当てがっていたんだ。 悪霊をたらふく喰って強くなるためにね。兄はその計画にまんまと利用されていたのさ』
ジャックさんが画面を覗きこむ。 「水家は、安徳森に俺達が救出された時には失踪していたんだよな? まさか、奴は今もどこかで、龍王のエサ牧場としてこっそり生かされ続けてやがるのか!?」 『そこまではわからない。だがこうは考えられないだろうか? 観音和尚の計らいで一たび力を失った龍王は、ミス・パクから霊力を吸収し、更に福島中のパワースポットを乗っ取って復活した。 すると金剛の楽園にとって因縁深い男、水家曽良を見つけ、更に水家の精神世界でタピオカ病という副産物を発見する。 彼は、水家の精神を乗っ取ってタルパを生ませ続ければ、ほぼ無限に悪霊を生み出し喰らえる半永久機関に気づいた。 そして自分が楽園で高い地位を獲得できるほど強大化するその日まで、フリードリンクのタピオカミルクティーを浴びるように飲み続けているのさ!』 「は、半永久にタピオカミルクティーを…アイゴー!」 イナちゃんが身震いする。いや、さ、さすがにそれは飛躍しすぎでは…。 とはいえ、この仮説が正しければえらい事だ。
「けど…」 譲司さんがおずおずと手を挙げる。 「もし水家の脳内でそんな強い悪霊が育っとったら、霊感を持つ誰かが既に発見しとるのでは? 水家はNICの強力な脳力者捜査官がおる公安部だけやなくて、マル暴にも指名手配されとります。 俺の友人にも、マル暴で殉職した霊がいますが…そんな話聞いたことありません」 <そうね。悪霊説は無理があるわ。 それでもあの殺人鬼は一刻も早く見つけ出さないとだけど> オリベちゃんが同調した。
私はその時、ふと閃いた。オリベちゃんといえば… 「そういえばオリベちゃん、ここに来た時、怪人屋敷の二階に気配がするって言ってましたよね?」 <え?…ええ。でも、一瞬だけよ。 ファティマンドラのアンダーソンさんを見つけた時には消えていたから、てっきりアンダーソンさんの霊だったんだとばかり…> 『二階?…ああ、でかしたぞオリベ!これは灯台もと暗しだ!』 突然、ハイセポスさんがはっとした顔を画面いっぱいに近寄らせた。 『誰か、そこの階段を上ってごらん。そうすれば大変な事実に気がつくだろう! ああ、僕達は今までどうしてこれを見落としていたんだ!!』
画面内で心底嬉しそうにくるくる踊るハイセポスさんとは裏腹に、私達の頭上にはハテナマークが浮かんでいる。 とりあえず、私とオリベちゃん、ジャックさんで階段へ向かった。
◆◆◆
階段脇には館内図ボードがあった。影燈籠で照らしてみると、この工場は三階建てのようだ。 ジャックさんがボードを指さしながら、水家と共通の記憶を辿る。 「そういや、水家が潜伏していたのも二階だったな。 二階はほぼ一階の作業所と吹き抜け構造で、あまり大きな部屋はないんだ。 ええと、更衣室、事務所、細菌検査室…ああ、そうだそうだ!あいつが占拠していたのは応接室だ。」 「じゃあ、二階の応接室に向かいましょう! 影燈籠は光源がない場所では使えないから…」 私とオリベちゃんはそれぞれスマホを懐中電灯モードにした。
一つ上のフロアに出て、真っ暗な廊下を進む。 幾つかのドアをドアプレートを読みながら素通りしていくと、確かに『応接室』と書かれた部屋があった。 鍵は開いていたから、私達は速やかに入室する。
室内を見渡すと、端に畳まれたパイプ椅子と長机、それに昔小学校などによく置いてあった、オーバーヘッドプロジェクターが一台見える。 <応接室というより、まるで工場見学に来た子供達向けの教室みたいね> 「水家の私物はもう警察が回収したんでしょうか?それより…」 それより気になる事がある。オリベちゃん、ジャックさんも同じ事を考えていたように頷いた。 「…この部屋、あいつの残留思念や霊がいた気配を全く感じねえ。 あいつが潜伏していたのはここじゃねえみてえだな」 「本当にここが応接室なんでしょうか?ドアプレートは誰でも簡単に付け替えられますよね」 <ええ。それに、さっきの廊下、広かったわよね? 左右どちらにも沢山ドアがあって。どこが吹き抜けだっていうの?>
私達は改めて階段へ戻った。ここは…三階だ。 「二階が、ない!?」 私はまた階段を下ってみる。一階。上る。三階。 だからといって、一つ分フロアを隔てるほど長い階段じゃない。明らかに次元が歪んでいる!
イナちゃんや譲司さんも含めて、一階の階段前に全員集合する。 私は外灯が当たる場所に移動し、影の中のリナに呼びかけた。 「あんたはどうだった?私絶対二階がなくなってたと思うんだけど…」 「そうね。アタシ、途中で外に出て壁から入ろうとしたけど、それもダメだった」 <でも、次元が歪むなんて事、本当にあるの? NICは心霊やエスパーの研究でも最先端だけど、人間がテレポーテーションする現象は見た事ないわ> オリベちゃんは欧米的にわざとらしく肩をすくめた。 「現代解明されとる量子テレポーテーションは、SFみたいな瞬間移動とは別物やしな。 だったら、逆の発想や…イナ」 「オモ?」 譲司さんはイナちゃんに、スマホで音楽をかけながら一緒に階段を上るよう指示する。
『背後からっ絞ーめー殺す、鋼鉄入りのーリーボン♪』 ビクッ!…音楽が鳴り始めるやいなや、私は思わず身構えて、キョロキョロと周囲を伺った。 イナちゃん、よりにもよって、どうしてその曲を選んだんだ。 「あははは!ヒトミあんた、ビビりすぎよ!」 「う…うるさい、リナ!」 休みの日には聴きたくなかった声。 この曲は、私を度々ドッキリで連れ回す極悪アイドル、志多田佳奈さんのヒットソング『童貞を殺す服を着た女を殺す服』だ。タイトル長すぎ!
『返り血をっさーえーぎーる、黒髪ロングのカーテン♪』 「歌うで、イナ…仕込みカミッソーリー入りの♪」 「「フリフリフリルブラーウス♪」」 二人は階段を上がりながら、暗い廃工場の階段というホラー感満載の場に似つかわしくないアイドルポップを歌う。 しかし、 「「あーあー♪なんて恐るべき、チェ…」」 『…リー!キラー!アサシンだ!』 二人は突然、示し合わせたようなタイミングで歌うのを止めた。 イナちゃんのスマホから、佳奈さんの間抜けな声だけが階下に響く。 「なんだあいつら。歌詞を忘れたのか?」 肩でリズムを取りながら、ジャックさんが見上げた。 <…待って。あの二人、意識がないわ!> オリベちゃんが異変を感知。慌てて彼らを追いかけようとすると、その時!
「「…リー!キラー!アサシ…ん?」」 『わ・た・し・童貞を殺す服を着た女を…』 「オモナ?もうサビなの?」 彼らはまるで時を止められていたかのように、また突然歌いだした。 スマホから流れる音楽との音ズレに、イナちゃんが困惑する。 「やっぱりそうか。オリベ! 今から…ええと、ひーふーみー…八秒後きっかりに、俺に強めのサイコキネシスをうってくれ!」 何かに気付いている譲司さんは、そう言うと階段を下りはじめた。
五、六、七…八! <アクシャーヴ!>ビヤーーーッバババババ!!! 「わぎゃぁばばばばばば!!!死ぬ!死ぬーっ!!」 オリベちゃんの頭が紫色に光るのが傍目から見えるほど強烈なサイコキネシスを受け、譲司さんは時間きっかりに叫び声を上げた。 「げほっ、げほ…あーっ!ほら!行けたで、二階!皆来てみ!!」 少し焼けた声で譲司さんが叫ぶ。 「わ、わきゃんわきゃん!?」 飼い主の危機を察してポメちゃんが階段を駆け上がる。 私達もそれに続くと、途中で全員譲司さんに器用に抱きとめられ、我に返った。 「わきゅ?」 「あれ?」 「俺達、今…」
「どうやらこの階段には、二階周辺を無意識に飛ばしてまう、催眠結界が張られとるみたいやな。 それならテレポートより幾分か現実的や。 ただ、問題は…これ作ったん誰で、どうやったら開けられるかって事やな…」 譲司さんが目線で、二階入口の鉄扉を指し示した。 そこには、白墨で複雑極まりないシンボルが幾つも丁重にレイアウトされて書かれた、黒い護符が貼ってあった。
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hEaLtHibOyZ 健康優良新鮮少年
ヘルシーボーイズ
健康優良新鮮少年
筆者 ネオンポテト
20XX 荒廃した元首都東京
かつて渋谷と呼ばれたB4区エリア。
チップアウト(非人体改造人間)キッズと
攻殻迷彩を纏った警察がイタチゴッコの毎日。
2000年初頭に導入されたマイナンバー制度から世の中は空前の電脳ブームが起こり、
富裕層はこぞって手のひらにICチップを埋め込み始めた。
レイシックなる視力向上の為の電子手術に始まり
人はより豊かな未来を夢見て日々人体改造に走り、政府によるメディアコントロールによりなにも考えず暮してる。
アメリカの大統領が変わるや否や
日本はおもてなし島国として極東のレジャーアイランド、
ジパングとも呼ばれ始めた。
さて、ピラミッドの最下層、低取得層の都民は
地方に疎開する富裕層を尻目に
日々荒廃した元首都東京で
廃品回収に勤しみ、見えない先の未来に
怯えて暮らしている。
首の裏のICチップがやけに痒いと
中高年の初期型電子人はブツと不満を漏した。
反政府側のテロリスト選民による電脳ウイルスによって
硬直人間(アイスマン)にされる事件が多発。
公衆スピーカーから発する怪電波から
耳鳴りの様な音が聞こえた。
その後、至る所で悲痛な叫び
が聞こえる、20XX年 12月 首都荒廃感染。
開催予定だったオリンピック中止。
電脳ウイルスによって
電子人はアイスマンにされ、残された子供達は
攻殻迷彩に追われながら荒廃したマンションに隠れ住む。
朝になると、またB4区にわらわらと戻り
かってに渋谷と呼ばれた街の残骸を拾い集める。
携帯電話のメモリーは細分化され、他人の思い出やたわいもないメールのやりとりは現代においては幸せの象徴。
メール内容によっては高額で取り引きされる。
それだけ過去の情報が価値があるのである。
図書館など政府が管理している為、一般公開はされていない現状。
なぜならつい先日、タイムスリップ可能な装置の開発に成功したからである。
時空警察の誕生。
人が人を管理し人間が時間を制御しはじめると
一気に歴史が変わるもんだから、政府は急遽、歴史や過去を管理し始めた。
さて、話はB4区に戻そうか、
この冷めかけた猫印のコーヒーが呑み終えるまえに。
#00
健康優良新鮮少年
『しってるか?昨日b4区の元ステーションエリアあるだろ?あそこの廃ビル入れるらしいぜ!なあ、今夜出掛けてないか?』
年は16.17位の若者は
ヘルメットを被り、エアーサイクルのエンジンを吹かし始めた。
ナンバーの付いていない盗品車輪にはキーポイントが付いていない。
彼の名は狂四郎。
両親共に電子ウイルス感染によりアイスマン化し児童施設に預けられ、
15歳で施設を出た後はその日暮らしの人生を送り続けていた。
同じ境遇の仲間、達郎と大滝も、感染により両親を失った児童施設出身。
現在この元首都東京は
過去に23区あったが現在は
ここB4区(渋谷) B3(新宿) B2(港区) B1(中央区)しかまだわかっていない。
真っ暗に閉ざされた空間に
政府によって
情報管理され同じエリアに押し込まれ生きていくしかないからだ。
「大滝、お前鈍いからさ、俺のケツ乗ってた方がいいだろ?」
クスクス笑いながら達郎は
キャットピス(ネコのオシッコの様な色のビタミン興奮剤)を放り込んだ。
ムキになった様子で大滝は言い返す
「なんだと~、お前こそ過去の思い出にひたってんじゃーないよ
またそんな幻想歌謡曲なんて聞いてさ、戻れないんだよ、過去には
俺達ビンボー人は金持ち様の為に血や肉となるだけさ、はあ~あ
死ぬなら金持ちのお嬢さんの為に俺の綺麗な血液を使って欲しいぜー。」
手首をポンポンと叩きながら大滝は辺りを見渡す。
さっきまで居たはずの狂四郎の姿が見当たらない。
外をみてもバイクは置き去りのままだ。
「おーい、狂四郎?どこいったあー?そろそろ夜の準備しよーぜ?」
呼び声が反響して雑居ビルに響きわたる。
割られたガラスの破片を踏み歩きながら
暮れる夕暮れを見つめ
窓際にそっと座り込む狂四郎の姿を発見した。
達郎と大滝は
狂四郎に近づき
同じ夕暮れを見つめ
たわいもない会話と
今夜の目的についてプランを練り始めた。
『いいか?あのビルは入り口が一つだ。正面は封鎖され入ることができないが
ステーションビルからビルへ飛び移れば屋上から中に潜入可能だ。』
大滝は自信満々に二人に伝える。まるで一度下見したかの様に。
あくび顔の狂四郎は全くと話には食いつかず
バイクのモーターコイルチェックに余念がない。
あきれた大滝は話を続ける、
『有力な筋からの情報だ、間違いない、何かお宝が眠ってるはずだぜ!ひひひ、やっとおれ達にも健康が訪れるな!最高だろ?達郎』
興奮気味の大滝は達郎の肩を抱きよせ、頭を叩きよろこびはしゃぎはじめた。
話にしっくりこない、達郎は
「オマエの話はなんだかまゆつばものだ、まあいい、お暇チャンネルな夜だ、いってみっか」
3人は深夜植松画材店の隣のビルから飛び移り最上階のドアを蹴破り
中に潜入した。
大滝は
二人を誘導し2階のレジ前に急ぐ。
至る所に飛び散ったインクなどの画材が
ジャクソンポロックのアクションペイントの様な光景が広がる。
そそくさに
忘れ物BOXを引き出す、大滝。
手にはアイホン3GSがしっかりと握りしめられていた。
狂四郎は
レジ裏のシルクスクリーンに興味深々
達郎は
薄っすら光る蓄光インクに目を奪われた。
「なんだよ、これ?光ってるじゃねーか、おい、狂四郎!オマエさっきからなにみてんだよwそんな板っぺら使いモンなんねーだろw」
狂四郎の好奇心は
さらに加速し、紙に包まれたシルクスクリーン版を一枚一枚確認し始め、数分後歓声をあげ二人を呼び寄せた。
『おい、これやべーぞ。
昨日ニュースで破綻したとかやってた
ヒューマンパッカードのパチモンじゃねーかw
ロゴの下には健康優良新鮮少年て描いてある!
これもしかして
プリントできたりするんじゃないのー?
大滝!オマエさっきからコソコソなにやってんだ、いいからオマエのジャケット貸せよ』
狂四郎は無理矢理大滝のジャケットを剥ぎ
シルクスクリーンの板を載せ
達郎の持ったインクを塗りたくる、
棚に陳列されたシルク用のスキージを取り
手慣れた様にプリントを始めた。
『すげー、やばいじゃん!健康優良新鮮少年、ヘルシーだな!よしみんなジャケットにプリントしよーぜ、そうだ俺達、今からB4区代表ヘルシーボーイズだぜ。』
興奮気味の狂四郎につられて
達郎、狂四郎、大滝は揃いのプリントジャケットを着て屋上に向かった。
すると、3人を照らすサーチライトの閃光が3人を包み込んだ。
ヘリだ、間違いなく政府の野郎共が3人を取り囲み始めた。
白い煙が噴出され
意識朦朧とし、屋上で倒れこむ3人。
気づいたらそこは
豆電球だけの暗いコンクリ張りの会議室にいた。
恰幅のいいメガネの軍曹らしき
中年男性が口を開く
「オマエ達、昨夜、なにをやっていたんだ?あそこは政府管理エリアだぞ?知ってて忍び込んだわけじゃあるまいな?」
無言を貫く3人。
呆れた軍曹は
部下に溢れんばかりのバケツをいくつか用意させる。
拷問の開始だ。
矢継ぎ早に3人はバケツの水をぶっかけられた。
バシャ‼︎
「うわー!さみぃー!、てめえこの親父!何しやがる!」
すぐさま狂四郎は低めのタックルで軍曹に飛び込んだが、ビクともせず、
つかみ投げとばされてしまう。
達郎は続けとばかりに、座っていたパイプ椅子で軍曹の頭を殴りつけるも
なんとも無い様子。
「あんた、人間か?w 」
怯む2人に、軍曹はゆっくりと話しかける。
「なかなか、威勢がいいな、2人。鍛えれば使えそうじゃないか、おい、お前、お前だよ、仲間裏切ったお前だよ、こっちにこい!」
大滝は動揺しながら近づいてきた。
「すまない、オンナに騙されたんだ、好きになっちまって、つい、約束を交わしたんだ」
大滝はポケットにしまったiPhone3GSを取り出し軍曹に渡すと、土下座して2人に謝るが
事態をまだ把握出来ない2人は 裏切り者に言葉がない。
投げ飛ばされた狂四郎は怒りが沸点に達したのか
土下座の大滝の腹を罵声と共に蹴��飛ばした。
「大滝てめー裏切ったな!ナオンくれーで仲間売ってんじゃねーぞ、ゴラ!」
周りの警備に止められ事態は終結。
大滝は別の部屋に連れていかれてしまう。
「まあ、人間誰しも欲深き生き物だ、弱肉強食のこの時代、お前らだってアイツの立場になったらわかんないだろ?
それより、取り引きしないか?
お前らに選択件は無いようなもんだが、ふふふ」
軍曹は
部屋の電気を消してフォログラムを起動し始めた。
青白い光にヘルメット姿の美女の等身大が浮かぶ。
2人は前のめりになり
その美女に釘付け、軍曹は話を始める。
「いいか?タイムワープて、聞いたことあるかもしれないが、お前達2人にこの子を探し出してほしいんだ。時代は1960年代の東京。学生運動家のジンて子だ、詳細は不明だが、あったらこいつを渡せ。」
軍曹は手紙を渡す。
「なにも余計な事は話すな、渡して任務完了だ、そしたら直ぐに戻れ、お前らの行動はこちらでも監視しているから、下手な事したら
ワープゾーンを閉じるぞ。
わかるか?
二度とここには戻る事は出来ないってことだ。」
「わけわかんねーよ、おっさん、俺らをテストした?ってわけか?」
シラけ顔した狂四郎は、気が乗らないし、
ふてくされた様子でさらに
「んなことやるわけねーだろ、だり~な、投げられて首がイデーよ!おい医者いないのかよ、これ立派な暴力だぜ、役人が一般市民にこんな事していいのか?あーん?なめんなよ~!」
狂四郎は怒りが収まりつかずイラつきがなり飛ばす。
しかし軍曹は、なだめる事なく
、狂四郎の頬を殴りつけた。
「いいか?これは教育だ、こっちは暴力だ!」
更に何度も殴られる狂四郎。
後ろから止めに入る達郎も
抑えるのがやっとで、2人はまとめて投げ飛ばされてしまう。
「こいつ不死身か、ターミネーターじゃねーのw」
鼻血を出しながらもヘラヘラし出す2人。
恐怖の余りあたまがいかれてきてしまっている。
堪忍したら2人は
取り引きに応じる。
不法進入の罪をもみ消すというのが一つ。
あとは、新しいバイクや家と仕事の提供も頼んだ。
「おまえらほんと図々しいやつらだなあ~ハハハ!気にいったぞ!約束しようじゃないか!しかし期限は24h!
明日、総理が米国から帰還するまでの間に任務完了させる、
それにこれは表向きには軍は関与しない。
つまり、超極秘任務なわけだ、知られた場合、おまえらを生かしては置けないから覚悟はできてるか?」
2人は、日常よりもよりスリリングなこの作戦に徐々にのめり込んで行く。
「それよりおっさん、大滝は?アイツをシメねーとなんねーから、行く前に合わせてくれない?」
怒りのホコ先は裏切り者大滝に集中するのは言わずもがな。
しかし大滝に会うこともなく2人はタイムワープの準備に取り掛かる。
#02 タイムワープ
狂四郎と達郎はチップアウトしている為首筋に電脳チップがない。
その為
軍曹は2人をまず電脳化手術を受けさせることに。
痛がる2人、取り押さえられながらも
大きなドリル型マシーンが2人の首に電脳チップを埋め込む。
「いで~なんだよ、麻酔もないのか?
なんかハイになるやつくれよ~、いてよー!うわ~、気持ち悪り~」
達郎と狂四郎は
首にチップを埋め込まれ、その直後激しく嘔吐した。
「なーんだ、さっきの威勢はどーした?w
こんなんじゃ60年代にいってもお前らゲバ棒で叩かれてのされちまうぞw」
軍曹は、呆れた様子で2人に話続ける。
「ジンを見つけるんだ、いいな?
お前達はこれから眠りに着くと思う、起きたら60年代の早稲田大学付近の学生アパートの浴室にいるだろう。その目立つ服はやめろ,なんだ健康優良新鮮少年?馬鹿かw不健康の塊みたいなお前ら、笑わせるwさあ、これに着替えろ」
軍曹は2人に当時の物と思われる、ロングコートと学ランを渡す。
「やだよ、こんなん、だせーじゃん、なあ、達郎?」
嫌がる狂四郎とは逆に、今の時代には珍しい
服に興味心身。
「かっけーじゃん、今の服よりいいぜ、なあ、狂四郎、新品の清潔な服なんて何年ぶりだろ~な」
「おまえさーあ」
狂四郎もしぶしぶ着替え、準備完了。
タイムワープマシーンの椅子に腰掛けもたれかかると電脳チップが光だした。
「さあ、そろそろ出発だ、いいか?ジンに手紙を渡したら、すぐにアパートに戻るんだ、バスタブの中にはいれば、またこの世界に戻る事ができる、いいか?」
2人は軍曹の話を聞いている内に瞼が重くなり眠り始めた。
タイムワープが作動する、まばゆい青い光が2人を包み込み、あっというまに過去へ旅立って行った。
「軍曹、彼ら大丈夫なのでしょうか?何処の馬の骨かもわからないやつら捕まえて、本当に上手くいきますでしょうか?」
研究者は重々しい雰囲気で軍曹に伝えるも
「ふん、まあ、やってみるしかなかろう、代わりにおまえが行くか?それより、2人の動向を見せてくれ」
研究者は
2人のチップにアクセスする。
「こちらです、左モニターは狂四郎の視点、右が達郎になります、電脳化により2人の目の前に広がるビジョンがモニターに浮かび上がります、また、右にあるヒューマンバロメータは彼らの体力や、心臓の鼓動を表します。」
まるでゲームのように2人の視点がモニターに映りこみ始める。
2人はバスタブに無事転送されたようだ。
#03 学生運動
2人は気がつくと大きなバスタブの中に倒れこんでいた。外は明るく騒がしい様子。
それもそのはず、この時代の週末は学生集会が至る所で行われているからだ。
のっそりと起き上がる2人。
ポケットの中の手紙と渡された地図を確認し
ジンを探しにアパートを出る。
目の前に広がる光景に驚きを隠せない2人。
それもそのはず、未来にはない、生き生きとした人々が革命に向けて声をあげている。
「おい、狂四郎、なんか腹減んないか?なんか食いたいぜ、ミッション前に」
大滝は空腹にたいかねて辺りになにかないかキョロキョロ見渡しているが周りには何もない。
多くの学生運動家がプラカードや、横断幕を掲げ、ヘルメットを着用し、長い角材(ゲバ棒)を持った行列がキャンパスに向かっている。
その行列の流れに2人も潜り込んだ。
学ラン姿の2人は
同じ志の者と思われたのか、話しかけられる
「押忍、君達も今日の集会に参加するのか?学ランじゃ目立つぞ、内ゲバにあわないようにコートで隠しなさい、ああ、ヘルメットもしてないじゃないか?」
1人の運動家が狂四郎に尋ねると狂四郎は
「押忍、俺達遠くから来たばかりで何もわかってないんだ、ヘルメット?ああ、忘れてきてしまったよw 悪いが余分に余ってないかな?あと、こいつの名前は達郎。昨日から何も食べてなくてこれから向かうってのに空腹で力が出ないw食べ物もあれば少し分けていただけないでしょうか?」
流石、狂四郎だ、図々しいおねだりも
流暢な言葉で相手を引き込み始める。
達郎も飯にありつけると思ったのか?
前のめりになり
「押忍、なんでもいいんで食べ物をください、なんでもしますから、ていうか、その長い棒切れはなんですか?」
ゲバ棒に興味心身な達郎に
「腹が減っては戦はできないよな、ほれ、これを食べたまえ」
運動家はポケットから竹皮で包んだ白むすびを2人に分ける
「うひゃー!ありがたやありがたや!旨い、おいひー」
むさぼり食べる2人。
運動家は
仲間から予備のヘルメットとゲバ棒を2人に渡す。
「今日は新しいリーダーが来るはずだから機動隊のやつらも沢山やってくるだろう、君達も準備して起きたまえ、ちなみに君達はどこの班だ?」
「え、俺達?B4区代表!健康優良新鮮少年だぜ、いぇーい!ヨタヨタ野郎には負ける気しねーよ!」
思わず口が滑る狂四郎。
運動家達は未来のB4地区なんて知るよしもなく、首を傾げている。
「良く分からんが、まあいい、人数が多いに事に越した事はないからな,さあそろそろ集会場に着くぞ」
校門をくぐり抜け、バリケードの間を通り抜け沢山の人で溢れかえる校舎前に着くと
拡声器から女性の声が聞こえてきた。
「良くぞ集まってくれた同志!!今夜は決戦の金曜日だ! 一歩足りとも奴らをこのバリケードの中に入れてはならない、私達は革命の為に日々血を流し奮闘しているが、それも今日で終わりだ!! 最後の力を振り絞り共に行こう!」
歓声が響き渡り、ゲバ棒を掲げ声を上げる運動家達。 それを横目に狂四郎と達郎は
ジンが誰なのか?探り始めるが物凄い人の数に検討もつかず、ステージにやっと現れた声の主をみて驚く。
リーダーと言われていた者こそが、ジンであったからだ。
「うわーまじかよ、ジンて学生運動のリーダーだったのかよ,やばいなあー、達郎。どう渡したらいいかんだ、俺達.....」
ステージから遠く離れた行列の中でジンとどう接触するか狂四郎は達郎作戦を練り始めた。
すると、ざわめきが聞こえる、
バリケードの外側から機動隊が煙幕を投げ込んできたのだ。
辺りは白い煙に包まれて、ステージに立つジンらしき女性もそそくさとその場所から離れて行ってしまった。
2人���急いで群衆をかき分けてジンの後を追いかける。
#04 ジン
2人はジンの後を追いかけ校舎の中へ3階まで上がり
人の声が聞こえる会議室に向かう。
割れたガラス窓から外を見ると機動隊はバリケードを突破、
運動家達は火炎瓶などで応戦、
黒い煙が立ち込めるキャンバス、2人はジンを急いで探しはじめた。
会議室を覗くとジンと2人の男性がなにやら揉めている様子。
「ジン、あんたの考えについてきた俺達はどうなる?
何人もの仲間が捕まり投獄され、いよいよこのキャンパスも奴らの手中の中だ
俺達の身柄も時間の問題だな、あんたどうするつもりだ?」
詰め寄る男、
その隣の男性はマスクを被り様子がおかしくそわそわしながらジンに
「俺は捕まりたくないし、下手したら死んでしまうかもしれない、あんたについてきて運動ばかりで楽しみもろくに知らない、なあ良いだろ?一回くらい?楽しませてくれよ、へへへ」
さっきまでまともに思えた隣の男も眼つきが変わり
「そうだ、あんたを抱いて奴らに渡せば俺達は助かる、さあおとなしくしろ!」2人はジンを取り押さて襲いかかる。
「やめろー!おまえ達、キャー、なにしてる!」服を剥がされ無防備なジン
「ひゃひゃ、いただきまっ、うわ!ぐへぇ」
ゲバ棒で頭をかち割られ倒れこむ男。
その瞬間に逃げるジン。
何事かと男が振り返ると狂四郎と達郎はニコニコしながらもう一方の男の頭をゲバ棒で殴りつける。
タイミングばっちりの2人、男達をさらに殴りつけ
「オンナを男2人で襲ってんじゃないよ、このキンタマのカスが!
達郎お仕置きしてやんな」
達郎は2人を窓際に引きずり持ち上げて窓から突き落とした
「重いんだよ、ニーさん達、ナンパは別の場所でやりやがれ」
動揺するジンは震えた声で
「誰?あなた達?でも、ありがとう、たすけてくれて」
涙ぐむジン。
狂四郎は着ていたコートをジンにかける。
「大丈夫かい?お嬢さん?俺達はあんたの王子様だよ、安心してくれ、これを渡しに来たんだ」
手紙を渡す、中身を確認するジン。
「じゃあ、脱出しよーぜ!あんたも来るかい?」
狂四郎はジンを誘うが
「私にはやることがあるんだ、でもこの手紙どう��たんだ?あんた達何処から来たんだ?」
ジンはさらに混乱し事態を把握できない様子。
「それは.......」口ごもる達郎。
狂四郎は堪忍したのか、それとも、美しいジンを目の前に隠し通せなかったのか?首のチップをジンに見せる
「わかったよ、ほらこれみて、わかる?俺達未来から来たんだ、あんたにその手紙を渡す為にね、つーかさ、なにが書いてあるの?それ?」
内容を尋ねる狂四郎
「これか、これには住所と部屋番号が書いてあるだけだ、ここに行けば分かりはず、そんなに遠くではないはずだからいってみるよ、ありがとう」
ジンは、寂しそうに外の紛争を見つめる。
焦げ付いた臭いと夕暮れの光がおり重なり、紛争も徐々に終焉に近づきつつある様子。
「俺達も行くぜ、なあ狂四郎!お嬢様をお連れしよーぜ」
達郎も狂四郎と同じなくジンの美貌にのめり込み、
寂しそうな様子にほっとけないようだ。
「おし!いくぞ!」
3人は非常階段から校舎を出る。
群衆をかき分け、やっとのおもいでキャンパスを脱出した。
途中何人も殴り飛ばしたゲバ棒は外をでてみると血まみれなので投げ捨てる2人。
「すごい!やったわ!脱出成功よ!ありがとう!」
喜ぶジン(ぐう~ジンのおなかのなる音)
「やだー、ごめんなんだかお腹がすいたみたい、ねえ、途中に美味しい屋台のうどん屋さんいかない?アタシが奢ってあげるから」
2人はもちろんと頷き3人はうどん屋に向かった。
途中雨が降ってきて、急ぎ足の3人、店につくなりジンが
「アタシに注文まかせて!おじさ~ん、天玉うどん屋大盛り3つ!卵は中入れで!」
慣れた様子でオーダーを済ます。
「はい、お待ちどうさん、お嬢ちゃん、今日は珍しいトモダチつれてきたね、みない顔だけど」
上がってきたうどんは半熟になった卵が中に入った天玉うどん、見るからに旨そうである。
「うひょー、いただきまーす、アチチ、口の中がやけどしたぜ、でもこれめっちゃおいひー」
興奮気味の狂四郎とあまりの旨さに無言でうどんを夢中で食べる達郎。ジンは2人をみて満足の笑みを浮かべる。
食べ終わる頃には雨はすっかり止み、目的地へ急ぐ3人。
街灯に照らされた60年代の東京はとてもロマンチック。3人はこれから待ち受ける手紙の住所に向かうにつれて胸躍らせていた。
モダンなビルが立ち並ぶエリアに一軒だけ異様な雰囲気のこの建物、ここが目的の場所だ。ゆっくりと忍び込む3人。
軋む階段をゆっくりと上がり、部屋の前につきドアを開けると.....そこには未来の研究室にいるはずの軍曹の姿が。
「おっさん!なんでここにいるんだよ!」
驚いた狂四郎、すぐにジンの前に立ち、守る様に軍曹に話じめる。
「ははは、プリンセスをお連れしたんだぜ!
さあ、俺達のミッションは終了のはずだ!約束を果たしてもらうよ」
しかし、軍曹はなにも喋ろうとはしない。
「この人、誰なの?」
ジンは2人に問いかける。
するとゆっくりと軍曹が喋り始めた
「ご苦労であった、お前達がくるのはわかっていたよ、ジンを救出してくれて本当にありがとう、感謝する。これで未来に戻れば、ウイルスのない平和な世界に変わっているだろう、さあ時間もないんだ、すぐ出発するぞ」
「ちょっとまって!あたしにはまだやるべきことあるのよ、あなた達の世界には行けないわ!」
戸惑うジンに軍曹は
手にもったライトをジンの瞳に当てる。赤く光る先行。すると彼女は意識を失ってしまう。
倒れそうなジンを支える狂四郎は怒り叫びだす。
「おっさん!なにを彼女にやったんだ!死んじまったらどうするつもりだ!おい達郎!なんとかしろ?ってあれ?」
達郎はすでに倒れ込み眠りに入っていた。
タイムワープがセットされたのだ。
狂四郎はジンを抱きかかえながらも、タイムワープによる眠気に勝てず膝を着き、最後の力でジンをそっと抱きかかえながら眠りに入る。
「未来でゆっくり説明してやる」
タイムワープの眩い青い光が部屋全体を覆い尽くす。
未来から過去に転送さされたあの時の様に。
#05 新しい世界
小鳥の囀りに目を覚ます狂四郎。
気がつくと病院のベッドの上にいた。
さっきまで過去にいたはずなのに今は未来にいる。
狂四郎はベッドから降りて窓の
カーテンを開け外を眺めるとそこには
緑にあふれた新しいネオ東京が広がっていた。
自分達が生きていた荒廃した未来はもうない。歴史が変わったのだ。
ドアが開く音がする。
そこには軍曹が優しい顔つきで狂四郎を手招きしている。
「やっと起きたか!これからは、俺の元で働いてもらうぞ、ほら約束のバイクのキーだうけとれ」
軍曹はキーを狂四郎に投げ渡す。
軍曹は手に持った新聞を広げ狂四郎に見せる。
そこには大きな見出しでオリンピック大成功と記されていた。
狂四郎の両親がアイスマンになったあの日と同じ日付けが記されている。
本来ならオリンピックはウイルス問題により開催されていない。
つまり、電脳ウイルスは存在しなかったと言う事になる。
ジンを助けた事で未来が変わったのだ。
「まーつまりだな、あの時お前達がジンを助けなければ未来は変わらなかった。そうだ、襲った2人こそが未来のテロリストの祖先になるわけであって
奴らを始末したことでその後のテロもなくなったわけだ。
ただし、ジンはここにいるだろ?
過去の記録には失踪となっている。
もともとジンはあの時お前達が行かなければ殺されてしまうはずだった
わけだからな。
それと
あの部屋で彼女の瞳に当てたライトの赤い光をおぼえているか?
あれは彼女の記憶を書き換えたのさ、
だから彼女の記憶では事故に遭い長らく入院していたことになっている。
お前、余計なことを言うんじゃないぞ!
もしお前が口を滑らしたら生かしちゃおけない。
それはお前を過去に転送した時の条件、おぼえているな、余計な事をジンに喋るな。
人は誰しも秘密をもっている。
だから
お前も今回の事は心の中にしまっておけ。
ちなみに彼女はお前と交通事故にあったと思っている。
身寄りはないが、わしが面倒みている事になっている。
しかし、いつも側にいることができない、わかるだろ、軍人は忙しいのだ。
そこでお前さんの登場てわけだ、
これからは仲間としてジンを見守ってほしい。」
「まじかよ、俺たち未来を変えたんだな、でもなんで彼女を未来に連れてきたんだ?」
疑問を問う狂四郎に
「まあ最後まで話しを聞け、彼女は実は超能力者の素質を持っているんだ。そうだよ、ジンこそが本物の選民だ。
これからは徐々にその力が発揮されていくだろうが、時間も掛かるからな。だから支えてやってくれ。
あとな、お前の連れの大食いの記憶も消したぞ。過去の記録は私とお前だけの秘密て事だ、ハハハハハ、そろそろジンが起き出すからな、よろしく頼むぞ」
軍曹は手短に内容を狂四郎に伝えた。
するとジンがゆっくり目を覚まし
「ふあ~、あれ?アタシどうしたの?ここは?病院?あれ?叔父様?どうしてここに?
あ、思い出したわ、狂四郎!あんた、アタシをむりやりバイクに乗せて旧市街で事故ったわよね!どーしてくれるのよ!」
ジンの声に起きた達郎は空腹のなのか
「あーれーここ何処だ?うわーなんか、ハラヘッタなあー、あれ?でもなんで俺はここに?昨夜はレースしてた筈なのに、まあいいや、それより狂四郎、なんか食べにいこーぜ!なあ、ジンも行くだろ?うどん食いたいなあーへへへ」
呑気な達郎の一言。
彼は過去も未来も言う事は変わらない。
狂四郎「じゃあ行くか?」
ジン「いこー!」
達郎「いこーぜ!」
ベッドを飛び出した3人は
外の駐輪場へ向かう。
新車の赤いエアーバイクが二台停車しているのが見えた。
ゆっくりとキーを差し込む、スピードメーターが点灯する。
狂四郎の後ろに乗ったジンは耳元で囁く
「今度は事故らないでね!」
「ああ、しっかりつかまっとけ!」
ジンに優しく問いかける狂四郎。
2人のやりとりを眺める達郎は
「お二人さんお熱いねー、さきいくぜ!」
茶化された狂四郎はアクセルをふかす
「うるせーな、後についた方がおごりだぜ!いくぞ!」
激しい排気音と共に二台のバイクは空の彼方に消えていった。
新しい世界と健康を手にした若者達。
彼らは自らをこう呼んだ
俺達は健康優良新鮮少年(ヘルシーボーイズ)と。
この先の未来、何が待ち受けているか誰にもわからない。
しかし自らの人生は己の力でどうにでも描くことができる事を体現し
健康を手にした3人に恐れる物はなにもない。
そう、彼らはもう新鮮なのだから。
あとがき
Besidethebagがお送りする
ショートノベルシリーズ第2弾
ヘルシーボーイズ如何でしたでしょうか?
ストリートウェアーから生まれた
SFストーリー。
裏原宿の残響音をベースに"アキラ"の影響を そのままデザインにオマージュしたアイテムなど.....
サンプリングだけでは収まらない新しいストリートノベルの世界。
物語の主人公達は目の前の現実世界を歴史��と覆し自らを手で未来を変え、健康と新しい世界を手に入れる事が出来た様に、
ヘルシーボーイズを知ったみなさんも
新しい東京の感覚を感じ、新鮮な気分でいてくれたら嬉しいと
願っております。
thank you guys! peace love!!
beside the bag
ネオンポテト
2016 01/19
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2020年5月15日
YOSHIKI、フランスの『Numéro』に登場 相変わらずの世界的活躍。 https://www.barks.jp/news/?id=1000182581
EURO † SPEED-iDさん「こうなったら終わり。そこにどんなご立派な思想があろうとも自称正義があろうとも終わり。ただの犯罪者でしかない。そんなの誰もが分かってることだと思うけど必ずこうなる。どちら側かは関係なく。どちら側でもこうなる。実に「政治的」な行動だなと思う。拍手をしたい。What a Wonderful Activism!👏」 https://twitter.com/HLEURO/status/1260859156270989313
時事ドットコム(時事通信ニュース)さん「与党は14日、検察官の定年を引き上げる検察庁法改正案について、週内の衆院通過を見送る方針を固めました。来週の衆院本会議で可決、参院への送付を目指します。自民党幹部が明らかにしました。」 https://twitter.com/jijicom/status/1260859832174813184
地元の国会議員にブロックされた話 - インターネットもぐもぐ https://mogmog.hateblo.jp/entry/2020/05/15/082427
DIR EN GREY、YouTube生配信番組『LIVE ARCHIVE & SPECIAL TALK』詳細発表 今出来る活躍を。 https://www.barks.jp/news/?id=1000182594
サンプラザ中野くん(sunplaza)さん「😎おはランナー😎4月29日サンプラザ中野くんミニアルバム「感謝還暦」発売済!ツアーは秋決定発売中 中野サンプラザも押さえてあるんだからね‼︎ 😎今朝方 大塚志津香さんラジオありがと〜ウクレレ是非!明日FM北海道とtvk関内デビルの泉 日曜はニッポン放送 よい一日」 https://twitter.com/spnk/status/1261050303241043969
毎日新聞ニュースさん「チェルノブイリ原発周辺で山林火災続く 放射性廃棄物の保管施設に迫る情報も」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1250092670027845632
すりごまさん「赤ちゃんの…ぎゅっと握った手のひらを洗うのに苦心している皆さん…手の甲を…手の甲を…なでなでするのです…おててが開きます…原始反射のひとつ『手掌把握反射』です…手のひらに指を置くと…握り返してくれるのも…この反射があるからです…ホコリを大事に握りしめる…小さなおてて…かわいい…」 https://twitter.com/surigoma2012/status/1249629778379849728
SR猫柳本線 椎名林檎・東京事変オフィシャルさん「東京事変のこれまで発表した全ライブ映像作品から厳選した23タイトルのライブ映像クリップが、本日より一挙公開となりました。「群青日和」「新しい文明開化」「女の子は誰でも」「閃光少女」など、見逃せない実演ばかりです。ぜひおうちで再生してください。」 https://twitter.com/Nekoyanagi_Line/status/1250358917856518145
ロイターさん「中国系ハッカー集団、新型コロナ研究機関に不正侵入=米当局」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1260824675803901953
ニューズウィーク日本版さん「「悪いのは中国」米無党派層の恨みがトランプ再選を後押しする……失敗続きの新型コロナ対策で非難を浴びても大統領選への影響が大きくない理由 #新型コロナウイルス #アメリカ大統領選挙 #トランプ政権」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1260824671366402048
毎日新聞さん「部活自粛中の千葉県船橋市立船橋高校吹奏楽部が、自宅などでそれぞれ自分で撮影した動画を編集で組み合わせた「合奏」映像をインターネットで配信しています。」 https://twitter.com/mainichi/status/1260824666668556288
EURO † SPEED-iDさん「無念だね。本当に悔しい。ロイホもてんやも何度足を運んだことだろう。食事はもちろん仕事の打ち合わせや友だちとお茶したりなんかも。楽しい思い出も沢山ある。そういうのってクラブやライブハウスだけじゃない。─経済が崩壊するってこういうことだよな。身近な世界から壊されていく���何が自粛だよ。」 https://twitter.com/HLEURO/status/1260909029670260737
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版さん「コロナ禍で変わる航空業界、収益構造は変わらず #航空 #新型肺炎 #新型コロナウイルス」 https://twitter.com/WSJJapan/status/1261048668662177796
ニューズウィーク日本版さん「無症状の医療従事者の3%が新型コロナに感染、爆発的な院内感染の予備軍か 何らかの症状がある医療従事者だけにPCR検査を行う今の態勢のままでは推定1万5000人の感染者を見逃してしまう。全員に定期的な検査を行うべきだと、英ケンブリッジ大学が警告」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1261048646927372296
毎日新聞さん「新型コロナ感染拡大の影響で、10月以降に予定されていた市民マラソンの中止発表が相次いでいます。」 https://twitter.com/mainichi/status/1261048642879676417
ニューズウィーク日本版さん「CIA:中国はWHOに圧力をかけて世界中のマスクや防護服を買い漁った? 中国はWHOの「パンデミック宣言」を遅らせて、その間に自国で必要な医療品を数十億点も緊急輸入した疑いが浮上。世界はそのために今もマスクや防護服の不足に悩まされている可能性が高い」 https://twitter.com/Newsweek_JAPAN/status/1261051161991352323
ロイターさん「米国務長官、中国系ハッカー集団のコロナ研究機関不正侵入を批判」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1261051210012000258
日刊スポーツさん「20日の運営委員会で第102回全国選手権大会の開催可否を協議 甲子園中止でも…地方過半数が独自開催「意思あり」 #kokoyakyu #高校野球 #甲子園 #夏の甲子園」 https://twitter.com/nikkansports/status/1261033908788801536
Isseki Nagae/永江一石@「虎の穴」さん「昨日の専門家会議が出した資料。青い線が有効再生産数で、1月の武漢型は何もしなくても勝手に終息してしまった。3月中旬には欧米型がきたが、それも勝手に3月末に終息にむかっているではないか。非常事態宣言なんてなくてもコロナは日本では終わる。非常識なウイルスに古い知見では対応不可」 https://twitter.com/Isseki3/status/1261042445506113536
武井壮さん「まじか。。 オレはロイヤルホストのタコスとかカレーとからヨーグルトジャーマニーとか大好きやのに。。てんやの天丼も大好きなんだよ。。政府なんとかしてくれんか。。。 【速報】ロイヤルホストなど70店閉鎖へ 新型コロナで急速に業績悪化(西日本新聞) - Yahoo!ニュース」 https://twitter.com/sosotakei/status/1261052269484638209
Yahoo!ニュースさん「【米大統領 中国との断交を示唆】 トランプ米大統領は14日、新型コロナウイルスを巡る中国の対応に非常に失望したと述べ、習近平国家主席との対話は望んでいないとした。中国との断交の可能性も示唆した。」 https://twitter.com/YahooNewsTopics/status/1261072616304959488
日テレNEWSさん「【#首相会見 発言要旨①】 ・本日39県の緊急事態宣言を解除することとした ・解除の客観的な基準を策定した ・10万人あたり0,5人以下に抑えられていることなどを総合的に判断 ・重症者も減少するなど、医療体制は改善している ・専門家の賛同を経て期限を前倒した」 https://twitter.com/news24ntv/status/1260858614043996160
EURO † SPEED-iDさん「◎緊急事態宣言解除以降 ◎マスク着用・手指消毒 ◎屋内200キャパ規模のライブハウス ◎100人でSOLD OUT設定 ◎自粛マン=無視 充分いけるラインかな。後はとにかく感染者の来場を控えてもらう。差別じゃない。ドレスコードだと思えばいい。趣味嗜好に選民要素はつきものだ。ここの具体策を考えたい。」 https://twitter.com/HLEURO/status/1261083345925967872
毎日新聞ニュースさん「大学は休校継続 教員ら不安抱えオンライン授業準備 自身の研究に影響も」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1261117829081899014
ナイツ塙さん「久々にナイツの漫才をお贈りします。」 https://twitter.com/tsuprofia/status/1250342380424687616
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版さん「中国、極秘に核実験の可能性 米国務省が報告」 https://twitter.com/WSJJapan/status/1250502875861733377
毎日新聞ニュースさん「アップル、iPhone新機種「SE」を発表 4万4800円から」 https://twitter.com/mainichijpnews/status/1250503120884400128
白石 稔さん「もっと芝居聴きたかった… ご冥福をお祈りします…」 https://twitter.com/minorunba69/status/1250684998958477318
もふねこ同好会さん「動けなくてそのまま寝ちゃう」 https://twitter.com/mofnekoclub/status/1250428967636484098
しかのつかささん「え、嘘でしょ、このまま市販? トヨタ新小型EV「LQ」仰天のスタイルで今夏~秋発表 | 自動車情報誌「ベストカー」」 https://twitter.com/sikano_tu/status/1250821926542438400
ゆうき まさみさん「水没病院は全くの空想で描いたものだったので、この写真を見て「本当にこんななってる建物があるんだ!」と驚きました(^_^)」 https://twitter.com/masyuuki/status/1250858692188069891
Yahoo!ニュースさん「【ももクロと早見 脱退後初共演】「ももいろクローバーZ」と、2011年に同グループ(当時は「ももいろクローバー」)を脱退した女優の早見あかりが、約9年ぶりに「共演」。早見の脱退後、初共演になる。」 https://twitter.com/YahooNewsTopics/status/1261045187884638208
ライブドアニュースさん「【NASA発表】地球とほぼ同じサイズ、太陽系外惑星を発見 水が液体で存在できる温度と推定され、これまで見つかった系外惑星の中で、大きさと温度の双方で最も地球に近い条件だという。」 https://twitter.com/livedoornews/status/1250765373000957957
プロレス スクエア -プロレス最新ニュース速報-さん「WWE名物リングアナ「ザ・フィンク」死去、69歳(日刊スポーツ)」 https://twitter.com/pwsquare2019/status/1250932460998680577 Requiescat in Pace.
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版さん「米軍の資源をアジアに、対中強硬派が国防総省に圧力」 https://twitter.com/WSJJapan/status/1251144654604636160
BARKS編集部さん「ジョン・ボーナム愛用のドラムスティック「Trees」待望の復活、Tシャツも登場 #プロムコ #レッド・ツェッペリン #ジョン・ボーナム」 https://twitter.com/barks_news/status/1251144431077437440
ロイターさん「豪州の西の沖合にある海底渓谷で、超長い、クダクラゲの一種が発見。」 https://twitter.com/ReutersJapan/status/1251299403882590208
もふもふ動画さん「食べちゃいたいほど可愛い」 https://twitter.com/ru_ruru831/status/1251133633038962689
KISAKIさん「約15年ぶりにセルフメイクをしてみた。俺のヘアメイク=アドちゃんだとほとんどの関係者は思ってるけど、彼女との出会いは俺にとっては大きかったんだと改めて感じたよ。 #StayHome #HairMake https://t.co/vZtrNiRSci」 https://twitter.com/KISAKI_OFFICIAL/status/1260875246795554816
RYUICHI KAWAMURAさん「ブログ更新しました! ニコニコ動画😊 https://t.co/7oXCfoAz7u」 https://twitter.com/RYUICHIofficial/status/1260853668531679234
ザゴッドアンドデススターズさん「20170623 『canine』 https://t.co/gfsZ2lHzgC」 https://twitter.com/davidskullno/status/1260833282834358272
Yoshikiさん「Yoshikitty が色々とコラボを始めてる。。 じゃー、俺も応援するしかないな!笑 #yoshiki ”#Yoshikitty X #peko 再び降臨” @yoshikitty @fujiya_jp https://t.co/SFqNA9B2UF https://t.co/PDdK24c9Ha」 https://twitter.com/YoshikiOfficial/status/1260882437862592513
HOLLOWGRAMさん「新宿ロフトの支援プロジェクト「Forever Shinjuku Loft」 https://t.co/cNSSLGa3QQ @SHINJUKULOFTさんから」 https://twitter.com/HOLLOWGRAM_info/status/1260916270737682434
十三月 紅夜さん「パフォーマー&特効+小道具で参加させて頂いたKαinのワンマンライブ(2017年)の映像が一部公開されています✨🌹 総合演出は西邑卓哲氏!演出に石井飛鳥氏とこまだまり氏!百眼もがっつり参加させて頂きました✨ 冒頭のシーンが観られるよ!🌜」 https://twitter.com/jusangatsukouya/status/1260921026038206466
V系bar ラズルダズルさん「緊急事態宣言解除に伴い、明日15日より営業致します。 (コロナウィルス感染防止のためカラオケは当面の間使用できません) アルコール消毒設置しております 時間ごとに換気させて��ただきます」 https://twitter.com/razxdaz/status/1260905355514503168
死神紫郎(ギター弾き歌手)さん「【池袋手刀×死神紫郎コラボグッズ】 全売上を池袋手刀に寄付…♰ 5/30までの限定受注生産商品。 ★手刀 x 死神紫郎 ロングTシャツ(2種)各 ¥ 4,200 参考:本人(170cm/50kg)Mサイズ着用 ★手刀 x 死神紫郎 全面プリントハンカチタオル ¥ 1,950 人の顔面で手を拭けます…♰ https://t.co/pIuQYJs568 https://t.co/GSACr2rryf」 https://twitter.com/46shinigami/status/1260912143743909889
金髪豚野郎K助(偽殿下)さん「そんなお酒好きじゃないけど宴会やってる夢見た笑 ファンの子に書く余白���ない色紙にサインを求められて腹立って隅っこに小ちゃく、そして裏面いっぱいにサインしてやった! いやあ3密だったなあ (°_°) https://t.co/QYgEA4gf0S」 https://twitter.com/goldenpigdrumer/status/1261052828602126336
ZIZ.officialさん「MOVIEにライブ映像を追加しました!」 https://twitter.com/ZIZofficial/status/1261129210363428864
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