genparo
Beautiful world
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永遠に続く終わりない夢を
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genparo · 3 years ago
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可愛いあの子は嘘が下手
女の子って可愛いと思う。だから俺はそれを口に出して可愛いねって言う。そうすると女の子は恥ずかしそうにしたり、嬉しそうにするから、そういうのがまた可愛くって俺はさらに可愛いと言う。だけどそうしている内に女の子はだんだん疑心暗鬼になってきて、本当にそう思ってるの?、どうせ誰にでも言ってるんでしょって言うようになる。最初はちゃんと笑っていたのに、女の子の顔はだんだんウンザリしたものに変わっていく。俺には彼女たちがどうしてそうなってしまうかわからない。いや嘘、ホントはわかる。俺があまりに可愛い可愛いって言うから、彼女たちの中でその言葉が持つ真実味みたいなものがコピペされ、劣化し、形骸化してしまうからだ。だから俺が言うその1回1回なんかはほとんど意味をなさなくなって、それがどうやら彼女たちを不安にさせるみたいだ。「言葉はもっと大切に、慎重に使ったほうがいいよ」と彼女たちの1人が俺に���ってきたことがあるけれども、言葉なんて所詮人間が使う道具の1つなんだから、たくさん使ってなんぼじゃあないかって思う。そもそも彼女たちを可愛いって言うのはただの俺のインスタントな感想なのであって、やっぱりその場においては本気でそう思っているし、同時に今後10年続くような大きな意味もない。だから意味を磨耗してしまっているには他ならない彼女たち自身なのだ。 そんなわけで疲れた俺は可愛い女の子と言葉のいらないコミュニケーションを求めている。『彼女』はそれをするのに持ってこいの相手で、余計なことを言わないし、求めない。そして勿論言わせない。多分根が真面目なんだろうなあ〜って感じでシャワーの時はいつも俺のお腹あたりを見てキョドキョドするのに、その後俺をしっかり抜いてくれる。まあ本当のところは一つもイってないんだろうけどちゃんとイったように振る舞ってくれもする。職業に貴賎なしだなんて、なんだかにわかには信じられない言葉があるけれど、彼女を見ていると、それってもしかして本当なんじゃ?思えてくる。きっちりとした仕事はいい。他の人はなんていうか知らないけれど、俺はすき。俺はまるででかいシアターでゴージャスなオペラを見たみたいに満足してベッドの上に横たわる。どうやらまだもう少し時間があって、頑張ればもう一回出来なくもないかもしれないけれど、もういいやーって俺はベッドの端に腰掛けている彼女の腰に抱きつく。柔らかい体。そうだと思いついて俺は彼女の脇腹を舐める。すると彼女は「ひゃぃ」と赤ちゃんみたいな声を出すもんだから、俺はいつもの調子で「かーわい♡」と口にしてしまう。 俺を見下ろす彼女の顔は無表情だった。 おやおやと思って俺は体を起こし、彼女の背中を包み込むように後ろから抱きしめて、耳元で言う。「可愛いって言われるの、嫌い?」彼女はその行為自体に反応して、「んん」と体を捩ったけど、その後に出て声は彼女の無表情と同じくらい冷めきっていて、俺は少しどきりとする。「なんとも思わない」「そうなの?言われ慣れてるから」「そういうわけじゃない、ただ何とも思わないだけ」「たいていの女の子は喜んでくれるんだけどな〜」俺は彼女の耳の中にこっそり舌を忍ばせる。「やあ…め、ん…そりゃあなたがそう言えばみんな喜ぶでしょうよ」「君は?」「何とも思わない」「どうして?」俺は彼女の耳たぶを噛み、後ろから手を回して彼女の下唇を親指で撫でる。「言葉には何の力もないから」「ふうん?意外だね。君ってそう言うの信じてるほうかと思った」「信じてる時期もあったけど、今はそうは思わない。そこにあるのは言葉��け。それ以上のものはない」「言葉が信じられないってこと?」「そうじゃない。言葉は言葉でしかないってだけ。何かを間接的に示すだけ。扱い方が上手ければ何かに限りなく近づけるけれども、何か自体にはならない。だからあなたに可愛いって言われても、何とも思わない」「はは、なんだか簡単なことを言おうとして複雑にしているみたいだけど。そうだね、君の言う通りかもしれない」俺は彼女の体を弄るのやめて、彼女の前に周り跪くように腰を折ると、彼女の手を取ってキスをする。「君は可愛いよ。とっても」すると彼女は俺を見下ろし、薄く笑ってこう言った。「あなたも素敵よ。とってもね」それが彼女の本心かはわからないけれど、少なくとも俺の方は本心で、本当にそう思っているからそう言ってる。それが彼女にどれだけ通じてるかわからないけれど、彼女が言うように言葉は言葉でしかなく、そこに何の意味も力も持たないと言うのなら、俺の言った「可愛い」って言う言葉が、ただの言葉として彼女の中に沈澱すればいいと思う。だってそれって形骸化しなさそうだからさ。ね?
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genparo · 3 years ago
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神は天にいまし すべて世は事もなし
俺の故郷ではこんな風に寝転がっていたら朝には凍死体として発見されるようなもんだけど、ここは日本なのでまだまだ大丈夫。でも朝までここにいるのは勘弁かな。コンクリートの上、俺は立ち上がってここから去り、電車に乗ってバイト先にも顔を出したいところだけど、ちょっとはしゃぎすぎちゃったせいで俺は体を起こすことさえままならない。もちろん仕事自体はスマートにこなし、あたりには元人間が数体、ご機嫌に散らばってる。だけど多分俺の肋骨もぽっきりイカれてる。その証拠に息をするたびに鋭い痛みが走る。そのことが俺に、俺はまだ生きていることを実感する。そう、まだ生きている。 人間はこの世界に生まれ落ちた瞬間、二つのものを与��られる。体と命だ。これらは人間最古のリソースで、俺たちはこれらを少しずつ消費しながら生きている。長く細く大切に使う者もいれば、ガソリンをぶっかけて炎を焚べるようにごく短く輝いて消える者もいる。そして俺はどうやら後者の方で、毎日、まあ見る人から見ればまるで焼身自殺を行うかのように生きている。どうしてかって?さあ?でも俺の人生はある瞬間からそう定められてしまった。そして俺は死ぬまで変えることはできないだろう。それについて文句はない。なぜならば俺には宗教であり信仰であり、そして神がいるからだ。 神。この世に神などいない。神が如き人間はいらっしゃるけど、神はいない。いや違う、正確には祭壇画なんかに描かれるような人の形を持った神はいない。いるのは人間の頭の中に芽生える絶対不可侵、不可逆かつ不変的な思想だ。これが神だ。だから女皇様はあくまで神が如き人間でいらっしゃるけど、女皇様に対する志向的な観念やそのために取る手段は宗教であり信仰であり、そしてそこにこそ神が現れる。おそらくこの世の中で神に出会える人間などそう多くはないだろうけれども、神を間近に見たものは皆同じことを言うだろう。「ああ、神様。俺はあなたを裏切りません。生涯をかけてあなたに従い、この体と命を持ってあなたの世界を照らし続けましょう。ハレルヤ」 さて。 とはいえ俺とてここで生涯を終えたいわけではない。意地汚いかもしれないけれど俺はもうちょっと生きていたいし、もう少し楽しいことをしたい。俺は赤い靴を穿いているが如く、四肢が切り落とされない限りは死ぬまで踊り続ける運命だけど、でもたまには日の当たるところにも出てみたい。黄色い向日葵が一面に咲いている夏の、雲一つない青い空。憧憬。白い肌に黒いワンピース���着た、麦わら帽子の女の子。 まあ、このまま転がっていたとしても、ここの後片付けをしに来る人たちが俺を拾ってくれるだろうから最悪このままでもいいんだけど、じゃ〜仕事しますかってやってくる子たちに「うわ、この人なんでこんなところに転がってるの?」って思われながら、敬礼されるのも格好がつかない。だからなんとか立ち上がって、ここから出ていかなければならない。誰か俺にその気力をくれ。少しの間でいいから、俺のこの燃えカスみたいな体を支えてほしい。 俺はそういう定めかのようにポケットに入っていた電話取り出してとある番号にかける。コール、コール。相手はなかなかでない。何かの抵抗力が働いているのだろう。でもこういう時の俺はしつこい。相手が出るまでひたすらコールを続け、20数回でついに「もしもし…」という大層不機嫌そうな声を聴くことができた。勝った。俺はなるべく��るい声で言う。 「やっほ~元気?ねえもしかしてトイレでも行ってた?ごめんね~邪魔して。ところでさ~俺今日バイトも休みだしちょ~暇でさあ、時間持て余してるわけ、で、会いたいんだけど予約いれてくんない?」 すると彼女はぼそぼそと早口で言う。「お店に連絡してください」 しかし俺は負けじと声を張る。「え~でもそれって二度手間じゃない?君が入れて?」肺が痛い。「ね~頼むよ。この後俺、ちょっと電話できないからさあ。」意識が吹っ飛びそうになる。「そうだ、ほら、差��入れにさバイト先のピザ持って行ってあげるよ。出来立てのやつ。なんなら店長にサービスしてもらってちょっと具とか多めにしてもらうよ。はは、俺一応スタッフだからさ~ま、客からの差し入れなんて何入ってるかわかんなくて嫌だろうけど、よければ……」 「……食べる」 「え?」 彼女は言う。「食べる」 「はは」俺は笑う。「ねえそれってつまりOKってこと?」そして彼女に躊躇する暇を与えないように言葉を重ねる。「じゃあお願いね、時間はいつでもいいからさ。決まったらテキストして?そしたら俺、その時間に合わせてちょ~美味しいピザ持っていくからさ。ね、楽しみにしてて。じゃあね~ばいばい~」 電話を切る。静寂。俺はゆっくりと、静かに、なるべく肺を痛めつけないように息を吐く。よし、元気でた。俺はまだ生きてる。生きていける。そしてバイト先によって具沢山のピザを作ってもらって、あの不機嫌そうな声に届けて上げるんだ。そう俺は神をけして裏切らない、真面目で敬虔な信者なんだけど、俺の宗教じゃ女の子とエッチなことをするのも大いに許されている。ハレルヤ。
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genparo · 3 years ago
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My Mondstadt Girl
想像しよう。 彼女が普通にモンドの名家のお嬢様で、俺がまあ普通にファデュイの執行官で、それで何処かの、何かのパーティーでで会うんだ。豪華な装飾、着飾った人々、色とりどりにテーブルを彩る花や一流の料理たち。その中で彼女はつまらなそうに愛想笑いを浮かべて、何処かの知らないお坊ちゃんと踊ったりしていて、でも偶然ーなにかの劇のようにー熱帯魚の水槽越しに俺と目があって、少しはに噛むように笑って、それで俺は彼女を連れ去ることを決める。彼女が休憩しているところこっそり手を引いて、人で溢れかえるホールから連れ出して、月明かりで白く照らされるバルコニーの上で、俺は彼女の手にそっとキスをしてこう言う。「君と踊りたい」 そんなふうに俺たちは出会って、秘密の逢瀬を重ねていく。彼女の家、上階にある部屋の窓にある窓に小石をぶつけて、怪訝な顔で出てきた彼女に言う。「観劇に行こう!」彼女はシンプルだけど上品で可愛らしい服を来て、それを褒めると口を尖らせて、でも本当は嬉しそうに笑って、俺に手を引かれて劇場へ。俺が役者として出るやつで、俺を彼女に向かって真っ直ぐと歯に浮く愛のセリフを吐いてもいいけど、でもやっぱり彼女を一人で席に置いておくこともできなくて、結局は2人分の席を用意して、彼女と共に劇をみる。ロミオとジュリエット。立ち話が違うもの同士の、悲劇的な恋愛。俺も彼女もなんだかそれに影響を受けてしまって、彼女を家に送る帰り道、彼女は少し先を歩き、そして振り返って俺に言う。「今日は誘ってくれて、ありがとう」 「あの日私を見つけてくれて、ありがとう。少し動けば誰かの足を踏んでしまいそうなダンスホール、息が詰まりそうな中で振り返った時、そこに見えたのはあなたの姿だけだった」 俺は決める。ファデュイをやめて、彼女をモンドから連れ出して、どこか南の島に小さいけど風通しのいい家を買って、そこで彼女と暮らす。最初の年には犬を飼って、次の年には女の子が生まれて、そしてその次の次の年には男の子が生まれて、家は少し手狭になって、自分で増築なんかもしてみたりして、俺も彼女もこんがりと日焼けして、皺が増えてきた手を繋いで「パパとママはいつも仲良しだね」なんて子供たちに揶揄われながら、海に向かって落ちる大きな夕日を二人、眺める。 そんな、未来。 そう、そんな未来は来やしない。 彼女はもうモンドのお嬢様なんかじゃないし、俺もファデュイを辞められない。 きらびやかなパーティーも、月明かりのバルコニーも、ロマンティックな劇場も、暖かな南の島の小さな家も、そんなものは存在しない。 俺たちの周りにあるものは暗闇と寒さと、血と顔のない観客たちだけだ。 それが俺の選んだ運命だし、彼女が選ばざる終えなかった宿命だ。人は軽々しく運命を変えるなんて言うけれども、変えられるのであればそれは運命ではなかったのだろう。 変えられないものが運命だ。逃れられないのが宿命だ。 ああでも、それでも俺たち、踊ることはできるかな。 閉ざされた場所で、肌を射る冷気と裂かれた肉の熱気の中で、声なき声援ともに、足場のない舞台の上で。 俺は君と踊りたい。ねえ踊ろうよ。いつかこの世界が溶けて、消えてしまうまで。それはきっと、楽しいよ。
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genparo · 3 years ago
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在る女性について
日々の小さな積み重なりを日課と呼ぶ。途切れることはなく、かと言って強く意識することはなく、身に染みつく行為ないし意志、それが日課だ。というわけで、その時俺は日課である散歩をしていた。石畳を歩み、階段を上り、手すりに触れて、下を歩く人々を見る。せわしなく行き交う人々は皆なにか明確な目的を持ったような顔で各々の道を歩いていく。俺の、特に当てのない日々の日課とは逆を行く行動だ。人には必ず限りがあり、皆一様に終わりに向けて進んでいく。繰り返される昨日と変わりない日常の中で、その覆らない事実は大気が如く透明で、存在することを明確に認識することはどうやら難しいようだが、大気であるが故に誰の体にも、精神にも自然と息づいている。そしてまさにそれこそが彼らにあのような表情をもたらす。それを彼らは『生きる』と呼ぶ。俺は手すりの粗い表面を撫で、その様子を眺める。 ふと、雑踏の中によく見知った顔を見つけた。璃月ではやや珍しい色素の薄い髪に、絹のように白い肌、ガラス玉を空に透かしたような瞳。公子殿である。下に降り、声でもかけようかと思ったが、その隣に別の人物を認め、俺はその高台から離れるのを躊躇った。公子殿はその女性を伴って―いやどちらかと言えば、公子殿がその女性に伴っているのかもしれないが―人々の中に消えていった。 「いや待って?そこは話しかけてよ。なんでしたり顔で見送ってんの?というか最初の語りいる?」 後日何かの用のついでに往生堂に立ち寄った公子殿は、出された茶を前にして不満な顔を示した。俺は自分の茶を一口すすってから、答える。 「すでに言った通りだが、連れ立っている人がいたので声をかけるのを躊躇った。最初の語り……というのは日課に関することのだと思うが、どういう経緯で公子殿を見かけたか説明したほうが想像に容易くなると踏んだからだ」 「小説じゃあないんだからさ、そこは『この前街中で君を見かけたけど、話しかけなかった』でいいと思うよ?いや、話しかけてほしいけどね。なんだか寂しいじゃん。多分向こうも先生が話しかけてきても気にしないよ、多分」 「向こう、とは?」 「その『女性』って奴?」 「ああ」 俺はもう一度、公子殿とともにいた女性について想起してみる。 彼女も、この国では珍しい色の髪と肌と瞳の色を持っていた。璃月人ではないことは明らかであったが、おそらく公子殿と同郷人でもないだろう。彼女の色は、公子殿とは微細に違う色だ。これらから推測するに、彼女は公子殿の同��ではないと考えることができるが、その域は出ない。こういった場合、『普通』であれば相手に詳細を聞くものだろうか。それが野暮というものだろうか。俺は再度ややぬるくなった茶をすすり、口内に渋みを広げる。するとその中でふと、別の事柄が茶柱のように浮かびあがるのを感じた。 「話しかけなかった理由は他にもある」 同じく茶を飲んでいた公子殿は「へ?」と意表を突かれたような声を上げた。俺は茶器を置くと、腕を組んで、今しがた公子殿から言われたようにもっと簡易的にそれを表現できる言葉を探した。 「……『執着』をそこに見たからだ」 「どういうこと?」 「つまり……公子殿がその女性に『執着』しているように見えたから、俺は声をかけるのを憚った、ということだ」 空気が変わった。 基本的には快活で陽性を持つ公子殿であるが、時たま、研磨された鋭い氷のような面を垣間見える時がある。今がそれだ。笑顔こそ表面に張り付いているが、それがただの仮面でしかないことが認められる。俺はその、仮面の向こう側にある青く燃え盛る炎を静かに見返し、説明の言葉を重ねる。 「人はそういう時、他人から話しかけられることを忌諱するのでは?」 公子殿は茶器を置いた。そして下を向き、低く深く息を吐いた。 「先生さ」そしていつも通りの快活さと陽性を携えて、顔を上げた。「そうやってナチュラルに自分と人間を分けたような話し方、やめたほうがいいよ」 そう言って、公子殿は茶器に残った茶を一気に飲み干し、それから「へへ」と軽い笑い声をあげた。欺瞞、羞恥、憤懣、焦燥、様々な感情がそこに見て取れたが、追及することはしないほうがいいだろう。代わりに、人としての作法を教えてくれたことに対する言葉を述べることにする。 「気を付ける」
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genparo · 3 years ago
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Someday my prince will come
普通の女の子になりたかった。 髪をとかして、流行りの服を着て、ああ最近はケーキを食べすぎちゃったかしらだなんて、形だけ嘆いてみたりして、お友達とお出かけして、オープンテラスでお茶をして、道ゆく人を見てあの人カッコいいねとか、クスクス笑ってみたりして、そして私の理想の王子様はこんな人なのって夢を見てみたかった。 そんな生活、この世のどれだけの女の子が過ごしているのだろう。さあ、私にはわからないけれど、でも少なくとも私はそういう女の子ではなかった。暖かな5月の光が差すテラスからはほど遠い極寒のホワイトアウトの中に連れ去られ、私は自らの運命を悟った。 普通の女の子になりたかった。 「あ、起きた?」 蒸し暑さの中で目が覚めた。夢の世界との落差で頭にキンとした痛みが走り、私は額を押さえた。その時目に写った自分の腕が服を着ていることに気がついてようやく、あれ、私いつベッドに入った?と思った。 「おーい、だいじょうぶ?」 すぐ隣で声がした。顔を見なくてもわかる。私の同僚、上司?正確には保護観察者の男だ。男はベッドの隣にある椅子に、背もたれを前に向けて座っていた。 「タルタリヤ」私は言う。「ここどこ?」 「さあ、名前はわかんない。名もなき宿?旅人たちの憩いの場」 「私たちなんでここにいるの?」 「あれ、それ聞いちゃう?」タルタリヤは器用に背もたれの縁で頬杖をついて言った。「そりゃー君が炎の扱いとちって爆発に巻き込まれたからだろ〜?俺が天才的なタイミングでカバーしたって言うのに君はほら、あれだからさあんまり意味なくて。それでこのザマ。君は意識飛ばすし、メディック呼んでも意味ないし、だから一時的にここに運んだわけ〜いつまでもあそこにいても、事件揉み消し班の邪魔になるだけだしね。いやあ、君ってホント、めんどくさ」 私はため息を吐く。「じゃあめんどくさい私なんて他の人に任せて遊びにでも行けば?」その瞬間体に鋭い痛み。「あなたの大好きな先生のところでも、どこへでも」 「いやいや、君のことちゃんと監視してないと俺が怒られるんだよ。可哀想な君に対する俺の優しさ。そことんとこちゃんとわかってほしいなあ」 私は痛む体を押し切って、無言で中指を立てる。 するとタルタリヤは「お行儀悪いなあ」と楽しそうに笑った。 嫌な男だ。 私を監視し、利用し、こんな風に笑って私を揶揄い、「君ってホント可哀想だね」とこの世で一番嫌いなセリフを吐く男。 顔だけは良くて、能力も優れていて、純粋な力でいえば私よりも数段強い、嫌味な男。 ああ、嫌だ嫌だ。 嫌だ嫌だ嫌だ。 この男も。ヘマをした私も。夏の璃月の蒸し暑さも、服を着たまま寝た時の汗で蒸れた体も。夢の中の白さも。絶対に叶わない夢も。私のこの運命も。 どうして私だけ、こんな目に合わなきゃいけないの。 体の痛みのせいで私の思考はマイナス方向に進み、いつもなら押さえられるはずの、泥のような、烈火のような感情が吹き出してしまいそうになる。私は申し訳程度にかけられていた布団の端を掴み、体を蝕む痛みと心に掬う苦しみに耐えながら、唇を噛んで口内に血の味を広げる。そうしてなんとか冷静さのカケラを手に入れて、私はタルタリヤの方を向き、言う。 「嘘。私の代わりなんて本当は沢山いる。ええ、あなたは私を買ったお金の話をするでしょうけど、そんなものあなたの財力を持ってすれば、本当はなんてことないのでしょう?私は消���品。誰かの代わりで、代わり誰か。そんな私に執着するなんて、あなた本当にお馬鹿さんね。ファデュイの執行官が聞いて呆れるわ」 「はは、言うじゃん」 「そうね。だってあなた本当は10代の男の子みたいなんだもの。好きな子を虐めて気を引こうとしてるのね。可愛らしいこと。でもね、坊や、そんなことじゃ女の子は逃げていくだけよ。それに気がつくことをお勧めしますわ。偉大なる執行官、第十一位公子タルタリヤ様」 タルタリヤの顔から笑顔が消えた。 私は胸がすく思いをし、前を向いて今度は体を痛めないようにゆっくりと息を吐こうとした。その瞬間、「ハハハハハハハハ」とタルタリヤは爆発的な笑い声を上げ、顔押さえた。私は息を上手く吐くのに失敗し、体を痛ませ、そして思わず「う、」と声を上げてしまう。それを見たタルタリヤはまた笑い、それから目の端に浮き出た涙を拭いて、眉根を寄せた私に対して溌剌とした笑みを向けた。 「ああそうだね。君の言う通りだ。全く君って道具って割にはちゃんと頭があって本当に面白いよ。そんなものなければ、そんなふうに苦しむこともなかったのにね。可哀想に。だから俺は君を逃さないよ。たとえ天使が君を天国に攫っていこうとしても、俺が絶対に助け出してあげる。君はこの地獄で俺とダンスを踊り続けなくちゃいけないんだからさ」 そう言ってタルタリヤは、自分で言った言葉が心底可笑しいかのようにまた笑い出した。私はその異様な光景を息を続けることを忘れるほど、ただただ見ていることしかできなかった。 普通の女の子になりたかった。 普通に生きて、恋をして、日常のなんてことないことに不満を漏らしながら、でも大枠は幸せに、健やかに人生を送りたかった。 普通の女の子に生まれたかった。 でもそうじゃなかったから、私はただ自分の運命を呪い続けることしかできない。
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genparo · 3 years ago
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I Know The Girl
ある女を知っている。 見た目からして他の国から来た女だ。確かに色白かもしれないが、この国の女が持つ白亜の肌とは違う。詩的な表現をすれば少しだけ太陽の匂いがする。芯を突き刺すような雪ではなく、空を包括しながらも不安定そうな様相を見せる曇り空のような。ともすればすぐに崩れて土砂降りになってしまいそうな、そして結晶にはならず、液体のまま地面に沁み込んで、そして何事もなかったように地下に消えていくような、そんな感じだ。 実際、可哀そうな女だった。 生家に裏切られ、その身をしかも「兵器」として兵器として売られ、こんなところまで来てしまった。いや「裏切られた」という表現は適切ではないかもしれない。もともと彼女はそのようにして作られたのだから。彼女についての調査資料(おそらく彼女を買う���に作られたのだろう)を読めば読むほど、ある種の同情心が生まれてくる。ああなんて可哀そうに、そんな風になってしまって、ここは君のような繊細なお嬢ちゃんが来るような場所でもないのに。 七神の元素の力を全て吸収し無効化する能力。 一瞬、なんだそりゃと思うかもしれないが、これに関しては一見してみるほうが早い。文字通り、彼女には「何も効かない」。まるで何も起きていないかのように、何も起きなかったかのように。これには絶大な価値があった。仮に戦闘になった際、相手の属性を打ち消すことができるのももちろんなのだ���、俺としては物に対してかけられた元素効果を消し去ってしまうことこそが、最大かつ最強の利用価値のように思える。つまり他人がアレコレ頭をこねくりまわして作った元素によるロジックを、こんなものとあざ笑うかのように消してしまうのだ。解くわけでもなく、壊すわけでもなく、消す。それこそこの世界を作ったであろう神が、やっぱりやめたとこの世界を無に返してしまうかのように。まあこの世界の住人の一人である俺としてはそんなことが起���てしまうのはちょっと勘弁なわけだど、「神の側として」それを見ているのは大変気持ちがいい。なかったことにできるなんて、素晴らしいじゃないか。生きるたびに、生き残るたびに鉛玉がついた足かせのようなものが増えていく、俺たち人間としては羨ましい現象だ。 それでも彼女は彼女自身をなかったことにはできない。 存在も、記憶も、その能力も。 神といえど、そこは俺たちと同じ人間だ。 ああ、だから、偽神なのか。 全く可哀そうにね。 「タルタリヤ」今まさに一つ元素効果を無に帰した彼女が、自分の手を見たまま言った。「何?」 「いや?」不快さを隠さない彼女の横顔に俺は笑いかける。「相も変わらずだなあって」 それ以上彼女は何も言わなかった。 その沈黙は俺の中に加虐心を生んだ。 「相も変わらず『可哀そうだな』ってね」 殺気が走る。 怒りの炎を宿した彼女の瞳が、今すぐ俺を嚙みちぎらんとするばかりに俺を見た。 「やめて」彼女は努めて冷静に言った。「そう言われるの、本当に嫌い。反吐が出る」 「そうなの?女の子って可哀そうな自分を可愛がってほしいものじゃないの?」 「浅はかな考え。あなた、もしかしたら自分がモテるって思ってるかもしれないけれど、それってすごく局所的なものね」 「はは、ではこの浅はかかつ知識不足の俺が、君のその力を称賛したい時に言うべき言葉は何だろう?」 「『沈黙』」 「手厳しいね。俺はこんなに君に興味があるっていうのに」 「……あなた私以外の人にもそんな感じなの?呆れる。他の誰かになら好きにすればいいけど、私に関わらないで、私を知ろうとしないで。ちゃんと仕事はしてる、それ以上はいらないはずでしょう?あなたたち、私ではなくて、私の力を買ったのだから」 「ああ、その通りだ。それは否定できない。でもさ、俺は『可哀そうな女が大好きなんだよ』」 俺はそのまま彼女の首の後ろを���まえて、顔を引き寄せキスをした。 もちろん彼女は抵抗したけれど、それがなんだというのだろう。いくら元素を無に帰せる神がごとき彼女とはいえ、純粋な『力』の前ではそれを押し返すことさえできない。筋肉が生み出す力にも、金や欲望が生み出す力にも。彼女は成すすべなく従うしかない。こんな風に。口内を荒らす舌を噛み切ろうにも、できなくなる。 可哀そうに、ああ、可哀そうに。 俺は己の手の中に彼女がいることにひどく満足感を覚え、内にこみあげる感情を認識する。 好きだよ、強くて脆くて、可哀そうな自分を必死に隠す強情な君のことが。 だから少しは気を許して、柔らかな体を預けてみなよ。少なくとも俺の手の内にいる間は。ほら、そう、うまいうまい。
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genparo · 3 years ago
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現パロ設定まとめ
れじな(源氏名:めい・ナツメ)
28歳限界デリヘル嬢・現役JD。本強ガシマン許さない。帝都大学文科Ⅲ類哲学専攻、西洋哲学科。中国哲学を選択科目に取っている。宗教哲学が主。卒業後はイタリアの大学に留学し神学を学んだ後、英語・イタリア語・日本語の三ヶ国語で児童書の翻訳をするのが夢。
没落豪農の祖父、武家のおひいさまの祖母の家で育ち名ばかりの英才教育を施されるが全部途中で投げ出し逃げ出した。実母に暴力を振るわれ勘当済。11歳の時に実父に犯されており、あらゆる虐待を網羅してしまったサバイバーだが被害者意識のようなものは薄く、寧ろ世界と血縁を憎み倒している。男に生まれていればあらゆることが上手く行ったのにと信じ切っており、男だというだけで自分を支配したり上から抑えつけて来る奴らを全員殺してやりたい。
レズビアン寄りのバイセクシャル。自己肯定感を性関連のものに一任しているため性欲とは少し違う部分で恋人だろうと客であろうと肉体を求められないと気が済まない。リスロマンティックの傾向があり、自分の認めた高嶺の花を追いかけている時だけ輝いているが、いざその高嶺が振り向いて自分を求めてきたり多くの人間に理解されてしまうと一気に興味を失い容赦なく捨てる。「高嶺の花の花盗人」だの「光��大好きなカラス」だの散々なことを言われている。今の処高嶺センサーに引っかかっているのは魈と鍾離。魈とは事実上の恋人だが、珍しく彼がこちらを向いて執着しても逃げようとしていない。が、いつまでそれも続くのやら…。
前髪はセンター分け、胸下まであるロングの黒髪に薄いピンクのインナーカラーを入れている。ピアスは左耳と右耳軟骨、右の耳朶には空けていない。タトゥーは肩甲骨に一対の黒い悪魔の羽(勘当された時に自ら望んで入れた)、右腕の内側にリスカ痕を隠すように緑色の細い線で金翼鵬王座が入っているが、此方は入れた時の記憶があまり無い。163㎝、カップ数I85。山羊座のAB型。
適応障害と重度のPTSDを患っており、物心ついた時から不眠症。母親に関連する出来事と相対すると過呼吸になり動けなくなる。比較的病状は安定しているがそれでも薬は手放せない上に、唐突にODをして卒倒している日もあるが、大抵そういう時は魈にばれて世話をされる。
魈とはセフレののちに友達以上恋人未満を続けているが、ずぶずぶ泥沼に嵌まってなんとなく依存されている気は感じ取った上で傍に居る。彼がなんとなく自分と大体同じ地獄の更に深く暗い場所を歩んでることには気づいており、其処にはきっと人の命が絡んでいることも分かっている。その上でどうか自分に出来ることがあれば何でもしてあげたい。なりゆきで風俗の黒服にしてしまったことは申し訳なく思っているものの彼はそれなりに楽しそうに仕事をしているのでほっとしている。が、4nemoの収録部屋に彼の部屋が使われていることは本当に勘弁してほしい。何故ならカズハ担カズショウ推しなので。ナチュラルにわたしに皆の分の食事を作ることを頼まないで欲しい顔が良すぎて気後れするので。
タルタリヤは滅茶苦茶良い客だがやべー男だとしか思えないので若干苦手。でも彼の誕生日、あまりにも彼が母性を擽るから成り行きで金を貰わず本番込みのセックスをしてしまった。そこそこ後悔しないこともないが、それでも彼のことは放っておけず、たとえ自分が愛したかつての思い出を踏み躙る国の犬だったとしてもそれは彼という個とは関係が無いので、精々野垂れ死ぬまで傍にいてやりたいと思っている。
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