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人知れず誰かが立てた浜辺の青い旗は、
あの後しばらくして雨の日に倒れていた。
それからは電車から浜に横たわった青いものが一瞬見えるだけだった。
今日再び旗が立て直されているのが見えた。
誰かにとって、必要なものなのだろう。
2024.12.7
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時に昔のものを見たり読んだり聴いたりして感傷的になったりする。
およそ20年も前に大好きだった曲をふと聴き直す。
その頃のぜんぶが鮮明に蘇ってくる。
感情とか、空気のにおいとか、通学路とか、友だちのこととか、ビデオデッキの感触とか。
今と比べると、同じ人生とは思えないほど別の人間のように思える。
これは本当に幻だ。
この曲のミュージシャンも、今では路線を変えて全く別の音楽をしているから、2度とこの曲を歌ってくれない。
すでに消滅した星の光が時間の差で地球から見えるのと同じだ。
2024.12.7
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無駄を省く、時短、タイムパフォーマンス、
そんな時代。
要らぬ手間は省けばいい。
ただ、要る要らないの判断をするには
無駄かもしれないと思えるものまで吸収して
学ばなければならない。
最初からすべてを効率化してしまったら、
人生そのものが痩せ細って、
なんの味気もない近未来。
2024.11.7
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自分のことが、とても俗っぽいと思うときと、
ありきたりな言葉で、世間と線引きしてしまうときがある。
漫画を読めば大概主人公に感情移入するし、
話題のドラマを半信半疑で観はじめたらハマったりする。
かと思えば、流行りの服なんてたぶん着ないし、
誰もが一度は通ると言われる某会社のアイドルたちを一度も好きになったことがない。
どちらかに振り切っている人なんて、
ほとんどいないのかもしれないから、
どちらに属したいかってことだけなのだけど、
どちらにも属したくないし、
でも自分をどこかに位置付けて安心を得たいときもある。
ただ、結局は定義付けることができないという事実にぶつかって、
振り出しに戻る。
2024.11.5
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最近浜に新しく旗が立った。
それも電車の窓から見えるので、
今日は東風なんだなとか、
今日は風が弱いなとかで楽しんでいる。
あの青い旗の本当の目的はなんだろう。
人は山のてっぺんに登った証に、
月に着陸した記念に、
何かを祝うために、
オムライスの上にまで旗を立てる。
誰かが風を読んでいるのか、
誰かに宛てたものなのか、
分からないまま皆窓から眺めている。
2024.11.1
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人混みをすり抜けるのが得意。
コツは、人の足元あたりに目線を落として全体を見る。
顔のほうだと、隙間があるように見えて荷物を持っていたりしてすり抜けられないことがある。
足元に集中すると、バラバラだったピースが一瞬整列して、
私だけの抜け道がはっきり見える。
歩くスピードも1人だとはやいので、
大体は追い抜いてしまう。
それでもたまに同じ速度の人がいて、なかなか動きにくいことがある。
そんなときはひとつギアを入れて、
一瞬早く歩いてから元に戻す。
人生でも、そういう一瞬でもギアを入れてひとつ先に進まないといけないときがある。
それをしばらくしていない。
2024.10.21
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どこかに自分の時計を置いてきたように、
全てが凪いでいる。
毎日起きて、ごはんを食べて、仕事をして、
予定にも行っているのに。
物理的に動いているけれど、感情が止まって幽体離脱をしているみたい。
無駄になり得る作業がいくつか同時進行していて、それが原因だと思う。
登山はどんな小さな一歩でも目的に近づいている実感が湧いて無駄がない。
四方に島が見えない海で遭難したとして、
当てもなく泳ぐのは、
それがずっと続くのは、
かなりの忍耐力がいる。
泳ぐ方向が間違っているとしたら、全て無駄なんだ。
お正月に引いたおみくじには、
状況が停滞していても焦らずに、
できることをしっかりして時を待つこと。
そんなことが書いてあった。
今は自分の時計を無くしても、動き続けるしかない。
2024.9.29
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東京の記録その1
演劇を観るために東京へ。
いつもは夜行バスとかで早朝に着いて、
駅近くのカフェテラスで朝ごはんを食べながら、
丸の内に出勤する人たちの列と、
だんだんと多くなっていく観光客の様子を見ていた。
今回は正午に到着して、駅はすでに人で溢れている。
圧倒されて、出口も間違えて、目的地まで1時間以上かかってしまう。
丸の内駅舎のドーム天井。
行き交う人の流れの中で見上げる。
私の定番の観光場所、KITTE内インターメディアテクの展示場へ。
外はあれだけ人が多いのに、静かで人がまばら。
みんな思い思いの過ごし方をして、ソファで居眠りするおじさんもいる。
地下鉄で神保町駅へ。
去年、とても良い本が見つかった田村書店。
入り口は開いてるのに店主が阻むようにじっと外を見て座っている。
声をかけて中へ入ると、
とうとう店内の客は私ひとり。
あれだけの喧騒と雑踏をくぐり抜けて、
行き着いた場所は、
本の呼吸が聞こえそうなほど静かで、
古い紙の良い匂いがする。
ここが私の求めていた東京。
2024.9.13
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夏の間ぜんぜん更新していないのは、
毎日電車に乗らなくなるから。
通勤電車は嫌だと思う反面、
この時間に色々無駄な考えごとをしている。
充足すると消えるものがある。
あっという間に夏が過ぎて、
海の家も解体されて、
バラバラの組み木になって浜に横たわっている。
2024.8.29
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帰り道を歩いていると、
むこうのほうで赤いリボンタイに紺色の制服を着た高校生2人が何かを見ている。
曲がり角にある生垣のほうに視線を向けながらゆっくり近づいている。
私からはちょうど見えない。
しばらくして、ひそひそ言い合いながらまた歩き始めた。
「ぜったい居たよね」
「あそこに見えたよね」
「うん、見えたよね」
「ぜったいそうだよね」
そう言い合いながら過ぎ去っていった。
猫なら猫と言うはず。
なにかがいたんだと思う。
ぜったい。
2024.5.29
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Simon and Garfunkel “Scarborough fair”
Elvis Presley “Love me tender”
Beatles “Blackbird”
これまで少しずつ色々な音楽を聴いてきたけれど、
好きな曲は何かと聞かれると、
この3曲が思い浮かぶ。
幼い頃の私たち姉妹を眠らせるために、
父が弾いてくれていたアコースティックギターの音が染み付いてしまっているのだろうか。
大学の頃は、生楽器と電子音を上手く混ぜ合わせられたらいいなと思っていたけれど、
結局は混ざることなく機械のほうに寄ってしまった。
どんなツールを使っても、良い曲はある。
それでももしかして、
口ずさむことができる曲を
今は必要としているのかもしれない。
2024.5.15
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今日は通勤の選曲が上手くいって、
改札を通る前に一回転して出たくなるような気分だった。
ミュージカルの人みたいに。
映画が終わって、シアターから出た瞬間に
主人公のアクションだったり、ダンスを真似している子どもを今までに何度か見かけた。
言ってみれば、まさに私もそういう子どもだった。
主人公気質というか、
真似しているというよりは、本当になりきってしまう。
もちろん再現力は無いので、周りが見ても変な動きをしているだけの恥ずかしいアレ。
そういう手放しで自分をステージへのし上げてくれるような性格は、
いつからか雲隠れしてしまった。
覚えてる限りでは中学になってからだろう。
それでも、本当に無意識の瞬間に
そういう自分が顔を出すことがある。
それは、人目のない、誰のことも気にしなくていい状況が多い。
人前では出てくることのないそういう自分の一部を、
ある種の妖怪なんかと同じように密かに愛でてあげたい。
2024.4.30
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誰しもちょっとした遊びをいくつか持っている。
白線の上を歩いたり、イヤホンで聴いてる音楽と同じ拍子で歩いている人を見つけたり、
あの信号が赤になる前に渡りきれたら今日はラッキーな日にしたり。
私が最近気に入っている遊びは、
①なるだけ遠くの何かを見つける
(遠くの船とか、飛行機とか、向こう島の灯台とか)
②そこにいる人の目線から
自分の今いるほうを想像して見つめ返す
という方法。
通勤電車から釣りをしているおじさんが目に止まる。
いいな、朝から海で気持ちよさそうだな。
おじさんの目線になって自分のほうを眺めると、
電車の中に自分が見えて、一瞬で過ぎ去っていく。
波の音が戻る。
2024.4.24
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三宮の雲井通にあるサンパルという
いかにも古い商業施設が、
新たなビル建設のために壊される。
私のいちばんお気に入りの喫茶店も一緒に。
コーヒー330円。
メニューも縦長の1枚だけで、
飲み物だけだった。
内装はすっきりしていて、
通りに面した広い窓際に座って、
2階から通行人を眺めるのが良かった。
お昼に行くと、近所の会社から来たであろう
枯れたサラリーマンが何組かいて、
こういう人たちで支えられているお店だろう。
店主の妻らしき人が注文を���いてくれて、
何も喋らない店主がコーヒーを淹れる。
60代くらいのご夫婦だった。
とにかく整っていた。
店内は古いのに埃が無くて、
喫茶店にありがちな意味不明な置物もない。
テーブルに出されるお手ふき、水のコップ、
コーヒーカップ、ストローなどを、
その人なりの美学で置いているのが分かった。
最後に行くこと��できなくて、
すでに工事のシートに包まれたビルの前で唖然とした。
入り口に立っている現場の人に聞くと、
移転はせずに、これを機に閉めてしまったという。
少しの間足を運べなかったことがくやしい。
2024.3.21
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