Tumgik
rukakopikapika-blog · 7 years
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いっつおーるあばうちゅー
中編
20分程度
二人
那月良人(なつきよしと) 涼美さんが好き 涼美さんより年上 椎名涼美(しいなすずみ) 那月さんが好きだが那月さんに厳しい
好きが伝わらない涼美さんと、好きを伝えたい那月さんが、好きだ好きだとぐるぐるするお話
***
スチール机が向かい合わせに二つ 机の上には本とかギターとかぬいぐるみとかカップ麺とか物が積んであってバリケードのようになっている 涼美、下手側、那月、上手側に座っている
テロップ 『あなたの気持ちを10字以内で伝えなさい』
チッチッチッチッチ…というシンキングタイムの音
那月「え?えーっと」 椎名「5、4、3」 那月「僕は涼美さんが好き!」
静かになる 不正解の音
那月「えええ」 椎名「那月さん、残念。字数オーバーです」 那月「(数えながら)ぼくはすずみさんがす、あーっ」
テロップが消える
音楽
第一ラウンド
那月「(数えながら)ぼくは、すずみさんがす・・・す。ぼくは、ぼくは」 椎名「何回数えても11文字ですよ、那月さん」 那月「うっ」 椎名「1文字オーバーですね」 那月「あの、涼美さん」 椎名「はい」 那月「・・・どうして字数制限があるんですか?」 椎名「那月さんの話は長いから」 那月「でも、でもですよ?それは必要な長さだとは思いませんか?だって、好きな人への愛の言葉というものは胸のうちから次々と溢れ出てくるものじゃないですか。それを無理やり10文字以内におさめろっていうのはあまりにも悲しいというか、効率主義による」 椎名「長い」 那月「はい」 椎名「那月さんは無駄な話が多いんです。手短にわかりやすくお願いしますね。はい」 那月「僕は・・・その、涼美さんが好きです」 椎名「はい」 那月「ほら!簡潔に言ったら涼美さんそういう反応するじゃないですか!明らかに伝わってないじゃないですか!」 椎名「そうですね、伝わってないです」 那月「なんで!?」 椎名「何ででしょう…」 那月「涼美さん…」
那月「涼美さん、僕が涼美さんに好きって言った回数覚えてますか」 椎名「私に好意を伝えた回数というのなら253回ですかね」 那月「よく覚えてますね。僕は覚えてないです。・・・で、それだけ、261回も僕は涼美さんに好きって言ってるんですよ。それなのに」 椎名「勝手に盛らないでください。8回多いです」 那月「8回ぐらい、いいじゃないですか!それなのにどうして涼美さんには僕の気持ちが伝わらないんですか?」 椎名「私と那月さんのコミュニケーション能力が低いからじゃないですか」 那月「確かに僕はコミュニケーション能力が平均よりちょっとだけ低いですけど・・・でも、『好き』ってたった二文字が伝わらないなんてことあります?」 椎名「現に伝わってないじゃないですか」
那月「…えっと、涼美さんは僕が涼美さんが好きだという事実は認識できているんですよね」 椎名「はい」 那月「でも、僕の気持ちは伝わっていない」 椎名「そうですね」 那月「矛盾してません?」 椎名「してません。海が青いことを知っているのと、実際に海を見た上で青いと思うのは大きな差があります」 那月「つまり、涼美さんは僕が涼美さんが好きなことはわかっているけど、実感が湧いていない、ということで・・・?」椎名「そういうことです」 那月「…どうやったら実感湧きます?」 椎名「さぁ…」 那月「はぁ…」
那月「好きです」 椎名「はい」 那月「好きです好きです好きです」 椎名「はい」 那月「好きです好きです好きです好きで…(詰まらせて)げほっごほっ」 椎名「…那月さん、それは無駄ではないですか?」 那月「…」 椎名「それはすでに失敗している方法です」 那月「そうかもですけど」 椎名「そうなんです。違う方法で来てください」 那月「違う方法…あ」
那月、紙とペンを引っ張り出す
那月「手紙!手紙を書きます。直筆の手紙なら、涼美さんも僕の気持ち、わかってくれますよね」 椎名「いいと思います」 那月「はい!書くぞ〜」
椎名「あの、那月さん」 那月「はい」 椎名「これ、いつまでかかるんですか?」 那月「え?そうですね、半日は欲しいです。まだ最初の二行しか書けてないんで」 椎名「それが許されると思ってるんですか」 那月「え?」 椎名「尺を考えてください」 那月「尺とは…?」 椎名「…アシスタントさん!」
アシスタント、登場 プレートに手紙を載せている
アシ「こちらが完成したものになります」 椎名「はい、ありがとうございました」 那月「え?じゃあこれは?」
アシスタント、素早く那月の手紙を回収して去る
那月「何なんだ一体…」
椎名「さて(手紙を開けて)…那月良人の椎名涼美に対する好意について。明鏡大学人間社会学部心理学専攻那月良人…?」 那月「涼美さんに伝わるようにレポート形式で簡潔にまとめてみました」 椎名「…(黙って読んでいる)」 那月「どうですか」 椎名「悪くないです。那月さんの気持ちの変化がわかりやすく書かれています」 那月「じゃあ」 椎名「ただ、ラブレターとしては最低ですね。不可です」
椎名、手紙をたたんでしまう
那月「そんな!」 椎名「レポートとしては悪くないので、今度、見てもらうといいですよ」 那月「いえ、いいです」
那月、ギターをとって
那月「歌はどうでしょう。定番ですよね」 椎名「よりによってそれですか」 那月「こう見えて歌は得意なんですよ。ギターは弾けませんけど」 椎名「ちょっと、那月さん、それはやめてください。却下です」 那月「どうしてですか?あ、照れてるんですね。ふふふ、かわいいなぁ」 椎名「やめてくださいって」 那月「それでは、一番、那月良人歌います!」
那月、ギターを弾きながらラブソングを歌う 椎名、嫌そうな顔をして聞いている
那月「…どうでしたか?伝わりました?」 椎名「ええ、伝わりました。那月さんは私のことが嫌いなんですね」 那月「ち、違いますよ。どうしてそうなるんですか」 椎名「嫌がらせされたから」 那月「嫌がらせのつもりでは」 椎名「へぇ、那月さんは天才ですね。無自覚に嫌がらせできるんですか」
那月「す、涼美さん」
涼美、無視
那月「ご、ごめんなさい…そんなに嫌がってるとは思わなくて」 涼美「私、やめろって言いましたけど」 那月「…はい」
那月、机の上を漁る 那月、チューリップの花束を探し出し、リボンを結んで椎名に差し出す
那月「涼美さん!これどうぞ」
涼美、受け取る
涼美「これは、嬉しいです」 那月「よっしゃ!」 涼美「知りませんでした。那月さんも花言葉なんて知ってるんですね」 那月「え?」 涼美「あれ?知らずに選んだんですか?」 那月「は、はい…」 涼美「そうですか」(うれしい)
那月「どうですか?僕の気持ち、伝わりました?」 涼美「いえ、あんまり」 那月「ええ…さっきのチューリップは?」 涼美「あれは嬉しかったですけど、那月さんの好意は伝わってないですね」 那月「どうやったら伝わるんですかね…?」 椎名「そうですね…(机の上を漁って)あ、これとかどうですか?『コミュニケーションのあり方』鈴木聡著」 那月「うわぁ、ガチっぽいやつじゃないですか」 椎名「読んでみなければわからないと思いません?」 那月「そりゃそうですけど」
椎名、那月に本をパス 那月、受け取って読み始める
那月「涼美さん」 椎名「はい」 那月「これ、コミュニケーション能力云々とかいうレベルのやつじゃないです。バベルの塔の話とか載ってるタイプのやつです」 椎名「ドンピシャじゃないですか」 那月「別に僕はバベられてないですけど」 椎名「バベられてますよ。だって、那月さんの言葉、私に全然伝わってないじゃないですか。那月さんだって私の言葉伝わってないし」 那月「そんなことは」 涼美「ありますよ。那月さん、私の言ってることわからないでしょう」 那月「…」 涼美「…仕方のないことだと思います。言ってることを100パーセント伝えきれることなんて絶対にないですから」 那月「でも、だからって諦めてたら伝わるものも伝わりませんよ」 涼美「…」
那月「あの、涼美さんは僕のこと、どう思ってるんですか」 涼美「え」 那月「僕は涼美さんが好きです。涼美さんは?」 涼美「…好きです」 那月「え」 涼美「私も、那月さんが好きです」 那月「本当に?」 涼美「本当ですよ」 那月「…」 涼美「どうしました」 那月「いや、あの…完全に不意打ちで、ちょっと、言葉が」 涼美「…嬉しいんですか?」 那月「嬉しいですよ。好きな人に好きって言われたら嬉しいに決まってます」 涼美「…」 那月「あれ?でも、それならなおさら悩む必要なくないですか?だって、涼美さんは僕が好きで、僕は涼美さんが好き。一致してますよね?」 涼美「してないです」 那月「え?」 涼美「私は那月さんのこと好きだと思ってないですから」 那月「え、だってさっき好きだって」 涼美「言い換えます。私は、那月さんのこと好きみたいです」 那月「みたいって…そんな他人事みたいな」 涼美「他人事、そうですね。私は、自分の気持ちすらわからないんです」 那月「そんなまさか」 涼美「すいません」 那月「…わからないんですか」 涼美「わからないです」
涼美「那月さんと一緒にいるのは楽しいです。那月さんは優しいし。面白いし、素敵な人です。でも、それは「愛」なんでしょうか。「好き」なんでしょうか」 那月「…友人の域を出ない、ってことですか?」 涼美「それもよくわからなくて。那月さんと恋人になりたくない、とは思わないんです。きっと、那月さんと一緒の毎日は楽しいんでしょうね」 那月「好き、じゃないんですか」 涼美「好き、なんでしょうか」
那月「じゃあ、とりあえず付き合うっていうのはどうですか?やってみてわかることもあるでしょうし」
涼美「那月さんはそれでいいんですか」 那月「?」 涼美「私は那月さんのこと好きかどうかわからなくて、私も那月さんが私のこと好きってちゃんとわかってないのに、それでいいんですか」 那月「だって、涼美さんは僕のこと好きなんでしょう」
涼美、ものを積み始める
那月「涼美さん?」 涼美「ちょっと、考える時間をください」 那月「え、あの」 涼美「那月さん、私はこの世界はバベルの塔だと思っています。言葉では伝わらないことばかりで、すれ違いだらけです」
涼美「だから、那月さんの言葉が私に伝わらないのも、私の言葉が那月さんに伝わらないのも当然です。・・・だから、ちゃんと伝わるまで待つことにします」 那月「それって、もう僕と会わないってことですか」 涼美「言葉が聞こえる距離にはいます、それで、ちゃんと好きってわかったら会います」 那月「涼美さん」
『あなたの気持ちを相手に伝えなさい』
チッチッチッチッチ…というシンキングタイムの音
那月「好きです」
不正解の音
暗転
第二ラウンド
さらに積み上がった机の上
那月、「好き」と繰り返しているが涼美の反応はない 不正解の音
那月「…なんか、ダメですね。一回、やめます」
那月「気持ちって突き詰めれば突き詰めるほどわからなくなりますね。あのほら、ゲシュタルト崩壊っていうんですか。好きって「すき」なのかな「スキ」なのかな、みたいな」
那月「さっき、涼美さんに好きって言われて本当に嬉しかったんです。でも、その気持ちも、何だかぐずぐずになってきちゃって、あれって、伝わってたような気になってただけなのかな、とか」
那月「伝えるのも、伝えられるのも、こんなに難しいものでしたっけ」
涼美「あの、那月さん」 那月「はい」 涼美「わたしなりに、なんで那月さんのこと好きなんだろうって考えてみたんです。でも、やっぱりよくわからなくて」 那月「そうですか」 涼美「それでも、一つだけ思ったことがありまして。その、それが理由になるかはわからないんですけど、聞いてもらえますか」 那月「…はい」
涼美「わたし、那月さんと出会って…多分、初めて、人のこと理解したいって思ったんです」
涼美「わたし、あまり友人が多くないんです。どうも、人の気持ちに鈍いみたいで。今でも、無神経なことを言って怒らせてしまうことも多々あります」
涼美「だから、正直人と関わることがあまり好きではありませんでした。要は、めんどくさくなったんです。誰かを理解することとか、理解されることを努力するのが億劫で逃げたんです」
涼美「でも、初めて那月さんのことは理解したいって思えました。それに、自分の気持ちも」
涼美「わたし、那月さんのことちゃんと好きになりたいんです」
那月「…めちゃくちゃ好きじゃないですか」 涼美「え」 那月「涼美さん、僕のことめちゃくちゃ好きじゃないですか・・・」 涼美「そうなんですか?」 那月「涼美さん、めんどくさくなっちゃったんでしょう?人を理解することも、理解されることも、きっと、自分の気持ちを理解することも」 涼美「それは、そうですね」 那月「その涼美さんが、理解したいって、それは、多分、いや、うぬぼれかもしれませんけど、もうめちゃくちゃ好きってことだと、多分、多分ですけど、少なくとも、他の男にそう言ってたなら僕は間違いなく嫉妬で死にます」
涼美「あ」 那月「どうしました?」 涼美「いえ」
那月「涼美さん?」 涼美「あの、その、なんか、つっかえちゃって」 那月「もしかして、照れてます?」 涼美「…そうかもしれないです」 那月「そうかもって」 涼美「いや、これは、その、照れては」 那月「照れてますねこれは」 涼美「て、照れて…ます、ね。はい、認めましょう、認めます」
那月「涼美さん」 涼美「はい」 那月「やっぱり、付き合うとかは無しにしましょう」 涼美「いいんですか。ゴールはそこじゃないんですか」 那月「そこでしたけど、そこじゃなくていいって思いました。だから、とりあえず今のままで」
那月「代わりと言ってはなんですが、僕は涼美さんに好きって言い続けることにします。伝わるには時間がかかるでしょうし、きっと僕も迷いますけど、でも、涼美さんがわかろうとしてくれるのなら、一緒に頑張ります」
那月「あ、でも、うざいと思ったら容赦なく言ってくださいね。あと、ほかに好きな人ができたとか、彼氏ができたとか、そしたらもうすっぱりやめますから!大丈夫です」 涼美「大丈夫って、何が大丈夫なんですか」 那月「よくわからないけど、大丈夫です」 涼美「那月さんの言ってることわかんないです」 那月「それは、バベルの塔ですから」
涼美「わからなくても、わかることもありますね」 那月「え?」 涼美「やっぱり、好きって気持ちはわからないけど、でも、わたしは那月さんと一緒にいたいです。・・・それに、今すごく那月さんの顔が見たい」
壁が崩れる
那月「…涼美さん」 涼美「はい」 那月「好きです」
不正解の音
那月「ああっ」 涼美「残念」 那月「いや、でも、これぐらいで負けませんから。好きです!」
不正解の音
那月「伝わりませんか?」 涼美「まだまだ伝わりません。でも、めげずに言ってくれるぐらいには好きだっていうのは、理解できます」
那月、諦めずに何回か繰り返すが不世界の音が鳴り、呻く
涼美「那月さん」 那月「はい」 涼美「好きですよ。…ちょっとだけ、わかったような気がします」 那月「本当ですか」 涼美「ほんの、ちょびっとですけど」
『今の気持ちを十文字以内で答えなさい』 チッチッチッチッチ・・・というシンキングタイムの音
「あなたが好きです」
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rukakopikapika-blog · 7 years
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マタンとベラ
マタン
ベラ
墓荒らし
村人
***
上演時間:一時間前後
葬儀屋の娘、ベラと吸血鬼、マタンが二人きりで暮らすお話。
***
<墓地>
墓荒らし、墓を物色している 墓荒らし、ひとつ、墓を決めて掘り返そうとする
マタン    ごきげんよう 墓荒らし うわあああ マタン    何をしているのかな、こんなところで 墓荒らし えっ えーっと、その、墓…じゃない、散歩、散歩を… マタン     こんな真夜中に? 墓荒らし ね、眠れなくて… マタン  こんな墓地で? 墓荒らし は、墓が好きなんだよ、俺は マタン  お墓が好きなのかい?いい趣味だねえ 墓荒らし へへ… それで、あんたは一体… マタン  墓守だよ。ここの墓守 墓荒らし ! マタン  そして今は夜の見回り中。墓には時々厄介なものが入り込むからさ 墓荒らし 墓荒らしとか マタン  そう、墓荒らしとか、ね
墓荒らし、 マタン、笑い合う
墓荒らし じゃあ俺はこれで。見回り頑張ってくれ マタン  ちょっと待った 墓荒らし なんだよ マタン  君、眠れないんだよね。真夜中に墓地を散歩してしまうぐらい 墓荒らし はあ… マタン  じゃあお喋りしようよ!僕もちょうど暇だったんだ 墓荒らし いやいやいやいや、あんたは仕事があるだろう?悪いよ マタン  いいんだよ。どうせこんな人里離れた墓地に悪いものなんて来ないんだから。君もそう思わない? 墓守   はは…そうだな マタン  そこに座って 墓守  ええと マタン 座って 墓守    はい マタン そうだなあ。なんの話をしようか。なにか楽しい話…そうだ、吸血鬼の話なんてどうかな。 墓守  吸血鬼?ってあの、血を吸う化け物の マタン そう、その吸血鬼。太陽のもとでは生きられない、夜の生き物…この土地には昔、ひとりの吸血鬼が住んでいたんだ。彼の名はマタン。彼はこの土地に大きなお屋敷を建てて、ひっそり、一人ぼっちで暮らしていた…
<屋敷>
ベラ  ごめんください…ごめんください…
応えのない屋敷
マタン、髪は伸び放題、服も何もかもがぐちゃぐちゃである
マタン ごきげんよう ベラ  (悲鳴) マタン おっと、驚かせてしまったかい 。それは申し訳ない ベラ  ひっ マタン 怖くない、怖くないよ。ほらほら…あ、そうだ、キャンディをあげよう。とっても美味しいんだよ、ベリア工房の…
マタン、きもちわるいなにかを差し出す
ベラ  …! マタン あれ、腐ってる!飴って腐るんだねえ ベラ  だれ… マタン え? ベラ  あ、あなたは誰… マタン 僕はマタン。この城に住んでいる。君は? ベラ   マタン!私はベラ…ベラです、その、あなたがマタンならわたし… マタン ベラ。素敵な名前だね。素敵な出会いに乾杯! ベラ   あの マタン ん? ベラ  …失礼しました。私はベラといいます。村からあなたのお世話をする係として参りました。 マタン お世話をする係? ベラ  はい。以前は花屋のオエドラが務めていた仕事です。 マタン ああ!オエドラ!そういえば彼女は出て行ってしまったんだったねえ。いつだっけ? ベラ  もう50年ほど前になるかと マタン  そうか…この屋敷には時間がないものだからね。そんなに時が経ってしまったのか。そして、君が彼女の後任というわけだ。 ベラ  はい。精一杯努めさせていただきますのでどうぞよろしくお願いします。 マタン 固い固い!もっとやわらかくいこうよ ベラ  いえ、私のことはお気になさらず…
マタン、倒れる
ベラ  マタン様!? マタン う… ベラ  大丈夫ですか?具合でも… マタン おなかすいた… ベラ  おなかすいた…
ベラ、料理の支度をする ベラ、テーブルを整えて、料理を出す
マタン 美味しい!これはなに? ベラ   スープです マタン これも美味しい!これは? ベラ   鶏肉を焼いたものです マタン これは知ってるよ。じゃがいもだ。美味しい! ベラ  …恐れながら申し上げますと、それは人参です
ベラ、 マタンを風呂に入れようとする
マタン  嫌だ!僕は流れる水が嫌いなんだ ベラ 流れません、流れませんから! マタン そんなこと言っても絶対流れるだろう ベラ  流れません。浴槽にお湯がたまっているだけですから マタン  体は綺麗にしたいけど水は嫌だ!流れる水はキライ! ベラ 流れませんって!
ベラ、マタンの洋服を選ぶ
マタン ええと、1番、いや5番? ベラ  5番? マタン  衣装ケースに数字が書いてあるだろう。確か黒いシャツがあったはずなんだけど。僕はそれがお気に入りなんだ ベラ  (衣装ケースの番号を確認して) 1、3、4、…7、14? マタン あ!それ、それはね、むかしハレスの街で買ったものなんだ。襟に素敵な刺繍がついてるだろう?よし、それにしよう
服に穴が空いている
マタン そんな… ベラ  縫います!これぐらいなら縫えば直りますから!
ベラ、マタンの髪を切る
マタン いやあ、君のおかげで助かったよ。何しろ僕は僕自身のことがなにもわからないものだから ベラ     お役に立てたのなら光栄です マタン  君はすごいね。料理に洗濯、裁縫に掃除…服も着せてくれたし、お風呂にも入れてくれた。なんでもできる。魔法使いみたいだ。 ベラ  いえ、そんなことは マタン 謙遜することはないよ。素晴らしい技術だ。君のご実家はなにをしているんだい?レストラン?仕立て屋?それとも… ベラ  葬儀屋です マタン …。 ベラ  とは言っても、もう廃業したんですけど。祖父が、亡くなったので。 マタン 他の家族は? ベラ  …いません。私、捨て子だったんです。だから。 マタン  じゃあ君はいま、ひとりぼっち? ベラ  …終わりました。さっぱりしましたよ。 マタン お?おお、本当だ!頭が軽い。いや、気分がいいね ベラ    良かったです 。あ、鏡をお持ちしますね…鏡はどこに マタン ああ、この家には鏡はないよ ベラ  え? マタン 必要ないからね ベラ  必要ない…? マタン あれ、村のみんなから聞いてない?僕はね、吸血鬼なんだ。 ベラ  え… マタン 吸血鬼は鏡に映らないからね。鏡はいらない。 ベラ  ご冗談を マタン 冗談じゃないさ。 ベラ  …。 マタン ああ、大丈夫だよ。君の血を吸ったりはしない。君は大切な、お世話がかりだもの。怖がらないで。
マタン 僕は吸血鬼のマタン。これからよろしくね、お世話係のベラ。
<墓地>
マタン  そう!なんとマタンは吸血鬼だったのです! 墓荒らし …いや、それはわかるよ。最初に言っただろあんた。 マタン  あれ? 墓荒らし にしても大変だなあ、そのベラって嬢ちゃん。身よりも家もないなんて… マタン    そうなんだよ苦労してるんだよ 墓荒らし しかも吸血鬼の世話係なんて…物騒じゃねえか。いつ血を吸われるかわかったもんじゃねえ。おおこわ。 マタン  だから、吸わないってば。吸血鬼はそんなに頻繁に血を吸うわけじゃないし、それに人間の血である必要はないのさ。 墓荒らし へぇ。詳しいんだな、あんた マタン  まあね。 墓荒らし  で、そっからどうなったんだ? マタン   ベラはマタンに恐怖した。そりゃそうだよねえ。人間じゃないんだもの。そこで彼女は屋敷から逃げ出すことを決意した…
<屋敷>
マタン 君の料理はいつも最高だね。食べ終わった皿ですら輝いて見えるよ ベラ  …ありがとうございます。 マタン 君は料理人になるべきだよ。そういえば村のはずれに素敵な小屋があっただろう。もうないかなあ。お役目が終わったら、あそこでレスト  ランを開くといいね。そうしなさい。 ベラ  …あの マタン うん? ベラ   今日はいつ頃おやすみになられますか? マタン そうだなあ。いつもどおり、9の時に。 ベラ  かしこまりました。では、ご用意しておきますね。 マタン ベラ ベラ  はい。 マタン いつもありがとう。君のおかげで幸せな日々を過ごせているよ。君は、よく働く素敵な子だね。 ベラ  …いえ、勿体無いお言葉です。では、失礼します。
真夜中 ベラ、屋敷を抜け出そうとしている
マタン ごきげんよう、ベラ ベラ  マ、マタン…さま。おやすみになられたはずでは… マタン  僕は吸血鬼だよ?夜にこそ動かなくては。…で、君はなにをしているんだい? ベラ      ええと… マタン  …眠れないのかな? ベラ   は、はい マタン そう
マタン 君が屋敷に来て、どれぐらいだっけ ベラ  一週間ほど、でしょうか マタン そうか。時間の流れはわからないものだね。もう何百年も一緒にいるような気持ちだよ。 ベラ  …マタン様は、オエドラがいなくなってから、私がくるまで、どうなさっていたのですか。その、身の回りのこととか マタン 友達が居たんだ。そのひとが ベラ  その方はいま、どちらに マタン 居なくなってしまったよ。ずうっと、むかしにね。
マタン サレスという男でね、ぼくと同じ吸血鬼で、とても綺麗なひとだった。ちょうどこの夜空をそのままひとにしたような、澄んでいて、穏やかで、少しひんやりとしたひとだったよ。サレスは青い髪をしていた。僕はその色がとても好きだった ベラ  青い髪… マタン 滅多にない色だろう。そのせいで辛い目にもあったみたいだけどね。ひとは、自分と違うものを怖れるものだから。 ベラ  …そうですね マタン  今となっては生きているのか死んでいるのか…。生きていて、くれればいいんだけど。 ベラ  マタン様は、ずっと、ここでサレス様の帰りを待っているのですか マタン  うん。 ベラ  ずっと、ひとりで? マタン うん。ずっと、ひとりで。
ベラ  …私も、ひとりなんです。 マタン  …。 ベラ   居場所も、行く場所も…帰る場所もなくて マタン  村は? ベラ   拾われっ子で、葬儀屋の子でしたから。…マタン様の仰る通りです。ひとは自分と違うものを怖れます。 マタン  君は働き者じゃないか。それに器用で、優しくて、しっかり者だ。とても素敵な子だよ。なにが怖いっていうんだ。 ベラ   そんなことは関係ないんです。 マタン そうだ。関係ない ベラ  …え? マタン 君が拾われっ子だとか家族がいないとかうちが葬儀屋だとか、そんなことは君の本質とはなんの関係もない。違うかい? ベラ  …。 マタン 君は、僕に美味しい料理を作ってくれて、服を着せてくれて、屋敷の掃除をしてくれて…僕のことを助けてくれている。僕にとってはそれで十分だ。僕はベラが大好きだよ。 ベラ  …マタン様 マタン 村に帰りたいのなら帰ればいい。それは君の自由だから。…でもね、僕は、君と友達になれればいいなと思っているんだ。
マタン  そろそろ僕も部屋に戻ろうかな。…ベラ、君も今日はもうおやすみ。 ベラ  はい… おやすみなさいませ、マタン様。
<墓地>
墓荒らし じゃあ…ベラは屋敷から逃げなかったのかい? マタン  ああ。もともと、彼女には逃げる先もなかったしね。こうしてベラは本格的にマタンのお世話がかりとして働き始めた。 墓荒らし  そういや、お世話がかりって具体的に何をするんだ マタン  屋敷の掃除、庭の手入れ、マタンに服を着せる、食事の用意に食器洗い、あとベッドメイクと洗濯と… 墓荒らし 多いな!それを一人で? マタン そう 墓荒らし  そりゃ無理ってもんだろ。他に誰かいなかったのか? マタン  何しろマタンは怖がられていたから。雇われてくれる人なんていやしないよ。ベラだって、人柱のようなものだったのさ。…最初はマタンのことを怖がっていたベラもだんだん心を開くようになった。ひとりぼっちのマタンとひとりぼっちのベラは二人で幸せに、穏やかに暮らした。しかし、村人たちは二人のことをけっして良くは思っていなかった…
<村>
村人が話している(ベラとマタンの噂話をしていて空気が悪い)
ベラ こんにちは 村人 あ、ああ…こんにちは、ベラ ベラ 野菜を買いにきたんですけど、あと、果物も少し 村人 ああ、用意してあるよ。とってくるから、少し待ってな。 ベラ  ありがとうございます。
村人 ねえ、ベラ。 …あの男、どうなんだい? ベラ どうって…。 村人 あの男、その…頭がおかしいんだろう?なんでも人を食べるとか 村人 違うって。夜な夜な吠えて山を徘徊するんだろ 村人 オエドラもあの男に殺されたって話だし 村人 吸血鬼って噂もあるよ ベラ そんなこと… 村人 はい、ベラ。これ食料な。あと、服も入れておいたよ。あんた、ずっと同じ服を着てるからさあ。お古なんだけど、着たらいい。 ベラ ありがとうございます。
ベラ、帰ろうとする
村人   いやあ 、怖いよなあ。あんな化け物と一緒に暮らすなんて。まともな神経ならやってられないよ。やっぱり葬儀屋の娘は違うなあ。 村人   こら、そんなこと…
村人の笑い声
ベラ …。
<屋敷>
ベラ、荷物を仕分けている ベラ、ふと自分の服を見ると、ずいぶん汚れてしまっていることに気がつく ベラ   …そういえば服を入れてくれたって
取り出すとボロボロの布
ベラ …。
マタン ベラ、おめでとう! ベラ    !? マタン  今日はパーティにするよ! ベラ  え?パ、パーティ?なんの? マタン ほらほらいいからいいから!
マタン まずはふさわしい格好に着替えないとね。君は何色が好き? ベラ    いえ、そんな… マタン 何色? ベラ    あ、青… マタン そんな君にはこのドレス!ジャージャーン ベラ   素敵…でもこんなドレス、一体どこから? マタン 僕のコレクションさ。すっかり忘れてたんだけど、ようやくしまった場所を思い出してね。 ベラ  マタン様はドレスを着るんですか…? マタン  違うよ。見るのと集めるのが好きなんだ。さぁきてみてごらん。きっと似合うよ
ベラ、ドレスを着てくる マタン、ベラに靴を出す
料理が並んでいる マタン 次ははディナー。さぁ、めしあがれ ベラ  これ全部マタン様が…? マタン そうだよ。君のレシピを参考にしたんだ ベラ  いただきます
マタン どうかな? ベラ  …しょっぱいです マタン え?…うわっほんとだ!こっちは甘い…ああ、ベラ、無理して食べなくても ベラ   いえ、いただきます。 マタン 美味しいの? ベラ  それは…でも、とても嬉しいです マタン 嬉しい? ベラ  はい、とっても マタン それは僕も嬉しいなあ
ベラ  そういえば、これはなんのパーティなんですか? マタン ベラが屋敷に来た記念パーティだよ ベラ …?ちょうどニヶ月…でもないですよね マタン 時間なんて関係ないよ。祝いたいと思ったから祝っただけ ベラ   そんなの聞いたことないです マタン そう?僕はしょっちゅうだよ。お祝いは思い立ったらやるべきだね。そっちの方が楽しいから
マタン そうだ、君にプレゼントがあるんだ。受け取ってくれるかな? ベラ …?
マタン、小箱を取り出す
ベラ  これはなんですか? マタン サレスの形見、みたいなものかな ベラ   そんな、いただけません。大切なものでしょう? マタン 君に持っていてほしいんだ ベラ  でも… マタン 嫌? ベラ …嫌、ではないんですけど マタン …実はね、近いうちにサレスの葬儀をしたいと思ってるんだ ベラ  え… マタン  サレスがどうなったかはわからないよ。生きてる可能性だってある。でもね、僕は…もう彼がこの世にいない気がするんだ。 ベラ  そんな マタン 僕と彼はとっても仲が良かったんだ。それなのにずっと帰ってこないってことは…そういうことじゃないかな ベラ  …。 マタン ずっと、心のどこかではそう思っていた。でも、それを認めたくなかったんだ。それを認めてしまったら、僕は本当に、ひとりになってしまうから。…でも、君が来てくれた。僕はもうひとりぼっちじゃない。
マタン ねえ、ベラ。もし君がこれを受け取るのを躊躇うのなら…交換っていうのはどうかな? ベラ  交換? マタン そう。これを受け取る代わりに、僕の���願いを聞いてほしい ベラ  何でしょう? マタン サレスの葬儀を手伝ってほしいんだ。君は葬儀屋の子だろう?で、これはその報酬とする。どう? ベラ  それなら…サレス様の葬儀、喜んでお手伝いします。 マタン ありがとう!君はやっぱりいい子だね
マタン こうして二人はサレスの葬儀の準備に取り掛かった。とりあえず決めたのはハロウィンまでに執り行うということ。そうしないと、サレスの魂が帰ってこられないから。しかし、準備はなかなか進まなかった。何しろ、ベラは吸血鬼の葬儀なんて見たことも聞いたこともない。肝心のマタンはというと「知らないわからない」だし。困ったベラは吸血鬼の葬儀について調べるために、屋敷の地下にある書斎へ向かった。しかし、どこかで通路を間違えてしまったらしい。気がつけば、ベラは見たことのない場所に立っていた…
<地下室>
ベラ  ここ…じゃない、ここでもない… ベラ どうしよう、帰れなくなっちゃった…
ベラ  …何の音? ベラ  風、かしら?
ベラ、音の聞こえる方へ
青い髪の男、鎖に繋がれている ベラ 隠れる
青い髪の男、獣のように唸り、彷徨っている
ベラ、戻ろうとし、音を立てる
青い髪の男、ベラに気がつき襲いかかる ベラ、男の指が4本しかないことに気がつく
ベラ、抵抗し、何とか逃げ出す
<屋敷>
マタン ベラ、おかえり…どうしたんだい?顔が真っ青だよ ベラ   おとこが… マタン 男? ベラ   地下に、地下に見知らぬ男が…マタンさま、あれは一体…! マタン 落ち着いて。何があったの? ベラ   … 地下に、男がいたんです、青い、髪で…そう、指が一本欠けていました。鎖か何かに繋がれていて、そして、私に襲いかかってきたんです…なんとか逃げ出しましたが、ずっと、男は吠えていて… マタン …。 ベラ   マタン様、あの男は一体なんですか?誰なんですか? マタン …わからない。そんなものはこの屋敷にはいないはずだ。 ベラ  でも、私見たんです。 マタン 悪い夢じゃないかな。君はここのところずっと働きづめだったから。 ベラ    そんなことありません。ほら、ここに手の跡が マタン なら、泥棒か何かかもしれないね。僕が後で様子を見に行くよ。 ベラ    泥棒…? マタン この屋敷に盗むものなんてないけどねえ。そうだ、君は部屋に戻りなさい。少し休んだほうがいい。 ベラ  …はい
ベラ  青い、髪の男…。
マタン  それから、ベラがあの青い髪の男に会うことはなかった。あの日、偶然迷い込んだ通路に行くことができなくなったんだね。こればっかりは運命の巡り合わせだ…仕方がない。彼女はだんだん、あの男のことを忘れていった。 そのうち、ハロウィンが近くなってきて、ベラはサレスの葬儀の準備に追われた。マタンも手伝ってるのか邪魔しているのか…とにかく何かしらバタバタしていた。ベラは忙しくて気がつかなかったのだけど、この時、ある噂が村では流れていた。それは、「ベラがいつか村を滅ぼす」というものだった…
<屋敷>
マタン おかえり、ベラ ベラ  あ…マタン様。ただいま帰りました。 マタン あれ、どうしたの?元気がないね ベラ  いえ、何も
マタン、ベラの籠をとって
マタン  コレは…食べ物なのかい? ベラ   申し訳ありません。その…村の人たちがものを売ってくれなくなってしまって…売って貰えても状態の悪いものばかりで マタン ふむ、君が元気がなかったのはこれが原因か ベラ  申し訳ありません マタン 謝ることはないよ。君はよくやってくれてる。それより、葬儀の方は無事、できそうかな? ベラ  はい。準備は順調です。しかし… マタン なに? ベラ  花が、いるんです。この辺りには咲かない花なので花屋で買うほかありません。しかし、このままでは…あ、いえ!必ず手に入れます。お気になさらないでください。 マタン …ねえベラ、その買い物、僕も一緒に行っていい? ベラ   え? マタン 僕も久しぶりに村の様子を見に行きたいしね。ダメかな? ベラ  …。 マタン わかってる。村の人たちは僕のことを恐れているんだろう?でも、大丈夫。村の人たちは僕の顔を知らないからね。 ベラ  しかし、マタン様にもしものことがあったら マタン 忘れたのかい?ぼくは吸血鬼だよ。何があったってへっちゃらさ。
<村>
村人  おや、ベラじゃないか。いらっしゃい。 ベラ  こんにちは。この前と同じものが欲しいんですけど 村人  ダメダメ。どこも食べ物なんて十分にないんだよ。よそを当たりな。 ベラ  お願いします。とても困っているんです。 村人  ダメだよ。あんたのところだけ贔屓はできないね マタン そうですか…それは困りましたねえ。 村人  え? マタン しかし、見たところ商品は十分棚に並んでいるように見えますが。どうです、ご婦人? 村人  あ、あんた… マタン ああ、これはこれは。申し遅れました。私、森の屋敷に住んでおります、マタンと申します。以後お見知りおきを。 村人   マタン、って、あの… マタン おや、私をご存知なのですか!これは嬉しい。ところで、あなたお名前は?うちのベラがたいそうお世話になっているようなので、よろしければ屋敷に招待させていただきたく… 村人  け、結構でございます。おほほ…(奥に)ちょっと、あんた!今からいうものを持って来な!いいから急いで!ええと、小麦粉が一袋、卵一ダース…
ベラ、マタン笑っている
ベラ  あははは、おっかしい!みました?あのびっくりした顔! マタン  ああ、笑っちゃ悪いけど…いやあ、あんなに怖がってくれるとはねえ!出て来た甲斐があったってものだよ。 ベラ  あ…そうですね。笑ったらかわいそうですね… マタン  そうだね…
ベラ、マタン、吹き出してしまう
ベラ   あはは、どうしましょう、私今、とっても意地悪な人ですね マタン  君は少しぐらい意地悪な方がいいと思うよ ベラ  久しぶりにきちんとお買い物ができました。これも、マタン様のおかげです。本当にありがとうございます。 マタン いいのさ。これでサレスの葬儀も無事にできるってものだよ。 ベラ  なんだか、わたし、マタン様に助けられてばかりですね マタン そんなことないよ。君はいつもぼくの世話を焼いてくれる。君がいなかったら、屋敷はめちゃくちゃになってしまうよ。 ベラ  いえ、そんな…私のしていることなんて大したことではありません マタン 大したことだよ。もっと胸を張りなさい。 ベラ  …いつか、恩返しをさせてくださいね。マタン様のためなら、なんだってします。 マタン そう?じゃあさっそく助けてもらおうかな。僕はお腹が空いてしまったよ。
マタン  二人はその後 、サレスの葬儀に取り掛かった。二人は、相変わらず、いや今まで以上に幸せに暮らしていたけれど、邪悪な影は少しづつ、少しづつ近づいて来ていた。運命の日…ハロウィンの日だ。しかし、二人はもちろん、そんなことは知らない。そして、新月の夜、とうとうサレスの葬儀が行われることとなった…
<屋敷>
マタン  この後は? ベラ   棺を埋めます。…これが本当のお別れになりますから、マタン様、ご挨拶を。 マタン  挨拶…
マタン  サレス、君を待てなくて、本当にごめん。君はもしかしたら、死んでないのかもしれない。でも…とても悲しいことだけど、もう、君と会うことはないんだろうな、と思っている。だから、ここでさよならだ。 ありがとう。君と暮らした100年は、幸せな日々の積み重ねだったよ。さようなら僕の1番大切な友達。
マタン、指輪を外す
マタン  これを君に。君がいないんじゃ、つけていても意味なんてないから。いつか君のところに取りに行くね。
マタン  …棺を埋めようか
マタン、ベラ、棺を埋め始める 二人、黙って埋めている
マタン  サレスは、怒ってるかもね。勝手に、葬儀なんてやっちゃったから ベラ   そうですね マタン  でもね、僕だって怒ってるんだよ。あの日、何も言わずにいなくなってしまったこと。僕がどれだけ悲しんで、心配したと思ってるんだろう。 ベラ   お辛かったでしょう マタン …つらかった ベラ   はい マタン つらかったんだね、僕は
マタン サレスは怒っていないだろうか ベラ  きっと、怒ってなんてないですよ マタン 本当に? ベラ  ええ マタン 本当に… ベラ  はい、きっと。
<サレスの墓>
墓標が立っている
ベラ  マタン様、風邪を引きます。もう戻られた方が良いかと。 マタン  うん、そうだね。もう行かなきゃ
マタン ねえベラ、一曲踊ってもらえないかな ベラ  え? マタン サレスが言ってたんだ。悲しい夜ほど踊ろう、って。サレスはダンスが好きだったから。 ベラ  …。 マタン とはいっても、僕はダンスが下手なんだけど… ベラ  いいですよ。わたしも、下手ですけど、それでもよければ マタン ありがとう。では、手を。
マタン、ベラ、踊る
マタン   あはは、本当だ。君も僕に負けず劣らず下手だねえ ベラ   ご、ごめんなさい… マタン  いいんだよ。僕だって下手なんだから。サレスに見せたらなんて言うだろう。卒倒しちゃうかな
ベラ   マタン様は、サレス様と100年も、ともに過ごされたのですね マタン ああ。今にして思えば、なんて幸せで儚い100年だったんだろうね。 ベラ  私も、それだけ長く生きられればいいのに マタン え? ベラ    そうすれば、ずっと、マタン様のお側にいられます。そしたら…きっと、とても幸せなのに。
ダンスが終わる
マタン 方法ならあるよ ベラ  え? マタン 君だって僕と同じように、何百年も生きられる方法 ベラ  …。 マタン 僕が君の血を吸えばいい ベラ  …! マタン  知ってるだろう?吸血鬼に血を吸われた人間は、吸血鬼になるんだ。
マタン 怖がらなくていい。痛くもなんともないから。ああ…お日様の下には出られなくなってしまうね。でも、心配しなくていい。夜の世界も美しいものだよ。
ベラ、マタンにもらった小箱を落とす 中から指輪の嵌められた男の指が出てくる
ベラ  えっ… マタン ああ…落としちゃダメじゃないか。大切なサレスの指なのに。 ベラ  サレスさまのゆび…? マタン そうだよ。ほら、僕のと同じ指輪がはまってる ベラ  サレスさまは屋敷から出て行ったのではないのですか…? マタン そうだよ ベラ   指だけを、のこして…? マタン  …あれ? ベラ   マタンさま…? マタン  サレスは行方不明になった…?ゆくえふめい…
マタン 僕はあの日、彼と喧嘩をして、そう、かれをえいえんにするというはなしをして、そのためには、のみほさなくてはそして、たましいを…それで…(うわごとのように謎の言葉を口走る)
マタン  地下室… ベラ   …!
ベラ、逃げ出す マタン、残される
<村>
村人 ベラ!いるんだろう、開けろ! 村人  世話係を辞めたってどういうことだい!あの係は責任が…
村人たち、騒いでいるがだんだん態度が軟化していく
村人 マタンに襲われたそうじゃないか。かわいそうに 村人 あんな仕事、こんな若い女にやらせるなんてひどいよねえ。 村人 パイを焼いたんだ。食べるといいよ。ほら…
ベラ、だんだん心を開いていく
ベラ ありがとうございます。ありがとうございます。…ええ、また伺います。仕事?はい、なんでも。私にできることなら。私が役に立てるのなら、ええ…
ベラ、幸せに暮らす
ベラ  …マタン、を倒す?
村人  ああ、今年はひどい不作だった。風も冷たいし、この気候が続けば、村は飢えてしまう。 ベラ  確かに今年は不作ですけど…彼になんの関係が 村人  決まってるだろ!マタンがこの村に呪いをかけてるんだよ! ベラ   そんな… 村人  お前だってあの屋敷で怖い思いをしたんだろう?あいつは倒すべき敵なんだよ 村人  噂では、ショーン爺さんが死んだのもマタンの仕業だって 村人  知ってる知ってる!畑に毒を撒いたってのも聞いた 村人  俺はあんなのは早く殺すべきだと思ってたんだよなあ 村人 マタンが村に来たって聞いたか?あいつが不幸を連れて来たんだ 村人 マタンは悪魔だ。 村人  なあベラ、お前もそう思うだろう? ベラ  ええと… 村人  あいつは頭のおかしい化け物なんだよ。 ベラ  …。
ベラ、ナイフを渡される
村人   ベラ、頼まれてくれるか ベラ  えっ 村人  お前はマタンの屋敷で働いていただろう。なら、マタンの油断を誘えるはずだ ベラ  そんな…私は屋敷を逃げ出した人間です。きっと、彼は私のことを恨んでいます。 村人  じゃあマタンが寝ている間に殺せばいい。 ベラ  でも… 村人  大丈夫。俺たちもついていくさ。いざという時は助けてやるよ ベラ   …。 村人  お前の力が必要なんだ。 村人  俺たちを助けてくれ 村人  頼むよ…
村人たち、ベラにすがる
ベラ  …わかりました。
<屋敷>
マタン、眠っている
ベラ、刺そうとするも、刺せない
ベラ、自分にナイフを刺そうとする マタン、止める
マタン ご機嫌よう…じゃあないね、おはよう、ベラ ベラ   マタンさま…おやすみになられたはずでは マタン  君はなにをしているんだい? ベラ   …。 マタン 眠れないの? ベラ  …はい
マタン 君が屋敷に来て、どれぐらいだっけ ベラ  1年ほど、お世話にになりました。 マタン そうか。時間の流れはわからないものだね。もう何百年も一緒にいるような気持ちだよ。 ベラ  …ごめんなさい マタン  何が? ベラ   私は、マタン様を裏切りました。 マタン ああ、そんなこと ベラ   今ならまだ間に合います。逃げてください。村人たちがすぐそこまできています。 マタン ベラ ベラ  …。 マタン 君は僕が怖いのかい ベラ  …本当のことを言えば、こわい、です。でも
ベラ あなたはは私に居場所をくれました。役目を与えてくれました。優しくしてくれました。どれだけあなたが怖くても、あなたが私にくれたもの、してくれたこと、お側にいられてとても幸せだったこと、全部、本当のことです。それとこれは、関係のないことです。
マタン  じゃあ、十分じゃないか。 ベラ  え? マタン 君が裏切ったとしても、僕を殺そうとしたとしても、君と暮らした日々がなくなるわけじゃない。それとこれは関係ないんだよ。 ベラ …。 マタン ねえ、そんな顔しないで。君が悲しいと僕も悲しいよ。だって、僕らは友達じゃないか。 ベラ     マタン様
村人たちの声
ベラ   来ました…!裏口から逃げましょう。そこならまだ…
火の音
マタン これは… ベラ  そんな、まさか…
屋敷が燃える
ベラ  みなさん、やめてください!屋敷を燃やすなんて…(村人たちには届かない) 村人   マタンは化け物だ! 村人  燃やせ燃やせ! 村人  ベラがまだ中にいるんじゃないか? 村人  いいんだよ。あいつも呪われた女だからな 村人  マタンの手先なのさ。ほら、燃やせ燃やせ!
ベラ  そんな… マタン 最初から君ごと僕を殺すつもりだったみたいだね ベラ   マタン様、逃げましょう。地下からなら森に出られます。そうすれば マタン ああ…
逃げ出す二人
<森>
村人たちに見つかる 村人たち、ハロウィンの仮装をしている
村人 いたぞ、マタンとベラだ! 村人   逃すな!
二人、逃げるが逃げ場がなくなっていく
マタン こっちも駄目か ベラ  どうしましょう…もう逃げる場所が マタン  …二手に分かれようか ベラ  え? マタン  二手に別れれば追っても混乱するはず。そうすればチャンスがあるかもしれない ベラ …。 マタン  心配しないで。絶対に大丈夫だよ。君は賢くて強い子だ。…この先に橋がああるのは知ってるね?そこで合流しよう。 ベラ  …わかりました。
二人、別れる
ベラ  マタン様 マタン なに? ベラ  必ずきてください。待ってますから。 マタン もちろん
村人  こっちにいたぞ! 村人  ベラだけか? 村人   マタンはどこにいる
ベラ、隠れる
村人  おかしいな、こっちの方に逃げたはずなんだが…
村人  おい、急いで屋敷に戻れ! 村人   なんだよ 村人  とうとうマタンが捕まったらしいぞ 村人  なんだって? 村人  なんでも屋敷に戻ってきたらしい。馬鹿だよなあ。 村人  はぁ? なんでそんなこと 村人  さぁ、化け物の考えることはわからんよ。行こうぜ
村人達、去る
ベラ  マタン様…!
<屋敷>
マタン、うずくまっている 村人達、マタンを罵り、暴力を振るっている
村人  どうだ、さすがに死んだか? 村人  気絶してるだけじゃないか?この男、吸血鬼って聞いたぞ 村人  そんなわけあるか。ただの気の狂った男さ。 村人  わざわざ目立つように屋敷に帰ってくるなんて、死にたいのか、こいつ 村人  何考えてんだか…あ?これなんだ?
村人、マタンの抱えていたサレスの墓標を取る
村人  …墓標か? 村人  この汚い板が?誰の墓だって言うんだ 村人 おら、よこせ
サレスの墓標が壊される
ベラ、落ちていたショベルを手にする
ベラ、ショベルを振るう
村人、静かになる
ベラ  化け物は…
ベラ、シャベルを振るう
村人が死んでいく…
<墓地>
マタン  こうして、マタンは死に、村人も大勢死に、屋敷は燃え、村は滅び、ベラだけが残された。ベラはマタンとサレス、そして村人達の死をいたみ、全員の葬儀を行なった。そして屋敷の燃えたあとには墓が並んだ。そう、この墓地のもとだね。で、夜になるとこの墓地ではマタンとベラの亡霊が現れて、屋敷に火をつけた村人を探し、さまよう、そう、だ…屋敷を燃やしたのはお前かー! 墓荒らし ぎゃー!…って、怖い話なのかよ! マタン  そうだよ。ぼくのとっておき 墓荒らし 楽しい話つったじゃねえかよぉ マタン  そうそう、このお話には続きがあるんだ。 墓荒らし 続き? マタン   実はマタンは死んでいなかった。なにせ彼は吸血鬼。人間ごときにことせるはずもなかった。彼はベラとともに海を渡り、遠い異国の地で、平和に幸せに暮らしましたとさ。 墓荒らし いやお前、さっき死んだって… マタン さらにさらに続きがあって、そのマタンはつい最近この墓地に帰ってきたのでした。もちろんベラも一緒にね。そして今はここで墓守として面白おかしく暮らしています。ちゃんちゃん。はい、今度こそ終わり。 墓荒らし 墓守って… マタン   …気づいてしまったか。 そう、このぼくこそが…この墓地の墓守にして、吸血鬼マタン、その人なのです! 墓荒らし どうせそんなオチだろうと思ったよ。はいはい。 マタン  ええ、何その反応。本当だってば 墓荒らし  そうかい。…お、そろそろ日が昇るな。吸血鬼は帰った方がいいんじゃねえか? マタン  おや、もうそんな時間か。
ベラ   マタン!やっと見つけた マタン  あれ、どうしたのそんなに息を切らせて。 ベラ   あなたが見回りから戻ってこないから。とても心配したのよ。もう日が昇るわ。帰らないと。 マタン  そうだね。帰ろうか。じゃあね、楽しい夜だったよ。 墓荒らし お、おう…またな マタン あ、そうそう
マタン 墓荒らしなんてするもんじゃないよ。特に、吸血鬼の住む墓地では、ね
ベラ、マタン 、去る
墓荒らし まさか…な
墓荒らし、去る
終わり
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rukakopikapika-blog · 7 years
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トランキライザー
一人芝居。五分程度。
一人きりの部屋で幻を見る女の話。
***
舞台の真ん中に椅子。
女、そこに座っている。
膝の上には壊れたカメラ。
宙を見つめていて焦点が定まっていない。
調子っぱずれに「木綿のハンカチーフ」を歌っている
「ぼくはたびだつひがしへとむかうれっしゃで」
「きょうはじゅうさん?」
「あは、あはははは、あはははははっっ」
女、椅子から転げ落ちる
倒れたまま呻いている
「ああああありいお」
「りいお」
「まだなの」
女、リーオ(幻覚)に気づく
「リーオ!」
「えっ?い、いつの間に帰ってきてたの!?もう・・・いたなら一言言ってよ!私、あなたのことずっと、ずっと、ずっと、待ってたのよ!!!」
「本当に・・・帰ってきてくれてよかった・・・よかった」
「えへへ・・・もう帰ってこないかと思ってた。これ以上待たされたら、おばあちゃんになっちゃうところだったわ」
「あ、何か飲むでしょ?お茶いれるわね。うふふ、美味しいクッキーもあるのよ。今用意するわね」
「(探しながら)あのね、ここの人たちってばひどいのよ?こんなにもない部屋に閉じ込めて、一歩も外に出してくれないの。けいかかんさつ?っていうの?わからないけど。誰にも会えないし、することもないし、頭がおかしくなっちゃいそうだった。リーオのことがなければきっと死んじゃってたわね」
女、空をかき回したり床に這いつくばったりするが見つけられない。
「あれ?なんで?なんでないの?なんでなんでなんでなんでなんで」
「・・・ごめんなさい!あると思ってたんだけど、なかったみたいだわ。また今度ね」
「あ、そうだ!記念に写真撮らない?あなたが帰ってきた記念。うふふ写真なんて久しぶりでしょう?」
「カメラだけはね、もらってたんだ。懐かしいでしょ、あなたのカメラよ。えっっとね、と、と、とらんきらいざー?・・・持ってると、すごく安心できるもののこと。本当、その通りだわ。これがあると、あなたがそばにいるみたいですごく安心できたの」
「あっと、誰かにとってもらいましょうか!あ、そこのひと!そう、赤い帽子のあなた。写真撮ってくださらない?」
女、いない男にカメラを渡す。
カメラ、落ちる
「・・・え?」
「あ、ごめんなさい・・・お急ぎだったのかしらね?」
「えーっと、そこのお嬢さん!ちょっと写真お願い出来るかしら?」
女、いない娘にカメラを渡す
カメラ、落ちる
「・・・・もう、なんなのかしら?断るにしたってねぇ、もっとちゃんと断ってくれたらいいのに。ああ、カメラボロボロ・・・」
「しょうがないわね、撮りっこしましょうか?まずは私があなたを撮るわね」
「ハイチーズ!・・・ふふふ、素敵な笑顔ね。好きよ」
女、写真が撮れたか確認する
「え?あれ?・・・写真、真っ白・・・失敗しちゃったみたい!もう一回言い?ハイチーズ!」
女、再び写真を確認する
「ん?また真っ白。おかしいなぁ、ここを覗いた時は取れてたのよ?ううん、もう一回」
女、なんどか写真をとるものの成功しない
女、確認を繰り返す
「あれ?あれ?あれ?なんで撮れないの?なんで?ねぇ?なんで?リーオは?リーオが映らない?なんで?なんでなんでなんでなんでなんで」
女、カメラを捨てる
「・・・あなたが写らないカメラなんて、いらないわね」
「ごめんなさい、壊しちゃったから怒ってる?・・・そうよね、そんなこと些細なことよね」
女、椅子に座る
「そうね、トランキライザー。もういらないもの。だって、あなたがいるから」
「これからは、ずうっと一緒、ね?」
女、幻覚から抜け出す
女、再び宙を見て「木綿のハンカチーフ」を歌い始める
「こいびとよぼくはたびだつひがしへとむかうれっしゃで」
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rukakopikapika-blog · 7 years
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あの子はかわいいかわいいかわいそうな男の子
碓氷 かわいそうだからかわいい男の子
あや 死ぬ
りか 死ぬ
みほ 死ぬ
神様 
***
五人いるけどご自由にどうぞ。
20分程度。
神様と神様にかわいがられてしまった男の子の話。
***
おもちゃ箱みたいに散らかった舞台
碓氷「あや。ようやく俺たち一緒になれるんだね!」
あや「ええ、碓氷くん。親が交通事故にあったり、親友に裏切られたり、あなたと兄妹だったことが判明したりしたけど、全部乗り越えたのね、私たち」
碓氷「今まで辛くて苦しい道のりだったけど、無駄じゃなかったね」
あや「あれは全て愛の試練だったのよ。でも、それも全部終わり。これからはずっと一緒よ」
碓氷「あや」
あや「碓氷くん」
二人抱き合う
神様それを見ている
神様「うん、死のっか」
神様、ペンであやを刺す
あや、死ぬ
碓氷「あや!」
神様「かわいそうに、あやちゃんは通りすがりの男に刺されて死にました」
神様、碓氷を見ている
神様「碓氷くん、ごめんね。なんか、つい」
碓氷「あや、なんで」
神様「碓氷くん悲しい?」
碓氷「なんでこんなことばっかり」
神様「かわいそうだね、碓氷くん。かわいそう。かわいそう。大丈夫。私が幸せにしてあげる」
碓氷、立ち直れない
神様、りかをつくる
神様「見て。碓氷くんとってもかわいそうだから、新しい子用意したよ」
りかと碓氷、楽しそう
神様、ベールを引っ張り出してきて二人にかぶせる
碓氷「りかのこと、絶対幸せにする」
りか「ううん。碓氷くんも一緒に幸せになるんだよ。元カノが死んだり、借金背負わされたり、会社倒産したりしたけど、それももう終わりだよ」
碓氷「りか」
りか「碓氷くん」
神様「よかったね、碓氷くん、これで幸せになれるね。私がりかちゃんを用意したおかげだね」
二人には聞こえない
神様「・・・やっぱり死んで」
神様、本でりかを殴る
りか、死ぬ
神様「かわいそうに、りかちゃんは通りすがりの女にバットで殴られて死にました」
神様「ごめんね、碓氷くん。せっかく幸せになれそうだったのに」
碓氷「なんで」
神様「悲しいよね、寂しいよね。私がなんとかしてあげようか?」
碓氷「かみさま、なんでこんなひどいことばかりするんですか」
神様「大丈夫だよ。私が幸せにしてあげる」
碓氷「かみさまお願いです、俺を殺してください」
神様「かわいそう。碓氷くんかわいそう」
碓氷「かみさま」
神様「絶対に君は私が幸せにしてあげる。ね」
神様、みほを作る
みほのネジを巻くと動き始める
神様「ほら、新しい女の子。この子はロボットだよ。壊しても壊しても死なないの」
神様、本でみほを殴る
神様「ほらね」
みほと碓氷、楽しそう
神様、それを見守る
神様、時々みほを殺そうとするが死なない
神様「あーあ、めんどくさい子創っちゃったなぁ。あ、そうだ」
神様、拡声器を取り出す
神様「ねぇねぇ碓氷くん、この子ロボットなの。だからね、この子の気持ちも何もかも全部作り物なんだよ。全部偽物なんだよ」
碓氷、みほとうまくいかなくなる
神様「みほちゃんのこと嫌いになった?なったよね?」
碓氷「もう何を信じればいいのかわからない。あの子が俺を好きだと言ってくれたのも全部プログラムなのかな」
神様「そうだよ。だからあの子のこと、もう何も信じなくていい」
碓氷「でも、あの子を見るたびに思い出してしまう」
神様「あの子の殺し方教えてあげる。スイッチ押せばいいの。君は場所知ってるでしょ」
碓氷「それしかないのかな」
神様「それしかないよ」
碓氷「でも」
神様「いいんだよ、君は幸せにならなきゃ」
碓氷、みほのスイッチを切る
神様「かわいそうに、みほちゃんは大好きな碓氷くんにスイッチを切られてしにました」
碓氷、スイッチを入れて元に戻そうとする
神様「あ、言い忘れてたけど、スイッチは一回切ったらもうつけられないから」
神様「あーあ、今度は碓氷くん、自分で殺しちゃったね」
碓氷「俺はなんてことを」
神様「しょうがないよ。だって、みほちゃんが動いてたら、碓氷くんずっと苦しいままだもん」
碓氷「殺すことなんてなかった」
神様「いいんだよ。許してあげる」
碓氷「許されないことをしてしまった」
神様「私は許すよ」
神様「碓氷くんかわいそうだね。何をどうやっても幸せになれない」
碓氷「俺はこのままなのかな」
神様「こういうとき、どうすればいいか知ってる?」
碓氷「どうすればいいかわからない。死んでしまいたい」
神様「ダメだよ。君は幸せにならなきゃ」
碓氷「幸せになんてなれない」
神様「なれるよ」
碓氷「どうしたらいいんですか。神様」
神様「私を信じて」
碓氷、神様が見えるようになる
碓氷「神様」
神様「はい、神様です」
碓氷「俺は許されないことをしてしまいました。たくさんの人を不幸にしました」
神様「知ってる。でも、私は許すよ」
碓氷「こんな俺を許してくれるんですか」
神様「うん。許してあげる」
碓氷「あなたは俺の本物の神様だ」
神様「そうだよ。君を許すのも救うのも私だけ。私だけ信じてればいいの」
碓氷「ああ、神様」
碓氷、神様にすがる
神様「碓氷くん、幸せ?」
碓氷「はい、俺には神様がいますから」
神様「でも、碓氷くん、何にもなくなっちゃったよ?」
碓氷「いいんです。全てを神様に捧げるのが俺の幸せですから」
神様「そういうもの?」
碓氷「はい。俺はとてもとても幸せです」
神様「おかしいなぁ。大好きな碓氷くんが私のことだけ見てくれてるのに。なんか違うなぁ」
神様、碓氷をつねる
碓氷「いてて」
神様「・・・」
神様、碓氷の首を絞める
神様「碓氷くん、苦しい?」
碓氷「はい、でも、幸せです」
神様「なんで?苦しいでしょ?痛いでしょ?」
碓氷「でもこれは神様に与えられてるものですから」
神様「このままだと死んじゃうよ」
碓氷「神様に殺されるなんて幸せです。死んでもいい」
神様、手を離す
碓氷「ありがとうございます。苦しみを与えてくださって、痛みを与えてくださって、ありがとうございます」
神様「あ、こうすればいいのか」
神様、自分を殺す
碓氷「神様・・・?」
神様「私死ぬね」
碓氷「そんな、なんで」
神様「最高にかわいい君が見たいから」
碓氷「死にませんよね、神様が死ぬなんてそんなこと、ねぇ死にませんよね神様。俺のこと不幸にしないで」
神様「君はかわいそうな時が一番可愛いよ」
神様、死ぬ
「かわいそうに神様は大好きな男の子のかわいい顔を見るために死にました。男の子はこの世で一番かわいそうでかわいい男の子になりましたが、かわいそうにもう神様は死んでいたので、かわいそうなその子を見ることはできませんでした」
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rukakopikapika-blog · 7 years
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桜の海を泳ぐクジラの話
加賀 駆け出し作家
佐倉 元カノ
***
二人芝居。
20分はないぐらい。まだ好きな人のラブレターのお話。
オムニバスのうちの一編なので微妙によくわかんないところがありますがその辺はフィーリングで
***
加賀の部屋
加賀、手紙を書いてる。周りには書き損じが散らばってる
佐倉、手紙やらチラシやらを持って入ってくる
佐倉「ただいまぁ。・・・なに、まだやってたの」
加賀「書けないんだ・・・。どうやっても書けないんだよ・・・」
佐倉「いつものことじゃん」
加賀「そんなことない。一応、売れっ子小説家だぞ」
佐倉「締め切り破りまくってるくせに」
佐倉「どれどれ、私が採点してあげるよ。・・・君の姿を一目見たとき、僕の心に風が吹いた。柔らかな日の光の中、君の細胞が金色に輝いて・・・ううん」
加賀「どうだ?」
佐倉「ラブレターとしては果てしなくなし」
加賀「だよな」
佐倉「自覚あったんだ」
加賀「俺が女ならこんなラブレター嫌だわ。なんだよ細胞って」
佐倉「・・・君の細胞が可視化できれば本当の君がどこにいるのかわかる気がする。だから、君の細胞に光を通して、一つずつ数えてみたい」
加賀「・・・なんだその気持ち悪いフレーズ」
佐倉「覚えてない?」
加賀「なんか聞き覚えはあるんだけど」
佐倉「加賀くんて何も変わってないね」
加賀「え?何それ」
佐倉「覚えてないならいいよ」
佐倉、持って入ってきた紙類を分類し始める
佐倉「お、黎明社からきてるよ。あと黄塵社からと。はい」
加賀「おう。置いといて」
佐倉「置いといたら、君、いつまで経っても見ないじゃん」
加賀「そんなことないって」
佐倉「あるよ」
加賀「・・・」
佐倉「ほら、今確認して。はい」
加賀、封筒を開け始める
佐倉、分類を続ける
佐倉「あれ、これ宛名ない」
加賀「え?」
佐倉「ほら、見て。差出人もない。真っ白」
加賀「うわ、まじだ。呪いの手紙かな」
佐倉「そんな今時。・・・開けて見たら」
加賀「えっ。呪いの手紙だったらどうしてくれるんだよ」
佐倉「呪われてしまえ」
加賀「やめてくれよ」
佐倉「大丈夫大丈夫。もし呪いの手紙だったら、元どおりに封したらいいよ」
加賀「そんなんで呪い取り消せんの?」
佐倉「知らない。あれじゃない、ファンからとか」
加賀「もしそうなら住所特定されてるってことじゃん。なおさら怖いわ」
佐倉「いいから開けなよ」
加賀、封筒を開ける
佐倉「・・・なんて?」
加賀「ごめん」
佐倉「え?」
加賀「それだけ。ごめんって書いてあるだけ」
佐倉「何それ・・・」
加賀「なんだろうな・・・あ」
佐倉「ん?」
加賀「みどりさん」
佐倉「え」
加賀「もしかして、みどりさんからかもしれない」
加賀「絶対そうだって。きっと俺がみどりさんのこと好きなのバレたんだよ。それで、先回りして断ってきたんだって。うわー告白する前に振られた死にたい」
佐倉「ちょっと・・・落ち着きなよ。そんなわけないでしょ」
加賀「絶対そうだって!それ以外考えられない」
佐倉「きっと誰かのいたずらとかだよ。そもそも告白してないんでしょ」
加賀「してないけど、きっと好きオーラが漏れ出して伝わったんだよ。そうに違いない」
佐倉「確かにあんたの好き好きオーラはダダ漏れだったけど、みどりさんはあんたにそんなに興味ないから気づかれてないと思う。大丈夫」
加賀「それはそれで傷つく」
佐倉「めんどくせーなこいつ」
加賀、呻いている
加賀「・・・やっぱり無理だ」
佐倉「・・・何が」
加賀「ラブレター」
佐倉「・・・だから、これがみどりさんからとは限らんでしょ」
加賀「にしてもだよ。・・・佐倉のいうとおり、みどりさん俺のことなんとも思ってないだろうし」
佐倉「・・・」
加賀「書くラブレター全部きもいし」
佐倉「まぁ、それはそうだね」
加賀「そこはフォローしてくれよ」
佐倉「あ、ごめん」
加賀「・・・」
加賀、書き損じを破き始める
佐倉「え、ちょ。何してんの」
加賀「やめる」
佐倉「やめるって・・・」
加賀「告白しない」
佐倉「なんで。あんなに好き好き言ってたじゃん」
加賀「俺が好きでもみどりさんは俺のこと好きじゃないだろ」
佐倉「そうかもだけど。聞いてみないとわかんないじゃん」
加賀「わかるよ。みどりさん彼氏いるし」
佐倉「は?」
加賀「みどりさん彼氏いるんだよ。昨日、本人から聞いた」
佐倉「マジで」
加賀「だから、もう失恋確定してるんだよ」
加賀、手紙を破いている
佐倉「じゃあ、私との約束はどうなんの」
加賀「・・・それは、ごめん」
佐倉「ごめんって」
加賀「なんなら、今すぐにでも出て行く」
佐倉「いや、そういうことじゃないでしょ」
佐倉「書いてよ、ラブレター。約束したじゃん」
加賀「書けない」
佐倉「約束破るわけ」
加賀「ごめん」
佐倉「あんたが振ったくせに、逃げるの」
加賀「・・・ごめん」
佐倉「書いてよ」
佐倉「書ける。加賀くんなら、書ける」
佐倉「正直、わたし、もう加賀くんのことなんてもうどうでもいいし、みどりさんに振られたらザマァぐらいに思ってるし、さっさと書き上げて出て行かねーかなこいつって思ってますけど、でも、それでも加賀くんの書くものは好きだよ」
佐倉「読みたいんだよ。加賀くんの書いたラブレター。たとえ、それがわたし宛じゃなくても」
加賀「佐倉」
佐倉「何」
加賀「ごめんな」
佐倉「・・・」
加賀「書くよ。多分めちゃくちゃ気持ち悪い手紙になるし、間違いなくみどりさんには振られると思うけど、書く」
佐倉「いいよ。それで振られろ」
加賀「うん」
佐倉「もし振られても戻ってこないでね」
加賀「わかってる」
佐倉「絶対入れないから」
加賀「うん」
佐倉「絶対だよ」
加賀「わかってる」
佐倉「ねぇ、もう一個ペナルティ」
加賀「何?」
佐倉「昔、見せてくれた話あったじゃん。桜の海を泳ぐクジラの話」
加賀「・・・あったなぁ」
佐倉「あれ、いつか本にしてよ。」
加賀「・・・マジで言ってる?」
佐倉「マジで言ってる」
加賀「編集さんダメっていうよ。あんなもん」
佐倉「なら自費出版で」
加賀「・・・あれ、構成も何もかもめちゃくちゃだし、気持ち悪いフレーズいっぱいあるしで、絶対世に出したくないんだけど。間違いなく黒歴史になる」
佐倉「だからだよ。罰」
加賀「・・・わかりました。出します」
佐倉「よろしい」
加賀「あの、改稿アリでしょうか・・・?」
佐倉「なし」
加賀「うわ」
佐倉「私も手紙書こうかな」
加賀「お?」
佐倉「安心して。加賀くん宛じゃないから」
加賀「そうかよ」
佐倉「うん」
佐倉「好きだよ」
加賀「え」
佐倉「めちゃくちゃで、最高に気持ち悪いけど、まっすぐで。あの話好きだよ、私」
佐倉と加賀、手紙を書いている
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rukakopikapika-blog · 7 years
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一人芝居。五分程度。
夜の峠を越えていく女の話。
***
夜の山道。
重い荷物を運ぶ女。
重たすぎてうまく運べず座り込んでしまう。
「あーおっも・・・重たぁー。やっぱ人力は無理かー」
「足いったい・・・うわ、靴擦れじゃんやだー。やっぱりヒールで山道なんて無茶だったなぁ。スニーカーにしとけばよかった」
「台車。台車持って来ればなぁ。それか車欲しいよぉ。・・・免許とっとけばなぁ。お母さんの言う通りだったわ。ペーパーでも取るべきだった」
「こんなんで頂上までたどり着けるかな・・・」
「・・・ねぇ、どうしよっか?」
携帯が鳴る
取る。
「はい。はい。もしもし、あ、タカヒロ?どうしたのこんな時間に」
「えっ、ミズキまだ帰ってきてないの?うん・・・そっか、うん
いや、ショックだけど、なんかね、実感湧かなくて。うん」
「そっか警察が・・・じゃあ、大丈夫だよ。逆に。ほら、やっぱりプロだし。うん、うん。そう、だね。おばさんは・・・大丈夫、じゃないよね」
「・・・ミズキさぁ、この前もふらっといなくなったじゃん?一人旅だーとか言ってさ。だからさ、けろっとした顔で帰ってくるんじゃないかな。きっと、そうだよ。きっと」
「え?今?家だよ?うん・・・えっ、あああ、あれじゃない、入れ違い。ちょっとコンビニ行ってたから。・・・わざわざ来てくれたんだ。ありがとう。なんか、ごめんね、気使わせちゃって。うん・・・いいって、こんな遅くに来てもらうのも悪いし。うん。ほんと、ありがと」
「・・・あっ、そういえば明日の遊園地なんだけど。うん・・・あ、そうだね、うん、いける感じじゃないよね。そう、行けなくなっちゃったっていう・・・ごめん。えっと、実ははさぁ、ちょっとね、靴擦れしちゃって。・・・いやいやいや、たかが、靴擦れですから。平気だよ。うん、だから、ごめんね。いけないや」
「わざわざありがとう。電話くれて。・・・ふふ、うんちょっと元気になったよ。じゃあ、きります。はい、はい、おやすみ。はーい」
電話を切る
靴擦れを思い出す。
「あーどうしよこれ・・・ううん、裸足で行くかぁ」
靴を脱ぐ
「あっ。靴置いていけないか。荷物になるけどしゃあないね」
カバンを開ける
中からミズキの首を出し、抱える。
「ねぇ」
「頂上まで、あとどれくらいかな」
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