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あつらえた笑み

蓄積した疲労が身体に出やすいのがうちの母だった。朝起きたら吐き気に見舞われた母が二階のにいる自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

一睡もせずに食べ過ぎた朝食で胃がおかしくなりベッドで横になっていたら声が聞こえて飛び起きた。一階にはソファに座ってビニールに向かって吐く母親の姿がありいたたまれなくて犬に話しかけたり水を注いで机の上に置いたりした。開院の時間はもうそろそろだった。いつもは支度に時間がかかる自分も今回ばかりは顔だけ洗い床に落ちていた服とズボンを拾うだけで済ませた。こういう時だけは外に出ていく不安が見えなくなって、偶発に塗れる位の都合の良いものを普段は頭でつくって独りでに怯えているのだと思うと滑稽で思わず溜息より鼻で笑った小さな音が出る。助手席に母を乗せ、普段は掛けもしない眼鏡ごしに朝の道を走る車が視界に入っては縁の外へ消えていく様を近くの病院の駐車場まで数分間流し続けた。

院内には付いて行けなかった。狭い公共の場はいつだって息苦しく添うことすら叶わない。頼りの存在になれる強さがもっと自分にあったらなんて思っていたらいつだって自分勝手に自分にだけ向き合っていると思い知る。昔は真っ先に目の前の何かに向かっていて強かった。笑って大丈夫だよと言っていた人は何処へ行ってしまったのだろう。数十分して処方箋と薬を抱えた母が助手席に帰ってきた。

雨が上がったので車の窓を開けて風を浴びながら帰る。涼しかったのか寒かったのか覚えていないけれど前を走る車が中央線に寄って蛇行して走るので笑っていたと思う。誰かに笑いかけることができない自分にできたのは調子の悪い母の前で笑って何も考えてない振りをすることだった。

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散らかり放題

突如、仕事を辞めたと友人から久しぶりに連絡が入った。

と同時に翌月には現在居る場所を引っ越さなければならないという切羽詰まった状況を知り、片付けを手伝うという口実で泊まらせてもらう事にした。信じられない程に部屋が汚れているから引かないでほしいとの事だった。そう滅多には引かないので気になり開かれた玄関の戸の奥を目を凝らして見たけれど、許容範囲の散らかり具合でむしろ笑いが溢れた。自分の部屋と比べて物が多いその部屋の散らかった様子に少し羨ましいと思った。散らかる程の物が自分の部屋には無くて物の増やし方が分からないからである。

その夜は物を避けて、近況や最近考えていた事や悩みのような話を途切れるまで続けた。静かになった途端に寝入るのは相変わらずで友人が眠ったのを確認し、ブルーライトを小一時間浴びたところで限界が来たので眠りについた。変な夢を見ていたのか寝言を言っている自分の声が耳に入り驚いて陽が昇る前に目が覚めた。朝になり起き抜けにブラックコーヒーを頂き、二人してのそのそと鈍い動きで片付けを開始する。きっと床に物が無くなるまでにはならないだろう思っていたら案の定そうで、休憩がてら早急に決めなくてはならない引越し先を物色。ある程度片がついたのは引越し先の方だった。

帰りを車で送ってもらっている途中、海沿いのコンビニにより飲み物と弟への労いのプリンと自分用の煙草を購入した。煙草を吸わない友人は、それに驚いてか家に着くまで運転しながらかなり動揺している様子だった。そういえば、煙草が嫌いだと言っていた。遠回しではあるがほぼむき出しの嫌悪感を受けつつ急にしんとなる数秒間が度々あり、虚脱したまま空っぽな返事をした。久々に人の感情に潰されそうになったけれど耐えて家まで辿り着いた。

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バーミヤンでふたり

昨年の２月に東京に越して間もない頃。

住む場所も働く場所も人も何もかも慣れない環境から逃げる様にふさぎ込んで何も出来なくなった。何とか会える距離にいる友人は何故か音信不通で、誰とも話しをすることができないまま一番頼りたくなかった母に連絡をとった。

その後、何人かの知人と連絡を取り話しを聞いてもらったりして一日一日をやり過ごしていた。陽に当たりに屋上に出て街の音を聞いたり、空を流れる雲や飛行機を眺めた。何度も夜が来るのを待ちまた屋上に上がって生活している人たちの部屋の明かりを数えたりした。

やっと友人と連絡が取れた時、その子は沢山の薬を飲んで病院に担ぎ込まれた後だった。薄々感じていた嫌な予感が想定を超えて的中したことで頭が全く働かなくなってしまった。

仕事を辞める事になり、東京に残るかまた実家に戻るか決断する前にその子と会うことにした。改札を抜けてきた姿は色々あったにも関わらず前に会った時と変わっていなかった。その時、自然と大きな声が出てお互い駆けより抱き合って笑った。その時の友人の顔を写真に撮っておけばよかったと少し後悔している。バーミヤンに行ってふたりでご飯をたいらげた。相変わらず店員の動きに厳しい友人を見て何だか嬉しかった。あの日ほど誰かと食べて美味いと感じたご飯は無いように思う。その日は夜も一緒に過ごし、朝になって駅まで���見送りをした。

最近、記憶が一年遅れでまとまりだしている。そして自分の中の時間が動き出している。人と話をすること、つまりは情報と感情の両方を交換することがまた出来るようになっている。心が生きていると苦しくも楽しいのだという事が分かる。人と話をする事はずっと昔から外に出る為の力になっている。

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真っ赤な写真集とイチゴ

先日、遠くの図書館から取り寄せてもらった写真集を借りに行った。暇そうな弟に声をかけて珍しく一緒に出かけることに。

荒木経惟さんの「センチメンタルな旅・冬の旅」は、真っ赤で目に付く一目で誰のものか分かるような写真集だった。それともう２冊写真集を借りた。一昨年の秋、ツイッターを眺めていて東京写真美術館で写真展があったことを知った。その頃は、地元でかろうじてバイトをしているくらいでお金もなく遠く離れた東京まで見に行く事はなかった。その後も未練があるのか、船に寝転ぶ奥さんの写真を気になって何度か見ていたように思う。

中身は写真と少しの文章とが載ったもので、写真集というよりは日記のようだった。それも、本人の思った事が何の燻りもなくそのままで綴られている。白黒写真だと何故か近寄りがたいと思いがちだけれど親近感を覚えるような一冊だった。深く重くセンチメンタルになる。これから先、予期せぬことがある中でそれでも変わらず過ぎる時間にどう動こうか。色んな場所で寝転ぶ好きな人たちを撮りたいなと思った。

安く手に入れたカメラを修理に出し、喫茶店に入るつもりが空いておらず。実は閉店していたらしく、田舎で数少ないイチゴパフェが食べられる店が無くなってしまった事実を知った。休息に寄りたい場所がどんどんきえてしまう。

スタバに寄り期間限定だったイチゴのフラペチーノをふたつ頼んで帰宅。弟は初めてだったらしいけれど、特に感動もないままに飲み干す。電車に揺られている間は、もう春も下火だなと思うのにその時だけは時間の過ぎる早さに焦りもなくおだやかな気持ちのまま駅に着いた。

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はじめまして

連絡を取り合っていた人と初めて電話をすることになった。その人は酔っ払っているようで躊躇したけれど気が向いて話してみることにした。最近は、人と関わっている時のストレスを回避したい気持ちが強くすぎて友人からの連絡はやっとの思いで返している。声には人柄や感情がこもっていて、話す言葉と相反していると気分が悪くなってしまう。その人の声は悪い人ではないなという印象で少し安心した。

「実はもうほとんど酔いが覚めてるんだよね。」

「この間、人と話をしていたら転職をして写真の仕事に就いたと聞いた。写真の仕事に入っていくのに参考になるかと思って。」

「真面目そうな感じがするよ。」

「一人っ子っぽい。」

「まだこれからだよ。」

人と話して不快になることがあると、極端な考えもあって絶望的な気分になる。今回の電話は、話して良かったと思えていい時間だった。そうやって人の優しさとも言える部分に触れることがあるから悲しくなることがあってもまた話したいなと思える。恐怖心がやわらいで少し軽くなった。

その人は二つ程年上で、好きなことの業界に入って仕事をしている。その分野で自主的に動いていたり、自分のやりたい事に色んなものを投じているらしい。そういう姿はやっぱり格好いいなと思う。自分のやりたいことに着手しても上手くいかない事が大半で、苦しくてもがく時間が続いても耐えていかなければならない。それでも続けていてそれでも探求や追求してやまない。そんな時間を過ごしている人の姿を部屋から抜け出して拝みたい。人の頑張っている話を聞くとやはりこちらも頑張らなくてはという気になった。

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雨の日曜日

もう３月の上旬から中旬に変わる。時間は本当にもの凄い早さで過ぎてしまって今の歳も残りわずかとなってしまった。

まだ春になりきらないこの時期の雨は少し冷たく感じ、湿気を帯びた風に向かって駆け足で駅へと急いだ。間に合うよう時間通りに着いたと思ったのに、よくあるのだけれど路線を間違えていたらしく電車が来ない。仕方なく雨風をしのいでくれる衝立に身を隠し寒さをこらえて待っていた。

久々に訪れた市街は、あいにくの天気で薄暗いけれど人である程度賑わっている。数年前に歩いた時よりも開発が進んでいて同じ場所には思えなかった。

友人曰く、その街で一番美味しいらしいケーキ屋に行ってフルーツが沢山乗っかったシフォンケーキを買った。友人の社員寮にお邪魔して２ヶ月遅れの誕生日祝いをした。大きなフォークで突つきあって久しぶりに甘いものをほおばったらあっと言う間に完食してしまった。

友人は以前よりも思う事を口から吐き出す様になっていた。度々人の言葉に苦しくなる事もあるけれど、友人が内に溜め込まなくなったのはいい事だと思えてあまり気に留めなくなっていた。それでも、いつだってできる限りやさしい言葉に変換された形で聞きたいと頭の片隅で誰かがささやいている。ぽつぽつとアスファルトに落ちる雨の様に声は消えていった。

雨の降り止まない帰り道、陸橋を歩いていると小さな水溜りがあって蛍光灯が反射してきらきらと光っていた。はじめて綺麗だなと思った。今まで見えなかったものが見えるようになった気がして少し嬉しかった。

自分が何処にいるのかがしっかりと分かった一日。まだ歩き続けなければならない。おやすみなさい。

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春のはなし

正午に祖母と出かける約束をしていたのに、30分前になってやっとベッドから抜け出して準備をする。大抵、準備に取り掛かるのが遅くて切羽詰まらないと動けない。そうこうしているうちにいつものように約束の10分前に祖母が着く。急かすことなく待っててくれる優しい祖母でよかった。

未だ3月前だけれど、ソメイヨシノより早く咲く河津桜はほぼ満開で港町の高台に並んで咲いていた。辿り着く前に道の駅の物産展に寄ると人でごった返していて揉まれながらアイスクリームを買った。不覚にもサクラ味で好きでない味だったけれど何とか口で溶かして流し込んだ。

河津桜の花の色はピンクの発色が強く、桜とは言うけれど違う花の様な感じがした。その下には黄色い水仙も咲いていて色とりどりで人達が集まって首から下げた大きなカメラで写真を撮っている。淡い空の色と桜のピンク色と水仙の黄色と留まる人を画面に収めたら色がぶつかり合うんじゃないだろうかと思いながら通り過ぎ丘の上まで歩いた。

帰る前に屋台で今川焼きをお土産に買い、歩きながら出来立てをほおばった。祖母くらいの年代の人は食べ歩きははしたないと感じるのではと思ったけれど、祖母は歩きながら食べると美味しいよねと言ってくれて思わず笑みが溢れた。

運転しながらたまに眺める春の海は穏やかで光に満ちていて、どこか懐かしさがある。小さい頃は助手席に乗っていたのに今は運転席で同じ海を見ているのかと思うと時間の経過の早さに身震いした。昔は海沿いのカーブをあといくつ越えたら家に着くのか考えていたと話したら祖母は笑っていた。

書き残そうと思うと長くなる、毎日が目まぐるしく過ぎてゆく。

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2/11

先週くらい、階段から落ちたらしく身体に青あざが出来ていた。眠る前に来ていた服も何故か着替えていたけれど夜にあった事は何も覚えていない。眠れずに薬を少し多めに飲んだのが良くなかったけれど、その日はそうでもしないと気持ちがやっていられなくて仕方がなかった。こういう時はどうしたらいいのか、まだ一番いい方法が見つかっていない。

この連休は弟が帰省している。ソファで眠っているところを気付かれないように写真を撮った。実家は大きくないので兄弟皆の数だけ部屋がなく、誰かがソファで眠ることになる。今は姉の自分が部屋をしっかり使っているのでごめんねと思いながらシャッターボタンを押した。本当はごついデジカメで撮ったりフィルムカメラで撮ったりしたいのに、未だiPhoneで撮り続けている。朝に飲むコーヒーはずっと美味しく感じる。外は曇っていて霧がかっている。今日は少し元気。

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焼き鳥

夜のいい時間まで外で飲んでいた。

外食は緊張してしまって物凄く苦手なので行く事があまりないけれど、何度か一緒に食べて割と平気だった友人と焼き鳥を食べに居酒屋へ。座敷の壁際の席に座ってふたりで乾杯をした。

誕生日おめでとうと伝える事ができてよかった。自分の調子で振り回してしまうので会うのを少し避けていたけれど、お陰で久々に誰かと話ができて良かったし楽しかった。

地元は人口が少ないこともあり、狭い中で作られたコミュニティーで必然と同じ学校に進学することになった人が多かった。そんな環境で仲良くなった人たちは距離感がはっきりしない状態で繋がっている。その子とも進学した学校がたまたま同じで付き合いが何だかんだ続いている。

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朝

朝に目を覚ます事が怖くない日がやってきた。一日の始まりに恐怖を感じていたのが和らいで気持ちが軽くて、調子がいい。

年始に動き回った反動か、疲れて家にこもり続けていた。

夜にある人と電話をする事になった。直接話すのは初めてで、いつも以上に言葉が口から出ていかなくて上手く伝わらないのを実感しながらのお話だった。朝まで緊張がほぐれきれず電話を切った途端に全ての力が尽きて眠りについていた。光が差す様な出来事は一瞬だった。数年前からずっと変わらない綺麗な声をこれからも聞いていられたらいいなと思う。有益という言葉を何度かかけられたけれど同じ気持ちだった。人の言動にしばしば心動かされたり苦しんだりして影響を受けるけれど、自分は誰かに対して有益なものをもたらすことが出来ているだろうか。

今朝のニュースで、哲学者の梅原猛さんが先立たれたと知った。昨今まで知らない方だったのもあり、目にしなかったら気にも留め���通り過ぎてしまっていた。「独創は勇気がいること、理性でしてみようと思った事は突き進んでやってほしい」という様な事を演説で話されていて、これからやってみたい事が見つかった時に後押ししてくれる気がする。ネットにはイデオロギーを嫌い学問を愛した人生と書かれている。

少し気になるのでまた本屋へ探しに行こう。

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1/1

あけましておめでとうございます。

ここ数日は全く外出せず夕方に起床という日が続いていた。久々の外出は毎年恒例の初詣で、運転のためにお酒を飲むのを我慢して隣に父を乗せて向かった。お寺は田舎の方の街灯がない丘の上にあって、年をまたぐ頃に地元の人がちらほら参りにくる。何故だか今年はいつもより賑わっていて家族で寄り集まって参拝している人たちで溢れていた。ここでは参拝した後にお汁粉を頂ける。お餅はひとり２つなのをいつも気持ち増やしてくれて、優しさの詰まったあたたかいものを年初めに口にすることができる。

初日の出、予報は曇りだったけれど雲ひとつない空で木々の隙間から光が昇る。一人で見に行くつもりだったけど父も一緒に行くと言ってくれて、寒い海で去年あった事やこれから事を話した。自分の事をあれこれ考えると気が狂いそうになったけれど、父と海の穏やかさが自分を落ち着かせてくれた。

出来ることを少しずつ。

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あこがれ

随分長い間、自分には好きになれるものが無かった。周りの人が聞いている音楽や好きなものの話が自分にはどうも合わなくて、話を合わせて自分も同じ様に好きになろうと努力していた。でも、全く興味が湧かなくて自分はずっと空っぽだった。何かを費やす程に好きになれたものは人くらいで、それすらも今振り返ると好きだったというよりは寂しかった気持ちの方が大きかった気がする。心からどうしようもなく溢れ出して止まらないような、それ程に好きになれるものがある人には今でも羨ましく自分には遠い存在に感じる。

写真を少しづつ撮るようになって、ギターの練習をするようになって、色んな音楽を聴くようになった。気になった映画を見たり本を読んだりして時間が経つようになった。ずっと薄っぺらくて上擦って何もない空っぽの時間が減っていくのが分かるようになった。

きっかけになった人や出来事は、日々自分の中できらきらひかり続けている。今もこれからも失くならないように大事にしたい。

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12/22

一日を通して眠気に負けそうな時間が何度もあるけれど、ここ２日はふらふらしながら夜に向けて何とか起き続けられている。

先日、５ヶ月ぶり位に電車に乗った。帰宅ラッシュと重なって家路へと向かう沢山の人がいて、乗り込んでくる人や降りる人の波に乗る感覚を久々に思い出すと同時に飲み込まれそうになった。人に囲まれた状態で座席にいると、手や足をどうやって床や膝の上に置けばいいのか、目線をどこに向けたらいいのか、いつ息を吸えばいいのか、意識が向きすぎて分からなくて息が苦しくなる。

最近また、ギターの練習が楽しくて仕方がない。練習すればするほど弾けるようになるのが分かってとてもうれしい。自分にも何度か練習を繰り返せば少しづつ出来るようになる事があるのだなと思う。このまま続けていきたい。

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年の瀬のはじまり

今年の初めにひいた御みくじが見つかった。

友人から年の終わりに見返していると聞き、自分はそんな事はせずにやってきたけど少し見てみる事にした。自分の行いを見直してやるべき事をやるようにという様なことが書かれてあった。

振り返ると悲惨な年だった。約束を何度も破って仲違いになったり、転々としたりやりたかった事が出来なかったりした。チケットを購入したけれど当日に調子が悪くて初めてのライブに行けなかった。ただ、無理は良くないという事が身に沁みてわかった。散々だったけど救われる事もあって、もうだめかと思った２月は大事な人の結婚式に駆けつけた。３月の終わりには知らない土地をたくさん歩いて散り際の綺麗な桜を見た。外に出られなくなった自分に友人が会いに来てくれて一緒にファミレスで満腹になるまでご飯を食べた。色々とせわしなく、時間はあっという間に過ぎていった。

聞き逃してきたラジオ番組をやっと耳にすることができた。知らないクリスマスソングと村上春樹さんの少し鼻にかかる独特な声。

「いつか本当に素晴らしい世界が来るといいですね」

「できるだけ前向きにものを考えていきましょう」

「楽しいことがあるといいですね」

「また来年」

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眠ること

人の寝息を聞いていると心が落ち着く。眠っている人といると安心して眠る事ができる。

何時だったかあまり寝ないと言う人がいて、頭を触ったり撫でたりしていたらすっと消え入る様にその人は眠りに落ちていって安らかだった。空港には、ロビーに大きな四角いソファがあったりしてたまに横になって眠っている人がいるけれど何となく隣に座りたくなる。有名な写真家は愛妻が舟に揺られ眠っている姿を写真に残していて、何故撮ったのか少し分かるような気がした。もうずっと昔から、眠るというのは特別な事だと思っている。限界が来てやっと眠る事ができる自分にとって、睡眠を意識せずいとも容易くこなせるのが羨ましい。そういう人は余計な意識を働かせず生活をしている様に思う。おやすみなさいという挨拶を人に言ったところで眠れた事がほとんど無いから、嘘をついているような気持ちになる。眠ることはもっと当たり前のことであってほしい。

今日は久しく優しい人と電話をしながら眠る。もう朝が来る。

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これから

時間に追われない生活を続けて少し経った。

一日をどう過ごそうかと考える余裕があるほど自由な時間がたっぷりある。この歳まで生きてきて、多分一番長いお休み。随分と穏やかな気持ちで生活をし過ぎている気もする。仕事に復帰したら時間の制約についていかないといけなくて、のんびりしている日々からまた離れて慣れるまでの事を考えると不安に襲われる。

そんな事を考えて頭の中が堂々巡りになってくると、ある人が「これからが楽しくなるような事を考えればいいんだよ」と言ってくれた事を思い出す。人の言葉はこうやって魔法をかけるように気持ちを落ち着かせてくれる。言った本人は覚えていないだろうけど、言葉が自分の中に残っていてやさしいものにいつも救われている。

写真を撮りに出かける、友人に会いに行く、まだ会うことの出来ていない人たちに会いに行く、写真展に行く、美術館に行く。小さいことも含めるともっと事細やかにあるけれど、こういう楽しみに向かってひとつひとつ乗り越えていきたい。

年が明けたら動き出す。

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浮ついた時間

昨夜は母と二人でお酒を飲んで夜を過ごした。それからはいつもと同じ時間にベッドへ飛び込んで気付いたら眠りに落ちていた。

夢をみた。そこには自分と家族となぜか憧れの人がいて、皆んなで集まり話をしていた。会話の内容はほぼ覚えていないのだけど、その中で一度だけ憧れの人に名前を呼ばれたので少し驚いて顔がほころびそうになった。すると、母が「名前呼び捨てで呼んでいるのね。」とその人に言った。その一言で気恥ずかしくなり、居たたまれなくなったところで目が覚めた。

以前に同じ様な気持ちになった事を思い出した。その時も、何だかうれしくてふわふわしていて顔の筋肉が自然と緩んで崩れそうになったけれど、そんな心情は悟られたくないので険しい顔で騒ぐ心臓が落ち着くのを静かに待っていた。夢の様な夢をみられたので、思い出しては噛みしめている。

「リップヴァンウィンクルの花嫁」をお酒を飲みながらみた。

この作品は何度かみているのだけれど初めてみた時、もう二度と観たくない思った。主人公が周りの人間に流されていく姿や、仕事の立ち回りでなら何でも出来る人がいたりして虚しさと何とも言えないの不快感で気分が悪くなってしまった。

何度も見ているとそれが浅はかだったと思い知った。それぞれの役の言葉や行動が後にどの様に意味していたのかがと少しずつ見えてくる。２度目を観終わって台詞にも出てくる「この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ」という言葉が突き刺さって抜けない。幸せに気付けないで見えなくなって忘れてしまわないようにしたい。

映画が終わる頃にはもう酔いが覚めて、また眠れなくなっていた。