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裸逅愛無
ネちゃんワールド⸜( ⌓̈ )⸝
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「裸逅愛無」
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あたしが一万円にも満たない初任給で買ったのは、どんなに焦がれてもあたしのものになってくれないロールパンナちゃんの夜だった。
上京して1年が経ったばかりの春、下町の鳥貴族で酔ったあたしはロールパンナちゃんの腕のなかで泣きじゃくっていた。
「お金より価値のあるものをあげられなくてごめんなさい、」
ロールパンナちゃんは飄々と、お金もらってるからいいよなんて言ったくせに、イく前にセックスをやめた。金とるくせにプロ失格じゃん。
二人暮らししているラーメン屋の3階、何人の女と寝たのかわかんない狭いベッドの上でこうして抱きしめられたのは何回目だったかなぁ。
ルナルナにだけはぜんぶバレている。
ロールパンナちゃんと出会ったのはあたしが以前働いていたガールズバーだ。東京の下町、平日の深夜2時。12月の寒い日だった。
暇な店で、いつものようにキャッチに出されていたのだが、正直に言うとそのときあたしは散歩と言うにはハイテンションで激しい闊歩をしていた。
誰もいないシャッター街でキャッチなんて馬鹿らしい。
銀杏BOYZは爆音じゃなきゃ。
そうやってひとりでキマっていたら、店で接客をしている先輩の女の子から早く戻ってこいと電話がきてしまった。くそーーいい気分だったのに、ってダッシュで商店街を抜けて汚いビルの階段を4階ぶん駆け上がると、ロールパンナちゃんがいた。ロールパンナちゃんはジントニックを続けて3杯飲んだ。
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死んだらそのときよねって高校を卒業してすぐに上京してきて、でもあたしはどうやらなんとか生きている。
それまでは札幌の、偏差値が71もある公立高校に通っていた。
そこだけ言うと勝ち組エリートのようだが、高校生活のうちの3~4割くらいは引きこもりをしていたから、なんとかお情けで卒業証書は貰ったもののベンキョーのほうの頭はすっからかんだ。先生には卒業するとき、お前すぐ野垂れ死ぬぞって言われた。でもまだ死んでないし死ななそうだから、先生は嘘つきだったみたい。
あたしが高校時代に頭に詰め込んだのは、受験英語や戦争の名前なんかじゃなく、キラキラの文化たちだった。ファッション、文学、音楽、そういう芸術をやる素敵なひとたち、ツイッターにいる全然有名じゃないけどめちゃくちゃおもしろいアカウント、好きなひと。漠然と、自分はぜったいすごいことができるって思い続けることがやめられなくて、そういう芸術たちに並びたくて上京したけど、ロールパンナちゃんに会うまでの1年であたしはただの女の子からなにも変わらなかったようにおもうし、実際なにも成し遂げられていない。
水商売をはじめた理由は単純にお金が欲しかったから。上京するときに借りた審査のゆるい「女性専用シェアハウス」は1年縛りで入居したものの色々あって3ヶ月で退居、それからは男友達の家に居候していた。シングルマザーの母は生活保護のキャバ嬢で連帯保証人になる能力がなく、その上貯金もない未���年のフリーターに安く家を貸してくれる業者などなかった。
でもそのときのあたしは家よりも、ただただモーレツに縷縷夢兎が欲しかったのだ。
体入ドットコムを見て歌舞伎町で面接したら、フェイクのキャバの箱で風俗に勧誘されて逃げてきた。意気地無し。その程度の覚悟のお前に縷縷夢兎を着る資格は無いよ。
歌舞伎町で働けるほど可愛くないから東京の端っこの下町で、ドレスなんか着られないほどデブだからキャバクラじゃなくてガールズバーをやっていた。
夜は好きだ。
でも夜の仕事はあまり好きにはなれなかった。周りが馬鹿に見えて仕方なかった。キャストも客もみーんな。愛し愛されることの疑似体験、つまり嘘ばっかりだから。愛のことなんてちゃんと考えたこともないみたいなひとたちばかりだった。オマエガスキダーみたいな低俗なラップやアタマカラッポクラブミュージックをきかされて辟易とする日々だった。
そういう奴らを密かに威嚇するために、LINEのBGMは銀杏BOYZの円光とか、大森靖子ちゃんの裏とかにしていたし、アイコンの自撮りは顔の横で立てた中指をハートのスタンプで隠してきゅるきゅるしていた。
それに気づいたのはロールパンナちゃんがはじめてだった。だからこいつはセンスがある奴だと思った。
こちらが営業電話をしてやるつもりで快諾したモーニングコールを逆に利用して、ロールパンナちゃんはあたしを誘った。
お互いの定休日がたまたま月曜日で、予定の合う月曜日がたまたまクリスマスイブだったから、イブの夜、あたしはロールパンナちゃんの働くラーメン屋の3階でピザを食わされた。
ロールパンナちゃんはあたしの話をききたがった。後から考えてみると、奴の前職は派遣とはいえ営業マンだったし、あれは巧妙に計算された前戯だったのだと思う。
しかしあたしが話したのはあたしの人生のこと、いまのあたし自身のこと、野性爆弾のくっきーが大好きだってこと、縷縷夢兎が着たいけどとりあえずrurumu:を買ったこと、でもそれらを買い占めるほどのお金は稼げなかったこと、等、あまりにもセンスがありすぎた。
あたしがくっきーのインスタを遡りはじめたところで、ロールパンナちゃんにキスされた。
「くっきー見ながらチューされる気分はどう?」
「さいあく。」
ロールパンナちゃんは心底おかしそうに笑っていたが、挙げ句の果てにあたしがロールパンナちゃんの古いiMacで下妻物語を観はじめたので、しびれを切らして一緒に寝たがった。
「遊ばれたくないの?」
「うん」
「えらいねぇ、遊ばれたことあるの?」
「遊ばれたことしかないよ」
あたしには彼氏がいたことがないが、処女ではなかった。つまりそういうことだ。
処女は高校2年生のとき当時好きだったひとに捧げたが、それ以外はあまり真面目に自分を守れなかったせいでボロボロだ。
いいなと思ったひととすぐに寝てしまって結果遊ばれて終わるということもよくあったし、こころが大丈夫なときにはたまーに援交もしていた。
シングルマザーでバツ2で彼氏をとっかえひっかえしている母親の汚くて愛のないセックスの成れの果てが自分だと思っていたから、そんな汚いからだがそれ以上汚れることなんて構いやしなかったし、愛されることには憧れても本当に愛されることなどないと半ば諦めていた。いちばん愛されたかった幼い頃から、あたしはヒスを起こした母に叩かれたり怒鳴られたりゴミ捨て場に捨てられたりして育った。
月並みだが、あたしは愛情不足で育って自己肯定感が足りないこどもで、それに加え心の貧困、目先の甘味にすぐ屈してしまうから、痩せられないし遊ばれる。
それが悪いとか、言い訳だとか、甘えてるとか、可哀想とか、わかるとか、まもりたいとか、そういう感想には飽きたというか、それらの過去はただの事実でしかないからどうしようもない。あなたにどうこうしてほしいとかそういうのじゃなくて、ただの話。
ただその日、あたしはセックスを頑なに拒んで、ただ抱き締められて眠った。
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ロールパンナちゃんとの日々はそれからはじまった。クリスマスの次に会ったのは大晦日だった。
それまで一緒に住んでいた男友達に愛想を尽かされホームレスのネカフェ難民だったあたしは年末のガキ使を見る術がなく、つまりダウンタウンも、くっきーも、脅かされる田中も、なんならそのあとのおもしろ荘も見られないと絶望していたのだが、ロールパンナちゃんはテレビを持っていた。利用させていただく以外の選択肢がねぇ。見た。ロールパンナちゃんはその日も夕方まで仕事だったので途中寝てしまったが、夜中になって起きてきたから少しだけ一緒にテレビを見て、こんどは一緒に寝た。それで昼くらいに起きて、元旦の浅草寺で「パンケーキ食べたい♪蒲田は地獄♪」って歌っていた。ロールパンナちゃんのおみくじは凶だった。
帰りの電車で、きのうからまる1日ありがとうございました、って言って先に降りようとしたら、今から8時間耐久ボンバーマン対決するつもりだったんだけど…って言われて結局またロールパンナちゃんの家に帰ってしまった。
そのままダラダラと、ロールパンナちゃんの正月休みはぜんぶあたしがもらった。
1月2日の朝にはじめてセックスをした。
セックスの途中で、ロールパンナちゃんが
「あ、ハンバーガー食べたい」
とか言いはじめた。肉欲がすごい。
だから事後は駅の近くのモスに行った。
レジ前で並んで、もう順番が来るというときになって、今度は
「そうだ、おいしいハンバーガー食べに行こう」
って言い出した。あたしはもうおっかしくてただ付いていった。行先は新宿だ。
結果を言うと、ハンバーガーにはありつけなかった。原因はグーグルマップの経路案内の、あのトンチンカンなところに連れていかれるアレ。
マップが示した到着地点は住宅街の中のファミマだった。
「俺はここの肉まんが食べたかったんだ」
「あ、そうなんだ」
冗談ばかり言うひとだからとても楽しかった。
散々歩いた挙句に小田急の西新宿駅から新宿駅に戻って、さっき肉まん食べたばっかりなのにお好み焼きを食べた。そのお好み焼き屋にいた家族連れの席の女の子が、
「わたしとママの絆でUFOキャッチャーのぬいぐるみが取れたんだよね!!!」
って騒いでいたから、食べ終わったあとはゲーセンに入ってしょーもない当たらないコインゲームをして、歌舞伎町のTOHOシネマズで映画のラインナップを見て、ブルプルでタピオカを飲んだ。
ロールパンナちゃんの最終学歴は製菓の専門学校だ。だから派遣の営業マンの前はパン屋さんだった。駅やルミネや通りすがりにある店のポスターの『新発売!』やら『新食感!』の文字を見るたびに、ロールパンナちゃんは立ち止まって数秒眺めて、興味なんかないみたいに歩き去るのだった。
ブルプルに寄ったのは、ロールパンナちゃんがチーズドッグを食べたいと言ったからだ。あたしはウーロンミルクティーを飲んだ。
西野カナとか三代目とか、そういうのをクソ真面目に聴けちゃう層を小馬鹿にして生きるあたしたちの、それでも馬鹿にしきれない「普通」へのささやかな憧れが共鳴したような気がした。チーズドッグとウーロンミルクティー。歌舞伎町。セックスよりもグッときたんだけどな。
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あたしのゆめは、世界平和。
表向きには、映画監督。
それなのに、あたしの仕事は、嘘っぱちの愛だった。
隙をふりまいて、春をころして、あなたに都合の良い憂いを演じて、お金をもらう仕事。
あたしがまつげを震わせて、ひとりひとりのあなたのことを大切にできないと思い悩んでいることなんて、だーれも知らないのでしょうね。
ほんとうは、世界平和にポップに貢献するキャッチーでキラキラで奥深い映画を撮りたいし、そもそも自分自身だって映画なんだからまず自分自身がキャッチーでキラキラで奥深いアイドルになりたい。
大好きなものにもっと近づきたいというより、どうしても負けたくない。受け取るだけじゃなくて、切磋琢磨したい、接触して、反応して、もっともっと光りだすように苛烈に生きていたい。
毎日毎日怠惰な生活をしてしまってはいるが、たまに映画を見たり新しいMVが公開されたりするとやはり、どうしようもなく負けていられない気持ちになる。
21世紀の女の子という映画が公開された。
2月20日、縷縷夢兎のエキシビションをじっくり味わったあとに、映画を観て、佳苗さんのトーク��ョーを聴いて、花束を渡して、サインをもらって、お話をした。
随分と自虐的な話題だったと思う。
それでもあたしはもう、それはもう、キラキラで胸が満たされてしまって、ロールパンナちゃんのことなんて考えられないくらいだということを、ロールパンナちゃんに伝えたくて堪らなくなって仕事を休んで、ロールパンナちゃんの家に帰った。
映画を撮ること、あたし自身を煌めかせて売り出すことを本気でやろうと思って、デリへルをやろうと覚悟を決めた。アトリエが、機材が、つまり金が要る。時間も要る。
性消費されるブレない奴というのは、手っ取り早く目を惹くコンテンツだ。丁度よく狂っている。全てを武器にしてやろうと思った。
ロールパンナちゃんとは付き合っているわけでもないし。大好きだけど、すごく大好きだけど、きっとロールパンナちゃんは、ロールパンナちゃんのことを大好きすぎて人生を台無しにしちゃうあたしよりも、ロールパンナちゃんのことなんか見えなくなるくらい突っ走って人生台無しにしちゃうあたしのほうが好きだから。
ロールパンナちゃんと出会ってから2か月以上経っていた。
セックスをしてしまったのにこんなに長くそばに置いてもらえるとは思っていなかったし、こんなに長居するつもりもなかった。ロールパンナちゃんは強がりのあまのじゃくだからこんなことを言ったら怒るかもしれないけど、ロールパンナちゃんはあたしと似ていたし、あたしたちはお互いのそういうところを恐らく気に入っていた。好きだった。
変な人になりたいあたしたちはお互いの変なところに一目置きあっていたはずなのだ。
ロールパンナちゃんはあたしの夢や哲学をだれより正しく捉えて、肯定したり批判してくれる人だったから好きだった。あたしのせいで曲がってはくれない人だった。
だからあたしが夢のことを話したとき、健気でかわいいねとか、俺の家で借りた映画を観てもいいとか言ってくれた。
デリへルのことは、決めてすぐには話せなかった。
もう慣れっこになってしまった狭いベッドに寝そべってパンフレットを読み漁るあたしに、ロールパンナちゃんが縋るように抱きついてきたから。
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朝になるとロールパンナちゃんは仕事をはじめなければならない。だからあたしは眠い顔のままネカフェに帰っていく。
あたしも仕事をしなければならなかった。生きるためには、衣食住が必要だった。
キャリーケースに服を詰め込んで、コインランドリーとネカフェとガールズバーと松屋を行き来する生活だった。
しかしロールパンナちゃんと会うには、仕事を休まないといけない。
ロールパンナちゃんは週6日、ずーっとラーメンをつくっていたから、会えるのは夜だけだ。だから毎朝、しょーもないモーニングコールをしていた。なんならロールパンナちゃんの昼休憩のときにまで電話をすることもあった。あたしたちが日本語を楽しめる人間たちでほんとうによかった。
21世紀の女の子を観た2日後のモーニングコールで、あたしはロールパンナちゃんにデリへルの話をした。
「いいんじゃない、俺の女の子の友達もパン屋やりながら夜デリへルしてる子いるし、夢とか目的があってやるなら」
やっぱり普通に囚われないひとはいい、頭ごなしにやめろって言わない、そういうところが好きだよって思いながらあたしはその時ちょっとだけ悲しかった。
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ロールパンナちゃんの働くラーメン屋さんは店舗が2つあって���それぞれの往復に電車を乗り継いで4時間くらいかかる。
その日はロールパンナちゃんが自分の店舗に出勤する前に、もうひとつの店舗までおつかいをしにいく日だった。
そういう日、あたしはよく一緒に通勤ラッシュに揉まれた。ロールパンナちゃんは目的地の改札の内側で、愛おしそうにあたしの髪を指で梳くから。
デリへルの話をした後にロールパンナちゃんに会ったのはその日がはじめてで、ロールパンナちゃんは会った瞬間に「きょうもかわいいね」って言ってくれた。
楽しい話をたくさんして、いつもよりなんだかハイに笑って、あたしはいつの間にか挑戦的な態度を取っていた。
「あたしはお金を払えば好きなときに会える女の子だよ」
「そうなの?」
「そうだよ、これからもっとそうなるんだよ」
ロールパンナちゃんは黙ってしまった。通勤ラッシュで押しつぶされて、立ったまま、ロールパンナちゃんは目にいっぱい涙を溜めて口をつぐんでいた。
何度も好きにならないよって言われたし、だから付き合いもしないって言ったくせに、ロールパンナちゃんはあたしを想って泣いていた。
帰りの電車で、ラーメン屋で一緒に働かないかと誘われた。家も昼間の健全な仕事も、貯めるのにじゅうぶんなお金もあけるから、と。
愛とはつまりこういうものではないかと、あたしははじめて理解して、びっくりするほどすんなりと、頷いてしまった。
いい返事をきいて喜んだあいつは店に着いてから、あたしをママチャリの後ろに乗せて一駅先のスーパーに買いものに行った。奴は真昼間なのに、下手くそな歌を大声で歌いながら笑っていた。交番の前を通るのだってもう怖くなかった。このあたしが、好きなひとと一緒に明るい場所で生きられるということが、ほんとうにほんとうに嬉しかった。
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ロールパンナちゃんの住むラーメン屋の3階で、期限付きの二人暮らしをすることになった。
働いていたガールズバーはキッパリ辞めた。
ロールパンナちゃんはほんとうに文字通りあたしを振り回すし、あたしだって自分の意思でロールパンナちゃんに振り回されている。
ロールパンナちゃんは、所謂「社会の中の変な人」だ。しかも、自らそうなりたいと思って変な自分やそれが許される環境を作りあげているから、突拍子もないことをしてもなんだかんだ上手くやれている。
後々いまの会社の社長に聞いたことなのだが、ロールパンナちゃんはあたしの入社を掛け合う際に正直に、
「俺の部屋に通っている女の子が〜」
と話したらしいから驚きだ。
でもその話をしたときのあたしだって社長とサシでタピオカを飲んでいたし、高校時代の恋バナをしたし、そういう環境なのだ。
あたしの初任給が一万円にもならなかったのだって、ロールパンナちゃんが3月から勤務開始予定のあたしを半ば強制的に2月28日に出勤させたからだ。
末締めだもんね。そりゃそうよ。
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ロールパンナちゃんは意外にも、とても真面目に仕事をしていた。
「これからは上司だからプライベートでも敬語で話して」
幸せの甘いところだけを掴みきれない日々がはじまった。
あたしの負けず嫌いな性格やガールズバーで染みついたオンナの立ち振る舞いは、すぐにロールパンナちゃんをイラつかせた。
ラーメン屋になって。ラーメン屋になって。ラーメン屋になって。ラーメン屋になって。
映画やファッションとは違う土俵で、経験値やタッパの差もあり、あたし��完全に負けだった。
負けたくない、嫌われたくない、動けない、遅い、からい、暑い、痛い、
あたしから出たのは血や汗だった。
それから完璧なラーメン。
余裕が無い。ロールパンナちゃんの前で余裕が無い。
苦手な早起き、無駄な口ごたえ、コンプレックスの隠せない薄化粧、似合わないポニーテール、制服は膨張色の白、毎日同じ長ズボン、汚いタオル、可愛さとか自我が許されない機械的な接客。
あれれーって思っているうちに、同じ毎日の中で、あたしとロールパンナちゃんは冷えていって、遂に、
ロールパンナちゃんはキャバ嬢にハマった。
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こうしてそばに置いてもらい続けていること自体が幸せなのだと、わかってはいる。
ただ当たり前だが、甘くはなかった。
好きなだけでは生きていけない次元に飛び込んでしまった。その代わり、好きじゃなくても共存していられる権利を手に入れた。
歪んでいるね、あたしは自分のなかの歪みやクシャクシャな想いをまっすぐに伸ばして正しく読んでブレずにいられるように、毎日ラブレターを書くようになった。LINEのタイムラインに、ただただアップするだけのラブレター。
ロールパンナちゃんは頼んでもいないのに毎回律儀に読んでくれて、反応したりしなかったりした。
3人で回している店だから定休日の前日はいつも3人で飲みに行くのだが、たまたまひとり都合が合わない日があって、ロールパンナちゃんと2人で飲みに行った日が冒頭のあの日だ。
飲み比べは引き分けだったがどちらもお互いに負けないくらいフラフラだった。
帰って、酔った勢いで、お金を払ってセックス。
売春は、あたしとロールパンナちゃんにとっての興味深いテーマだった。
お金をもらってサービスを提供するということを、あたしはそれまで仕事にしていたから、それを金額に対するサービスだと割り切ることを知っているし、お金を払う側の感情の機微もいろんなものを見てきた。
あたしにとってあなたにはお金以上の価値があったから、ここまでついてきたよ。
あなたにとってあたしは、お金をもらわないと割に合わないほど、つまらないものだったのだろうか?
「お金より価値のあるものをあげられなくてごめんなさい、」
あたしは痛客だった。
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愛のことなんかちっともわからない。
俗に言う高まった恋愛感情のことだとは全く思わないし、どうせ別れる彼女に愛してるなんてほざいている同級生はバカにしか見えないが、じゃあなんなのってきかれたところであたしだってちっともわからない。
キャバ嬢にハマったロールパンナちゃんは、最後にあたしのことを「嫌いではないよ」と曖昧に慰めて、家を出ていった。
正しくは、兼ねてからあった新店舗を任される話がきちんと動き出し、喜ばしい仕事の成功としてあたしの元を予定どおりに去っていっただけだ。
間違いなく時間は経っている。
残り時間はあとどのくらい?
あたしにも諦められない夢がある。いつかは、あたしのほう��ら去らなければいけない。
あたしがひとり残された店舗からロールパンナちゃんの新しい店舗まで、こちらも電車で片道2時間ほどかかるが、あたしは懲りずに通っている。自分でもびっくりするが、こんなに時間や体力に余裕がないのにも関わらず週に一度は必ず通っている。溜まった家事や仕事の関係の雑用のために。交通費だってバカにならない。
でもロールパンナちゃんもキツそうだった。
ロールパンナちゃんの赤いこころはいまあたしには見えない。余裕が無くなって青くならざるを得ないつらさが、あたしにはとても哀しく見えた。でも赤も青もどちらも、ロールパンナちゃんなのだ。あたしはその赤いところに惹かれて一緒にいることを選んで、青いところまでどうしようもなく愛おしく感じるようになってしまったよ。
これがただの執着だったらどうしよう。
ロールパンナちゃんの青につられてあたしまで青くなってしまうことがありませんように。あなたの青さを、燃えるような赤さで見守って、あなたが赤に還ってこられた日には、一緒にいっとうの真っ赤をさらけだして、青さまで全て赤にしてしまいたいね。あなただけでなく、世界のすべてをいろんな赤にしたいんだ、あたしのゆめはそういうことだよ。ずっと赤でいるから、あなたも赤に戻ってきてね。
いつかは。
♥️
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クラウドファンディングアプリのpolcaにて、ご支援を募りはじめました🤭🌷
こちらのリンクから、内容等ご覧いただくことができます。
なにか響くものがあれば、ご協力お願い致しま��。
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🎥 profile
🌷ネちゃん🌷
2000年1月26日生まれ19歳。B型。
福岡県生まれ北海道札幌育ち。
札幌の私服の進学校に通いながらも、親の離婚や虐待、奨学金横領などの理不尽を受けて引きこもりの不登校に。小学校時代から好きだったきゃりーぱみゅぱみゅに影響されたファッションをtwitterで発信しているうちに、雑誌HRの編集部に声をかけられて高校生スナップに5回ほど掲載される。
抑圧され閉塞した日常の中で、コンセプトのあるファッションや自己のメンタリティを世に発信することとそれが認められることの快感を知り、更に自分と同じ生きづらさを抱えている人の救済の必要性を感じて、「ファッション」「絵」「小説」「音楽」などの趣味・特技を総合的に活かした映像をつくる映画監督になることを夢見はじめる。
なんとか高校を卒業しすぐに18歳で上京。
高校時代にもらっていた奨学金を母に全て遊びで使われてしまっていたことや、しばらく抑鬱状態で勉強が手につかなかったこともあり進学はかなわなかったが、バイトをしながら一人暮らしをする。バイト先が経営不振で潰れるなど紆余曲折あって友人の家に居候しはじめ、ガールズバーで働き始める。勤務先が遠かったことや、大学生の友人と生活リズムがすれ違い気まずくなりはじめたことがきっかけで居候先を出てネカフェ難民に。
現在もネットカフェで生活しつつ、ガールズバーで出会ったお客さんが働いている職場を紹介してもらい、その仕事先に家も借りてもらって、今年の3月から新たに生活をスタートさせる。
このタイミングで活動を再開し、4月からはじまるオーディションのミスiD2020に応募、進学や勉強のためポルカ奨学金(クラウドファンディング)での資金集め、原宿にあるデザインフェスタでの展示、イベント出演など、精力的に活動していく予定である。
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