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意地悪したい!
「フゥ~ン! 俺の華麗な手料理を披露するぜ!」
と、息巻いたカラ松の発言を俺は最初から信用してなかった。そりゃあそうだ。簡単なトランプゲームのルールを覚えるのにさえ四苦八苦しているカラ松が、同時に多くのことをこなさなければならない料理を得意とするはずない。 そんな俺の予想は当然のごとく当たり、カラ松は今現在俺の家のキッチンに立ち、ト……トン、トトン! と如何にも慣れてないですと言わんばかりの危なっかしい包丁の音を立てているのだった。 そんなカラ松を、俺は後ろからずっと眺めている。この日のためにわざわざ買っておいた紫色のエプロンがめちゃくちゃ似合っててカワイイだとか、今度裸エプロンをしてもらってセックスに及ぼうだとか、そんな事ばかりを考えているわけではない。決してない。それどころか俺はずっとハラハラ���ている。カラ松のあまりにお粗末な包丁捌きにだ。料理どころか、そもそもカラ松は包丁すらまともに扱えていないのだった。これじゃあいつ怪我するかわかったもんじゃない――なんて考えていると。 「! っう、ぁ」 あァほら、言ったそばから。 手元を覗き込む。するとカラ松の左の人差し指に一筋の線が走り、ぷつ、と血の玉が出来たところだった。血の玉はすぐに決壊して、カラ松の指先を赤く濡らす。 はぁ、と心の中だけでため息をついた。見てられないとはまさにこの事だ。 「……はい、ここまで」 俺はカラ松の背後にまで近づき、彼の手から包丁を取り上げる。カラ松はびくっとしてからこちらを振り向いて、目をまん丸くした。カラ松の黒目に呆れたような俺の顔が映り込む。 「い、いちま……! ……ッフ、少々ミステイクだったな。だが心配はいらな――」 「うるさいよ。今日はここまでね」 「へっ!!? あ、あのな、切るのはほんのちょっとだけ苦手なんだが、でも料理はちゃんも練習したから大丈夫で……っ、」 知ってるよ。俺のために、アンタが毎日頑張って練習してくれたことは。アンタの兄弟がわざわざ俺にラインして教えてくれたんだ。毎日レシピと睨めっこしながら台所に立ってること。失敗ばっかだけど、でもとても楽しそうだってこと。俺を喜ばす妄想ばかりしてニヤけてることも。 全部知ってる。でも。 「うれしいよ? アンタが俺のために料理作ってくれるの。でも、」 一旦包丁を置き、俺は怪我した方のカラ松の手を掴む。「え!?」と驚いた声を上げるカラ松を無視し、俺は血で濡れたカラ松の指を口元に近づけ――口に含んだ。 「――っ、!」 驚きの声すらあげられない、とでもいうようにカラ松が息を飲み、体を硬直させた。指を咥えたまま彼を見ると、目があった途端ジワジワ頰が赤くなるものだからたまらない。 れるれると切れた指先を舐めると、口の中に鉄の味が広がった。沁みるようにわざと唾液をたっぷりと舌に乗せ、傷に塗り込むと、とたんカラ松が「あっ! あぅ、ぅう、……っ!」と喘ぐ。痛いのだろう、手を引いて嫌々してきたけれど、さらに舌を強く傷に当ててやるとビクリと身体を跳ねさせて大人しくなった。 「や、……ァ! う、痛、いたぁ……っ」 血の味が大分薄らいできた頃、そろそろいいかとカラ松を解放してやる。するとカラ松は今まで舐められていた手を俺から庇うようなポーズを取り、涙をいっぱいに溜めた瞳でこちらを睨んでくる。あー可愛い。その顔がどれほど俺の加虐心を煽るのか、きっとカラ松は知らない。 「い、痛かった!!」 「痛くしたからね」 「〜っ!! なんで……っ!」 「許せないから」 「……、ふぇぇ?」 間抜けな声を出してカラ松は目を瞠る。何を言われているかわかりませんとでも言いたそうな表情に、俺は内心ほくそ笑んで、 「アンタの身体に痕を残していいのは俺だけって言ってんの。だから怪我とかしないで。包丁だけじゃなくてハサミとかカッターとか使うときも気をつけてね」 わかった? と、耳元で囁いた。カラ松は数秒フリーズしたのち、ようやく意味を理解したのか、先ほどよりももっと顔を赤くして「は、はい……」と消え入りそうな声で呟く。普段のイタさが抜け落ち敬語になっているのはきっと余裕がない証拠だ。だから俺はさらに追撃してやろうと思い、怪我したらその度にお仕置きするから、とカラ松を抱きすくめて言った。俺の腕の中でカラ松は露骨に緊張したように体を固くする。ドジなカラ松はいくら気をつけてたって放っておけばそのうち怪我するだろう。そのときを思うと、俺は口元が緩むのを止められなかった。
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「冷静」「遠距離」
「いっ、一松……れれれ冷静になるんだ!」 俺は必死になってそう訴えかける。けれど完全に目が据わった一松は、まるで俺の声なんて聞こえてないとでもいうようにピクリとも動かない。マウントポジションを取り、ただただ真っ直ぐな瞳でジィっと俺を見つめてくる。 沈黙があまりに恐ろしくて、 「な、なぁ一松、」 と名前を呼べば、人を殺せそうな視線で一松に睨まれた。ヒェッと喉から情けない声が出てし��ったが、不可抗力だと思う。あまりに怖すぎる一松のその形相に俺は目に涙が浮かんだ。普段ならばここら辺で心が折れるのだが、しかし今心が折れてしまえば俺のバックバージンは確実に失われることだろう。 ……そう俺はなんと今、一松にバックバージンを狙われているのだった。 何がどうしてこうなった!? 何かの間違えじゃないのか!? と思うかもしれないが、いや俺だって間違いだと思いたいけれど、非常に残念なことにどうやら間違いではないらしい。先ほど決死の思いで「一松、これはプロレスの延長かなんかだよな? 悪ふざけしてるだけなんだよな……?」と聞いてみたが、真面目くさった表情の一松に「悪ふざけじゃないよ。俺は今からアンタを犯す。……俺のちんこをアンタのケツに挿れるってこと。わかった?」と返されてしまった。 こうなってしまった原因がさっぱりわからない!! だって一松は、俺のことが嫌いなはずだ。だから俺がこの家から居なくなると知れば、喜ぶと思ったのに。どうして一松は、こうも怒ったような声で、そんなことを言ったのだろうか……。
一松に押し倒されたのは、つい数分前のことだ。 昼間、家に帰ると一松ひとり居間で猫と戯れていた。他の兄弟たちはと聞くと各々いつもどおり出かけたと返された。そうか、なるほどな。まぁ兄弟たちには後で伝えればいいだろう。取り急ぎ一松にだけ伝えてしまおう。そう思って俺は、いたって気軽な気持ちで一松に話しかけたのだった。 「チビ太に誘われたんだ。おでんを世界に広める旅に出るんだけど一緒に来ないかって」 「……へぇ」 普段俺の話に返事を返してくれないことが多い一松が、今日は珍しく返事をしてくれて。俺はそれがとっても嬉しく感じ、だからテンション高く続きを話した。 「だから俺はな、頭を坊主にしないって条件付きで、オッケーしたんだ。……フッ、ついに俺が世界に飛び出すべき時が来たぜぇ」 「――は?」 そうしたら、一松が。急にふらりと立ち上がった。あれ? どうしたんだ? と思った次の瞬間には、俺は頭を強く床にぶつけていた。遅れてやってくる鈍い痛みに思わずうめき声が漏れたけれど、一松はそんなの御構い無しにそのまま俺に覆いかぶさったのだった。 押し倒された、とハッとしたとしたときにはすでに両手首を床に縫い止められていて、抵抗のしようもなくなっていた。 そうして現在まで膠着状態が続いている。
一松の顔が、ゆっくりと俺の顔へと近づいてくる。据わった目は、間近で見ると瞳孔が開ききっているのが見て取れ、余計に俺の恐怖を煽る。 「や、やめてくれ……!」 思わず目を瞑って顔を逸らすが、一松が止���ってくれる気配はない。そしてすぐに一松の顔が俺の首あたりに埋まった��� ガリ、と鋭い歯が俺の首の薄皮を突き破る感覚がした。 「ゥあ゙……ッ!!」 鋭い痛みに俺の口から悲鳴が上がる。どく、どく、と血液が溢れる感覚に、俺はいよいよ涙を堪えられなくなった。 「やだァ……っ! なんっ、なんで、こんな! う……ぅ、ひぅ……っ」 情けない自分の声に惨めさを感じるが、しかし体の芯が冷えるような恐怖感に、俺はただ涙を流す以外どうすることもできなかった。幸いだったのは、一松がそれ以上首を噛もうとしてこなかったことだろう。ややあってから、す、と俺の首から一松の顔が離れていくのがわかった。 罪悪感を覚えてくれたのだろうか――そんな希望的観測を抱いて恐る恐る目を開けると、しかし目に飛び込んできたのは、まだひどく怒ったような感情の色を灯した一松の瞳だった。 「『なんで』……? そんなのテメェがこの家から出てくって言ったからだろーがッ!!」 吠えるような一松の怒号に、また俺の目からは涙がボロボロと溢れた。怖い、と思う。こんなに怒っている一松を見たのは初めてだった。 「テメェこの前まで『最後まで実家から離れないぜぇ』とか言って笑ってただろうが! それが何、ア!? おでんを世界に広める旅だァ!!?」 「ヒッ……!」 「ンなもん許せるわけねぇだろ!!! 絶対許さない……だから俺はアンタを犯す。それで俺なしじゃ生きられない身体にして、この家から出られなくしてやる!!」 俺の両手首を掴む一松の手にどんどん力が篭っていくのを感じる。骨が軋むほど痛い。 痛い、痛い、やめて! ――と、言いそうになって、しかし。 俺なんかよりも、一松はもっと痛そうに顔を歪めた。それを見て、俺はついポカンとしてしまう。 「な……なぁ。なんで、許せないんだ? だって俺は、この家から俺がいなくなればお前が喜ぶと思ったから、」 「……〜ッ、ハァ!? 喜ぶわけねぇだろ!!」 「なんで……っ! だって、お前は俺のこと、嫌いなんじゃ――」 だから俺は、家を出ようと思ったのに。チビ太の話を聞いた時、お前に嫌われてる俺が唯一お前に喜んでもらえる方法はこれだって、これがたったひとつの冴えたやり方だって、そう思ったのに。 なのに、なんで、なんで……。 「嫌いじゃない……っ、俺ァ!!」 ぐら、と一松の瞳が揺れた。涙がこぼれそうになるのを必死で抑えているのがわかる。そんな一松を見て、俺は反対に自分の涙が、……あるいは恐怖心が、すっとおさまっていくのを感じた。
「……俺ァ、アンタのことが……好き、だ」 そうして。ぽろりと溢れ落ちるように一松の口から出た言葉に、あぁ、と思った。 「誤解させるような態度を取ってたのは、謝る。ごめん……ごめん、なさい。だからカラ松、ねぇ、この家を出てくなんて言わないで。……アンタが、俺の目の届かないどこか遠くに行っちゃうのは、……嫌、だ」 「……一松」 「ごめん……く、首、痛かった? ごめん……。もうこんなこと絶対しないから、だから、カラ松、やめて……行かないで、」 「なぁ一松、俺たち両思いだったのか?」 「……――へっ?」 一松の瞳孔が、再び大きく開いていく。見開かれたまんまるな目に、あぁ猫みた��だなぁ、とそんな場違いな感想を抱いた。 ポカン、としたまま固まってしまった一松。手の拘束が弱まったのをいいことに、俺は一松の手から自分の手を逃れさせ、そしてそのまま一松の首に両手を回して強引に引き寄せた。 「一松、俺はお前が俺のことを嫌ってるって思ったから家を出ようと思ったんだ。……だけど、今こうしてお前の気持ちを知れたから。お前が俺のことを嫌いじゃないって……いや、好きだってわかったから。だから……旅は中止、だな」 「っ! ……どこにも、行かない?」 「行かないさ」 「カラ松は、俺のこと……その、す、好き?」 「あぁお前のことが好きだよ、一松」 俺の胸は、嬉しさでいっぱいになっていた。だって、俺と一松は両想いだったんだ! 俺の愛が少しでもたくさん一松に伝わるように、一松の頭を心を込めて撫でる。一松は、ちょっとだけ身動いだけれど、そのまま大人しく俺に撫でられていた。 あぁ両思いになれて、気持ちを通じ合わせることができて、しあわせだな……なんて思ったのは、次の一松の発言を聞くまでの一瞬だった。 「こ、このまま、俺がカラ松の処女もらっていいの……?」 「ンン!? 待て待て待って! この流れでその発言は嘘だろぉ!!?」 どう考えてもここは、お互いの想いを確かめ合ってもう一度涙を……それも感動の涙を流すシーンだろ!? あれぇ!? なんで!!? 俺が目を白黒させていると、一松にぎゅうと抱きしめられる。大切なものを抱えるような優しい動作に、再びしあわせな気持ちが身体中を渦巻いて、きゅんっとなった――けれど。次いでグリグリと一松の股間を体に擦り付けられて、俺は急に現実に引き戻された気分になった。 俺がヒッと悲鳴をあげても、一松はなおもグリグリと股間――それも勃起している――を擦り付けるのをやめなかった。 「俺、さっき言ったよね。俺のちんこをアンタのケツに挿れるって」 「待てそれはお互い誤解をしてたからそういう強硬手段に出るしかなかったからの発言じゃないのか!?」 「強姦じゃなくて和姦になって嬉しい」 やめて俺はまだバックバージンを失う覚悟は出来ていない……!!!! 抱きしめられたまま耳元で、両想い記念のセックスだね――なんて言われて。俺は再び、「いっ、一松……れれれ冷静になるんだ!」と必死にそう訴えかけるのだった。
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恋する陶酔
ぎゅっ、と。それを抱きしめてみるとあまりの幸福感に鼓動が早くなった。 すん、と。においを嗅いでみる。いつもアイツがつけてる香水のにおいにかすかに混じった――汗のにおい。それがあまりに、あまりにたまらなくて体が痙攣した。 「……ひひっ」 喉から、引きつった笑いが漏れる。自分でもどん引きなくらい気持ち悪い声だった。 カラ松にば���ないようにこっそり後をつけてよかった。隠れる物陰がない家の中で尾行をするのは中々難易度が高い。カラ松が鈍くてよかった。カラ松は、外でならいざ知らず、家の中には不審者は出ないと思ってる。まあそれが普通の感覚なんだろうけど。でももう少し気をつけた方がいいんじゃないの、と思う。たとえば……俺とかに。 その日のカラ松はとんでもない服を着ていた。カラ松が家を出るときに偶然居合わせた俺は、見てしまった。カラ松の顔がプリントされてるタンクトップを。それをカラ松が平然と着ている姿を。 俺はそのタンクトップを見た瞬間、戦慄した。 あまりのイタさに。あまりのダサさに。 でもそんな感想とは別に、それを見た瞬間コンマ一秒でひらめいたことがあった。ひらめくと同時に歓喜した。 やったあ! カラ松にぶっかけができる! と。 昼間。みんなが出っ払ってから俺はタンスをひっくり返してみた。あのタンクトップがもう一枚ないか探そうと思ったのだ。ぴかぴかに光るスパンコールの彼のお気に入りらしいズボンや、いつかのトレンチコートの下に着ていたYシャツなんかはあったけれど、しかしあのタンクトップは見あたらなかった。どうやら大量にストックしてあるサングラスとは違い一枚しか作ってないらしい。どうせならいっぱい作っとけばよかったのに。そしたら洗濯だとか気にしないで好き勝手に消耗品として使えたのに。チッ流石頭空っぽのカラ松。気が利かねぇなくっそ。 俺は期待に胸を膨らませたままカラ松の帰宅を待つしかなかった。その間、イライラだかムラムラだかで大分機嫌が悪かった。日課である猫の餌やりに出かけたけれど、いつもなら俺の姿を見ただけで寄ってくる猫が今日は全く寄ってこなかった。それほど酷い人相をしてたということか。くっそふざけんなよカラ松。すべておまえが悪いんだからな……。猫には悪いことをしてしまった。明日すっきりしてからちゃんと謝りに行こう。 そんなこんなでイライラしながらカラ松の帰りを待った。待ってる時間は酷く長く感じた。イライラが募る。カラ松のサングラスを割って心を落ち着けようかと考え始めたとき、ようやくカラ松が帰ってきた。おせぇんだよクソ。出かけるとき着ていた革ジャンは何故か着ていなかったけれど別にそんなことはどうだっていい。とにかく、タンクトップだ。 そしてカラ松が着替えようと脱衣所に向かったところを俺はこっそり尾行したのだった。無事カラ松にばれることなく、彼の脱ぎたてほやほやのクソダサいタンクトップを手に入れた。やったぜ。俺はその足で即トイレに駆け込んだ。 そして、今。 カラ松の脱ぎたてのタンクトップはまだ彼の体温が、ぬくもりが残っているような気がした。それがまた興奮を助長させる。 「……っはぁ」 タンクトップに顔を埋めて、思いっきりカラ松のにおいを吸い込んだ。頭がぼおっとしてくる。麻薬を吸うってきっとこんな感じなんだろうなと思った。 あー……。しあわせ���今死にたいくらいにすげぇしあわせ。あーもーこのまま時間が止まればいいのに。それか僕の命がこの瞬間に尽きればいいのに。 血のつながった兄の、しかもクソみたいな性格でイタくてダサくてとにかく最悪の塊みたいなカラ松の服のにおい嗅いで幸せ感じるとか。はは、自分にドン引きだ。ほんと最悪。こんなんで幸せを感じる自分に嫌悪感しか感じない。やっぱり自分は燃えないゴミだ。ド底辺で二酸化炭素を吐き出すしか能のないゴミクズだ。……まぁ、二酸化炭素以外にも日々精液とかも吐き出してるけど。それはともかくとして。つまり僕はホントに最低最悪なクズなのだ。 えぇ、えぇ。そんなこと知ってます。兄に対して劣情を抱いてると自覚した瞬間、僕は救いようのないクズだって思い知りましたよ。えぇ。もう大分昔のはなしですけど。 どんなに好みな顔の女でどんなに好みなシチュエーションのAVを観ても実際ちんこを擦らなきゃ勃起しないというのに、しかしその反面カラ松のタンクトップに触れた瞬間いとも簡単に勃起する僕は頭がおかしいんだろう。えぇ知ってますとも。はぁ最悪。これも全部カラ松が存在するから悪いんだ。クソが。おまえが居なきゃ僕だってもう少しマシだったかもしれないのに。すべておまえのせいだ。尻で責任とれよクソ。 タンクトップに顔を埋めたまま、片手をズボンの中につっこんだ。もうほとんど擦らなくったって発射できそうだった。その事実にさらに気が滅入る。自慰をしながら、こうも気分が悪くなって最悪だいっそのこと死んでしまいたいと思う人間はそうはいないんじゃないかと思う。賢者タイムならともかく、自慰してる最中にだ。あぁ僕だってたまには幸せを感ながら自慰がしてみたい。けど。でも。何をオカズにしたってどうしても頭にカラ松が浮かんでしまうのだ。エロいポーズを取るAV女優を見ても、僕の脳内ではそれがすべてカラ松の姿で再生される。なんて地獄なんだろう。ホントクソ。それに興奮してる自分にも幻滅して死にたくなる。ああ僕は一生幸せな自慰なんてできないまま死ぬんだ。カラ松のせいで。マジでおまえどれほど僕を苦しめれば気が済むんだよクソが。あー来世ではカラ松なんていない世界に生まれたい。そして幸せな自慰をしたい。いや自慰だけじゃなくてかわいい彼女とセックスだってしたい。はぁ。早く生まれ変わりてぇ。 もう少しカラ松のにおいを堪能しようかどうしようかと迷ったけど、でもこんな不毛な行為とっとと終わらせてしまいたかった。下着ごとズボンをおろしてカラ松のタンクトップを今度は勃起したちんこに被せる。 「……」 あーなんだこれ。ちょーサイッコウ。たっっまんない。 タンクトップごとちんこを擦ると、布のざらざらした部分とカラ松の顔がプリントされているつるつるした部分がちんこにあたって気持ちよかった。これひとつで二種類の感触を楽しめますってか。安いオナホの謳い文句かよ。 そういえば最近あんまり抜いてなかった気がする。だからなのかわからないけど、バカみたいに我慢汁が出る。なんだこれ。 ��もだらだらと漏れるが我慢汁がプリントされたカラ松の顔を汚しているのだと思うと、なんともいえない背徳感に背筋がゾクゾクした。快楽とも悪寒ともつかぬ感覚に、本能的に体がぶるっと震える。 ぎゅっと両手でちんこを握り込んでしごくと、これまで感じたことがないような多幸感と快楽に襲われた。 「……ッ」 ちんこがビリビリした。電流でも流れたのかと思った。アんだこれ。死ぬ。きもちぃ。でもしぬ。しにそう。今死んだら死因は自慰になるのだろうか。なんだそれ。あぁでも僕みたいなゴミにはうってつけの死因ですね。はは。 そんな自虐をしてる最中でも、ちんこをしごく手は止まんない。だってきもちい。アーちょーきもちー。 「ァ……は、んっ」 たまらず、情欲に濡れた酷い声が出た。聞くに耐えず慌てて唇を噛んで声を押し殺そうとしたけど、咄嗟のことで力加減が出来なかった。鋭い犬歯が唇の薄い皮を破って肉に這入り込む。ぐにゃりと、犬歯が唇に刺さった。途端に口の中に広がる鉄の味。っべぇ、クソいてぇ。マジふざけんじゃねぇぞてめぇのせいだクソ松あとで殺す。 噛みしめた唇がどくどくと熱く脈動している。血が、どんどん口の中に広がっていく。イタい。でも。もっときつく唇を噛みしめてみる。犬歯がさらに唇の肉を深くまでえぐった。超イタァイ。あァでもそれが気持ちよくてたまんない。はァァさいこー……。 どんどん息があがる。唇を噛んでるから満足に口呼吸が出来なくて苦しい。ふーふーと鼻息がクソほど荒い。ちんこをしごく手も、無意識のうちに射精を促すような手つきに変わっていた。絞り出すように。素早く。ローションなんて使ってないのに、ぐちゃっと水音がした。我慢汁か。どんだけだよ。引くわ。 自己嫌悪しても結局快楽には抗えず、勝手にどんどん手が早くなる。こんなに必死になっちゃって。自慰を覚えたての中学生かよみっともねぇ。あぁでももうダメ我慢の限界。出そう。出したい。カラ松の顔に思いっきりぶっかけたい。 一旦手を止め、クソタンクトップをちんこから引き離すとぐちゃぐちゃになっていた。ところどころ(特にプリントの周辺部分)が我慢汁で濡れてタンクトップの青色がさらに深い色に変わっていた。その様が明らかにに「そういう事」に使われた証拠のように見えて、なんだか笑えた。この地球上どこ探したってこんなクソタンクトップをオカズに使う奴なんて自分以外にはいないだろう。バカみてぇ。はは、ホント僕ってきもちわりぃ奴。 自分のちんこがアホみたいに怒張して、グロテスクな色になってることも笑える。血が溜まりすぎて赤黒く……いや、気持ち悪い紫色になっている。紫。そう、紫色だ。あぁいいじゃないですか紫。僕の色ですよ。ぴったりじゃないですか。 タンクトップにプリントされたカラ松を見る。惜しいなぁと思う。クソが。サングラスかけてなかったらもっとよかったのに。 ぶっかけるならサングラスなんてない方がいい。目が見えねぇじゃん。ぶっかけられそうになって慌てて目をぎゅっと瞑るカラ松がみたい。ああいいなそれ。想像だけでも最高��。目を瞑ってやだやだって言って怯えるカラ松に容赦なくぶっかけてやりてぇ。お優しいカラ松はきっとやだって言っても抵抗なんてしないんだろう。怯えながらぶっかけられるのを待ってんだ。はは。 「ん、ァ……ッ!」 そんなカラ松の姿を思い浮かべると同時に頭が真っ白になった。上り詰めるまではオカズだ妄想だと様々だけど、でもイくときはいつだって一瞬だ。体中の熱が一気にちんこに集まって、そして爆ぜる。射精してるときの一瞬の灼熱感と、精液が管を通って外に吐き出されるときの排泄感、そしてそのあとに訪れる開放感。 この感覚は、好き。 射精してる最中も何度か擦って、溜まったモンをすべて吐き出す。射精が収まった頃には、ひどく体力を消耗していた。脱力する。倦怠感が酷い。立っている事も出来ずにドアにもたれ掛かってそのままずるずるとその場に座り込んだ。 「はぁ……あ……はっ、ぁ……」 息が上がる。呼吸が浅い。ダルい。あーもう何もかもがめんどくさい。このまま眠ってしまいたい。そんな訳にもいかないのはわかってるけど。 頑張らないと完全に閉じてしまいそうな瞼をなんとか持ち上げて、ぼおっと何を見るでもなしに、虚空を見つめる。視界に入ってくるのはカラ松のタンクトップ。目の前にあるそれには、さっき僕が吐き出した大量の精液がプリント部分にそりゃもうべったりと散らばっていた。精液はすげぇドロドロしてる。濃いなァ。それと噎せ返るような精液のにおい。あぁきもちわるい。 「……はぁ」 思わずため息が出る。アァ~……すげぇヨかった。カラ松を汚してやった薄暗い充足感。僕の精液でぐちゃぐちゃになるカラ松。最近シた中で一番気持ちよかった。はぁー……。 「……」 気持ちよかった。最高に気持ちよかった。それは、確かにそうなんだけど。 でも、だからこそ。 余計に賢者タイムの自己嫌悪が、ひどくなる。 「…………」 あぁー死にてぇー。 今この場に輪っか状になったロープが都合良く天井からぶら下がっていたら僕は躊躇いなく首を吊る。今最高に死にたい気分だ。そうだ、今度カラ松で抜くときは予めロープを準備しておいて抜いた後すぐ死ねるようにしよう。それがいい。そうしよう。 カラ松で抜くときは、というか。自慰を覚えてからカラ松以外で抜いたことなんてほとんどないけど。 「はぁ……」 ちょっとずつ、思考が正常に戻っていく。動かなきゃ。いつまでもこんなトイレに引きこもってる訳にはいかない。 心底動きたくなかったけどここは共用のトイレだ。そろそろ誰かくるかもしれない。俺はのろのろと立ち上がった。触りたくもない精液まみれのタンクトップを掴んで、精液が零れないように注意しながらトイレを出る。誰にも見られないように注意しながら脱衣所に戻った。幸い誰とも遭遇しなかった。よかった。 洗面所でざぶざぶとおざなりにタンクトップを水洗いする。タンクトップを洗ってる間、酷い虚無感に襲われたけどそれを無視してなるべく何も考えないようにした。この虚しさはいつまで経っても慣れない。はぁ。 洗うのもそこそこにして俺はそれを投げ捨てるように洗濯機に放り込んだ。洗濯機にかければバレ��こともないだろう。胸元がヨレたりしたって知らねぇ。こうやって律儀に精液を洗い流してやっただけありがたく思えクソ松。 石鹸で自分の手をきれいに洗ってから、俺は居間へと戻った。 居間には、おそ松兄さんとカラ松とトド松がいた。十四松はまだ野球に行ってる時間だろうし、ドルオタ兄さんは朝食のとき今日はライブがどうたらって言ってた気がするからそれだろう。おそ松兄さんが漫画から視線を逸らすことなく「一松いたんだー」と言ってきた。えぇ居ましたよずっと。猫に餌やりに行く以外はカラ松のクソタンクトップのためにずっと家にいました。どうもクズです。 「えっ。ちょっ、一松兄さんどうしたの!? なんか唇すっごいことになってるけど!?」 俺を見た瞬間、トド松がぎょっと目を剥いた。あぁそういえば口を濯ぐの忘れてた。意識した途端また口の中が鉄くさくなった気がした。 「うっわー……ひっでぇな。なになに一松クン猫にでも噛まれたわけ~?」 おそ松兄さんが漫画から顔をあげてこっちを見る。ひっでぇなぁとか言っておいてその顔はおもしろいものを見る顔だ。ニヤニヤと可笑しそうに笑っている。さすがクズの代表クズ松兄さん。心配なんてされてもウザいだけだけど、明らかに面白がられてるのがわかるとそれはそれでむかつく。 「一松、大丈夫か?」 さっきまで鏡を見ていたカラ松も、今はびっくりした顔でこっちを見ていた。俺をみてちょっと怯えたような顔をしながら、それでも心底心配した声で話しかけてくる。 「……」 これが大丈夫そうに見えんのか。クソいてぇっつーの。 そもそもテメェがいなきゃこんな傷もできてねぇよ。クソ。クソ松。 と、そんな事を思っても口に出せる訳はなかった。返事する代わりに俺はカラ松の傍へ歩み寄った。カラ松は明らかにビビった様子で俺の行動を慎重に見つめてくる。俺はカラ松の横で足を止めた。びくっとカラ松が体を硬直させる。俺はそのまま、腹いせにカラ松を蹴った。 「うご……っ」 あばら骨の下あたりにクリーンヒットして、カラ松は痛みに呻いた。さっきとは違う意味ですっきりする。はは、ザマァ。 クズ松兄さんとトド松はまたやってるよーという顔で、それぞれ漫画とスマホに戻っていった。薄情なやつらだ。クズ松兄さんは「一松、ほどほどにしとけよー」声を掛けてきた。でも声は掛けども、自分が動いて止めようとはしないあたりは流石クズ。 理不尽に俺に殴られたカラ松は涙目になりながら殴られた腹をさすっていた。 「し、染みるかもしれないけど、ちゃんと消毒しなきゃダメだぞ」 腹をさすりながら、それでも弱々しい声でカラ松がそんな事を言ってきた。あ、こいつバカだ。知ってるけど。殴られた直後に、殴られた相手に対しておまえよくそんな事言えるよな。優しいにもほどがあるだろ。 ……クソが。そうやって手放しな優しさを俺に向けるな。バカかよ。そんなことするから、俺みたいなクズに気に入られんだよばからまつ。 「なぁ、いちま」 「……こんなの、舐めときゃ治る」 アンタが舐めてくれりゃ、最高なんだけどね。 開き直ってそんな事言えたらこの���ソみたいな状況が何か変わるんだろうか。そんなことを思っても、結局クズでヘタレな俺には何もできやしないけど。はぁ。ホント最悪。あーなんかまたイライラしてきた。あとでもう一回あのタンクトップ使って抜こうかな。 「一松」 心配そうに、もう一度カラ松が俺の名前を呼んだ。 気安く名前呼んでんじゃねぇよクソ。勃つだろーが。涙目でこっちを見上げてくるカラ松を無視して、俺はいつもの部屋の隅っこに座った。これ以上カラ松を見てたらホントにまた勃ちそうだった。勘弁してくれよ。今抜いたばっかだろ。俺は猿か。 ホント、すべてがクソみたいだ。あー何かも最悪。これもすべておまえのせいだからなクソ松。だからマジでそろそろその尻で責任とれっつーの。ばーか。 はぁ。 ため息をつくかわりに、ぺろ、と唇を舐めてみた。ざらざらした舌が傷に触れる。想像以上に痛くて死ぬかと思った。むしろそのまま死にたかった。
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『好きと言わせて』
これはきっと、罰なんだろう。 「……もう、カジノなんてこない」 そう沈んだ声で言い、俯いたカラ松を見て、俺はそんなことを思った。涙を堪えようとしているのか、カラ松の肩はぷるぷると震えている。 一体何が原因でカラ松はこんなことを言い出したんだ……なんて。考えなくても、心当たりがありすぎる。今日カラ松に対して言ったこと、したことを思い出してみても、いつも通りからかって意地悪した記憶しかない。 それが積もり積もって、カラ松はカジノのこと……いや、俺のことを嫌いになってしまったのだろうか。 明日からカラ松がカジノに来ないと考えると、嫌だ、待って、と心の中で悲鳴が上がる。 「……、」 どうしよう、アレだ、とりあえず何か言わないと。なにか、弁解の言葉を。しかし何か言わなきゃと思えば思うほど、何を言っていいのかわからなくなっていって、焦りばかりが体中を巡る。何か、何か……。 それでも一向に言葉が出ないもどかしさに、思わずカラ松の方へ手を伸ばした――ら。 パシンッ! 手に衝撃が走った。 「……〜ッ!」 数秒遅れて、カラ松に手をはたき落とされたのだと理解する。 「か、ら、まつ……?」 「!」 俺もびっくりしたけれど、当のカラ松はもっとびっくりしたようで、ハッとして頭を上げたかと思えばひどく呆然とした顔をしていた。きっと反射的な行動だったのだろう。俺と目が合うとカラ松は一瞬申し訳なさそうな表情をして何か言いかけたけれど、結局口を噤んで、気まずげに視線を逸らした。 明らかな拒絶だった。 あまりのショックに、今度こそ俺は絶句した。 「ね、ぇ――」 恥も外聞もかなぐり捨て、自分のキャラさえ放棄して、今までごめんね、もう一生意地悪しないからそんなこと言わないで、と殊勝な態度で謝ろうとした――けれど。 しかし、次の瞬間に���こえてきたカラ松の言葉に俺の思考はストップした。 「……〜っ、だって、俺だけだと、思ってたのにっ!」 肌がビリビリするほどの大声でカラ松はそう叫んだ。自分の声に弾かれたように、目からは涙がボロリと溢れる。そしてそれを皮切りに、カラ松の口からポロポロと言葉が溢れ始めた。 「お、お前は! だれでも、良いんじゃないか……っ! お、おおお俺は、俺だけが、お前の、と……特別だって、思ってて……なのに! こ、こんなの、ば、バカみたいだ!」 「……え? 待って……え、どういうこと……?」 「さっき、おれ、見たんだからなっ!」 ほっぺをこれでもかというくらい膨らませて、カラ松は俺を睨む。察せ、と言いたげな雰囲気を感じるが、しかしちょっと考えるもさっぱりわからなかった。 「……ちゃんと主語言ってくれないとわからないんだけど。見たって、何を」 「お前が! 女の人とVIPルームに入ってくところだ……!」 VIPルーム。その言葉を聞いたとき俺はようやく、あァ……と悟った。一体カラ松がどんな勘違いをしてるのか。どうしてもうカジノに来ないなんて言ったのか。 俺が女の人とVIPルームに入ったのを見て、きっとカラ松は中でセックスをしていると思ったのだろう。俺がいつもなんだかんだ理由をつけてカラ松をVIPルームに連れ込んでるみたいに。 カラ松は、嫉妬しているのだ。女の人に。 それってつまり、カラ松は、――俺のことが好きってこと? 「〜〜ッ、」 そう理解した瞬間、お腹の底からジワジワと興奮やら喜びやら、形容しがたい何かがせり上がってくるのを感じた。 「ね、ねぇ、あれは、本当にこの店の常連さんだよ。オーナーにVIPルームにお通ししろって言われたからそうしたまでで、」 舌がもつれそうなくらい、早口になっているのがわかる。でも、どうしようもない。気持ちが逸って仕方ない。 あぁだって! カラ松も俺のことが好きだったなんて! 「う、嘘つくな!」 「嘘じゃあないんですよねぇ。なんだったらオーナー連れてくる? それともさっきの女の人? 気のすむまで聞けばいいよ。本当に俺は案内役をしたまでだから。……ねぇ、俺が『あんなこと』するのはアンタだけだよ」 「ど、どういう、意味、」 アンタがさっき言った通り、俺の特別はアンタだけだ。 だって。
「だって、俺はアンタのことが――」
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12/7
今日は寒かった。天気予報によると昨日よりも6度も気温が低いらしい。家の中に居てもわかるのだから、相当だ。まぁ僕らの家はトクベツ隙間風が吹き込んでくる素敵な木造のアパートなので、そういう理由もあるのだけれど。 「ねぇ」 「ん?」 「寒くない?」 「あぁ、今日は冷えるな」 カラ松に言うと、カラ松はあっけらかんとした表情で言った。あまり寒くなさそうである。多分買い物帰��で動いたあとだから体があったまっていたのだろう。外にいたカラ松からすれば、家のなかはさぞあったかいだろう。木造といっても、さすがに多少の防寒能力はあるのだ。 でも僕からすれば、カラ松のこの反応が面白くない。 だって僕は、あわよくばカラ松に”あっためて”もらおうと思っていたのだ。 『ねぇカラ松今日寒いね』 『あぁ。こんな日は人肌が恋しいな……なぁ、一松? その、お前さえ嫌じゃなかったら抱きついてもいいだろうか』 『いいに決まってんだろいちいち聞いてる暇があったら抱きついてこいや!!』 とかなんとか会話して、カラ松を抱きしめて暖を取りたかった。 それなのに!! カラ松は『冷えるな』と言ったあと、普通に家事に戻ってしまった。なにそれ!! ……恋人同士で、しかも二人暮らしの家の中。妄想するだけじゃなくて、普通に自分から抱きしめに行けばいいだろというツッコミの声が聞こえてきそうだが、しかしよく考えて欲しい。自分で言うが僕はひどくひねくれていて、おま��に極度の照れ屋だ。 そんなこと言えるわけなーーーい!!! 僕はため息をひとつついて、原稿に戻ることにした。 すると、数分後。冷蔵庫の中に買ったものを移したらしいカラ松が、僕が仕事してる最中に書斎に入ってきた。珍しい。いつもなら僕に気を使って入ってこないのに。 どうしたんだろうと思いながら耳をそばだてていると、いきなり、後ろからぎゅっとカラ松に抱きしめられた。 「!? ……、…………!!?」 当然、僕はパニックである。 「ふふ〜ん、俺にこうして欲しかったんだろぉ〜?」 耳元で、カラ松の得意そうな声が聞こえた。どうしてわかった!? 咄嗟に何も言い返せない。カラ松の手が、僕の心臓の上に移動した。バクバクバクバク……。普段よりも幾分はやい心臓の鼓動。カラ松はもっともっと得意げになって、ふゥんと鼻をならした。 「ビンゴォ〜?」 「……〜ッ、びんごっ!」 どうしてわかったの、と聞くと、お前の態度はわかりやすいからなぁと返された。ク、クソ……僕ってそんなにわかりやすいんだろうか。 というかわかってたなら無駄に焦らさず抱きついてこいボケ!! あァ〜それともなんだ、アレか、焦らしプレイってやつか? 上等じゃねぇかお兄ちゃん最高ありがとう大好き。 あったまるまで傍にいてやるぜぇと言ったカラ松を、僕はそれからたっぷり一時間は拘束した。正面から抱きしめたり、僕がカラ松を後ろから抱きしめたり。「お腹空いたからそろそろ昼飯にしないか? だからちょっと離してくれいちまぁ〜つ?」という訴えも当然無視した。カロリー補給するよりもカラ松を補給する方が当然優先順位が高いので。 カラ松の体温を感じつつ、寒さも悪くねぇな、と思った。
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11/25
小説家という���業ゆえ、基本的に曜日は気にしないような生活をしているのだが、それでも金曜日というのはワクワクして気持ちが浮き足立ってしまう。ちょっと古い言い方をすれば「花金」だ。ワクワクするのは致し方ないだろう。 新聞のテレビ欄、金曜ロードショーのタイトルをみてカラ松に「観る?」と聞くと、「観る!」といい返事が返ってきた。カラ松は退屈な映画はすぐに寝てしまう素直な性格をしているのだが、今日のタイトルはハリーポッターだ。大丈夫だろう。ちょっと遅めに夕飯を食べて、そのままのんびり映画を観ようと決めた。 そして現在時刻午後4時。夕方である。 気候はかなり冬に近づいてきていて、この時間でさえもすでに外は暗くなり始めている。カラ松は今台所に立っていて、夕飯の下準備をしているところだ。時折聞こえてくるトントンと包丁の音が耳に心地よい。 今日はわりとスムーズに原稿が進んだ、と思う。うむ。良い日だ。今日はこれから散歩に出て、いつもの公園で猫と戯れる。いくら近いとはいえわざわざ暗い中を歩くのは嫌なので、完全に日が落ちる前に出かけようと思う。 普段は夜寝る前に日記を書くんだけども、何故今書いてるかというと。……まぁ、今日はね。夜は忙しくて書く時間ないだろうから。 不文律――というわけでもないんだろうけど。金曜の夜は、いつもカラ松とセックスをする。だから今日もよっぽどのことがない限りセックスするはずである。 お互い酒は強くないので平日は控えるようにしているのだが、でも金曜の夜だけは特別で、二人でビールを飲む。350mlの缶ビールを二人で半分こして。さすがにその程度じゃ僕もカラ松も酔わない。ちょっと気持ちよくなってきて、もうちょっと飲みたいなと思うが、でも僕もカラ松も「もう一缶開ける?」とは言わない。だって、あんまりアルコールが入ったうと勃たなくなるのがわかってるからね。 夕食を食べ終えて食器を下げ終えたら、何か言いたげな雰囲気をまといながら、カラ松はさっきよりも若干僕と距離を近くして腰を下ろす。映画を見るときはそのまま一緒に観るが、見ない日はカラ松が座った時点で僕がパリチとテレビを消す。そして、 「する?」 と聞くと、カラ松は、 「する」 と、答える。 居間でしばらくちゅっちゅしてから、寝室に場所を移して、それでまぁ、セックスするのである。キスをしながらカラ松の服を脱がせ、素肌同士で抱き合った瞬間――あァ僕はこのために一週間仕事頑張ったんだな、と胸の奥がジーンとする。 今日も、きっとこの流れのはずだ。夜を思うと今から楽しみでソワソワしてしまう。友達の猫に悟られて、からかわれなければいいけど……と思いつつ、僕はそろそろ散歩へ出ようと思う。
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11/24
本日、なんと雪が降った。まだ11月なのに。なので今日は、キーボードを叩く傍ら、水っぽい雪が家の壁を叩く音を一日中聞いていた。 朝起き、おおよそ12月前とは思えぬ寒さに震えたが、しかしそんな気温はつゆ知らずとばかりにカラ松は寝起きからテンションが高かった。カーテンを開けるなり「銀世界だぜ〜〜!!」とはしゃいでいた。眠気まなこでカラ松が指差す窓の外を見ると、なるほど、いい感じに雪が積もって銀世界だった。 東京では雪と言えば珍しかったが、しかしこちらで暮らし始めてからは別段雪は特別ではなくなった。1、2月頃に、積もるというほどではないが雪が降るのだ。 外の気温は低い。窓が白く曇った。わざと窓にはぁと息を吹きかけると一層白くなったので、なんとはなしに指で猫の絵を描いてみた。絵心のない僕作の猫は随分と不恰好だったけど、まぁこんなもんでしょ、という出来だった。そんな僕を見て、カラ松は「あー!」と言った。 「……うるさい。なに」 「指で窓なぞるとアトが残っちゃうんだぞ!」 もーっとほっぺを膨らませるカラ松。僕は窓をなぞった指でカラ松のほっぺを押した。つめてッ! と、カラ松が体をよじった。 「なにするんだぁ……。というか、ほら、窓なんか触るから、手だって冷たくなっちゃったじゃないか」 カラ松のあたたかい手が僕の冷たい指先を包んだ。ぎゅ。体温をわけるように、カラ松やさしく僕の手を揉む。 「……今日、さむいね」 「あぁ、そうだな。雪降ってるしなぁ」 「ね、夜さ」 「うん?」 「一緒にお風呂入ろ」 「えぇ……?」 うちの風呂はたいそう狭い。ひとりでも手足を広げるなんて夢のまた夢だ。そんな狭い中に男ふたりが入れば、当然ぎゅうぎゅうだ。正面から抱き合って入る以外ではうまく湯船に収まらない。まぁ、いわゆる対面座位の格好。だから普段は一緒に風呂なんて入らない――けども。 けど、今日はとっても寒いから。だからなんだかとっても、肌を重ねたくなったのだった。……いや、べつに、えっちな意味ではなくて。 そうして夜。カラ松と一緒にお風呂に入った。ぎゅっと正面からカラ松を抱きしめて、浸かりきらない彼の肩に、なんども手でお湯をすくってかけてやった。その度カラ松は「あったかぜ〜」と嬉しそうに笑った。たのしかった。こんな風呂も、たまには悪くない。 夕食はみぞれ鍋だった。カラ松の脳内では『雪=大根おろし』という方程式が成り立っているらしい。さすが直感的というか、単純思考だな――と思ったが、調べてみるとどうやらみぞれ鍋は雪鍋ともいうらしい。へぇ、と思った。 僕も大根をおろすのを手伝った。冬場に水っぽい野菜を触るのはなかなかに手を冷やす作業だ。知らずのうちに眉間にシワが寄っていたらしい。カラ松が僕の眉間を見て、ふふふと笑った。「冬の料理は愛だぜ〜」。わかるような、���からないような。愛か。愛ねぇ。……カラ松が僕のために、愛をこめて料理を作ってくれていることは、いつだって伝わってくるけども。まぁ、それはさておき。 中くらいの土鍋に材料を放り込み、くつくつ煮込んで、みぞれ鍋の完成だった。 二人で鍋を囲んで食べた。鍋の具の争奪戦争、みんなでわいわい奪い合い……そんな喧騒は、今はもうない。それでも、二人で一つの鍋をつつくのは楽しかった。 最後の一つだった鶏胸肉をさっとカラ松から奪ってみた。するとカラ松は「あっ」と声をあげた。 「食べたかった?」 「ぐっ……い、いや! 早い者勝ちだしな」 食事で早い者勝ちなんて、久しぶりに聞いた。そうか、そうだよね。ふたりだって、争奪戦争はできるのだ。 僕は奪った肉を、そのままカラ松の口元にもっていってやった。む、と言って固まるカラ松に、僕は「あーん」と言いつつさらにカラ松の唇に肉を近づける。するとカラ松が恐る恐る口を開けたので、僕はその中に肉を放り込んだ。もぐもぐ。カラ松は美味しそうに肉を頬張った。 カラ松は本当に美味しそうにものを食べる。僕はそんなカラ松の姿をみるのが、ことさら好きだ。僕は色々な意味でお腹いっぱいになった。 明日はまた十一月の気温に戻るらしい。よかった。寒いとキーボードを叩く手がうまく動かないのだ。 原稿の締め切りも近い。明日に備えて、さあ、ねるか。
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11/21
夕方。今日は疲れてしまったので早々に仕事を切り上げて、カラ松とのんびりテレビを見ていた。地方番組の夕方のニュースは、なんだか平和な話題ばかりを報道している。 料理コーナーになり、野菜の話題となった。調理している地方の女子アナが「最近野菜高いですよね」と言ったとたん、カラ松がいきなり「だよな」と力強く頷いた。 カラ松の買い物にたまについていくことはあっても、僕は基本的にそういった事情を知らない。食事関係は全てカラ松にまかせきりだ。野菜って今高いのか。毎日食卓に並んでいるけども。 「高いの?」 「おう。キャベツなんて今ひと玉300円もするんだぞ!? こーんな小さいやつが!」 カラ松は手で丸を作ってキャベツの小ささをアピールしてきた。へぇ。元の値段を知らないからなんとも言えないけど、でもカラ松が高いって思っていることは伝わってきた。その後もカラ松はあの野菜も高い〜だの言って、ぷりぷり怒っていた。平和な話題で怒るカラ松は、まぁ、あれだ、たいそう可愛い。僕は口を挟まずに愚痴とも言えぬカラ松の怒りを上機嫌で聞いていた。 「でも毎食、野菜いろいろ料理してくれてるじゃん」 「あー、まぁな。いやだってほら、野菜は栄養の基本だし……、それに体は資本だろう?」 カラ松がめいっぱい僕のことを考えてくれているのが、伝わってきた。 季節的に寒くなってきたというのに、ちょっと遠い方のスーパーで���売があると知れば、カラ松は意気揚々として出かけていく。冷たい風切って、重い荷物を持って――全て僕のために。あァいい嫁さんすぎる。なんなんだよ神だよ女神さまだ……。 カラ松が僕のために頑張ってくれるなら、僕だって。カラ松につけてもらった体力で恩返しがしたい。 そんなわけで、今夜はどろどろぐちゃぐちゃにたくさんカラ松を可愛がってあげよう! と、意気込んで、夜。体力万全の状態で、僕は”恩返し”すべくカラ松を押し倒した――ら。「明日朝9時から大根の特売なんだ。だから今日はすまない」と言って、なんとあっさり誘いを断られてしまった。 く、くそが! 何が大根だ! そんなことよりセックスだ! と言って無理やり手篭めにするのもあまりに心が狭いような感じがするので気が引け、僕は「あ、うん、ごめん……」と言って、身を引いた。カラ松は「すまないぜ。じゃあおやすみ、一松」と言って、すやすや寝始めた。 何が野菜だこんちくしょ���ふざけやがって!! 僕は野菜を呪いながら今から泣き寝入りする。くそぉ。
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11/20
ドスン! と大きな音がなったと同時に、木造の家が揺れた。昼過ぎだった。 ネタ帳をもとに、次に書くシーンの構想をノートにぐるぐる書き連ねていたときの出来事だった。一瞬音にびっくりして頭の中が真っ白になったけど、すぐさま頭が「カラ松が転んだようだ」と理解した。 僕は慌てて台所に走った。どうやら居間に入ろうとして後ろに転んだらしい。カラ松が、自分でもポカンとした表情をして、僕を見返した。 「大丈夫?」 「……う、うァ」 僕の声にハッとしたのか、次の瞬間カラ松の目が盛大にきらんと光った。あ、泣くな、と思った。 そして次の瞬間、ボロッボロとカラ松の目から涙がこぼれた。 「うぐ……ぁっ、うぁぁぁん」 カラ松は怪我しやすいタチなので痛みには強いのだが、しかしいかんせん泣き虫である。痛いと思ったら、びゃーんと大泣きする。そして泣いたあとはケロっとするのだ。なんとも子供っぽい性格だと思う。僕のカラ松はへんなことろでいつまでもおこちゃまだ。かわいい。 転んでいるそのポーズから、腰も打ってるかもしれないと思い、下手に起こさない方がいいと判断して、僕はカラ松のそばにしゃがんでカラ松を抱きしめた。カラ松は「い゛た゛い゛っ!」と言いながら、弱々しく僕に抱きついてきた。 打ったところをさするのは痛いだろうから、僕は左腕でカラ松の背中を抱いて、右手で頭を撫でてやった。よしよし。カラ松はびゃーーっと泣きながら、顔を僕の肩にすりつけてしばらく泣いた。 5分もすればカラ松はすっかり落ち着き、「ん……」とちょっと疲れたような声を漏らした。 「なんでこけたの」 「えと……ジーパンの、うしろ、ふんで、……それで」 「ん」 見ると、たしかにカラ松の言ったとおりジーパンの裾のところが擦れてほつれており、アブ��イ感じになっていた。運悪くカラ松はそこを踏んでしまってこけたのだろう。 「新しいジーパン買いなよ。これ捨ててさ」 「え……あ、でも、まだ履ける」 「ボロいズボンよりアンタの体の方を優先しろっつってんだよ」 僕、自分のものが勝手に傷つくの嫌なんですけど。そう言ってやると、カラ松はぐっと言葉に詰まって、ややあってから、ちいさく「……ん。わかった。ありがとう、一松」と言った。 その後一日、カラ松はコケたことが恥ずかしかったのか、はたまた僕の言葉が恥ずかしかったのか、ずっと落ち着かない様子でソワソワしていた。でも打った尻から腰あたりが痛いのか、ソワソワするたびちょっと顔を歪めていた。あとあとに響かないかとちょっと心配である。 今度から湿布を買い置きしておこう、と思った。
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11/17
この時期の他人の服装はおもしろい。いつもの散歩の道すがら、すれ違う人を見るとその格好の差がすごいのだ。コートにマフラーを着込んでいるお姉さんもいれば、ロングTシャツ一枚にジーンズという薄着の男もいる。寒いけどまだ完全に冬になりきってない移行の季節という感じがする。女子高生なんか、ニセモノであろうバーバリー柄のマフラーでしっかり首元をあっためてるくせに、足は膝上まで素足を晒してんだからもう意味がわからない。寒そう。 それでも日中になれば、まだまだ暖かい。羽織ってきたコートは散歩の途中で脱いでしまった。 公園でひとしきり猫を撫で、今日はあったかいなと言いしな帰宅すると、なんとカラ松がクソホットパンツをを履いて布団を干していた。女子高生の比じゃないほど存分に晒された生足が目に飛び込んできて、思わずぎょっとする。 あったかいって言っても、真夏専用のホットパンツ履くほどの気温じゃないんだけど。 は? と思って聞いてみると、「そろそろ冬用の布団に替えようと思ってな。布団洗って干したら、暑くなったんだ。布団って結構重いんだぜ〜?」ということらしかった。……クソホットパンツを履くカラ松は久しぶりに見た。夏以来だろう。 僕は目のやり場に困った。 なんだか無性に腹が立ったので、腹いせに無遠慮に内太ももを掴んで撫でた。するとカラ松は「ギャァ!」と色気のない悲鳴をあげた。ザマァみろ、と思ったが、しかし悲鳴とは反対にカラ松は顔を赤く染めて恥ずかしそうに俯いた。 えっ。 「お、おまえには、この格好は、ちょっと、刺激的すぎたな……ぎるてぃな俺ですまない」 カラ松はそう言った。 あとで聞くと、そのとき僕は形容しがたい表情をしていて、目は肉食獣のごとくギラギラ輝いていたという。……くそ。性欲をカラ松に悟られるのは、いつだってどうにも、気恥ずかしい。それなので、夜、僕はもう一度腹いせをした。 むやみに肌を晒すなクソ!!! 風呂上がりでほかほかなカラ松の太ももに、僕は���りついた。カラ松はまた「ギャァ!」と色気のない悲鳴をあげた。くっきりついた歯型はきっと明日も残るだろう。ははは、ザマァみやがれ。
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かえってきてね
一松は真面目だなぁ。そういって俺に向かってやさしく微笑む兄を見て、俺は、本当コイツは何にもわかってねぇんだなと思う。自堕落なきらいはあるけれど、しかし確かに僕は根は真面目な性格だ。与えられた仕事は人並み以上に真面目にこなしているだろう。でも、こんなバカ丁寧に、のぞまれた以上の丁寧さと真面目さと正確さをもって仕事をしているのは真面目な性格だからじゃないのだ。この鈍感ニブ松はなんにもわかってない。 何時から、と聞いてみると、カラ松は14時に搭乗だ、と答えた。うん、知ってる。僕がカラ松のタイムスケジュールを知らないわけがなかった。それでも聞いたのは、なんだろう、とくに会話が思いつかないのにそれでも何かこの兄と話したかったからなんだろうと思う。 幼い頃から青が好きだったカラ松は、ひたすらにずッと青に心惹かれて生きてきた。 好んで青い服を着て、身の回りの小物だって全て青で揃えていた。厨二病真っ盛りのときに黒に魅せられたこともあったが、それでもカラ松はついぞ青を手放さなかった。それほどまでに、人生を左右するほどに好きなのだろう。青という色が。 そして青を求めてカラ松は、なんとパイロットになった。見上げれば途方もなく広がっている一面の青空! カラ松はその世界に飛び込む権利を得たのだ。 幼少期にトランプの遊び方すら覚えられなかったカラ松が、まさかパイロットになるなんて誰が想像できただろうか。家族の誰もが驚いていた。僕だって驚いた。カラ松が目を輝かせて将来の夢について話すのを聞きいてはいたけれど、でも、だって、本当にその夢が叶うとは思わなかった! 晴天の霹靂である。
僕は怖かった。 カラ松の夢が叶ったことは喜ばしいことだったけれど、よりにもよってパイロットとは。危険な職業じゃないかと思う。そりゃ、何もカラ松だけじゃない、何百人もの乗客を乗せてのフライトは十分に安全性が確立されてるんだろうけど、でも万が一事故が起きないとも限らない。だいたいどうしてあんな鉄の塊が空を飛ぶんだ。わけがわからない。高校時代まともに勉強してことなかった僕には���理学がわからない! 自分の理解が及ばないものにカラ松が命を預けていると思うだけで吐き気がした。それに、飛行機事故とはほとんどイコールで死を意味するものだ。怖い。カラ松が少しでも死ぬ危険性のある仕事に��くこと自体が怖くて仕方なかった。 青空に飛び立てる素晴らしい職業だ! そう言ってカラ松はほんとうに嬉しそうに笑った。でもやっぱり、どんなにカラ松が安心を湛えた笑みで微笑もうとも僕は怖かった。青空に飛び立ったままカラ松が帰ってこなくなるんじゃないかって、そう、思ったら……。 そして僕は、死ぬ気で勉強した。本当に死に物狂いだった。パイロットという栄誉ある職業に就いたカラ松の隣に立つのは今更無理な話だったけれど、でも、それでも僕は少しでもカラ松の近くにいたかった。彼をつなぎとめておきたかった。この世界に。あるいは、僕のそばに。 そうして僕は飛行機の整備士になったのだ。 誰よりも丁寧に、正確に、完璧に、僕は仕事をこなした。でもそれは真面目な性格をしてるからじゃない。少しでも、カラ松を守りたかったのだ。カラ松を、自分が守っているという安心感が欲しかったのだ! それじゃあ、そろそろ時間だから。カラ松が僕に微笑みかける。僕は、いかないでという言葉をゴクンと飲み込んで、いつもと全く同じセリフを返した。「いってらっしゃい」 そうしてカラ松は、徐々に僕から遠ざかっていく。青空へと向かって歩いていくカラ松の凛々しい後ろ姿に向かって、僕は、ほとんど祈るような気持ちで、ぜったいにかえってきてね、とつぶやいた。
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ぼくはその心ごと守りたいと思うよ
ジェイ、と名前を呼ばれる。名前を呼んだ彼を見ると、彼はぼくに向かって笑みを浮かべ、思いっきり両手を広げてみせた。 ぼくはそれが何を意味するかを知っている。座った態勢のまま彼を抱き上げてぼくの膝に乗せてやると、彼は正解だとばかりに上機嫌そうに笑った。 まだ成長途上の幼い体躯。ぼくは自分の正確な年齢は知らないけれど、たぶん彼はぼくより10は幼いだろうと思う。 彼の名前はカラ松と言う。ぼくのご主人様だ。 ある日ぼくはカラ松に拾われた。ぼくがカラ松の屋敷に忍び込んだところ、あっさりとぼくを発見した彼は、明らかに侵入者であるぼくに向かってなんとこう言ったのだ。「お前強そうだな。それに暇そうだ。……なぁ、だったらオレを守ってくれないか?」 素性の知れない侵入者に向かってそんなことを言ってのけた幼いカラ松に、ぼくは、うっかり興味が湧いてしまった。それ以来ぼくはカラ松を守るためにずっと彼の傍にいる。 彼は孤独だった。ぼくと同じように。幼いカラ松は、しかしとても『頭がよかった』。あまりに良すぎるほどに。だから両親からも不気味だと忌み嫌われ、こんな辺鄙な田舎の屋敷にひとりで住んでいるのだ、と。カラ松は自らそう語った。この話をしながら、彼は「かなしくはないんだ」とも言った。 「異質なものが自分たちの輪に入ってくるのは、こわいだろう? だからオレは、そこにいちゃいけなかったんだ。しょうがなかったのさ」と、そう喋るカラ松の顔は確かに悲しそうではなかったけれど、しかし、ひどく寂しそうであった。 彼の寂しそうな顔を見た瞬間、嗚呼ぼくは一生この人の傍にいるんだろうな、と悟った。使命感に似た何に、身体中が犯されていくのを感じ、ぼくはそれを受け入れた。ぼくは彼を、ひとりにはしない。 彼の背に手を回して抱きすくめると、彼はくすぐったそうに笑い声をあげた。 「ジェイは、無口だし無愛想だけど、でもオレを抱きしめてるときと、セックスのときはとびっきり優しいよな」 「……」 力いっぱい抱きしめるとアンタが壊れそうで怖いからだ、と思ったけれど、口には出さない。まだ幼い彼の体躯は、ぼくの腕の中にすっぽり収まってしまう。ひとまわりもふたまわりも幼い体を、優しく扱う以外どうしろと言うのだ。 アタマを撫でてくれ、と彼が言ってきた。ぼくは言われた通りにアタマを撫でる。この小さな頭蓋の中に、彼を孤独にさせるほどの脳が詰まっているのかと思うと、なんだか不思議な気持ちになった。 この脳がなければ、彼は人に囲まれ、孤独を知らずにしあわせに生きれたのだろうか。そう思うと、いっそグシャグシャに潰してしまいたいとぼくの凶暴な感情が暴れた。 この脳が、なければ―― 「ジェイ」 「!」 しかしぼくの凶暴な感情は、彼の優しい声に塗りつぶされて、パタリと消える。 「ジェイ。オレは確かにひとりだけど、ひとりになったのはこの頭のせいだけど、でもこの頭がこあったからこそオレはお前と逢えたんだ」 オレは、今がしあわせだよ、お前がいてくれるから。だからどこにも行かないで、ジェイ……。 彼はあまりに頭が良くて、その小さい体に似合わずいっそアンバランスなほどに大人っぽい思考をしているけれど、でもたまに、今のように年相応な顔を見せる。 ひとりはさみしい。そう言ってハラハラと涙を流す彼の目元を、ぼくは指先で拭った。 ぼくは、どこにもいかない。 この腕の中で震えるきみを残して、どこにも行かない。永遠にきみの傍にいて、きみを守る。 「からまつ」 「!」 ぱっと彼が顔をあげた。涙で濡れた瞳がキラキラしている。 「ぼくは、アンタをひとりにしないよ」 「……うん!!」 濡れた涙もキレイだけど、でもやっぱり笑っている顔の方が似合うなぁと思った。
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オレのはじめてはほとんど全部あげられるぜ
「なぁジェイ」 「……」 「ジェイは大人だから自慰してるんだよな?」 「……、…………まぁ」 何言ってんだこのガキ、と口をついて罵りそうになったけれど持ち前の無口さを発揮してなんとかその暴言を吐かずに飲み込むことに成功した。表情が歪んでしまったけれどそれは仮面の下に隠れたので概ね無問題だ。しかし気持ちは全くもってそのままであり、本当何言ってんだこのガキ、である。……。まぁ。そういうのに興味があるお年頃なのかもしれない、と思うが、その質問はなんなんだ、とも思う。 一般的な大人というものをそこまで知っているわけじゃないが、きっとぼくの主人――ことカラ松――は、ぼくよりもずっと幼いけれど、そこら辺の大人よりもずっと賢い。 だから性知識もそれなりにあるのだろう。興味が出てくるのもわかる。ただまだ、体の成長が追いつかないだけで。 いやしかしそう考えても、何故ぼくに自慰してるのかと聞いたのだ。わけがわからない。 「オレの体はまだちっちゃいから精通を迎えてないんだが、」 うん、まぁ。そうだろうね。 「でもな、たぶんそろそろだと思うんだ」 ……。なんでわかるんだ。 「だから、はじめてを迎える前に練習したくて」 「……」 「なぁジェイ、いつもしてるのと同じようにオレにもしてくれないか?」 何を、と聞く勇気もなくぼくは黙ってその場を立ち去ろうとしたけれど、そんなぼくの行為はお見通しだとでもいうようにカラ松はぼくが去るよりも素早くぼくのエプロンの裾を掴んだ。 「オレはまだ幼くて可愛い子供だろう? 自分の性器だってな、トイレとお風呂の時以外じゃ触ったことがない」 なんの話をしてるんだなんの。やめろ。ガキだろうともっと恥じらいを持て。 「オレが子供ということは、まだ経験が少ないってことだ。まだ経験してないことがたくさんある。……だからな、ジェイ。オレの『はじめて』はほとんどお前にあげられるんだぜ」 「……」 「……もらってくれるか?」 こういう。こういうところで、命令しないところが心底あざといと思う。そしてコイツは、自分があざといということをわかっていながらこういうことをしている。なんたって賢い。自分の姿がぼくにどう見えるのか計算してやってる。あーやだ。ほんとやだ。全く、これだから頭脳があるやつは……。 「おれはお前にもらって欲しいんだ。おれのはじめて、全部」 「……」 「なぁ、ジェイ」 「……」 甘えたな声もお手の物だ。……ぼくがこういうのに弱いのにわかりきった行動である。ほんっとあざとい。 ぼくはあざとくお願いしてくるカラ松に何も答えないまま、彼を小脇に抱えて歩き出した。
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ふれる かんじる
いとしい気配が夜の帷とともに近づいてきた。まるで音のない世界の住人みたいにジェイは静かに現れる。 今宵もジェイは、夜の闇から溶け出て音もなくひっそり現れた。しろいマスクの奥の瞳がおれを捉えてキラリと光る。 おれは手を伸ばした。 手は払われることなく、ジェイに触れた。爪の先がマスクに当たってカツン、と控えめな音が鳴る。 ジェイの口元に空いているちいさな穴に指を当ててみると、指先に、ジェイの吐息を感じた。 「ジェイ」 名を呼ぶと、ジェイはベットに乗り上げてきて、おれのそばに座り込んだ。おれはふとんの中から抜け出す。ジェイの方へ���寄ると、ひょいと体を持ち上げられて、彼の膝の上に乗せられた。 「ジェイ」 もう一度名を呼ぶと、ジェイはマスクを外した。月明かりも届かない暗いへやでジェイの素顔があらわになる。 決まりごとみたいに、ジェイは真っ暗なへやでしかマスクを取ってくれない。でもマスクを外しても、暗いのだから当然ジェイの顔はよく見えない。 ジェイの顔をもっとよく見たいと思う……けれど。 でも、よく見えなくても、いい。 マスクを外すことを極端に嫌うジェイが、おれの前ではマスクを外してくれるというその事実が、おれにとってはすっごく嬉しいのだから。だから、それだけで十分なのだ。 「……」 ジェイの長い腕がおれの体にまわった。 ピタリと密着する体。さらにジェイのくちびるが、おれのほっぺたをはむりと食んだ。彼のくちびるが触れたほっぺたがこそばゆくなる。 おれは。ほっぺたで、ジェイのくちびるの動きを感じ取る。 『まだねてないの。もう、まよなかだよ』 「ジェイを待ってたんだ」 『ねむい?』 「まだ眠くないぜ!」 ジェイは声が出ないのだ。理由はしらない。おれがはじめてジェイに会ったとき既に彼の声はこの世界から失われてしまっていた。 だからジェイと話すときは、彼のくちびるの動きを感じて言葉をきく。ジェイは夜しか仮面を外してくれないのでおれがジェイと会話できる時間は限られている。おれは1日のなかでこの時間がいちばん好きだ。 さっきまでは全然眠くなかったのに、でもジェイの体温があったかくておれは体がポカポカしてきた。ジェイに抱きしめられるとおれはとても安心する。 『きみの、』 まどろみかけたところ、ジェイのくちびるが動くのを感じた。 「……うん?」 『きみの、うたがききたい』 「! おーけーだぜ!」 ふわりとおりてきた眠気がパッとと飛んだ。おれはうれしく思いながらジェイの耳元に自分のくちびるを寄せる。 おれはうたうのが好きだ。だって楽しい! でもうたう以上に、うたを聞いてもらうのが好き。だからおれはジェイに今みたいに言われると、すごくすごく嬉しいのだ! 屋敷のみんなが寝静まった真夜中。ジェイの耳元で、おれはそっとお気に入りのうたを囁いた。
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早く巣に帰ってくれよ
懐かぬ猫に居つかれて、俺はほとほと困っていた。 裏路地で行き倒れているところを拾ってやったら、すっかりと俺の寝床に居ついてしまったのだ。これが愛嬌のある性格をしていればまだ可愛げがあるものの、そいつの性格といえばかなりの偏屈者で、気分屋だ。腹が減ると機嫌が悪くなるし、そうでなくとも情緒不安定なところがあって感情の起伏がそれなりに激しい。俺に懐いているかといえばしかしそうではなく、じゃあなんで俺の家に居るんだ、と聞いてみてもやる気のない目で見つめ返されるばかりだ。本当なんで俺の家に居ついたのか謎である。早く巣に帰ってほしい。 俺は、街場に小さな劇場を構えるそれなりに人気のある劇団に所属している一介の役者で、名をカラ松という。最近になって舞台に立てるようになり、以前にも増してやる気が満ちてきたところだった。朝から夜まで稽古をこなし、家に寝に帰るという毎日である。 一人で暮らしていた頃は家に帰り「ただいま」と言っても挨拶を返してくれる者はいなかった。が、いまは。 「……ただいま」 「おかえり」 と、返事をしてくれる者がいる。この返事を聞いた瞬間だけは、家に誰かがいる生活も悪くないと思ってしまう。 猫とは比喩であり、俺が拾ったのは猫のような小動物的かわいさを露ほどにも持ち合わせていない俺と同い年の男だった。この男はかわいさなどないが、ゆるく癖のついたボサボサの髪や、丸まった背中、それと気まぐれな性格などが、どこか猫を思わせる。男の名は一松と言った。 一松は、自分は物書きをしていると自己紹介した。それなりに名のある同人誌に寄稿したりしている、と言って、自分はそこまで怪しい者じゃないと主張してきた。俺は文学の世界には暗く、彼のことは全く知らなかったのだが、しかし少しばかり名があるからといって怪しくないという彼の主張を鵜呑みにするのは軽率だと判断した。身元もしれぬどころか、なんと彼は住所を持たないという。そんな男を信用できるわけがあるか。彼の言い訳は、家賃を払えずに追い出されたということらしいが……。 「カラ松。腹減った」 「知るか。自分でどっかに食べに行けばいいだろ」 「俺ァ今金がねぇんだよ」 「金を持ってるときがあるのか、お前」 「原稿料が入りゃ、飯くらいは食える」 ちょっとムっとしたように彼は言う。「じゃあ次原稿料が入ったら出て行ってくれ」と突き放すように返事をしたら、彼は嫌そうな顔をして、押し黙った。 俺は稽古帰りで疲れているし、お腹が空いていた。夕飯を作ろうと思って台所へ向かうと、のそのそと彼が付いてくる。何しに来たんだ、とばかりに彼を見遣ると、彼は「……俺の分も」と言ってきた。 「お前に金入ったらきっちり食費とかもらうからな」 「……。カラ松、その件について提案がある」 「なんだ。聞いてやらなくもないぞ」 「何やら巷では衆道ものが流行っているらしい。つまり金になるってことだ。まァ俺もそういったものを書いてみてもいいと思っている」 「……それで」 「一儲けしてやるから、ちょっと試してみないか? 悪いようにはしねぇから、俺に体を預けてみ――」 「殺すぞ」 手に持った包丁を彼に突きつけると、彼は不服そうに唇を尖らせた。
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お口の中あっついね
朝からカラ松に微熱があった。 俺は朝居間でカラ松を見た瞬間に、あ、コイツ熱があるな、とわかったが、しかし他の兄弟は誰もカラ松の熱に気づかないようで、いやそれどころかむしろ本人すら自分の熱に気づいていない様子であった。 だから俺は他の兄弟がみな外へ出っ払うと、自分も出かけるべく二階で一人パーフェクトファッションとやらに着替えようとしていたカラ松を捕まえた。捕まえたとはつまり言葉通りの意味で、首根っこを掴んで捕らえたのだった。 そして今。カラ松は俺に首を掴まれ戦々恐々としている。 「い、一松……?」 中途半端に服を脱いだままのカラ松は、首を掴まれ顔を強張らせて、俺を見つめる。いつもの怯えた瞳。しかしいつも以上にキラキラとしている。 瞳がキラキラしているのは目に涙が張っているという訳��、それはつまり熱があることの証明に他ならない。 俺の様子を伺うように動きを止めたカラ松をいいことに、俺はパーカーのポケットの中に忍ばせて持ってきた体温計を、彼の口に突っ込んだ。 「ほぇ!?」 カラ松は目を見開いて驚くが、しかしすぐにそれが何かわかったのか、ん? と、首を傾げて見せた。 「アンタさ、熱あるでしょ」 ピピッ。俺が言うと同時に体温計が鳴った。俺たちが子供の頃は水銀の体温計で、熱を測るのにもすごい時間がかかったものだが、最近の体温計はすごい。熱を測るのなんて一瞬である。……余談ではあるがこの体温計は俺の私物だ。いつかカラ松の尻に突っ込んで直腸の温度を測ってみようと思って買ったものだった。 そんな話はさておき。カラ松の口から温度計を引き抜く。37度4分。まぁ微熱の範囲だろう。 「え、本当だ……」 カラ松が俺の手の中の体温計を覗き見て、少し驚いた様子でつぶやいた。マジで自分で気づいてなかったのかよ、と俺は驚きというよりも引き気味な感想を抱く。恐ろしく鈍感なカラ松は体の変化にまで鈍感だとでもいうのか。……。いやうそだろ。セックスの最中はあんなに敏感なのに。 「一松、よくわかったな」 そんな不埒な俺の考えなんてつゆ知らず、カラ松が呑気な声を出す。 「まぁね。……カラ松ガールとやらに風邪移しちゃいけないでしょ? 今日は家に居なよ。俺が看病してやるよ」 「俺だけでなくカラ松ガールのことまで気にかけてくれるのか!? 一松はなんて気が効くいい子なんだ! 流石俺のブラザーだ!!」 この俺が看病してやると言っていることに疑問を抱かないあたり、流石カラ松と言ったところである。 この鈍感オブザ鈍感のおにぃちゃんは、一体いつになったら俺の下心を見抜けるようになるのだろうか。……。一生ならなそう。
***
「ンむッ!?」 「ほら、唇開いて」 「んーー!」 「いやいやしたってもう遅いよおにぃちゃん」 体温の上昇に伴って熱を持った唇に、俺のちんこの先を当てがった。既に勃起して硬くなった棒でグリグリとカラ松の唇を押す。敏感な先っぽにカラ松のフニフニした滑らかな唇が触れて、気持ちいい。 カラ松を無理やり布団に潜り込ませ、そのついでに今朝十四松の素振りに付き合ったときのロープでカラ松の腕を後ろで縛った。そして抵抗出来ないカラ松を襲っている。 ……するする。看病もちゃんとする、けど、ちょっと看病代を先に貰おうと思っただけただ。 カラ松は熱で煌めく瞳で、若干俺を睨む。普段カラ松に睨まれることなんて皆無なので、最高に興奮する。ソレ逆効果ですよおにぃちゃん。 でろ、と、先走りの液がカラ松の唇を濡らす。カラ松がちょっと嫌そうに眉を顰めた。 「ほら咥えて」 「……ンッッ」 「あー嫌がるおにぃちゃんかわいー。……やべー出そう。顔赤くして嫌々してるおにぃちゃんの顔に思いっきりぶっかけるのもいーね」 「! っ、……、…………、む」 「アンタほんと顔射嫌いだよね」 顔にかけると言った瞬間カラ松は嫌そうな顔をしたまま、むにゅ、と俺のちんこを咥えた。 あつい、というのが第一の感想である。 いや本当にすごいあつい。普段もあついと思うけど、今日は熱があるから更にあつい。 カラ松は口に咥えたまま動こうとも舐めようともしない。カラ松なりの可愛い可愛い反抗である。死ぬほど可愛い。 そんなことしたら俺にちんこ喉元まで突っ込まれるのわかってるくせに。それで毎回涙目になるのは、お前だろ。ばかめ。 「舐めてよおにぃちゃん」 「……、」 「嫌なら、まあ、いいけど?」 わざと優しい手つきで頭を撫でてやると、不穏な空気を感じたのか、カラ松はチロと俺のちんこに舌を絡めはじめた。 カラ松のあつい舌が緩慢な動きでぬるぬる動く。 いつまで経ってもカラ松の口淫は稚拙だ、と思う。他の人にされたことはないが、決して上手くはないはずだ。テメェだって男なんだから、どこをどうされれば気持ち良いかわかるはずだろ、と思うのだが、しかし頭の弱いカラ松のことだ、目の前のことに精一杯でそこまで考えが至らないのだろう。あー……うん、かわいい。 無意識なのかなんなのか、こういうときカラ松の唇はもにゅもにゅと動く。まるで赤ん坊が乳を吸うときみたいに、唇を窄めてちゅぱちゅぱとじゃぶるのだ。その唇の動きも大概稚拙なのだが、モゾモゾとしたその微妙な感覚が、もどかしくて逆に気持ち良いような気もする。 れろり、れろり。ちゅぱ。 おいテメェ人を射精させる気あんのかと言いたくなるような舌遣いである。 いつもならばこの稚拙な……いや、幼稚なカラ松の動きを楽しむのだが、今日はちょっと、もういい。 「にぃさん、動いていい?」 「!? ん、ん!!」 「首横に振っても無理。ごめんねおにぃちゃん。……絶対歯ァ立てんなよ、あと吐かないで」 「んーー!!!」 後生だとばかりにカラ松が涙を溜めた目で俺に哀願してきたけれど、しかしやめてやる選択肢など微塵も頭に浮かばなかった。 あついカラ松の口内。熱は身体の中心から沸き起こってるはずで、ならば口の中よりも、もっと奥、喉元の方があついはずである。俺はさらなるカラ松の熱が欲しくて、つい、たまらなくなった。 カラ松の喉奥深くにちんこを突き入れる。 喉の奥がきゅっと締まって、異物を吐き出そうとカラ松が生理的にえずいたのを感じた。吐き出そうとして口内が狭まり、締め付けられる。 「ゃ、……」 苦しそうにカラ松が呻く。荒い鼻息がちんこの根元をかすめる。くすぐったい。 苦しさで顔を赤くして涙目になったカラ松の顔はかなり好みの部類である。加虐心が唆られて、甘い菓子を欲しがる子供のように、もっと、もっと、と限りなく純粋な感情が沸き起こってくるのだ。 カラ松の口内を擦る。上顎と舌がとびっきりあつい。はァ、とそっと吐き出される吐息も病魔の熱を孕んでいる。 うぇ、ぇ……。と、カラ松の喉が震える。 その微かな動きがちんこの先に伝わって、ピリっとした快楽を生む。気持ちよくて、俺は、さらにカラ松の喉をグリグリといじめてやった。 「ん、ふ……、」 吐かないように必死になっているカラ松。御自慢の太い眉を悩ましげに歪ませて、気持ち悪さを押し殺しているその表情。 最ッ高に俺好みである! 「喉の奥のさ、食道に直接精液流し込んでやるよ」 「!? ん!」 「はァいおにいちゃん、喉開いてね〜」 「ンンーッ!」 腰を振るまでもない。カラ松の声による振動を感じた瞬間、俺は強い射精感を感じた。そして。 カラ松の喉の一際奥に。 ちんこの先をねじ込んで、精を吐き出した。 「……っ、ふ」 カラ松の喉がごくんとなった。きゅ、と締め付けられる。膣収縮かよ、と思って、俺は恍惚とした気分になった。カラ松に精液を絞られるなんてどう考えても最高すぎる。 ボロリ。ついにカラ松の目から涙がこぼれた。苦しそうにしながらも、しかしカラ松は俺が射精している間一度もえづかなかった。頑張って、懸命に、必死に俺の精液を飲み下す。あァ〜さいこう……。 カラ松の口から萎えたちんこを引き抜く。カラ松の口内と部屋の温度差がひどい。カラ松の唾液が一瞬で冷え、ちんこの先からひえを感じた。 ふるり、と身震いする。 そんな俺をカラ松が睨んだ。 「なに反抗的な目してんの。かわいいー。また勃ちそう」 「!? も、もう無理だ!」 「冗談だよ」 「お、お前の冗談は冗談に聞こえないぞ!」 「まぁ9割くらいは冗談じゃないし」 「!!?」 さっきまでは真っ赤だったカラ松の顔がサッと青ざめた。こういうところを見ると、カラ松はなかなかに表情豊かだと思う。いつものカッコつけるためのドヤ顔なんてやめて、素のままの感情豊かなカラ松でいればいいのに。 閑話休題。 未だ俺を睨んだまま、苦かった……と文句を言ってくるカラ松に、あらかじめ用意しておいたポットボトルのキャップを外して傾けてやった。カラ松は中身の水をコクリ、コクリとおとなしく飲んだ。 「……」 「なに」 「……おまえの、そういうやさしいところは、すきだ」 カラ松がふにゃ、と表情を崩した。 おいおい水飲ませてやっただけで機嫌なおすとか流石にチョロすぎだろしっかりしろよお前、と脳内で突っ込みを入れながら、今度こそ看病するためにカラ松の服を引き剥がした。
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まどろみの世界
俯せの状態であっても腰にジンワリとした気怠さと重さを感じる。そんな倦怠感に仄かな幸せを感じながら俺は腕をついて上半身を軽く起こし、カラ松の顔を見つめた。俺の隣で横になっているカラ松はウトウトとしているが、しかし意識は落ちていないらしい、眠そうな瞳で天井を見つめては、時折のんびりとした様子で瞬きをしている。 情事の汗でしとりと濡れたカラ松の髪を梳いた。するとカラ松はゆるりとこちらを向いて、いちまつ、と俺の名前を囁くように呟いた。彼の声は嗄れ、低く掠れている。しかしその声は砂糖を溶かし込んだハチミツのように甘いのだった。 情事が色濃く後引いている、俺しか知らないカラ松の声である。 「疲れた? もう寝ていいよ」 「……いちまつ」 「うん」 「いちまつ」 覚えたての言葉を繰り返す雛鳥のようにカラ松は何度も俺の名前を呼ぶ。その度に俺は「なに」と返したが、しかし返ってくる言葉は「いちまつ」の一言のみである。 だから俺はカラ松の好きなように、好きなだけ名前を呼ばせてやった。心地よい疲れと眠さでぼんやりする脳にカラ松の声が染み入るように這入ってきて、俺の思考をさらにグズグズに溶かす。繰り返される呼びかけに先ほどのカラ松の痴態が脳裏をよぎった。思考に釣られるように体も快楽を思い出してお腹のあたりがほんのり熱くなる。 しばらくそうやって情事のセックスの余韻に浸っていると、やがてカラ松の声はやんだ。そして今度は彼の白い腕がぬぅっと布団の中からこちらへ伸びてくる。 カラ松の指先が、俺の頬をかすめた。 「……くすぐったいよ」 「ふふ」 カラ松は可笑しそうに笑って、さらに俺の頬をなぞる。触れるか触れないかの距離。肌がゾワゾワとした。 カラ松の指先が遊ぶように俺の頬を触り、そののち、そして次は手のひらを頬にピタリとくっつけてきた。手のひらからカラ松の体温が伝わってくる。眠いからなのか、カラ松の手の温度は常時よりも幾分か高い。 わざと甘えるようにその手に頬を擦り付けてみると、カラ松はクスクスと笑って、のほほんと「一松、猫みたいだなぁ」と言った。 「何言ってるの。ネコはアンタでしょ」 「ん? ……あ、いやそういう意味じゃなくて」 「さっきまで可愛くにゃあって鳴いてた」 「にゃあとは言ってないぞ……!」 本人は言ったつもりはないのだろうが、カラ松の「いや」に喘ぎが混ざると「にゃあ」と聞こえるのだ。その発音は、艶やかな声に混じってひどく拙く聞こえ、可愛らしい。 先ほどの情事を思い出せば思い出すほど、アァ、と思う。カラ松の声が足りない。もっと、カラ松の声が聞き��い。 「ね、俺もっとアンタの声が聞きたい」 「ん……子守唄でも歌おうか?」 「ちがう。もっと甘くて気持ちよさそうで、えっちなの」 「……、だって、ホラ、ここ壁薄いだろ」 「そうだね」 風が吹けば潰れてしまいそうなくらいに見た目がボロいこのア���ートはその見た目に違わず壁も薄いのだ。大声は出せない。わかっている。 けれど。 ……いや、だから。 「今日、夜ホテルいこ」 「えっ今日?」 「うん。……なに、ヤなの?」 「いやなわけない……けど、おまえ元気だな?」 「まぁ。俺はアンタがそばにいるだけでいつでも元気だよ」 「……じゃあもし今俺がもう一回って言ったら?」 もちろん。と、答える代わりに、俺はカラ松の方に身を寄せ、髪を触っていた手を下に滑らせて彼の肌を撫でた。 情事の余韻を引くカラ松の体。月明かりに照らされて、ほんのりと色づいた肌が艶めかしい。 今しがたのカラ松の指と同じように、彼の頬を遊ぶように撫で、それからあご、首筋、鎖骨……カラ松の些か汗ばんだ肌を、その触り心地を、または彼の体温を確かめるように触れる。これまでに何度も何度も、何度だって撫でてきた肌だ。しとりと俺の手に吸い付くようなこの手触りが、俺は大好きである。 淡い桜の花弁を貼り付けたような色の胸の頂を、指の腹でナデナデと撫で付けた。 「は、ァ……ん、……一松、待って、もう一回っていうのは、嘘。ごめん、おれ、もうねむい、です」 「わかってるよ。ちょっと遊んでるだけ」 「体あっつくなっちゃうから、これ以上は……」 むずがるように体を捩るカラ松。俺は布団に潜り込んで、後ろからカラ松を抱き込んだ。熱っぽい吐息とともに待って、とか細い声を上げる彼の言葉を聞こえないフリをして、胸への愛撫をつづける。 続きは今日の夜に、な。とあやすような声でカラ松が言ってくるまで、俺は延々とカラ松の身体を撫で続けたのだった。 こうして今日も、幸せな夜が更ける……。
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