kaitemaude

[kaitemaude]

Moonlit

これはページをめくる前の話。君の指定席が私の隣だったこと、他には何も必要ないと信じて疑わなかった君との甘い時間が全部大切だったはずなのに。そんなことではなく、「君を不幸にするのが僕の仕事」だといった君の冗談とも本気とも捉えられるような含みのある表情に私は目が離せなかった。波が月の光を受けて輝いている綺麗なあの場所で私の唇から赤色だけを奪って、私のマスカラを落とした人。この人の事、私はたぶん一生覚えてる。ううん、忘れたくない。「久しぶりに見ちゃったな…。」溜息をつきながら、音を立てないようにひと口だけ体に水を流し込む。2人だけの秘密の場所にいけたらいいのに、君と私に相応しい夜なんて探したってあるはずも無い。薄いカーテンを透かして月の明かりが射し込んでくる。「私もう、大人になっちゃったよ。」こんなに澄んでるというのに一番星はなぜか見つからなくて君も星も隠れるのが上手だ。でも、今晩はいつもより月が近くに見えた気がした。「ねえ、なんかあった？明日は早起きしなきゃだよ。」 「ううん、明日楽しみだね。おやすみなさい、」どうかこのまま私の事を思い出さないで。

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Bitter

桜が散り澄みわたる空が広がっているというのに、僕の手に残ったものは動かない止まったままの砂時計。懐かしいと感じるほど君の存在が薄れたわけではない、いつもと違うきみに気付こうと、いや気づかないフリをしたのは僕だ。桜の花びらのように薄いきみの唇に引き寄せられるかのようにわざと吸い込まれていく。僕ときみの境界線なんてなかったことにしておかえりは必ず来世で言うよ。「この世界にきみがいるから」時計の針に指をかける。ほらね、ここまではマニュアル通りの口説き方。花さえ散るのに僕ときたら君に送った別れ際のチョコレートコスモスの花束と一緒に僕はただ君のこともう一度だけ抱きしめたかった。「一度も僕を愛したことないくせに。」