「虚無への供物」中井英夫 2231
第二章
23犯人たちの合唱01
密室で橙二郎が殺されます。
この節は「犯人たちの合唱」です。
合唱とは、多人数で各声部の声が互いに和声をなしながら、全体で一曲をなすように歌うことです。
橙二郎の犯人として何人かが疑われるということなんでしょうか?
こういうのって、疑われない人が一番怪しいんですよね。
七荘目が終わって、八田皓吉の声が響きます。
その声に真っ先に反応したのは、藤木田です。
それから、皆も飛び出し、一斉に二階を見上げます。
気のせいかガスの甘い匂いが、このあたりにも漂ってくるようです。
どうやらこれで、二階でのガス漏れが起こったことがわかります。
これで、橙二郎がなくなります。
現在は、ガスで中毒になることは無いと思います。
でも、昭和30年代は、都市ガスは可燃性成分として、一酸化炭素ガスが含まれていたため、
使用者の不注意などでガスが漏れ、中毒事故につながることがあったみたいです。
とはいえ、
本来、ガスは無色、無味、無臭、無毒の物質なので、匂いをわざとつけているのです。
となると、このガスの匂いとは何でしょうか?
実は、『付臭装置』を各事業者で設置するようにという取り決めが昭和39年にあり、それ以降なんです。
この小説が書かれた頃は、ガスに匂いがついていたかもしれませんが、昭和30年頃ではありえないことになります。
まあ、小説ですからね。
その後、
二階の書斎、橙二郎が眠っているであろう書斎のドアを確かめます。
二つ有る入口の鍵はかけられていると書かれています。
このあたりは重要な気がするのですが、どういうわけかこの部分は曖昧に書かれています。
というか、二つ有る入口の鍵がかけられていては、入れませんから、密室だということにはなりそうです。
二つのドアを確かめる途中で、化粧室に染みつくほどの臭気に満ちていたとありますが、
書斎とは関係ないのですから、ここがきっかけでガスの匂いに気がついたとしても、
直接の橙二郎の死とは関係ないはずなんですが、
どうしてこの部分が挿入されているのでしょう?
さて、二つのドアに鍵がかかっていて、どうやって書斎に入るのか?
蒼司が階段側のドアは鍵ばかりでなくナイトラッチがついているから
こちらを試そうといって、何とかドアを開けます。
つまり書庫側のドアの鍵を開けたということだと思いますが、
正直、階段側のドアに付いているナイトラッチは、案外簡単に開けらるんじゃないかと思うのですが。
まあ、いずれにしろ、
書斎に踏み込むと、
器具栓や部屋の隅の元栓から音を立ててガスが噴出している、
ベッドには橙二郎の死体が有る。
という状態でした。
蒼司は、電話で嶺田医師を呼び出す。
八田皓吉は放心したようにへたり込む。
藍ちゃんと藤木田老人は書斎の窓をあける。
と行った具合に行動を起こします。
この時、藍ちゃんと藤木田老人は濡れ手拭いで顔を覆うとありますが、
普段から手拭いを持ち歩いていたとも考えられますが、
でないとすると、濡れ手拭いは蒼司が用意したのでしょうか?
準備がいいようなきもしますね。
あと、亜利夫の行動が全然書かれていません。
呆然としてたのでしょう。
その理由がこのあとわかります。
この事故と思われる出来事の原因を作ったのは自分ではないかと思ったのです。
蒼司が気がついたようにいいますが、
要は、ガスの元栓を一旦締めて、それをまた開けたために、二階の書斎のガスストーブからガスが漏れた状態になったというのです。
正確には、八田皓吉が十二時ごろに締めて、亜利夫が、二時半にそれを開いたのです。
亜利夫は、そのことに思い当たって、呆然としていたのですね。
藤木田老人もそのことに思い当たったみたいです。
で、皆が多少なりとも責任を感じています。
この節のタイトル「犯人たちの合唱」となるわけですね。
ただし、二時半丁度になるはずのない電話のベルが鳴りかけたのかは、疑問として残っています。
皆と違って、蒼司が、きびきび対応しています。
まず、産院に電話をして吉村夫妻を呼びだし橙二郎の急死を告げ、
警察から調べのいった場合の圭子夫人の応対と銀行筋にてをまわして新聞関係を頼んでいます。
その後、静な声で皆に余計なことを言わないようにいいます。
皆は、黙り込んでいますが、亜利夫はつい疑いを口に出してしまいます。
「橙二郎さんは本当にストーブを付けっぱなしにして寝込んだんだろうか」
蒼司は、あとから警察の人がきていやといううほど調べてくれるといいます。
藍ちゃんも疑問を投げかけます。
書斎に有るはずのないものがあったとです。
蒼司がどう説明したのかだいぶ藍ちゃんも落ち着いたらしく、何も言わなくなります。
この後、亜利夫の目線で、書斎の中の様子が描かれます。
・階段側のドアは、死体発見当時はナイトラッチもとざされ鍵も内側からかけたままだったし僅かな隙間もない。
・空気抜きの小窓は小さな引き違い戸だが外に鉄棒もはめられていて埃の積り具合からみても動かされた気配はまったくない。
・書庫の側のドアも同じように内側から鍵がかけられ鍵は鍵穴にささったままで僅かな隙間さえ見当たらない。
・西向きの小窓はどれにも掛け金がおりていてその外は厳重な鉄格子で檻のよう。
・南向きの大きな三枚ガラスの窓はどれにも掛け金がおりていて鉄格子で人の出入りを許さない。
・先月の中頃にありふれた花模様に帰られた壁紙やじゅうたんも異常はない。
・天井からはこの上もなく頑丈そうな紫水晶を飾り立てたシャンデリアが垂れている。
・床には古風な飾りのついたガスストーブが置かれている。
・広々とした机と椅子、橙二郎を連れ出して乱れたままのベッド。
・飾り戸棚に草根木皮をおさめてガラス瓶が並べられている。
・足の裏に“縄文後期・群馬県”と書かれている、単純な目と口に稚拙な手足のついた奇妙な土偶。
・足の裏に“メキシコ・ハリスコ州出土”と書かれている、単純な目と口に稚拙な手足のついた奇妙な土偶。
・机の上に愛くるしい笑いの粋な赤い上着を着せられて真新しい兵隊の人形がひとつ。
これだけ読むと、完全な密室ですね。
ただ、亜利夫の目線なんですよね。
でも、この密室をどう破るのか楽しみですね。
気になるのは、四時間近くガスが漏れたということになります。
そんな状態で、化粧室には染みつくほどの臭気に満ちていたといい、
それと比較して、書斎はそれほどでもなかったということなんでしょうか?
どうして、化粧室には染みつくほどの臭気がみちていたのでしょう?
ところで、
レッテルを貼ったガラス瓶とあるので、その内容が羅列されているけど、レッテルにそう書かれているということでしょう。
ガス中毒なら、これらは全然関係なんでしょうが、わざわざ書いているのはなんででしょう?
ちなみに、
海金砂(かいきんしゃ)・・・利水通淋でき、淋病を治療する常用薬である。 脾虚太過の全身浮腫にも用いられる。 腎陰虚には使用しない。
南蛮毛(なんばんげ) ・・・尿の出をよくし、むくみの改善に、利尿作用があるため、さまざまな原因のむくみを改善します。 お茶として飲むことで高血圧や糖尿病、腎結石の予防、水太りタイプの解消、胆石や黄疸の改善などに有効です。
さいかち(皀莢)・・・中国産のトウサイカチの豆果は生薬「皂莢子(そうきょうし)」あるいは「皂角子(そうかくし)」でトリテルペノイドサポニンのほかにスチグマステロールなどが含まれ、去痰作用や殺菌作用が報告されている。 またサイカチの刺も中国では薬用とされる。
白刀頭(はくとうず)・・・血液・体液の流れを促進します。 また、膿を排出したり炎症を抑える働きがあり、歯ぐきの腫れや出血などの炎症を改善します。 免疫力を高める働きがあり、アレルギー症状を緩和します。 また、口腔内の善玉菌をバランスよく維持します。
蘇鉄実(そてつじつ)・・・秋に収穫した実を日陰で乾燥させたものは「蘇鉄実(そてつじつ)」という生薬になり、主に煎じて用いられます。 せき止め、胃痛に効果があるとされていますが、ほかにも切り傷の洗浄に用いられたり、他の生薬と組み合わせて胃がん、肺がんにも用いられます。
地黄(じおう)・・・補血・強壮の薬として、貧血や虚弱体質の改善に使ったり、血が薄くて体力がない人、血がドロドロしていて打撲時に内出血しやすい人にも処方します。 ほかの生薬と組み合わせることで、血行不良によるしびれ、鼻出血、子宮の出血、乾燥性便秘、糖尿病、皮膚の乾燥やかゆみ、前立腺肥大などにも幅広く用いられています。
川骨(せんこつ)・・・概要 利尿、利水の効があり、浮腫、打撲傷などに用います。浄血薬として産前産後、月経不順、血の道症などに、また鎮静薬として婦人の神経興奮状態のときに応用します。 その他体力増進剤として疲労回復に、発汗薬として風邪に、健胃薬として胃腸病等の家庭薬に配剤されます。
天麻(てんま)・・・甘平柔潤で肝経に入り、平肝熄風・定驚の効能をもち、頭目眩暈・痙攣抽搐・肢体麻木・手足不遂などすべての風証に適し、とくに眩暈によく用います。 また、通絡止痛の効能もあり、風湿痺着・麻木酸疼・中風癱瘓(たんたん)に使用されます。
香付子(こうぶし)・・・辛散・苦降・甘緩で芳香走竄し、平性で寒熱に偏らず、理気の良薬であり、舒肝理気解鬱に働き、三焦気滞を消除します。 気行れば血行り、肝気が舒暢すれば血行は通暢し、気血が疏泄調達すると月経は調い疼痛が止むので、調経止痛の要薬でもあります。
白南天(しろなんてん)果実にはアルカロイドのドメスチンやイソコリジンなどが含まれ、ドメスチンには知覚神経や末梢神経を麻痺させ、心臓の運動を抑制する作用がある。 漢方では止咳の効能があり、咳嗽や喘息に用いられる。
というところでしょうか?
嶺田医師が駆けつけ、橙二郎の遺体は病院へ運ばれます。
真名子肇(なまこはじめ)巡査部長が昼近くにやってくることになります。
つづく
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TOTOミュージアム
TOTOミュージアムを訪れた。トイレで有名な会社の企業ミュージアムである。ミュージアム公式サイトには擬似的に展示室を見て回れるバーチャルミュージアム / TOTO Museum: Virtual Museum (in 16 languages) も用意されている。
展示品はトイレにとどまらず多岐に渡っているのだが、個人的な好みと画像の枚数制限により、もっぱらトイレの写真を載せることにする。
下の画像は建築設備技術遺産の便器や便座、そして国産初の腰掛式水洗便器。
製陶会社なので食器もたくさん作っていた。
映像視聴コーナーの椅子がパステルカラーの便器型になっていて、とてもかわいい。中央から左手の奥に見えるのは便座製造のプロセスを解説するコーナー。
トイレ関連書籍などを読めるコーナー。
下の写真は、その名も「トイレバイク ネオ」。エコで未来的な宣伝カーというふれこみで、座席に便座を載せ、トイレットペーパーも付け、バイオガスを燃料にして走る。2011年10月に小倉のTOTO本社を出発し、約1か月かけて東京のTOTOテクニカルセンターまで約1400kmを走破したとのこと。このことは全然知らなかったので、宣伝効果がどの程度あったのか少々疑問ではあるが……伊達や酔狂を真剣にやる感じがいい。
時代の変遷に合わせてトイレの変遷を見せるコーナー。展示には他社製品も使われている。
大便器の歴史。
小便器の歴史。
水洗タンクの歴史。
水洗タンクの水量の違いを示した展示。こういう視点はさすが本業のものだなと感じる。
温水洗浄便座の代名詞ともなったウォシュレットの歴史。
トイレまわりに欠かせない、水栓の歴史。これも自分のような素人にはなかなか気づけない視点を提供してくれる展示。
手洗い場、洗面所もトイレに欠かせない。
変わり種の衛生陶器。いちばん左は日本では馴染みのないビデ。残り3つは日本の事情に合わせて開発された、和風腰掛便器、女性も立って小用をたせる小便器、和風建築と調和するように作られた筒形小便器。ビデは知っていたが和風のあれこれは存在すら知らなかった。
サイズの異なる便器に腰掛けられるコーナー。お相撲さんサイズの便器は当然ながらその体重に耐えられる作りになっているそう。
トイレの展示が充実したミュージアムの来館者用トイレは果たしてどのようなものか、期待が高まる。
トイレへのアプローチ。人がいないときは明かりが消えており、人が通ると点灯する。この写真は自分が通って明かりがついたところを撮影したもの。
手洗い場が壁際でなく中央にあり、水栓もおしゃれっぽい。
個人的にはこれまで見たことがないような、丸みを帯びたデザインの便器。
左は、節水型大便器と省エネ型ウォシュレットを使っていますよという表示。右はトイレ川柳大賞の紹介。ドア裏に貼ってあるので便座に腰掛けて読むことができる。
最後にミュージアムショップで便器型のアイテム(陶器のミニチュア便器と、便器型のホワイトチョコ)を購入。トイレ関連グッズはとてもTOTOらしいので、自分の楽しみ用途だけでなく、シャレの分かる人向けのお土産用途にもいいと思う。
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【TOTO株式会社】水栓金具・小便器など192点が更新・追加登録されました!
TOTO株式会社は、衛生陶器をはじめとする住宅設備機器などのメーカーです。水まわりを中心とした、豊かで快適な生活文化を創造します。
今回は、パブリックトイレ・洗面ブックに掲載されている製品192点について、更新と追加登録をいただきました。
TOTO Arch-LOG 検索ページ
▼ハイドロセラ・フロアPU(薄型)
陶板ならではの防汚性とハイドロテクトの抗菌効果で、尿石汚れやニオイの発生を抑える建材です。7色のカラーからお選びいただけます。
▼台付自動水栓
器具に触れることなく水の出し止めができるので衛生的です。洗面器まわりが汚れにくく、水の止め忘れも防げるので経済的。特に人の出入りが多い場所におすすめです。
▼掃除口付壁掛壁排水自動洗浄小便器
シンプルなデザインと節水性能を両立する自動洗浄小便器です。新尿石抑制・節水システムにより大幅な節水を実現しました。
このほかにも、カウンター洗面器や便座など多くの製品が追加されています。ぜひご確認ください。
TOTO Arch-LOG 検索ページ
今回ご登録いただいた製品のアイコンの違いについて
※文章中の表現/画像は一部をTOTO株式会社のホームページより引用しています。
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こだわりのガーデニング用品を。
毎日の暮らしを、もっと素敵に。もっと自分らしく。
上記コンセプトはライフスタイルストアEnがOPENした当初からの願いと想い。
そんなコンセプトにピッタリの商品【Royal Gardener's Club】に出会ったのはコロナが流行する前に行われた展示会でした。
一目で恋に落ちた私は、
《毎日の暮らしを、もっと素敵に。もっと自分らしく。》
暮らしたい方々にいつかこの商品を鹿屋で手に取ってみてもらいたい!
そう強く思ったのを思い出します。
この商品を忘れることが出来ず、2022年に【灯りと暮らしの専門店】としてリスタート。
リニューアル前より、断然、新築住宅建築中の方にご来店いただく機会が多くなるのと同��に、規格型住宅や賃貸マンションなどでもレイズベッドを取入れ、ベランダガーデニングや家庭菜園を楽しめる生活をご提案する【EN HOUSE】を立ち上げました。
全てが繋がり、『やっぱり私がご紹介したい商品はこれだった!!』と思うと同時に、兼任している不動産のビジネスビジョンの色んな想像や発想もこの商品なしではあり得なかった。と展示会で出会ったこの商品との運命を再確認させられたような気持でおります。
ということで、熱が入りすぎて前置きが長くなりすぎてしまいましたが、ご紹介させて頂きます。
Royal Gardener’s Club
水周りの製品の製造は市場において国内トップクラスのシェアを誇るタカギの工場で制作。
少量生産で丁寧につくられている製品です。
<Garden Reel Ⅱ>
・インディゴ
・グリーン
・ブラウン
の3つの本体カラー
ホースカラーは(ブラウン・ダークグレー・ゴールド)よりセレクト可。
また本体は自動車塗料に使用されている高級塗料を採用。
本体正面にはシリアルナンバー入りの金属プレート付きです。
カバーの着脱可能。カバーの向きを変えれば
ハンドルの位置と巻き取り方向を変えることができます。
ホースの長さは30m。
広いお庭の朝夕のガーデニングの水やりはもちろん、
洗車や掃除などに最適です。
本体が重くしっかりしているので、
長くホースを引っ張っても本体が倒れる煩わしさもありません。
PRICE:¥24,200(Taxin)
<Compact Garden Reel 20m>
使い勝手がいいサイズ感、1番人気ののタイプです。
軽量(3.4kg)タイプなので片手で持ちながら水やりをすることも可能。
一般的なホースより少しスリムなタイプのものを採用してます。
バルコニーなど限られたスペースでの使用でも嬉しいサイズ感。
もちろん、20mもあるので広いお庭にも対応するかと思います。
カラーバリエーションは豊富な5color。
PRICE:¥15,400(Taxin)
────ノズルについて────
ノズルは全ての製品で共通の丈夫な金属タイプ。
手元で水量調整ができるダイヤルがついています。
ノズルの先端を回しシャワー→ジョロ→ストレート→拡散となります。
シャワー・・・細く柔らかな水流。掃除や植物の水やりなど
ジョロ・・・優しい水流。繊細な植物やペットの足洗いなど
ストレート・・・勢いのある水流。床や壁の汚れなど
拡散水栓・・・ストレートから徐々に広がりの幅を広くしていきます。
──────────────
既に3名の方から購入依頼がありました。本当にありがとうございます。
全てのサイズ、カラーご用意してあります。
店頭で実物を見れますのでお気軽にご来店ください♪
╌ 灯りと暮らしをご提案╌
ライフスタイル提案型の雑貨店Enでは、
日々の暮らしが少しでも楽しくなるような
家具や照明のご提案もさせていただきます。
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不夜城が如くネオン煌めく繁華街。煌びやかな様子とは裏腹に、一歩道を外れれば影色濃く腐臭漂う裏道へたどり着く。
男は一心不乱に走り続ける。何故自分が追われているのか皆目見当がつかない。ただちょっと扇動されて、「小包」を公園に置いただけ。最近思い当たる節と言えばその程度。たかだかその程度しか思いつかない。俺のせいじゃない、悪いのはあいつだ!
足がもつれ、運悪くごみ溜めにダイブする。走り続けた足は疲労でだるく、絶え絶えの息は腐臭を吸い込みむせる。
追跡者の影が、煌めく繁華街への出口を背におもむろに得物を取り出す。人生の終点に突っ込んでしまった男は喚き散らし、笑う膝で懸命にもがく。カチリと音がする。
男の顔に落ちた通りからさす光が、追跡者の姿で陰る。
男が最期に見たのは、銃を突きつける少女だった。
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ー入学ー
横浜駅。世界でも5本の指に入るとか入らないとか言われてる程の駅。掲示板と手元の地図とを眺め続けてどれくらいたっただろうか。完全に迷子である。
わたし望月愛衣は齢12…もうすぐ13だが、冷や汗出るほどに迷子になったのはいつぶりだろうか。フィーリングで目的地を目指しても今までなんとかなっていただけに地図の見方すら分からない。完全な詰み。
「うわぁ、ちょっとまずいかも…」
もしかしてなんか試験的なものなのだろうか?入口を探し当てられなければ入学すら認められないとか
そんなはずない、こんなにウェルカムな入学式の案内を送り付けておいて試験なわけが無い。てかこの地図分かりにくい、簡略化しすぎでほぼ一本道しか書いてない。
途方に暮れても仕方がない、目印のお店を探し当てるしかなさそうだ。などと再起したのはこれで3度目ぐらいか
そろそろ足が疲れてきた。近くにあったベンチに腰掛ける。
行き交う雑踏を探しても、自分と同じような制服を着た子は見当たらない。平日の昼間だというのにどこから湧いて出てくるのか分からないぐらいには人が行き交っている。
仕事に行く人だろうか、あの人は観光?あの子たちはショッピングかな?
平和そのものである。よきことよきこと。こんな日常に一人立ちしたいが為に施設から『孤児院』という学校施設がある横浜まで来たっていうのに、入学出来ませんでした〜で帰るのは格好が悪すぎる。
「どうしたもんかぁ〜」
背もたれに仰々しく身を預け伸びをする。
「どうしたの?」
見上げた先、顔を覗き込む女の子、いや見た感じ年上のお姉さんがいた。落ち着いた雰囲気、これが大人びたという表現でいいのか分からないけども。まじまじと見られている。いや、顔近。まつ毛なが。
また着慣れた感じにわたしと同じ白の制服を身にまとっている。ということは
「助かったぁ、やっと同じ制服着てる人見つかったぁ」
上級生であろう彼女がふふっと笑う。上品だ。
「きみ、新入生?駅迷いやすいよね。私もよく迷う。今もそう」
上級生でも迷うってんだ、じゃあ新入生のわたしなんかたどり着くつけないわけだ…って
「ちょっと待ってください?今も迷ってるんです?」
キョトンとした彼女は短く「そう」と��け返した。
あぁ、完全に終了のお知らせってやつだ。
─────────────────────
と、まあ入学式の会場にはなんとか間に合ったというわけで。
あの後、彼女の寮の同室の方が怒りながら迎えに来たおかげで『孤児院』の施設、更には会場にまでたどり着けたって訳だ。
別れ際、頑張ってねと言われたが入学式に何を頑張るのだろう。長時間椅子座り耐久があるという事だろうか?
純白の制服の群れが体育館のような会場に集まっている。水銀灯が照らす会場はやや薄暗く、傍から見たらお嬢様学校もかくやあらむだろうか。近くの椅子に腰をかける。
ざっと見渡して自分含め100人?ぐらい居るだろうか。規則正しく等間隔に机付きの椅子に座って近くの子達同士でソワソワと話し合っている。
さらに数人、様子を伺っているのかコンクリ打ちっぱなしの壁際でたむろしている。
どのグループに混ざろうか吟味でもしているのだろう。当たり前だ、ここにいる子達はわたし含め孤児。12,3歳の子達が集められている。
『孤児院』からの招待状を配られた子達だ。今つるむ相手を見誤れば今後どうなるかわかったもんじゃない。
…というかみんな迷わず来れたんだね、どうやらわたしが一番最後の到着だった様だ。出入口の扉が施錠される音がした。
「どもども、隣いい?」
活発そうな、ショートヘアの子に声をかけられる。バスケとかやってそう、女子にモテる女子だ。
「あ、どうぞ」
断る理由もなく、快諾。
「あたし幸 亜里沙、ちょっとギャグっぽい名前でしょ?亜里沙って呼んでいいよ、あなたは?」
「自分で言っちゃうんだ…望月愛衣よろしくね」
「ねぇ!愛衣はどこから来たの?あたし青森から来たんだけど横浜駅めっちゃ人いすぎじゃね〜?」
ガハハと言わんばかりにはしゃいでいる。てかいきなり名前呼びか、カルチャーショックを受ける。
「おかげで人酔いしちゃったよ。わたしは埼玉から」
「埼玉か!うん、埼玉。埼玉って何があるの?」
この話題はあまり広げない方が良さそうだ。
ふと、椅子の下に箱が置いてあるのに気付く。ちらっと足元を見ると自分の椅子の下にも箱がある。
「あ、っと〜。あれ?亜里沙その足元にある箱って?」
これでも緊張していたのか、今まで気付かなかったそれを手に取る。30cm四方の箱。シルバーのケース?ジュラルミンでできた箱には開けられそうな蓋が付いているが鍵がかかっていてビクともしない。持った感じずしりと重みを感じる。他の子も箱に気付いたのか各々手に取っている。
「なにこれ?新入生へのプレゼント的な?」
中身を確かめるように亜里沙が箱を振る。蓋と本体がカタカタと鳴る以外、中から音はしない。
キーンとマイクがハウる音が響く。ありがちな。
「失礼。諸君着席を」
正面の壇上、舞台袖からツカツカと長く綺麗な黒髪に鋭い目つき真っ黒なスーツを来た大人の女の人が現れた。マイクはインカム型なのだろうか、手には鎖のようなものを持っている。その鎖の先、遅れて舞台袖から現れたのは、手錠をはめられ目隠し、さらにヘッドホンで耳栓までされたツナギの男の人が引っ張られて現れた。
会場がどよめく、これが大人の世界なのだろうか?
「静粛に。この男の説明については後ほど。まずはようこそ『孤児院』へ。諸君らはここで一般常識から外れた存在になっていただく。座席の下にケースがある、確認がまだの者は早急に確認を。」
会場が不安げにざわめく。
「もしかしてコロシアイさせられちゃう?なんちって」
亜里沙が冗談めかしく囁く。
「そんな訳ないでしょうに、映画の見すぎ」
「これよりケースの電子ロックを解除する。各自内容物を確認するように。中身の取り出しは指示があるまで待つように、ケースは落とさぬように」
『先生』?が軽く手を挙げ合図の様な仕草をする。
ガチャリ!会場に電子ロックが解錠された音が響く。
わたしの手元の箱も、大きな音をたてた。
亜里沙と顔を見合わせる。互いに箱の中身を確認する。
恐る恐る、ケースの蓋を開ける。ビクともしなかった蓋がすんなりと開く。
中には、拳銃が収められていた。
「これから諸君らとその銃は一心同体。我々の必需品となる。紛失、破損のないようしっかりと整備すること。」
「どういうことだてめぇ!ふざけるのも大概にしろ!」
前の方に座っていた如何にも不良な感じの子が、銃を手に壇上へ飛び上がる。
「席へ戻りなさい」
「うるせぇ!なんだこれはよぉ?映画の撮影かぁ?あぁ?いいからさっさとセンコーをだせやセンコーをよォ!」
不良生徒が『先生』?へ銃を突きつける。
あまりにも血気盛んすぎる。怖くないのだろうか?万が一これが本物の銃であったら、まずいのではないか?舞台まで止めに入る?いやこの距離じゃ間に合わないか?
マイクがハァとため息を拾う。
「なんだてめぇなにk」
ズダン!
あれは柔術?だろうか、綺麗な動作で『先生』?は不良生徒を床に叩きつけ、同時に銃まで奪ってしまっていた。不良生徒はぴくりとも動かない。気絶でもしたのだろうか?
「今年は血の気が多いですねぇ…静粛に。まだ説明の途中です。」
何事も無かったかのように説明を続け始めた。
やっぱり映画の撮影なんじゃ…?逃げるか?亜里沙だけでも連れ出せそうだけど、他の子は?唖然としてる。出口は一つだけ?会場がざわめき始める。何人かが立ち上がり
パンッ
会場に破裂音がこだまする。遅れて悲鳴。
壇上。男が倒れる。壁に赤が跳ねる。
「いいでしょう、もう面倒だ。この方が効率がいい。そこ!席を離れるな!ったく面倒臭い!」
逃げ出そうとする生徒を一蹴する。
「いいですか?聞いてください。説明します。この男は今日死刑執行の死刑囚です。国家転覆を企て捕まった犯罪者だ。今日から君たちは国家に仇なす犯罪者どもを消し去る存在になってもらいます人事担当がどう説明したかは分かりませんがつまるところ公務員になりますただ公には姿は見せずあくまでも影としてこの国を支えてもらいますそのための『孤児院』でありそのための場所になります───────」
おそらく決まっていただろう口上をめちゃくちゃ早口で垂れ流している。その間、どうすることも出来なくなってしまった会場は、すすり泣く声が聞こえ始めていた。あの男は本当に死んでしまったのだろうか?遠くからでははっきりとは分からない、前の方では吐いてる子も居る。ってことはやはりそうなのだろう。
「亜里沙?大丈夫です?」
ちらっと隣の亜里沙を確認すると、泣きはしてはいないが血の気が引いた顔でケースを抱え固まっている。
「…えっ、えぇ。あぁうん。だ、大丈夫。じゃないよ。愛衣は?逃げる?」
「いえ、下手に動くよりあの先生?の指示に従ってた方がいいかも。立ち向かったりしなければ問題なさそうだし」
落ち着かせようと話しかけるが反応が鈍い。大丈夫じゃなさそうだ。かと言って逃げ出せそうにもない。『先生』?の話は聞かざるを得ない。
「────────ということです。ふぅ、諸君落ち着きましたか?よろしい。では、諸君。その銃で隣の人を撃ってください。」
つづく
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2種類の小児副鼻腔炎用抗生物質が同等に有効であることが判明
全体として、副鼻腔炎に対する治療の失敗は、アモキシシリンまたはアモキシシリン-クラブラン酸塩で治療された小児ではまれであった。しかし、アモキシシリンとアモキシシリン-クラブラン酸塩では後者の方が有害事象が多かった。
小児急性副鼻腔炎に対するアモキシシリン・クラブラネートとアモキシシリンの比較における治療失敗と有害事象
サイト内の3dmodelを動かして遊んでみる。
副鼻腔炎の原因はさまざまである。細菌性、ウイルス性、アレルギー性等多様性に富み、重複感染が原因であることも一般的である。CIDRAPの記事を読んで、コロナウイルス等とは書かれていないが、マスクなし、眼の保護なし、鼻洗浄なしでは、発症してもおかしくはない。これが進行すれば、いずれ蓄膿症となり、脳膿瘍等へと重篤化する。
記事では、細菌を対象とした薬剤をとりあげているが、副作用が何かについて言及していない。ウイルスに対する処方(ステロイドや抗ヒスタミン薬)をしなければ、感染性病原体のうち、優勢になったものが主役を務めるだけのことだ。すなわち、副作用はウイルスによるものかもしれないし、免疫の過剰反応でアレルギーが起きたのかもしれない。
細菌を治療できても、他の原因は残るため副鼻腔炎自体は治らず症状は進行する。
治療は容易ではない。
特に、オミクロン株以降は、下気道から上気道へとターゲットを変え、今や鼻腔内へと移動しているから、SARS-CoV-2に知能があるならば、巧みな戦略をとっているなと感心するばかりだ。
鼻涙管は、眼の表面に付着したウイルスを洗い流した液体を鼻粘膜上皮へと移動させる。ウイルスを効果的に低減しなければ、細菌を対象とする抗生物質を処方しようが、期待する治療効果は得られない。
徐々に後鼻漏は粘稠性を帯びていく。そして、後鼻漏の中の成分がのどの粘膜を傷め咽頭痛や咽頭違和感が起き、後鼻漏の粘り気が強いと、これがのどに下りて痰のようにからむ。
結果、嚥下障害や呼吸障害が起きて、咳嗽によってウイルスは鼻水、唾液、痰等に含まれて直接かつ広範囲、そして大量に曝露されるのである。
下気道にいるよりも、感染後からかなりの短期間にウイルスは放出されるし、直線的に飛ぶため、呼気や咳を浴びた場合に感染する確率は相当高いと思われる。
ノーマスクがまずいのは、本人が後鼻漏に至る前に既にウイルスを大量にまき散らしていることだ。
気を付けていたのに感染したという人々は、周囲に無症状と思い込んでいる初期症状の感染者がいたに過ぎない。
アデノイド疾患になると、滲出性中耳炎になるわけでウイルスが死後解剖で検出されるのも当然といわざるを得ない。
頭蓋内は完全な密室ではないし、BBB(血液脳関門)のバリアは鉄壁ではない。神経や血管内皮を通じて、脳内へと感染は広がっていく。
後鼻漏の軽視は、副鼻腔炎から蓄膿症、そして脳炎、脳膿瘍へとつながる。
脳出血、脳梗塞は部分的所見に過ぎない。出血をとめたり、塞栓を除去したりしたところで脳自体の炎症は延々と続くのだ。また、部位によって、症状は異なる。脳幹や小脳だった場合、生命維持や運動機能や認知機能への影響が甚だしい。
最悪なことに、脳の炎症は自覚できない。
気づかぬうちに、高次機能障害を抱えることになる。
ノーマスクでいるということは、自ら障害を負い、生活基盤をなくすということ、また、自分以外にも障害を負わせて平気ということだ。
おまけ 後鼻漏
おまけ 気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言(改訂版)R4.11.20
おまけ 新型コロナウイルス感染症(オミクロン株)による上気道狭窄への注意喚起
おまけ アデノイド疾患→key word:滲出性中耳炎
おまけ 脳膿瘍
おまけ 副鼻腔炎より波及した頭蓋内膿瘍
おまけ 脳炎
細菌やウイルスが脳の表面を覆っている髄膜に感染したものを髄膜炎、脳自体に感染した状態を脳炎、炎症部に膿がたまった状態を脳膿瘍というのさ。
抜粋
脳炎はまた,特定のウイルス感染またはワクチン接種に続発する免疫学的合併症としても発生することがある。1~3週間後に脳および脊髄で炎症性脱髄が(急性散在性脳脊髄炎として)起こることがあり,これは,免疫系が感染源のタンパク質に類似する中枢神経系抗原を攻撃することによる。この合併症の原因としてかつて最も頻度が高かったのは,麻疹,風疹,水痘,およびムンプス(小児予防接種が広く普及したため,現在では全てまれである);天然痘ワクチン;ならびに生ウイルスワクチン(例,狂犬病ワクチンは,かつてヒツジまたはヤギの脳から抽出されていた)であった。米国で現在みられる症例の大半は,A型またはB型 インフルエンザウイルス, エンテロウイルス, エプスタイン-バーウイルス, A型肝炎ウイルス, B型肝炎ウイルス, HIVに起因するものである。自己免疫性脳炎は,がんおよび他の自己免疫疾患の患者にも発生する。
まれではあるが,重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV2)のパンデミックによって引き起こされる COVID -19の患者にも脳炎らしき病態が発生しており,その機序は不明であるが,その脳炎らしき病態に免疫学的機序が寄与している可能性や,脳へのウイルスの直接的な侵入が起きている可能性が想定されている。
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土間コンクート
2023年8月23日
快晴、暑い!(熱中症警戒アラート発令中)
今日がコンクリート打設を見る最後のチャンスなので、早起きして行ってきました
階段のところの型枠が違っていたみたいで、作業開始が遅れていましたが、無事収まったということで いよいよ!
コンクリートポンプ車(見たかったの^ ^)
青い空に白いクレーンが映える
土も埋め戻されていて、家の佇まいが想像しやすくなりました
土間は3箇所
その1
薪ストーブを置くところ
管は床下からストーブ内へ外気を取り入れるためのもの
ここは後からモルタルで仕上げます
その2
玄関ポーチの部分(手前)と玄関内部(奥)
ポーチ部分は滑り止めの刷毛引き仕上げ
玄関内部は金ゴテ仕上げ
職人さんの金鏝の扱いが見事で… 見とれちゃいます
動画を撮っておけばよかった
浄化槽の設置も終わっていました
地中に埋まっている2つのマンホールの下が浄化槽
上に立っているのは浄化槽内の微生物に空気を送るための装置(ブロワー)
浸透桝も2つついていました(写真には1つしか写ってないけど)
中は深さ2m
下が砂利の層になっていて、浄化槽できれいになった水が地下に浸透していくようになってます
そして迷っていた外壁の色ですが・・・
実際に現地の太陽の下で見ると、そんなに暗くない(写真はちょっと暗めに写ってるけど、実際はもっと明るかった)
屋根のダークグリーンと合わせると、くどくなる気もしないではない
でも壁から即屋根ではなく、鼻隠しとか破風とかいう部分はクリア塗装のトドマツがワンクッション入るし、大丈夫じゃないかな〜
あ、サブカラーはクリア塗装に決めました
メーカー名が・・・ 忘れた ^^;
そうそう、そう言えば
外の立水栓のところは排水パンがつかないんだって!
当然つくものと思っていたのでびっくりですが、こちらではあまりつけないとのこと
まあ、砂利だし水はけは良さそうだから大丈夫なのかな?
もしダメだったら浸透桝方式で穴を掘って土管を入れて上をグレーチングで塞げばいいか
朝6時に家を出て約2時間かけて現地へ行って、作業を見て、2時間30分かかって会社へ出社
午後からは仕事をして帰って来て・・・
さすがに疲れます
1年でも若いうちにこの作業ができてよかったとつくづく思います
楽しいんだけど
1年後、2年後、3年後にこれができるかと言われると、まったく自信がありません
今だからできること
時期を逃さずにできてよかったです
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2023.7.15sat_okinawa
水道料金25,960円
(架空請求かと思った)
この数日間、目が覚めてもしばらく頭から離れない数字。
コレがなんなのかっていうとトイレのタンクの水栓が壊れてしまって、永遠に上水が流れ出てたことによる水道代の請求料金。
とりあえず応急処置は済んでるけど、それでもやっぱり大元は壊れてはいるので、やっとこさ不動産の手配した業者に修理してもらえることに。
私の仕事は喫茶店主。喫茶店といっても郊外は住宅街のど真ん中に看板も掲げずに経営してるもので、早朝から開店したってお客は皆無。なのでもっぱら正午から働いていています。
店舗件住居の外観
店舗の2階に暮らしながら、仕込みはほとんどを前日の夜に済ませているので起きるのはいつもだいたい開店の30分前。なのに今日に限っては修理のために朝8時起き。
夜型人間の私にとっては朝の陽の光、鳥のさえずり、蝉の喚き声、ゴミ収集車が回収を知らせる単調な音楽。大っ嫌い!
「早起きは3文の徳」だなんて言われてるけど、私は心の中にビヨンセやマドンナ、Awichの類のDIVAを飼っているので、彼女たちはたった三文ごときじゃ満足できません。
日本の芸能人はよく謙虚さを評価されがちですけど、彼女たちは違う。リッチな◯ッチとして自分に必要な物を確固たる意志で手に入れて、自己実現を達成してこそクイーン。それこそが人気の秘訣だし、強いマインドで世界に立ち向かえるんだと思う。あの貪欲さに憧れる。
心にDIVAを持つのはいいですよ。最近それで得したことはジムで高重量を上げる時、あと1回を諦めてしまいそうな場合“待って、アンタがビヨンセならここで諦める?諦めねえよな”って思えるんです。そうすると不思議と上がるんですよ。自己実現の全国大会、優勝できそう。
こんなことを考えてたらあっという間にトイレの水栓修理が終了。
私はDIVAで愛想がいいので修理屋さんとも仲良くなっちゃって、ついでに色々直してあげるよ!ということに。古かったシャワーユニットも交換してもらえたし、外壁修理もしてもらったし、しかも件の水道代も本来なら実費なのに、今回はぜーんぶ大家さんが払ってくれることに。(大家さんとも仲良し)
DIVAってめっちゃお得!愛されるって大事!
早起きしてよかったー!
(台風で劣化した外壁コンクリ部分)
DIVAは妥協しないのでその隙にちょっと手の込んだパッションフルーツのレアチーズケーキと桃のコンポート、それからいつもより少し沢山のプリンを作り上げました。今日の営業でお客さんに振る舞うために。
(今年最後のパッションフルーツのスイーツ)
(いつも完売する当店の看板プリン。なのでいつもより多めに)
なんだかんだ早起きして徳を積んだ気持ちになったけどそれは早起きしたからではなく、私がDIVAのマインドを持っていたからだと思います。ことわざなんかに身を委ねて感謝せず、今日も自分自身を褒めて讃えてあげようと思います。
さて、今日も機嫌良く出勤です。
-プロフィール-
とんこつたろう
34歳
沖縄
リーフノット・コーヒー 店主
https://www.instagram.com/reef_knot_coffee/
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10月22日(土)|飲酒明け
今朝更新した日記は、8月11日、『ゆめパのじかん』について書かれた文章で、読み返すとしみじみと映画の良さが押し寄せてくる。思わず予告編を添付して公開。
昨日、仕事終わりに久しぶりにたくさんアルコールを摂取し、帰って思考があやふやなままでシャワーを浴びて風呂に浸かりながらちょっとだけ寝ていた。溺れる前にと浸かりながら途中で栓を抜いて、完全に浴槽からお湯が消え去ってもなお壁に身体を預けて瞼を閉じていた。さすがに寒くなって乱雑に水を拭き取って歯磨きをしてそのまま布団に倒れた。五時半あたりの朝日がもうじき昇ろうとする頃に目が覚めて、頭が痛く、まだアルコールのにおいが口の中で溢れかえっている気がした。鎮痛剤を二錠飲み、徐々に明るくなってきた光から逃げるように布団を頭から被って二度寝した。七時あたりにまた目覚める。痛みはなくなっていたが、まだふわふわと身体が気怠く、ああお酒をよく呑んだ朝だ、とすこぶる実感する。いつもよりずっとのんびりとした速度で、覚醒していく。上半身だけ起こしてぼんやりとしながら、お酒を呑みながらしていた会話について、霧を払うように思い出していく。酒の席でなされる話とはいえ、大事そうな断片がたくさんある。記憶をつまみあげていくと、ふと、文フリに向けて書きたい内容が浮かんできた。
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キッチン屋さんにオーダーしたTRUNK HOUSEの洗面台。 ・ 天井にはアイアンのハンガーパイプ、 下にルンバが入るので、脚を付けて浮かしました! ・ タイルは、ツヤありとツヤ無しをミックスで張ってます! ・ なかなか機能性もあって、カジュアルな洗面台に仕上がりました😄 ・ ・ https://www.field-h.net/ ・ ・ #trunkhouse #オーダーメイド #洗面化粧台 #ナラ #平田タイル #stessa #フロアタイル #カクダイ #壁出し水栓 #アイアンバー #室内干し #水まわり #jimbo #家具用コンセント #ナラ突板 #収納 #マイホーム #新築 #家づくり #三河 #蒲郡 #岡崎 #豊橋 #豊川 #刈谷 #安城 #オープンハウス名古屋 #設計事務所名古屋 #フィールドの家 (Gamagori, Aichi) https://www.instagram.com/p/CIX32NlApSG/?igshid=1gi5iibt5tsup
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20220421
左の乳首に何かポツンとできて、にきびなのかいぼなのか、なんだか痒かった。風呂上がりはとくに痒くて、ここ何日、いや何週間かもしれない(わからなくなってしまった)、ともかく、わたしは痒みには素直なので、痒みを感じたら即座に掻く。寝巻きのTシャツに首から手を突っ込んでがりがり掻く。
そうしたら、なんか爪の先でごりっと何か削った感じがあって、痛みはなかったがドバッと血が出たので驚いた。Tシャツに丸く染みた。あわててティッシュを当て、ちょんちょん拭き取りながらようすをみて、ティッシュはあっというまに草間弥生の水玉みたいになった。やっぱりいぼだったのか、でも爪の間に挟まっていたのは角栓みたいな小さい黄色いかけらで、肉ではない。にきびごときでこんなに血が出ることってあるのか、どうだろう、わからない。ほんとにぜんぜん痛くはない。
しょうがないのでTシャツをめくって、乳を出して、左手でティッシュを押さえて血が止まるのを待っている。椅子に片膝を立て、右手でマックのトラックパッドをこすり、ツイッターやインスタグラムを眺めている。誰かの眠気、誰かの食べたもの、誰かの漫画、誰かの死にたさ、ニュース。宣伝。告知。抗議。乳首を掻きむしって血を流しながら、戦争や疫病やヘイトを目の当たりにし、悲しくなっている。憂えている。両手を使いたくなった。ティッシュを膝で押さえて両手でつぶやきをほじくりかえした。まったく、深夜に何をやっているんだろう。
血が出ている。皮膚がやぶれている。わたしとわたしではないすべてのあいだにある境界線がほつれて、わたしが流れ出ている。いや、唾液や涙や経血や、尿や便や、わたしはわたしの体からしょっちゅう漏れ、浸み出していて、境界線は壁ではない。ところによりメッシュだろう。でもこういう出血は、わかりやすくわたしがやぶれているとわかる。目に見える。中学校のプールの裏のフェンスのやぶれ。穴。授業中、先輩たちは穴をくぐって、近くのコンビニ……はすぐ見つかるから、どこへ行くってわけでもなく、ぶらっと歩いて戻ってきた。いくら漏れても、学校という場は揺らがない。それは頼もしいというより絶望だろう。
痛くないのに血が出たことはあった。調理実習だったか何かのお祭りだったか、学校でカレーを作って、野菜を切って炒め、煮込んでいるあいだクラスのみんなでサッカーをした。運動音痴のわたしにはそんなにボールは回ってこないから、うろうろ走ってお茶を濁していたら、左手の小指が血まみれだった。びっくりして思わず口に入れたら鉄の味がした。どんどん血があふれ、小指の爪が真っ赤に染まって、でも痛みはまったくなくて、すごく不思議だった。野菜を切っているときに怪我してしまったのだろうと思うけど、こんなに血が出ているのになんにも痛くないって、そんなことあるのか。煮込んでいるあいだサッカーしてたってことは、誰かは火を見張っていたのだろうか。先生だろうか。思い出せない。
それからしばらくして、たまたま見かけた何かオカルトのテレビ番組で、マリア様の絵や像から血の涙が出てくる、何もしてないのに赤い液体が出てくるっていうのを見て、「これか!」と思った。というか、わたしの体から痛くもないのにいきなり血が出ることがあるのだから、いつなんどき世界のどこから血が出てきてもおかしくはねえな……と思った。そのころサイババとか流行ってたし。
読んだ本の感想をちょこちょこっとツイートし、まだ血が出ている。ミロを飲む。まだ血が出ている。パク・サンヨン「大都会の愛し方」。すごく好きだと思う。やんなきゃいけないことがいろいろあるのに、今やらなくていいことをやっている。まだ血が出ている。飼い犬の写真をいつもツイートしているアカウント。の作った、犬の写真のアクリルスタンド。を買った。机に飾っている。プリチャンのアクスタと並べている。犬のほうが大きいから、ネバーエンディングストーリーみたいなサイズ感。血はそろそろ止まったか。どうか。送らなきゃいけないメールがいろいろある。あるけどやってない。すべてがおっくう。メールも痒くなってくれたら、わたしはがりがりやるのに。血は止まったか。そろそろ止まった。たぶん止まった。わたしの好きなアイドルが、太ったとか劣化したとか態度がよくないとか、明らかな悪口を言われていて、そういうツイートをたくさんほじくってしまい、畜生と思う。本人が目にすることのありませんようにと祈る。なんでこんなひどいことをインターネットで言うんだろう。皮膚がやぶれて血が出なくても、自他の境界はぐちゃぐちゃだ。
で、朝になって胸を見たら、かさぶたも痕もなにもなくて、どこから血が出たのかわからなかった。痒みも消えていた。まるで夢だったみたい。でも血のついたティッシュはゴミ箱にちゃんとある。赤い水玉はすっかり茶色くなっている。
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一年前日記35 (2020年8月26日~9月1日)
8月26日 10時チェックアウトの設定でだらだら。やらなきゃなという気持ちがクリアになった。いい感じ。また立て直して行こう。お昼からリモートで打ち合わせ。スマホがよくわからないひともいたので、家の電話も使いながらなんとか全員参加できた。初めての試み。打ち合わせや会議はどんどんなくなってしまえばいいと思う。さよたんていの本を読んでいると、シトルーナとの共通点について書きたくなったので文章にまとめてみた。ちょっと熱くなってしまった。夜、買い物へ。昨日、夫が義実家からもらってきた紫蘇がかなり野性味あふれる味だったのでサムギョプサルっぽいものを食べたくなる。夜ご飯、サムギョプサル、イチジクの白和え。北欧暮らしの道具店で買い物をしていたものが届く。夫の誕生日プレゼントにフラワーベース。私はリップと靴下を買った。フラワーベース、好きそうとビビッときて衝動買いだったが喜んでくれていたみたいでよかった。
8月27日 午前中、鍼へ。元気になると調子に乗ってしまう話をすると、「元気なときぐらい調子に乗らないとね」と言われた。少し体調が悪いぐらいの精神状態で身体は元気でいられたらいいのになと思う。心と体を分けすぎなのかな。帰りに初めての一人カラオケをした。土用が明けたらやりたかったことのひとつ。ひとりの人も多くて、全然大丈夫だった。歌い疲れたら、本を読んだり。楽しかったです。夕方、水道管から変な音がしだしたと思うと、下の人がやってきて水漏れしてるとのこと。うちは水は使っていなかったので、給水関係かなと思っていたのだが、念のためと思って元栓を締めると何と音が静まった。業者の人に見てもらうと、やっぱりうちだったみたい。時間も遅いので、修理は明日になるとのこと。水が使えないので、お互いそれぞれの実家にいくことにした。夜ご飯は、スペアリブとまくわうりのスープ。
8月28日 朝から工事。家にいないといけないので、仕事は私が休んだ。「今日中に直すからね」と、どんどん職人さんが来てなおしてくれた。お昼に団地の職員の人も来てくれて、謝って帰られた。うちももっと早く元栓を閉めてあげられたらよかったんだけど。下の人の対応や補償が大変だろうな。もう古いのでどこがいつ今回のようになってもおかしくないみたい。水道管クライシスだ。安倍総理が体調不良を原因に辞任することに決まった。潰瘍性大腸炎って大変な病気だな。できることなら心身ともに健康な人がリーダーになって欲しいが、そんな人はおそらく政治家になりたくないと思う。夜ご飯、オクラとコーンのグラタン、ベーコンと蓮根の酸っぱい炒め物、トマトともずくとモロヘイヤのスープ。
8月29日 特に予定のない土曜日。朝、散歩する。今日も工事があるのかなと思っていたけど、今日はないみたい。壁のペンキを塗るって言ってたような気もするが、それはまたあとでの話なのか。お昼は高山なおみさんのレシピの煮干しとゴーヤのチャーハン。毎年、ゴーヤの季節の定番。大好きなレシピ。夕方買い物へ。初マイカゴでの買い物。「これに入れてください」というタイミングが難しい。夜ご飯は、手羽元の酸っぱ煮、なすの味噌炒め、きゅうりの梅和え。夜、ファッジと郵便局がコラボしたラジオがあった。40分、コーヒーの入れ方やキリンジのライブを聴きながら手紙を書くというもの。寝室に小さな机とランプをもって、過ごした。これがなかなかよかった。手紙は3通かけた。
8月30日 日曜日。今日中にやらないといけないはずのことがあるのに、ほかのことばかりやっている夫についイライラしてしまう。課題の分離、課題の分離、あなたは困ってもわたしは困らないんだぞーと頭のなかで唱えた。頭がうまく働かないモードになってきたので、全部ログを取ることにする。やるべきことを決めておいてサクサクとやっていくようにすれば動ける。Kちゃんとお昼を食べに行く。一人ずつ仕切りのあるラーメン屋さん。中で並べないようになっていて、順番がきたらLINEで呼び出してくれるシステム。車の中で20分ほど待った。そのあと、お茶をした。一人暮らしをしようかなと言っていた。いいないいな。私はまたなんか偉そうなことを言っていた気がする。何か近ごろ表面を撫でているようなコミュニケーションじゃ満足できなくなっている。でもそれは、お互いの掘りたい気持ちが同じでないと。嫌な気持ちになったかもしれないな。次は自分からは誘わないようにして待ってみよう。誘うと彼女は嫌でも会おうと言ってくれるから。夫は明日が誕生日だったので、ケーキを買って帰った。夜ご飯は、肉味噌炒めのレタス包み、キムチとえのきのスープ。肉味噌にひじきと豆の煮物も加えたら美味しかった。
8月31日 夫は少しやる気になっていてさくさく動き出した。私もさくさく動こう。やることリストを片付けていく。本も読んだ。夫が夜勤(今は時短になっているので22時まで)の日は、お昼ご飯が一日のメインになる。ハッシュドビーフとサラダ。たくさんできたので、晩ご飯もこの残りを食べた。もうすぐ満月なので、今のうちに欲しいものを買ったり、図書館の本の予約をしたりした。満月から新月の間は、なるべく物を増やさずはしゃがず月とともに身軽になっていけたらいいなと思っている。今日が誕生日の友人にメールしたときに、共通の友人が入院していることを知る。子どもも小さいので家族も大変だろう。早く良くなって欲しいけど、ゆっくり休むことが必要なんだとも思う。
9月1日 仕事の日。何となく憂鬱だったことが前に進められた感触があった。後輩がワープロを知らないと言うので「ワープロが出てくる小説、読む?」と言って『キッチン』を貸そうとしたけど「本読まないんで」と断られた。そっか。帰りに朔日餅を受け取りに。受け取り場所で少し並んで、来月の予約をする人はして、ある程度の人数ごとに店員さんに連れられて店内へという流れ。9月の朔日餅は小さなおはぎ。6個入りだったので、実家に持っていって、ひとつずつ食べてもらい私もひとつ食べた。上品な甘さで美味しいし、思ったより小ぶりだったのでペロリと食べられた。一年に何度かの楽しみにして何年かかけてコンプリートできたらいいな。夜ご飯は実家で。ハンバーグ、モロヘイヤのスープなどを作った。冷蔵庫を見ると今日もぎっしり。豆腐もたくさん入っている。何があるかメモしてから買い物に行けばいいのになあと思う。そういうのは習慣なんだろうな。日々のモヤモヤを放置しておかないことは気持ちよく暮らしていく上での筋トレやストレッチだ。どんどんシンプルにしていかないとなと思う。自分から目を逸らさないようにしないとと思って、物理的に鏡を見る時間を増やすことにしてみた。今は少し恥ずかしいが、大切なことだと思う。
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リハビリ|入力と出力の間(24)
回復期リハビリテーション病棟では、大半の患者が車椅子や歩行器、松葉杖を使っている。しかも、急性期と異なり、長期入院がほとんど。入院生活の日常として、3日に1回、1時間の入浴がリハビリ・スケジュールに組み込まれている。単にカラダを清潔に保つというだけではない。あれこれ介助を受けつつも、最終的には一人で入浴できることを目指す。入浴もまた立派なリハビリ訓練の一部なのである。
入院していた7階フロアには、まるで銭湯よろしく、男湯、女湯の暖簾が掛かった浴場がそれぞれひとつずつ設置されていた。最初の頃は自走も出来なかったので、車椅子に座ったまま、連れて行ってもらった。暖簾の下にあるスロープを上がると、まず10畳くらいの脱衣場、右側の大きな引き戸の向こうに12畳ほどの洗い場があり、洗い場の右側にずらっと4人分のシャワー付き湯水混合栓が並んでいる。
ここに大きな湯船があったら、「大浴場」風になるところだが、あるのは小さな一人用の機械式浴槽。入り口からまっすぐ奥、左側の壁際にある。スライド式の椅子が付いていて、車椅子から移乗すると、このスライド式の椅子がグーっとお風呂のほうに移動して、小さな浴槽のなかに引き込まれる仕組み。ちょっと他では見たことがない。急性期の病院にあるベッドに寝転がって入れてもらう機械式浴槽とも違う。とにかくコンパクトなのだ。だから、あらかじめお腹のあたりまでお湯がある浴槽のなかにちんまりと収まった後に、スライド式の椅子が出入りする箇所が閉まると、お湯を足して数分で肩下までお湯につかることができる仕組み。
前の人が、この機械式のミニミニ浴槽に収まる様子を「ほおー」と眺めつつ、こちらは病室用の車椅子からお風呂用の車椅子に移乗して、ヘルバーさんに洗い場のなかに押していってもらう。お風呂用の車椅子なので、座ったまま洗ってもらい、座ったままシャワーで流してもらえる。
横を見やると、すでに自立している人は、滑らないように手助けしてもらいつつ自分の足で洗い場に入り、設置されているお風呂椅子(一般の物よりは座面が高く、脚にはしっかりとしたゴムの滑り止めがついている)に座って、自分で身体を洗っている。マイシャンプーや、マイ垢擦りを持ち込んでいる人もいる。自由度が高い。
わたしの場合は、最初は左腕も上がらず、座り姿勢も安定していなかったので、病院スタッフが洗ってくれた。さすがにお風呂の場合は男性のスタッフはおらず、全員が女性。看護士さんもヘルパーさんもいる。
回復期の浴場の面白さに目を奪われて、ついつい右左に頭を向けていると、車椅��を押してきてくれたヘルパーさんに代わって、ゴム長靴に首タオル、腕まくり姿でわたしの担当に付いてくれたのは小柄な看護士さん。動きがテキパキしていて、指示も明確。このテキパさん、タオルで身体を擦ってくれる時の力加減が実にちょうどよく、自分で洗えない患者のもどかしさを我が事として分かってくれてる感じがした。
当時は、夏場ということもあって、ずっと車椅子に座りっぱなしのお尻はけっこうムズムズしがち。しかも、シャワーも座ったまま流されるので、お尻はいちばんスッキリしづらい箇所になる。だからといって、自分で立ち上がることもできないから、腰を上げて自分でお尻をスカッと洗うこともできない。
「鏡の横にある手すりにつかまって、一瞬だけ腰を浮かせられますか?」。事務的ともいえるテキパさんの問いに、「やってみます」と右手で手すりをつかみ、前屈みになり、本当に一瞬だけ腰を浮かせた。すると、車椅子にへばりついて不快感いっぱいだったお尻を、素早い動きで、力強く拭きあげつつ、強めのシャワーで勢いよく流してくれた。スッキリ〜!!
これが、テキパさんの凄技であることは、次に別の人が洗ってくれた時に、よ〜くわかった。他の人は、こんなに素早く、力強く、スッキリ洗い流す技を持っていなかった。のちのち聞いてわかったことだが、彼女はもともとヘルパーとして介護施設で働いていたが「もっといろんな場面で患者さんの役に立ちたい」と看護学校に入り直して資格をとり、いまの病院に勤めるようになったという。
特別愛想がいいわけではなく、伝えるべきことを正確に話そうとするので、ちょっとクールに見えたりもするのだが、その動作に込められているのは、患者さんファーストの心意気である。
だから、後にわたしが少しづつ動けるようになると、その動ける範囲にあわせて、絶妙な加減でヘルプの手数も減らし、「背中を洗う動作、タオルを肩にかけるところまでやるので、後は自分で擦ってみましょうか?」と、患者が自分で頑張れる力を引き出そうとする。
入浴の場もリハビリ訓練の一環だという明確な意識を感じ、ちょっと親しく話せるようになってから「テキパさん、ものすごく戦略的に介助に入ってきますよね〜」と言ったら、我が意を得たりとばかりに、「わかりました?」とめずらしく顔を輝かせ、「お風呂とかトイレって、切実だからこそ、リハビリ訓練に最適な場だと思うんですよ」と熱心に話してくれた。
だが、まあそれは後のこと。このときのわたしは、「はあ〜気持ちいい」とすっかりリラックス。身体を洗ってもらった後には、機械式のミニ浴槽に収まって「いい湯だな〜」とその仕掛けにワクワクしっぱなし。テキパさんの考え抜かれた配慮には、全然気づいていなかったのだった。
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スパイク・リー監督・主演『ドゥ・ザ・ライト・シング』
(その2:事件の背景と本作に込めらたメッセージ)
原題:Do The Right Thing
制作:アメリカ, 1989年.
ベッドスタイの夏の日の朝、ラヒームの死を思う者は誰もいなかった。しかし、ラヒームは誰かの手で計画的に殺されたわけではない。かといって、「太陽が眩しかった」から殺されたわけでもない。
ラヒームはなぜ警官の犠牲になり、スパイク・リー監督はこの映画に何を込めたのだろうか。本稿では、(その1)の現場風景を手がかりに、映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』の背景と本作に込められたメッセージを探ってみたい。
なお、以下の記述のうち現場に関連する多くは、(その1:物語の現場はどうなっていたか)に状況を記し、文中に登場する会話は太字で示した。
CONTENTS
・日常の均衡を象徴するラヒーム
・黒人と白人双方の憎しみが黒人の犠牲者を生む
・なぜ、ムーキーはゴミ缶を投げたのか?
・黒人殺害事件の背景:(1) 格差の実態
・黒人殺害事件の背景:(2) 格差を生む教育システム
・黒人殺害事件の背景:(3) 恐るべき警察の収監システム
日常の均衡を象徴するラヒーム
本作はベッドスタイの街を、愛と憎しみが拮抗する日常風景から描きはじめている。全体として怒りと憎しみの描写が目立つが、愛と寛容も描かれている。
DJダディは愛と尊敬を込めて、60人もの黒人ミュージシャンの名前を読み上げる。酔っ払いの老人ダー・メイヤーは、諍いに出会うたびに仲裁し、18年ものあいだ愚痴を欠かさない未亡人に、なけなしの金をはたいてバラの花束を贈ったりもする。
ときには警官も寛容さを発揮する。街の若者が消火栓で水を撒き散らして遊ぶなか、通りかかった白人のクルマに水を浴びせる場面では、告訴すると怒る白人を警官がとりなし、黒人の若者を無罪放免にしたりする。
反対に、生活の苦しさや家族の軋轢を描いた場面は数多くある。ムーキーには恋人のティナとの間にできた男の子がいる。しかし、ティナと同居している母親との折り合いが悪く、寝泊りするのは妹のジェイドのアパートだ。ティナは子守をしてくれない母親と言い争い、面倒見の悪いムーキーに「くたばればいい」と罵声を浴びせる。だが、その母親が子守をするアパートの別室で、ティナはムーキーと愛し合ったりもする。
ラジオ・ラヒームはこの相反する感情のバランスを体現するかのようだ。彼はいつも手に下げたラジオで大音量の "Fight The Power" を鳴らしている。しかしラヒームは、そのことで「戦い」をしているわけではない。「愛が勝つんだ」と言い、子どもと手をつなぎ楽しげに街を歩く姿も見える。ラヒームにとって "Fight The Power" は、日常を彩るラップ曲に他ならない。だがラヒームは、憎しみを忘れたお調子者ではない。
両手にはめた "LOVE" と "HATE" の指輪は、そうした日常の象徴だ。ラヒームはムーキーに、「憎しみで人は殺しあう、愛が人の魂に触れる。最後は愛が勝つ」と話す。このときムーキーは「じゃ、後でな。平和を」といって別れている。ラヒームもムーキーも、憎しみを抱えながら愛の力で日常をやり過ごしている。
街のあちこちで、愛と憎しみのバランスを取りながら生きる人々の姿が伝わってくる。これが真夏のベッドスタイの日常風景なのだろう。スパイク・リー監督が本作の前半でこうした日常を描いて見せたのは、それがひとつの「正しいこと」だからだろう。だがその正しさは、穏健な牧師の説教のようなものではない。
黒人と白人双方の憎しみが黒人の犠牲者を生む
『ドゥ・ザ・ライト・シング』の前半で描かれる日常風景は、事件への伏線に他ならない。
サルのピザ屋にバギンがやってくる。ひと切れのピザに文句をいい、支払いを渋るバギン。それをサルが、「月賦で支払うか?」とからかったそのひと言で、保たれていたはずの均衡が崩れはじめる。このときバギンは壁の写真に黒人が一人もいないと文句を言い、これが高じて店のボイコットへと発展する。
そして、サルがラヒームのラジオをバットで叩き割ったことで、事件はさらに深刻になる。互いの暴力行為が警察の介入をもたらし、警官の過剰対応がラヒームを死に追いやる。過剰対応を招いた警官の心情はほとんど描かれていないが、街をパトロールする警官が黒人に目線を定め「クソったれ」と漏らす場面が描かれている。
このときパトカーにいた二人の警官が、ラヒームを警棒で締め上げ殺害した当事者だ。しかし、同時にこの警官はサルの店でピザを買い、黒人の水遊びに腹を立て告訴するという白人をなだめ、黒人少年を逃したりもしていた。白人警官の黒人に対する憎しみがわずかしか描かれていないのも本作の特徴だろう。
白人もまた黒人に憎しみの心情を抱きながら、なんとか愛と憎しみのバランスに折り合いをつけながらベッドスタイの日常を過ごしている。しかし、このバランスは黒人にとっても白人にとっても、少しの不注意や不寛容で崩れてしまう脆弱なものだ。その上でスパイク・リー監督はアメリカ系アメリカ人の登場と彼らへの悪口を控えているように見える。これは、白人が黒人を貶めるほどには白人を責めてこなかった、黒人の姿の反映かもしれない。
ラヒームが言うように、愛と憎しみのせめぎ合いのなかで人は殺し合う。だが、この日ベッドスタイでKO勝ちしたのは憎しみの方だった。店のボイコットを切っ掛けにラヒームは自らの憎しみをサルに向け、白人警官の憎しみは黒人のラヒームに向けられた。二重の憎悪が愛と憎しみのバランスを狂わせ、ラヒームがその犠牲になった。
黒人と白人の双方が憎みあい、黒人に多くの死をもたらす構造は、過去に起きた同種の事件に共通している。スパイク・リー監督は本作を「エレノア・バンパーズ銃撃事件」他5名の犠牲者に捧げているが、その6人はすべて黒人だ。直近では今年5月25日にミネアポリスで起きた「黒人男性拘束死事件」でも犠牲者は黒人だった。これだけを見ても、映画に描かれた状況は30年以上も変わっていないことがわかる。
なぜ、ムーキーはゴミ缶を投げたのか?
『ドゥ・ザ・ライト・シング』で最も興味深い場面は、ラヒームが死亡したあとの顛末である。パトカーが動かなくなったラヒームを運び去ったあと、ムーキーが思わぬ行動に出る。大型のゴミ缶をサルの店のウインドウに投げつける場面だ。これがきっかけで街の住人は暴徒化し、店の什器は破壊し尽くされ、現金が盗まれたあげく店に火が放たれる。
なぜ、ムーキーは店を破壊する行動に出たのか? それはムーキーが、サル一家を暴徒から助けようとしたから、というのがわたしの見方だ。本作が描く現場には、そう思わせるさまざまな状況証拠がある。
ムーキーがゴミ缶を投げる前、群衆の怒りがサル親子に向けられる場面がある。ムーキーもサルらの側に立ち、詰め寄る人々の怒りに囲まれる。このときのムーキーの表情が印象的だ。彼はサルの家族に視線を向け、祈るような仕草をする。ムーキーは「このままではマズイことになる」と思ったのだろう。
店で妹と食事を楽しみ、サルから給料をもらい、ピノと話が通じるムーキーの心情が、サルたちへの憎しみ一色だとは思えない。「家に帰れ」という警官にムーキーが「ここが家だ」叫んだように、彼らは日常をともに過ごす「家」の住人なのだ。彼はその生活の絆が徹底的に破壊されるのを避けたかった。だからこそムーキーは、群衆の気を引くように「憎しみだ!」と叫びながらゴミ缶をサルの店に投げてみせた。人々の怒りをサルたちにではなく、店に向けさせるために。
ムーキーの心情に憎しみのカケラもなかったかと言えば、そうでもないだろう。彼は何度も仕事ぶりをサルにけなされている。ピノとの折り合いも悪かった。その鬱憤を晴らす気持ちもあったかもしれない。それでもムーキーは、人々を暴動に誘おうとしてゴミ缶を投げたわけではない。彼の行動の本質は、サル一家に決定的な危害が及ぶのを阻止しようとことにある。別な見方はあるかも知れないが、わたしはムーキーの行動をそのように受け止めた。
このことは、群衆の怒りの矛先がコリアン雑貨店に向かう場面と辻褄が合う。サルたちはこのとき、雑貨店が餌食になる様子を息を飲むような表情で見つめていた。そこに、犠牲になりかねなかった自分たちの姿を重ねたからだろう。サルたちは、無関係の彼らが自分たちの身代わりになることを案じたのではなかっただろうか。
他にも証拠がある。翌朝、ムーキーは未払いだった250ドルの給料をもらいに焼け落ちたサルの店に行く。その際のやり取りで、激昂しながらもサルはムーキーがゴミ缶を投げたことを責めていない。普通に考えて、自分の店にゴミ缶を投げつけて壊し放火を招いた相手を目の前に、責めないことがあるだろうか。なぜ、サルはそのことを口にしなかったのだろうか?
それはサルがゴミ缶を投げたムーキーの心情を知っていたからだ。また、ムーキーはサルが投げてよこした500ドルのうち、残りの250ドルもポケットに入れている。このやりとりでムーキーはサルに、「借りておく」と言っている。サルとの関係はこれからも続くということだろう。
店への破壊行為、友人の死、さらには店への放火といった暴力行為を描きながら、この作品を通じてスパイク・リーは、愛と憎しみの平衡を何とか取り戻そうとする主人公の姿を演じている。"Fight The Power" が "Black Lives Matter(黒人も大切にしてくれ)" の叫びに聞こえる。これは本作で彼が監督として示した一貫した姿勢だと思う。穏健な改革派のキング牧師と、暴力を否定しなかったマルコムXを同時に登場させたのもその現れだろう。
スパイク・リー監督が『ドゥ・ザ・ライト・シング』で行って見せたのは、時には暴力に訴えることもあるがやり過ぎてはいけない。ともかく黒人も大切にしてほしいという、ごく当たり前の訴えなのだと思う。
黒人殺害事件の背景:(1) 格差の実態
それにしても、本作に描かれた事件と同種の事件が後を絶たない。本作は制作年の1989年までに起きた同種の6つの事件に捧げられているが、本稿を書いている現在も先月5月25日にミネアポリスで起きた「黒人男性拘束死事件」の余波は世界的な広がりをみせている。
そして、またあらたな事件が起こった。数日前の6月12日、ドライブスルーで警官に撃たれた黒人男性が死亡した。こうした事件は、アメリカで1964年に公民権法が制定された後も絶えることがない。
ミネアポリスの「黒人男性拘束死事件」は、その後 "Black Lives Matter" として世界的な抗議活動に発展し、1) 現在も収まる気配がない。そうしたなか、この種の事件が起こる背景についてさまざまな報道が行われている。その多くは経済格差とその背後にある政治や司法の問題を指摘し、さらにトランプ大統領の政策が影響しているとする意見も多い。
例えば、6月11日付けの日本経済新聞は「黒人暴行死事件の背景を探る」として、黒人の置かれた状況をデータで示すとともに、人種差別の歴史を振り返る特集記事を掲載している。前者の要点は次のようなものだ。個々の詳細は、元記事2) を参照いただきたい。
白人の世帯年収平均金額の中央値は黒人の1.7倍
黒人の無保険者は白人の1.8倍
コロナによる黒人の死者数は白人の約2.5倍
各人口あたりの警官による殺害は黒人が白人の約2.8倍
マリファナ使用による逮捕者数は黒人が白人の約3.7倍
警察の呼び止めを正当と思う人は黒人より白人が多い
黒人有権者のトランプ氏支持率は9%
黒人はバイデン氏の支持率が圧倒的に高い
一見して白人と黒人の間の格差は大きく、記事がいう国家的な仕組みが関係しているとしか考えられないものだ。そうであれば、その制度を擁護し、声高に「アメリカ・ファースト」を主張し、「白人至上主義者にも良い人はいる」といった発言を繰り返すトランプ氏が黒人から嫌われるのは当然のことだろう。
トランプ氏のトレードマークにもなっている「アメリカ・ファースト」については、その差別的な背景について、2018年公開の『ブラック・クランズマン』のなかでスパイク・リー監督が鋭く切り込んでいる。同作品よれば「アメリカ・ファースト」には、明らかに白人の黒人に対する差別が込められている。
こうした差別や格差に関するデータについては、例えばソキウス101の「アメリカの貧困と格差の凄まじさがわかる30のデータ」などにより詳しく取り上げられている。3) 子どもの貧困、寿命格差、食糧支給、ホームレスなど、より広範な視点で世界中に広がる格差の状況を概観することができる。
黒人殺害事件の背景:(2) 格差を生む教育システム
だが、こうした記事やデータを読むだけでは不公平な制度の中身はわからない。このため、日経記事が掲げるような問題、例えば黒人が白人よりも大幅に低所得なのは、彼らが働かないからだと思い勝ちだ。
本作でもムーキーがピザ屋に顔を出して最初の会話は、ピノからの「遅刻だ」の一言だ。通りを掃除しろと言われても、「オレの仕事はピザの出前だ」と聞こうとはしない。さらにムーキーは、配達中に道草をしてサルに叱られ「出前にはビトを(見張りに)付けよう」といわれたりする。そもそも、映画に登場するベッドスタイの住人のほとんどは働いていないように見える。
こうした描写を見ると、アメリカの保守派が口にする自己責任論がもっともらしく思えてくる。保守派にしてみれば保険も自己責任で費用を負担し加入しているのであって、働こうとしない人々に自分らが負担してまで保険制度を適用するのは反対だという考え方になる。これはオバマケアでさんざん議論されたことだ。
しかし、雇用、保険、教育など、人間が生きる上での基本的人権にかかわる制度自体に歪みがあり、黒人の雇用が狭���られているとすれば、働かないのは働けない仕組みのせいになる。この点について、本田創造氏の『アメリカ黒人の歴史 新版』に次の記述がある。4)
「黒人問題」は、すでに詳しく述べた公民権運動の数々の輝かしい差別撤廃の成果にもかかわらず、依然として解決されていないということである。(…)しかし、黒人大衆の経済状態は、最近では、むしろ悪化さえしている。それは、かれらの存在そのものが、最高度に発達したアメリカ資本主義の重要な存立基盤のひとつとして、この国の社会経済機構の中に差別されたかたちで構造的に組み込まれているからである。 (Kindle の位置No.2903-2908).
同書は1964年に旧版が出たあと、公民権運動の中心となった黒人解放運動などを書き加え、1991年に新版として出版された。引用にある「最近」は、映画の舞台となったベッドスタイの時代と重なる。そしてその当時から現在まで、白人と黒人の経済格差はいっこうに縮まっていない。本田氏の言う「社会経済構造のなかの差別」は当時からおよそ30年を経過した現在も続いていることになる。
この制度問題に関する記事は必ずしも多くないようだが、ニューヨーク在住のライター堂本かおる氏が制度的人種差別について、「白人警官はなぜ黒人を殺害するのか 日本人が知らない差別の仕組み」のなかで次の指摘をしている。5)
米国の公立学校の財源はほとんどが固定資産税で賄われており、貧困地区と裕福な地区の極端な税収格差が、子供たちが受ける教育格差に直結している。こうした要素が重なり、貧しい黒人の子供たちが学力格差を克服するのはほぼ不可能に近いとさえ言われている。
また、同記事を補足する形で、ショーンKY氏が「アメリカの格差と分断の背景にある自治体内での福祉予算循環」と題する記事のなかで、アメリカに現存する制度的な差別の実態と構造を詳しく論じている。6) 格差社会アメリカの構造を知る上で有用な内容で、わたしは次の一節に至る理由を読んで、アメリカの格差問題は本当に根が深いと思った。
アメリカにおける自治体別の格差は、本質的には所得格差に由来するものである。これがなぜ人種格差と結びつくかと言えば、(…)それが学校・警察を経由した格差の相続装置であり、一度生じた格差を時間が経つごとに拡大させるエンジンになっているからである。
格差の発生源を「時間とともに格差を拡大させるエンジン」と形容したのは秀逸だと思う。この喩えを広げれば、税収は燃料、教育システムはエンジンと燃料で動く内燃機関になるだろう。
エンジンは富裕層が住むゲートの内側と外側にあり、それぞれの燃料(税収)の多寡に応じて働く。燃料が豊かなゲートの内側では教育設備や環境が整い効率的に富の生産が行われる。一方、燃料が乏しいゲートの外では設備の不足や老朽化が進み、教師も満足とは言えず価値の生産が滞りその質も低下する。
さらに言えば、ゲートの内側では学力の向上が高学歴を促し、生徒が社会に出て政治の世界に手が届くと、豊かな教育を受けた本人は自身の育ちを肯定的に捉え、内燃機関(教育システム)を信奉するようになる。反対にゲートの外側では劣悪な教育が犯罪の温床となり、そこでは機能しないエンジンを直そうとする者も育たない。エンジンの例えが秀逸だと思ったのは、ここで説明されている教育システムが、白人中心に営まれるアメリカ社会の原動力をうまく表現していると思ったからだ。
教育制度が抱えるこうした差別的な構造は、黒人の賃金を抑え白人社会に利益を移転する搾取の問題以上に、学習意欲や労働意欲を阻害する点で、人生により根本的で深刻な危害をもたらす。学校の設備は貧相で古いものばかり、そのうえ教師の能力も劣る。家に帰れば、貧しい家計が食事や医療を圧迫する。そうした環境で多くの黒人が育つとすれば、彼らが白人と同等の学ぶ意欲を持つのは容易ではないだろう。白人が同じ環境に置かれれば、同様に意欲を削がれはずだ。意欲なしには十分な知識や給与は得られない。生きる意欲なしに、一体どうすれば生活が良くなるのだろう。格差は拡大する一方だ。
ムーキーらが暮らす1989年のベッドスタイは、ゲートの外にある文字通り"DO-OR-DIE"の世界である。映画のなかで本の話題が二度出るが、どちらも「お前が本を読むか?」とからかうネタにされている。少なくてもムーキーとティナの子ヘクターが���ートの外にいる限り、彼を働き者に育てるのは容易ではないだろう。社会のシステムが、両親が得た以上の教育を受けることを困難にしているからだ。
映画のなかでムーキーは25歳だ。彼はちょうど公民権法が制定された年に生まれたことになる。本田氏の指摘によれば、その後「黒人大衆の経済状態はむしろ悪化」した。ムーキーの労働意欲の欠如と低い収入は、アメリカ社会の制度的な歪みが大きく関係していると思われる。ベッドスタイの人々の多くは、働かない生活を自己責任で選び取ったのではないだろう。黒人のすべてがそうだとは言えないが、その多くは働く意欲を削ぐ社会的な仕組みの犠牲者だというしかない。
黒人殺害事件の背景:(3) 恐るべき警察の収監システム
教育システムとともに、もうひとつ制度上の大きな問題がある。警察の収監システムである。『ドゥ・ザ・ライト・シング』のなかで収監そのものが描かれているわけではないが、これも当時の黒人の生活や、ラヒームが犠牲になった背景に関係している。
先日の「黒人男性拘束死事件」に端を発したデモの映像で、何度か警察予算の削減を訴えるプラカード "DEFUND THE POLICE" を目にした。7) この標語は "BLACK LIVES MATTER" とともに、この種の事件が発生するたびに何度も使われてきたスローガンである。
英語版のWikipediaによれば、"DEFUND THE POLICE" は警察からの資金を分離し、社会サービス、青少年サービス、住宅、教育、その他の地域社会の資源など、公共の安全と地域社会の支援といった非警察的な形態に向けて再配分しようと訴えるものだ。8) さらに解説を読み進むと、こうしたスローガンが生まれた背景に、凶悪犯罪を取り締まるはずの警察が軽犯罪ばかりを取り締まり、人種的偏見にもとづく、貧困層を狙い撃ちにした逮捕が横行する実態があることがわかる。
映画で描かれたラヒームとサルの喧嘩も、殴り合いだけなら軽犯罪で済んだことだろう。顔見知りで同じ街で生活を共にしてきた二人が、もつれあいのなか相手を殺害するとは考えにくい。もし、そうなりそうなら周りが止めただろう。サルはバットでラジオを壊しはしたが、バットでラヒームに殴りかかりはしなかった。また、ラヒームも凶器を持っていない。それが警察の介入で殺害へと変貌するのは、日常的に繰り返される逮捕の多さと、安易に過剰に走る取り締まりに問題の一端があると思わせる。
軽犯罪を理由に大量の人々を逮捕するには、警官の人件費や装備費に多額の予算が必要になる。こうした実状から、弱いものを狩る部隊と化した警察予算を分離し、弱いものを救うためのサービスに予算を振り替えようといのが "DEFUND THE POLICE" の主旨だが、そうなる理由を掘り下げて考えるには、Netflixが独自に制作した動画『13th -憲法修正第13条-』(以下、『13th』と略記)がひとつの手掛かりになる。9)
動画は奴隷解放がいかにして収監システムに姿を変えたかを、歴史を振り返りながら伝えている。奴隷解放宣言(1863年)のあと公民権法が制定(1964年)され黒人への人種差別はなくなったはずだが、奴隷だった黒人の多くは受刑者として、新たな制度に引き継がれたという。
動画の題名になっているアメリカ合衆国憲法修正第13条は、公式に奴隷制を廃止し、奴隷制の禁止を定めたものだが、「犯罪者を除外する」という主旨の例外規定がある。この例外規定が犯罪者を奴隷扱いすることを可能にしたというのが『13th』の本質を成す主張である。動画は概ね次のように述べている。
公民権法が制定されて、400万人の奴隷をどうするかが問題になった。彼らは南部の経済や生産に欠かせない存在だったからだ。では、奴隷だった者をどうするか? 奴隷の恩恵を得て伸びてきた経済をどうするか? この二つの問題解決に修正13条の抜け穴が利用された。
この抜け穴が大量の受刑者を生み出す原点となった。
いうまでもなく受刑者は刑務所に収監され、社会や家族との接触を断たれる。動画によればその数は、2014年の時点で230万6,200人を数える。国別ではアメリカが世界最多、米国内の人種別では黒人が受刑者の40.2%を占めるという。しかも、1980年から2000年までの20年間で、受刑者の数はおよそ3.5倍という増加ぶりだ。下図にアメリカ国内の受刑者数の推移を示す。10)
なぜ、これほどの数の受刑者がいて、しかも急激に増えたのだろうか? 動画はこの背景に、刑事司法制度と産獄共同体が抱える問題があると指摘している。前者の司法制度については、そもそも「容疑者に対する裁判そのものが行われていない」として次のように述べている。
保釈金を払って保釈されようと思えば1万ドルが必要だが、貧しい家庭ではできない。そこで、検事から司法取引が持ちかけられる。「司法取り引きするなら3年、裁判をするなら30年の刑だ。それでも裁判をするか?」貧乏人は裁判をしない。拘留された人のうち97%は裁判を断念し、司法取引に応じている。これは考えうる限り、アメリカにおける最悪の人権問題のひとつだ。
有罪か無罪かの真実ではなく、富が結果を決める現実がある。しかも、司法取引に応じて身に覚えのない罪を認め有罪になれば、その後生涯にわたって社会的な制限を受けることになる。
『13th』によればそうした社会的な罰は、学生ローン、事業免許、食糧配給券、家の賃借、生命保険など全部で「4万にもおよび」、「アラバマ州の黒人男性の約30%が、前歴のせいで投票権を永久に失っていることを誰も知らない。」という。掛けられた嫌疑の真実がどうであろうと、いったん有罪の烙印が押されれば、その印は一生ついてまわる。お金の多寡で罪が決められ、社会の仕組みによって罰が与えられるとは、何という悲惨、何という不幸だろうか。
こうした現実が長きにわたって続いているのは、司法制度と産獄共同体(産獄複合体とも呼ばれる)が一体となり、収監システムとして機能しているからだという。上述のWikipediaによれば複合体は、企業、政治家、メディア、看守組合などの利権集団で構成される。このうち『13th』で具体的に言及されるのは、CCA(Corrections Corporation of America)と呼ばれる民間刑務所会社、ロビー団体の米国立法交流協議会ALEC(American Legislative Exchange Council)とその会員企業である。動画はかなりの時間を、産獄複合体の実態についての説明に充てている。
それによれば、CCAはアメリカ初の民間刑務所会社として1983年に発足した。発足当時は小さな会社だったが、現在では全米60ヵ所以上で施設を運営している。Wikipediaによれば、直近の売り上げは約20億ドル、純利益1.9億ドル、従業員14,075人とある。売上高純利益率からいえば、すばらしい成績の優良企業だ。11)
CCAがこれだけの好成績を上げていられるのは、刑務所が常に満杯で、しかも年々収容者数を増やしてきたからだ。『13th』はそれがどのように成し遂げられたかを次のように描いている(主旨)。
CCAは州と契約して投資を行うため、州は刑務所を満杯にする必要があった。CCAの働きかけででALECは、受刑者数を増やすための法案を提出した。クリントン政権の時代、「スリーストライク法」「必要的最低量刑法」「刑期の85%を下限にする」といった法律が次々と制定された。全て彼らが作った自分都合の法律だ。受刑者の安定供給によって生み出された利益は株主の懐に入る。80年代後半から90年台前半にかけて、刑務所運営は成長産業になった。成功が確実に保証された事業モデルだった。こうしてCCAは民間刑務所のトップになり、人を罰することで巨万の富を得ている。
「スリーストライク法」は、重刑を三回犯した者を一生刑務所に閉じ込めることを可能にした。「必要的最低量刑法」は比較的軽微な薬物犯などであっても、強制的に一定期間の拘禁刑を科す法律である。「刑期の85%を下限に」も含め、すべてクリントン政権の時代(1993年1月〜2001年1月)に法制化されたようだ。
収容者を増やすための法律という批判に対し、メリーランド州の上院議員がインタビューに「質問の意味がわからない」と答え、クリントン氏が「受刑者の増加率は減った」と反論する場面もあるが、前掲の図のように1993年から2001年のクリントン政権の時代、収容者は大幅に増えている。一方で、凶悪犯の検挙率が極めて低いことを考えると、収容者を増やすための法律といわれても仕方がないだろう。このような背景のもとで、収監システムは民間の刑務所のビジネスを急拡大させ、社会的な存在感を増していった。
『ドゥ・ザ・ライト・シング』が作られた1989年は、こうした時代の真っ只中にあった。司法と刑務所が収監システムへと姿を変え、貧困層の黒人をまるで利益のための餌のように狩る時代の嵐のなかでこの映画は作られたことになる。『13th』は動画の終盤で次のように訴えている。
理解してほしい、黒人の命だけが大切なのではない、全ての人々の命が大切なのだ。例外は存在しない。刑事司法制度の関係者も、産獄共同体の関係者もそうだ。黒人だけの問題ではない。人間の尊厳について、この国の意識を変える必要がる。
これは、スパイク・リー監督にとっても同じ思いではないだろうか。ムーキーは働かないのではない、働くための途方もなく高い壁を乗り越えられないのだ。その一方で、警官はシステムのなかで働く白人の一人としてラヒームを殺害した。その現場でムーキーはひとりの人間として、イタリア系アメリカ人のサル一家を暴徒から守ろうとゴミ缶を投げたのである。
スパイク・リー監督は本作を制作した29年後の2018年に『ブラック・クランズマン』を作った。その映像に彼は、ラヒームと同様に犠牲になった白人女性ヘザー・ハイヤー氏の、「憎しみのうちには、何人の居場所もない」という言葉を添えている。繰り返すが、ハイヤー氏は黒人女性ではない。生前ラヒームが拳を掲げて言ったように「最後は愛が勝つ」。スパイク・リー氏とともに、わたしもその言葉を信じていたい。
(その1:物語の現場はどうなっていたか)
1)BLMの訴え自体は、2013年2月にフロリダ州で黒人少年のトレイボン・マーティンが白人警官のジョージ・ジマーマンに射殺された事件に端を発すると言われている。
Wikipedia「ブラック・ライブズ・マター」
https://bit.ly/2Y5oGfW
2)日本経済新聞「黒人暴行死事件の背景を探る(上)(下)」2020.06.11.
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60150710Z00C20A6I00000/
3)ソキウス101「アメリカの貧困と格差の凄まじさがわかる30のデータ」2020.4.30.
http://socius101.com/poverty-and-inequality-of-the-us/
4)本田創造『アメリカ黒人の歴史 新版』岩波書店, 1991.
5)堂本かおる「白人警官はなぜ黒人を殺害するのか 日本人が知らない差別の仕組み」文春オンライン, 2020.6.8.
https://bunshun.jp/articles/-/38288?page=2
6)ショーンKY「アメリカの格差と分��の背景にある自治体内での福祉予算循環」note, 2020.6.9.
https://note.com/kyslog/n/n5b8601ac8905
7)時事ドットコムニュース「「警察に予算回すな」 デモ継続、改革要求強まる―米」2020.6.8.
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020060800088&g=int
8)Wikipedia “DEFUND THE POLICE”
https://en.wikipedia.org/wiki/Defund_the_police
9)Netflix『13th -憲法修正第13条-』2020.4.17.
https://youtu.be/krfcq5pF8u8
10)Wikipedia “Incarceration in the United States”
https://en.wikipedia.org/wiki/Incarceration_in_the_United_States
11)Wikipedia「コレクションズ・コーポレイション・オブ・アメリカ」
https://bit.ly/2CjUJA5
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1人が死亡し18人がけがをした福島県郡山市の飲食店の爆発事故で、死亡したのはこの店で行われていた改装工事の現場監督だった仙台市の50歳の男性と確認されました。警察と消防はプロパンガスによる爆発とみて詳しい状況を調べています。
30日午前9時前、福島県郡山市島2丁目にある飲食店、「しゃぶしゃぶ温野菜郡山新さくら通り店」で爆発がありました。
店の中で男性1人の遺体が見つかり、警察が身元の確認を進めたところ、仙台市太白区の会社員、古川寛さん(50)と確認されました。
警察などによりますと、爆発が起きた店は新型コロナウイルスの影響で4月から休業し、その期間中に店舗の改装を行っていたということです。
古川さんが勤務する仙台市の設計施工会社によりますと、古川さんはこの店の改装工事の現場監督で、壁紙を塗装したり床を貼り替えたりする作業を行い、ガス関係の工事は請け負っていないということです。
今回の爆発では、このほか周辺の銀行のATMを使っていた人や近くの会社の事務所にいた人など、20代から80代の男女18人がけがをしました。
このうち40代の女性2人が重傷ですがいずれも意識はあり、残りの16人は軽いけがだということです。
消防によりますと、爆発が起きた建物の敷地にはプロパンガスのボンベが6本倒れていて、このうち3本でガスが漏れ、バルブが壊れていたということです。
警察や消防はプロパンガスが爆発の原因とみて詳しい状況を調べています。
仙台市にある設計施工会社の小西造型は、今回爆発が起きた現場の店舗で壁の塗装や床の張り替えなどの工事を請け負っていました。
この工事は、今月23日から始まり、30日は、店の看板を補修する予定だったということです。
古川さんは30日朝、宮城県内の自宅から会社の車で現場に向かい、午前8時10分ごろ、現場に着いたことを会社に連絡していました。
契約している警備会社に、古川さんが午前9時の数分前に現場の建物の鍵を開けた記録が残っているということで、それ以降は連絡が取れていないということです。
当時現場にいた社員は、古川さん1人だったということです。小西造型は「古川さんは仕事熱心で、誰よりも現場に詳しい優秀な方でした。事故の原因は分かりませんが、亡くなってしまったことは非常に残念です」としています。
爆発による衝撃 数百メートルにわたる
爆発現場となった郡山市島2丁目付近は、郡山市役所から西に1キロほど、JR郡山駅から、西に3.5キロほど離れています。
市の中心部で、商業施設や住宅地が広がる地域です。
爆発による衝撃は、数百メートルにわたって伝わったとみられ、周辺の店舗や住宅に、窓ガラスが割れるなどの被害が出ています。
このうち、現場から南に150メートルほどの離れた桑野協立病院では、職員が地震と間違えるような震動を感じ、1階から4階までの窓ガラスがあちらこちらで割れているということです。
また、現場から東に370メートルほど離れた郡山女子大学付属幼稚園でも、ドンという大きな音とともに窓ガラスが1枚割れる被害が出ています。
爆発は改装工事中のフランチャイズ店
「しゃぶしゃぶ温野菜」の運営会社を傘下に持つ外食大手の「コロワイド」によりますと、爆発があった「郡山新さくら通り店」は直営店ではなく、いわゆるフランチャイズ経営の店舗だということです。
平成18年に開業し、これまでに店側からガス漏れのトラブルが報告されたことはなかったということです。
この店舗は、ことし4月23日から新型コロナウイルスの影響で休業していて、今月21日から31日までの予定で改装工事を行っていたということです。
隣の電気工事会社 5人けが
爆発があった飲食店の東側にある、電気工事の会社に勤務している65歳の男性によりますと、当時、社内では100人ほどが勤務していたということで、男性は天井から落ちてきた照明が頭にぶつかりけがをしました。
また、この男性も含め合わせて5人が割れた窓ガラスが当たって首に切り傷を負ったり、崩れてきた壁で背中を打ったりするなどの軽いけがをしたということです。
男性は「とても大きな衝撃で、飛行機が墜落したかと思いました。事務所の窓ガラスが数多く壊れて、突然落ちてきた照明に頭をぶつけ、けがをしました。会社が再開できるように、いち早く復旧したいという思いです」と話していました。
100メートル余り離れた高校では
爆発が起きた飲食店から南へ100メートル余り離れた高校では、爆発の衝撃で教室の窓ガラスが割れ、けが人はいませんでしたが、生徒たちの間には動揺が広がっていました。
郡山女子大学附属高校は、夏休みが短縮された影響で31日までが登校日で、爆発が起きた当時は朝8時40分から全校で試験が行われていたということです。
学校によりますと、爆発による爆風や揺れで30枚ほどの窓ガラスが割れたりひびが入ったりしたほか、天井の配管がずれたり、ドアが壊れたりする被害があったということです。
けが人はいませんでしたが、被害を受けて、その場で泣きだしたり、過呼吸になった生徒が少なくとも10人はいたということで、担架や車いすを使って保健室に運び、休ませたということです。
もっとも被害が大きかった2年1組のクラスでは、校舎の北側にあたる窓ガラス2枚が大きく割れ、すぐ近くの机の下に落ちていました。
窓側から2列目の席に座っていたという生徒は「耳が痛くなるくらいの大きな音がして、同時にガラスが割れ、すぐに体を投げ捨てるようによけました。とても怖かったです」と話していました。
また、隣のクラスにいた40代の男性教諭は「窓が揺れるような風圧がものすごく強く、試験中だったが、生徒たちも動揺し、自分自身も恐怖を感じた。生徒には大きなけがの報告はないが、非常に動揺している」と話していました。
約120メートル離れた病院では
現場から北におよそ120メートル離れた病院に併設されたリハビリ施設でも爆発で大きな衝撃がありました。
施設の中にある浴室の脱衣場では天井の一部が崩れ、火災報知器が垂れ下がった状態になっていました。
また、リハビリなどを行う部屋でも天井についていたエアコンのカバーが2つ外れたということです。
そして、施設の中にある時計は8時55分のままで、爆発の衝撃で止まったものとみられます。
爆発当時、リハビリ施設で勤務していた理学療法士の海藤寛喜さんによりますと、施設には利用者とスタッフおよそ30人がいましたが、けが人はいなかったということです。
海藤さんは「耳が痛くなるような大きな音と地震のような大きな振動を感じ、最初は何が起こったのか分からなかった。利用者の安全性の確保を最優先に考えました」と話していました。
現場近くの病院看護師「爆発音が2回 すごい音と風圧だった」
爆発があった現場から南に100メートルほどの桑野協立病院では、現場側の病室などの窓ガラス、およそ90枚が割れ、さらに病棟内の一部の電灯も落ちる被害がありました。
当時、病院には入院患者およそ80人と看護師などのスタッフおよそ120人の合わせて200人余りがいましたが、けがをした人はいなかったということです。
病室にいた看護師は「突然、爆発音が2回して、すごい音と風圧だった。窓が粉々になって、外を見ると辺りは灰色の煙に覆われて見えなくなっていた。何が起きたか分からず、必死に患者の安全を確認した。振り返ってみるととても怖く全員が無事だったのは奇跡だと思う」と話していました。
病院は、30日は外来診療を休止し、31日からは一部を除いて再開する予定だということです。
美容院で働く女性「建物の近くの道路に人が倒れている様子確認」
福島県郡山市で爆発があったとみられる現場から東側に450メートルほど離れた美容院で働く女性は、当時の様子について「ドンという爆発音を聞いたので急いで店の外に出てみると、建物から煙があがっていました。建物の近くの道路には人が倒れているような様子も確認できました」と話していました。
また、この美容院の周辺の店舗などでも窓ガラスが壊れるなど被害がでているということです。一方、この美容院には被害はなかったということです。
郡山市が避難所を開設
福島県郡山市は、爆発の影響で住宅に被害を受けた人などを受け入れるため、午前10時から、市内��亀田1丁目にある「桑野地域公民館」に避難所を設けています。
総務省消防庁 現地に職員派遣
総務省消防庁は原因の調査を支援するため、消防研究センターの職員を現地に派遣することを決めました。
また、消防庁の職員も管轄の消防本部に派遣することにしていて、爆発が起きた状況などを詳しく調べることにしています。
専門家「漏れたガスの量もかなり多かったのでは」
東京消防庁のOBで、市民防災研究所の理事、坂口隆夫さんは「映像を見るかぎり、プロパンガスが室内に漏れて、何らかの原因で着火して爆発したと考えられる。店の天井や壁が全体的に吹き飛んでいて、骨組みだけになっている。周囲も4つの方向すべてで被害を受けている。漏れたガスの量もかなり多かったのではないか」と指摘しています。
そのうえで、「これだけ激しく建物が壊れているので、建物は耐火構造ではなく、簡易的な構造だったのではないかと推測される。耐火構造であれば、壁などがすべて吹き飛ぶということは、よほどの圧力が加わらないと起きないと思われる」と分析しています。
この飲食店は新型コロナウイルスの影響で4月から休業していて、その間に改装を行い、31日から営業を再開する予定だったということです。
こうしたことも踏まえ、爆発の原因については、「通常の状態であれば、ガス漏れはそう簡単に起きるものではない。営業再開に向けて改修工事をしていたならば、ガスの配管、あるいは器具の近くで工事などが行われていた可能性があり、それによってガス漏れが発生したのではないか、ということがまずは考えられる」としています。
また、長期の休業を経て営業を再開するほかの飲食店についても「ガスの元栓を閉め、店舗内にガスが供給されないような状況にしてほしい。ガスの元栓や配管の点検をしっかり行うことが必要だ」と注意を呼びかけています。
過去の主な爆発事故
建物が突然、爆発し死者やけが人が出た事故は過去にも相次いでいます。
おととし7月の西日本豪雨では、岡山県総社市のアルミ工場に近くの川からあふれた水が流れ込んで爆発が起きました。
周辺の住民数十人が骨折などのけがをしたほか、飛び散ったアルミで住宅が焼けるなどの被害が出ました。
また、おととし12月には、札幌市の不動産会社の店舗で爆発があり、周辺の住民など40人以上が重軽傷を負ったほか、まわりの建物の窓ガラスが割れるなどしました。
この事故では、店舗内で除菌消臭用スプレーを大量に噴射したことで可燃性ガスが充満し、給湯器のスイッチを入れたことで爆発が起こったとみられています。
さらに、今月5日には、静岡県吉田町の工場の倉庫から火が出て爆発的に燃え広がり、消防隊員3人と警察官1人の合わせて4人が死亡しました。火元を調べていた4人が、突然、爆発のようなものに巻き込まれたとみられています。
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<ニュー新橋ビルの地下>
人の居ない、涼しい暗がりを求めて、吸い込まれるように入った。
地下街へ続く階段の踊り場には、
「階段への座り込み・飲食禁止」と書かれた黄ばんだ張り紙が、寂しげに主張をしていた。
ほとんど相手にされていないその張り紙をじっと見つめて、静かに段差に腰を下ろした。
壁にもたれて膝を抱え、溢れ続ける涙を止める努力もろくにせず、握りこんだスマートフォンから電話の相手を必死に探す。
何人かに電話をかけ、平日の昼過ぎ、当然ながら誰にも繋がることなく空しく残った何件かの着信履歴を眺め、それからふらふらと立ち上がって寂れた地下街へもぐっていく。
もはや何が心を締め付けているのか、わからなかった。
何がそんなに私を悲しくさせるのか、わからなかった。
とにかくすべてに腹が立っていた。
わたしを励ます言葉のすべてが、じっと蒸し暑い夏の空気が、かけた分だけ残った履歴が、そのすべてが私の頭を沸騰させた。
幽霊のような足取りで、かつて何回かだけ友人とともに来たことのあった喫茶店に入る。
店の一番奥、4人掛けのソファ席で、感情のままに上下する肩を抑え込むように縮こまる。
水を届けにきた店員に、とりあえず何か、とアイスカフェオレを注文し、訝し気な目線は致し方なし、今は気に留めていられない、と、
わずかな羞恥心は見なかったこととし、止まらぬ涙と止まらぬ嗚咽と、背中と肩でする荒い呼吸をいなすことに専念した。
母から鳴った、折り返しの電話に出る。
なるたけ声を抑えながら、それでもままならない呼吸と言葉を強引に使って頭の中で煮えたぎっているどうしようもない怒りの感情に任せてほとんど思出せない八つ当たりをする。
私の人生の外野から、私に向かって声を発するすべての人間を黙らせたくて。心の底から黙らせたくて。
内臓の裏から絞り出すような悲痛な怒りを受け取ったあと、
「そんな時は、みはるちゃんの好きな、スマイルを聴けば良いんじゃない?」
母は言った。
ホフディランのスマイルのことだった。
憂鬱な通勤の朝、最寄り駅まで送ってくれる母の車で、私が毎日かけていた曲。
お母さんはこの曲あんまり好きじゃない、と言っていたけど、きっと私を守っていたことを知っていた。
「…午後はスマイルを聴くことにするよ」
そう言って電話を切る。
少し頭がまともに働くようになった気がした。
呼吸もリズムを取り戻し始め、ふと、異常な様相の自分自身について考えた。
店員を呼び止め、紙ナプキンをお願いする。
涙でぐちゃぐちゃに崩れた私の顔で意図を察した店員は、大量の紙ナプキンとおしぼりを渡してくれた。
「お姉さん、悲しいの?悲しいことがあったの?」
「そう、悲しいの、わたしは、悲しい」
思わずこぼれた心の内に追いつくように、縋るような目で店員を見た。それから一瞬、目で会話する。
少し気持ちが落ち着いてきて、分煙室で煙草を吸う。
すると、お盆にガトーショコラを載せた先程の店員が、分煙室の中に顔を出し、
「あちらの女性が、お姉さんにって」
会計を済ませようとしていた黒いワンピースを着たショートカットの女性が、私にケーキをご馳走してくれたのだった。
慌てて煙草を捨てて、その女性にお礼を言った。
今度は心がじんじんとして、折角止んだ涙の栓が再びゆっくり緩みだす。
黒の女性は、何も言わずに私の瞳をじっと見た。
それから私の背中を2回、叩いた。
笑顔はなかった。真剣な眼差しだった。
それから小さな声で、呟くように、
「頑張りすぎるんじゃないよ、甘いもの食べな」
と残し、私の横をするっと抜けて、店を出た。
私は頑張ってなどいないんですよ、本当に、頑張れなかった人間なんです。胸の中がザワザワしたけど、今は事実を見ないふりして言葉に甘えることにした。
お腹は減っていなかった。食べ物が喉を通るような気分じゃなかった。それでも、このケーキだけはなんとしてでも食べきらなければ、と思った。
私には、それはケーキとは思えなかった。人の優しさのかたまりだった。人の心のひと欠片だった。
ガトーショコラの甘い味は、そのまま舌に纏わり付いて、喉にベタベタと足跡を残して内側に入る。通った場所がじんじんとして、人の温もりが染みいった。
店を出るとき、店員が言った。
「お姉さん、元気になった?」
「元気、元気になりました」
両手にこぶしを作って、精一杯のアピールをする。
この仕草をするようになったのは、高校の頃、えりちゃんと出会ってからだったように思う。
本当のところ、元気というにはまだ少し遠い。
しかしそんなことはどうでもよくて、心底どうでもよくて、とにかく伝えなければならなかった。知らせなくてはならないことがあった。
2つのこぶしを、この揺れで、
伝わればいいな、と思う。
この日以来、何かが終わった感じがした。
私のなかで、しばらく穏やかな日々と、普通の生活が訪れている。ターナーの描く空のようだ。
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