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マイベスト2023 洋楽
発表します。
10. 「Holiday Sniping」/ Cruel Santino
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9. 「Throwback Tears」/ Valley
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8. 「A Little Bit」/ Disclosure
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7. 「Woman Of The Year」/ THE View
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6. 「Standing Next to You」/ JUNG KOOK
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5.「Wait For It」/ salute
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4. 「Only」/ Sampha
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3. 「Wild n Sweet (feat. Empress Of)」/ Jam City
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2. 「All Of The Above」/ Bibio
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1.「Always (feat. Summer Walker)」/ Daniel Caesar
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マイベスト2023 邦楽
発表します。
10. 「期待と予感」/ スカート
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9. 「Morning Sun」/ THE NOVEMBERS
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8. 「In Your Life (Izu Mix)」/ くるり
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7. 「180」/ CreativeDrugStore
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6. 「My Generation」/ w.o.d
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5. 「オールナイトレディオ」/ Ado
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4.「自由」/ tofubeats
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3.「Summer Glitter」/ 私立恵比寿中学
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2.「You're Young (feat. Joelene)」 / YOUR SONG IS GOOD
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1. 「色彩」/ Galileo Galilei
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扉を開けて入ってくる熱気は、所謂「災害級の暑さ」によるものでしかなかった。床に散らばるスコアブック、椅子の上に積み上がった無数のCD。そのどれもに持ち主がいるはずなのに、行き場を失い、ただここにいることで満たされているようにも見えた。
「楽器は返してもらったけど、あとは片付け。終わったら、部室棟の鍵、先生に返してな。」
僕は教師から、この部室の後片付けを命じられた。軽音部がないウチの学校では、文化祭に出演する生徒たちが期間限定でこの部室を借りられる。僕らのバンドも、この部屋で毎日、暗くなるまで練習をした。そして学園祭が終われば、この部室はまた、何もない空き部屋に戻る。
「捨てるものも多いので、そんなに時間はかからないと思います。」
「そっか、助かるよ。今日はほら、先生も球場に行かなきゃだからさ。お前もだろ?」
なんでも野球部が夏の県予選で勝ち進み、さらに地元の球場で試合となったため、全校応援が決定した。今日は一学期の最終日だったけど、放課後、生徒は球場に集うことになっている。
「そういえばそうでしたね。行くの嫌だから、やっぱり時間かけてやろうかな。」
「先生も行かなきゃ、って、今言ったろ。それに、明日以降はここ完全に閉めるんだから、今日中に全部、早く終わらせろ」
僕は軽く返事をした。
僕は1年生の夏、野球部を辞めた。辞めた理由は何個かあるけど、一番の理由は体育会系に嫌気がさしたからだ。先輩たちは僕らに「お前たちからやる気を、甲子園に行きたいという熱を感じられない」と難癖をつけ、「シメ」という名目の暴力を振るった後、自分たちは駄菓子屋でアイスを食べ下世話な話をしているような連中だった。
退部後は放課後が楽しくてたまらなかった。好きな音楽を聴きながら、自転車を漕いで帰宅する。流れる景色は日に日に変わり、聴く音楽も変わる。僕はありとあらゆる音楽を聴いた。その半年後、他のクラスの同級生から、「バンドで学園祭に出よう」と誘われることになる。
一部のスコアブックとCDだけをバッグに詰め込み、ほか全てはゴミ捨て場へ運んだ。部室は机と椅子だけになり、確かに広さを取り戻したが、僕らがいた痕跡も、残り香も消失したことを証明していた。
窓から中庭を見ると、緑色の木々たちが、少しだけ揺れている。その向かい側、放課後で誰もいない校舎に目をやると、ふと、一人女子生徒が窓から手を振りこちらへ叫んでいた。
福原さんだ。
「ごめーん!!部室棟って、まだ空いてる?」
「助かった〜。明日から当分来ないのに、台本、忘れるとこだったよ。」
福原さんはそう言いながら演劇部の部室から出てきた。彼女とは文化祭準備期間から会話する間柄になった。初めは部室棟の鍵の管理やステージの練習時間の調整など事務的な話題だけだったが、徐々に会話は増えていった。ちなみに彼女がいう「明日から当分来ない」とは、夏休みではなく、彼女がその間アメリカにホームステイするということを示している。
「アメリカにはどのくらいいるんだっけ?」
「明後日、日本を出発して、それから1か月、ホストファミリーのとこ。」
福原さんのホームステイの目的が、パイロットになる夢を叶えるための語学勉強であることは僕らの中では有名な話である。
鍵を返却し、校舎を出たあと、僕らはバスの停留所に向かった。球場に向かう次のバスが来るのが30分後と分かると、互いに大きなため息をつき、屋根付きの待合室に入った。
「Kita君の夏休みの予定は?」
「何もないよ。ダラダラするだけ。」
「それもいいねえ。私はあっちでも宿題のほか台本も書かなきゃいけないから、意外と室内作業が立て込んでる。」
「演劇、好きだよね。文化祭の発表もすごかったな。」
「ずっと続けたいんだよね…大学でも、その後も。」
「パイロットになっても?」
「うん、私、パイロットもそうだけど、女優にも、声優にも、あと、料理も好きだから、料理家にもなりたい。」
「本気で言うけど、福原さんなら全部叶えられそうな気がするよ。」
「ありがと。歌手デビューもしたいんだけど、どうかな?あと、YouTubeチャンネル開設。」
「なれるなれる。CMもバンバン決まる。」
「えー!あんまり褒められると、舞いあがっちゃうな。」
僕らの笑い声が待合室内に響いた。
夢なんて、何もないことに気づいた。それこそ野球を続けていれば、甲子園に行きたいなんて夢があったんだろうけど、容易く捨てることができた。いや、初めからなかったのかもしれない。先輩たちに言われたことは、どこか合ってたのかも。
「夏休み中は、バンドやらないの?」
ハンカチで汗を拭いながら、彼女の視線が僕に向いた。
「あれは最初から文化祭のために組んだものだから。終了後は解散だよ。」
「残念。本気で言うけど、バンドやってる時のKita君、心の底から楽しそうだったよ。」
バンドは楽しかった。下手だったけど、そのことになんの負い目もなかった。ギターを鳴らし、大きな声で歌う。明確なゴールはないけど、その轟音を浴びるだけで、気持ちがよかった。
「これからもギターを弾いたり、音楽を聴いたりはするだろうけどね。」
「じゃあ、またバンドを始めたら、素敵な音楽を見つけたら、教えてね。」
そう返してきた福原さんの瞳は、ただ、キラキラしていた。
バスが停留所に着くと、急に福原さんが吹き出した。
「朗報です。球場にいる友達からLINEが来て、現地では特に、来てるかどうかの確認も取ってないって。」
「そうなの?」
「応援席はあるけど、勝手に座って勝手に応援してるみたい。あと、何人かは途中だけど帰ってるって。」
「確かに放課後のことだし、義務じゃないよなあ。」
「どうする?」
ニコニコ笑って尋ねる彼女に、僕も満面の笑みを作り、はっきりと答えた。
「当然、帰宅させてもらいます。」
「よーし!サボっちゃおー!!」
バスに乗りこむ彼女の後ろ髪が、大きく揺れた。
バスの中で、僕は彼女にbloodthirsty butchersの『kocorono(完全盤)』のCDを渡した。彼らが96年に発表したこの傑作は、全12曲にそれぞれ「月」名が付けられ、一枚を聴き通すと1年を巡る構成となっている。USオルタナの影響を受けたサウンドと評されているが、激しくも透き通るような音色のギターに、強烈に力強いリズム隊の演奏が乗る。聴こえるノイズもフィードバックも、どれもが感情を持っているかのように音が広がっていく。曲はそれぞれの月を表現しているが、それは雰囲気や季節音ではなく、その時に生まれる感情を表現しているようである。2曲目「3月/March」のイントロでは新しく始まる季節へ向けたまだ纏まらない胸のザワつきを、5曲目「6月/June」では雨が降る日々に生まれる重々しい心情を、11曲目「12月/December」では生まれ故郷とは違う冬を過ごす度に感じる意地(彼らは北海道出身で筆者は東北出身だが、毎年、何となくそんな感情が湧き上がる)を、叙情的なサウンドに重ねている。
代表曲の「7月/July 」は、約9分で奏でられる夏のワンシーンであり、映画である。聴くたびに、目の前に7月が訪れるような感覚になる。その景色は、夢でも、幻でもない。確かに過ぎ去った、いつかの、そして、いつもの7月だ。
「返すの夏休み明けになるけど、いいの?」
「大丈夫。さっきまで部室に置いてたやつだし。サブスクにないから、音源で聴いてみてよ」
ありがとう、と眩い笑��を残し、彼女はバスを降りた。暑い夏の中に戻った彼女は、ひたすらに透き通って見えた。
8月1日の朝、福原さんからLINEが届いた。
『今日で7月が終わるから、「7月/July」を聴いたよ。』
一瞬間違いかと思ったが、MLBの中継を見て理解した。時差があるから、彼女はまだ7月の中にいるんだった。
『日本の、いつもの夏が恋しくなっちゃった。夕暮れ、虫の鳴き声、お線香の匂い。』
『今年も、いい夏にしようね。』
中継はニュースに切り替わり、キャスターは「今日も暑い1日になりそうです」と告げた。
僕は返信をする前に、カーテンを開けた。眩しいほどの陽の光が入ってくる。目の前はいつもの、そして、二度と同じ日は来ない、夏だった。
マジ恋ファンタジークラブ
第6話 福原遥さんと聴きたい、bloodthirsty butchers - 『kocorono(完全盤)』
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あの頃は確かに、世界から突き放された感覚はあった。しがみ付くことに苦労はしなかったけど。
世界をパンデミックが襲った。どこかの国で突然現れた新型のウイルスはすぐに世界中へ広がったし、僕らの住むこの国でも「緊急事態」が宣言され、どこにも行けない、誰にも会えない日々が続いていた。
こんなことは初めてだったから今まで気づかなかったけど、僕は割とこの制限状態が苦痛じゃなかった。朝起きて、近くを散歩して、自炊して、音楽を聴いたり、動画を見たり、ゲームをしたり、雑誌を読んだり。1日が終わる頃には、割と満足感があったもんだ。
会えなくなった友達とは、オンライン通話でやり取りしていた。近況だけじゃなく、今、こうして面と面を合わせていないからこそ話せることだって話した。想定外に訪れた不思議な時間、サマータイムを、僕は有意義に過ごしていた。
それと、新しい趣味ができた。ゲーム実況を観ることだ。一切の娯楽を禁じられた家庭に生まれたので、あまりゲーム文化に造詣のない人生だったが、一つのゲームをみんなでプレイする実況動画にハマり、手当たり次第観た。そして気づいた。僕はゲームが好きで観てるんじゃない。ゲームをみんなで遊ぶ、その行為が羨ましくて観てしまうんだと。
「今度オンラインで人狼ゲームやりたいんだけど、Kitaもどう?」
こんな連絡が来たのは、パンデミック生活から1年が過ぎたぐらいの時だった。
僕は二つ返事で参加を表明し、幹事と共にさらに参加者を募った。大学のゲーム好きの同級生、後輩も乗ってくれ順調に人数は確保できたが、まだ、そのゲームを楽しむにはどうしてももう一人参加者が��要だった。
藁にもすがる思いで、地元のゲーム好きな友達にLINEをしてみる。幼少期、彼の家に頻繁に遊びに行き、自分の家にはないゲーム機で遊ぶ様子を見させてもらっていた。彼の家にはいつでも最新のハードがあったし、ソフトも充実していた。そんなゲーマー少年も、今は地元に就職、家庭も作り、子どももいる。一縷の望みで送ったが、案の定、断りの返信がきた。
「その日は無理だなぁ。っていうか、ウチも3人目が先月生まれたんだよ。やりたいけど、結構厳しい。」
「そっか、悪かった。ってか、もう3人目か、おめでとうだし、すごいな」
「もう少し時間が経って落ち着いたら、こっちに顔出せよ。会わせるからさ。」
「ありがたいよ、了解」
そう言って携帯を閉じたあと、僕はなんだか少し恥ずかしい気持ちになった。いい歳こいて、ゲームの誘い……悪いことじゃないんだけど、父親になってるあいつにしたとは…。
羞恥心を抑えつけるかのようにベッドへ倒れ込んだ瞬間、またあいつからLINEが届いた。
「翼なら多分いけると思う。そのゲームも知ってそうだし。あいつのLINE、教えとくわ。ちなみにあいつも今東京ね。」
「その日、全然いけます!よろしくお願いします!」
ということで、最後の参加者は地元の同級生・ホンダの妹、翼ちゃんに決定した。最後に話したのはもう10年も前になるかもしれないのに、人懐っこさは変わっていなかった。話を聞くと、もう東京には10年以上前から住んでるらしく、今は映像制作系の会社に勤務しているとのことだった。
「でもほんと久しぶりですね。お兄ちゃんとも会ってますか?私もあんまり帰ってないけど」
「俺もホンダとは5年ぐらい会ってないと思う。前、同窓会があった時。」
「あの時か!それじゃあだいぶ前ですね笑。帰ってなくても、お兄ちゃんとはたまにゲームしてはいるんですけど」
翼ちゃんも兄同様、幼い頃から恵まれた環境下で鍛え上げられた生粋のゲーマーだ。あいつの家に遊びに行ってゲームプレイを見ている時、必ず横に翼ちゃんがいたし、時にはプレイもしていたことを思い出した。
「昔64とかやってましたよね。Kitaさん下手だったなあ。」
「いっつも負けてたよね、あのジェットスキーのやつ。ってか、ゲーム機ない家の子は最初から不利だから。」
「懐かしすぎる!!ってか今そのソフト、Switchでオンラインでできますよ!今度やりましょう。」
「そうなの!?ぜひぜひ。外出れなきゃ出れないで、この状況を楽しもうと思ってて。」
「わかる。このまま気落ちしたら、地球から振り落とされた気分になっちゃいますよね。」
人狼ゲーム当日は、大いに盛り上がった。幹事なんかは、翼ちゃんが若い女の子と知るや有頂天になり、ゲームに支障が生じるほどだった。
ゲームをプレイ��ながら、大人数でたわいもない話をするのも楽しかった。時間も気にせず、ついつい、もう1ゲーム、もう1ゲームを繰り返しながら。何十年もかかったけど、僕がずっと憧れてた世界線で、僕がこれでいいと思える世界線だった。
ゲーム終盤、翼ちゃんのゲームの上手さが話題になった。技術も、知識量も半端ない。
「ゲーム実況やってよ。スパチャするよ。そのスパチャを、ホンダへの出産祝いにして。」
「なんでですか。kitaさんはお兄ちゃんに直接払ってください。それと、実は…実況すでにやってます。」
「え??そうなの!?!?じゃあ観るわ!!」
好きが高じて、数年前から始めていたそうだ。結果、翼ちゃんのチャンネルはこの日、登録者が約10人増えた。僕らである。
深夜2時、お開きの後、翼ちゃんからLINEが届いた。お礼と、またやりましょうという誘い、そして、予想外な依頼だった。
「ゲーム系の動画に合うような、オススメの音楽ないですか?電子音楽っぽいといいんですけど。実況もそうだけど、仕事とかにも使いたくて。」
「ある気もするから、探しておく。でも、なんで俺に聞くの?」
「昔からお兄ちゃんがKitaさんから大量にCD、MD借りてたじゃないですか、いろんなジャンルの。私も又借りして聴いてたし。それで好きなったアーティストもいるんですよ。」
一晩考えて、Wave Racerの1stアルバム、『To Stop From Falling Off the Earth』のリンクを翼ちゃんへ転送した。オーストラリア出身のプロデユーサー、Thomas PurcellのソロプロジェクトであるWave Racerは2010年台中期に突然シーンに登場し、その弾けるエレクトロサウンドで聴く人々を魅了したかと思うと、その後はリリースが数年に一度とペースを落とし、音沙汰が途絶えることが多くなる。
しかし2021年、パンデミックに覆われた後の世界にひっそりと姿を現し、待望のフルアルバムを投下した。
1曲目、「All That I Cam Do」で僕らの耳に届いたのは、鋭利だけど温かみのあるギターのリフだった。低音と煌びやかな音色で跳ねるようなエレクトロポップが主体だったの彼の音楽が、ギター演奏というフックを用いたことで、一気に人間的体温を帯びたことが表現されていた。僕は電子音楽に機械性、連続性、そして人智を超えた破壊力みたいな世界観を求めるけど、人間を投影させようとするアプローチは意外で嬉しいものである。ゲームの世界を望むというより、ゲームを取り巻く人間関係を望むことにもどこか似てる。これからAIのような技術が進んで、踏み入ることができない価値観だと信じたい。
3曲目「Tell Me The News」、4曲目「Look UP To Yourself」で、エレクトロであれど構成の根本はポップミュージックであることを確信させる。7曲目「Money」なんてほぼ弾き語りだ。彼がどこまでも温かさを取り入れたい気持ちが伝わるし、このタイミングで当作品をリリースした意義も大きい。だって、間違いなく僕はこの作品を聴いて前向きになれた。そう、まさに、地球から振り落とされないように。
「ありがとうございます。早速聴いてみます!」
翼ちゃんからの返信は、すぐに届いた。そして、追加のメッセージも。
「64のゲーム、やりましょうね。練習しといてください。今度は私に勝てるように。」
今日も休みだった僕は、早速特訓を始めるべく、Switchの電源をつけた。
Nintendo 64 Onlineへ進み、ソフトを選択。タイトルは、「Wave Race 64」。
20年以上触れていないゲームだけど、始まる前のワクワクは、風化していなかった。
https://youtu.be/0BnIWrsrNd4
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第5話 本田翼さんと聴きたい、Wave Racer – 『To Stop From Falling Off the Earth』
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なんとも心地よい季節になった。
春、とかく東京の春が好きだ。至るところの街に人は溢れ、活気に溢れる。長くて寒い冬を越えた人々は、芽吹きの春に、確かに動き始める。思わず僕もウズウズしてしまう。何かが始まる季節は、何かを始めるにふさわしい季節だってことだ。
週末の朝、家の近くの公園をランニングをした。都内で一番大きいこの公園の、1週1,7kmのコースを4周。コース全体が森の中を通っているので、新緑の木立から差し込む木漏れ日の下で走れる。朝の澄んだ空気も美味しい。あと、他のランナーが少ないのがここのいいところだ。
ランニング中のミュージックプレイリストにも気は抜かない。むしろ、こっちのセレクトの方が真剣だったりする。不思議と、いい音楽を聴いていれば走ることがそんなにつらくなかったりする。テンションを上げるためにEDM系を聴く人が多いらしいが、僕はミドルテンポのR&Bをよく聴く。少しずつ音楽が体に混ざっていき、体温が上がっていくからだ。
ランニングを終えた僕は、ベンチに腰掛け辺りを見渡した。こういう公園には近くに運動施設が併設している所が多くて、ここにも大きな体育館、野球場、ゴルフの打ちっぱなし、スケボー広場なんかもある。大人だけじゃなく子供もスポーツを楽しんでいて、まだ始めたばかりであろう野球少年たちが自転車で通り過ぎていく姿には、ノスタルジックを感じずにいられない。
「Kitaさん?」 ふと声のした方向を振り返ると、水原さんがいた。通っている駅前の美容院の担当で、副業でモデルもやっているという彼女。いつもスタイリッシュな服装なのに、今日はダボダボのTシャツとオーバーサイズのジャージを着ている。
「こんなところで会うなんて、びっくりした」「あれ?前も言ったじゃないですか、ウチここの近くなんです。もっと多摩川寄り」
そういえば割と近い地域に住んでいたことを思い出した。いつも店でしか会わない彼女、帰り道に店の前を通って仕事中の姿をチラ見している彼女と外で会うのは、なんだか不思議な気分だ。
「そうだ!暇ですか?バスケしません?!」「えっ!バスケ?!急だなあ」「ホントはもう一人来るはずなんですけど、連絡ないんですよ。たぶんまだ寝てるんです。このままだとウチのチーム足りなくて困ってたから助かる~!」「まだやるって言ってないんだけど」
結局断れず、スケボー広場の横にあるバスケリンクで3on3をするハメになった。相手に外人がいるのを知ったときはこっそり逃げて帰ろうと思ったが、彼女に悪いし、それに、通う美容院をもう一度最初から探すのが嫌だったのでやめて��いた。
試合は楽しかった。僕は全く役に立たなかったが、リバウンドの度に水原さんが「取って!」と叫ぶので、渾身の跳躍で挑んだ。シュートもなかなか入らなかったが、外れる度に彼女が「左手はそえるだけですよ」と厭味ったらしく言ってくるので、「わかってるよ、オヤジ」と答えておいた。
気が付くと一時間ほど時間は経っていて、今日のところはお開きとなった。疲れ切った僕の隣に、水原さんが座る。
「急なお願いなのに、ありがとうございました」「全然。楽しかったから…でも…さすがに疲れたな」「私これから仕事ですよ」「マジで?!すごい…若いってすごい…」「切りに来ます?来てくださいよ」「ううん…まずはシャワー浴びたいよ」
他愛もない話をしてると、誰かがスマホでBGMがわりにかけていた有線から、Kehlaniの「Distraction」が聴こえた。
「あっ、ケラー二」「知ってるんだ、いいよね」「私この曲だけ知ってるんです」「そうなんだ、最近アルバム出したんだけど、いいよ。THE・ガールズR&B!って感じで。」
ケラー二のキャリア初フィジカルリリースとなったアルバム『SweetSexySavage』は、まさにタイトルどおり、『甘くてセクシーで獰猛』な作品だ。というより、彼女自身がこの言葉を体現していると言える。
はっきりとした顔立ちの美貌、グラマラスな体。そのセクシーさにドキドキするが、それ以上に強烈なインパクトを放つのが鼻ピアスと全身に彫られたタトゥーだ。どちらも厳ついアイテムのはずなのに、ジャケットの彼女からは妖艶さと、それでも隠し切れない幼さを感じる。
重低音が効いたトラックにコーラスが重なった楽曲たちはとても上品で、きらびやかだ。ボーナストラックも入れて19曲もあるが、飽きずに聴きとおせる。歌詞にも一人の女性として力強く、ポジティブな内容が多い気がする。#9「Advice」や#11「Escape」のような、別れた彼氏に見切りをつける歌とか。
「そういえば。ケラー二、元カレがNBA選手だったんだよ。やっぱスポーツマンはモテるんかね~」
僕が何気なく話を振った次の瞬間、急に空気が変わった。水原さんから笑顔が消え、眉間にしわが寄っている。
「へえ…元カレがね…」
元カレと何かあった感満載である。というか、それしかない。まずい、と思ったが、この後の処理法がすぐに思いつくほど僕は器用じゃない。もうすでにトラベリングぐらいはしている。ここから起死回生の逆転シュートを決めれるわけがない。
「…なんかお腹空いてきました。動いたから、ガッツリ食べたい。」
話題が変わった。ここだ。一気にラン&ガンを決めるしかない。
「ハンバーガ��食べたくない?ペプシとかとさ」「いいですねえ、朝からバスケやって、めっちゃアメリカン!」「駅前に結構ちゃんとしたハンバーガー屋さんあるよ。」「行きたい!ああ~もう口がハンバーガーの口なってきた。Kitaさん、今日のお昼、連れてってくれません?私休憩なったら連絡するんで」「もちろんもちろん、暇だからさ。あ、じゃあそんときケラー二のアルバム持ってくよ」「ホントですか!すぐ店でかけてもらおうっと!」
家に帰って、すぐにシャワーを浴び、かなり伸びてきた髪を洗いながら、ふと思った。そうだ。約束の時間を早めていいか、水原さんに聞いてみよう。
うまくいけばアルバムだって、一緒に聴けるかもしれない。ハンバーガーを食べながら感想も聞いてみよう。まだ新しい髪形を決めてないけど、どうせなら。初めての髪形にしてみよう。例えば、ベリーショートとか。
https://youtu.be/HPHbeSGVKJo
マジ恋ファンタジークラブ
第4話 水原希子さんと聴きたい、Kehlani - 『SweetSexySavage』
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[顔ちっちゃ!!えーー!!ホンマに人類ですか!?][そんなことないですよー!言い過ぎです!!]
テレビのバラエティ番組でよく見る芸人と一流モデルのやりとりを観ている。こんなことはよくあることだ。ただ一つ違うことがあるとすれば、そのモデルが地元も一緒の同級生、さらには幼馴染ということだ。画面の向こうの希はいつもと変わらず自然体で、溢れるように笑顔が飛び出してる。芸人さんの際どいいじりも、視聴者が不快にならないように上手くいなしてる。 希と僕は互いに秋田出身で、幼稚園から中学まで一緒に過ごした仲だ。今でもGWやお盆前には決まって“帰省する?"と連絡が届く。地元好きの希と違って、僕はここ最近いい返事を返せていないけど。 そう��えばつい数日前も彼女からLINEが来てたのを思い出した。なんでも今年はお盆に大規模な同窓会をやるらしい。ソファに寝転がりながら携帯を手に取る。 『返信遅くなってごめん。今年も帰れなそう』 打ち終わりまたテレビの向こうの希を観ていると、すぐに携帯が鳴った。 『えー残念。みんな来るよ?』 しかしまあ、今放送されているテレビに出ている有名人とLINEのやりとりをするというのは、なんだか不思議だ。 『仕事が休めないんだよ。人��少ない部署だし』『結構人集まるみたいだから楽しみにしてたのに』『そっちは行くの?』『もちろん。もう休みにしてもらってる。今年は友達だけじゃなくて、親戚とかともたくさん会わなきゃだから』『なるほど。』 そりゃそうだ。地元に帰れば、友達はもうみんな家庭を持ち子供を育てている。一人身勝手に東京で遊び呆けてるのは僕くらいだ。 [え~そんな佐々木さんも先日!ご結婚されました!おめでとうございますー!!][ありがとうございます。ありがとうございます。] みんな大人になっていく。希だって。
『そういえば』『去年集まったときは、昔誰が好きだったかの話で盛り上がったよ』 『へ~。誰か俺を好きだった人いた?』『それが…』『私の周りではいませんでしたね笑』 悲しい報告のすぐ下に、憎たらしい顔のキャラが「残念」と叫んでいるスタンプが表示された。 『俺だってモテたかったよ』『ほんとに?努力した?みんなKita君のこと、“いつも音楽聴いてた記憶しかない”って言ってたよ』『うう…それしかすることなかったからな…』 そう返すとすぐに、タイムライン上にまた、「残念」のスタンプが出てきた。 希は昔から可愛かった。学校でも地域でも誰もが認める美人だった。そしてその美しさは、今では日本中が認めている。僕はその美しさに、人より気づくのが遅かった。幼馴染として認識する時間が長すぎたのだ。気づいたころには思春期で、その頃の僕には眩しすぎた。僕は彼女と特別な関係になるより、当たり前に接することが幸せだと思えた。この気持ちは恋だったのだろうか。僕は一生、その答えを出せないと思う。 [どうですか結婚生活は?][あ、でも、楽しいです!][旦那さんこだわり多いから大変じゃない~??][そんなことないですよ!] 幸せそうに笑う希を観ていたら、なんだかたまらなくなってきた。音楽だ。こんなときは音楽を聴くしかない。 ヘッドホンを装着し、iPodでFountains Of Wayneの『Welcome Interstate Managers』を選ぶ。クリスとアダムの名コンビが作るバラエティに富んだポップスに彩られた最高の一枚だ。USギターポップ全開の#1「Mexican Wine」、ガレージロックよろしくのリフががなり響く#2「Bright Future In Sales」と#8「Little Red Light」、#14「Bought for a Song」。穏やかなボーカルが胸を温めるフォークソング調の#6「Valley Winter Song」。#11「Hung Up On You」はカントリーかと思えば#10「Halley’s Waitress」ではシティポップになる。とにかく飽きが来ない作品だ。 僕は中でも大好きな#3「Stacy’s Mom」を再生した。 まだ少年の主人公が、ステイシーという友達のお母さんを好きになってしまう曲である。主人公はお母さんに会いたいがために放課後ステイシーの家に遊びに行きプールで待ちわびたり、芝刈りを手伝ってお母さんを観察しようとする。なんともまあ小憎たらしくて笑ってしまう物語だが、ポップソングの神髄を極めた曲だと僕は思う。だって、こんなに美しいメロディに、こんなに気の抜けた歌詞をつける。しかもそれを、大人がやるのだから。遊び、それもかなりの実力がなければできないことだ。
[なんてプロポーズされたんだっけ?][それこないだ別の番組で旦那さんに聞いてましたよね笑?] まだ希の声が聞こえる。僕は音量を最大に上げて、すべての音を遮断した。今度ははっきりと、クリスの声でこのフレーズが聴こえる。 You know, I’m not the little boy that I used to be (僕はもう君が思ってるほどの子供じゃないんだよ) I’m all grown up now, baby can’t you see (すっかり大人になったんだ わからないのかい) はっきりとわかる。僕はあのころから、そして今も。子供のままだ。この曲の主人公の方がもっともっと大人だった。 なんとか気持ちを落ち着かせようと、このままベッドの上で雑誌を読むことにした。都内の美味しいお店を特集した雑誌。このタイミングでグルメ本を読むことに意味はない。本当にないからな。 #15「Supercollider」が流れるころ、僕は少しずつ意識が遠くなっていくことを感じた。…心地よい。こうやって…テレビも…部屋の灯りも点けたまま…眠りに…落ち…る…瞬間…が…。 ラスト、#16「Yours and Mine」が終わると、僕は完全に夢の中へ消えた。 [でもあれでしょ、フラれたことなかったでしょ?][いや…][あるの?!][フラれたわけじゃないんですけど、昔好きだった人に、相手にされなかったことがあって][え~!!!佐々木さんを??どんなやつなんですか?!][なんかその人…]
[…音楽にしか興味なかったみたいで]
https://youtu.be/dZLfasMPOU4 マジ恋ファンタジークラブ 第3話 佐々木希さんと聴きたい、Fountains Of Wayne – 『Welcome Interstate Managers』
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自分に神話のような出来事が起きたら。きっと神様はいると信じてしまう。
金曜日、大学時代の友達から連絡が入り、いつものメンバーでいつもの大衆居酒屋に集合した。他愛もない話で盛り上がるのは毎度だが、ただ一つ、問題がある。女っ気がない。なさすぎる。テーブルにはボトルキープしている芋焼酎と割りセット、そしてホタルイカの沖漬。女性に聞かれては困る下ネタ話にどんどん拍車がかかり、事態はより深刻なものとなっている。『もしここに美女が現れ“タラ”…』『そこで男らしさを見せつけ“レバ”…』などどこかで聞いたような妄想にふけっていると、突然大聖堂の鐘は鳴り響いた。
「俺の後輩の女の子が合流するって。友達も連れてくるよう言っといたから」
後輩Sちゃんとその友達の美月ちゃんは先ほどまで別の駅で飲んでいたらしく、少し顔を赤くして現れた。初対面なのに全く人見知りしない二人(酔いのせいもあるだろう)と僕たちはすぐに打ち解け、酒はますます進んだ。会話は一気に真面目になり、僕は美月ちゃんにギリシャ神話について熱弁していた。
「どうしてこの世に四季が生まれたのかも、ギリシャ神話で描かれてるんだ」「どうしてなんですか?」「冥界、すなわち死者の世界にも神様はいて、名前をハデスっていうんだけど、ハデスはある日、農耕の女神デルメルの娘に一目ぼれして、結果冥界に拉致しちゃうんだ」「こわっ」「うん。その娘はコレーっていうんだけど、コレーもドン引きなのね。でも、ハデスは本当に純粋で不器用な男なの。だから、無理しちゃっただけで、コレーにも優しく接して、愛情を伝えるんだ」
その後ハデスに少しずつ心を開いていったコレー。いつしか彼の妃になることを意識し始めるのだが、地上では娘を失った悲しみでデルメルが仕事を放棄、世界中の農作物が枯れ、田畑は荒れ放題となっていることを知る。なんとか地上に戻り母を安心��せたいとハデスに伝えると、彼はそれを素直に受け入れる。
「その代わり、ハデスはコレーにお願いをするんだ」「どんな?」「お別れする前に、最後に、君のその可愛い口にザクロを4粒だけ入れさせてほしいって。アーンさせてって頼むんだ」
もちろんコレーはこれを受け入れ、二人は今生の別れを遂げる…はずだったのだが、これにはハデスの思惑があった。冥界の食べ物には、一度口にしてしまうと二度と冥界から出られなくなるという呪いがあったのだ。
「じゃあ地上に戻れなくなったってこと?」「ううん、ハデスが食べさせたのはザクロ4粒だけ。実際の実の1/4ぐらい。だからコレーは、1年のうち1/4を冥界で過ごさなくてはいけない身体になったんだ。地上に帰る3/4の時期はデルメルも大喜びで、仕事に励む、農作物も育つ。でも、残り1/4は…」「コレーがいないから仕事にならない」「それが農作物の育たない時期、すなわち冬ということになるんだよね」
目が覚めると僕は自宅のソファの上だった。床を見ると、野郎共が寝転がっている。ガラステーブルの上には飲みかけの缶チューハイとスナック菓子。確か…昨日こいつらがいつものごとく「お前ん家泊まるわ」と言ったところまでは記憶があるのだが…
眼鏡を拾ってふとベッドに目をやる。その光景に心臓が止まりかけた。僕のベッドで美月ちゃんが寝ている。窓から朝の光が差し込み、その姿を照らしている。
待て待て待て待て待て待てどういう状況だこれは。美月ちゃんも泊まったのか?ウチに?BPM200程で高鳴っている僕の心音とは真逆に、美月ちゃんは静かな寝息を立てている。その神々しさに思わず見とれてしまう。白くきめの細かい素肌。艶のある綺麗な髪は重力に逆らわずベッドの上でまとまっている。まるで女神のような美しさだ。
平静を取り戻すためにも、そしてこの光景を脳裏に焼き付けるためにも、僕はiPodを取り出しイヤホンを着けた。KINGの『We Are King』、4曲目の「Supernatural (Extended Mix) (Extended Mix)」を再生する。ゆるやかなイントロから、Vo.アンバーの繊細な歌声が響きだす。その歌詞は、“You stay on my maind,one of a kind(私の心に住み着いて離れない 唯一無二のあなた)”。すると、一度音は止み、直後胸の高鳴りを表現するようなシンセサイザーが鳴り出す。まるで、神秘で包まれたこの朝を祝うように。
プレイヤー・パリスが繰り出す様々な音色のシンセと、アンバー・アニータの妖艶な歌声が溶けて混ざり、まるで波のような極上のR&Bが聴けるこの作品。ほとんどがスローテンポのバラードだが、サウンドは耳を飛び越え脳に届くまで力強い。
「Love Song」「In the Meantime」、「Hey (Extended Mix) (Extended Mix)」らの名曲を美月ちゃんの寝顔と共に堪能していると、突然彼女の眼が開いた。ソファとベッドの距離30㎝ほどで僕たちは見つめあう。目はそらさないが、心臓は今にも爆発しそうだ。すると、彼女は起き抜けにこう言った。
「……なに聴いてるの?」
僕がKINGの説明をして彼女にイヤホンを差し出すと、彼女は抵抗することなく装着した。今度は1曲目「The Right One」を選んで、再生ボタンを押す。イヤホン越しにコーヒーを淹れるから飲むかと尋ねると、彼女は静かに頷いた。
このコーヒーを飲んだら、二度と僕の部屋から出られない呪いにかからないだろうか。いや、毎週土曜の朝だけでいい、僕の部屋に、僕の世界に彼女がいてくれたら。そんなことを考えたって無駄だった、だって僕は神様じゃないから。あの子は女神なんだろうけど。
ポットから湯気があがり、僕は火を止めた。
https://youtu.be/lis3Ulx2I-g
マジ恋ファンタジークラブ
第2話 山本美月さんと聴きたい、KING – 『We Are KING』
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先週インフルエンザにかかってしまった僕は、この三連休も家で安静しているハメになった。
退屈なもんだ。体調の方は三日程度でほぼ通常に戻り、今やもう問題はないのだが、それでも基本外出を禁じられるのがこの病だ。大人しく寝るか、音楽を聴いたり本を読んだりする。ただこれも、飽きがくるんだ。
日曜日、突然LINEがきた。会社の後輩、いや、元後輩の川島さんだ。『先輩聞きましたよ、インフルエンザですか?』『そうだよ、ずっと家で休んでる』『わかりました、じゃあ今から先輩の家に行きます』
絵文字なしのそっけないやりとりから数時間、彼女は買い物袋をぶら下げて僕のアパートにやってきた。「ずっと家で寝てて、ちゃんとしたもの食べてないですよね?今日は私が晩御飯作ります」「なんだか悪いなあ、まるで彼女みたいだね」「あまり近寄らないでください、インフルエンザがうつります。先輩はじっとしててください」
キツい一言を受けた僕はポツリ座りながら、気がつくと料理をする川島さんに見とれていた。手際よく、無駄なく、黙々と調理する彼女。見ていて飽きない。
が、流石にじっと見つめているのも気色が悪い気がして、ある提案をした。 「音楽かけていい?料理のBGMに」「どうぞどうぞ、先輩のチョイスが気になります」
音楽ライブラリからBreakbotの『By Your Side』を選び、再生する。エレクトロとファンクが心地よく融合したこの作品、バラード群も珠玉の曲ばかりで、いつの間にか心を浄化してくれる。
一曲目の「Break Of Dawn」は、まるでこの世界を全て輝かせるようなオープニングチューンだ。川島さんも少し身体を揺らしてる。そういえば以前、小さい頃からずっとダンスを習ってたとか言ってたな。最近辞めちゃったみたいだけど。
三曲目のサビが終わると同時に、彼女がアーティスト名と曲名を訊いてきた。 「Breakbotっていう人の作品で、この曲は“One Out Of Two”って曲。」「One Out Of Two?ですか?」「そう、“ふたつにひとつ”、って意味」「ふーん」
アルバムが終盤の「Baby I’m Yours」にさしかかる頃、川島さんの手料理は完成した。僕の目の前に現れたのは、大量の麻婆豆腐。「麻婆豆腐?!」「これで英気を養ってください。身体に優しいものばかりしか食べてなかったでしょ、ここでガツンといかないと!」
その量にたじろいだ僕だったが、肝心の味はこれまで食べた麻婆豆腐の中でも一番美味かった。麻婆のとろみも、辛さも絶妙。
「すごい、すごい美味しいよこれ!」「…なんで美味しいかわかりますか?」「えっ?」 気がつくと川島さんの大きな瞳が、まっすぐ僕を見つめていた。息が止まりそうなほど、それはまっすぐに。
「えっ、なんでだろ…えっ…」「麻婆豆腐は、煮るんじゃないんです。焦がすんです!焦がすことで美味しさが全然違うんです!」「あっ…そうなんだ…」
祝日の明日も仕事ということで、僕が食べ終わる前に川島さんは帰る準備をし始めた。去年ウチの会社を辞めた彼女の新しい職場は、朝が異常に早いらしい。 「じゃあ先輩、お大事に」「うん、ありがとう」「そうだ、さっきかけてた曲、CDありますか?」「うん。持ってく?」「はい、帰ってから聴きます。なんだか、とってもいい曲ばっかりでした」
チョコレート菓子の包装紙みたいなジャケットの『By Your Side』を鞄に詰めて、彼女は僕の部屋を去った。
一人部屋で麻婆豆腐を食べる。食後、皿を洗う。洗濯物をたたむ。このままベッドに入るかと思ったけど、もう一度『By Your Side』を聴いてみることにした。彼女も今ごろ家に着いただろう。果たして本当に聴いてくれてるのかな。いくら考えたって、答えはふたつにひとつだけど。
hhttps://youtu.be/vo3BUZx5ZWQ
マジ恋ファンタジークラブ
第1話 川島海荷さんと聴きたい、Breakbot - 『By Your Side』
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