Tumgik
#クラーク・ピーターズ
mokkung · 4 years
Text
Netflix映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』 〜ベトナム戦争の影響は現在にも地続きなのだ!〜
2020年 アメリカ 原題:Da 5 Bloods 監督:スパイク・リー 脚本:スパイク・リー、ダニー・ビルソン、ポール・デ・メオ、ケヴィン・ウィルモット 音楽:テレンス・ブランチャード 撮影:ニュートン・トーマス・サイジェル 出演者:デルロイ・リンドー、ジョナサン・メイジャーズ、クラーク・ピーターズ、ノーム・ルイス、イザイア・ウィットロック・Jr、チャドウィック・ボーズマン
youtube
 先日、米国の俳優チャドウィック・ボーズマンが亡くなりました。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品でブラック・パンサー役を演じていた人です。43歳という若さでした。2016年に大腸癌ステージ3と診断され、映画『マーシャル 法廷を変えた男』(2017年)以後は、闘病しながらの撮影だったということです。映画『ブラック・パンサー』(2018年)はMCUの映画の中で僕が一番好きな作品なので、このニュースが飛び込んできた時はびっくりしましたし、世界中の人々と同様、とても悲しい気持ちになりました。私達は映画を通してこれからも彼を思い出すでしょうし、今後も映画を通して彼の仕事がいろんな人々にいろんな影響を与えていくことでしょう。ご冥福をお祈りします。
映画『マーシャル 法廷を変えた男』予告編
映画『ブラック・パンサー』予告編
 彼の最新出演作がNetflix映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020年)です。今回は彼に敬意を評し、追悼する意味を込めてこの作品のレビューを書きたいと思います。
あらすじ
 黒人のベトナム帰還兵である、ポール(デルロイ・リンドー)、オーティス(クラーク・ピーターズ)、エディ(ノーム・ルイス)、メルヴィン(イザイア・ウィットロック・Jr.)の4人は、かつて尊敬するノーマン隊長(チャドウィック・ボーズマン)率いる部隊で戦場を共にした仲間たち。事故で山中に残された、米国が取引に用いるための金塊を回収する任務において、共謀してその金塊を秘密裏に地中へ埋めて戦後に回収し米国黒人たちのために役立てる計画を立てた。しかし金塊を埋めた後、戦闘でノーマンが死んでしまう。50年後、残された金塊とノーマンの遺骨を回収するため、高齢者となった4人は再びベトナムで集まり、それぞれの思いを胸にかつての戦地を訪ねるのだが・・・。
これまでにないスタイルのベトナム戦争映画
 ベトナム戦争を扱った作品は数多くありますが、本作がこれまでの作品と異なる特別な点は、“現在”の視点からベトナム戦争を描いているという点です。
 ベトナム戦争を扱った映画は、代表的なものとして『地獄の黙示録』 (1979年)、『プラトーン』 (1986年)、『フルメタル・ジャケット』 (1987年)など戦地の兵士達を描いたものから、『ランボー』 (1982年)、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)、『7月4日に生まれて』(1989年)のようにベトナム帰還兵の視点を描くものなど、有名な映画だけでも様々あります。しかしいずれの映画もベトナム戦争前後の当時の時代設定で描かれています。
映画『地獄の黙示録』 予告編
映画『プラトーン』予告編
映画『フルメタル・ジャケット』予告編
映画『ランボー』予告編
映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』予告編
映画『7月4日に生まれて』予告編
 今回の『ザ・ファイブ・ブラッズ』はまさに2020年現在の視点で描かれていて、かつてベトナム戦争に従軍した仲間たちがお爺ちゃんになって再び現在のベトナムを訪れることで、自分たちにとってのベトナム戦争を振り返り、自分たちが背負った過去を清算するという、これまでにはなかったスタイルのベトナム戦争映画です。
Tumblr media
引用元
現在もベトナム戦争は多くの人々に影を落としている
 今作が素晴らしいのは、米国人の視点以外にも、ベトナム人、更にはフランス人の視点も散りばめていることです。ベトナム戦争に従軍した米国人が戦後にひどい仕打ちを受けたり、PTSDになったりするといった描写はこれまでもありました。本作でもポールというキャラクターはPTSDになっており、かつて殺し合った相手という感覚があるためかベトナム人に対して攻撃的になりがちです。
 一方でベトナムの人たちが、かつての戦争相手であるアメリカ人にどういう思いをしているのかが垣間見える描写がちらほらあります。バーで酒をおごられる場面、水上マーケットでの揉め事、一行のガイドを務めるヴィンの台詞などから、現在のベトナムの人がどういうスタンスなのかが何となく伝わります。また現在でも残った地雷により死んだり手足を失う人がいること、そしてネタバレを避けますが、主人公の一人であるオーティスとその旧友であるベトナム人女性との間に現在も続くある問題など、ベトナム戦争が現在まで引きずっている問題も描かれています。
 さらにはフランス人も関与してきます。そもそもベトナム戦争のきっかけになる大元は、フランスのベトナムに対する植民地政策です。ベトナムは植民地としてフランスに搾取され、第二次世界大戦期には一時日本の傘下になってしまうものの、大戦後も再度植民地として取り込もうとしていたことは、その後のベトナム戦争につながる下地になっていますが、これまでそのような視点で語られるベトナム戦争映画はほとんどありませんでした。本作では、かつて搾取してきた自国の責任を感じて地雷撤去活動を行うフランス人が登場したり、逆に未だにベトナムで搾取するような立場のフランス人が登場します。
 このようにベトナム戦争以後も現在まで残る問題点を描きつつ、決して米国的な視点だけで終始しない、いろんな立場の人間の視点が巧みに組み込まれている点は、過去作とことなる素晴らしい点だと僕は思いました。
Tumblr media
引用元
暴力に暴力を重ねても、世の中は変わらない
 監督はスパイク・リーですから、当然ながら黒人差別問題が絡まない訳はなく、本作もそれがストーリーの重要点やキャラクター達の考えに大きく関与しています。 ※スパイク・リーの映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』とBlack Lives Matterについては以前記載しました。
 主人公一団は皆黒人で、米国のために従軍しながら、本国では差別を受けてきた人たちです。ベトナム戦争従軍当時、隊のリーダーだったのがチャドウィック・ボーズマン演じるノーマンです。ノーマンはカリスマ的で、戦闘経験が豊富で賢く、黒人の部隊員たちに黒人史などを教える指導者的な立場でもあり、仲間たちから慕われていました。そんな彼がなぜ死んでしまったのか、彼の遺骨は見つかるのか、そのあたりは映画を見てみてください。
 ノーマン関連のシーンで最も印象的だったのは、キング牧師の死に関する場面です。北ベトナムが発信する米国人向けプロパガンダラジオを通して、ハノイ・ハンナというラジオDJが英語で黒人の兵士に向けてキング牧師が白人に暗殺されたことを伝えます。DJはキング牧師を称えるとともに、「米国国内では黒人が講義活動を行っている」「そんなときにベトナムと戦争する必要があるのか」「ベトナムは人種差別に反対している」「黒人は戦争でも不当な扱いを受けている」「白人のための米国に尽くすことは正しくない」といった意見を述べて、黒人兵士たちを焚きつけます。
 これによって隊員たちが白人に対して憎しみを燃やし、今にも白人に暴力で応酬しようとします。それを制止するのがノーマンです。ノーマンは以下のようなことを述べます。
“I'm as mad as everybody. All us Bloods got a right to be, but... we Bloods won't let nobody use our rage against us. We control our rage. Now what y'all are trying to do right now ain't changing shit.”
「俺もみんなと同じように怒っている。俺たちにはその権利がある。しかしな・・・俺たちの怒りを俺たちに向けて利用させるようなことは誰にもさせないぞ。俺たちは怒りをコントロールするんだ。お前らがやろうとしていることでは、クソな状況は何も変えられない。」
 この言葉と態度で隊員たちは考えを改めます。このシーンは映画の前半における最重要シーンです。憎しみに駆り立てられて、暴力に暴力を重ねても、世の中は変わらないんですよね。
 この映画を撮影している当時、ノーマン役のチャドウィック・ボーズマンはすでに癌に対して化学療法を行いながら、その合間に撮影をこなしていたと思われます。そしておそらく彼は残された人生がそう長く無いであろうことも、知らされていたのではないかと思います。彼はきっと、限られた時間の中で、自分がこの役を演じることで、後世の人たちに大きなメッセージを残すことができると考え、頑張って出演したのではないかと僕は感じていますし、それを思うと胸が熱くなり込み上げてくるものがありました。今作は彼が死ぬ前に映画を通して体現したメッセージなのかなと思います。
 そして間違いなく、このメッセージは、昨今のBlack Lives Matter運動にポジティブな影響を与えるものとなるでしょう。この映画の製作中は、まだジョージ・フロイトの死以前ですから、スパイク・リー監督の考えは予言的だったと言わざるを得ません。
Tumblr media
引用元
多数の『地獄の黙示録』オマージュ
 本作はご覧になれば分かると思いますが、明らかに映画『地獄の黙示録』へのオマージュが見受けられます。主人公一団が行ったナイトクラブのDJブースの背後には“Apocalypse Now“って『地獄の黙示録』の英題がそのまんま書いてあるし、船で川を進む際に流れる音楽はワーグナーの「ワルキューレの騎行」で、これは『地獄の黙示録』のあの有名な爆撃シーンで流れる音楽です。回想シーンでは夕焼けを背景にヘリコプターが飛ぶ映像などがあり、モロに地獄の黙示録を意識した画作りも見られます。 (劇中、『ランボー』は相当ディスられていました。僕は好きな映画なんだけどな・・・)
 映画『地獄の黙示録』は、米軍を無視して勝手に自分の王国を作ってしまったカーツ大佐という人物を暗殺するために、主人公たち一行が戦地中を進んでいく中、仲間を失い、戦争の狂気性を目の当たりにし、次第に精神的にも狂っていく様を描いていました。今作も同様に、金塊と仲間の遺骨を探しに行く過程で、人々が引きずっているベトナム戦争の負の側面が少しずつあぶり出されていき、現在の社会構造ともリンクして、仲間同士の軋轢を生むことになり、精神的にも追い詰められていく様が描かれます。この点も『地獄の黙示録』に寄せているように思えました。
 特筆すべきはデルロイ・リンドー演じるポールというキャラクターです。彼は戦後に出産で妻を失い、生まれた息子とも心理的に折り合いがつかず、PTSDの影響もあり死別したノーマンの夢を何度も見ているという、かなりこじらせた人物設定で、ドナルド・トランプ大統領の掲げる「Make America Great Again」という標語が書かれた赤いキャップを被っています。移民問題に関しても、トランプのような排他的な意見を述べたりします。彼は戦争のあとに辛い出来事が続き、経済的にもうまく行かず、その影響でトランプ大統領のような強気の自国優先主義で他者を跳ね除けるスタンスにすがってしまうのかもしれません。そんな彼は仲間たちの中でも、自分の主義を押し通しがちで、問題行動を多々起こしてしまいます。
 このように複雑な背景を抱える彼にとって、この旅がどういう意味を帯びてくるのかは映画を是非ご覧ください。一見、問題児的に見えるポールも、彼の目線で描かれる場面で、実は彼なりに抱えた重大な重荷が見えてきます。
最後に
 本作はベトナム戦争に介入した米国に対する批評とともに、差別を受けてきた黒人たちの気持ちを反映し、更にはその黒人の元兵士たちに対するベトナム人の視点を加えることで、不毛な暴力の応酬についての問題意識や、黒人が受けてきた差別の不当性、権利のために戦うことの尊さ、そしてこれまでの悲しい歴史は今も地続きの問題なんだということを教えてくれます。
 また黒人=正義だと描く訳ではなく、実はそれぞれがいろんな考えを持ってたり、いろんな背景のもと生きているという、黒人差別問題に限らず、差別や他者への寛容に対する、アツいけどフラットな視点を備えた、スパイク・リーらしい映画でした。前作、『ブラック・クランズマン』も素晴らしかったですが、最近のスパイク・リーはホント凄い。
 そして、チャドウィック・ボーズマン、安らかに。また映画を通してお会いしましょう。
5 notes · View notes