リスク管理に関するコンサルティングを行う中で、感じたことを載せたブログです。都度修正が行われる可能性があります。ご意見ご感想お待ちしております。
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地方創生と定量的リスクアペタイト指標(2)
前回の続いて、地方創生と関連性の強そうな定量的リスクアペタイト指標について考えてみたい。
(3)資本 通常のRAF運営において規制資本・経済資本の値や自己資本比率をリスクアペタイトとしている例は多く見られるが、地方創生の観点では、あまり親和性は高くないように思われる。資本の水準は銀行の体力を示すものではあるが、地方の産業を振興・維持する能力にあまり関連性はないと考えられる。 (「当該金融機関が当該地域におけるシステム上重要な金融機関であり、当該金融機関の存続が当該地域の発展に不可欠である」という理屈も、少し説得力に欠けるように思われる。) 強いて言えば、資本配賦の���長として、振興・維持させたい地域の産業を担う企業グループや業種、あるいはそれらを所管する部門・部署に対し、資本を新たに配賦する(すでに配賦されている場合、これをリスクアペタイトとして明示する)ことで、当該産業等に対する意思表明(コミットメント)を行い、経営の方向性を明確化させる、という方法はありうるように思われる。 但しこの場合、その実効性は、既存の資本配賦枠組みの実効性に依存することになると思われる。すなわち、資本配賦枠組みがあまり機能していないのであれば、単なる声がけに終止する可能性が高いと思われる。
(4)流動性 資本同様、これも銀行の体力や健全性を示すものであり、地方との関連性はあまり強くないと考えられる。 但し、例えば、当該地域が海運産業に強く、外貨建ての融資やコミットメントラインに力を入れているような場合、これらの業務から生じる外貨流動性リスクをコントロールする上で、外貨流動性に関する指標や、例えば外貨預金の残高や外貨調達期間、外貨LCR・NSFR等をリスクアペタイトとする方法はありうると考えられる。
(5)信用格付け 資本や流動性以上に、地方創生と縁遠い指標と考えられる。
(6)リスク量 ストレス時損失や資本、流動性のような使い方も可能と考えられるが、とりわけ信用リスクの領域において、振興・維持させる産業を担う企業グループや業種について、より積極的にリスクテイクを行うべく、信用リスクリミットを外出して明示したり、あるいはさらにリミットを引き上げたりする、ということが考えられる。 さらに応用として、外資系金融機関におけるカントリーリスク管理の一環として、ディスクロージャー誌上にて各社としての各国のリスクに対する見解を詳細に記載する例がみられるが、これと同様に、各行としての各地域や産業についての見解を示し、保有するリスクの内容を明らかにするとともに、投資家等の関係者に対する当該産業等の理解を深めさせる、といった方法もあるように思われる。
(7)レバレッジ比率 資本同様、銀行の体力や健全性を示すものであり、そのままでは地方創生との関連性は低いと考えられる。 後述するバランスシート構成と同じく、地方創生を推進する上で、達成されるべきバランスシート構成があり、さらにこれが達成された結果、実現されるレバレッジ比率をリスクアペタイトとする、という方法はありうるように思うが、遠回りに過ぎるであろう。
(8)バランスシート構成 例えば現在のビジネスモデルが融資事業に偏っており、これを地方創生に関連したコンサルティング事業等の比重を増やし、手数料収入中心の収益構造にシフトする、というアイデアはありうるように思う。この場合、かかるシフトが進めば、バランスシートがスリム化したり、預貸のバランスが変わったりすることも考えられる。 このような形で、変化したバランスシート構成を、リスクアペタイトとして定めることで、かかるシフトを���進させる、という方法はありうると考えられる。 逆に、注力する産業に対し、より積極的資金提供を行い、貸出残高(あるいは出資残高)を拡大させるようなバランスシート構成を目指す、という方法もありうると考えられる。
以上、いずれも銀行としての目指す方向性があり、それに合わせて適切な指標をリスクアペタイトとする、というプロセスを経ることが想定される。その際、十分な議論が各関係者で行われることが、実効性のあるリスクアペタイト選択するために、必要と考えられる。
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地方創生と定量的リスクアペタイト指標
定量的リスクアペタイト指標について、地方創生と親和性の高そうなものについて、アイデアベースで検討してみたい。 題材としては、前回同様、NRIのレポートを使わせて頂くこととする。 (1)収益 営業部署等のフロント部門でもイメージがしやすく、経営陣の関心も集めやすい、 リスクアペタイト指標として便利なものと考えられる。但し漫然と収益を指標としても地方創生との結びつきは得られない。 例えば、いくつかの銀行のディスクロージャー誌では、コンサルティング営業や事業承継、相続に関する業務に注力するとの記載が見られた。これらの業務と当該地域の産業育成・維持との関連性が保たれていれば、これらの業務からの収益をリスクアペタイトに据えることは、ありうると考えられる。(但し、リスクベースの指標でないため、”リスク”アペタイトとしては弱いかもしれない。) (2)ストレス時損失 統合ストレステストにおいて、GDPに一定のシナリオを想定し、GDPと信用リスク(顧客の信用格付)との相関と掛け合わせて、ストレス時損失を計測する手法がみられる。 これの応用として、各地域において、観光、海運、自動車、航空等、強みのある産業がある場合、GDP以上にこれらの産業と関連性の高い指標があれば、これらの指標の変化に一定のシナリオを置き、これらの産業にに属する顧客からの信用リスクから生じるストレス時損失を計測する、という方法もありうるように思われる。あるいは信用リスクでなく、これらの産業に属する顧客から得られる収益と、各指標との相関から、ストレス時の逸失収益を計測する、という方法もありうると思われる。 但し問題は、何のためにかかるストレス時損失を計測するかを考える必要がある。これらの産業への依存度が高い場合、収益源の分散化を促進するために、かかる損失を計算し、一定の水準以下に抑制する、というアプローチはありうると思われる。逆に、これから拡大を目指す産業において、このような取り組みを試みても、あまり得られるものはないと思われる。ストレステスト結果の活用方法が事前によく検討されることが不可欠である。
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地方創生とリスクアペタイト指標
地方創生とRAFとを結び付けるとして、リスクアペタイト指標にどのようなものがふさわしいか、考えてみたい。 リスクアペタイトは、とるべきリスクの水準と種類であり、定量的なものと定性的なもので構成されたほうがよい、という話はしばしばよく聞かれるところである。 定量的な指標として、NRIによる2017年1月に公表された「金融ITフォーカス特別号」では、以下の例が紹介されている。 ・収益 ・ストレス時損失 ・資本 ・流動性 ・信用格付け ・リスク量 ・レバレッジ比率 ・バランスシート構成 例えば、貸出残高や預金残高がリスクアペタイトになりうるかを考えた場合、同じくNRIの資料でも記されているとおり、リスクアペタイトが経営戦略やビジネスモデルを踏まえたものであるべきことを鑑みると、そのような貸出残高や預金残高がどのような目的で設定されたものかに立ち返るべきであると思われる。 リスクアペタイト以前の話とは思われるが、やみくもに貸出を増やしても貸倒等の信用リスクを抱えるだけであるし、預金も金利リスクを拡大する恐れがある(従来の低金利環境を鑑みればこの点は大したことはなかったかもしれないが、マイナス金利やIRRBBの導入を踏まえると、いずれ影響は無視できなくなるであろう)。これらを飲み込んだ上での拡大戦略でなければ、リスクアペタイト指標は愚か、経営目標としても正当化されるのは難しいであろう。但し例えば、バランスシート構成として、預貸率のような形であれば、経営戦略次第ではリスクアペタイト指標たりうるようにも思われる。 もう一つの例として、ある地域における取引シェアといったものも経営目標の一つに掲げられることがあるかもしれない。しかしながらこれも、一定のシェアを達成・維持した上で何を目指すかについての踏み込みが必要であろう。単純にある地域へのコミットメントとしてのシェア拡大・維持では不十分であり、そのようなシェアが正当化される理由がなければリスクアペタイト指標(あるいはそれ以前の段階として、あるべき経営目標)たりえないと考えられる。 (但し、例えば海外のある地域に進出する上で、各地のシェア上位●位に入らなければ、収益性を維持できないという話も聞かれるので、およそシェアは経営目標ないしリスクアペタイト指標たりえない、というものではないかもしれない。) 一方で、上記にあげた8つの例のうち、地方創生と親和性の高いものがどれかと問われると、非常に悩ましいものの、一つあるとすれば、「ストレス時損失」、それも長期的なシナリオに基づく損失が、候補として挙げられるように思う。既存のビジネスモデルが、当該地域における産業構造や人口構成に大きく依存しており、これらが変化・悪化した場合における損失をリスクアペタイト指標とし、これを低減させるようなビジネスモデルの推進を行いつつ、かかる指標(損失額)をモニタリングし、目標とすべきモデルへの達成度を評価・検証するという枠組みが、ありうるように思われる。 さらにこれの延長として、目指すモデルがもたらす収益や、目指すモデルに必要なバランスシート構造やリスク量、およびその結果としてのレバレッジ比率といったものが、地方創生との関連性が相対的に高いリスクアペタイト指標の候補として挙げられるように思う。
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地方創生とリスクアペタイトフレームワーク
地方創生とリスク管理との連関性を考えたときに、まず浮かんだのはリスクアペタイトフレームワークとの繋がりであった。「とるべきリスクの水準と種類」というFSBによるリスクアペタイトの定義と照らし合わせて考えたとき、その地方の主要産業や人口構成、気候ならではのリスクや、その地方を支え盛り上げていくために金融機関がとるべきリスクが、そのまま自然とリスクアペタイトを構成しうるのでは、と考えたのである。 そこで、各金融機関が、リスクアペタイトとは呼ばないまでも、どのような分野にフォーカスしていることを謳っているのか、各行のディスクロージャー誌に目を通してみたが、(広島銀行を除いて)各行のスタンスはそれほど明確でもないような気がした。 (ディスクロージャー誌から探る、というアプローチが正しくないかもしれない。例えば横浜銀行のディスクロは3メガ張りのガチガチのリスク管理に関する記載で占められていたが、CSRレポートという資料の中で独自の戦略が記されていた。) (広島銀行は完全に独自路線で、対金融庁向けにステータスを全振りした内容となっていた。一読の価値はあると思う。) それでもいくつか共通して見られるのは、所在地域の中小企業に投資をするファンドに出資をしている点。こういったものを単純に地場の中小企業支援として捉えるのでなく、地場の中小企業の信用リスク(それもメザニン〜劣後のリスクの濃いところ)として位置づけると、リスクアペタイトとの関連性が浮かび上がってくるように思う。 すなわち、例えばこのような通常はあまり取らないようなリスクの保有が、全体的な方針決定が取締役会のもとで行われ、これに基づいてフロント部門が投資案件を探してきて、リスク管理部門がそのリスクを見極め、内部監査部門がこれらのプロセスを検証する、という一連の流れに沿ったものであれば、それはRAFが一般的に想定するプロセスに則ったものと呼べると思われる(さらにこの後、リターンがリスクと見合ったものであったか、という評価・検証プロセスもRAFでは求められると思われるが)。 推測であるが、そのような流れを経て投資が行われているものでなく、おそらくトップ(取締役か執行部門)の判断で決まったものであろう。地方銀行であればそういったリスクを取るのは当たり前、みたいな共通観念みたいなものがほとんどの���員で共有されていて、誰もノーと言わない雰囲気が出来上がっていることが多いように推測される。 これが優良案件であれば問題ないが、そうでない場合にはだれかがディフェンスの役割を果たす必要がある。ただこれがリスク管理部門や内部監査部門によるものであれば、これは通常のリスク管理や内部監査の延長であろう。RAFとしてのディフェンスと呼ぶためには、取締役が取ろうとしているリスクがもっと細かく定義され、フロントはそれに沿わないような案件は自主的に排除すべきであり、それでもそのような沿わない案件が持ち込まれてしまった場合はリスク管理部署が「リスクアペタイトに反する」としてその案件を排除する、というプロセスとなっている必要があると考えられる。 (リスク管理の延長で、不良案件を排除できればそれでも問題はないが、リスク管理部門に相当強い権限が付与されていない限り、フロントによる抵抗に押し切られがちとなると思われる。このような場合に強く反対を行うためには、リスクアペタイトが設定されておいたほうが良いと思われる。)
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