#ゾウを飲み込んだボア
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砂漠にしたたらせ星の夢
ある��家の回想。 大人ぶってる子供のぼくと、子供のような大人である彼の話。 モブ(作家)視点で語られるクロウリーの話です。捏造たっぷり。
「砂漠にしたたらせ星の夢」
彼と会ったのは、1935年のこと。 砂漠に不時着したぼくは、夜空にキラキラとした光が打ち上がるのを目の当たりにした。 不思議に思って見に行くと、誰かが、なにかキラキラとしたものを手の中で捏ねていて、それはポーンとボールのように空に上がったかと思うと、すうっと濃紺の夜空に消えていった。 ぼくは、見てはいけないものを見てしまったと言う気持ちで、そわそわとしながら砂の上で一夜を過ごしたのだけれども── 明け方、眠い目を開いてみると、砂漠に似合わない黒いスーツの男性が、サングラスをかけた目でぼくを見下ろしていた。 「よう。見ない顔だな」 そしてこの時初めて──ぼくは、彼が見事な赤毛であることを知った。 ❋ ここで何をしているのかを聞いてみると、赤毛の彼は「星を創っていた」といった。 にわかに信じられないので、宇宙人?と聞くと、そうかもな、と返事がきた。 どんな星を作ってるの?と聞くと、彼は「アルファケンタウリ」という名前を答えた。全く知らない名前だ。銀河系のほとんどの星は彼が作ったらしい。 自分��創った星についても、彼はいろんな話をしてくれた。とても楽しそうに。外見は30代くらいの大人なのに、無邪気な子供のようだった。 地球に来たのはなぜ?と聞くと、「仕事だよ」。人間界の監視だという。 長いの?と聞けば5000年は経つという(正確ではないそうだが)。 友達は?ひとりぼっちなの?と聞くと(あまりにも寂しい場所に、一人でいたものだから)親友がいる、と返事。 花のように可憐で、羽のようにふわり。それでいて気高く、優しくてお人好し、なのだそうだ。 その時強い風が吹いて、ポケットに入れていた落書きが、ちょうど彼の前に転がり出てしまった。 彼はそれを拾って「絵を描くのか」と言った。「うまいもんだ」 彼がぼくのボアの絵を見て、「実は俺も蛇なんだ。アフリカゾウくらい、俺だってひと飲みでいける」と言ったので、ぼくはびっくりした。今までこれをゾウを飲み込んだボアの絵だとわかった大人は、1人もいなかったものだから…… 「でも、絵描きになるのは、ずっと前にあきらめたんだ」とぼくがそう言うと、彼は心底驚いた顔で「あきらめた?」と叫んだ。「どうして?」 「それは……」と口ごもると、彼は5000年の間に見た色々な人間について話してくれた。王冠にこだわり続ける暴君、褒められることが気持ちよくって自滅した人、過去を顧みず、同じ過ちを繰り返し続ける人、全てを金に換金して考える人…… 特に嫌いだと言っていたのは、なんの疑問を持たず、ただ言われた通りに仕事をし続ける連中。面白くないんだそうだ。 「俺は、人間が今までやってきたこと、判断も、その結果も、全部見てきた。だが──ここ数世紀は特に退屈だ。大事なことを忘れてるんだ、どいつもこいつも。成熟した大人みたいな顔をしやがって。オマケにココ最近は何処も彼処も戦ってばっかで──みんな子供だったってのに」 突然ぼくに質問が飛んだ。「例えば、どうして潮は引くと思う?」 「それは、月の引力で……」 「そこなんだよ」 彼は、月が潮を引き寄せるのは、海に恋しているからだ、といった。ロマンティストだねと言うと、「お前だってそう言ったはずだ」と言った。(ぼくは、何も言えなかった。) それからぼくたちは、2人で絵を描き、夜が明けるまで、話をした。 ぼくが彼の絵を描き、彼は、男の子の絵を描いた。小麦色の金の髪をしていると言っていた。誰かと聞くと、1番大事にしてるもの、と恥ずかしそうにした。 「ものの本質は見てくれで決まらない。傍から見れば奇妙に見えるが、俺たちはそれでよ��ったりする」 という彼の言葉は、ぼくのお気に入りになった。 ❋ 夜が明ける頃、��前はもう帰らなければ、と彼が言った。 ぼくは壊れたままの飛行機を放置したままだったことをようやく思い出した。 でも、飛行機はどこにいったんだろう──? 「俺はお前を砂漠から助けてはやれないけど、手伝いはできる。運のいいことに、ここは俺の世界だし……」 どういうこと、と聞いても彼は何も答えなかった。代わりに彼はぼくにこう言った。 「想像することを許されるのは、人間だけだ。それは、俺達にはない、お前たちだけが持つ自由であり、権利だ」 「楽しむことを忘れるな。空想することを諦めるな。俺とお前が顔を合わせられたのも、もしかすると想像力ってやつのおかげかもしれないんだ」 そうして最後に彼は、ぼくに向かって笑いながら── 「俺は5000年そうしてきた。お前にもできるよ」 そう言って、指を鳴らした。 ❋ 気がつけば彼の姿はどこにもなくて、ぼくは直感的に、「元の場所に帰されたんだな」と感じた。 あいかわらず飛行機は壊れたままだったけれど、水だけはたんまり補給されていた。(おまけなのか、少しばかりの食料と。) ぼくは思わずポケットをさぐった。 出てきた紙は1枚だけで、ぼくが描いた赤毛の彼の肖像画はなくなっていた。代わりにポケットには、彼が描いた親友の絵だけが残っていた。 小麦色の、美しい金の髪…… 彼が手伝ってくれたおかげで、ぼくは奇跡的に生還できた。 時々、ぼくは夜空を見上げてアルファケンタウリを探すようになった。だから国に帰ったら、ぼくは、この不思議な出来事を本にしようと決めていた。彼から言われたことを忘れないように。ぼくと同じように、子供でいることを諦めた誰かのために。 書き出しはこうなるだろう。「ぼくが6つのとき、よんだ本にすばらしい絵があった」。題名はもう決めてあった。 "Le petit prince(星の王子さま)"。 でも── 許可をもらっていないから、主人公は赤毛にできないな、と考えて、ぼくは少しだけ、寂しくなった。 ❋ それからおよそ80年後。 ソーホーの由緒ある古本屋で、お人好しの天使が親友の悪魔とココアを飲みながら、話こんでいた。 「それじゃ、君が創った星の話を聞かせてよ、クロウリー」 「いいとも、天使サマ」それを聞いた赤毛の悪魔はにまっと笑うと、話し始めた。 「すごく小さな星を創ったんだ。ちっぽけだが、いい星だ。でもバオバブの種がたくさん埋まってるもんだから、逐一引っこ抜かなきゃいけない。でないと、星に穴を開けちまうから──」 ▼"ぼく"が描いたクロウリーの絵を、本人は今も大事にしまってある。
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