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イキヤ(行屋虚彦)について
本名、行屋虚彦(いきや・うつひこ)。 通称「イキヤ」は、今年で15歳、中学三年生だ。 学校へはほとんど通わずに知り合いの画家・山雪穣のアトリエでひたすら油絵を描いている。 介護の必要な母親・七の世話を少しして、他のすべてを描くことに費やしている。 今は自分の絵が売れることも評価されることも釈然とせず気に入らない。 あまり話したこともない名廊直人を漠然と自分の絵の師だと感じていた、 その人物を突然の自殺で失ってしまった。 名廊直人の死の歯車がどうして揃ってしまったのか、 彼から受け継いだ描き方を今も続けるイキヤには分かっている。 自分が命を絶えさせずに描き続けるためにはそれと向き合う必要があるが、今は自分に無理を強いるほうがやさしかった。 今日もイキヤを生かす「描くこと」が必要なのか、決めるのは今日もイキヤではない。 イキヤの描く絵は美しい。 が、彼の見ている世界は美しいという形容では済ませられない過酷なものだ。 やり過ごす方法を今日もイキヤは描くことひとつしか知��ないし、誰も他の道を指し示す人間はいない。
<通称・イキヤ> 彼の周りの人間はほとんどが歳の離れた大人たちで、絵画の界隈の住人だ。 その中で彼は大人たちから、描く絵に対して容赦のない対等な厳しい目を向けられて育った。 これまでのイキヤの生育歴には、一般的な「親・養育者・保護者」といえる特定の対象人物が存在しないに近く、成長する段階でイキヤは他者との健康的な愛着関係を築いていくことにおそらくかなり不利だった。 しかし今のイキヤは外側から見れば、人格的になにか深刻な問題を抱えているわけではない。内面の激しさや情熱が表情に反映されにくく、直球の物怖じしない無礼ともいえる言動を除けば、普通の範疇だ。 複雑な家庭環境のわりに年齢相応の多感な14歳だが、周囲は彼をプロの画家としてしか扱わず、今も昔も彼は自然と苗字で「イキヤ」と呼ばれている。
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主な登場人物たち
主人公その1:名廊直人(めいろう・なおと) 40歳 画家 主人公その2:行屋虚彦(いきや・うつひこ) 通称「イキヤ」 15歳 画家
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『ある画家の手記 Part名廊直人』
通販ページ→ https://hdf1995.booth.pm/items/5046133
A5 / 42P(序文8P) / フルカラー / ¥1500
"頑なに静物を描きつづけた画家" 名廊直人が死んだーーーー 彼にとって描くことは一点の遊び心も合まない、 ただ世界との切実な交わりそのものだった。 その交わりが今日も明日も彼の生を淡々と次へつなげていった。 それが途絶える時がきたーーーー彼が40歳の春。 自殺に失敗して入れられたサナトリウムで、 実を結ばない意識でたどるこれまでのこと、目の前のこと。 画家にとって「死」とはなんだろう?
名廊直人という一人の画家の意識を通して、 彼の死の前の数ヶ月間を、アートワークで模索した 『ある画家の手記』シリーズ一作目
内容サンプル↓
※注意書き※ ・序文は寄稿していただいたもので私の創作物ではありません。 ・作中にいくつか虫の描写があります。害虫ではありませんが、苦手な方はご注意ください。 ・刷数によって微細な変更点がございます。現在販売中のものは二刷目です。 ・奥付けの情報が古くなっているので、新しい連絡先は同封の名刺を参照してください。
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