本車のほとんどは「役に立つけど意味がない」
山口周氏:問題を分析的に、ロジカルに解いていくっていうことの価値が、どんどん減っていくだろうなということを考えるためのフレームがあります。
世の中で売れているモノっていうには必ず、「役に立つ」っていうベネフィットか、「意味がある」っていうベネフィット、どちらかがあります。「役にも立たないし意味もない」っていう商品は、世の中に存在できません。
これマーケティングの専門用語でちょっと難しく言うと機能的便益、functional benefitと言います。一方で「意味がある」っていうのは、マーケティングの用語で言うと情緒的な便益とか自己実現的便益、personal benefitとか言います。僕は「役に立つから買ってる」「僕にとって意味があるから買ってる」と、そういう言い方のほうが平たくていいんじゃないかなと思いますが。
自動車産業を当てはめてみるとけっこうわかりやすいです。日本車のほとんどって、「役に立つけど意味がない」んですね。移動手段として快適で、燃費が良くて安全に移動できますよっていう、役に立つ手段として買われてます。家族みんなで移動するときにはやっぱり公共交通機関より車のほうがいいよね、っていうことで買われてるんですけども。
「アルファードじゃないと俺の人生じゃない」とかですね、「アコードに乗れない人生なんて有り得ない」とか、そうやって買う人ってあんまりいないと思うんですね。日本車でも例えばNSXとか、昔のスカイラインとかね、本当にそういうの好きで乗ってる人いると思いますけども。99パーセントの人はふつうに移動手段として役に立つから買ってる、っていうぐらいのもんだと思います。
値段が10倍だからといって、機能も10倍になるわけではない
もちろん移動手段として買ってるっていう側面が強いんですけれども、役に立つだけだったら日本車買えばいいじゃないかって言うと、「いやいや、やっぱり俺はBMWが好きなんだ」とか「やっぱりポルシェが好きなんだよね」っていう人はいるわけです。
これ、値段でいうとプラスアルファで400~500万から1000万ぐらい払うことになって、値段としては3倍、4倍するわけですね。じゃあ3倍、4倍役に立つんですかとそうではない。「うちのアルファードは7人乗れるんですけれども、それだけ出したら20人ぐらい乗れるんですか?」「いや乗れません、5人ですよ」と。「じゃあ燃費がリッターで15キロぐらい走るんですけれども、60キロぐらい走るんですか?」「いや、あまり燃費変わらないですね」と。
機能は変わらないんですよ。安全性も変わらない。でも値段は3倍~4倍します。じゃあ何にそのお金払ってるんですかっていうと、意味を買ってるんですね。その人にとってのなんらかの情緒的な意味を買ってるわけです。意味に500万とか600万とか乗っけて買ってるわけです。
さらに言うとですね、役に立たない自動車ってあるんです、おそるべきことに。役に立たない、意味しかないっていう自動車があります。「ドアが上に開くのになんか意味があるんですか?」って言うと、意味があるんですね、あると思う人にとっては。
これ、3,000万とか5,000万とかします。値段は10倍です。10倍~20倍ぐらいします。「じゃあ10倍人運べるんですか?」っていうと「いや運べません、むしろ二人しか乗れません」と。「荷物はどうなんですか」、「ほとんど荷物積めません」。「じゃあいろいろなところ走れて役に立つんですか?」「いや、車高が低いんで悪路走らないでください」と。「雨が降ったら危ないんで走らないでください」と、こんな感じで。
(会場笑)
「じゃあ何に使うんですか」って言うと「銀座の大通り、爆音出して突進するんですよ」と。みんな見ますよ、っていう(笑)。それで「よし買った」ってみんな買うわけですね。で、値段は3,000万から5,000万円。
「役に立つ」ことの価値はなくなりはじめている
おそらく過去10年の間で、特殊な自動車じゃなくて、いわゆる自動車メーカーが「新車」として生産した車で一番高額な車っていうのは、Jaguarが販売した1960年型のJAGUAR E typeのレプリカだと思います。ル・マンで優勝した車を20台だけ限定生産したんですね。その20台だけ限定生産したものの、新車の定価が2億円です。で、即日完売ですね、当然。
これは何を言ってるかっていうと、「役に立たないけど意味がある」っていう自動車は2億円で売れるんです。で、「役に立つ自動車」っていうのはせいぜい100万円から300万円でしか売れないっていうこと。何を言ってるかっていうと、「役に立つ」っていうことに価値がもうない時代になってるんです。
ここが非常に難しいところで、私はビジネススクールとか企業の研修でよくこのお題を出すんですけれども。「グローバル企業になるぞ」っていろいろな会社が掛け声を上げてますよね、今。グローバル化、グローバル化、って。
グローバル化、みなさんの夢ですね、いいですね、と。「じゃあ日本企業でグローバル化に成功した会社ってどこだと思いますか? 挙げてください、イメージで」って言うと、いろいろ出てくるんです。キヤノンだ日産だ、トヨタだホンダだパナソニックだコマツだ、とかいろいろ出てくるんですけど。
20社ぐらい出た段階で、「はい、もういいです、打ち止めです。じゃあこの役に立つ・立たない、意味がある・ないっていう市場で、どこの市場で戦ってる会社かっていうのでプロットしてください」って言うと、ほとんどが「役に立つけど意味がない」っていう市場に入ります。
まぁいいじゃない、と。役に立って、それで戦ってちゃんと市場で勝ち残ってるんだからそれでいいじゃないですか、っていう話もあるんですけれども、ちょっと待ってくださいよと。そこで考えなくちゃいけないのが、「どちらのほうが強豪として生き残れるか、サスティナブルか」っていうことなんですね。
コンビニでもっとも多くの種類を備えている商品とは?
みなさん、コンビニエンスストアを思い出してみてください。コンビニは店舗がすごくちっちゃいので、なるべく物品の数を少なくしたい、っていう欲求があります。当たり前のことですよね。なるべく品数多くしたいんで、1個で済むものは1個にしたい。
だから文房具の棚見ると、ハサミもカッターものりもセロハンテープも、基本的に1種類しか置かれてません。ですから、多くの商品が1種類しか置かれてないんですね。
そんなコンビニエンスストアですが、棚が狭いのでなるべく商品の数少なくしたい、種類を少なくしたいよと考えているにも関わらず、200種類以上置かれている商品があるんですけれども、みなさん何だかわかりますか?
200種類以上コンビニに置かれている。1商品カテゴリーで200種類。そう、タバコですね。飲料はもちろんたくさんありますが、オレンジジュースだけで見てみるとやっぱり2種類とかです。一番清涼飲料でたくさん種類あるのは、おそらく缶コーヒーだと思うんです。日本人、缶コーヒー大好きなので。おそらく5、6種類ぐらいあるんじゃないでしょうか。
タバコは200種類ぐらいあるんですね。つまり、多様なブランドが生き残れる市場だっていうことなんです、タバコは。で、文房具っていうのは1個しか生き残れてないってこと。
なぜそういうことが起こるかっていうと、文房具は「役に立つけど意味がない」んです。約に立つけど意味がないところっていうのは、「役に立つ」っていう物差しが1個しかないので、一番役に立つ会社とか商品が、1個だけ世の中にあればそれでOKなんです。いらないんですよ、2位とか3位とか。
一方で意味っていうのはいろいろな種類があるので、どんどん多様化するっていうことなんですね。ですからタバコは多様化します。あとお酒も多様化します。
みなさん、逆のコンビニって考えられないでしょ? タバコを買いに行ったら1種類しかないんですよ。「うち、セブンスターしかないんですよ」って。「なんだ、マルボロないのか」「セブンスターにしてください、いいでしょ同じでしょ」とかって言われて、「いや同じじゃないよ!」。その代わりハサミが200種類置いてある。考えられないでしょ、そんなコンビニエンスストア(笑)。
動かすのにコストのかからないサービスは、あっという間にグローバル化する
みなさんも直感的に違和感を感じるのは、「役に立つ」と「意味がある」っていう峻別を頭の中でやって、「役に立つものは1個でいいけど意味があるものは多様化するよな」って思ってるんです。
その典型例がGAFAですよ。GAFAっていうのは、世界中を支配するって言われてますけど、なんでそう言われるかっていうと「役に立つから」なんですよ。Googleって検索エンジンですよね。で、検索エンジンに意味ってないんですよ。役に立つ検索結果を返してくれればいいんですね。
例えばGoogleじゃなくて、Googleの競合でPoopleっていうのがあって、たまにすげぇ変な検索結果返してくるけど味があんだよね、とか。そういうのは必要ないわけですね(笑)。
(会場笑)
いらねぇよそんな検索サービス、って。Googleだけでいいじゃん、と。今、日本ではヤフーがちょっとがんばってるので、Googleのシェアそんなに高くないですけど。G7のGoogleのシェアの平均って90パーセント超えてますからね。なんでこういうことが起こるかっていうと、「役に立つけど意味がない」っていう市場において、かつ「動かすのにコストのかからない」サービスは、あっという間にグローバル化します。
動かすのにコストがかからないっていうのは、つまりどういうことかっていうと、ガラスを考えてもらえばわかりやすいんですけど。ガラスってもちろん役に立つんで売れてるわけですね。B2Bの素材ですけども。
役に立つんですけど、ガラスってけっこう「かさ」があるんですよ、値段のわりに。だから運ぶとものすごいコストがかかる。だからあんまり遠くに運ぶよりかは、ローカルで作ったほうが効率がいいってことになるので、ある程度役に立つけど意味がない……ガラスにあんまり意味はないわけですね。本当もう、ガラスとして性能が良ければどこでもいいよ、ということなんですけれども。
GAFAの内、Appleだけが「意味」の世界で闘っている
PilkingtonとかCorningとか、そういう会社はアメリカでグローバルに何社かで棲み分けてます。ああいうかたちで何社か棲み分けるのはなぜかというと、移動にコストがかかるからなんですね。移動にコストがかかると、グローバル化のスピードはゆっくりになります。
で、一番体積がちっちゃいのが何かっていったら、電子ですよ。一番ちっちゃいわけです。Googleっていうのは電子を売ってるわけですから。ITのサービスですからね。電子は一番体積あたりのコストがたぶん低いので、「役に立つ」っていう市場では1社だけになっちゃう。
ですからGoogleとAmazonとFacebookっていうのは、「役に立つけど意味がない」っていう市場で、しかも電子を売り物にしてるので、世界的にシェアがある。ミクシィが負けてしまったのは当たり前のことですよね。その「役に立つけど意味がない」って市場で戦ってるわけですから。
唯一の例外はAppleで、あれはやっぱり買う人にとっては、なんらかの意味を持って買ってるケースが多いと思います。ですからGAFAの中で唯一の仲間はずれはAppleで、役に立ってしかも意味があるっていうところで買われてるのに対して、残りのGoogleとFacebookとAmazonというのは、役に立つというところで生きてるということですね。
これつまり何を言ってるかというと、市場がグローバル化していくと、役に立つっていう市場で戦ってる企業はグローバル競争にさらされて、一番役に立つ1社だけが残ってほかが全部負ける、っていう世界がやってきます。
日本の企業の多くが「役に立つけど意味がない」市場で戦ってるっていうことは、遅かれ早かれそのグローバル競争の中に巻き込まれていって、多くの企業は勝者として生き残るか、そこから敗退するかっていう、「グローバル役に立つ競争のハルマゲドン」を迎えてですね。あとは最後の1社が生き残るだけ、っていうことになります。
日本の家電業界が凋落していった理由
すでにその兆候は見えていて、例えば日本のお家芸である家電産業っていうのは、20年前までは就職すると親が喜ぶ会社の代表だったわけですね。「三洋電機に内定もらったの? よかったわね、一生安泰だわあなたは!」とかって、みんなで打ち上げやりましょうってお母さんが喜んでくれたわけです。
それがどんどん業績悪くなってますよね。三洋電機は事実上なくなりました。シャープももう事実上潰れました。20年前だったら就職の勝ち組だって言われた会社が、です。
なんでそういうことが起こってるのかっていうと、日本の家電産業のほとんどは「役に立つけど意味がない」というところで戦っているから。市場が閉じた状態であれば各国別に10社ぐらいは生き残れたかもわからないですけども、これがグローバル競争になっていくと、世界で一番役に立つ会社の10社しか生き残れない。
つまり、日本のペナントレースからグローバルのワールドシリーズに戦いが変わることで、日本では10社生き残れたかもわからないけども、グローバル競争になると各国別に2社しか生き残れませんってなると、じゃあ5位から10位の会社は市場から退場してください、3位から5位の会社は市場から退場してください……っていうのが徐々に起こる話になってきていて。
その過程の中で市場からこぼれ落ちていったのが三洋でありシャープだと考えれば、非常にわかりやすいと思います。
この「意味がある」っていう方向に市場をずらしていくのが、大きな組織にとってのテーマになります。
「意味」をロジックで解析することはできない
山口周氏:ここで非常に悩ましいのが、「役に立つ・立たない」っていうのは、ロジカルに解析できるということ。こういう機能をここまで伸ばせば役に立つ、というのがわかります。
まさに、先ほどの携帯電話と同じです。画素数をここからここまで増やそうとか、通信速度をここからここまで増やそうとか、そういったことをやるときには、「役に立つ」を数値化して目標を決めればマネージが可能です。サイエンスとロジックでマネージができます。でも、意味をロジックで解析できるかっていうと、できるわけがないですよね。
ですから、組織能力として「どうやって意味を作っていくのか」っていうのは、すごく大きな競争力になる。意味の競争ですね。役に立つ・利便性の競争から、意味の競争優位っていうものにシフトしていったときに、じゃあその意味の競争優位を作れる人材あるいは組織というものを、どう育てていくかっていうのが大きなチャレンジになってくるだろうなと思います。
そして3つ目の話ですが、市場の構造が変わってくると思うんです。「限界費用ゼロ社会」っていうのをJeremy Rifkinが3年前ぐらいに言ってて、これまで莫大なコストをかけないとできなかったことが、費用ゼロでできるようになってきてると。費用ゼロでできるようになってきたことで、スケールメリットが消失してるっていうことを言っています。
これはもう本当にそのとおりで、すでに顕在化してる変化だと思います。これまで多くの日本の企業は、日本という市場に安住してきました。1億2000万人もの人がいるから、それなりに市場もデカかったわけです。
で、ここでメジャーのシェアを取ろう、50パーセントのシェア取ろうよ、ということでやってきたのが、例えば花王とかパナソニックさんといった会社ですね。
日本の市場はマーケットインでもプロダクトアウトでもない
モノを売ろうとすると、広告代理店に頼まないといけない。そこで広告代理店にある程度頼んで……私の感覚からすると、「日本の人たち全体がなんとなく知ってる」っていう状態を作ろうと思うと、ざっと100億円かかるんですね。新商品を全国的に売り出しますよ、ということで全国的な認知度80パーセントぐらいを取ろうとすると、ざっと100億ぐらいかかります。
100億かけるってなると、当然その100億を売上から回収しないといけない。例えば粗利が100億が少なくともあるっていう状態にしようとすると、利益率10パーセントで、売上高は1,000億円必要ですよね。
売上高1,000億円の事業を作ろうと思ったら、さすがに市場調査をやって、「これどれぐらい買ってくれるかな」っていうことをやらないと製品開発はできません。ですから、まぁ仕方なく消費者調査やって、市場が好んでくれそうな製品を作る、っていうやり方になっちゃうんですけども。
ちなみにちょっと余談ですけれども、マーケティングの用語で「マーケットイン」と「プロダクトアウト」ってよく言われますよね。マーケットインというのは、マーケット側が好んでくれそうなものをちゃんと調べて作ろうよ、っていう考え方です。マーケットから入ってくる。プロダクトアウトっていうのは、自分たちの作りたいものを勝手に作って、世の中に押し出していく。その二つの考え方があるわけですけども。
どっちが良いか悪いかってよく議論になるんですけど、私はどっちでもないのが今の日本の状況だと思ってるんですね。それは何かっていうと、先ほどのテレビ広告やるためには100億必要だ、粗利で100億円が必要なので、売上高が1,000億円は必要だ、1,000億円必要だってことは、これぐらいの人に買ってもらえるものじゃないといけないから、こういうものを作らないといけない、と。
あるいは、モノをたくさん買ってもらおうと思ったら大手の流通に売らないといけない、大手の流通に送ってもらうんだとするとこれぐらいの大きさの棚に入らないといけない。で、こういうポップをやらないといけない、となります。
これ何を言ってるかっていうと、マーケットインでもプロダクトアウトでもなくって、「広告の枠組みがこうなってるから」とか「流通の売る枠組みがこうなってるから」、「こういうものを作らなくちゃいけない」ってなっているということです。
要するに、流通とかメディアのあり方が「どういうモノを作って売るか」という戦略まで規定しちゃってる状態なんです。ですからマーケットインでもプロダクトアウトでもなくて、メディアアウトなんですよ。メディアのあり方がどういうモノを作るかっていうのを規定してる、っていうことなんです。
家電業界の成熟神話を乗り越えたバルミューダの戦略
そういうことなので、50パーセントの人に買ってもらおうと思うと、こうやってメジャー市場を狙っていかなくちゃいけない。一方で自分たちはニッチ市場でいいよ、っていう人は5パーセントの市場を狙って、自分たちの作りたいものを思いっきり尖らせて作っていった、という構造になるわけです。
わかりやすい例でいうと、バルミューダをみなさんはご存知ですかね。トースターで一世を風靡した会社です。まさにそのバルミューダは、値段がふつうのトースターの10倍はするわけです。一番安いトースターって2,000円で買えますが、20,000円のトースターを売り出して、本当に「買ってくれる人だけ買ってくれればいい」というので、ニッチとメジャーで棲み分けるっていう構造になってたわけです。
今何が起こってるかっていうと、ここにグローバル化の障壁、要するに国ごとの障壁がなくなることで、グローバル市場っていうものが12億人の先進国としてマーケットで出てきます。先進国以外のものも含めれば、70億人のマーケットがあるわけですね。
先進国の人たちは経済的に似たような水準にありますから、尖りのあるものが出てくると、他国のものでもほしくなって買ってくれるわけです。昔であれば広告代理店に頼まないと知らせてくれない、あるいは商社に知らせないと売ってくれないという状況でしたが、今は3,000万人の方たちが外国からやって来て、日本で良いもの見つけるとバンバンSNSとかInstagramで知らせてくれるわけですね。
結果的にどういうことが起こってるかっていうと、外国の人たちがそのニッチな尖った商品を「ほしい」って言いはじめて、買ってくれる状況ができてます。バルミューダって、ここ10年で売上高が1,000パーセント伸びてるんです。1,000パーセントですよ?
家電産業とか家電市場って、成熟産業でもう市場が伸びないってずっと言われてて、実際にパナソニックさんの家電事業っていうのはほとんど成長していません。なので、関係者の人たちは「成熟してる」「市場は伸びない」と言ってますが、そんなことないんですよ。成熟して伸びてないのはお宅の会社でしょ、っていう話なんです(笑)。
一番おいしいのは「グローバルニッチ」
ちゃんと良いものを作れれば、ちゃんと伸びるんです。それはなぜかっていうと、バルミューダとパナソニックのいる場所が違うんです。先ほどのまさに「役に立つ」と「意味がある」ですね。バルミューダは役に立つところじゃなくて、意味がある市場に生きてるんです。意味があるところで刺さるものを作れれば、こういう先進国のマーケットで売れる。
これが、いみじくもどういう状況になってるかというと、日本の1.2億人に50パーセントのシェアで買ってもらっても、顧客は6,000万人ですよね。一方で先進国の12億人に5パーセントのニッチセグメントで売れれば、同じく6,000万人です。
じゃあ同じ顧客で単価はどれぐらい違うんですかっていうと、さっきのトースターの例でいうと、パナソニックの一番安いものとバルミューダの単価は6倍の差があります。顧客の数が同じで、6倍の単価で売れるわけですから、ビジネスとしてどっちが伸びがあるかっていったら、一番おいしいのは「グローバルニッチ」っていうポジショニングですよね。
で、グローバルニッチのポジショニングを取ろうと思ったら、市場調査は必要ない。必要ないって言うとちょっと乱暴ですけれども、どちらかというと市場の文脈の中でどういう刺さる意味を作れるかっていう、アーティストのような感覚が必要であって、刺さるか刺さらないかは直感が大きく効いてくることになります。
日本企業はマーケティングの奴隷状態
こういうことをずっとやっていったせいで、結果的にどういうことが起こってるかっていうと、Appleの例もそうなんですけれども、作りたいものを作る、それをどうやって売るかっていうことを考えるときに、マーケティングという手段が出てくると。つまり人間の「作りたい」っていう想いが主体であって、マーケティングというメソッドが家来の関係。主従関係になってるわけですね。
ところが日本の多くの企業で今起こってるのは、マーケティングが主人になってるんですよ。マーケティングが「何を作るか」を決める。人間がそれに従って働くっていう構造になってて、人間がマーケティングの奴隷になってるんですよ。
私はコンサルタントとして外から入っていって、いろいろなプロジェクトに関わりましたけども、「こういうデータは置いといて、〇〇さんはどういうものを世の中に出したいんですか?」って言うと、みなさんキョトンとします。問われたことがないんですよ。考えたことがないんです。
考えたことがなくても、脳って可塑性がありますから。オープンエンドのシステムで鍛えればいくらでも鍛えられるんですけども、逆にいうと鍛えないとすぐ萎えちゃうってことなんですね。
「あなた何作りたいんですか、どんなもの作って世の中ひっくり返したいんですか」っていうと、「そんなこと考えたこともありません」。今回の作るものはマーケティングの調査ではっきりしますから、ってことでずっとやってきた人には、「モノを作りたい」っていう主体性が失われちゃってるんですね。
「意味がある」って市場で何作りたいんですか、あるいはグローバルニッチという市場が出てきたとして、あなたはどういうものを作って世界に売り出したいですか……まさにこれをやったのが、ソニーのウォークマンですよね。温故知新ですよ。
自分の想いをセルフスターターにして、駆動していける人の重要性
ソニーのウォークマンっていうのは、販売本部長から「絶対に売れない」って言われながら、でもどうしても作りたい。どうしても作りたいから、どうやったら売れるかを考えようよ、っていうことを言ってたわけで。まさに人間の「世の中にこれを打ち出したい」っていう想いが先行して、じゃあそれをどうやったら売れるか、っていうのを実践したんです。
価格を決定するのにいろんなプライシングメソッドを使おうとか、流通をどうやったらいいだろうかとか。結局ぜんぜん売れなかったので、外国人のモデルにヘッドセットを着けさせて、ローラースケートで代々木公園を走らせて、とにかくPRをするってこともはじめたわけですけども。そういう工夫も「世の中に対して出したい」っていうパッションが先に立っているから出てきたわけですよね。
ですから、そうなったときに人の能力の鍛え方とか、これまで人材育成の基本になってたロジカルに考えてロジカルに答えを出せるっていう人よりかは、自分の想いでもって、セルフスターターとしてどんどん駆動できる人が必要になってくるかなということです。
この一番わかりやすい例が、マルニ木工の例だと思います。広島のローカルの木工メーカーで、つい5年前までは潰れかけてた会社です。それまでずっと、いわゆる家具セットとか応接セットを安い価格で作るっていうことをやってきたんですけれども、海外から安い家具が入ってきて、もううまく立ち行かないっていう……まさに昭和型で戦ってたんですね。昭和型の応接セットを安く作る。まさに役に立つ家具を安く作ろう、っていうことでやってきたわけですけども。
もう家具なんて、あまねく行き渡ったわけですよね。先ほど申し上げたとおり、モノは過剰になってるわけです。モノが過剰になってるときにふつうのモノを安く作っても、いらないモノはいくら安くてもいらないですよね。むしろ粗大ゴミになるだけですから。
そうなったときに、社長の山中(武)さんは「半ばヤケだった」っておっしゃってましたけれども、「どうせ会社潰れるんだったら、本当に自分がほしいと思う家具を作ろう」っていうことで、デザイナーの深澤直人さんに声をかけて。17万円っていう、それまでのラインナップからすると飛びぬけて価格の高い椅子をつくったんです。「HIROSHIMA」という椅子ですね。
Appleから5,000脚の注文が入った、17万円の椅子
出したのですが、ぜんぜん売れませんでした。百貨店に「置いてくれ」って言っても、「17万は高すぎる」と置いてくれない。置くのはいわゆるブランド家具ですね。Herman Millerとか、ブランドがある家具だったらまだしも、お宅みたいな名前もぜんぜん知られてないのが17万なんて売れるわけありませんよ、ってぜんぜん置いてくれない。
で、会社がいよいよダメだなって思ってたときに、Appleのチーフ・デザイン・オフォサーのJonathan Iveから、「クパチーノに新しく建てたAppleの新社屋のオフィシャルチェアとして5,000脚納入してほしい」といきなり注文が入りました。
営業もぜんぜんしてないんですよ。広告代理店にも頼んでない、商社にも頼んでない。深澤直人さんのInstagramをJonathan Iveがフォローしていて、「すばらしいデザインだ!」と。「Appleのミニマルな社屋のデザインに一番フィットする椅子なので、5,000脚入れてほしい」と。当時の月産の台数が20脚だったそうなんです(笑)。
(会場笑)
「設備投資を本当にしてもいいのかどうかすご���迷った」とおっしゃってましたけれども、Appleの本社に大量採用されたってなれば、世界中のデザイン関係者は黙ってないですから。まさにこの状態ですね。日本の百貨店に入る前に「ミラノ・サローネに出てくれ」って言われて、ミラノ・サローネに出展する。で、世界中のデザイン会社から「導入したい」って注文が来ると。
まさにニッチ。日本でぜんぜん売れないモノがグローバルの横側に市場が広がっちゃったっていうケースですね。これも今までのマーケティングに頼り、流通のいうことを聞いていくらの価格じゃないと置きたくない、っていうことをやってて、ぜんぜんうまくいかなくなった会社が、むしろアーティスティックな感性を駆動したことで世界に刺さる製品ができあがった、っていう例かと思います。バルミューダも同じですね。
アートを主軸に、サイエンスを道具として使っていく時代
昭和から平成の世の中の状況は、4マスメディアが中心にモノを販売・告知していって、流通も大手の流通を主体に、顧客ニーズは利便性とか価格で、国内の市場関係は国内でクローズしている。
こういう環境の中で私たちも、戦略とかうまくいくパターンとか、優秀な人材っていうもののイメージができあがっています。
これが、メディアも限界費用ゼロで、先ほどのマルニ木工みたいに知られるようになった。顧客ニーズもモノがあるとか利便性とかっていうよりかは、むしろ意味とかストーリーとか、自分らしい人生を演出してくれるものなのかどうかっていうところに価値が生まれ、貨幣が生まれる。
バーチャルでどんなものも売れるようになってきてて、市場はグローバルにオープンになってきている。こうなったときに、これからの戦い方っていうのを見直す必要がでてきますよね。それを担える組織とか人材っていうものを、やっぱり高めなおすべき時期に来てるんだろうなと。
ということで、このサイエンスとアートとクラフトについて。モノが重要で利便性が大事で、役に立つっていうことが非常に価値があった時代には、サイエンスが主軸になっているっていう、日本の状況は正しかったと思うんですけども。もう競争のゲームが大きく変わってきているなかで、このアートとサイエンスとクラフトのリバランスが必要になった。
アートを主軸に立てて、サイエンスを道具として使っていく、っていう考え方が必要になってくるんじゃないかな、ということで。ちょうど1時間になりましたので、私の話は以上とさせていただきます。どうも、ご清聴ありがとうございました。
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「KYOSHO 1/64 ホンダNSX & S660ミニカーコレクション」発売記念 道上龍さんトークショー&サイン会
イベント開催日: 2017年7月25日(火) 18:00〜
2017年よりホンダワークスWTCCドライバーとして世界を転戦する道上選手と道上選手をサポートして約20年になる京商が「1/64スケール ホンダNSX&S660ミニカーコレクション」の発売を記念してトークショーを実現、RCモデルを中心とした模型に精通する道上選手とレースやNSXの開発秘話を交えたスペシャルなトークをお届けします!
書泉ブックタワーまたは書泉グランデで対象商品をご購入いただいた方(先着50名様)には、会場で商品パッケージに道上選手のサインをお入れして記念写真を撮影いたします。
【参加条件】
トークショー参加者は無料ですが、ご入場者には参加券が必要となります。トークショー参加の方にはKYOSHOロゴ缶バッジをプレゼントします。道上龍選手のサインをご希望の方は「1/64スケール ホンダNSX&S660ミニカーコレクション」をご購入ください。ご入場は対象商品ご購入の方が優先となります。予めご了承ください。※サイン会の定員は先着50名様
【対象商品】
①1/64スケール ホンダNSX&S660ミニカーコレクション 6台セット価格 : 6台セット 9,720円(税込)
ラインナップ
(NSX:レッド、ブラック、ブルー) (S660:ホワイト、レッド、イエロー)
●サイズ(約):本体5.5cm~7cm、ディスプレイベース9cm
●素材:亜鉛合金、ABS樹脂、PVC(非フタル酸系)、ポリスチレン
●専用カードとディスプレイ台座が付属
●製品プロデュース:ジュウロクホウイ
※画像はイメージです。実際の商品とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
※ライセンス監修中
②1/64スケール ホンダNSX&S660ミニカーコレクション 限定カラー7台セット価格 : 7台セット 11,340円(税込)
ラインナップ
(NSX:限定シルバー、レッド、ブラック、ブルー) (S660:ホワイト、レッド、イエロー)
●サイズ(約):本体5.5cm~7cm、ディスプレイベース9cm
●素材:亜鉛合金、ABS樹脂、PVC(非フタル酸系)、ポリスチレン
●専用カードとディスプレイ台座が付属
●製品プロデュース:ジュウロクホウイ
※画像はイメージです。実際の商品とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
※ライセンス監修中
③1/64スケール ホンダNSX&S660ミニカーコレクション 限定カラー7台セット価格 : 7台セット 11,340円(税込)
ラインナップ
(NSX:レッド、ブラック、ブルー) (S660:限定ブルー、ホワイト、レッド、イエロー)
●サイズ(約):本体5.5cm~7cm、ディスプレイベース9cm
●素材:亜鉛合金、ABS樹脂、PVC(非フタル酸系)、ポリスチレン
●専用カードとディスプレイ台座が付属
●製品プロデュース:ジュウロクホウイ
※画像はイメージです。実際の商品とは異なる場合がございます。予めご了承ください。
※ライセンス監修中
☆商品は発売日:7月25日(火)より5Fにて販売いたします。17:00以降は9Fの会場でも販売いたします。
【お申込み方法】
6月26日(月)より書泉ブックタワー5Fと書泉グランデ5Fの売場レジカウンターにて参加券をお渡しいたします。
参加券は次の2種類となります。お電話(03-5296-0051)またはメールでも承ります。
・トークイベント用参加券
・サイン会用参加券(商品をご購入頂いた方のみとなります)
※商品をご購入頂いた方には2種類の参加券をお渡しします。サイン会用参加券は会場に優先的に入場できる特別な参加券になります。
☆トークショー参加の方には、KYOSHOロゴ缶バッジをプレゼント!
【ご注意事項】
・いかなる事情でも参加券の再発行はできませんのでご注意ください。
・参加券1枚につきお一人様のご入場となります。
・混雑状況により、立ち見となる場合がございます。
・イベント開催中の写真撮影、録画、録音は禁止させていただきます。
・係員の指示及び注意事項に従わず生じた事故につきましては、主催者側は一切の責任を負わないものとします。
・イベントに関しては止むを得ず中止、内容変更になる場合がございます。
【道上 龍 Ryo Michigami プロフィール】
・1973年3月1日生まれ。
・奈良県出身 RH+A型。
・2017年:FIA世界ツーリングカー選手権(WTCC)日本人初のレギュラードライバーとなる。
・2016年:FIA世界ツーリングカー選手権(WTCC)第9戦日本ラウンドスポット参戦。
・2015年:全日本選手権スーパーフォーミュラ参戦 DRAGO CORSE チームオーナー兼監督としてSUPER GT500クラスに参戦。
・2000年:全日本GT選手権SUPER GTにおいて、チーム無限×童夢プロジェクト NSXチャンピオン
【お問い合わせ】
書泉ブックタワー5F Tel 03-5296-0051(代表)
イベント情報の詳細はこちら
from honyade.com http://ift.tt/2rSCxDL
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