#青空フォ���
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【花桃(ハナモモ)】
今朝は少しパラパラと雨が降っていましたが、その後は素晴らしい晴天となりました!
画像は弊社のお向かいさん宅のハナモモです。
今年も綺麗に咲き始めています。青空に映えて良い感じです!(^^)
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パンドラ、その箱を開けて4
給水塔周辺は野次馬で溢れかえっていた。
ルネの知っている顔は殆どそこにあった。クラスメイトや店の客、キャンディ工場の従業員に学校の教師、パープルヘッドスポーツ用品店の若いバイトやビッグマンスーパーの店長もだ。
「自殺だろう。そうじゃなきゃどうして給水塔になんか……」
「助かると思う?」
「無理だ。地面を見てみろ、血溜りじゃないか」
「娘の同級生だ。可愛い子だったのにね」
「頭から落ちたの? 足から?」
「さぁね。でも体中血だらけで手足なんか全部滅茶苦茶に折れてたって」
「即死?」
「通して下さい! 通して! 知ってる子なんだ!」
ルネは叫びながら人込みをかき分けて進む。頭上から大人達の声が降り注いだ。断片的な情報はガラスのシャワーと化して彼のルネの心を突き刺した。
「まだ生きてる。手が動いてた」 「背中を痛めてなければいいけど」 「イグレシアスが通報したんだ。女の子が給水塔を上って行くって、危ないから止めてくれってさ」 「警察はすぐ来たんだろう?」 「訛りが酷いから悪戯電話だと思われて切られちまったんだ」 「はっ! どうしたって警察ってやつはいつもこうなんだ」 「イグレシアスはビュシェール婆さんの店に入って、彼女を引っ張って来たんだ。でも婆さん殆ど目が見えないだろう? イグレシアスがふざけてると思って取り合わなかった」 「通して下さい! 知り合いなんです! 退いて! 退いてったら!」 ルネは四つん這いになり、掌と膝に土をつけながら眼前の人々の足の間を通り抜けていく。時折指を踏まれたりもしたが、そんな痛みなど彼の心臓を握りつぶそうとする恐怖に比べればなんでもなかった。 かん高い女の叫び声が聞こえたが、声の主人が誰かはわからない。ルネは足の林を進み続ける。
やがて沢山の足の間から黄色い「立ち入り禁止」のテープが見えた。ゴールテープだ。 ルネはジーンズの男の足の間を通り抜け、更に前へと進んだ。もうすぐ人込みを抜けるという所で不意に手が滑り、危うく転びかける。手を滑らせた所を見ると、土が血に濡れて赤く湿っていた。 ルネは悲鳴を上げたが、それは更に大きな悲鳴に掻き消された。
立ち上がって人混みの最前列に出ると、藍色のワンピース姿の女が白衣の男達に取り押さえられているのが見えた。女は男達を振り解こうともがいている。
真っ赤に充血した目、耳もとまで裂けたように開いた口、乱れた髪、額には青筋が何本も浮き出ていた。彼女の耳もとで男達が「落ち着いてください!」と怒鳴っていたが、女には何も聞こえていないように見えた。 彼女の目は瞬きをせず、ただ一点だけを見つめていた。今にも目玉だけが眼孔から飛び出してその一点見つめる場所へ転がってい��てしまいそうだ。 女の視線の先に、ルネはジョゼットを見つける。
ジョゼットは仰向けに大地に横たわっていた。 顔は反対側を向いているので見えなかった。頭から血が流れでて、髪の毛は頭皮に近づくにつれて黒く変色している。まだ血の染みていない毛先は風が吹く度に滑らかにうねっていた。 厚みの無い肩に赤い穴が開いていて、そこから白い尖った物がニョキリと生えていた。
体の中で折れた彼女の骨が、肉を突き破って外に飛び出しているのだと気が付いた時、ルネの口の中にギトギトした油の味が広がった。
ケンタッキーフライドチキン。その味だ。
ルネにとって骨と言えば「それ」だった。
脂ぎった衣と肉の中にある筋張った物、固く、軽く、細い「それ」が骨だった。そしてコリコリと口の中で転がす軟骨の味、それが彼の知る「骨」の「存在」だ。だからこんな状況下で、その味を思い出してしまったのだ。
これからはケンタッキーフライドチキンを食べるたびに、ジョゼットの飛び出した骨を思い出すことになるだろう。表面に血の筋を幾つも走らせて、肉を突き破っているそれをだ。
昨日、ルネの太股の上に乗せられた柔らかい脹ら脛は、紫色の網タイツを履いたように変色して���る。 黄色いワンピースのスカートは腹まで捲れ上がり、肋骨の辺りに不自然なへこみが出来ているのを見せつけた。落ちる時にどこかで擦りむいたらしく、腰骨の辺りから脇腹にかけて真っ赤な線が走っていた。 王冠のプリントが縫い付けられた水色の下着の上を、大きな蟻が触覚をチロチロと動かしながら這い上がっていくのがルネに見えた。 流れ続ける血は草と土を汚し、彼女の髪とワンピースを湿らせる。彼女はひっくり返されたコップと化して、ただただ命を流れだしていく。 彼女は石のように静止していたが、右手だけは例外だった。
拳の肉が削げて骨が剥き出しになった手が蜘蛛の足のように指を動かし、土を掻きむしる。てんかん発作のそれと良く似た動き。筋肉の痙攣。そして収縮。
空から落ちて来たチラシが彼女の肉体の上に積もっていく。 レナルドの写真は「お願いです。妹を見ないでください。休ませてあげてください。もう十分です」と絶叫しているようにルネには見えた。
それはルネの心の叫びだった。 「その人を近付けないで! 早くタンカを!」 年輩の救急隊員が叫び続ける女を遠くに連れていくように命じると、女は増々かん高い声で叫んだ。先程までの音の震えとは違い、これは聞き取ることの出来る悲鳴だった。 「お願い、連れていかないで! その子まで連れて行かないで! 連れていかないで! 側に、私の側に! お願いします、お願いします、連れていかないでください! 神様!」 女は地面に四つん這いになり、大地に爪を深く食い込ませてジョゼットの方へ進もうとする。大の男三人掛かりでなんとか押さえ付けている。 「連れていかないで、ジョゼット! だ、め、だ、め、側にいるの、お母さんの側にいるの、ジョゼット、お願い、取らないで、私の、連れていかないで」 ジョゼットは救急隊員に持ち上げられてタンカに乗せられる。手は強く強く土を握り閉めていた。 ジョゼットの頭の方にいた隊員が叫ぶとタンカが持ち上げられた。その隊員が「サイ! フォ! サイ! フォ!」と短い感覚で叫ぶとそれに合わせて隊員達は足を動かし、タンカが運ばれていく。 ルネは黄色いテープの下を潜り、立ち上がってタンカを見つめた。 タンカが救急車に運ばれる前に向きを変える。今までルネに見えなかったジョゼットの顔が視界に映る。 ジョゼットは笑っていた。 大きく見開いた目の中で緑色の瞳がぐるりぐるりと左右ばらばらの方向に回転している。三日月型に開いた口の前歯は全て砕けて首の上に溢れ落ちていた。額から顎まで流れ伝う血は彼女の顔の上半分をバッドマンの仮面のように濡らし染めている。 「……あれはだめだよ、助からない」 見物人の誰かが呟いた声がルネの脳みそに染み込んだ。 ジョゼットが救急車に運ばれた時、奇妙な方向に捩じれてまがった彼女の足首がルネの目に入った。 踝の絆創膏。 ルネは意識を失った。
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