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実家の猫が死んだ。
4月3日、実家の猫のあみと最期のお別れをした。 4月1日の夜に「あみちゃんの元気がない」と父から写真付きのメールがあった。そこにはぐったりとベッドに横たわったあみの姿が写っていた。 その後、父と何回かメールのやりとりを交わしていたが、 最初のメールから2時間「天国に旅立った」と知らされた。 突然のことに、わたしは頭が真っ白になった。 奇しくもこの日は、エイプリルフール。 それは嘘よりもずっと酷な真実だった。 「夕方まではご飯も普通に食べて、500円玉を数えているときもちょっかいを出してきたり、ひとりで遊んだりしていたのに、夜になると急に身体に力が入らなくなったように床に横たわってしまった。いつも寝ているベッドに寝かせてやると、苦しそうに息をして、病院に連れていこうとおもったときにはもう息を引き取っていた。」 実家の最寄り駅まで迎えに来てくれた父は、運転しながらわたしにそう話し、バックミラーの向こうで涙を拭いていた。 わたしもそれを聞きながら泣いていた。 わたしが12歳のころ、 まだ子猫だったあみをもらってきた。 わたしはもうすぐ27歳になる。 あみは15歳、老衰だった。 母は「ティファニーで朝食を」がすきで、動物病院のポスターに劇中の茶トラに似た猫をみつけて、その子を飼おうと保護主に電話をしたら「もっといい猫がいる」といわれ、連れてきたのが、あみだった。 名前もこのころから「あみ」と名付けられいて、譲り受けたタイミングで変えればよかったのに、馬鹿正直なわたしたち家族は、保護主がつけたその名前をそのまま呼び続けた。 茶トラとは程遠い、白地にところどころ濃いこげ茶縞の斑模様の入った、ピンクの鼻がぺしゃっと潰れた猫だった。 しっぽがすこし鍵になっていて、保護主が「福猫ちゃんだから」としきりにいっていたのを覚えている。 あみはほかの猫に虐められていたため、別室に隔離され、その一部屋をたった一匹で独占していたらしい。 いまおもえば、はやく誰かに手渡したかったんだろう。 虐められていたからなのか、性格は大人しく臆病で、困ったイタズラをすることはほとんどなく、鳴き声も静かで利口な猫だった。 家に来た何日かは警戒して餌を食べず、カーテンの裏に隠れてしまっていた。 まだ小学生の弟が手に餌を乗せてやるとやっと食べてくれた。 昨日のことのようだけど、もう15年も前のことだ。 実家に帰ってすぐ、あみに駆け寄った。 ちいさな身体は、まるで眠っているかのようにまるく横たわり、冷たい肉球はその身体とは違って柔らかかった。 それでも、そこにいたのは もうわたしが知っているあみではなかった。 ここにいるものは、誰も知らない。 死がそこにあった。 家族はみんな泣いていた。 たったひとつのおなじ哀しみが横たわっていた。 もう、会えないのか、とおもった。 離れていても、生きていてくれるだけでよかった。 実家で生きている、とたまに思い出せればよかった。 でも、もう会えないのだ。永遠に。 ともに生きることを神様に誓うときはいつも、 永遠ではなく、 死がふたりを別つまで、だった。 死が境界線だと感じた。 ここまでだ、 ともに生きるのは、はっきりと、ここまでだった。 死こそが永遠だったのだ。 それでも一緒に生きていた日々があった。 そして生きているわたしたちには、 この先も生きていく日々がある。 有限の日々。 わたしたちは生きているから、 横たわるその永遠に、立ち止まることはできない。 哀しみから、立ち上がらなくてはならない。 どんなに痛くても、歩き続けなければならない。 生命と暮らすということ。 こころを動かすのはそこに生きている生命。 その生命を動かしているのはそこに生きている自分自身。 たくさんの生命がわたしのこころを揺する。 それは炎のようであったり、光のようであったり、 雨のようであったり、影のようであったり。 そんな生命たちが持つ、こころを揺するものを目の当たりにする度、わたしは嬉しくなる。 あみはわたしにとって、ひだまりのようであった。 わたしは、誰かのこころにあるろうそくの火を揺らす風になりたいとおもった。 光でなくていい。灯火でなくていい。たったひとりでいい。 ほんの些細な一瞬の風でいい。 わたしには、火を灯すことはできないかもしれない。 それでも誰かのこころをほんのすこしでも揺することができれば、 いつかわたしがあみとおなじ永遠の境界線に立ったとき、 自分自身が風であったことに気がつけるだろう。 それがいつか訪れる永遠の旅路への餞になるだろう。 あみちゃん、 いままでほんとうにありがとう。 安らかに眠ってね。 ずっと、だいすきだよ。 1 APR 2016
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