#アイロンで緩めの
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行屋虚彦 プロフィール
行屋虚彦 キャラ設定メモ
画家。 中学にはほとんど通わず、師である山雪のアトリエでいつも油絵を描いている。(油に限らずなんでも描く。カガリのドローイングの真似をしたりも) すでに画家として売れており、軌道に乗りつつある。 直人を超える早筆で多作。 自身の色覚障害を忌々しく思っており、それを才能だとは認めない。 母似の近寄りがたい面立ちをしているが、中身は普通の多感な15歳。
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作者から割り振った疾患・病名:感覚過敏、軽度の識字障害(他にも発達障害傾向がちらほら)、視覚認知に拠りすぎた脳、市販薬依存症(幼少期から偏頭痛の鎮痛剤を濫用・多量摂取していた)、900℃(アイロンの熱は200℃までらしいが)の火で焦がされた激痛を痛みのマックスと捉えている、オトガイ未発達、体質全般(行屋家の遺伝的要素でもある)。
本名:行屋虚彦(Ikiya Utsuhiko) PN:hollow あだ名:イキヤ
?小学校→?中学校→? 高校中退、もしくは高校進学せず中卒、絵の仕事で稼いで生きてる
手記本公式年齢:13,14,15歳 直人パート手記本登場時で15歳 ?年(平成?年)11月22日生まれ 蠍座 身長164〜168㎝ 体重49kg B型
家族構成: 実父:行屋疾彦 実母:耀屋七 (実娘:行屋瞳)
���間関係: 師:山雪穣、名廊直人 画家仲間:カガリ、ユーコ、花 アトリエ仲間:景一、ユーコ、繭、花 主治医:近所のにーちゃん:新屋敷佐
髪の色:黒 目の色:黒(虹彩の模様:?) 趣味:? イメージ:? モチーフ:シーラカンス、カラス、死神、妖精に拐われた人間の子(チェンジリング)、オオミズアオ、背骨・脊髄(ムカデ?)、行灯(幽霊の出ずるところ)(アンドンクラゲ→海の中で遭遇したときの死の予兆)、 誰にも傷つけられないから孤独な心
体質: ・常に過緊張・過覚醒状態。 ・弛緩できない。(薬で弛緩する) ・薄く細いが筋肉が尋常でなく強く怪力。 ・いつでもごく自然に「火事場の馬鹿力」を発揮する死の淵に立つ精神状態。怪力。 ・非常に痩せやすい。が、痩せ衰えて骨のようになっても「火事場の馬鹿力」に足る筋肉は落ちない。 ・体幹・腹筋が鋼鉄のように強い。 ・皮膚は柔らかくかつしなやか。健康状態にもよるが基本的には強い。状態がよければトキさんと同じくらいの強さになる。 ・日焼けでサンバーンを起こし、火脹れまみれになりやすい。が、放置しても火脹れを無理やり潰しても痛むだけですぐに皮が剥けて回復する。細菌感染などを起こさない。強い。 ・喉が弱く、退化している。 ・全感覚過敏。極寒でごまかしている。 ・肌を虫が這う感覚。蟻走感、コークバク、あるいはシャンビリ。 ・腑を他人からくすぐられて弄ばれ刺激される幻触覚の病。
外見: ・洗濯されすぎて色褪せた、古着の黒い細身のパーカーをよく着ている。(フードの膨らみの部分で猫背隠し&視覚が苦しいときに気休めにフードを深く被って視界を真っ暗にするため) ・両耳に黒曜石(天然ガラス)のピアス。(小学校低学年のとき、冷泉さんがくれた。「二度と他人に同じ真似を強いることのないように 情動に飲まれそうになったらこのピアスに触れて思い出せ」) ・右胸から肩にかけてアイロンでひどく焦がされた火傷の痕がくっきりとある。(本人は、人体の上にあまりにも無機質なアイロンの型取りがあるさまを、他者から見ると不気味で気持ち悪いだろうと冷静に思っており、迂闊��見せない) ・目の下にはいつもクマがある。(母親をずっと緊張して気にかけて生活していて、不眠症。) (ベッドでしっかり横になって寝るのが苦手で、よく床に座って壁に背をつけた姿勢で少しだけ仮眠をとれている) (身体から力を抜いてリラックスしたりくつろいだり弛緩することを恐れている) ・独特の上斜視のような三白眼の目つきは、生来は母親と同じ大きく見開かれた四白眼。幼少期の顔立ちは四白眼である。幼い頃からの、面前DVや頭痛や市販薬の乱用やトラウマやPTSDなど複合的な身体的・精神的ダメージによって眼瞼下垂が進んだ姿。加齢とともにさらに瞼を持ち上げていられなくなっていき、常に眩しそうな・苦痛に耐えるような・疲れ果てたような、かなりの伏目の目つきになっていく。 (イキヤ(とトキさんも)の目元の表情、「満ち足りることを知らない常に餓えきった」ようなものを宿してる 初期コンセプト) ・病的に痩せきった骨と筋の目立つ薄い身体。体幹は強い。 ・肌は蒼白い。 ・顎が小さく細く弱い。口が開きやすくて、喉が乾燥したり炎症したりしやすい ・が、常に緊張状態で口を開けるのを恐れてもおり、口の中の肉をいつも噛んでしっかり閉じている。 ・喉がとても弱い。使えば痛み、熱く熱をもつ。少し話し込んだだけで声が掠れて裏返りだす。あまりにも他人との会話や発声を必要としなかった+話して言葉にすると自分の視覚がバレるため黙っていたため、喉が退化した。 ・人目のある場所では全身に緊張が駆け巡っていておそろしく姿勢がいい。一人きりの時間だけ、身体の苦しみを庇うように自然と猫背になりがち。 ・腹筋(体幹)がとにかく強い。腹とか腰とか薄くて細いけど、げっそり肋から下が削れて抉れてたりはしなくて、木刀で横薙ぎに腹にフルスイングして打ち込んでもびくともしないみたいな。 ・手は引っ掻いて怪我しないように深爪ぎみに爪を切る。痩せきった老人かあるいは生命力みなぎる飢えて痩せきった猛獣のよう。指がまっすぐでなく歪んでいるのは筆を持ったりして酷使しすぎたせい。痩せかたと筋や骨や血管は幼い頃からどこか老人のような手をしている。 ・感覚過敏。極寒でごまかしている。 ・肌を虫が這う感覚。コークバク、あるいはシャンビリ。 ・思春期を過ぎてイライラが落ち着いてからは、感覚過敏について開き直り受容し、感触フェチになる。不必要なものでも感触が好きなものは買う。布ものや紙などなんでも。 ・酒���飲めない? 幼い頃に大人から飲まされた酒で急性アルコール中毒で倒れて死にかけて以来、酒を飲んだことがない。
内面:?
エピソード:オオミズアオ標本、オオミズアオ もう死ぬ、って時に殺して標本にした
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ある画家���手記if.14 画家
知り合いの画家の主催するパーティ
上品で無菌の空間はあの人を連想する。 どこかにいて誰かのことを思い浮かべることは稀だけど、あの人は幽霊のようにいつでも唐突に現れる。 家にこのホテルのようなシャンデリアやホールはなかったけど、あの人と似ている。 背筋を正して張り詰めていなければ何もかも崩れてしまいそうで誰も弛緩できない、そんな空間をあの人は居るだけでどこにでも作った。 その空間で許されることはとても少ない。 徹底して清潔で、存在するに足るものや言うに値することしかあってはならない。 そんな意味ではパーティなんてあの人からは遠いものだけど、僕を威圧する何かが似ている。
「おい。あんま飲むなよ」 持っていたグラスのアルコールをちまちま口に運んでいると、どこからか横にきた冷泉に突っ込まれた。 こういう特殊な場所でも冷泉は自在にうまく動き回れる。 「なんか…悪寒がして。お酒を飲んだら温まるかなって」 「悪寒っつーか人の視線だろ。今回もやたら見られてるぞ」 人の視線。気づいてなかったな。みんながこっちを向いてるわけでもないのにそんなのに気づけないな。 「気分…悪くなってきた…」 「ここで吐くなよ。化粧室は出て左。まぁたまにはこういうストレスも身に浴びとけよ」 見られてる。なんでだろう。いつもよりきちんとしてるのに。最近まで入院してたせいかな。 「もう少しだらしない風にセットしてやればよかったか」 僕を見ながら冷泉はしてやりがいのなさそうな顔になっている。僕をドレスコードに通すために着付けたりセットしてくれるのはいつも全部冷泉だ。間違いのないセンス。 だけど僕には色々と窮屈で息が苦しい。 少し座りたいけどアトリエにあるような親切なソファはどこにも見当たらない。 「それよかいいのか。なんかあの子ずっと質問ぜめになってるぞ」 「…え。」 あの子。 そうだった。 今日は僕だけじゃなかった。 ホールをきょろきょろ見回すとピアノの近くに少しひとが溜まっていて、人影の向こうに見慣れた頭の形があった。 「早く言ってくれ…」 近くのテーブルにお酒を置いて、代わりに水の注がれたグラスを両手に持つ。 取り囲まれている香澄にまっすぐ寄っていくと、周囲の人は僕が来たのを知るや否やすっと道を開けて通してくれた。かき分ける必要もなかった。こういう場所での人の動きも謎が多い。 「香澄。大丈夫?」 簡単に近寄れたのでそばに立って右手のグラスの��を差し出す。 顔色が悪いように思ったけど、今日は傷跡を薄く見せる化粧をしてるせいかもしれない。 完全に消えてはいないけど冷泉が器用に手早く施した化粧は傷の凹凸やまだらな色素を抑えていた。 まつ毛や虹彩や眉が映えて、髪も綺麗に上げている。 「ありがと……これってお酒?」 「ただの水だよ。酔ってない?」 「うん、多分」 なんてことない普通のやりとりなのに、ずっと見てるひとがいるせいで落ち着かない。 僕の斜め後ろにいたひとが僕の方へ気持ち手をかざして何か尋ねようと、して口を開けた、とき、 まったく違う場所、ホールの出入り口あたりから何か大きなクラッカーのなるような騒音がして みんながそっちを見た ホールの中はこれまでどちらかというとまだみんな抑えた声量で、賑やかとまではいってなかったけど、急に全体の声量が上がった その中でも誰にも混ざらない通る声量が聴こえてきた 「あっ ピアノ!でかいほうのピアノあるじゃん! 俺弾く!」 出入り口に集まった人の群れから床を転がるようにして出てきたのは僕の嫌いな人間だった。 「香澄、おいで」 つられて香澄もそっちを見ていたのを、手を引いてこのタイミングでホールの隅の方に退散する。 高い天井から下がった分厚いカーテンの向こうに少しの空間がありそうだったのでそこに香澄を押し込んで自分も入るとカーテンの分れ目を綺麗に合わせて隠した。 灯りがなくて少し暗いけどホールの照明に当てられてるより随分気は楽だった。 「…疲れた、ちょっと、休ませて…」 そんなに広い空間でもない、今日は使われてないみたいだけど大きな高そうなソファや背の高いランプが、とりあえずという風に並べられている。 別な催しの時には使われるのかもしれない。そのソファを少し借りる。小さなテーブルの上に水のグラスを置いて、香澄の腕を引いて自分の腕の中に後ろから抱き込んでソファにぐったり体を預ける。これでアトリエと同じ状態。 かいじゅうくんにするみたいに香澄の頭に顔を押し付ける。いつもと違う整髪料が少し気持ち悪い。 「な…直人、ちょっと」 「…ん、…何」 「上着だけでも脱がせてよ、先生の私物なのに皺になっちゃう」 「いいよ…どうせ人に着せたら慧はクリーニングに出すし」 綺麗に着ても一度他人が触れたものは徹底滅菌される、潔癖というか、…ひとのことが嫌いなんだ。誰でも関係なく。僕も例外じゃない。 そういうところ、なんとなくあの人を連想する。場所がよくないのかな。 「でも、出ていけなくなるって」 香澄がいつまでも落ち着かないでもぞもぞするので、仕方なく上着を脱がせてソファの背もたれに伸ばしてかけた。 さっきより抱いた時の感触が人肌に近くて温かい。 綺麗に糊の張ったワイシャツの上から体を��でると普段より鋭い衣摺れの音がする。 綺麗な白いシャツ。整然と折り目正しくアイロンのかかった無菌無臭のもの。 追いやられた場所に相応しくない繊細な刺繍の入った豪華で大きなソファ。 余計なものを連想する。 手に触れた香澄のシャツの邪魔なボタンをいくつか外して開いたところに手を入れてまさぐる。 下に何も着てないから直に肌に触れられて少し息が楽になった。 ホールからピアノの音が響いてくる。カーテンひとつぶん遮られた音は膜がはったみたいに程よく耳に優しい。 香澄の背中に頭を擦りつけて甘える。 「…僕、こういうところに向いてないよね」 「……服は似合ってるよ」 「…そうかな。そういうセンスないんだ」 人任せ。 脱ぎたいけど似合ってるなら脱がないでおこう。 香澄の首筋に噛みつく。かいじゅうくんにするみたいに甘噛みする。 「…痕残しちゃだめだよ」 「ん……」 痕が残せないならと思って、香澄の体をソファに寝かせて僕の方を向かせる。上に覆いかぶさって唇に口付ける。 顔を傾けたときに香澄が口を開けたのを逃さずに深く舌をいれる。 衣擦れの音より水っぽい唾液の絡む音の方が耳を占める。 僕がお酒を飲んでるから香澄にも移りそうだな。 片手で香澄の足をなぞって根元を解すように揉むと香澄が小さく体を跳ねさせた。 「誰もこないよ」 こういうとき、誰もこないようにしてくれるから。 「香澄、大丈夫」 香澄の頭を乗せていた自分の腕をひっくり返して腕時計を見る。パーティが終わるまでまだまだ時間がある。 いつもより体を強張らせて力を抜かない香澄のシャツのボタンを全部外してしまう。頑丈な腰のベルトを解いて前を開ける。 「すぐ終わるから…」 ワイシャツの下に隠れた肌に舌を這わせて痕を残す。 アルコールでは温まらなかった体が少しずつ熱くなってきて、狭い空間に篭った湿度でやっと息が思うようにできるようになった。 このまま乱してしまおう、綺麗なシャツとか豪華なソファを台無しにすればもっと楽になる。 カーテンで隔たれたすぐそばをひっきりなしにひとの気配が行き来する。 いつまで経っても体から緊張を絶やさない香澄を口先で宥めながら、 息はできてもどこかから見張られているような感覚が拭えなくて、 それを振り払うために僕は香澄を無視した。
(補足、冷泉慧鶴視点) 続き
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こんばんは!
今日はCUREのメニューの一部ご紹介!
髪質改善トリートメントです♪
今世間にある髪質改善トリートメントは大きく2種類になってます。
一つは重ねて髪につけることてまトリートメントの効果が高まっていき、髪の内外にトリートメント剤をたっぷり含ませるもの。
一つはキューティクルの捻れをお薬で緩めてアイロンをして髪の表面を整えながら、一緒に水分量も整えてあげるもの。
CUREの髪質改善は後者になります。
表面を整えてあげるのでツヤもでますし、ごわつきがとれます。また家でのトリートメントのノリが良いです。
ぜひ一度試してみてください☆
京都府向日市寺戸町27-2
+CURE biotope
tel:0755950051
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ここ数日の日記
20210223
ここ数日暖かかった気が緩んでいるが、寒い日だった。というか、日中は室内にいたこともありそこまで寒さを感じなかったのだが、夜はかなり冷えた。でもまあ寒いけど、やっぱり冬真っ盛りの時期とは冷え方が違くて、なんとなくどことなく春を感じるような寒さだ。
仕事でキュウキュウしながらボンガで遊ぶ。マッチ率が高いなと思ったら、そうだ祝日だったのだ。初戦でパイにゃん(私)ウルシちゃんあとはCOMという編成で私の力及ばず負けてしまったのだが、ウルシちゃんが丁寧にチャットを打って下さりとても嬉しかった。私もああいうマスターになりたいな。
そんなこんなでスーパースターからスターに後退し、スパスタ復帰をかけた第2試合は聖邪1ウルシちゃん。前衛厳しいかなあと思ったのだがなんとかなって、無事スパスタ復帰。あやうい位置で花火隠れ打ったりしたのだが、ネック越えれてよかった。
第3戦のアクア城シロちゃんでは、相方のウルシちゃんと息が合って上手い具合に攻めることが出来た。
いい感じで試合を終えて、さあこれからもマップ詰めてくぞ!……と思っている辺りにマップ更新ってくるんだよねー。ということで、またこれからものんびり頑張ります。
*
夜はとても久しぶりにパソコンでお絵描きをする。前から気になっていた手描きドロー&ツイートを試してみた。軽いし、操作がシンプルで簡単だし、なによりツイッターにそのまま上げられるのが助かる。気軽��使えて良いなあ。また使ってみよう。
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20210224
満を持して病院へ行った(満を持して、というのはただ単に腰が重かったということの比喩です)。
予約も特にとらなかったのだが、そんなに��たずして診察してもらえてよかった。そもそもの要件にプラスして花粉症の旨も伝えたところ、アレルギー系ということで薬を一本化してもらい、目薬も出してもらった。これでしばらくは安心だ。
帰りにスーパーへ寄って買い物をして帰る。あまりにも風が強くて、手に持っていたリサイクル行きの諸々を詰めた袋の中からたまごパックが飛び出し、追いかけて駐車場を疾走する。天気は良く日差しもたっぷりあるが、とにかく風が冷たい。まだ2月なんだもんな。
帰宅して、アイロンをかけて、部屋の掃除をする。換気がしたくて、気合いで窓を開けた。寒かったけれどすっきりする。
何をした訳でもないのだけれど、夜はとても眠くて、知らないうちに寝てしまっていた。
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20210225
今日は母と共にデパートへ行く。前々から行こう行こうと話していたのを、やっと決行した。文房具を買ったり、たぬきつのキーホルダーを買ったり、たこ焼きを買ったりする。あと小さなバインダーとルーズリーフも買う。これにボンガ関係のメモをしていくつもり。
*
午後はのんびりしつつ、所用を済ませに郵便局へ行く。実は一度車で出たのだが、帰ってきてからひとつ用を済ませるのを忘れたということに思い当たり、またばたばたと出かけたのだった。ガソリン節約のため、2度目は徒歩で行く。歩きながら、そういや久しく散歩ってしてなかったなあと思った。この冬は寒く、歩きづらい日々が長く続いたのもあって、ぶらぶら歩く、歩きたくてただ歩くということをしばししていなかった。体力も落ちるだろうし、春になったらまた歩かねば、というより、歩きたい気分になるかな。
*
明日は仕事の都合で早く起きなければならない。と言いながら、最近寝ても寝ても眠いので、知らないうちに寝ちゃいそうだ。
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20200708
起きると出宅予定の2分後になっていた。アイロンをかけなくてすむデニムを履いて、家を出た。今年度はデニムを履かないと決めていたのに。最近、気持ちが緩んでいると思っていた矢先の寝坊だ。���を引き締めなくては。
昼、公園でレーズンサンドを食べながら無為な時間を過ごした。
夜、湯船に浸かる。できたら銭湯に行きたい。本当は温泉に行きたい。おもいっきり洗い流したい。
就寝前、寝床でヨガをする。
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おめでとう
それはとても淡々と短々に簡単な言葉でできた短編集。
決まって見開き2ページ目から私と〇〇さんの二人の物語が始まる。
物語毎の「私」は、男性と女性とも限らないし、人同士とも限らない相手を思い煩っていることが多い。
盛り上がりのない緩やかな文の所々に見えるクセが、登場人物のちょっとしつこいとこや、ひねくれたとこを表している。
時折あるトゲついた鋭い一言や、早回しは感情を強く見せる。その力強さに押されて本の中にタイプされている言葉が早送りされる。実際は私がせわしなく読み進めているだけなのだが。
愛することや好きだった気持ちについてが多くで、奇しくも私は共感してしまった。共感という言葉は安っぽくてあまり好きではないけれど、使いやすさが故つい手を出してしまう。語彙力のない自分を恨むほかない。
多くはこの記憶につながった。
去年の今ごろ、好だった人を嫌いになってしまった。好きだった人のことを好きでいたかった。
好きでいると思ったのに、いざその人を目の前にした時、彼のどこを好いていて何に惹かれて自分の時間を使ってきたのだろうか全く分かたなくなった。
幻滅に近い冷め覚め。
過去の自分をバカにしたみたいで今もそのモゾモゾを解決できていない。 ちょうどそんな気持ちを写した話があった。読みながら自分のそれが思い起こされて、去年の日記を反芻した。自分も話の中の彼女も、きっと幻想に近い記憶を好いていた。記憶の中には私の好きな彼が冷凍保存されて生き続ける。現実への好きは死んだけど、過去は保存されるからずっと好きでいられるのかもしれない、記憶を。
一番初めに出会った物語が特に印象的だった。私目線の、私とタマヨさんの話。
いまだ覚めず
その一説
『タマヨさんが立って手招きした庭には大きな籠、人が二人隠れるくらいの大きな籠が置いてあった。』
わざわざ「大きな籠」と、同じ言葉を二回繰り返す。
その後も、籠について続ける。
『妙な籠だった。嫌に大きいその大きさが、まず籠として妙だった。庭にそのような大きい籠をわざわざ置くのも、妙だった。』
籠の可笑しさ、「奇妙さ」を今度はわざわざ言い方を変えて二回言う。
その妙な籠の中には白鳩が飼われている。その白鳩を「私」はうっとうしく思う。「私」が知っているタマヨさんは動物嫌いなのに、白鳩は飼い慣らされ群れになって空をぐるぐるしている。妙な籠は「私」が知っていた頃の彼女、タマヨさんではないことを知らしめてる。
その様がうっとうしいのはきっと、「私」の知らないタマヨさん、つまり「私」が好きだったタマヨさんではないことを知らしめるものだから。
白鳩をうっとうしく思う「私」をタマヨさんは見透かし、「私」を籠の中に誘う。今の私を受け入れて、というように。断れない「私」はタマヨさんに連れられ籠に入ってしまう。そして、彼女の好きは息を吹き返した。
タマヨさんは好きを生き返らせてしまった。
『タマヨさんが撮ってくれた十二年前のあたしの写真が、くしゃくしゃになって手提げの中に入っていた。くしゃくしゃを伸ばそうとしたが伸びないので、アイロンをかけたら、12年前のあたしは、とたんに焦げてしまった。タマヨさん、とつぶやこうとしたが、寒くてへんな声しか出なかった。』
物語はこれで終わる。焦げた昔、生き返って今度は殺された。
私は成仏できてよかったと思った。生まれ変わったら何になろう。
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NoxRika
桝莉花
朝、目を覚ますと、「もう朝か」とがっかりする。希望に満ちた新しい朝起なんてほとんどなく、その日の嫌な予定をいくつか乗り切る作戦を練ってから布団を出る。
マルクスの「自省録」を友人に借りて読んだ時、初めは偉そうな言いぐさに反感を持ったが、日々の中で些細な共感をするたびに、ちょっとかっこいいんじゃないかなどと思うようになった。嫌な予定を数えるだけだった悪い癖を治すため、そこに書いてあったような方法を自分なりに実践している。半ば寝ぼけているから、朝ごはんを食べている時には、どんな作戦だったかもう思い出せない。
ただ、担任の堀田先生に好意を寄せるようになってからは、今日も先生に会いに行こう、が作戦の大半を占めている気がする。
リビングへ出ると、食卓には朝食が並んでおり、お母さんが出勤姿で椅子に半分くらい腰掛けてテレビを見ていた。
「あ、莉花。見てニュース」
言われた通りにテレビに目を凝らすと、映っていたのはうちの近所だった。
「えー、引き続き、昨日午後五時頃、○○県立第一高等学校で起きました、無差別殺傷事件の速報をお伝えしております」
全国区のよく見知ったアナウンサーの真剣な顔の下に、速報の文字と四名が現在も重体、教師一名を含む三名が死亡とテロップが出た。
「えっ、これって、あの一高?生徒死んじゃったの」
お母さんは眉根を寄せ、大げさに口をへの字にして頷いた。
「中学の時のお友達とか、一高に行った子もいるんじゃないの?」
しばらくテレビの画面を見詰めながら考えを巡らせた。お母さんは「大変大変」とぼやきながら立ち上がり、
「夕飯は冷蔵庫のカレーあっためて食べて��」
と家を出て行った。
中学の時��一緒にいた友だちはいるけれど、知りうる限り、一高に進学した子はいなかった。そうでなくても、今はもうほぼ誰とも連絡は取り合っていないから、連絡したところでどうせ野次馬だと思われる。
地元の中学校に入学して、立派な自尊心となけなしの学力を持って卒業した。友だちは、いつも一緒にいる子が二人くらい居たけれど、それぞれまた高校で「いつも一緒にいる子」を獲得し、筆マメなタイプじゃなかったために、誕生日以外はほぼ連絡しなくなった。誕生日だって、律儀に覚えているわけじゃなくて、相手がSNSに登録してある日付が私の元へ通知としてやってくるから、おめでとう、また機会があれば遊びに行こうよと言ってあげる。
寂しくはない。幼いことに私は、自分自身のことが何よりも理解し難くて、外界から明確な説明を求められないことに、救われていた。友だちだとかは二の次で、ましてやテレビの向こう側で騒がれる実感のない事件になんて構ってられない。
高校で習うことも、私にはその本質が理解できない。私の表面的なものに、名前と回答を求め、点数を与えて去っていく。後にこの毎日が青春と名乗り出るかも、私には分からない。気の早い麦茶の水筒と、台所に置かれた私の分の弁当。白紙の解答用紙に刻まれた、我が名四文字の美しきかな。
学校に着いたのは七時過ぎだった。大学進学率県内トップを常に目標に掲げている我が高校は、体育会系の部活動には熱心じゃない。緩く活動している部活動なら、そろそろ朝練を始めようという時間だ。駐輪場に自転車を停めると、体育館前を通って下駄箱へ向かうのだが、この時間だと、バスケ部の子たちが準備体操をしていることがあり、身を縮こまらせる。今日はカウントの声が聞こえて来ないから、やってないのかな。横目で見ると、女子バスケ部に囲まれて体育館を解錠する嬉しい後ろ姿が見えた。
担任の堀田先生だ。
そういえば、女子バスケ部の副顧問だったな。
背ばっかり高くて、少し頼りない猫背をもっと眺めたかったけれど、違う学年の、派手な練習着の女子たちに甲高い声で茶化されて、それに気だるげな返事をしている先生は、いつもより遠くに感じた。あ、笑ってる。
いつも通りに身を縮こまらせて、足早に玄関へ駆け上がった。
出欠を取るまでまだ一時間半もあり、校内は静まり返っていた。
教室のエアコンを点け、自身の机に座り、今日の英単語テストの勉強道具を机に広げた。イヤホンをして、好きなアイドルのデビュー曲をかけ���。
校庭には夏季大会を前にした野球部員たちが集まり、朝練にざわつきだす。イヤホンから私にだけ向けられたポップなラブソングを濁すランニングのかけ声を窓の向こう側に、エアコンの稼働音だけが支配する教室。
「おはよー」
コンビニの袋を提げて入って来た風呂蔵まりあは、机の間を縫い縫い私に近寄って来た。
イヤホンを外しておはよう、と返すと、彼女はそのまま私の前の席に座った。片手でくるくるとした前髪をおでこから剥がし、もう片手に握ったファイルで自分を仰ぎながら、馴れ馴れしく私の手元を覗き込んだ。
「早くない?」
「小テストの勉強今からやろうと思って」
「え、やるだけ偉くない?私もう諦めてるよ」
目の前で手を叩いて下品に笑う。
「いや、普通にやっといた方がいいと思うけど」
叩きつけるような返事をした。
手応えのないコミュニケーション。読んでいた分厚い英単語帳を勢いよく窓から放り投げ、そのまま誤魔化すように浮遊する妄想と、バットとボールが描く金属音の放物線。オーライ、オーライの声。空虚な教室の輪郭をなぞり、小さくなって、そのまま消えた。
「いやー、はは」
向こうが答えたのは、聞こえないフリをした。
まりあとは、限りなく失敗に近い、不自然な交友を持ってしまった。中学を卒業し「いつも一緒にいる子」と離れ、高校に一年通っても馴染めず焦った私は、次なる友だちを求め私よりも馴染めずにいたまりあに声をかけた。短期間で無理やり友だちを作った私は、学校へ来ることが苦手な彼女に優しく接することを、施しであり、自分の価値としてしまっていた。その見返りは、彼女のことを無下に扱っても「いつも一緒にいる」ことだなんて勝手に思い込み、機嫌が悪い時には、正義を装った残酷な振る舞いをして、彼女を打ちのめすことで自分を肯定していた。
出会ってからすぐに距離が縮まって、充分な関係性を築き上げる前からその強度を試すための釘を打っているようなものだ。しかし、人を穿って見ることのできない彼女は私を買い被り、友人という関係を保とうと自らを騙し騙し接してくる。それもまた癪に触った。要はお互いコミュニケーションに異常があるのだ。でも、それを異常だとは言われたくない、自分の法律を受け入れて友だちぶっていてほしい。それは全くの押し付けで、そのことに薄々気付きながらも、目を背けていた。
ちょっとキツい物言いで刺されても、気づかないふりするのが、私たちだったよね。あれ、違ったかな。
しかし、もともと小心者な私は、根拠のない仕打ちを突き通す勇気はなく、すぐに襲い来る罪悪感に負け、口を開いた。
「あ、ねえ…ニュース見た?一高の」
「知ってる!やばくない?文化祭で生徒が刃物振り回したってやつだよね?めっちゃかわいそう。びっくりしてすぐに一高の友達にラインしたもん」
「何人か亡くなってるらしいじゃん」
「え、そうなの、笑うんだけど」
「笑えないでしょ」
それが、彼女の口癖なのも知っていた。勘に触る言葉選びと、軽薄な声。最早揚げ足に近かった。
「あー、ごめん。つい」
片手をこめかみに当て、もう片手の掌をみなまで言うなと私に突き出してくる。この一瞬に関しては、友情なんてかけらもない。人間として、見ていられない振る舞いだった。
「ごめん」
また無視した。小さな地獄がふっと湧いて、冷えて固まり心の地盤を作って行く。
ただ、勘違いしないで欲しい。ほとんどはうそのように友だちらしく笑いあうんだから。その時は私も心がきゅっと嬉しくなる。
黙り込んでいると、クラスメイトがばらばらと入���て来て教室は一気に騒がしくなり、まりあは自分の席へ帰っていった。ああ全く、心の中にどんな感情があれば、人は冷静だろう。愛情か、友情か。怒りや不機嫌に支配された言動は、本来の自分を失っていると、本当にそうだろうか。この不器用さや葛藤はいつか、「若かったな」なんて、笑い話になるだろうか。
昼休みの教室に彼女の姿は無かった。席にはまだリュックがあって、別の女子グループが彼女の机とその隣の机をつけて使っている。私は自分の席でお弁当を広げかけ、一度動きを止め片手でスマホを取り出し「そっち行ってもいい?」とまりあにメッセージを送った。すぐに「いいよ!」が返ってくる。お弁当をまとめ直して、スマホと英単語帳を小脇に抱えて、教室を出た。
体育館へと続く昇降口の手前に保健室があり、その奥には保健体育科目の準備室がある。私は保健室の入り口の前に足を止めた。昇降口の外へ目をやると、日陰から日向へ、白く世界が分断されて、陽炎の向こう側には、永遠に続く世界があるような予感さえした。夏の湿気の中にもしっかりと運ばれて香る校庭の土埃は、上空の雲と一緒にのったりと動いて、翳っていた私の足元まで陽射しを連れてくる。目の前の保健だよりの、ちょうど色褪せた部分で止まった。毎日、昼間の日の長い時間はここで太陽が止まって、保健室でしか生きられない子たちを、永遠の向こう側から急かすのだ。
かわいそうに、そう思った。彼女も、教室に居られない時は保健体育の準備室に居る。保健室自体にはクラスメイトも来ることがあるから、顔を合わせたくないらしい。準備室のドアを叩くと、間髪入れずに彼女が飛び出てきた。
「ありがとねえ」
「いいよいいよ、もうご飯食べ終わった?」
二人で準備室の中に入ると、保健室と準備室を繋ぐドアから保健医の仁科先生が顔を出した。
「あれ、二人一緒にたべるの?」
「は��」
私はにこやかに応えた。その時に、彼女がどんな顔をしていたかわからない。ただ、息が漏れるように笑った。
先生の顔も優しげに微笑んで私を見た。ウィンクでもしそうな様子で「おしゃべりは小さい声でお願いね」と何度か頷き、ドアが閉まった。準備室の中は埃っぽくて、段ボールと予備の教材の谷に、会議机と理科室の椅子の食卓を設け、そこだけはさっぱりとしている。卓上に置かれたマグカップには、底の方にカフェオレ色の輪が出来ていた。
「これ、先生が淹れてくれたの?」
「そう、あ、飲みたい?貰ってあげよっか」
「…いいよ」
逃げ込んだ場所で彼女が自分の家のように振舞えるのは、彼女自身の長所であり短所だろう。遠慮の感覚が人と違うと言うか、変に気を遣わないというか、悪意だけで言えば、図々しかった。
ただ、その遠慮のなさは、学年のはじめのうちは人懐っこさとして周知され、彼女はそれなりに人気者だった。深くものを考えずに口に出す言葉は、彼女の印象をより独り歩きさせ、クラスメイトは彼女を竹を割ったような性格の持ち主だと勘違いした。
当然、それは長くは続くはずもなく、互いの理解と時間の流れと共に、彼女は遠慮しないのではなく、もともとの尺度が世間とずれている為に、遠慮ができないのだと気付く。根っからの明るさで人と近く接しているのではなく、距離感がただ分からず踏み込んでいるのだと察した。
私は、当時のクラスの雰囲気や彼女の立場の変遷を鮮明に覚えている。彼女のことが苦手だったから、だからよく見ていた。彼女の間違いや周囲との摩擦を教えることはしなかった。
彼女は今朝提げてきたコンビニの袋の口を縛った。明らかに中身のあるコンビニ袋を、ゴミのように足元に置く。違和感はあったけれど、ここは彼女のテリトリーだから、あからさまにデリケートな感情をわざわざ追求することはない。というか、学校にテリトリーなんてそうそう持てるものじゃないのに、心の弱いことを理由に、こんなに立派な砦を得て。下手に自分の癪に触るようなことはしたくなかった。
「あれ、食べ終わっちゃってた?」
「うん。サンドイッチだけだったからさ」
彼女の顔がにわかに青白く見えた。「食べてていいよ」とこちらに手を伸ばし、連続した動作で私の手元の英単語帳を自分の方へ引き寄せた。
「今日何ページから?」
「えーっとね、自動詞のチャプター2だから…」
「あ、じゃあ問題出してあげるね。意味答えてね」
「えー…自信ないわあ」
「はいじゃあ、あ、え、アンシェント」
「はあ?」
お弁当に入っていたミートボールを頬張りながら、彼女に不信の眼差しを注ぐ。彼女は片肘をついて私を見た。その視線はぶつかってすぐ彼女が逸らして、代わりに脚をばたばたさせた。欠けたものを象徴するような、子供っぽい動きに、心がきゅっと締め付け��れた。
「え、待って、ちょっと、そんなのあった?」
「はい時間切れー。正解はねえ、『遺跡、古代の』」
「嘘ちょっと見せて。それ名詞形容詞じゃない?」
箸を置いて、彼女の手から単語帳をとると、彼女が出題してきたその単語が、今回の小テストの出題範囲ではないことを何度か確認した。
「違うし!しかもアンシェントじゃないよ、エインシェント」
「私エインシェントって言わなかった?」
「アンシェントって言った」
「あー、分かった!もう覚えた!エインシェントね!遺跡遺跡」
「お前が覚えてどうすんの!問題出して!」
「えー、何ページって言った?」
私が目の前に突き返した単語帳を手に取って、彼女が嬉しそうにページをめくる。その挙動を、うっとりと見た。視界に霞む準備室の埃と、彼女への優越感は、いつも視界の隅で自分の立派さを際立つ何かに変わって、私を満足させた。
「午後出ないの?」
私には到底できないことだけど、彼女にはできる。彼女にできることは、きっと難しいことじゃない。それが私をいたく安心させた。
「うん。ごめんね、あの、帰ろうと思って」
私は優しい顔をした。続いていく物語に、ただ次回予告をするような、明日会う時の彼女の顔を思い浮かべた。
「プリント、届けに行こうか。机入れておけばいい?」
私は、確信していた。学校で、このまま続いていく今日こそ、今日の午後の授業、放課後の部活へと続いていく私こそ本当の物語で、途中で離脱する彼女が人生の注釈であると。
「うん。ありがとう。机入れといて。出来ればでいいよ、いつもごめんね」
お弁当を食べ終えて、畳みながら、彼女の青白い顔が、心なしか、いつもより痛ましかった。どうしたのかと聞くことも出来たが、今朝の意地悪が後ろめたくて、なにも聞けなかった。
予鈴が鳴って、私が立ち上がると、彼女がそわそわし始めた。
「つぎ、えいご?」
彼女の言葉が、少しずつ私を捉えて、まどろんでいく。
「うん。教室移動あるし、行くね」
「うん…あのさ、いつもさ、ありがとね」
私は、また優しい顔をした。
「え、なんで。また呼んでなー」
そのまま、準備室を出た。教室に戻ろうと一歩を踏み出した時、背中でドアが開く音がした。彼女が出てきたのだと思って足を止め振り返ると、仁科先生が保健室から顔を出して、微笑んできた。
「時間、ちょっといいかなあ?」
私が頷くと、先生は足早に近寄ってきて、私を階段の方まで連れてきた。準備室や保健室から死角になる。
「あのさあ、彼女、今日どうだった?」
「へ」
余りにも間抜けな声が出た。
「いつもと変わらなさそう?」
なんだその質問。漫画やゲームの質問みたい。
「いつもと変わったところは、特に」
「そっかあ」
少し考えた。きっと、これがゲームなら、彼女が食べずに縛ったコンビニ袋の中身について先生に話すことが正解なんだろう。
まるでスパイみたいだ。中心に彼女がいて、その周りでぐるぐる巡る情勢の、その一部になってしまう。そんなバカな。それでも、そこに一矢報いようなんて思わない。 不正解の一端を担う方が嫌だ。
「あ、でも、ご飯食べる前にしまってたかも」
「��飯?」
「コンビニの、ご飯…」
言葉にすれば増すドラマティックに、語尾がすぼんだ。
「ご飯食べれてなかった?」
「はい」
辛くもなかったけれど、心の奥底の認めたくない部分がチカチカ光っている。
「そうかあ」
仁科先生は全ての人に平等に振る舞う。その平等がが私まで行き届いたところで、始業の鐘が鳴る。平和で知的で嫌味な響き。
「あ、ごめんね、ありがとう!次の授業の先生にはこちらからも連絡しておくから」
仁科先生はかくりと頭を下げた。「あ、ごめんね、ありがとう!」そうプログラミングされたキャラクターのように。
「いえ」
私は私のストーリーの主人公然とするため、そつのない対応でその場を去った。
こうして過ぎてゆく日々は、良くも悪くもない。教育は私に、どこかの第三者に運命を委ねていいと、優しく語りかける。
彼女の居ない教室で、思いのほか時間は静かに過ぎていった。私はずっと一人だった。
放課後はあっという間にやってきて、人懐っこく私の顔を覗き込んだ。
ふと彼女の席を振り返ると、担任の堀田先生が腰を折り曲げ窮屈そうに空いた席にお知らせのプリントを入れて回っていた。
「学園祭開催についてのお知らせ」右上に保護者各位と記されしっとりとしたお知らせは、いつもカバンの隅に眠る羽目になる。夏が過ぎれば学園祭が来る。その前に野球部が地方大会で強豪校に負ける。そこからは夏期講習、そんなルーティンだ。
堀田先生の腰を折る姿は夏の馬に似ていた。立ち上がって「あの」と近寄ると、節ばった手で体重を支えてこっちを見た。「あ」と声を上げた姿には、どこか爵位すら感じる。
「莉花、今日はありがとうね 」
「え?」
「お昼まりあのところへ行ってくれたでしょ」
心がぎゅっと何かに掴まれて、先生の上下する喉仏を見た。
絞り出したのはまた、情けない声だった。
「はい」
「まりあ、元気そうだった?」
わたしは?
昼も脳裏に描いたシナリオを、口の中で反芻する。
「普通でした、割と」
先生は次の言葉を待ちながら、空になったまりあの椅子を引き寄せて腰掛ける。少し嫌だった。目線を合わせるなら、私のことだって、しっかり見てよ。
「でもお昼ご飯、買ってきてたのに、私が行ったら隠しちゃって」
「どういうこと?」
「ご飯食べてないのにご飯食べたって言ってました。あんまりそういうことないかも」
「あ、ほんと」
私を通じて彼女を見ている。
まりあが、先生のことを「堀田ちゃん」と呼んでる姿が目に浮かんだ。私は、そんなことしない。法律の違う世界で、世界一幸せな王国を築いてやる。
「先生」
「私、まりあにプリント届けに行きます」
「ほんと?じゃあお願いしようかな、莉花今日は吹部は?」
「行きます、帰りに寄るので」
「ねえ、莉花さんさ、まりあといつから仲良しなの」
「このクラスになってからですよ」
「そうなんだ、でも二人家近いよね」
「まりあは幼稚園から中学まで大学附属に行��てたと思います。エスカレーターだけど高校までは行かなかったっぽい。私はずっと公立」
「あ、そうかそうか」
耐えられなかった。
頭を軽く下げて教室を出た。
上履きのつま先が、冷たい廊下の床だけを後ろへ後ろへと送る。
私だって、誰かに「どうだった」なんて気にされたい。私も私の居ないところで私のこと心配して欲しい。そんなことばっかりだよ。でもそうでしょ神様、祈るにはおよばないようなくだらないものが、本当は一番欲しいものだったりする。
部活に行きたくない、私も帰りたい。
吹奏楽部のトランペット、「ひみつのアッコちゃん」の出だしが、高らかに飛んできて目の前に立ちふさがる。やっぱり行かなくちゃ、野球部の一回戦が近いから、行って応援曲を練習しなきゃ。ロッカー室でリュックを降ろし楽譜を出そうと中を覗くと、ペンケースが無かった。
教室に戻ると、先生はまりあの椅子に座ったまま、ぼんやりと窓を見ていた。
私の存在しない世界がぽっかりと広がって、寂しいはずなのに、なにを考えてるのか知りたいのに、いまこのままじっとしていたい。自分がドラマの主人公でいられるような、先生以外ピントの合わない私の画面。心臓の音だけが、後から付け足した効果音のように鳴っている。
年齢に合った若さもありながら、当たり障りのない髪型。 短く刈り上げた襟足のせいで、長く見える首。そこに引っかかったUSBの赤いストラップ。薄いブルーのワイシャツ。自分でアイロンしてるのかな。椅子の背もたれと座面の隙間から覗くがっしりとしたベルトに、シャツが吸い込まれている。蛍光灯の消えた教室で、宇宙に漂うような時間。
私だって先生に心配されたい、叱られたい。莉花、スカート短い。
不意に立ち上がってこちらを振り向く先生を確認しても、無駄に抵抗しなかった。
「うわびっくりした。どうしたの」
「あ」
口の中で「忘れ物を…」とこぼしながら、目を合わせないように自分の席のペンケースを取って、教室から逃げた。
背中に刺さる先生の視線が痛い?そんなわけない。
十九時前、部活動の片付けを終えて最後のミーティングをしていると、ポケットに入れていたスマートフォンの通知音がその場に響いた。
先輩は「誰?」とこちらを見た。今日のミーティングは怒りたがらない先輩が担当で、こういう時には正直には言わない、名乗り出ない、が暗黙の了解だったから、私は冷や汗をかきながら黙っていた。
「部活中は携帯は禁止です」
野球部の地方大会の対戦日程の書かれたプリントが隣から回ってきた。配布日が昨年度のままだ。去年のデータを使い回して作ったんだろう。
そういえば、叱られたら連帯責任で、やり過ごせそうなら謝ったりしちゃだめだと知ったのも、一年生の時のちょうどこの時期だった気がする。ただ、この時期じゃ少し遅かったわけだが。みんなはと��くに気付いていて、同じホルンパートの人たちに迷惑をかけてから、人と関わることはこんなにも難しいのかと、痛いほど理解した。
昔、社交には虚偽が必要だと言った人が居たけれど、その人は羅生門ばっかりが教材に取り上げられて、私が本当に知りたい話の続きは教科書に載っていなかった。
「じゃあ、お疲れ様でした。明日も部活あります」
先輩の話は一つも頭に入らないまま、解散となった。
ぼんやりと手元のプリントを眺めながら廊下へ出た。
堀田先生は、プリントを作る時、明朝体だけで作ろうとする。大きさを変えたり、枠で囲ったり、多少の配慮以外はほとんど投げやりにも見える。テストは易しい。教科書の太字から出す。それが好きだった。
カクカクした名前も分からない書体でびっしりと日程の書き揃えられた先輩のプリントは、暮れかかった廊下で非常口誘導灯の緑に照らされ歪んだ。
駐輪場でもたもたしていると、「お疲れ」と声をかけられた。蛍光灯に照らされた顔は、隣の席の飯室さんだった。
ちょっと大人びた子で、すごく仲がいいわけではなくても、飯室さんに声をかけられて嬉しくない子はいないと思う。
「莉花ちゃん部活終わり?」
「うん、飯室さんは」
「学祭の実行委員になっちゃったんだ、あたし。だから会議だったの」
「そっかあ」
「莉花ちゃん、吹部だっけ?すごいね」
「そ、そんなことないよ。それしかやることなくて」
自転車ももまばらになった寂しい駐輪場に、蒸し暑い夕暮れが滞留する。気温や天気や時間なんて些細なことでも左右される私と違って、飯室さんはいつもしっかりしていて、明るい子だ。ほとんど誰に対しても、おおよそ思うけれど、こんな風になりたかったなと思う。私の話を一生懸命聞いて、にこにこしてくれるので、つい話を続けてしまう。
飯室さんとの距離感は、些細なことも素直にすごいと心から言えるし、自分の発言もスムーズに選べる。上質な外交のように、友達と上手に話せているその事実もまた、私を励ます。友だちとの距離感は、これくらいが一番いい。
ただ、そうはいかないのが、私の性格なのも分かっている。いい人ぶって踏み込んだり、自分の価値にしたくて関係を作ったり、なによりも、私にも無条件で踏み込んで欲しいと期待してしまう。近づけばまた、相手の悪いところばかり見えてしまうくせに。はじめにまりあに声をかけた時の顔も、無関心なふりをして残酷な振る舞いをした時の顔も、全部一緒になって煮詰まった鍋のようだ。
また集中力を欠いて、飯室さんの声へ話半分に相づちを打っていると、後ろから急に背中をポン、と叩かれた。私も飯室さんも、軽く叫び声をあげた。
「はーい、お嬢さんたち、下校下校」
振り返ると、世界史の細倉先生が長身を折り曲げて顔を見合わせてきた。私が固まっていると、飯室さんの顔が、みるみる明るくなる。
「細倉センセ!びっくりさせないで」
「こんな暗くなった駐輪場で話し込んでるんだから、どう登場しても驚くだろ。危ないからね、早く帰って」
「ねえ聞いて、あたしさ、堀田ちゃんに無理やり学祭実行委員にされたの」
「いいじゃん、どうせ飯室さん帰宅部でしょ。喜んで堀田先生のお役に立ちなさい」
「なにそれー!てかあたし、帰宅部じゃないし!新体操やってるんですけど」
二人の輝かしいやりとりを、口を半分開けて見ていた。たしかに、細倉先生は人気がある。飯室さんが言うには、若いのに紳士的で振る舞いに下品さがなくて、身長も高くて、顔も悪くなくて、授業では下手にスベらないし、大学も有名私立を出ているし、世界史の中で繰り返される暴力を強く念を押すように否定するし、付き合ったら絶対に大切にしてくれるし幸せにしてくれる、らしい。特に飯室さんは、細倉先生のこととなると早口になる。仲良しグループでも、いつも細倉先生の話をしていると言っていた。
イベントごとでは女子に囲まれているのは事実だ。私も別に嫌いじゃない。それ以上のことはよく知らないけれど、毎年学園祭に奥さんと姪っ子を連れてくると、クラスの女子は阿鼻叫喚する。その光景が個人的にはすごく好きだったりする。あ、あと、剣道で全国大会にも出ているらしい。
私はほとんど言葉を交わしたことがない。世界史の点数もそんなに良くない。
「だから、早く帰れっての。見て、桝さんが呆れてるよ」
「莉花ちゃんはそんな子じゃないから」
何を知っていると言うんだ。別にいいけど。
「もう、桝さんこいつどうにかしてよ」
いつのまにか細倉先生の腕にぶら下がっている飯室さんを見て、なんだか可愛くて思わず笑ってしまった。
「桝さん、笑い事じゃないんだって」
私の名前、覚えてるんだな。
結局、細倉先生は私たちを門まで送ってくれた。
「はい、お気をつけて」
ぷらぷらと手を振りながら下校指導のため駐輪場へ戻っていく先生を、飯室さんは緩んだ顔で見送っていた。飯室さん、彼氏いるのに。でもきっと、それとこれとは違うんだろう。私も、堀田先生のことをこんな感じで誰かに話したいな。ふとまりあの顔が浮かぶけれど、すぐに放課後の堀田先生の声が、まりあ、と呼ぶ。何を考えても嫉妬がつきまとうな。また意味もなく嫌なことを言っちゃいそう。
「ね、やばくない?細倉センセかっこ良すぎじゃない?」
興奮冷めやらぬ飯室さんは、また早口になっている。
「かっこ良かったね、今日の細倉先生。ネクタイなかったから夏バージョンの細倉先生だなと思った」
「はー、もう、なんでもかっこいいよあの人は…。みんなに言おう」
自転車に跨ったまま、仲良しグループに報告をせんとスマートフォンを操作する飯室さんを見て、私もポケットからスマートフォンを出した。そういえば、ミーティング中に鳴った通知の内容を確認してなかった。
画面には、三十分前に届いたまりあからのメッセージが表示されていた。
「莉花ちゃんの名字のマスって、枡で合ってる?」
なんだそりゃ、と思った。
「違うよ。桝だよ」
自分でも収まりの悪い名前だと思った。メッセージはすぐに読まれ、私の送信した「桝だよ」の横に既読マークが付く。
「間違えてた!早く言ってよ」
「ごめんって。今日、プリント渡しに家に行ってもいい?」
これもすぐに既読マークが付いた。少し時間を置いて、
「うん、ありがとう」
と返ってきた。
「家についたら連絡するね」
そう送信して、一生懸命友達と連絡を取り合う飯室さんと軽く挨拶を交わし、自転車をこぎ始めた。
湿気で空気が重い。一漕ぎごとにスカートの裾に不快感がまとわりついてくる。アスファルトは化け物の肌みたいに青信号の点滅を反射し、黄色に変わり、赤くなる。そこへ足をついた。風を切っても爽やかさはないが、止まると今度は溺れそうな心地すらする。頭上を見上げると月はなく、低い雲は湯船に沈んで見るお風呂の蓋のようだった。
やっぱり私も、まりあと、堀田先生の話題で盛り上がりたい。今朝のこと、ちょっと謝りたい。あと、昨日の夜のまりあが好きなアイドルグループが出た音楽番組のことも話し忘れちゃったな。まりあは、堀田先生と細倉先生ならどっちがタイプかな。彼女も変わってるから、やっぱり堀田先生かな。だとしたらこの話題は触れたくないな。でもきっと喋っちゃうだろうな。
新しく整備されたての道を行く。道沿いにはカラオケや量販店が、これでもかというほど広い駐車場と共に建ち並ぶ。
この道は、まっすぐ行けばバイパス道路に繋がるが、脇に逸れるとすぐ新興住宅地に枝分かれする。そこに、まりあの家はある。私が住んでいるのは、まりあの住むさっぱりした住宅街から離れ、大通りに戻って企業の倉庫密集地へと十分くらい漕ぐ団地だ。
一度だけまりあの家に遊びに行ったことがある。イメージと違って、部屋には物が多く、あんなに好きだと言っていたアイドルグループのグッズは全然なかったのに、洋服やらプリントやら、捨てられないものが積み重なっていた。カラーボックスがいくつかあって、中身を見なくても、思い出の品だろうと予想がついた。
まりあには優しくて綺麗なお姉さんがいる。看護師をしているらしく、その日も夜勤明けの昼近くにコンビニのお菓子を買って帰って来てくれた。お母さんのことはよく知らないけれど、まりあにはお父さんが居ない。お姉さんとすごく仲がいいんだといつも自慢げにしている。いいなと思いながら聞いていた。
コンビニの角を曲がると、見覚えのある路地に入った。同じような戸建てが整然と並び、小さな自転車や虫かごが各戸の玄関先に添えられている。風呂蔵の表札を探して何周かうろうろし、ようやくまりあの家を見つけた。以前表札を照らしていた小さなランタンは灯っておらず、スマートフォンのライトで照らして確認した。前に来たときよりも少し古びた気がするけれど、前回から二ヶ月しか経っていないのだから、そんなはずはない。
スマートフォンで、まりあにメッセージを送る。
「家着いた」
既読マークは付かない。
始めのうちは、まあ気がつかないこともあるかと、しばらくサドルに腰掛けスマートフォンをいじっていた。次第に、周囲の住人の目が気になり出して、ひとしきりそわそわした後で、思い切ってインタ��ホンを押した。身を固くして待てども、返事がない。
いよいよ我慢ならなくて、まりあに「家に居ないの?」「ちょっと」と立て続けにメッセージを送る。依然、「家着いた」から読まれる気配がない。一文句送ってやる、と思ったところで、家のドアが勢いよく開いた。
「あ、まりあちゃんの友だち?」
サドルから飛び降り駆け寄ろうとした足が、もつれた。まりあが顔を出すと思い込んでいた暗がりからは、見覚えのない、茶髪の男性が現れた。暗がりで分かりにくいけれど、私と同い年くらいに見える。張り付いたような笑みとサンダルを引きずるようにして一歩、一歩とこちらへ出てくる。緊張と不信感で自転車のハンドルを握る手に力がこもった。
ちょっと、まりあ、どこで何してるの?
男の子は目の前まで来ると肘を郵便受けに軽く引っ掛け、「にこにこ」を貼り付けたまま目を細めて私を見た。
「あ、俺ね、まりあちゃんのお姉さんとお付き合いをさせて頂いている者です。いま風呂蔵家誰も居なくてさ。何か用事かな」
見た目のイメージとは違った、やや低い声だった。街灯にうっすらと照らされた顔は、子供っぽい目の下に少したるみがあって、確かに、第一印象よりは老けて見える、かな。わからない。大学生くらいかな。でも、まりあのお姉さんって、もうすぐ三十歳だって聞いた気がする。
恐怖を消し去れないまま目をいくら凝らしても、判断材料は一向に得られず、声の優しさを信じきるか、とりあえずこの場を後にするか、戸惑う頭で必死に考えた。
「あの、私、まりあと約束してて…」
「えっ?」
男性の顔から笑顔がすとんと落ちた。私の背後に幽霊でも見たのか、不安に強張った表情が一瞬覗き、それを隠すように手が口元を覆った。
「今?会う約束してたの?」
「いや、あの」
彼の不安につられて、私の中の恐怖も思考を圧迫する。言葉につっかえていると、ポケットからメッセージの通知音が響いた。助かった、反射的にスマートフォンを手にとって、「すみません!」と自転車に乗りその場から逃げた。
コンビニの角を曲がり、片足を着くとどっと汗が噴き出してきた。ベタベタの手を一度太ももの布で拭ってから、スマートフォンの画面を点灯した。メッセージはまりあからではなく、
「家に帰っていますか?今から帰ります。母さんから、夕飯はどうするよう聞いていますか」
父さんだった。大きいため息が出た。安堵と苛立ちと落胆と、知っている言葉で言えばその三つが混ざったため息だった。
「今友だちの家にプリント届けに来てる。カレーが冷蔵庫にあるらしい」
乱暴に返事を入力する。
一方で、まりあとのメッセージ画面に未だ返事はない。宙に浮いた自分の言葉を見ていると、またしても不安がじわじわと胸を蝕んでいく。
もしも、さっきのあの男が、殺人鬼だったらどうしよう。まりあのお姉さんも、まりあももう殺されちゃってたら。まりあに、もう二度と会えなかったら。あいつの顔を見たし、顔を見られちゃった。口封じに私も殺されちゃうかも知れない。まりあの���マートフォンから名前を割り出されて、家を突き止められて、私が学校に行ってる間に、家族が先に殺されちゃったら。
冷静になればそんなわけがないと理解出来るのだけれど、じっとりとした空気は、いくら吸っても、吐いても、不安に餌をやるようなものだった。冷たい水を思いっきり飲みたい。
とりあえず家に帰ろう、その前に、今一一〇番しないとまずい?いや、まだなにも決まったわけじゃない。勘違いが一番恥ずかしい。でも、まりあがそれで助かるかも知れない。なにが正解だろう。間違えた方を選んだら、バッドエンドは私に回って来るのかな。なんでだ。
コンビニ店内のうるさいポップが、霞んで見える。心細さで鼻の奥がツンとする。スカートを握って俯いていると、背後から名前を呼ばれた。
「莉花ちゃん?」
聞きたかった声に、弾かれたように振り返った。
「まりあ!」
まりあは制服のまま、手にお財布だけを持って立ち尽くしていた。自分の妄想はくだらないと、頭でわかっていても、一度はまりあが死んだ世界を見てきたような心地でいた。ほとんど反射的に、柄にもなくまりあの手を握った。柔らかくて、すべすべで、ほんのり温かかった。まりあは、口角を大きく上げて、幸せそうに肩を震わせて笑った。
「莉花ちゃん、手汗すごいね」
「あのさあ、結構メッセージ送ったんですけど」
「うそ、ごめん!気づかなかった」
いつもみたいに、なにか一言二言刺してやろうと思ったけれど、何も出てこなかった。この声も、全然悪びれないこの態度も、機嫌の悪い時に見れば、きっと下品で軽薄だなんて私は思うんだろうな。でも今は、あまりにも純粋に幸せそうなまりあの姿に釘付けになるしかなかった。もしかして、私の感情を通さずに見るまりあは、いつもこんなに幸せそうに笑っているのかな。
「本当だ、家に行ってくれたんだね、ごめんね」
「そう言ったじゃん!て言うか、何、あの男の人」
「あ、柏原くんに会った?」
「柏原くんって言うの」
「そう、声が低い茶髪の人。もうずっと付き合ってるお姉ちゃんの彼氏」
「そ、そうなんだ」
やっぱり、言ってることは本当だったんだ。盛り上がっていた様々な妄想が、全部恥ずかしさに変換され込み上げてくる。それを誤魔化すように次の話題を切り出す。
「どこか行ってたの?」
「一回、家を出たの。ちょっとコンビニ行こうと思って。今お財布取りに戻ったんだけど、入れ違っちゃったかも、ごめん」
「普通、私が家行くって言ってるのにコンビニ行く?」
「行きません」
「ちょっとくらい待ってくれる?」
まりあは、
「はあい。先生かよ」
ちょっと口を尖らせて、すぐに手を叩いて笑った。
いくら語気を強めても、仲良しで包みこんで、不躾な返事が返ってくる。それがなによりも嬉しかった。怖がることなく、私と喋ってくれる。欲しかったんだ、見返りとか、自分の価値とかルールとか全部関係なく笑ってくれる友だち。あんなに癪に触ったその笑い方も、今はかわいいと思う。
「先生といえばさ、柏原くんって、堀田ちゃんの同級生なんだよ。すごい仲良しらしい」
「え!」
柏原くんって、さっきの男の人のことだ。堀田先生が三十前後だとして、そんな年齢だったのか。というか、堀田先生の友だちってああいう感じなんだ。ちょっと意外だ。
「大学時代の麻雀仲間なんだって。堀田ちゃん、昔タバコ吸ってたらしいよ、笑えるよね」
「なにその話、めちゃめちゃ聴きたい」
飯室さんが仲良しグループと喋っている時の雰囲気を、自然と自分に重ねながら続きを促すと、まりあは嬉しそうに髪をいじりだした。
「今もよくご飯に行くみたいだよ、写メとかないのって聞いたけど、まだ先生たちが大学生の頃はガラケーだったからそういうのはもう無いって」
「ガラケー!」
私も手を叩いて笑った。
「莉花ちゃん、堀田先生好きだよね。いるよね、堀田派」
「少数派かなあ」
「どうなんだろう。堀田ちゃんが刺さる気持ちは分からなくはないけど、多分、細倉先生派の子のほうが真っ当に育つと思うね」
「わかる。細倉先生好きの子は、ちゃんと大学行って、茶髪で髪巻いてオフショル着てカラコンを入れることが出来る。化粧も出来る。なんならもうしてる」
コンビニのパッキリとした照明に照らされ輝くまりあ。手を口の前にやって、肩を揺らしている。自分の話で笑ってもらえることがこんなに嬉しいのか、と少し感動すらしてしまう。
「今日もムロはるちゃんの細倉愛がすごかったよ」
「ムロはる…?」
まりあが眉をしかめた。
「飯室はるなちゃん、ムロはるちゃん」
本人の前では呼べないけれど、みんながそう呼んでいる呼び方を馴れ馴れしく口にしてみた。ピンときたらしいまりあの「あー、飯室ちゃんとも仲良しなんだ」というぎこちない呟きをBGMに、優越感に浸った。私には友だちが沢山いるけれど、まりあには私しか居ないもんね。
コンビニの駐車場へ窮屈そうに入っていく商品配送のトラックですら、今なら笑える。
「最終的には細倉先生の腕にぶら下がってた」
「なんでそうなるの」
「愛しさあまって、ということなんじゃないかな」
「莉花ちゃんはさ、堀田ちゃんの腕にぶら下がっていいってなったら、する?」
「えー、まずならないよ、そんなことには」
「もしも!もしもだよ」
「想像つかないって」
「んー、じゃあ、腕に抱きつくのは」
「え、ええ」
遠くでコンビニのドアが開閉するたび、店内の放送が漏れてくる。視線を落として想像してみると、自分の心音もよく聞こえた。からかうように拍動するのが、耳の奥にくすぐったい。
細倉先生はともかく、堀田先生はそんなにしっかりしてないから、私なんかが体重を掛けようものなら折れてしまうのではないか。「ちょっと、莉花さん」先生は心にも距離を取りたい時、呼び捨てをやめて「さん」を付けて呼ぶ。先生の性格を見ると、元から下の名前を呼び捨てにすること自体が性に合っていないのだろうとは思うけれど。
そもそも、「先生のことが好き」の好きはそういう好きじゃなくて、憧れだから。でも、そう言うとちょっと物足りない。
「莉花ちゃん」
半分笑いながら呼びかけられた。まりあの顔をみると、なんとも言えない微妙な表情をしていた。引かれたのかな。
「顔赤いよ」
「ちょ、ちょっと!やめてよ」
まりあの肩を軽く叩くと、まりあはさっきよりも大きな声で笑った。よ��めきながらひとしきり笑って、今度は私の肩に手を置いた。
「でも、堀田ちゃん、うちのお姉ちゃんのことが好きらしいよ」
「え?なにそれ」
「大学同じなんだって、お姉ちゃんと、柏原くんと、堀田先生。三角関係だって」
返事に迷った。自分の感情が邪魔をして、こういう時に飯室さんみたいな人がどう振る舞うかが想像できない。
本当は、堀田先生に好きな人がいるかどうかなんて、どうでもいいんだけど、そんなこと。それよりも、まりあから、明確に私を傷つけようという意思が伝わってきて、それに驚いた。相手がムキになっても、「そんなつもりなかったのに」でまた指をさして笑えるような、無意識を装った残酷さ。
これ、私がいつもやるやつだ。
そのことに気付いて、考えはますます散らばってしまった。
「そんなの、関係無いよ」
しまった。これだから、重いって思われちゃうんだよ、私は。もっと笑って「え、絶対嘘!許せないんですけど」と言うのが、飯室さん風の返し方なのに。軽やかで上手な会話がしたいのに、動作の鈍いパソコンのように、発言の後に考えが遅れてやってくる。まりあの次の言葉に身構えるので精一杯だった。
「あはは」
まりあは、ただ笑って、そのあとは何も言わなかった。
今までにない空気が支配した。
「私、帰るね」
なるべくまりあの顔を見ないようにして、自転車のストッパーを下ろした。悲鳴のような「ガチャン!」が耳に痛い。
「うん」
まりあは、多分笑っていた。
「また明日ね」
「うん」
漕ぎ出す足は、さっきよりももっと重たい。背中にまりあの視線が刺さる。堀田先生の前から去る時とは違って、今度は、本当に。
遠くで鳴るコンビニの店内放送に見送られ、もう二度と戻れない、夜の海に一人で旅立つような心細さだった。
やっとの思いで家に着くと、二十時半を回っていた。父さんが台所でカレーを温めている。
「おかえり、お前の分も温めてるよ」
自室に戻り、リュックを降ろして、ジャージに着替える。また食卓に戻ってくると、机の上にカレーが二つ並んでいた。
「手、洗った?」
返事の代わりにため息をついて、洗面所に向かう。水で手を洗って、食卓に着く。父さんの座っている席の斜向かいに座り、カレーを手前に引き寄せる。
「態度悪い」
「別に悪くない」
「あっそ」
箸立てからスプーンを選んで、カレーに手をつける。
「いただきますが無いじゃん」
「言った」
「言ってねえよ」
私は立ち上がって、「もういい」とだけ吐き捨て、自室に戻った。
父さんとはずっとこうだ。お母さんには遅い反抗期だな、と笑われているけれど、父さんはいつもつっかかってくる。私が反抗期だって、どうしてわかってくれないんだろう。
まりあの家は、お父さんが居なくて、正直羨ましいと思う。私は、私が家で一人にならないよう、朝はお母さんが居て、お母さんが遅くなる夜は父さんがなるべく早く帰ってくるようにしているらしい。大事にされていることがどうしても恥ずかしくて、次に母親と会える日を楽しみだと言うまりあを前にすると、引け目すら感じる。勝手に反抗期になって、それはを隠して、うちも父親と仲悪いんだよね、と笑って、その話題は終わりにする。
せめて、堀田先生みたいな人だったら良かった。
そう思うと心がチクッとした。あんなに好きな堀田先生のことを考えると、みぞおちに鈍い重みを感じる。先生に会いた��ない。それがどうしてそうなのかも考えたくない。多分、まりあが悪いんだろうな。まりあのことを考えると、もっと痛いから。
明日の授業の予習課題と、小テストの勉強もあるけど、今日はどうしてもやりたくない。どうせ朝ちょっと勉強したくらいじゃ小テストも落ちるし、予習もやりながら授業受ければどうにかなる。でも、内職しながらの授業は何倍も疲れるんだよな。
見ないようにしてきた、ズル休みという選択肢が視界に入った。スマートフォンを握りしめたままベッドに寝転がって、SNSを見たり、アイドルのブログをチェックしていると、少しづつ瞼が重くなってくる。
瞼を閉じると、今度は手の中に振動を感じる。まどろみの中で、しばらくその振動を感じ、おもむろに目を開けた。
画面にはまりあの名前が表示されている。はっきりしない視界は、うっすらとブルーライトを透かす瞼で再び遮られた。そうだ、まりあ。
私、まりあに文化祭のプリント渡すの、忘れてた。
目が覚めた。歯を磨くのも、お風呂に入るのも忘れて寝てしまったらしい。リビングを覗くと、カーテンが静かに下がったままうっすらと発光していた。人類が全て滅んでしまったのか。今が何時なのか、まだ夢なのか現実なのか曖昧な世界。不安になって、急いで自分の部屋に戻りベッドの上に放りっぱなしのスマートフォンの画面を点けた。
「あ…」
画面に残る不在着信の「六時間前 まりあ」が、寂しげ浮かんでくる。今の時刻は午前四時、さすがに彼女も寝ている時間だ。すれ違ってしまったなあ、と半分寝ぼけた頭をもたげながらベッドに腰掛ける。髪の毛を触ると、汗でベタついて気持ち悪い。枕カバーも洗濯物に出して、シャワーを浴びて…。ああ、面倒だな。
再びベッドに横になると、この世界の出口が睡魔のネオンサインを掲げ、隙間から心地いい重低音をこぼす。
あそこから出て、今度こそ、きちんとした現実の世界に目を覚まそう。そしてベッドの中で、今日を一日頑張るための作戦を立てて、学校へ行くんだ。いいや、もうそんな力はないや。
嫌になっちゃうな、忙しい時間割と模試と課題と、部活と友達。自律と友愛と、強い正しさを学び立派な大人になっていく。私以外の人間にはなれないのに、こんなに時間をかけて、一体何をしているんだろう。何と戦ってるんだ。本当は怠けようとか、ズルしようとか思ってない。時間さえあれば、きちんと期待に応えたい。あの子は問題ないねと言われて、膝下丈のスカートをつまんで、一礼。
勉強なんて出来なくても、優しい人になりたい。友達に、家族に優しくできる人になりたいよ。わがまま言わない、酷いこともしたくない。でも、自尊心を育ててくれたのもみんなでしょ。私だって、画面の向こう側のなにかになれるって、そう思ってる、うるさいほどの承認欲求をぶちまけて、ブルーライトに照らされた、ほのかに明るい裾をつまんで、仰々しく礼。鳴り止まない拍手と、実体のない喜び。
自分を守らなくちゃ。どこが不正解かはわからないけれど、欲求や衝動に従うことは無謀だと、自分の薄��ぺらい心の声に耳を傾けることは愚かだと、誰かに教わった気がする。誰だったかな、マルクスかな。
今の願いは学校を休むこと。同じその口から語られる将来の夢なんて、信用ならない?違うね。そもそも将来の夢なんてなかった。進路希望調査を、笑われない程度に書いて、それで私のお城を築く。悲しみから私を守ってね。
目を開けると目前のスマートフォンは朝の六時を示していた。
「うそだあ」
ベッドから転げるように起き上がると、枕カバーを剥がして、そのまま呆然と立ち尽くす。今からシャワー浴びたら、髪の毛乾かしてご飯食べて、学校に着くのは朝礼の二十分前くらい。予習の課題も小テストの勉強もできない。泣きそうだ。
力なく制服に着替えると、冴えない頭でリュックサックに教科書を詰め込み部屋を出た。肩に背負うと、リュックの中で二段に重ねた教科書が崩れる感触がした。
続く
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クセを緩和する洗い流さないトリートメント。 #クセ毛用トリートメント #SOLVORY ( #ソルヴォリー )を使ってみました→ @econoix_shop @henna.econoix こちらは酸熱の洗い流さないトリートメント。 クセ毛の原因のひとつである水素結合、タンパク質のバランスを整えることでクセを緩和してくれるとのこと。 この酸熱タイプって、業界初なんだそうです! クセ毛には若い頃からず~っと長年悩まされているので、色々なクセ毛に特化したヘアケア製品を使ってきてるけど。 クセ毛をまとまりのある仕上がりにしてくれるのはよくあるけど、毎日使うことでクセがどんどん落ち着いてくるという流れの髪質改善タイプは初かも? まだ使い始めて間もないので、さすがに理想のストレートにまではならないけど。 ふわっとした広がりはまだ気になるものの、ウェーブ的なクセは緩和されてきてるかもです。 今までは仕上げのアイロンに、かなりの時間を費やしていたけど。 最近は全体を一通り1~2回あてる���らいで、ストレートな仕上がりになってきています。 とろみのあるジェルっぽいテクスチャーだけど、嫌なベタつきは感じず。 滑らかさがあるので伸ばしやすく、滑らかなとろみなので髪に馴染ませやすく使いやすいです✌ 使い続けることで、アイロンなしでもクセが大きく緩和してくるそうなので。 今後も継続して、ケアし続けていこうと思っています☺ #hair #haircare #ヘアー #ヘアケア #エコノワ #癖毛 #クセ毛 #くせ毛 #癖毛対策 #髪質改善ホームケア #髪質改善トリートメント #髪質改善 #酸熱トリートメント #クセ毛改善 #クセ毛用 #アウトバストリートメント #洗い流さないトリートメント #beauty #美容 #美髪 #コエタス #PR #instagood #instalife #instajapan https://www.instagram.com/p/Cibqv9MpW_R/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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悲喜交々通信簿
厄介なテストがようやく終わりを告げる頃、ルルーシュも通信簿を貰って学校から帰って来た。 「通知表見てもいい?」 「いいよ」 そうして受け取った通信簿は、三段階中まさかのオール3という評価で、その並んだ数字に僕は思わず目を見開いた。 「えっ、すご! こんなの漫画以外あるんだ!? えっ本当すごい、だって体育まで3とかすごくない!? ルルーシュなのに!?」 「僕が体育の成績がいいとおかしいの?」 「ごめんルルーシュ、そういう意味じゃないよ。そうだよね、別に運動神経いい子がイコールで成績いいってわけじゃないよね。そもそもルルーシュ別に運動神経は悪くないんだし……えー、でもやっぱりすごいね。ルルーシュ、勉強がんばってるんだね」 微笑みかけると、ルルーシュは照れたように頬を緩めた。胡坐をかいた僕の太腿に、両手をかけるようにして自身の通信簿を横からひょいっと覗き込んでくる。 「スザクの通知表は?」 「僕の? 僕のはないよ」 「大学生は通知表ないの?」 「無いわけじゃないけど、そうだなぁ、テストの結果が返ってくるのは来月の終わりぐらいかな」 「僕の夏休み終わっちゃうね」 「まあ大学生の夏休みはそこからも続くからね」 その果てしなく続く夏休みにも、僕には若者らしい予定は一つもないときた。何せ彼女に振られたばかり。でもその代わり、この夏を僕はルルーシュと二人で過ごすことができるのだ。 「スザクは小学生の時の通知表ってどうだったの?」 自分の通信簿を覗くのにも飽きたのか、よいしょっとルルーシュは体勢を変える。僕の身体は、ルルーシュにとってちょうどいい背もたれといったところか。 「んー、国語と音楽が悪かったかな」 「何で?」 「僕がルルーシュぐらいの時には、じっと座って本を読むっていうのがとにかくできなかったんだよね。すぐ飽きちゃってたというか……あと音楽は、真面目に合唱とかができなかったなぁ。すーぐふざけだしちゃって。隣の子にちょっかい出したりとか」 「そういう子、僕のクラスにもいるよ」 「あ、本当? いつの時代にもいるんだなぁ」 「うん。いっつも歌う時につついたりしてくるから迷惑なんだ」 「……いや本当ごめんなさい」 きっとルルーシュが可愛いから、ついちょっかいを出したくなるんだよと言いかけて、本気で迷惑がっているのだろうルルーシュの横顔を見てしまえば、そんな言葉もとたんにどこかに消えてしまった。 「もう通知表しまっていい?」 「あ、いいよ」 「僕やることあるんだ」 そう言ってルルーシュは自分の引き出し(学習机なんて立派な物を置くスペースはここには無いので、通販で買って僕が組み立てたカラーボックスだ)を開き、そこから画用紙と色鉛筆を取り出し始めた。 「お絵描きするの?」 「スザクは見ないで」 「……ごめんなさい」 どうして僕は続け様に謝っているのだろうと思ったが、あまりにしつこくして嫌われるのも嫌だと、携帯片手にごろりとフローリングの上に寝転がった。 窓を閉め切りクーラーをつけていても、蝉の声は不思議な程によく聞こえてくる。 そういえば、ルルーシュは蝉取りなんてしたことがあるのだろうか。無いような気がする。そもそもここには虫取り用の網もカゴもない。大学生の一人暮らしには、そんなもの無用であるのだから当然だ。 Amazonでぽちぽちと虫取りセットを見ていたはずが、気づいた時にはそれが浮輪になっていた。せっかくの夏だ。ルルーシュを海に連れて行ってあげたい。でもこの辺で海水浴と言うとどこに行けばいいのだろう? それも小学生にちょうどいい海となるとさっぱりわからない。 「スザク、スザク」 もはや蝉取りはどこへやら、海水浴スポットをググり始めていた僕に、ルルーシュがどこか興奮した様子で声をかけてきた。 「ん? ルルーシュどうかした?」 「スザクにこれあげる」 「何か絵でも描いてくれたの?」 よいしょっと腹筋よろしく起き上がった僕は、ルルーシュから一枚の画用紙を受け取った。 そこに描かれているのは、定番な僕の似顔絵なんてものではなかった。 「スザクの通知表だよ」 「……僕の通知表?」 「そう。スザクはいつもがんばってるから、その通知表」 まだ十歳とは思えない程にルルーシュは字が上手だ。その上手な文字が、大きな画用紙いっぱいに書かれている。一番上には僕の名前も。そして何だろう、これは項目なのだろうか。ご飯、そうじ、買い物、せんたく、あいさつエトセトラ。 「スザクのご飯は美味しいから、これは3なんだよ。でも、掃除はあんまりしないからこれは2ね。二学期はもうちょっとがんばってね」 「えー、じゃあこれ買い物と洗濯は何で2なの? 僕両方がんばってない?」 「買い物は、いつもお菓子買いたいって言うから2なの。あと洗濯は、アイロンかけないからダメ」 「お菓子ぐらい買ってもいいじゃん! あー、でも確かにアイロンがけはしてないなごめん……っていうか僕の服、別にアイロンがけ必要��ものとかないんだよなぁ」 「でもスザクは、挨拶はばっちりだよ。だからこっちは3なんだ」 喜々とした様子で説明を続けるその身体を、僕はひょいっと抱き上げた。胡坐をかいた膝に乗せれば、さすがに小学生は少しばかり大きい。ルルーシュは一瞬驚いたような顔を見せたが、嫌がりもせず再び通知表の項目を指さした。 「あとねー、ゴミ出しもよく忘れるから2」 「いやもうお恥ずかしい……」 がんばっているからと渡された通知表のはずが、手痛いダメ出しになっているのは気のせいだろうか。でも実際その通りと言おうか、子供というのは案外見ているものなのだなあと驚いてしまう。 そんな手痛い評価の中でも、ご飯の項目につけられた眩しいばかりの『3』という数字を見れば、全ての苦労が報われる気がする。なんて言うのはいささか大袈裟というものだろう。言うほどの苦労なんて僕は何もしていないのだから。 「ルルーシュ、僕の作るご飯好き?」 「うん、好き」 「そっかぁ」 この笑顔が何よりも愛しい。 「じゃあ、今日の夕飯は何がいい?」 「んー」 一転、真剣に考え込む顔だって可愛くて。ああそうだ。僕はルルーシュのどんな顔だって好きなんだ。笑顔も怒っている顔も、欠伸が出そうで出ない、そんなちょっと間抜けな顔も。だってそれが生きているってことだろう? 「あっ、僕あれが食べたい!」 「なあに?」 「ハッピーセット!」 「……」 おかしいなあ。 確かにルルーシュは、今さっき、僕の作るご飯が好きだと言ってくれたはずなのに。 「……ハンバーガー食べたいの?」 「うん。あとポテトも」 「ポテト美味しいもんね」 まあ往々にして、こういうこともあるということで。
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【ONLINE SHOPにUPしました!】 「CHAPS(チャップス)」マドラスチェック イージーケア ボタンダウンシャツ [2106019] ONLINE SHOPへは プロフィール欄のURLからご覧いただけます! 是非、ご覧下さいませ! CHAPS(チャップス)のボタンダウンシャツ! チャップスから発色の良いボタンダウンシャツが入荷しました! ブルーとネイビーの寒色系をメインとしたクールな印象のマドラスチェック! 反対色である赤の色味もパキッとしており、一見派手に見えますが、非常にバランスの良い1品です! 青と赤と言う原色の強い色味を緩和するホワイトも逆に丁度良いアクセント! マドラスチェックはインドの南西部マドラス地域の織物によく使用されるチェック柄で、トラッド、プレッピー、アメトラなどのスタイルに用いられることが多いです! ��成はコットン60%/ポリエステル40%となっており、軽くて、ハリコシのある生地感です! また、「EASY CARE(イージーケア)」の機能も備わっており、シワが付きにくく、洗濯後は洗いざらしでも大きなシワは目立ちません! もちろん、アイロンをかけたら、小さなシワは一瞬で取れる優れもの! 日常使いに嬉しい機能ですね! 左胸にはパッチポケットが施されており、マドラスチェックは不規則なチェック柄ですが、柄合わせがしっかりとしてあり、柄がズレていないところはさすがと言える仕立てです! そのパッチポケットの上にはボディのメインカラーでもあるネイビーと同色のローレル刺繍! クセ無く、余計な主張を出さない黒糸刺繍なので、さりげない良さが◎! サイズはMサイズなので、普段使いに持ってこい! 柄はカジュアルな印象ですが、イージーケアの機能性や、シルエットの綺麗さも相まって、ドレスシャツのような綺麗目なコーディネートにもご使用いただけます! もちろん、フロントボタンを開けたり、パンツにカジュアルな物を合わせて、よりカジュアルな見た目に持っていっても様になります! 背中にはボックスプリーツが施されており、心地よい着用感と、アクティブな動きにも対応しする設計になっており、シルエットの良さは格別です! 襟の仕様はボタンダウンになっており、老若男女、時代を問わず愛されている仕様となっております! (ボタンダウンとは、衿先を、身頃の部分に小さいボタンで留めるように作られているシャツのことです! ポロ競技用のシャツで、騎乗して疾走する際に、風にあおられて襟がめくれ、顔や首に当たるのを防ぐために導入されたと言われております!) 私自身もシャツはボタンダウンを選びがちでして、1950年代〜60年代に流行った「アイビールック」が好きで、「TAKE IVY」を読んでは真似ていました! また、アイビールックにハマっていた当時は正統派な着こなしをメインとしておりましたが、今では様々な系統のファッションやお洋服に織り交ぜることによって生まれる良い意味での違和感を楽しんでいます! 当商品のような王道でクラシックなシャツはお客様1人1人のコーディネートによって、様々な着こなしの幅を見せ、シンプルながらに着る人の個性を最大限に発揮してくれるアイテムだと思います! 正統派なアイビールックの着こなしはもちろん、ストリートやモード、ヴィンテージなど、様々な着こなしを楽しんで見てはいかがでしょうか? 販売価格: 4,900円(税別) 表記サイズ:Mサイズ 着丈78cm 肩幅48cm 身幅119cm 袖丈65cm (Tokyo, Japan) https://www.instagram.com/p/COhgDcAsI6R/?igshid=4klxw81s0fx4
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【/D】テーブルクロスの下で
AU、モブ×ディーン、モブ視点。8500字くらい
兄弟は少年(S10/D14くらい)。ジョンがいなくなり、里親に引き取られている。わるいソーシャルワーカーとわるい里親に搾取されるディーン。気づかないサム。
以前「誰にもいわないで」という話をアップしましたがあの設定で書きたかったのがコレです。でももう別物です。。
気味の悪い話です。
◇
人の家に招待されるのは慣れているが今回は特別だった。イドリスは今にも吐きそうな気分で塗装のはげたインターフォンに指を伸ばした。何十年も前に取り換え工事をしたのか古い配線がスイッチのすぐ側にぶら下がっている。その黒ずんだスイッチを見ていると腹の具合がますます悪くなる気がする。普段の彼ならこれに触れるくらいなら一晩の飯くらい喜んでキャンセルするだろう。今回は特別なのだ。 ベルが鳴ってすぐに見知った顔が彼を迎えた。この家の家主ではないがイドリスを招待した男だ。人好きのする丸顔。清潔そうな金褐色の口ひげを蓄えた、評判のいいソーシャルワーカーだ。イドリスは常々、恵まれない少年たちに対する彼の情熱と行動力に感心していた。今ではその感心は尊敬の念にまで達している。 「ようこそ。よく来てくれました」 ニックというその男はにこやかに挨拶をして、イドリスの上着と帽子を預かった。コートハンガーにはすでに重そうな上着が数枚かかっていた。イドリスは自分が最後の訪問者になったことに怯んだが、少しほっとした。というのも家の内装が外見といくらも変わらない古ぼけて汚らしいものだったからだ。ドアの前に敷かれたマットなど、うっかり踏もうものなら何百年もの間蓄えた埃と靴裏の糞を巻き上げそうだ。なかなか立派なシャンデリアや装飾額の絵画などもあるが、どれも埃のかぶった蜘蛛の巣に覆われている。長居はしたくない家だ。 ところがダイニングルームに入ると景色が一変した。部屋が明るい。広さはそれほどなく、八人掛けの長テーブルが置かれていてそれででいっぱいの印象だ。着席していた三人の男たちが一斉にこちらを見たので、イドリスはいつも通りの愛想笑いで会釈をして、ニックに示された席に腰を下ろした。清潔でシミひとつ見えない白いテーブルクロスと同じ刺繍をされたカーテンが、通りに面している六角形の窓を外界の視線から守っている。床は椅子が滑りやすい板張りで、埃ひとつ落ちていなかった。まるでここだけが他の家のように美しい。 「ようこそ、校長先生」 上座の男がいった。「アンドリュー・リックスです。あなたをご招待できて光栄です。こちらはアデリ保安官」 左手に座る男が小さく手をあげた。「こちらはキンツル医師」 右手の男が頷いた。 「こちらこそ、ご招待に預かりまことに光栄です」 イドリスは椅子を引き直した。滑りがよくてテーブルに腹がくっつきそうになり、足を踏ん張って少し戻す。向かいの席に座ったニックが自分に声をかけたことを後悔していたらどうしようと思ったが、ちらりと見た彼の顔には、新参者に対する期待と、これからの楽しい時を想像させるような高揚感の色があるだけで、ほっとする。「わ、私は、ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、この地区の学校の校長をしていまして……」 とつぜん、みんなが笑いだした。イドリスはぎくっとしたが、それは緊張がほどけるような和やかな笑いだった。「いや、いや。あなたのことはよく知っていますよ」 グレー��髪を短く刈った、おそらくはもう六十代になるだろうに、若々しい印象のキンツル医師が手を伸ばしてきた。「イドリス・ウエイクリング校長。私の孫が来年転入予定です。よかったら目をかけていただきたいね」 「ああ、それは、ぜひとも」 あわてて手をつかみ、握手をする。 「私も先生のことはよく存じ上げています。一緒にコンビニ強盗を追いかけたでしょう? 忘れてしまった?」 アデリ保安官にも握手を求められる。ぱりっとしたクリーム色のシャツの肩がはち切れそうな体格の良い男だ。イドリスは日に焼けて皺の深い彼の顔をまじまじと見つめ、もうすいぶんと昔の記憶がよみがえってくるのを感じた。「――ああ! あの時の! あれはあなたでしたか、保安官!」 遠い未知の世界に飛び込んでいくものとばかり思っていたのが、あんがい近しいコミュニティの男たちに歓迎されていると実感し、イドリスの腹の具合はとてもよくなった。 「さて、そろそろ始めましょうか。お互いのことを知るのは食事をしながらでもできますしね」 家主のリックスが手を一度叩いた。「さあ、おいで」 暖炉の影からゆらりと人が現れて初めて、イドリスは少年がずっとそこにいたことに気が付いた。 少年のことは、当然イドリスは知っていた。彼の学校に通う問題児として有名な子だ。イドリスがこの集まりに参加する気になったのも、彼の学校以外の態度に興味があったからだ。 しかし、当の彼を見るまでは、信じられなかった。ソーシャルワーカーのニックは彼を”とても従順”だと評したが、イドリスはそれは自分を不道徳な会へ引きずり込むための方便だとすら思った。学校での彼を見るに、とても”従順に”扱えるとは思えなかった。ニックは彼の舌のテクニックの上手さを声高にセールスしたけれど、イドリスは自分の大事な持ち物を咥えさせるのは不安だった。部下の教員が暴れる彼を抑えようとして二の腕を噛まれ、一か月も包帯を巻いて出勤したことを思うと震えが走る。それでも断らなかったのはこの少年が非常に端整な見目をしているからで、よしんば暴れる彼を押さえつける役として抜擢されたのだとしても、そうして嫌がる彼が弄ばれるのを見ることができれば上々と思ったからだ。 それがどうだ。ここにいる少年は、学校での彼とは別人のようだった。高い襟のボタンを上まで留めてまっすぐに立つ彼は若木の天使のように静かだ。 「ディーン、お前ももう腹がぺこぺこだろう。今日は先生もいらしてる。ご挨拶して、準備にかかりなさい」 「はい、おとうさん」 リックスの言葉に従順に頷くと、なんと彼はそのまま、”おとうさん”と呼んだ者の���にキスをした。それが終わると、きちんとアイロンのかかったハンカチをズボンのポケットから出して、ていねいに口をぬぐった。そしてまた、今度はリックスの隣に座る保安官に「こんばんは、ようこそ、アデリ保安官」とあいさつすると、白い手で保安官の頬を包み、ちゅっとキスをしたのだった。 唐突に始まったショーに、イドリスはすっかり動揺し、その動揺を表に出さないよう必死に尻の穴を引き締めた。少年ディーンは、順当に隣のニックにもキスしたあ���、やはりていねいに口をぬぐい、イドリスの横に立った。 「こんばんは、ようこそ、ウエイクリング校長先生」 「こんばんは」 だれも返事をしなかったのに、とっさに挨拶を返してしまい、まずいのかと思ったが、慌てて周りをみると、みな微笑ましい様子で見守っているだけだった。 「エヘン――」 気恥ずかしさに咳をしていると、するりと手が伸びてきて、頬を少年の手で包まれた。くるなと思った時には、もう柔らかい唇が触れていた。 小さなリップ音とともに唇は離れた。手が離れていくときに親指がやさしくもみあげを撫でていった気がした。イドリスがぼうっとしているあいだにディーンは自分の唇の始末を終え、最後のキンツル医師にも挨拶とキスをした。 最後にディーンは、それまで口をぬぐってきたハンカチで自分の目を覆い、頭の後ろで結んだ。 「さ、それではお楽しみください」 リックスの言葉が合図だったかのように、さっとしゃがむと、ディーンの姿はそれきり消えた。 キンツル医師が親切そうにほほ笑んで家主とイドリスの顔を交互に伺い見る。「アンドリュー、今日は彼は初めてだから……」 「ああ、そうか! ルールを説明しておりませんでしたな。先生、これは実に紳士的でシンプルな約束です。ディーンを呼ぶ時は足を使ってください。届かないからといって、靴を脱いで飛ばすのはなし。ディーンが怪我をしてしまうし、誰かが準備万端のアソコをむき出しにしてたら大変なことになるでしょう?」 ハッハッハッと、陽気に笑う。「基本的には終わるまでディーンはやめませんが、あまり長いと他のみなさんが不満になるので、私のほうで様子を見てやめさせることもあります。今まであったかな、そういうの?」 「ないよ、ない。だって十分だってもたない」 ニックが自分のことのように誇らしげに、自信たっぷりにいう。「ディーンはすごい。今までの子で一番だ。僕らはいまや、彼にすっかり飼いならされてるよ」 「その通りだ」 「たいした子だよ」 医師も保安官も笑い合って頷く。 「だれにもついていないのに、呼んでもすぐに来ないこともある。そういう時、彼は休憩中だから、少し待ってやってくれ」 「あとはサムだ」 「そう、サムだ。校長先生、サムのことは知っていますよね?」 「ああ、ええ。ディーンの弟でしょう。四歳下の。知っていますよ、教員が言っていました。学校でも二人はいつも一緒だそうです」 「サムがこの部屋にいる時は、最中だったらいいんだが、そうでなければサムがいなくなるまで待ってあげたほうがいい」 「サムがこの部屋に?」 イドリスは驚いた。この会合のあいだ、この部屋へは不道徳な合意を果たした者だけしか入れないものだと思っていた。 しかし、リックスは平然とした顔で頷いた。「ええ、彼には給仕を任せていますから」 「大丈夫ですよ、難しく考えなくとも」 キンツル医師がイドリスのほうへ首を傾けてささやく。「皿が空く直前に呼んでしまえばいいんです。サムが給仕しているあいだは特に良くてね。タイミングを教えてあげますよ」 リックスがみなに確認する。「では?」 三人の客がダン、と一斉に床で足を鳴らした。それと一息空けて、リックスが手元のベルを鳴らす。イドリスは少し様子をみることにした。テーブルクロスは床まで長さがあり、その中でディーンがどのような動きをしているか、まったくわからない。そもそも、ほんとうに彼はいるのだろうか? 男たちはテーブルの端に手をついて上半身をゆらゆら揺らしている。顔だけは澄ましてテーブルの上の蝋燭や果物を見つめているのが気色がわるく、たまらなく愉快だ。ここにいるのはいずれも地元の名士たちで、その彼らがダイニングルームで食事を待ちながら、クロスの中で足をバタバタと動かして少年を自分のほうへ引き寄せようとしているなんて。 イドリスは興奮しすぎて足を床から離せなかった。何とか自分もと、震える膝を持ち上げたとき、その膝にするりと手が置かれた。 「あっ」 と思わず声を上げてしまい、慌てて同士たちを見回す。彼らの顔に理解が浮かんだ。おそらくは、ルールの中に”クロスの下で行われていることなどないような顔をすること”も含まれているんだとイドリスは想像したが、彼が新参者だから大目にみてくれているのか、不届き者を見る目つきの者はいなかった。ただ少し残念そうな表情を浮かべて、みな背もたれに背を預けた。 こうなれば自分は見世物だ。イドリスはもう必死に尻の穴に力を込めて、みっともない声をあげないよう努力した。ディーンの手はゆっくりと太ももの内側を辿り、ズボンの上からふくらみを確認すると、ベルトに手をかけたまま、開いた足の間に膝をついて座ったようだった。イドリスは改めて、なぜこの部屋の床がよく磨かれ、埃一つ落ちていなかったのかわかった気がした。 ベルトを解かれ、ジッパーを外す音はよく響いた。これが食事中ならここまで音は目立たないのだろうと思った。もはやみなの目線は遠慮なくイドリスに当てられている。彼の表情の変化で、いまディーンがどのような技で彼を喜ばせているのか推測しようというのだ。全員が目と耳が澄ませているなか、ディーンの手が布の層をかき分けて熱い肉に触れた時、彼が漏らしたであろう吐息がはっきりと聞こえた。イドリスは視線を上げないようにした。少年にそんな声を出させた自分が誇らしかったが、まだそれを表に出すのは早すぎる気がした。 ディーンは広げたジッパーの間から出して垂らしたペニスを、指の腹を使って根本から丹念にしごいていった。すでに興奮で立っていたイドリスのペニスはすぐに天を向いた。裏筋を濡れた何かが辿っていき、それが彼の指でなく唇であると気づいたとき、彼はそれだけで絶頂するところだった。 ディーンの唇はゆるく閉じたり開いたりしながら上へ登って、ついに先端に到着すると、鬼頭だけを飲み込んだ。きゅっと絞るように吸い付かれ、時々力の加減を変えながら、そのまま先の部分だけをねぶられる。イドリスは目を見開いて、膝の上のテーブルクロスを握りしめた。それをめくって、ディーンが――学校一の問題児が――自分を――つまり、校長のペニスを――咥えている姿を見てみたい衝動を抑え込むのは大変な苦労だった。 「失礼します!」 明るく元気な声がダイニングルームに飛び込んできた。ディーンが口の力を緩めて息を吐いたのがわかった。イドリスはとっさに、テーブルクロスの下に手を入れて、彼が逃げないように髪の毛を掴んだ。 「サム���待ちくたびれたよ」 リックスがいう。 「ごめんなさい。ピンチーさんが遅刻したんです。オーブンの調子も悪いみたいで……」 トレー台のカートを引いたサムが現れた。兄にくらべて体が小さく、病気しがちという話は聞いていたが、実際、その通りの見た目だった。 「言い訳はいい。早く配って。その前にご挨拶なさい」 「はい。こんばんは、アデリ保安官、キンツル先生。ようこそいらっしゃいました、ウエイクリング校長先生」 「や、やあ、サム――」 ディーンに動くよう指示するのに、髪を掴むのはルール違反のはずだ。乱暴なやり方が他の同士にばれる前に、イドリスは手を放して、かわりに膝を揺らした。ディーンはためらいがちに舌でカリをこすったあと、顎を上下しはじめ、動きを大きくしていった。 「校長先生は君のために来てくれたんだよ、サム」 リックスが何をうそぶくのかと、驚きながら聞くイドリスだったが、何のことはない、それはニックからも聞いていた、この会合に招待される代わりの”寄付”のことだった。 「僕のためですか?」 「数学の勉強がしたいといっていただろう。これから週に一度、校長先生が家まで教えにきて下さる」 サムはびっくりして目が飛び出しそうな顔をしていた。当然だ、ふつう校長がそんなことしない。イドリスだって初耳だったが、週に一度というのは、この会合の後ということだろうか? それならば、特に断る理由もない。週に一度、彼の兄と遊ばせてもらう代わりに、数学を教えてやるくらい、どうってことない。むしろ、このテクニック。イドリスは根本まで唇に包み込まれ、舌の上下運動だけでしごかれている今の状態に、非常に満足していた。このテクニックと、背徳感を味わうためなら、もっと犠牲を払わなくては、恐ろしい気すらする。 「ああ、君のような、勉強熱心な子には、特別授業をしてあげなければと、そう思っていたんだ……」 「そんな……でも……本当に……?」 「ああ、本当だよ」 イドリスは、衝動にしたがい、右足の靴を脱いで、爪先でディーンの体に触れた。それが体のどの部分なのかもわからないが、シャツ越しに感じるやわらかでハリのある若い肉の感触に、たまらない気持ちになった。 サムは、養父のほうを見て、それからもう一度イドリスを見た、イドリスは、深い呼吸をしながら、これは、麻薬よりもクセになりそうだと感じた。サムもまた、可愛らしい見た目をしていた。兄のような、暴力的な裏面を持つがゆえの、脆さや、はかなさはなかったが、天真爛漫な、無垢な愛らしさがあった。それに、とても賢い子だ。 「ありがとうございます、ウエイクリング先生!」 自分は今、ディーンの口を使って快楽を得、それとは知らぬサムを喜ばせている。同時に二人を犯しているようで、言葉では言い尽くせないほどの興奮を覚えた。 イドリスのこめかみに伝う汗に気づいたキンツル医師が席を立ち、サムの給仕を手伝った。医師が大きな長テーブルに前菜とスープを並べているうちに、サムが一度キッチンに戻ってパンを運んできた。なるほどこれをサム一人がやろうとすれば、給仕に十分以上はかかったかもしれない。 「それでは何がご用があれば――」 「ベルを鳴らすよ。ありがとう、サム」 リックスが手を振り、サムはもう一度イドリスに向かってうれしそうに会釈をした。出ていこうとしたが、振り返り、こういった。「どうせなら、ディーンも一緒にみてくれませんか、校長先生? ディーンも本当は数学が好きなんです」 リックスはもう一度うるさそうに手を振った。「ディーンはバイトで忙しいから無理だ」 「でもおとうさん、週に一度くらい休んだって」 「ディーンは君のために頑張ってるんだよ」 ニックが自然と口をはさんだ。「知ってるだろ? 兄弟で同じ里親のもとにいられるのは幸運なんだよ。ディーンは学校とバイトをちゃんと両立させて、いい子だってことをアピールして、君と一緒にいるほうがいい影響があるって証明しようとしてるんだ。ソーシャルワーカーの僕や、ここにいる偉い人たちにね」 みんな、しようのない冗談をいわれたように笑った。サムもすねたように笑って、肩をすくめたが、すぐにまた真面目な顔に戻る。 「でもディーン、最近疲れてるみたいなんです。夜もあんまり眠れてなくて、何度も寝返りを打つんだ」 それでイドリスは、この兄弟がいまだ一緒のベッドで寝ていることに気づいた。興奮はいよいよ高まり、もう数秒も我慢がならないほどだった。 「ディーンに今のバイト先を紹介したのは僕だ。僕から言っておくよ、あまり彼をこき使わないでくれって」 ニックの声はやわらかく、有無を言わせない力があった。サムは会話が終わったことを受け入れ、いたずらっ子らしい仕草で唇の片方を上げると、空になったカートを押して出ていった。 「……お、オオオッ!」 サムが出ていった瞬間、イドリスは堪えていたものを吐き出した。 親切でよく気がつく医師がスープ皿をテーブルの中央へ遠ざけてくれなかったら、胸元がカボチャ色に染まっていただろう。今までに体験したことはおろか、想像すらしたことのない、すさまじい絶頂感だった。 目の裏がチカチカした。どうにか正気が戻ってくると、自分がとんでもない失態を犯してしまった気がした。これでは普通にしゃぶられてふつうにイッたのと変わりない。ここはバーの二階のソファでもホテルでもないんだぞ。秘密の会合。澄ました顔はどこにいった? ”テーブルクロスの下”のルールは。 その上、最初に出したものを飲み込んだディーンが、残りを搾り取るようにチュっと吸ったので、そこでも声が出てしまった。穴があったら入りたいという気持ちになったのはこれが初めてだった。不正入試がばれかけて両親にさらなる出費を強いたときも、こんなに恥ずかしい気持ちにはならなかった。 さぞやニックは自分を引き入れたことを後悔しているだろうと思ったが、ここでも彼は同士の寛容さに感動することになる。まずは保安官のアデリが快活に、気持ちのよい笑い声を上げて場の空気を明るくした。 「先生、若いですね!」 ボトルからワインを注ぎ、グラスをイドリスに差し出した。イドリスはまだ震える手を伸ばし、なんとかそれを受け取って、下でディーンがていねいな手つきで後始末をしているのを感じないようにして、一口飲み下した。たった一口で酔いが全身に回りそうだ。 「最初は誰だってそうなる」 医師の手が肩を撫でた。「慣れてくれば、サムがいるときに絶頂を合わせることもできるようになる。兄弟が同じ部屋にいる時にイくのはとんでもないですよ。どうしても声が出そうな時は、ナプキンを使うんです」 「……なるほど」 イド���スはそう返すのが精いっぱいだ。 「いや、でも、今日のシチュエーションは初めてにしてはハードでしたね。初めてで、サムと一緒の時間があって、しかもサムがお兄ちゃんを気遣うような言葉を使うなんてね。ラッキーだ。僕だってそんな条件の揃った状況でやったことないですよ、いいなあ」 ニックがそういってくれたことで、ほっとする。彼とイドリスとの付き合いは長く、ずっと昔、彼の担当する少年が不慮の事故で亡くなったことがあり、ともに処理をした。彼との絆は絶ってはいけない。それに、人見知りの強いイドリスが本音で話せる唯一の友でもある。 「うちの子はどうでしたと、野暮なことは聞きません」 リックスもむしろ満足そうだった。「あなたの態度が証明してくれましたからね。ようこそ、これで本当の仲間だ、先生」 その後もかわるがわる、イドリスが気をやまないよう声をかけてくれた面々だった。イドリスはスープを飲んだ。勧められたときにはワインを飲み、その味がわかるほど回復した。いつの間にかベルトはもとの通り閉められ、足の間からディーンの気配はなくなっていた。 気づくと、また男たちの上半身がゆらゆらと揺れていた。
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お家で縮毛矯正に挑戦!!
雨が続いたり、ムシっとする天気の時に私の髪は反抗期になります。
小さい頃から首周りやおデコなどの生え際を中心にクセ毛ではあったのですけれど…年々ひどくなっている気がします💧
ストレートパーマをあてることもあるんですけれど、そうなると巻髪は不可能。
私、クセ毛なのに巻いてもクセがつかないのです💧
そしてストレートにもならない。
頑固な髪なのです…まぁ、そんな理由でストレートパーマは数年に1度しかしたことがなかったのですけれど。
今回、友達にお家でできるストレートパーマ液を分けてもらいました✨
女子力高い人は美容室に行くイメージがあったのですけれど、自分でする人も多いようですね💦
コロナで自粛する人が増えているせいかもしれません。
お家時間を楽しむためにってことですね✨
というわけで、私もお家でストレートパーマに挑戦!
貰ったのは「クリスタライジングストレート」の1液と2液のセット。
本当に1回分だけです(笑)
用意したのは、コーム、ラップ、ビニールシート、ケープ代わりに使うビニール、ピン、タオル、ドライヤー、ストレートアイロンです。
ビニール手袋も欲しかったのですけれど、買いに行くのがめんどうだったのと、今スグしたい!って気持ちが強かったので💧
まずはシャンプー&ドライ。
この時、リンスやトリートメントは使用しません。(縮毛矯正されなくなってしまいますので)
しっかり洗ってしっかり乾かす。
乾いたら1液を髪全体に塗布します。
塗布してクシを入れる。
これを繰り返して伸ばしていきます。
10〜15分置いた後、液を洗い流します。
軟化確認は2、3本の髪を指に巻きつけて、緩やかに戻ればOK。
巻きついて戻らないのは軟化しすぎのサインなので気をつけてください。
1液をしっかり洗い流したら、髪を乾かし、ヘアアイロンでしっかりと伸ばします。 ストレートアイロンで髪を伸ばし終わったら、次は2液を塗布します。
1液と同様に、髪全体に塗布してクシで伸ばします。
こちらも10〜15分置いた後、液を洗い流します。
2時間半かかりましたが、無事にセルフストレートが完了しました✨
初めての割には上手にできたのではないかと思う仕上がりになりました✨
とにかくアイロンがあてやすいし、アイロンをかける時間もかなり短縮できました!
・・・理想はアイロンかけずにさらさらなストレート✨なんですけれど💧
なかなか自然な感じで仕上がったので、今回はこれでよしとします⭐️
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いつもありがとうございます アイロンパーマ ハチ周りは細めのアイロンで巻きますので締まります #理容 #東京 #足立区 #綾瀬 #亀有 #北千住 #北綾瀬 #南千住 #フェード #スキンフェード #東京フェード #東京スキンフェード #濡れパン #緩パン #barber #fade #skinfade #tokyofade #tokyoskinfade https://www.instagram.com/p/CChLMBsjAOU/?igshid=1isy825478oiq
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木製ロードバイク3号車〜ダウンチューブ側面部品の積層とシートポストの積層
ダウンチューブ側面部品の積層です。外側にはローズウッドを貼ります。たぶんもう一枚積層します。
こちらはシートポスト。曲げ加工は、煮沸する、アイロンを当てる、(緩い曲がりなら)型で挟むなどの方法がありますが、小さめでまがりのキツいこのような部品はアイロンを当てて曲げています。
しっかり形を覚えてもらうために、このまま3日くらい放置します。
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薄手生地の返し針によるツレをハトロン紙で緩和。 縫い始めと終わりの生地の下に置いて一緒に縫い、定規を縫い目に当てて紙をカット。 ちぎる前にさっとアイロンをかけて湿気を飛ばすとさらにちぎりやすくなります。 カーブでも定規をずらしながらちぎれます。 レース、チュール、オーガンジー、シフォンなど薄く弱い生地に使えるテクニック。 #チュール縫製#薄物縫製#難素材#縫製テクニック#ソーイングテクニック#縫製技術 #オーダーメイド#パターンメイキング#フォーマルウェア#パタンナー#サンプル縫製#ドレス#お直し#仕立て#縫製考察 #sewingtechniques#garmentmaking#dress#sewing#patternmaker#modelist#seamstress#dressmaking#patternmaking#madetoorder#couture#detail https://www.instagram.com/p/BypLx3VFiav/?igshid=6l26ufvz783m
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“Switchの修理のため、ダンボールで送る時、緩衝材としてタオル入れたら、洗濯アイロンまでしてくれたじゃねぇか!ありがとうございます #任天堂を許すな” - さめチョコ@イカ楽しいさんのツイート (via gkojax)
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