#「あの頃」 この��仕事を 始めたばかりの頃、 初めてお会いする方と 名刺交換などさせていただき 輪を広げようと頑張っていました。 そんな中で ある時、名刺をお渡しした際に 「
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katoyoko · 2 months ago
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2ttf · 13 years ago
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fuji-ringo-tex7 · 4 years ago
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Sketch(OS/死ネタ)
「本番15分前です! 待機お願いします」
 収録開始の時間が間近に迫り、慌ただしくなるスタッフに触発されて、楽屋内の空気が徐々に温まり始める。
  「よっしゃ!」だか、「よーし!」だか。凡そ周囲への活の意味も込められているのであろう、大きな声を上げた松潤と相葉くんに押され、それまで夢中でゲームをしていたニノがやれやれと腰を上げた。
 マイペースながらも気合いを充分に携えたメンバーが、各々指定された場所へと向かって行く。
 そんな最中、俺はまだ手にしたスマホの画面から目を離す事が出来ずにいた。
 ――件目は無いけれど、よく見知った人からの二通のメール。
『今日もお疲れ様。次はいつ会える?』
『今日、この撮影終わったらデートしよう。やっと行きたい所が出来たから』
 一方は、事務所公認の交際相手。至って普通の……それこそ、俺が理想の結婚相手として挙げた条件を、過不足なく満たしているような素敵な女性。世間体��取り持つ為に、といつか表に見せる事を前提に作った相手。
 そしてもう一方も、交際相手。話し上手では無いけれど才能に溢れていて、おおらかな空気感と深い愛を語るような瞳に、どこまでも着いて行きたいと思わせてくれる。そんな素敵な人。二股なんて事務所にはとても言えない。増してや同性で、寧ろ此方が本命だなんて。
 様々な思いを巡らせながら、画面上に表示された文字をそっと指先でなぞる。大野智。長きに渡って活動を共にして来たグループのリーダーでもあり、大切な人の名前。こんな事を言ったら重過ぎて引れそうだけど、俺はこの人の為ならなんだって出来るし、きっと何を失っても後悔しない。そう思えてしまうほどに、好きで好きで堪らない人。
「翔さん、あと5分だって。行かないの?」
 不意に自分を呼びに来た最年少からの声で、はっと我に返る。
 この時間までぼーっとしてるなんて珍しいじゃん、なんて疑問を包み隠す事無く片眉を上げて怪訝そうな顔を向ける松潤に、いつも通りの笑みを作って平然を装った。
「ああ、ごめん。昨日ちょっと飲み過ぎたのかも。行こうか」
 そう言いながら、開いていたメールに『分かった、じゃあいつもの場所で』と返して、楽屋を後にした。
 * * *
「やっと終わったねー、皆! 念願のオフだよ!」
 順調に事が進んだお陰で、早めに収録が終わった。
 楽屋へと戻った瞬間、早くも休日モードへと切り替わった相葉ちゃんが、開口一番に誘いをかける。
 全員が揃ってのオフなんて、一体いつ振りだろう。
 期待を全面に押し出して、子犬のようにはしゃぐ相葉ちゃんの様子に釣られてか、心做しか早く帰り支度を進める松潤が企んだ笑みを浮かべて口を開いた。
「とりあえずあの店行っとく? 実はもう予約済ませてあるんだよね」
「やった! さっすが松潤。ねえニノは?」
 乗せ上手と、乗せられ上手。ただでさえフットワークの軽い二人が、すっかり意気投合して飲み会の計画をし始めると、その勢いは止まらない。
 次いで白羽の矢が立った彼を見れば、荷物こそ纏めてあるものの相変わらず夢中でゲームをしていて。
「俺も行きますよ、勿論。ただもうちょっと待って、今めちゃくちゃ良い所。……あ、因みにリーダーは今さっき一番乗りで出て行きましたね」
 お先に、とか言って。と器用にも画面から目を離す事無く言葉を続けるニノに、一体いつその様子��伺うタイミングが? とも思ったけれど。如何せん感覚に優���ている彼の事だから、さして驚きは無い。
 寧ろその言葉を受けて大野さんの姿が見当たらない事に気付いて、急いでスマホを確認すると『待ってる』とだけ書かれた質素なメールが届いていた。
 待ちに待ったデートの約束なのにも関わらず、返事がたった一言だけなのが彼らしい。それで居て素っ気なさを感じさせないのは、多分何かしらの意味合いを込めて添えられたクローバーの絵文字だったり、掴み所がないように見せかけて、時間が取れる時にはこうして余す事無く尽くしてくれる彼の人柄故なのだろう。
 そんな些細な所が、好きで堪らない。
「えー……」
「まあまあ、何か予定が有るんでしょ。ちな翔さんは?」
 肩を落として分りやすく落胆を露わにする相葉ちゃんを宥めながら、松潤が此方を向く。それに併せて皆の視線が注がれたのを感じて、スマホを上着のポケットへしまった。
「俺もお先に。今度絶対埋め合わせするから、今日は三人で楽しんでおいでよ」
 正直な所、大好きなメンバーからの誘いを断るのは中々に心苦しい事だけど。最初から俺の返答を知っていたかのようなニノ、それから何かを察したかのように「了解」と言いながら相葉ちゃんの気を引き始めた松潤に、それぞれ短くアイコンタクトを返してを鞄を肩に掛けた。
 * * *
 駆け足で局の地下駐車場へ向かうと、案の定大野さんはもう既にそこに居て。車を背に、時折白む息を吐きながらスマホで時刻を確認してるあの人。
 深めにキャップを被っていたって、すぐに分かる。
「お待たせ、大野さん。お疲れ様です」
「おお、お疲れ」
 駆け寄ると、大野さんはすぐに此方を向いて、その顔に笑顔を浮かべた。
 それからいつもと変わらない労いの言葉を互いに掛け合う。
「寒かったでしょ、ごめんね。すぐ暖房効かせるから」
「……それ、わざわざ買ってきてくれたの?」
 車のドアへと手を伸ばしかけた折、引っさげた荷物を見て俺の手に触れた大野さんの指先は冷たい。
 いつも通りの待ち合わせ場所。それからいつも通りの、間に合わせみたいに買ってきたコンビニのコーヒー。
 久々のデートだけれど特別な雰囲気とは行かなくて、それでも大野さんは毎回こうして気遣いに気付いてくれる。そして決まって初めての事のように嬉しそうに微笑んで、「全然大丈夫なのに、ありがと」と言ってくれる所が愛しい。
 まるで会えなかった時間を埋めるように、心の奥が一気に充足感で満たされていく。
 言葉を尽くしても足りないこの気持ちを伝える手段は、一つくらいしか思い浮かばなくて。
「コンビニのだけどね、――智くん、」
 一歩踏み込んだ呼び方に視線を上げた彼を構わず抱き寄せて、半ば車に押し付ける形で強引に唇を奪った。
「ん、……翔ちゃん」
 片腕の中で少し身動ぐものの、抵抗はしない。智くんはいつもそう。
 その代わり瞳には「誰かに見られたらどうするの?」なんて躊躇を覗かせながら此方を見上げて、苦しげに解けた口唇を深く啄��頃には静かに瞼を落として、先程まで咎めていた視線が嘘だったかのように熱い舌先が触れてくる。そこで俺はやっと瞳を閉じて、誘われるままに熱を絡め合わせた。
 従順に吸い付いてくる唇が会えなかった間の寂しさを訴えかけているようで、切なみを帯びた吐息とリップ音が、静まり返っていた駐車場内でヤケに響いて聞こえた。
「……っ、はぁ……もう、翔ちゃん」
 暫く唇の感触を楽しんだ後、困ったように眉を寄せた智くんが顔を逸らして不服そうな声を上げた。
 その様子がまた愛しくて、口先から形ばかりの謝罪と一緒に歯の浮くような本音が零れ落ちる。
「ん、……ごめんね。智くんが可愛くて、つい」
 因みに此処は、丁度カメラに映らない角度だから大丈夫。
 そう一言付け加えると、智くんはすかさず「そういう所ほんと狡賢いよね、翔ちゃんは」なんて言って、後ろ頭を掻いた。これは彼なりの照れ隠し。よく見知った仕草だった。
 それから車のドア開けて、漸くそれぞれ助手席と運転席に乗り込む。
「それで、行きたい場所って?」
「えっとね、この道をずっと行った所の――」
 * * *
 智くんの口から知らされた目的地は、意外な場所だった。
 指定された場所は遠過ぎる訳でもない。特にオフの時間を使わなくたっていつでも行けるような場所で、どうしてそんな所に? と思ったけれど、きっと彼なりの考えがあるのだろうと深い理由は聞かないまま車を走らせる。
『今度ドライブでもしようよ、何処でも連れてくから行きたい所が教えて』
 初めにそう提案したのは俺からで、そんな思い付きの口約束からもう半年以上が経っていたから、覚えていてくれた事自体が嬉しくて。久しぶりに二人きりで、ゆっくり恋人らしい事が出来る。
 もう、忙しなく舞い込んでくる仕事の合間にホテルへ行って、互いの温もりだけを欲して日々を食い繋ぐような愛人紛いな事はしなくても良い。
 将来の為だから、と形作られた表の関係――智くんにも当然そんな相手は居て、互いにそれを取り持つように割いていた休日を、今日は心から愛しく思ってる人と過ごせるのだ。その事実さえあれば、些細な事など気にもならなかった。
 無心でハンドルを切りながらそんな事を考えてると、智くんが不意に口を開いた。
「皆はどうしてた?」
「三人で飲み会だって。また智くんに逃げられたって、相葉ちゃんがガッカリしてたよ」
 こんな時までメンバーの事を気に掛けるのがいかにも彼らしくて、思わず笑みがこぼれる。
 誰と居たって、どんなに長く時を過ごしていたって、彼は変わらない。眩しいほどに純粋で、優しくて、現に今も事実を知って少し眉を顰めた。
「そう聞くとなんか申し訳ねえなぁ……」
 ――ねえ、智くん。智くんは俺と一緒に居て幸せ? なんて疑念は先程の思考と一緒に呑み込んで。
「まあね。俺も断るのは心苦しいけど」
「きっと、彼女と過ごすんだろうなって思われてるね」
「そうだね。……俺らがこうして内緒でデートしてるなんて、想像もつかないだろうな」
 どちらともなく口にした言葉には、言外に『そんな存在の人が居て良かった』というニュアンスが含まれている。
 智くんはそれを知ってか知らずか、時折車窓に目を向けては次々と追い越されていく街頭を眺めていた。
 そして度々やってくる束の間の沈黙を薄めるように、智くんは好きな曲のワンフレーズを口遊んだり、信号待ちの間に指先を絡めて来たりして、初々しい程に和やかな移動時間を楽しんだんだ。
 * * *
 目的地に着く頃には、腕時計の針は双方ともに丁度天辺を指し示していた。
「着いたよ。……こらこら、起きて」
「ん……、」
 隣ですっかり安らかな寝息を立てている智くんに一度呼び掛けるものの、返事は無い。
 起きないのを良い事に、その端正な寝顔を観察する。
「本当に寝るの好きね、貴方は」
 それから暫くして、呼吸と共に規則正しく上下している肩を揺らした。
「凄えだだっ広くて何も無いけど、ここで合ってる?」
 車窓から伺える限りの範囲では、辺りには木々が茂っていて、近くに水辺が見える。多分自然公園なのだろう。
 念の為とスマホで場所を確認してみると、三鷹市に位置しているらしい。
 都内ながらも灯りは疎らで、実に閑静な場所だった。
「んん……合ってる、ここ。俺が学生の時によく来てたとこ」
 なんとか、と言った様子で漸く目を覚ました智くんが、背筋を伸ばしながら寝起きでままならないふわふわとした口調で答える。
「ああ……成程、通りで」
 見た事ある地名だと思った。
 高級レストランでも何でもないこの場所を選んだ理由が少しだけ分かったような気がして、肩の力が抜ける。
 たった数時間の間だけれど、こんなに長くハンドルを握っていたのは久々で、すっかり体が固まってしまった。一連の仕草をなぞるようにして大きく腕を伸ばす俺の横で、身を乗り出して窓の外を見上げていた智くんが微笑を浮かべた。
「ねえ、翔ちゃん。空見てみて」
 いつかこの風景を一緒に見たかったんだ、と。珍しく得意気な声に押されて上方を見れば――。
「う��……凄え、めちゃくちゃ綺麗」
 思わず息を呑むくらい、圧巻の光景だった。
 暗い夜空に所狭しと散った星々が、煌々とそれぞれの輝きを放っている。
 ステージ上から見渡すペンライトの海とも違う。凡そ田舎で見られるようなそれには及ばずとも、喧騒に溢れた世界では決して見る事のなかった景色に言葉を忘れて、暫しその夜空に見入っていた。
「ふふ。気に入ってくれたみたいで良かった」
 そんな俺の反応が新鮮だったのか、横から聞こえてきた小さな笑い声に気付いて、仕業無く乱れてもいない前髪を直す素振りをする。
 年甲斐もなくはしゃいだ俺を見詰める柔らかな瞳が、心地好くも擽ったかった。
「いや、うん……大分気に入った。凄いね。こんな場所あるんだ、と思って」
 思わず切れ切れになってしまった感想に、智くんは言葉を返す事なく小さく頷いて。それから、徐に荷物を漁ってスケッチブックを取り出した。
「描くの?」
「うん。暫く紙に向かうから、翔ちゃんも好きにしてて良いよ」
 なんなら寝てても、と身を案じて、智くんの手が頬の温もりを攫ってく。繊細で、それでいて骨張っている指先が、輪郭を確かめるように優しく眦を掠めた。
 それから智くんはどこか満足そうな顔をしながら、その眼差しを紙面へ向ける。車内の天井から降り注いだ光が、その頬に睫毛を縁取って綺麗な影を落とした。
 俺は彼の横顔を、何をする訳もなく隣で静かに眺めているのが好きだった。
「――じゃあ、俺は真剣な智くんを横で見てるよ」
 智くんがデートの最中に絵を描きたい、と言い出す事はそう珍しくない。
 恋人として、初めて家に招いた時もそうだった。昼下がりに眠気覚ましのコーヒーを飲んでる俺を見て、智くんは唐突に『モデルになって』と、寝起き早々なのに丁度今みたいにスケッチブックを持ち出して。それから唐突に作業し始めた事を少し申し訳なく思ってるのか、紙と向き合いながら一言二言と間を空けて投げ掛けられる言葉を返す内に、『きっと幸せな気持ちの時ほどインスピレーションが湧くんだと思う』と、ぽつりと呟いたんだ。
 だから尚更、こんな時間は嫌いじゃない。
 それに、絵を描いている時の智くんは、皆の前では決して見せないような表情をする。良い顔、と言ってしまえばそれまでだけれど。
 何処か遠くを見ているようで間近を見詰める瞳と、迷ってる時には少し寄せられる眉。恐らく重要な線を引いてる最中は、下唇を薄く噛んで。真一文字の眉が職人気質とも言える彼の性質をよく表しているようで、すっと通った鼻筋の下で小さく尖らせた唇は多分、集中してる証。
 兎角普段のイメージより豊かな表情に魅せられて、暇をする隙もないほど。
「……ふふ、その内顔に穴が空いちゃうよ。ね、飽きない?」
 絵を描き始めてから暫く経った頃。ふと此方を向いた智くんが、今まで一心に視線を注がれていた事を察して困ったように笑った。
「飽きないよ。美人だなぁと思って、眺めてる」
 そう言葉を返すと、「翔ちゃんはいっつもそうやって揶揄う」だなんて言って、律儀に眦を薄紅色に染めている所が愛らしい。
 気分転換も兼ねてか此方に腕を伸ばして、つい先程までペンを握っていた指先が再び柔らかく頬を撫でる。
 一見小動物をあやすような仕草が堪らなく心地好くて、不意に誘われた眠気に思わず欠伸が零れてしまう。
 ――気が緩んだかな。
「本心なのに、」
「知ってるよ。……こんな所まで運転して来たから疲れたでしょ、少し寝たら? 完成したら起こすから」
「ん、……じゃあ、お言葉に甘えて少しだけ」
 相手の様子を見るに、完成までまだ暫くかかるのだろう。
 心配そうに此方を見詰める瞳が愛しくて、未だに輪郭をなぞって一定の間隔で髪を撫で下ろす掌に唇を寄せると、襲い来た眠気に身を任せるようにそっと瞼を閉じた。
「コーヒー、飲んでね。冷めちゃう」
「うん、分かった。ありがと」
 * * *
「――……ん、さとしくん」
 それから、どの位の時間が経っただろう。そこはかとない浮遊感を纏って浮上した意識の中、朧気に名前を呟いても返事はなくて。
 気怠さの残る瞼をなんとか持ち上げて隣を見れば、スケッチブックを膝に投げ出したまま眠る智くんの姿があった。
 まだ、窓の外に太陽の気配はない。
 此処へ来た時と同じように、空には煌々と夜空の星が光っていた。
「寝ちゃったの?」
 それとも――。
 少し震える手で備え付けのホルダーに収まっているコーヒーカップを持ち上げる。軽い。念の為に蓋を外すと、中身は綺麗に飲み干されていた。
「ちゃんと飲んでくれたんだね、ありがとう」
 ――ちゃんと、飲んじゃったんだね。ごめん。
 俄には受け入れ難いけれど目の前に広がる確かな事実に、紡いだ言葉とは相反した本音がぐるぐると胸中を渦巻く。
 今度は微塵も揺れやしないその肩に触れるのが怖くて、車窓から射し込んだ月明かりを反射して静かに瞼を閉ざした顔が美しくて、運転席から身を乗り出してそっと唇を重ねた。
 たった数時間ぶりのキスなのに、互いの吐息が混じり合う気配は無かった。乾いた唇から、儚くも柔らかい温もりが伝わる。
 そこで漸く彼の鼓動が止んだ事を実感して、生温い雫が堰を切ったように頬をぽろぽろと滑り落ちていく。
 滲んだ視界に溶けゆく大好きな人の姿をどうする事も出来ず、ただその途方もない無力感に咽び泣いた。
「っ……ごめん、ごめんね、智くん――」
 何度その名前を呼んだ所で、返事が返ってくる事はない。分かってる。しっかりとそう理解しているはずなのに、頭の中も、心の中も、全てが灰色で��り潰されたかのように滅茶苦茶だった。
 計画した時は恐ろしいほど冷静で、名前と財産を使えばすぐに手に入る錠剤をコーヒーに混ぜて、智くんに飲ませれば良い、と。そんな悪魔のような囁きに流される一方で、本当はこの人を幸せにしたかった。
 そして、それが叶うならば、自分の手で。周辺の人に隠す事も無く、沢山の祝福を両腕で��足らないほど抱き込んで、幸せそうに笑う彼が見たかった。
 もし、理解者が一人でも居たら――それこそ、俺と彼が心から大切にしている人達の内たった一人にだけでも、この関係を素直に打ち明けて、受け入れて貰えたなら――どれだけ智くんは、喜んでくれただろう。
 いつかは絶対、なんて思っていても実際に行動する事は出来ずに、その所為で自由だったはずの彼を次第に縛り付ける事しか出来なくなって行くこの関係が、苦しくて。時折目を伏せて、諦めたように「それでも良いよ」と常に俺の意志を尊重してくれる智くんが、愛しくて。一方的に別れを告げたとしても、そう言ってくれるのが端から分かっていて、結局執着心を捨てる事が出来ずに此処まで来てしまった。
 幸せに包まれた後で襲い来る息苦しさに、耐えられなかった。
 自分だって表向きの関係を作っていた癖に、自分の知らない所で智くんがそういった愛を象る事を、やがてそれが契りとなって貴方を奪い去って行く事を許せなかったんだ。
「ねえ。こんな俺と一緒に居て、貴方は幸せだったのかな」
 ほんの少しでも、幸せに出来て居たんだろうか。
 どうせ将来が約束されていないなら朽ちるまで想えば良い、と。そう思っていた物が身を結んでしまえば、より一層深い幸せが欲しくなって、確約のない未来なら奪ってしまえば良いと、とうとう貴方自身を手に掛けてしまった。
 それで得られると思っていた幸せは、俺達が定められていた未来よりも不確かな物だったみたい。
 ほんの数時間前まで確かに色付いていたはずの幸福なんか今や見る影も無くて、胸の内にはただ底なし沼のような空虚感が居座っている。そこは、貴方の居場所だったのに。
「俺が居ないと本当にダメだなぁって、叱ってよ」
 次々と零れ落ちた涙が、座席のシートを点々と深い色に染めていく。そんな中で幾ら嘆願したって、智くんは穏やかに目を閉じたままそこに居る。
 状況を理解しても尚受け入れる事は出来ずに、頑なにペンを握ったまま投げ出されていた手を取って、仄かに灯っている温もりに追い縋るようにして頬を擦り寄せた。先程より低まった体温に、いずれ冷めゆく物なのだと解ってしまうのが虚しくて、悲しい。
「……貴方は、最期に一体どんな絵を描いてくれたの?」
 何でも良いから彼が存在していた痕跡が欲しくて、大切そうに膝の上へと置かれていたスケッチブックに手を伸ばす。
 智くんの事だから、使えるのがたったの二色だけでも、きっと綺麗に風景を写し取っているに違いない。
 そう思って開いた一面には、一緒に見たはずの夜空の���は描かれていなくて――。
「……ねえ、こんなの聞いてないよ」
 嬉しそうに夜空を見上げる俺の横顔と、それを彩るようにして少しの風景が描かれていた。その紙面の端には覚束無い筆跡で、『幸せ』とタイトルが添えられて。
 それから、恐らく一番最初に着手したのだろう。向かいの頁には、くっきりとした文字で長々とメッセージが書き残されていた。
 * * *
 ――翔ちゃんへ。
 俺は今から貴方の似顔絵を描こうと思います。いつだったか、最初にデートをした時みたいに。似てるかどうかは分からないけど、完成品は隣にあります。もし似てなかったら「全然似てないよ、ちゃんと描いて」って、叱ってね。……いや、優しい翔ちゃんの事だから、そんな事言わねえかな。あの日みたいに、「俺こんなにイケメンじゃないよ」って言うのかも知れない。結構長く一緒に居たつもりだけど、全然分からねえや。
 ところで。翔ちゃんがずっと何かで思い悩んでいた事を、俺は知ってます。多分、今度はドライブでもしようって提案してくれたあの時から。
 そして翔ちゃんを悩ませてる原因が、俺との事なんだろうなと気付いたのは、本当につい最近。考え事をする時に唇を触る癖、昔から変わらないね。ずっと一緒に居たのに、今まで上手く寄り添ってあげられなくてごめん。
 気付いた後で、もしかして一般的な恋人同士と違って将来性が見えない俺に嫌気が刺したのかな、とか、単純に冷めたのかな、とか。そんな事を沢山考えました。今度のデートで別れを切り出されるのかなって。そう思ったら、デートの約束なんて忘れた事にしてやろうって、いつになく無い頭を捻って捻って……。子供じみてるけど、本当に色々考えたんだよ。
 でも、実際に合間を縫って会った時の翔ちゃんは、俺に優しいキスをして、欠かさず好きだよと言ってくれて。その内、もし別れを告げられても翔ちゃんの幸せに繋がるなら良いや、と。そう思える所まで来ました。だから、どうせ最後のデートになるなら一番思い入れの強い場所にしようと思って。
 翔ちゃんの手を取った時から、離れ離れになる未来なんて考えようともして居なかったけど、そんな風に思える位に翔ちゃんの事が好きだよ。これを渡せる時が来るのか、来ないのか、離れるなら、一体どんな形でそうなってるのか。全然想像つかないけど、俺はこの気持ちだけでも幸せに生きて行けるんだと思います。現に今だって、幸せで仕方ないんだよ。
 翔ちゃんは、俺と一緒に居て幸せだった? ……ほんの少しでも、そうである事を祈ります。
 追伸――幸せそうに俺を見ている翔ちゃんの顔、やっぱり好きだな。
 大野智より。
 * * *
 胸にぽっかりと空いてしまった穴を埋めるように、何度も何度も智くんの言葉を反芻する。そうして全てを読み終わる頃には空が白み始めていて、スケッチブックの上にぽたぽたと涙が滴っては文字を滲ませていく。
 智くんが残してくれた物を汚してしまうのが嫌で、表紙を閉じたそれをぎゅっと懐に抱き込んだ。
「違う、全然ちがうよ、」
 本当に優しいのは、俺なんかじゃなくて。
 何にも気付けなかったのは、智くんじゃなくて。
 言いたい事は沢山出てくるのに、息が詰まって声を���す事すらままならない。
 手を伸ばせばすぐに触れられる距離に居るのに、留めどなく溢れ出てくる苦しさを、愛しさを伝える相手がもう生きていない事が、こんなに辛いだなんて知らなかった。
 もし意識を失った先で、同じ場所に辿り着けるのなら――智くんに、たった一言でも良いから言葉を返してあげたかった。
「ごめん、ね、……智くんを、一人にはしないから」
 その一心で呟いた声が震えるのは死への恐怖心からなのか、愛する人をこの手で殺めてしまった業が深い自身への恐怖心からなのか。
 推し量る事など到底出来ない感情を振り払うように、上着のポケットから取り出した錠剤を歯で割って、一思いに冷めたコーヒーを煽った。
 左手にはペンを掴んだままの智くんの右手を、ひたすらに強く握り込んで。
 
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zuidou-blog · 8 years ago
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エレウテリア 第五話
Conte エレウテリア Ghost and Insurance 第五話 「DON’T TRUST ANYONE OVER 30」 遊園地廃墟の夜が深い青に落ちていく。月明かりは木々を透過して注ぐ。海底の冷たさを等しく全員へ示す光に命ある総ての者は押し黙る。その身を闇に引きずり込まれないように。反対に騒ぎ出す者等。インサニティ。ルナティーク。月に憑かれて踊る魂の際限ないダンスの果てには神聖な狂気の世界が待つ。湖面に映るぐにゃぐにゃの時間。一時も落ち着かない生活がやってくる。生まれ持った音のボリュームには個体差がある。シューゲイズに惹かれるEDM。フォークソングとぶつかるポジティブ・パンク。ソウル・ミュージックとジャズが手をつないでニューウェーブを握りつぶす。 トイレの割れた窓ガラスをオバケが踏むと小気味良い感触が靴の裏から全身を伝わった。 「男��トイレってこんな感じなんだね」 「そうだよ」 驚くべきことに水道はまだ通っていてホケンが蛇口を捻ると腐ったような臭いの水が勢いよく飛び出し止まらなくなった。呆然として半笑いでオバケを見、疑問に感じた部分を混ぜ返す。 「“そうだよ”?」 「男とよく夜の公衆トイレで」 「そんなことだろうと思った!」 『暗黒日記二〇一六』執筆中の少年は個室で言いがたい感覚に襲われていた。清沢洌にちなんでキヨサワと呼ばれることになった彼がトイレに駆け込もうとすると当然のように少女二人もついてきた。「気にすんな」と言われても無理というものだったが彼史上最強クラスの便意と長時間に亘る格闘をするうちに無理ではなくなっていった。ボロボロの木の板一枚挟んだ向こうにいる彼女達をいつの間にか戦友のように感じている。下卑た冗戯も戦争映画の音声に聞こえ、敵国へ勝利を納め扉を開けた時彼の心には密かに二人への親愛の情が生まれていた。暗いのは好都合誰か人がいたとして姿を見られる危険は日中より少ないと三人は園内を彷徨う。突入する建物には必ず生活感があることに驚いた。廃墟を棲家にしている人々がいるのだろうか。いるとしてそれはどんな種類の人間だろう。山奥で隠遁生活をしなければならない集団。カルト宗教、指名手配犯、ホームレス……。何にせよ安全で善良な人物が暮らしているとは思えなかった。予感は的中した。明け方湖の側で発見した第一村人は遠目にも危険人物らしい相貌である。全裸で逆立ちをしながら詩の朗読をしていた。好きな作者の物が結構あったのでコイツは危ないとオバケは感じたのだった。 「あ、所長」 「所長?」 「あの人がここの総責任者なんだ」 「つまりアレをやれば我らの勝利……?」 「待って待って待って」 叢を分けて飛び出すと逆立ち全裸は華麗にバク宙を決めて二足歩行体勢に戻った。恥という感覚がとことん抜け落ちているようだ。衣服を纏おうとは欠片も考えぬ素振りのまま仁王立ちでオバケを迎えた。 「君は……新しい世話係だったかな。早いね。もう辞めたいっていうのか。よし。分かっているな。今日一日生き延びることが出来ればここから出て山を下りる権利が与えられる。死んでしまえばそれまで。それがローズバッドハイツ従業員のルールだ。では始めようか」 「イエーイゲームスタートふっふー!」 オバケが茂みに戻るとホケンとキヨサワは同時に彼女の頭を力いっぱい��いた。 「だって……何あのRPGの敵対モブみたいな発言!?字幕見えたわもう!」 「いきなり出ていってどうするつもりだったの」 「本当に殺す気でいた?」 「そういう訳じゃ…..。上手くすれば状況打開する道につながるかなーと」 「で、上手く出来ましたか勇者オバケよ?」 「あーうーん、山下りる権利?くれるって」 「すごいじゃん!」 「うん、うん、でもな、あのな、今日一日、生き延びられたらって、言ってた」 「どういうこと?」 「うーんとうーんとああいうことかな」 無線機で連絡を取り逆立ち男は大量の人間を集めていた。真っ赤なツナギを身につけた集団のその数はどこに隠れていたのか不思議な程。最悪な状況が自分で思っていた以上に行く所まで行っていたことにオバケが気付いたのはこの時だった。逃げ延びられるはずもなく彼女達は山を下りるどころか頂上へと連行されていく。道々見えたのはこの廃遊園の全景。過酷な労働の果てに息絶えた亡者へ死してなおその手足を働かせることを強制する死臭噎せ返る工場。圧倒される物々しさは美の領域にまで達していた。ぜんたいここは何なのか。この先に何が自分達を待つのか。ぞくぞくと心臓を震わせるのは恐れだけでなく期待も大きいのであった。 薔薇。薔薇。薔薇。薔薇。薔薇。山頂を支配する無数の薔薇の花の群生。人の営みも動物達の食物連鎖も虚しい遊戯にしか思えなくなるほどただそこは薔薇園だった。薔薇が薔薇のみしか必要とせず薔薇のために薔薇は存在し薔薇のため薔薇が死ぬ。自家中毒の桃源郷。こんなところに連れて来られてはいよいよ死ぬしかない気がした。だが不思議と怖くなかった。切り刻まれ腐り果てて堆肥になったら養分としてこの美しい薔薇の一部になれる。それは本望かもしれない。私が生まれたのはきっとそんなふうに綺麗なものになるためだったんだ。 「やあ」 薔薇はとうとう中世ヨーロッパの貴族階級のような声で口を利いた。遮るものの何もない場所で声はどこまでも響く。 「呆気なかったな、非行少女たち」 そして薔薇は人のかたちを模した。荊のベッドから身を起こす人影がある。美輪明宏がまだ美輪明宏になる以前の美輪明宏のような美青年が薔薇の海から生まれた。見覚えがあるように思ったのは恐らく究極の美というものは原始的な記憶領域に訴えかける作用を有するからだろう。蛇に睨まれたように身体が動かせずにいると青年は彼女らに自ら歩み寄った。コミュニケーションを取ることが却って困難になる距離まで近付いて黙ったまま観察する。彼のあまりの顔の近さにオバケにはそれが昆虫のような異星人のような巨大な目玉を持つ怪物に見えた。彼女らを連行した赤ツナギの一団が丘の上に立つ建物から出て来た別働隊から何事か報告を受けている。そして薔薇から生まれた青年へ報告は受け渡された。 「君たち….スタッフじゃなかったの?」 アゴ、というより両のエラに手を入れられ顔を持ち上げられたオバケは改めて目撃した青年の美しさに戦く。同時に気付いたこともあった。彼の目には何も映じられていない。目の前にいる私を、耳元の部下を、恐らく人間として見ていない。心を開いていない目。あの芸能プロダクションの人間と同じ、溶けたプラスチックの目。途端に強烈な嫌悪感に苛まれた。それは青年に対してだけでなく今まで全てから逃げ続けてきた自分自身に対しても同様だった。彼の澱んだ目の中でオバケの消したい過去たちが溺れてはまた浮上する。 「わっ!わー!何ですか、やめっ、あの、何ですか!?離してください!」 赤ツナギ達がホケンを拘束して運ぼうとしている。キヨサワはどうなったのかと探すと彼は赤ツナギの一人からいけないことをした子供に諭すように叱られていたが彼自身はどこか全く別の方向を見ている。それに対し赤ツナギは注意せず聞き手のいない説明会を続けていた。憶えている外の景色はこれが最後だ。神経症的に空間を埋める薔薇。濁ったプラスチックの視線。拐われる少女。遠くを見つめる少年。今となってはどれ一つとして現実感がない。私は始めからここにいて全部ただの妄想だったのかもしれない。 罅割れの激しいサイレンが鳴った。曜日の無い一日がまた始まる。人ひとり埋もれる高さの雑草が生い茂る中庭を伐り開いた空き地にはブルーシートが敷かれ、黒ずみ欠けたアイスクリーム屋の白い椅子とテーブルが並ぶ。キャスター付きホワイトボードは黒板を手前にある手術台は教卓の役割を果たしていた。現実社会という戦地から疎開した青空教室。しかし飽くまでも日本的な詰め込み型教育で教えられる科目はただの一つだった。危険薬物はその人の四肢を腐らせ五感を狂わす薬である。自ら進んで人間でなくなりたい者は使えばいい。日々突き刺される言葉の烈しさは薬物の刺激に慣れた「生徒」への配慮なのか家畜を見る目をした赤ツナギの憂さ晴らしなのか。小学校卒業以来、中学は週に一度作文を提出することで足りない出席日数を補完、高校は開き直って呆気なく中退、とまともに学校という物へ通った経験がなかったのでアタシはこの歪んだ青空教室を楽しんでいるきらいがあった。大学ってもしかしたらこんな感じかなと見当違いな想像もした。 それは長い梅雨の明けた7月のよく晴れた日だった。青空薬物リハビリプロ���ラムは日一日と脱落者が増えていき生き残ったのはアタシと80年代のロックスター風にウェーブのかかった茶髪を長く伸ばした男だけにいつの間にかなっていた。荒くれ者然とした彼とは一度だけ話したことがある。ノートを見せて下さい、という意外にも丁寧な口調に面食らってしまい返答出来ずにいると俺のも見せますから、といらない交換条件を提示してきた。びっしり書き込まれた文字はタイプされたような美しさで、しかも見易く配置された内容はところどころ図に表してあるほどのこだわりよう。呆然と見惚れてしまったのを覚えている。よっぽど本気なんだろうなと思った。彼にとっても今日は待ち焦がれた日だと思う。予定ではいよいよプログラム最終日なのだ。 「おめでとう!」 薔薇の花。何週間、もしかしたら何ヶ月ぶりに見た青年は変わらず美しく息をしていた。いつもの常に苛ついている太った赤ツナギは萎縮して陰に隠れていたがその飛び出した腹部まではへこんでいなかった。残念。青年は笑顔を全く崩さないままにバッグからあるものを取り出す。 「最終試験だ!僕のモットーは“平等”だからね!このローズバッドハイツから出て行こうとする人には従業員にも患者にも同じ条件を出す!」 患者。アタシは患者だったのか。ずっと自分が何なのか探していた。子供にも、大人にも、学生にも、アイドルにも、狂人にも、誰かの大切な人にも、私は結局なれなかった。薬物リハビリ施設で治療を受ける哀れな患者。私という動物のつまらない正体を簡単に暴かれたせいでなんだか笑い出してしまいそうになった。 「今日一日生き延びろ」 壊れた機械のねじ穴を永遠に塞いでしまうような絶望的な清々しさで彼はそう言って次の言葉を続ける。 「けどクリーンなスタッフ達をわざわざクスリ漬けにするわけにはいかないし、ろくに運動もしてない君たちを走り回らせても仕方ない。彼等と君たちには別の生き残り方を目指して貰わなければ。そうだろ?そうしないと平等にならないもんね?」 素人目にも凄まじい高級品だと分かる黒い革の手持ちバッグから出て来たのは、一組の注射器と、粉末の包みだった。綿の飛び出した緑の手術台ーーそれは先述の通り教卓なのであるーーにその二つを見せつけるようにゆっくりと置く。 「これが何か分かる人ー?………..今日一日、君たちはここに居てもらう。それだけ。それが最後のテストだ。勿論、ここまで来た君たちは、目の前にかつてお世話になったおクスリがあるからって貪り打ったりはしないもんね。じゃあね!ああ寂しくなるなあ!一気に二人もローズバッドハイツを卒業しちゃうなんて!……….日付が変わったら、お迎えが来るよ」 金縛りなんて比じゃなかった。これからどんなに最強最悪の大悪霊に取り憑かれてどれだけおぞましい金縛りにあったってすぐに自力で解ける気がした。幽霊のたぶん充血して瞳孔の開ききった目を力いっぱい睨み返しながら、そいつがたまらず成仏してしまうまでやり返せる自信があった。もし、ここで、この場所で、身動きが出来たとしたら。体感で一時間が過ぎてやっと、骨の軋む音を頭蓋骨に爆音で反響させながら首を回して、隣にいる彼の様子を見ることが出来た。彼も同じく硬直してしまっていたが一部だけ激しく運動している点がオバケとは異なる。何かが宿った人形が髪をのばすように。聖像が血涙を流すように。微動だにしない肉体から絶えず滝の涙が流れていた。涙腺が心臓として脈打ちいち早く緊張を氷解させる。不安や恐れや怒りの入り混じった彼の姿を目で追っていると体の動かし方を思い出していくようにしてオバケも徐々に徐々に震える手足を命令に従わせていくことが出来るようになった。天敵に遭遇した動物と食糧を発見した動物。彼等の中で目まぐるしく入れ替わり立ち替わりする欲求の種類はまさに野生のそれであった。手術台に載せられているのは人生を破壊する道具である反面、どうしようもなく必要としてしまう存在でもある。二人とも一言として言葉を発せないうちに日は傾こうとしていた。時間が泥のようにまとわりつく。呼吸をするほど息は苦しくなる。酸素が猛毒だった地球最初の嫌気生物の気分。 「限界だ!」 ロックスターもどきの彼はチューブで腕を縛り血管を浮き立たせる。粉末を炙って透明な液体にし注射器で吸い取ったら一度ゆっくり押し出して針の先を2回はじく。そういえば、この動作への憧れがアタシを壊していったんだっけ。辛い時間を埋めてくれた映像。トレインスポッティング、ウルフオブウォールストリート、時計じかけのオレンジーー。映画はどんなダメ人間も許してしまう魔法だ。どれだけ人を嫌い嫌われるやつでもスクリーンは分け隔てなく愛してくれる。必死で、投げ遣りで、幸せで、不幸で、孤独で、愛し合っていられた。その中のどれ一つとして本当には味わったことのないアタシと画面の中のキラキラした彼等彼女らは全てを共有してくれた。おかげでアタシはハイティーンにして既に老境に入ったベテランジャンキーだった。灰彦店長の贈り物はだからきっかけでしかなく、あれがあっても無くてもどの道アタシは同じような人生になっていたと思う。だから、この、今まさに長い断薬生活に別れを告げようとしている同志のロン毛チリチリなんちゃってロックヒーローには、無意味な永遠の中に逆戻りして欲しくない。オバケは男に背後からしがみついた。注射針はもう彼の皮膚を突き破っていたが腕を振るだけで引き抜けたことから血管には達していない確率が高い。海岸線に沈み始め��夕陽が黒ずんだ濃いオレンジを二人目掛けて投げ込んだ。弾けた光はそのまま部屋中に広がり波打つ。 「だっ……ああ!も、さ!?うああっ!」 言葉が何一つ形にならなかったことで自分が泣いていることを知った。言いたいことが沢山あった。本当にいいの?じゃあ何で今まであんなに頑張ってたの?ここを絶対に出たい理由があるんでしょ?勝手な想像だけどさ、何が何でももう一度会って謝りたい人がいるんじゃないの?じゃなきゃ、きっと人間はそこまで自分の為だけに命がけにはなれないでしょ?全部ただの呻きにしかならなくて悔しくてひたすら彼の背を叩き続けた。這いずりながら彼はまだ注射を打とうと手を伸ばす。いっそう強く呻いて背中を叩いた。何度も何度も何度も。それでも彼は諦めず震える手を夕陽に透かしていたが、やがて抵抗をやめた。それから二人で馬鹿みたいに泣いた。悲しさを、悔しさを、全て流し切ろうとするかのようにいつまでも泣いていた。顔中ドロドロになって乾いてまたドロドロになって乾いてを3回繰り返した頃にはやっと少し落ち着いてきた。外はもう暗くなって、警備担当の赤ツナギの持つ懐中電灯の光だけが何の明かりもない敷地外を不気味に漂っている。 「あれやらない?ミーティング」 返答する以前に彼の顔の地殻変動っぷりが笑い事じゃなったのでポケットティッシュを差し出した。ありがとうと恥ずかしそうに呟いたあと顔を隠すように拭きながら彼は言う。 「もう二度とやることも無いだろうから記念にさ!」 白と黄色のまだらになったティッシュの塊をゴミ箱に捨てて戻って来がてら小さく引き攣った笑顔をオバケに向ける。彼女も自らの顔の汚れを拭き取ることでどうしても表れてしまう笑顔を隠していた。かつてない和やかな空気の中最後のミーティングは始まった。薬物依存の人間同士が集まって自分の薬物体験を発表し合う。そうすることにより薬物の恐ろしさを俯瞰的に感じ取るのがこの「ミーティング」の目的である。だがオバケはここで行われるプログラムの中でこれを最も苦手としていた。薬物についての話を集中して聞いていると頭の中が混沌としてくる。想像力が制御を失いどこまでも広がっていってしまう。アマゾン奥地では船で山を越えるんだ!先住民と戦争を!ジークハイル!フィツカラルド!いやザ・ダムド!ヘルムート・バーガー!ルキノ・ヴィスコンティ!地獄!老人という怪物!プレタポルテそしてYSL!YSL!称えよ我らがイヴ!我らがイヴを称えよ!ハイル!ハイル!ハイル!バスキアみたいなスライ・ストーン!さらばさらば藍色の青春時代!ヴィーナスは毛皮を着て陽射しがサングラスのマイノリティ!結論はシルクのバナナ!ーー喉が渇いた。砂漠にいや火星に置き去られてもうソル200くらい経ったような猛烈な喉の渇きでいつも幻覚は止むのだった。 「ごめん。付き合わせちゃって」 窓とは逆の壁を埋め尽くす段ボールの中から500mlの水を一本、彼が差し出していた。この施設には満足な物資こそないが絶えず喉の渇きを訴える入居者達の為に水だけは大量にあるのだ。ダム一つ分くらいありそうだといつか誰かが冗戯を飛ばしていたがあながち目測は外れていないのではないかと思う。ローズバッドハイツ。遊園地廃墟の姿を取った薬物リハビリ施設は「水」と「薔薇」の天国なのだ。 「大丈夫、じゃないけど大丈夫。何もしないよりはこの方が楽だったと思うから、気にしないで」 「そっか。今何時だろうね?」 「10時くらい?たぶん」 「そうだよね。ああ……さっきは本当にありがとう。あのままじゃ本当に何のために頑張ってきたのか、全部台無しにするところだった」 オバケが会話を続けられなかったのはミネラルウォーターをがぶ飲みしていたせいだけではなかった。もう一本さらに一本と二桁を超える数のペットボトルを要求してもまだ渇きを訴える彼女は彼にはとても見ていられない状態にあった。獰猛な肉食動物のように目をギラつかせて補給したさきから摂取量を遙かに凌ぐおびただしい水分を汗として放出している。温度感覚が狂い冷え切った室内にも関わらず暑さに喘ぐオバケ。支給品の病的に白いブラウスが湿って上手く脱げず彼女は男に助けを求めた。ボタンを全て外されると腕を抜くのも待てず彼女はホコリや髪と混じって床に転がる注射器へ飛びついた。痙攣しながら目的を果たそうとする。何が正しいのだろう。どこで間違ったのだろう。何故今俺はここで破滅しようとしている女の子をただ黙って眺めているのか。男は思う。良いじゃないか。俺には関係ない。後一時間足らずで決着はつく。俺は勝って、彼女は負けた。それだけだろ?何もするな、何もするなよ。お願いだ。 人を狂わす月の光がまたこの場所を深い深い海底に沈めていく。水槽の中に淡く揺れている海月のダンス。水面に浮かぶ薔薇の首。一組の男女が大麻の甘ったるい匂いを全身から放ちながら一糸まとわぬ姿で乱れている。人間離れした美しさの青年は普段の余裕溢れる態度をいくらか崩し目を細めて二人を眺めていた。翌朝、彼等は無論ハイツを退去することなど許可される訳もなく特殊患者向けのエリアへ移されることが決まった。ただ、0時に出会うべきだったところを翌昼12時に初対面した「お迎え」は意外な人物が務めていた。灰彦、と所長は彼女を呼んだ。 次回 第六話 「駅は今、朝の中」
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