#坦々麺論争
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♡ #虎チコちゃんも中華屋へ行く 休日出勤恒例の!中華ランチ。 今回はチコドラちゃんにはお留守番をして いただき虎チコちゃんを連れて行く🤣 最近は職場でもアイドルな2人とくま子さんも 人気ですㅋㅋㅋ #今回は久しぶりの牛肉麺 #先輩のところに提供はされた日本の坦々麺は先月とはまったく違うものになっていた ✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧ #休日出勤 #休日出勤ランチ #中華料理 #必ずスイーツ付き #先月の日本の坦々麺 #食べかけだけど #今月の日本の坦々麺 #提供も忘れられていた? #最後は定員さんにキレられたらしい #私たちの推測によると本場の坦々麺がスープ入りの日本の坦々麺にアレンジされていてた模様 #毎月行くから面白い経験 #虎チコさん #チコちゃん #ドラゴンズファンですがタイガースも気になる #小平市 #小平グルメ #招来川菜館 #坦々麺論争 (招来川菜館) https://www.instagram.com/p/Cl7nYbzvQwp/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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Page 108 : 虚実
ラーナーに与えられた最初の仕事は、ポケモン達の寝床の掃除だった。 ザナトアと会話を交わした建物は飼育小屋の一つだ。彼女は卵屋と呼ぶ。蛻の殻となり今や点々と仕事用具が置かれている倉庫と化している一階、そして今は鳥ポケモン達の巨大な巣となっている二階も、嘗てはポケモンの卵で埋まっていたのだという。預けられたポケモンが一晩明けたら卵を抱えていた、というのは珍しくない話であるらしい。役割ががらりと変わってしまっても、名残として名前が残っているのだ。 卵屋の二階で、ザナトアと共にラーナーは仕事にとりかかる。彼等が布団代わりにしているのは藁だ。三段ある棚、ぐるりと一周。ピッチフォークを持たされたものの、使ったことが無いうえ、鎮座する鳥ポケモンをどけさせる必要もあったため、結局腕に抱えた方が早かった。ポケモンの扱いも問題で、簡単に天井に飛び立ってくれる者もいるが、飛べない類は持ち上げなければならないし、運が悪ければ警戒心が強く技を放ってきて、逆に追い払われてしまう有様だった。威力としては弱い風おこしであっても、耐性の無い人間には強力だ。中央に集めた藁を吹き飛ばされて藁に混じった糞も当然撒き散らされ更に汚くなり流石にラーナーは肩を落とした。 「慣れさね」 と言いながら、やはり慣れた手つきでザナトアはピッチフォークを藁に突き刺し、よいしょ、と曲がった腰で藁を一気に持ち上げ、人がぎりぎり抱えられるだけの籠に放り込んだ���既に籠の中は汚れた藁でいっぱいになっていた。 「あんた、それはもういいからこれを持って降りておくれ。フカマル、処理場に案内しな。それで、新しい藁を持ってきておくれ」 漸く三匹目の寝床にラーナーが取りかかろうとした頃にはザナトアは半周分終えていた。頭から爪先まで藁を被ったように汚れたラーナーは既に疲れた表情を浮かべていた。進度の違いを目の当たりにして落ち込むように顔に影を落としたが、何も言わず籠に取り付けられた背負い紐に腕を通し、同じく手伝いをしていたフカマルを見た。 任務を受けたフカマルはぎゃ、と声をあげ、ちまちまと階段を駆け下りた。追いかけようとして、想定以上の重さに立ち上がれなかった。背中に重心を持って行かれ、息を呑んでいる間に尻餅をついた。巨大な岩を背負ったようだった。負けじと前に体重をかけるイメージで背負い込むと、漸く立ち上がれた。気を抜けば背中からひっくり返ってしまいそうだった。 「落ちないよう気を付けな」 ザナトアの注意を背中越しに受け、慎重に階段を降り始める。見かねたようにエーフィが近寄り念力を発動しようとしたところで、ラーナーは首を振った。 「大丈夫。エーフィはザナトアさんを手伝って」 やめろ、のニュアンスが含まれているのを敏感にエーフィは察知する。躊躇しながらも、大人しく引き下がる。ラーナーは肯き、集中した。大きな螺旋階段の先で、フカマルがやや不安げな目でラーナーを見上げている。 一階まで辿り着いた頃には、額から玉の汗が流れ落ち全身で呼吸をしていた。苦しげに息を切らしながら、目に沁みる汗を、袖を捲った腕で拭う。フカマルが傍まで駆け寄り、励ますように声をあげた。 「平気。連れて行って」 言葉とは裏腹に声音は厳しげだ。 ラーナーの速度に合わせて、フカマル達は外へと出る。卵屋を右に出て、石造の壁を沿うように歩く。柔らかな芝を踏みしめ続けていると、長い平屋がいくつか目に入った。その一番手前の一番小柄な建物の中に入ると、入り口を入ってすぐの左をフカマルは指さした。大きな空洞になっており、そこに捨てろ、ということらしい。ラーナーは背負った籠を下ろし、前に倒した。勢いよく藁の固まりが崩れ落ちていく。 軽くなった肩が心地良いのか無事持ってくることができたことに安堵しているのか、ラーナーは大きな息をついた。 息を整えているラーナーの顔を、フカマルが全身で覗き込む。あどけない表情で口が開く。整然と並んだ牙にラーナーは暫し目を奪われたように硬直した。 休息も束の間。ラーナーは振り返���、籠を抱えた。 「戻ろう。新しい藁はどこ?」 フカマルは頷き、ちょうど正��、入り口の右側を指さした。そこには、真新しい藁がまさに山積になっている。 壁に立てかけられたピッチフォークを突き刺し、ザナトアの手つきを思い出しながら、見よう見まねで藁を引っこ抜こうとする。重すぎて持ち上げられない。先の方だけ探るようにしても、彼女のようにうまく乗せられず、斜めに抜けて藁はこぼれ落ちた。 「難しいな」 と思わずこぼした。一つ一つの動作に、時間がかかる。 乾いた穀物の濃厚な香りに、包まれるというよりも呑み込まれながら、籠を満たす。 新しいだけ水分を含んでいないのか、心持ち古いものよりは軽いがその違いは実感としては殆ど薄い。疲労する身体には堪える。全身から汗を噴きだしてきた頃には、次の籠もその次の籠もいっぱいになっていた。 「休みなさい」 流石にザナトアはそう言った。項垂れるラーナーは拒否しようとしたが、強い視線に組み伏せられる。 大きな窓を挟んで、ザナトアは椅子に座り、ラーナーは床に座り込んだ。 「大変な仕事ですね」 新米の述べる、素直な感想だった。 「実際、二番目くらいの重労働だよ」 「一番ではないんですか」 「一番はポケモンの技の育成さね。今となっては、そうさね、これが一番大変かもしれないね。身体には響く」 「これをいつも一人で?」 「そうだね」 「ポケモンに手伝ってもらったり、しないんですか」 「昔はね。皆先に逝っちまったから」 なんでもないことのように言うザナトアの傍で、ラーナーは静かに息を詰めた。 「あたしもいつそうなるか解らないし、この子たちで手一杯だから新しく自分のポケモンを捕まえるのはやめたよ。不便なもんさ」 「フカマルはザナトアさんのポケモンじゃないんですか」 「殆どあたしのポケモンみたいなものだけど、一応預かっているという名目かね」 当のドラゴンは新しく敷かれた藁に座り込んでエーフィと鳥ポケモン達に囲まれながら和気藹々と話し込んでいた。その一角だけ光が当てられたように明るかった。しょうもないことを喋ってるんだろうね、とザナトアは苦笑した。酷使した身体を休めながら和やかなポケモン達を見ていると、空気が僅かに弛緩していく気配があった。 「あんた、親は?」 暫くして、ぽつりと尋ねられてもラーナーは静かな顔をしていた。 「いないです」 「いない?」 「小さい頃に交通事故で。二人とも」 止まり木からムックルが降りてきて団欒の上空で羽ばたく。立ち上がったフカマルがその足を掴もうとするように跳躍したけれども、からかうように上昇され、あっけなく地に落ちた。鳥ポケモン達の笑い声が響く。 ザナトアは瞼を伏せる。 「悪いことを聞いたね」 「いいえ」 「若いから、気になってさ。キリの人でもないんだろう。観光客という雰囲気でもないしね」 僅かな沈黙を挟んで、ぽつりとラーナーは口を開く。 「旅をしてるんです」 「……旅だって?」 怪訝な声が返ってきて、ラーナーは頷く。 「それは、トレーナーの修行の旅ってことかい」 「そういうわけじゃないんですけど。……それ、前の町でも言われました」 「あたしらの界隈じゃ旅と聞くとね。この国じゃメジャーじゃないけど。そうかい。どうりで掴めない子だとは思った」小さな溜息を吐いて、続ける。「でも、じゃあ何故旅なんてしてるんだい」 エーフィが尾を揺らし、軽やかに鳴いた。皆の視線が彼女に集まる。 ラーナーは沈黙を答えとするように、黙り込んだ。 紺色の獣の足が、宙に浮かび、彼の素っ頓狂な声が建物いっぱいに響いた。 「言いたくないなら言わなくていいよ」 「ごめんなさい」 「別に。誰しも隠したい事情はある」 鳥ポケモン達は目を丸くしてフカマルの空中遊泳を凝視した。フカマルは自らの身体を大の字に広げ、最初はおっかなびっくり戦慄いていたが、浮遊感に興奮を覚えたのか、今度は丸い目を輝かせた。 「あのエーフィは、凄いね。訓練しても、あれほどサイコキネシスを自在に扱える使い手はそういない」 「……なんでも出来てしまうんです。心強いです」 「あんたがここにいる間は、借りようかね」 ラーナーはそこで漸くザナトアの横顔を見た。皺だらけの顔に、更に深い笑窪が刻まれる。 「あんたよりは使えそうだよ」 「それは……そうですけど。それより」さり気ない正しい指摘よりも、気にかかったものがある様子だった。「私がここにいる間、って」 だんだんとフカマルの高度が上がっていき、止まり木の鳥ポケモン達も驚いて見守る。しかし、やがてそのうちの一本のあたりで、止まる。ぱちくりと、大きな目が瞬いた。エーフィの額の輝きが、収まった。念力が解ける。 「私、ここにいていいんですか」 自分に施されていた助力が無くなったことへ理解が及ぶ前に、フカマルは落下しようとしたところで咄嗟に止まり木を掴んだ。彼の体重に合わせて、止まり木が弓なりにしなり、同じ木にいたポッポ達は慌ててその場を離れた。今度は甲高い悲鳴があがる。 「おやまあ」 暢気にザナトアはその様子を下から眺める。止まり木は壁をくり抜いた穴にぴったりと通してあり、その穴で両端が引っかかってあって、フカマルの体重にも耐えられるだけの強い木を使っているため折れそうな雰囲気ではないが、空中で足を必死にばたつかせているフカマルの慰めにもならない。 やがて、また彼の身体に念力がかかり、エーフィが涼やかに地上へ下ろしていく。暫くは気付かずに勢いのまま叫び続けてたフカマルは、床に下ろされてから漸く戻ってきた事に気付いた。囲まれたポケモン達がけらけらと笑う中、顔を真っ赤にして地団駄を踏み、エーフィに怒りの声を投げつける。いたずらを仕掛けたエーフィは、笑いながら鳴いている。フカマルの怒りは少しの間収まらなかったけれど、いつの間にか周囲に呑まれて笑い始めた。それ��ころか、もう一回、とでも言いた��に手を挙げる。 「恐れを知らない子だこと」 ザナトアは呆れる。そういうところがフカマルの長所であることを、彼女は知っている。あの憎めない愛嬌で、ポケモン達の中心にいる。 「さ、遊びは一端終わりだ。フカマル、手伝っておくれ。エーフィも」 言いながらザナトアは立ち上がり、手を叩いた。直後にフカマルは振り返り、少し残念そうな表情を浮かべた。 「あの」 「アメモースが回復するまでここにいたいって言ったのは、あんたの方だろう」 ラーナーが立ち上がり際に声をあげたところですぐにザナトアが被せてきて、彼女は声を引っ込める。 「このエーフィは使える子だ。あんたはアメモースのところに戻りな。リビングでボールに入れて休ませてる」 「でも、手伝いが」 「エーフィだけであんた五人分くらいは働いてくれるよ」 「そこまで……」 言葉を続けようとして、呑み込んだ。一往復だけで激しく消耗したのは確かだ。そもそも、彼女はまともな食事もとれていない、つい昨日は一人気絶した身である。十分に働けるだけの体力は無かった。 エーフィは優しい鳴き声に、青い顔が上がる。 ラーナーの身体が立ち上がり、踵を返した。エーフィの瞳と宝石は柔らかく発光し、すぐに止む。無理矢理に促された主人は、戸惑うように顔だけ振り返るが、やがて諦めたように会釈し、力無く階段を降りていった。
リビングに戻ると、ブラッキーは変わらず眠り続けていた。 外と繋がる扉を音も立てずに閉め、ラーナーはソファの前のダイニングテーブルに目をやる。目を凝らせば見えるような無数の掠り傷のついたモンスターボールがぽつねんと置かれている。起きたときには気付かなかったものだ。 気怠い身体でボールを手に取り、一人用のソファに浅く座る。そのままラーナーはボールを握り、背もたれに倒れる。柔らかなクッションが反発し、疲労した身体を受け入れる。 ゆったりとした部屋で、時計の針とブラッキーの小さな寝息だけが音として存在している。 ラーナーは掌にすっぽりと収まるボールをじっと見つめた。スイッチを一度押せばボールは肥大し、二度目を押せば中の獣は姿を現す。たったそれだけのことだが、ラーナーは虚ろな色を表情に浮かべ、握り込んだまま動けなくなった。 ブラッキーが以前より長く眠るようになったと、ラーナーは首都を出て以来薄々勘付いている。 本来夜行性のポケモンではあるが、幼いイーブイの頃から人間と過ごしていた影響か、昼間であっても起きていたし、夜は眠っていた。必要であればどんな時刻であっても起き上がり、ラーナーに寄り添った。彼はそういうポケモンだった。ボールに入っていればそれで休息は十分、といったようなポケモンだった。 首都を出て少ししてから、疲れた様子を見せた。鈍い動きを見せ、素直にボールで休んだ。嘗ては、珍しい種族であるが故に注目を恐れてボールに入れていることも多かったが、一人旅��なってからは出来るだけどちらか一方はボールから出すようになった。それはエーフィとブラッキーも望んでいるが、エーフィだけがその役割を果たす時間が多かった。 その理由は解らない。 幸いにして首都を出てからは黒の団の強襲を受けず旅を続けている。野生ポケモンはエーフィ一匹いれば対処できる程度だ。 ラーナーはボールを握ったまま、ふらりと立ち上がる。そのまま向かったのは、本棚だった。 リビングに並ぶのは、表の玄関から溢れているファイルの山だ。年代で分けられた上に、アルファベット順に整理されているらしい。試しに一冊引き抜いてみると、十年前のものだった。まだラーナーは物心も殆どついておらず、セルドは赤ん坊、両親も存命している頃だ。一冊につき一人のトレーナーのようで、預かったポケモンについて詳細に記録がされている。食事、バイタル、体調、訓練の内容等。走り書きだが、ラーナーにも辛うじて読める。とはいえ難しくて内容の理解までは至らなかった様子である。ラーナーはポケモンに詳しくはないし、独自の用語なのか専門用語なのか、略語も多用されている。読解困難も無理は無いだろう。 ぱらぱらとめくるが、一般的にとりわけ珍種とされるエーフィやブラッキーは勿論、アメモースも登場しなかった。時間を弄ぶように、何冊か覗いてみる。土地柄か、鳥ポケモンが多い。エアームドを見つけて、思わず手を止めた。技、燕返しの訓練をしていたようだ。百発百中を求められる技は、敏捷性と正確性が求められる。見た目に反して翼は薄いが、鋼の鎧の影響か身体は重く、瞬発的な素早さには恵まれない。試行錯誤を繰り返して日々訓練に挑む記録は、一つの物語のようでもあった。結局、このエアームドが燕返しを取得したとザナトアが断定するまでに、約一ヶ月を要した。早いのか遅いのかラーナーには判断がつかないが、一番苦労するのは技の訓練だと即答したザナトアの言葉が過ぎり、腑に落ちた。 ファイルを元に戻し、本棚全体を眺めた。溢れんばかりに埋め尽くされるこれは、歴史を語る記録。 ラーナーはボールを握る右手に力を込める。 もう一度飛ばせるとは、そう簡単にできることでない。 ザナトアは、そう言った。 結局クロバット以外を飛ばせることはできませんでした。 エクトルは、そう言った。 再び本棚に目を凝らす。上から下へいくほど古くなる。目線をどんどん下げていき、隣の本棚へ移る。 やがて二十五年前の年代にたどり着くと、ラーナーは一冊一冊取り出し、ページをめくり始めた。 つい先日成人したクラリスの生まれる前の出来事。情報は膨大だが、ラーナーには時間があった。 夕陽が沈み出す頃、漸くラーナーは手を止めた。 二十九年前。クロバットの記録。生々しい写真がまず目に入った。 クロバット��アメモースと同じく四枚の羽を持つが、形状は大きく異なる。巨大な二枚の羽が主翼であり、胴体から伸びる小さな二枚羽は補助を担う。このクロバットが失ったのは、あろうことか主翼の方だった。左で、八割を失っている。読めば、経緯はなんと雷だという。激しい暴風雨の最中、不幸にも雷に打たれた。不幸中の幸いか、直撃した主翼は瞬時に焼かれたが命はとりとめた。淡々とした記録は客観的な文章であり、書き手の感情は見えてこなかった。 絶対安静の治療期間を経てから暫く、飛行訓練について詳細が書かれていた。幾度かの義翼の挑戦、失敗。補助翼に、主翼としての働きを担わせる訓練。本来の主翼は右しか無い、それはあまりにもアンバランスであり、嘗てとは逆の使い方をしなければならないとなれば、右利きの人間に自在に左手で文字を書けるよう訓練させる感覚に近い。実際はより困難であったはずだ。ザナトアも試行錯誤を繰り返し、クロバットも途中挫折している。長い空白期間の後、訓練は再開された。 嘗ての補助翼は大きくそして素早く羽ばたく。しかし補助翼では限界がある。残された主翼が大きな風を掴み上昇、瞬時に左右の補助翼がコントロールし、軌道に乗る。一見、滅茶苦茶だった。しかし、それで実際にクロバットは、四枚羽だった頃ほど自在でなくとも、再び空を飛んだ。 冒険記さながらの記録は、華々しさからは程遠く、九割は挫折と苦悩にまみれていた。端から見れば異質なまでの執念だった。 訓練休止期間を含め、十秒間の自力での飛行に四年。十分以上の飛行に至るまでに、そこから更に三年。ファイルは十冊に及んだ。 気の遠くなる年数だった。エアームドの燕返しにかかった一ヶ月など、比較してしまえば取るに足らない。 記録はまだ続いていたが、ラーナーは読むのを止めた。ふらつく足取りでソファに戻り、倒れ込んだ。流石のブラッキーも気が付いて、俊敏に起きあがる。 現実を目の当たり��した主人に、ブラッキーの顔が近付く。やつれた顔を見せたラーナーは、どうしよう、と呟いた。 「こんなこと、アメモースにやらせられない」 彼女の顔は相変わらず平坦だった。しかしそこから出てきた声は、潰れたように掠れていた。
夜が近付いた頃、漸く喧噪が部屋に戻ってきた。 はしゃぐ元気の残っているフカマルとは裏腹に、いつもにこやかで余裕のあるエーフィがリビングに帰ってきて早々絨毯に寝転び疲労にまみれた声を漏らした。 「悪かったねえ。でもおかげで随分助かったよ。今夜はゆっくりお休み」 ザナトアはエーフィの頭から胴体にかけて、ゆっくりと大振りに撫でる。弱々しい声が削られた体力を物語った。 ブラッキーが憐れみに似た視線を送る隣で、横たわっていたラーナーはぼんやりとしたまま起き上がる。アメモースは居ないことに、ザナトアは何も言わなかった。 「そう��や、二人分作らなきゃならないのか」 腰に手を当てながら言う。 「そもそもあんた食べられるのかい」 ラーナーを見やる。配慮しているというよりも、呆れたような口振りだった。 青白い顔をゆっくりと上げて、力無く首を振った。 「すみません、遠慮しておきます。だから気にしないでください」 「気にしない、ねえ」 ゆっくりと一人掛けのソファに座り、長い息をついた。深く背中が沈み込んでいる。色濃い疲弊が全身に覆い被さっていた。 「ああ、疲れた」絞り出すような声が、どこか達成感を含んでいた。「少し休んでからだね」 ラーナーは頷き、視線を落とす。すっかり草臥れたエーフィの傍にフカマルが座り込み、会話を交わしている。お互い社交性が高いのか気が合うのか、ラーナーが僅かに見ないうちに親睦を深めたらしい。 扉を閉めてしまうと、音が殆どしなかった。エーフィ達の戯れが強調される。ラーナーとザナトアの緊張した空気の中で浮き彫りになるようだった。 「そういえば」 ザナトアが言う。 「あんた、坊やとはどういう関係だい」 「坊や?」 すぐには見当が付かないのだろう、すぐに聞き返す。 「あの子だよ。エクトル」 ああ、とラーナーは納得したように呟く。 エクトルとザナトアの間には、どんな形をしているかはわからないが、絡み合った関係性がある。彼は、合わせる顔が無いと言っていた。 「キリに来るのは、二度目なんです。この間、夏に、初めて来た時に知り合って、それ以来です」 「夏って、今年の?」 「はい」 「随分近いね」 意外そうに言う。 「クヴルール家の使用人をしてるんじゃなかったかね。そう簡単に知り合えるような立場じゃないと思っていたけど、案外自由にやっているのかね」 「……クヴルール家を、知ってるんですか」 「当たり前じゃないか。……ああ、あんたは余所から来たからよく知らないのか。キリでは最も有名さ。水神様に唯一触れられる一族だからね」 気力の失せているラーナーの目が丸くなる。 「水神様」 「何をそんなに驚いているんだい」 ザナトアはぎこちない苦笑を浮かべる。 「いえ、その……私は、ここの人じゃないから事情をよく知らないんですけど、水神様って、キリの皆さんはよくご存じなんでしょうか」 「ご存じ、なんて大それたことではないけど、水神様の予知を元にキリの生活は回るからね。まあ、余所者からすれば奇異なのは当然か。ここほど神様と距離が近い場所はそう無いだろうさ」 「信じてるんですか、水神様のことを」 老婆は鼻を鳴らす。 「信じるも何もね。熱意は人それぞれだろうけど、誰もが奥底では当たり前のように考えているだろうよ。水神様はいらっしゃる。あたしなんか、信仰は薄い方だけどね」 「そうなんですか」 「そうさ。もっとも、クヴルール家が嫌いなだけだけどね」隠す気の無いさっぱりとした言い方だった。「あんた、こんなことに興味あるのかい」 ラーナーは逡巡するように目を逸らしてから、一つ頷いた。 「そうさね」 少し考え込んでから、ザナトアは再び口を開く。 「町の方では、祭りの準備をしていたろう」 「はい」 建物の間にかかる旗。それぞれの玄関に飾られたランプと��。街道も彩られ、以前彼女が訪れたキリと違って、町は華やかで、浮ついたような空気を醸し出していた。 「秋季の半ば、晴天の吉日。今年は二週間後だね。豊作を祈願し、一年で最も高くなる空へ向けて鳥ポケモンを飛翔させる。その日を定めるのは水神様さね。一年で最も重要な行事の一つさ」 「……そういえば、湖で、前よりもたくさんの鳥ポケモンが飛んでいたような」 「訓練だろうね。ポッポレースが開催されるんだ。祭りの見所の一つさ」 へえ、とラーナーは小さく声を上げる。 「うちからも何匹かは参加させるよ。ゆるいお遊び部門にしか出ないけどね」 「野生ポケモンでも、ですか」 「関係ないさ。元々はトレーナーに飼われていた子もいる。ポケモンには基本的に闘争本能があるから、こういうものに出た方が精気が入ることもある」 あと、と続ける。 「こう見えてボランティアじゃないからね。町から金を貰ってるから、行事にちゃんと出ておかないと色々言われるのさ」 あっけらかんとさらけ出し、笑う。 「さて、随分話したし、そろそろ夕食にしようかね。待ちわびている奴もいることだし」 言いながらザナトアは足下に目を向ける。フカマルがぽかんと口を開けながらザナトアをじっと見ていた。静かな部屋に、わかりやすいほどの空腹の報せがドラゴンの腹から鳴っていた。 その日の夕食はパスタだった。柔らかく茹でられた麺に自家製のホワイトソースがかけられ、軽く焦がしたチーズと刻んだベーコンが添えられる。巨大なベーコンの殆どがポケモン達に切り与えられる。分厚い肉はとりわけフカマルの好物だった。 キッチンの傍のテーブルについていたラーナーは、まじまじとテーブルの上を見る。積み上げられた本に、空のコップがそのままになり、封筒に入ったままの郵便物が適当に追いやられていた。汚れたエーフィやフカマルをそのまま部屋に入れるあたり、ザナトアは少なくとも綺麗好きではないのだろう。 白い深皿にパスタを盛り合わせて持ってきて、ラーナーは密かに眉を潜めた。遠慮した彼女にも、少しだけ用意されたようで、小皿に盛られて差し出された。黙って出された食事と、正面に座るザナトアの間を視線が行き来する。ザナトアが無言でパスタを食べ始めたので、ラーナーも何も言わずにフォークを取った。チーズを絡ませると、細く糸が伸びる。少しだけ巻き込んで、音も立てずに口に入れた。顔色は変わらなかった。飲み込み(えんげ)を躊躇うように長く咀嚼し続ける。 「不味いなら食べなくていい」 同じく黙々と食べていたザナトアが言い放つと、ラーナーは俯き、静かに喉を上下させた。手元の水を飲み下し、息をつく。足下で大好物にありついているフカマルの食べっぷりとは正反対だ。 もう一度フォークに麺を巻き付けようとしたところでザナトアが口を開く。 「食べなくていいと言ってるだろう。無理するんじゃないよ。それよりアメモースにおあげ」 ラーナーは唇を噤み、フォークをテーブルに置いた。そして、脇に置いていたモンスターボールを取り、少し間を空��てアメモースを外に出した。 苦い顔つきで腕の中に収まる。身じろぎもしない。ラーナーは傷跡に触れないよう気を遣いながら、昨日ザナトアが彼に飲ませた栄養剤を含ませる。容器の先端がスポイトになっており、スポイトの先の蓋を開けるだけで飲ませられる簡素な造りとなっている。赤ん坊にミルクを飲ませるかのようにして抱き込めば、一度目は何度か噎せていたが、彼も慣れているようにあっさりと飲み始めた。微少な泡が浮き上がり、蜜柑色の液体が着実に吸い込まれていく。 「痛み止めも飲ませてあげるといい」 「はい」 ザナトアが玄関先でアメモースに栄養剤を飲ませている光景を模しているうちに、飲みきった。ラーナーは席を立ち、ソファに置いている鞄から鎮痛剤を取り出す。ボトルに入っていて、それをスポイトで吸引し飲ませるというものだ。 「元々大人しい子なのかい」 ザナトアが尋ねると、ラーナーは軽く首を振る。 「大人しいとまでは。穏やかではありますけど」 アメモースを膝に抱えたまま、手は薬の準備を進めている。旅の最中で毎日使っていたから、扱い自体は慣れていた。 「……この薬はフラネで貰ったんですけど」 「うん」 「先生に診てもらっている時に、暴れ回ったんです。それまでは大人しかったのに、急に。その次の日の朝も。それきり、今度は怖いくらい静かになったんです」 彼女は手を止める。 「ご飯も満足に食べなくなって、どうしたらいいのか解らないまま。ショックが大きいせいだとか、思い当たる節はあるんですけど」 「ショックというのは、飛べなくなったことかい」 中途半端な間を置いてから、ラーナーは力無く頷く。 「飛ぶことが好きなんです。外に出したら、トレーナーを放ってどこかに飛んでいってしまうようなポケモンでした」 「成る程ね。……翅を失ったのは最近かい」 「今月の初旬に」 「ふうん。まだ新しい傷だね。立ち直れなくても無理は無いさね」 「そうですよね」 淡々と再び手を動かし、スポイトでゆっくりと水薬を吸い込む。 「まあいい機会だ。翅は戻らないが痛みはいずれ引く。ゆっくり休みよ」 アメモースを見ながら、ザナトアは微笑む。自分にかけられたのだとぼんやり察したのか、アメモースはゆっくりと頭をもたげた。 最後の一口まで平らげると、ザナトアは息をついた。 「片付けはあんたがしてくれるかい。適当に伏せておいてくれたらいいからさ」 「わかりました」 ザナトアは椅子から降りて、ラーナーの隣へやってくる。 「シャワーは後で場所を教える。部屋はいくつかあるんだが物置ばかりでね。寝られるような場所はそこのソファが一番ましだが、それでいいかい。ま、野宿よりはマシだろうよ」 「大丈夫です。ありがとうございます」 「じゃあ、あたしは一度ポケモン達の様子を見てくるから」 外へ行こうとしたところをエーフィが立ち上がったがすぐに制する。一人で戻るようだ。 裏口に繋がる扉へ歩いていこうとする途中でふと立ち止まり、そういえば、と声をあげる。 「今更なんだけど、あんた名前は?」 ラーナーはおもむろ��振り返る。 「そういえば聞いてなかったと思ってね。あの場きりになるはずだったから聞く必要も無かったし。でも流石に知らないままも不便だろう」 さも当然のことを話すような突っ慳貪な問いに対して、ラーナーは一瞬視線を横に投げる。誰もが気付かぬほどの、ほんの些細な瞬間のことだった。 その間に巡った考えを知るのは、彼女だけだ。 「アランです」 淡々と、変わらぬ口調で言い放つ。 腕の中のアメモースが視線を上げる。エーフィとブラッキーの耳が動いた。ポケモン達の間で走り抜けた静かな動揺を、ザナトアが感じ取っている様子は無い。 「ふうん。男みたいな名前だね」 「おかしいですか?」 「何もそうは言ってないだろう。いい名前なんじゃないかい」軽く笑ってみせた。「じゃ、アラン。残した分はフカマルにでも食べさせておやり。残飯処理が得意なんだ」 そう言い残して、ザナトアは部屋を後にした。 残された沈黙が張り詰めていることに、フカマルは気付いていないように立ち上がり、嬉々としてテーブルの上に残されているラーナーの食べかけのパスタを待ち望んでいるように彼女を見上げた。 他の三匹は明らかに温度の異なる視線を彼女に投げかけている。 「何も言わないで」 三匹に対する返答は十分でない。 ラーナー――アランは、何事もなかったように、スポイトに入った水薬をアメモースの口元へと運んだ。 < index >
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