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アレントによれば、ルソーやロベスピエールがわかっていなかったのは、「絶対善は絶対悪より危険が少なくはない」ということ、そして、徳を超越する善、悪徳を超越する悪があるということに他ならない。これは言い換えれば、善と悪には、人間の社会で通用しうる、そして通用している規範には閉じ込められない過剰さがあるということに他ならない。
その過剰さを知っている人ならば、善が徳に背く場合があることをわきまえているだろう。あるいは、悪徳と言われているものが善の機能を果たす場合があることを。しかしこの過剰さを知らない人、この過剰さに目を向けようとしない人は徳に絶対的な善の役割を与えようとする。そのとき、一般的に通用している規範は、一つの通念に過ぎないにもかかわらず、絶対性を手にすることになる。人��の同意を根拠とする徳が、人々の同意を必要としない善の性質を身にまとう。相対的なものでしかありえないはずの徳が絶対的な地位を獲得する。
國分功一郎 『中動態の世界 意志と責任の考古学』
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「巻き込まれた者として、どうしていくのか」。
それは重い問いかけであり、この問いを抱きながら歩んでいく道のりに終わりはない。だが、日常に没入することで痛みを忘れようとするのではなく、未来へと向かう「回復の物語」によって癒されようとするのではなく、ただ、そのような〈同行者〉でありつづけようとすること。そのようにして喪失の痛みを感じとり、失われた生の輝きを想起しつづけることを通して、他者である私たちもまた、亡き人とともに生きていくことになるのだと思われる。
石井美保 『遠い声をさがして 学校事故をめぐる〈同行者〉たちの記録』
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このケースにおいても、物事の優先順位にまつわる問題がクローズアップされてくるわけである。またインフォームド・コンセントの難しさも痛感される。正しい内容を伝えればそれが正しく理解されるとは限らない。先入観やこだわりや懸念によって、語られた内容はどのようにでも変容してしまう。我々の仕事は、将来においてもけっして機械に肩代わりしてもらえるような性質のものではないのである。
春日武彦『病んだ家族 散乱した室内』
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近ごろ私は、世の中というものは、その根本において相似の関係が成り立っていることが多いものだなあ、とつくづく感じるのです。
これはたとえばある一つのことを究めた人はほかの分野に転じてもすぐれた業績をあげやすいといった経験的な事実に通じる話です。(それに鑑みれば、リストラといった事態にも、もっと気の利いた対応策が生まれてよさそうな気がしますが……)つまり物事の要領とかコツ、発想や判断といったものにはかなり普遍的なところがあって、だからさまざまな仕事はその営みにおいて相似な関係が案外成立するということです。
そうなりますと最もコンパクトで応用が効きやすく、しかも抽象度が高いぶん、勉強といった形で知的活動のプロトタイプを子供へ与えておくことはまことに理に適っている。早い話が、勉強の形でならば、あとでいくらでも「つぶし」が効くのですから。
春日武彦 『子どものこころSOS』
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ダーウィンが性選択と呼んだ作用は、自然選択ほど厳しいものではない。自然選択では敗者は死に至ることにもなるが、性選択負けても配偶者を得られないだけである。しかし、配偶者を得られなければ、遺伝的には死んだも同然である。
ジョン・ワイナー 『フィンチの嘴』
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嘘を詠むなら全くない事、とてつもなき嘘を詠むべし、しからざればありのままに正直に詠むがよろしく候。雀が舌を剪られたとか、狸が婆に化けたなどの嘘は面白く候。今朝は霜がふつて白菊が見えんなどと、真面目らしく人を欺く仰山的の嘘は極めて殺風景に御座候。「露の落つる音」とか「梅の月が匂ふ」とかいふ事をいふて楽しむ歌よみが多く候へども、これらも面白からぬ嘘に候。総て嘘といふものは、一、二度は善けれど、たびたび詠まれては面白き嘘も面白からず相成申候。まして面白からぬ嘘はいふまでもなく候。「露の音」「月の匂」「風の色」などは最早十分なれば、今後の歌には再び現れぬやう致したく候。
正岡子規 「歌よみに与ふる書」
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うちゃその舟ば曳いて、大学病院の廊下ば、
えっしーんよい
えっしーんよい
ちゅうて網のかけ声ば歌うて曳いてされきよったとばい。
自分の魂ばのせて。
人間な死ねばまた人間に生まれてくっとじゃろうか。うちゃやっぱり、ほかのもんに生まれ替わらず、人間に生まれ替わってきたがよか。うちゃもういっぺん、じいちゃんと舟で海にゆこうごたる。うちがワキ櫓ば漕いで、じいちゃんがトモ櫓ば漕いで二丁櫓で。漁師の嫁御になって天草から渡ってきたんじゃもん。
うちゃぼんのうの深かけんもう一ぺんきっと人間に生まれ替わってくる。
石牟礼道子 『苦海浄土 わが水俣病』
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どのようにこまんか島でも、島の根つけに岩の中から清水の湧く割れ目の必ずある。そのような真水と、海のつよい潮のまじる所の岩に、うつくしかあをさの、春にさきがけて付く。磯の香りのなかでも、春の色濃くなったあをさが、岩の上で、潮の干いたあとの陽にあぶられる匂いは、ほんになつかしか。
そんな日なたくさいあをさを、ぱりぱり剝いで、あをさの下についとる牡蠣を剝いで帰って、そのようなだしで、うすい醤油の、熱いおつゆば吸うてごらんよ。都の衆たちにゃとてもわかん栄華ばい。あをさの汁をふうふういうて、舌をやくごとすすらんことには春はこん。
自分の体に二本の足がちゃんとついて、その二本の足でちゃんと体を支えて踏んばって立って、自分の体に二本の腕がついとって、その自分の腕で櫓を漕いで、あをさをとりに行こうごたるばい。うちゃ泣こうごたる。もういっぺんーー行こうごたる、海に。
石牟礼道子 『苦海浄土 わが水俣病』
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 しかし、本当に善を行いたいのだったら、「微に入り細にわたって行わねばならない」のである。施設の人の不機嫌を感じとったら、それについて考えてみる必要がある。老人が、あれをしてほしいこれをしてほしいと言ったとき、それにすぐ応じることが、本当に意味のあることか、と考えてみる必要がある。それらのことをひとつひとつ取り上げ、考えてゆかないと、善が善にならないどころか有害なことにさえなってくる。
そこで、頭書のような言葉が大切となるのだが、実は、これはウィリアム・ブレイクの「他者に善を行わんとする者は、微に入り細にわたって行わなければならない」と言う言葉をみじかく言い直したものである。
河合隼雄 『こころの処方箋』
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このような現象をイメージで表現するなら、風見鶏で時々何かの加減でクルッと回転して反対向きになるのと似ているのではなかろうか。風が吹いているとき、それに抗して二〇度、3〇度の方向に向くよりも、一八〇度変わってしまうと楽なのである。つまり何かの方向付けの力がはたらいているとき、逆転してしまう方が少し変えるよりはまだやりやすいのであろう。
このようなことがよくわかってくると、一八〇度の変化が生じても、やたらに喜ぶことなくじっくりと構えていられるようになる。ここで、「じっくり構える」ことが大切で、生半可にこのようなことを知った人は、一八〇度の変化など、「どうせ信用できない」と冷たい態度に出て、せっかくの変化をすぐぶち壊してしまうのである。ともかく、一番生じやすいことにしろ、一八〇度変化した事は喜ぶべきであって、何も冷たくする事は無い。実はこのときに生じた変化によって経験したことは、その人が次に自分の在り方と照合しつつ、あらたな方向性を見出していくための参考になることが多いので、それはそれとして大切にすべきことなのである。ただ、その時の喜び方が手放しになってしまわないところが一味違うのである。
河合隼雄 『こころの処方箋』
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空白の時間はとめどなく泣いていたのに、棺に入った本人を見たら憎たらしさと情けなさで涙は止まり、睨みつけるくらいしかすることがなかった。手も合わせる気になれない。棺にお花をどうぞ、と誰かに差し出されたのも無言で断った。死んでるやつにやるものなんかない。顔のそばに、著書の『東京を生きる』が置いてあり、花で隠れて「生きる」とだけ見えて、いや死んでんじゃねえかよ、バカバカしい、嘘つき、と思って口の端だけで笑ってやった。みんなが綺麗な顔だとか言ってたが、口のなかから綿が見えていてまぬけだった。ちっとも綺麗じゃなかった。
能町みね子『結婚のやつ』
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ここに、昔へ人の母、一日片時も忘れねばよめる、
住の江に船さし寄せよ忘れ草しるしありやと摘みて行くべく
となむ。うつたへに忘れなむとにはあらで、恋しき心地しばし休めて、またも恋ふる力にせむとなるべし
紀貫之『土佐日記』
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僕は或る詩人の詩の句を思い出した。少年のころ雑誌か何かで見た詩ではないかと思う。
ーーおお蛆虫よ、我が友よ……
もう一つ、こんなのを思い出した。
ーー天よ、裂けよ。地は燃えよ。人は、死ね死ね。何という感激だ、何という壮観だ……
いまいましい言葉である。蛆虫が我が友だなんで、まるで人蝿が云うようなことを云っている。馬鹿を言うにも程がある。八月六日の午前八時十五分、事実において、天は裂け、地は燃え、人は死んだ。
井伏鱒二 『黒い雨』
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私の言おうとしていることを察してもらいたい。又そこに金閣が出現した。というよりは、乳房が金閣に変貌したのである。
三島由紀夫 『金閣寺』
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昨日、私は十字架像を買った。急いで買わなければならなかったので、安くて醜い像にした。それを買いたいと言ったとき、顔が赤くなった。店のいるところを誰かに見られたかもしれない。避妊具を売る店のように、窓を曇りガラスにしてくれればいいのに。宝石箱の底にしまっておいて、部屋の鍵を��けてからそれを取り出す。私が知っている祈りは「私、私、私」と言うものばかりだ。そうではない祈りを知っていたらよかったのに、と思う。私を助けてください。私をもっと幸せにしてください。私をすぐに死なせてください。私、私、私。
グレアム・グリーン 上岡伸雄 『情事の終り』
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I had to phone someone so I picked on you Hey, that's far out so you heard him too Switch on the TV we may pick him up on Channel Two Look out your window I can see his light If we can sparkle he may land tonight Don't tell your poppa or he'll get us locked up in fright
David Bowie “Starman”
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