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hey,Coffiel#5
「急いで!早く!」
「くそっ、こりゃあ一体…?」
ある程度は制御できても、私とトムにも限界がある。
小森青に着いた時、すでにそこは火事だった。2人の姿も見失った上、交通課に《小推進》の速度規制で捕まるという大失態。
そんなことに愚痴を言ってるヒマはもちろんない。ジェリーの風とトムの精霊力でなんとか通路をこじ開け、おそらく最後の1人のおじさんを外に救出する。
「君、すまないね、ありがとう!」
消防師のお兄さんのコメントを汗だくで聞き流す。あの2人はどこに行ったんだ?時山駅前は狭くもないけど、決して広いエリアでもない。
キン、と予感が走った。《エアレンズ》を望遠鏡のよようにして、一番高いビルを見る
「いた…!」
へろへろだけど、そんなことは言ってられない。新人がアンリを屋上のキワに追い詰めていたからだ。
───────
「アンリっ!」
半ば蹴り開けるように屋上へ転がり出る。さっきから魔力の使いすぎ、そしてミックスマナ症候群も来てぐわんぐわんのぐるぐるだ。
新人は���こそ持っていないが、構えでわかる。《エアバースト》か《フォース》、それに準ずる圧力系魔術だろう。
「こん、のっ…」
「よせよせ紅羽。もう限界だろ」
たしかにアンリの言う通りで、足は生まれたての子鹿状態、その上少しでも気を抜いたら胃からリバースしそう。
「おいおい、大丈夫…」
「動かないでッ!」
びしりと鋭い声が飛ぶ。新人が、構えを崩さずアンリを睨む。
「…ずいぶんやってくれましたね、『キラークイーン』」
「おいおい、俺は『アールグレイ』だぜ?」
「減らず口をっ…!」
何を言っているのか、いまいちわからない。ボスは、新人がスパイだと睨んでて、それで…
「これほどの大火災を起こして、何を企んでいるの?」
「なにって、いやぁ…?」
「特に理由もないっていうの?!」
アンリ、あなたは…
「やれやれ、紅羽の根性には恐れ入るな。あいつに免じて今日はこれでおしまいにしようかな」
「紅羽、そゆわけで俺はここでさよならだ。まぁ、またどこかで会うだろうな」
そう言ってアンリが夜の闇に身を投げたところで、私の意識はぷっつりと途切れた
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hey,Coffiel#4
「スパイって…そんな話
「ないとは言い切れまい。前例は0ではないし、ここのところ、他所の退魔師が内通者を発見した通達もある」
普段から厳しい顔のボスだけど、今日は輪をかけて厳しい。
「こっそりとどこかに電話をしていたという噂もある。目を向けて損はあるまい。何もなければそれでいいのだからな」
───────
「…デ、コモリをしてるってワケダ」
「好きでやってるワケじゃないし」
ボスが顔合わせに指定したコーヒーショップ、その向かいのフィットネスクラブから同行を探る。
チャラチャラしているようでいて、アンリの魔法力、魔術力は高い。私が探知用に《綿帽子》の魔術などかけようなものなら、おそらく5分とたたず感知、術式の「クセ」から即バレまでワンセットだ。
「ソレでもちゃんとハシるアタリがマジメよネン」
使い魔2匹に揶揄されながら、窓際のランニングマシンをのろのろ取り組む。
突っ立ってても変だというのと、せっかくだからという私の貧乏根性のせい。我ながら難儀なものだ。
「ン…?」
「どうしたの?」
「ダレカ、《共鳴波》ツカッテるナ」
《共鳴波》は不可聴の音波により周囲の地形や人ごみ、幻界存在の感知を行う魔術だ。
「でも、今時…?」
「ジュモンとしちゃ、ナツカシイってレベルだナ」
現在はさらに高度な探知呪文…《条件探索》や《鷹の目》などがあることから、官公庁や公的機関などのプライバシーに関与する機関くらいしか、この魔術は…
「官公庁…?」
はっ、と気づき辺りを見渡す。いやいや、こんな屋内にいるわけはない。いるとしたら、外、それもおそらく路地とか非常階段だろう。
「トム、発信地のアタリはつく?」
「アクマで、ナントナク、ならナ」
ゲロゲロと鼻をならす。小生意気だがゆうしゅうなのが、私の使い魔だ。
「ジェリー、悪いけどあの2人を見てて。5m以上近づかないように。感づかれるから」
「ショーガナイワネ。ツケとくワヨ?」
「緑水晶でも買っとくよ!」
コートをひっつかんでフィットネスを後にする。まずいな、逃げられるかもしれない。
「ヤルしかネエダロ?」
「はぁ…そうね。頼むわよトム。《小推進》」
靴裏にじんわりとした魔法球を感じる。踏み込むと弾け、その推進力に乗っていく。
「そのウエだ、《共鳴波》はジカンカカルからナ!」
非常階段に躍り出る。一歩遅かった、スーツの背中が入れ違うように飛び降り、路地に逃げていった。
紺色のスーツに、あの身のこなし、そして古い魔術。
「まさか…警察が、何の用だっていうの?」
ぞわ、と嫌な予感が背筋を駆け抜ける。
スパイの件、まさか公安も絡んでる…の?
「クレハ?キコえテル?」
「ジェリー!2人は?!」
「イドウしてるワ、イェルナのイズミのほうネ」
イェルナの泉…小森青ブックセンターのことだ。
「ヤツがムカッタのと、ムキはオナジだナ」
急ごう。なんだか…胸騒ぎが止まらない。
こういうときカンはよく当たるのが、我ながら恨めしかった。
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hey,Coffiel#3
何が悔しいって、イェンの車がタバコ臭くもオヤジ臭くもないってことが一番悔しい。
このホットドッグ臭いのは私のせいだから、ノーカン。
「こぼすなよ?ピカピカにしたばかりなんだからな」
「はーいはいっと」
車は県道を、煌来から時山駅方面に向かっていく。
なんにせよ、イェンのお迎えが助かった。大方の予想通り、ベッドから起き上がれていたのは私の左腕だけだったから。
「そうだ、カプチーノ。『アールグレイ』が待ってたぞ」
「アンリは別に、私のこと笑いたいだけじゃん」
「そうか?そんな雰囲気じゃなかったがな 、あいつのことだからわからんな!」
くだらない話をしながら、車は市街を抜けていく。
───────
「来たな。イェンも一緒か」
「ご到着だぜボス、時間通りだ。いい保護者様がいるからかな?」
「運転手の間違いでしょ」
時山駅前の雑居ビル。その一角に私たちの事務所がある。『退魔師』は個人事業ではなく、たいてい何人かのエージェントを抱えている。
「よう紅羽にゃん。お手柄じゃん?」
「アンリ。あんたもサボってないで働いたらどうなの?」
銀の髪を金に染めた、どこかチャラけた男が『アールグレイ』アンリだ。私と違い、より広域のパトロールや防犯系の任務についていることが多い。
よく見るとアンリ以外にもちらほらと見知った顔が見える。結構な人数に召集がかけられているようだ。
「始めるぞ」
事務所に、鶴の一声が響きわたった。
まずは昨日の事件について。
ビル壁を多少焦がした件については、ビル自体が老朽化が進んでいて今更多少の焦げは無視できること、女の子のご家族から感謝状が警察宛に届いたことから不問になったとのことだ。
減給にならなかったのはラッキーとしか言いようが無い。
ついでその他の任務の進行状況。
私はフリーを言い渡されているため傍観。対害魔法落書きの対応とか、未認可の魔術使用者の追跡とか、割と広く多く当たっている。
「そして、昨日付で新人が入った。伊藤 美菜君だ。コードネームは発行中。大卒だが、素養は高いと聞いている。新人教育は…」
ざわっ、とした空気が流れる
「アンリ。君が行え」
「「えー!」」
いやいや、ここは私でしょ?!フリーなんだし!いや、アンリもフリーだけど!こんな金だか銀だかわからないへんちくりんな髪色のやつに新人教育なんて…
「すでに本人に、辞令共々伝達してある。顔合わせは16時だ」
どうやらアンリ的にも不服らしい。あいつはサボりたいだけだろうけど。
ちぇっ、仕方ない。折につけてアンリを弄りつつ新人と仲良くしよう。
「以上、ミーティング終了だ。チームミーティングに移れ。それと、紅羽、少し残れるか」
ボスから呼び出しなんて珍しい。よほどのことがあった…か、ないしは私の首の繋がり具合についてだ。
「イエス、ボス。何か?」
「アンリの新人を見張れ」
「え?」
「スパイの可能性がある」
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hey,Coffiel#2
「…次のニュースです。昨夜、国永県時山市の路上で女性にわいせつな行為をしようとした疑いで…」
「おっ、やってるじゃん。お手柄だな『カプチーノ』さんよ」
ノックもせず私のマンションに現れた男は、付けっ放しのテレビを指差してほくそ笑んだ
「…私、朝、弱い…」
「知ってんよ。だからこうして俺が出向いてやってんだろ?ボスから昨日のレポートをもらってこいって言われてんのさ」
勝手に冷蔵庫を開けるな。戸棚も開けるな。くそ、地味に手慣れててムカつく…。
こいつはイェン・ナカムラ。コードネーム『タンブラー』。いわゆる事務員で、そして連絡役だ。
マナを使いすぎるとひどく酔う体質の私は、大きな仕事をするとたいていグロッキーになる。
それを笑いつつ、構いつつ、仕事をしに来る。うざったいがご飯は美味しいので、蹴りだすのはなんだかんだ、惜しい。
「しかし、やっぱりあれかね。体質改善がいるんじゃねえの?」
そこそこ高そうなスーツの上に、安物のエプロンをちゃっかりつけたイェンが聞いてくる
「《マナ》の話だ。雑賀谷の亜街あたりで整復してもらったりとかよ」
「昔やった…で、これ」
「そいつぁ、難儀だな!お前も俺と同じ、ハーフなのによ」
同じハーフでも、彼は日本人と中国人。私はエルフとイフリートのハーフだ。そこには幻種と人種の違いがある。
全く異なる種族の混合型たる私は、巨大な性能と爆弾を同時に抱えているのだ。
「よっ、と。レポートは?これか。よしよし、相変わらずいい出来だ。朝飯はいつも通りベーコンエッグにしたぜ」
「彼氏かよ…」
「グハハ!それもいいかもしれねぇな!」
20も違うイェンと私。オジサマ趣味はないし、なによりこんな胡散臭いのはお断りだ。
「14時からミーティングだ。迎えに来てやろうか?」
「………」
「おい」
「……お願い」
「へいへいっと。顔洗っとけよ」
ボスのお叱りとメンバーの冷やかし。どちらかといえば、まだ後者の方がマシだろう。
…ほんの少しだけど。
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hey,Coffiel#1
高いところが好きなのは前世が猫だったからだと思う。そうアンリに伝えたら、アンリが笑い壊れたから、もう言わない。
眼下に広がる時山の街は、夜半を過ぎてもなお明るい。でもそれはあくまで表面的なものだ。その裏では行き場をなくした幻種や魔法犯罪者が蠢いている。私は、この街に影を落とす存在を…
「オメエ、なにヲそンなタイソウなカタリしてンダ?」
うるさいな、今いいところなんだから黙ってて
「クレハはネ、オトシゴロなのヨン。アタシとオナジネ」
「ソウイウモンか?オレサマにはワカンネ」
もう!外野は茶々入れないで!台無しじゃん!
「「ハイハイ」」
もう三年の付き合いになる私の使い魔達は、そういって呆れ顔で肩をすくめた。
私、滝沢紅羽(くれは)は「魔法使い」だ。そして、この街で必要な仕事、「対魔師」をしている。
「ジェリー、《遠眼鏡》を」
エメラルド色の、蝶のような形をした妖精がジェリー、風の妖精シルフだ。私の目に文字をなぞり入れていく。
「ッタク、オレサマはタイクツダゼ、クレハ。ハヤくシロヨ」
ルビー色のトカゲじみた妖精、火の妖精サラマンダーのトムが私の肩でゲロゲロと毒づく
「ゲロゲロって…あんたトカゲでしょ」
「オレサマはサラマンダー、ダ!��
どうやらトカゲと言われることも嫌らしい。贅沢なものだ。
《遠眼鏡》で市中を眺める。往来が手に取るように見え、建物の死角になる路地裏も透視できるこの魔法は、私とジェリーで緻密にイメージを組み上げた傑作だ。
『カプチーノ、様子はどうだ』
「あらボス。平和なものよ…今のところ」
ボスの式神を手の甲に迎える。今時スマホのメッセージサービスが使えないボスの通信手段は大抵これだ。
『しかし、やはりカプチーノというコードは改めないか?あまりこちらとしても気持ちの良い呼び方ではない』
「いいのよ、私が気に入ってるんだから。それに…その議論はまた今度ね」
時山駅裏、2人組の男が何者��に詰め寄っているのが見える。間から見える服装から見て、多分女性。
「ブラインドにプリズム、ついでにアンセンスもかけてあるワネ」
ジェリーが《遠眼鏡》越しに分析する。なろう、ヤる気マンマンかよ。
『やりすぎるなよ。カプチーノもだが、トム。お前もだ』
「オレサマはカンケーネーだロ!」
「お説教はそこまで。いくわよ!」
ビルの屋上から身を投げる。トムとジェリーが生み出す陽気流に乗って、私はビルの森を飛び渡っていく。あの子がひどい目に会う前に着きますように。
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