Tumgik
city-of-daydream · 1 year
Text
10 懺悔:片想い
「嗚呼神父様、俺は悪い事をしました。でもそれは、悪魔に唆されてした事なのです。俺は悪いんですか。ねえ神父様!俺は確かに罪を犯しました。でも悪魔の所為なのです。俺は悪いのですか、悪くないですよね?悪くないって言え!言ってくれよ。」
0 notes
city-of-daydream · 1 year
Text
9 独言:運転手
「お嬢様、これは私の独言です。使用人の戯言だと聞き流し、車窓から景色をご覧下さい。──車を走らせて向かう先は毎週末同じ。私はとある女性に毎週会いに行きました。時間が欲しいと思う日も、毎週必ず会いに行きます。会って何をする訳でもありません。言って仕舞えば、唯の惰性なのです。愛という言葉は、惰性をも美化するのです。──否、私は惰性を、愛という言葉で隠したかったのかもしれません。愛とは甚だ難しい物ですね、」
0 notes
city-of-daydream · 3 years
Text
8 診療:嘔吐中枢花被性疾患
重症患者一名。昨夜白銀の百合を嘔吐、完治症状と見られたが尚も花弁の嘔吐を繰り返している。治療法や特効薬がなく、剰え完治症状が出てる故 尚更対処法が解らず盥回しされた所を当院が受入。感染力が強い疾患の為、現在隔離病棟15号室にて別途管理中。症状が和らいだ夜は物憂げに月明かりを見上げ頻りに男の名を呟いているが、どうやら夫の名とは異なる。──彼女にとっての想い人なのだろうか。呟かれた名を元に、調査する必要が有る。
0 notes
city-of-daydream · 3 years
Text
7 恋文:テラー
「メアリー、あの夜を憶えているかい。あの夜、あの時間にきみがいなければ、今のぼくたちはなかった。──もうすぐきみは別の男の物になる。でもね、ぼくたちは確かに恋をしたよ。たった2週間、年甲斐もなく、ぼくはきみに恋をした。この感情は嫌いじゃない。これから死ぬまできみを想い、何度もきみに恋をする。きみがもし、帰ってきたときには親しい知人のフリをして美味しいものをご馳走しよう。大丈夫、大丈夫さ。きみのことだ、さぞ綺麗になって帰って来るだろうよ。楽しみにしている。それじゃあ、いってらっしゃい。」
0 notes
city-of-daydream · 3 years
Text
6 独白:囚人番号1014
「わたしは、何も悪くないの。わたしはね、ただ、彼をわたしのものにしたかったの。それなのに、彼ったら、目が醒めちゃってね。わたしの思い通りに動いてくれる筈だったの。あの人の、生も死も、わたしのものになる筈だったのよ。わたしは、何も悪くないの。ただ夜が明けてしまった、それがなによりもいけないことだったのよ。」
0 notes
city-of-daydream · 5 years
Text
5 日記:クロノスタシス
「初潮のような紅い林檎を囓った。中は無垢とも言えず、どくりと溢れる蜜。恭しく光り口内で解ける其の蜜は、彼女と実によく似ていた。甘く、剰え真赤に艶めくあえかな口許を彷彿とさせる。──時計の針が動かぬ静寂さえも、愛おしい。熱さなど忘れて、飲み込んだ。」
0 notes
city-of-daydream · 5 years
Text
4 裁判:弁護人
「愛とは何かと聞かれて、貴方は答えることが出来ようか。屹度出来ないでしょう。彼もその一人に過ぎないのです。これは愛を前に万策尽きてしまった彼に降り注いだ災難な事故の雨。そして連鎖が巻き起こした悲劇だ。神の悪戯に踊らされた彼を罪人と呼ぶには、酷く幼く未熟と言えませんか。」
0 notes
city-of-daydream · 5 years
Text
3 証言:生存者
「あゝそうだ、俺は生き延びた。地獄の沙汰に触れても尚生きようとしたのさ。死に損ないは今日も謳う。嬉々として高らかに、生への懺悔に笑うのさ。」
0 notes
city-of-daydream · 6 years
Text
2 写真:モルフォ
青く碧く、淡く光る蝶が一頭。窓の棧に止まりあえかに揺蕩う。一目で、この眩さが欲しいと手を伸ばした。薄々感じていた「人生に欠けている何か」とはこの蝶であり、この眩さか。生きながらにして捕らえられ他者の標本となるのなら、この手に得られぬのなら。そうさ、いっそ壊してしまえ。手の内で容易く潰れ行く眩き青は、最期まであえかであった。
0 notes
city-of-daydream · 6 years
Text
1 証言:官能小説家
「使い古した玩具が、床を這う。敷妙の染みが、物言わず年季を語った。渦巻く痛みを叫び出しそうなほどの、焦燥。否。あれは、嫉妬。とでも言えようか。兎角、そうだな。歪曲せずには居られなかったのだ。幼子だったあの子を犯した熱は、この冷たく無慈悲な玩具に散ったのだから。」
0 notes