#明和の先輩と乗る青の交響曲
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和歌山県内で運用される227系には、車載型ICOCA改札機が設置されています。
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NoxRika
桝莉花
朝、目を覚ますと、「もう朝か」とがっかりする。希望に満ちた新しい朝起なんてほとんどなく、その日の嫌な予定をいくつか乗り切る作戦を練ってから布団を出る。
マルクスの「自省録」を友人に借りて読んだ時、初めは偉そうな言いぐさに反感を持ったが、日々の中で些細な共感をするたびに、ちょっとかっこいいんじゃないかなどと思うようになった。嫌な予定を数えるだけだった悪い癖を治すため、そこに書いてあったような方法を自分なりに実践している。半ば寝ぼけているから、朝ごはんを食べている時には、どんな作戦だったかもう思い出せない。
ただ、担任の堀田先生に好意を寄せるようになってからは、今日も先生に会いに行こう、が作戦の大半を占めている気がする。
リビングへ出ると、食卓には朝食が並んでおり、お母さんが出勤姿で椅子に半分くらい腰掛けてテレビを見ていた。
「あ、莉花。見てニュース」
言われた通りにテレビに目を凝らすと、映っていたのはうちの近所だった。
「えー、引き続き、昨日午後五時頃、○○県立第一高等学校で起きました、無差別殺傷事件の速報をお伝えしております」
全国区のよく見知ったアナウンサーの真剣な顔の下に、速報の文字と四名が現在も重体、教師一名を含む三名が死亡とテロップが出た。
「えっ、これって、あの一高?生徒死んじゃったの」
お母さんは眉根を寄せ、大げさに口をへの字にして頷いた。
「中学の時のお友達とか、一高に行った子もいるんじゃないの?」
しばらくテレビの画面を見詰めながら考えを巡らせた。お母さんは「大変大変」とぼやきながら立ち上がり、
「夕飯は冷蔵庫のカレーあっためて食べてね」
と家を出て行った。
中学の時に一緒にいた友だちはいるけれど、知りうる限り、一高に進学した子はいなかった。そうでなくても、今はもうほぼ誰とも連絡は取り合っていないから、連絡したところでどうせ野次馬だと思われる。
地元の中学校に入学して、立派な自尊心となけなしの学力を持って卒業した。友だちは、いつも一緒にいる子が二人くらい居たけれど、それぞれまた高校で「いつも一緒にいる子」を獲得し、筆マメなタイプじゃなかったために、誕生日以外はほぼ連絡しなくなった。誕生日だって、律儀に覚えているわけじゃなくて、相手がSNSに登録してある日付が私の元へ通知としてやってくるから、おめでとう、また機会があれば遊びに行こうよと言ってあげる。
寂しくはない。幼いことに私は、自分自身のことが何よりも理解し難くて、外界から明確な説明を求められないことに、救われていた。友だちだとかは二の次で、ましてやテレビの向こう側で騒がれる実感のない事件になんて構ってられない。
高校で習うことも、私にはその本質が理解できない。私の表面的なものに、名前と回答を求め、点数を与えて去っていく。後にこの毎日が青春と名乗り出るかも、私には分からない。気の早い麦茶の水筒と、台所に置かれた私の分の弁当。白紙の解答用紙に��まれた、我が名四文字の美しきかな。
学校に着いたのは七時過ぎだった。大学進学率県内トップを常に目標に掲げている我が高校は、体育会系の部活動には熱心じゃない。緩く活動している部活動なら、そろそろ朝練を始めようという時間だ。駐輪場に自転車を停めると、体育館前を通って下駄箱へ向かうのだが、この時間だと、バスケ部の子たちが準備体操をしていることがあり、身を縮こまらせる。今日はカウントの声が聞こえて来ないから、やってないのかな。横目で見ると、女子バスケ部に囲まれて体育館を解錠する嬉しい後ろ姿が見えた。
担任の堀田先生だ。
そういえば、女子バスケ部の副顧問だったな。
背ばっかり高くて、少し頼りない猫背をもっと眺めたかったけれど、違う学年の、派手な練習着の女子たちに甲高��声で茶化されて、それに気だるげな返事をしている先生は、いつもより遠くに感じた。あ、笑ってる。
いつも通りに身を縮こまらせて、足早に玄関へ駆け上がった。
出欠を取るまでまだ一時間半もあり、校内は静まり返っていた。
教室のエアコンを点け、自身の机に座り、今日の英単語テストの勉強道具を机に広げた。イヤホンをして、好きなアイドルのデビュー曲をかける。
校庭には夏季大会を前にした野球部員たちが集まり、朝練にざわつきだす。イヤホンから私にだけ向けられたポップなラブソングを濁すランニングのかけ声を窓の向こう側に、エアコンの稼働音だけが支配する教室。
「おはよー」
コンビニの袋を提げて入って来た風呂蔵まりあは、机の間を縫い縫い私に近寄って来た。
イヤホンを外しておはよう、と返すと、彼女はそのまま私の前の席に座った。片手でくるくるとした前髪をおでこから剥がし、もう片手に握ったファイルで自分を仰ぎながら、馴れ馴れしく私の手元を覗き込んだ。
「早くない?」
「小テストの勉強今からやろうと思って」
「え、やるだけ偉くない?私もう諦めてるよ」
目の前で手を叩いて下品に笑う。
「いや、普通にやっといた方がいいと思うけど」
叩きつけるような返事をした。
手応えのないコミュニケーション。読んでいた分厚い英単語帳を勢いよく窓から放り投げ、そのまま誤魔化すように浮遊する妄想と、バットとボールが描く金属音の放物線。オーライ、オーライの声。空虚な教室の輪郭をなぞり、小さくなって、そのまま消えた。
「いやー、はは」
向こうが答えたのは、聞こえないフリをした。
まりあとは、限りなく失敗に近い、不自然な交友を持ってしまった。中学を卒業し「いつも一緒にいる子」と離れ、高校に一年通っても馴染めず焦った私は、次なる友だちを求め私よりも馴染めずにいたまりあに声をかけた。短期間で無理やり友だちを作った私は、学校へ来ることが苦手な彼女に優しく接することを、施しであり、自分の価値としてしまっていた。その見返りは、彼女のことを無下に扱っても「いつも一緒にいる」ことだなんて勝手に思い込み、機嫌が悪い時には、正義を装った残酷な振る舞いをして、彼女を打ちのめすことで自分を肯定していた。
出会ってからすぐに距離が縮まって、充分な関係性を築き上げる前からその強度を試すための釘を打っているようなものだ。しかし、人を穿って見ることのできない彼女は私を買い被り、友人という関係を保とうと自らを騙���騙し接してくる。それもまた癪に触った。要はお互いコミュニケーションに異常があるのだ。でも、それを異常だとは言われたくない、自分の法律を受け入れて友だちぶっていてほしい。それは全くの押し付けで、そのことに薄々気付きながらも、目を背けていた。
ちょっとキツい物言いで刺されても、気づかないふりするのが、私たちだったよね。あれ、違ったかな。
しかし、もともと小心者な私は、根拠のない仕打ちを突き通す勇気はなく、すぐに襲い来る罪悪感に負け、口を開いた。
「あ、ねえ…ニュース見た?一高の」
「知ってる!やばくない?文化祭で生徒が刃物振り回したってやつだよね?めっちゃかわいそう。びっくりしてすぐに一高の友達にラインしたもん」
「何人か亡くなってるらしいじゃん」
「え、そうなの、笑うんだけど」
「笑えないでしょ」
それが、彼女の口癖なのも知っていた。勘に触る言葉選びと、軽薄な声。最早揚げ足に近かった。
「あー、ごめん。つい」
片手をこめかみに当て、もう片手の掌をみなまで言うなと私に突き出してくる。この一瞬に関しては、友情なんてかけらもない。人間として、見ていられない振る舞いだった。
「ごめん」
また無視した。小さな地獄がふっと湧いて、冷えて固まり心の地盤を作って行く。
ただ、勘違いしないで欲しい。ほとんどはうそのように友だちらしく笑いあうんだから。その時は私も心がきゅっと嬉しくなる。
黙り込んでいると、クラスメイトがばらばらと入って来て教室は一気に騒がしくなり、まりあは自分の席へ帰っていった。ああ全く、心の中にどんな感情があれば、人は冷静だろう。愛情か、友情か。怒りや不機嫌に支配された言動は、本来の自分を失っていると、本当にそうだろうか。この不器用さや葛藤はいつか、「若かったな」なんて、笑い話になるだろうか。
昼休みの教室に彼女の姿は無かった。席にはまだリュックがあって、別の女子グループが彼女の机とその隣の机をつけて使っている。私は自分の席でお弁当を広げかけ、一度動きを止め片手でスマホを取り出し「そっち行ってもいい?」とまりあにメッセージを送った。すぐに「いいよ!」が返ってくる。お弁当をまとめ直して、スマホと英単語帳を小脇に抱えて、教室を出た。
体育館へと続く昇降口の手前に保健室があり、その奥には保健体育科目の準備室がある。私は保健室の入り口の前に足を止めた。昇降口の外へ目をやると、日陰から日向へ、白く世界が分断されて、陽炎の向こう側には、永遠に続く世界があるような予感さえした。夏の湿気の中にもしっかりと運ば��て香る校庭の土埃は、上空の雲と一緒にのったりと動いて、翳っていた私の足元まで陽射しを連れてくる。目の前の保健だよりの、ちょうど色褪せた部分で止まった。毎日、昼間の日の長い時間はここで太陽が止まって、保健室でしか生きられない子たちを、永遠の向こう側から急かすのだ。
かわいそうに、そう思った。彼女も、教室に居られない時は保健体育の準備室に居る。保健室自体にはクラスメイトも来ることがあるから、顔を合わせたくないらしい。準備室のドアを叩くと、間髪入れずに彼女が飛び出てきた。
「ありがとねえ」
「いいよいいよ、もうご飯食べ終わった?」
二人で準備室の中に入ると、保健室と準備室を繋ぐドアから保健医の仁科先生が顔を出した。
「あれ、二人一緒にたべるの?」
「はい」
私はにこやかに応えた。その時に、彼女がどんな顔をしていたかわからない。ただ、息が漏れるように笑った。
先生の顔も優しげに微笑んで私を見た。ウィンクでもしそうな様子で「おしゃべりは小さい声でお願いね」と何度か頷き、ドアが閉まった。準備室の中は埃っぽくて、段ボールと予備の教材の谷に、会議机と理科室の椅子の食卓を設け、そこだけはさっぱりとしている。卓上に置かれたマグカップには、底の方にカフェオレ色の輪が出来ていた。
「これ、先生が淹れてくれたの?」
「そう、あ、飲みたい?貰ってあげよっか」
「…いいよ」
逃げ込んだ場所で彼女が自分の家のように振舞えるのは、彼女自身の長所であり短所だろう。遠慮の感覚が人と違うと言うか、変に気を遣わないというか、悪意だけで言えば、図々しかった。
ただ、その遠慮のなさは、学年のはじめのうちは人懐っこさとして周知され、彼女はそれなりに人気者だった。深くものを考えずに口に出す言葉は、彼女の印象をより独り歩きさせ、クラスメイトは彼女を竹を割ったような性格の持ち主だと勘違いした。
当然、それは長くは続くはずもなく、互いの理解と時間の流れと共に、彼女は遠慮しないのではなく、もともとの尺度が世間とずれている為に、遠慮ができないのだと気付く。根っからの明るさで人と近く接しているのではなく、距離感がただ分からず踏み込んでいるのだと察した。
私は、当時のクラスの雰囲気や彼女の立場の変遷を鮮明に覚えている。彼女のことが苦手だったから、だからよく見ていた。彼女の間違いや周囲との摩擦を教えることはしなかった。
彼女は今朝提げてきたコンビニの袋の口を縛った。明らかに中身のあるコンビニ袋を、ゴミのように足元に置く。違和感はあったけれど、ここは彼女のテリトリーだから、あからさまにデリケートな感情をわざわざ追求することはない。というか、学校にテリトリーなんてそうそう持てるものじゃないのに、心の弱いことを��由に、こんなに立派な砦を得て。下手に自分の癪に触るようなことはしたくなかった。
「あれ、食べ終わっちゃってた?」
「うん。サンドイッチだけだったからさ」
彼女の顔がにわかに青白く見えた。「食べてていいよ」とこちらに手を伸ばし、連続した動作で私の手元の英単語帳を自分の方へ引き寄せた。
「今日何ページから?」
「えーっとね、自動詞のチャプター2だから…」
「あ、じゃあ問題出してあげるね。意味答えてね」
「えー…自信ないわあ」
「はいじゃあ、あ、え、アンシェント」
「はあ?」
お弁当に入っていたミートボールを頬張りながら、彼女に不信の眼差しを注ぐ。彼女は片肘をついて私を見た。その視線はぶつかってすぐ彼女が逸らして、代わりに脚をばたばたさせた。欠けたものを象徴するような、子供っぽい動きに、心がきゅっと締め付けられた。
「え、待って、ちょっと、そんなのあった?」
「はい時間切れー。正解はねえ、『遺跡、古代の』」
「嘘ちょっと見せて。それ名詞形容詞じゃない?」
箸を置いて、彼女の手から単語帳をとると、彼女が出題してきたその単語が、今回の小テストの出題範囲ではないことを何度か確認した。
「違うし!しかもアンシェントじゃないよ、エインシェント」
「私エインシェントって言わなかった?」
「アンシェントって言った」
「あー、分かった!もう覚えた!エインシェントね!遺跡遺跡」
「お前が覚えてどうすんの!問題出して!」
「えー、何ページって言った?」
私が目の前に突き返した単語帳を手に取って、彼女が嬉しそうにページをめくる。その挙動を、うっとりと見た。視界に霞む準備室の埃と、彼女への優越感は、いつも視界の隅で自分の立派さを際立つ何かに変わって、私を満足させた。
「午後出ないの?」
私には到底できないことだけど、彼女にはできる。彼女にできることは、きっと難しいことじゃない。それが私をいたく安心させた。
「うん。ごめんね、あの、帰ろうと思って」
私は優しい顔をした。続いていく物語に、ただ次回予告をするような、明日会う時の彼女の顔を思い浮かべた。
「プリント、届けに行こうか。机入れておけばいい?」
私は、確信していた。学校で、このまま続いていく今日こそ、今日の午後の授業、放課後の部活へと続いていく私こそ本当の物語で、途中で離脱する彼女が人生の注釈であると。
「うん。ありがとう。机入れといて。出来ればでいいよ、いつもごめんね」
お弁当を食べ終えて、畳みながら、彼女の青白い顔が、心なしか、いつもより痛ましかった。どうしたのかと聞くことも出来たが、今朝の意地悪が後ろめたくて、なにも聞けなかった。
予鈴が鳴って、私が立ち上がると、彼女がそわそわし始めた。
「つぎ、えいご?」
彼女の言葉が、少しずつ私を捉えて、まどろんでいく。
「うん。教室移動あるし、行くね」
「うん…あのさ、いつもさ、ありがとね」
私は、また��しい顔をした。
「え、なんで。また呼んでなー」
そのまま、準備室を出た。教室に戻ろうと一歩を踏み出した時、背中でドアが開く音がした。彼女が出てきたのだと思って足を止め振り返ると、仁科先生が保健室から顔を出して、微笑んできた。
「時間、ちょっといいかなあ?」
私が頷くと、先生は足早に近寄ってきて、私を階段の方まで連れてきた。準備室や保健室から死角になる。
「あのさあ、彼女、今日どうだった?」
「へ」
余りにも間抜けな声が出た。
「いつもと変わらなさそう?」
なんだその質問。漫画やゲームの質問みたい。
「いつもと変わったところは、特に」
「そっかあ」
少し考えた。きっと、これがゲームなら、彼女が食べずに縛ったコンビニ袋の中身について先生に話すことが正解なんだろう。
まるでスパイみたいだ。中心に彼女がいて、その周りでぐるぐる巡る情勢の、その一部になってしまう。そんなバカな。それでも、そこに一矢報いようなんて思わない。 不正解の一端を担う方が嫌だ。
「あ、でも、ご飯食べる前にしまってたかも」
「ご飯?」
「コンビニの、ご飯…」
言葉にすれば増すドラマティックに、語尾がすぼんだ。
「ご飯食べれてなかった?」
「はい」
辛くもなかったけれど、心の奥底の認めたくない部分がチカチカ光っている。
「そうかあ」
仁科先生は全ての人に平等に振る舞う。その平等がが私まで行き届いたところで、始業の鐘が鳴る。平和で知的で嫌味な響き。
「あ、ごめんね、ありがとう!次の授業の先生にはこちらからも連絡しておくから」
仁科先生はかくりと頭を下げた。「あ、ごめんね、ありがとう!」そうプログラミングされたキャラクターのように。
「いえ」
私は私のストーリーの主人公然とするため、そつのない対応でその場を去った。
こうして過ぎてゆく日々は、良くも悪くもない。教育は私に、どこかの第三者に運命を委ねていいと、優しく語りかける。
彼女の居ない教室で、思いのほか時間は静かに過ぎていった。私はずっと一人だった。
放課後はあっという間にやってきて、人懐っこく私の顔を覗き込んだ。
ふと彼女の席を振り返ると、担任の堀田先生が腰を折り曲げ窮屈そうに空いた席にお知らせのプリントを入れて回っていた。
「学園祭開催についてのお知らせ」右上に保護者各位と記されしっとりとしたお知らせは、いつもカバンの隅に眠る羽目になる。夏が過ぎれば学園祭が来る。その前に野球部が地方大会で強豪校に負ける。そこからは夏期講習、そんなルーティンだ。
堀田先生の腰を折る姿は夏の馬に似ていた。立ち上がって「あの」と近寄ると、節ばった手で体重を支えてこっちを見た。「あ」と声を上げた姿には、どこか爵位すら感じる。
「莉花、今日はありがとうね 」
「え?」
「お昼まりあのところへ行ってくれたでしょ」
心がぎゅっと何かに掴まれて、先生の上下する喉仏を見た。
絞り出したのはまた、情けない声だった。
「はい」
「まりあ���元気そうだった?」
わたしは?
昼も脳裏に描いたシナリオを、口の中で反芻する。
「普通でした、割と」
先生は次の言葉を待ちながら、空になったまりあの椅子を引き寄せて腰掛ける。少し嫌だった。目線を合わせるなら、私のことだって、しっかり見てよ。
「でもお昼ご飯、買ってきてたのに、私が行ったら隠しちゃって」
「どういうこと?」
「ご飯食べてないのにご飯食べたって言ってました。あんまりそういうことないかも」
「あ、ほんと」
私を通じて彼女を見ている。
まりあが、先生のことを「堀田ちゃん」と呼んでる姿が目に浮かんだ。私は、そんなことしない。法律の違う世界で、世界一幸せな王国を築いてやる。
「先生」
「私、まりあにプリント届けに行きます」
「ほんと?じゃあお願いしようかな、莉花今日は吹部は?」
「行きます、帰りに寄るので」
「ねえ、莉花さんさ、まりあといつから仲良しなの」
「このクラスになってからですよ」
「そうなんだ、でも二人家近いよね」
「まりあは幼稚園から中学まで大学附属に行ってたと思います。エスカレーターだけど高校までは行かなかったっぽい。私はずっと公立」
「あ、そうかそうか」
耐えられなかった。
頭を軽く下げて教室を出た。
上履きのつま先が、冷たい廊下の床だけを後ろへ後ろへと送る。
私だって、誰かに「どうだった」なんて気にされたい。私も私の居ないところで私のこと心配して欲しい。そんなことばっかりだよ。でもそうでしょ神様、祈るにはおよばないようなくだらないものが、本当は一番欲しいものだったりする。
部活に行きたくない、私も帰りたい。
吹奏楽部のトランペット、「ひみつのアッコちゃん」の出だしが、高らかに飛んできて目の前に立ちふさがる。やっぱり行かなくちゃ、野球部の一回戦が近いから、行って応援曲を練習しなきゃ。ロッカー室でリュックを降ろし楽譜を出そうと中を覗くと、ペンケースが無かった。
教室に戻ると、先生はまりあの椅子に座ったまま、ぼんやりと窓を見ていた。
私の存在しない世界がぽっかりと広がって、寂しいはずなのに、なにを考えてるのか知りたいのに、いまこのままじっとしていたい。自分がドラマの主人公でいられるような、先生以外ピントの合わない私の画面。心臓の音だけが、後から付け足した効果音のように鳴っている。
年齢に合った若さもありながら、当たり障りのない髪型。 短く刈り上げた襟足のせいで、長く見える首。そこに引っかかったUSBの赤いストラップ。薄いブルーのワイシャツ。自分でアイロンしてるのかな。椅子の背もたれと座面の隙間から覗くがっしりとしたベルトに、シャツが吸い込まれている。蛍光灯の消えた教室で、宇宙に漂うような時間。
私だって先生に心配されたい、叱られたい。莉花、スカート短い。
不意に立ち上がってこちらを振り向く先生���確認しても、無駄に抵抗しなかった。
「うわびっくりした。どうしたの」
「あ」
口の中で「忘れ物を…」とこぼしながら、目を合わせないように自分の席のペンケースを取って、教室から逃げた。
背中に刺さる先生の視線が痛い?そんなわけない。
十九時前、部活動の片付けを終えて最後のミーティングをしていると、ポケットに入れていたスマートフォンの通知音がその場に響いた。
先輩は「誰?」とこちらを見た。今日のミーティングは怒りたがらない先輩が担当で、こういう時には正直には言わない、名乗り出ない、が暗黙の了解だったから、私は冷や汗をかきながら黙っていた。
「部活中は携帯は禁止です」
野球部の地方大会の対戦日程の書かれたプリントが隣から回ってきた。配布日が昨年度のままだ。去年のデータを使い回して作ったんだろう。
そういえば、叱られたら連帯責任で、やり過ごせそうなら謝ったりしちゃだめだと知ったのも、一年生の時のちょうどこの時期だった気がする。ただ、この時期じゃ少し遅かったわけだが。みんなはとっくに気付いていて、同じホルンパートの人たちに迷惑をかけてから、人と関わることはこんなにも難しいのかと、痛いほど理解した。
昔、社交には虚偽が必要だと言った人が居たけれど、その人は羅生門ばっかりが教材に取り上げられて、私が本当に知りたい話の続きは教科書に載っていなかった。
「じゃあ、お疲れ様でした。明日も部活あります」
先輩の話は一つも頭に入らないまま、解散となった。
ぼんやりと手元のプリントを眺めながら廊下へ出た。
堀田先生は、プリントを作る時、明朝体だけで作ろうとする。大きさを変えたり、枠で囲ったり、多少の配慮以外はほとんど投げやりにも見える。テストは易しい。教科書の太字から出す。それが好きだった。
カクカクした名前も分からない書体でびっしりと日程の書き揃えられた先輩のプリントは、暮れかかった廊下で非常口誘導灯の緑に照らされ歪んだ。
駐輪場でもたもたしていると、「お疲れ」と声をかけられた。蛍光灯に照らされた顔は、隣の席の飯室さんだった。
ちょっと大人びた子で、すごく仲がいいわけではなくても、飯室さんに声をかけられて嬉しくない子はいないと思う。
「莉花ちゃん部活終わり?」
「うん、飯室さんは」
「学祭の実行委員になっちゃったんだ、あたし。だから会議だったの」
「そっかあ」
「莉花ちゃん、吹部だっけ?すごいね」
「そ、そんなことないよ。それしかやることなくて」
自転車ももまばらになった寂しい駐輪場に、蒸し暑い夕暮れが滞留する。気温や天気や時間なんて些細なことでも左右される私と違って、飯室さんはいつもしっかりしていて、明るい子だ。ほとんど誰に対しても、おおよそ思うけれど、こんな風になりたかったなと思う。私の話を一生懸命聞いて、にこにこしてくれるので、つい話を続けてしまう。
飯室さんとの距離感��、些細なことも素直にすごいと心から言えるし、自分の発言もスムーズに選べる。上質な外交のように、友達と上手に話せているその事実もまた、私を励ます。友だちとの距離感は、これくらいが一番いい。
ただ、そうはいかないのが、私の性格なのも分かっている。いい人ぶって踏み込んだり、自分の価値にしたくて関係を作ったり、なによりも、私にも無条件で踏み込んで欲しいと期待してしまう。近づけばまた、相手の悪いところばかり見えてしまうくせに。はじめにまりあに声をかけた時の顔も、無関心なふりをして残酷な振る舞いをした時の顔も、全部一緒になって煮詰まった鍋のようだ。
また集中力を欠いて、飯室さんの声へ話半分に相づちを打っていると、後ろから急に背中をポン、と叩かれた。私も飯室さんも、軽く叫び声をあげた。
「はーい、お嬢さんたち、下校下校」
振り返ると、世界史の細倉先生が長身を折り曲げて顔を見合わせてきた。私が固まっていると、飯室さんの顔が、みるみる明るくなる。
「細倉センセ!びっくりさせないで」
「こんな暗くなった駐輪場で話し込んでるんだから、どう登場しても驚くだろ。危ないからね、早く帰って」
「ねえ聞いて、あたしさ、堀田ちゃんに無理やり学祭実行委員にされたの」
「いいじゃん、どうせ飯室さん帰宅部でしょ。喜んで堀田先生のお役に立ちなさい」
「なにそれー!てかあたし、帰宅部じゃないし!新体操やってるんですけど」
二人の輝かしいやりとりを、口を半分開けて見ていた。たしかに、細倉先生は人気がある。飯室さんが言うには、若いのに紳士的で振る舞いに下品さがなくて、身長も高くて、顔も悪くなくて、授業では下手にスベらないし、大学も有名私立を出ているし、世界史の中で繰り返される暴力を強く念を押すように否定するし、付き合ったら絶対に大切にしてくれるし幸せにしてくれる、らしい。特に飯室さんは、細倉先生のこととなると早口になる。仲良しグループでも、いつも細倉先生の話をしていると言っていた。
イベントごとでは女子に囲まれているのは事実だ。私も別に嫌いじゃない。それ以上のことはよく知らないけれど、毎年学園祭に奥さんと姪っ子を連れてくると、クラスの女子は阿鼻叫喚する。その光景が個人的にはすごく好きだったりする。あ、あと、剣道で全国大会にも出ているらしい。
私はほとんど言葉を交わしたことがない。世界史の点数もそんなに良くない。
「だから、早く帰れっての。見て、桝さんが呆れてるよ」
「莉花���ゃんはそんな子じゃないから」
何を知っていると言うんだ。別にいいけど。
「もう、桝さんこいつどうにかしてよ」
いつのまにか細倉先生の腕にぶら下がっている飯室さんを見て、なんだか可愛くて思わず笑ってしまった。
「桝さん、笑い事じゃないんだって」
私の名前、覚えてるんだな。
結局、細倉先生は私たちを門まで送ってくれた。
「はい、お気をつけて」
ぷらぷらと手を振りながら下校指導のため駐輪場へ戻っていく先生を、飯室さんは���んだ顔で見送っていた。飯室さん、彼氏いるのに。でもきっと、それとこれとは違うんだろう。私も、堀田先生のことをこんな感じで誰かに話したいな。ふとまりあの顔が浮かぶけれど、すぐに放課後の堀田先生の声が、まりあ、と呼ぶ。何を考えても嫉妬がつきまとうな。また意味もなく嫌なことを言っちゃいそう。
「ね、やばくない?細倉センセかっこ良すぎじゃない?」
興奮冷めやらぬ飯室さんは、また早口になっている。
「かっこ良かったね、今日の細倉先生。ネクタイなかったから夏バージョンの細倉先生だなと思った」
「はー、もう、なんでもかっこいいよあの人は…。みんなに言おう」
自転車に跨ったまま、仲良しグループに報告をせんとスマートフォンを操作する飯室さんを見て、私もポケットからスマートフォンを出した。そういえば、ミーティング中に鳴った通知の内容を確認してなかった。
画面には、三十分前に届いたまりあからのメッセージが表示されていた。
「莉花ちゃんの名字のマスって、枡で合ってる?」
なんだそりゃ、と思った。
「違うよ。桝だよ」
自分でも収まりの悪い名前だと思った。メッセージはすぐに読まれ、私の送信した「桝だよ」の横に既読マークが付く。
「間違えてた!早く言ってよ」
「ごめんって。今日、プリント渡しに家に行ってもいい?」
これもすぐに既読マークが付いた。少し時間を置いて、
「うん、ありがとう」
と返ってきた。
「家についたら連絡するね」
そう送信して、一生懸命友達と連絡を取り合う飯室さんと軽く挨拶を交わし、自転車をこぎ始めた。
湿気で空気が重い。一漕ぎごとにスカートの裾に不快感がまとわりついてくる。アスファルトは化け物の肌みたいに青信号の点滅を反射し、黄色に変わり、赤くなる。そこへ足をついた。風を切っても爽やかさはないが、止まると今度は溺れそうな心地すらする。頭上を見上げると月はなく、低い雲は湯船に沈んで見るお風呂の蓋のようだった。
やっぱり私も、まりあと、堀田先生の話題で盛り上がりたい。今朝のこと、ちょっと謝りたい。あと、昨日の夜のまりあが好きなアイドルグループが出た音楽番組のことも話し忘れちゃったな。まりあは、堀田先生と細倉先生ならどっちがタイプかな。彼女も変わってるから、やっぱり堀田先生かな。だとしたらこの話題は触れたくないな。でもきっと喋っちゃうだろうな。
新しく整備されたての道を行く。道沿いにはカラオケや量販店が、これでもかというほど広い駐車場と共に建ち並ぶ。
この道は、まっすぐ行けばバイパス道路に繋がるが、脇に逸れるとすぐ新興住宅地に枝分かれする。そこに、まりあの家はある。私が住んでいるのは、まりあの住むさっぱりした住宅街から離れ、大通りに戻って企業の倉庫密集地へと十分くらい漕ぐ団地だ。
一度だけまりあの家に遊びに行ったことがある。イメージと違って、部屋には物が多く、あんなに好きだと言っていたアイドルグループのグッズは全然なかったのに、洋服やらプリントやら���捨てられないものが積み重なっていた。カラーボックスがいくつかあって、中身を見なくても、思い出の品だろうと予想がついた。
まりあには優しくて綺麗なお姉さんがいる。看護師をしているらしく、その日も夜勤明けの昼近くにコンビニのお菓子を買って帰って来てくれた。お母さんのことはよく知らないけれど、まりあにはお父さんが居ない。お姉さんとすごく仲がいいんだといつも自慢げにしている。いいなと思いながら聞いていた。
コンビニの角を曲がると、見覚えのある路地に入った。同じような戸建てが整然と並び、小さな自転車や虫かごが各戸の玄関先に添えられている。風呂蔵の表札を探して何周かうろうろし、ようやくまりあの家を見つけた。以前表札を照らしていた小さなランタンは灯っておらず、スマートフォンのライトで照らして確認した。前に来たときよりも少し古びた気がするけれど、前回から二ヶ月しか経っていないのだから、そんなはずはない。
スマートフォンで、まりあにメッセージを送る。
「家着いた」
既読マークは付かない。
始めのうちは、まあ気がつかないこともあるかと、しばらくサドルに腰掛けスマートフォンをいじっていた。次第に、周囲の住人の目が気になり出して、ひとしきりそわそわした後で、思い切ってインターホンを押した。身を固くして待てども、返事がない。
いよいよ我慢ならなくて、まりあに「家に居ないの?」「ちょっと」と立て続けにメッセージを送る。依然、「家着いた」から読まれる気配がない。一文句送ってやる、と思ったところで、家のドアが勢いよく開いた。
「あ、まりあちゃんの友だち?」
サドルから飛び降り駆け寄ろうとした足が、もつれた。まりあが顔を出すと思い込んでいた暗がりからは、見覚えのない、茶髪の男性が現れた。暗がりで分かりにくいけれど、私と同い年くらいに見える。張り付いたような笑みとサンダルを引きずるようにして一歩、一歩とこちらへ出てくる。緊張と不信感で自転車のハンドルを握る手に力がこもった。
ちょっと、まりあ、どこで何してるの?
男の子は目の前まで来ると肘を郵便受けに軽く引っ掛け、「にこにこ」を貼り付けたまま目を細めて私を見た。
「あ、俺ね、まりあちゃんのお姉さんとお付き合いをさせて頂いている者です。いま風呂蔵家誰も居なくてさ。何か用事かな」
見た目のイメージとは違った、やや低い声だった。街灯にうっすらと照らされた顔は、子供っぽい目の下に少したるみがあって、確かに、第一印象よりは老けて見える、かな。わからない。大学生くらいかな。でも、まりあのお姉さんって、もうすぐ三十歳だって聞いた気がする。
恐怖を消し去れないまま目をいくら凝らしても、判断材料は一向に得られず、声の優しさを信じきるか、とりあえずこの場を後にするか、戸惑う頭で必死に考えた。
「あの、私、まりあと約束してて…」
「えっ?」
男性の顔から笑顔がすとんと落ちた。私の背後に幽霊でも見たのか、��安に強張った表情が一瞬覗き、それを隠すように手が口元を覆った。
「今?会う約束してたの?」
「いや、あの」
彼の不安につられて、私の中の恐怖も思考を圧迫する。言葉につっかえていると、ポケットからメッセージの通知音が響いた。助かった、反射的にスマートフォンを手にとって、「すみません!」と自転車に乗りその場から逃げた。
コンビニの角を曲がり、片足を着くとどっと汗が噴き出してきた。ベタベタの手を一度太ももの布で拭ってから、スマートフォンの画面を点灯した。メッセージはまりあからではなく、
「家に帰っていますか?今から帰ります。母さんから、夕飯はどうするよう聞いていますか」
父さんだった。大きいため息が出た。安堵と苛立ちと落胆と、知っている言葉で言えばその三つが混ざったため息だった。
「今友だちの家にプリント届けに来てる。カレーが冷蔵庫にあるらしい」
乱暴に返事を入力する。
一方で、まりあとのメッセージ画面に未だ返事はない。宙に浮いた自分の言葉を見ていると、またしても不安がじわじわと胸を蝕んでいく。
もしも、さっきのあの男が、殺人鬼だったらどうしよう。まりあのお姉さんも、まりあももう殺されちゃってたら。まりあに、もう二度と会えなかったら。あいつの顔を見たし、顔を見られちゃった。口封じに私も殺されちゃうかも知れない。まりあのスマートフォンから名前を割り出されて、家を突き止められて、私が学校に行ってる間に、家族が先に殺されちゃったら。
冷静になればそんなわけがないと理解出来るのだけれど、じっとりとした空気は、いくら吸っても、吐いても、不安に餌をやるようなものだった。冷たい水を思いっきり飲みたい。
とりあえず家に帰ろう、その前に、今一一〇番しないとまずい?いや、まだなにも決まったわけじゃない。勘違いが一番恥ずかしい。でも、まりあがそれで助かるかも知れない。なにが正解だろう。間違えた方を選んだら、バッドエンドは私に回って来るのかな。なんでだ。
コンビニ店内のうるさいポップが、霞んで見える。心細さで鼻の奥がツンとする。スカートを握って俯いていると、背後から名前を呼ばれた。
「莉花ちゃん?」
聞きたかった声に、弾かれたように振り返った。
「まりあ!」
まりあは制服のまま、手にお財布だけを持って立ち尽くしていた。自分の妄想はくだらないと、頭でわかっていても、一度はまりあが死んだ世界を見てきたような心地でいた。ほとんど反射的に、柄にもなくまりあの手を握った。柔らかくて、すべすべで、ほんのり温かかった。まりあは、口角を大きく上げて、幸せそうに肩を震わせて笑った。
「莉花ちゃん、手汗すごいね」
「あのさあ、結構メッセージ送ったんですけど」
「うそ、ごめん!気づかなかった」
いつもみたいに、なにか一言二言刺してやろうと思ったけれど、何も出てこなかった。この声も、全然悪びれないこの態度も、機嫌の悪い時に見れば、きっと下品で軽薄だなんて私は思うんだろうな。でも今は、あまりにも純粋に幸せそうなまりあの姿に釘付けになるしかなかった。もしかして、私の感情を通さずに見るまりあは、いつも��んなに幸せそうに笑っているのかな。
「本当だ、家に行ってくれたんだね、ごめんね」
「そう言ったじゃん!て言うか、何、あの男の人」
「あ、柏原くんに会った?」
「柏原くんって言うの」
「そう、声が低い茶髪の人。もうずっと付き合ってるお姉ちゃんの彼氏」
「そ、そうなんだ」
やっぱり、言ってることは本当だったんだ。盛り上がっていた様々な妄想が、全部恥ずかしさに変換され込み上げてくる。それを誤魔化すように次の話題を切り出す。
「どこか行ってたの?」
「一回、家を出たの。ちょっとコンビニ行こうと思って。今お財布取りに戻ったんだけど、入れ違っちゃったかも、ごめん」
「普通、私が家行くって言ってるのにコンビニ行く?」
「行きません」
「ちょっとくらい待ってくれる?」
まりあは、
「はあい。先生かよ」
ちょっと口を尖らせて、すぐに手を叩いて笑った。
いくら語気を強めても、仲良しで包みこんで、不躾な返事が返ってくる。それがなによりも嬉しかった。怖がることなく、私と喋ってくれる。欲しかったんだ、見返りとか、自分の価値とかルールとか全部関係なく笑ってくれる友だち。あんなに癪に触ったその笑い方も、今はかわいいと思う。
「先生といえばさ、柏原くんって、堀田ちゃんの同級生なんだよ。すごい仲良しらしい」
「え!」
柏原くんって、さっきの男の人のことだ。堀田先生が三十前後だとして、そんな年齢だったのか。というか、堀田先生の友だちってああいう感じなんだ。ちょっと意外だ。
「大学時代の麻雀仲間なんだって。堀田ちゃん、昔タバコ吸ってたらしいよ、笑えるよね」
「なにその話、めちゃめちゃ聴きたい」
飯室さんが仲良しグループと喋っている時の雰囲気を、自然と自分に重ねながら続きを促すと、まりあは嬉しそうに髪をいじりだした。
「今もよくご飯に行くみたいだよ、写メとかないのって聞いたけど、まだ先生たちが大学生の頃はガラケー���ったからそういうのはもう無いって」
「ガラケー!」
私も手を叩いて笑った。
「莉花ちゃん、堀田先生好きだよね。いるよね、堀田派」
「少数派かなあ」
「どうなんだろう。堀田ちゃんが刺さる気持ちは分からなくはないけど、多分、細倉先生派の子のほうが真っ当に育つと思うね」
「わかる。細倉先生好きの子は、ちゃんと大学行って、茶髪で髪巻いてオフショル着てカラコンを入れることが出来る。化粧も出来る。なんならもうしてる」
コンビニのパッキリとした照明に照らされ輝くまりあ。手を口の前にやって、肩を揺らしている。自分の話で笑ってもらえることがこんなに嬉しいのか、と少し感動すらしてしまう。
「今日もムロはるちゃんの細倉愛がすごかったよ」
「ムロはる…?」
まりあが眉をしかめた。
「飯室はるなちゃん、ムロはるちゃん」
本人の前では呼べないけれど、みんながそう呼んでいる呼び方を馴れ馴れしく口にしてみた。ピンときたらしいまりあの「あー、飯室ちゃんとも仲良しなんだ」というぎこちない呟きをBGMに、優越感に浸った。私には友だちが沢山いるけれど、まりあには私しか居ないもんね。
コンビニの駐車場へ窮屈そうに入っていく商品配送のトラックですら、今なら笑える。
「最終的には細倉先生の腕にぶら下がってた」
「なんでそうなるの」
「愛しさあまって、ということなんじゃないかな」
「莉花ちゃんはさ、堀田ちゃんの腕にぶら下がっていいってなったら、する?」
「えー、まずならないよ、そんなことには」
「もしも!もしもだよ」
「想像つかないって」
「んー、じゃあ、腕に抱きつくのは」
「え、ええ」
遠くでコンビニのドアが開閉するたび、店内の放送が漏れてくる。視線を落として想像してみると、自分の心音もよく聞こえた。からかうように拍動するのが、耳の奥にくすぐったい。
細倉先生はともかく、堀田先生はそんなにしっかりしてないから、私なんかが体重を掛けようものなら折れてしまうのではないか。「ちょっと、莉花さん」先生は心にも距離を取りたい時、呼び捨てをやめて「さん」を付けて呼ぶ。先生の性格を見ると、元から下の名前を呼び捨てにすること自体が性に合っていないのだろうとは思うけれど。
そもそも、「先生のことが好き」の好きはそういう好きじゃなくて、憧れだから。でも、そう言うとちょっと物足りない。
「莉花ちゃん」
半分笑いながら呼びかけられた。まりあの顔をみると、なんとも言えない微妙な表情をしていた。引かれたのかな。
「顔赤いよ」
「ちょ、ちょっと!やめてよ」
まりあの肩を軽く叩くと、まりあはさっきよりも大きな声で笑った。よろめきながらひとしきり笑って、今度は私の肩に手を置いた。
「でも、堀田ちゃん、うちのお姉ちゃんのことが好きらしいよ」
「え?なにそれ」
「大学同じなんだって、お姉ちゃんと、柏原くんと、堀田先生。三角関係だって」
返事に迷った。自分の感情が邪魔をして、こういう時に飯室さんみたいな人がどう振る舞うかが想像できない。
本当は、堀田先生に好きな人がいるかどうかなんて、どうでもいいんだけど、そんなこと。それよりも、まりあから、明確に私を傷つけようという意思が伝わってきて、それに驚いた。相手がムキになっても、「そんなつもりなかったのに」でまた指をさして笑えるような、無意識を装った残酷さ。
これ、私がいつもやるやつだ。
そのことに気付いて、考えはますます散らばってしまった。
「そんなの、関係無いよ」
しまった。これだから、重いって思われちゃうんだよ、私は。もっと笑って「え、絶対嘘!許せないんですけど」と言うのが、飯室さん風の返し方なのに。軽やかで上手な会話がしたいのに、動作の鈍いパソコンのように、発言の後に考えが遅れてやってくる。まりあの次の言葉に身構えるので精一杯だった。
「あはは」
まりあは、ただ笑って、そのあとは何も言わなかった。
今までにない空気が支配した。
「私、帰るね」
なるべくまりあの顔を見ないようにして、自転車のストッパーを下ろした。悲鳴のような「ガチャン!」が耳に痛い。
「うん」
まりあは、多分笑っていた。
「また明日ね」
「うん」
漕ぎ出す足は、さっきよりももっと重たい。背中にまりあの視線が刺さる。堀田先生の前から去る時とは違って、今度は、本当に。
遠くで鳴るコンビニの店内放送に見送られ、もう二度と戻れない、夜の海に一人で旅立つような心細さだった。
やっとの思いで家に着くと、二十時半を回っていた。父さんが台所でカレー��温めている。
「おかえり、お前の分も温めてるよ」
自室に戻り、リュックを降ろして、ジャージに着替える。また食卓に戻ってくると、机の上にカレーが二つ並んでいた。
「手、洗った?」
返事の代わりにため息をついて、洗面所に向かう。水で手を洗って、食卓に着く。父さんの座っている席の斜向かいに座り、カレーを手前に引き寄せる。
「態度悪い」
「別に悪くない」
「あっそ」
箸立てからスプーンを選んで、カレーに手をつける。
「いただきますが無いじゃん」
「言った」
「言ってねえよ」
私は立ち上がって、「もういい」とだけ吐き捨て、自室に戻った。
父さんとはずっとこうだ。お母さんには遅い反抗期だな、と笑われているけれど、父さんはいつもつっかかってくる。私が反抗期だって、どうしてわかってくれないんだろう。
まりあの家は、お父さんが居なくて、正直羨ましいと思う。私は、私が家で一人にならないよう、朝はお母さんが居て、お母さんが遅くなる夜は父さんがなるべく早く帰ってくるようにしているらしい。大事にされていることがどうしても恥ずかしくて、次に母親と会える日を楽しみだと言うまりあを前にすると、引け目すら感じる。勝手に反抗期になって、それはを隠して、うちも父親と仲悪いんだよね、と笑って、その話題は終わりにする。
せめて、堀田先生みたいな人だったら良かった。
そう思うと心がチクッとした。あんなに好きな堀田先生のことを考えると、みぞおちに鈍い重みを感じる。先生に会いたくない。それがどうしてそうなのかも考えたくない。多分、まりあが悪いんだろうな。まりあのことを考えると、もっと痛いから。
明日の授業の予習課題と、小テストの勉強もあるけど、今日はどうしてもやりたくない。どうせ朝ちょっと勉強したくらいじゃ小テストも落ちるし、予習もやりながら授業受ければどうにかなる。でも、内職しながらの授業は何倍も疲れるんだよな。
見ないようにしてきた、ズル休みという選択肢が視界に入った。スマートフォンを握りしめたままベッドに寝転がって、SNSを見たり、アイドルのブログをチェックしていると、少しづつ瞼が重くなってくる。
瞼を閉じると、今度は手の中に振動を感じる。まどろみの中で、しばらくその振動を感じ、おもむろに目を開けた。
画面にはまりあの名前が表示されている。はっきりしない視界は、うっすらとブルーライトを透かす瞼で再び遮られた。そうだ、まりあ。
私、まりあに文化祭のプリント渡すの、忘れてた。
目が覚めた。歯を磨くのも、お風呂に入るのも忘れて寝てしまったらしい。リビングを覗くと、カーテンが静かに下がったままうっすらと発光していた。人類が全て滅んでしまったのか。今が何時なのか、まだ夢なのか現実なのか曖昧な世界。不安になって、急いで自分の部屋に戻りベッドの上に放りっぱなしのスマートフォンの画面を点けた。
「あ…」
画面に残る不在着信の「六時間前 まりあ」が、寂しげ浮かんでくる。今の時刻は午前四時、さすがに彼女も寝ている時間だ。すれ違ってしまったなあ、と半分寝ぼけた頭をもたげながらベッドに腰掛ける。髪の毛を触ると、汗でベタついて気持ち悪い。��カバーも洗濯物に出して、シャワーを浴びて…。ああ、面倒だな。
再びベッドに横になると、この世界の出口が睡魔のネオンサインを掲げ、隙間から心地いい重低音をこぼす。
あそこから出て、今度こそ、きちんとした現実の世界に目を覚まそう。そしてベッドの中で、今日を一日頑張るための作戦を立てて、学校へ行くんだ。いいや、もうそんな力はないや。
嫌になっちゃうな、忙しい時間割と模試と課題と、部活と友達。自律と友愛と、強い正しさを学び立派な大人になっていく。私以外の人間にはなれないのに、こんなに時間をかけて、一体何をしているんだろう。何と戦ってるんだ。本当は怠けようとか、ズルしようとか思ってない。時間さえあれば、きちんと期待に応えたい。あの子は問題ないねと言われて、膝下丈のスカートをつまんで、一礼。
勉強なんて出来なくても、優しい人になりたい。友達に、家族に優しくできる人になりたいよ。わがまま言わない、酷いこともしたくない。でも、自尊心を育ててくれたのもみんなでしょ。私だって、画面の向こう側のなにかになれるって、そう思ってる、うるさいほどの承認欲求をぶちまけて、ブルーライトに照らされた、ほのかに明るい裾をつまんで、仰々しく礼。鳴り止まない拍手と、実体のない喜び。
自分を守らなくちゃ。どこが不正解かはわからないけれど、欲求や衝動に従うことは無謀だと、自分の薄っぺらい心の声に耳を傾けることは愚かだと、誰かに教わった気がする。誰だったかな、マルクスかな。
今の願いは学校を休むこと。同じその口から語られる将来の夢なんて、信用ならない?違うね。そもそも将来の夢なんてなかった。進路希望調査を、笑われない程度に書いて、それで私のお城を築く。悲しみから私を守ってね。
目を開けると目前のスマートフォンは朝の六時を示していた。
「うそだあ」
ベッドから転げるように起き上がると、枕カバーを剥がして、そのまま呆然と立ち尽くす。今からシャワー浴びたら、髪の毛乾かしてご飯食べて、学校に着くのは朝礼の二十分前くらい。予習の課題も小テストの勉強もできない。泣きそうだ。
力なく制服に着替えると、冴えない頭でリュックサックに教科書を詰め込み部屋を出た。肩に背負うと、リュックの中で二段に重ねた教科書が崩れる感触がした。
続く
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第34話 『旧き世に禍いあれ (2) - “ブラストフォート城塞"』 Catastrophe in the past chapter 2 - “Blastfort Citadel”
ブラストフォート城塞を見渡せば、『城』という華やかな言葉の印象とは遠い、石造りの堅牢な風貌は砦のそれと言っていいだろう。
スヴェンはこの建造物も元は修道院だったと噂では聞いていた。ただ、城塞に研究所を設けた時には既に砦として使われていて、実際のところどうだったかは、皆目見当がつかない。むしろ験を担いだ誰かの作り話ではないかと考えていた。作り変えられた施設にしては、礼拝堂だったと見られる建物もなく、険しい斜面をわざわざ切り出して作られた来歴の割には、この地に作られた由来すら記録に残されていないのも疑念の余地がある点だった。
城塞と名を冠しながらも、城壁の内側に市街はない。居並ぶのは兵舎や倉庫、そして厩舎などの背の低い軍用の建物で、全てが同じように暗い色をしていた。
はぁと深い息を吐く。その息は白く、スヴェンは体をぶるりと震わせた。外套の襟を直し、足を早める。
短い秋は瞬く間に過ぎ去り、もうすっかりと冬だ。視界に入る山岳はすっかりと白い雪に閉ざされている。ブラストフォートは年中気温が低く、1年の半分以上は雪に覆われている。
この城塞は、トラエ、ラウニとソルデの三国間で起きた紛争の中心地となった。三国の国境線が交わる丁度中央地点で、思惑も戦線もぶつかり合った。互いの国へ進攻するに際しても、ここを通らず他二国に兵站を送るにはどうあってもリスクの高い迂回が生じる関係で、攻めるも守るも、話はまずこの城塞を手中にしてから、という事情もあった。この要塞を抑えた国が勝つと信じられ、激しい争奪戦が目下進行している。
トラエがこの城塞を維持し続けられているのは、”軍神”ゴットフリートのおかげだ。不敗を誇るゴットフリートは、皇帝の厚い信望を受け、ブラストフォート城塞に陣を敷いた。ここを確実に堅持し続けることが、即ち勝利を意味する。武勲で比肩する者のいないゴットフリートが此度の采配を受けたのも、当然の帰結であり、疑いを示す者もいなかった。
対するラウニやソルデもそれを理解していたからこそ、戦火はさらに激しくなって行った。トラエ無双の英雄が、史上���も堅牢を誇る城を守護している。つまり、ここを打ち崩したもの、あるいは守り抜いたものが、この戦争を制するに等しい。この三国戦争の顛末を決定づける、天下分け目の決戦地の様相を呈していった。
ゴットフリートは戦場で一度もその膝を地面についたことはなかった。スヴェンが城に派遣されて3年、ブラストフォート城塞は今もトラエ帝国領のままだ。各地で名を馳せたどんな名だたる英雄が攻めてこようとも、この城塞を越えた者は未だかつていなかった。
(砦としての適切なつくりと、それを最大限に生かす武将……。理屈で言うは容易いが、それがこうして揃い立つと、これほどまでに守り抜けるものなのか)
スヴェンは眼鏡のブリッジを押し上げて、先を急ぐ。その手は幾冊もの分厚い魔術書があった。
激戦地とはいえ、兵糧が乏しくなるこの季節には大きな動きも見られなくなる。天候によってはなお一層、双方ともに大人しいものだ。攻めあぐねた敵軍に二面三面と包囲されながらも、ブラストフォート城塞はまるで平時のように静まり返っていた。
(ああ……どうしてうまく行かないのだ……)
城塞の中にある研究室の扉を開ける。
真っ暗な部屋を、たったひとつのランタンが照らしていた。本来はもっと採光がいい窓があったのだが、スヴェン自身が本棚で潰してしまっていた。外光は観測を伴う実験に不向きだ。
城塞の中の、私の城。眼鏡を再度押し上げて、ふふと短く笑う。
「次はうまくやってみせる……この書こそ本物だ、今度こそ……吾輩が見つけるのだ」
ぶつぶつと言葉を口の中で繰り返しながら、長い執務机の上に置かれていた書類や本を床にすべて落とし、新しい本を置いた。
本棚やコートハンガーにかけられた外套、並んだ靴などは嫌と言うほど規則正しく、寸分のずれもないように置かれているというのに、余程気が高ぶっているのか、今は床に落ちた本たちを気にして直すそぶりもない。
大きな椅子に腰かけて、その本を開いてページを手繰り始めた。
世界を知るということに限りはあるのだろうか。スヴェンは幼い頃からずっと考えていた。世界を知るためにありとあらゆる本を読み解き、特例を受けて最高学府に進級したときも、当然のこと、以外には特に何も思わなかった。神童と呼ばれ、世界の知識を見る間に吸収し、未知の研究に邁進し、知性で遥かに劣る両親とは縁を切り、知こそが価値とする者達とこそ縁を深め、生きてきた。
――この世界は、一個の生命だ。
そう悟ったのはいつのころだろう。それからスヴェンの関心は世界の表���を辿ることではなく、世界の成り立ちの根源を掴むことに移った。
この感覚までも理解し共有できる者はさすがにいなかったが、スヴェンは気にすることはなかった。目的と到達点は明確だったからだ。
世界が生まれた瞬間を見る。つまり、過去へ遡行しその瞬間を観測することが出来れば、世界が生命であり、巨大な有機体であり、何がどうやってそれを作り出したのかを証明できるのではないか、と考えた。菌類はそれぞれの菌根で膨大な情報網を作り上げることで知られている。ならば世界は? 世界と世界を構成する生命や物質との関係も、似たものではないのか?
夢を見ていると言われた。気が狂ったとも。けれど、スヴェンは時間を移動することに執着し、トラエ皇帝はスヴェンの情熱に理解を示した。思えばこんな突拍子もない目的に意義を見出す皇帝というのもまた、妙ではあるとは思った。皇帝にもまた、過去に遡行する事で成し遂げたい、”過去に戻ってでもやり直したい何か”が、心中にあったのかもしれないが、それを聞き出す術をスヴェンは持たないし、スヴェン自身興味もなかった。少なくとも、時間遡行がもたらしうる皇家の安定、全ての危険を排し、あるいは時を超えて未来の悲劇を食い止め続けて、皇家そのものを永遠に君臨させる、という”表向きの”理由――そのために、皇帝はスヴェンを支援することを決定し、臣君達も、やや半信半疑ではありながらも、それを支持した。
「これだ」
今日も皇帝に頼んでいた奇書が届けられた。
スヴェンはブリッジを押し上げ、眼鏡の位置を直す。正常な観測のためには、眼球とレンズの距離は常に1.5cmを保たねばならない。立ち上がろうとして自分が先程叩き落した本を見やり、露骨に眉をしかめる。頭の中を整理し終えて一息ついたら、急に普段の几帳面さが顔を出した。手早くそれらを元あった場所へそそくさと戻して、室内を完璧に揃え、部屋の中心に立った。
「まず、魔石を用意して……」
木箱に詰めてある魔石を取り出し、机に置く。魔石は貴重な資源である。研究には大量の魔石が不可欠だった。魔石なしには、相当な魔力量を消耗する実験を繰り返し行うことは出来ない。ブラストフォートは戦地だ。当然、魔術師部隊が使うために魔石も大量に集められていたが、落城までには湯水のごとく消費されていた魔石も、入城し防衛に転じてからは、ゴットフリートを中心とした白兵戦主体の迎撃戦において、これらが投入される機会も乏しく、結果余剰が出ていた。山と積まれた荷物を運び出すにも、労力がかかる。それならば、国内にいる魔石を必要とする人員が、逆に���ラストフォートまで来れば良い。研究をする場所としては些か物騒な地ではあった��、自由にできる大量の魔石が得られる機会には代えがたかった。スヴェンは二つ返事で前線まで足を運んだ。研究には様々な代償がつきものだ。それを理解してくれる後ろ盾を得たスヴェンは、他の誰よりも恵まれていると言えるだろう。
取り上げたいくつかの魔石の中から、更に質の良いものを選ぶ。一番大きいものはナリだけで中身は薄く、魔力自体は少ないようだ。ページをたぐる仕草に似た動作で、一粒ずつ指を触れては次の石に触れ、研ぎ澄ませた感覚で内容量を確認していく。最後に触れた人差し指ほどの魔石が最も密度が高く、多くの魔力を秘めていた。
「よし……よし……まずは一時間前に戻る……そうだ……」
長い間研究し、様々な方法を用いたが、まだ成功させたことがない。
スヴェンも焦り始めていた。戦火は年を追って激しさを増している。今は冬期で戦線が膠着しているが、雪が溶ける頃にはまた激化される。2国がこの城塞を攻め、帝国は防戦し続ける。魔石の余剰が出ているのも今だけだ。魔石の消費量も年々増え続け、そうなればいつ自分に回してもらえる分が枯渇するとも知れない。そう考えれば、時間は限られている事になる。一度でも成功させられれば、魔石を消耗する前の時間に何度でも戻って、ほぼ無限の実験を繰り返し、術式完成を確実なものにすることが出来る。それが理想であり、今の目標だ。勿論この方法は戻る人間の肉体時間の経過は加味されておらず、スヴェン本人の寿命の解決という課題が残ってはいるが、禁術に手を出せば、その辺りは時間遡行に比べれば造作もないだろうと見当がついていた。
本のページを睨むように再度読み上げようとした時、パチン、と何かが弾ける音がした。ふぅっと風が頬を撫でる。
音がした方向を振り向いて、スヴェンは動けなくなった。
空間に大きな渦が現れたのだ。
その渦に向かって風が吹き込んでいる。
「おお!」
未知なる光景に弾んだ声を上げる。
まず渦から出てきたのは、手だった。男の両の手が伸び、時空の切れ目をこじ開けて、その姿を現した。これから始めようとしていた実験によって、数分か数時間の未来から自分が戻ってきたのではないか。どうやら、今実験している術式は成功したのではないか。歓喜に身が打ち震える。
単純な転移魔術など、スヴェンも何度も見たことがあるし、日常的に行使している。周辺空間に生じた歪の性質や姿の現れ方から、今目の前で行われているものは、通常のそれとは質が異なることは一目で判断できる。それは”理論上、時間遡行が成功すればこのような形で転移が成されるだろう”と想定した結果そのものだった。
���スヴェン博士か?」
渦から現れた男に尋ねられ、スヴェンは驚いて身を竦めた。
男は自分の身なりに気が付いたのか、ゴーグルの中の目を丸めて、被っていたマスクを外した。城塞の戦士たち��りも重装備だが、防寒具として見ても、防具として見ても、異様な姿をしていた。それはむしろ、ガスや毒に汚染された領域に立ち入る者が使う防護服に似ていた。
男は軽く会釈した。
「僕はフィリップ。スヴェン博士で間違いありませんか?」
「いかにも、吾輩はスヴェンだが……」
答えながら、興奮で何度もメガネを押し上げる。
「僕は未来から来た」
「おお、やはり! では、未来では時間移動の方法が確立されたのか! 素晴らしい! 素晴らしい!!」
スヴェンは無邪気に飛び跳ねた。
悲願だ。
奇跡が目の前で起きたのだ。経緯こそまだ判然としないが、宿願が果たされたのだ。
「その方法が知りたいか?」
「ああ、無論だ。吾輩にとって、生涯をかけた研究の成果だ!」
「僕の生きる時代にはその技術は確立している」
身の内から湧きあがる感動に震える。長い時間をかけた研究が実を結ぶのだ。喜ばない人間がいようものか。
スヴェンはズレたメガネを何度も押し上げ、唇をペロリと舐めた。
「未来では、あなたの完成させた基礎を発展させ、実際に過去に飛ぶことが出来るようになった」
「そうか……そうか……! それで」
「研究資料はある。それを渡してもいい」
フィリップと名乗った男は荷物からひとつの本を取り出して見せた。スヴェンは手を伸ばしたが、ぴたりと手を止める。
「……吾輩は、基礎を完成させた……?」
「ああ、そうだ」
「つまりは吾輩が術式を確立させたわけではないのだな」
基礎を完成させた研究者が自分だとして、その先、実際に技術転用することは別の次元の話になるはずだ。魔術、火薬、物理……この世の全ての技術はそうして生み出されてきた。小さな研究の成果を種として多くの科学者が取り組み、発展的に理論を大成させていく。芽吹いたものを育てひとつの大樹とするにはそれだけの手間と時間と閃きが必要になる。
今までもスヴェンは『時間遡行の第一発見者』『行使者』となるために、寝食を忘れ、周囲から気味悪がられるほど、研究に必死で取り組んできた。
それでも時間が足りないと感じていた。その肌感覚は間違いではなかったのだ。
目の前に提示された本は確かにスヴェンを求めた結果に導くだろう。
だが、同時に自身の敗北を決定づけるのだ。己の力量だけではここには辿り着けなかったのだと、認めることとなる。
フィリップは静かに逡巡するスヴェンを見ていたが、やがて、微笑みながら頷いた。
「これは’’真実’だ。研究者としての矜持はさておき、”真実”を知りたくはないか?」
スヴェンはハッとして顔を上げた。
真実。
私は何のためにここまで進み続けてきたのか。
彼が言っていることが正しく、自身で術式を完成することがなかったとしても、それは過程に過ぎない。私が目指していたものは、あくまで”真実”ではないのか?
「もしも、それをいただくと言ったら? 何が望みだ?」
心のどこかで、素直にそれを受け取る事に呵責が生じていたのだろう。だから、それを受け取る事を、無意識���合理化したがっていたのかもしれない。未来から来た男に対価を返すことで、”真実”を受け取ってしまう自分に理由を与えようとしていた。
予見した通りにスヴェンの瞳に灯った貪欲な光を見出して、フィリップはにやりと笑った。
「城塞内の警備情報をいただこう」
「警備の? 何故だ?」
「知らない方がいい。あなたには関係のないことだ」
「……そもそもお前は、何のためにここにいるのだ?」
「知れば、来たるべき未来のことも伝えねばならなくなる。必要以上に過去を変える事は避けたい……ただ、必要なものがあるとだけ。それを持ち帰る事だけなら、この時代の歴史には影響しない、それは保証しても良い」
まるで台本があるかのように、フィリップは淀みなくスヴェンに語り掛ける。
未来から来た。それは間違いないだろう。スヴェンが口外もしていなかったはずの、仮説段階の転移の様子そのものが目前に展開したことで、疑う気持ちなど寸分もなくなっていた。受け取った資料に目を通せば、そこからもまたフィリップが未来から来た事が真実であるという証拠を得る事もできるだろう。ただ、もう一声、フィリップが信頼に値するという、自身が”真実”を受け取る事に感じる呵責を打ち消すだけの理由を求めたかった。
「受け入れたいのは山々だが、警備情報をとなると難しい。未来から来た事が仮に真実でも、君がトラエ以外の人間であったならば、私の立場からすれば利敵行為に与しかねない事になる。理解してくれるか」
スヴェンはこう言い放ちながら、内心で自嘲した。スヴェンは、フィリップがトラエの人間である事を証明してくれる事を期待していた。彼があらかじめ私の呵責を砕く準備までした上でここに来ていると、察しが付いていた。その上でこんな事を方便にするのは、戯曲を棒読みする姿を見透かされるようで、歯がゆかった。
フィリップは答えをやはり用意していたようで、間髪入れずに分厚い上着のポケットから、ひとつのネックレスを取り出した。金色のネックレスは傷がつき、古いものだった。スヴェンはその取り出す様を見ながら、やはり見透かされていたのだと、思わず赤面した。
「開けてみてくれ」
スヴェンはおずおずと受け取り、開いた。そして息を飲む。
「これは……!」
「一緒に映っているいる赤ん坊が僕だ」
一目見て分かった。写真に写った男は、ゴットフリートだ。城塞の食堂で目にした、岩でも噛み砕きそうな厚い顎、豹を思わせる眼光、右頬と左こめかみに負った特徴的な傷跡。スヴェンの知るゴットフリートよりもかなり年を重ね、白髪や白髭を蓄えた風貌で笑っていた。
――未来だ……。
スヴェンは、ごくりと息を飲んだ。
「あのゴットフリートが、人の親、果ては老人か……。戦場で死ぬような者ではないとは、思っていたが」
「祖父は一族の誇りだ」
「……分かった。警備情報を渡そう。だが、本当に面倒事は起こさないのか……?」
「表立っては何も起きないから、安心していただきたい。この時代には捨て置かれたものを、持ち帰るだけだ」
スヴェンには、その言葉の意味まではわからなかった。
その後の逡巡を見越したように、���っくりと研究書をスヴェンに差し出す。
「戻れる先は魔力の量に左右される。魔力を1点に集中すればいい。杖を使えばいいだろう」
「お……おお……」
「この本に詳しくまとめられている。運命は、未来は変わらない」
「本当に?」
「あなたが、あなたのために使うだけに留めれば、自ずとそうなるだろう」
答えないスヴェンの胸に、ドンと本が叩きつけられる。
その感触に、スヴェンの理性はぐらりとふらついた。
月が高く上ったのを見上げて、フィリップはゆっくりと山岳の斜面を進んだ。姿勢を低くし、音を立てないように。
(……不安はあったが、狙ったタイミングに戻れたな……)
グレーテルと徹底的に城塞の歴史を調べた。
激しい攻防戦から間がなく、その後しばらく戦闘がない、天候が落ち着いている時期。かつ、当日の天気が晴天で満月であること。
いくら協力を得ることが出来て警備の状況が把握できていても、誰もいないはずの山の斜面で灯りを用いて、遠目にでも見つかる危険を冒すことは避けるべきだ。暦を遡り、目途をつけたのが今日この日だった。
斜面には雪が積もっている。この積雪から数日、戦線に動きはなかったと記録されている。束の間の平和。だが、その直前には、この斜面で、たくさんの人と人が殺し合ったのだ。静寂に包まれた雪景色の中、あちこちに矢が突き刺さったまま放置されていた。戦闘の跡だ。
左右を見渡してから、フィリップは一番近くの雪を掻いた。そこにも矢が刺さっている。
(……矢先の雪がほのかに赤い)
山岳地の雪らしく、水を含まないさらさらとした雪で、払えば埋もれたものが簡単に姿を現す。
「……あった」
雪の下には、傷の少ない兵士が眠るように倒れていた。
念のため体を検めるが、四肢も無事で、背中に矢を受けた痕があるだけだ。専門外だが、転がした下の赤黒い土の色から察するに、死因は失血だろう。
こんなに状態のいい屍体を見たのは、いつぶりか。
ここはまさに、フィリップにとって宝の山だ。
見渡す限り、無数の屍体が隠されている。先日攻め入ってきたが退路を断たれ、殲滅の憂き目にあったラウニの一個師団がこの斜面に眠っている。
ざっと見積もっても数千から万を超すだろう。 この雪の下にある屍体さえあれば、それらは全て、二人が未来で戦うための手足となる。計り知れないほどの戦力だ。
グレーテルも転送を待っているだろう。と言っても、未来で待つ彼女の方からしたら、突然数千の屍体が目前に現れるような形になるのかもしれないが。
兵士を完全に雪の上に横たえてから、フィリップは術式を展開した。過去に遡行することに比べ、未来に送ることは難しくはない。状態が劣化しない静止した時空間に屍体を閉じ込める。そして、ある特定の時期に来たら、閉じた時空間から屍体を現実に表出させるように仕込んでおく。川の流れを下るように、時の流れに逆らわずに未来へ向かうのであれば、身を任せるだけで良い。逆に、流れに逆らって上流に向かおうとするには、莫大なエネルギーを要する。それが、時間遡行研究者たちがたどり着いた、ひとつの答えであった。
遺体はぼぉっと青白い光に包まれて、ふっと消えた。
成功だ。
こうして閉じ込めた屍体全てが、グレーテルの元で姿を現すだろう。彼女も状態のよさとその数に感動するはずだ。周囲を見渡し、笑みが溢れる。
屍体の数は多ければ多いだけいい。フィリップは近くの雪中を再び探り始めた。
「ん? なんだぁ?」
突然降ってきた声に、フィリップはぴたりと動きを止めた。
振り向けば、豪奢な装備に身を包む屈強そうな男が、首を傾げながらこちらを見ていた。ありえない。
「――……巡回はいないはずじゃ……」
スヴェンから得た警備資料は棚から即座に取り出されたものであって、あの場で嘘を取り繕うためにあらかじめ用意できるようなものではなかったはずだ。
だからこそ、その内容を信じたフィリップは夜を待って行動を開始したのだ。
「巡回なんざしてねえさ。散歩してただけだ」
男は野太い声で言った。
「しっかし、誰だ、お前は。さっき屍体を掘り返してたよな?」
「……何のことだ」
「おいおい、しらばっくれても無駄だ。見てたぞ。目の前から消えたんだからな」
失敗した。
頭の中で思考が急回転を始める。どうやってこの場を切り抜ける? 取り繕うか、命を奪い口を封じるか、逃げるか?
「転送魔法か? それで屍体を運んで何しようってんだ」
「それは……」
なにかうまい口実はないか、言葉を手繰ろうとするフィリップを待たずに、男は叫んだ。
「戦場泥棒は重罪だぜ!」
雪をギュッと踏みしめる音を立てて、男はフィリップに飛び掛かる。
やるしかないか。
咄嗟に、重力歪曲《グラビティプレス》の術式を展開する。
跳躍し上向いた兜の中の顔を、月明かりがはっきりと照らす。豹のような眼光がこちらを見据えていた。一瞬、フィリップの胸中に幼い日が去来した。
(――……ゴットフリート爺さん!��
逃げなければならない。話も通じない。殺してはいけない。
月明りを背に大きな影が落ちる。
フィリップは咄嗟に術式を変じて、空間移動《テレポート》に切り替えた。短い距離であればすぐに展開して移れる。
鈍い音を立てて、ゴットフリートが鞘から引き抜いた剣が雪に突き刺さる。さきほどまでフィリップが立っていた雪の跡は、衝撃で爆ぜて消え失せる。そのまま、目線を数歩先のフィリップに向ける。
「はっ、やっぱり転移か。ラウニの連中は知ったこっちゃねぇが、ここには俺の隊の奴も幾人か眠ってんだ…」
雪から剣を振り上げるように引き抜き、巻き上げられた細かい雪がまるで煙幕のように広がる。視界が真っ白に染まる。
フィリップは咄嗟に腕で顔を庇ったが、視界に影が過る。
(まずい!)
二度目の転送が一瞬遅れ、避け切れなかった。ゴットフリートの剣先は肩から胸にかけて切り裂く。傷は浅いが痛みによろめく。
雪の影から突きを繰り出したゴットフリートは、目をぎらりと輝かせる。
「魔術師相手は滅多にやれねえんだ。面白えな……!」
まともにやり合ったら、殺される。
運が悪すぎる。
本気でやり合ったところで、ゴットフリートに勝てるわけもない。仮に勝てたとしても、祖父である彼を今この場で殺したら、未来から来た自分は一体どうなる? 前例がなく、全く予想がつかない。年老いてからも人の話を全く聞かなかったあの男が、戦場跡をうろつく怪しい男が語る”理由”なぞ、おとなしく聞いてくれるはずもない。殺さずに無力化出来るような術も持ち合わせてはいない。
なんとかやり過ごして、逃げるしかない。
再度テレポートをしようと身構えたフィリップに向かって、ゴットフリートが大きく踏み出そうとして、ぴたりと止まった。
「……なんだ? 臭ぇな……」
眉をぐっと止せ険しい表情で辺りを見渡す。
確かに何か匂いがする。嗅いだことのない匂いだ。
「屍体の臭いでもないな……なんの臭いだ……?」
唐突に、その匂いが一層強くなった。
屍体は確かに掘り返した。けれども、この気温で、雪の下にあった兵士の体は腐敗するはずがない。凍てつき、匂いもなかったはずだ。
腐ったような、けれどももっと酷く脳を直接刺激するような……嗅いだことのないほど異臭。
「……うっ」
胸が悪くなる。
ゴットフリートも片手で鼻を抑えながら、周囲を見渡した。
ふたりの視点が1点にとまった。打ち捨てられた盾だ。放り出されて地面に突き立ったままのそれが、奇妙な黒い靄に包まれている。
「おい、小僧、お前の術か、ありゃあ?」
ゆらゆらと噴き出ていた黒い煙の密度が増す。
フィリップは自分の背中が粟立つのを感じた。
あれは、だめだ。
理由はわからない。ただ、本能が叫ぶ。けれど、足が竦んで動かない。
盾を包んでいた煙は次第に細くなり、盾と地面が成す角から勢いよく噴き出した。そして、その煙が見たこともない不気味な黒い猟犬の姿を取った。
~つづく~
原作: ohNussy
著作: 森きいこ
※今回のショートストーリーはohNussyが作成したプロットを元に代筆していただく形を取っております。ご了承ください。
旧き世に禍いあれ(3) - “猟犬の追尾”
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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砂漠歌人と砂丘歌人
2019年7月14日ジュンク堂池袋本店内カフェにて、千種創一『砂丘律』第4刷&𠮷田恭大『光と私語』第2刷を記念してトークイベント「砂漠歌人と砂丘歌人」が開催され、55名近くが出席しました。以下その内容です。(敬称略)
1 はじめに
2 自己紹介
3 中東との出会い
4 短歌との出会い
5 旅行詠と滞在詠
6 暮らしにまつわるあれこれ
7 影響を受けた映画作品
8 音楽と短歌
9 増版とSNS
10 それぞれの作歌法
11 『砂丘律』制作秘話
12 『光と私語』制作秘話
13 翻訳について
14 『光と私語』の魅力
15 千種からの発表
16 さいごに
1 はじめに(ジュンク堂書店池袋本店・市川真意文芸書担当)
二〇一五年末の刊行後、異例の売行で第二刷がされた『砂丘律』。この春、砂漠を詠んだ歌がSNSで大きな話題になり、第三刷、次いで第四刷が決定。一時帰国する著者千種創一を、鳥取砂丘育ちの新鋭歌人𠮷田恭大が迎えます。
万葉時代から命脈を保ち続け、砂漠も都市も飲み込む器、短歌。その叙情はどこに行くのでしょうか。二人が語ります。みなさま、拍手でお迎えください。(千種・𠮷田が登場)
2 自己紹介
千種:みなさま、本日は雨の中お越し頂きありがとうございます。千種でございます。一九八八年、愛知県生まれです。二〇一五年、青磁社より『砂丘律』を刊行しました。
𠮷田:𠮷田です。一九八九年生まれ、鳥取県出身です。塔短歌会所属、学生時代は早稲田短歌会にもいました。今年の3月に、いぬのせなか座より『光と私語』を刊行しました。
二〇〇九年に千種さんが外大短歌会を設立して、その初期に私が歌会にお邪魔してからのつきあいなので、かれこれ十年以上になりますね。その間には中東短歌なんていう同人誌もありましたね。
千種:そうですね。「アラブの春」の起きた二〇一二年、僕は中東に縁のある歌人たちと同人誌「中東短歌」を創刊しました。二〇一三年に第二号、二〇一四年に第三号で終刊、そして二〇一五年に砂丘律を刊行という流れです。
𠮷田:今回のトークイベントに先立って、ネットで質問を募集しました。そのうちいくつかへの回答を交えつつ、進めて行ければと思います。
(撮影:青磁社)
3 中東との出会い
𠮷田:ではまず、千種さんの中東への関心というのは、どのようなきっかけだったのでしょうか。
千種:幼稚園がキリスト教系だった関係で地元の教会に行っていてパレスチナとかに興味があって。で中学一年生のときにNYで九・一一事件、パレスチナで第二次インティファーダ(一斉蜂起)事件が起きて、そこから更に興味が出たんです。
だって飛行機がビルに突っ込んだり、子供が石を投げてイスラエルの戦車に立ち向かうとか、尋常ではないでしょう。何なんだこの世界は、と思って。
𠮷田:ということは、初めて知った”外国”というのはそのあたりですか。これは質問も寄せられております。
千種:はい、聖書を読んでいたので、イエス・キリストの活動していたパレスチナ、エジプト、ヨルダン、そのあたりです。小さい頃はハリーポッターみたいに架空の国だと思ってはいましたが。
4 短歌との出会い
𠮷田:これも質問が寄せられているんですが、千種さんはどうして短歌をはじめたんですか。
千種:高校まで自転車で通ってたんですけど、道中で自然に歌ができていたんです。最初は忘れるに任せていたんですけど、あるとき勿体ないと思って、高二の春からノートに書きとめ出したんです。
5 旅行詠と滞在詠
𠮷田:砂丘律の冒頭から中東の歌がありますが、詠まれた時は実際に現地に行かれていたんでしたっけ。
千種:いわゆる「アラブの春」が起こる前に、シリアとトルコを旅行しました。でもそれくらいです。大学卒業後にヨルダンに住み始めました。
𠮷田:中東に旅行してみて詠んだ作品と、中東に住み始めてからの作品というのは何か違いがありますか。
千種:砂丘律は時系列に編まれていないので、中東に住み始める前の歌もかなり入っています。そのあたりの歌はかなり想像、というか妄想です。
妄想と現実が一致しないのはよくある話なので、実際に住み始めてから修正したり、歌集には収録しなかった歌などもあります。中東に住み始めてからは、非日常が日常になっていく感覚はありました。
ちなみに、砂丘律を編むにあたって、もともとは一四〇〇首とか一五〇〇首とかあったものを四一〇首まで絞って収録しています。
𠮷田:削除した歌はどこかに書き留めていますか?
千種:作った歌は全部大事にしたいので、発表できるレベルに達しなかった歌たちもWordファイルに書き溜めていますね。
身辺整理の際にはファイルをデリートしようかなと思っています。これ死後に発掘されたら、地獄やな、思ってますので。(一同笑い)
𠮷田:千種さん、整理整頓できるほうですよね。わたし手元に全然歌を纏めていなくて。『光と私語』を出そうと思って色々掘り返したんですけど、1年くらい遅れてしまいました。
千種:あ、みなさんのために補足しますと、歌人って歌をい��んな雑誌や同人誌に書くので実は作品が散逸しやすいんです。
6 暮らしにまつわるあれこれ
千種:普段𠮷田さんとはこういう話はしないので結構緊張しています。先日も台湾に一緒に行ったのですが、どーでもいい話しかせんかったもんね。
𠮷田:そうね。暮らしの話はしないもんね。じゃあ、聞きましょう。「普段何を召し上がっていますか」(一同笑い)
千種:パン食べて生きています。安い。パンにホンムス(豆のペースト)を塗って食べています。だから日本にいるときはラーメンと寿司にどっぷりですね。
𠮷田:確かに台湾でもひたすら麺食べてたもんね。(一同笑い)
𠮷田:「日本に帰国したときに驚くのは何ですか」という質問もありますが。
千種:日本人がみんな子供に見えることですね。あとすれ違う人がみんな知り合いに見えます。
7 影響を受けた映画作品
𠮷田:千種さん、好きな映画は何かありますか。
千種:邦画で言えば、例えば『ジョゼと虎と魚たち』、『海街diary』、最近で言えば『寝ても覚めても』とか、人間のどうしようもなさを描いた映画が好きです。
影響を受けた映画としては、ふらっと入った渋谷ユーロスペースで観たポーランド映画『エッセンシャル・キリング』(イエジー・スコリモフスキ監督、二〇一〇年)。
中東風のテロリストが、砂漠と、そして拘束後に輸送された先の雪原をひたすら逃亡する。詳しい設定説明や台詞もなく、多くが謎のまま、ただ映像が綺麗。中身を語らずとも、枠を語ることから滲み出る美しさもあるんだな、と。
ビジュアルというよりも、コンセプトの面で影響を受けました。
他には森博嗣原作の『スカイクロラ』(押井守監督、二〇〇八年)。キルドレというずっと子供のまま成長しない戦闘機乗りたちの終わらない、終わらせることのできない、運命や気持ちの揺れ、諦めみたいな世界観は、砂丘律にも影響しています。
千種:𠮷田さんの好きな映画は。
𠮷田:アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『光りの墓』(二〇一五年)とか。物語も好きなんですが、それより映像と音楽で引きつけていく、みたいな映画が好きです。
8 音楽と短歌
𠮷田:じゃあ、好きな音楽は何でしょう。
千種:中学生まではバロックを中心にクラシックばかり聴いてました。でもHYという沖縄のバンドのAM11:00という曲を偶然ラジオで聴いたことがきっかけでJポップにも興味が湧きました。
𠮷田:くるりの岸田繁さんが砂丘律の推薦文を書かれてますが、くるりとの出会いは。
千種:くるりは、高校生のとき「赤い電車」のMVを観たのが最初の出会いですね。
高校生の頃はBump of ChickenとかRadwimpsとかの切実な曲を聴きまくってました。
でも赤い電車を聴いて、���んなゆるい曲があるんだと思って何となく気になっていたところに、進学した先の大学で友達から、聴け、といってくるりのCDを大量に貸しつけられて、聴きこむようになりました。
𠮷田:くるりをまとめて貸してくれる友人っているよね。(一同笑い) 歌人に好きな人多いです、くるり。私は早稲田短歌の先輩から布教されました。
千種:𠮷田さんの好きな音楽は。
𠮷田:あまり聴かないんですよね。舞台に使われた音楽を聴いたり、もっぱら他人から勧められたのを聴い���います。最近だと空間現代とか。
9 増版とSNS
千種:今回の重版は、この春にある方のツイートに載せられたこんな歌がバズったのがきっかけでした。
アラビアに雪降らぬゆえたた一語ثلجと呼ばれる雪も氷も /千種創一
元URL: https://twitter.com/Ots_mh/status/1106256914915028992
𠮷田:このサルジュの歌がバズったとき、どんな気持ちでしたか。
千種:あら、それバズるんだ、という気持ちでした。
𠮷田:そうだよね、キャッチーな歌とか他にもいっぱいあるのにね。
実は今日、会場にそのツイート主にお越し頂いております。「なんでこの歌を引いたんですか」とか、ちょっと聞いておきましょう。
(マイクを受け取りつつ)
橋本牧人:はじめまして。この歌を引いた理由ですか。僕自身が大学一年生のときにアラビア語を勉強したことがあって。学問で得た知識を詠み込んだ歌を志向していきたいなと思って、この歌を選びました。
他にはカロリーメイトの歌とかも好きです。
煙草いりますか、先輩、まだカロリーメイト食って生きてるんすか /千種創一
千種:ありがとうございます。
サルジュの歌、実は過去砂漠に降った雪の写真に添えて投稿したこともあるんですが、ぼちぼち伸びたくらいです。
今回の橋本さんのツイートがあれだけ伸びたのは何でなんでしょうね。
𠮷田:Twitter本文に表示される横書きではなくて、歌集の写真として縦書きだったことが良かったのでは。そして橋本さんがその写真を撮ったという行為がワンクッションあること、あたりも理由として挙げられると思います。
千種:橋本さんの”物語”が差し込まれているというね。
𠮷田:そうそう。しかしこれだけ伸びたのは、作者冥利に尽きるのではないでしょうか。
千種:本当に。改めて橋本さんに感謝申し上げます。
10 それぞれの作歌法
𠮷田:Twitterで拡散されやすい歌、ってあると思うんです。
千種さんの場合は、「先輩」というような呼びかけとか、会話体を使ったキャッチーな歌が多くて、初読で印象に残りやすい。例えばこんな歌。
あっ、ビデオになってた、って君の声の短い動画だ、海の /千種創一
千種さん、会話体使うの得意だよね。
千種:得意というか、そうなっちゃうんだよね。和歌風に文語旧仮名で朗々と詠いあげる、みたいなのは書けと言われても書けない。
𠮷田:破調はどうですか。会話を優先するのか、定型を優先するのか、みたいな。
千種:会話優先ですね。でも歌を作るときには、寝る前とかに百回なり千回なり、ぶつぶつ口に出して繰り返して、その一行のための定型みたいなものを探します。
𠮷田さんはどんな風に作るんですか。
𠮷田:私はスマホで作りますね。声に出すのは割と最後の段階。視覚的な収まりどころを最初に探します。そこから韻律をいじります。
この前、地元でNHKの取材を受けたんですが、作歌風景を撮りたいというのでスマホで作っていたら「絵的に弱いから、ノート持ってきたんでこれに書いてください」と言われました。でも結局、字が汚くてボツになったというオチ付きです。(一同笑い)
(NHK鳥取のページより)
千種:僕は気分転換で紙を使うことはあります。
僕も記録は基本スマホなのですが、歌のいろんなバリエーションを作って、俯瞰するために紙に書き出したりします。スマホだとせいぜい三行とかしか表示できないので。
千種:𠮷田さんは音楽聴きながら歌書いたりしますか。僕はくるりの「ばらの花」とか「ワンダーフォーゲル」とかえんえんリピートで聴きながらよく書きます。
𠮷田:THE YELLOW MONKEYを聴きながら連作を組んだりした時期もありました。ありましたが、精神が不調になりますね。(一同笑い)
最近だと��語を聴きながらが多いですね。深夜とか、人の話声が聞こえてると安心するんです。でも歌詞のある曲だと自分の書いているものに干渉してくるんで……ラジオとかポッドキャストとか、聞き流していられるようなものが丁度いいです。
11 『砂丘律』制作秘話
𠮷田:歌集にまとめる際に、改作はどの程度していますか。確か砂丘律が出た直後の批評会(二〇一六年)で、歌人の田口綾子さんが指摘されていましたが。
(批評会記録:http://dunestune.blog.fc2.com/blog-entry-4.html )
千種:はい。当初、文語の歌も少しはあったんです。でも口語の多い砂丘律の中では浮いてしまうので、改作したり、もしくは泣く泣く落とした歌もありました。
𠮷田:ではその辺の歌は、没後出てくる感じで?
千種:出ません。出させません。(一同笑い)
𠮷田:砂丘律は装幀・デザインもかなり話題になってました。
千種:当初、出版社の青磁社には、洋書のようなシンプルなペーパーバックで、写真はこれ使って、というような何となくのイメージを伝えていました。
割と装幀は自分で介入するつもりでした。
でも砂丘律の原稿を読んだ、濱崎実幸という装幀家さんに”ハイジャック”されて。「やりたいこともあるから任してほしい」と言われたので、僕も「任せます!」として任せたんです。
𠮷田:背表紙がむき出しの特殊な装幀でして、なかなか費用も手間もかかっているとか。
実は本日は砂丘律の出版元、青磁社の永田淳代表にお越し頂いております。砂丘律に関し、どのような苦労がありますでしょうか。
永田淳青磁社代表:版元の青磁社の永田です。
砂丘律はすべて手製本です。職人さんが一冊一冊、背表紙の寒冷紗を貼って、題簽を貼っています。今は圧倒的に機械製本が多いので普通の書店には手製本はほぼないと思います。
砂丘律は製本代��けで300円くらいかかっています。ここにさらに印刷代などがかかります。業界の人ならわかると思いますが、定価1400円の中で製本代300円という数字は、すごいコストがかかっています。
12 『光と私語』制作秘話
千種:光と私語もまた、背中がむき出しの装幀が話題となっています。第二刷もされました。
𠮷田:砂丘律と光の私語は双子のようだ、という話も言われてましたね。本日は、光と私語のデザインを担当したユニット「いぬのせなか座」主宰の山本浩貴さんにもお越し頂いておりますので、その辺の話も伺ってみましょう。
山本「いぬのせなか座」主宰:デザインを担当した山本です。光と私語と砂丘律とを二冊並べて写真をSNSに投稿した人たちもいました。
付き合いの長い𠮷田さんと千種さんのお二人の関係性でそういう投稿が見られたのかもしれませんが。
実は、千種さんのこと知る前のことですが、かつて本屋の歌集コーナーで一番かっこいいと感じた砂丘律をジャケ買いしていました。
そうしたこともあって、光と私語をデザインする際には影響を受けないようにしていたのですが、結局似てしまったのが面白かったです。
ちなみに光と私語はコデックス装という装幀です。
𠮷田:先般増刷された堂園昌彦さんの『やがて秋茄子へと到る』なんかもそうですが、なるべく長く売っていくためには、なるべく人に手に取ってもらうようなデザインが大事だと思っています。製品としての存在感があったほうがいいのではと。
千種:一時期、電子書籍で歌集を出そうという潮流がありました。紙の本が電子書籍に勝てるところといったら装幀とかと思って、砂丘律を出す際にはこだわりたいと思っていました。
𠮷田:電子書籍のメリットは版切れのないことと、アクセスの良さですよね。
『光と私語』については近日中にデータ版を無料公開する予定なのですが、そこをきっかけに書籍版を購入してくれる人が少しでもいればいいなと思っています。何せ紙の本にはマテリアルとしての良さがありますので。
千種:軽く言っちゃうと、本のインスタ映えとかね。
𠮷田:そうそう。重要。
13 翻訳について
𠮷田:千種さんは割と、主題制作、つまり連作の中で物語を立ち上げるという試みをされていますが。
千種:はい。砂丘律の中だと、「或る秘書官の忠誠」という連作があって、独裁者の秘書官になりかわって詠んでいます。が、すごく評判が悪い。
あと、確か歌人の紀野恵さんが、一時期、紀貫之か何かに成り代わった連作を雑誌「短歌研究」に連載していたんですけど、まあ、なかなか難しいですよね。
それは歌人の力の限界なのか、それとも短歌という詩型の限界というか、向き不向きのような話だと思っています。
𠮷田:単純に物語を立ち上げるだけだったら、散文に分がありますからね。
物語といえば、千種さんはアラブ文学の翻訳もされていますよね。中東短歌にも、歌と並行していくつか翻訳を発表されてました。
千種:はい。今日のチラシには「歌人・翻訳家」と書いてあるんですが、実はまだ翻訳で本を出せていません。
とある出版社に翻訳の持ち込みをしたのですが、アラブ文学では商業出版はなかなか難しいと却下されてしまって。
もちろん図書館に行けば翻訳されたアラブ文学もぼちぼちあるのですが、湾岸戦争、九・一一、アラブの春、など大きな事件が起きて、読者の関心が大きくなったときに翻訳・出版されたものが多いと聞きます。
𠮷田:中東情勢が荒れると、翻訳が出るということですね。となるとあまり出ない方が世界の平和のためには良さそうですが。(一同笑い)
私は舞台関係のマネジメントを仕事にしているのですが、演劇界隈でも、中東への関心というか、アーティストを日本に招聘したり、作品が日本で試演されたり、ということが増えている印象があります。今後、政治情勢だけではなく文化の面でもフックは増えていくのではないかと思います。
千種:そう願います。みなさまの中にアラブ文学の翻訳出版に興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひ千種にお声かけを。宣伝しちゃった。
14 『光と私語』の魅力
千種:僕が自分について喋りすぎているので、光と私語の魅力について話します。話していいですか。話しますね。
光と私語は、「枠」の歌集だと思っています。
まず、装幀については、プラスチックのカバーだったり、本文中に四角や長方形のボックスが差し込まれていたり、視覚的にカクカクしているのが、とても都市っぽい、枠っぽいです。
歌について言えば、例えば一月とか「時間枠」を読んだものが多くあります。
・一月は暦のなかにあればいい 手紙を出したローソンで待つ
他にも、枠としての建築への関心も示されています。
・恋人の部屋の上にも部屋があり同じところにある台所
短歌では、部屋でタバコを吸う「私」の恋人とか、一月に「私」が友達と行く初詣とか、枠の中身について話すのが普通です。
一方で、光と私語では枠ばかりについて話すことで、「私」が希釈されます。
でもそれこそが都市のリアル、我々が見る都市の人間像でないでしょうか。とてもリアルな。
𠮷田:なるほど。なんだろう、たぶん個人的には、私自身以外のところから私性を取り出したいのですよね。あまり自分の話をしたくないというか、枠の中身はどうでもいいというか。単に自分に自信がないだけかもしれませんが。
15 千種からの発表:活動再開宣言
𠮷田:そろそろ時間だけど、告知とかしましょうか。
千種:何だっけ。
𠮷田:ほら、これからの、歌の。
千種:え、ああ、これまとめに入ってますね。(一同笑い)
(考え込んだあと)ちょっと、実は、その、第二歌集を用意しています。冬か春くらいに出せればな、と。タイトルは「千夜曳獏」。
𠮷田:ここ数年は歌からは離れてましたが。
千種:はい、そうですね。
(しばらく考えて)砂丘律を出したあとに、言葉との距離がわからなくなってしまって。
他人に不誠実な言葉、例えば嘘、を吐いてしまうこんな自分が、歌で綺麗な言葉を使っていてよいんだろうか、って。
言葉を単なる道具みたいに扱っているんじゃないか、って怖くて。
もちろんその葛藤や罪悪感はまだあるんですが、書くのをやめたこの数年、病気みたいになっちゃって。僕にとって書く行為は生体リズムの一部だったというのがこの数年でわかったことです。
書いて褒められたいとかではなくて、書かざるを得ないんです。書いちゃうんです。ほら、マグロって泳ぎ続けないと死ぬじゃないですか。あれです。
今後、また書いていきます。良いものが創れればと思ってますので、みなさま、どうぞよろしくお願い申し上げます。
𠮷田:今日は、その言質を取れたら勝ちだと思って来たので。もう引き返せないですよ。
千種:やられたわー。みなさんこれ、打ち合わせと違う展開です。(一同笑い)
16 さいごに
𠮷田:では最後に一言、どうぞ。
千種:はい。いろんな奇跡が重なって、僕もここにいるし、みなさんもここにいると思っています。
𠮷田さんがいなければ僕はこんなに短歌にのめり込まなかっただろうし、砂丘律は青磁社や装幀家の濱崎さんがいなければ生まれなかった本だし、橋本さんのツイートやジュンク堂さんからのお声掛けがなければこのイベントもなかったと思います。
書き手として本当にありがたいと思っています。みなさま、今日はお越し頂き、ありがとうございました。
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皆さんは国道1号線をなんと呼んでいるだろうか。私は生まれも育ちも神奈川県中央部の綾瀬市なのだが、昔から「イチコク」と呼んできた。 しかしながら、最近になってそれは極めてローカルな呼称であることを知った。国道1号線のことを「イチコク」と略すのは、神奈川県のいわゆる湘南地域だけなのだ。 生まれてこの方、ずっとイチコクと呼んできた 日本に数ある国道の中でもトップを飾る国道1号線(正式には線をつけず国道1号)は、かつて江戸と京都・大坂を結ぶ大���脈であった東海道を踏襲する道路である。 その道筋は日本橋から京浜地域を南下し、保土ヶ谷・戸塚を経て湘南・西湘地域を西へと進み、箱根峠を越えて静岡県へと続いていく。 江戸時代に整備されたかつての主要街道、東海道を踏襲する国道1号線 私が住む綾瀬市は片瀬江ノ島で有名な藤沢市の北側に隣接しており、湘南エリアからはギリギリ外れた位置にある。とはいえ藤沢市との行き来は多く、国道1号線に接する機会もそれなりにある土地柄だ。 そのような環境において、私はずっと国道1号線を「イチコク」と略してきた。いつからかは定かではないが、おそらく周囲の人々の影響を受けて自然とそう呼ぶようになったのだろう。 大磯町には旧東海道の杉並木が残っており、なかなかに風情がある ところがだ、近年になって某キャンプツーリング漫画を読んでいたところ、国道1号線を「国1」と略しているのを見て驚愕した。 おいおい、国道1号線は「イチコク」であって「コクイチ」ではないだろう。――と思いつつも気になったのでネットを検索してみると……なんということだろう、国道1号線を「イチコク」と呼ぶのは湘南とその周辺地域だけだったのだ。 生まれてこのかた40年間、なんの疑いもなく「イチコク」と呼び続けていた身にとって、これは天地を揺るがす衝撃的な大事件であった。 京浜地域では国道1号線をニコクと呼ぶ さらに調べを進めたことろ、同じ神奈川県であっても横浜市や川崎市の京浜地域では国道1号線の呼び方が異なることが判明した。 東京都の城南地域(品川区・大田区)から川崎市、横浜市鶴見区・神奈川区にかけての京浜地域では、国道1号線と国道15号線が並走して通っている。その沿線では海側の国道15号線を「第一京浜国道」、内陸の国道1号線を「第二京浜国道」と呼んでおり、それぞれ「イチコク」「ニコク」と略しているのだ。 京浜地域において、「イチコク」は「第一京浜国道」こと国道15号線を指す 国道1号線は「第二京浜国道」であり「ニコク」なのだ イチコク圏の身からすると実にややこしいものであるが、国道1号線の歴史を紐解いてみると、この区間においては「ニコク」と呼ぶ方が正しいように思えてくる。 というのも、最初に国道の番号が定められた明治18年(1885年)の当初は現在の国道15号線が1号国道であり(旧東海道を踏襲しているのもこのルートだ)、現在の国道1号線は昭和27年(1952年)の道路法による路線指定において新たに定められた区間なのだ。 京浜地域の国道1号線はこのような変遷があったのだ 故にこの区間においては、元祖国道1号線である国道15号線を「イチコク」、新道である現在の国道1号線を「ニコク」を呼ぶのは、道路ができた順番からしても自然であるといえる。 国道1号線の略称についてアンケートを取ってみた 神奈川県内でも地域によって国道1号線の略称が異なることが分かったが、その範囲はどのように分布しているのだろうか。また神奈川県以外では国道1号線をどのように呼んでいるのだろうか。 それらの疑問を解消すべく、より広くの方々からアンケートで��見を募ってみることにした。 設問は以下の通りである。 Q1:出身地域を教えてください (できれば市町村区名も) 神奈川県湘南地域 神奈川県横浜市・川崎市 神奈川県その他の地域 東京都23区内 東京都23区外 神奈川県・東京都以外の関東地方 東海地方 関西地方 その他 Q2:現住所の地域を教えてください(できれば市町村区名も) Q1と同じ選択肢 Q3:国道1号線をなんと略しますか?(略すとしたらなんと略しますか?) イチコク コクイチ ニコク R1 その他(自由記述) Q4:国道1号線の略称として「イチコク」という言葉を使ったり聞いたことがありますか? 自分で使う 家族や友達が使う 聞いたことがある 聞いたことがない Q5:国道1号線の略称について、思うことがあれば自由にご記入ください このアンケートをはげましひろばとTwitterで募集したところ、約500件にも及ぶ回答を頂くことができた。ご協力いただいた皆様にはこの場を借りてお礼を申し上げたい。本当にありがとうございました。 改めて設問を見直してみると、アンケートとしてはやや不十分であったと反省している。まず年齢によって呼称が異なる可能性を考慮して年代を教えてもらうべきであった。地域についても東京都の城南地域は分けるべきだったし、川崎市・横浜市も京浜地域とそれ以外で分けるべきであったように思う。 またQ3の選択肢に「R1」とあるが、これは私の父親に国道1号線をなんと略すかと聞いたら即座に「アール・ワン」と答えたからだ。国道1号線→ルート1→R1ということで、「まぁそう呼ぶ人もいるんだろうな」と思い選択肢に入れたのだが、結果的にR1を選ぶ人はごくわずかであり選択肢に入れる意味はあまりなかった。 私の父親は妙に小洒落た呼び方を使いたがる(過去記事「津軽弁が分からない」より) 「イチコク」と呼ぶ範囲は意外と広い さて、アンケートの結果を見ていこう。 まず国道1号線を「イチコク」と略す地域についてであるが、これは神奈川県藤沢市・茅ヶ崎市・寒川町・平塚市・大磯町・二宮町・小田原市にかけての、湘南・西湘が中心であることは間違いなさそうだ。 湘南・西湘はほぼすべての人が「イチコク」と呼んでいるという結果であった 任意記述のご意見を見ても、この地域では昔から自然と「イチコク」と呼んでいたことが伺える。なぜ「イチコク」なのかは分からないが、周りの人々が皆そう言っていたので、自分も「イチコク」と呼ぶようになった、というものである。 都内ではいちこくは15号のことで驚いた。 湘南ではいちこくは国道1号のことだったから。 海側からいちこく にこくだと聞き あぜんとした。騙されてたのかと思った。 by さなまささん(神奈川県藤沢市出身・東京都墨田区在住) 身の回りでも国道1号線を「イチコク」としか呼んでいなかったのですが、よく考えると省略するのであれば「コクイチ」と呼んでいても良いはずで、なぜ「コク」と「イチ」を入れ替えているのか不思議です。(寿司をシースー呼びしたりするのと同じ理由だったらどうしよう) by でこさん(神奈川県藤沢市出身・在住) 茅ヶ崎育ちです。子供の頃は「国道」って呼んでいました。国道1号線が絶対エースだったからです。高校生になって東海道線と国道134号の間に住む友人ができたり、免許を取って他の国道がある地域に車で行くようになると「イチコク」呼びもするようになりました。 by すた・けいさん(神奈川県茅ヶ崎市出身・川崎市中原区在住) 国道1号線沿いの店舗を「イチコク沿いの店」と呼んでいた。 by ぶんちゃんさん(神奈川県茅ヶ崎市出身・東京都在住) 家族、親類、友人・知人が皆「イチコク」と呼んでいたので、大人になってだいぶ経ってからメディアか何かで「コクイチ」を聞いて一瞬何を指しているのか理解できなかった by 牛蒡さん(神奈川県中郡大磯町出身・東京都在住) 「コクイチ」と言う方が周りに多く、しかし自分は「イチコク」育ち。今さら変える気は無いので強い気持ちで「イチコク」と言っております。 by むすすさん(神奈川県小田原市出身・在住) また私が住む綾瀬市や大和市など、湘南に隣接する内陸の地域でも「イチコク」と呼んでいる人は多い。 一方で、湘南に隣接する内陸部といっても相模川より西側の厚木市・伊勢原市・秦野市では「イチコク」はあまり使われていないようだ。この地域では国道246号線(ニーヨンロク)の方が圧倒的に存在感があり、国道1号線はさほど身近ではないためだろう。 丹沢山麓においては、国道といえばイチコクではなくニーヨンロクなのだ イチコク圏は湘南地域に留まらず、横浜市においても国道15号線が並走しない地域では「イチコク」が使われている。さらには三浦半島の横須賀市でも「イチコク」と呼ぶという証言が複数あり、その範囲は私が想像していた以上に広いようである。 イチコク、が一番しっくりくる by あとむさん(横浜市戸塚区出身・東京都江東区在住) ちょっとヤンチャ系の先輩はおしなべてイチコクでした。金沢区からイチコクは少し遠いので(そしてより都会にあるので)、よりヤンチャ度が増すとして格好つけて使われてたのかもしれません。 by さなさん(横浜市金沢区出身・東京都葛飾区在住) イチコク一択かと思っていたので他の呼び方があったことに驚きました by ののさん(神奈川県横須賀市出身・川崎市在住) 家族もイチコク呼称ですし、コクイチと呼ばれているなんて全く知りませんでした。地域カルチャーの違いで何かを言われることへの憧れがついに叶うのかも知れません。 by のじょむさん(神奈川県横須賀市出身・在住) ヤンチャな人が「イチコク」を好んで使っていたということは、「イチコク」という言葉はヤンキー文化が関係しており、その辺のクラスタによって国道1号線からかなり距離がある横須賀市まで伝播したとも考えられそうである。 横須賀でも「イチコク」という呼称が使われているとは思ってもみなかった 確かにわざわざ「コク」と「イチ」をひっくり返すところとかちょっとヤンキーっぽい気もするな……と思ったが、次の投稿を見てその考えは改められた。 生まれてこの方横浜に住んでいます。国道一号線の略称は「イチコク」しか聞いた事がありません。 両親(60代、共に神奈川県出身)にも聞いてみましたが、やはり「イチコク」だと言い、「なんでそんなこと聞くの」という顔をされました。 by コアラ町さん(神奈川県横浜市出身・在住) ここで注目すべきは60代の方も当然のように「イチコク」という呼称を使っているという点である。ヤンキー文化の隆盛より前から地元に根付いていた言葉である可能性がありそうだ。 戦前の文献などでは「国道〇号」を「〇号国道」と表記するものがある。戦後に現在の国道1号線が定められてからも「1号国道」という言葉が使い続けられ、それを略して「イチコク」と呼ぶようになったのではないだろうか。個人的な憶測であるが。 ちなみに牛丼チェーンの「すき家」では、国道1号線沿いにある店舗はすべて「1国〇〇店」という店名で統一されている。すき家は横浜市の生麦駅に存在した1号店がルーツらしいので、ひょっとしたらイチコク圏の影響を受けているのかもしれない。 国道1号線沿いのすき家は、すべての地域で「1国〇〇店」という店名だ おおむね予想通りな「ニコク」の範囲 続いて国道1号線を「ニコク」と呼ぶ地域であるが、これはおおむね予想通りの範囲に収まっていた。東京都の城南地区から横浜市の神奈川区にかけて、国道15号線沿いの京浜地域である。 家の近くは、第二京浜と呼ばれていて、ニコクが一般的でした。国道1号だと、知ったのは高校生くらいかも。 by まっちょさん(東京都品川区出身・練馬区在住) 国道1号線なのに「ニコク」って変だな?とはどこかのタイミングでよぎったのですが、深くは考えないままずっとニコクニコク言い続けてきました。家族はもちろん、学校の友達もニコクで通じていましたし、むしろそれ以外の略称を聞いたことがありません。 by ケヒヒさん(神奈川県川崎市鶴見区出身・静岡県浜松市在住) 川崎に住みはじめて最初イチコクと聞いたとき国道1号線のとこかと思ってたけど、よくよく聞いてみるとイチコクは国道15号線のことで国道1号線のことはニコクと言うのを知ったときはすごい紛らわしいと感じた けどすぐ慣れた by まじんさん(関東地方出身・神奈川県川崎市在住) 一時期、横浜市鶴見区に住んでいましたが、周りの人間はニコク(二国?)と呼んでいました。このアンケートを見て、住んでた人にラインで聞いてみましたが、みんな「二国って言う」と返信がきました。 by 照り焼き地銀さん(鹿児島県薩摩川内市出身・在住) ニコク圏は地元出身者のみならず、他地域から引っ越してきた人々も「ニコク」という呼称を使っている印象だ。しかし最近では「ニコク」と呼ぶ人は減少しているらしく、略さず「第2京浜」と呼ぶ人も少なくないようである。 区内の国道1号沿いに住んで40年余りです。 うちの親も、嫁の親もニコク沿いなので、みんな使います。 一昔前よりは、ニコクを使う人が減った気がします。他地域からの流入増のため? by H+A/Sさん(東京都大田区出身・品川区在住) 略ではないですが、周りの人はみな「第二京浜」と呼んでいます。 by 匿名さん(東京都品川区出身・在住) 引っ越してきて、ニコクと呼ばれているのに驚きましたが、ニコクよりは第2京浜と呼んでる人の方が多い気がします。 by しんいちさん(大阪府大阪市出身・東京都品川区在住) 「ニコク」のランドーマークである、昭和16年(1941年)に架けられた響橋 また第二京浜国道の略とはいえ、国道1号線を「ニコク」と呼ぶのはやはり少々特殊である。地域外の人には通じないことが多く、会話ではより分かりやすい呼び名を使用する人もいる。 ニコク、が正しい略称だと思いますが、その由来や成り立ちを知らない他人に伝えるときに伝わりにくいので、イチゴウ、イチゴウセン、などと呼んでいます。 高輪付近では桜田通と呼んだりもしますが、イチコクは15号のことなので、イチコクとは絶対に呼びません。 by きあれこさん(東京都港区出身・大田区在住) 関西出身者に「ニコク」が通じない。東京人でも国道1号(第二京浜)を日常的に使う人にしか通じない気がする��気がするだけで本当は通じるのかも知れないけど。不安なので「第二京浜」と言うようになってしまってとても悔しい。 by くさちびさん(東京都品川区出身・大田区在住) このように「ニコク」に関して寄せられたご意見には熱いものが多く、ニコク圏の方々のこだわりと葛藤が伺える。 イチコク圏の私としては国道1号線の略称は「イチコク」しかないと思っていたのだが、国道1号線の歴史を知った今では旧国道1号である15号線を「イチコク」と呼ぶのは適切だと思うし���現在の国道1号線を「ニコク」と呼ぶのもやぶさかではない次第である。 ただし、国道1号と15号の合流点である「青木通交差点」からその先は、「イチコク」であることは譲れない。 「ニコク」は国道15号線の終点にあたる「青木通交差点」までだ 東海地方は「コクイチ」が断トツ お次は箱根峠を越えて西へと進もう。東海地方では「コクイチ」と呼ぶ人が圧倒的多数であり、現在は他地域に住んでいる人も、東海地方出身者はもれなく「コクイチ」と呼んでいる。特に静岡県民のコクイチ率は、なんとなんとの100%であった。 静岡県ではすべての人が国道1号線を「コクイチ」と呼ぶのだ 今回のアンケートにおいて東海地方の方々が口をそろえて言っていたのが、「コクイチ」以外の略称があるなんて知らなかった、というものである。 コクイチ以外に略称があるなんて、考えもしなかったです… by にゃん太さん(静岡県沼津市出身・在住) コクイチ以外の略称をこのアンケートで初めて知りました by まなさん(静岡県富士市出身・在住) 「コクイチ」以外の選択肢があることに驚いた。 by わいさん(静岡県静岡市出身・海外在住) 国1の略称が「コクイチ」以外にあること自体、びっくりです。少なくとも私の周りでは他に聞いたことがありませんでした。 by けろけろさん(静岡県静岡市出身・浜松市在住) 「コクイチ」以外の呼び方(略し方)があるなんて考えたことすらありませんでした by しおんさん(静岡県袋井市出身・在住) 他の略称があるとは思わなかった by 麻生さくやさん(静岡県浜松市出身・在住) コクイチ以外きいたことなかった by 匿名さん(愛知県豊橋市出身・在住) コクイチ以外の略し方があること自体まったく知らなかったし考えたこともなかった。 by おやいずさん(愛知県岡崎市出身・在住) これはもう、東海地方ではコクイチ以外の呼び方なんてありえないというレベルである。 どうやら親の世代から「コクイチ」という呼称が付け継がれ、完全に地域に根付いているようだ。 親が「コクイチ」と行っていたのでそのまま覚えました by みまりさん(静岡県静岡市出身・在住) 静岡県民にとっては国道一号線と書いてコクイチ。 by adiasさん(静岡県藤枝市出身・神奈川県在住) コクイチは静岡ローカルな言い方だって聞いた事があります。 by ずっきーさん(静岡県静岡市葵区出身・東京都文京区在住) ちなみに私が「コクイチ」という呼称を知った漫画の作者も静岡県の出身であり、漫画の台詞として「コクイチ」を出したのもごく自然なことだったのだろう。 静岡県の国道1号線はやたら長い上に風景の変化が少なく、走っていて結構つらい 東海地方において「コクイチ」は強いこだわりをもって使われているようで、それ以外の呼称を使おうものならよそ者扱いされること請け合いだ。 仕事ですこし東海圏にいたが、つい国道1号をイチコクと言ってしまうと、また横浜出身者が!みたいな横浜出身者あるあるの一つみたいな責め方をされた(笑) by 県庁所在地と政令指定都市出身は出身を市名で名乗っていいと思う委員会さん(横浜市出身・在住) ちなみに東海地方以外の方からは、「コクイチ」は国家公務員採用一種試験を連想するという意見が多数寄せられた。 関西地方は「イチゴウセン」が多い(ただし京都市は通りの名) 最後は国道1号線の西端にあたる関西地方である。アンケートを見てみると、関西ではあまり略さずに「1号線(イチゴウセン)」あるいは「1号(イチゴウ)」と呼ぶ方が多いようだ。 また京都と大阪を結ぶ国道であることから、ご年配の方は「京阪国道」という呼称を使う人もいるという。 略す方が違和感あります。 by わかばっ!さん(大阪府枚方市出身・在住) そもそも略す人は周りにいないですね 京阪国道という人はお年寄りなどでいます by てっちりさん(大阪府守口市出身・静岡県浜松市在住) ただし京都市に限っては国道1号線という言葉自体ほとんど使われておらず、「五条通」など通りの名前で呼んでいるという。 学生時代京都に住んでいたので、イチコクもコクイチも全く通じず、五条通と言ってやっと通じる(京都市内の国道一号線もなかなか複雑…) みつるさん(神奈川県厚木市出身・在住) 京都市内の道にはほとんど名称が付いているため、国道と兼用されている場合でも国道とは呼称しないことがほとんどです。国道1号線も堀川通や五条通、九条通と兼用されており、「国道1号線」という呼称では位置が曖昧であるため使われないのかと思います。京都市内で国道1号線が何度か直角に曲がることも「国道1号線」という呼称を使いづらい(ひとつの道と認識しづらい)一因かもしれません。 ぴかーどさん(京都府京都市出身・大阪府吹田市在住) 京都市内の地図を見てみると、国道1号線は碁盤目状の通りをカクカクと折れ曲がっている。なるほど、確かにこれでは国道1号線というだけでは場所を特定しづらく、通りの名で呼ぶ方が簡潔だ。 こうも折れ曲がっていると、通りの名前で読んだ方が分かりやすい とまぁ、関西地方では国道1号線をあまり略すことはないようだが、大阪から北九州の門司を繋ぐ、かつての山陽道を踏襲する国道2号線は「ニコク」と呼ばれているという。 しかし国道2号線の別名である「第一阪神国道」から「イチコク」と略す人もおり、その場合は国道43号線が「第二阪神国道」であり「ニコク」なのだとか。 京浜地域の国道1号線と同様、阪神地域の国道2号線においても呼称の相違があり、こちらもまた一筋縄ではいかないようである。 阪神地域もまた、国道2号線の呼称問題を抱えているのだ 国道の呼び方あれこれ 今回は私の個人的な興味に基づき国道1号線の略称について調べてみたが、寄せられた回答を見ていると、それ以外の国道も各地によってさまざまな呼び方があるようだ。 基本的に1桁や2桁の国道は「〇号線」読みが多いようだが、3桁になると数字で呼ぶようになる。私の周辺でも国道246号線を「ニーヨンロク」、国道467号線を「ヨンロクナナ」というし、他にも国道36号線は「サブロク」、国道156号線は「イチコロ線」などと呼ばれているようだ。 興味深いところでは国道23号線を「メイシ」や「メイヨン」(名四国道)、国道258号線を「リャンウーパー」(麻雀用語から?)、国道122号線を「ワンツーツー」(なぜ英語?)など、各地に独自の呼称があるようである。そのような各地の国道呼称を調べてみるのも面白そうですな。 余談だが、国道15号線沿いにあるJR鶴見線の、その名も「国道駅」 この駅が実にシブく、素晴らしいたたずまいを見せていた
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2020.11.07
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ある程度(という「お塩少々」並に判然としない曖昧模糊で主観的な判断基準ではあるけれど、蓋し国際規格の一般論——莫迦捨て山こと治外法権市区町村のひとつである、ファベーラ・オカザキでは浸透し得ない、論旨になり得ない論理から大きく逸れはしないであろう度合い)の品性すら持ち合わせない人間(666の刻印持ちの正しく獣が如き)に対し、途方もない倦み疲れを覚えると、憫殺を決め込むことが最良の選択だったのだと気づく機会になります。節操のない、説法の甲斐もない母国語すら危うい輩は、一体全体どうして「ファック」という言葉を呆気なくあけらかんと、片仮名の発音で吐くのでしょうか。 僕自身がこのゲットーに住まう、ぽんこつ且つちゃんがらな存在であることが何よりの証明となることでしょう。 嗚呼、岡崎市。市長が謳った市民への給付金、一律五万円。財源も碌に足ら��ままに豪語したマニフェスト。低脳地区代表の僕にはそれの是非については杳としてわかりませんが、誰用か知れない駅前の繁華化開発と、該当地までの公共交通機関は不整備のままに、滅多矢鱈な護岸工事や歩道に重点を置いたインフラ整備ばかりが目立ちます。岡崎市という街のどこがOKなのか分からないので、NGAZAKI市と呼びたくなる愛すべき郷里です。状況的にはザキというよりもザラキですか? クリフト的にはオールOKですか? 演繹的に考えれば、この街が魅力の詰まった汲み取り式の厠であると誰もが気づくことでしょう。 一度はお越しになって、サイボーグ城を眺めてから、銘菓『手風琴』を手土産にそそくさとお帰りいただければ僥倖です。
どうも、皆さんこんばんみ。御器齧宜しくに中々しぶとく無駄生きし、厭世家風を吹かすキッチュの顕現体こと僕です。世捨て人って何だかデカダンで格好よさげだけど、結局二の足踏み抜いて俗世人のまま死んでいくんだろうなぁ。僕です。 先日、夢を見ました。ディテールやイメージに関しての記憶はごっそりと抜け落ちておりますが、なんだかやけに馬の合う女性とそれはもういい雰囲気でした。ただそれだけです。
やって参りました、自己陶酔の頃合いです。 どうせ世の中、四面楚歌てなもんでして。僕にとっての仇敵がわんさかと、えっさほいさと、娑婆中で跳梁跋扈だか横行闊歩だかしているのだから、僕くらいは僕という豆もやしを褒めそやし、肥え腐らせていかないでどうするのでしょう? そうでしょう、そうでしょう。どうでしょう。 自己陶酔というより、自己憐憫? はたまた自己愛恤? そんなこたぁどうだっていいですね。恥部の露呈に忙しなかったジャン=ジャックと何ら差異がないんですから。 変態の所業ですよ、こりゃあ。 兎角、どんな些細なものでありましても、感想をいただければ快哉を叫びながら、ご近所に平身低頭謝罪行脚を回覧板とともにお配りします用意はできております。奮ってご参加ください。
古錆びた要らぬ敷衍ばかりの冗長なアバンを持ち味にして、殊更に冗長で支離滅裂な本編へ参ります。 前回の更新で、『色覚異常』、『現代日本縮図』の楽曲について諸々の所感をさらりと書かせていただきました。今回は僕自身への感想なので、一瀉千里に書き殴り、超絶怒涛の仔細があります。まずは『SUCKER PUNCH 2 : FATALITY』を聴いてみてください。以下は読まなくても大丈夫です。 フォロー・ミー!
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01. Vice Is Beautiful
SUCKER PUNCH 2:FATALITY by ベス・クーパーに
“Vice Is Beautiful”などと、大仰も大仰に「悪徳こそ素晴らしい!」と闇属性に憧憬をする中学生並みの痛々しい題名を読み上げると、今になって顔から火が出る思いで、同時に一斗缶満ち満ち請け合いの汗顔が迅速な消火活動に当たる思いでもあります。当たり前ですが、ピカレスクはピカレスクであるから素晴らしく、すべからく遏悪揚善すべきであろう、そう考えております。悪人正機でいうところの「悪人」の範疇がどうとかはこの際度外視で、僕という歩く超偏見型色眼鏡刑法書野郎の視点に於ける「悪人」は普く極刑であり、地獄に落ちることさえ生温いと思う訳です。願わくばファラリスの雄牛の中でモウモウと喚き続けていただければ有り難いとか云々カンヌン……。ただ僕は不可知論が信条ですので、地獄というのは表現の一環です。しかしながら途方もない腹痛に苦しめられている時だけは、神仏に縋ろうとするオポチュニストである自身の軽薄さに忸怩ってしまうところですが、正直なところどうでもいいなぁとも考えてしまいます。こういった僕のような人間を英語でなんて呼ぶかご存知でしょうか? “Japanese”です。横道に逸れ過ぎました。 閑話休題。 この曲、通称「VIB」。今からそう呼びます。ジャン=クロード・ヴァン・ダムを「JCVD」と呼んだり、マイケル・ジェイ・ホワイトを「MJW」と呼んだりのアノ感じが粋だと思うからです。 ジャンルはJ-POPです。僕は常にポップでありたいのです。アンディ・ウォーホルとか好きですし。付け焼き刃な例示なので、何が好きとかはないです。MJが“King of Pop”なら、YGは“Pawn of Pop”です。ほら、POPじゃないですか? じゃ、ないですか。 キーは知りません。BPMは196。曲展開は「イントロ1→イントロ2→A1→A2→B→C→間奏1→D→E→間奏2(ギター・ソロ)→C2→C3→F」となっております。 イントロ1でEなんたらのコード・バッキングからぬるり始まります。音作りに難航、してはおりませんが迷走しており、僕の三文鼓膜ではヨシアシが今でもわかっておりません。困るとドラムをズンドコと氷川きよしさせておけば何とかなると思っている節が聴き取れます。 A1、2共にコード・チェンジが忙しないです。Gなんとかとかいうコードとか、F#うんちゃらとかいうコードとか、後は6,5弦を弾いていないのでルート音とかもわからないのとか。「3x443x xx222x xx233x 2x233x 5x56xx 6x56xx」とかの流れで弾きましたが、どうかコード名教えてください。リフ・プレイも忙しないです。作曲に重要なのは引き算だと、偉い人が仰っておりました。全くもってその通りだと思います。その後のBがなんか転調してませんか? あんまりそういうのわからないんですけれど、元々のコード進行に引き戻せなくて懊悩した記憶があります。 C1は僕の悪い癖が出に出まくっています。4小節毎に変化するんですけれど、如何に多種多様なリフを生み出せるか(パイオニアだか傾奇者だか気取りたいという気持ちを汲み取っていただきたいです)に妄執しています。三回し目のリフが弦飛びしてて難しかったです。二度と弾きたくない。 奇天烈風を装いたくて3/4のDをぶち込み、曲中最ポップなEです。こちらのベース・ラインが気に入っております。もっと目立てる演奏力や音作り、ミックス技量があればと自身の矮小さに辟易としながら、開き直っております。 ギター・ソロでは似非速弾きが聴きどころです。 再び再帰するC2。前述の通り悪い癖が出ております。ネタ切れか、はたまた単に引き出しが少ないだけか、同一のフレーズを弾いております。C3ではてんやわんやの大盛り上がりです。頭打ちのドラムになり、ベース・ラインは「デデ↑デデ↓デデ↑デデ↓」と動きます。強迫観念なのかそういうフレーズを弾かざるを得ない体に、ゾル大佐によって生物改造人間にされています。 最終Fでは5/4があったりと僕なりの冒険心で取り組んだ努力が見て取れました。8分の〜とかになると対応できません。ギター・リフが格好よくないですか? 僕的には満足なんですけれど……。 全体的に楽器は何を弾いていたかわかりません。大抵が朦朧とした意識の中で録音していたので、記憶からずるり抜け落ちています。俯瞰から幽体離脱した状態で、白眼ひん剥いて必死に爪弾いていた僕を見ていたような気がします。 ここから僕のモニャモニャとした歌詞です。 全編通して日影者としての卑屈さがドバドバと分泌されておりましょう。本領発揮です。僕のようなペシミスト崩れがこうやって憂さを晴らすことでしか、自身の瓦解を防げないのです。本当に嫌な奴ですね。友達いなさそう。 可能な限り似た語感や韻、掛詞を意識しております。とどの詰まり、これは和歌です。と言いたいところですが、秀句と比べるにはあまりにも稚拙でございます。何せあの頃の修辞技術といったらオーパーツですし、即興性すら兼ね備えていると来ました。そして、何より読み人は貴族貴族貴族、もうひとつ貴族。僕なんて教養のない賎民でございますから、足りない頭を捏ねくり回して、やっとこと拵えた艱難辛苦の産物です。しかしながら、乾坤一擲の気概で綴った言詞たちではございますから、どうか冷ややかに、僕の一世一代ギャグを解説する様をお楽しみください。 冒頭のAのブロックでは押韻の意識を強くしております。各ブロックで頭韻を揃えながら、「掃射か/お釈迦」「淫靡で性〜/インヴィテイション」と中核を作ったつもりです。開口一番から延々と悪態塗れの陰気なアンチクショーです。鷸蚌を狙う気概、そんなものがあればよかったのに、という感傷的なシーンでございます。 Bでは掛詞が光ります。「擒奸」とはアルカホルの別称だそうで、「酩酊した奸物が容易く擒えられた」的なお話が漢文だかなんだかであるそうでございます。詳しくは知りませんが。「さ丹、体を蝕めば〜」では、アセトアルデヒドの影響で皮膚が変色する様と同時に、「“sanity”を蝕めば〜」と読めば身体、精神ともに変貌していくことを示唆していることに気づきます。 所謂サビの様相のCですが、可能な限り同じことを綴らないようにしております。繰り返し縷述する程に伝えたい内容がないのですが、言いたいことは四方山積みにあります。お喋りに飢えております。そんなC1は愛する岡崎市の縮図と現状、原風景とも呼べる花鳥風月が流れ去るドブ川のような薄汚い景観美の言及に心血を注いでおります。諸兄諸姉がご存知かはわかりませんが、徳川家康という征夷大将軍が400年ちょっと前におられたそうでして。その家康公(a.k.a 竹千代)が生まれた岡崎の一等デカいバラックから西に下ったところ、以前は『やんちゃ貴族』なる逆さ海月の助平御用達ホテルがありました。そして城下の北には『アミューズメント茶屋 徳川』なる股座用の射的場があるそうです。「城下、公卿の遊技場」というフレーズに秘められた情感ぷりたつの景観が想起されるのではないでしょうか。因む訳ではありませんが、『アミューズメント茶屋 徳川』の隣には『亀屋』という喫茶店があります。粋で鯔背ですよね。 Dでは、何処となくサンチマンタリスムが滲んでおります。何もなせないままに過ぎ去る今日という日の重圧と、それから逃げようとする怯懦心の肥大があります。 Eに入ると気が触れたのか、資本主義の礼賛です。情緒不安定です。そして麻雀用語でお茶を濁しております。 再びのC2です。自身の滑稽さが爆笑の旋風を吹き荒らします。非常にシンプルな隠喩表現があります。続くC3では、家康公の馬印からの引用をしております。C1では自身の有用性のなさ、無力さを嗟嘆。C2では開き直るも、C3で再び打ち拉がれるという情緒がひっちゃかめっちゃかです。 最終、Fでは曲の終わりと共に事切れる姿が描かれております。衒学者でも意味がわかるようにとても平易な内容だと、締め括られます。 始め、僕の全身全霊の圧縮保存の「Vice Is Beautiful.zip」を紐解く予定でしたが、既にご存知の通り冗長どころか蛇足々々々くらいのヒュドラ状態です。僕の意識下で綴られた拙筆なる修辞技法のアレソレコレドレは毎行に置き捨てたので、よろしければお探しください。全て見つけられる御仁がおられましたら、最早僕ではなく、そちらが八木です。
続けて次へと進みたいのですが、長過ぎませんか? 擱筆した方がいいですか? 次回にしましょうか。いや、このまま行きましょう。友達がいないので語り足りません。 最早、末筆なのではと自分自身に問いかけたいくらいにダバダバとした作文をしております。僕は頑張ったんだよって、僕が僕を認めるために。これくらいの自己愛やらナルシシズムがなきゃ曲なんか拵えないですよ。「誰かに届け!」とかそんな思いは毛頭ないです。申し訳ないです。 はてさて、世に蔓延るウェブログの弥終で管を巻き続けること数千文字ですが、続きます。
06. Catch You If I Can
SUCKER PUNCH 2:FATALITY by ベス・クーパーに
Manoさんが「90秒の覚醒剤」と評していただきました。嬉しかったです。 こちらの捩りは何ンク・某グネイル氏の半生を描いたアレです。美しき相貌のドデカ・プリオの演技が光ります。“Catch You If I Can”と題名の通りですが、実のところ僕はヴィジランテです。私刑を執行すべく、尻を蹴り上げるか、ガイ・フォークスの面を着けるか、視界を遮り棍棒を装備したりと、日中日夜イマジナリー・エネミーとの戦いに明け暮れております。クロエ・グレース・モレッツやナタリー・ポートマンやエロディ・ユンが側にいないところ以外は一緒です。僕自身が阿羅漢ぶった言い分ではございますが、僕もタブラ・ラサでイノセントな存在であると、大口で宣える程の聖人君子ではないです。「罪のない者だけが石を投げよ」なんて言葉もありますので、僕は持ち前の当て勘で截拳道由来の全力ストレート・リードを打ち込みます。己やれ! こちら『SUCKER PUNCH 2 : FATALITY』のラスト・ナンバーを飾らせていただきました。締め切りを延ばしていただき、さらにその締め切りの後に提出しました。その件につきましては謝罪のしようもございません。 駆け抜ける清涼感、爽やかでポップでラブ&ピースな楽曲に仕上がったと思いますが、いかがでしょう? ジャンルは勿論、J-POPです。理由は前述の通りでございます。キーは勿論、知りません。ドレミファソラシドってどれがどれなんですかね。『おジャ魔女どれみ』世代なんで、ファ以降を知らないです。BPMは232です。曲展開は「イントロ→A1→A2→B→C1→C2→D→アウトロ」となっております。僕は映画でいうCパートが好物でして、そう言った部分を作ろうとしています。嘘です、たまたまです。勢い任せの一方通行な展開ですね。まるで乙川のようです。 イントロからハイ・テンションですね。押っ取り刀にサッカー・パンチ。今回カポタストを装着し、1音半上げでやっていきました。バッキング・パートは「x3x400 x3x200 x2x000 x2x200 | (1~3)x01000 x1x200(4)x222xx」と16分刻みで弾いてみてください。容易く弾けます。リフは知らないです。 A1はカッティングが効いてます。効いてます? 右手のフレーズが活き活きしています。悪態に拍車を掛けておりますし、ベースがブリブリと弾けたのも満足です。A2で困った時のお助けアイテム、三連符でコータローばりに罷り通っていこうとします。 Bがお気に入りでして。メロディと共にふんわりモコモコなドリーム・ポップ風です。サンバ・チックなリズムがよいアクセントではないでしょうか。ドラム・ソロを挟み加速度は自重で二乗といった気分です。BPMは変わりませんけれど。 C1は「C→B→E」ルートですが、ちょこちょこと変な音足してるので詳しくはわかりません。TAB譜作ったら貰ってくれる人いるのかしら? 要らないかしら? 自分用に作ろうかしら? ふた回し目にあるパワー・コードの「E→G→A#→B」みたいものを使いがちです。ギター・リフは半ばこんがりウンチ<©︎ダ・サイダー(CV.矢尾一樹)>——自棄くそ——気味で愉快ですね。0:47辺りに左前方で鳴る「ピョロロロー!」というお間抜けハッピー・サウンドですが、ワーミー踏みました。C2ではハーフ・テンポで落ちサビを作り、J-POPの体裁を取り繕うことに挑戦しております。リフはプリング・アンド・プリングです。プリプリですね。『Diamonds』のB面が『M』って知ってました? 度肝抜かれました。世界でいちばん寒い部屋で、心拍止まりそうです。頭抜けのブレイクが大好きです。演奏する時に思わずギターを振り上げてしまいたくなりますよね。 最終Dでは、バッキングのコードがなんか違った気がします。ここで浮遊感というか、シンガロングな雰囲気が作りたかったんですけれど、どうでしょう。ここを沢山の人々と合唱したいです。 続いて歌詞について掘り下げるようなそうでもないようなことをしていきます。筆がノリノリでして、一日で書けました。普段は、数日くらいあーでもないこーでもないと懊悩煩悶七転八倒五体投地に考えるんですけれど、勢いってありますよね。 青っ白い顔をした雀子宜しくの矮小存在が、邪魔者扱いされ、どうにも魔が差して刺傷でも企てそうな、風雲急を告げるといった面持ちのAです。三連符の誹謗で締めます。 掛詞の中傷で抽象な街を少しでも掘り下げるBですが、綴りたい文句が有り過ぎて並列表記してしまいました。お好きな方でご理解ください。「治水」は深読みして��ださい。 C1ではギリギリガールズに愛を込めたアレゴリーに着目していただければ嬉しいです。それ以外は珍しくストレートな歌詞ですね。読み返して恥ずかしくなっちゃいました。赤顔の余り、赤シートで消えそうです。「イエス・グッド」とはNGの対義語です。「やる気ゼロゼロコブラ」と共に流行らせたい言葉です。C2、「陰嚢の〜」の下りは語呂がお気に入っております。僕にとってのマリリン・モンローは現れるのでしょうか。 締め括りにDで僕のヴィジランテ精神を書き綴っております。「足りない」のはきっと音域です。 他にも修辞表現がございますので、お探しください。ウォーリーよりは簡単に見つかると思います。 全体的にムッツリ助平をひた隠すために労力を注ぎましたが、通しで読み返すとそれなりに一本の流れがあるように感じます。芥川龍之介すらもまともに読んだことありませんが、努力をせずに文豪になりたい、そう思っております。一人ぼっち善��りなエチュード・ソング、そう解釈してください。
カモン緞帳!
○
くぅ疲。
もしも、僕のウェブログを眺め、「こいつは何を言っているんだ、気持ち悪い」と論旨について一考する間もなく、脳味噌無回転に匙の投擲大会に興じたとすれば、それは人としての思考力の欠如に他ならず、僕としてはしたり顔をするより他がない訳です。 僕も読み返してみたところ、何を言っているのかさっぱりわかりませんでした。思考力など何の役にも立たないのです。重要なのは大事な時に熱り勃てるかどうかなのです。 フィグ・サインを掲げていきましょう。 ファック!
追啓 この度、空飛ぶスパゲッティ・モンスター教に入信することと相成りました。
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『貝ベースの醤油ラーメンを出す、あの店のこと』
ラーメン屋を閉める決意をしてからというもの、今どき流行らない古めかしい中華そばの店に父と二人で行った少年時代を思い出す夢ばかり見る。 何の変哲もない一杯六百円とかの、メンマ・チャーシュー・ネギが乗ったいわゆる普通の醤油ラーメン。 西陽が傾き加減で入ってきて少しノスタルジックさもあるような古臭い空気感と、時たま子供でも分かるようにして漂う煙草の薄い臭いと、べたついた床。上を見るとメニューがずらっと書いてあって、「どれにしようかな」と悩みながらも結局あのシンプルな中華ラーメンに行き着くのだ。 なんにも特徴のないのが特徴のラーメンだったけれど、そのときの俺はそれで満足だったし、父と言葉を交わさなくても味に集中している時間だけは何か空気が変わったように打ち解けられたような気がした。 「うまいな」 そう、生きて来て父と話した言葉なんて、そんなものである。 そして俺はその店を切り盛りする角刈りのおっちゃんに「また大きくなっとるやん! そうか、賢ちゃんももう今度は中学生かぁ。時の経つのは早いもんやな!」なんて言われてがしがしとひとしきり頭を撫でられたあと、俺が「ごちそうさまでした」と言ったところで、その夢は終わる。 そんな夢想をするくらいなら、サラリーマンをやっていた忌々しき時代の上司に受けたパワハラの夢でも見ていた方が今の自分にとっては百倍もマシであっただろうに……。スマホのアラームを止める手が、今日は一段と重かった。 そうか、もうこんな時間か……。いくら憂鬱でも、身体は何年も続けてきた仕込みと下準備の時間を覚えているし、勝手に手は動く。疲れているのに、心はやるべきことを為そうとしてくる。なのに俺は気持ち悪いざわめきを抑えることは出来ない。一度、便所で食べたものを全て吐き出した。 夜明け前、まだ暗い部屋の外を眺めて、こう思うのだ。 「……こんな店、早く潰れてしまえばいいのに。誰か火つけてくんねぇかな」 いつまで思い出に縋っているんだ、と誰の声だか知らないが、夜明け前の静寂から聞こえてくるのだ。だから、もうあと一週間で店を閉めてやる。 ──この店は蝉のごとく、地面から地上に這い上がることができたのだろうか? 俺は心を無にして、そんな風に振り返ってしまう気持ちを蹴飛ばした。
◆閉店まで 七日
盆地の夏は蒸し暑く、たとえ朝でも日が昇ればあっという間に三十度は軽く超えてしまう。だから、もっと酷暑になる昼頃になんて、まず出歩いているのは夏休み中の下宿生か、物好きばかりで、店は繁盛しない。 いつもの夏の光景は、仕事を辞めて店を始めた十年前から、何一つとして変わっていない。 「ご馳走様でしたー」 「あいよー」 誰だか知らないが、この辺りに住む学生だろうか。律儀に声をかけてくれるので、こちらとしても気持ちがいい。ここに店を構えてよかったと、改めて思う。 俺は、この店を閉めることを事前に告知しないことを決めていた。もちろん申し訳無さはあるが、客に気を遣われても困る。むしろ、風のように消えて「えっ、あの店辞めちゃったの」と思い出される存在であるかどうかを試すために、誰にも言わずに店を閉める。 俺が出しているのも、夢の中で出てきたような、何の変哲もないように見えるだろう醤油ラーメンだ。もう、メンマもチャーシューもネギもそのままで、子供の頃から慣れ親しんだものにしか見えない。しかし、これこそが俺の答えであり、結晶である。 確かに、「あの店は良かった」と皆の記憶の中にどこまでも棲み着いて苦しめるような、そういうラーメンを作って、今まで来なかった奴らに復讐するということが目的なのは間違いない。 だが、俺にとっては、この答えとなる最高傑作を作っても『アイツ』が来なければ意味なんてないと思っている。 「暑いっすね」 「きょう真夏日だぞ。こまめに水とれ、水」 「ありがとうございます。でも、店長に倒れられると困るんで、程々でいきましょう」 バイトの大学生もこの辺りに居を構えているらしいが、地元とは違う気候にかなりやられているらしい。加えて厨房はこの熱気である。俺は彼を気遣ったが、彼も彼なりに俺のことを気遣ってくれているらしい。 「そりゃどうも。それで、大学はどうよ、友達は出来たか」 「おかげさまで手で数えられるくらいの付き合いしか。でも、それなりにうまくやってますよ」 うまくやる、という言葉の響きで、今の若者はそういう方向に特に賢いなと思った。コミュニケーション能力の鋭さや丁寧さは、今の世代からすると常識に等しいのかもしれない。 ──ならばすれ違いながら���きてきた俺は間違っているのか? 答えはノー、だと思いたい。しかし、現実はそうではないのだろう。昔のことに囚われて今のことが見えなくなって、その結果、未来のことまで見えなくなってしまう性分には、「うまくやる」なんて洒落たことが出来ない。直情的なのに後ろ向き。それならいっそ、チョロQのようにゼンマイ式で後ろに引いて、それから猛スピードで直進できれば、なんて。 ドアの外から見えるのは、あるようでない日陰をうまく渡りながらはしゃいでいるアベックとか、カメラを首にかけて猫を追っている白いワンピースの少女とか、あるいは、あれは家族連れだろうか。帽子をかぶって真っ黒に日焼けした夏の象徴みたいな男の子がこちらを見ているような気がした。 ふと、その男の子に俺の子供の頃を重ね合わせる。 ──お前は麒麟児だ! ラーメンの味が分かるんだろ? 天才さ! 麒麟児、という言葉の意味も分からなかったあのころ、わしゃわしゃされていた俺の髪の毛と、その子の天然パーマがかった頭とか、雰囲気とか、そういう物が似すぎていて、 「店長! お客さんですよ!」 という声がバイトの子からかかるまで、俺は来客にまったく気づけないでいた。 クソ、今日は調子が狂うな……。俺は、眩しすぎる若き煌めきを無視できない。歳を食うのはまったくいいことがないんだよな、とオーダーを取る。
◆閉店まで 六日
常連の青木さんは、すぐにご飯を済ませようとする。 「いつものヤツ」 「醤油ラーメンと半チャンのセットですね」 オーダーを聞いてから、俺が作ってサーブするまでの間、ずっと青木さんは貧乏揺すりで無言の圧力をかけてくる。別に声を荒げるようなことはしないが、その様子を見ている方はなかなかプレッシャーを感じるものだ。 しかも、バイトの子は青木さんに怒られたことがあるらしい。曰く、『サーブを早くしようとしているのは分かるが、そのせいで半チャンの出来が悪い、もっとパラパラにしろ』とのことだった。ただ、そのときだって味に文句をつけながらも、口にとにかく素早く運んで五分で食い終わっていた。 そう、青木さんに満足してもらえないまま店を閉めるのも確かに不本意ではあるのだ。ただ、遅くては文句をつけられてしまう。つまり俺は青木さんに味とスピードという、いい店の三拍子のうちの二つをいつの間にか鍛えてもらっていたといえる……かもしれない(三拍子の残り一つの『安さ』は、青木さんに言われなくとも、たぶんこの辺りでは一番だと思う)。 半チャンに使うのは、ご飯、卵、長ネギ、塩、油、水。手慣れた手付きで中華鍋へ遠慮のない量のごま油とご飯をどばっと投入し、その上にさらに溶き卵をかける。そして一気呵成の勢いでじゃかじゃかと鍋の中で暴れさせる。うまく炒められれば、そのあと塩・長ネギを加え、火を弱めてひとさじの水を軽くふりかける。最後の炒めを終わるまでに一分とかからない『タマゴ炒飯』とはこれのことである。 一方のラーメンは、朝から仕込んでおいたアサリ・昆布・シジミをベースにしたコクの深い秘伝の醤油スープに、勢いよく湯切りしたちぢれ麺を投入し、先に炒飯を作ったときに多めに切っておいた長ネギ、さらにメンマと、これまた夜が明ける前からトロトロに煮込んでおいたチャーシューを乗せる。要素はたしかにシンプルでサーブまでの手間は果てしなく短いが、それまでの準備がひたすらに長い。しかし、それをやっておくことにより、味にも速さにも自信が出るというもの。手は抜かない。 完成したラーメンと半チャンのセットは、まるでサイモン・アンド・ガーファンクルのようなコンビネーション、明日に架ける橋のような希望に満ち溢れた輝かしさである。 さあ、どうだ、青木さん。今日は俺の作る最後の一杯をお見舞いしてやる。 俺はそんな気持ちで、テーブルに「お待たせしました、ラーメンと半チャンセットになります」てな具合でそれを出した。 このとき、俺は思った。俺にとってはこの人に出すのは最後の一杯になることがもう分かっているけれど、青木さんや他の常連客にとってはいつもの一杯に過ぎない。それなのに、俺は空回りして変なことをやっているのはおかしい。いつものように、手は抜かずに気は程々に抜いて、ナチュラルな一杯を目指すべきなのではないかと……。 ラーメンを口にした青木さんが、麺をすすったときに少し表情が変わった。だが決して言葉にはしない。いつものように、腰の曲がり始めた汚れ混じりの作業着姿で、黙々と淡々と食べ続けている。その横顔を見つめていたバイトの子が、何かに気がついたような表情でポツリと漏らしている。 「青木さん、もしかして怒ってるんじゃないですか……?」 嘘だ。俺は気合を持って今日の一杯、ひと皿を出したはずだ。さっきは空回りしてちゃいけないんじゃないかと思ったが、それだって正しいという確証はないのだ。だから、俺は俺のベストを出しただけなのに……。段々と、分からなくなってくる。 俺の頭が堂々巡りしている最中、青木さんが席を立ち、店中に響き渡るようにデカい声でこんなことを言った。 「ご馳走さん。……一つだけ言わせろ! 半チャンを律儀に出してる時点で、お前はラーメン屋失格だ」 振り返らなかったので顔は見えなかったが、席にあったラーメンは半分程度で残されていた。時間を見ると、サーブしてから丁度五分が経っていた。
◆閉店まで 五日
昨日の青木さんの言葉は、まるで憲兵に銃を向けられたときの敵国の兵士のような感情を抱かせた。今から俺は死ぬのではないだろうか? そういう凄みさえあったのだ。 やはり俺の店はどこかで何かを間違えていたのかもしれない、と途端に不安にもなるのだ。 なぜ半チャンセットを頼まれていて、それで半チャンを出したらラーメン屋としては失格になってしまうのか、それはなるほど哲学的な問いとしか考えられなかった。 しかし日々はそんな俺のことを放っておいても、セーブポイントから続きがやってくる。どうやら人間というのは、昨日のことをずっと引きずっては生きられないように出来ているらしい。あまりやりたくなかったが、行きがけに度数の低い酒を一缶だけ煽ったら、すっと記憶の中とか頭とか身体から要らない力が抜けていくのを感じた。 ともに歩んできた『アイツ』のことを心配している余裕が今はない。俺は蝉なんだ。きっと死ぬ時くらいは自らの生涯を全うするために地上に出てくるんだ。 開店直後、とある珍客が現れた。 「なんだ、先輩じゃないすか」 「どうせ暇なんだろ。食いに来てやったよ」 この体重115キロという巨漢の男は、真正の食欲における猛者たる風格を漂わせているが、ただの公務員であり、俺が大学時代に部活で大いにお世話になった先輩である。陰では部員から豚とか言われていたが、本当は渾名をゴリ松先輩という。なんということはない、顔がゴリラそのものだから、ゴリラのゴリに、苗字の一部から松でゴリ松……先輩だ。 「まーたあっさりとしたもん作りやがって、もっと豚骨ラーメンとか作れよ」 「うちは豚骨置いてないっすよ、俺なんか豚骨とかインスタントでしか作ったことないから分かんないし」 「おいおい、それで何がラーメン屋だ!」 豪胆に笑って見せる顔が無邪気な子供そのものなので思わず吹き出しそうになる。昔と変わらないその心というのが、俺をひどく安心させるのだ。 「しゃーねーなー、醤油ラーメン一丁! それと餃子!」 「はいはい」 餃子セットは半チャンセットと並ぶ人気商品の一つで、とくに餃子は羽根付きのパリッとした感じに拘りを入れている。臭いが気になる人向けににんにくやニラを使わず、生姜などでその代わりのアクセントをつける。 ゴリ松先輩は営業の最中だろうか、スーツ姿でこの店にすっかり馴染んでいる。それを見て、俺も真っ当にサラリーマンやってたら結局こういう感じになって、どっかのラーメン屋で飯食ってるんだろうなという、そんな違う世界での自分を想像していた。 「あの」 「何?」 「ゴリ松先輩って、何で前の会社から転職したんすか?」 「言ってなかったっけ? 給料はまともに払われてねーし、上司は自分が失敗したのに責任を取ろうともしないしそれを部下に押し付けてくるし、上に刃向かったら左遷だし。ブラック企業ど真ん中よ、俺は人間だからそこから這いずり出てきただけ」 ゴリ松先輩は大学卒業後、某有名一流商社に就職し、華々しいビジネスマン人生を踏み出すかに思われた。しかし現実は昭和の軍隊統制さながらのブラック企業で、悪法も法なりと言わんばかりの労働基準法潜り抜けで精神も身体も限界までこき使われていたらしい。 「あー、一番酷かったのはやっぱアレだな、宴会で土下座させられて仕事でのミスを詰られるやつ。もはや仕事でもねーけど」 「マジすか、飲み会でそんな前にやったこととか根に持たれるんすか」 「そりゃあ、もうあんな職場で働いてるやつなんか頭おかしいやつしかいねえよ。大学卒業しても勉強だけ出来て後はゴミみたいな人間、本当にいるんだな」 先輩は昔からこんなに口が悪い、というわけではないのだ。あの中にいたら誰だっておかしくなるし幻覚のひとつやふたつくらい見るだろう、と尋常ではないほどの汗を拭って苦笑いした。 「そうだ、水、もらうよ」 「ああ、全然��いませんよ」 そういって先輩は小さな袋に入った錠剤を取り出した。 「それ、なんです?」 「もう俺も歳だからね。ダイエットしようと思って。本当は食前に飲まなくちゃいけないんだけど、ついつい忘れるね」 俺は驚いた。正直、もともと放漫な食生活をしていて、前の会社に勤めていたときの自暴自棄な暴飲暴食も重なってかなりの肥満体型にはなっていた��、ダイエットか……。自分の腹の肉が気になるお年頃なのは、俺も同じだったことを思い出させられる。 「そしたら、ラーメンはもう卒業ですか?」 「違えよ、これ飲んだら実質カロリーゼロだから」 「言い訳雑過ぎっしょ……」 昨日とは違って、帰り際にはスープ一滴、餃子のひとかけらも残ってはいなかった。
◆閉店まで 四日
壁に貼ったカレンダーに、「あと四日」の文字。そう、一日一日を刻んでいくことで、ゆっくりと自らの終わりを生活の実感と一致させていく。今日もジージーと蝉の鳴く声がずっと煩く響いている。 『アイツ』、まだ来ねえな。もう店閉めるまであと四日だぞ、早く来ないと手遅れになるぞ、と虚空に呟く。自分で選んだ未来を後悔しっぱなしでは終わらせられないのだ。そのためには『アイツ』が終わらせてくれないと、何も始まらない。 俺の店はビルの一階にあって、その賃料はそこそこのものだ。話は既につけてあるが、念のため会ってもう一度段取りを確認しておかなくてはならない。迷惑にならないように、早い時間にその人を訪ねた。 「ごめんください」 「ああ、どうも、ラーメン屋の方ですか。先日の話で何かありましたか」 「いえ、特にそういうわけではないのですが、再度、事情の再確認とか、まあ、ご迷惑をおかけするわけにはいきませんから」 「何度でも確認していただければと思います。実は事情が変わった、というときに対応できないと大変でしょうし」 いつ会ってもこのお爺さんは腰が低い。年月を経て銀色になった髪が陽の光にふんわりと輝く。歳を正しくとるとはそういうことで、ちゃんと報われてきた人間の顔をしているという感じを受ける。 俺もこうなりたいな、と思ったことは一度や二度ではない。しかしそれは土台無理というものだ──正しく歳をとるというのは、たぶんきちんとした職に就き、社会の為に汗水を垂らし、たまに適度な休息を取って家族を養い愛することによって、普通の人間として為しうることなのだ、たぶん。俺にはその資格なんて、到底ない。 「どうにもならないとは思わないんですがねえ……私も醤油ラーメン、好きでしたよ。正直、廃業というのは心惜しいものです」 それでも、この大家さんにそこまで言ってもらえるのだから、俺はある意味ではとても幸せ者なのだろうな。 「それで、どうします? 一応、建物は残ってるんで、片付けに入るでしょう。そのときにもう一度引き払うときの条件だけ確認することにしましょうか」 「ええ、それで構いません」 「ありがとう。それでは、日課のジョギングにでも行ってきますよ。最近は妻も一緒に走りたいなんて言ってくるものでしてね」 そういうと、大家さんはそのまま川沿いに走り出していった。そうか、奥さんと一緒に走ってらっしゃるのか。こんな感じで生きている仲睦まじい熟年夫婦というのは、見ているだけでどこか心が癒されるものだ。まるで木々にとまる二羽の雀のように、心細い夜でも寄り添って生きることが出来る、『アイツ』とはそういう風になりたかったな……でも、それもいつかの話だから、今日は今日を生きる。 店はいつものように、繁盛するはずもなく、ただただ空席の目立つ日常だ。この店は別に儲からない。なんなら赤字で、店を維持するのにも金がかかる有様だ。それでいいとは俺は一度も思ったことがない。そして、閉めると決意してからもそれが変わらないのだから、もうラーメン屋に未練なんてない。 ふらっと、そのとき一人の女性が入って来た。 「いらっしゃい」 「あの、ひとりなんですけど、いいですかね」 「構いませんよ。そちらのカウンター席へ」 この店に初めてやって来るお客さんらしい。こんなところにやってくるなんて、相当な物好きしかいないだろうに──半ば同情めいた気持ちも持ちつつ、彼女がこの時期に似合わない薄めながらも長袖のジャケットを椅子にかけたところで、オーダーを伺う。 「ご注文は?」 「……醤油ラーメンの味玉つきで」 「かしこまりました、ラーメン味玉一丁!」 ……お前以外誰もいなくてもオーダーを通すときに叫ぶのは雰囲気づくりだよ、ほっとけ。俺はバイトの子にそんな思いを込めて目線を向ける。 味玉は、前の日から煮込んでいることもしばしばあるくらい時間がかかる。きっちり濃い口の甘辛い醤油ベースのたれの味を染みこませて、あっさりした醤油ラーメンに合うようなしっとりとした半熟で仕上げてある。このラーメンと味玉のマリアージュはまさしくヒロシ&キーボー、『三年目の浮気』さながら。たぶん、食べた人は旨すぎて泣くんじゃないか? とすら思う。 そんな風に自分がトッピングやサイドメニューにラーメンと同じくらい拘るのは、ラーメンに自信がないからではないと自分でも信じている──というか、そう思いたいだけなのかもしれないけど。 半袖になったその女性は、一口食べるや否や、自分のスマホでそれを撮り始めた。何かグッとくるものがあったのだろうか、それとも今流行している写真投稿サイトにアップロードするのだろうか、とバイト先の子に言ったら、 「さすがに今どき写真投稿は古いですよ。時代はストーリーに動画を上げるのが鉄板です」 と言われて、おじさんは何を言われているのかさっぱりだった。 味わうようにして食べるということの尊さをそうして如何なる形で知るのだろう、そんな人は、と昔は否定的だったんだけれど、もうこんなに一般的な風景となった今では何も気にならなくなるものだなあ。そんなことを思った。 「食べることって幸せの源流なんでしょうね。ほら、あの人も幸せそうな顔してる」 「食事に集中してもらいたい気もするけど、まあ、あれも一つの形なんだろうな。食べるってことの」 「おっ、店長が珍しく納得した」 何が珍しくだ、俺はかなりお前の言っていることに同意しているぞ──と思っていたら、彼女は綺麗にラーメンを平らげてしまって、それから俺たちのほうに駆けよって来た。 「醤油ラーメンと味玉、ごちそうさまでした。すみません、写真とか撮ってばかりでお邪魔でしたよね。お詫びします」 「いえいえ全然、こちらとしては美味しそうに食べて、美味しそうに写してくれたら本当にありがたいですから……」 「そう言っていただけると本当にありがたいです。……ありがとうございました、ごちそうさまでした」 お金を支払ったその対価としてラーメンと味玉を魂込めて作り提供しただけなのに、その女性はやけに丁寧に礼を言った。そしてまた帰り際に見せた笑顔がまたぺかーっと明るくて、顔も性格も美人っていうのは世に二人以上もいるんだなと、やっぱり昔のことを思い出したものだ。 「どうしたんですか、店長?」 「いや、なんでもない。ただ何となく、あの人、凄いなって思っただけだ」 そのとき、一陣の強い風が町中をひと舐めした。何の予感なのだろう? 俺はとても不思議な気分になった。
◆閉店まで 三日
その日は、開店から尋常ではない忙しさだった。 何があったなんてことは、確認するヒマもなさそうだった。 「いらっしゃいませ! ここでお待ちいただけますか、すみません、慣れていないものでして」 この店では一切見たことのないような繁盛、行列、人の山。どんなに旨いラーメンだと言い張っても人が寄ってこなかった盆地の小さなラーメン屋に、こんなに人が集まるだなんて。何か、騙されるオチの夢を見ている気分だった。暑さと疲れで頭はずっと痛いが、その心地よい苦痛が俺に確かな生の実感をもたらしてくれた。 「お次のお客様は……二名様! ええ、どうぞこちらへ。そちらは五名様ですか、テーブルが空くまでお待ちいただけますか。すみません」 喉も痛いが、汗を拭いながら叫ぶ。人生のなかでこんなセリフを言うことになるとは思いもしなかった。これ、一度言ってみたかったんだ……。 「どうです、今日は流石にこの人数じゃ回せないでしょう」 大家さんが様子を見るついでに、ラーメンを食べに来てくれたらしい。どうやら奥さんも一緒のようだった。 「そうっすね……これは、バイト増員も考えなくちゃいけない」 「それでも、決めたことはするんですよね?」 『店を閉める』ということを、繁盛している店内で言うわけにもいかないという細やかな配慮にお礼を申し上げたい。俺は「そうっすね。もう決めたことなんで」と気持ちを傾けないように、自分を制御するようにして言った。 「そうですか。まあ、それも貴方が決断したことで、私がやいのやいの言えた話じゃないですものね。とりあえず、今はこの急場を凌いでいきましょう。頑張ってください」 大家さんからの応援は、かなり安心感をもたらしてくれることが分かった。実はこの店で食事をするのは初めてだということで、ラーメンの味を伺ったら「さっぱりしていてとても食べやすいですね」という高評価をいただいた。ますます閉めるのが申し訳なくなるから、本当は大家さんは一番最後に食べてもらうつもりだったのだが、こうなってしまっては仕方のないことだ。 そしてこの混乱じみた行列は午後になっても途切れない。何人捌いても、また後ろに列が出来て、みんな一様に醤油ラーメンを食べて帰るのだから驚きだ。全員が同じメニューを頼むなんて、普通じゃありえない。 これが、もっと昔、それこそ店が開店してすぐくらいの頃だったらな、と俺はまた昔のことを思い返すのだった。ずんどうから��る潮の香りのする醤油の匂いでいろんなことが思い出せるくらいには、この店にも歴史がある。 実はこの店が全国的に展開している雑誌に掲載されたことがあり、そのおかげで一時期は賑わっていた。当時の看板メニューは今と違って貝ベースの塩ラーメンだったが、今のようなシンプルさの欠片もないゴテゴテした作り方をしていたせいで店の受注能力を大幅に上回��、結果として俺が倒れてしまった。その間にその雑誌での宣伝効果が切れてしまい、今まで見たいな閑古鳥の鳴く店になっていたのだった。 それが、今はこんなことになっているなんて。 思い当たる節なんて殆どないのだけれど、あるとすれば昨日の女性が写真をたくさん撮っていたことくらいしかあり得ない。写真投稿サイトにレビュー付きで載せて、それが一気に情報として拡大した、ということは全くもってありうることだ。それ何て女神? いやしかし、それならば昨日の今日でこんなに繁盛するものなのだろうか。 俺は、にわかには信じられないといったような顔でこの現状を精一杯もてなすことだけで大変だった。心は全然間に合っていない。 「売り上げ恐ろしいことになりそうですね」 「そうだな……いったい何諭吉だろうな…………」 「給料上がりますかね?」 「まあ、そのうちな」 バイトの子には申し訳ないが、給料が上がる前にこの店は閉まるし、何ならこの売り上げもあんまり意味がない──正直、あんまりラーメン屋で儲けるということにバカバカしさを感じるようにもなってきた。歳かな、と考え直そうとしても、その考えは抜けない。 恐らく翌日もこんな感じだろう。誰かに手伝ってもらわないと久しぶりに過労死しそうだ……そんなとき、頭の中でひとりだけ思い浮かぶ人物がいた。 ──ああ、先輩なら手伝ってくれそうだな。 明日は土曜日で、客足はきょう以上のものになるだろう。ゴリ松先輩なら、土日は休みだし、たぶん副業も許可されているはずだし、後輩からの頼みを断るなんてことはしないんじゃないだろうか……と、甘いながらも色々と考えたのである。 早速、俺はメッセージでゴリ松先輩のアカウントをタッチする。 『先輩! なんか店が繁盛しちゃって、人手が足りないので手伝ってもらっていいですか! お金は出します』 我ながら軽いメッセージだとは思っていた。万が一怒られたらごめんなちゃいすれば、それで済む関係だから、それでもいいやと思っていた。俺と先輩の間柄はそういうものだったし、いつでも即返事が返ってくるのが基本だった。 しかし、いつまで待っても、夜まで待っても言葉は返ってこない。 心配になって電話をかけてみても、留守電になったままだった。 これはどういうことだろうと思って、ゴリ松先輩の会社に電話しようかとも思ったが、さすがに金曜の深夜に電話を受ける人間なんかいないと思って、もう先輩に店を手伝ってもらうのは諦めようと思った。 明日は絶対に修羅場になるだろうに、なんで既読無視してんすか……。俺はそう思っていた。
◆閉店まで 二日
十年の歴史の中で、こんなに気合を入れて一杯を仕上げられるのは今日くらいのものだろう。それも、沢山の人に。なかなか料理人のはしくれとしてではあるが、誇らしいものがある。なんとなく熱く生きているのは蝉だけじゃなくて俺もなんじゃないか、死ぬ間際にこんなことがあるのなら人生もアリすぎるだろうよ、と思っていた。 やはりというか、昨日連絡のつかなかったゴリ松先輩は来なかった。 そして慢性的な人員不足が続いたまま、昨日よりも大勢の人々がこの店に押し寄せてきた。流石に疲れからなのかぐっすり眠れはしたものの、働きだすと休みも食事も取れないのが結構つらい。同じものを淡々と作るという作業感も相まって、なかなかグロッキーである。 見渡すと、店の中にはアベックや家族連れも多いし、一人で食べに来る人もいる。別に何があったということはないんだろうけど、そういう普遍的で普通で気が狂うほど幸せな時間をこんな自分のどうでもいいラーメンで奪ってしまうことは許されるのだろうか、とか、そんな自己否定にまで考えが至ってしまう。 それでも、店を閉めるという考えに変化はなかったどころか、むしろそうしようと動機が強化された。もうこの状態をずっと続けていくなんてのは到底不可能なんだから、尚更パッと閉めてどこか沖縄にでも高跳びしてやろうという気持ちだったのだ。 この地方特有の蒸し暑さは益々凶暴さを増していて、ずっと家にいたほうが涼しいだろうに、と思うくらいに列はどんどんと長くなっていく。外を覗けばコンクリートから無色透明な逃げ水が噴き出しているようにすら見えた。 ──あれ、俺、なんでラーメンなんか作りたいと思ったんだろう? 安定してたサラリーマンのままだって何にも困らなかったはずなのに。 暑さで少しボーっとしていると、俺の心のなかに潜む悪魔のような存在が俺のほうに囁いてくる。うるさい、俺の勝手だろう、と反論しようものなら、 「そんな風に思っているのは頑張って他力で得た絶頂を味わっているお前だけだ。本当は安定こそが大事で重要な価値観なんだ。それ以外に何を求める」 と口を塞ぎに来るのだ。ラーメンを作るというのは、恐らくその悪魔のいう『安定』とは真逆のことなのだと思う。想像するに、地震や台風、インフルエンザとかで店を開けられなくなることなんてザラにあるのかもしれないし、今までみたいに客が来ない状態がずっと続くように生きているなんてことだってありうるのだ。それは、サラリーマンを辞めなかった世界での『安定』から見ると全く物足りないし、面白くもないのだろうし、逆に言ってしまえば今の絶頂に終止符を打てる俺のことを嫉妬しているということなのかもしれない。 「醤油ラーメン以外も食べる人いないんですかね……」 「まあ、たぶんだけど、この前来た女の人がなんかでウチの写真を載せてくれて一気に繁盛したってことだろうな。ほんと、先輩が来てくれたら助かったんだけどなあ」 「どうしてるんでしょうね」 「どうせ二日酔いだろ。今の職場でもしこたま飲まされてるのは変わらんだろうね、あの性格だし断れないから」 そんな風に俺たちはゴリ松先輩のことを軽くしか心配していなかった。そして、それが彼に対しては真摯な態度だと思っていた。 「ああ、ヤバい! 長ネギを切らした。でも、買いに行くなんて暇はないな……。 よし、仕方がねえや、こっからはネギ抜きになるぞ」 「え、いいんですか。拘り抜いてるのに」 「これくらい平気だ。というか、それしかやれることがない」 厨房は戦場で、冷蔵庫は弾薬庫だった。ネギも弾薬のひとつなのだが、それが切れてしまっては戦えないといった性質のものではない。むしろ心配だったのは、麺とスープの弾切れのほうだった。完売次第閉店ってなわけだが、それが明日まで続くようなら、来るかどうかもわからない『アイツ』に食わせてやれないということを意味するわけだ。それだけは避けたかった。 「分かりました。その代わり、サイドメニューの提供をやめて、ラーメン一本に絞りましょう。そのほうがサーブも早くなりますし、ラーメンの味だけを味わってもらえるようになります」 そう主張するバイトの子の意見を採用して、前もって準備していた味玉以外のサイドメニューを全て提供取りやめにした。味に自信があり、シンプルな構造をしている麺だからこんな芸当が出来るわけだけれど、ここまでのことになると想定していなかったから、ラーメンを作り続けることへの疲れとか大変さを思い知らされた。名店の人たちはこれを毎日続けて繰り返しているんだな……と苦悩し、俺には到底こんなのは続けることができないと改めて思うのだった。 そのとき、ふと携帯が鳴った。 「店長、出なくていいんですか」 「うーん……そうだな。そっち、一人で回せたりするか」 「正直ちょっと厳しいですけど、五分くらいなら」 「なら、頼んだぞ。ちょっと出てくる」 そう言って、俺は店の裏手に出て震えるバイブレーションに応えた。 「もしもし」 「もしもし、すみません、大手市民病院です。横田賢治さんでございますでしょうか?」 「ええ、そうですが。病院が、どうかしましたか」 「こちらの取り違えでなければ、高松亮吾さんのご友人ということですよね──いえいえ、高松さんのご両親にもご連絡したのですが、全く連絡がつきませんもので、こちらから把握した情報でお電話をおかけした次第です。いまは面会謝絶状態なのですが、近く詳しく説明いたしますのでよくお聞きください──高松さんは薬物の過剰摂取が原因とみられる心肺異常を来しておりまして、現在はかなり大変な状況になっています」 ゴリ松先輩が、そんなことをしでかすとは思えず、言葉を失う。 「薬物、ですか」 「そうですね。警察の方からお話を聞く限りでは、MDMAではないかと」 思えば、そんなようなことを見たような気が──ああ、そうだ、あんなに露骨に錠剤を飲んでいたのに気が付かないはずがない。「ダイエットのため」と言われ、確かに痩せていたような気がしていたからそう思っていたけど、今こうして言われてみれば、覚せい剤であるという風にしか見えなくなってくるものだ。 そんな風に冷静に考えられる自分が、ひどく冷徹で無情な人間に思えてきた。あの先輩が薬物を使って倒れているなんて、という気持ちがないわけじゃない。だけど同時に、なんとなく憐れむような目で見てしまう自分がいる……つまり、あのブラックな環境に身を置いていたら薬という浮輪に頼りたくもなるけど、それなしではもう人生という海原を泳ぎ切ることはもう不可能になってしまうのだ、と。 「そうでしたか」 「ショックになられるお気持ちも痛いほどわかります。まずはゆっくり休んでいただき、可能であれば高松さんのご両親にも横田さんからご説明をお願いします」 全く無理難題なことを言い残して、失礼します、と通話が切れた。残された電話���号だけが表示されている携帯のディスプレイに、心を置いて行かれたような気がする。 あんなにラーメンを旨い旨いと言って食ってくれた先輩。部活で挫けそうになったときに助けてくれた先輩。前の職場で悩んでいた時に、自分も苦しいのに相談に乗ってくれて、脱サラを決意させてくれた先輩。それらが全て崩れていくのを見るのがつらいし、たぶん先輩は退院したら何らかの罪に問われて前科者となるのだろう。そうなれば、俺を支えてくれた精神的支柱のひとつを俺はなくすことになる。 ならば、尚更ラーメン屋なんてやっていて意味はあるのだろうか? 常連を失ってまで評判になるようなラーメン屋をしたいわけではない。街の喧騒とは無縁の場所に、来る人の人生を浮かべるようなラーメン屋のほうが俺には合っていて、いつかそこに先輩やバイトの子や『アイツ』を招くことが出来たなら……そんな軽い妄想をして現実逃避をするしかなかったのだ。 時間は、もうほとんど残されていない。蝉は墜落するまでが生なのだ。今から堕ちてどうするんだ、俺、とひとつ気持ちを入れなおして、また戦場に戻る。 暗い時間までずっと店の前には待っている人が絶えなくて、そのおかげで色んなことを考えなくて済んだ。だけど住処の小さなアパートに帰ると、何もない空間で空虚に今からのことを考えてしまうのだ。未来なんて嘯くけれど、そんなのは虚言に過ぎないのだ、と。 結局、誰もがただ一人で代わりのない人生という舞台に立って無頼、自分の後始末は自分でつけなければいけない。 俺は明日、あの店を絶対に終わらせる。性懲りもなく目指していた夢をここに臨終させる。
◆閉店まで 一日(最終日)
自分で作っていて、ラーメンを食べたいと思うことは、今まで一度もなかった。思えばそこからおかしいわけで、自分で作っていたラーメンに対して「食べたい」と思え���いなんて、作っている労力とか材料とか結果として出来た麺そのものに対して可哀想とかそういう次元ではない虚しさすら発生させることなのだ。それは罪である。人に認められるためにラーメンを作るという発想を根本的に転回するのが、本当はアルチザンとしてあるべき姿なのだろうと信じるようになった。 その日は朝から雨だったが、徐々に雲間から陽の光が降り注ぐような、なんともいえない変な天候だった。 それで、またいつも見ている夢とダブるな、と忌々しげな気持ちにもなる。あの中華そばの暖簾を潜ると、雨が降っていても必ず食べた後には晴れているのだ。そういえば、あのおっちゃんはどうしているだろうなあ、俺の頭をがしがしと撫でてくれたおっちゃんはもう流石に死んでるか。俺のラーメン屋人生の最期を晴れで終わらせようとしてくれてるのは間違いなくあのおっちゃんの仕業だと思う。 相変わらず、今日も人が死ぬほどやってくる。来々、万客往来。謝謝。 は、はは、最後にこんなに俺のラーメンに時間を浪費しようってんだから、みんな愚かでみんな面白い人間なんだろう。本当にどうもありがとう。 今日の為に急きょ麺もスープも卵も全部三倍仕込んで、どうせだからと日が明けるまで営業しちまおうと思った。バイトの子には「別に途中で上がっちゃってもいいからね?」と言ったが、「店長がそこまでやるんだったらやらせてください。お祭りみたいで楽しいじゃないですか? ちゃんと手伝ってくれる友達も呼びますから」とむしろ臨戦態勢を約束されてしまった。そしてその通り、近くの大学に通う下宿生の子たちが手伝いに来てくれていることで、一昨日・昨日よりも負担は大きく減っている。 どれもこれも、『アイツ』が来ることを信じてやっているのだ。俺にラーメンだけをさせてくれた恩人がいなくなって、俺はどうしても今持てる最大級の力を注いだ味の結晶を食べさせなければいけないと思ってしまう、囚われてしまうようになった。でもいつまでもそれを待っているわけには行かない、それは歳を取ることによるタイムリミットも関係しているし、もしくはこの不安定な職種においてずっとここにいるという保証があるわけでもないということがあるのかもしれないけれど。だから、今日をその期限として、『アイツ』にそれを味合わせるための挑戦を続けていたのだ。 実は、スープも麺もこの忙しい中でアンケートを取るなどして、細かく調整を加えている。どんなに完成されたラーメンでも、更なるアップデートが必要になってくるはずなのだ。それを体現するための手段なら、俺はどんなに煩雑なことでも鬱陶しがらないことをずっと前から誓っていた。 十年という道のりはやはり地下に潜っていて、思ったよりも長くて怠いものであったが、それでも最後に地上へ上がってきて命の尽きるまで暮らしを燃やすということが、こんなに美しく面白いものだとは。 「替え玉ください!」 「はい! 替え玉一丁ォー!」 自分が密かに憧れていた厨房の中の掛け声だって、複数人でやれば普通に楽しい。 色んな人と働く楽しみとか、お客さんとのコミュニケーションとか、お金の勘定とか、結局やっているのは脱サラする前と変わらない人間的に当たり前のことばかりだけど、きっとそれが一番良かったんだろう。 これからはそれを形を変えてやるだけだ。俺はそう自分に言い聞かせた。 ……いや、でも今日はいくら待っていてもゴリ松先輩は来ないんだよな。いつもやっていたラーメン屋が無くなってたら、そりゃあ驚くことになるだろうなあ、青木さんだって、写真を送ってくれた女性だって。もちろんそれがどうということない人だっているのかもしれない。だけど、店には店で紡いでいた歴史とか物語があるのもまた確かなのだ。 そしてそう、俺にも歴史や物語があるのだ。 昔、誰かに聞かれたことがある。確か、元の会社の上司だったろうか。 「横井君はさ、誰に向けてラーメンを作りたいと思ってるの」 「俺は、親父に認めてもらえるような一杯が作れればいいなと思いながら、そういう風なことを前提にしながら、ラーメンを作ることになると思います」 「ふーん。で、君はラーメンなんて儲かりもしないものをどうしても作りたいんだ?」 そうだ、それで俺は喧嘩っ早いし耐え性もないから、すぐに襟首掴んで一発だけ強く頬を、年老いてもうボロボロの頬を殴ったんだった。その眼はニヤニヤと俺のほうを向いていて、今にも「殴ってもいいだろうけど、じきに真実だと分かるだろうに、愚かだねえ」と言いたげだった。 いや、ラーメン屋が儲からないなんてのは、俺が考えるよりもずっと真実に近いことなのだろう。だが、それを分かっていながらラーメンを作ろうという、そんな個人的な動機をビジネスの物差しで当てはめて全否定してくる人間にはとても腹が立ったのだ。 例えば、言葉だけでは出来ないコミュニケーションが食事を通じて出来たという自分の経験を元に何かするのは、そんなに責められるべきことなのだろうか? 何も俺の父に限ったことじゃない。ゴリ松先輩だって、大家さんだって、青木さんだって、あの女性だって、……もっと広げて言うのなら、どこかの国で戦争してる兵士でも、あるいは偉そうなことを言っている政治家も、近くにいるホームレスも、誰も一人で生きてきたわけではない。誰かと食事をした経験くらいあるさ。それだけが俺のモチベーションだったってだけだ。 気づけば、外は闇で、蝉はむしろピりつくような高音で鳴いている。もう終わりが近いことくらい、俺にも分かっていた。知らせなくてはいけない大家さん以外の誰もが俺の決意なんて知らないだろうけど、『アイツ』が来るか夜が明けるまでこの店は動き続けるぞ。 語らい合えるくらい店が静かになってから、そう、何事もなかったかのように、たぶんフラっとやってくるんだろう? 俺の今まであった辛いこと、これから起こる辛いこと、でもその中にある楽しくて面白い本質について、俺のそれに対しての解答としての一杯を挟んで語り合いたいんだ。 なあ、純菜。 俺に言いたいことがあれば、何でも言ってくれよ。だから早く来てくれよ。彼岸からこっちに来て、さ。 ついに一度も文句言ってくれなかったな。ラーメンなんて、とも言わなかったな。何だろうな、俺はとってもそのことに対して申し訳なくて苦しくて、結局何も食べさせてやれなかったんだっていう罪悪感に襲われていて、ああ、もうなんかダメだ。 涙腺が緩むのもやっぱり歳のせいかな。 脱サラするときだけ、ちょっと怒られたけどさ。本当は俺のやりたいことをめちゃくちゃ応援してくれてたんだよな。別居してからも色々面倒見てくれたり、ラーメンの味見してくれたりしたのって、そういうことだよな。そうだと言ってくれたら、それだけでもう嬉しくて飛び上がるような気がする。 蝉の堕ちるまでには食べきってくれよ、麺が伸びるから。線香も花もラブレターも指輪も何もかも渡せなくて、本当に申し訳ないけど。 それと、ありがとう。
俺の夜はどうやら明けたらしい。 蝉は鳴かなくなり、ぽとりと街路樹のそばに堕ちているのを見つけた。まるで俺だね。疲れ果てた世界の姿を見せてくれてありがとう。狂乱が嘘みたいに、静かに朝は来た。そして、眠っているバイトの子たちに今後の処遇と金とラーメンのレシピを書いた軽くない置手紙を残し、最低限の荷物だけを持って俺は旅に出る。重いずんどう? 好きにすればいい。この場所に縛られるのが馬鹿らしくなっただけだ。俺はまた新しい蝉に憑依するだけの魂なのだから、夢に終止符を打ったらまた新しい麺に出会うのみ。 それでも、この町はすこし幸せの残り香がする。お世話になった人がいっぱいいる。何より、純菜と過ごした年月がここには残っている。 だからこそ、俺はこの町にあの貝ベースの醤油ラーメンを置いて行ったのだ──幸せと永遠の後悔の象徴として。 相変わらずジリジリと焼くような陽射しなのに少し秋の匂いを感じて、背伸びをした。そこに、きっと、いや間違いなく純菜がいるような気がする。 「美味しかったよ」 本当にそこにいるみたいな、そんなホログラムみたいな幻影を見せられているのかもしれない。それが俺に涙を流させていることに、俺はまだ気づいていなかった。
ラーメン屋を閉めてからというもの、今どき流行らない古めかしい中華そばの店に純菜と二人で行った幸せな時代を思い出す夢ばかり見る。 何の変哲もない一杯六百円とかの、メンマ・チャーシュー・ネギが乗ったいわゆる普通の醤油ラーメン。 古臭い空気感と、時たま子供でも分かるようにして漂う煙草の薄い臭いと、べたついた床。上を見るとメニューがずらっと書いてあって、「どれにしようかな」と悩みながらも結局あのシンプルな中華ラーメンに行き着くのだ。 しかしそのときの俺はそれで満足だったし、純菜と言葉を交わさなくても、味に集中している時間だけは何か空気が変わったように打ち解けられたような気がした。 「美味しいね」 そう、純菜と真に心を交わすのは、デートでもセックスでもなく、この一杯を挟んでいた時間なのだ。 そして俺はその店を切り盛りする角刈りのおっちゃんに「お、今度は彼女を連れてきよったか! もうませてやがるな、最近のガキは!」なんて言われてがしがしとひとしきり頭を撫でられたあと、俺が「ごちそうさまでした」と言ったところで、その夢は終わる。 今ならそんな夢を見たって、魘されない。
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翌日は万葉まほろば線(桜井線)を乗りつぶし。
王寺から高田へ向かう和歌山線の227系
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正義の味方
いつも通り出勤すると、シャッターの降りた店の前でおっさんが寒そうに首を縮めて立ち尽くしていた。何となくヤバい気がしたので、目が合わないようにしながら足早に通り過ぎようとしたが、案の定、おっさんは話しかけてきた。
「おい、お前ここの奴だろ。もう入れてくれよ」
「大変申し上げにくいのですが、開店前ですので、開店までお待ちください」
「こんな寒い中待ってるの辛いんだよ。俺、年だからさ」
そっちが勝手に来たんだろ。頭イカレてんのか。
「お客様、開店は九時からなので。まだ一時間あります」
「俺一人くらいどうってことないだろ」
「あなただけを特別扱いすることはできません。それに中で開店作業がありますので」
「先に買ったらとっとと帰るから邪魔はしねぇよ」
驚いた。入った上に買い物する気でいるらしい。衝撃的だ。開いた口が塞がらない。閉めてるけど。スーパーくらいどこでもあるだろ。気でも狂ってんのか。普段どんな僻地にいるんだ。
「開店作業がまだなので売ることはできません」
「俺このあと仕事あるから急いでんだよ。時間ないんだよ」
「お忙しいところわざわざありがとうございます。お仕事が終わってからのご来店をお待ちしてます」
みじんも感謝していないのはバレている。一瞬むっとした表情を浮かべたものの、おっさんはすぐに頼み込む姿勢へと戻った。
「仕事終わるの遅いから夜は無理なんだよ。なぁ頼むよ」
「別の日��お願いします」
「今日しかない」
はい出た。こういう系の奴は「今日しかない」とすぐ言う。こういう系の奴同士で作戦会議でもしてるんじゃないかレベルで同じことを言う。お前ら一体普段どうやって予定たててんだ。今までどうしてたんだ。さては、常に行き当たりばったりなのか。そうか。
「お休みの日にお願いします」
「休みは予定が入ってるから」
じゃあ予定やめれば。いつまで先の予定まで立ててるんだか。
「では日程調節の上ご来店お願いします」
「ほんとお前らは殿様商売だな。客を見下しやがって。柔軟な対応っていうのができないのか」
ほら。本性を表した。こちとら目があった瞬間からそういう人だと思ってましたよ。
「そんな風に��みじんも思ってませんが、あなたにそう感じさせてしまったことには申し訳ないと思います」
何が悲しくてタイムカードを切る前から仕事をしないといけないのだろう。気分は最悪だ。朝の星占いは三位だったのに。まぁ当たったことないけど。昔フられた日の星占いも一位だった。
「黙れ。調子に乗るな」
それはこっちのセリフだ。勝手に並んでおいて何なのだ。頭がおかしいんじゃないか。
おっさんが拳を振り上げる。俺が若い女だったら「責任者呼べ! いや、社長だ! 社長を出せ!」などと喚き散らされて終わりだったろう。あーあ。客に手をあげられるなんて滅多にないことだが、たまにある。まぁ、これで通報すれば勝てるので黙って殴られておけば良い。でも決して喜ばしいことではないので本当にうんざりする。面倒くさい。仕事も大して好きじゃないが、働いてる方がマシだ。まぁでももし選べるんだったら働かずに気楽に生きられる人生の方が良かったな。選べないけど。宝くじで二億当たんないかな。
その瞬間、僕らの間に颯爽と立ちはだかる男が現れた。
「こんな人のためにあなたが苦しめられる必要なんてありません」
おっさんの腕を片手で止めながら奴は言った。駅で見かけたら十分後には忘れてそうなくらい平凡な顔をしていた。おそらく出勤途中らしくスーツを着ている。
そして奴は空いた方の腕を大きく振り上げた。堅く握りしめられた拳。痛そうだ。勢いをつけて振り下ろす。途端に吐き気がした。文字通りの意味で。今朝のコーヒーが鼻の奥でつんとしている。喉の奥でコーヒーとゲロの苦みが混ざり合いながらせり上がってくるのを飲み込む。ひりついたような不快感が残る。鳩尾が鈍く痛む。言葉にならない呻き声が口から漏れた。涎も一緒にこんにちは。
えっ、何で何で。おかしくない?
何で俺が殴られてるの。わけわからなさすぎ。奴に問いかけようと言葉を発そうとしたが、呻くだけで言葉にならない。奴は本気だ。本気で鳩尾を殴られた。
腹を抑えて地面にうずくまっていると、さっきのおっさんはうひぃと変な声をあげて一目散に逃げていった。そりゃあ逃げるよな。こんな頭のおかしい奴が割り込んできたら。
スマホを取り出そうと腹から手を離した瞬間に、上から容赦なく足が降ってきた。ずん、と重みのある感触と音がした、ような、気がした。カラカラと音を立ててスマホが地面を転がっていく。乗せられた革靴から手を引き抜こうとすると、さっと足を退けられ、また倒れ込んでしまった。爪が剥がれた気がして見てみたが、剥がれていなかった。少しヒビが入っただけだ。手の甲全体が赤くなっている。骨が折れているかは分からない。案外人間は頑丈だ。小学生の頃、滑り台のてっぺんから落ちた時も、同じことを思った気がする。じんじんと痺れるように痛むが、とりあえず動かせるので、欠勤しなくて済みそうだ。この人手不足の状態で休んだら他のメンバーに負担を強いてしまう。
「あなた何なんですか」
腹から声を捻り出して言った。まだかすれている。
「正義の味方だ」
奴は俺の前髪を掴んで引っ張る。痛い痛い。こんなに短いのにそんなに引っ張ったら頭皮が千切れちゃうって。
「正義の味方なのにそんなことするんですか」
振り払おうと力の入らない方の手も使って、奴の腕をめちゃくちゃに叩く。しかし、びくりともしない。
「お前が悪い」
わけがわからない。理不尽だ。何の言い掛かりなんだろう。ぶちぶちと髪の毛が何本か抜けた。あー。ハゲ予備軍と言われてるのに貴重な髪の毛数本が無惨な姿にされてしまった。
ぱっ、と手を離されて尻餅をつく。手をついたところで、踏まれてない方の手の上にも足が振り下ろされる。この数分のうちに何回「折れたかも」と思っただろう。本当に痛い時は声なんて出ない。悲鳴をあげて助けを求めたいのに痛くて声が出せない。さらに鳩尾に蹴りが入る。ゲロが口内にまで出てきた。喉から口にまでひりつく不快感がある。それをペッと奴に向かって吐きかけた。
奴はさっと身を引いたが、カッターシャツの裾をほんの少し俺のゲロが汚した。明らかに不愉快そうに眉を潜める。そこで間髪入れずに俺は彼の足に突進した。手に力が入らなくても体当たりくらいはできる。俺が足の上に乗っかった形で奴は倒れ込んだ。俺を離そうと手で俺の頭を掴もうとしたので、ゲロ塗れの口で奴の親指に噛みついてやった。前歯だと力が入る気がしなかったので、あえて横を向いて思いっ切り噛み付いた。ゴリゴリッと嫌な音がする。もちろん、ちぎる気で噛んだ。奴が驚いてギャッと悲鳴を上げる。俺には出なかった類の声だ。俺の歯はそこまで強くないだろうが、それくらいの気合いでやればある程度効くだろう。奴は空いた方の手でガンガンと俺の頭を殴る。口の中に血の味が滲む。俺のじゃない。肉に歯が食い込む。気持ち悪くて離しそうになったが、俺はさらに顎に力を込めた。頬を平手打ちされても、頭を拳でごんごん叩かれても俺は離さない。目がチカチカする。実際に揺すられているよりも大きく視界が揺れている気がする。目の前が全体的に白っぽく、幾多もの点が瞬きながら流れていく。これが俗に言う星が舞うというやつだろうか。生温かい鉄臭さが喉の奥にしみていく。浸食されるような嫌悪感。
「犬みてえなマネしやがって。気持ち悪い」
掠れた声で罵られたので言い返そうとしたが、顎の力が緩みそうになったのでそのまま歯を食いしばった。心の中で「俺犬派なんで、そういう悪口はちょっとやめていただきたいですね」と言い返した。
もがく奴の蹴りが何発か俺の腹にまた入る。めり込む深さを感じて、男の体も意外と柔らかいんだなぁと思った。鈍痛。またゲロがあいつの指にかかる。噛まれた手を夢中で振り回して店のシャッターに俺は打ち付けられた。ガシャガシャと騒々しくシャッターが音を立てる。俺の頭はなかなか割れない卵みたいだな。ぼやーっと視界の靄が濃くなり、全体的にチカチカしている。青とか赤とかにも点滅している。遠くで別の人たちの声が聞こえてきた気がした。
体から力が抜けていくような、いや、意識だけが外れるみたいな気がして、ハッと気付いた時には病院のベッドに寝かされていた。
初めて仕事を休んでしまった。皆勤だったのに。皆勤くらいしか取り柄がないのに。やってしまった。思わず頭を抱える。大慌てで店に連絡して遅刻を謝罪し、向かおうとしたが、既に事情を知っているらしい店長に「災難だったな。今日は休め」と止められてしまった。幸い、大した怪我はしていなかったらしく��一日で退院はできた。
聞いた話によると、出勤時に俺たちを見かけた後輩が通報したらしい。年下なのにしっかり者だ。
「気を付けて下さいね」
後になってから話した際に警察官からなぜかそう注意された。
「罰せられるべきは彼でしょう」
「いや、彼は『正義の味方』なので、我々は罰することができません」
俺の頭の上には疑問符が飛び交っていただろう。
「『正義の味方』は『正義の味方』ですよ。良いから気を付けてください」
全く意味が分からなかったが、とりあえず空気を読んで俺は曖昧に笑って頷いた。もしかして俺が知らないだけで皆知っているのだろうか。そう思って、Google検索をしたり、SNS内を調べたり、数日間は普段見ないくだらないワイドショーも嫌々見てみたりもしたが、まるでわからなかった。奴は一体何だったんだろう。
「正義の味方って知ってる?」
仕事中に品出しをしながら後輩に聞いてみた。
「急に何ですか。『正義感の味方』は『正義の味方』ですよ」
後輩は警察官と同じことを言った。そういえばあの警察官も俺より若そうだった。世代差だろうか。
「それが分からないから訊いてんだよ。ググッても出てこないし」
「そんなの載ってるわけないじゃないですか。『正義の味方』は『正義の味方』ですから。それ以外の何者でもない。どうせまたググって調べようとしたんでしょ。無駄ですよ。そういう物じゃないんで」
後輩の表情を見る限り嘘をついているわけではなさそうだ。しかしますます訳が分からない。俺は同じ質問を先輩にも店長にもしてみたが、ほぼ同じ答えだった。店長は「考えたって分からないぞ」と付け加えた。狐につままれたようだ。俺を置いて世界が変わってしまったような気がする。いや、世界がおかしく見えるというのなら、それはもう俺がおかしいのだろう。もし世界中の誰もが犬を見て「猫」だと言っていたら、客観的事実として俺の認識が狂っているのは間違いない。
正義の味方の正体がわからないまま数日が過ぎたある日、突然それはやってきた。休日にGEOで新作ゲームの中古が出てないか見ていると、ゴーンゴーン、と突然鐘が鳴り響いた。しかしそれは俺の頭の中でだけだ。俺以外誰も鐘の音に驚いていないし、鐘なんてどこにもないからだ。
気が付いたら俺は店を飛び出して猛ダッシュしていた。そして横断歩道もない車道を横断し、斜向かいのケータイショップへ突っ込んでいった。いらっしゃいませの声を無視して奥のカウンターへ突っ込んでいく。そこでは厚化粧のババアが金切り声で「分かるように言わなかったあなたが悪いんでしょ! 私は素人なんだからね!」と叫んでいる。そして無駄にキラキラしたケースに入ったヒビだらけのiPhoneを大きくふりかぶった。
「こんな人のためにあなたが苦しめられる必要はありません」
iPhoneを持ったその手を掴む。どこかで聞いたような台詞が俺の口から飛び出した。目の前の女の子がほっとした顔で俺を見上げている。あちゃー。違うんですよ。
俺の拳がカウンターの向こうにいる女の子の頬をビンタする。あーあ。それなりにかわいい女の子だったのに残念だ。こんな形以外で出会ってたら一回くらいヤれてたかもしれない。スニーカーのままカウンターに上り、何が起こっているのか理解できていないその顔面に、引っこ抜いてたキーボードを叩き込む。キートップがいくつか落ちる。多分元々ぐらぐらしてたんだと思う。AとKがころころと床に飛び降りる。あとBがあったらAKBなのに惜しい。
ババアは面食らって口をパクパクさせながら震えている。
「あなた何なんですか」
鼻血をぽたぽたと白いテーブルに垂らしながら女の子が俺を睨みつけて言う。おお怖い怖い。接客やってる女は穏和そうにみえても大体怖い。これは単なる俺の経験談だ。
「正義の味方だ」
口が勝手に動いていた。何これ。
あー、いや、これ知ってるわ。これ。なんかマンガで見たわ。いや映画だったかな。両方かもしれない。ゾンビの血を摂取するとゾンビになるってやつでしょ。その理屈じゃん。正義の味方の血を摂取すると正義の味方になっちゃうんでしょ。俺、あいつの血、めちゃくちゃ飲んだわ。あれじゃん。思いっきりあれじゃん。わかるわかる。これ知ってるやつだわ。進研ゼミでやったところじゃん。進研ゼミだったっけ。Z会かもしれない。ってか最近Z会って聞かないよな。もしかして潰れた? くもんにやられた?
ガン、と頭に衝撃を感じた。女の子にiPadで頭を殴られた。形的にたぶんiPad Proだ。ホームボタンないし。ひどい。iPadは人を殴るものじゃありません。超高級鈍器だ。ボロキーボードとは訳が違う。
しかしそこへさらに鐘が鳴る。ゴーンゴーン。これは俺にしか聞こえていない。なぜなら誰もその音に反応していないからだ。
俺は弾かれたようにケータイショップを飛び出す。そして歩道を全力で走る。何人かはねたかもしれない。徒歩で人をはねるなんて前代未聞だ。いや、徒歩じゃないな。俺は走っている。しかも普段こんな速度で走ったことがない。オリンピックに出られるんじゃないだろうか。尋常じゃない速度で風景が流れていく。階段を上り、閉まる改札を無理やり突破して走る。後ろで駅員が何か叫んでいる。こんなことならPiTaPaを作っておけば良かった。
駅構内で泣き叫ぶ幼児がいる。
「黙りなさいって言ってるでしょうが! なんでそんなにママを困らせるの!」
半泣きの若い女が手を振り上げている。俺は寸前でその手を止める。細い腕だった。
「こんな人のためにあなたが苦しめられる必要はありません」
俺は女を解放し、両手で幼児を突き飛ばす。軽い体は簡単に吹き飛んで柱へぶつかりかけたが、すんでのところで女が受け止めた。
「何するの」
女がヒステリックに叫ぶ。ほんとそうですよね。でも俺正義の味方だから仕方ないんです。
「あなた何なんですか」
母は強し、というやつだな。さっきまで殴ろうとしていた幼児をぎゅっと抱き締めている。俺に対して敵意をむき出しにしている。
「正義の味方だ」
またもや口が勝手に動いた。おいおい。俺は女から幼児を引き離そうと女の腕を蹴った。
「やめなさい」
振り返ると複数人の警察官がいた。俺は無視したが押さえ込まれてしまい、ようやく俺は幼児を女から奪おうとするのをやめた。逮捕はできないが、手を出せないわけではないらしい。
「また『正義の味方』か」
警察官がうんざりした様子で言っていた。好きでなったわけではない。これは感染症のようなものだ。パニック映画なら世界中に「正義の味方」が広がり、感染者と非感染者の攻防戦が始まるのが妥当な展開だろう。そもそも正義の味方は今どれくらいいるのだろう。俺が知らなかっただけで、誰もが当然知っている程度の知名度があるのだろうか。いや、殴られた人は皆驚いていた。それともあれは自分が「正義の味方」に殴られるなんて、という驚きだろうか。「正義の味方」はいつからいるのだろう。どうやって始まったのだろう。俺が産まれた時にはもういたのだろうか。
先日殴られた時とは違って、iPad Proで殴られた頭は全然痛まなかった。正義の味方を全うしている間は俺は無敵でいられるらしい。走る速度も尋常じゃない。元々あまり腕っ節は強くないが、人を殴る強さだって以前より強い気がする。「正義の味方」を殴り返した時よりも遥かに手応えがあったのに、まるで自分の体は痛まなかった。体罰は、ぶった方も痛いのだからお互い様、という謎理論が昔は流行していたが、自発的に殴っておいてその言い分はどうかしているとしか思えない。自傷行為の道具にされただけじゃないか。
解放された後、俺はのろのろと線路沿いの道を歩いていく。相変わらず世界は不機嫌だ。道の端でボソボソと喧嘩しているカップルがいる。ドラッグストアで店員にいちゃもんをつけるジジイがいる。信号がタイミング悪く変わって舌打ちをするサラリーマンがいる。補助輪の自転車で母親を追いかける子供が、晩ご飯に対する不平不満を連ねている。外に出れば、こうして、息をするように不機嫌な人々が視界に飛び込んでくる。いつから世界はこんなにも不機嫌になってしまったのだろうか。
あの流行病があった数年間のせいだ。誰もがそう言う。それが一番都合が良いから。あの前と、あの後で、決定的に何かが変わってしまった。皆何となくそう思っているから諦めている。仕方なかったのだ。太刀打ちできない未曾有の災厄のせいなのだから仕方ない。あの病の世界的流行で何百万人もの死者が出て、流行抑制のために多くの犠牲を払った。あれは身体だけでなく、世の人々の精神すらも根深く蝕んでしまった、とよく言われているし、俺もそう思っている。二千年代にもなってそんなことに人類が右往左往させられるなんてフィクションじみていた。俺はあの頃、社会人になって新人とも言われなくなり、ようやく新しい環境も身になじんできたところだった。そんな所に強制的に環境変化をねじ込まれ、人間関係も大きく変わらざるを得なかった。世界は元には戻らないし戻れない。完全に元通りになんてなりっこないのだ。世界は重度の脳梗塞を起こしてリハビリ中の老人だ。後遺症は一生ついて回る。途中から気付いていた。とぼけていただけだ。誰もが、後に残る世界は素晴らしいものだという前提の夢物語をしていた。絶望しないように。皆我慢してたから。今だってまだ我慢してるから。皆えらいから。頑張ったから。我慢したのに、頑張ったのに、バラ色の未来がやって来ないだなんてあんまりだ。そんなことがある訳がない。まだ今は途中なのだ。然るべき成果が得られるのはまだ先なんだ。もっと我慢したら、もっと頑張ったら、幸福な世界が実現するのだ。でも、皆、ずっとずっとは頑張れないし、我慢できないから、ちょっとくらい当たり散らしてしまうのは、仕方がない。そして、こんなにも皆不機嫌なのに鐘の音はしない。正義の味方の発動条件は何なのだろう。
今まで働いてきて、何度も訳の分からない客に絡まれたことはある。流行病の時は特にひどかった。毎日のように赤の他人から罵られていた。でも、正義の味方が現れたことなんて一度もない。自称「正義」の罵倒をしてくる人はいくらでもいたが。そんな時こそ正義の味方は来るべきだった。でもいなかった。もしかしたら、俺は未来の正義の味方だから爪弾きにされていたのだろうか。なるのが必然だとしてカウントされていたのだろうか。いや、俺だけじゃない。皆、働いていて嫌な思いはしている。先輩が、後輩が理不尽な怒りをぶつけられているのを見るのも嫌だった。でも、正義の味方なんかが助けてくれたことはなかった。無闇に叫ぶ客を、俺たちは「雑魚がキャンキャン吠えやがって。こっちがビビって従うとでも思ってんのか」という冷めた目で見ていた。今もそうだ。どんな穏和な従業員でもあの目をすることがある。あれは諦念だ。無になっている。無駄に傷付かないよう、受け身をとっているのだ。怒ったりしたい。そういう点では、こうして世界が不機嫌になり始めた時に、他の人よりも耐性があるのかもしれない。正義の味方は爆発的な怒りに呼び寄せられるのだろうか。だとしたら、少々の不機嫌や苛つきには���応しないのかもしれない。我慢できていては駄目なのか。正義の味方とは一体何なんだろう。俺の知る限りではただの乱暴者でしかない。世間の人々が正義の味方に対してどのような感情を抱いているかは分からない。きっと訊いてもまた「『正義の味方』は『正義の味方』」というよく分からない回答をされるのだろう。まるでそこだけが触れてはいけない世界のバグみたいに皆型にはまった答えしか言わない。それとも俺が知らないだけで言及すると罰せられるような法律があるのだろうか。
この考えを話せる相手がいたらな。しかし、こんな話ができるほど、自分をさらけ出せる身近な相手はいない。恋人か家族か親友でもいないと無理だろう。生憎誰もいない。親友は数年前の流行病で死んだし、恋人には捨てられた。家族とは疎遠だ。爺ちゃんが死んだ時に実家に戻らなかったからだ。流行病があったから、行くのをやめた。移動を控えなければいけない時なのだといくら説明しても理解してくれなかった。家族には許せなかったらしい。冷血だの人でなしだのと罵られ、それ以降、連絡はとっていない。仕方なかった。俺にはどうにもできなか��た。今だって何も出来ない。いや、何もしていないだけだ。出来る気がしないから。また調子に乗ったところを世界からボコボコに殴られて台無しにされるのだ。いくら得ても奪われるのなら最初からなければ何の問題もない。
と、暗い気持ちになっても仕方ない。全然嬉しくないが、俺は正義の味方だ。嬉しくないついでにヒー���ー衣装を揃えることにした。立ち寄ったドン・キホーテのパーティーグッズコーナーで三十分吟味した結果、馬と鹿のマスクを買った。曲がりなりにも接客業をしているのであまり顔を晒したくはない。顔バレNGだ。俺的に。持ち帰った鹿のマスクから角の部分を切り取り、馬のマスクに穴をあけて嵌め込んだ。馬と鹿のキメラみたいな生き物のマスクができた。お手製ヒーローマスクの完成だ。米津玄師かよ。高校生の頃めちゃくちゃ流行ってたなぁ。パクったんじゃないよ。馬と鹿を米津玄師が一人占めするのは良くない。俺にだって使わせろよ。
あれ以来、幾度となく鐘は鳴った。鐘が鳴る度、俺はヒーローマスクを被り無双モードで町に繰り出し、別段悪いこともしていない人をボコボコに殴りつけて帰ってきた。他人の家に上がり込むこともあった。戸締まりが甘ければ、開けられる出入り口がなぜか瞬時に分かり、そこから乱入したが、どこも空いていなければ窓やドアを破壊して入った。しかし損害賠償を求められることはなかった。正義の味方に法律は無効らしい。警察官や「『正義の味方』だから」と何度か渋い顔をされたことがある。そういうものらしい。ありがたいと言えばありがたい。正義の味方の活動は俺の意思とは関係のないところなのだから。心神喪失扱いにでもなってるんだろうか。
拳に血が滲み互いの血が混ざってしまうことも、俺のように噛みつかれたこともあったので、「正義の味方」をあちこちにうつしてしまっている可能性もある。しかしうつせば治るものでもないらしく、相変わらず鐘は鳴り、俺は走り出していた。しかし、正義の味方は意外とご都合主義らしく、仕事中に呼び出されることはなかった。その上、正義の味方をしても疲れない。痛みもない。なので日常生活に今のどころ支障はない。俺を殴った奴のように他にも正義の味方がいるはずだが、鉢合わせたこともない。これだけ頻繁に制裁を加えているのに知人を制裁したこともない。とはいえ、正義の味方はどうやら分担されているらしい。思いの外、待遇が良くて驚いている。正義の味方はどこぞのホワイト企業が取りまとめているのだろうか。もっと振り回されると思っていた。フィクションの世界のヒーローというのはそういうものだ。
正義の味方らしき人が走っているのは何度か見たので、俺以外にも正義の味方は何人もいるのは間違いない。一匹見たら百匹いると思えって言うし。見かけた正義の味方の中には俺が殴って流血戦をした人もいたので、やはり正義の味方が血でうつるのは間違いないらしい。ゾンビじゃん。広がり方が悪役だ。彼ら、彼女らは人らしからぬ走りっぷりをしているので分かりやすい。正義の味方になる前は見たことがなかった。彼らはいなかったのだろうか。それともいるのを俺が認識していなかったのだろうか。
把握している限り正義の味方によって死んだ人はいない。加減をしているつもりはないが、加減はできているらしい。思い返してみれば、健康的な若者相手なら道具の使用も辞さないが、老人や子供は丸腰で殴っている。正義の味方は正義の味方であり、公平だ。
そして、正義の味方の制裁を受ける側も、呼んでしまった側も正義の味方を知らない。必ず何者かを問われるので「正義の味方」と名乗る。名乗ることで正義の味方は正義を味方になるのだろうか。それとも一度でも正義の味方と関わることで「『正義の味方』は『正義の味方』だよ」とプログラムされるのだろうか。
仕事帰りに、弁当屋の丸椅子で唐揚げが揚がるのを待っていると、スマホが震えた。取り出すと、なんとなく追っているコミックスの更新通知が来ていたので、ダウンロードして開く。もうすぐアニメ化されるらしい。確かにそこそこ面白いもんなぁ。
「すみません」
とびきり懐かしい声がした。小柄な女性が弁当屋のカウンターの前に立っていた。Web注文の画面を見せて、FeliCaにタッチをした。
恋人だった。
恋人だった人だった。よくできた話だ。こんな風に町でばったり会うなんて。ベタなラブソングじゃあるまいし。何て声を掛けようか。名前で呼んだら気持ち悪いだろうか。苗字か? 旧姓か新姓か? 旧姓で呼んで訂正されたら心臓に悪いし、新姓だと馴染みがなさすぎて口にしただけで心臓に悪い。
もたもたしているうちに彼女の方から声をかけてきた。俺の苗字を呼ぶ。ただ呼ばれただけだし、そもそも付き合う前はそう呼ばれていたのに、なぜだか傷付いてしまう。女々しい。俺はこうして何かにつけてうじうじしている奴だった。元々そうだった。彼女によってますます女々しくなる。彼女といた頃の俺は今よりもっともっと弱かった。支えてくれる人がいると人は弱くなってしまう。奪われる側の人間だった。その頃の俺が呼び起こされてしまう。
「久しぶりじゃん」
彼女は笑顔を向ける。
「ほんと久しぶりだよね」
妙にぎこちない口調になってしまう。
「こんな所でどうしたの」
「今実家にいるから。おつかい」
彼女はプラスチックの容器に詰められたらコロッケを見せながら言った。そういえば、彼女の実家と俺の家は同じ生活圏内だった。知らないうちに会っているかもしれない。お互い面識はないから会っていたとしても分からないけれど。いずれ挨拶しないとなんて話してたこともあったっけ。
何で実家にいるんだろう。妊娠して里帰りか? 妊婦には見えない。離婚したのだろうか。
「何かあったの。実家の家族とかに」
あえて可能性の低そうなところに言及する。
「別に実家にくらい行くでしょ」
大げさだなぁと笑う。また彼女は俺にがっかりしているのだろうか。いや、もう赤の他人となってしまった今、俺にそもそも期待なんてしないだろう。違う。元々恋人だって、赤の他人だ。何考えてるんだ。イカレたのか。よく考えれば分かることだ。やはり、ただ単に久しぶりに実家に戻ってきているだけなんだろう。そういえば、世の中は三連休らしい。
唐揚げ弁当お待ちのお客様ー、とマスクを付けた店員に呼ばれ、レシートメールを見せて、カウンターに置かれた弁当を袋ごと手にする。昔は手渡しだったなぁ、と思った。彼女と付き合っていた頃はまだそうだった。あの頃と同じ店員はもういない。流行病があってから、極力接触せずに販売を行う取り組みがどんどん普及した。
「元気にしてる?」
自分で口にしてみて、元気ってなんだろう、と思った。健康ではあるけど元気ではない気がする。もう随分長いこと元気じゃないかもしれない。元気とは何だろう。何これ。哲学的命題か。
「元気だよ。そっちこそ元気?」
「それなりに」
それなりに。それが一番しっくりくる気がした。
「あのさ『正義の味方』って知ってる?」
我ながらいきなりだな。
「もう。何その質問。哲学? それともそういうキャラでもいるとか?」
彼女が首を傾げる。少し泣きそうになった。俺の知ってる世界だ。懐かしい気持ちで世界が以前の形に戻ったような気すらした。
平和に付き合っていた頃も、俺はよくぼーっと今考えなくても良いようなことを考えては落ち込んでいた。ある意味平和ボケ。平和すぎて、有り余った脳味噌を無駄な思考に使ってしまう。そうして難しい顔で考え込んでいると、テレビを見ていた彼女が不意に振り返り「あー! またなんかうじうじしてるんでしょ」と首ねっこを掴んでくる。「首はやめて弱いからマジでマジで」なんてソファの上で転げていた。
もしあの病の流行がなかったら俺たちはまだ付き合っていただろうか。いや、元々駄目だったのを、災厄が暴いただけだ。人間関係がダメになるのは往々にしてそういうものだ。原因は目の前の出来事だけではない。決裂する瞬間、もっともっと前から原因が積み重なっているのを見ようともせず、ただ目の前の出来事に憤慨している。これは一般論だ。俺の話じゃないよ。
「そうだよな。やっぱそうだよな」
そうして、俺は「正義の味方」にまつわる話をした。俺が正義の味方であることは伏せた。俺にとって正義の味方であるのは情けなく恥ずかしいことだ。まだ俺は彼女になるべく格好をつけたかった。それが何の効果も成さないことを知っていながらも。
「何それ。下手な小説みたい。無名のアマ作家が書いたなんちゃってラノベじゃあるまいし。疲れて夢と現実が混ざっちゃってるんじゃないの。ちゃんと寝なよ」
「だよな」
笑ってみたものの、残念ながらこれは夢ではない。鞄の中のヒーローマスクがそう言っている。でも俺が狂っているわけではないことが証明された気がした。もし狂っていたとして、俺も彼女も狂っている。それだけで、救われてしまった。俺はまた彼女に救われた。別れても尚。
「そろそろ行かないと」
彼女は腕時計を見ながら申し訳なさそうに言った。すっかり袋の中のおかずは揚げたてではなくなっている。
「また飯でも」
あはは、と彼女は笑いながらひらひらと手を振った。馬鹿にされたんだろうか。いや、性格的にそうではないだろう。変わっていなければ。これは、ただ、誤魔化されただけだなのだ。彼女と俺が飯に行くことなんて、もうないのだ。馬鹿にはしていないが、いよいよ頭がおかしくなったくらいは思われたかもしれない。
家までの道を歩いていく。世界がまだ安穏としていて、俺たちが付き合っていた頃は、この道を彼女と一緒に手を繋いで歩いていた。坂道で突然競走を始めたり馬鹿なことをしていた。昔の話だ。昔の話は昔の話でしかないし、正義の味方は正義の味方でしかない。彼女に確認をとる必要なんてなかったのに、どうして確認なんかしたのだろう。自己満足に他人を巻き込んだだけだ。ああ駄目だ。すっかり、弱い俺が呼び戻されてしまった。後ろから多い被さっている。重い。気付けにコンビニで発泡酒を買い足す。唐揚げ弁当はすっかり冷めていた。
「無理だよ」
あの日、四角い画面の中で彼女が言った。俺は何も答えずにキーボードの埃をエアーダスターで吹いた。キートップも汚れている。拭き掃除しないといけないな、と思った。画面に目を戻すと彼女の後ろのポスターが剥がれかけているのが気になった。もうずっと気になっているけど言うタイミングを��してしまった。
「私もあなたも別々の場所で働いてるし、会うためには電車にも乗らないといけない」
がっかりした、なんて言う子じゃないけど顔には思い切りそう書いていた。ドライすぎる回答だ。俺の「会いたさ」は渇いてパサついた状態でくるくる俺一人の部屋で回っている。
「君は寂しくないの」
問いかけると、あはは、と画面の中の彼女が笑った。悲しそうだった。俺は何でそんな顔をさせてしまったのだろう。
「ねぇ、私の話聞いてた?」
何を急に言い出すのだろう。面食らってまた黙ってしまった。黙っている俺に彼女は言葉を重ねる。
「君が話し出す前に、私が何の話してたか覚えてる?」
俺は必死に記憶の糸を辿ったが、まるで思い出せなかった。なんとなく彼女がしゅんとしたり笑ったりしていた顔が浮かんでくる。
「聞いてないもんね。適当に相槌打ってりゃ良いって思ってるよね。私のこと好きだって言うけど、私のことなんて、あなたは何も見えてない。あなたはいつも自分に夢中。嫌い嫌いって言ってるくせに。大嘘だよ。そんなに自分が好き?」
彼女の後ろのポスターが剥がれかけているのが気になった。彼女の好きなアニメのポスターだ。劇場版の前売り券を買った人だけが先着でもらえるものだ。一緒に買いに行ったし、貼る時は俺も手伝った。上の段を留めたのは俺だ。俺の貼り方が悪かったんだろうか。
たぶんその時からどんどん、どんどん、俺と彼女はズレていった。噛み合わなくなっていった。いや、もっと前からそうだったのに気付いていなかっただけかもしれない。世界の混乱が収束へ向かい、ようやく出歩けるようになった時も、俺たちは一向に会う約束を取り付けなかった。何となくどこそこへ行こうと話をふっても、以前のように彼女は話を進めてはくれなかった。俺はそれ以上踏み込むことができなかった。もし踏み込んでいたら奇跡の起死回生があったのだろうか。俺が悪いところを全部なおしても彼女はもう俺からどんどん離れていくだけだ。そう思いたい。思いたいだけ。俺はそれをすんなりと受け入れた。見苦しくすがりついても結果は何も変わらないことが分かっていたから。
その二年後に彼女は俺の知らない男と入籍した。教えてくれるような友達もいなかったのでFacebookで知った。綺麗な花嫁姿だった。知らない男で良かったなぁと思った。何かが少しずつ違っていたら自分がその知らない男になれていただろうか。時々集まって遊ぶような微妙な仲の友達はあの病気のせいですっかり疎遠になってしまい、今だってもうお誘いは来ることもない。ひょっとしたら何人かはあの病気にやられて死んでしまったかもしれない。それ以外の要因でぽっくりいってる可能性もある。LINEくらい送れば、生きてるかどうかくらい分かるかもしれないが、そこまでしようとも思わない。持ってしまうことが怖いから。失うことが怖いから。奪われることが怖いから。怖い。怖いのだ。俺は本当は臆病なのだ。小学生の頃お化けが怖くてトイレに行けずにおねしょしたことがある。怖がりなのだ。テストで百点をとりそうになって、あえて一つ間違えたことがある。怖い。怖かった。百点をとってしまうのが怖かった。好きな子に告白されたのに断ったことがある。怖いのだ。それを受け取ってどんな目に遭わされるか分からない。そんな恐ろしいことができるわけがない。彼女にはフられようと思って告白したら、付き合えてしまった。恐ろしいことをしてしまった。その結果がこれだ。自業自得だ。俺が全部悪い。全部全部悪いそういうことにして欲しい。じゃないとあんまりだ。
夕闇を背景に電線でカラスが鳴いている。
電信柱を拳を打ち付けた。じん、と骨に響く。正義の味方ではない俺は強くもないし、痛みも感じる。電線に止まったカラスは驚きもせずに鳴いている。もう一発叩く。握り拳に力を入れる。さらにもう一発、もう一発、とだんだん打ち付ける速度が速くなる。関節の皮がすりむける。電信柱の黄色と黒の縞模様に血が滲む。黄色に付いた血は目立つ。擦り付けられた血が不規則に線を引く。表面が無駄にぼこぼこしているので、俺の指は下ろし金にかけられた大根みたいだ。何にそんなに怒ってるんだろう。とりつかれたみたいに、そうしないといけない気がした。
電信柱はびくともしない。そりゃそうだろう。たかがこれしきの衝撃で動いたら電信柱は電信柱としての役割を果たすことができない。もし俺が今正義の味方だったら、電信柱をへし折ることくらいできただろうか。豪邸の重いドアを蹴りで開けたこともあるくらいなので、できたかもしれない。
骨ばった指にも肉はある。皮がすりむけた中には肉がある。血が巡っている。生きているから。大根おろしでミンチが作れる。何言ってるんだろう。大根も下ろし金もここにはないけど。
俺の気持ちはどこに向ければ良い。こんなに怒っているのに。正義の味方は来ない。誰に怒っているのだ。何に怒っているのだ。自分か。彼女か。友達か。家族か。過去か。未来か。世界か。あの流行病か。正義の味方か。分からない。何がそんなに嫌なんだ。誰も悪くないし、何も悪くない。あの病の時、自業自得だという言葉が流行った。外出したんだから自業自得だ。その仕事を選んだんだから自業自得だ。事情なんて知ったこっちゃない。そのくせ責める。自業自得だ。お前が酷い目に遭うのはお前が悪いからだ。なんでそんな酷いことを言うんだろう。どうして誰も彼もがそんなに荒んでるんだろう。テレビをつけてもSNSを開いてもいつも誰かが誰か責めている。何でそんなことするんだろう。知っている。分かっている。問うまでもない。理不尽に酷い目に遭うのが当たり前だと認めるのが怖いからだ。自業自得じゃなかったら壊れてしまうから。俺はその話を彼女にもした。彼女は俺が話し終わるまでひたすらうんうん、と受け止めて「大丈夫だよ」と言った。こんなに話したら気持ち悪いんじゃないかと俺が変に話を反らそうとすると「言って良いよ。大丈夫だよ」と促した。彼女は全部お見通しだった。彼女の「大丈夫だよ」が聞ければ、大丈夫な気がした。大丈夫じゃないけど、大丈夫な錯覚ができて、彼女にそう言われたら半日くらいは俺は正義の味方じゃなくても無敵だった。でもそんなことはもう無い。一生無いかもしれない。じゃあどうすれば良いんだ。憎む相手をくれ。何も憎めないし、恨めないなんてあんまりじゃないか。しかし俺はやり場のない怒りを電信柱にぶつけている。電信柱も悪くない。分かり切ったことだ。でも電信柱はビクともしないから。平気だから。殴ったって平気だ。俺の家にはサンドバックもパンチングマシーンもないから仕方ないよね。スーパーの床で駄々をこねて転がり回っている子供と同レベル。大の大人になっても。こんなおっさんになるなんて子供の頃は夢にも思ってなかった。彼女と付き合っていた頃だって思っていなかった。やっぱりあの病気が悪いのだ。でも病気は殴れない。じゃあ何を殴れば良いんだ。そうだ電信柱だ。でもどうしてだろう。ちっともすっきりしないのだ。やっぱり駄目だ。早く来てくれ。やはり正義の味方のことは正義の味方は助けないのだろうか。
「来いよ! とっとと来いよ! ほら! 何で来ないんだよ」
息を切らしながら、電信柱を蹴る。じん、と痛みが股関節にまで上ってくる。痛くない方の足で蹴ろうとしたら、バランスを崩して倒れてしまった。馬鹿だな。馬鹿なんだ俺は。でも、俺馬鹿なんだよ、って誰に言えば良いんだろう。正義の味方じゃなくて良い。通行人でも警察官でも良い。誰か俺を見つけてくれ。
ゴーンゴーン、と鐘が鳴る。正義の味方の出番だ。やっぱり俺がヒーローになるしかないらしい。俺は血まみれの手でヒーローマスクを被る。
痛みが消えていく。正義の味方は無敵だ。痛みなんて正義の味方には似合わない。足が勝手に動き出す。猛ダッシュで俺は家から離れていく。唐揚げ弁当は電信柱の下で置き去りになっている。食べられる頃には冷めているだろう。誰かが間違えて捨ててしまわないことを祈る。捨てられさえしなければ現代文明の利器、電子レンジがあるから大丈夫だ。現代に生まれて良かった。俺は恵まれている。電子レンジのない土地や時代だってあるのに、俺は電子レンジのある土地と時代で生きることができている。電子レンジを得ている。俺から電子レンジを奪うことはできない。ざまあみろ。
���知らぬ民家の塀をよじ登り、一階の屋根から、開け放たれた二階の窓にダイブした。
「こんな人のためにあなたが苦しめられる必要はありません」
俺は目の前の女が振り下ろそうとした包丁を白羽取りした。包丁を奪って窓の外に投げ捨てる。なんかヒーローっぽくて格好良い。格好付けすぎだろうか。顔が隠れているから余計に芝居じみた言動をしている気がする。ヒーローマスクはダサいけど。
「は? お前何?」
危うく刺されるところだった男が言った。お前が言うのかよ。危機を救われたことにイマイチピンと来ていない様子だった。
「正義の味方だ」
俺は男の顔面に擦り剥けた血まみれの指で殴りつけた。痛くはないが傷が塞がるわけではない。うっかり血が口に入ってしまったかもしれない。あちゃー。これでこいつも正義の味方になってしまう。また世界が平和になってしまう。やっちまったな。
包丁を持っていた女は男を庇おうとしたが、俺はそれを振り払う。男の方を膝で固定し、馬乗りになって顔面を殴る。ジタバタともがいているが俺は今無敵なので効かない。女がめそめそと泣いている。ぺちぺちと叩いてきたが、俺はビクともしない。ひんひんとしゃくり上げている。多分あれはメンヘラだ。メンヘラっぽい鳴き声してるから。ほら、来てるTシャツもそれっぽい。あんなの絶対ヴィレヴァンでしか売ってない。
男の鼻っ柱を血まみれの拳で何度も打ちつける。鼻から血が出てきた。鼻血だろうか。それとも鼻の外側を怪我したのだろうか。鼻の外側からの出血だとしても鼻血というのだろうか。鼻から出たどこまでの血を鼻血というのだろうか。その謎を解き明かすため俺はアマゾンの奥地へと向かった。アマゾンってどこの国だっけ。
ところが俺はメンヘラに悲鳴をあげさせられることになった。焦げ臭い嫌な匂いがして、匂いの元を辿ってみると、思わず立ち上がってしまった。
「これ以上殴ったら、燃やすから」
振り返ると、メンヘラが百円ライターをカチカチしている。明らかに自分の親指も炙っているが気にしていない。狂気の沙汰だ。いや、メンヘラだから自然か。いつの間にか俺のスニーカーの靴ひもがチリチリと焦げていた。それ自体は特にマズいことではない。しかし、俺は痛みが分からない。気が付いたら焼き殺されているかもしれない。それはさすがにヤバい。自分が殺そうとしてた男を守るために見知らぬ男を焼き殺そうとする心理もヤバいけど。
俺は男を蹴り、メンヘラを蹴り、また窓から外へ出て行った。ポツポツと雨が降ってきた。ボロ屋根で雨粒が踊る。俺の唐揚げ弁当どうなってるんだろう。
だんだんと正義の味方の力が抜けていく。いつもそうだ。出てくる時は一気に出てくるのに、抜ける時はビーチボールの蓋が緩んでしまったみたいに徐々にふにゃふにゃになっていく。だんだんと走る速度が落ちてきて、最終的に俺は一人で雨に打たれながら歩く寂しいおっさんになった。ヒーローマスクも外して手にぶら下げる。明らかに不審者だ。電信柱を殴った痛みが疼く。足が痛い。擦り剥けた指はヒリヒリとする。男を殴った痛みは残らない。ご都合主義だ。雨足が強まってきてとりあえずヒーローマスクを傘代わりにしたが、大した効果が得られるはずもなく、肩も足も濡れていく。正義の味方になることでハイになっても抜ければ結局なる前と同じメンタルに落ち着く。弱く、奪われるだけの俺。自発的に他人を殴ったことなんてなかったのに。
気付いてしまった。
正義の味方を呼ぶのは怒りじゃない。暴力なのだ。それもただの暴力ではない。人間への暴力だ。誰かが誰かに暴力を奮おうとした時、正義の味方は呼び出される。幸か不幸か、俺は自発的に暴力を奮おうとしたことがない。優しく生きていたら損をする。へらへらと良い子ちゃんぶっていても、誰も守ってくれない。暴力を奮おうとするクズだけが救われる。元々我慢できる人は、暴力に頼ろうなんて思ったこともない人はただただ虐げられているだけ。正直者は馬鹿を見る。
雨に打たれた唐揚げ弁当を手に取る。俺と同じで唐揚げ弁当も誰にも見つけられなかったらしい。いや、見つけたところで片付ける義理もないか。すっかり唐揚げが湿気ている。雨水だって中に入ってしまっているかもしれない。受け取った時は美味しそうだったのにこんな姿になってしまった。電子レンジも万能じゃないので、唐揚げ弁当を元の姿に戻すことはできない。
良い子にしてたって誰も助けてくれない。良い人でいたって何の得もない。そんなこと昔から分かっていたじゃないか。必死に努力して何事もなく無事に終わった物事は無視され、悪事だけが罰せられる。商売にもよくあることだ。クレーマーの主張だけが受け入れられ、何も言わずに満足している人たちの意見は無視され、改悪が繰り返される。行動を起こせ。黙るな。判断しろ。動け。さもなくば、ただ奪われ、ただ殴られ、死ぬだけだ。
というのは極論だけど、あながち間違っていない気もする。
正義の味方は人々の暴力を引き受ける。受け止めはしない。ただ引き受け、それを受け流す。そして暴力を客観視させる。正義の味方はやはり正義の味方なのだ。勧善懲悪だ。正義の味方は常に弱者の味方だ。暴力に至るほどの不快を強いられた、暴力に頼らざるを得ない弱者救済のために正義の味方は正義の味方たりえる。正義の味方は正義の味方でい続ける。暴力は悪なのだと見せつけるためだけに、耐えきった者が殴られる。いつかこの世界から暴力がなくなるまで、この連鎖は続く。確かにここのところ、殺人事件や傷害事件のニュースを目にしない。正義の味方の効果だろうか。
「いただきます」
誰と一緒でも、たとえ一人でも、いただきますと言うところが俺の良いところだと誰かが言っていた。誰だっけ。俺の妄想だろうか。だって一人でもいただきますを言ってるだなんて誰も知りようがない。そんな言葉をかける人がいるわけ��ない。バスタオルを首に巻いたまま、しおしおの唐揚げを割り箸で挟む。発泡酒はまだ冷蔵庫の中だ。
大気汚染の成分とか入ってるよ、やめなよ、絶対ヤバいって、と頭の中で誰かが言う。その誰かは彼女であり友達であり家族である。俺の知っている「誰か」のキメラだ。
電子レンジで温められた唐揚げは、思ったより変な味はしなかったが、何となくじゃりじゃりした。誰かが近くを歩いて泥でもかけたんだろうか。
「でも唐揚げは唐揚げじゃん」
俺は誰かのキメラに答えた。じゃりじゃりする弁当の続きを頬張っていく。食べ終わってから飲もうと思っていた発泡酒が不意に飲みたくなって、冷蔵庫に取りに行く。発泡酒の後ろでタッパーが積まれている。色とりどりの蓋のタッパーの中には母親がこの家で作ってくれたものも、恋人と作ったものも、皆で宅飲みした時の残りもある。ちゃんとある。間違いなくここにある。黒っぽい中身のそれらを指でつついてみる。胸の奥で小さな火が灯った。これがきっと愛しさだ。どれも入れた瞬間のことを覚えている。楽しかった。嬉しかった。ありがたかった。ずっとこうしていたかった。
発泡酒を手にとって、俺は冷蔵庫を閉めた。
「赤ちゃんじゃないんだから自分の感情くらい自分でコントロールしなよ」
誰かのキメラが言う。電信柱を殴ったのがそんなにダメですか。俺は正義の味方の世話になったことがないのに。それなら一生赤ちゃんで良いです。生後372ヶ月の赤ちゃんです。ほぎゃー。新生児みたいに快と不快しか感情がなければ良かった。
ピンポーン
ハッと目を覚ます。いつの間にか俺はベッドで眠っていた。もう日が高く昇っている。慌ててシフト表と電波時計の隅の日付を交互に見る。良かった、休みだ。
そして慌てて布団から飛び出し、インターフォンに出る。
「はい」
「宅配便でーす」
寝癖を手櫛でなおしながら玄関へ向かう。マジか。これ夢オチかよ。つまんないやつじゃん。
玄関のすぐ横に置いているシャチハタで押印する。実家からだった。開けると一番上に「HAPPY BIRTHDAY」と印字されたカードが入っていた。裏面に懐かしい文字で「たまには帰っておいで」と手書きの文字が書いてある。今日は俺の誕生日だ。また年をとった。また古びていく。老いていく。どんどん死んでいく。両親から、あの時は悪かった、と何度謝罪されただろう。決して許していないわけではない。俺は少しも怒っていない。むしろ家族を大切に思っている。カードを捨てると、その下には保存のきく食べ物と俺の好きな作家の新刊が入っていた。新刊はもう持っているから要らない。古本市場に売りに行かないと。食べ物は役に立つ。
とりあえずテレビをつける。
「国がしっかり経済が復活するための支援をしないとダメなんですよ。納税ってこういう時のためのものじゃないんですかね」
嫌いなワイドショーだ。深刻な口調で、被害者代表みたいな面をしてタレントがコメントしている。相変わらずだ。あの流行病があってから、いつ見かけても、こういうテンションの話題を飽きもせずに放送している。偶然見たときに限ってそうなっているだけだろうか。それとも、忘れているだけでずっと前からこの調子だったかもしれない。
チャンネルを回す。一通り流してみて、きのこの炒め物をしている番組に落ち着けた。
また誕生日が来た。いくつの時から誕生日が嬉しくなくなっただろうか。最後の楽しかった誕生日は、彼女と過ごしていた気がする。彼女が来て手料理を作ってくれた。たぶん冷蔵庫のタッパーの中にまだその時の残りがある。楽しかったなぁ。「別れよう」と言った時の彼女の驚いた顔が浮かんでくる。分かってたくせに。言わそうとしてたくせに。それともアレか。俺が歩み寄るのを待ってたのか。図々しい。試し行為か。そういうのはうんざりだ。勘弁してくれ。傷付いた顔をするのはやめろ。自業自得じゃないか。
ゴーンゴーン。鐘が鳴る。俺はソファの上に転がっていたヒーローマスクを被る。
あーあ。分かっていたけど、やっぱりこれ現実か。つまんないやつじゃん。
然るべき成果が得られるのはまだ先なんだ。今はまだトンネルの中にいる。止まない雨はない。まだか、まだかと俺は我慢している。頑張っている。
ダッシュでマンションの階段を駆け下りていく。三階まで降りたところで、隣のビルに飛び移る。まるでヒーローじゃないか。いや、正義の味方なんだからほぼ等しい。体が軽い。こんなに体が軽いのは俺が正義の味方だからだ。風を切って俺は走っていく。俺は奪われない。失わない。だって正義の味方だし。イカしてる。イカレてるの間違いかもしれない。まぁ、ともかく、正義の味方は正義の味方だ。俺は俺だ。平気だ。そう、「大丈夫だよ」。
口の中で呟いたその言葉は飴玉みたいにいつまでも転がっていた。
ひょっとしたら、もう誰もが正義の味方なのかもしれない。
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《DUO #04|東名阪ツアー》【大阪公演・夜公演】 北堀江vijon 2020.2.22(土)18:30開演
〈はじめに〉 《DUO#04|東名阪ツアー》は しみじみレア回だったと思う。 出演される顔ぶれは言うまでもない。 色んな意味で 見たことの無い松BOWに驚き、感動した。 開催が発表されてからとても楽しみにしていた 《DUO#04|東名阪ツアー》は、 奈良部匠平氏と同じく 松BOWと30年来の付き合いのある ギタリストの鈴川真樹氏をゲストミュージシャンに迎えての特別回。
鈴川氏と松BOWのお二人が、 鈴川氏オーナーのバー『ALTICA』で開催していた 《松岡英明×鈴川真樹 トーク&ライブ》は 何度か参加していたので、 演奏やトークのお二人の雰囲気はなんとなくわかる。 が、奈良部氏と3人となると……?
松BOWの事前のツイートによると、 『白熱した』リハーサルが繰り広げられていたよう。 絶対良いものになっているに違いない。 期待にはちきれそうになりながら 開場を待った。
予定より少し遅れて開場。 会場に入ってすぐ、ファン友さんが言った。 『私、(昼公演に参加した人に)セットリスト教えてもらったんですよ』 目がキラキラしている。 いつもはネタバレOKな私だが、 その目の輝きを見て思わず 『言わないでね!』と言ってしまった。 絶対に私も喜ぶセットリストのはずだ。 すると、その方はうなずき笑顔でこう言った。 『このセットリストなら、ライブ代もっと払っても良いと思った。』 そんなに!!
そのセットリストがこちら ↓↓↓
〈《DUO》という名の《TRIO》〉
定番人気曲、カヴァー曲、 あまりライブで演奏されないレア曲、 久しぶりの曲、などなど本当に豪華! MCで、松BOWが『今回は流れは考えず、 演奏したい曲を集めました』と 言っていたが、ファンにとっても 『聴きたい曲』ばかりだったのでは。
演奏は、 松岡英明(Vo)×奈良部匠平(P) 松岡英明(Vo)×鈴川真樹(Gt) 松岡英明(Vo)×奈良部匠平(P)×鈴川真樹(Gt)
基本3パターンに、 打ち込みが加えられたパターンも。
まずオープニングは 松BOWと奈良部氏のお二人で登場。 松BOWはスカルが描かれた革ジャンにサングラスで、 ロックな衣装。 奈良部氏は黒(紺かも)のベストに黒のハットがお似合い。 (後のMCで、サングラスをかけようとしていたのに 忘れてしまったこと悔やんでおられた。)
それぞれスタンバイすると、 鳥のさえずりと小川のせせらぎだろうか、 水の流れる音が響き、 奈良部氏の奏でる美しいイントロが流れる。 【01 あの恋のメロディー】で幕開け。 余談になるだろうか、 このブログを書くにあたって調べていたら、 奇遇にも、 2014年8月27日に第1回目が開催された 《松岡英明×鈴川真樹 トーク&ライブ》の1曲目も 《あの恋のメロディー》だった。 意図してのことだろうか?
それはさておき、 松BOWが歌い出してすぐにボーカルの違いにハッとさせられた。 前回もはっきりと『変わった』と思ったが、 今回はさらにさらにさらに!磨きがかかって、 曲としてはほのぼのとした可愛らしい曲調なのだが、 ほとばしるものを感じた。 1曲目にしてすでに感極まってしまった…… が、まだ1曲目。 この後どうなる!と思っていたら、 演奏後、鈴川氏を呼び込み紹介。 久しぶりに拝見した鈴川氏は サングラス姿も決まっており、 相変わらずクールでカッコ良い。 出演された《DUO#01》のドーナツ(ライブCD)を 聴いて、ALTICAの頃よりさらに パワーアップされているのを 知っていたので期待も半端ない。 が、当の鈴川氏は 『チューニングするからしゃべってて』と あくまでクール。 大御所感たっぷりだった。
そして、 『松岡英明の世界と、奈良部匠平の音の世界と、 鈴川真樹の音の世界へようこそ!』と松BOW。 その後《DUO》という名(タイトル)の《TRIO》についてしばしMC。 (細かく説明されていたが長くなるので割愛、すみません。 個人的には《DUO》シリーズの《TRIO》回と理解している。) 今回のMCでキーワードとなった(?) 『鳥夫(とり�� = TRIO)』(奈良部氏による)のエピソードに笑ったが、 それは抱腹絶倒MCの序章に過ぎなかったと振り返り思う。
【02 以心伝心】は鈴川氏のアコースティックギターでの歌唱。 AITICAでも何度となく聴いた曲だが、 メランコリックな揺らぎのあるイントロに 参ってしまった。 それに合わせる松BOWのボーカルも 以前より繊細な表現を見せ、 スキャット部分での盛り上がりも こなれた熱さがある。 ここへ来て何かを掴んだかのような変化に ドキドキがおさまらなかった。
【03 時の過ぎゆくままに】も鈴川氏のアコースティックギターで。 衝撃のデビュー曲《Visions of Boys》を歌っている人と 同一人物とは思えない。 でも違和感はない。 鈴川氏のギターの音色にも聴き惚れる。 ボーカルとアコースティックギターだけなのに、 なんと芳醇な香りがするのだろう。 しみじみと聴き入った。
演奏後、1曲目の後いったんはけた奈良部氏が再び登場し、 松BOWが、物販に並べられた奈良部氏worksのCDを紹介。 奈良部氏が『ご無理なきよう』と 控えめに言っておられたのが印象的だった。
【04 Love +Harmony】は 奈良部氏のキーボードと 鈴川氏のアコースティックギターで。 打ち込みは無し。 オリジナルはオリエンタルな香りのする 壮大なイメージの曲だが、 このシンプルな構成の演奏がまぁ良くて!! どの曲も素晴らしかったけれど、 特にこのアレンジは、 ドーナツ(ライブCD)になったら ぜひ何度も聴き返したいと思った。
この後のMCで、 松BOWが鈴川氏のリハーサル時の言葉を紹介。 ピアノとギターがあれば無敵なのだそう。 フルバンドのサウンドに匹敵する音が出せると。 深く納得できる【 Love +Harmony】だった。
そして、松BOWから 『鈴川さんが一番緊張する曲』と プレッシャーをかける前振りからのギターのイントロ。 始めはどの曲かわからない。 次第に輪郭がはっきりしてくる。 【05 Divine Design】だとわかり、 奈良部氏のピアノが入った時は鳥肌が立った。 《Divine Design》は松BOWの楽曲の中でも特別な位置にある曲。 シンプルなアレンジに松BOWのボーカルが際立つ。 なんと壮大。 松BOWの歌う姿に神々しい光が差すように見えたのは きっと私だけではなかったはず。
と、魂も震えた感動の演奏後に 始まったのは《お笑いトリオ》?かと思うほどの 抱腹絶倒のMC。 鈴川氏が奈良部氏のことをコアラに似ている (その心は、見た目は癒し系だけれど、目が笑っていないそう…) と言ったのに端を発し、 鈴川氏は『俺はバスクリンに似てるって言われる』 それに奈良部氏が『僕はバブ』と応じ 鈴川氏が『松BOWはバスマジックリンだな』 (なぜかは説明無かった) すると松BOW 『バスクリンもバブも無くてもお風呂は入れますけど、 バスマジックリンが無いとお風呂入れませんからね!』と応酬。 会場大爆笑、大喝采。
こんな風に、演奏とトークのギャップがあり過ぎ、 トーク面白すぎのトリオ(鳥夫)のトークスキルは 東名阪ツアーの会場ごとに上がってゆくのだった。 (ファイナル東京公演参加できず残念)
冒頭、『見たことの無い松BOW』と書いたが、 いつもはトークでファンを翻弄する松BOWが、 先輩おふたりの面白すぎトークや ツッコミに翻弄され、 タジタジとなっていたのが新鮮だった。 表情もとてもナチュラルで、 今まで見たことの無い とても柔らかな笑顔が見えたのも 新鮮で驚きだった。 信頼するおふたりの先輩とのステージだからだろうか。 とても良い笑顔だった。
【06 真夏の誘惑】【07 恋はあせらず】は 奈良部氏と鈴川氏おふたりの演奏で。 ラテンアレンジが楽しい。 【真夏の誘惑】でもスキャットあり、 素晴らしかった!
【08 A Sweet Little Bitter Love】 《DUO》は全般大人の雰囲気が漂い どの曲も素敵なのだが、 ニューヨークの香り (行ったことはないけれど) 漂うアレンジのこのアレンジも素敵だった。
【09 Deep Diamond】 これがまたオルガンの音が効いた粋なアレンジで カッコ良かった。 褒めてばかりだけれど、 本当にどの曲も素晴らしかったのだ。 それは、長年の付き合いのあるお三方だからだろう。 『松岡英明の音の世界』をよくご存知、 気心も知れていてリスペクトし合っているのだろうなぁ。 白熱のリハもだからこそ。 ミュージシャン同士って なんと素敵な繋がりなのだろう。
【10 Fantasy】 【Deep Diamond】と同じく、 ライブでは久し振りのプレイ。 こちらはラテンの風味がちょっぴり感じられたのが新鮮だった。 で、間奏のお二人の演奏が素晴らしくて、 お二人を交互に凝視。 松BOWが気持ちよさそうに歌っていたのも印象的。
本編ラストはギターのイントロから。 『熱狂の前の静けさ』のごとく、 歌直前の溜めがとても良かった 【11 Study After School】で大いに盛り上がった。
〈アンコール〉 【DUO】ではおなじみとなった 【12 Strawberry Kiss Kiss】は奈良部氏のピアノとともに。 心に染み入る。 最後に松BOWが ”I’ll give you million kisses”と言って 天を仰ぎつつ 両手で交互に『百万のキス』を降らせたのには ドキドキした。 (素晴らしくエレガントな仕草だった。) 30年前なら『キャーーー!』と絶叫して キスを手で受けようとしたのではないか。 が、アラフィフの今となっては、 おとなしく投げキスのシャワーを 浴びている妄想にとどめた。。。(幸)
その後の松BOWのMCが、心に残っている。 『大先輩おふたりとのライブは緊張しますが 歌が躍動して喜んでいるのがわかります。』
『若い頃は、演奏に〈こうして欲しい〉と注文をつけていたけれど、 その演奏を引き出すのはボーカルだと気付きました。』
その気付きが今日のステージなのかと 納得、胸が震えた。 2月に奈良部氏と初のプロデュースイベント 《synergy#01》をスタートさせたばかりだが、 ご自身がお手本のような《synergy》(相乗効果)を見せてもらった。
そして最後の最後に 奈良部氏、鈴川氏、打ち込みも加えられての 【13 Visions of Boys 2020】 前回の《DUO#03》で初披露されたこのアレンジは 既にファンの間で大人気。 そこに鈴川氏のギターが加わるなんて もう感動するしかないってもの。 夜明けのごとく静かに明けるイントロからの 一気に盛り上がる中盤以降は 松BOWの伸びのあるボーカルに リバーブを効かせて 広がりや奥行きだけでない、 深い精神性までも感じさせるアレンジ素晴らしい!! でもこれはあくまで私の感想。 どんなイメージでアレンジされたのかを聞いてみたい。
演奏後は三人で手を繋ぎ深くお辞儀。 会場からは拍手、拍手の嵐。 音楽って、ミュージシャンって、 本当に素晴らしい!と思える 極上のライブだった。
以下、画像とともに軽くコメント。
vijonさん入り口にあるライブスケジュール。 この日の大阪は朝から雨が降っていたらしく 表面が濡れていた。 ライブが始まる頃には雨も上がり青空が。
物販には新作のドーナツ(ライブCD) 《TheOne #11》と《DUO #03》や 奈良部匠平氏のアルバムや プロデュースされたアルバム、 以前に開催していた 《松岡英明×鈴川真樹 トーク&ライブ》シリーズの ライブCDも並んでいた。
チェキは通常のツーショット、スリーショットのほかに、 出演者3人と撮るフォーショットも可能。 フォーショットもスリーショットと同じお値段! ということで、 豪華メンバー全員に挟まれた 贅沢なチェキを撮らせて頂いた♪ うれしかった!
この日は2月22日猫の日 ということで、 ツーショットチェキは松BOWにニャンポーズをリクエスト。 ロックな衣装のキュートなニャン♪が あまりに素敵過ぎて、 思わず後ずさりしてしまった。 『可愛い歴52年』の松BOW さすが!
ミスショットだけれど、なんだか面白い画像なので。 この日のライブを予言するかのよう。 この画像のように めまいがするような衝撃があった。
物販で購入したのは《DUO #03》。 《DUO》初参加、そしてこの回から東名阪ツアーとなったので、 思い出深い。 収録されていたのはファイナルの東京公演・夜公演。 イントロでMCが入っているものもあり、 それが曲の世界の導入として効果的で素敵だった。
〈最後に〉 アルバム《Light and Colour》以降 長いブランクの後ファン復活した私でも 今回のライブは松BOWの良き変貌ぶりに感動したので、 きっと長く松BOWのファンをされている方ほど 感動は大きかったと思う。 サイン会でそれを伝えようとしている時、 感極まって涙こみあげてしまい、 それをこらえつつの しどろもどろの感想となってしまったこと 後悔している。 ライブ後すぐの感想、 もっとうまく伝えられるようになりたい。
※今回の東名阪ツアーは 翌日の名古屋公演・昼公演も参加したので、 そちらの様子も 後日アップします。
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オスマンの踊り子
トルコの大河ドラマ Muhteşem Yüzyıl壮麗なる世紀 (2011-2014)は「オスマン帝国外伝〜愛と欲望のハレム〜」として現在日本では衛星放送で放映し、ファンサイトもたくさんある。トルコはU.Sに次ぐドラマ輸出大国になったらしい。
ハレムといっても西欧が妄想したような、頭にタオルを巻いた裸の女性が寝転がっているところではなくふつうの大奥、後宮で諸国の先行ドラマをよく研究している。16世紀、ムガルのバーブルと同時代のスレイマーン1世の妃ヒュッレムHürrem(陽気妃の名に反し腹黒)が主人公となる。バーブルはインド征服に際し、スレイマーンの父親セリーム1世の世話になった。
オスマンはテュルク系の遊牧小部族だったが、ヨーロッパに近接していたためガーズィー(ジハーディスト)を吸収して強大になり、異教徒奴隷を積極的に人材として登用し帝国となった。能力主義は騎馬遊牧民支配に共通のものだ。
オスマンリーは多民族多宗教の帝国だったから、後宮の成員も多様だった。ヒュッレムはドラマでウクライナ出身のクリスチャン奴隷とされているが、西欧ではロクセラーナ(ロシア女)の名で知られた。
劇中ではオスマンリーの領土拡張戦争と宮廷内の陰謀や殺人が並行して描かれる。あいまには妃や側室たちが踊るが、美術衣装の充実やTVにしては大がかりな戦争場面にくらべ特におもしろい振付はない。
ヒュッレムの踊り このドラマでのダンスはスルターンを誘惑する(寵愛を得る、子を産む、生き残る)ためのものだ。 オスマンリーの新スルターンは残りの王子を殺す決まりだった。
ダンスレッスン ジャタックス・マタックスだらけの安手なダンスは、甄嬛伝での太監やチャングムの内侍のような宦官Hadim が教える設定になっていた。甄嬛伝では寵を得ようと側室が、雍正帝の前でフィギュアスケーティングするエピソードがあった。
ヌールバーヌーの誘惑 ヴェネツィア貴族の娘との設定だからか、西欧的身ごなしに見える。ヒュッレムの後継者で腹黒。
割礼式の群舞 これは続編の Muhteşem Yüzyıl: Kösem の場面。腕の振りはテュルク的だ。ハレムは鬼だらけ。
ハートゥン ウズベクの踊りに似ているが、衣装はベリーダンスだ。ハートゥンHatun はユーラシア遊牧民の王の妻に共通の名称「可敦」で、古ウイグル起源ともいわれる。( Muhteşem Yüzyıl: Kösem )
ベリーダンス ベリーダンスは上エジプトに始まりがあるとされるが、シャマンの痙攣した身振りが元だろうか。エジプトは1517年にスレイマーンの父セリーム1世によって征服されている。 ここではサファヴィー朝出身のフィルゼ・ハートゥン(おとなしいが腹黒)による現代的なベリーダンス。紫の布は寝室への切符だ。 もはや健康法にもなった今のスタイルを世界的に広めたのは、1940年代のエジプト映画らしい。19世紀末では旋回舞もまじっている。まだオスマントルコの呼称があった時代だ。マタハリもベリーダンサーだった。
棒踊り これもエジプトの踊りだ。富裕なエジプトからの収奪を元手に、スレイマーンはヨーロッパへの領土拡張を続けた。
メウレヴィー教団のセマー オスマンリーとスーフィーは相互支援した。セマーはオスマンの胡旋だが、エジプトに伝わったタンヌーラTannoura はもはや観光化してすごいことになっている。パーキスターン・スーフィーのダンスであるダマールDhamalは旋回もある。
おまけ シルタキ 「その男ゾルバ」で有名になった肩踊りは、イスタンブルの肉屋が踊っていたものだという。ビザンティンの後継国家であるオスマンリーはヨーロッパでもあり、ギリシアは中東でもある。
時代は飛んで。トロントの在外トルコ人の踊りが見事だ。現代トルコの結婚式の踊りは魅力的。(人気の緑 Yeşilli の別の映像の説明では、場所は黒海近くのSafranbolu で、クルド Kürt集落だとのこと。 )
Muhteşem Yüzyıl にはなかなか見られないイメージがある。
スレイマーニエ・ジャーミー オスマンリーの大建築家ミマール・スィナンMimar Sinanが1557年に完成させた。スレイマーンはスィナンに鍵を委ねようとするが、スィナンは建築中に盲目になった書道家に譲り開錠させる。
飛行人間 ヘザールフェン・アフメト・チェレビHezarfen Ahmet Çelebiは1632年に、ガラタ塔からボスポラス海峡Boğaziçi を越えてユスキュダルまでグライダー飛行したといわれる。 その弟のラガリ・ハサン・チェレビLagari Hasan Çelebiは翌年、初のロケット飛行に成功したという。(Muhteşem Yüzyıl: Kösem)
ピーリー・レイースPîrî Reis 世界地図の作成で有名だが、ここでは帝国地図を献上している。元海賊。
バルバロスBarbaros Hayreddin Paşa 海賊赤ひげ。クリスチャン側もイスラームも、海賊は騎馬遊牧民と同じく人間を収穫して奴隷商品にするのが生業だった。近代人は自分で市場に行って商品になる。 赤ひげことハイレッディン・パシャはオスマンリーの傘下に入ったあと、1538年のプレヴェゼ海戦Preveze Savaşıで地中海での覇権を確立した。1541年に本拠地アルジェをキリスト教連合軍側が包囲した戦闘には、アステカ文明を破壊したエルナン・コルテスが従軍し溺死しそこなった。
ルター オスマンリーは対神聖ローマ帝国戦略でルターを支援した。カトリック陣営はプロテスタントに譲歩せざるをえなくなった。
マキャヴェッリ 大宰相イブラーヒームが「君主論」を読む。マキャヴェッリはオスマンリーに影響されて著作した。
フランス 神聖ローマとスペインの両ハプスブルク家に囲まれたフランスは、オスマンリーと共闘する道を選んだ。もちろん二股もかけた。
タフマースブ サファヴィー朝の支配階級はテュルクだったがシーア派で、オスマンリーとの関係は曲折した。タフマースブの父、イスマーイール1世時代にオスマンリーに惨敗してから融和政策をとった。バーヤズィーット王子が後継者争いに敗北し亡命したさい、最初はコマとして受け入れ後に見捨てた。 ムガルの二代目フマーユーンは、インドを追い出された時にサファヴィー朝に身を寄せている。
シャージャハーン オスマンリーと友好関係をもち、タージマハル建設に技術者を派遣してもらった。とはいえムラト4世に会ったとかスカートにキスした事実はない。印パの視聴者は意外と怒っていない。(Muhteşem Yüzyıl: Kösem)
モハーチの戦いMohaç Muharebesi 1526年のハンガリー王国との戦争では、クリスチャン連合軍をはさみ撃ちして壊滅させた。 これは西欧で Turan tactic と呼ばれた騎馬遊牧民の戦法だった。トゥーラーンは西欧での中央アジア遊牧民の呼称。この戦術の最古の記録は孫子の兵法書にある。 衝突後に敗北したと見せかけて退却し、調子に乗って団子になって攻める敵を両翼から包囲して殲滅する。後方騎射があれば騎馬遊牧民として完璧だった。モハーチでは被占領下のバルカン半島人が先鋒で囮にされた。 ドラマ映像では挟撃運動はあまり描かれず、追った先に強力な火力があってやられてしまう。戦前の軍議 実際のたたかいでもマスケット銃が旧式な重装騎兵を無力化した。戦闘の結果、ハンガリーは三分割された。
ウイーン包囲 1529年第一次ウイーン包囲は、冬の到来によって阻まれた。オスマン軍楽にショックを受け西洋音楽は大仰になった。
イェニチェリ 新軍の意味で、騎馬遊牧民由来の軍事力に対抗し非テュルク人の強制徴募兵を近代武装させて取って代わった。 ムガルがテュルク系国家ではないのと同じでオスマン帝国の性格上、このドラマでは王族ふくめほとんどテュルク人は出て来ない。王権は強化され600年の帝国支配を導いたが、後に旗本化して停滞し西欧に遅れをとる原因にもなった。
給料支払いの式典 大鍋とスプーンが団結の象徴だった。帽子の後ろ垂れはスーフイーに由来する。子供はムスタファー王子。軍はいつも不満をかかえている。 ベッカム似の成人したムスタファー王子誓いの儀式
その他のメディア
コンスタンティノープル攻略 2012年トルコ映画 Fetih 1453 に Muhteşem Yüzyıl のテーマ音楽をかぶせている。「オスマンの大砲」と呼ばれた巨大砲が登場する。
Total War コンスタンティノープル陥落を描いたゲーム映像。人がゴミのようだ。 帝国の精鋭部隊。 後半はマラーターたち。
Mihai Viteazul(1970 ルーマニア) 国策映画なので規模が大きい。映画とオスマン軍楽をモンタージュした映像だ。歌詞にある「ordu戦争」は東は内モンゴル自治区のオルドス高原、南はウルドゥ、西は英語のhorde へと連なるユーラシア騎馬遊牧民の共通語彙でもある。 Mihai Viteazulはドラキュラの後輩で、反オスマンの民族英雄となっている。
Assassins Creed Revelations 青年スレイマーン1世と協力して、テンプル騎士団と密通するイェニチェリを捜し街中を尾行する。
オスマン帝国の衰退と列強の侵略に対し、汎トルキスターン主義や汎イスラーム主義などさまざまな思惑が交錯した。結果、1923年の革命によってアナトリア半島に限定したトルコ民族主義、世俗主義が国是の現代トルコが成立した。Muhteşem Yüzyıl ではその縛りの現在形が見える。イスラームが称揚される一方、だれもヒジャーブを被っていない。後宮ドラマのつねで善人も賢人も幸福になった人間もいないが、トルコ人はナショナリズム感情の高揚を得ているようだ。
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ヘルシーボーイズ 健康優良新鮮少年 chapter2 つながる過去と未来
登場人物
狂四郎 主人公の一人B4区出身 健康優良新鮮少年の若きリーダーとして 正義感が強く, 強いものに巻かれることを最も嫌う。 ジンに恋をした結果, 政府との関係が近づいたことに困惑するが, 本当は自由でありたいことを願う。 貿易商の両親の元に生まれ, 何不自由なく恵まれた環境に育つ。 鍵っ子ライフが続いた為, 好き勝手, 自由奔放な少年時代を過ごさせてくれた両親を尊敬してやまない。 歴史が変わり, 両親が生きている, この新しい未来に満足し, 幼馴染の達郎と共に夜な夜な エアーバイクで自由奔放に街を流すことに生きがいを感じているが, 達郎が政府見習いになり 一緒の時間を過ごせないことや ,大人の階段を登る達郎の背中を眺め, 寂しさを感じるも そばにいるジンに夢中で愛に生き, 友情にも熱い少年。 裏切り者の大瀧に対して最初は塩対応であったが, 政府の作戦だったという事実を知り 徐々に誤解が解けていく。 憎めないアホ過ぎる大瀧がいることで少年心を忘れないでいられることに感謝している。 今ではジンへののろけを大瀧に話してしまう間柄になった。 本編の一応, 主人公(笑)
趣味 バイク
ジン 過去から舞い降りた, 未来を変える救世主。 狂四郎達により絶対絶命を逃れ,彼女が生存したことで未来は変わり, 新しい20XX年のネオトーキョーのヒロインとして狂四郎達と行動を共にする。 過去の記憶は書き換えられ交通事故に遭い両親を無くし, 里親の軍曹に育てられたとする造られた記憶に沿って 現在は未来生活を送っている。 しかし, “心の底では一体自分は何者なのか?” その探究心は止まることなく,突然 iphoneで過去の歴史を調べ出し, 没頭してしまう日々。 通称(アイホンカチャカチャ) 現在, 軍曹のコネクションで国立図書館に勤務。 近頃は第六感の超能力に目覚め始め,困惑し始める。 助けてくれた狂四郎に恋心が生まれるが, 何か心の中に引っかかるものを感じている。 その引っかかる何か?に自分自身が向き合ってから, 正式に狂四郎へ愛を捧げたいと密かに思っている。
趣味 読書
達郎 狂四郎と幼なじみ。 ”親切をすると自分に幸運が返ってくる” という逸話を家族代々受け継いでいて, 自分自身もそう日々願って行動している為, たまにお節介と言われて傷付いてしまうガラスのハートの男子。 大瀧の裏切り行為に傷つくも, 軍曹が仕掛けた作戦だったことを知り, 次第に理解していく。 国の為には手段を選ばぬ軍曹の男気な姿勢に惚れ,現在は未来を変えた一人として政府の役人見習いで入隊。 軍曹の元で暗躍する。
趣味 親切
大瀧 過去の20XX年では ハニートラップの罠に引っかかり仲間を売ってしまうが, それは政府が仕組んだ作戦だった事実を徐々に仲間に理解され, 絆が深まっていく。 本人は裏切ったつもりは全くなく, 「だって, 目の前にかわい子ちゃんがいたらお前だって行くだろーよ?」が口癖。
IQが200 overだが不摂生な生活スタイルにより, 脳と体がついていかない障害を持つ不器用な男子。 天才ゆえに変態, ペンタゴンにハッキングしてプログラムを絵文字で埋尽くしたり, シリーをハッキングしてエロティックな言葉を言わせたり, イタズラ多数。 伝説的お騒がせハッキング歴を持つ, アンダーグラウンドレジスタンスの界隈でも一番変わったレジェンドハッカー, ポーキンヘッズとは彼のこと。。(まだメンバーは知らない)
趣味 大食いと90年代情報集めと女子。自称トップオタク。憎めないアホ。
軍曹 政府役員であること以外は情報なく,ジンの里親として, 達郎の上司として狂四郎達と接触する。
健康優良新鮮少年 #What’s the sign about geek sign…..?
狂四郎と大瀧はいつもの様にエアーバイクで街を徘徊していた。 モーターのコイルが徐々に温まっていく。 新しくバイクに導入した”フラックス・キャパシター”を早く試したくて仕方のない狂四郎は, アクセルを握りスピードメーターは時速110kmをマーク。 後部座席の大瀧は悲鳴を上げ, 「おい! 狂四郎, 頼むから時空間移動をするなら一人でやってくれよ(涙)俺はまだ失敗して身体がバラバラになるなんてことはしたくないんだアアア」 すると狂四郎はアクセルを緩め,焦る大瀧にゆっくりと喋り始めた。
「いいか?フラックス・キャパシターは130kmで作動し, 目的の時空空間を可能にした軍部の最新秘密兵器さ, わかるか?俺達健康優良新鮮少年だけが持つ特別な代物なのさ,これを手に入れるのにどんだけあのおっさん(軍曹)の言うこと聞いた事か解るか?それに達郎が今必死で役人仕事をしてるお陰でもあるんだ。 俺達の信頼をグーンとアップしたって意味さ,そんな代物をありがたく試さない手はないのだ。 お解かりになるかな?我輩は健康優良新鮮少年であるw オタクの大瀧くんよw だからさーあラッキーと思って試そうぜw」
バイクはB4区エリアを抜け, B3区に入ろうとしていた。
ここはヘルシーボーイズの縄張りではなく、敵対するアンヘルシーバッドボーイズ(不健康不良少年)のシマ(縄張り), このシマの頭(ボス)Zは,編み込んだカラフルなヘアースタイルと強面の顔を持つ男。 旧型チョッパーエアーバイクを乗り回し, 粗悪なビタミン興奮剤”キャットピス”を放り込んでは夜な夜な犯罪行為を繰り返す社会悪。 組織化したアンヘル(アンヘルシーバッドボーイズ)は一方的な嫉妬心で, ヘルシーボーイズからB4区地区を奪おうとしている。 狂四郎と大瀧は日が暮れると現れるアンヘルの存在を十分承知していたので, 夕暮れに差し掛かるまでにB3地区を抜けて B2区の国立図書館に勤務するジンを迎えに行こうとしていた。 しかし,今回はそうもいかなかった。 Zの仲間達はヘルシーボーイズの存在を確認するとすぐさまZに報告し, B3地区とB2地区の通行ゲートを封鎖。 瓦礫に覆われたゲートの片隅には狂四郎達が現れるのを待ち構える兵隊がいる。キャットピスを口に放り込み, ガリガリと音を立てながら。 その様子をまだヘルシーボーイズは気づかない。ゲートに近づくヘルシーボーイズ。 Zは待ちきれずアクセルを吹かし, 狂四郎達の前に興奮気味の様子で現れ, 叫んだ。
「ウォウウォウウォウ,トゥナイト,これはこれは, B4区の平和ボケした犬のしもべのクソ野郎。狂四郎とおまけのオタクじゃね〜かW お前ら弱小ヘルシーボーイズが俺様のシマでなにしてやがる!おしっこ漏らす前にそのバイクをよこしなW お前じゃ大きすぎるだろーよ, 早く降りろ!てくてく歩いて平和な街に帰りやがれってんだ, ヘヘヘ, それかここでスクラップになるか?どーする健康優良新鮮少年さんたちよー」
Zは編み込んだ髪を揺らしながら皮肉たっぷりに狂四郎達を威嚇する。 兵隊は狂四郎と大瀧の二人を囲み, 絶体絶命なヘルシーボーイズ達。 しかし狂四郎は焦りをまったく見せない。 それどころか久々に感じるスリルに興奮し, 目を輝かせ, Zに聞こえるように大瀧にこう伝えた。
「大瀧, 見てみろよW あのブスW 似合わないブレイズに時代遅れのバイク。あんなでかっこいいとでも思っちゃてるわけ? HAHA! まわりに踊らされてあんなことしてさー, 粗悪なビタミン剤の副作用か?ダッサ! 低脳でダサくてしかもブス。 せっかくのビンテージバイクも勿体ないね〜W 豚に真珠ってこういうことかW まさかさあー, あのイキってるブスって俺達のパクリ”アンヘルマザファッッキンボーイズ”じゃねーよなW やべーな, もしそうだったら, お仕置きしてやんなきゃなあ〜!なあ, ひき肉にしてやろーかW」
Zはズタズタに引き裂かれたプライドに怒り, アクセルを吹かしてこう言い返す。 「ウッセーんだよ,てめーらこそ!リアルじゃねーんだよ! いい子ちゃんぶって犬に媚び売って, そんなバイク手に入れやがって! まじスタイルもネーな, そんなんストリートじゃねーんだよ! 今度こそてめーらの最後だ!おい!いくぞーオメーラ!あいつらにリアル教えてやんな!!!」 Zは兵隊に命令し, 狂四郎達に襲いかかった。 しかし狂四郎はアクセル全開でZに突進。 衝突する手前でジャックナイフをかまし, Zの顔すれすれでガンを飛ばしてこう言った。 「はあ?お前さー, リアルとか言っちゃってるけど, 現実と妄想の区別もつかねー, 単細胞なオメーに言われる���合いはニャーだよ!ペッ」 狂四郎の吐いた唾がZの頬にかかる。狂四郎はすぐさまバイクを切り返し, ゲートを通過する。 まさか突進してくるとは思わなかったZは突然の緊張で失禁してしまったようだ。 兵隊達もお漏らししたボスにどう接してよいか解らず, 硬直したままだ。 その頃, Z達から数キロ離れた場所でゆっくりとアクセルを戻す狂四郎。 大瀧は少し遊び足りなかった様で狂四郎の肩を叩き, 「おい! 狂四郎戻ろうぜ! あのブス俺のことオタクなんて言��やがったんだ! あいつわかってないねーW 俺が誰かをW だからさあ, 俺にもお仕置きさせてクリームW 実は今日新しい武器を仕込んだんだ, 試したくてさW 見せてやるからちょっと降りよーぜ。」 エアーバイクを停車し, 降りた二人。 大瀧はうれしそうに緑のバックパックから金属のボール状の物と警棒を取り出す。 「これはELECTRIC THUNDER BOMBと言ってさ, ハッカー仲間のIRAK達が昔, 電脳警察を煙に巻く時に使った電子破壊装置さ。 これを作動すると半径10mの電子機器を麻痺させる効果があるんだ。青い光が出て綺麗だぞW これをZ達の円陣に投げ込めば奴等のエアーバイクはお釈迦になるって事さW それとこれこれ, タラーン。 」 警棒の様な赤いスティックを取り出す大瀧。真ん中に金色のボタンがついている。 見た目は昔話に出てくる西遊記の如意棒の様だが。 「これはなーエレクトリックライトスティックていうんだ。先端から青い光(電子破壊装置)がついていて, しかも伸縮可能。 孫悟空も真っ青のサイクーなやつだW。 実は今, 軍の装備に採用されるか検討中で, どう機能するか, 密かに研究を進めているやつなんだよW だからちょっと気になってお借りしてきたんだW。」 狂四郎はスティックを握り, くるくる孫悟空のように舞い始める。 大瀧はエアーバイクのサウンドポートにUSBカードを投入。 2000年代の名曲ファレル ウイリアムスのcan i have it like thatをPlay。 サウンドシステムから響くベースライン。PVかの様なラインダンスのように二人は踊り始め, バトルフォーメーションを組み始めた。 「この曲が流れてる間に奴らを落とすぜ, どうだ狂四郎?サイクーだろ?。」 二人のバトルフォーメーションはカンフー映画顔負け。流れる水の様に完璧。 バク転, 側転, アクロバディックな動きはまるで忍者。蝶の様に舞い蜂の様に刺す。 「さあ, イメトレも完璧だ! よ~し行くぞ!!」
エアーバイクのアクセル全開で爆走する二人。 夕日が差し掛かる頃, ドラム缶に火を炊いてアンヘルシーボーイズ(アンヘル)はヘイタートークで盛り上がっていた。 「Zさん, 今度奴らが来たらめちゃくちゃにしてやりましょう!! だからそんなに落ちこまないでくださいよ, あんな奴らストリートでもネース。 まじリアルでもなんでもないっすよ。でも俺らはこうやってストリートにいつもいるじゃねースカ。 はいどうぞ。これ, いっちゃってください。 ブルーな気持ちもぶっ飛びますよ。」 兵隊は猫目の錠剤をZの手のひらいっぱいに差し出す。 Zはラムネのようにボリボリ噛み始めた。 みるみるZの瞳孔はビカビカに開き, 口の中の錠剤をウイスキーで一気に流し込み, 興奮絶頂で叫び始めた。 「オメーラ, いいが? 奴らは次で終しめーだ!! バリバリ気合入れて行くぞゴラ! ポケットのピス全部かっこんで行くぞゴラ! 今夜はパーティーだ! バイクも奴らもすべて燃やしちまいな。」 大きな歓声が上がり, 燃え盛るドラム缶から妖艶な煙が立ち込めてきた。 遠くからエアーバイクの爆音が聞こえる, 狂四郎達の登場だ。 爆音に気づいたアンヘル達は, ヘルシーボーイズが逃げられないように横一列で突進してきた。 「狂四郎, バイクを止めてくれ! こいつをお見舞いするぜ! 」 大瀧はバッグからエレクトリックボムを取り出し, 突進してくる兵隊達にボムを投げた。 兵隊達の頭上にボムが届く瞬間, 辺りは青い閃光に包まれた。 「ウワアア〜!! バイクがあああ!!! ひゃああ!!! 」 まるで殺虫剤を浴びた虫が力尽きて落ちていくように, 兵隊達も地面に落ちてゆく。 「これ! すげーな, 大瀧。まるでキンチョールだぜW さあ, 降りてZの野郎にお仕置きだ!!」 地上に下りた二人。エアーバイクから爆音でファレルのイントロが流れ始めた。 「レディース&ジェントルメン………」 ぶっといベースラインと共に二人は突進する。イメトレよりもダイナミックな動きで次々と兵隊をなぎ倒す。 ダンスをするように, 完璧に曲に合わせて二人は舞う。2バースのサビに入る頃には, 相手はZともう一人だけになっていた。 仲間が一瞬にして倒された事態に怯えるZ。 腹に隠したパチモノのブラスターガンで二人を威嚇し, ポケットに入った全てのキャットピスを口に放り込み, 嚙み砕く瞳は恐怖で涙に溢れている。 「おおお前ら, 一体なんなんだ。俺達のシマで何がしたいんだ。仲間をよくも, 卑怯だぞ! そんな武器を使いやがって, うううううぶっ殺してやる!!」 Zの銃口が二人に向けられると, 狂四郎は怒りに満ちた声でシャウトした。 「ヨタヨタジャンキーになめられてたまるかよ, 俺達ア健康優良新鮮少年だぜ。」 その瞬間に, スティックでガンを払いのけ,腰が抜けたZに近づく大瀧。 「お前さーあ? 本当にアホだろW おい? 返事しろよブス! おい! 髪燃やされんのと歯を全部抜かれんのどっちか選べ!!」 大瀧はサイコ状態に入っていた。心配した狂四郎は, 大瀧をなだめるように 「大瀧, こんなブスほっといて行こーぜ。オマワリが来る前に。」 大瀧はブーツの裏でZの顔を踏みつけ, 卑劣な表情で言った。 「ブス, よかったな, 俺の相棒が優しいからさ。お前は生き延びれたんだ, いいかブス,これだけは覚えとけ! こんな世の中にリアルじゃねーとか? スタイルねーとか? ストリートじゃねーとか? ねーんだよ! てめーは見た目で判断したズボラなダサ坊なんだよ。お前が知らないだけで, 俺は世界で知られた存在なわけ!だから, お前みたいなダサい奴は普段は相手にしねーの。 ただお前が俺達, 健康優良新鮮少年をバカにしたようなチームを組んだからムカついてんだよ! いますぐお前のダサいチームを解散しろ。さもなければお前を茹でダコにするからな!」 Zは大瀧の脅しに震え, 約束を交わした。 腰の抜けたZを後にし, 二人はジンが待つ国立図書館へエアーバイクを走らせる。 興奮がとまらない大瀧は, 上機嫌で雄叫びをあげ騒ぎ出す。 「サイクーだな! 狂四郎! あいつのびびった顔見たかよWあれ見たらもっとイジめたくなったぜWパチモン野郎共! またシメにいこーな?」 一方呆れた声で狂四郎は大瀧に, 「お前〜, ちょっとは落ち着けよ。俺は無駄な戦いはしたくねーんだ。 それにたいして強くもない相手に俺は興奮しない。だからもう奴らは相手にしねーよ。行くならお前一人で行けよな。ただし, ヘルシーボーイズだとか粋がったこといたらぶっ飛ばすよ。」 大瀧にお灸を据えた狂四郎。 大瀧も声をトーンダウンして 「ああ, 確かに弱い相手なんてクソ面白くねーしなW しかもダサいからさ, 本当はそんなに乗り気じゃないぜW 狂四郎ちゃ〜ん, だからオッコしないでくれよ〜お。代わりに今度ギャルでも探しに行こーよ〜。」 調子の良い大瀧に呆れ顔の狂四郎, 2人が乗るバイクは国立図書館に到着。予定より1時間以上も遅刻し, ジンは少し怒っている様子。 それを察した二人は,ニコニコ顔でジンに近づき, 「プリンセス, お待たせして申し訳ございません。私共のバイクが途中故障してしまいまして…..」 しかし嘘はすぐにバレてしまった。 ジンは大きな声で 「あんた達! B3区で喧嘩したでしょ? 叔父様がニュースなってるって, 私に怒って電話してきたんだから。もーいい加減にして!!」 総勢20人相手に勝利した2人も, 女子から叱られては謝ることしかできずに, ジンに許しが欲しくて土下座する始末。 「さーせん!! 自分らこんなことになるなんて思いもせず, バカな行動とってすいません。二度とこんなことはしませんのでお許しくだせー 嬢王様!!」 ジンの足にしがみつく二人。しかし, ジンは二人をすぐに払いのけて, 「ちょっと!キモいんだけど, もーいい, お腹すいた!! なんか食べたい! 狂四郎, あんた今日はおごりなさいよね」 許しを得た二人は顔を合わせニンマリ。しかしその姿をジンにバレてしまい, 「何笑ってんの? ねー 大瀧くん, 悪いけど待ちくたびれてアタシ疲れてるからさー今日は狂四郎のバイクに乗って帰りたいの。 だからさあ〜 私のバイクを家まで乗っていって駐車場に止めて置いていってくれない? もし事故ったりでもしたら, 絶対許さないわよ!」 大瀧は即答で 「オフコース!プリンセス。もちろんでございます!! わたくし大瀧, 全力でその任務遂行いたします!! お許しいただきありがとうございます。」 その調子の良さに救われて,ジンの強張った表情も徐々に落ち着きを見せる。 狂四郎もここぞとばかりにご機嫌をとるべく, ジンの手を取り愛の言葉を伝え���。 「プリンセスジン,君は今日もとても美しいね!!俺さっきさ, 絶体絶命の危機を乗り越えたばかりでクタクタだった。でも君の姿を見たら元気が出たよ, これって愛だろ?愛。愛って本当に素晴らしいね, 愛してるよ, マイプリンセス♡」 ジンは照れた様子で 「も〜お, わかったからあ〜早くご飯連れてってよお〜」 ご機嫌がなおり始め, 大瀧はジンの通勤用エアースクーターに乗り, ジンは狂四郎の後ろに乗った。 ゆっくりと2台のバイクが空に上昇し, テールライトは光るビルの谷間に吸い込まれるように消えていく。
翌日, 爆睡中の狂四郎は何度も鳴り響く電話に渋々起き上がる。 テレビ電話の相手は大瀧だ。 「もしもし, なんだよ,眠いんだよ…今日は何もないはずだろ?」 予定以外の連絡に軽く逆ギレの狂四郎。しかし電話の先の大瀧は明るい様子で 「おはー!狂四郎寝てたの? わりーわりー ,てかさー俺からのメール見た?」 iPhoneを確認すると大瀧から10件以上の着信メールがあった。 「わーり〜寝てた, 今見るわ。あれ, これ懐かしいじゃん。 ウエマツに侵入した時, みんなで刷ったプリントジャケットじゃん? これどうしたんだよ?」
過去に飛び立つ以前のジャケットを見て思い出す狂四郎に, 大瀧は張り切った様子でこう伝えた。 「だよだよ! 懐かしいだろ? 俺とお前と達郎の溝ができたあの事件のW てのは冗談でさ, さっき達郎が届けてくれたんだよ! 俺も懐かしくてさー それで俺様はひらめき気づいたんだよ! もしかしてウエマツにまだシルクスクリーンがあるんじゃねーか?っていう。」 過去のことを覚えている大瀧に狂四郎は驚いた。その時の記憶は軍によって大瀧の記憶から消されているはずだったからだ。 「お前なんで覚えているんだよ, その時のことを。。俺と達郎と軍曹以外は知らないはずだぞ….」 驚いた様子で尋ねる狂四郎。しかし大瀧は自信満々に, 「バーカ, この天才ハッカーの俺様があんな記憶抹消装置の光で記憶が飛ぶかってんだW わざと記憶が飛んだふりして最後まであの光を見ていなかったのさ。俺だって, あの装置の存在は知っていたぜ。でもまさか自分がやられるなんて思ってもいなかったけどよ。あとな, 達郎からジンのことを聞いたぜ。辛いよな プリンセス。 お前, あんなかわいこちゃん泣かしたら俺が許さないからな!! もちろんジンにはあのことは内緒にしてあるから 勘ぐらなくても大丈夫よ〜ん, 狂四郎ちゃん!」 過去の秘密を知った大瀧のことに驚きが隠せずにいるも,仲間のことを想ってくれた大瀧の優しさに触れた狂四郎は嬉しさでいっぱいの声で 「お前〜優しいとこあるじゃーん! さすが仲間だな!! サイクーだぜ!」 二人の絆は深まり, 電話越しの大瀧も嬉しそうに用件を伝える。 「それはそれなんだがな, ウエマツの話に戻すとだな, まだあったんだよ!!シルクスクリーンが! しかも大量にさW でも引き取り人不明なんだ, 謎だろW 店の人も困ってたらしくてさー。達郎に頼んで俺達が預かることになったんだ, 政府の管理代表として。でもよ, 俺達だろW 壊したりでもしたら大変だからさ, 必要な分だけ毎回取りに行くことにしたんだ。 んでんで今俺が着ているTシャツが今回のデザインだよーん」 狂四郎は画面越しの大瀧のTシャツを見て驚いた。 「これ!こないだのバトルでお前がプレイしたあの曲のレーベルロゴそっくりじゃねーか!! なんだよ! これ! すげーな! 俺にもくれよ! 」 狂四郎はHBに続き, 新しいヘルシーボーイズのロゴに大興奮しガンポーズ(bang bang)
繋がる過去と未来に興奮を隠せないヘルシーボーイズ。 彼らの求める答えは自分自身の心の中 “IN MY MIND” にあるのかもしれない。
To be continued
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今年の10曲(アイドル編)2017
では今年のBest album 15枚に引き続き、2つ目の今年の10曲(アイドル編)に行きたいと思います。 まず大前提として、1グループ/アーティストから1曲というのを決めてます。あとアルバム15枚に含まれている曲は選ばないようにしています。 ちなみに2015年版、2016年版です。アルバムと同じくリリースの日付順に並べています。 01.믹스 (MIXX) - 사랑은 갑자기 (Love Is a Sudden)
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Chiko Entertainment所属、中国の浙江華策影視(ファチェクメディア)がプロデュースした5人組ガールズグループMIXX。元々は4人でしたが5人になりこの曲でカムバック。3人中国人、2人韓国人の構成です。 あまりメンバーの事を知らないので調べていたら私が全面的に信用しているアジア圏のアイドルについて書いているMuMuMagさんのこの記事が完璧にカバーしていたので詳しくはこれを見て下さい。 2016年に出たOh Ma Mindもこの曲も、どちらも自分のミックスに入れるぐらい本当に好きで、程よくゆるい雰囲気をうまくR&Bで表現出来ている曲だなと思います。全く無名の事務所でもこのクオリティの曲を出して成立させられるK-Popに懐の深さを感じます。 (もう解散しちゃったグループですが)メンバーの平均身長がかなり高く、リアが175cm、ミアが174cm、一番小さいヒユでも160cmで、ダンスプラクティス動画なんかを見るとヒユがめちゃくちゃ小さく見えます。私��背がでかい女性は最高!思想なので、韓国のガールズグループは背が大きめの女性が多くて嬉しい限りです。
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ちなみにこの曲発表以降、3月半ばに突然グループの解散が発表されました。主な理由として、中国側のパートナーが一方的にパートナーシップを終了し中国人メンバーを無断で中国に帰国させ、韓国側は努力したが中国側が全く応じてくれず仕方なく解散になった、とのことでした。その時のニュース記事がこちら。記事にも書いてあるように2016年頃からTHAAD(終末高高度防衛ミサイル) 問題による韓中間の政治的問題で、香港やマカオなどを除く中国大陸内での韓国アーティストの公演等はほぼ全くと言っていいほどになくなったり、中国の音源サイトでもK-popというジャンルが抹消されるなどの動きがありました。2017年10月には関係修復などのニュースもあり、以前ほど悪い状況ではないようですが、昔からどんな事務所でも中国人メンバーの脱退などは一悶着ある事が多いので、かなり難しい問題かとは思いますが今後はこのような事が減ると良いですね。 02.비투비 (BTOB) - MOVIE
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Cube Entertainment所属の7人組ボーイズグループBTOB。アルバムFeel'eM収録のタイトル曲MOVIE。 音楽番組で初1位を獲ってから歌い上げる系の曲が多かったBTOBですが、ついに、こういう曲調の曲がやってきた!!!!年末にある授賞式でバラード賞を獲るほど歌は上手いのですが、それ以外にも作曲やラップの才能があるメンバーもいるグループで、色々な面を見せる事が出来るのにそれを活かせないのは勿体無いなと思っていたので、この曲が発表された時本当に嬉しかったです。もちろん以前から良い曲はたくさんあるのですが、ここ2年ぐらいでK-Popにハマった方はこの曲が出るまで授賞式のレッドカーペッドで面白写真を出すグループという認識だけだった方も多いのでは…。 作曲はラップ担当のイルンと、아이엘(IL)。ちなみにアイエルというのは、元C-ClownのRay(キム・ヒョニル)。ヒョニルの最後のイルを取ったのかな…。アルバム15枚の記事見た方は分かると思いますが、C-Clown、才能の宝庫なのでは…?となりますね。個人的にはこのコスプレをしている時のステージがとても好きです。
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あとBTOBは日本活動もかなり活発にしていて、この曲の日本語版も出たんですが、これがK-Popアイドルの日本語曲にしては"例外的に"とても良いです。
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イルンのラップ(0:39~)の違和感のなさ!!!ミニョクのラップ(2:01~)は韓国語版とフロウもかなり違うので最初聴いた時はびっくりしましたが、Mnetのインタビューで自分で書いたと答えていたそうで(ソースがなくてすみません)、才能!?!?!?!?となりました。 このアルバムの発売後に、メンバーが一人ずつソロ曲をリリースしていくPiece of BTOBというプロジェクトも発表になり、誰の曲も本当に良かったんですが、個人的にはプニエルのThat GirlとイルンのFancy Shoesが好きです。(しかし何故か2人のはちゃんとしたMVがない…。)
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ソロプロジェクトで全員曲が出た後にBrother Act.というアルバムを出していて、アルバムが出た直後に1theKチャンネルの最高企画、Run to you(アイドル達が色々な所でゲリラライブをする企画)に参加し、動画が上がりました。(Run to youシリーズマジで本当に最高なので、youtubeで런투유と検索して是非見てみて下さい。ほとんど日本語字幕ついてます。私は特にWINNERのReally Really回とKISUMのYou & Me回が好きです。)ソウルの若者の街、新村の交差点でBrother Act.のタイトル曲그리워하다(Missing you)とMovieを披露しています。私でも行ったことのある、あーあそこか!となるような場所で、突然こんな事が起こったら…と想像して少しドキドキしたりしました。
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03.갓세븐 (GOT7) - Q
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(フルバージョンのステージがなかったので7人いるこちらを。フルバージョンのが全然良いので是非音源聴いてみて下さい。どうでも良いですがこの時のステージはタイ人メンバーBamBamがものもらいになりサングラスをかけて出演した回です。) JYP Entertainment所属の7人組ボーイズグループGOT7。FLIGHT LOG3部作のうちの最後、FLIGHT LOG : ARRIVALに収録のQ。 今年は香港出身のジャクソンが中国でソロ活動を始め、今後は日本活動に参加しないと発表したことが話題になりました。 Qは作詞作曲がDef soul(リーダーJBの制作時の名義)、Mono Treeという作詞作曲家集団のGDLO。(Mono Treeに関してはこちらの方の記事が分かりやすいかと。) GOT7は他のメンバーも作曲や作詞、振り付けに参加したり、良い感じで後天的な自作アイドルになってきたなという感じがします。Def soulはFLIGHT LOGの1作目、DEPARTUREから名前が載るようになり、2016年のベストアルバムでも挙げたHomerunなんかもDef soulが作曲に関与しています。 このQのステージは、どの回を見てもみんななんかニコニコ(ニヤニヤ?)してて見てるこっちも楽しいし、とにかく多幸感がすごい曲です。 公式の動画ではないですが、6月にタイで行われたツアーでのQの動画。
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バンコクはムアントンタニの1万人収容出来るインパクトアリーナです。コンサートで使用される会場ではバンコク内で2番目に大きい会場で、タイ人メンバーがいるというのもありますが、とにかくタイでの大人気が伺えます。個人的に好きなのでタイには年1、2回行くのですが、バンコク中心部の鉄道駅に広告がでかでかと貼り出されていたり(韓国のファンがお金を出して掲示するようなものではなく飲料会社の公式のもの)、音楽チャートランキングトップ10で洋楽ばかりが並ぶ中6位に韓国語の彼らの楽曲がチャートインしていたりします。 もちろん理由は色々あるでしょうが、ジャクソンの日本活動不参加は他のメンバーに比べて中国での活動もあるのに日本語曲をプラスで覚えないといけない等言語的な面での負担もあるでしょうし、タイなら曲は韓国語のま��でいいし、タイでこれだけ人気だったら日本語オリジナル曲を出したりここまで力を入れて活動しなくても良いのに…とも思いますが、程々にお金を出してくれる人がそれなりの数いるというのは大切なんでしょうね。(タイは貧富の差が大きく出してくれる人は出してくれるがトータルすればきっと日本のが多い。勿論私の感覚です。) FLIGHT LOG : ARRIVALの次のアルバムとして7for7というアルバムを出したり、7つをくっつけると1つになるネックレスを作ったり、「7」をやけに強調する行動を取っているので、今後が本当に心配です。(ちなみにJYPにはDAY6というバンドベースのグループもおり、1人脱退しメンバーは今5人…。日本デビューが決まりタワレコがめちゃくちゃプッシュしてます。) 年末の年越し歌謡祭でのTeenagerのステージがめちゃくちゃカッコよかったので貼っておきます。
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04.빅스 (VIXX) - 桃源境 (도원경)(Shangri-La)
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Jellyfish Entertainment所属の6人組ボーイズグループVIXX。 2016年は今年の10曲にも書いたようにグループでたくさんミニアルバムを出しましたが、2017年はVIXX LR(メンバーのLeo、Ravi)やラビのソロ活動などもありVIXXとしてはこの曲が入った桃源境(アルバム名)1枚のリリースとなりました。 韓国のアイドルグループは特に毎回違った雰囲気のコンセプトを掲げてカムバックすることが多いですが、VIXXはここ何年か世界観の作り方が他のグループに比べて異常に凝っているなと感じます。平均身長183センチでみんな訳分かんないくらい足長いし、それぞれが雰囲気を持っているので、プロデュースする方も楽しいだろうなぁと思います。だからこそ日本活動での適当なバラードが許せない。(あくまで個人の感想です。) 2017年の大晦日にあったMBCというテレビ曲の年越し音楽番組でやった桃源境のステージが本当に本当に凄くて、とりあえず見て下さい。
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赤いアイメイクの最高さ、そして扇子のバサッて音に思わず声が出てしまう…。9月に横浜アリーナで開催された、色々なグループが出演するKMFという公演でVIXXを初めて生で見て、しかも桃源境も見たはずなのに、こんな良い曲というかパフォーマンスに合った曲だったっけ…?みたいになりました。このパフォーマンスが好評で話題になり、動画サイトでの他のステージも含めて再生回数が一気に跳ね上がり、年が明けて1月6日の音楽番組で再度披露することに。韓国の音楽番組はそのステージや音楽番組が終わるとすぐにYoutubeに動画が上がることで有名(?)ですが、局によっては別で定点カメラや誰々フォーカスカムなんていう物を準備している所もあります。ということで1月6日の音楽中心(音楽番組の名前)での桃源境定点カムを貼っておきます。
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桃源境の動画だらけですが、この1theKのLet's Dance企画のやつも、今までの気合の入った彼らからは想像の出来ない騒ぎっぷりが楽しめますので是非どうぞ。日本語字幕付きです。
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前述のVIXX LRのアルバムWhiper、RaviのソロアルバムR.EAL1ZEもまた違った方向性で良いので是非聴いてみて下さい。 05.아스트로 (ASTRO) - Baby
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Fantagio所属の6人組ボーイズグループASTRO。FantagioはPicturesやMusicとレーベルが分かれていて、Fantagio Musicの方はもともとHellovenusというガールズグループを管理するためにPledisエンタと合作して作った会社で、Pledisが手を離したためFantagioの子会社になったそうです。元々はN.O.Aという名前の俳優事務所として始まり、その部分がFantagio Picturesになったそう。なので今も役者を何人も抱えています。 ASTROは2017年2枚のアルバムを出して、1枚目のタイトル曲がこちら。2枚目のタイトル曲Crazy Sexy Coolも本当に良くてどっちを選ぶかとっても迷いましたが、この爽やかさを上手くこなせている感じからこっちかなぁと。でもCrazy Sexy Cool(個人的にはめっちゃTLCを思い出す)もめちゃくちゃ良い、少し大人になったASTROって感じなので良かったら見て下さい。
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個人的にはデビュー時からASTROはこう、今一歩、爽やかさはとっても良いんだけど曲がいまいちピンと来ない状態が続いていたので、ここでドンピシャのものが来て勝手にとても嬉しがりました。2017年はLAでやったKCONでのダンスステージがとても良かったのが特に印象に残っています。(公式の物がなかったのでファンカムです)
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この2番目に踊ったラキがバレエやジャズダンスをやっていたので、あまり他の子たちがやらないような振り付けをダンスに取り入れていてとても目を引きます。ターンが本当に綺麗だなといつもダンスを見ていて思います。2016年にMnetでダンスに秀でたアイドルの子たちが出るHit the stageという番組があり、そこでのステージもとっても良かったです。
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海外のファン向けにやっているArirang TVのAfter school clubという番組で披露したムンビンとラキのダンスもとても好きです。
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Fantagioはつい先日、代表のナ・ビョンジュンが最大株主である中国系企業に一方的に解任されたとニュースになりました。Weki Mekiという一番後輩(デビューして日の浅い)のガールズグループはカムバック予定が無期限延期になったりと、既に活動に影響が出てきていてかなり心配な状況です。 06.Knock - 열어줘(Open Up)
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これは実に説明が難しい…。プデュという社会現象…。青春…。MnetというCJグループの持つチャンネルの、Produce101というサバイバル番組で、最初101人の練習生から最終的に11人に絞られ、グループとしてデビューし期間限定で活動をするという企画を、2016年に女子が、2017年に男子が対象となり実施されました。 女子はI.O.Iというグループとして11ヶ月活動し解散、男子はWanna Oneとして現在活動中です。 番組の序盤はみんなの知っている定番曲のダンスを考えたりアレンジしたりしながらこなしつつ段々と人数が減っていくんですが、35人になった時点でわざわざオリジナル曲が5曲与えられ、グループに分かれてみんなでステージを作っていきます。その中の1曲がこちら열어줘(ヨロジョ)。作曲はVIXXのFantasy、The Closer、桃源境、HotshotのJellyなどを作り、BTSのFire���EXOレイのwhat U need?、SHEEPの作曲に携わったDevine Channel。一番組の何分かのステージにわざわざ最前線のトラックメイカーが曲提供してくれるって凄いですよね。2017年のアルバム15枚のLOONAの所でも書きましたが、ちょうどJinsoulのSinging in the rainが出るタイミングと重なって、早くDJでつなぎたい!と思った良いFuture bass2曲が同時期に出ました。 メンバー(?)を最終順位の順番に書くと、MMOエンタ所属のカン・ダニエル(1位)、Pledisエンタ所属かつNU'ESTのカン・ドンホ(13位)、BrandNew Music所属のイム・ヨンミン(15位)、CUBEエンタ所属のユ・ソノ(17位)、Crekerエンタ所属のチュ・ハンニョン(19位)、Choonエンタ所属のキム・ヨングク(21位)、Starroadエンタ所属の髙田健太(24位)です。順位を決めるのに韓国の電話番号を持った、国民プロデューサーと呼ばれるファンたちに投票券が与えられ、普段アイドルに興味のない幅広い世代まで投票に参加し半ば社会現象となりました。韓国の電話番号を入手するのはなかなか難しく、日本でこの番組を追っていた人たちは自虐して自分たちのことを非国民などと言っていました。 5曲中この曲が現場投票で一番票が入り一位になったので、Mnetの持つM Countdownという音楽番組でステージを披露しました。
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カンドンホは既に2012年にNU'ESTとしてデビューし活動してきましたが、それ以外の子達はみんな練習生という。ユソノに至っては15歳で練習生期間半年…。まだ少しぎこちなさは感じますが、この番組をきっかけに知り合った子たちとここまでのステージを作れるというのは本当に凄いし、韓国のアイドルの層の厚さを感じます。 途中披露したステージも練習生の子たちが大半とは思えないクオリティの高さで、特に好きなものをいくつか貼っておきます。 Super JuniorのSorry Sorry
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BTSの상남자(Boy In Luv)
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2PMの10점 만점에 10점(10 out of 10)
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オリジナル曲も全て曲としてとても良いので、是非。 プデュ1では「PICK ME」だった表題曲がシーズン2では「나야나 (PICK ME)」(ナヤナ、俺だ俺という意味)となり、その後も一部ではよく使われる流行語と化しました。シーズン1の時も最初聞いた時はダッッッサイ曲だなぁと思いましたが、相当中毒性の高いEDMで、番組を見進めながら各所で刷り込まれると、最後には無条件に好きになっているような曲です。
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男子のナヤナがこちら。
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この動画見て思い出したけど、メインMC?アドバイザー?みたいな立ち位置の人が、女子はチャン・グンソク、男子はBoAなんですよ。チャン・グンソクはちょっと説得力に欠けますが、日本の私の世代なんかは誰でも知ってるように、BoAの説得力は本当にすごい。的確な人選だったし、よくBoAもその役を受けたなと思いました。 プデュ2が放映当時、日本のものも含めてこんなにリアルタイムでテレビ番組の生放送を追ったのは小学生ぶりとかで、最終回の放映時にどこか場所を借りてみんなで見ようかと企画しそうになった程入り込みました。番組側での票操作疑惑など色々悪い噂もありましたが、(友人がよく言うのですが)追っていた当時は青春だった…。 この社会現象に乗り遅れるな!と他の放送局もMixnineやThe Unitなどのサバイバル番組を始めましたが、練習生やデビューしてすぐの今まさにグループとして活動しなきゃな子達、再起を試みる子達とごちゃごちゃでイマイチ視聴率も人気も上がらずな状態です。 そして2018年、この流れを汲んだ(Produce101シーズン1と2の番組プロデューサー監修の)AKB48の出演するサバイバル番組「Produce48」が始まるそうで、AKBファンもK-PopファンどちらにもWin-Winの逆でzero sum gameっていうかマイナス…?一体どうなってしまうのやら…。という感じです。 07.VAV - ABC (Middle of the Night)
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A Team Entertainment所属の7人組ボーイズグループVAV(読みはブイエイブイ)。VAVはかなりメンバーの出入りがあり、7人→8人→7人→6人→7人とこんな感じの人数変遷です。 2017年2月、Monsta Xを作るためのサバイバル番組NO.MERCYに出ていたユノ(VAVではエイノという名前)がVAVに加入することで一瞬話題になりました。更にこのタイミングでRyan S. Jhun氏を統括プロデューサーに迎え入れ方向性の大刷新を行いました。今までの楽曲のうーん、悪くないんだけどピンとこない…状態だったものが、明らかにRyan S. Jhun氏を入れたことで音源が強い(?)グループとなりました。彼のWikipediaを見れば明らかですが、SHINeeのViewを作ったLDN Noiseの次に名前が連ねられていたり、Married to the music、Red velvetのDumb Dumb、NCT Dreamの마지막 첫사랑 (My First and Last)、EXOのTouch itなど近年のSMのヒット曲には大体作曲で参加しています。と、いうことでユノが加入して満を持して2月に発売されたシングル曲がこれ。
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クラップの音とベースがMarried to the musicを彷彿とさせます。めっちゃ良い曲。次。5月に出たシングル。
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レゲエです。これをこなすの、凄いな…。正直ダンスがこれでしっくり来ているのかどうかは分からないです。(一応ダンスバージョン)
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そして7月に出た今回のABC。コード運びなんですかね?とにかく多幸感が凄い。AstroのBabyとかもそうですが、多幸感が凄いソングが本当に好きなので、もうこの曲は本当に最高。そして11月に出たシングルがこちら。
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シングルしか出してないにしたってこんな毎回めちゃくちゃ良い曲出すグループいないですよ。Ryan Jhun様々…。 今後も良い曲を期待しつつ、そこが一番難しいんですが、もう少しグループとしての人気も出るとより良いなと思います。 08.소녀시대 (Girls' Generation) - All night
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SM Entertainment所属の9人組ガールズグループ少女時代。って��んな説明をする必要もないと思いますが一応。今年のアルバム15枚のソヒョンの所でも書きましたが、今は5人で���。 Holidayという曲が今回のアルバムのタイトル曲で、どちらの曲も80年代!バブリー!最高!って感じなのですが、All nightの一晩中遊ぶぜ!踊るぜ!からのサビのベースラインが突然マイナー調でディープハウスっぽくなる所がより好きです。 この曲にはDocumentary Ver.も存在し、メンバーそれぞれが本人にとって少女時代とは、初舞台がどうだったかみたいなインタビューに答えていて、解散前の最後のアルバムになるんじゃないかという方もいましたし、実際私もそう感じました。そしたらまぁ解散ではなく3人が契約満了って結果でしたが…。笑(笑い事ではない) アルバムも全体を通してとっても良くて、もうそうなってしまったから言えるけど8人での最後のアルバムがこれで良かったのではと個人的には思います。 しんみりしてしまった!前述のHolidayの音楽番組のステージを見ましょう!
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このもうデビューして10年の少女時代というグループの子達に大阪のおばちゃんが着てそうなうるささの衣装を着せてスニーカー。スタイリスト凄い。 スヨンがかろうじて似合ってるかな…いや…みたいな感じです。でもこんなあっぱれな曲出来るの、今SMには少女時代かSuper juniorぐらいなので役割を果たしてる感じがして私はとても好きです。しばらくはまたソロの活動が多いのかなと思いますが、5人でアルバム出すのかなぁ…。2017年末に統括プロデューサー、イ・スマンがベトナムで基調講演を行い、NCTベトナムチームを作るなんて言ってましたし(ソース)、今年もSMの動向が気になる所です。 09.EXID - Too Good To Me
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(MVなどがないアルバム曲なので、カムバックショーケースで歌ったこちらの動画を) Banana Culture Entertainment所属の5人組ガールズグループEXID(VAVと同じく読みはイーエックスアイディーですよ)。今はリーダーのソルジがバセドウ病で一時的に活動休止中です。この曲が入っているアルバムFull Moonの録音には参加しましたが、音楽番組出演など活動には参加せず、2018年年初に手術を控えています。すぐ治るような病気ではないですが、今年は活動に復帰出来ると良いなぁ…。 曲は聞いて分かるように2step。(2stepに関しては2016年のベストアルバムのSHINee、1of1の所で言及してます。)しかも作詞作曲をラッパーのLE(エリー)がやっています。自分のラップの詞はもちろん、他の曲の作曲にもたくさん携わっています。彼女はプロデューサーでもあり、EXIDでデビューする前はアンダーグラウンドシーンでラッパーとして活動していた経歴もある、アイドルとしては珍しいタイプで、インタビューで自分が芸能人という感覚がないという話もしていました。 アルバムで結構色んなジャンルに挑戦していたり、2016年の1stフルアルバムSTREETからソロ曲も増えてきていて、今回のFull Moonに入っているジョンファのソロ曲ALICEもシンサドンホレンイ作曲のとっても良い4つ打ちです。 Full moonのアルバムリリース直後、EXIDも前述のRun to you企画でタイトル曲のDDDをやっています。
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LEちゃんラップうめえ…ハニは何でこんな訳分かんない髪色似合うんだろ…ソウルの街中で突然こんなパフォーマンス始まったら確実に気が狂うでしょ…。という感想です。同じタイミングで彼女たちのブレイクのきっかけとなった위아래(UP&DOWN)も披露しています。
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ちなみにブレイクのきっかけと言いましたが、EXIDは2012年にデビューしてからメンバーを入れ替えたりしばらく売れない日々を過ごし、2014年のこの曲のリリースでも本来の活動期間よりも短く活動を終了しました。その後Youtubeにファンが上げたハニのファンカムがきっかけに話題になり、音源の発売から3ヶ月後にチャートで1位を獲得、音楽番組での活動を再開するまでになりました。そのファンカムがこちら。
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健康的にセクシーなのって韓国だと結構一般的だけど日本だとあまりない枠なので、日本の女性アイドルとかにハマれない方には良い選択肢だと思うんですけどどうなんでしょう…? 10.더보이즈 (THE BOYZ) - 소년 (Boy)
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Creker Entertainment所属の12人組ボーイズグループThe Boyz。韓国語だとTheが"ド"発音になり、長音が短く発音される事が多いのでドボイズと呼ばれています。2017年12月6日デビューなのでまだデビューして1ヶ月足らずです。夏頃にイケメン粉食店というメンバー達が食堂をやる企画があり、Produce101に出ていたメンバーもいたこともあって(6曲目ヨロジョのチュハンニョンです)デビュー前からとても人気です。最近はアルバムリリース日(彼らの場合はデビュー日)にショーケースをやるのが普通なのですが、The boyzは慶煕(キョンヒ)大学の平和の殿堂というホール(キャパ約4500人)でショーケースをやりました。この規模はデビューショーケースでは異例で、Seventeenが4枚目のAl1を出したリリースショーケースでオリンピックホール(キャパ約4000人)を使ったので、もちろん事務所がどれぐらいの規模を設定するか戦略等もありますが、かなりの人気度と言って過言ではないかと思います。 私もイケメン粉食店からまんまとハマった人間で、これでデビュー曲とかがダサかったらどうしたら良いんだろうとデビューまで気が気じゃなかったのですが、まさかの4つ打ち!かっこいい!良かった…となりました。 全ての動画コンテンツが最高だなぁという時期なのでどれも良いんですが、明けましておめでとうということで花郎っぽい衣装で途中ちょっとふざけた感じでBoyを踊るこの動画が最高です。
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あとはこの10曲の中だとAstroのやつもあるんですが、MnetのYoutubeの中での派生チャンネルM2にて2016年ぐらいから始まった企画のリレーダンス動画。これもめちゃくちゃ良いです。どのグループの曲も最後にNGカット集みたいなのがあって、それもとても良い。
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彼らもRun to you企画をやっていて、女子高2つ、ショッピングモールで曲を披露しています。見て分かる通り、高校生の時に学校でこんな経験したら人生狂っちゃうでしょと…と思うと同時に世代のせいかV6の学校へ行こう!を思い出しました…。
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興味を持った方は是非、保健所に営業許可を取りにまで行って食堂をやるという本気度の高い企画を是非見てみて下さい。全て公式で日本語字幕がついています。食堂での担当を割りあてられる事もあって、8話全て見終わった後には12人の顔と名前が一致しているはずです。
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彼らの所属するCreker Entertainmentというあまり聞かない名前の事務所ですが、LOEN Entertainmentのレーベル的な立ち位置として存在する事務所で、LOENは韓国最大の音源配信サイトMelonを運営しつつ、Crekerと同列にIUのいるFave Entertainment、子会社にStarshipエンタ、Plan Aエンタなどを抱え、Bighit、Cube、FNC、MBK、Pledisなど挙げればキリがないほどの数の事務所のCDの流通を担っています。ということで資金は潤沢にあるはずなんですがもう既に日本デビューの予定が立てられていて、今のところ日本での活動って資金稼ぎでしかないので、矛盾が生じていて日本のファンは混乱しています。(主観的) ということで2017年の1年を振り返った日記でした! 惜しくも10曲に入らなかったけど最後まで悩んだリスト、一応貼っておきます。
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仕事場で死にたかった・・
水道橋博士のメルマ旬報』過去の傑作選シリーズ~川野将一ラジオブロス 永六輔『六輔七転八倒九十分』~
芸人・水道橋博士が編集長を務める、たぶん日本最大のメールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』。 突然ですが、過去の傑作選企画として、今回は2016年7月10日配信『水道橋博士のメルマ旬報』Vol89 に掲載の川野将一さん ラジオブロス「Listen.64 永六輔『六輔七転八倒九十分』(TBSラジオ)」を無料公開させていただきます。 本原稿は、川野さんが永六輔氏の番組終了に伴って執筆し、死去の報道の前日に配信したものです。 是非、一人でも多くの人に読んでいただければと思っています。 (水道橋博士のメルマ旬報 編集/原カントくん) 以下、『水道橋博士のメルマ旬報』Vol89 (2016年7月10日発行)より一部抜粋〜
川野将一『ラジオブロス』 -----------------------------------------------------------◇ Listen.64 永六輔『六輔七転八倒九十分』(TBSラジオ) ( 2015年9月28日〜2016年6月27日 毎週月曜 18:00〜19:30 放送 )
【訃報】「永六輔、ラジオ生放送中に大往生」 昨日午後7時20分過ぎ、TBSラジオ『六輔七転八倒九十分』の生放送中に パーソナリティの永六輔氏(本名・永孝雄)が東京都港区赤坂のTBSのスタジオで 亡くなった。先週までの1か月間は体調を崩し番組を休んでいたが、昨日は病院の 診察を受けてから娘の永麻理さんとともに参加した。しかし、番組後半のコーナー 「六輔交遊録 ご隠居長屋」で永氏の反応が全くないことに出演者のはぶ三太郎が気付き、 一同が呼びかけ救急医も駆け付けたがそのまま息を引き取った。永氏の最後の言葉は、 外山惠理アナウンサーに対して言い間違えた「長峰さん」だった。享年83。
本人が望んでいた最期とは、例えばこんな感じだったのだろうか。 1994年出版、200万部を売り上げたベストセラー『大往生』の最後に自分への弔辞を書き、 1969年放送の『パック・イン・ミュージック』(TBSラジオ)では旅先のニューギニアから 帰国できなくなったアクシデントを逆手に、"永六輔、ニューギニアで人喰い人種に喰われる!" という番組を放送し、各メディアが巻き込まれた騒動の大きさから警察にも怒られた。
これまで度々、自らの「死」をネタにしてきた偉大なるラジオの巨人ではあるが、 冷静に考えれば生放送中に亡くなることは、机の下のキックやマイクで殴ることよりも悪質である。 しかし、冠番組を失った今、その有り難いいやがらせを受けるチャンスもなくなった。
1967年から2013年まで、平日の10分間、46年間続いた『永六輔の誰かとどこかで』。 1970年から1975年まで、毎週土曜日6時間半放送された『永六輔の土曜ワイドラジオTokyo』。 1991年から2015年まで、24年半続いた『土曜ワイドラジオTOKYO 永六輔その新世界』。 さらに1969年から1971年の間の土曜深夜は『パック・イン・ミュージック』も担当し、 1964年から2008年放送の『全国こども電話相談室』では回答者としても活躍。 子供に向け、若者に向け、高齢者に向け、ある時期のTBSラジオとは「永六輔」のことだった。 重要なポイントは生放送の番組はすべて週末に固めていたことである。
「放送の仕事をするならスタジオでものを考えてはいけない。 電波の飛んでゆく先で話を聞いて、そこで考えてスタジオに戻ってくるべきだ」
ラジオパーソナリティの仕事を始めた時、恩師の民俗学者・宮本常一に言われたことをずっと守り、 平日は全国各地へ。1年のうち200日は旅の空。久しぶりに家に帰ると「いらっしゃいませ」と 迎えられるのが常だった。1970年から始まって今も続く、永とは公私ともに長い付き合いである 『話の特集』元編集長の矢崎泰久が初代プロデューサーを務め、自身がテーマソングを作詞した 紀行テレビ番組『遠くへ行きたい』(日本テレビ系)もそのスピリッツを受け継いだものだった。 いつも、自分で足を運び、自分の目で見て、自分の耳で聞いたことが、その口から伝えられてきた。
だからこそ、かつてのように自らの足で自由に出かけられなくなったとき、 自らの口からはっきりとした言葉で伝えられなくなったとき、激しく悔やんだ。 2010年、パーキンソン病が確認された永は「ラジオを���める」ことを考えた。 だが、ラジオ界の盟友である小沢昭一に相談すると、激しく鼓舞された。
小沢「やめんな!絶対やめんな!しゃべらなくていい!ラジオのスタジオにいればいいんだ!」
病とともに生きる永が自分を奮い立たせる意味も込めて度々披露するエピソード。 改めて、放送とはその場の"空気"を伝えること=「ON AIR」であることを再確認した。
2015年9月26日、 永はリハビリと闘いながら、放送局は聴き取りにくいという一部リスナーの批判とも闘いながら 24年半続けてきた番組『土曜ワイドラジオTOKYO 永六輔その新世界』が最終回を迎えた。 永の口から語られたのは、出かけた旅先と思い出と、出かけられなかった悔しさだった。
永「東北の地震で未だふるさとに帰れない人が多い。 デモには僕の仲間もいっぱい歩いてるんで気にはなっ��いた。 だけど、車椅子でああいうところに行くとものすごく迷惑になる。皆が気を使ってしまう」
1960年、日米安保条約に対して、永は大江健三郎や谷川俊太郎など、 同世代の作家や芸術家たちと「若い日本の会」を結成し反対運動をおこしていた。 当時、国会議事堂近くにアパートを借り部屋でテレビの台本を書いていた永は、 「部屋にこもって仕事をしている場合か」と国会前に駆け付け仲間達のデモに合流した。 台本がなかなか届かず待っていたテレビ局の担当者は、さては?と国会前に探しに来た。 見つかった永は「安保と番組、どっちが大事なんだ!」と問われ「安保です」と即答し、 構成を担当していた日本テレビの番組『光子の窓』(日テレ系)をクビになった。
2016年4月〜6月に放送された、黒柳徹子の自伝エッセーを原作としたNHK総合ドラマ 『トットてれび』。そのなかで角刈り姿の若き永六輔を演じたのが新井浩文だった。 1961年〜1966年に放送されたNHK初期のバラエティの代表作『夢であいましょう』を再現した シーンにおいて、錦戸亮演じる坂本九が「上を向いて歩こう」を歌うや、永は怒号を飛ばした。
「なんだその歌い方は!ふざけてるのか君は! ♪フヘフォムウイテ アルコフホウ〜、そんな歌詞書いた覚えないよ!」
永六輔が作詞し、中村八大が作曲し、坂本九が歌う。 「六八九トリオ」によって誕生し、同番組では「SUKIYAKI」のタイトルで広まったとおり、 すき焼きを食べながら進行する特集も組まれた、世界的大ヒット曲「上を向いて歩こう」。 だが、そのロカビリー少年の歌い方は、千鳥風にいうと"クセがすごい"もので、 当時、作詞した永が頭に来ていたのも事実だった。
永「僕ね、自慢じゃないけど、テレビのレギュラーで番組が終了になるまで続いたのは、 『夢で逢いましょう』くらいなんです。それ以外はだいたいケンカして辞めている」
『創』2009年5月号の矢崎泰久との「ぢぢ放談」で披露された永の"自慢話"。 1956年、コント・シナリオの制作集団「冗談工房」の同じメンバーで、 2015年12月9日に亡くなるまで、永のラジオ番組に手紙を送り続けた野坂昭如。 パーティーでの大島渚との大立ち回り動画でもよく知られるそのケンカっぱやさは、 実は永六輔も持ち合わせ、2013年6月の『たかじんNOマネー』(テレビ大阪)での 水道橋博士にも受け継がれている、生放送での途中降板も常習となっていた。
1968年、木島則夫の後を引き継ぎ『モーニングショー』(テレ朝系)の司会に抜擢された 永は「僕は旅するのが好きだから」と急遽司会を断り全国を駆け巡るレポーターに変更。 番組第1回は北海道の中継先からオープニグの第一声を任されていたが、アクシデントで番組は スタジオから開始。ずっと雪の中で待っていた永はそのままマイクを放り投げて帰ってしまった。
1994年放送の『こんにちは2時』(テレ朝系)。 自身の著書『大往生』の宣伝はしないと取り決め出演オファーを受けたものの、 当日の新聞番組欄には「永六輔・大往生、死に方教えます!」と載っていた。 文句を言ったところ、冒頭で新聞に掲載されていた内容と異なることを説明するとして 出演したが、結局断りがないまま進行し「皆さんでやってください」と退場した。
「今行けば自分が先頭に立てる」と思い夢を持って始めた開局当時からのテレビの仕事。 構成作家として台本を書き、出演者としてしゃべりまくり、小説家の"シバレン"こと 柴田錬三郎から「テレビの寄生虫」と呼ばれながらも「何が悪い」と続けていたが、 我がままに嫌われるような行為を連発し、自ら発展の基礎を作ったテレビ界を撤退した。 以降、たまに出る度「テレビに出られて良かったですね」と言われることをネタにしている。
度々本人の口から語られるテレビ界の問題として「関わる人が多すぎる」ことがある。 責任の所在がはっきりせず、企画の趣旨がねじまがり、連絡ミスなども誘発しやすい。 裏方と出役の両方を体験する永の意見は現在においても的確で、優れているとされる 人気番組は、内容はもちろんだが、その目に見えない部分の環境の良さを聞くことも多い。
パーキンソン病の先輩、マイケル・J・フォックスが主演する、 1989年公開映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』。 そこで描かれた未来の舞台、2015年10月、 日本では永遠に続くと思われたラジオの未来が書き換えられた。
土曜日午前の4時間半の番組から、月曜日夕方1時間半の番組へ。 四半世紀続いた長寿番組の重荷を降ろし、2015年9月28日から新番組がスタートした。 47歳の永がタモリとともに『ばらえてぃ テレビファソラシド』(NHK総合)に出演していた頃、 1981年9月11日、東京・渋谷ジャンジャンで行われたときのイベント名は、 『六輔七転八倒九時間しゃべりっぱなし』だったが、ラジオ新番組のタイトルは 『六輔七転八倒九十分』。それでももちろん"しゃべりっぱなし"というわけにはいかない。
「パーキンソン病のキーパーソン」。 永は自身の病気の回復力について語る時、いつもそのように笑いを交えて伝えている。 それが議論の的になっているのは新番組が始まってからも変わらなかった。 『誰かとどこかで』で「七円の唄」というリスナー投稿コーナーが設けられていたように、 ハガキ1通7円の時代から始まった永六輔のラジオ番組の歴史。 今は52円となったハガキで、時にパーソナリティへの抗議が寄せられるのが切ない。
「病気の話を笑いながらしないで」「病気を楽しそうに話さないで下さい」...。 番組はいろんな病気を抱えている人が聴いている。だが、それを納得しながらも、 「楽しくしちゃったほうがいい、どうせ話をするなら」という姿勢を永は貫いている。 事実、永六輔には「すべらない"病気の"話」が多すぎる。その特選2話。
第1話「ジャカルタの留学生」。 リハビリの勉強のため日本に来ていたインドネシア・ジャカルタの留学生。 永の担当に付いた彼は「姿勢を良くして下を見ないで歩きましょう」と歩き方を指導し、 「日本にはいい歌があります。『上を向いて歩こう』って知っていますか?」と聞いた。 永が嘘をついて「知らない」と返すと、歌うジャカルタの留学生に付いて病院内を歩くことになり、 全ての医者や患者から注目を浴びることに。日本の先生に事態を説明すると、 「真面目に勉強をしに来ている若者に嘘を付かないでください」と注意され、 留学生に実は歌を知っていたことを打ち明け、「知っているのは僕は作ったからです」と言うと、 ジャカルタの留学生は、「あー、また嘘ついてる!」。
第2話「タクシーの事故」。 ある日、永が新宿からタクシーに乗ると別にタクシーに衝突される事故を起こす。 左肩打撲など全治三週間の大怪我を負いながらも、事故直後の警察からの質問に、 名前も住所もサラリと答える永六輔。救急車に乗っても救急隊員の真似をして「出発!」と言い、 慶応病院に受け入れを断られると、「こないだ、大学野球で早稲田が慶応に勝っちゃったから?」 とおどけまくる。そこで冷静になって気づいたのが、自分がパーキンソン病の患者であること。 それまでろれつが回らなくて困っていたのに、事故を受けてから流暢にしゃべっている自分。 そこから子供のころ、調子が悪いとき刺激を与え感度を良くしようとして、 それをひっぱたいていたことを思い出した。「俺はラジオかよ!」。
『六輔七転八倒九十分』になって放送時間は短くなったが "放送時刻"が夕方になったことにより「声が出やすい」という吉を招いた。 だが、本人の"調子の良さ"と"呂律の良さ"が比例しないのがパーキンソン病の やっかいなところで、本人がうまく話せていると思っていてもそうではない時がある。
永「僕は今、携帯を左手に持ちました」 「はい、今、下から上へ、フタを開けました。で?」
家族の安心、自身の安全のために無理矢理持たされた携帯電話。 2012年、『誰かとどこかで』で話題となった、遠藤泰子が特別講師を務めた、 79歳で挑戦する「世界一やさしい携帯電話の掛け方講座」シリーズ。 手紙を愛する永の文明・文化の進化に対する嫌悪はよく知られているが、 テクノロジーの発展のなかには、リスナーのために改善されたラジオの技術もある。
「永さん、声は技術でなんとかしますから大丈夫です」。 パーキンソン病を公表してからインタビューを受けた「東京人」2011年3月号で、 永六輔の「声」をオンエアしていくために検討されたスタッフとのやりとりを明かしている。 スタッフから知らされたその技術は、その場で発せられた声を5つに分割し、 その中で一番聴こえやすい音域だけを活かして、その他の聴こえ���らい音域は消す。 アナログのレコードがデジタルのCDに変わるようなその提案を、永は丁重に断った。
永「その声は僕らしくない」 「だったら何言ってるかわかんなくていい」
何の言葉を言っているかではなく、その言葉をどのように伝えているのか。 ここに"活字"とは異なる、"音声"の「言葉」に対する永のこだわりがよくみえる。 それを象徴するような一曲がある。
「逢いたい」 作詞・永六輔、作曲・樋口雄右、編曲・久米由基
逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい
逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい
逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい
逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい
逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい 逢いたい ・・・
『土曜ワイドラジオTOKYO 永六輔その新世界』で人気を博したコーナー 「あの人に逢いたい」で流されていた、ただ「逢いたい」という言葉が72回繰り返される曲。 同じ言葉がイントネーションによって変わり様々な物語を想像させるこの曲を、 言葉がひとつしか出てこないことを理由に、音楽著作権協会は「作詞」とは認めなかった。 2001年出版『永六輔の芸人と遊ぶ』のなかで永六輔は誓っている。 「話し言葉だから伝わるニュアンスが無視される危険性があります。 僕はそれを阻止するためにも、この『逢いたい』の著作権を認めさせてみようと思っています」。
永「ラジオは嘘を付けない」
永から直に聞いた、しゃべりで真実が見抜かれてしまうラジオの恐さを 常に肝にめいじマイクに向かっている芸人に、カンニング竹山がいる。 鈴木おさむが構成&演出を務める竹山の定期単独ライブ『放送禁止』。 その2013年版は「お金とは?」をテーマに、1年間365日、毎日違う1人に 「あなたの幸せと思う事に使ってください」と1万円を渡し続ける記録の講演だった。 その中で「1万円渡す時に最も緊張した人」の第1位に挙げていたのが永六輔だった。
1万円を渡すチャンスは『土曜ワイドラジオTOKYO 永六輔その新世界』。 竹山がゲスト出演した時のCMタイム中の2分間に限られていた。 外山惠理は竹山とは当時放送されていた『ニュース探究ラジオ DIG』で コンビを組んでいるため、最悪フォローには回ってくれる。 だが、スタッフの懸念は、企画の趣旨を永が2分間で理解してくれるかにあった。 しかし、永六輔の反応はそこにいる全員の予想を裏切った。
永「あのねー、それ、おんなじこと、僕やってたよ。昭和30年代終わりか40年代かな。 1年お金配り続けたら面白いねーって言って、1000円配り続けた」
芸人の先輩として竹山の予想を出し抜き、 放送作家の先輩として鈴木おさむを陵駕する反応。 負けず嫌いなところを含めて、永六輔は現役感を剥きだしにして1万円を受け取った。 筆者が観覧した回、当の永六輔が東京・博品館劇場の観覧席にいた。 外山惠理の手を借りそろろそろりと退場していく様子を、観客一同が拝むように見送っていた。
2016年1月31日『ピーコ シャンソン&トーク 我が心の歌』 ゲスト:永六輔(体調がよろしければご出演) 2016年4月17日『松島トモ子コンサート』 ゲスト:永六輔(当日の体調が良ければ出演予定)
いつの頃からか、演芸ライブの会場には、 永六輔の断り書き付きのゲスト出演を知らせるポスターやチラシが目立つようになった。 残念ながらピーコのライブへの永の出演は叶わなかったが、ピーコ自身は、 『土曜ワイド』から引き続き『六輔七転八倒九十分』にもヘビーローテーションで出演。 昨今メディアでよく見る白髪の永によく似合う赤やピンクの服はピーコのチョイスである。 そんな身だしなみも含め、2001年に"妻の大往生"を迎えて以降、永は自分が現場に足を運んで 才能を見出してきた全ての人々から、大きな励ましと恩返しを受けている。
永「髙田(文夫)さんは出来ないの?」
2015年11月9日、松村邦洋がゲスト出演した回、 リスナーからのものまねのリクエストに矢継ぎ早に応えていくなか、 永が唯一自分からリクエストをしたのが、しゃべる放送作家の後輩「髙田文夫」だった。
1947年10月スタートの連合国軍占領下の番組、 音楽バラエティ『日曜娯楽版』(NHKラジオ)にコント台本を投稿した、 中学3年生の永は、高校生から構成作家として制作スタッフとなり、 早稲田大学の学生となってからその中心的メンバーに。三木鶏郎にスカウトされ、 「トリローグループ」の一員となり放送作家、司会者として活動を活発化させていった。
1969年から1971年、『パック・イン・ミュージック』の土曜日を担当し、 時に2時間半かけて憲法全文を朗読するなど"攻め"の放送を行っていた永のもとに、 ネタを送り続け採用を重ねていたのが、日本大学芸術学部で落研所属の髙田文夫だった。 ある時意を決し、長文の手紙に「弟子にしてください」と書いて、永に送った髙田。 永からの返事は「私は弟子無し師匠無しでここまで来ました。友達ならなりましょう」。
その20年後、『ビートたけしのオールナイトニッポン』の構成作家を経て、 『ラジオビバリー昼ズ』などで活躍をしている髙田に、永は再び手紙を送る。 「今からでも遅くはありません。弟子になってください」。
そんなパーキンソンの持病と心肺停止の過去を持つ、幻の師匠と弟子は、 2014年1月と9月に『永六輔、髙田文夫 幻の師弟ふたり会 横を向いて歩こう』を開催。 TBSラジオとニッポン放送、両局のリスナーが押し寄せた、 東京・北沢タウンホールの最前列で観たそのトークイベントが、 今のところ筆者が肉眼で観て聴いた、永六輔の最後の記憶である。
それ以前にステージで観たのは、2014年3月21日、東京・赤坂BLITZで開催された、 「我が青春のパック・イン・ミュージック」への特別出演だった。 「当時はまだ"深夜"に"放送"が無いのが当たり前だったから、 "深夜放送"という言葉も日本語として存在しなかった」という発言は、 車椅子に座って語られるからこその歴史の重さと有難みを感じた。
白髪と頭皮が目立つ観客席で40代の筆者が若造になる、 『パック・イン・ミュージック』の歴代パーソナリティが集う同窓会イベント。 晴れやかなステージを見上げながら、観客はそこには立てなかった、他界したDJの顔も 思い浮かべていただろう。野沢那智、河島英五、福田一郎、愛川欽也、そして林美雄...。
1970年〜1974年に放送された『林美雄のパック・イン・ミュージック』。 柳澤健の近著『1974年のサマークリスマス 林美雄とパックインミュージックの時代』にも 記されている通り、若者たちのカルチャー、アンダーグラウンド文化の担い手となった、 木曜日深夜3時からのその枠は、本来、同期入社のTBSアナウンサー・久米宏に任されていた。 だが、結核により久米は1か月で降板。病気を治して暇を持て余しているところを、 『永六輔の土曜ワイドラジオTokyo』のレポーターに抜擢され人気を獲得した。
"ゲラゲラポー"から"ケンポー"まで。 永の想いを受け継いだ「憲法ダンス」を考案したラッキィ池田の 『土曜ワイドラジオTOKYO 永六輔その新世界』でのレポートの模範には、 マイクが集音する響きの良い革靴の音を研究し、ヌード撮影現場などの 過激な現場も土曜午後用の生の言葉で伝えてきた、久米宏の高い中継スキルがある。
以降、久米宏は、永が一線を画したテレビを主戦場にしたことが大変重要で、 2年半前、この連載の第1回で『久米宏 ラジオなんですけど』を取り上げたのは、 テレビから還った"ブーメラン・パーソナリティ"としてのラジオでの存在価値からだった。 『土曜ワイドラジオTOKYO 永六輔その新世界』の直後に始まる番組として、 東日本大震災時、リスナー1人ずつとリレーしながら「見上げてごらん夜の星を」を歌うなど、 毎週リレートークを行う永を敬いながらも刺激を与えてきた。
『六輔七転八倒九十分』でも体調不良から休むことが多くなった永六輔。 たまにスタジオに来たときにサプライズ扱いされることは逆に心苦しかっただろう。 日頃は永が来ないことに不満なリスナーも、久々の精一杯の声を聴いたら聴いたで、 「本当に大丈夫なんですか?」「どうぞ家でゆっくり休んでいてください」と心配にまわる。 その日のニュースや天候よりも、永の体調を確認することが生放送の趣旨になってしまっていた。
永も番組でその名前を挙げたことのある、同じパーキンソン病のモハメド・アリ。 その訃報が伝えられた1週間後、番組のXデーも永の所属事務所からの手紙により伝えられた。
「永六輔は昨年の秋ごろから背中の痛みが強くなり、またその痛みは寝起きする時や 車椅子の乗り降りの際、つまり体を動かす時に特に強く現れていました。(中略) 永六輔本人はリスナーの皆様にまた声をお届けしたいと思っており、日々努力しておりますが、 パーキンソン病ということもあり、十分な体力回復にどのくらいかかるかはまだめどが ついておりません。ここは一旦、自分の名前の付いた番組については締めくくらせて いただいた上で、ぜひまたお耳にかかる機会を得たいと考えている次第です」
返事を書かないのに「お便り待っています」とお願いするのはありえないと、 番組にお便りをくれたリスナーの一人一人に返事を書いてい��永六輔。 そんな真摯な気持ちを持つパーソナリティだけに、自分が不在の冠番組の存在は 体の痛みを超えるほど、どれだけ心を痛めるものであっただろうか。
2016年6月27日放送、最終回のスタジオにも永六輔の姿はなかった。 長峰由紀は永から「書けない漢字、読めない漢字を使うな」と叱咤された思い出を話し、 永とは長い付き合いの精神科医で元ザ・フォーク・クルセダーズのきたやまおさむは、 「くやしかったらもう一度出て来いよ!」と戦争を知らない世代の代表として激励した。 そして番組後半、最後の最後にテレビの収録を終えた黒柳徹子が駆け付けた。
2005年9月、『徹子の部屋』(テレ朝系)の収録にペ・ヨンジュンが来たとき、 ゲスト控え室の「ペ・ヨンジュン様 ○○個室」と書いてあるボードを見た徹子は、 「ここのスタジオにいることが分かったら大変!」と名前を「永六輔様」に書き換えた。
対して、永は『誰かとどこかで』の鉄板ネタとして黒柳のエピソードを持っている。 その昔、静岡に行った時、黒柳は駅から見えた綺麗な山を見て地元の人に 「ねえ、あの山、なんて言うんですの? ねえ!ねえ!」と聞いた。聞かれた女性は 本当に可哀想な人を見るような目付きでぼそっと答えたという。「・・・富士山です」。
通算40回。テレビを卒業した永も『徹子の部屋』だけは出続けている。 テレビ・ラジオの創世記から活躍する、そんな関係性の二人だからこそ、 ただ1人だけに向けられたエールを、リスナーも温かく見守ってくれる。
黒柳「永さーん、起きてるー! ラジオって言ったら、永さんしかいないのよー!!」
翌週、2016年7月4日から同枠で新番組が始まった。 『いち・にの三太郎〜赤坂月曜宵の口』。 メインパーソナリティは先週まで永のパートナーとしてしゃべっていた、 毒蝮三太夫の弟子である、株式会社まむしプロ社長の、はぶ三太郎。 その相手役を長峰由紀と外山惠理が交代で出演する、信頼の顔ぶれである。
テーマ曲には永が作詞した「いい湯だな」が使用され、 「六輔語録」というコーナーがTBSに残された永の様々な時代の音源を流す。 もちろん、これが引き継いだ番組としての正しい在り方なのだろう。 だが僕は、思い切って「永六輔」を一旦完全に失くすことも望んでいた。 それが、後ろ盾をなくした自分で切り開くしかない新パーソナリティへの励みにもなり、 自分の声も名前も失われたラジオの存在こそが、永六輔の新しい始まりに繋がるからだ。
かつて『全国こども電話相談室』で小学2年生の女の子に、 「天国に行ったらどうなるんですか?」と聞かれ、永は答えた。 「天国っていいとこらしいよ。だって、行った人が帰ってこないもの」。 確かに晩年までマイクの前に座っていたラジオ界の神様たち、 小沢昭一も、秋山ちえ子も、かわいそうなぞうも天国から帰ってくる気配は来ない。 だからこそ、大往生を遂げる前に、永六輔にはやるべきことがある。
物心がついた子供の頃からラジオで様々な演芸に触れ、 中学時代に投稿し、高校時代から70年間ラジオ制作に関わってきた人間は、 初めてラジオから離れた人生を過ごす今、何を想い、何を感じ、何を考えるのか。 もう一度スタジオに来て、ブースに入り、マイクの前に座り、 それをスピーカーの向こうの、リスナー1人1人に伝える必要がある。
それまでゆっくり待たせてもらおう。 ただ情けないことに、リスナーの僕たちは それが叶っても叶わなくても、目からこぼれてしまうのだろう。 例え、上を向いて歩いても、きっと涙がこぼれてしまうのだろう。
『水道橋博士のメルマ旬報』
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