検察が告発受理しない闇。そしてギャンブル依存症を地で行ってる。
有料記事とのことなので以下転載。
遡ること約12年前――。
官公庁街に程近い、港区虎ノ門。雑居ビルの一室に、満員の客で賑わう全6卓の小さな雀荘があった。
その常連客はいつも午後6時ごろにやって来て、奥の席に陣取った。おにぎりを頬張りながら、飲むのはもっぱらブラックコーヒー。アルコールには一切手を出さない。紫煙をくゆらせながら、勝負は深夜2時まで続くこともあった。
常連客の名は、黒川弘務氏。当時、法務省大臣官房審議官として、司法制度改革など重要政策のとりまとめを担っていた。その後、順調にステップアップを重ね、東京高検検事長にまで上り詰めた黒川氏。だが、最後に待ち受けていたのは、“賭けマージャン”による辞職という、まさかの転落だった――。
先週号(5月21日発売)では、黒川氏が緊急事態宣言下の5月1日、マンションの一室で賭けマージャンに興じていたことを、出入りの写真とともに詳報した。現場は、産経新聞の元検察担当・A記者の自宅。集まったのは、産経の前司法クラブキャップ・B記者、朝日新聞の元検察担当記者・C氏。4人は、5月13日にも同様に卓を囲んだ。
「黒川氏は法務省に対して事実関係を概ね認め、21日に辞表を提出。同日、同省が調査結果を公表し、黒川氏がA、B、C氏と約3年前から月1、2回の頻度で賭けマージャンを行っていたと明かしました。一方で、22日の衆院法務委員会では、黒川氏の賭けマージャンの“常習性”を追及された森雅子法相が『常習とは一般に賭博を反復累行する習癖が存在すること。そのような事実は認定できなかった』と答弁する場面もありました」(司法担当記者)
森法相の「常習性なし」答弁。だが小誌は先週号で、7~8年前に黒川氏と記者らを雀荘から自宅に送り届けていた元ハイヤー運転手の証言を紹介。車内では、賭け金が分かる会話も交わされ、記者が「今日は10万円もやられちゃいました」とこぼすこともあった。
さらに取材を進めると、黒川氏は10年以上前から、虎ノ門や新橋、時には渋谷にまで足を延ばして、雀荘に足しげく通っていたことが新たに分かった。
黒川氏がよく訪れていた雀荘の元店員に聞くと、一切報じられていないA、B両記者の実名も知っていた。
「黒川さんは、週に1~2回、多い時には週3回もいらっしゃいました。いつもBさんが予約を入れるのですが、Bさんが急な取材でドタキャンになることもあった。Aさんが一緒のことも多かった。休日に、ゴルフ帰りの黒川さんたちがマージャンをやりたがって、特別にお店を開けたことも何度もありました。風営法上、午前0時を過ぎての営業は出来ないのが建前ですが、照明をおとし、2時頃まで続けることもありました。点数を取りまとめていたのはBさんでした」
冒頭の虎ノ門の雀荘に10年以上前から出入りしていたという客も、よく黒川氏を見かけたと明かす。
「黒川さんは『こないだカジノに行ってきたんだ』『韓国は安く行けるからいい』などと話していて、よほどのギャンブル好きだなと思った記憶があります。従業員にも気さくに話しかけ、まったく偉ぶるところがなかった」
A、B両記者らと「約3年前」どころか「10年以上前から時に週3回」にわたってマージャン漬けの日々を送っていた黒川氏だが、
「調査報告には、5月1日や13日以外の賭けマージャンについて『具体的な日付を特定しての事実の認定には至らなかった』と記されていますが、朝日は4月13日や20日も公表しており、調査の拙速さが垣間見えます。厳正な処分を下すなら詳細な調査が必要ですが、早期幕引きを図りたかったのでしょう。結果的に『多大な貢献をしてきた』、『懲戒処分に付すべきとは認められない』として、訓告処分が相当と結論付けられた」(社会部デスク)
人事院が示す国家公務員の懲戒処分の指針には、賭博をした職員は「減給または戒告」、常習的に賭博をした職員はさらに重い「停職」など、いずれも懲戒処分とすることが定められている。にもかかわらず、黒川氏には法務省内規に基づく処分にすぎない「訓告」という“激甘処分”が下されたのだ。元最高検検事の清水勇男氏が首を傾げる。
「訓告処分は軽いと感じます。金銭の多寡にかかわらず、賭博は刑事事件として裁かれる。もちろん判決が下っているわけではありませんが、黒川さん本人も“犯行”を認めており、罪を問う立場にある検察官としてあるまじき行為です。それなのに懲戒処分にならないというのは、世間から不信感を持たれかねません」
だが、黒川氏はさっと辞表を出し、後任には名古屋高検検事長だった林真琴氏が就いた。黒川氏は懲戒処分ではないため、自己都合退職により約800万円減額とはいえ、6000万円近い退職金が支給される。
この黒川氏の甘すぎる処分、実は官邸主導によるものだったという。
森法相はずっと蚊帳の外
「法務省では当初、懲戒処分を視野に調査が行われていました。懲戒処分の中でも免職に次いで重い『停職』とする選択肢も浮上したが、結局、懲戒の中では一番軽い『戒告』が相当だと判断。しかし、処分内容について水面下で官邸と協議した結果、懲戒処分ではなくなり、軽い訓告で決着したのです」(前出・司法担当記者)
実際、官邸からは、懲戒処分について否定的な意見が聞こえてくる。
「自身も昔はよくマージャンを打っていたという杉田和博官房副長官は『懲戒処分なんてできるはずがない。業務外に個人の時間でやっていたんだから』と黒川氏をかばっていました。黒川氏は点ピン(1000点100円)で賭けていたとされていますが、杉田氏は『点ピンなら賭けにはならない』と豪語していた」(官邸担当記者)
しかし、それで収まらなかったのが森法相だ。森氏は5月21日、法務省の調査結果や処分案とともに、自身の進退伺を巻紙に毛筆でしたため、安倍首相のもとへ持参した。
「実は森氏は、黒川氏への対処についてずっと蚊帳の外に置かれていた。黒川氏は17日に文春の取材を受けた後、その日のうちに辻裕教法務事務次官に報告していますが、それを辻氏は即座に稲田伸夫検事総長に伝える一方で、森氏には連絡していなかったのです。森氏が事態を把握したのは、辻氏が黒川氏への聞き取り調査を始めた19日のこと。報告が遅れた理由を問い詰める森氏に、辻氏は『具体的な内容が分からなかったので』と言い訳したそうです」(法務省関係者)
そんな森氏は、安倍首相との面会で「訓告処分は軽すぎる。もっと重い処分にすべきだ」と主張したが、首相はそれを退けた。
「森氏も、辞表ではなく進退伺を持って行ったあたり、どこまでの覚悟を持って進言したのかは疑問です。実際、その後の囲みで、森氏は安倍首相から慰留されたことをわざわざ明かし、周囲から『パフォーマンスだ』と冷笑された。杉田氏は『昔はみんな賭けマージャンをやっていた。森さんはそんな男の世界を知らないんだろう』と突き放していました」(前出・官邸担当記者)
この甘すぎる処分に世論は猛反発した。すると、安倍首相は5月22日の国会答弁で「検事総長が適切に行った」と強調。まるで、処分決定に官邸はタッチしていない――と言わんばかりの口ぶりなのだ。
だが振り返れば、“官邸の守護神”として気脈を通じてきた黒川氏を出世させるため、官邸はたびたび検察人事に介入してきた。その挙句、違法な定年延長を繰り出し、それを後付けで正当化する特例規定を急遽くっつけた検察庁法改正案を国会で通そうとした。
「官邸が、本気で黒川氏を懲戒処分にしようと思えば、苦もなく実現した。敢えて軽い訓告処分にしたのは、功労者・黒川氏への温情に加えて『余人をもって代えがたい』として1月末に定年延長を閣議決定した黒川氏を懲戒処分にすれば、内閣自らの見識が問われかねないという理由もあったのでしょう」(政治部デスク)
順風の時は「官邸主導」を振りかざし、逆風になると責任を官僚に押し付ける。こうした安倍政権の悪癖は、今に始まったことではない。
「新型コロナの対応をめぐっては、官邸は『PCR検査や薬の承認が進まないのは厚労省のせい』とことさらに発信。定年延長についても、安倍首相は『あれは法務省がもってきた人事』と、法務省のせいにしています。今回のマージャン問題も同様に、法務・検察側に責任を押しつけようとしているのです。官邸内では、稲田検事総長に責任を取らせるべきだという意見もあったほどです」(同前)
そんな官邸の思惑を敏感に察知した検察内部からは、怒りの声があがっている。
「あいつら、本当にクソだ!」
5月21日朝、複数の地元記者のオフレコ取材にこうぶちまけたのは、広島地検の幹部だ。広島地検は、河井案里参院議員の昨年の参院選挙をめぐって、夫の克行前法相に対する公選法違反の捜査のまっただ中だ。6月17日の国会閉会後の逮捕か、在宅起訴かが目下最大の焦点となっている。
「河井夫妻に対する捜査を後押ししているのは稲田氏。そのため、官邸が黒川問題で稲田氏の監督責任をチラつかせ、河井捜査にプレッシャーをかけているとして、警戒感が強まっているのです」(地元記者)
この幹部のオフレコメモはこう続く。
「官邸は、検事総長まで、監督責任があるとか言って辞めさせたいみたいだな。だったら法務大臣も辞めるべきだし、そもそも検事長も検事総長も任命責任は内閣なんだから、安倍も菅も辞めるべきなんだよ!」
「どこまでも(捜査を)邪魔したいんだ。意地でも強制捜査はさせたくない、在宅起訴でやれってことなんだろうな。ふざけてる!」
ますます浮き彫りになる、官邸と検察の溝。なぜ、ここまで事態は悪化してしまったのか。
「これまで安倍政権は盤石��体制で霞が関をグリップしてきました。しかし、ここへ来て、政権の屋台骨である今井尚哉首相秘書官と菅義偉官房長官との対立が先鋭化しており、ガバナンスが効かなくなっているのです」(官邸関係者)
菅氏周辺は「定年延長は総理室」
検察庁法改正案をめぐっても、両者は水面下で激しくバトルを繰り広げた。
「改正案については、菅氏が森山裕国対委員長や林幹雄幹事長代理らと連携し、見送りまでの根回しやプロセスについても綿密にスケジュールを組み立てていた。5月17日には安倍首相から直接『全部、菅ちゃんに任せるよ』と一任を取り付けています。菅氏は週明けの18日に二階俊博幹事長と首相が面会し、党からの進言を受ける形で見送り方針を発表する絵を描いていた」(同前)
しかし今井氏は、“党の意見を聞き入れる前に安倍首相がリーダーシップを発揮した”とアピールすべく、独自に動いていた。
「18日朝刊で、読売新聞が成立見送り方針を一面でスクープ、テレビ朝日も即座に後を追いますが、2社には今井氏に極めて近い記者がおり、いずれも今井リークとされています。菅氏は今井氏の動きを知らされておらず、読売報道で自分のシナリオが崩されたため、憮然としていた。政府方針を報道で知ることになった自民党国対の面々も、怒り心頭でした」(同前)
その後さらに苛烈な、“リーク合戦”が始まった。
「今井氏が『安倍首相は黒川氏とは親しくない。黒川氏の定年延長にもまったく関心がなかった』と盛んに発信するようになったのです。黒川氏の違法な定年延長や悪評高まった検察庁法改正案を主導したのは、安倍首相ではなく、黒川氏を買っていた菅氏だと印象付けるためです。一方の菅氏サイドは、周辺議員が『定年延長は総理室がやったんだ』と、今井氏主導だと仄めかしています」(前出・官邸担当記者)
今井氏と菅氏の、責任のなすり合い。両者の対立は、安倍首相と菅氏の関係にも深刻な影を落としている。
「これまでも、菅氏が今井氏を批判することはありましたが、安倍首相に対してはなかった。しかし、コロナ禍をきっかけに、今井氏ら官邸官僚に乗せられて失策を繰り返す安倍首相本人に対しても、菅氏が冷ややかな目を向けるようになっています」(菅氏周辺)
女房役にも愛想を尽かされた安倍首相。検察庁法改正案を巡るゴタゴタについて、周囲にこう漏らした。
「もう嫌になった」
投げやり発言の引き金となったのは、5月15日、検察OBが法務省に提出した、改正案に反対する意見書だったという。
「安倍首相は『(改正案は)やる必要はない。(次期検事総長が)黒川でも林でもどっちでもいいよ』と言い出した。法案について、当初は秋の臨時国会で成立を目指すと見られていましたが、安倍首相は『もうやめればいいじゃん。困るのは自治労と立憲だろ!』と吐き捨てていた。検察庁法改正案は、公務員の定年を引き上げる国家公務員法改正案と束ねて審議されており、自治労の支援を受ける立憲民主党としては、国家公務員法改正案は成立させたいのが本音。安倍首相は、こうなったら継続審議ではなく、法案まるごと廃案にして野党を困らせようと言うのです」(首相周辺)
そんな崩壊寸前の安倍官邸を直撃したのが、黒川問題だったのだ。
ここで、先週号では報じなかった新事実を明かしておきたい。
時計の針を、5月1日まで巻き戻そう。黒川氏は午後7時半頃、隅田川のほとりにある産経A記者の自宅マンション前に姿を見せた。だが、実はこの直前まで、黒川氏は別のメディア関係者と会っていたという。
「その相手とは、新潮社の男性編集者X氏。40代前半で、検察情報にめっぽう強いとされる人物です。黒川氏とはしょっちゅう会っています」(新潮社関係者)
じつはこのX氏、小誌が昨年5月2・9日号で〈木嶋佳苗 獄中結婚のお相手は「週刊新潮」デスクだった〉と報じた人物なのだ。
X氏は当時、小誌の取材に「結婚したのは18年1月。彼女の記事を手掛けた後、死刑が確定するという流れがあって、取材者と被取材者の関係を超えて思いが募った」と答えていた。
「X氏は文春のこの記事が出た後、週刊新潮デスクから、オンラインメディア『デイリー新潮』担当に配置換えになりました」(前出・新潮社関係者)
デイリー新潮といえば、黒川氏の賭けマージャン報道をめぐり、一本の記事を配信していた。小誌が17日に黒川氏への直撃取材を終え、記事をまさに準備していた5月19日の夕方にアップされた〈「検察庁法改正案」を安倍首相が諦めたホントの理由〉という記事だ。ここに永田町関係者談として、こんな証言が掲載されている。
〈“黒川さんは仲良しの記者と懇談をしていて、麻雀卓を囲んでいる”というような話が流れていました。普段なら、情報交換とか法務検察をどうしていくかという知見を得る手段として、むしろ評価されるとは思います。ただ、コロナ禍と法案でタイヘンなタイミングで間が悪いと言われても仕方ないかもしれません〉
このような記述に続け、別の関係者談として、
〈緊急事態宣言下の5月1日にも、新聞記者ら3人と卓を囲んでいたようです。これを嗅ぎつけたメディアが黒川氏に、“記者とカケ麻雀をしていた?”と取材をかけたということです〉
これがアップされたのは小誌が文春オンライン上で雑誌発売前日に速報を打ち、騒ぎになる前日だ。永田町や官邸周辺で徐々に噂が回り始めてはいたが、賭けマージャンの具体的日付や相手まで正確に知りうる人物は、数少なかった。
「じつはこの記事、X氏が手掛けたものなんです。X氏は『黒川さんのダメージを少しでも軽減させたい』と息巻いていた」(同前)
だが、黒川氏はX氏にとってただの取材対象者ではない。というのも、X氏は確定死刑囚の配偶者であり、妻は東京拘置所に収容されている。所管するのは法務省であり、昨年まで黒川氏はそのトップ、法務事務次官に就いていた。さらにその後、黒川氏は東京高検検事長となっているが、法務大臣に「死刑執行上申書」を提出するのは当該の検事長または検事正と定められている。つまり、X氏にとって黒川氏は、妻の死刑執行に直に携わる、“利害関係者”なのだ。ゆえに、2人の関係性は重大な問題を孕む。元検事の落合洋司弁護士が指摘する。
「そもそも検察官が確定死刑囚の親族と、便宜供与を疑われかねないような深い関係性を築いていることが事実なら、公正性・中立性に疑念を持たれかねません。ましてや高検検事長は、通常では得がたい拘置所内部の情報を得られる立場です。それを考えれば、社会通念上、また国民感情や被害者遺族の心情に照らし合わせても、好ましい関係とは到底言えません」
X氏に事実関係を聞くべく携帯を鳴らしたが、応答はなし。新潮社に書面で尋ねると、こう回答があった。
「記事内容や取材過程、部員のプライバシーについてはお答えしておりません」
さて、先週号については、その情報源などを巡っても様々な説が飛び交っている。今一度、可能な範囲で経緯を明かしておこう。
すべてが始まったのは異例の定年延長がなされた後の今年2月、小誌の情報提供サイト「文春リークス」に寄せられた一つの情報だった。
〈今、話題の黒川高検検事長は賭けマージャンをして遊んでます。相手は産経新聞の記者です〉
即座に連絡を取り、対面したところ、情報提供者は自らの身分を明かした上で、こう証言した。
「産経関係者の間では、黒川氏が賭けマージャンをやっていることは知られていました。そのため、『もし自分が悪いことをしても、黒川氏のような人物にだけは調べられたくない』と思ったんです」
ただ、この時点では、情報は断片的なものに過ぎなかった。産経の2人の記者と黒川氏が頻繁にマージャンをしているというものの、正確な日時、場所、4人目の面子が誰かも分かってはいなかった。小誌は、それから2カ月余、取材を続けた。その結果、場所はA記者のマンションであるとの情報を得て、その住所を割り出し、張り込みや取材を続けていたところ、5月1日夜の決定的瞬間に至ったのだ。もちろん、さらなる裏取りのための聞き込みや張り込みを続けたのは言うまでもない。
記事を書くにあたって情報提供者を「産経新聞関係者」と書くことの了解も得ている。東京高検検事長が刑法に触れる罪を犯していることを報じるにあたっては、取材源秘匿の原則を守りつつ、読者に対して「情報がどういった筋からもたらされたのか」を可能な限り伝えることが必要だと判断した。
今回の報道を受けて、監視すべき対象と馴れ合いの関係を築いていたとして、マスメディアへの不信感も高まっている。とくに、検察庁法改正案に反対の論陣を張ってきた朝日新聞には、読者からの抗議や解約電話が相次いでいる。都内販売店の店主が嘆息する。
「ウチの店には、黒川問題が報じられてから、解約が一挙に10件もありました。『黒川氏とズブズブな関係であることを伏せて、黒川氏の定年延長を批判していたのか』というお叱りの電話もある。ただでさえコロナで折り込みチラシが入らず、利益が出ない中で、相次ぐ解約は非常につらい。にもかかわらず、朝日販売局が販売店に送ってきたお詫びの文書には、当該の朝日社員がすでに編集部門を離れ、取材活動をしていないということばかりが強調されていた。まったく反省の色が見られません」
黒川氏が辞めて一件落着ではない
実はこの元記者・C氏は、経営企画室というまさに社の中枢にいる人物である。朝日新聞に見解を求めると、書面でこう回答した。
「厳しいご意見をいただき、真摯に受け止めております。今後、社内調査の結果などを踏まえ、処分を含めて適切に対応いたします。なお、当該社員については管理職からも解いたうえ、人事部付としています」
また前述の通り、黒川氏が通っていた雀荘の元店員らの証言から、A、B両記者は10年以上前から黒川氏と賭けマージャンを、かなりの頻度で共にしていた可能性が高いことも分かった。この点を産経新聞に尋ねると、書面でこう回答があった。
「2人の記者については、編集局付に異動させ記者活動を停止させています。調査結果が固まり次第、社内規定にのっとり厳正に対処してまいります」
黒川問題を受け、毎日や朝日の世論調査では内閣支持率が20%台の“危険水域”に突入した。
「首相周辺は『一時的なもの。すぐに持ち直せる』『毎日の調査はブレやすい』などと強気ですが、官邸内では、緊急事態宣言が解除できた達成感はかき消され、動揺が広がっています」(前出・官邸関係者)
支持率低下の直接的な引き金は黒川問題だったかもしれない。だが、真の原因は、国民の声を軽視し無理無法を通したあげく、失敗すると責任を官僚になすりつける安倍政権の本質が、見破られつつあることではないか。
元検事総長の松尾邦弘氏が警鐘を鳴らす。
「黒川さんが辞職した今、最大の懸念は、問題の本質がウヤムヤにされてしまうことです。問題なのは、違法性が疑われる形で定年延長を強行し、時の政権による検察権への介入が起こったこと。これを決して繰り返してはなりません。黒川さんが辞めたから一件落着ではなく、今後政府がどのような方向でものを考えるのか、しっかり見守らなければならないと思います」
任期満了まで1年余り。安倍首相は歴史法廷の被告としてどう評価されるのか、正念場を迎えている。
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