#備前焼はビールの泡がきめ細やかに
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備前焼のビール杯で美味しいビールをお楽しみください
ビール杯(伊勢崎紳)
今日も快晴の岡山です。
絶好のお出かけ日和ですね。
さて、毎週土曜日は新着商品のアップ日になります。
伊勢崎紳作 ビール杯 6点
伊勢崎紳さんのビール杯6点のご紹介になります。
サイズは3種類で大きいサイズが4点、
中と小が各1点ずつ。
シンプルな造形でどれも見ごたえのある景色、
日常使いとして活躍してくれますね。
備前焼でビールを飲むと
泡がきめ細やかになり美味しいビールを愉しめます。
これからの季節に、
この機会にぜひ一度お試しくださいませ。
ちょっとした贈り物にも喜ばれますね。
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「Hang down your head, Tom Dooley,Hang down your head, and cry.」
「Hang down your head, Tom Dooley,Poor boy, you're bound to die.」
「...にーに、」
舌足らずに呼びかける、無垢な声で意識が引き戻された。
「にーに...」
少しだけ開いた扉の隙間から、太陽に透ける焦茶色の髪と、潤んだ目が覗いていた。兄妹揃って白いが、さらに青白くすら見える妹の肌が、ろくに食べていないガリガリの身体を引き立てているように見えて、俺はベッドに横たわったまま、妹を直視することが出来ずに視線を天井へと戻した。どこでなにを間違えたのか、そもそも、俺が、誰が間違えたのか、答えは神のみぞ知る、のだろうか。
「どした。」
「おじさん、もう、かえったよ、」
「そっか、ありがとう。ちょっと待っててな。すぐ、飯つくるから、」
「にーに、さくら、おへや入ってもいい...?」
「...、いい子だから、リビングで...」
その時、ふと視界の端に写った、ドアから覗いた桜の細い手に、妹のお気に入りの、キティちゃんのタオルが握られているのが見えた。まだ幼い、俺よりも6つも下の可愛い妹は、大人でも顔を顰めるような悪事をなにも言わずとも空気で察し、その上で最大限の配慮を持って来てくれたらしい。断れない。重たい身体を起こして、扉に背を向け床に散らばった服をモタモタと身につける。どうせ洗うのは俺だ。ぐちゃぐちゃに乱したシーツで身体を拭い、丸めて床に放る。部屋にはむわっとした栗の花の匂いが充満していて、こんな部屋に妹を招き入れなければいけない自分に反吐が出る。手を伸ばし、窓を開けると、外の温かな空気が流れ込んできて、少しは息が出来る気がした。
「いいよ、おいで。」
「にぃに、」
桜は薄暗い部屋の中、よたよたとベッドへ近付いて、タオルを持った左手を差し出した。微かに、震えている。俺の目線が、タオルではない箇所に注がれていることに気付いたんだろう、一瞬表情を曇らせた桜は俺から隠すように右腕を背中に回した。
「......さくら。右腕、見せて。」
「だいじょうぶ、なんにもない。」
「さくら。」
「.........ほんとに、だいじょぶなの、」
眉をぎゅっと寄せた桜のまんまるな目に膜が張って、じわりじわりと溢れていった涙が玉になって零れ落ちる。そっと腕を取り長袖のTシャツを捲ると、赤黒く熱を持った、丸い痕。桜は静かに、壊れた蛇口のようにただただ涙を溢していた。気味が悪い、年端もいかない子供が、こんな泣き方をさせられるなんて。
「誰が、やったの。にーにのお客さん?」
「ううん、ちがうの、おとうさん、さっき帰って来て、おさけ、飲んでて、さくら、おこられて、また、おとうさん出ていったの、」
「...分かった、気付かなくてごめん。おいで。」
桜を抱っこし、手に持っていた濡れタオルを自分の腕に当てさせて、俺は薄暗い部屋を後にした。
リビングにもうもうと立ち込める煙草の煙。まだ4歳の桜の肺は、とうに副流煙でもたらされたタールに侵されているんだろう。咳き込むことも無くなった。俺は冷凍庫にあった氷をビニール袋に包み、濡れタオルの上から当てて火傷痕を冷やすよう告げた。すん、と鼻を啜ってもう泣き止んだ桜は俺を見上げ、「ありがと、にーに。」と笑って、タオルに描かれたキティちゃんを見つめている。
リビングの箱には、父親が放り込んだぐちゃぐちゃのお札が数枚、入れられていた。今月の生活費、まだ16日もあるのに、もう、4千円程しかない。先程取った客の分、追加されるんだろう���。そうすれば少しは増えるのに。
痛みを感じることはやめた。��常、やめられないことではあったが、俺はやめた。桜の前ではせめて、お兄ちゃんをしていたかった。
もう時刻は夕方の4時を過ぎていた。朝から何も腹に入れていないであろう妹は、わがまま一つ言わず黙って客が帰るまで隠れていたらしい。
冷蔵庫を覗くと、粗末だが炒飯が作れそうなメンツが顔を揃えていた。具になりそうなものは、魚肉ソーセージと玉ねぎしかないが。キッチンの床に座り込む桜に、屈んで目線を合わせる。くるん、と俺を見上げる純粋な目。
「夕飯、炒飯でいいか?」
「さくら、にーにのちゃーはんすき。たべる!けど、チチチ、使う?」
「うん。向こうのお部屋で、待ってな。」
「うん。にーに、ありがとう。」
桜は、火が苦手だ。あの子の腕以外、背��や脚、服で隠れるところに、いくつも煙草の押し付けられた痕があった。熱いもの、赤い火、大きくても小さくても火を見るたびに、桜は怯え、静かに泣く。コンロのことがまだ覚えられないらしく、「チチチ」と呼んで、使う度に怖がっていた。
具材を準備しながら、フライパンを握る俺の手がカタカタと微かに震えていた。...馬鹿馬鹿しい。桜が心配していたのは、自分じゃなく、俺だ。
俺は、火が怖い。料理の度に喉元を掻きむしりたくなる衝動を抑えて、早く終われと、そればかり願っている。脳裏から離れないのは、あの日、煌々と燃え盛る、自分の家だった火の塊。
確か幼稚園の卒園を間近に控えていた日、突如として、俺の家は燃えた。呆然と立ち尽くす俺の横で、無表情の男、俺の父親は、消し炭になっていく家と、そして母親を見ていた。父親の手の中には己の大切にしていた時計のコレクションと、貯金通帳があった。母は2階で寝ていてそのまま火に巻かれ、翌日ようやく鎮火した家の中で炭になった姿を掘り起こされた。
俺の目には、あの言葉にし難い恐怖を与えた火が、焼き付いていた。美しい、強いなんて到底思えない、ただただ畏怖する存在。
流しに捨てられていた吸殻を捨て、食事の支度をしながら考える。
子供は親を選べない。
学校に行かせず、客を取らせ、気に入らないことがあれば手を出す。程よく金を与え、自由を与え、力で支配し気力を奪う。その上、他人からはそうは見えないよう、極めて常識人のように振る舞い、見える場所には決して痕をつけなかった。人を飼い殺すことに関しては類稀��才能がある、と、他人事のようにあの男を評価して、虚しくなってやめた。
家が燃えてすぐの頃、ボロアパートに引っ越した俺の前に、新しい身重の女が連れて来られた。髪の長い、幸薄そうな女は程なくして子供を出産し、そして子供を置いて、姿を消した。
帰った男の片腕に抱かれた赤ん坊を見たとき、ひどく不釣り合いだと思わず笑ってしまい、腹を立てた男に殴られたことを鮮明に覚えていた。
父は、その赤ん坊に名前をつけるのが面倒だと、俺に命名するよう言った。じんじんと熱を持つ頬を押さえ、さっさと決めろと怒鳴られた俺の視界に、ふと、窓の外の景色が映った。隣の雑居ビルだとか猥雑な看板だとかが見えるその中に、ひらり、現れた影。俺は窓を開け、外に立っていた大きな桜の木を見つけた。ばさり、ゆらり、風に吹かれて、彼は、彼女は、頭を揺らして花弁を振りまいて、呼吸が聞こえてくるような錯覚を覚えた。恐怖と、感動と、僅かばかりの哀しみと、俺は初めて見たわけでもない桜に怯え、同時に魅了された。気づいた時には口から「桜」と零していた。男は大して興味がなさそうに窓を閉め、俺に桜を渡して、また部屋を出て行った。
あの男は、桜が"女"になったらいい商品になる、と思って、捨てずに置いている、と言っていた。妥当だろう。あの男が思いつきそうなことだ。俺が、16になれば。働き口も見つかる。あの男からも逃げられる。それまで辛抱すれば、桜に、この世界がもっと美しくて、広いことを、教えられる。
「This time tomorrow,Reckon where I'll be.」
「Down in some lonesome valley,Hanging from a white oak tree.」
俺は買い物やらゴミ出しやらがあって、男の監視下で外に出ていたが、一度だけ、桜を連れて、男の許可なしに外へ連れて行ったことがある。茹だるような暑さが少しだけ鳴りを潜め、喧しい蝉が死滅しつつあった、夏の終わりだ。そう、俺の、15歳最後の日、桜が9歳の時だった。仕事で遅くまで帰らない、と言い残した父親、あっさり一発だけ抜いた後、内緒だと言って千円札を握らせた上客。俺は客が帰った後、また物置で眠っていた桜を揺り起こした。
「桜、どこか行きたいところないか?」
「うーん...あ、海行きたい。お兄ちゃんの持ってた、本に載ってたから。」
俺は桜を自転車の後ろに乗せ、くしゃくしゃの千円札をポケットに突っ込み、海を目指した。桜のポシェットの中には、俺の愛読書、��島由紀夫の「潮騒」が入っていた。生まれた記録がどこにもない子供だ。桜が学校に行かない代わりに、俺の見える世界の全てを、桜に教えた。日本語の危うさと淡い色彩を、桜の美しさを、海の青さを、全てを。桜は賢い子で、俺の言葉をスポンジのように吸収して、キラキラと目を輝かせ、あれこれ質問した。
「お兄ちゃん、空が広い!」
「あぁ。しっかり捕まってな。」
「気持ちいいね、お兄ちゃん!海、もうすぐ?」
「もうすぐだよ。」
自転車は残暑の蒸し暑い風を爽やかに変えながら、空気を切って下り坂を降りていく。俺の腰にしがみつく、太陽を知らない青白い細い腕。その日桜は、生まれて初めて、外に出た。
浜辺には人が見当たらなかった。もう彼岸が近いから、わざわざ海に近づくことなど誰もしないんだろう。桜はゴミの散らばる都会の砂浜に歓喜の声をあげ、ぼろぼろの靴を脱ぎ散らかし、砂浜を走り回っていた。
「お兄ちゃん!早く早く!」
「怪我するなよ、桜。」
どこかで拾った麦わら帽子を被った桜が、太陽の下でくるくると踊っている。自転車を止めた俺は遠目でその姿を見ながら、浜辺をうろうろと彷徨き、一つ、綺麗なシーグラスを見つけた。真っ青で丸みを帯びた、ただのガラスのかけら。退屈そうにワイドショーを見ていた海の家の親父に札を渡し、ブルーハワイのかき氷を1つ買った。
「桜、おいで。」
足の指の隙間に入った砂を気にしながら戻って来た桜に、青に染まったそのかき氷を見せると、元々大きい目をさらに大きく丸くして、俺の隣に座り、それをマジマジと見つめていた。思わず笑って、その小さな手に、発泡スチロールの容器を持たせてやる。
「食べていいの?」
「早く食べなきゃ溶けるぞ。」
「わっ、いただきます!!ん〜〜〜冷たい!甘くて、美味しい!」
「そか。よかった。」
サクサク、シャクシャク、夏の擬音語が聞こえる。首元を流れる汗も鬱陶しい蝉の鳴き声も、今日だけは何も気にならなかった。
「これ、やるよ。」
「何、これ。ガラス?」
「シーグラスっていって、波に揉まれて角が取れたガラス。綺麗だろ?」
「それなら、私も一つ拾ったの。見て、綺麗でしょ?交換しよう、お兄ちゃん。」
「うん。」
桜の拾った半透明のシーグラスを受け取り、いつか、このガラスでアクセサリーでも作ってやろう、と、ポケットへそれを捻じ込んだ。照りつける太陽が頭皮をじりじりと焼く。かき氷を食べ終えた桜と俺は、ただ黙って目の前に広がる青黒い海を見ていた。
「お兄ちゃん、私がどうして海がすきか、知ってる?」
「潮騒、気に入ったからじゃないのか。」
「それもあるけど、私、青色がすきなの。」
「青?」
「そう。海の青、空の青、どこかの大きな宝石、学校の大きなプール、一面の氷、色んな青がある、って、お兄ちゃんが教えてくれた。」
「...そうだな。」
「お兄ちゃん、私、お兄ちゃんがいたら、大丈夫な気がするの。」
「あぁ、大丈夫だ。桜は、俺が守る。」
「さすがお兄ちゃん。」
「...たまにはにーに、って呼んでもいいんだぞ。」
「バカ。もう私、大きくなったもん。ねぇ、お兄ちゃん。世界って、広いね。」
桜の横顔は、とても狭い世界に閉じ込められ続けたとは思えない、卑屈さも諦めも浮かばない、晴々とした表情だった。
「あ、お兄ちゃん、見て!」
ふと、太平洋に沈もうとする太陽の方を指差して、桜が笑顔を浮かべた。
「空が、私と、お兄ちゃんの色になってる。」
指差した空には淡く美しい桜色と、そして、寂しさを湛えた葵色が、広がっていた。
桜は、俺が世界を教えた、というが、終わりだと思った世界から俺を助け出してくれたのは、桜だ。眩しくて、夕陽をありのまま映し出す瞳が、言葉にならない。ごめん、と、ありがとう、と、愛してる、と、色々が混ざり合って、せめてみっともなく嗚咽を漏らさないように、となけなしの見栄で唇を噛み締める。
「お兄ちゃん、そろそろ、戻ろう?」
「......あぁ。もうすぐ、全部終わるからな。」
「うん。お兄ちゃん、だいすきだよ。」
その夜、いやに上機嫌な父親が帰宅して、持ち帰った土産の寿司を3人で食べた。ビールを飲み、テレビを見て大笑いする父親は、俺にも桜にも珍しく手を出さなかった。風呂に入った桜が、日焼けした。と顔を押さえてぶすくれていたのが可愛らしかった。
「お兄ちゃん、眠いの?」
「ん...あぁ、先、寝てな。」
「今日、ありがとね。私、お兄ちゃんの妹で、良かった。忘れないよ。」
俺は気が緩んでいたんだろうか、飯の後ベッドに戻る前に力尽き、床に横たわったまま眠りについた。
痛みと、嫌に焦げ臭い匂いで目が覚めた。眠った時のまま、床の上で目覚めた俺を蹴飛ばした男が、舌打ちをこぼす。
「起きろ。あと1時間で客が来る。」
「...はい。桜は、」
「消えた。逃げたんだろ、俺が起きた時にはいなかった。」
「消えた、って、そんなはずは、」
「...あぁ、そうだ、今日の客は上客だがちょっと特殊でなぁ。歯ァ食い縛れ。」
「え、」
言葉を挟む間もなく、男の手に握られたビール瓶で頭を殴打され、先程まで寝ていた床に逆戻りする。俺に馬乗りになった男が指輪を嵌めた手を握りしめ、笑う。
「傷モンを手込めにしたい、と。声出すなよ。」
意識の朦朧とする中で、俺に跨った客がもたもたと腰を振り、快楽を得ていた。頭も、腕も、どこもかしこも痛む。左肩の関節は外された。でっぷり太った身体が俺を押し潰して、垂れる汗や涎が身体に掛かる。豚の鳴き声に似た声を上げた客が、俺の顔��精液をかけ、満足そうな顔をしてにちゃり、唇を舐めた。
半日近く拘束され、太陽は沈みかけていた。軋む身体を起こした俺は体液を拭う時間すら惜しかった。桜を、探さなければ。男にどこかに連れて行かれたのかもしれない、本当に嫌気がさして、どこかで一人彷徨っているかもしれない。「明日は誕生日のお祝いするから、晩御飯、お兄ちゃんは何もしないでね!」と海で笑っていた桜を思い出し、俺はスニーカーを履いて外へ出た。
そして足の向かった先を見て、俺は、諦めにも似た絶望を感じていた。漂っていた違和感を拾うことを、人間は辞められないのだろうか。
男の所有する山の一角が、黒く焼け焦げていた。男が、都合の悪いものを燃やしたり捨てたりする場所だと、ゴミ捨てをさせられる俺は知っていた。何もない更地に、灰が少し残っており、土だけが真っ黒に変わっていた。安心した俺の目にきらりと光るものが映る。吐き気を堪えながら灰の中から拾ったそれは、昨日海で見つけた、真っ青なシーグラスだった。
自宅に戻ると、まだ男は帰っていなかった。俺はふらふらと、桜がよく��もっていた物置に入った。心がズタズタに、ぐちゃぐちゃに引き裂かれて、言葉が何も紡げない。手の中には、シーグラスが二つ、淡い色が肩を並べて寄り添っていた。
物置に入ってすぐ、玄関の方から乱暴な足音と、話し声が聞こえてきた。男が、電話で誰かと話しているらしかった。
『.........って、仕方ねぇだろ。』
『なかなか生理も来ねえから、俺が折角女にしてやろうと思ったのに、抵抗しやがって。挙げ句の果てに、「お兄ちゃんに酷いことしないって約束して、」なんて、生意気なこと言いやがる。元々そのお兄ちゃんも、お前をダシにして仕事させてたのによ。ハハハ。あのメスガキ、俺をアイスピックで脅しやがったんだ。笑えるだろ?』
『はっ、大変じゃねえよ。二人殺るのも三人殺るのも、同じだっつーの。あー、暫くは葵に稼がせるしかねぇな、だから女は嫌いなんだよ、バカだから。』
俺はその夜、男を殺した。
丁度10歳の女の子を攫って燃やした時、炎に包まれ、ギギギと軋みながら仰反る死体を見ながら、桜も、こんな風に燃えたのだろうか、と思った。お気に入りのポシェットも、キティちゃんのタオルも、桜色のTシャツも、こんな風に、無惨に炭と化したのだろうか。
「This time tomorrow,Reckon where I'll be,」
「Had't na been for Grayson,I'd have been in Tennessee.」
今日の子は、16歳。あの日の俺と同じ歳の、女の子だった。燃えて独特の匂いを振り撒く子供を見つめながら、俺はその火で子供の身分証やら手袋やらを燃やし、これで32人、桜の友達を向こうに作ってあげられたことに気が付いた。知らぬ間に、火が怖く無くなっていた。学校を知らない桜はよく、「一年生になったら」を歌っていた。もう、通常ならとうに1年生になっている年齢だったのに。舌足らずで甘い、キャラメルのような声が今も脳裏に蘇る。にいに、お兄ちゃん、そう呼ぶ声は、何度だって再生出来る。
「妹はこんなこと、望んでない?」
桜の望みは、変わらず俺と、生きたい。それだけだった。もう望みは叶わない。望むことすら出来ない状況で、何を否定出来る?
「不毛だって?」
あの日、冷蔵庫の中には、俺の好きなオムライスの具材が入っていた。あの男に頼んだのか、隠していたお小遣いで買ったのか、分からない。が、普通に手に入れたわけではないはずだった。火の苦手な桜が、オムライスを作ろうとしてくれていた。それに応えられなかった。今更不毛などと、考えること自体が不毛だ。
「あと、67人。」
一年生になったら、一年生になったら、友達100人出来るかな。
「桜、最後は、お兄ちゃんがいくからな。」
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Page 116 : 空と底
ブラッキーの牙が、アランの身体に突き刺さった。 激しい飛沫が五感を遮ろうと、栗色の双眸は獣の動きを克明に捉えていた。直前の行動は意志というよりも反射であった。アランは辛うじて身を捩り、それは首ではなく左の肩口を襲った。致命傷こそ避けたが、アランは堪らず痛みに声をあげた。深く、ヤミカラスを食い破ったいくつもの牙が穿たれたまま離れない。ブラッキー自身から溢れるものと合わせて、赤い色水をぶちまけていくように傷からあっという間に赤が広がっていく。 それでもアランは強くブラッキーを頭から抱擁した。しかし、服が水を吸い込み、痛みは一気に体力を奪う。だんだんブラッキー諸共、沈んでいき、辛うじて顔を出すのに精一杯であった。 湖畔から呆然と見つめていたエクトルは水タイプのポケモンを持ち合わせていない。だが、漸く脳内でスイッチが入ったように、背後を見やった。 「ガブリアス、来い!」 背中越しにドラゴンを呼ぶと、逆鱗直後とは考えられぬほど従順に命に従い、涙目で地面にへたり込んだフカマルを置きざりにしてガブリアスはすぐさまエクトルの傍へ来た。一瞬振り返った後にまた湖面に視線を投げると、目を疑った。 平穏な湖に異変が起きている。 彼女らを中心として、湖面にゆるやかに渦が発生している。いわば渦潮である。ほとんど水流の生まれていない今、それも比較的浅い岸辺、自然現象としては起こるはずのない出来事だった。 しかし、エクトルはその光景に対して既視感を抱いた。何故と動揺し判断を失念した間に、初めは細波程度であった勢いが、瞬く間に強くなった。見えない巨大な力で乱暴に掻き回される。上空は不変に広がる蒼穹、照る太陽の光が波間で反射する。まるで湖にだけ嵐が起こり始めたようだった。勇敢なヒノヤコマやピジョンが柵を越えて救助を試みようとするが、水の勢いがあまりに強く近付くことすら叶わない。 二対の声が小さくなって、とぷん、と、中心に吸い込まれるように、不意に掻き消された。 ざわめくのは、渦巻く激流の荒れた音と、空疎な羽ばたきと、錯乱するエーフィの叫び声のみ。 エクトルの脳裏で湖へと引き込まれていく主人の姿が重なった。 浮かんでいた血は荒い白波にほだされて、深い青に沈んでいった。
*
湖面が遠ざかっていき、鮮血が煙のように上がっていく。 突如として襲った渦潮に巻き込まれ、激しく突き動かされながら、その流れから漸く手を離された時には、戻りようもないほど深い場所へと彼等は身を沈めていた。 身体を覆う服が重く、浮き上がることは叶わない。 傷つけられた身体は更に渦潮に打ち付けられ、空気を吸いこむ間もなく水中に引き摺り込まれた。少女は獣を離さなかったけれど、最後に苦しげに口から水泡が絞り出されて水面へ浮かんでいった頃には、とうにはっきりとした意識は失われていた。 晴天が放つ陽光が遙か遠くで木漏れ日のように輝いていた。誰も居ない暗闇へと誘われていく。月輪が朧気に光り、暗闇で位置を示しながら、抵抗無く沈みゆく。底に向かう程に冷たくなっていく感覚を、彼等の肌は感じていることだろう。
*
きっかけは、地震だった。 吉日と指定されて熱に浮かれた秋季祭の中心地にも、その地響きは僅かに伝わった。静かに一人座り込んでいれば辛うじて感じ取れるかといったような、ほんの少しの違和だった。だから、ザナトアはその不自然な一瞬を自らの足先から電撃のように伝わった直後は、気のせいだと思った。ポッポレースを終えて選手も観客も労いの空気に包まれていて、誰も気付いていなかったからだ。 揺れる直前には、ザナトア率いる野生ポケモン達のチームが参加する自由部門のレースは殆ど終了していた。 ポッポレースが終わってしまえば、ザナトアにとって秋季祭という大イベントは殆ど終わる。 ヒノヤコマを初めとして、群れを牽引する者の不在を、ザナトアは少しも不安に思っていなかった。たとえ群れに馴染めなかったとしても厳しい野生の世界で逞しく生きていくために育成を施してきた子達の、集大成にあたる舞台なのだ。結果的に、誰一匹として離脱することなく、チェックポイントを全て回り、ゴール地点まで還ってきた。順位は下の上といったところだろう。充分な結果だ。遠くないうち、冬が本格的に始まる前に野生に返す準備をしなければならない。彼等にとってのザナトアの役割は終わりを迎えようとしている。喜ばしいことだ。しかし少しだけ寂しい。彼女はおやではないが、おやごころが芽生えるのだ。たまにヒノヤコマのようにそのまま卵屋に棲み着いて離れない者もいるけれど、ザナトアは微妙な胸中に立たされる。複雑なおやごころである。 当初の予定よりずっと少ない面子の乱れた羽毛をブラシで丁寧に梳かしてやり、一匹一匹に声をかけていた最中だった。 「……地震?」 ぽつりと呟いて、周囲を見渡した。 だが、誰も顔色を変えずに歓談している。地面が、一瞬だけ突き上げるような、浮かぶような力が加わったように感じた。視線が上がり、白く塗られた電灯同士を渡る旗の飾りが、揺れているのを発見した。留まっていたポッポが羽ばたいたために大きく揺さぶられていた。 果たして、ブラッキーはどうなっただろうか。水面下での懸念事項がはっきりと浮かび上がる。 ザナトアは、アラン達なら大丈夫だと考えていた。楽観的だととられるかもしれないが、アランは依然未熟なトレーナーであるものの、ポケモン達は彼女を見捨てていなかったからだ。獣が強いほど、弱い人間は嘗められる。だが、エーフィ達は決してトレーナーを見下しているわけではない。 アラン達が寂れた育て屋を訪れた日、ザナトアはかのポケモン達に問いかけた。あのトレーナーのことが好きか、と。アメモースはどっち付かずな反応を見せたが、エーフィとブラッキーはすぐに首肯した。良くも悪くも複雑な思考をする人間より、獣はずっと素直で正直だ。彼等の詳しい経緯をザナトアは知らない。これからも知ることはないかもしれないが、ただ一つ確実なことがあったとすれば、あのトレーナーとポケモン達の間には、ザナトアが一瞥しただけでは理解できなかった繋がりが存在している。 ポッポレースの表彰式を促す放送が周囲に響き、熱気の冷めやらない人集りが移動し始めた。 顰めた面をしたザナトアの手が止まったことに不満を抱いたのか、毛繕いを受けていたムックルが鳴いた。声に弾かれ、ザナトアは我に返る。 不意に気付く。大丈夫だと思い込みたいだけなのだ。 無性に胸が掻き立てられて仕方がなかった。
*
薄暗くなってきた祭の露店に明かりが灯る。自然公園に設営された屋外ステージで行われたポケモンバトルも幕を閉じ、熱い拳握る真昼から一転、涼やかな秋風が人々の蒸気を冷まし、ちらほらと草原に人が集まり始める。子供から老人まで、配布された色とりどりの風船を持つ姿は微笑ましい光景だ。 秋の黄昏はもの悲しさを秘める。生き生きとした夏が過ぎて、豊かな穂先は刈られ、花々は枯れ、沈黙の冬に向けて傾いていく。雨は冷たくなり、やがて雪に変わる。積雪の下には、次の���へ向けた生命がひそやかに眠る。季節は循環する。儚く朽ちてゆく間際、最も天高くなる時期、人々の願いと感謝が込められた風船は夕陽が沈む瞬間を見計らって、高々と空へ昇る。来る瞬間へ向け、準備が個々で進められていた。 その中には、エクトルの友人であるアシザワの姿もある。 幼い子供は沢山貰ったお菓子をリュックに詰めて、同じ年頃の友達と自然公園を無邪気に駆け回っていた。きゃあきゃあと黄色い声が飛び回る。 湖面に迫る夕陽を前にして一人佇んでいると、普段は思い出しもしないことが浮かんでくる。たとえばそれは聞き流していた音楽だったり、記憶だったり、要はノスタルジーに包まれる。思い出といえば、大役を解かれ休暇を貰ったというのだから無愛想なあの男も暇潰しにでも来るかと思ったが、的外れだったようだ。 「何をぼーっとしてるの」 ぼんやりと芝生に座って三つ分の風船を持ち子供達の姿を眺めていたところ、声をかけられて顔を上げた。朱い夕焼けより少しくすんだ、けれど綺麗な赤毛をした女性に、アシザワはおどけた表情を返し、アンナ、と呟いた。 「何も」 「そう? なんだか珍しく寂しそうだった気がしたけど。はい」 と言って、アンナはアシザワに瓶ビールを手渡した。既に王冠は外されている。湖面を渡るポッポの絵が描かれたラベルが貼られた限定品だ。 「ありがと。お、ソーセージ」 「美味しそうでしょ。列凄かったんだから」 「かたじけない」 アシザワが仰々しく頭を下げると、わざとらしさにアンナは吹き出した。 「李国式だ」 「古風のな」 にやりとアシザワは笑む。 彼女は大ぶりのソーセージがいくつも入ったパックを開ける。湯気と共に食欲を刺激する強い香りが漂う。祭で叩き売りされる食事というのは、普段レストランで味わうものとは違った、素朴でジャンクで、不思議な希望が詰められた味がするものだ。子供も大好きな一品。添えられたマスタードをたっぷり絡めるのがアシザワは好きだった。その良さを知るには子供はまだ早いのが残念なくらいである。 「風船持とうか」 「いい、適当にするから」 瓶を傾け、一気に喉にビールを流し込む。まだ明るいうちに喉を通る味は格別だ。これもまた子供には早い。無邪気に遊び回る子供は自由で時折羨ましくなるけれど、不自由なことも多い。やがて適当に流すことを覚え、鬼ごっこやおもちゃとは違う楽しみを覚える。 「手紙、書いた?」 風船に括り付けるもののことである。人によっては、感謝だったり、祈願だったり、愛の告白だったり、様々な思いをしたためる。 昔は、湖に沈んだ町や大洪水に呑まれた魂を悼み、天空へ誘うポケモンを模していたと聞��ている。だが、現代になるにつれ外部の観光客も楽しめるポップな様相へと変わっていった。それでいいとアシザワは思う。水神の未来予知だって、現代は科学が発展して天気予報は殆ど当たる。災害予測も技術が進めば可能だろう。宗教を盾に権力を振りかざして胡座をかいているクヴルールは正直気に入らないところがある。若者を中心に、そう考えている人間は少なくはない。時代が変われば文化も考え方も変わる。 瓶ビールを半分ほど一気に流し込んだところで、口を離した。 「そんな恥ずかしいことはやらねえ」 「ええ? 去年は書いたじゃない。家内安全って」 アシザワは苦い表情を浮かべる。 「そうやって覚えられるから嫌なんだよなあ」 「子供みたい」 くすくすと笑う。真新しい薬指に銀の輪が嵌められた左手が夕焼けに煌めいて、金の輝きを放つ。 赤と、青と、黄色、三原色の風船が穏やかな風に揺れている。湖面の方角からやってくる秋風が心地良い。 秋季祭が終わっていく。 「あーっチューしてる!」 目敏く幼い少年が叫んだ。 いつの間にそんな言葉を覚えたんだ、と思いながら、アシザワは振り返った。その先で黒い影法師が二人分ずっと伸びているのを見て、これは風船があってもばれるなと気付いた。まあいいか。ビールを置いて、走っても走ってもなお体力を有り余らせている子供に向けて、誤魔化すようにソーセージを高々と見せた。ご馳走を目にして歓喜の声をあげながらやってくるユウにも、隣で笑うアンナにも、思いがけず強い感情が込み上げる。この瞬間を、幸福と呼ばずしてなんとするだろう。
*
長い時を経て、縁の途切れていたエクトルとザナトアが再会したのは、秋季祭が夜に沈んでいこうとする頃。 喚くようにヒノヤコマ達がザナトアを探しに来た。宥めても混乱が収まらず、明らかに様子がおかしかった。彼等に連れられて、老体に鞭打ち、通行規制が解かれた湖畔に足を運んだ。場は騒然としていた。罅の入った道路を早急に隠すように工事準備が進められ、車道は片面通行となっている。エーフィは芝生に座りこみ、憔悴した顔で、鳥ポケモン達の声に気が付き縋るように振り向いた。隣にはアメモースもいる。目玉を模した触角は垂れ下がって動かない。彼女の傍をフカマルも離れないようにしていた。腕白小僧には似つかわしくない気落ちした表情をしている。鮮明なテールランプが夕焼けを切り取って回転している。ザナトアは立ち尽くし、言葉を失った。更に奥で、水ポケモンに指示を終え、救急隊が全身ずぶ濡れになって蒼白になった少女と黒い獣を担架で運んでいる。その様子を、嘗ての愛弟子は、ザナトアが本当の息子のように想っていた男は、至極冷静な表情で見つめていた。 遙か向こう、祈りの風船が群を成して、夕景に昇っていった。 < index >
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「あけましておめでとうございます。枢木さん」
ソファに横並びで『ゆく年来る年』を眺めていたルルーシュが、日付の切り替わりと同時にこちらへ向き直り、座面の上で正座になって三つ指を突いてくる。白無垢を纏った幻影が見えるほどの流麗なお辞儀に新年早々、文字通り本当に早々、心臓が鷲掴みにされる心地だ。
「あけましておめでとう、ルルーシュ。今年もよろしくね」 「はい、お願いします。……ふふ、平成三〇年の枢木スザクは男前ですねえ」
粛々とした顔つきを即座にふにゃりと緩ませ、胸の前で小さく拍手をするルルーシュの頬はほんのり、を通り越してなかなかに赤い。そこらの大学生よりも酒に弱い白人が存在するのだという事実を、スザクは目の前の可愛い同居人を通じて初めて知った。飲み慣れていないせいもあるのだろうか。なにせスザクが気合を入れたレストランで二十歳の誕生日を祝ったその席まで、ルルーシュがアルコールに口をつけたことは一度たりともなかったというのだから驚きだった。ルルーシュを見ていると事あるごとに、育ちが良いとはこういうことかとしみじみ思わされる。芸能界に足を踏み入れ立てでおまけに自分のファン、いかにもチョロそうだからさくっと抱いてモノにしてやろう、などと謀っていた三年前の自分を殴り倒しに行きたい。もっとも、ふわふわと心地良さそうにスザクの両手を取って無意味に振り、挙句ぽすんと胸元に倒れ込んでくるこの懐き具合に対して、これまでの戦績が口先だけのごく軽いキスひとつという今の体たらくの方が、過去の自分から張り倒されて然るべきといった話なのだが。
「眠いの? 寝るならちゃんとベッドに行かないと」
揃いのパジャマの胸元に顔を埋められ、こんなことでも童貞のように爆発寸前の下心を抑えながら頭を撫でる。さらさらとした黒髪の指通りを、指先から伝い全身全霊で愉しむことくらいは許してほしい。同じシャンプーを使っている筈なのに、どうしてこんなにも甘くやわらかな匂いがするのだろう。
「ルルーシュが寝るなら、俺も寝るし。明日のお雑煮作りも手伝うから」 「おぞうに……枢木さんは、おもち、何個食べますか?」 「んー、五つくらい? ほら、ルルーシュ立って」 「いつつかあ。いっぱい食べますねえ。いっぱい食べるひとはいいひとですよ」 「そうだね。ありがとう」
この瞬間もこれまでにも、襲ってしまおうと思えば容易に襲える場面がいくつもあった。今までベッドを共にしてきた女優なりモデルなりアイドルなり、凡百の相手であればとっくに抱き飽きている頃だろう。それをこの、五歳年下��男の子に限っては、酔ってふらついた身体を支えて唇が近づいた瞬間の、衝動的な一度の口づけしか為せていない。しかもそれを、同じ状況である今再び、今度こそは舌まで入れて奪ってやろう、などという気も臆病風で起こせない。あのキスの直後、真っ先に感じたのは圧倒的なまでの罪悪感だった。ルルーシュが嫌がっていない、というよりも「酔ってふざけてキスなんて大人だな、それも枢木スザクが相手なんて役得だ」程度にしか捉えていないのが丸分かりであったことで、「枢木スザクに生まれて良かった」という天から光射す気持ちプラス「どうして俺は枢木スザクなんだ、いっそただの顔が良くて才能と金のある一般人だったなら」という気持ちプラス「でも俺が枢木スザクでなければルルーシュはこんなに気を許してはくれないんだ」プラス「そうだ少なくとも俺はルルーシュにこんなに懐かれてるんだぞ見たか世界!」、イコールでこうして今もただの良い人、ルルーシュを愛し愛されるお兄さんポジションに甘んじている。与えた自室のベッドまで手を引いて先導し、布団を胸元まで掛けてやったルルーシュが「おやすみなさい」とこれ以上なく安心しきった声で言うのを聞いて、ようやく勃起を許した股間を開放すべくトイレへ向かった。二〇一八年の自慰初めだ。
9:00
「はい、熱いから気を付けてくださいね。いっぱいおかわりしていいですからね」
椀を手渡すルルーシュが着ている割烹着は、この日のためにスザクが購入した卸し立てだ。いつものエプロンももちろん至高だが、新年の朝には真っ白な割烹着と三角巾でお玉を片手に微笑むルルーシュがどうしても見たかった。今年の正月休みは三日の午前中まで、ルルーシュよりも半日分短いがその間はずっと一緒にいられる。どこにも行かず、何にも邪魔されることなく、ルルーシュの作った食事を三食食べて酒を飲んで――この世の春とはまさにこのこと。にやにやしながら雑煮の椀を片手にソファへ座ると、ルルーシュも後を追ってにこにこと身を寄せてきた。期待たっぷりに輝く瞳は、スザクがもう片方の手に持つお神酒の瓶へ向けられている。弱いと言っても酒好きの度合いにおいてはスザクどころか、『コードギアス』の打ち上げで目の当たりにしたシャルルのそれと並ぶほどのようだった。流石は親子、いや親子ではないのだが。シャルルとの共演回数はスザクの方が遥かに上回り、またルルーシュの実の両親ともそれなりに顔を合わせてきているというのに、未だに時折『ギアス』の世界が現実を侵食するような心地に襲われる。映画総集編の新規カットや宣材写真の撮影で仕事が継続しているから、という理由もあるがそれだけではなく、要はあまりにも��烈な体験だったのだ、『コードギアス』という現場は。あのドラマがスザクの人生を、比喩でも大��裟でもなく変えた。思えば正月らしい正月を過ごしたいと考えたことなど、ほんの幼い頃以来ではないだろうか。
「お雑煮って、作るのも初めてだったんですけど、考えてみたら食べたこともほとんどないかもしれません。給食で出たかな……?くらいで」 「そっか、いつもはイギリスで過ごすんだもんね。イギリスの正月料理ってなんかあるの?」 「特にないですね……うちだと、ちょっと良い朝ご飯を食べるくらいです。あの、あれです、ラピュタのパンみたいな」 「あ、いいなあそれ。っていうかルルーシュ、ラピュタ見たことあるんだ?」 「映画という意味なら……」 「城本体は俺もないかな」
「ふふ、すみません」と、楽しくて仕方ないといったように笑い、角餅の端に齧りついて熱さに少し眉根を寄せるルルーシュをうっとり眺める。香り立つ湯気の向こうにルルーシュ、新しい年の陽射しに黒髪が透けて綺麗な茶色に映るルルーシュ、ああ今食べたのはスザクが型を抜いたお花のにんじん、椀を傾ける仕草もほんのり血色に染まった唇も完璧だ。
「そんなに意外ですか? 俺とジブリの取り合わせって」 「うーん、割と。なんか国内アニメとかって全然見ないで育ってきてそうな」 「それはそうですけどね。でもジブリは後学のためにも一通り観ましたよ。あ、あと、最近は移動中にあれとか観てました。けものフレンズ」 「なんだっけ、聞いたことあるなそれ……すごーい! ってやつだ」 「そうですそうです、すごーい! たのしーい! ってやつ」
かわいーい。心の中でしみじみ呟く。
「枢木さんとも観たいなあ、ラピュタとかトトロとか。ジブリって配信ないですもんね、借りてきますか?」と、雑煮のおかわりを取りに立ちながら提案してきたルルーシュに「えー、『正月は外に出ない計画』じゃん」と返す。「そうでしたね。あ、それじゃあそろそろ頼んでた神社が……」とルルーシュが言ったとほぼ同時、マンションコンシェルジュからのコールが鳴り響いた。
「わあ、ジャストタイミング。出ますね。……はい、枢木です。あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします……え? ……はい、ええ。少々お待ちいただけますか?」
空の椀を持ったまま、壁から取り上げた受話器を器用に押さえて「大きい荷物だから、配達員の方をそのまま上げてもいいか、って」と、ルルーシュはやや困惑顔でこちらを振り向く。頷いてやると、不思議そうながらも「……すみません、はい。お願いします。ありがとうございます」と丁寧に対応し、キッチンではなくスザクの傍に戻ってきた。
「そんな大きいもの、頼んでましたか? なんだろう、ゲンブさんからとか?」 「ないない。ああ、ハンコ押したらそのままでいいからね。俺が中まで運ぶから」
ますます首を捻るルルーシュだったが、ややあって聞こえたドアチャイムで弾かれるように再び立ち上がりインターホンまでぱたぱたと駆けていく。残りわずかだった雑煮を食べ終えてからゆっくり後を追��ば、玄関にスザクが着いたときには配達員の姿がドアの向こうに消えたところで、ルルーシュが頬を紅潮させてスザクの方へ振り向いた。
「枢木さん、枢木さんこれ! これ、kotatsu!」
興奮のあまりかイントネーションが非日本語のそれになっているのを思わず笑いながら、「うん、炬燵。注文してたんだ。ルルーシュ、本物見たことないって言ってたから」と意識してさらりと伝える。ああ注がれる「枢木さんすごい! かっこいい!」の眼差し。
「すぐ組み立ててあげるから。炬燵でみかん食べてさ、おせちも食べて、一緒にテレビ見て、ごろごろしよう?」
さあ来い! 飛びついてハグ! 顔には出さず、しかし期待ではち切れんばかりの胸を脳内で大きく開く。ルルーシュの瞳がきらきらと輝き、勢いよく広げた両腕をがばりとスザクの首へ回して――近づく温度! 触れ合う胸!
「枢木さんっ、ありがとうございます! 大好きです!」
やったーーーーーーーーーーー!!!
15:00
予定通り炬燵と一緒に届いた神社のジオラマを組み立てるのには、予想以上に骨が折れ時間がかかった。ルルーシュと二人、お互いに細かい作業は得意だと自負していたが、出来上がったときにはどちらからともなくぐったりとした溜息が漏れたほどである。
「紙製だとは思えないですね。すごくしっかりしてる」 「そうだね、ちゃんと狛犬もいるし」
しかしジオラマと目線の高さを合わせ、炬燵の天板に顎をついて感嘆するルルーシュの美しい目瞬きと、その度に音を立てそうな睫毛を見ているだけでかなりの回復を感じるのだから安いものだ。否、この至近距離でルルーシュの素の表情を凝視できるという立場はどれだけの維持費がかかろうとも手放せない。このジオラマなんて二千円ほどの代物なのだ、むしろ神やら運命やらに莫大な額の値引きをしてもらっていると言える。
「でもちょっと、結構疲れましたね……今年の疲労初めだ」 「俺らジオラマを舐めてたね。あ、横になるならいいよ、膝」 「いいんですか? じゃあ、お言葉に甘えて」
炬燵に入ったまま横たわろうとするルルーシュに好機とばかり、だが極めて何気なく誘導をかけて、自身の膝に頭を置かせることにも大成功した。改めて見下ろせばなんて小さな頭、形の良い頭蓋だろう。そして髪の間から覗く、耳のやわらかく真っ白なことよ。指先でふにふにと耳殻を揉めば「くすぐったいですよ」と笑いながらの抗議が来た。
「ごめんごめん」
永遠にこの時間が続けばいいのに、と思うもルルーシュは早々に身を起こし、「だけどようやくこれで初詣が出来ますね。ほら、枢木さんも」と傍らに用意していた小箱を引き寄せる。中に入っていたのは賽銭箱を模した貯金箱で、スザクが「神社は混むし、どこに行っても人目が多すぎるから家で初詣をしよう」と提案したことに想像よりも遥かに喜んだルルーシュが買ってきたものだった。大学の友人に連れられて行ったヴィレッジヴァンガードで見つけたのだとか。前半は気に食わないが(男であれ女であれルルーシュと買い物をすることにデートの意味を見出さない人間などいるものか)、未だに場慣れしないという猥雑な雑貨店でおずおずとはしゃぐルルーシュの姿は想像するだに素晴らしいマスターベーションの供になる。
「二礼二拍手一礼、ですよね? お賽銭は先でしたっけ、後でしたっけ」 「合ってるよ。賽銭はよりけりだけど……まあそもそも手水とか鈴緒もないし、タイミングとかは気にしなくていいと思う」 「これね、見てください枢木さん。綺麗なのを用意したんです」
いそいそとルルーシュが取り出したのは五円玉が九枚で、「四十五円でしょう? 始終ご縁がありますように、って」とどこか自慢げに教えられる。
「すごいね、よく知ってるね」
チャンスとばかりに頭を撫でると、ルルーシュは一転して照れた笑みを満面に浮かべた。積もりに積もった欲望はもはや己の武器ともなっている。人間は進化する生き物だ。
「ご縁って、誰との?」
だが心温まっているだけの場合ではなく、ここはしっかり聞いておきたいところだ。これだけこちらからの想いを重ね、圧を込めておきながら、ルルーシュの恋愛観や好みのタイプといった情報を聞き出せたことはまるでない。ルルーシュの側からスザクに聞きたがることは多々あれど、反対にこちらからそうした話題を振るとルルーシュは本当に困ったようになってしまい、反応に窮してわずかに落ち込んでしまうのだ。
「そうですね、俺は特定の神を信仰している訳ではないんですが、何か大きな、上位存在のようなものはあるのかなと、ぼんやりですけど。それがもたらす運命だったり、チャンスだったり、そういうものとの良縁を、と思って」
ルルーシュは当然、性愛に無知というわけではない。仮にも二十歳の男子なのだ。この仕事をしている以上、扇情的なアピールを行うこともある。だがそれとは別の次元で、性の部分に希薄さを感じる、というのがこの三年間ルルーシュをじっとりと見てきた人間の所感だった。本人に確かめては勿論いないので、あくまで所感に過ぎないのだが。育ちの良さが影響しているのか、パーソナリティで片付けられるものなのか。ともかく、そのまっさらに見える惚れた腫れたの大地に芽吹きの気配があるのなら、早めに熟知し傾向と対策を――と思ったのだが、この様子ではまだ「優しくて大好きな枢木さん」に甘んじていられそうだ。
「――あとは、その。当たり前ですけど、枢木さんとのご縁も、ずっと続きますようにって」
枢木さんは何円入れますか? あっ、小銭って持ってないですよね。枢木さん、キャッシュレスの人だから。じゃあ、俺と一緒にこの四十五円、入れましょうね。半分ずつ二人で持って、せーのって。九枚だから��っちか一枚少なくなっちゃいますけど――ルルーシュの楽しそうに話す声を聞きながら、思わず目頭が熱くなったのを慌てて堪える。 炬燵の一辺に並んで座り、小さな神社を前にして二礼、二拍手、一礼。それぞれに目を閉じ、しばしの無言で願いを捧げる。神様、俺をずっと、ルルーシュの隣にいさせてください。セックスなんて出来ないままでもいい、いや今のは撤回、ルルーシュのおちんちんも見たいし舐めたいし触りたいし触ってほしいです。出来れば今年中にご査収願います。何卒。
「そうだ、おみくじもあるんですよ。初詣といえばおみくじですよね、今持ってきますね」
うきうきとした語調ながら名残惜しそうに炬燵を出てどうやらキッチンに向かい、バスケットを手に戻ってきたルルーシュがまた素早く炬燵に潜り込む。バスケットの中には人間の形をしたふわふわのパンが四つ、レーズンの目やボタンをつけられて可愛らしく鎮座していた。
「これって、あのラジオで言ってたやつ? えーと、」 「そうです、マナラ。美味しいですよ。では枢木さん、この中から好きなのをひとつ選んでくれますか?」
これがルルーシュの用意した「おみくじ」なのだろうか。なにやら誇らしげな顔で見守られ、カラフルなチョコレートで靴を履かされている一体を選んで手に取る。「裏返してみてください」と囁かれ、パンをひっくり返せばそこには、筆にチョコレートを取って書かれたと思しき、この手の装飾には異様なほど達筆な「大吉」の文字。
「おめでとうございます! 大吉ですよ! 枢木さんの二〇一八年は良い年になりますよ」
心底嬉しそうに楽しそうに、自分の食べるマナラを持って手を振るように動かすルルーシュ。こんな、スザクにおみくじを引かせるために、わざわざパンを焼いて、裏面に文字まで仕込んでわくわくと待っていたのか。抱き締めたい、猛烈に抱き寄せて深く深く口づけてしまいたい。可愛らしく振っていた手の部分から早速食べている唇を奪いたい。でろでろに愛しさで蕩けながら、スザクは大吉パンの頭に齧りつく。
21:00
「小腹が空いた気がします」
シャルルからの頂き物だというオリジナル日本酒『ルルーシュ』を大事そうに呑みつつ、毒にも薬にもならないような正月特番を微笑んで眺めていたルルーシュが突然、真剣な顔つきで報告してきた。
「枢木さん。俺は小腹が空きました」
むしろ宣誓と表現してもいいくらいの真面目な申告だった。「おせちのローストビーフ、確か残ってましたよね。枢木さんも食べますか。食べますよね」と静かな口調ながら言い募られ、「そうだね……ちょっとつまもうかな」とわずかに気圧されて答えると、ルルーシュの表情がぱあっと明るくなり、「にっこり」の図解として辞典に採用されそうな満面の笑みが浮かんだ。毎度思うがあまりにも顔が良い。
「取ってきますね! ローストビーフと、みかんのおかわりと、あと、ビールと」
浮き足立っているというよりほとんど千鳥足、これはかなり酔い始めているな、とキッチンへ向かう綿入れ半纏(こちらも着ているところが見たくて買った)の背中を目で追う。そして頬が緩む。炬燵机の上に置かれた、みかんの皮を広げて作った蛸にも口元がにやける。スザクが作ってみせてやったのを意気揚々と真似していたが、今見ると足が七本しかない。
「おせち、何が一番美味しかったですか?」 「一番? えー、難しいな……生春巻きかな。えびのやつ」 「あれは特にうまくいきましたね。もっとたくさん作れば良かったかな」 「また作ってよ���この前の餃子みたいにさ、大量に。次のおせちにも入れてね」
右手にローストビーフの皿、小脇にクッキーの細長い箱を抱え、左手に缶ビールの六缶パックをぶら下げつつみかん入りのネットを胸で抱えるという器用な格好で戻ってきたルルーシュへ、早々とかつ当たり前のように来年のリクエストを申告する。せっかく手作りするのだから互いの好きなものだけを入れたお重にしよう、とルルーシュからおせち料理の提案をされたときは自分でも度が過ぎていると思うほど大喜びしてしまった。大晦日の朝から並んで台所に立ち、ルルーシュのいつもながら鮮やかな手際に見惚れつつ、包丁捌きを褒められたり共に味見をして頷きあったり、あの楽しさはまるで子供の頃の自分までもが優しい手で抱き上げられたような心地だった。ただでさえ五つも年下で同性の相手に、ただ懸想するだけでなく母性まで求めるようになってはいよいよ終わりの始まりだと自覚してはいる。だが「あ、これたぶん甘いですよ。これもそうかな」とみかんを選別してこちらに寄せてくるルルーシュに、高鳴りとはまた違う、震えるほどの胸の衝動を覚えない男が果たしているだろうか。
「ミスターイトウのバタークッキーが昔から好きなんですよね。ムーンライトとかも美味しいけど、俺はやっぱりこの赤い箱に胸がときめく」 「ね、ルルーシュ」 「はーい。なんですか?」
酒に酔っていることもあり、出会った頃では考えられないほど気安くなってくれた反応。少し濡れたように瞬く睫毛、何にというでもなく、場の雰囲気に緩く笑んだ美しい唇の端。
「今年も、良い年になるといいね」 「はい。二人で、素敵な年にしましょうね。……あっ桃鉄! そうだ桃鉄やりませんか! 俺ね、結構いろいろ勉強したんですよ」
スザクの感傷を吹き飛ばさんばかりに勢いよく立ち上がり、「Wiiリモコンってこっちのチェストでしたっけ?」とわくわく探し始める姿に、思わず吹き出すように笑ってしまった。準備を手伝いに腰を上げ、「勝利パターンとか、カードの対策と使い方とか。もうやられっぱなしの俺じゃありませんよ、なんなら枢木さんに一泡吹かせてやりますからね」と意気込むルルーシュを軽くからかう。
「威勢がいいねえ。じゃあ罰ゲーム制にしよっか、ルルーシュが勝ったら何でも言うこと聞いてあげる。そのかわりあれだよ、負けたら���にキスだからね」 「えっずるい! 俺もそれがいいです!」
明らかにふざけているとわかるような声色を作って言った台詞を食い気味に主張され、予期せぬ反応と勢いにぎょっとする。「俺が勝ったらー、枢木さんは俺に勝者のキスですからね」と続く語尾のふわふわした口ぶりは、完全に酔っ払い特有の様態。
「えっ……えっ、いいよ、うん」
鼻歌を歌いながらディスクを本体に飲み込ませるルルーシュには、自分が言ったことにどれだけ重みがあるか、いかに今スザクが動揺しているかもわかってはいないのだろう。スザクが勝ったらルルーシュとキスができて、スザクが負けたらルルーシュとキスができる? いや違う、負ければスザクからのキスだが勝てばルルーシュからのキス、両者は似て全く非なるものだ。恐らくルルーシュの中ではダチョウ倶楽部的な認識か下手をすればそれ未満だが、スザクにとってみれば瓢箪から駒の超特大級お年玉だ。
「何年でプレイしますか? 三十年……いや、五十年かな」 「三年決戦でいこう」
三年で片をつける。そして絶対に、ルルーシュの方からキスしてもらう。「えー、北海道大移動は起こさないんですか? そこも研究したのになあ」と可愛く不満を述べるルルーシュにクッキーを咥えさせて誤魔化し、スザクはリモコンを握る手にじっとりと汗を滲ませた。 結果として、我欲は人間を驚くほど弱くするもので、かのイカロスもただ飛ぶだけなら良かったものを太陽に届かんとしたその途端に翼を溶かしたというわけで、ものの見事にスザクは敗北を喫したのである。流石ルルーシュの「研究」は伊達ではなかったということか、いや運の部分ばかりはどうしようもない要素であって、やはり天がスザクの下心に味方をしなかったということなのだろうかしかし結局キスはできるのだから抜かったな天よ! なにせ前回の偶然から一ヶ月もせず再び巡ってきた、しかも今回は完全同意のチャンスである。酒に酔っての言動を同意とするのは人としてどうなのかという後ろめたさも小さじ程度ありつつ、もはやそんな理性を働かせてはいられないほど状況は切迫しているのだった。リモコンを静かに床へ置き、勝利に拳を掲げているルルーシュに向き直る。別にこれを機に関係を進めようだとか、ましてやそのまま押し倒してやろうだなどと思っているわけでは決してないのだ。ただ、人生に少しばかりのご褒美が欲しいだけ。ルルーシュという奇跡の存在と寝食を共にして、あまつさえその唇に触れるという極上の果実を「少しばかり」と形容するなどまさしく天をも恐れぬ所業だと自覚はしているが、それでも。
「ルルーシュ……」
好きだよ、と続けて甘く囁いたとしても、それが愛の告白だと受け取ってはもらえないこの身の切なさが、少しくらい報われてもいいじゃないか。
「あっ、そう��すね! やったあ、じゃあお願いします」
――弾む口調で目を軽く閉じ、ルルーシュが自身の頬をとんとんと指差したことで、夢から醒めたように気付いた。そうだ、何もマウストゥマウスで、と指定されてはいなかったのだ。勝利のキスを頬に、というのは最近までやっていた番組名物のビストロコーナーでもお決まりの行為だった。なるほど、それならルルーシュが、いくら酔っているとはいえ自分からねだってくるのも理解の範疇内である。浮かれきっていた自分を内心、自嘲で笑い飛ばそうと努めながら、いやでもそれにしたってご褒美はご褒美に違いない、もうルルーシュのほっぺの感触を味わいつくしちゃうもんねとルルーシュの両肩に手を置く。近づく肌のきめ細かさと、香る黒髪の甘い匂い。はやる心臓が着地点を間違えないように、慎重に近づいて、
近づいて?
唇が。
ルルーシュの唇が、ルルーシュが瞼を一瞬開いて、またすぐに閉じて、顔を。
顔の角度を、変えて、スザクの唇に。
唇が、くちびるに。 「――ふふ、びっくりしました? この前のお返しです。なーんて」
放心しているスザクに、ルルーシュは悪戯が大成功したという笑顔で言う。「……あ、すみません、嫌だったですか?」と表情が翳りかけたのを慌てて勢いよく首を横に振り、「いやいやいや違うすごいびっくりしただけ、えっだってすごいブラフ……えっ待ってどこから?」と無意味にルルーシュの半纏の紐を結び直しながら返した。ルルーシュはほっとしたように頬を緩め、そしてまたにんまりと笑ってWiiリモコンを手遊びに振る。
「最初からです、最初に言ったときから。枢木さんが勝ってもそうしようって思ってたし、俺が勝ったら先制攻撃の不意打ちで、って。俺あのとき、誕生日のとき、すごくびっくりしたんですよ。だからお返しです。目には目を」
こんなところでハンムラビ法典を聞く試しがあるとは思わなかった。などと冷静に言ってはいられない。否もう、まるで冷静ではない。「そっかーいやほんとすごいびっくりした俺も、ルルーシュすごいねほんと良い役者、あー本職、俺も本職」と早口で並べ立て、無意味に手を握っては開き開いては握り、してやったり顔のルルーシュに爽やかな笑みを見せる。
「完全に騙されちゃったな。ああごめん、俺ちょっとトイレ行ってくるね」 「はい。すみません、俺も結構もう、眠くなってきたので……歯を磨いてきますね」 「オッケー。寝る前に声掛けて」
めいめいに立ち上がり、洗面所の前で別れて、ルルーシュが立った鏡越しの視界に映らない場所まで進んだところでトイレへダッシュする。短距離走者の本気の走り方だ。音が立ち過ぎないよう気をつけつつ急いでドアを閉め、息をつき、個室の中でしゃがみこむ。ぐうう、という音とも声ともつかないものが自分の喉の奥から漏れた。
「無理……好き……あー無理、超好き……どうしよう……好きです……」
ついに独り言が敬語になってしまった。ジーンズを下げてぼろんと飛び出す、元日にしてすでに今年最高ではないかという隆起を見せつける我が陰茎。そうだ今年は射精をする度に、赤十字社へ寄付をしよう。みなさんの二〇一八年が、どうぞ良きものでありますように。
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パツクァロの嗤う骸骨と、微笑まない死の貴婦人
11月1日 メキシコ モレリア、パツクァロ、ハニツィオ
今回の旅行期間��メキシコのとりわけ盛大な祝祭である「死者の日」に重なっていたこと��単純に幸運によるもので、それに気づいたのは渡墨の直前だったと思う。事前の情報収集不足を補うため出発後にいろいろ調べていると、メキシコの中でも死者の日の風習が本格的に残る地というものが二つあり、ひとつはメキシコ南東部のオアハカと、もうひとつはグアナファトから200kmほど南に行ったところにある「Patzcuaroパツクァロ」という名の街であるという。パツクァロなら、グアナファトの次に向かえばちょうど死者の日の期間である11月1日前後に当たる、という点もさらなる幸運だった。僕は旅行計画を変更し、パツクァロの街への日帰りが可能な範囲でかつ安宿のある、モレリアという街に滞在することにした。
モレリアはミチョアカン州の州都で、どことなく斜陽の地方都市めいた停滞がそこかしこに感じられるものの、大聖堂を中心としたコロニアルな歴史的建造物の立ち並ぶセントロ(街の中心)は世界遺産にも登録されており、国内外の観光客で溢れている��くすみを帯びた煉瓦が街並みの色調を統一しており、それがカトリック圏の歴史地区としては没個性的であるとも指摘できるが、これとは対照的なグアナファトの色彩に寄生する喧騒から逃れてきた身には心落ち着くものがあり、街外れのバスターミナルから8ペソのコレクティーボ――乗合のマイクロバス。セントロへの路線番号はローハ・ウーノ(赤の1番)だ――に乗ってこの街に辿り着いた僕は不思議な開放感に包まれた。訪れる街の印象は、そこに至るコンテクストに多くを依存するものだ。
The Only Backpackersという、部屋や設備は狭いが宿の主は親切で感じのよい安宿にドミトリーのベッドをとり、食事は近所のサン・フアン市場とその周辺で済ませる。ブランチならトルタス・デ・ハモン(ハムのバゲットサンド。ライム・ジュース付きで30ペソ≒180円)やエンチラーダ(トルティーヤでチーズや肉、豆を巻き、ソースをかけた料理。26ペソ)がちょうどよい。
早めの夕食に市場前の二階にあるマリスコス屋台で。何があるの?と店の親父に訊くと、”まずこれを食べてみろ”とばかりに、トルティーヤ・チップの上に二種類のセビーチェを載せて突き出してきた。これがたいへん美味いので、続いてソパを所望する。
カニが入って旨味の強いソパ。タコや、牡蠣形の小さな貝が大量に沈んでいる。根菜類も入って家庭的だ。これで50ペソ(≒300円)だというから驚く。
宿に戻れば、客のひとりがホーム・ブルーしたというプルケを振る舞われる。テキーラの原料になる竜舌蘭の樹液からつくった無濾過微発泡の醸造酒で、ビールよりやや弱い程度の度数があった。僕は喜んでいただいたが、世界各地にあるどぶろく文化に共通の、乳酸と酢酸に由来するギリギリ感のある味わいは好悪が分かれるだろう。
モレリアが腰を落ち着ける場所にふさわしい街であることがわかったところで、そろそろ話を本筋に戻す。そもそもメキシコの死者の日とは、日本の盆にもなぞらえられる風習であり、死者の魂が生者の世界に戻ってくる期間とされる。故人を偲ぶ期間であり、祖霊信仰の一種の現れといえるが、死と明るく向き合い、死から影を取り払って華やかに祝い、ポップとさえ表現しうるほどにこの祝祭を愉しむのがメキシコ流死者の日といえる。モレリア到着早々、メインストリートでこんな人びとのパレードに行き会った。
倒錯した死のエレガンスとしての骸骨。骸骨はCaraveraカラベラと呼ばれ、還ってくる死者の表象として恐怖とは対極のポップ・イコンと化す。
頭骸骨の砂糖菓子が、街の露天に大量に並べられる。この他、骸骨の人形(小物から等身大まで)や頭蓋骨の置物、絵画、切り絵、マグネット、スマホケースといったありとあらゆる骸骨グッズがそこかしこで売られる。陽気な骸骨がこの祝祭���顔なのだ。
11月1日、バスターミナルからパツクァロへ移動。この街のセントロは、死者の日とは関係なく他のメキシコの街とは明確に異なる独特のムードを持つ。コロニアルと沖縄と中国の折衷とでもいったような建築様式の民家が続く。
花屋の露天が立ち、マリーゴールドの花が大量に売られる。祝祭のもうひとつの顔、それがマリーゴールドの花だ。紫の花はケイトウだという。
墓地はそれらの花で鮮やかに飾られる。
街の広場には、「オフレンダ」と呼ばれる祭壇が設えられる。故人の遺影があるが、街の有力者か誰かのものだろうか。花の他に供えられるのはオレンジ、スイカ、バナナ、トウモロコシ、そしてパンだ。パンは「死者のパン」という、これまた骸骨と骨を象って焼き上げたもの。あとは酒や煙草といった故人の好きだったもの等々。
パツクァロ湖という大きな湖があり、そこに浮かぶ島Janitzioハニツィオは、パツクァロ一帯でも特に古来から伝わる死者の日の風習がひときわ色濃く残される場所であるという。そこへ渡る。
ハニツィオの墓地もまたマリーゴールドを飾り付ける人びと、それを見守る観光客とで賑わっている。
教会の内部にもオフレンダが設えられていた。
ハニツィオは普段から観光客で細々と賑わう寒村であり、港から頂上のモニュメントまでの道沿いは土産屋とレストランとで埋め尽くされていて大した面白みはない。この日ばかりは観光客でごった返す表通りを逸れ、島を一周できる小径へと足を踏み入れれば、そこには地元民の平穏な生活の場が広がっている。パツクァロと同様の日に焼けたオレンジ色の瓦屋根が続き、窓には洗濯物がはためいていて、路地ではボールを蹴って遊んでいた子どもたちが、闖入者の僕をはにかみながらじっと見つめている。
彼らのオフレンダは各家のたいてい玄関を入ってすぐのところに飾り付けられていて、表からちょっと覗くと仔細に観察できる。木材を縦横斜めに組み、雛壇とともにマリーゴールドで飾り付けられたそれは、簡素かつ自由ながら、何がしかの儀礼細則に沿っているようにも見える。その傍らで、細い路地にテーブルを持ち出して、ビールを片手に大勢で食事をする家族も見られた。一見してその風景は、年に一度の祝祭に浮かれ騒ぐでもなく、かといってことさら厳粛に死と向き合う風でもなく、ごく平穏な日常の延長にあったと思う。まるでハロウィン・パーティーの延長にあるような外の世界の祝祭とは異なる死者の日の姿がそこにあるかのようだ。
そもそも死者の日という祭事の源流は何だろう。アステカ族には冥府の女神ミクトランシワトルに捧げる祝祭があり、一方で祖先の骸骨は死と再生双方のシンボルであり、身近に飾る風習があったという。ミクトランシワトルの祝祭はこちらでの収穫期にあたる8月前半に行われていたが、スペイン侵略後、カトリックの影響で諸聖人の日と融合し、「死者の日」として現在の期間に定着したと云われる。さらに云えば、アステカ期にはこれに生贄の儀礼が含まれており、取り出された心臓はアマランサスとともに煮て、それを皆で食べるものだったが、スペイン人によってその風習が止めさせられ、その代替が「死者のパン」なのだという。
フレイザー『金枝篇』を読み終えたばかりの身には、死と再生、収穫期の祝祭、そして生贄などと聞くと瞬時に”すわ神殺しか!”と反応してしまう。同書では、キリスト教以前のヨーロッパ各地に「死神の追放」と呼ばれる風習が存在し、穀物の生育を司る神を儀礼的に殺して、次なる春の到来を祈る儀礼が存在したとされるし、時代を遡ればヨーロッパにも生贄の儀式が存在したことも仄めかされている。類似した儀礼はヨーロッパだけでなく形を変えて世界各地に見られることから、メキシコの死者の日もこの神殺しとつながるのではないだろうかと考えたが、思うようにソースが見当たらない。ヨーロッパの「死神の追放」における死神が恐怖の対象としてよりも死を笑い飛ばす対象だったという点も、メキシコの死者の日と通じるニュアンスがあるし、もうすこし突っ込んで比較してみたかったのだが...。これまでの旅で何度か試みたことだが、こういう素人人類学はやってて本当に面白い(念のため付け加えるが議論の妥当性は保証しない)。まったくの余談だが、���クトランシワトルについて調べようとするとFF15とロード・オブ・ヴァーミリオンの記事しかヒットせず断念を余儀なくされる。昨今のファンタジー系ゲーム界における神格マニアック化インフレには感心を通り越してもはや疲労を覚える。
さて、段々と日が暮れてきた。死者の日の祝祭はこれからが本番で、墓地にろうそくの明かりが灯され、そこに家族が集ってパーティーをしたり、場所によってはバンドの演奏があったりするそうなのだが、バスの時間もあるし、そろそろこの島を離れなければならない。さいわい、パツクァロの墓地だったらすこし寄れるだけの時間がありそうだから、ちょっとだけ覗いてみよう...
パツクァロの墓地。昼間はあんなに人がいたのに、夜はちょっと寂しい。ろうそくこそあったがそれほど本数もない。やっぱり本場はハニツィオ島だったか。残念。そう思ってバスターミナルへ足を向けた。ちょうど市場の脇を通り過ぎる辺りだったか、ふと気がつくと前方から小さな歌声が聞こえた。それはゆっくりとこちらの方角へ近づいてきて、見るとそれはある一組の家族のようだった。歌っているのはどうやら賛美歌のようで、先頭の母親は遺影を掲げており、その足取りは、時間の都合で後を追わなかったので正確にはわからないが、墓地を目指していたと思う。さらに見れば、同じような家族の一団は他にも何組か見えて、皆同じように遺影と賛美歌を共にし、神妙な面持ちで静々と歩いている。ああ、これが、この土地の死者の日か。細々とした歌声でゆっくりと前へ進む彼らを、僕は何とも云えない気持ちで見送った。写真は撮らなかった。彼らは見世物ではないから、声をかけて許可を取ることもはばかられた。僕はこうして、旅を終えるまでのもうしばらくの間も、旅先で地元の人びとのなかに臆面もなくずけずけと割って入るような真似をし続けると思うが、その瞬間を何としても写真に収めようという意識はだいぶ弱くなってしまった(だから、というか前からだから本質的に、だが、僕のブログは文章が多い)。関連して付け加えれば、今回の旅行では実は一眼レフを持参していない。写真はすべてiPhone7による撮影である。
一方、パツクァロのセントロはそれなりに盛り上がっていた。一角では素人のど自慢大会のようなものが開かれ、その隣の会場は大オフレンダ品評会とでも云うべき壮観な眺め。ろうそくの灯だけなので、雰囲気は抜群だが写真撮影には向かない。なので文章で説明しよう。死者の日で特に人気のある骸骨のモチーフは「カトリーナ」と呼ばれる骸骨の貴婦人であるのだが、この会場のカトリーナ・コスのみなさんは全員ものすごく気位が高い設定のようで、撮影しようとすると、わざとそっぽを向いて一向にカメラ目線をくれない。明らかにわざとである。結論:カトリーナはツン属性がデフォルトだったよ! 最後までデレるフラグを立てられず撃沈。
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作者様の許可も得たので久々に筆をとってみました。 料理作成のミニイベっぽい感じのイメージで。 冷やし中華
「暑いわねぇ・・・」 「暑いですねェ・・・」
季節は夏。 本日もお日柄はよく、洗濯物どころか人間を干すつもりなのかと言いたくなるくらいに暑い。 太陽の恵みは過多のレベルまで達しており、最早地獄である。 あんまりな気温の上昇に、今日は島の探索も早々に切り上げて屋敷に戻って来た。 一向に下がる気配のない気温に、正解だったとつくづく思う。
「大丈夫ですか、お二人とも。はい、麦茶です」 「ありがとう、崇」 「助かるわぁ。んぐっ・・・っかー!染みわたるわねぇ!」
居間で冴さんと共にぐったりしていると、崇が麦茶を持ってやってきた。 よく冷えたそれは瞬く間に体に染みわたっていく。 ああ、美味しい。 それにしても冴さん、ビールじゃないんだからその一言はどうなんだ。
「今日は特に暑いですね。出かけて行かれた皆さん、大丈夫でしょうか」 「大丈夫よぉ。暑さごときでくたばる連中じゃないわよ。そうでなくとも、意外とそういうとこに気を遣う奴らよ」
毎度の事だが冴さんのこの人物評は適当なんだか正確なんだかわからない。 でも、確かにあの3人が暑さという環境を舐めて行動する、という図は思い浮かばない。 いや、海堂さんは暑さでゆだってるところも容易に想像がつくけど。
「とはいえ、流石にこの暑さには本当に参りますね。食欲も失せそうで・・・」 「こういう時はさっぱりしたモン食べたいわねぇ。・・・例えば冷やし中華とか」 「あァ、いいですねェ・・・」
俺達の食欲はこの状況にぴったりの料理を連想させる。 うん、こんなに暑いんだ。さぞ美味しくいただけるだろう。
「冷やし中華・・・」
耳慣れぬ単語なのか、崇が不思議そうな顔でつぶやく。 あ、この流れ前にもあった。 そう思って冴さんを見ると、冴さんも同じことを思ったのかこちらと目が合う。
「裕ッ!」 「はい、作りましょう!今日の夕飯は冷やし中華!決定!」 「えっ、えっ!?」
困惑する崇をよそに、頭の中で必要な材料を羅列していく。 中華麺は三日月亭に行けばあるだろう。ラーメン出してるし。 卵はある、野菜類もある。 ハムは・・・あるのかな?無ければ蒸し鶏にしよう。 紅ショウガはこの前のお好み焼きの時の残りがある。 折角この島に居るんだ、具に海鮮を入れるのもアリかもしれない。 何はともあれ、一度三日月亭に買い物へ行かねば。
「いってらっしゃい、裕。ついでに私のおつかいもよろしく」 「って冴さん、何ナチュラルに俺に買い物に行かせようとしてるんですか」
食欲はあっても手伝うつもりは無いらしい。 この暑さでは外に出たくないのもわかるが。 というか自然な流れで自分の買い物も押し付けないでください。
「このピーカン晴れの中、女性に外で肌を曝せと・・・?」
ニコニコと笑っていた冴さんの目がスッと開かれる。 暑いはずなのに、背筋にヒヤリとした感覚が走る。
「そうですねそんなことじょせいにいうなんてよくないですねいってきます」 「流石ね裕。そういう配慮ができる男はモテるわよ」
身の危険を感じた俺は即座に言葉を改める。 配慮を称賛されるが明らかに貴女に言わされた言葉なんですが。 ・・・いや、これ以上深く考えないようにしよう。 時折この人は人の思考を読んだかのようなエスパーじみたことを言ってくるし。 迂闊な思考は死を招きかねない。
「裕さん、おつかいなら僕が行ってきましょうか?」
俺の事を気遣ったのか、崇がおつかいを申し出てくる。 だからといって崇をこの炎天下の中一人でおつかいに行かせるのは気が引ける。
「あー・・・いや、そうだな。そしたら崇、俺の買い物に付き合ってくれるか?」 「はい!」
崇、本当にええ子や・・・。 後でどら焼きを買ってあげよう。 こうして俺達は冷やし中華の為、三日月亭へと向かったのであった。
「という訳で、中華麺を譲って欲しいんですが・・・」 「どういう訳かはわからんが中華麺はあるぞ。ラーメンでも作るのか?」
三日月亭に着いて店長に中華麺のことを聞くと、あっさりと返される。 そういえば島の製麺所に作ってもらったって言ってたっけ。 となると専用ラインもあるだろうしそれなりに在庫もあるだろう。
「いえ、崇に冷やし中華を食べさせてやろうと思って。麺の在庫どれくらいあります?」 「ほう、成程な。ちょっと待ってな、今確認してくる」
ウチの台所事情を考えると半端な量を用意するのは危険だ。 あの胃袋ブラックホール集団を舐めてはいけない。 1人で何玉消費するか分かったものじゃない。 折角だし千���や辰馬も呼びたいし。
「今用意できてこんなもんだな。・・・足りそうか?」
暫くして店長が裏から出てくる。 両手に抱えられたバットに乗っているのは麺、麺、そして麺。 ざっと見たところ50玉はあるだろうか。 結構な量ではあるが持って帰れない程ではない。 というか、これだけの量を持ってきて足りるかどうかの心配をしてくる店長も中々毒されている気がする。 いや、屋敷に配送している量、俺や崇が日頃三日月亭で購入していく食材の量を考えれば何もおかしくはないのだが。
「ええ、大丈夫かと。余るようならそれこそ夜食のラーメンにでもしますよ」 「らあめん?裕さん、それも内地の料理なんですか?」 「ああ。うどんとかそばに似た麺料理、って感じかな。そっちも今度作ろうな」 「はい!楽しみです!」
嬉しそうに、楽しそうに笑う崇を見て、口元が緩む。 本当に崇は可愛いなぁ。 いっぱい食べて大きくおなり。
「店長、他にも買うものがあって・・・。あ、ついでに麦茶貰えますか?」 「ほい、麦茶。買うものはリスト見せな。ふんふん・・・」
店長から麦茶を貰い、喉を潤す。 買い物メモを渡すと、店長はリストにあるものをひょいひょいと用意していく。
「しっかし冷やし中華、冷やし中華ねぇ・・・」 「ここはラーメン出してるのにやらないんですか?こう、始めました的な」 「出そうとしたことはあったんだが、具に悩んでな・・・」
クソ暑いこの季節、銭ゲバ親父が絶対売れるであろう冷やし中華を出していないのは疑問でもあったので聞いてみるがどこか渋い顔。 具に、悩む? 冷やし中華の具、ぱっと思いつくのはきゅうり、トマト、錦糸卵、ハム、カニカマ、きくらげ、紅ショウガあたりだろうか。 きゅうりやきくらげは兎も角、トマトは・・・うん、この島の特徴を考えると色合い的にアウトか。 それを考えると紅ショウガもダメか。 カニカマは・・・セーフか?アウトか?ダメだ、わからん。 卵は足がはやいからあまり使いたくないって言ってたっけ。 ハムは・・・内地から仕入れないといけないか? そもそもこの島の人、あまり肉類を好まないからなぁ。 ・・・うん、そう考えるとビックリするほど使えそうな具が無い。
「あー・・・うん、具の種類が・・・」 「だろ?だから断念したんだよ。冷やし中華始めましたって看板、出してみたかったんだがなぁ・・・」
出したかったんだ。 うーん、でもなんとかなりそうな問題でもありそうな気が。
「おい裕、もし良さげな具材の案あったら持ってこいや。それで出せそうならボーナスをくれてやろう」 「すぐ浮かぶもんでもないので、屋敷の人達にヒントでも貰いますかね。わかりました、アイデアが浮かんだら持ってきますよ」 「おう、頼むぜ。・・・よっ、と。こんなもんか。他に必要なもんはあるか?」
リストに載っていたものを全て確認し終わって会計を済ませる。 ついでにどら焼きを購入しておくのも忘れずに。
「・・・しかし、結構な量だぞ。お前ら2人で持って帰れるのか?」
目の前に築かれた買い物の山。 麺がそこそこの重量なのは勿論、冴さんのおつかいがかなりの重量を��めている。 酒瓶、結構重いしねぇ。 とはいえ、崇に重量のあるものを大量に持たせるわけにもいかない。 必然、俺が頑張らなければいけないわけで。
「あはは・・・頑張れば、なんとか?」 「すみません、僕がもっと持てれば・・・」 「気にするなって。崇のせいじゃないさ」
むしろ冴さんのせいだ。 とはいえ、ここで冴さんの文句を言ったって荷物が減るわけじゃない。 これは往復を覚悟しなければならないか。 そう思った時、店の入り口がガラリと開いた。
「こんにちはー」 「こんちゃー!」
元気よく挨拶しながら入って来たのは、辰馬と千波だった。これなら、なんとかなりそうな予感がする!
「で、冷やし中華の為の買い出しですか」 「冷やし中か?それって冷やしてる途中の料理ってことか?」
辰馬は神社のおつかいで、千波は屋敷に来る途中で辰馬に合流したらしく、2人揃って三日月亭にやってきたようだ。
「冷やし中華。何て言ったらいいのかな、麺をお皿に盛りつけて、その上に具を乗せた感じの料理、かな。ラーメンの別バージョンって感じ」 「なんでも内地の料理らしいですよ。裕さんが作ってくれる事になって」 「羅悪免の?へぇ~!なんか美味そうだな!」 「冷やし中華ッスか。夏ッスねぇ~。・・・コンビニの廃棄モノが懐かしいッス」
ニコニコ顔で語る崇に、無邪気に笑う千波。 辰馬は既に知っているのか夏を感じ取っている。 いるけど、さり気なく内地生活の闇をぶちこんでくるのはやめようか。
「2人も呼びに行く予定だったからここで会えて手間が省けたよ。夕飯、食いに来ないか?」 「いいのか!?俺も屋敷にこいつを届けに行くつもりだったしな!行く行く!」 「こいつ?」
嬉しそうに頷く千波が、水入りらしいバケツを掲げる。 中身を覗くと、ハサミを持った生物がうぞうぞと犇めいていた。
「これ、海老に・・・蟹か?」 「おう!ちいと多めに獲れたからおすそ分けって思ってな!」 「にしても結構な量だな。凄いな、千波」
おすそ分けは純粋にありがたいし、海老や蟹なら冷やし中華の具にしてもいいかもしれない。 辰馬も関心するように驚きながら千波の腕を称賛している。
「辰馬はどうだ?予定、大丈夫か?」 「ええ、喜んでお呼ばれさせてもらいますよ。後で一度神社に戻ってから向かいますよ」
辰馬もこちらの誘いを快く承諾してくれた。 と、地面に置かれた俺達のおつかいの品々をひょいと持ち上げた。
「え?一旦神社に帰るんじゃないのか?」 「持ってくの、手伝いますよ。この量、裕さん達だけじゃ大変でしょう?」
このさり気ないイケメンムーブ。 顔も良くて気遣いもできる。頭も良い。 天は二物を与えずどころか与え過ぎでは?
「それに、俺達見つけた時ちょっと期待してましたよね?」
・・・バレてた。 荷物持ち確保。うん、即座にその思考が出たのは認める。 飯食いに来るついでに手伝ってもらう気満々だった。
「ははは・・・」 「さ、行きましょうか。千波、それ持ってくれ」 「おう!行こうぜ崇!」 「はいっ!」
かくして、俺達は無事買い出し���終え、屋敷へと帰還することができたのだった。
「・・・さて、やりますか!」
屋敷に戻って来た後、買ってきたものを台所に置いて一息ついた後、俺は材料たちと向かい合う。 辰馬と千波は一旦家に戻ってから改めて来るそうだ。 屋敷の仕事に戻るという崇にどら焼きをご褒美として渡すのも忘れずに。 冴さんは夕飯前だというのに既に飲み始めている。 何かしらつまめるものを先に用意すべきか。 そう思いながら大き目の鍋に湯を沸かし、塩を一掴み。 冷やし中華の具にすることも考えて蟹と海老は茹でにする方向でいこう。 そう思いながらまずは蟹を一杯、裏返して沸騰した鍋へと投入。 立派な蟹が何杯もあるんだ、何本かの脚と胴の部分をつまみで出しても問題ないだろう。 後で海堂さんに文句を言われそうではあるが。
「冴さん、はい。多くは無いですけど茹で蟹です。お酒だけじゃ体に悪いでしょう」 「あら、ありがとう。おっ、蟹味噌もあるわね、結構結構」
処理した茹で蟹を出すと冴さんはご満悦といった表情で杯を呷る。
「あ、そう言えば蟹用フォークとか無いですね。どうしましょう」 「え?いらないわよそんなの」
そう言って持ち上げた脚を半ば程の場所でポキリと折る。 片方を横にスライドさせると、蟹の身がするりと現れる。 冴さんは何も付けずにそのままぱくりといった。
「んー!最っ高!塩気も丁度いい塩梅よ、裕!」 「え、あ・・・はい」
蟹の身をちまちまと取っていた今までの俺は何だったんだ。 至福の表情を浮かべ、別の脚を取る冴さん。 またもやパキリと脚を折る。身を出す。 今度はそれを蟹味噌につけてためらいもせずに頬張る。 なんという贅沢。
「酒が進むわねー!冷やし中華も楽しみにしてるわよ!」 「お酒、程々にしといてくださいよ・・・」
蟹フォークの存在を完全否定された衝撃が抜けない。 あのちまちまほじくる感じも嫌いじゃないんだけどなぁ・・・。 何とも言えない気分のまま、俺は台所へと戻っていった。
「裕」 「おかえりなさい、洋一さん」
台所へ戻ると、勝手口が開きスッと大きな体が入ってくる。 洋一さんはその巨体と金髪ですぐに判別ができる。
「ああ、今戻った。・・・寅吉から、預かって来た。卵が余ってしまって貰ってくれ、との事だ」
洋一さんの持つ籠にはたくさんの鶏卵。 今朝寅吉さんの牧場で烏骨鶏達が産んだ新鮮な卵だろう。
「ついでに一羽持っていってくれ、と言われたのでな。今しがた絞めて血抜きをしている」 「おお・・・。ナイスタイミングですね」 「ふむ」 「今日は冷やし中華にしようと思いまして。ハムの代わりに蒸し鶏、この卵で錦糸卵もいけますね」 「何か手伝うことはあるか?」
洋一さんは優しい。 俺だけにではないけれど、何か自分にできそうな事があればすぐに手伝いを申し出てくれる。 頼り過ぎも良くないと思ってはいるが、今日は量が量だ。 遠慮なく甘えさせてもらおう。
「元々用意してた鶏肉も含めて蒸し鶏の方をお願いできますか?俺は錦糸卵をやっちゃうので」 「ああ。その足元のバケツは、蟹と海老か?」 「はい。これも具にしちゃおうかと。そろそろ千波が来るのでコイツは千波に任せようかと」 「わかった」
蒸し鶏の準備をする洋一さんを横目に、卵をボウルに割り入れる。 卵に砂糖、塩、酒の調味料を入れ、混ぜて卵液を作る。 フライパンに油を薄くひき、よく熱する。 温まったのを確認し、卵を少量入れ、フライパン全体に均一になるように流し拡げる。 卵液の底が固まったら火から下ろし、蓋をする。 すぐさま、濡れ布巾にフライパンを当てて熱を取り、1~2分そのまま放置。 表面にも火が通り、固まっていればOK。 後は細切りにするだけだ。
「裕ー!来たぜー!母ちゃんが渋皮煮持たせてくれた!」 「おー!食後に皆で頂こうか。千波、そいつら頼む」
何枚か卵を焼いていると、千波が合流。 一瞬、沙夜さんと聞いて照道さんの顔が頭を過ぎったが今は置いておこう。 蟹、海老は千波に任せる。 洋一さんの蒸し鶏もいい感じだ。 錦糸卵の準備が終わったので、次は麺を茹でるためのお湯を用意、と。
「お邪魔します。裕さん、これ、おじいさんからッス」 「いつも悪いなぁ。おお、いつにも増して立派なトマトだ・・・。こっちのきゅうりも長くて太いな。美味そうだ」
お湯を沸かしていると辰馬も合流。 どうやらおじいさんに野菜を持たされたらしく、他にもナスやトウモロコシ、ピーマンや・・・なんだこれ、ゴーヤ? ・・・相変わらず、あそこの畑の植生は凄まじいな。
「太くて、長くて、立派・・・」 「・・・辰馬?どうした、顔赤いぞ?調子悪いのか?」 「ッ!いえ!だ、大丈夫ッス!俺は健康です!」 「うおっ!?そ、そうか。・・・そしたら、きゅうりとトマト、細切りにしてもらえるか?」 「うすっ!」
急に顔を赤くする辰馬。 体調が悪いのか心配したが、そういうわけでもないらしい。 急に大声出すからびっくりしたぞ。 辰馬には野菜の処理をお願いする。
「裕さん。冷やし中華のタレ、どうするんですか?」 「酢醤油ベースとゴマベースと両方用意するよ。片っぽだけしか用意しないと文句が出そうだしな」 「ははは・・・」
辰馬が野菜を切っている間にタレの準備もしておく。 こちらは混ぜるだけでいいから楽だ。
「戻ったぜ~!」 「っせ!耳元で叫ぶなよ・・・」
と、玄関の方から勇魚さんと海堂さんの声が聞こえてくる。 ベストタイミングで帰ってきたようだ。 調理台の上に所せましと並ぶ具の数々。 きゅうり、トマト、錦糸卵、紅ショウガ、ほぐした蒸し鶏、茹で蟹、茹で海老。 具の準備は万全。実に豪勢だ。
「じゃあ後は麺を茹でるだけだな」
麺についた粉を払い、鍋へと投入。 白く細かい泡が立ち昇り、麺が湯の中を踊る。 吹きこぼれに気を付けつつ、茹で上がった麺を流水で冷やす。 冷えた麺を皿に盛りつけ、具をのせていけば完成だ。
「と、いう訳で。今日は冷やし中華です」 「おお、いいねえ!そうめんもいいが夏には冷やし中華が欲しいよな!」 「この島でよく中華麺なんか調達できたな、お前」
嬉しそうに笑う勇魚さんに、感嘆といった表情の海堂さん。 口角を上げつつ多少ドヤ顔をしてしまうのは見逃して欲しい。
「三日月亭でラーメン出してましたからね。店長に融通してもらいました。っと、話はそんなところにしていただきましょうか」
「いただきます!」
「うめえ!裕、これうめえぞ!冷やしちゅーか!」 「気に入ってくれて何よりだよ。崇はどうだ?」 「はい!とっても美味しいです!うどんともそうめんとも違う麺ですけど、美味しいです!野菜やエビ、カニ、お肉も、かかっているタレも!」 「海老、蟹入りの冷やし中華なんて豪勢よねェ。ほら崇、次はこっちのゴマダレかけてみなさい」 「はい!」
崇も千波も初めての冷やし中華を気に入ってくれたようだ。 千波はいつもより食べるペースが速いし、崇も冴さんに勧められるまま2杯目を準備している。
「うう、お屋敷に来るとこうして美味しいものにありつけるのは本当に有難いッス・・・」 「ふむ。やはり神社は粗食を是としているのか?」 「おじいさんはそうですね。兄さんは・・・そういうワケではないんですが、その、食べられるものを用意するなら自分で何とかするしかないというか、その・・・」 「ふむ・・・。大変だな」
辰馬は若干涙ぐみながら冷やし中華を啜っている。 そこに洋一さんが興味を示したのか神社での食生活を聞いている。 ・・・うん、そうだよね。藤馬さんの作った料理は・・・うん、あれだよね。 尻すぼみになっていく辰馬の声色に何かを察したのか、洋一さんも辰馬を労って黙ってしまった。 辰馬の為にも、今後神社におすそ分けする回数増やした方がいいかもしれないな。
「ふむ。卵麺ですか。様々な具を使い、彩り豊か、栄養のバランスも取るようにしている。成程、これは素晴らしいですね」
照道さんは一人納得しながら冷やし中華を分析している。 そうだ、具の話、照道さんなら何かいい案が出ないだろうか。
「店長、三日月亭でも冷やし中華出そうとしたらしいんですけど出せる具にちょっと問題があって悩んでて・・・」 「・・・ああ、成程」
のっている具を見て色々と察したのか、照道さんも一度箸を置く。 ふむ、と顎に手を当てる仕草が実に様になっている。
「緑はきゅうり、黄色は卵。そうですね、彩を考えるなら赤や黒のもの、といったところでしょうか。裕さん、内地ではこの冷やし中華という料理の具はどんなものを使うのですか?」 「うーん、自分が知っている範囲だときゅうり、トマト、錦糸卵、ハム、カニカマ、きくらげ、紅ショウガあたりですかね」 「まぁそこらへん���ベーシックだわな。打波で言うとハムやきくらげは用意しづらいかもな」
照道さんと話していると、海堂さんが混じってくる。 普段の言動はアレだが意外と料理に精通しているらしく、この人の言を参考にして間違いはないだろう。
「そこら辺は鶏肉でもいいかなと。最悪、ツナでも。きくらげは・・・島の中探せば出てきそうな気もしますけど」 「バカ言え、野生のキノコなんざ危なくて使えるか。下手すりゃ死人が出るぞ、却下だ却下」 「ですよねぇ・・・」
ハム���見慣れないものだろうが、鶏肉は元々この島でも食べられているのか認知がある。 蒸し鶏ならば抵抗はないだろう。 きくらげに関しては、乾燥モノを内地から取り寄せるという手もあるけどコスト嵩むよな。 かといって探すのも・・・。 野生のキノコは、本当に危険すぎる有毒キノコもある。 カエンタケ、タマゴテングタケ、ドクツルタケの猛毒キノコ御三家は有名だろう。 可食のキノコによく似た有毒キノコもあって、誤食からの食中毒、最悪死亡、なんてケースもあり得る。 何よりキノコは未だに可食、不食、有毒と解明されていないものが数多い。 可食に似た新種の毒キノコが出てくる可能性だってあるのだ。 少なくともお店にそんなリスクは持ち込めない。
「海苔を散らす、というのはどうでしょうか。これならば島の者も抵抗はなく、黒も添えられる」 「そういやそうだな。海苔散らす冷やし中華もあったな」 「おお、確かに・・・」 「裕、悪いがおかわりいいか?」
そんな話をしながら、ああでもないこうでもないと話していると、勇魚さんがお皿を持ってきた。 あれ、さっきの2杯目かなり麺多めにしたんだけどもう食べきったのか。
「はい、ちょっと待っててくださいね」
勇魚さんのお皿を預かり、流しで軽く洗ってから麺と具を用意する。 まだ食べ足りなそうだったから麺はさっきと同じくらいの量で大丈夫だろう。 用意を終えて戻ると、俺達3人の話に勇魚さんも混じっていた。
「お待たせしました。はい、勇魚さん」 「おう、ありがとな。なぁ裕。冷やし中華の話、赤の彩って蟹や海老じゃダメなのか?」 「いやでもソレめっちゃコスト高い感じになりませんか?」 「そうか?この島の獲れ方考えるとそうでもねぇ気がするぜ?」 「あ・・・」
そうだ、そもそもこの島の漁業は盛んだし、季節も生息区域も何するものぞと多種多様なものが獲れまくる。 今日の海老や蟹だって元は千波からのおすそ分けだ。 むしろ確保は容易なのかもしれない。
「むしろその方が島の者は馴染みやすいかもしれませんね。赤の彩とはいえ、海皇からの恵みをいただくわけですから」 「色としてもトマトみたいに赤一色ってわけでもねえしな。いいんじゃねぇか?」
きゅうり、錦糸卵、蒸し鶏、蟹、海老、海苔。 うん、いい感じだ。 内地基準で見ると蟹と海老のせいでめっちゃ豪勢なお高い冷やし中華に見えるが。
「うん、これならいけそうですかね。皆さん、ありがとうございます!」
俺のお礼に皆軽く頷くと、食事を再開する。 照道さんお墨付きのこの案なら店長も文句はあるまい。 そんな感想を胸に抱きつつ、俺も再び麺を啜り始めるのだった。
「ごっそさん!裕、美味かったぜ!冷やしちゅーか!また食いてえ!」 「おう、お粗末様。わかったわかった、今度また作ってやるから」 「ホントか!約束だぞ!!」
食後、崇と一緒に流しで洗い物をしていると、千波が後ろから飛びついてくる。 お前もかなり食ってたと思ったけど食後によくそんな飛び跳ねられるな、お前。
「崇も、どうだった?冷やし中華」 「はい!とっても美味しかったです!その、具が沢山あって、色んな味が楽しめましたし、タレのおかげでどん��ん食べてしまって・・・」
崇は少し恥ずかしそうに笑いながら洗い物を片付ける。 うん、次はラーメンだな。 生憎、麺は完食されてしまったのですぐにとはいかないが。 だが、逆に言えばチャーシュを仕込む時間ができたとも言える。 待ってろよ、崇。 兄ちゃんが美味いラーメン食わせてやっからな。 キャラが行方不明の決意をしつつ洗い物を終わらせ、台所を後にする。 さて、三日月亭用にレシピも纏めなきゃな。 島の人に受け入れられるといいんだけど。
後日、三日月亭の看板に一枚の張り紙が増えた。
「冷やし中華、始めました」
と。
実際、島の人にも好評で飛ぶように売れたらしい。 ボーナスもきっちり頂きました。
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エンドロールにはまだ早い(柴君)
∵背中に想う
長く降った雨に打たれ、今年の桜は既に散ってしまった。新緑の生い茂る木々の足元で、ほんの薄く色づいた花びらだけが、濡れたコンクリートにいつまでも張り付いている。 送別会ラッシュがひと段落したかと思えば、すぐに歓迎会が催される。何かと理由をつけて飲みに出かけたいのは、春の穏やかな気候がそうさせるからかもしれない。全くはた迷惑な話だな、と年中金欠の俺は心の中で悪態付く。それでもこうして律義に出席する事におそらく理由はない。が、あえて言うのならばやはり春のせいなのだろう。
よく晴れた金曜日だった。その日の夜は高校時代に所属したサッカー部のOBが集まる、いわゆる同窓会の予定があった。急な休講により午前で講義を終えてしまった俺は、大学の敷地内にある図書館で時間を潰したのち、人々で溢れかえる駅の改札を抜けた。同じく飲みに来たのであろう人の波を避けながら、先のほうで信号待ちをする集団の中に見覚えのある男の頭を見つけた。頭一つ分ほどの目線の高さに燃えるような赤い髪。派手な身なりの男はどこからどう見ても大柴喜一だ。幼馴染で、犬猿の仲。高校を卒業して二度目の春を迎えた今も、その関係は変わっていない。だから一瞬、変わらない懐かしい後ろ姿に声をかけるべきか迷っていた。だが追いつく手前で歩行者信号が青に変わると、大柴は足早に去ってゆき、それ以上近づくことは叶わなかった。
まずいな、とどこかぼんやりした頭で思う。成人してもなお酒も苦みも得意ではないので、“とりあえず”のビールを残すとすぐにカルピスハイへと切り替えた。だが今思えばそれがまずかったのかもしれない。いつものように何食わぬ顔でノンアルコールにしておけばよかったのに、今日に限ってそうしなかったのは、この場の雰囲気に流されたからに違いない。早々に回ったアルコールのせいで耳や頬がひどく熱かった。 いよいよまずいなと思ったのは、場所を変え、二軒目へと向かおうというときだった。皆が笑いながらゆっくりと歩く中、ふと、先頭にいたはずの大柴が立ち止まり、靴紐を結び直すためにその場に屈み込んだ。繁華街の雑踏の中、眩いほどのネオンライトが、きちんと鍛えられた背中の筋肉を浮き彫りにさせている。あいつの体なんて初めて見たわけでもない。それなのにその後ろ姿を捉えてから、ずっと大柴から視線が外せない。 どこの駅前にもあるようなチェーン店の安居酒屋の、寂れた座敷席で皆が胡座をかくなか、大柴だけがその高い背をきちんと伸ばして座っていたり、トマトスライスをつまむ箸使いは意外にも綺麗だと思った。昔からこんな感じだっただろうか、と酔いのまわった頭で考えても仕方がないことはわかっている。だがあれから二年たった今、俺も大柴も少しだけ大人になっていても何らおかしい話ではない。 一番遠い席に座る男を眺めていると、時折視線が合ったように思うのは気にし過ぎているだけだろうか。よそった焼きそばを半分ほど皿に残し、誤魔化すようにカルピスハイを口に含む。同窓会というものに浮かれているのは、案外自分も同じかもしれない。
終電が間もなくだという理由で、二軒目の会計を済ませると会は一旦お開きになった。道のど真ん中で「よし、次行く人~っ!」と叫ぶ灰原先輩はすこぶる機嫌がよく、飲み足りないらしい上級生たちは次の店を探すためにそれぞれがスマホと向き合っていた。 「もう面倒くせぇから、歩きながら適当に入ろうぜ」 誰かがそう言うと、散り散りになっていた男たちはあてもなく夜の街をゆっくりと歩き出した。その間にもメニューを持った客引きのアルバイトが「お兄さんたち、どう?」「飲み放題980円ですよ」とひっきりなしに声をかけてくる。 「えーっと、今何人だ」 「十ぐらいじゃね?」 「君下、お前は終電大丈夫なのか?」 唐突に声をかけてきたのは臼井だった。ぼんやりと自分の足元を眺めながら歩いていた俺は、その声に熱くなった顔を上げた。セーブしていたのか、あるいは酒に強いのか、普段とあまり変わらない様子の臼井はにこやかだった。 「明日休みなんで大丈夫っす」 「そうか、それならよかった」 そうは言ったものの、正直に言えばこの後どうするかなんて何も考えてはいなかった。都内の大学に進学した俺は、今も変わらず実家に住んでいる。走ればまだ終電には間に合うだろうが、急ぎで帰る予定もなければ、そうするだけの余力も残っていなかった。 (それに……) ちらり、と斜め後ろを歩く大柴を見る。あいつもこのまま残るのだろうか。結局この日はまだ一言も口を聞いていなかった。とくに何かを期待しているわけではないが、このまま先輩たちに付き合ってだらだらと始発まで待つのも悪くない。 いつのまにか次の店が決まったらしく、店の入り口で水樹が両手を挙げて立っている。水樹は卒業後、以前より契約していた鹿島にそのまま入団した。明日の練習は大丈夫なのだろうか、とお節介なことを思っていると、店の前でふと、誰かに手首を掴まれて思わず立ち止まる。 「あ?」 勢いよく振り向くと、険しい表情をした大柴が俺の手首を掴んでいた。 「なっ……にすんだよ」 なんで、お前が。思いがけない人物に少し怯んだ俺の声は、威勢を失くしみっともなく尻すぼみになってしまった。掴まれた手首がじりじりと熱い。振り払おうと腕を振り回すが、俺よりも一回りほど大きな掌はそう簡単に放してくれず余計に力が込められて、触れられたそこが一層熱を持ったように思えた。 おかしい。今日の俺はどうかしている。嫌いなはずの男をじっと盗み見、触れられ、まるでそれを喜んでいるかのように頬や身体が熱い。先ほどから無駄に高鳴っている胸の鼓動ですらいつもと違っていた。こんなのはまるで俺じゃない。 「っ、気安く触んな」 「お前、もう帰れ」 その掌の温度とは裏腹に、冷めた声が棘のように胸に刺さる。素っ気ない物言いはいつのも大柴と同じなのに、なにかを堪えるようなその瞳は、はじめて見る表情だった。だから油断したのかもしれない。 「すんません、こいつ連れて帰ります」 俺の手首を掴んだまま、店の入り口で人数を数えていた臼井に向かい大柴がそう言った。臼井は���瞬驚いたような表情をしたが、すぐに「ああ、分かった。気をつけて帰れよ」といつもの笑みを浮かべて小さく手を振った。隣にいた水樹が俺と大柴を交互に見て、不思議そうに首を曲げていたがそれどころではなかった。お疲れ様っす、と軽く会釈をした大柴が、俺を掴んだまま駅とは反対方向へと歩き出したからだ。 「ちょ、待て! 放せバカ!」 嫌がる俺を引きずって道のど真ん中を進む大柴の表情は窺えない。が、なぜか怒っていることは雰囲気で察していた。まだ肌寒い春の夜にぴりぴりとした空気を纏い、あれから何も言わない大柴に俺は諦めて引きずられることにした。ここで揉めて運よく逃れられたとしても、ふらつく足で人の波をかき分けて、一体どこへ行くというのだろう。酔っぱらった男が引きずられているこの奇妙な光景に、街行く人々は何ら疑問に感じていないことだけが唯一の救いだった。
そこからは所々の記憶が曖昧だった。ひどく酔っていた、というよりも、あまり思い出したくないというのが本当かもしれない。 繁華街の眩いネオンがピンクや紫ばかりに変わり、怪しげなバーやホテルが立ち並ぶ。普段足を踏み入れることのないエリアにやってきたところでまさかとは思ったが、大柴の足は迷うことなく一軒のホテルへと吸い寄せられてゆく。ラブホテルにしてはシンプルな――言い換えれば味気のない――ここは大柴の行きつけなのだろうか、と思うと、なぜか胸のあたりがずきりとした。大柴はパネルの前で一度立ち止まり、何やら部屋を選んでいる様子だったがそんなことはどうでもよかった。こいつの意図がまるで読めない。今日一度も話しかけなかった男、それも犬猿の仲であるはずの俺を突然こんな場所へと連れ込んで、一体何がしたいのだろう。だが俺は不安になるどころか、むしろその先を想像してあり得ないと思いながらも秘かに期待してしまった。 壁に凭れ、うっすらと額にかいた汗を掌でぬぐうと、その腕はまたすぐに大柴の掌へと収まった。連れられたエレベーターの中で、暫くの間ぎこちない空気が流れる。俺の手首を握る大柴の手が湿っている。これは夢ではなく現実なのだと他人事のように思った。
⌘⌘⌘
翌朝、ひどい頭痛で目を覚ますと、頭の鈍い痛みよりも自分が素っ裸で眠っていたことに驚いた。起き上がろうとして腹筋に力を籠めるが、身体のあちこちに痛みが走り思うように力が入らない。 「……っ」 ひねり出した声も掠れ、張り付いた喉が渇きを訴える。おまけに昨日のコンタクトをしたままの視界はぼんやりとしていて、ここが自宅ではないことに気づくまでに随分と時間が掛かった。遠くでざあざあと水の流れる音が聞こえている。 俺は、あの後どうしたのだろう。肌触りのいいシーツに手を伸ばしながら、その感触を確かめる。ひんやりと冷たいそれはしっとりと濡れているようにも感じた。思考を巡らせすぐに思い出したのは、終電組を見送り、大柴に半ば無理やりここへと連れられたことと、あいつの怒ったような瞳の色。全身に触れた大柴の指。腰の痛み。俺の名を呼ぶ低い声。どれも朧気だが現実だという確信がある。
「起きたか?」 声のしたほうを振り向くと、真っ白なバスローブを羽織った大柴が立っていた。派手な赤い髪色も水分を含んだ今はやけに大人しく、垂れ下がった先端からぽたり、ぽたりと水滴を垂らし、バスルームへと続く絨毯を濡らしている。備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取り出すと、その一方をこちらに向かって投げてくる。 「……今何時だ」 「知らん。自分で見やがれ」 蓋を外し、ゴクゴクと喉を鳴らしてそのほとんどを飲み切った大柴は、俺のよく知る太々しい態度だった。急に自信のなくなった俺は、サイドテーブルに投げられていた自身のスマホを起動する。午前十一時半を過ぎたところだった。 「シャワー入るならさっさと入れ。ちなみに二時間延長しているから、これ以上はテメェで払えよ」 身体の痛みを堪えながら、時間内になんとかシャワーを済ませると、昨日の服をそのまま身に着けて外へ出た。高く上った太陽の光がやけに眩しい。あれだけたくさんのネオンが輝いていたこの街も、今は寂れたようにひっそりと息を殺して佇んでいる。道行くサラリーマンの視線が痛い。居心地の悪い中、どうやってこいつに別れを告げればいいのかがわからなくて、二人してぼうっと突っ立っていると突然、大柴の腹が鳴った。 「腹減ったな」 同意を求めた大柴の腹がもう一度鳴り、「ラーメンでも行くか」と勝手に歩き出す。別にこのまま別れてもよかったものの、その後ろ姿を追いかけてしまったのは、昨夜の残像が重なったせいなのかもしれない。結局これが何なのかわからないまま、俺はラーメン屋ののれんをくぐることになった。
「お前、ラーメンなんか食うんだな」 太めの麺を魚介のスープに浸しながら、カウンターの隣の席で豚骨ラーメンを啜る男の手元を盗み見ていた。昨日見た綺麗な箸使いは幻などではなく、硬めに茹でられた極細面を器用につまんでいる。 「あーまあ、大学の付き合いとかでたまに、な」 「友達いるのかよ」 「なっ、舐めんなよバカ君下! つーかお前こそ、どこで何してんだよ」 そう言われて初めて気が付いた。俺たちは幼馴染であるのに、高校を卒業して以来の互いのことを殆ど知らなかったのだ。少し呆気にとられながら、時間を埋めるようにぽつぽつと近況を話し始めると、ホテルを出たときに感じていたギスギスとした空気はいつの間にかなくなっていた。傍から見ればただの仲のいい友人のように見えるだろうか。今よりも更に若かった俺たちはいがみ合うばかりで、互いが他愛もない話を何の気づかいもなくできる相手だということをこれっぽっちも知りはしなかった。だから隣で笑う男に対し、まるで昨夜の出来事が最初からなかったかのように振舞った。 大柴は都内の私立大学に通っているらしく、今は一人暮らしだという。どうせ親の金で借りたマンションなのだろうと思ったが、それは口には出さなかった。俺も自分のことを聞かれたので、実家であるスポーツショップを手伝いながら、たまの空いた時間で家庭教師のアルバイトをしていると話した。 「じゃあここの会計はお前が払え」 「あ? 奢りって言ったじゃねぇか」 席を立ちながら、当たり前のように伝票を手渡してくる大柴を睨みつける。 「奢りだとは言ってねぇだろ」 「テメェ、嵌めやがったな」 「まあハメたと言えばそうだが」 「なっ……そっちじゃねぇだろ! このタワケが」 いきなり蒸し返された昨夜の失態に思わずお冷を吹きこぼしそうになる。袖で口元を拭い、目の前にあった腹にジャブをお見舞いしてやると、「いってぇなバカ!」と大柴が吠えた。 「チッ、せっかく人がなかったことにしてやろうと思ったのに」 結局その場は君下が支払った。ホテル代に比べれば大した額ではないが、口止め料ぐらいにはなるだろう。のれんをくぐり外へ出ると、いつの間にか太陽が真上に昇っている。相変わらず時間の感覚が曖昧だったが、家に帰って眠ればそのうち戻るだろうか。 「じゃあな」 「ああ、またな」 そう言うと、タクシーで帰るという大柴は大通りへ向かい歩いてゆく。 「またって何だよ」 小さくなってゆく後ろ姿を眺めながら、果たして次はあるのだろうかと、ふと思った。
∵好きだと言えない
見慣れない番号から連絡があったのは、あれからちょうど一週間たった金曜日の午後だった。机の上でうるさく鳴り続けるバイブレーションに負けて、電話を取ったのが運の尽きだった。 「テメェ、何回鳴らせば出やがるんだ!」 耳鳴りがしそうなほどの大声に、思わずスマホを耳から離した。それからもう一度画面を確認し、表示されている番号を速攻で着信拒否に設定した。 次に電話が鳴ったのはちょうど四限が終わった頃だった。またもや知らない番号から電話が掛かってきたが、嫌な予感しかしないそれを無視し続けた。今日はこの後家庭教師のバイトがある。着信が途切れた隙に、カレンダーに保存した住所を確認して地図アプリを開く。大学からほど遠くない場所にある一軒家で、中学生相手に中間試験対策を行う予定だった。 早歩きで校門を抜けると、目の前の通りに真っ赤なスポーツカーが停まっているのが視界に入った。半分開いた運転席から、車と同じ髪色の男がサングラスをかけて、こちらに向かい手を振っているのが窺える。 「嘘だろ」 鳴りっぱなしの電話の相手が目の前に現れたのだと悟ると、これ以上近づきたくはなかった。今からでも気づかないふりをしてどうにか逃げ切りたかったが、車の中の大柴は口をへの字に結んだまま、親指で助手席を指している――つまり、乗れということか。少し迷ったが、君下は素直に従うこと��した。ここは自分の通う大学の目の前であり、万が一あいつの機嫌を損ねて騒がれても困るのは俺のほうだ。ただでさえ目立つ真っ赤なスポーツカーは、既にこの場に不似合いだった。あのラーメン屋で迂闊にも大学名を教えたことを後悔しながら、身を屈めて助手席――後部座席のドアに手をかけると鍵が掛かっていて開かなかった。止むを得ずだ――へと乗り込むと、車はすぐに発進する。 「おい、何処行きやがる」 今日はバイトが、と言おうとして、大柴の機嫌がすこぶる悪いことを察して口を噤んだ。むしろ怒りたいのはこちらだというのに、どうして俺が気を遣わなければいけないのだろう。大柴の前だと時々自分がわからなくなる。 「なんで電話に出ねぇんだ」 やはり拗ねていやがる。アポイントなしにやって来られるぐらいなら、せめて通話に出てやればよかったと少しだけ後悔した。 「授業中だぞ」 「知るか。俺も授業中だった」 「どんな学校だよお前のところは……つーか、わざわざここまで来て何の用だ」 信号に引っかかると大柴は短く舌打ちをし、ブレーキを踏んだままこちらを振り向く。サングラス越しに目が合い、なぜかあの日の夜を思い出して急に気恥ずかしくなった。あの日の出来事は何度も忘れようと試みたが、ふとした瞬間に大柴の温もりを思い出しては惨めな気持ちになっていた。こんなこと、二度と忘れられる訳がない。 「その……なんだ、お前と飯でも行こうと思って」 「は?」 「いいだろ飯ぐらい。たまには幼馴染と話したいこともあるだろうが」 幼馴染だと? どの口がそう言っているのだろうか。眉間に皺が寄るのと同時に、不自然に心臓が高鳴っている。 「生憎だが、俺は今からバイトなんだよ……あ、次の信号を右に曲がれ」 「じゃあ終わるまで待ってる。因みに俺の奢りだ」 奢りという言葉に嫌でも眉尻がピクリと反応した。それを見たのであろう大柴は余裕のある笑みを浮かべている。やはりこの男はいちいち気に食わない。 「当たり前だろうタワケが。八時に迎えに来い」
半信半疑で仕事を終えて外へ出てみると、暗闇の中でもその車体ははっきりと窺えた。運転席のシートを倒して眠りこける大柴の姿を認め、小さくため息をついたのち窓ガラスをノックする。 そこから車を走らせること数分で焼肉屋の駐車場に辿り着いた。「今日は肉の気分だな」と笑った男に俺はまだ少しだけ警戒心を抱いている。 当たり前だが運転してきた大柴は酒を飲まなかった。俺も翌日のことを考えて酒はビール一杯に留め、たわいも無い話をして二時間ばかりで店を出た。何も言わずとも実家まで送り届けた男は欠伸を噛み殺しながら「じゃあ、またな」と言った。やはり次もあるのか、と内心で思うだけにして、家の前で車が見えなくなるまで見送った。 そんなことが週に一度、あるいは二週に一度ほどのペースで続いている。俺のスマホの着信履歴には「バカ喜一」という名で登録された番号がずっと並んでいる。発信履歴には、未だその文字が一つもない。
⌘⌘⌘
雲一つなく晴れた火曜日だった。季節はいつの間にか夏から秋へと移り変わり、この奇妙な関係が始まって半年が過ぎていた。 あれ以来大柴と酒を飲むことはあっても、ひどく酔うこともベッドを共にすることもなかった。人当たりが決して良いわけではない君下にとって、大柴と過ごす時間は己を晒け出せる数少ない機会になっていた。正反対の性格とは、裏を返せば酷く似通った思考をしているということだ。その証拠にサッカーに関して言えば、同じピッチに立った二人の呼吸はぴたりと合う。そう考えると自分たちは決して相性が悪いわけではないらしい。近過ぎた距離だけが互いを嫌悪する理由だったのかもしれない、と今更になって思うのだった。 ともあれ俺は大柴に特別な感情を抱いている。これが恋なのかはわからないが、自覚するまでに大した時間は掛からなかった。
「珍しいな、お前から誘ってくるなんて」 柔らかな午後の日差しが差すテラスでアイスコーヒーを啜っていると、待ち合わせの時間よりも少し早くやってきた大柴が隣の席に腰掛けた。初めて俺から電話をかけて、まだ三十分も経っていない。手にしていた文庫に栞を挟み、テーブルの上のスマホと重ねて置き直した。 「まあな……早かったな」 「ちょうど風呂入ったとこ���だった」 そう言われてみると、大柴の髪がまだ濡れているような気がした。少しだけ心拍数が上がるのを感じていると、「それで」と大柴が続きを促す。 「あまり奢られてばかりだと、あとで何言われるかわかんねぇからな。たまには俺が奢ってやる」 「うむ、よかろう」 今日大柴を誘ったのは、明日が十月十日――つまり大柴の誕生日だということも少なからず関係している。当日に予定を組まなかったのは我ながら女々しい考えだと思う。その日に都合よく誘いが来ると限らなければ、大柴に彼女がいるのではないかと勘ぐっている自分がいたからだ。今までそういった類の話をしなかったのは意図的なのかもしれない。一度だけ大柴に聞かれたことはあったが、「そういうお前はどうなんだ」と聞き返すだけの勇気はなかった。 思えば高校時代は部活に明け暮れていて、恋愛ごとなどに全く興味がなかった。幸いにもサッカー部は練習が忙しく、彼女がいる奴の方が少ない。自分のことで精一杯なのに、他人に気を遣い機嫌を取り、それが一体何になるのだろう。性欲処理なら自慰で済む。彼女だっていつかそのうち出来るだろう。当時は本気でそう思っていた。 だがそれが大学に進学し、サッカーを辞めた今でも変わることはなかった。放課後と休日の殆どを占めていたサッカーは、そのまま家の手伝いと細々とした家庭教師のアルバイト、そして勉強へと成り代わった。
珍しく電車で来たという大柴を連れて、待ち合わせをした駅前から続くゆるい坂道を上り、裏通りにあるスペイン料理店へと足を運ぶ。予約した時間よりも早めに着いたが、カウンターがメインの狭い店内は既に半分ほど席が埋まっていた。あたりを見渡しながら「よくこんな店選んだな」と感心したように言う大柴に、「ちょうどテレビでやってたんだよ」と教えてやる。通された一番奥の席に着いたところでウエイターがメニューを持ってやって来たので、とりあえずカヴァを二杯オーダーした。 人気店というだけあり、前菜にと頼んだスパニッシュオムレツが運ばれるころには店の前に軽く列ができていた。機嫌のよいたくさんの話し声、忙しなく鳴るグラスや食器のぶつかる音、薄暗い空間にぶら下がったあたたかな裸電球の色と陽気なギターが鳴るラテン音楽。舌を弾ける慣れない泡に気分はすっかり良くなり、塩気のきいた料理はどれも絶品だった。魚介のたっぷりと乗ったパエリアをつついている大柴も「お前にしては悪くないチョイスだ」とへらりと笑い上機嫌だった。本当に機嫌がいいらしくいつもよりもグラスを開けるペースも早く、いまは何杯目かのテンプラニーリョを舐めている。 「なあ、そろそろ付き合わねぇか」 まるで昨日の試合結果を伝えたかのような、何気ない口調だった。だから気分よく酔っていた君下は危うくその言葉を聞き流すところだった。 「そうだな……って待て、おい、今なんつった?」 「だから、付き合おうかって聞いてるんだよ」 やはり大柴は天気の話でもしているかのように言うものだから、話の内容が鈍った頭に入ってこない。言葉に詰まっていると、追い打ちをかけるようにワイングラスを持つ手を上から握られる。ああ畜生、なんてずるい奴だ。こうされてしまえば、その大きな手を振り解くことは難しい。悔しさにぐっと唇を噛みしめていると、それを見た大柴はにやりと勝ち誇った笑みを浮かべている。 「明日が俺様の誕生日だと知らなかったわけではあるまい。だからプレゼント代わりにお前をも貰ってやろうと言ってるんだ」 「っ! 畜生が」 「返事はイエス以外聞かねぇぞ」 「じゃあわざわざ聞くんじゃねぇよ」 分かっているくせに、とテーブルの横に下げてある伝票をひったくり、そそくさと席を立ちレジへと向かう。入り口付近の小さなパーテーションで会計をしていると、大柴が俺の背後を通り過ぎながら「俺の家な」と耳打ちした。 「クソ……やっぱり嵌められてんのかも」 俺は騙されているのだ。頭ではそう思っているが、素直にうれしいと思っている自分もいる。無意識ににやける口元をこれ以上誤魔化しきれそうにない。顔が妙に熱いのは、飲みすぎた赤ワインだけのせいではないような気がした。
∵切れない関係
なぜこいつなのだろう、と腰を動かしながら何度も思った。打ち付けるたびに君下の細い腰がびくり、と跳ね、だらし無く開いたままの唇がてらてらと濡れているのが視界に入る。正直に言うと、男は論外だと思っていた。突っ込まれる側なんて勿論無理だが、抱くことすら考えたことなどなかった。だが現実に今、同じ男である君下の中を貫く己の欲望は、はち切れそうなほどに張り詰めていた。 「んっ……もう、出そう……」 「ぐッ……あぁっ……」 思ったより限界は近い。一刻も早く欲を吐き出したくて、内壁を擦り上げるように性器を擦り付けた。ぢゅぷ、ちゅぷ、と音を立てるそこは何で濡れているのかも定かではない。そもそもここ小一時間ほどの記憶が曖昧だった。懐かしい顔ぶれで年に何度かの会合をしていたはずが、いつのまにか幼馴染と駅前のラブホテルの一室にいる。アルコールの影響でどろどろに溶けた思考のまま、自力で立つことすらままならない様子の君下を壁に押し付け、服もそのままに膨らませた股間を擦り付けた。俺以上に泥酔している君下の、苦しそうに息を吐く唇に吸い寄せられるように口づけ、気がついた頃にはこうなっていた。うつ伏せになった君下とシーツの間に左手を差し込むと柔らかいものに触れたが、同時に生温かい滑りを感じて君下がいつのまにか一度達したことを察した。別に否定したいわけではない。だがこれは、明らかに男同士のセックスだった。
正直に言って、あまり居心地のいい視線ではなかった。理由はわからないが、俺は君下に睨まれている。長年の付き合いで君下が俺を好ましく思っていないことは知っている。だがこうも判りやすい嫌悪を示されたことはなく、大抵は俺の存在自体を無視されることが多かった。だから睨まれていることに気づくと、必然的にその視線の意味を知りたくなった。 カルピスらしきものを飲む君下を盗み見る。長い前髪が邪魔をしてうまく表情は読み取れないが、一番遠いこの席から見てもわかるほどに、顔全体が赤く染まっていた。酒は弱いのだろうか。それとも顔に現れるタイプなのか。ともかくジョッキを握りしめたまま、誰と話すわけでもなくちびちびとそれを口に含み続けている。君下の隣に座る鈴木とたまに目が合うが、俺が君下を見ていたことは恐らく気づかれていないだろう。 結局何一つ答えを得ることができないまま、会はお開きになり、大げさに手を振りながら終電組が帰って行った。俺の住むマンションはここからそう遠くない。酔いも心地よい程度に留まっている。どうせタクシーで帰るのだ。今すぐ帰る理由も見当たらず、かといってこれ以上残る目的もない。帰りたくなれば適当に抜ければいいか、などと思いながら、なんとなく人の流れに乗って歩いていると、前を歩く臼井が君下に何かを話しかけている。 「明日休みなんで大丈夫っす」 大丈夫ではないことは、その不確かな足取りを見ればわかる。臼井もおそらく分かっているだろうが、本人の意思を尊重したのか、「それならよかった」と笑いかけるだけだった。いや、良くねぇだろう。そう思うと、俺の体は勝手に動いていた。
初めて身体を重ねた日から、ずっと君下のことが頭を離れなかった。かわいそうだと思ったわけではない。だがあの時、酔った君下を放っておけないと思ったのは紛れもない事実だった。本能に突き動かされるまま、適当に連れ込んだホテルで衝動的に身体を繋げた。俺も大概酔っていたのだろうが、壁に押し付けた君下を前に、俺の下半身はしっかりと反応を示していた。それでも誰でも良いわけではないことは、プライドの高い俺自身が一番よく判っている。俺はあの時たしかに、幼馴染である君下敦という男に欲情していたのだ。 ⌘⌘⌘
君下が会計を済ませている間にタクシーを拾うと、行き先を告げて後部座席へと乗り込んだ。待ちわびた瞬間だった。まさか自分の誕生日の前日に食事に誘われるとは夢にも思わなかった。遅れてやっきた君下が隣へ乗り込むと、自動的に扉が閉まり、ゆっくりと車は夜の東京を滑り出す。緩やかな車の揺れに合わせて時折触れた肩だけが、これが夢ではなく現実なのだと俺に訴えかけていた。 そうして俺たちは晴れて恋人同士になったわけだが、思っていたよりも上手くいっていたと思う。付き合うとはいっても、俺は所属している大学のサッカー部の練習、君下はバイトと実家の手伝いで忙しい。会う頻度は付き合いはじめる以前と大して変わらなければ、行き先だっていつもの居酒屋か、俺の気に入っているバーだったり、そんなもんだった。デートらしいものをしたこともないが、あれほど仲の悪かった俺たちにしては大きな喧嘩もなかった。友情の延長線のような関係は気楽で、それでいてやることはやっているので性欲は満たされるが、その一方で何かが足りないような気もしていた。
互いに予定のない金曜の晩は、外で待ち合わせて軽く食事をしたのち、俺のマンションへと一緒に帰る。手間だからと一緒にシャワーを浴び、そのまま互いの性器を擦り合わせて軽く抜いた。風呂でやるとのぼせるから嫌だ、という君下の意見を酌み、濡れたままベッドルームまで運んでやると溺れるように身体を重ねた。本来ならばモノを受け入れる場所ではないそこは、初めて抱いた頃と比べると、随分と慣れた様子だった。恐らく君下には他にも男がいたのだろう。本人に直接聞いたわけではないので確信はなかったが、そう思うと胸のあたりがもやもやとした。これがいわゆる嫉妬だということに気づいてしまえば、どうしたってあの男を自分だけのものにしたいと思うのは人間の本能だ。存在すらわからない相手に嫉妬し、根拠のない怒りをぶちまけるかのように、ぐったりとした細身の身体を力任せに何度も突き上げた。
二度目のシャワーを浴び終えベッドへと戻ると、気を失っていたはずの君下が起きていた。俺の枕を抱えて力なく横たわっている。自分の放った精液にまみれていた白い腹も、いつの間にかきれいになっていた。 「一緒に住まねぇか」 ベッドの空いているスペースに腰かけながら、ずっと思っていたことを口にした。寝ぼけ眼だった君下の瞳が少し見開かれる。 「というかここに住め。特別に家賃は要らねぇし、家の世話をするなら今雇っている家政婦と同じ額を出してやる」 実家の手伝い以外にもバイトをしているということは、この男は相変わらず金に困っているのだろう。男二人暮らしの生活費を稼ぐために掛け持ちをしているというのに、さらに俺と会うためにバイトを増やされれば会う時間も今以上に限られてくる。そんなのは堪ったものではないだろう。 「えっこの家……家政婦なんていたのか」 「当たり前だろう。俺が家事をやると思ったか」 「まあ、確かに想像できねぇな」 「だろう。それに慌てて帰る必要もなくなる」 俺がただこいつをそばに置いておきたかっただけだ。これは俺のわがままなのだと、そんなことは分かっている。だがそれを素直に口にしたところで、この男が素直に従うという期待はしていなかった。一緒にいるための理由を必要としたのは、曖昧なこの関係を、何かで縛っておきたかったからなのかもしれない。そのぐらい俺たちの関係は、ひどく壊れやすいもののような気がしていた。
それからすぐに君下は、両手に荷物を提げて俺の住むマンションへとやってきた。古い旅行鞄はいつかの修学旅行で見たような気がする。くたびれたそれに入っていた殆どは大学で使うらしい参考書や難しい本だった。最小限の服も私物も、あっという間に俺の部屋の一部となった。 家事はある程度できるという君下に「とりあえず腹減ったから何か作れ」とリクエストをすると、「じゃあまずは買い出しに付き合え」と交換条件を言い渡された。ここの家賃は勿論、食費などの生活費もすべて俺が――正確には俺の親父が――支払うとの約束だった。 「冷蔵庫は酒か水しかねぇし、お前ちゃんと食ってるのかよ」 呆れた様子でほとんど使われていないシステムキッチンを確認した君下は、「うわ、鍋もフライパンもねぇな」と頭を抱えている。俺は食事の大抵を外食か、もしくは週に二度やってくる家政婦が作ってきたもので済ませていた。広いキッチンにはコンロのほかにオーブン機能付き電子レンジも備わっていたが、自分で使うのはドリップ式のコーヒーメーカーぐらいものだろう。 そのほかにもあれやこれやと君下が買い物リストを作り、行き先も近所のスーパーから少し離れたショッピングモールへと変更になった。広々とした店内で大きなカートを押して歩きながら、いかにもカップルらしいなとどこか他人事のように思った。 「もっと良いもの買えよ、どうせ俺の金だ」 俺がそう言ったのも何回目だろうか。貧乏性とは知ってはいたが、まさかここまでだとはさすがに思わなかった。どうでもいいものはいつまでも悩むくせに、よく使うような必需品は百円ショップなどで済ませようとする��現にいま君下が選んでいる包丁も、まるで子供のままごとに使うもののように安っぽい代物だった。 「これちゃんと切れんのか?」 「喜一、お前はわかってねぇな」 「あ? なんだと」 プラスチックの箱に入ったそれを籠へと放りながら、君下は得意げな顔で俺を見る。いつになく楽しそうな男は、「切れねぇ包丁で料理するのが主婦ってもんだろ」と訳の分からないことを言い、見下したように笑っていた。俺はその言葉の意味がいまいちわからなかったし、それを理解する日は一生来ないだろうと思った。切れない包丁を買ったその日、君下は案の定涙を流しながら玉ねぎを切っていた。頭がいい癖に意外とバカだというところも愛おしい。玉ねぎ入りの焼きそばを食べながら、いつのまにか心底こいつに惚れていることに気づかされた。 だが、そんな日々は半年も続かなかった。いつかこうなると分かっていたのに、どうして止められなかったのだろう。君下が毎日刻んでいた玉ねぎの香りは、もう思い出すことができない。
∵花が散る
いつのまにか桜が蕾をつけている。 君下と最初に寝たのも確か去年の春だったな、と教室から見える中庭の木々を眺めていると、ふいにポケットの中身が震えた。先月買い替えたばかりのスマートフォンを取り出すと、君下から「今日は実家に泊まる」と短いラインが入っていた。ロックを解除して「了解」とだけ返事をしながら、そういえば今日は練習がなかったのだと思い出す。まっすぐに帰宅してもどうせ夕食は外で摂ることになるだろう。
「あ、大柴くん。今日って結局来れるんだっけ」 退屈だった講義が終わり、荷物を纏めていると斜め後ろの席から声をかけられた。聞き覚えのある声に振り向くと、ミルクティーブラウンの長い髪をひとつにまとめた女がこちらを覗き込んでいる。確か同じサークルのミキだかそんなありきたりな名前だったはずだが、女の名前にいまいち自信はなかった。 「あー、たぶん行けるけど」 「よかった! 大柴くん最近来ないことが多かったから、ちょっと寂しかったってミキが言ってたよ」 「ああ……」 ミキはもう一人の連れのほうだったか……なんて失礼なことを思いながら、集合場所を聞いて一度その場で別れた。どのみち今夜は一人で食事をする予定だったので、それに人数と酒が少し加わる程度だ。思い返すと君下と一緒に暮らし始めてからは、籍だけ置いていたサークルにはほとんど顔を見せなくなっていたので、たまにはこういう日も悪くないのかもしれない。そう軽く見ていた俺が甘かったのだ。 時間を気にせずに酒を飲んだのは久しぶりで、情けないことに早い時間に潰れてしまった俺は、目を覚ますと見知らぬ天井が視界に入り大いに戸惑った。泥の中にいるように重たい身体と、どくどくと脈打つような頭の痛みにしばらく起き上がることも適わない。肌に当たる感覚から今俺はベッドの上にいて、そう広くはない部屋のどこかからはすうすうと規則正しい寝息が聞こえている。それも一つではなく、この空間に複数人いることはなんとなく察した。 これはものすごくまずい状況ではないか。ベッドに横たえたまま顔を動かすと、顔のすぐ隣に女の真っ白な太腿がある。花柄のスカートはめくれ上がり、布の隙間から薄桃色の下着が覗いていた。頭の痛みどころではないこの状況に飛びあがるようにベッドから降り、部屋を見渡すと、サキもミキもアサミもマリも服を乱し、誰だかわからない女と男がそこら中に横たわり眠りこけている。 「なんじゃこりゃ」 覚えのない光景に呆然としていると、ずるり、と前の開いたスラックスが落ちかけたので慌てて引き上げる。通していたはずのベルトは見当たらず、背中を嫌な汗が伝う。嘘だろう。まさか俺は―― 慌ててチャックを引き上げると、布の上から財布もスマホもポケットに入っていることを確認して大慌てで部屋を出た。失くしたベルトなど今はどうでもいい。とにかくこの悪夢のような場所から一刻も早く立ち去りたくて、安っぽいホテルの廊下を一目散に駆け抜けた。
その日は幸いにも土曜日で大学に行く必要はなかった。だが夕方には練習があるので、面倒だが一度車を取りに戻ることにした。時刻はちょうど朝の八時を過ぎ、駅前には休日出勤のサラリーマンがちらほらと窺える。コンビニに寄り、水と頭痛薬を購入して飲み込むと、ホテルを出たころよりも幾分か冷静さを取り戻したような気がした。 一日ぶりの愛車を運転しながら、昨夜のことは考えないようにしていたがどうしても罪悪感がぬぐい切れない。何が起こったのか一切記憶はないが、所謂ラブホテルのような場所で目が覚めてしまえば、どんな馬鹿でも大方の予想はつく。ずっと大柴の隣に座っていたミキ――サキだったかもしれない――が、始終俺にべったりくっついていたことは覚えている。俺にその気がなくたって、何もなかったとはとてもじゃないが思えない。 ふらふらになりながら帰宅すると、玄関にはないはずの靴がきちんと脱ぎ揃えられていて、またもや嫌な汗が額に浮かぶ。まさかもう帰ってきたのか? あれからまっすぐに帰ったので、時刻はまだ九時にもなっていない。思わず独り言が零れたのと、寝室の扉が開くのはほぼ同時だった。 「よお……俺が居ねぇからって夜遊びか?」 靴を脱ぐために腰かけた俺の背中に、低い君下の声が刺さる。長い付き合いの中で君下の怒った声は何度も聞いているが、これは俺の知っている声とはだいぶ違っていた。ぞくり、と鳥肌が立ちそうなほどに冷たく、突き放すような声だった。振り向かなくとも君下が本気で怒っているのだと気づいた俺は、弁解したい気持ちを抑え、「急な集まりで飲みすぎて終電逃しちまった」とだけ報告した。暫くの沈黙が流れる。居心地の悪さを誤魔化すように、脱いだ靴をきちんと並べなおしていると、君下は「さっさと風呂入ってこい」と吐き捨てるように言うとリビングへと去って行った。 熱いシャワーを浴びながら、今回の件をどうやって切り抜けようかと考えていたが、リビングでコーヒーを飲んでいた君下に「女と寝ただろ」と先手を打たれてしまった。 「くせぇんだよ。如何にも頭からっぽです、みたいな品のない香水を振りまいてんじゃねぇよ」 自分では気づかなかったが、帰宅した当初から俺が纏っていた匂いがいつものそれではないと気づいていたようだった。君下の勘がいいのは昔からだが、ずばりと言い当てられて余計に居心地が悪くなる。 「お、俺は悪くねぇからな。何も覚えていないし、確かに同じ部屋に居はしたが、それだけで浮気とは限らねぇだろ!」 「誰が浮気って言ったんだ馬鹿が!」 「なっ……! テメェがカマかけるようなこと言ったじゃねぇか! それに浮気って、お前こそ他に男がいるんじゃねぇのかよ」 「あ? んだよそれ、自分のことは棚に上げて、よくそんなことが言えるな!」 「おい誤魔化すなよ!」 言い訳を重ねるうちに、つい熱くなってずっと気になっていたことを口にしてしまった。「本当は俺以外にも、男が居るんじゃねぇの?」そう言うと君下は、ひどく傷ついたような顔をした気がした。バン、と大きな音を立てて、君下の変な柄のマグカップがテーブルに叩きつけられる。その音にびくり、と肩を揺らしたが、次の瞬間、君下の眉が寄せられ、その切れ長の目に涙が浮かんでぎょっとした。見たこともないぐらいぐしゃぐしゃに顔を歪め、短い嗚咽を漏らしながら泣き始めた君下に、俺の怒りはあっという間にどこかへ消えてしまっていた。両手で顔を覆う君下を抱き寄せ、震える背を力強く抱きしめる。 「ごめん、ほんとに覚えてなくて……悪かった」 「うっ……ぐ、っ」 「もう二度としねぇよ。絶対に」 どうしてこんな大事な存在を傷つけることができるだろうか。こんなにも愛おしい奴を、俺はこいつ以外に知らないというのに。 顔を覆っていた手を引きはがし、赤く腫れた目尻に口づけを落とす。ちゅ、ちゅ、と何度も優しく触れたそこは、海のようなしょっぱい味がした。君下が泣き止むころには、いつの間にか頭痛はしなくなっていた。
それから一週間後、君下はこの家を出て行った。元々少なかった荷物はきれいになくなり、リビングのテーブルの上に「ごめん」とだけ書かれた付箋と、合鍵だけが残されていた。一度実家を訪ねてみたが、記憶の中より少し痩せた親父が出てきただけで、「あいつは秋からずっと友達の家にいるぞ」という情報しか手に入らなかった。大学の前で待ち伏せをしたことも何度かあったが、いつかのときのように、偶然に君下と遭遇できた試しは一度もない。 四月に入り、毎年恒例のOB会にも行ってみたが、案の定君下の姿はなかった。今年の幹事である鈴木に聞いてみたが、欠席の返信を貰って以降、さっぱり連絡が取れないらしい。「お前、なにかしたんだろ」臼井に似て勘のいい鈴木にそう問い詰められたが、俺たちの関係を知らないこいつらに何と説明すればいいのかすら浮かばず、「何もねぇよ」と言うことが精いっぱいだった。その年も桜はいつの間にか散ってしまっていた。いつか花見をしようと約束したが、叶うことはもうないだろう。
∵なすすべもない
「で? いつまでここに居るんだよ。あ、俺もウノだ」 手札から一枚を切り捨てた鈴木が、思い出したかのようにそう言った。 「分かんねぇ……あいつが諦めるまで? おい佐藤、はやくしろ」 「あ~~どうしよう、ちょっと待って。ちょっと考えてるから」 「何でもいいから出せよ栄樹、どうせその手札の量だと負けるぞ」 「うるせぇ! 今からでも十分ひっくり返せるぞ、っと、ワイルド」 「色は?」 「青」 「ん、あがりだ」 「サンキュー君下、俺もあがり」 「だあああああ!! 何なんだよお前らは!」 つうかもう帰してくれ! やけを起こしカードを巻き散らした佐藤が吠える。そうは言うがいつの間にかすっかり夜も更け、もう終電は走っていないだろう。
俺が大柴のマンションを出て向かったのは鈴木の家だった。一度遊びに行ったことのあるそこはこぢんまりとした学生向けのアパートで、広さはないがベッドのほかにどうにか寝れそうなサイズのソファーが置いてある。急に訪ねてきた俺に対し、鈴木は特に理由を求めることもせずに「ソファーなら貸してやる」と言ってあっさりと受け入れた。鈴木の住むアパートから大学までは少し距離があったが、大学を挟み大柴のマンションとは反対方面なので正面玄関を通らずに済む。 喜一のいない俺の日常は案外普通に戻ってきた。喜一に貰った金は貯めてあった上に、減らしていた家庭教師のアルバイトも再開すれば生活費には困らない。迷惑料として家賃の半分を鈴木に手渡すと「そんなの要らねぇから、ちゃんと理由だけ教えろ」と返されてしまったが。 「もう半年か? あいつ、びっくりするぐらいしょげてたぜ」 「ふん、野郎がそんなことで落ち込むたまかよ」 「でもあれはさすがに可哀そうだった。俺なんか危うく鈴木の家にいるって言いそうになったからなぁ」 「ハイハイお友達だな、泣けるぜ」 今年の春のOB会は幸運にも鈴木が幹事だった。うまく言い訳をしてくれたらしく、君下の不参加を誰も不思議に思わなかったのだろう。ただ一人を除いては。 「まああいつモテるからなぁ。ほら、顔だけはいいだろ」 「顔だけ、な」 「付き合ってたお前がそれを言ってやるなよ」 ぐしゃり、と握り潰したチューハイ缶をゴミ袋に投げ入れると、あくびをしながら佐藤は「もう寝るわ」と言って、寝床にしている床へと転がった。ローテーブルには食べかけのつまみや総菜などが残っていたが、十月じゃあもう腐る時期じゃねぇな、と理由をつけてそのままソファーへと寝転がった。 「栄太、でんき~」 「ったくお前らは……」 頭上でパチン、と音がして視界を暗闇が覆った。闇夜に浮かぶ残光性のまるい輪を見つめながら、まだ眠れそうにないなとぼんやりと思う。
覚悟はしていたつもりだった。だがその覚悟があっても、それを受け止めるだけの心が俺にはなかったのだ。要するに子供だったのだ。俺も喜一も。青春時代のすべてをサッカーに捧げ、とても恋愛どころではなかった俺たちの心はまだ思春期にも満たないのだろう。 大柴が女受けするというのは紛れもない事実だ。背が高く顔も良くてサッカーもできる、おまけに両親は医者で運転手付きの大豪邸に住んでいる。だが壊滅的にバカなので彼女ができない。俺にとってはどれも随分昔から知っていることだった。それでも彼氏ではない関係を求める女も一定数はいるはずだった。その可能性を甘く見ていた俺にも非があると思っている。男同士だなんてうまくいくわけがない。そう思ってしまうのは、俺もあいつも元々そういう趣味ではなかったというところにある。やっぱり女のほうがいい。そう言われてしまえば最後、俺にはもう成す術がない。そのことが一番恐ろしいと、あの日知ってしまったのだ。 実家に泊まると連絡したが、いざ自分のうすっぺらな布団で寝てみると急に寂しさがこみ上げてきた。馴染みのあるはずの布団が急に赤の他人のもののよう���思えたのだ。隣に感じない大柴の温もりを恋しく思い、あまり深く眠れないまま早朝に目を覚ますと、簡単な朝食とメモを残して実家を後にした。春の明け方はまだ肌寒い。それでも今頃家で寝ているであろう大柴の寝顔を思えば、寒さなど微塵も感じることはなかった。鍵を差し込み、起こさぬようにそっとドアを開けるといつもの靴が見当たらない。少しの違和感を覚えたが、寝室のドアを開けて余計に胸がざわついた。もしかしたら、もしかして――
「おい、それ、どうにかなんねぇのかよ」 うんざりしたような鈴木の声に、まどろんでいた君下ははっとした。息をしようとしてずっ、と鼻を啜り、そこでようやく自分が泣いていることに気づいた。 「悪い、へんな夢見てた」 「毎日か?」 「……」 毎日とは、と聞き返さなくても意味が分かった。おそらく俺は無意識のうちに、毎晩こうして悪い想像をしながら泣いていたのだろう。 「いい加減にちゃんと話し合えよ。案外あいつも同じ気持ちかもしれないだろ」 鈴木の言葉は全くの正論だった。俺は佐藤に差し出されたティッシュボックスから一枚を引き抜くと、思い切り鼻をかんでゴミ箱に向かって投げた。 「すまねぇな」 「そう思うならさっさと服着ろ。そんで荷物持って外に出ることだな」 徐に立ち上がり、部屋の明かりをつけた鈴木を目を細めながら見上げる。素っ気ない口調から怒っているのだと思っていたが、意外にもその口元は笑っていた。ぽかんとした表情で見上げていると、アパートの外から短いクラクションの音が鳴る。「お、早かったな」と呟いた佐藤はスマホで何かを打ち込んでいる。 「おい、まさか」 「迎えがきたぞ。さっさと帰るんだな」
∵エンドロールにはまだ早い
低いエンジン音が振動となって両脚を伝う。途中で買ったトールサイズのラテを飲みながら、落ち着かない気持ちをどうにか抑えようと試みていた。 佐藤から連絡があったのは先週の木曜日の午後だ。休講になった四限を車で寝て過ごし、練習へと向かおうとした時だった。寝ぼけ眼で電話を取り、「ふぁい」とあくび交じりに返事をすると、「お前、今日鈴木の家に来れるか」といきなり要件を伝えてきた。 「君下がいる。練習が終わったら来いよ」 君下が出て行って、既に半年が経っていた。
俺が悪いのだと分かっている。だが別れも告げずに急に消えた君下に対し、俺だって怒りがないのかと聞かれれば答えはノーだ。知り合いをつたって探し回ったが、一向に足取りがつかめない。これは誰かが嘘をついている可能性もあると思ったが、そうまでされるとあいつを連れ戻そうという気にはこれ以上なれなかった。 君下にはやはり男が居たのだろうか。あの時はつい頭に血が上り、かっとなってそんなことを口にしたが、思い返してみるとあいつがそれに明確な答えをしたかどうかは分からない。もしかしたら俺がほかの女に手を出したことをきっかけに、ただ俺と別れる理由を作りたかっただけなのかもしれない。いや、でも――。考えれば考えるほどに悪いイメージは浮かんでは消え、忘れようにも忘れられない。まさに悪循環だった。 君下がいない間、あのサークルの集まりには何度か顔を出した。寂しさを埋めたいだけなのか、あるいは自分を試したかったからなのか。黙っていれば女には困らない容姿をしている自覚はある。見てくれだけを狙っている馬鹿な女は案外あっさりと釣れた。 だが何度女の裸を前にしても、どうしても抱く気にはなれなかった。華奢な美女からむっちりとしたギャルまで様々を試してみたが、ただ目の前のそいつが君下ではないという現実を突き付けられるだけで、そのたびに無駄に張り手――もれなくインポという不名誉な称号付き――を食らう羽目に遭ってしまった。それはプライドの高い俺の心を傷つけるだけでなく、本気で不能になってしまう予感さえしていた。君下のいない今、唯一の友人である佐藤に泣きつくと、「俺も何かわかったら連絡するから」と毎度困った顔で慰められた。 そして佐藤はその約束を守ったらしい。
鈴木の住まいは何の変哲もない、いたって普通のアパートだった。住所を教えられたが今が夜だということもあり、この何の特徴もない建物を見つけるのに随分と時間が掛かってしまった。パッ、と短くクラクションを鳴らすと、佐藤から「今行く」とラインが入り、程なくして二階の角部屋から男が一人出てきたことが窺える。遠目で見てもわかる、長い黒髪の男は紛れもなく君下だった。 逃げられるかと思ったが、君下はまっすぐに俺の車へと歩いてくると、何も言わずに助手席へと腰かけた。大きな荷物は膝の上に抱えたまま、その眼はじっと前方を見据えている。 「帰るぞ、君下」 返事はないが、君下は大きなカバンの上からシートベルトを締めたのでそれを了解と取ることにした。まるで家出した息子を引き取りに来た親父のような気分だな、と呑気なことを思いながら、俺はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
深夜の道路は思ったよりも空いていて、互いに一言もしゃべらないままあっという間に自宅マンションへと辿り着いてしまった。地下駐車場に車を停め、エレベーターで六階へ昇る。隣の住人はまだ起きているらしく、玄関の外にまで深夜のバラエティ番組の声が聞こえていた。 靴を脱ごうと背を屈めると、急に背中に重みを感じてバランスを崩した。 「おわっ?!」 どすん、と派手な音を立てて俺は膝から転げ落ちた。すぐに受け身を取った上にマットレスのお陰で痛みはないが、急にのしかかってきた君下に「何だよ、危ねぇだろうが」と文句を言おうとした俺の唇に、あたたかなものが触れた。 「?!」 突然に口づけられ、無防備だった唇の隙間から舌が侵入してくる。歯列をなぞり、その奥で縮こまっていた俺の舌を探り当てるように、君下の舌がじゅ、ぢゅっ、と厭らしく音を立てながら吸い上げる。 「あっ、まへ……」 久しぶりの感覚に腰がじん、と痺れ、貪りあうような口づけの合間に吐息が漏れた。すべてを吸いつくすかのような、君下の積極的な舌遣いに柄にもなく翻弄されっぱなしだった。いつの間にか俺の両手は君下の腰を抱き、シャツの裾からやわらかな肌を探り当てようと伸びてゆく。 「はぁ……っ喜一、っ」 ここはまだ玄関先で、足元には靴を履いたまま君下はゆらゆらと腰を動かしている。俺の顔を両手で挟み、しっかりとその存在を確かめるように深く口付ける。忙しない接吻に口の端から唾液がこぼれるが、それすらも吸い尽くすように君下の赤い舌が俺の顎を這う。 「おい、どうした……らしく、ねぇじゃねぇか」 ようやく解放された唇は酸素を取り込み、久しぶりに深く呼吸をしたような気がした。上気しぼうっとした様子で膝立ちになる君下を抱き寄せる。柔らかな黒髪の隙間に指を差し込み、首筋に鼻先を埋めると久しぶりの君下の匂いがした。 「どこにも行くなよ」 ようやく捻り出した声はどこか頼りのない声だった。君下に会ったら、言ってやりたいことはたくさんあった。この半年間、どんな思いで俺がお前のいない家に住んでいたのか。必死に探して、誤解を解いて謝ろうとして、それでも見つからないお前のために、何度眠れない夜を過ごしたのだろう。言いたいことは山ほどあったはずなのに、いざ本人を目の前にしてしまうとそのどれもが無意味だった。伝えたいことはただ一つ。どんな形であれ俺のそばに居てほしい。たったそれだけだったのだ。 「去年の今日……お前が俺にくれたものを覚えているか」 きつく抱き寄せたまま、君下は何も言わない。俺の真横にある顔が、どんな表情をしているのかすら分からなかった。 「あの時のプレゼントを返せと言われても困るのだが」 「……クセェ奴だな」 「るせぇな、じゃあ言わせるなよ」 俺の肩で君下が震えている。泣いているのかと思ってぎょっとしたが、引き剥がしてみると目に涙を浮かべ、必死に笑いを堪えていた。 「テメェ、笑うか泣くかどっちかにしろよ」 「クク……っ。わ、笑ってんだろうがッ……ブフッ」 「あー信じらんねぇな、畜生。俺は誕生日だっていうのに」 もうとっくに日付は変わっている。十月十日――今日は俺の誕生日だ。まさかこうなることを狙ってわざと君下は戻ってきたのだろうか。そう思えなくもないし、それだけのことをやるほどこいつの性格が悪いことを俺はよく知っている。 「なあ、誕生日プレゼント、何が欲しい?」 半泣きの君下が俺に聞いた。 「あ? お前を貰うってさっき言ったじゃねぇかよ」 「それは去年やっただろ? 今年は何がいいかって聞いてやってんだよ」 確かに一度もらったものを返してもらっただけである。これで今年もお前を貰うと言えば、またこいつは居なく��り、来年の誕生日に戻ってくるかもしれない。我ながらそれを思いついたことにぞっとしたが、君下以外に欲しいものなんて今すぐには思いつかなかった。 「あ、そうだ。新しい包丁買ってくれよ」 「なんだそりゃ」 「ちゃんと切れるやつにしろよ。それでお前が俺に焼きそばを作ってくれ。春になったら一緒に桜を見に行こう。どうだ? これでいいだろう」 返事を聞く前にその唇を塞いでやる。どうか気が早いだなんて思わないでくれ。先のことは何一つわからないが、今はこのまま君下と繋がっていたかった。俺たちの物語は、エンドロールにはまだ早いのだ。
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十九軒目 暖母(ダンボ)
16時赤羽集合。先に着いた様子の星宮から写真が1枚送られてくる。写真には一度見たら忘れられないであろう文字列「赤羽馬鹿祭り」メールに本文はなく、この写真だけだが紫吹と霧矢はすぐに気づく。祭り、快晴、祝日。きっとビールが売られているのだろう。電車の速度を上げることはできないが、猛ダッシュで赤羽へ向かう。 数分後、星宮のもとへ霧矢と紫吹から同時に返信。いまいく!漢字に変換するひまも無かったのだろう、ふたりが急ぐ様子を想像して、星宮はニコニコ笑っている。 16時。紫吹、霧矢、着。「いちご、待たせたな!」「今日暑いね〜」「だね〜」とニヤケ面の3人。考えてることはひとつだけ。 「らん、あおい!こっちこっち!」 赤羽馬鹿祭り、ステージの上ではフラダンスが繰り広げられ、それに合わせて揺れるひとの群れ。みんな笑い、片手にはASAHIの文字の入った紙コップ。 星宮に導かれるままに3人、ひとの間を縫って進んだその先に待ってましたとビールのテント。生ビール冷えてますの文字が3人を待ち構えていた。 「生3つください!」こんな日はやっぱり屋外飲酒。太陽のもとで上がってく体温と、その名に恥じぬソレイユの注文! 「はい、どうぞ〜」 目を離せばこぼれてしまいそうな表面張力、きめ細かい泡と、潤すために乾かせておいたような3人の喉。ステージの上のフラダンスも、盛り上がり続けている。 「おっとっと。やっぱこれだな〜」 「うんうん、この穏やかじゃない表面張力!」 「じゃあ駆けつけ一杯、行っちゃいましょっか!せーのっ」 「ソレイユ〜……ライジーング!!!」 グビグビッ、うは〜っ!たまりませんねえらんさん、いちごさん!そうですね〜あおいさん!ああ、最高だな! フラダンスの振り付けにはすべて意味があるという。アロハオエはあなたを愛していますという意味らしい。3人の笑顔も、最高の1日の幕開けを意味している。アロハオエ〜、グビグビッ、ん〜っ、たまらん。あっという間にコップの底が見えた。 「もう一杯といきたいところだが……」 「いきたいところですが……」 「わたしたちのお祭りはまだ序盤!お店に移動しよっ!」 「だな!」 星宮が以前神崎に連れて行ってもらったことがあるという店に今日は3人で行くことになっている。美月さんにあとで写真送ろう!と星宮も気合いを入れているようだ。 大通りをしばらく歩く。右を見ても左を見ても、この街ならどこでもやっていけそうだ。おおざっぱでやさしい街、赤羽。昼も夜もさみしくはない街、赤羽。3人はいつものように仲良く歩く。 「あったあった、あそこ!」 「ん?本当にあそこでいいのか?普通の喫茶店っぽいぞ?」 「普通の喫茶店っぽいでしょ〜?でもね〜?」 ドアを開け、案内された席に着く。メニューを見た霧矢と紫吹は、目を丸くする。 「いちご、この穏やかじゃなさ、穏やかじゃない!」 「ふふーん、そうなんですよあおいさんっ」 「おいおい!飲み放題まであるぞ!」 穏やかじゃないメニューには、ビール、カクテル、焼酎、日本酒……たくさんのアルコール。そして気の利いたつまみたち。霧矢も紫吹ももちろん星宮も、ウキウキが止まらない。仕事中の神崎もきっとそんな3人の様子を想像し、ウキウキしていることだろう! 「これは穏やかじゃない喫茶店だな、あおいもいちごもそう思うだろ?」 目を輝かせ首を大きく縦に振る霧矢と、ちょっと誇らしげな星宮。もう待てないと言わんばかりに早速注文。 「すみませーん」 「はい、お決まりですか?」 「えーっと、とりあえず生でいいか?生3つと、あとつまみは……」 「夏の定番冷奴!」 「じゃがバターも!」 「とりあえずそれで……」 「はい、お待ちください」 常連客で賑わう店内で、3人の話にも花が咲く。 「それにしてもさすが美月さんだな、こんな良い店にいちごを連れてきてくれるなんて」 「美月さん、霧矢と紫吹も連れて来たかったーって言ってた!」 「私たちの好みをしっかり把握してくれてるなんて、美月さん、やっぱり穏やかじゃない!それでそれでっ!いちご!美月さんは何を飲んでたの?!」 「アハハ、あおいはやっぱりあおいだな」 「知りたい〜?あおいさん、メモの準備はいいですか〜?」 「お願いしますっ」 「美月さんはね……」 「お待たせいたしました、生3つと冷奴になります」 「ありがとうございます!」 気になるところでビールが運ばれてくる。堂々としたジョッキ、そして何度見ても飽きない泡!神崎勉強会は一時中断、ソレイユGO! ジョッキを掲げる前に、パシャパシャと珍しく飲むより先にビールの写真を撮る星宮。早速神崎に送信するようだ。いつもは撮るより先に飲んでしまうから、今回は気をつけたらしい。 「送信完了〜!ではでは、本日2回目のアレ、いっちゃいますよーっ?」 「任せたぞ、いちご!」 「いくよ、せーのっ」 「ソレイユ〜……ライジーング!!!」 グビグビッ、ぷはーっ。屋根があってもなくてもビールがうまけりゃそれでよし。屋内外問わず3人はどこまでもつづける。止まらない笑顔と、吸い込まれるビール。冷奴はいつだってうまいし、外は夏の良い夕焼けだ。すべてが完璧な夕暮れ、神崎は星宮からの写真を見て笑っている頃だろうか。 「でねっ、美月さんが飲んでいたのはなんと……ミルクティー割り!」 「ミルクティー割り、なんてのがあるのか!」 「ミルクティー割り……大人っぽさもありながら普段ストローを使って飲むミルクティーをお酒で割ることによってグラスから直接飲むという珍しさも体験できる……そんなお酒を美月さんが!穏やかじゃなさすぎる!う〜ん、私たちも飲んでみるべきかも!」 「あおい、もう酔ってるのか?」 「ふふっ、つぎミルクティー割りにしてみる?」 うんうん、と嬉しそうな霧矢。紫吹と星宮も、あの神崎が飲んだミルクティー割りに興味津々だ。 ジョッキももう半分は減っている。ジョッキの底にはいつもたくさんの笑顔と幸福が待っている。つぎは何を飲もうかとか、やっぱりビールはおいしいねとか、そんな会話が全部楽しさに変わってく。 ほぼ同時に空になったジョッキをテーブルの隅に寄せ、霧矢は店員さんを呼ぶ。 「すみません、ミルクティー割り、3つお願いします!」 「はい、お待ちください」 神崎からの「楽しんでるね。ミルクティー割りは飲んだ?ガムシロップを入れてもおいしいよ」という返信に、3人並んで写った写真と「はい、注文しました!これからソレイユ初ミルクティー割りです!わたしもあおいもらんも、美月さんお気��入りのミルクティー割りをすっごく楽しみにしています!」と返す星宮。 お店の奥から、3つ並んだ背の高いグラスに氷がゴロゴロ入った音が聞こえた。
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顎多丈
"ララバイ" 顎多丈(あぎた/じょう) 28歳 女 166cm 50kg カヴァー:ヒーロー ワークス:ヒーロー
狙撃手。スナイパーライフルはスプリングフィールドA4のレプリカ。初代は祖父の収集品であり、壊れるたび特注して現在は五代目。銃器の機能性の美しさに魅入られており、半身のように大切にしている。割りに数年に一度は戦闘で破壊されたりするのだが、今さら半身を失った程度で挫けるほどやわではない。彼女は射撃攻撃を失っても観的手として戦場に立つことができるからだ。
顎多家は代々士官系の家柄であり、長女として厳しい躾を受けたが物心付く頃には反骨心の塊となり家出が絶えなかった。作法、華道、茶道や舞、ピアノにヴァイオリンよりも愛したのは祖父のコレクションだった古い銃器のレプリカ類であり、プラモデルを持って友人家に入り浸っていたこともあった。祖父もかつては厳しい人間だったが孫である丈には甘く、元々は男女どちらが生まれても「恕」の字をつけようと考えていたらしいが、丈の語源は「自らの丈に合った生き方を」といった苦労人で気の強かった母親の意向が大きかった。当然、彼女自身は「クソ喰らえ」と思っていたのだが。
オーヴァード・ルーツは中学一年生、13歳の誕生日を迎える僅か前。のちにヴィランズイヤーと呼ばれたその時節、彼女の通っていた中学校がヴィランに占拠される。等しく動いたものから殺される地獄と化した学校において抵抗の意を示し嬲り殺され、後に覚醒。急激なレネゲイド濃度の上昇により次々とジャーム化していく人々、あるいはヴィランの言のままに殺し合いを強要されるクラスメイトを横目に、覚醒と同時に備わったオーラグラフィ(視覚にレーダーとオーラ感知を備えたもの)を駆使して脱出、祖父に助けを求める。丈が中学校に監禁されていた数日の間に世間は様変わりしており、両親は祖父の薦めで既に疎開、祖父は中学校のみならず地区を自警するために自治体と協力体制を敷こうとしているところだった。二人は周辺ノーマルと協力し、中学校を占拠したヴィラン及び覚醒ジャームの掃討作戦を行う。この時から戦士としての人生が始まった。 抗レネゲイド剤が開発され救助が到着するまでの期間、同じくオーヴァードとして覚醒した祖父とほぼ二人三脚で周辺から流入してくるヴィランから地区を護り続け、最終的には中学校を拠点とした籠城戦闘を行うに至る。 後に「同じ十字を背負うなら、キルスコアを上回るセーブスコアを」と上京し、第一次レネゲイドウォー期は東京大都市圏でヒーローとして活動した。 祖父はのちにヴィラン勢との抗争中に致命傷を受け、海へ転落して行方不明となり現在は殉職として扱われている。 当該のヴィラン・チームとの戦闘においては複数のメンバーに「復讐する権利がある」と言われたものの「義務ではない」と断っている。
上京後、高校には通わず、正体を伏せた非公式の隠れヒーロー(ヴィジランテ)として活動し続けた。資金源は祖父の貯金とツテ。未だに充分な遺産が相続されているが、銃のメンテナンス以外でこの金は使わない。 学校に通わなかった代わりに多少祖父から勉強を見て貰っており、ライセンス取得前に高卒認定を取得している。その後も夜間大学に通っていたが、ヒーロー業のほうが忙しくなって手一杯になり中退している。勉強しながらきちんとヒーローをしている虚子や、学生とヒーローを両立していた風間についてはその点を純粋に尊敬している。
とかく酒豪。祝い酒、弔い酒、晩酌、打ち上げ、どんとこい。酒が飲めるならなんでもいい。 特別に好みがあるわけではないがビールはアサヒ。普通にウーロン茶を飲むぐらいなら焼酎を割る。自宅には(あまり飲まないが)宅用ワインセラー、食器棚に皿より多くの貰いものの高い焼酎・ウイスキー、冷蔵庫に缶ビールと無数の割り材、樽ハイ樽ビールのサーバーも所持。でもだいたい缶ビール。たまにサーバーを起こして樽ハイを全力で空ける。 代謝制御があるので飲みまくっても多少水分補給するだけで翌日に持ち越さない親切設計。ただし肝臓の処理速度がどうにかなるわけではない(それでもオーヴァードなので全然大丈夫だと思っている)。家系的にも素で酒には強い。むしろ気持ちよく酩酊するためにこそ代謝制御を活用しているふしもある。浴びるほど飲んでバタッと寝るのが一番好き。というかそもそも寝るのが好き。あまり風の強くない日向でうとうとしたりする時間が至福。だがフリーランサーの性でそんな時間はほとんどないのが現状である。浴びるほど飲んで溶けるまで睡眠したい。
世田谷方面に狭い庭つきの空家を買い取って独り暮らし。厄師丸曰く「隠居老人」。趣味は晩酌と銃の手入れと野良猫に餌をやること。とにかく大酒飲みであるがこだわりがあるわけではない。ビールは泡の出るジュース。荒っぽい語気から男性と表記されることがあるが、落ち着いて対面すれば女性であることはすぐ分かる。
基本的に仕事以外の交友関係はなかったが、爛崎虚子が後輩になってからはたまに連れ出される様子が見られる。タダ酒が飲めるならだいたいどこへでも行く。 活動歴は(地方時代も含めれば)古参級だが、ショウアップで取り上げられることもほぼない裏方であり、私生活も多くの市民にとっては謎である(とはいえオフ中は家でテレビ見ながら銃を���ラしたり酒を飲んだりしているだけなので本当になにもしていないだけなのだ)が、厄師丸は家の場所を知っており、夜中に急に訪ねてきて金をせびるなどしている。帰れ。なんか最近はうっちゃんも来るようになった。たまり場になってしまう……
合成革性の軽量コートを着込んでいる。弾薬は調達で仕入れる。マイナー行動が空けてあるのは弾薬の使用、あるいは比較的早い行動値によってエンゲージの離脱を行うため。臨機応変に。 長物を抱えた状態での回避行動のために相当のアクロバットをこなす必要があるので戦闘が予想される場合は可能な限り長袖だが、被弾を想定した重装備だと行動に支障が出るので総重量としては軽装の部類。 ライセンスを取得し"ララバイ" を名乗りはじめるまではほぼ中学時代のジャージを着て活動していた。今となってはトレードマークだが、元々はライセンス取ったときにもうちょっと身なりを考えたほうがいいですと言われ注文して製作してもらったもの。顎多的には長袖なら正直何でも良かったのだが、今はそれなりに愛着がある。ちなみによく原型を留めないぐらいぶっ壊すが、そのつど(殆ど作り直す勢いで)補修してもらっている。
私服はジャージだったが、最近は虚子にまともな私服を買わされ始めた。 ものすごい猫っ毛かつ癖毛なので髪を伸ばすとたいへんなことになる。今の長さでも湿気の多い日にはかなりたいへんなことになる。もう既に切りたい。
"ララバイ"が「男性、ノイマンピュア、既婚」といった情報と組づけられた理由は、彼女の師にして祖父である"ジェネラル"こと顎多迅恕のプロフィールがまさにそれだからだと思われる(祖母はすでに他界している)。 本人は男性に間違われることに関しては八割がた面白がっている。ので積極的に否定はしない。げらげら笑っていても顔には出ない。
ライフパス
シンドローム ノイマン/エンジェルハイロゥ 特に状況判断、決定決断、行動実行に優れる、身体的なノイマン。ロジックよりも確実に身体が覚えている。これをエンジェルハイロゥの知覚力が支える。 可視光は目くらまし程度にしか操ることができないが、不可視光をかなりの精度で知覚することが可能であり、狙撃および回避行動に大きな影響を与えている。また自身もレーダーのように微弱な不可視光を放射できる。 オーラグラフィーもこれの応用であり、信頼関係があればささやかな干渉も可能。
カヴァー:ヒーロー ワークス:ヒーロー 純然たる職業ヒーロー。副業なし。仕事の鬼。だが知名度はない。 というか目立つと因縁が増えるし潜伏(ポジショニング)しづらいし元々性格も内向的なのでマジで目立ちたくない。 とりあえず銃が撃てればよし。ほぼ傭兵稼業か何かだと思っている可能性もあるしおそらくこの世にヒーローという職業がなければ傭兵だったに違いない。
覚醒:犠牲 死の瞬間も覚醒後も半ば自失した状態であったが、このために義憤を棄てて逃げ出すことができたのが功を奏したのではないかと当人は思っている。おそらく残って銃なしで闘っていたら勝つことはできず、あのまま自分も狂っていただろう、と。 襲撃ジャーム及び彼らの戯れでジャーム化した同級生はだいたい殺した。 現在、彼女が通っていた中学校はほぼ完全に復興し、通常通りに運営されている。
衝動:破壊 平常時はなりを潜めている破壊欲求は、標的を捉え、引き金を引き、弾丸が放物線を描いて思い描いた通りの場所に着弾し、対象を破壊する、という一連のプロセスに宿る。ので実際、御題目や標的そのものは何でも構わない。 風間曰く「むっつりトリガーハッピー」。 出自:名家の生まれ ロイス:祖父 P:尊敬◎/N:畏怖 顎多家は代々士官系の名家である。父親も官僚だった。 現在、家とは全く連絡が取れない状態で、お互いに消息は不明である。 顎多自身が特に家族と呼べるのは祖父ばかりであり、亡き今もその教えが彼女の在り方に強く影響し続けている。 「傍にマスコミが居なければ天皇だろうが総理大臣だろうが呼び捨てでいい」とか「酒が飲めそうならばどんな理由をこじつけてでも飲むべし」とか。ん? 当時未成年? 何の話かな?
経験:隠れヒーロー ロイス:ヒーロー P:連帯感◎/N:猜疑心 第一次レネゲイドウォー時期は完全に存在を伏せており、非公認だった。 一緒に活動していた祖父は内向的でこそなかったもののやはり所属や名声を疎むタイプだったので、当時同時に活動していた人間以外では"ジェネラル"の存在を知っている人間も少なく、現在彼の活躍のほとんどは"ララバイ"のものとしてまとめて語られている。 が、顎多が"ララバイ"を名乗り始めたのはライセンスを取ってからである。 ロイス対象は"エグゼリオ"風間出巳。第一次RW当時はお互いに(顎多は学校に行っていなかったが)高校生で、学ランでヒーロー稼業をしていたのをよく見かけた。今はすごく忙しそうなので真似できねーなと思っている。
邂逅:貸し ロイス:コミカライズ P:信頼◎/N:脅威 第一次レネゲイドウォー期に関する情報の一部の裏付けに協力した。あとちょいちょい依頼受けたりなんだり。 フリーランサーの性、プラスもともとぼんやりと善良なので頼まれた仕事はどんなに些細でも断らないため、たまに連絡が来たり来なかったり。 猫動画のURLとか送られてくるので好感度が高い。
履歴
00年 レネゲイド解放 01年 レネゲイド犯罪の増加 03年 ヴィランズイヤー 04年 顎多13歳、覚醒 05年 第一次RW開戦 上京、ヒーロー活動開始 06年 丸ノ内大抗争に参加 10年 第一次RW終結 ライセンス取得、公式ヒーローへ 13年 パラディン、デビュー 20年 現在
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この夏、キンキンに冷えた美味しいビールは備前焼のビール杯で
ビール杯(高力芳照) 火襷ビール杯(高力芳照)
夏がやってきましたね。
今日も朝から快晴の岡山です。
さて、毎週土曜日は新着商品のアップ日になります。
高力芳照作 ビール杯 1点
高力芳照作 火襷ビール杯 3点
高力さんの定番アイテム、ビール杯のご紹介になります。
シンプルで飽きの来ない造形、素朴な土肌に美しい景色。
おいしいビールを愉しむのにイチオシのアイテムですよ。
備前焼にビールを注ぐと泡立ちがきめ細かく、とてもおいしいビールを愉しむことができます。
この機会にぜひお試しくださいませ。
事前に冷蔵庫で備前焼のビール杯を冷やしておけば、
キンキンに冷えた美味しいビールが飲めますよ。
この夏は備前焼のビール杯で決まりですね!
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これからの季節に、備前焼のビアジョッキで美味しいビールを
これからの季節に、備前焼のビアジョッキで美味しいビールを #備前焼わかくさ #備前焼 #土のぬくもり #備前焼のある暮らし #陶器 #器 #うつわ #やきもの #焼き物 #焼き締め #japan #bizen #bizenyaki #bizenware #yakishime #pottery #bizenwakakusa #YoshiteruTakariki #キンキンに冷えたビールを備前焼で #ビアジョッキ #備前焼はビールの泡がきめ細やかに #新着商品 #火襷ビアジョッキ #高力芳照
火襷ビアジョッキ(高力芳照) ビアジョッキ小(高力芳照)
今日も暑くなりました。
屋外での作業は熱中症に気をつけないといけませんね。
さて、毎週水曜日は新着商品のアップ日になります。
高力芳照作 火襷ビアジョッキ 1点
高力芳照作 ビアジョッキ小 2点
これからの季節には欠かせない
ビアジョッキ3点のご紹介になります。
大きい方で豪快にビールを飲むのも良し、
小さい方でビール以外の冷たい飲み物を愉しむのも良し。
やっぱり持ち手があると使い勝手が良くなりますね。
備前焼でビールを飲むと美味しくなると言われています。
それは泡立ちの良さにあり、
きめ細やかな泡立ちを愉しむことができます。
ぜひガラスのコップと比べてみてください。
泡が無くなりにくく、
きめ細やかなのが分かっていただけると思います。
ジョッキを冷蔵庫で冷やしておくと
晩酌には…
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美味しいビールを楽しめる、備前焼のビール杯
美味しいビールを楽しめる、備前焼のビール杯 #備前焼わかくさ #備前焼 #土のぬくもり #備前焼のある暮らし #備前焼を使う #備前焼の店 #おうちでたのしむ備前焼 #陶器 #器 #うつわ #やきもの #和食器 #食器 #器好き #bizenyaki #bizenwakakusa #NaokiYokoyama #新着商品 #横山直樹 #自然練込ビール杯
自然練込ビール杯(横山直樹)
曇り空の岡山です。
太陽が出ていなければ、
若干ですが涼しく感じられますね。
さて、毎週土曜日は新着商品のアップ日になります。
横山直樹作 自然練込ビール杯 2点
素朴な自然練込の土肌に、
火襷の濃厚な景色が愉しめます。
使うほどに味わい深く育ってくるのが
自然練込の特徴です。
備前焼で飲むビールは一味違いますよ。
ガラスや釉薬物、金属製のカップに比べると、
泡立ちがきめ細やかに持続してくれます。
朝、ビールと一緒に冷蔵庫に仕込んでおいて
キンキンに冷えたビールを晩酌でお楽しみください。
この機会にぜひ。
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