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こんにちは。蒼月さんの文章がとても好きです。どの回も繰り返し読ませていただきました。いつかまた、このような連載を再開していただくことはあるのでしょうか?不定期でも、また蒼月さんのお話をこちらで聞けたらうれしいなぁと思っています。
ありがとうございます♪
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■ 新譜世界断片高倍率拡大図私的妄想投影機 10
耳栓代わりのノイズキャンセリングイヤホンを耳から外し、バッテリーが切れたスマートフォンをポケットからバッグに移して、あなたは交差点の喧騒、群衆の中の一人として、信号が変わるのを待っている。
あなたは視野を開いているけれど、何も見てはいない。
喧騒を成す群衆の中の一人として、青信号を待っている。
いつ変わるかわからない信号を待っている。
みんなが信号を待っている。
ふと、無音のような感覚がキミのもとに訪れる。
そして、あなたの目の前に、あの「世界」の粒子が静かに降ってくる。
たったひとつ。
あなたの目の前で静かに粒子が静止する時、
あなたはひとつの音を自分の中に聞いている。
とても純粋な、ひとつの音。
あなたの中で小さな音叉がひとりでに振動し、
あなたの内側ばかりか、あなたのまわりに広がってゆく。
そしてあなたは気付く。
群衆の一人ひとりがその人だけの、固有の振動を持つ、
音叉を持っていることを。
そしてあなたは気付く、
巨大なビルディングから、道を埋めるアスファルトまで、
街路樹から、その根元のささやかな雑草まで、
都市に隠された大地のそれぞれの構造体から、空をめぐる星々まで、
万物がそれぞれに固有の振動を発していることを。
あらゆる事物のあらゆる音程がホワイトノイズとなって
あなたを包み込んでいることをあなたは知る。
全ての音程をふくみ、あらゆる音楽、あらゆる声、あらゆる物音を取り出すことができるホワイトノイズの中心にあなたがいる。
しかし、あなたはあなたの音叉の音を聞き分けることができる。
あなた固有のあなたの音。
全ての情報をふくみ、あらゆる知識、あらゆる詩、あらゆる物語を取りだすことができる懐かしいホワイトノイズの中心にあなたはいる。
しかし、あなたはあなたの音叉の音を感じとることができる。
あなたという音楽の根源にあるその音を。
純粋なその音を。
あ、とあなたはひそかに声を発してみる。
そうして「世界」は動き出す。
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■ 新譜世界断片高倍率拡大図私的妄想投影機 9
私が書き連ね、あなたが命を吹き込んできた物語たちが今終わろうとしている。
私が書き連ねた言葉をあなたが読む時、あなたの中で声がしているはず。
あなたの中の声として、私が書き連ねる言葉は「世界」となり、
その「世界」の中には、さまざまな人が生きていた。
あなたの中には、私の中にあった「世界」とはまた別の世界が生まれていたはず。
あなたに意味付けられた「世界」、そこには音さえ響いていたかもしれない。
今、その「世界」の音が止む。
そう、「世界」は終わる。
あなたの生み出した「世界」の全ては、飛散した粒子のようにあわい記憶の断片としてゆるやかに渦を巻きながらあなたの周りを漂っている。
そう、その中には、あなたが生み出した私の声��残響さえ混じっているかもしれない。あなたが生み出した「私」という存在の残響が。
耳を澄まして欲しい。
囁きのような「彼ら」の声を。
「彼ら」を消すのはあなたなのだろうか?
それとも、
この「世界」を描いた、私なのだろうか?
私には判断できない。
あなたの伴侶でしかない「私」には。
しかし、これだけは言えるのではないかと考えている。
すまない。
語る前に、
「私」の「終わり」が来た。
さよなら。
粒子のゆるやかな渦の中には、もう、「彼」の気配はなかった。
あなたが持続させていた「世界」の粒子は、ひそやかに、一つずつ、消えていく。
一つずつ、
一つずつ、
一つずつ、
一つずつ、
そして、「終わり」が来た。
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■ 新譜世界断片高倍率拡大図私的妄想投影機 8
— あゆみちゃんの話 —
これは実話です。
🌿 🌿 🌿
あゆみちゃんの話をします。
あゆみちゃんは、私のいとこです。父の妹、つまりは私の叔母さんの一人娘、それがあゆみちゃんです。
私があゆみちゃんと出会ったのは、私がまだ充分に若かった頃のことです。
祖父の葬儀で、私の叔母さんが、久しぶりに郷里の私のうちを訪れることになりました。あゆみちゃんを連れて。
そこで、あゆみちゃんがわが家に到着する以前に、私は母から簡単にあゆみちゃんの説明を受けました。
あゆみちゃんには、前頭葉がないことを、私はその時ききました。
あゆみちゃんは、この世に来る時に、前頭葉を置いて来ることにしたらしいのです。
そんな面倒なものは、あゆみちゃんには必要なかったのだと思います。
ちなみに、あゆみちゃんのお母さんは、あゆみちゃんがこの世に登場する前にそのことを知っていたので、ちゃんとあゆみちゃんを登場させたというわけです。
ただし、あゆみちゃんのお母さんとあゆみちゃんのお父さんとの関係は、少々こじれたことになっているようでした。世の中には、前頭葉にうるさい人もいるのです。
しかし、私には、血の関係をやや煙たいものに感じていた時期でもありましたから、そんなことはおかまいなしでした。
私はいとこの中でもいちばん年長でありましたから、あゆみちゃんのお母さんがあゆみちゃんについていることが出来ない時、あゆみちゃんのお世話をするという大任を命ぜられたのでした。もっとも、あゆみちゃんに気に入られたらの話ですけれど。
さて、あゆみちゃんと会う日です。
あゆみちゃんとはじめて会った時、あゆみちゃんのお母さんは、
「あゆみ、この人が、○○にいさん。」と、私をあゆみちゃんに紹介してくれました。
すると、一瞬ののち、あゆみちゃんは、大きな声で、
「おにさっ!」と元気よく叫んだのです。
あゆみちゃんのお母さんは、少し驚いたようでした。
あとからきいてみると、あゆみちゃんが、誰かを特定するような言葉で呼ぶことはとても珍しい、とのことでした。
というわけで、それから三日間、私は「おにさっ」として、あゆみちゃんのお供をすることになったのです。
あゆみちゃんは、自分のことを「あーみ」、おかあさんのことを「まーま」と呼びます。それ以外は、たいてい「あー」か「うー」ですまします。経済的。そして、私は「おにさっ」です。
あゆみちゃんの一日の中での最大の難事業は「着替え」です。あゆみちゃんのお母さんが歌う「パジャマの歌」に合わせて、パジャマから普段着に、あるいは、普段着からパジャマに着替えるのですが、これが、大変です。この世はどちらかというと前頭葉寄りの世界なのです。だから、あゆみちゃんにも前頭葉寄り的な事柄が要請されてしまったりするわけです。
私は、その難事業を見ながら、この世の多くのことがあゆみちゃん向きに出来ていないことを痛感したのを覚えています。あるいはもしかしたら、前頭葉以外の部分の上手な使い方を忘れているのかも知れません。
それはともかく、あゆみちゃんのお母さんが歌うパジャマの歌は、その難事業が、すこしでもあゆみちゃん向けになるように手助けしてくれていました。私達家族は、みんなで応援しました。
さて、「おにさっ」である私の主な役割は、あゆみちゃんの相手をすることです。
その主な内容は次の二つ。
1.あゆみちゃんにおとなしくしてもらう。
2.あゆみちゃんによだれをひっこめてもらう。
言ってみれば、前頭葉寄り的世界の使者が私「おにさっ」の役目です。
1.に関しては、何の苦労もありませんでした。用意されている儀式が始まる毎に、あゆみちゃんは、私が用意したあぐらにすっぽりと腰掛けるのです。
あゆみちゃんを呼ぶと、「おにさっ!」と言って、あゆみちゃんはいそいそと私の所にやってきます。
そして、あゆみちゃんは、私のあぐらのくぼみの中にちょこんと座ります。
まるで、そこが、何千年も前から、今日、ここ、この時間に座るために用意されていたことを知っているかのように。
そのあゆみちゃんのやわらかい重さを、私は生涯忘れないと思います。
儀式が始まると、あゆみちゃんは一言もしゃべらずに、半分だけ口を開けて、じーっと祭壇の上のおじいさんの写真を見ています。まるで、その向こうにいるおじいさんを見るかのように。
そのうち、私���おにさっ」の「2」の役割がやってきます。
あゆみちゃんの口元から、きれいで透明なよだれの玉が、つーっと銀色の糸を引きながら、地球の中心に向かって伸びていくのです。
それは、実に美しい光景でした。長い時には、20センチほども伸びます。
光と液体とが輝きを織りなし、液体の粘性と地球の引力が絶妙なバランスを保ち、ゆっくりと透明な紡錘形のしずくが降りてゆくのです。
そこで私が「あゆみちゃん、ずっ!」とささやくと、あゆみちゃんは、「ずっ」という音のする刹那のうちに、その美しい物理法則の結晶をしまい込むのです。
それは、「魔法」でした。なにからなにまで。
嘘だと思うのなら、あなたも、試してみるといいですよ。そうやすやすと出来るものではありませんから。
ともかく、「魔法」を行使する時、あゆみちゃんはわずかにたのしそうでした。もしそうだったら、私もうれしいのですけれど。
三日の間、私とあゆみちゃんは、そうやって暮らしました。
私は、出来れば「ケッコン」して、あゆみちゃんと一緒に暮らしたいとさえ思いました。これは、本当です。でも、当時の私は、「収入もないし、そういう考え自体が傲慢なのではないか」と、やっぱり前頭葉寄り的世界の住人的考えを持っていました。
残念ながら、そのときも、いまでも、私は前頭葉寄り的世界の住人です。
別れは実にあっさりしていました。お母さんに抱かれたあゆみちゃんは、おかあさんに振られてバイバイと手を振って、ドアから去っていきました。正直言って、「おにさっ」という掛け声ぐらい掛けてくれたら……と思いました。私は、もう私の役目を終えていたのです。
それからずいぶん長い時が経ちました。
その後、あゆみちゃんの行方は洋として知れません。
しかし、私は、ときどきあゆみちゃんのことを思い出しては、救われるのです。
🌿 🌿 🌿
それからさらに歳月が経ちました。
私はここによい報告を付け加えることができます。
医者には「ハタチまで生きられれば……」と言われたあゆみちゃんでしたが、あゆみちゃんは今もお母さんとともに元気に暮らしているそうです。
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■ 新譜世界断片高倍率拡大図私的妄想投影機 7
「新譜世界断片高倍率拡大図 7」を私的妄想投影機に入力したら、こんなものが出力されてきた。
— ある伝説的老宇宙飛行士の述懐 —
単独宇宙航行が、あたりまえに行われている時代。
✨ ✨ ✨
以下は、”還らざる宇宙飛行士” サンテ・デ・ラ・ロリニーが、辺境宙域の安酒場に残した述懐の記録の一部である。ロリニーは、単独宇宙航行の先駆者であり、新宙域の探索、星系の救出、物資運送等、仕事内容は多彩。ちなみに、ロリニーが発見した新宙域は28。次元遭難歴5、同生還暦6(1回は、同時に二カ所に生還しているため、生還歴が1増えることになる。その後自らクォンタムリバースプロセスを敢行し、現在は一個体)。星系の救出12。惑星の救出86。他、伝説的業績多数。それらの功績にとも��い、名誉勲章数128、名誉学位数202、実務による宇宙専門資格取得数126は、いずれも本人不在授与。正式取得資格8。ヒト型であるが年齢等すべて不詳。彼は、長期寄港を行わないことでも有名であり、いわば飛び続ける宇宙飛行士であるがゆえに、”還らざる宇宙飛行士”と呼ばれる。当然のことながら、彼の「奇行」と「奇跡」は、多くの好奇心を駆り立てたが、星系ユニオンへの公式報告を行う以外、彼はあらゆる取材を避け続けた。つまり、これは貴重な彼の「肉声」の記録であるといえる。
✨ ✨ ✨
「おれたちが『ソラを飛ぶ』だって? ありゃあ『飛ぶ』なんてもんじゃないね。おれたちはただ落っこちているだけさ。そうさね、狭い石組みの井戸の中、って言っても、あんた井戸知ってるのかい? 辺境の文明星を十個もまわりゃ、そのうち出会うこともあるだろうよ。ともかくもだ、うーん、そうさな、あんたの船にもなんかのダクトがあるだろ? あれが岩でできていて、地面の深く中に続いていて、深く深く続いてるんだ。底には水が溜まっていてそれを汲み上げるのさ。底があればだがね。
「その井戸を、狭い狭い石組みの井戸の中を、底なしの井戸の中をさ、ずーっと落ちてるみたいなもんさ。真っ暗な中をずーっと一人で落ちてく。真っ暗な中をずーっと一人で落ちてると、そのうち落ちてるかどうかさえわからなくなる。今がいつかもわからなけりゃ、どこにいるかもわかんねぇ。三年も船に一人で乗ってりゃ、あんたも覚えがあるだろうよ。計器なんて全部作りもんみたいに見えてくる時があるだろ? そうなったら、もう何も信じらんねぇ。もう祈るしかないんだよ。これは本当だ、これは本当だ、おれが船を飛ばしてるんだって自分に言い聞かせるのさ。そうしておかないと、いや、そうしても、そのうち頭はワケのわかんないものでいっぱいになってくる。船で飛び続ける最初の10年なんて、そんなもんさ。
「どうしたかって、おれは、窓の外を見ることにしたよ。自分が宇宙にいるってことを自分にたたき込むんだ。そうしてると、どこまでも続く暗闇が、自分だって思えてくるんだ。おれはおれの宇宙を飛んでいる。おれの中をおれが通っているわけさ。それでおれは正気を取り戻す。正気だ。正気。この宇宙はおれが生み出し続けている。だから、おれは間違わない。俺の宇宙が俺を正しい方向に導いてくれる。窓の外を見て、俺はそれを確かめるだけだ。ちゃんと自分を見ろってな。窓の外を見続けていると気が狂いそうになるって言う奴もいるが、そいつはなんか別のものを見てるんだろう。あるいは頭が自分の頭じゃなくなっているかだ。自分が全ての原因だと気付いてしまえば、いざという時にもあわてないで済む。気が狂ってると思うかね? まあ、それならそれでもいいさ。
「話がそれたな。井戸の話だ。井戸を落ちていくだろう? もち��ん、石の間から木の根っこでも出てた日にゃ目も当てらんねえが、まぁしばらくは痛くもねえ。だがよ、宇宙の井戸じゃ、落ちること自体が命取りなのさ。一立方センチに水素原子一個。そんくらいはどんなに密度の低いところでもあるんだよ。あんたの船はどんくらい早いんだい? ほぉ、早いね。水素原子ならまだでかいからあんなの船が止めるだろうが、ニュートリノとかさ、それからわけわかんネェ宇宙線とかがそこあたりを飛び交ってるわけだ。その中を猛スピードで進んでいるのさ。原子と原子の間の隙間は広くて宇宙規模だが、それにしたって、そんだけ早く進んでいりゃあ、ぷかぷか浮かんでいるだけの時の比じゃねえ。まして、あんたが星団の光を楽しんでいる時とかな、なんかが見えている時にゃそこにはなんかが飛んでるわけさ。そして、あんたや俺の体を通り抜ける。なんにもない空間でさえそれだ。しばらく宇宙を飛んでりゃ、まして、あんたが景気良く商売してりゃ、カラダは見えない傷でアナだらけになってんのよ。井戸の中にゃあ枝じゃなくても草やなんかが伸びてて、それがあんたを気づかねえうちに傷つていくのさ。かすかなかすかな傷が重なり合い始めた時、痛みが出てくる。そんときゃ、もうおせーのさ。目は見えなくなる、腕や足は痺れている。そうなったら、荷主がいるんならすぐに連絡しなきゃな。次の港まで辿り着けるかどうか、怪しいんだから。大丈夫、それでも自分の死に目にゃ立ち会える。自分の命が取られる瞬間を知ってるやつなんてまだ幸せさ。俺は5歳から船に乗っているが、おれの二番目のボスなんざ、船の中で12の俺に説教垂れてる途中に、舵を握ったまま青っちろく燃えて消えたぜ。未だに気付かねえで、説教たれてんじゃねえかな? ともかくボスは井戸の中の枯れ枝に当たっちまったんだ。え?どうしたかって。驚いている暇なんてありゃしないよ。ともかく船を運ばなきゃなんねえからな。それが最初の単独航海だよ。
「そう、おれも穴だらけのはずなのさ。何しろ長く生きているからね。でも、おれが落ちているのは自分って言う井戸の中だ。そう決めちまったからな。そうしたらな、草がおれの体に当たる。するとおれの体の一部が削られる。でも当たった草がおれの傷に残る。何せ井戸はおれだからな。わかるかい? あんただって生きているんならおんなじ事をしてるのさ。あんたっていう物質は、あんたがどういう生命体か知らねえが、何年かであんたっていう物質は全部クソやら垢やらベトベトかなんかになってモノに還ってゆくのさ。そのかわりあんたはものを食っている。全ては流れの中さ。でも、あんたが他人の作った井戸の中を落ちてるんなら、あんたはあんたのままだが、なんかをひたすら持ってかれてるのさ。どっか知らねえあっちの方に。おれはおれの宇宙を流れてる。あんたなんかよりもっ��激しく流れちゃいるが、なかなか古びないのさ。おれの宇宙からおれはいろんなものを受け取るからね。
「さて、若えの。お前さんの目の前にいる俺は、生きてんのかね、それとも死んでんのかね? まともなのか、そうじゃねえのか? どう思うね? そもそも、お前さん自身は自信はあるのかね? 自分が生きててまともだっていうさ……
「まぁそう心配しなさんな、この宇宙じゃ大して違いはねえんだから。
「それはさておき、落っこちてるときになにができるかってぇのが、腕の見せ所なんだがね。
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■ 新譜世界断片高倍率拡大図私的妄想投影機 6
— 安全ボックス —
それを「安全ボックス」という。
四方と天地を囲まれて、安心安全安全ボックス。
壁はやわらかピンク色、ピンクはしあわせ、母の色。
あなたの好みはどのピンク?どんなピンクもまかせてね。
あなたの好みに染まります。
安全ボックス万能ボックス、あなたの存在証明します。
世界の不幸な情報もあなたのもとに届けます。
けれどもあなたは大丈夫。
なぜならいるのは安全ボックス。
激しく壁をたたく音、そしたらみんなに通報してね。
誰が壁を叩いたの?どんなふうに叩いたの?
どんなふうにやばかった? とっても不安なあなたの気持ち、
それをみんなに伝えてね。みんなの安全守るため。
みんながあなたを守るため。
人々つなぐ安全ボックス。平和をつなぐ安全ボックス。
たった一つのお願いは、きれいなピンクを保つこと。
ゲームに仕立てたゲームマニュアル、
ドラマに仕立てたドラママニュアル、
ニュースに仕立てたニュースマニュアル、
その他諸々たのしいマニュアル、
ピンクの塗り方わかります。
あなたの好みで選んでね。
マニュアルを見て、ピンクに塗れば、
あなたの部屋は絶対安心、安全ボックス。
揺れて不安に思うなら、
たまには窓を開けて見て、
下の方の灰色に、澱んで沈むボックスを。
でも安全ボックスは沈んだ人も守ります。
ピンク色を配ります。ちゃんと塗ってくれるなら、
ピンクのしあわせ届けます。
ピンクの色は至福色、羨む誰かにだまされないで。
たまには窓を開けて見て、
砂漠の嵐を歩く人、
外には緑の世界があると、信じてボックス捨てた人、
あわれな彼ら、あわれな彼ら、彼らのために祈りましょう。
ピンクの色は至福色。無料でめぐるしあわせは、
世界のしあわせつないでく、
それがあなたの安全ボックス。
それがみんなの安全ボックス。
🌕 🌕 🌕
彼は駱駝の背にまたがって、月明かりに照らされて夜空に延びる尺度の塔にこびりつくようにくっついてる無数のたよりない箱を見上げた。「今日は風が強いから、さしもの尺度の塔も、だいぶ揺れているの��ろうな。」そう呟いて、ボックスが揺れる時には懸命に壁にピンクを塗っていた頃の自分を脳裏に浮かべた。あの頃は何でボックスが揺れるのかわからなかったし、自分のボックスだけが揺れているんじゃないかと疑ったものだった。
さて、東にはたいした収穫はなかった。西へ急ごう。
彼は、駱駝の首をポンポンとたたいた。
駱駝は、のそのそと歩を進め始める。
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■ 新譜世界断片高倍率拡大図私的妄想投影機 5
— 空は曇天 —
少年は、川に近い公園の草地の上に立っている。
空は曇天、風は微風。
公園とは言っても、遊具の一つもない、立派な樹木があるわけでもない、ただの広場だ。
高度経済成長の下にあって、暴走し始めたものがある。それは、月刊少年誌の付録であった。月刊少年誌の付録は、紙工作の可能性を見極めるがごとくに、様々な空想を現実化していた。前日、少年はその現実化された空想の一つを手に入れた。コントロールラインのセスナ機である。コントロールライン、通称Uコン。もっとも、これは、シングルラインであったが。
少年は一日がかりでそれを組み立てた。プロペラがプラスチックである以外は全て印刷が施された厚紙である。胴体、主翼と、主立った部分は全て立体。プロペラの軸には、中に仕組まれた紙をはじいて、エンジン音を偽装するための突起さえあった。
さて、当然のことながら、少年は無数の「やまおり」「たにおり」「きりとりせん」、そして「のりしろ」と格闘することになった。作業も終わりに近い頃、少年は、端を玉結びにした凧糸にさらに脱落防止のための紙片をつけて、それを胴体の二ヶ所に通した。その二本の糸はガイドを通して少年が手にするハンドルにつながる。この二本の糸が少年とセスナをつなぐ命綱だった。のりが乾く一晩が待ち遠しかった。少年は、何枚もの厚紙を収納していた箱の裏に書かれた「飛ばし方」を何度も読んで、眠りについた。
今、少年は、川に近い公園の草地の上に立っている。
空は曇天、風は微風。
正式な名前もなかったが、少年はその場所を公園と呼んでいた。取水施設の入り口をかねてつくられた高さ3メートルほどの小さな山と、数本の貧弱な木が周囲に植えられているだけの、細長い三角形の野原だった。
少年は野原の中央に立ち、そこにコントロールする取っ手をおいたまま、二本の凧糸がのびきるところまで歩き、そこに菓子箱を置き、その上に静かにセスナ機を据えた。セスナ機の初期高度を確保する助手が欲しいところだったが、いないものは仕方がない。箱で我慢だ。そして、コントロールする取っ手を置いたところまでもどった。
空は曇天、風は微風。
天候にかかわらず、儀式は執り行われる。
少年は、おもむろに取っ手をとり、風を待ち、旋回の準備をする。凧揚げの技術が役に立つはずだった。翼を風に乗せることだけを考えた。その様を全身の感覚として想像しつつ。少年は静かに時を待つ。
時は来たれり。
衝動が少年に旋回の指令を与える。
しかし、少年は動くことさえできない。失敗、セスナ機木っ端みじんというよからぬ予想に勝つことができない。
二度目。
時がこないのに、少年は旋回を始め、見事に失敗。草地に軟着陸。
破損がないかどうか少年は、念入りに機体を検査する。異常なし。
さて、三度目の正直とはよくいうもの。
空は曇天、風は微風。
天候にかかわらず、儀式は執り行われる。
少年は、おもむろに取っ手をとり、風を待ち、旋回の準備をする。凧揚げの技術が役に立つはずだった。翼を風に乗せることだけを考えた。その様を全身の感覚として想像しつつ。少年は静かに時を待つ。
時は来たれり。
衝動が少年に旋回の指令を与える。
旋回開始。セスナの機体がふわりと離陸する。
セスナの主翼は、うるおいに満ちた気体をしっかりととらえ、揚力を発生させて気体を持ち上げる。架空のエンジンを発生させつつプロペラは回る。
バラララララララ……
エンジン音も高らかにセスナが回る。少年の周りをセスナが回る。セスナを追って少年の腕が風を切って回る。糸は緊張を保ちセスナと少年の間で円弧を描いて回る。回る、回る、全てが回る。
その時、音よりも早く、パシッと言うかすかな音が少年に「見える」。
翼端に取り付けた凧糸が外れた。しっかりと取り付けたはずの凧糸が。
求心力から解放されたセスナ機は、最後に少年に与えられた推力と遠心力とから導きだされる力に従って、快調のエンジン音も高らかに、あさっての方向に向かって飛びはじめる。
さてこそ、ここが分岐点。
少年よ、思いのままに、成すべきことを成せ。
少年は、操縦桿を握り、なお上空を目指す。
「報告。空は曇天。風は微風。視界良好。ただいま高度480m……なお上昇中。これより雲海に入る。以上。」
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■新譜世界断片高倍率拡大図私的妄想投影機 4
— 夜明け —
夜が明ける。
寒い。
頭の中が漠然とした重さを持つもので占められており、「私」の思考はかろうじて、鼻梁の上から両の眉根の間のごく狭い領域に保たれているものの、そんなものは、もはやなんの意味も持たない。
しかし、そう書いてしまった瞬間に、この文章の中に居る「何の意味も持たない」と宣言した「私」は、この文章を書き記しつつある、もっと微細な感覚の迷路に入り込んでしまっている「私」から乖離してしまっている。
これも私、これも「私」。
二人の私の間には対象化する距離が欠けている。
そもそも「私」の境界はどこにあるのか。
この空中に浮遊するような思念世界こそ「私」の実体ではないのか。
虚空に接した「私」の思念がまるでこの部屋の空間を占めているように感じられる時、いったいこの空間のどこまでが「私」なのか。木星や太陽の界面を厳密に定めることができないように、「考える私」の範囲を同定することはできない。
しかしながら「私」の思念が無限に広がっているのではないことも「私」は感じている。そこで「私」は、いわば「私」の柔らかな殻のようなものを考えて見る。流体のような思念を閉じこめる殻のようなものを。ところが、そんなものを仮構した途端に、内に向けたその結界に生じた油断の穴から、太陽が放つフレアのように「私」が吹き出し、「そこ」に燃えるようなガス体が渦巻いて「ヒトガタ」を造る。
とりあえず、そのヒトガタを、「ある男」と呼ぼう。
さて、「私」が書き、あなたが想像することによって出現する「ある男」が、今、「私」の目の前にいる。もちろん、その「今」は、どの「今」であっても構わない。
「私」の前には、「ある男」が、「地図」の残骸を抱えて、跪づいている。
「ある男」の姿は、「私」によく似ている。というより、むしろこの「私」を差し置いて、より「私」らしく見える。抱えている残骸は、破砕されてしまった岩のようにも、白濁する霧のようにも見えるが、それは間違い無く「地図」の残骸であり、誰かの末路であることが、私にははっきりと感じられる。
「ある男」は、いとおしそうに、「地図」の残骸を抱えている。
その「地図」もまた、この「私」だ。
なぜ、「ある男」はいとおしそうに、「私」の残骸を抱いているのだろうか?
その理由を知っているのは、あなただけだ。
末路と言ったが、この「私」にとって、何が末路なのか。
生まれてしまったこと自体が末路なのか、それとも、この先の過程のどこかで末路が現れるものなのか、「私」は知らない。あるいは、すでに現れるるあるのか。
知っているのは、あなただけだ。
霧の中に色を失って群生する、細胞のような森々。
苦悩する異星人と自分を人間だと信じきることのできないアンドロイド。
クラインの壺の中の迷路を闊歩する矛盾。
その時、「私」は、とうに、悪辣なシステムの存在を忘れている。しかし、そう書くことで、悪辣なシステムがなお「私」の中で稼働していることを知る。
「私」は「私」を模倣しながら絶えずずれていく。そして、それを回収しようとする「私」もまた「私」の部分なのだ。「私」という総体を「私」自身が回収することは不可能である。「私」が「私」の統合について夢見ることもまた、無意味だ。あるいはそう仕組まれている。
「私」は、淡い朝を迎え、床に寝そべり、空間を見つめている。
すると、「私」の身体から、その空間��向かって、実体の無い粒子が激しい勢いで放出されていく。「私」にはそれが見える。それは流れる霧だ。天井へとやむことなく流れる霧。その流れの中で私は、相対的におちている。私は後ろに目を持たないが、その先が宇宙の虚空であることを知っている。
「私」は、幾重にも付された「私」という「 」を外して、私を捨ててゆく。
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■ 新譜世界断片高倍率拡大図私的妄想投影機 3
「新譜世界断片高倍率拡大図 3」を妄想投影機に入力したら、こんなものが出力されてきた。
— よしこ先生 —
これは、ある伝説のひとこまである。
🌱 🌱 🌱
よしこ先生は、辞職することになった。人心 ——それは、よしこ先生が愛してやまない37名の生徒たちのことであったが—— をかどわかしたかどで、「良識ある」人々から訴追を受けたからである。
公的な見解を要約すれば、こうである。
「当該教員は、小学校学習指導要領の教育内容を大きく逸脱して教育活動を行ったばかりか、非科学的・空想的・呪術的内容などを真実であるかのごとく生徒に教授しようと試み、その内容の偏重ぶりは常軌を逸するものであった。また、教室設営に関しても、生徒の良好な活動を妨げるがごとき、度し難い状況が常態と化しており、改善を試みることが無かった。なかんずく、約3ヶ月間にわたって、黒色の紙片を教室中に添付し、生徒の教材と称して改善しなかったことは、当該教員の不適格性を如実に証するものである。よって、当該教員を罷免する。」
さて、公的な見解に含まれる「黒色の紙片」とは、生徒たちが生み出した無数の星々や星雲、あるいは未知の存在を描いた紙片のことであり、「黒色の紙片」に覆われた教室のことを、よしこ先生と37名の生徒たちは、「わたしたちの宇宙」と呼んでいた。
繰り返す。
よしこ先生と37名の生徒たちは、「わたしたちの宇宙」を、教室内に創造したのである。
🌱 🌱 🌱
よしこ先生と37名の生徒たちは、実にたのしくやっていた。
たとえば、生徒の「宇宙に関するノート」の最初の見開きには、
右側に「一般的な宇宙」。
左側に「わたしたちの宇宙」。
と、誇らかに書き記されていた。
よしこ先生も、37名の生徒たちも、二つの宇宙が自分を通じてちゃんと重なって存在していることを知っていたのだ。
🌱 🌱 🌱
他人を羨むというような暗い感情は誰にでも起こる。私の中にだって、よくそういう感情がわき出る。しかし、だからといって、それをして、他人を罪するようなことはしてはいけない、そう、私は思う。ところが、どうやら、「一般的な宇宙」では、それをしないと宇宙の平衡が崩れると思っている人が多いらしい。そんなことはないと思うのだが。
🌱 🌱 🌱
はじまりは4月。心地よい風が吹く日、よしこ先生は、教室で高らかにこう宣言した。
「今年はみんなで、わたしたちの宇宙を作りましょう。」
最初の頃のある日の授業は、こんな感じだった。
「じゃあ、みなさん。今日は、宇宙を回しちゃいます。」と、よしこ先生。
「そして、地動説と天動説を経験してみましょう。」
「おー」とどよめき。となり同士でしばしささやきあったあと、みんなは左側に「宇宙を回してみる」と書いた。それに続けてよしこ先生が言った「地球になって経験してみる」も、その下に書き込んだ。
もちろん、右側の「一般的な宇宙」のページには、すでに、天動説と地動説の違いが、美しく整理されていた。ちゃんと、天動説の下には「地球中心主義」、地動説の下には「太陽中心主義」と記入され、「主義」の下には(考え方・主張)と書き込まれている。みんなしっかり予習してきたのだ。
「じゃ、目をつぶって」みんなは当然目をつぶる。
「さて、みなさんの頭が地球だとします。」みんながそれぞれ一個ずつ、計37個の地球になって教室に浮かび上がる。
「では次に、みなさんの頭のまわりに、月を回して見ましょう。ここまでは順調?」37個の月が地球のまわりを旋回しはじめ、37個の地球が少しだけうなずく。
「じゃあ太陽を回せるかな? はい! 太陽回った。」みんなの顔がうずうず動く。顔の筋肉が月や太陽の動きと連動しているらしい。
「先生、目が回りそうです。」どこかの地球がすっとんきょうな声を上げる。36個の地球がクスリと笑う。
「もうちょっと我慢して。これから、月が満ち欠けするように、太陽と月をいい感じに回すんだから。」37個の地球が、「えーっ!?」と笑いながら声を上げる。そして、月が満ち欠けするためのさまざまな宇宙の試みがいっせいに始まるのである。
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こんなふうにして、時は巡り、ちゃくちゃくと宇宙は創造される。
教室の中に生まれてゆく、さまざまな宇宙の断片が呼び合いつながり合い、銀河や恒星、惑星、そして地球が手を取り合って宇宙が成ってゆく。しかし、宇宙がやっと安定を手に入れた時、「一般的な宇宙」の側の律令が、生まれたての宇宙の撤去を命じたのである。
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「わたしたちの宇宙」を構成する無数の星々や星雲、あるいは未知の存在がしるされた紙片は、吹く風に窓が開け放たれている日には、教室中を、宇宙の音で満たしたという。
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宇宙を撤去する日、37人の生徒たちは、自らの手でちゃんときれいに宇宙のすべてを回収した。
自他共に認める宇宙博士のゆういちは「収縮が早すぎるなぁ。曲率の設定がまずかったのかな……」とつぶやき、おとなしいけれどいざという時にはクラスで一番大胆なかなえは「ごめんね。わるいようにはしないから……」と紙片の一枚一枚にあやまりながら丁寧にはがしていったのだったし、…………それぞれがそれぞれの思いを込めて、宇宙のすべてをきれいに回収したのだった。
しかし、やはり、みんな、どこかたのしそうだった。
宇宙撤去の日、よしこ先生は、その場にいなかった。
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よしこ先生の反省が認められたのか、その学年の終りまでの一ヶ月は、普通の教室で、普通の授業をすることが許された。
普通の教室で普通の授業をしてても、よしこ先生と37名の生徒たちは、実にたのしそうにやっていた。実際たのしかったのである。
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そして、よしこ先生が学校を去る日がやってきた。
いつものように最後の帰りの会がおわろうとする時、
「ぜんいんきりっつ!」
委員長のしげるが号令をかけて、37名の生徒たちがいっせいに立ち上がった。
よしこ先生も、すっと気をつけをした。
「先生、贈り物があります。」と副委員長のめぐが元気な声で全員の動きを止めた。
ゆういちとかなえが後ろのドアを開けて、いったん教室から出て行った。
ゆういちとかなえが前のドアから、二人で大きな荷物を抱えて入ってきた。
それは、さまざまな色や模様の布地を継ぎはぎして作られた、パッチワークの大きな大きな球であった。
それは、ほんとうにきれいで、やわらかそうだった。
ゆういちとかなえは、元気よく、それを、よしこ先生の目の前に差し出した。
「先生、これ、わたしたちからの贈り物です。」とゆういち。
「まだ、ちょっとぶさいくですけど。」とかなえ。
よしこ先生は、ニコニコしながら、そのあたたかな布で継ぎはぎされた大きな大きな球を両の腕でやさしく抱えた。
「ありがとう」
するとクラス中が大きな声でこう叫ぶのだ。
「よしこ先生へのおくりものは、わたしたちの"ビッグ・バン" です。」
そう、たしかに、その宇宙の卵の中からは、教室に満ちていたあの宇宙の音が聞こえるのだった。そして、よしこ先生と37名の生徒たち一人一人の胸の内からも。
もう、よしこ先生とクラスのみんなについて書くことはない。
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■ 新譜世界断片高倍率拡大図私的妄想投影機 2
— 航 海 —
古い言い伝えは、船を出せばやがて潮の流れが彼の地へと送り届けてくれる、と彼に教えた。時が過ぎ、自分の力で一艘の船を造ることができる年齢になった時、彼は、自分の舟に、祖母の遺した乾いたタマモネの実がたっぷりと詰められたおおきな麻袋と、大きなカゴに入った柑橘類と、薬草と、その他思いつく限りのものを載せた。タマモネは、栄養豊富な保存食であり、柑橘類は、食べたあとで皮を薬にする。三日かけて、彼は荷物を舟に積み込んだ。六度も春が巡る間造り続けた彼の船は、一人で造ったにしては、充分に大きかったし、ずいぶん立派なものだった。ただし、主たる推進力は潮の流れから得るしかなかったが。
言い忘れたが、彼は小さな島に住んでいた。その小さな島に住んでいるのは彼一人だった。しかし、彼は全く退屈しなかった。生きるのに忙しかったし、それに、彼には話し相手がたくさんいたのである。船を造りはじめても、彼を邪魔するものはいなかった。むしろ、彼は、実に多くの声に助けられ��、作業を進めたのである。
七度目の春に彼は船を出す。大きな波のうねりの中に島影が見え隠れするほどに島を離れると、彼の中に、不安と確信のようなものが生まれ、それは判然とすることなく、彼の隅々に行き渡った。
彼の身体には所々欠落が生じていた。彼は、海の生き物や空の生き物からおおきな恵みを得た代わりに、海の生き物や空の生き物や目に見えぬ生き物や魂のために、ささやかな捧げ物をしたからである。しかし、その欠落の千倍もの知恵が彼には備わっていた。いくつの春が過ぎたのか、彼は知らなかった。タマモネの実が半分になっていた。50年分の苦難を彼は閲していたのである。なおも、航海は続く。
ある日のことである。何日か眠ったようだった。船が傾いで止まっていた。外に出てみると海が無くなっていた。乾いた風が絶え間なく吹き続けている。遠くから咽の悪い獣じみた声が聞こえた。それは、彼の聞いたことのない調子で、聞いたことのない言葉で叫んでいた。
「……絶対的かつ恒久的な平和の実現のために行使できる力を我々は持っています。我らが父祖は、何世代にも渡って、この未開の地を切り開き、我々が立つこの大地の礎を築き上げました。その苦難の歩みはまた、正義を切り開く営みでもあったのです。我々は、その正義を我が意志として有し、その正義を実現する責務を担っています。残念ながら、未だに、この世界のうちには、正義の実現に抵抗する暴力が存在しています。我々は、その暴力の下にあって、苦しむ人々を解放する責務を担っています。世界的な平和へと近づいている今、我々は、我々の力を正しく行使しなければならないのです。あらゆる差別や偏見を越えて、この世界の人々が等しく幸福を分かち合えるように、なおいっそうの努力が払われ続けねばならないのです。みなさん、この母なる大地の恵みによって私達は育ってきました。そして私達は、父祖の知恵に従い、正義を押し広げ、成果を挙げてきました。しかし、我々の責務は、ますます重要になっています。あらゆる形をとって我々の王国を脅かそうとする暴力が存在します。我々は、いまこそ、この恵みの大地に自らの足で立ち、母なる大地に報い、この世界に、我々の力によって、秩序をもたらす時がやってきたのです……」
演説は、無限に続く。
その言葉の連なりは、彼の中に黒々としたわだかまりを生み出した。
胸の奥や、耳の後ろや、肩口や、体中の声という声がざわめきあっていた。
黒々としたわだかまりはだんだんその闇を強くしてゆく。
幸いにもというべきなのか、残念ながらというべきなのか、彼の語彙体系の中には「虚偽」にあたる言葉はなかった。「虚偽」は、「方便」ではなかった。
幸いにもというべきなのか、残念ながらというべきなのか、彼の語彙体系の中には「悪徳」にあたる言葉はなかった。「悪徳」は、「悪」ではなかった。
「方便」も「悪」も、最終的には実りにつながるが、今耳にしている演説には、それがなかった。
体中にざわめく声とゆっくり相談したかったが、彼らも混乱の中にあった。彼は迷った。
しばらくののち、彼は獣じみた声の方に向かって歩きはじめる。
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■ 新譜世界断片高倍率拡大図私的妄想投影機1
— 忘れてる —
次はもう少しマシになるはずだった。
ところが、そうは問屋が卸さない。
彼が問屋に卸される身だからである。
産み落とされた彼は、問屋に登録され、ナンバリングされる。やっと芽が出たかと思われる頃から、在庫チェック、品質チェックを受け、大切に見守られる。
病気にかかったり、曲がって生育しようとしたりしても、生モノの管理法は100年かけて完成の域に近づいており、製品の均質度合いは工業製品かと見紛うばかりだ。そればかりか、より旨みが増すように、ある時期には豊富に栄養を与え、ある時期には栄養をカットして、品質があげられるのである。
そうして迎える出荷の時。どこに出荷されるのかといえば、別の問屋に出荷されるのである。
次の問屋では、自律的に商品管理を行わなければならないところだけが、少し違う。
さて、彼は、いつものように欲望自販機の列に並び、欲望チケットを買う。自販機の上方に備え付けられたスクリーンには「世の中には欲望チケットを買うことができない人がたくさんいます。そんな人のためにあなたの善意を。10エニの寄付で、CP100ポイントを進呈」と表示される。彼は迷うことなく、もう一つのボタンを押す。一度だけ。そう一度だけ押す。
一日、彼は欲望チケットで仕事をし、食事をし、問屋に帰る。問屋にはちゃんと自分のためのスペースがあり、欲望チケットで家族と団欒し、欲望チケットでおすすめの動画を見、ニュースを見、ゲームをして、何度かCPポイントをもらう。
就寝前、彼は欲望チケットをベッド脇のスロットに入れ、今日も自分が正しく欲望を消費したことを確認し、眠りに落ちる。
彼は夢を見る。
彼はようやくのことで血の池から這い上がり、顔を上げて、赤黒い世界の中にそそり立つ、針の山を見つめる。血みどろの顔の中に、両の目だけが強く白く光っている。
死屍累々の山の斜面には、所々に血と肉とを纏った無数の鋭く巨大な針が、赤黒い天蓋目指して突き出ている。この世界は低いうめき声に満ちている。死屍累々、それを構成する肉達は、そういっていいのなら、「生きて」いる。半ば肉をはぎ取られ、身体の真ん中を突き刺されても、他の肉体に肉を食いちぎられても、彼らは死なない。なぜなら、ここに来る時に「死」を売り渡してきたからだ。強制的に「自由意志」と「死」をもって支払わ���れる入場料。それを払わねば、ここよりももっとひどい所に送られると、みんな、そう信じている。
彼は、血の池に落ちる前のことを思い出す。糸が切れた時のことを。この世界の天蓋から細い糸が伸び、彼はそれにすがり、登ったのであった。「俺の糸だったんだ。」彼はつぶやく。糸の切れ端が血に濡れたまま、右手に貼り付いていることに彼は気づく。身体のあちらこちらに、切れた糸の断片が貼り付いている。「俺の糸、俺の糸、俺の糸、俺の糸……」同じ語の反復は呪文となり、彼の心の怒りの扉を開ける。
彼は突然、大きく伸び上がったかと思うと、周りの肉塊めがけて両の拳を振り降ろした。「おまえらのせいだ!おまえらのせいだ!おまえらのせいだ!」
彼の拳が打ち下ろされる度に、鈍い音と、低いうめき声が、幾重にも重なった肉塊の間から、彼の叫びの間から、周囲に低く漂う。乱された死臭とともに。やがて彼は、肉塊を蹴散らしながら、全身の痛みをものともせず、針の山を目指す。崩れる肉塊に足を取られながら、尽きることのない血糊に手を滑らせながら、針の山を登る。
「死」は無いが、疲れはある。この世界には、「死」以外の苦痛なら全て揃っている。もっとも、「死」が苦痛だとしての話だが。
彼は疲れた。痛みが麻痺するほどに疲れた。そして、死屍累々の死を売り渡した者たちの肉塊の中に倒れ込んだ。この世界に眠りはない。彼は、肉塊の中に少しずつ沈み込んでゆくのを感じながら。
「俺の糸」。ぼんやりと思った、その時のことである。彼が身を沈めつつある目の前の僅かに蠢く肉塊から、彼の血まみれの顔にまとわりついてきたものがある。
糸だ。こんな所にも糸が。
彼は何かに気づき、周りのかすかに蠢く肉体を、赤黒い、僅かな光の中で閲しはじめる。
しばらくの後。
彼は、針の山の斜面で、肉塊の上に跪き、自分の両の手のひらを見つめている。
その両の手のひらには、指を動かせないほど、無数の糸の切れ端が絡みついている。
彼は、知った。このあふれんばかりの肉塊たちが、自分と同じ目に遭っていたことを。
一人残らず、自分なのだ、と。
しかし、彼はそれを知っただけであった。
彼は、卒倒するかのごとくに倒れ、泣いた。そして、自分の群れの中に沈んでゆく。
そして夢は忘れられる。
彼は、目覚める。心の底の方に何かが蟠っているような気がするが、所詮は夢だ。
まずは今日の欲望チケットを買いに行かなければ。どこで欲望チケットを買うべきか、今日のトレンドを確認する。失敗者や脱落者の情報から不安要素を確認し、どんなチケットをどこで買うかを決める。ここのところよく某チケットを買う日々が続いたから、10%の不安チケットも買っておくか、などと考えたりする。
こうして彼の安泰な日々は続く。
さて、彼はようやく病院で安泰の果てにたどり着いた。
生まれた時のことは知らなかったが、幸いにも、自分の去り際には意識を持って立ち会うことができたのだった。
孤独に絶命するその瞬間に彼が遺した言葉。
「忘れてた!」
そして彼はこの世から退場��た。
次はもう少しマシになるはずだ。
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Gazioについて
夜のGazio。天井は暗い海面。黒い潮に白い波が立つ幾何学の海面。その海面を天と仰ぐ海の底に、暖かい金属質の光を放つアルミニウムのテーブルが静かに並んでいる。 このテーブルは、この幾何学の海の底に行き交う人の過ごす時間を記憶する。 どうやって? そう、劣化することによって。 万物流転の定めの下に、このテーブルの表面に張られたアルミニウムも、いつかその姿形を解消するだろう。 とは言え、人類が生き長らえる時間をはるかに超えて、摩滅したその微細な欠片、あるいは粒子は、この場所での記憶をその形態自体に記憶する。そのように世界はあなたを記憶している。 年を重ねるあなたが世界を、このテーブルが存在する空間を身体の物質的な変化として記憶するように
すべて異例のスタートだった。 東京ではなく、つくば。大通りに面しているとはいえ、「それ」は到底繁華とは言えぬ場所にある。 つくば。湿地にコンクリートを流し込んで急造されたこの町は、21世紀の今となっても夜は暗い。回転する開店セレモニーCycle-Zの五日間、つくばの暗闇に、人が列をなす。それはわずかな灯火を求めてやってきた巡礼の列にも似て。 そしてセレモニーの間、店長が一度も言葉を発しない。開店の上機嫌など微塵もなく、笑みが時々顔に浮かぶが、緊張がにじむ。 アマチュアであることの公言。メニューの変化をいとわない。ビーガン、ベジタリアン対応メニュー、発掘ビデオの公開、今敏展、カレーイベント、ミニライブ、文化祭、お料理イベント(覆面)、新譜発表会、ライブパブリックビューイング、新楽器スプートニク……ここは何屋だ? そういう問いは無意味である。 ここは、消費するためだけの商品や消費されるためだけのサービスを売る店ではないから。 しかし、この場所でも、金銭に媒介してもらってはいるけれど、今となっては珍しくなってしまった、何かが交換されているのである。 ここではいろいろなことを考える。 ここは「場」である。 ここは「街角」である。 ここは「土管がおかれた空き地」である。 ここは「路傍に張られた露店」である。 ここは「秘密基地」である。 ここは「どこかとどこかを結ぶ産道」である。 ここは、どこにもなりうる場、あなたがつくる場、である。 今日はイベントの日である。 異例の誕生から一年。 裏で煙草を吸っていたら、花のプリントがあしらわれた、素敵に明るいクリーム色のワンピースを着た、白い髪の、美しくお年を召した女の方が、北の方から歩い���来た。 私の所で進路を曲げ、その方は、Gazioの裏口へ向かう。そこには、看板があって、「本日はご予約の方のみの入店となっております」とかなんとか。 その方は、腰をかがめて、じいっと、その緑色の文字を見つめる。 そして、「ああ、そう!」と、曇天に晴れをもたらすような声で軽やかな感嘆の声をあげられた。 ふり向いた色白の顔に、ほがらかな紅が印象的だった。 そうして、そのお方は、南へと優雅に歩を進めたのである。 こういう場所って素敵じゃないか。 世界のあちらこちらで同時に見出された、素晴らしい音楽の更地、ニューウェイブ。そこには何を持ち込んでも良く、新しいなにものも生まれて良い。だとすれば、Gazioは「今・ここ」に、私たちのために用意された、素晴らしい更地ではないのか。 今、その、更地を準備なさった方がワイヤレスマイク片手に長い挨拶をされた。一言も発しなかったあの方が……「うるうる」というのは、すてきな言葉である。 さて。 幾何学の海の底。そこではアルミニウムのテーブルが、柔らかな光を放ちながら、あなたと水の循環を見守っている。そして全てを記録してゆく。それは劣化と呼ばれるかもしれない。 しかし、それは「次」のための変化である。 絶え間無く始まり続ける、未来のための循環。 循環にはおわりがない。
2014.05.25@GAZIO 2016.09.25
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