Tumgik
ssk72g4-blog · 6 years
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黒百合賛歌02
【黒子のバスケ×クトゥルフ神話/脱出系ホラー 2話】
詳細はこちら(https://ssk05131500.wixsite.com/sskymcp/blank-8)
以下本文
 少女は、水面の上に立っていた。水の上だというのに身体は沈むことも濡れることもない。  ――これは、夢だ。  そう直感的に理解する。理解した次の瞬間、少女の眉間に深い皺が寄り、舌打ちが零れる。  ――これは、私の夢じゃない。  水を踏み抜くように脚を振り下ろす。しかし脚は水の中に沈むことはなく、ピチャリと小さな飛沫を上げるのみ。  ああ、吐き気がする。  深淵の縁から自分を覗き込むものがいることを少女は知っていた。  一刻も早く夢から覚めてしまいたい。けれど、少女を"此処に招いた存在"がそれを許しはしなかった。 「お前は誰だ」  水面に映る少女の唇が動き、少女自身に問いかける。 「お前は誰だ」「お前は誰だ」「お前は誰だ」「お前は誰だ」「お前は誰だ」「お前は誰だ」「お前は誰だ」「お前は誰だ」「お前は誰だ」「お前は誰だ」「お前は誰だ」  水中から海草が伸びて少女の脚を絡め捕る。次第にその数は増えて行き、少女を水の中へと引き込もうと脈打つ。  その時、少女の背後から無数の触腕が伸びる。鉤爪が少女の頬を撫で、無定形の肉の塊についた円柱の顔が引きつった笑い声を上げた。  少女は短く息を吸って――――。
 瞬きをした、ほんの一瞬。目を閉じて、開く。たったそれだけの動作を行っただけで、少女はそれまでいた場所から切り離された。  白く、四角い空間には同じく白い机と椅子が置いてある。  天井も、壁も、床も、全てが白い。少女が着ていたはずの服も、いつの間にか制服へと変わっていた。そして、腕の中にはいつも少女が使用しているスクールバッグ。  部屋全体を見回せば、どこかの学校の制服を着た、カラフルな髪をした少年らが倒れていた。その中に知っている顔はない。  部屋の出入り口は一つ。白い扉のみ。他には窓も何もない。気になるとすれば、天井に設置されている映写機とテレビくらいだろうか。部屋の殆どが白で埋まっているなか、透明なレンズと野暮ったさを感じさせる大きなテレビがやけに存在感を放っていた。  少女は黙って椅子を一つ手繰り寄せ、壁際へと持っていく。その椅子に腰を下ろして、バッグの中から取り出したファイルを読み始めた。
―――――
 最初に目を覚ましたのは、赤髪の少年だった。大柄な彼は、見慣れない場所に不思議そうに首を傾げている。  暫くして異変に気付いて我に返ったのか、周りで倒れている他の少年たちに声をかけ始めた。  赤髪の少年の呼びかけで、少年たちは次々に目を覚ます。次第に「うおっ!?」やら「なんだこれ!?」やらと混乱するような声も聞こえ出す。  おそらく、ここに閉じ込められている主な目的は彼らに関係することだろう。彼らを呼んで完結するはずだった空間に、期せずして自分が引き込まれたのだと要因に想像がついた。  では、一体誰が、どんな目的で?  それを知る為に#name2#はここに残っている。その気になれば、この空間から抜け出すことなど容易なことだ。自分にはそれだけの知識も、技術も、装備もある。  敵を知らねば、根本から断つことは出来ない。  自分を巻き込んだ目的はなんだ。外道の本か、身体か、それとも我が主たる神に抗う者たちか。  我が主、全てを焼き尽くす生ける炎、輝かしき炎の精。全ては御身の前に傅く為に。  うっとりと想いを馳せる少女の横で、ブツリと何かのスイッチが起動する音がした。同時に映写機が白い壁に何かを映し出す。 『皆、無事だね?』  白い壁に映し出されたのは八つの画面。そのうちの一つは黒いまま何も映していない。  第一声を発したのは目が痛くなるような鮮やかな赤い髪に両目に異なる色を宿した少年だった。 「赤司!お前らもここにいたのか!?」 『ああ。これから各々の状況を確認する。ところで、大輝……そこにいる彼女は、誰だい?』 「!?」 「お前、いつからそこに」  赤司と呼ばれた少年の一言で、部屋にいる人間の視線が少女へと集まる。少女は何も答えない。 「オイッ!聞いてんのかよお前っ!?」  痺れを切らした青い髪の少年が少女の肩を掴む。否、掴もうとした。 「……最初から。それこそ、君たちが呑気に寝転けている時から私はここにいたよ」  触れようとした手はバチッという鈍い静電気に似た何かに阻まれ弾かれた。漸く少女は顔を上げ、少年たちを見回す。 「随分と眠り込んでいたけど、床はそんなに寝心地が良かったの?」  少女がうっすらと口端を上げる。どこか小馬鹿にしたような色を含んだその目に、少年たちは言葉を詰まらせた。
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ssk72g4-blog · 6 years
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黒百合賛歌01
【黒子のバスケ×クトゥルフ神話/脱出系ホラー】
詳細はこちら(https://ssk05131500.wixsite.com/sskymcp/blank-8)
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「ゲッ!またそんな気味悪ィもん読んでんのかよ」 「気味が悪いとは失礼な。これは祥吾の一生分の稼ぎを注ぎ込んでも手に入らない程貴重な文献だよ?」  とある学校の屋上で、男女の話し声が響く。片方は使い込まれたファイルを眺め、うっそりと目尻を弛ませる白髪の少女。もう片方はコーンロウのような髪型にピアスを複数開けた不良のような少年。  この時間帯は通常授業が行われているはずなのだが、二人の言動から察するに、屋上で自主休講するのが常になっているらしい。  ファイルの中身から視線を逸らさない少女を見て、祥吾と呼ばれた少年は呆れたように頭を掻き毟り、少女の隣へと腰を下ろす。 「なーにそれ、祥吾にしては珍しいもの持ってるじゃん」  隣に座った少年に気付いて視線を上げ、その手にあるものを見て、少女は薄く笑みを浮かべた。くすくすと笑いながら、雑誌を指先でつつく。 「あ?……別に深い意味はねぇよ。俺の目の前でアイツらが載ってるモン広げてっから没収しただけだ」 「祥吾は本当にこの人達が好きだよね。なんだっけ……汽笛の世界?」 「どんな世界だそりゃ。奇跡だよ、キセキの世代。くだらねぇスポーツの天才連中の集まりさ」  ぺらりと少女の目の前で捲られたページには、カラフルな髪の色をした同じ年頃の少年たちが写っている。どうやら、高校バスケ界が熱い!と銘打たれての強豪校の特集らしい。  きらきらと輝く少年たちの姿は、きっと多くの人を惹きつけてやまないのだろう。 「そうそう。キセキだ、キセキ……随分安い奇跡があったものだよねぇ」  嘲笑うわけでもなく、本心から感心したように少女が呟き、どこか悩ましげに長い息を吐き出す。  多くの言葉が氾濫する昨今で、大衆の興味を引くために過大表現をすることは常のものとなってきている。致し方ないと分かっていても、世間と少女の価値観の相違を隔てる壁は高い。 「十年に一人なんて割りと頻発していると思わない?」 「お前に言わせりゃあ十年なんて短いモンかもな」 「つれないこと言わないでよ。でもそっか。十年に一人の天才が五人、か……ふーん」  少年が開いているページの煽り文を読んでクッと喉を鳴らした。おかしくてたまらない、そんな様子で、少女は首を傾げた。 「コイツらに興味でも湧いたか?」 「冗談を言わないでよ、祥吾。私は天才と称される人間があまり得意じゃないんだから」 「珍しくねぇか?お前がそう言うのは」 「こういう人間はね、すぐ錯覚してしまうの。自分こそがこの世の頂点だって」 「あー……」 「別にね、余所でやる分には一向に構わないんだ。私だって一々それを気にかける程暇ではないし。けど、それを目の前でやられたら……」  ぐしゃりと雑誌の一ページが歪む。少女はその口元に笑みを携えたまま、静かに目を細め――。 「そもそも人間と言うのは食物連鎖の頂点に立ったつもりで他の動物や植物を蹂躙しては偉そうにふんぞり返って自分は強いと勘違いをする。自然を壊しながら科学という自然に逆らった力を生み出して全てを支配したようなつもりになる。 人間が生きとし生けるものの頂点か?宇宙の根本たる存在?答えは否!この世の全ては我が主たるクトゥグア様を始めとする旧き神々が生み出した宇宙の一部に過ぎない!何故それを理解しない?何故神様を否定するの?それは自分が矮小な存在であると認めたくないという概念を人間誰しも持っているからでしょう。邪なる神々の御前では、私たち人間なんて何の力もないの。それこそ路傍の石と変わりない存在だというのに――「ストップ。分かったから落ち着け」む……」  肩を叩くと同時にひょいと雑誌を取り上げられて少女は不満そうに少年を目で追った。その視線に気付き、少年は呆れ混じりに少女の頭を撫でる。少年にとって、大抵の人間がぞっとするであろう少女の"これ"は日常的な発作にすぎなかった。 「俺も不良だなんだって言われてっけど、お前も大概ブッ飛んでるよなァ」 「否定はしないよ。自分が普通だとは思ってないし」  話を遮られるのもいつものことなのか、少女は仕方がないと言わんばかりに肩を竦めて口を閉じた。心地良い風が二人の頬を掠めて空へと抜けていく。 「……そう言えば、祥吾。明日から合宿がどうのと言っていなかったっけ?」 「あー……そういやそうだった。クッソ、ダリィな」 「何の合宿ー?面白い?」 「バスケだよ、バスケ。優秀な選手集めてウィンターカップの予選前にそれぞれの地区で強化合宿するんだとよ」 「ご苦労様です」 「ホントだよなァ……サボるか」 「祥吾の自分の欲求に素直な性格、私結構好きだよ」 「サボリ癖を好きだとか言うのはお前くらいだぜ」 「私も自分に素直だからね」  結局、屋上にいた少年と少女が午後の授業に出ることはなく、放課後になると二人揃って学校を後にするのだった。
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